(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法およびスクリュ式混練脱揮押出機
(51)【国際特許分類】
B29B 7/48 20060101AFI20230814BHJP
B29B 7/84 20060101ALI20230814BHJP
B29B 7/88 20060101ALI20230814BHJP
B29C 48/40 20190101ALI20230814BHJP
B29C 48/76 20190101ALI20230814BHJP
B29C 48/58 20190101ALI20230814BHJP
B29B 7/72 20060101ALI20230814BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20230814BHJP
B29C 48/29 20190101ALI20230814BHJP
【FI】
B29B7/48
B29B7/84
B29B7/88
B29C48/40
B29C48/76
B29C48/58
B29B7/72
B29C48/92
B29C48/29
(21)【出願番号】P 2019188664
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 大吾
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正通
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104107(JP,A)
【文献】特開2001-322154(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/48
B29B 7/84
B29B 7/88
B29C 48/40
B29C 48/76
B29C 48/58
B29B 7/72
B29C 48/92
B29C 48/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シリンダと、前記シリンダ内に回転自在に配備され
、かつ、複数のスクリュピースからなるスクリュと、前記スクリュを回転させる回転駆動機構とを有し、上流側から溶融混練部、脱揮部
の第1部および前記脱揮部の第2部が順次配置された押出機
であって、前記第1部に設けられた脱揮助剤の供給口と、前記第1部に設けられ、かつ、前記供給口の下流に設けられ、かつ、前記スクリュピースよりも断面積の大きなシールリングと、を有する前記押出機を準備する工程、
(b)前記押出機の前記溶融混練部において熱可塑性樹脂を溶融させた溶融樹脂と添加剤とを混練する工程、
(c)前記押出機の
前記脱揮部の
前記第1部において
、前記シールリングの存在下で前記脱揮助剤を添加し混練することにより
、前記脱揮助剤の液体状態を維持しながら前記熱可塑性樹脂に前記脱揮助剤を分散させる工程、
(d)前記押出機の
前記脱揮部の
前記第2部において減圧状態とすることにより前記脱揮助剤とともに前記熱可塑性樹脂と前記添加剤の混練物から揮発成分を除去する工程、を有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記脱揮助剤は、水を含有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記添加剤は、フィラーである、樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記押出機は、2軸押出機であり、前記脱揮部の前記第1部には、リング状の鍔部が間隔を置いて3段以上配置されたスクリュピースが、交互に噛み合うように2つの軸にそれぞれ配置されている、樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記押出機の前記シリンダの長さLと前記シリンダの前記スクリュ用の孔の短径Dとの比であるL/Dは、35以上である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記押出機のスクリュ径Dとスクリュ回転速度Sの比(S/D)が4以上である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記(b)工程の前記熱可塑性樹脂の残留揮発成分は70ppm以上であり、前記(d)工程後の前記添加剤を含有する前記熱可塑性樹脂の残留揮発成分は50ppm以下である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の樹脂組成物の製造方法において、
前記脱揮部は、第1の脱揮ユニットと第2の脱揮ユニットとを有し、
前記第1の脱揮ユニットと前記第2の脱揮ユニットは、それぞれ前記第1部および前記第2部を有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
