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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】表面材
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/07 20060101AFI20230814BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
E04F13/07 B
B32B27/12
B32B27/30 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019224076
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021001534
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019115880
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】臼田 啓治
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-182339(JP,A)
【文献】特開2012-041497(JP,A)
【文献】特開2007-261259(JP,A)
【文献】特開平11-279989(JP,A)
【文献】特開2017-128634(JP,A)
【文献】特開2017-019958(JP,A)
【文献】特開2015-181455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00-13/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体の少なくとも一方の主面上に粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた、表面材であって、
下記の測定で評価した項目(i)を満足する、表面材。

1.測定対象となる表面材から試験片(短辺:25cm、長辺:25cm、厚さ:1.5mm以上)を採取する、
2.平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる上型を用意し上型を120℃に加熱する、そして、別の平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる下型を用意し下型を130℃に加熱する、
3.アルミホイル面を向かい合わせにした上型と下型の間に試験片を挟み込む、このとき、試験片におけるプリントが存在している側の主面(以降、プリント側主面と称する)と、上型におけるアルミホイル面を向かい合わせる、
4.上型と下型を用いて、試験片における一方の主面からもう一方の主面に向かい、試験片における一方の主面全面に対し1kgf/cmの圧力を13秒間作用させ、試験片をプレスする、
5.上型と下型による圧力の作用を解除し上型と下型の間から試験片を取り出した後、上型を20℃に冷却する、
6.冷却した後の上型における、試験片のプリント側主面と接触していたアルミホイル部分を観察し、以下の項目(i)について評価する、
項目(i):試験片のプリント側主面と接触していた上型のアルミホイル部分に、当該試験片のプリント側主面を構成する樹脂が存在していない、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装材や外装材を構成可能な表面材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内装材や外装材を構成可能な表面材の構成部材として、特開2015-104848(特許文献1)や特開2016-147466(特許文献2)などに開示されているように、従来から繊維集合体(例えば、繊維ウェブ、不織布、織物、編物など)が使用されている。なお、特許文献1および特許文献2には、粒子を含有するプリントを繊維集合体の一方の主面上に備えてなる表面材が開示されており、更に、前記プリント上にアクリル系樹脂などの樹脂層(保護層)を設けてもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-104848
【文献】特開2016-147466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は上述のような従来技術を参考として、繊維集合体の少なくとも一方の主面上に粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた、表面材について検討した。
しかし、このような構成を満足する表面材を金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製したところ、調製した内装材や外装材において、
・アクリル系樹脂層由来の主面に意図しない凹凸が存在するという問題、
が発生した。更に、