シリンダと、前記シリンダ内に回転自在に配備され
、かつ、複数のスクリュピースからなるスクリュと、前記スクリュを回転させる回転駆動機構とを有し、上流側から搬送部、溶融混練部、脱揮部
の第1部および前記脱揮部の第2部が順次配置されたスクリュ式混練脱揮押出機であって、
前記搬送部と接続された材料投入口と、
前記脱揮部の
前記第1部に設けられた脱揮助剤の添加部と、
前記脱揮部の
前記第2部に設けられた減圧部と、
前記第1部であって、前記添加部より下流に設けられ
、かつ、前記スクリュピースよりも断面積の大きなシールリングと、を有する、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項10】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機において、
前記脱揮助剤の
前記添加部から水が注入される、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項11】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機において、
前記材料投入口は、熱可塑性樹脂とフィラーの投入口である、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項12】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機は、2軸押出機であり、
前記脱揮部の前記第1部には、前記シールリングとして、リング状の鍔部が間隔を置いて3段以上配置されたスクリュピースが、交互に噛み合うように2つの軸にそれぞれ配置されている、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項13】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機において、
前記シリンダの長さLと前記シリンダの前記スクリュ用の孔の短径Dとの比であるL/Dは、35以上である、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項14】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機において、
前記押出機のスクリュ径Dとスクリュ回転速度Sの比(S/D)が4以上である、スクリュ式混練脱揮押出機。
【請求項15】
請求項
9記載のスクリュ式混練脱揮押出機において、
前記脱揮部は、第1の脱揮ユニットと第2の脱揮ユニットとを有し、
前記第1の脱揮ユニットと前記第2の脱揮ユニットは、それぞれ前記第1部および前記第2部を有する、スクリュ式混練脱揮押出機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法およびスクリュ式混練脱揮押出機に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
重合プラントにおいて生成されたポリマーは、取扱いやすいペレット(粒)に加工されることが多い。重合プラントでは、モノマーを溶媒に溶かした状態で、触媒などを添加し、ポリマー化する。このため、重合プラントから移送された生成物(ポリマー)には、残留溶媒やモノマーが数十%のオーダーで含まれている。
【0003】
このような、残留溶媒やモノマーを除去するため、脱揮用押出機が用いられている。例えば、特許文献1には、次のような構成の脱揮用押出機が開示されている。シリンダは、上流側から順次間隔を置いて設けられた原料供給口、第1ベント口および第2ベント口を備え、第1および第2ベント口それぞれの上流側には脱揮助剤を圧入するための第1圧入口および第2圧入口が設けられている。シリンダ内に配設された2本のスクリュ2には、第1圧入口の上流側近傍から第1ベント口の上流側近傍の間に延在する第1ミキシングエレメントが設けられているとともに、該第1ミキシングエレメントの上流端および下流端には抵抗体が設けられており、これと同様に、第2圧入口と第2ベント口の間にも第2ミキシングエレメントおよび抵抗体が設けられている。また、特許文献2にも類似の構成の脱揮用押出機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-207118号公報
【文献】特開2000-309019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、押出機を用いた樹脂組成物の製造方法についての研究開発に従事しており、特に、樹脂にフィラーなどを添加することにより機能性を向上させた、いわゆる複合樹脂の製造方法について鋭意検討している。
【0006】
このような、研究開発過程において、樹脂組成物に残存する揮発成分の更なる除去の必要性に直面した。
【0007】
そこで、押出機を用いた樹脂組成物の製造過程において、樹脂組成物に残存する揮発成分を更に除去し、より特性の良好な樹脂組成物を製造する製造方法または製造装置の開発が望まれる。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される樹脂組成物の製造方法は、(a)シリンダと、前記シリンダ内に回転自在に配備されたスクリュと、前記スクリュを回転させる回転駆動機構とを有し、上流側から溶融混練部、脱揮部が順次配置された押出機を準備する工程、(b)前記押出機の前記溶融混練部において熱可塑性樹脂を溶融させた溶融樹脂と添加剤とを混練することにより工程、(c)前記押出機の脱揮部の第1部において脱揮助剤を添加し混練することにより前記熱可塑性樹脂に前記脱揮助剤を分散させる工程、(d)前記押出機の脱揮部の第2部において減圧状態とすることにより前記脱揮助剤とともに前記熱可塑性樹脂と前記添加剤の混練物から揮発成分を除去する工程、を有する。
【0010】
本願において開示されるスクリュ式混練脱揮押出機は、シリンダと、前記シリンダ内に回転自在に配備されたスクリュと、前記スクリュを回転させる回転駆動機構とを有し、上流側から搬送部、溶融混練部、脱揮部が順次配置されたスクリュ式混練脱揮押出機であって、前記搬送部と接続された材料投入口と、脱揮部の第1部に設けられた脱揮助剤の添加部と、脱揮部の第2部に設けられた減圧部と、前記第1部であって、前記添加部より下流に設けられたシールリングと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される樹脂組成物の製造方法によれば、樹脂組成物に残存する揮発成分を更に除去することができ、より特性の良好な樹脂組成物を製造することができる。
【0012】
本願において開示されるスクリュ式混練脱揮押出機によれば、樹脂組成物に残存する揮発成分を更に除去することができ、より特性の良好な樹脂組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1のフィラー含有樹脂成形体の製造装置の構成を示す図である。
【
図4】スクリュ(スクリュピース)の形状例を示す斜視図である。
【
図6】シールシングの他の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、本明細書において、A~Bは原則としてA以上B以下を示すものとする。
【0015】
(脱揮用押出機)
まず、本実施の形態を説明する前に、脱揮用押出機について説明する。
図8は、脱揮用押出機の構成を示す図である。この脱揮用押出機(脱揮専用機)100は、重合プラントにおいて合成された樹脂(ポリマー)が溶融状態のまま供給され、脱揮部において不所望な成分を気化させ除去するための装置である。
【0016】
図示するように、脱揮用押出機100は、シリンダ110と、シリンダ110の上流側に配設されたホッパ(材料投入口、供給口)130とを有している。シリンダ110の内部には、スクリュが、回転駆動機構150により回転可能(回転自在)に挿入され内蔵されている。また、シリンダ110の下流端には、例えば、ダイス140が配置されている。ホッパ130の下流には、脱揮助剤DAの添加部と、真空ポンプに接続された脱揮用ベントDVが設けられている。
【0017】
重合プラントにおいて合成された樹脂(ポリマー)には、合成の際に用いられた有機溶媒、残存モノマー、合成の際に生じた副生成物など、低分子量の有機成分が多く含まれている。このような低分子量の有機成分を“揮発成分(残留揮発成分)”と言う。
【0018】
このような揮発成分が樹脂中に残存している状態において成形を行うと、成形時に溶出したり、揮発し泡状となったりして、成形不良の要因となる。
【0019】
このため、重合プラントにおいて合成された樹脂(ポリマー)を、脱揮用押出機を用いて脱揮することにより、樹脂中の揮発成分を除去する。例えば、
図8の装置においては、重合プラントにおいて合成された溶融状態の樹脂を脱揮用押出機に投入し、スクリュで混ぜながら脱揮用ベントDVから揮発成分を拡散させる。この際、脱揮助剤DAを用いることで、脱揮効率を向上させることができる。
【0020】
揮発成分が除去された樹脂(ポリマー)は、例えば、ダイス140よりストランドとして押し出される。押出されたストランドは冷却され、逐次ペレット状に切断される。このように樹脂を取り扱いやすいペレット状とする。ここで、形成されるペレットは、後述するフィラー(充填剤)などを含まないペレットであるため、ナチュラルペレットNPと言う。
【0021】
重合プラントにおいて合成された樹脂(ポリマー)には、例えば、数十%オーダーの揮発成分が含まれているが、上記脱揮によりナチュラルペレットNPの揮発成分は、例えば、0.1%~100ppm程度になる。
【0022】