・アクリル系樹脂層由来の主面側から、プリントに含まれている粒子が脱落することがあるという問題、
が発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は「繊維集合体の少なくとも一方の主面上に粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた、表面材であって、
下記の測定で評価した項目(i)を満足する、表面材。

1.測定対象となる表面材から試験片(短辺:25cm、長辺:25cm、厚さ:1.5mm以上)を採取する、
2.平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる上型を用意し上型を120℃に加熱する、そして、別の平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる下型を用意し下型を130℃に加熱する、
3.アルミホイル面を向かい合わせにした上型と下型の間に試験片を挟み込む、このとき、試験片におけるプリントが存在している側の主面(以降、プリント側主面と称する)と、上型におけるアルミホイル面を向かい合わせる、
4.上型と下型を用いて、試験片における一方の主面からもう一方の主面に向かい、試験片における一方の主面全面に対し1kgf/cmの圧力を13秒間作用させ、試験片をプレスする、
5.上型と下型による圧力の作用を解除し上型と下型の間から試験片を取り出した後、上型を20℃に冷却する、
6.冷却した後の上型における、試験片のプリント側主面と接触していたアルミホイル部分を観察し、以下の項目(i)について評価する、
項目(i):試験片のプリント側主面と接触していた上型のアルミホイル部分に、当該試験片のプリント側主面を構成する樹脂が存在していない、」である。
【発明の効果】
【0006】
本願出願人が検討を続けた結果「繊維集合体の少なくとも一方の主面上に粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた」表面材を加熱成型して調製した内装材や外装材に発生している上述の問題は、本発明にかかる測定で評価した項目(i)を満足する表面材を用いることで、その発生が抑制されるという知見を見出した。
この理由は完全に明らかとなっていないが、上述の問題の発生に、表面材を構成しているアクリル系樹脂層が関与していると考えられた。
【0007】
つまり、表面材を金型に挟み込み加熱成型した際に、金型に付着し易いアクリル系樹脂層を備えた表面材である場合、特には、金型に付着し易いためにアクリル系樹脂層から剥離して金型に残留するアクリル系樹脂層を備えた表面材である場合、このような表面材を加熱成形して調製した内装材や外装材では、アクリル系樹脂層由来の主面に意図しない凹凸が存在するものとなった。また、アクリル系樹脂が剥離した部分からプリントに含まれている粒子が脱落することがあった。
上述の知見のもと本発明が規定する測定は、模擬的に表面材を金型に挟み込み加熱成型した状況を再現したものといえる。そして、当該測定で評価した項目(i)を満足する表面材は、表面材を金型に挟み込み加熱成型した際においても、金型に付着し難いアクリル系樹脂層を有するものといえる。
そのため、本発明にかかる測定で評価した項目(i)を満足する表面材によって、上述の問題が発生するのを防止できる。
【0008】
また、本発明にかかる構成を満足する表面材は、金型に付着し難いアクリル系樹脂層を備えた表面材であることから、加熱成型後に金型から取り出し易いという副次的な効果も発揮できる表面材である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる表面材の、模式断面図である。
図2】実施例において付与したプリント液の柄、および、プリント液由来のプリント柄であって、図中の黒色部分がプリント液あるいはプリントの存在する部分である。
図3】実施例において付与したプリント液の別の柄、および、プリント液由来の別のプリント柄であって、図中の黒色部分がプリント液あるいはプリントの存在する部分である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。また、例示する各種の下限値と上限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0011】
本発明にかかる表面材について、その模式断面図である図1を用いて説明する。表面材(10)は、繊維集合体(1)の一方の主面上に、粒子を含有するプリント(2)を備えていると共に、前記プリント(2)上にアクリル系樹脂層(3)を備えている。
なお、図1では繊維集合体(1)の一方の主面上における全てに、一種類のプリント(2)が存在している(ベタ印刷されている)態様を例示しているが、
・繊維集合体(1)の一方の主面上における全てに、複数種類のプリント(2)がベタ印刷されている態様、
・繊維集合体(1)の一方の主面上に、部分的に一種類のプリント(2)が存在している(柄が印刷されている)態様、
・繊維集合体(1)の一方の主面上に、部分的に複数種類のプリント(2)が存在している(多種類の柄が印刷されている)態様、
であってもよい。
なお、図1に図示するように表面材(10)における紙面上の上方向側の主面を、プリント(2)が存在している側の主面(プリント側主面)、あるいは、アクリル系樹脂層(3)側の主面と称することがある。
【0012】
本発明でいう繊維集合体とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛である。本発明の表面材は、繊維集合体(特に、不織布)を含んでいるため柔軟であり、人に抵抗感やヌメリ感を与えることで、しっとり感が高いなど、より触感に優れる表面材となる。なお、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる繊維集合体(特に、不織布)を備えた表面材は、より柔軟であり、人に抵抗感やヌメリ感を与えることで、しっとり感が高いなど、更に触感に優れていて好ましい。
また、本発明の表面材は、繊維集合体を含んでいるため、柔軟で金型への追従性に優れる。特に、本発明の表面材を構成する繊維集合体が不織布(特に、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる不織布)であると、更に柔軟で金型への追従性に優れ好ましい。
【0013】
繊維集合体の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を用いて構成できる。
【0014】
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。また、顔料を練り込み調製された繊維や、染色された繊維などの原着繊維であってもよい。
【0015】
なお、表面材に難燃性が求められる場合には、繊維集合体の構成繊維が難燃性の有機樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の有機樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。また、バインダ等を用いることで難燃剤を担持した表面材であってもよい。
【0016】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0017】
構成繊維は、一種類の有機樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の有機樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0018】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0019】
繊維集合体が構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって、繊維集合体に強度と形態安定性を付与し、毛羽立ちや繊維の飛散を抑制でき好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維において熱融着性を発揮する成分として、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂を含む熱融着性繊維などを適宜選択して使用することができる。
【0020】
繊維集合体が捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性が増して金型への追従性に優れ好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用することができる。また、繊維集合体が加熱することで捲縮を発現する潜在捲縮性繊維を含んでいてもよい。
【0021】
繊維集合体が繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0022】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。
【0023】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0024】
使用可能なバインダの種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。
バインダがアクリル系樹脂を含有していると、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れる表面材を提供でき好ましい。
また、バインダは上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0025】
繊維集合体に含まれるバインダの目付は適宜選択する。具体的にバインダの目付は2g/m以上であることができる。また、バインダの目付は50g/m以下であることができ、30g/m以下であることができ、20g/m以下であることができる。
【0026】