しかしながら、上記ナチュラルペレットNPは、フィラーなどの添加剤を含まず、このような添加剤を加えることにより、高付加価値の材料(ペレット)に二次加工する場合がある。
【0023】
例えば、フィラーFとナチュラルペレットNPとをスクリュ式混練脱揮押出機を用いて溶融・混練することにより、フィラー含有ペレットFPを形成する。このような、フィラーを初めとする種々の機能性の添加剤を含むペレットをコンパウンドペレット(複合樹脂とも言う)という。さらに、この際、スクリュ式混練脱揮押出機の下流において脱揮を行うことにより、原料樹脂(ナチュラルペレットNP)中の揮発成分をさらに低減することができる。特に、生活環境に広く用いられる容器などの樹脂製品において、その臭気を低減し、人体に対する悪影響を低減することができる。
【0024】
但し、上記脱揮用押出機と異なり、スクリュ式混練脱揮押出機は、固化したナチュラルペレットNPを再び溶融し、さらに、フィラーなどの添加剤と混練した後、脱揮を行う必要がある。このため、大型プラントである脱揮用押出機とその大きさや駆動能力が異なり、また、混練のために必要な条件を満たしつつ、下流において脱揮を行うため、種々の検討が必要であり、単純に脱揮用押出機の脱揮技術を転用するだけでは不十分である。以下に、“実施の形態1”として、スクリュ式混練脱揮押出機を用いて、機能性の添加剤を含むペレットであるコンパウンドペレットを製造する技術について説明する。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、コンパウンドペレットの製造方法について説明する。
図1は、本実施の形態のコンパウンドペレットの製造に用いられるスクリュ式混練脱揮押出機の構成を示す図である。
【0026】
このスクリュ式混練脱揮押出機(単に押出機とも言う)1は、供給される樹脂を溶融しつつ、種々の添加剤(フィラーなどを含む)と混合・混練するための装置である。図示するように、スクリュ式混練脱揮押出機1は、シリンダ11と、シリンダ11の上流側に配設されたホッパ(投入口、供給口)13とを有している。シリンダ11の内部には、スクリュが、回転駆動機構15により回転可能(回転自在)に挿入され内蔵されている。また、シリンダ11の下流端には、例えば、ダイス14が配置されている。ホッパ13の下流には、脱揮助剤DAの添加部と、真空ポンプに接続された脱揮用ベント(減圧部)DVが設けられている。
【0027】
図2は、押出機の内部構成を示す断面図であり、
図2(A)は上から見た図に対応し、
図2(B)は横から見た図に対応している。
図2(A)に示すように、シリンダ11の内部には、2本のスクリュ(軸A1a、A1bに装着された複数のスクリュピース)S1a、S1bが、回転駆動機構15により回転可能(回転自在)に挿入され内蔵されている。2本のスクリュは、互いに噛み合うように配置され回転する(
図4参照)。このように、2本のスクリュが互いのスクリュ表面付近を通過することにより、セルフクリーニング効果によってスクリュ表面付近での樹脂およびフィラーの滞留を抑制することができる。
【0028】
シリンダ11は、複数のシリンダブロック(T1a~T1o)からなる。例えば、原料となるナチュラルペレットNPとフィラーFとは、シリンダブロックT1aに供給される。
図3は、シリンダブロックを示す斜視図である。
図3(A)は、シリンダブロックの形状を示す斜視図であり、
図3(B)は、シリンダブロックの内部にスクリュを挿入した状態を例示する斜視図である。
図3(A)に示すように、シリンダブロックは孔11aを有し、この孔11aに2本のスクリュ(軸A1a、A1bに装着された複数のスクリュピース)S1a、S1bが内蔵される(
図3(B))。
【0029】
また、スクリュは、複数のスクリュピースを有する。
図4は、スクリュ(スクリュピース)の形状例を示す斜視図である。
図4(A)は、フルフライトスクリュ、
図4(B)は、ニーディングディスクである。
【0030】
図2において、投入された材料を混合しながら搬送する“搬送部”のシリンダブロックT1a~T1fにはフルフライトスクリュが用いられている。また、投入された材料を溶融しながら混練する“溶融混練部”のシリンダブロックT1g~T1iにはニーディングディスクが用いられている。シリンダブロックT1j~T1nは、“脱揮部”であり、開口部(ベント、V、DV)が設けられているシリンダブロックT1j、T1l、T1nには、フルフライトスクリュが用いられ、脱揮助剤DAの供給口が設けられているシリンダブロックT1k、T1mには、ニーディングディスクが用いられている。
【0031】
ここで、本実施の形態においては、シリンダブロックT1k、T1mにおいて、脱揮助剤DAの供給口より下流にシールリングSRが設けられている。
図5は、シールシングの形状を示す斜視図である。また、
図6は、シールシングの他の形状を示す斜視図である。シールシングは、スクリュピースの1つである。