繊維集合体が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など繊維集合体を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0027】
繊維集合体の構成繊維の繊度は特に限定するものではないが、剛性に優れる表面材を提供できるように、1dtex以上であることができ、1.5dtex以上であることができ、2dtex以上であることができる。他方、地合いに優れる内装材を調製可能な表面材となるように、100dtex以下であることができ、50dtex以下であることができ、30dtex以下であることができ、10dtex以下であることができる。
【0028】
また、繊維集合体の構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、剛性の観点から、20mm以上であることができ、25mm以上であることができ、30mm以上であることができる。他方、繊維長が110mmを超えると、繊維集合体の調製時に繊維塊が形成される傾向があり、地合いに優れる表面材の提供が困難となるおそれがあることから、110mm以下であることができ、60mm以下であることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0029】
繊維集合体の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。
繊維集合体の厚さは、0.5~5mmであることができ、1~3mmであることができ、1.1~1.9mmであることができる。なお、本発明において厚さとは主面と垂直方向へ20g/cm圧縮荷重をかけた時の該垂直方向の長さをいう。
また、繊維集合体の目付は、例えば、50~500g/mであることができ、80~300g/mであることができ、100~250g/mであることができる。なお、本発明において目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1mあたりの質量をいう。
【0030】
本発明でいうプリントとは、繊維集合体の少なくとも一方の主面上に存在する、樹脂を含有する層を指す。また、本発明の表面材において、プリントは粒子を含有している。プリントを構成する樹脂は、繊維集合体の少なくとも一方の主面上に粒子を担持する役割を担うことのできる樹脂であり、上述したバインダと同様の樹脂を採用することができる。特に、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れる表面材を提供できることから、プリントを構成する樹脂がアクリル系樹脂を含んでいるのが好ましく、プリントを構成する樹脂がアクリル系樹脂のみであるのがより好ましい。
【0031】
なお、プリントはその樹脂以外に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0032】
また、繊維集合体の一方の主面上に存在するプリントの態様は適宜選択でき、該主面全面を覆うように存在している態様、格子状などのパターンを有する柄や線状やドット状あるいは不定形状などの柄を形成するように該主面の一部を覆い存在している態様であることができる。また、プリントは一種類の樹脂を含有する層を備えていても、一種類あるいは複数種類の樹脂を含有する層を複数備えていても良く、具体的には、柄あるいは樹脂や含有物が同一あるいは異なるプリントを複数備えていても良い。
なお、プリントは繊維集合体の一方の主面上に存在するのであれば、繊維集合体の両主面上に存在していても良い。また、プリントは繊維集合体の主面上にのみ存在する態様以外にも、プリントを構成する成分(樹脂など)の一部が繊維集合体を構成する構成繊維間に侵入している態様であってもよい。
【0033】
プリントの目付は適宜選択するが、例えば、2~50g/mであることができ、10~30g/mであることができる。
【0034】
本発明の表面材が備える粒子の平均粒子径は、触感に優れる表面材を提供できるよう適宜調整するが、粒子の平均粒子径は14μm~160μmであるのが好ましく、30μm~50μmであるのが好ましい。
本発明において粒子の平均粒子径は以下の方法で算出される値をいう。
(平均粒子径の算出方法)
(1)室温(25℃)雰囲気下に置いた複数の粒子の200倍の光学顕微鏡写真を撮影する、あるいは、室温(25℃)雰囲気下に置いた表面材の両主面の200倍の光学顕微鏡写真を各々撮影する。
(2)撮影した写真のうち粒子の存在が認められた写真から、ランダムに10個の粒子を選出する。
(3)選出した10個の粒子の粒子径を各々算出し、算出した値の平均値を平均粒子径とする。なお、写真に写る粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を算出し、その直径の値を粒子の粒子径とみなす。
【0035】
プリントに含有されている粒子の粒子径における変動係数(以降、CV値と略称することがある)は、適宜選択できるが、CV値が小さいほど粒子の分布が狭いことで、より触感に優れる表面材を意図したとおり効率良く提供することができる。そのため、粒子の粒子径におけるCV値は、17%以下であるのが好ましく、16%以下であるのが好ましい。なお、平均粒子径の下限は適宜選択できるが、理想的には0%である。