【0032】
図5に示すように、シールリングSRとなるスクリュピースは、鍔部20aと、鍔部20aの両側に配置されたスペース部20b、20cとを有する。スペース部20b、20cは、鍔部よりも外径が小さい部分であり、スペース部20bの軸A1a、A1b方向の幅は、スペース部20cの軸A1a、A1b方向の幅より大きい。そして、例えば、2つのシールリングSRにおいて、一方の鍔部20aが他方のスペース部20bと対応するように配置される。別の言い方をすれば、互いに噛み合うように軸A1a、A1bに装着され、回転する。
【0033】
シールリングSRの軸(A1aまたはA1b)に垂直な平面で切った断面における最大の断面積は、他のスクリュピース(例えば、フルフライトスクリュやニーディングディスク)の軸(A1aまたはA1b)に垂直な平面で切った断面における最大の断面積より大きい。
【0034】
また、
図6に示すように、シールリングSRとなるスクリュピースにおいて、鍔部20aを3段(3個)設けてもよい。即ち、リング状の鍔部20aが間隔P(20bの幅と20cの幅の和)を置いて3段(3個)配置されたスクリュピースを、交互に噛み合うように2つの軸にそれぞれ配置してもよい。
【0035】
このように、いずれのスクリュピースより断面積が大きいシールリングSRを脱揮助剤DAの供給口が設けられているシリンダブロックの下流に配置することで、脱揮効率を向上させ、樹脂組成物(ここでは、コンパウンドペレット)に残存する揮発成分を更に除去することができ、フィラーなどの機能性の添加剤を含むことで高付加価値を有しながら、さらに、揮発成分が少ない樹脂組成物を製造することができる。例えば、樹脂組成物の揮発成分を50ppm以下とすることができる。
【0036】
なお、上記スクリュピースやシールリングSRの形状は一例であり、例えば、スクリュピースの軸(A1a、A1b)方向の幅を変える、螺子山の外周に切り込みを有する形状にする、螺子山のピッチを変更するなど、各形状は適宜変更可能である。
【0037】
上記シリンダブロックT1b~T1i、T1k、T1mの外周にはヒータ(図示せず)が配置されている。
【0038】
ホッパ13より供給されたフィラーFおよび熱可塑性樹脂(ナチュラルペレットNP)は、シリンダブロックT1a内において混合されながら搬送され、シリンダブロックT1b~T1eにおいて、熱可塑性樹脂(ナチュラルペレットNP)が溶融し、溶融樹脂とフィラーFとがスクリュにより掻き混ぜられながら搬送される。そして、シリンダブロックT1g~T1iにおいて、溶融樹脂とフィラーFとが十分混練された後、フィラーFを含有する溶融樹脂は、シリンダ11の先端側に配置された脱揮部(シリンダブロックT1j~T1n)に送られる。
【0039】
脱揮部は、複数の脱揮ユニット(ここでは、2つの脱揮ユニット)を有する。第1の脱揮ユニットは、シリンダブロックT1k、T1lよりなり、第2の脱揮ユニットは、シリンダブロックT1m、T1nよりなる。そして、第1の脱揮ユニットは、脱揮助剤DAの添加部が設けられているシリンダブロックT1k(第1部)と、脱揮用ベントDVが設けられているシリンダブロックT1l(第2部)とを有する。脱揮用ベントDVは、真空ポンプ(減圧ポンプ)に接続され、大気圧未満の状態となっている。第2の脱揮ユニットも同様に、脱揮助剤DAの添加部が設けられているシリンダブロックT1m(第1部)と、脱揮用ベントDVが設けられているシリンダブロックT1n(第2部)とを有する。前述したように脱揮用ベントDVは、真空ポンプ(減圧ポンプ)に接続され、大気圧未満の状態となっている。
【0040】
なお、シリンダブロックT1jにもベントVが設けられている。このベントVは、真空ポンプ(減圧ポンプ)に接続されておらず、大気圧の状態となっている。
【0041】
例えば、第1部(T1k、T1m)において、脱揮助剤DAとして水を添加する。脱揮助剤(ここでは、水)DAはフィラー含有溶融樹脂中に分散および分配され、第2部(T1l、T1n)において、発泡し(気化し)、フィラー含有溶融樹脂の表面から揮発成分とともに除去される。即ち、フィラー含有溶融樹脂中に脱揮助剤(ここでは、水)DAを分散させることにより、第2部において、脱揮助剤(ここでは、水)DAが気化し、気相と接するフィラー含有溶融樹脂の面積が拡大するため、フィラー含有溶融樹脂中の揮発成分の拡散が促進される。また、フィラー含有溶融樹脂中に脱揮助剤(ここでは、水)DAを分散させることにより、フィラー含有溶融樹脂中の揮発成分の分圧が低下するため、フィラー含有溶融樹脂中に揮発成分が残存し難くなり、拡散する。
【0042】
そして、ここでは押出機を用いて、フィラー含有溶融樹脂を混練することにより、スクリュにより樹脂が薄膜化しつつ、随時、その表面が更新されるため、脱揮効率が格段に高まる。
【0043】
しかしながら、前述した大型プラントである脱揮用押出機(脱揮専用機)の場合には、内部圧力の変化が小さいのに対し、本実施の形態のようなフィラーの混練を兼ねるスクリュ式混練脱揮押出機においては、内部圧力が変化し易く、脱揮助剤を注入する上で後述する蒸気圧曲線以上の内部圧力を維持し難い。本実施の形態のようなフィラーの混練を兼ねるスクリュ式混練脱揮押出機は、L/Dが、例えば、35以上である。Lは、シリンダ11(T1a~T1o)の長さ、Dは、シリンダ11の孔の径(短径、シリンダ径とも言う)Dである(
図3(A)参照)。また、本実施の形態のようなフィラーの混練を兼ねるスクリュ式混練脱揮押出機は、スクリュ径D[mm]とスクリュ回転速度S[rpm]の比(S/D)が4以上である。
【0044】
そこで、本実施の形態においては、いずれのスクリュピースより断面積が大きいシールリングSRを脱揮助剤DAの供給口が設けられているシリンダブロックの下流に配置し、内部圧力を制御することで、脱揮効率を向上させ、樹脂組成物(ここでは、コンパウンドペレット)に残存する揮発成分を更に除去することができ、フィラーなどの機能性の添加剤を含むことで高付加価値を有しながら、さらに、揮発成分が少ない樹脂組成物を製造することができる。
【0045】
図7に、水の蒸気圧曲線を示す。横軸は温度[℃]、縦軸は蒸気圧[MPa]である。例えば、250℃における水の蒸気圧は4.0MPaであり、225℃における水の蒸気圧は2.5MPaである。
【0046】
溶融樹脂の温度250℃であり、シリンダ内における溶融樹脂の内圧(充満圧力)が4.0MPa以上である場合、脱揮助剤(ここでは、水)DAを4.0MPa以上で注入することで、溶融樹脂中に脱揮助剤(ここでは、水)DAを液体の状態で注入することができる。そして、溶融樹脂と脱揮助剤(ここでは、水)DAは、混練され、溶融樹脂中に脱揮助剤(ここでは、水)DAが液体の状態で分散する。
【0047】
この後、脱揮助剤(ここでは、水)DAが液体の状態で分散した溶融樹脂が搬送され、減圧されると、分散した液体状態の脱揮助剤(ここでは、水)DAが気化し、溶融樹脂中の揮発成分とともに、除去される。
【0048】
ここで、本実施の形態においては、前述したようにシールリングSRを設けることで、溶融樹脂の搬送速度を低下させ、溶融樹脂を滞留させることで、上記溶融樹脂の内圧を大きくすることができ、溶融樹脂中に脱揮助剤(ここでは、水)DAを液体の状態で注入することができる。
【0049】
なお、シールリングSRは、脱揮助剤DAの供給口が設けられているシリンダブロックの下流に配置することが好ましい。例えば、本実施の形態においては、シリンダブロックT1jにはベントVが設けられており、脱揮助剤DAの供給口が設けられているシリンダブロックの上流にシールリングSRを配置した場合、ベントVからの溶融樹脂の流出が懸念される。ベントVからの溶融樹脂の流出が生じる場合には、上流側のシールリングSRとベントVとの距離をシリンダブロックを追加することにより調整する必要がある。
【0050】
また、本実施の形態においては、第1の脱揮ユニットの下流(後段)に第2の脱揮ユニットを設け、再度、注水脱揮を行うことで、さらなる揮発成分の除去を行うことができる。
【0051】
このように、複数の脱揮ユニットを設けることにより、揮発成分を随時除去することができ、例えば、1%~100ppmのオーダーの揮発成分を50ppm以下まで除去することができる。
【0052】
脱揮された溶融樹脂は、ダイス14よりストランドとして押し出される。押出されたストランドはストランドバス9で冷却されたのちストランドカッター(切断装置)10によって逐次ペレット状に切断される(
図1参照)。
【0053】
本実施の形態で用いる樹脂およびフィラーに制限はないが、例えば、以下に示すものを用いることができる。
【0054】
樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどを用いることができる。これらの樹脂は、単体で用いてもよく、また、複数種類の混合物を用いてもよい。
【0055】
フィラーとしては、例えば、タルクを用いることができる。タルクとは、含水ケイ酸マグネシウム(Mg3Si4O10(OH)2)を主成分とする鉱物であり、混練中に水が発生する。よって、脱揮助剤DAの供給口より上流に、ベントVを設けることにより、生成した水(水蒸気)を除去することで、下流の第1の脱揮ユニットにおける注水脱揮の脱揮効率を向上させることができる。
【0056】
タルク以外のフィラーとしては、繊維状フィラーを用いることができる。例えば、セルロース(セルロースナノファイバー)、ラミー、ジュート、ケナフ、バンブー、バガスなどの天然繊維、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素系繊維、ガラス繊維、樹脂系繊維などを用いることができる。これらの繊維状フィラーは単体で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。さらに、タルク以外のフィラーとしては、例えば、フラーレン、グラフェン、窒化ホウ素、コロイダルシリカ、カーボンブラック、アルミナなどを用いることができる。