【0036】
本発明にかかる表面材が備える粒子の種類は適宜選択でき、中実粒子であっても中空粒子であってもよいが、触感が向上した表面材を提供し易いことから、中空粒子を採用するのが好ましい。また、粒子の構成成分も適宜選択でき、例えば、シリカやアルミナなどの無機成分で構成された無機粒子や有機樹脂で構成された有機粒子、あるいは、有機樹脂と無機成分を含んだ構成を備える粒子であってもよい。
なお、粒子が中空粒子である場合、粒子径方向へ変形し易い中空粒子であるよう、中空粒子を構成する成分は有機樹脂を含んでいるのが好ましい。
【0037】
本発明でいう中空粒子とは、内部に空洞を有する粒子を意味する。中空粒子は中実粒子よりも粒子径方向へ変形し易いため、人は中空粒子を含有する表面材の主面を触った際に、人は硬質なものを触った際の触感ではなく弾性を有するものを触った際の触感を感じる。その結果、表面材の主面を触った際に柔軟性が感じられ易くなることに起因して、触感が向上した表面材を提供でき好ましい。特に、柔軟な中空粒子であることで触感に優れる表面材を実現し易いこと、また、プリントが立体的となり意匠性に優れる表面材を実現し易いことから、加熱を受けることで発泡する粒子が発泡してなる中空粒子を備えた表面材であるのが好ましい。
【0038】
プリントが粒子を含有している、その態様は適宜選択でき、プリントの露出する主面上のみに粒子が存在している態様や、プリントの内部および露出する主面上に粒子が存在している態様であることができる。
なお、プリントの露出する主面上に粒子が存在している態様として、例えば、プリントの露出する主面上に樹脂によって粒子が接着担持されている態様や、プリントの露出する主面に粒子の一部がめり込むことで担持されている態様などであることができる。そして、プリントの主面上に粒子の一部が露出する態様であることができる。
【0039】
プリントに含有されている粒子の量は適宜選択するが、15g/m以下であることができ、12g/m以下であることができ、9g/m以下であることができる。一方、含有量の下限値は適宜調整するが、本発明に係る特性を有する表面材を提供できるよう、0.1g/mよりも多いのが好ましく、0.3g/mよりも多いのが好ましい。
【0040】
なお、プリントはその樹脂と粒子以外に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0041】
プリントは多種類の粒子を含有していても良いが、抵抗感やヌメリ感を与えることで、しっとり感が高いなど、より触感に優れる表面材を提供できるよう、粒子として上述した構成を備えた中空粒子のみを含有するプリントを備えた表面材であるのが好ましい。特に、上述した効果が効率良く発揮された表面材を提供できるよう、一種類の中空粒子のみを含有するプリントを備えた表面材であるのが、より好ましい。
【0042】
プリントを構成する樹脂の固形分質量に対する粒子の固形分質量の百分率は適宜調整できるが、6質量%~400質量%であることができ、12質量%~200質量%であることができ、24質量%~100質量%であることができる。
なお、プリントを構成する樹脂の固形分質量に対する粒子の固形分質量の百分率は、以下の方法で算出した値の小数点以下を四捨五入して算出できる。
A=100×B/C
A:プリントを構成する樹脂の固形分質量に対する粒子の固形分質量の百分率(単位:質量%)
B:プリントを構成する粒子の固形分質量(単位:g/m
C:プリントを構成する樹脂の固形分質量(単位:g/m
また、表面材が備えているプリントを構成している、粒子および樹脂の固形分質量を測定することが困難である場合には、表面材の製造工程においてプリントを構成するため繊維集合体の一方の主面上に付与した、粒子の固形分質量をBとして上述の式へ代入すると共に、樹脂の固形分質量をCとして上述の式へ代入することで、プリントを構成する樹脂の固形分質量に対する粒子の固形分質量の百分率(単位:質量%)を算出する。あるいは、表面材の製造工程においてプリントを構成するため繊維集合体の一方の主面上に付与する、プリントを構成する粒子と樹脂を含有する塗布液中の、粒子の固形分質量をBとして上述の式へ代入すると共に、樹脂の固形分質量をCとして上述の式へ代入することで、プリントを構成する樹脂の固形分質量に対する粒子の固形分質量の百分率(単位:質量%)を算出する。
【0043】
本発明の表面材は、繊維集合体の一方の主面上に粒子を含有しているプリントと、前記プリント上(表面材が備える該プリントにおける、繊維集合体が存在する側と反対側の主面上)にアクリル系樹脂層を備える。
【0044】
アクリル系樹脂層は、表面材のプリントから粒子が脱落する、および/または、表面材を成型加工してなる内装材や外装材から粒子が脱落する(表面材のプリント由来の部分から粒子が脱落する)のを防止する役割を担う層である。アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂を含有していればよく上述した他の有機樹脂を含有していても良いが、本発明にかかる表面材が効果的に機能を発揮できるよう、アクリル系樹脂層を構成する有機樹脂はアクリル系樹脂のみであるのが好ましい。