【0057】
また、本実施の形態の樹脂組成物として、上記の他、他の添加剤、例えば、滑材、顔料などを必要に応じて添加してもよい。
【0058】
(実施例)
以下に本実施の形態の樹脂組成物の製造方法を実施例を用いて詳細に説明する。
【0059】
図1および
図2に示すスクリュ式混練脱揮押出機(TEX30α、シリンダ径32mm)を用いて樹脂組成物を製造した。シールリングとしては、1段のものと、3段のものを用いた、シールリングの径は、30~31mmであり、シリンダ径との隙間は0.5~1mmである。
【0060】
原料ペレットとして、ポリプロピレンペレットおよびゴムペレットを用いた。ゴムペレットとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO:Thermoplastic Olefinic Elastomer)のペレットを用いた。また、フィラーとして、タルクを用いた。
【0061】
シールリングとして、1段のものを用いた場合(No.2)、3段のものを用いた場合(No.3)について、表1に示す押出し条件で樹脂組成物を形成した。なお、脱揮助剤の添加(注水)を行わないものをNo.1とした。
【0062】
形成された樹脂組成物中の揮発成分は、ガスクロマトグラフによって測定し、原料ペレットの揮発成分(75~100ppm)と比較し、残留揮発成分低減率を求めた。なお、3段のものを用いた場合(No.3)には、ベントVおよび第1の脱揮ユニットの脱揮用ベントDVからの溶融樹脂の流出を防ぐため、ベントVの後段、第1の脱揮ユニットの脱揮用ベントDVの後段にそれぞれシリンダブロック(フルフライトスクリュを内蔵)を追加した。
【0063】
【0064】
注水を行わないNo.1の残留揮発成分低減率は40%であるのに対し、1段のシールリングを用いた場合(No.2)は残留揮発成分低減率が70%に向上した。また、3段のシールリングを用いた場合(No.3)は残留揮発成分低減率が81%に向上した。
【0065】
圧力(1)および圧力(2)は、溶融樹脂の内圧および脱揮助剤の注入圧力に対応しており、1段のシールリングを用いた場合(No.2)より3段のシールリングを用いた場合(No.3)の方が、その範囲(変動)が小さく、内圧の変化が抑制されていることが分かる。また、内圧(注入圧力)も高く、水の蒸気圧を充分超えており、脱揮効果を高く保持できることが分かる。
【0066】
(他の実施例)
1段のシールリングを用い、かつ、2つの脱揮ユニットを用いた(No.2)に対し、1段のシールリングを用い、かつ、3つの脱揮ユニットを用いた場合について、同様に残留揮発成分低減率を求めたところ約80%であった。
【0067】
これより、1段のシールリングを用い、かつ、3つの脱揮ユニットを用いた場合の残留揮発成分低減率は、3段のシールリングを用い、かつ、2つの脱揮ユニットを用いた(No.3)と同等であり、3段のシールリングを用いることで、1つの脱揮ユニット(1回の注水脱揮工程)を省略することができることが確認された。
【0068】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、各種応用例について説明する。
【0069】
(応用例1)
上記実施の形態においては、ナチュラルペレットNPを用いたが、粉上のポリマーを用いてもよい。
【0070】
(応用例2)
フィラーの供給状態に制限はなく、例えば、粉状のフィラーを直接供給してもよい。また、フィラーを分散媒と混合し、フィラー分散液としたものを供給してもよい。分散媒(溶媒)としては、例えば、水や、エタノール、トルエンなどの有機溶媒、流動パラフィンやプロセスオイルなどの油のように常温で液体である物質を用いることができる。このような、分散媒(溶媒)を用いる場合においても、脱揮助剤DAの供給口より上流にベントVを設けることにより、分散媒(溶媒)を除去することができ、下流の第1の脱揮ユニットにおける注水脱揮の脱揮効率を向上させることができる。
【0071】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1 スクリュ式混練脱揮押出機
11 シリンダ
11a 孔
13 ホッパ
14 ダイス
15 回転駆動機構
20a 鍔部
20b スペース部
100 脱揮用押出機
110 シリンダ
130 ホッパ
140 ダイス
150 回転駆動機構
A1a 軸
A1b 軸
D 孔の径
DA 脱揮助剤
DV 脱揮用ベント
F フィラー
L シリンダの長さ
NP ナチュラルペレット
P 間隔
S1a スクリュ
S1b スクリュ
SR シールリング
T1a~T1o シリンダブロック
V ベント