【0045】
アクリル系樹脂層は他にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0046】
また、アクリル系樹脂層の存在態様は適宜選択できるが、上述の効果が最大限に発揮されるよう、表面材のプリントにおける繊維集合体が存在する側と反対側の主面全面(プリント上の全面)を覆うように存在している態様であるのが好ましい。なお、アクリル系樹脂層はプリント上にのみ存在する態様以外にも、プリントや繊維集合体を構成する構成繊維間に侵入している態様であってもよい。
【0047】
本発明にかかる表面材が効果的に機能を発揮できるよう、表面材はアクリル系樹脂層として、アクリル系樹脂のみで構成された樹脂の層を備えているのが望ましい。
アクリル系樹脂層の目付は適宜選択するが、アクリル系樹脂層の目付は2~80g/mであることができ、5~70g/mであることができ、12~55g/mであることができる。
【0048】
そして、本発明にかかる表面材は、以下の測定で評価した項目(i)を満足する。
1.測定対象となる表面材から試験片(短辺:25cm、長辺:25cm、厚さ:1.5mm以上)を採取する。
2.平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる上型を用意し上型を120℃に加熱する、そして、別の平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷いてなる下型を用意し下型を130℃に加熱する。
3.アルミホイル面を向かい合わせにした上型と下型の間に試験片を挟み込む、このとき、試験片におけるプリントが存在している側の主面(以降、プリント側主面と称する)と、上型におけるアルミホイル面を向かい合わせる。
4.上型と下型を用いて、試験片における一方の主面からもう一方の主面に向かい、試験片における一方の主面全面に対し1kgf/cmの圧力を13秒間作用させ、試験片をプレスする。
5.上型と下型による圧力の作用を解除し上型と下型の間から試験片を取り出した後、上型を20℃に冷却する。
6.冷却した後の上型における、試験片のプリント側主面と接触していたアルミホイル部分を観察し、以下の項目(i)について評価する。
項目(i):試験片のプリント側主面と接触していた上型のアルミホイル部分に、当該試験片のプリント側主面を構成する樹脂が存在していない。
【0049】
更に、上述の測定において、冷却した後の上型における、試験片のプリント側主面と接触していた上型のアルミホイル部分を観察し、以下の項目(ii)を満足する表面材であるのがより好ましい。
項目(ii):試験片のプリント側主面と接触していた上型のアルミホイル部分に、アクリル系樹脂および中空粒子が存在していない。
【0050】
上述した測定で評価した項目(i)あるいは項目(ii)を満足する表面材は、具体的には、アクリル系樹脂層を構成するアクリル系樹脂の種類を選定することで実現し得る。
【0051】
なお、本願出願人は、以下の(アクリル系樹脂の評価方法)で評価した項目(iii)および(iv)を満足するアクリル系樹脂を、アクリル系樹脂層を構成するアクリル系樹脂として採用することによって、本発明にかかる表面材(上述した測定で評価した項目(i)あるいは項目(ii))を満足する表面材)を実現できることを見出した。
(アクリル系樹脂の評価方法)
1.アクリル系樹脂からなる試験片(短辺:5cm、長辺:7cm、厚さ:2mm)を用意する。
2.前記試験片を160℃雰囲気下に20分間静置して、前記試験片を加熱する。
3.140℃に加熱した平滑な板の主面上にアルミホイル(厚さ:0.05mm)を敷き、前記アルミホイルの主面上に前記加熱した試験片を積層する。このとき、前記アルミホイルの主面と前記加熱した試験片の主面を向かい合わせ接触させて積層する。
4.前記試験片における露出している主面側から前記試験片の厚さ方向へ向かい、前記主面全面に対し加圧板を50kgf/cmの圧力で3分間作用させプレスした後、前記加圧板を前記試験片から離して前記試験片を20℃に冷却する。
5.プレスを施した後の試験片の状態を、以下の(iii)および(iv)の2項目で評価する。
項目(iii):前記プレスを施した後の試験片における露出している主面に、波うちが発生していない、あるいは、発生した波うちの高さが2mm未満である。
項目(iv):前記プレスを施した後の試験片の大きさが、短辺:6cm以下、及び、長辺:8cm以下である。
【0052】
本願出願人は検討を続けた結果、上述した測定で評価した項目(i)あるいは項目(ii)を満足する表面材は、金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製する際に、金型と接触するアクリル系樹脂層が意図せず流動し難いことによって実現できることを見出した。つまり、表面材が加熱を受けた際の流動性が低いアクリル系樹脂を含有してなるアクリル系樹脂層を備えていることで、表面材を金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製した際に発生し得る、
・アクリル系樹脂層由来の主面に意図しない凹凸が存在するという問題や、
・アクリル系樹脂層由来の主面側から、プリントに含まれている粒子が脱落することがあるという問題、
の発生を防止できることを見出した。
【0053】
なお、プリントが粒子(特に発泡した中空粒子)を含有している場合、プリントの強度は粒子を含有してない場合よりも弱くなる。そのため、粒子(特に発泡した中空粒子)を含有したプリントを備える表面材を、金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製すると、調製した内装材や外装材に上述した問題がより発生し易い傾向がある。
しかし、本発明にかかる表面材が、特に、上述した(アクリル系樹脂の評価方法)で評価した項目(iii)および(iv)を満足するアクリル系樹脂をアクリル系樹脂層に備えている場合、上述した問題が発生するのを効果的に防止できる。
【0054】
本発明の表面材におけるプリントが存在している側の主面の表面粗さ(SMD)や平均摩擦係数(MIU)は、触感に優れる表面材を実現できるよう適宜調整する。
なお、表面粗さ(SMD;surface roughness)は表面試験機(KES-FB4、カトーテック株式会社製)を用いて測定される値であり、表面材の試料(20cm角)を試験機に400gの荷重をかけてセットし、粗さ接触子(0.5mmワイヤー、接触面幅:5mm)に10.0gの加重をかけて試料に接触させ、試料を1mm/sec.の速度で移動させて測定された表面の凹凸データの平均偏差(average deviation of surface roughness data)を意味し、単位はμmである。
【0055】
表面粗さは文字通り、主面における凹凸、つまり主面の平滑性を示す指標である。表面粗さ(SMD)の値が大きい方が、当該ギャップを小さくできる傾向があり、意匠性と触感に優れる表面材を提供し易いことから、表面粗さ(SMD)は2.75μm以上であるのが好ましい。なお、表面粗さ(SMD)の上限値は特に限定するものではない。しかし、表面粗さ(SMD)が過剰に高い値である場合、錯覚により植え付けられ無意識に想像していた触感と、実際に当該主面を触り得られた触感との間に新たなギャップが発生する恐れがあることから、表面粗さ(SMD)は10.0μm以下であるのが好ましい。
【0056】
平均摩擦係数(MIU)は主面の柔軟性を示す指標である。なお、平均摩擦係数(MIU;frictional coefficient)は、表面試験機(KES-FB4)を用いて測定されるμ(摩擦係数)の20mm間の平均値(average value of μ in a distance of 20mm)であり、表面材の試料(20cm角)を試験機に400gの荷重をかけてセットし、摩擦子(5mm×5mm)に50gの加重をかけて試料に接触させ、試料を1mm/sec.の速度で移動させて測定された平均値を意味する。
表面材におけるプリントが存在している側の主面の平均摩擦係数(MIU)が高いほど、当該主面は柔軟性に冨み、より優れた触感となる傾向があるため、平均摩擦係数(MIU)は0.15以上であるのが好ましく、0.20以上であるのが好ましく、0.25以上であるのがより好ましい。一方で、平均摩擦係数(MIU)の値が大き過ぎると、摩擦抵抗が強過ぎて、逆に触感を損なう恐れがあるため、1.6以下であるのが好ましい。
【0057】
表面材の厚さは適宜選択するが、2.5mm以下であることができ、2.0mm以下であることができる。一方、厚さの下限値は適宜調整するが、0.5mm以上であるのが現実的である。
表面材の目付は適宜選択するが、300g/m以下であることができる。一方、目付の下限値は適宜調整するが、100g/m以上であるのが現実的である。
【0058】
本発明の表面材は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を備えていてもよい。これらの構成部材は表面材における、アクリル系樹脂層側の主面とは異なる主面側に積層して備えることができる。
【0059】
次に、本発明の表面材の製造方法について説明する。なお、上述の表面材について説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
本発明にかかる表面材の製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(1)繊維集合体を用意する工程、
(2)プリントを構成可能な樹脂と粒子を、溶媒あるいは分散媒に混合して、プリント液を調製する工程、
(3)繊維集合体の少なくとも一方の主面上に、プリント液を付与する工程、
(4)プリント液を付与した繊維集合体を加熱することで溶媒あるいは分散媒を除去して、プリントを備える繊維集合体を調製する工程、
(5)アクリル系樹脂層を構成可能な有機樹脂(アクリル系樹脂、または、アクリル系樹脂と他の樹脂)を含んだ成分を溶媒あるいは分散媒に混合して、アクリル系樹脂層塗布液を調製する工程、
(6)プリントを備える繊維集合体におけるプリント側の主面上に、アクリル系樹脂層塗布液を付与する工程、
(7)アクリル系樹脂層塗布液を付与した、プリントを備える繊維集合体を加熱することで、溶媒あるいは分散媒を除去して、表面材を調製する工程、
を備える、表面材の製造方法を挙げることができる。
【0060】
工程(1)について説明する。
繊維集合体として、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛を用意する。なお、繊維集合体における構成繊維の繊度や繊維長、繊維集合体の厚さや目付は上述した数値のものを採用することができる。
【0061】
工程(2)について説明する。
溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択できるが、繊維集合体の一方の主面上へ好適にプリント液を塗布できるよう、プリントを構成可能な樹脂が溶解すると共に、粒子が溶解せず分散可能な溶媒を採用する、あるいは、プリントを構成可能な樹脂粒子および粒子が溶解せず分散可能な分散媒を採用するのが好ましい。また、プリント液には粒子以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を溶解あるいは分散させ、含有させてもよい。粒子の種類は適宜選択できるが、上述した理由から加熱を受け発泡する粒子であるのが好ましい。
【0062】
工程(3)について説明する。
繊維集合体の一方の主面上に、プリント液を付与する方法は適宜選択できるが、繊維集合体の一方の主面にプリント液をそのまま、あるいは泡立てた状態で、スプレーや含浸ロールなどを用いて散布あるいは塗布する方法、繊維集合体の一方の主面をプリント液中に浸漬する方法などを採用することができる。繊維集合体の一方の主面上に付与する、プリント液の態様は適宜選択できるが、主面上全てを被覆するように付与する方法、主面上に模様を形成するようにプリントや捺染して付与する方法などを選択できる。なお、一種類のプリント液を付与する、あるいは、複数種類のプリント液を付与しても良い。また、複数種類のプリント液を付与する場合には、各プリント液の付与態様(模様、プリント液の組成)は異なっていても良い。
【0063】
工程(4)について説明する。
溶媒あるいは分散媒を除去してプリントを備える繊維集合体を調製する方法は適宜選択できるが、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、溶媒あるいは分散媒を蒸発させ除去できる。溶媒あるいは分散媒を除去する際の加熱温度は溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度であると共に、繊維集合体や中空粒子など構成部材の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度の上限を選択する。
なお、繊維集合体が繊維ウェブの場合には、本工程によって構成繊維同士を接着する(溶融したバインダで接着する、あるいは、構成繊維に含まれる熱可塑性成分を溶融させ接着する)ことで、不織布を形成してもよい。
また、加熱を受け発泡する粒子を備えている場合には、本工程によって当該粒子を発泡させてもよい。
【0064】
工程(5)について説明する。
溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択できるが、好適にアクリル系樹脂層塗布液を塗布できるよう、アクリル系樹脂層を構成可能な有機樹脂が溶解すると共に繊維集合体やプリントの構成成分が溶解しない溶媒あるいは分散媒、または、アクリル系樹脂層を構成可能な有機樹脂ならびに繊維集合体やプリントの構成成分が溶解しない溶媒あるいは分散媒を採用するのが好ましい。また、アクリル系樹脂層塗布液には上述した添加剤を溶解あるいは分散させ、含有させてもよい。
【0065】
工程(6)について説明する。
プリントを備える繊維集合体におけるプリント側の主面上に、アクリル系樹脂層塗布液を付与する方法は適宜選択できるが、例えば、工程(3)で挙げた手段を採用できる。
なお、一種類のアクリル系樹脂層塗布液を付与する、あるいは、複数種類のアクリル系樹脂層塗布液を付与しても良い。また、複数種類のアクリル系樹脂層塗布液を付与する場合には、各アクリル系樹脂層塗布液の付与態様(模様、アクリル系樹脂層塗布液の組成)は異なっていても良い。
【0066】
工程(7)について説明する。
溶媒あるいは分散媒を除去して表面材を調製する方法は適宜選択できるが、例えば、工程(4)で挙げた手段を採用できる。
【0067】
上述の製造方法を用いることで、本発明に係る表面材を製造することができる。
上述の表面材の製造方法では、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程、などの、各種二次工程を備えた表面材の製造方法であってもよい。
なお、これらの構成部材は表面材における、アクリル系樹脂層側の主面とは異なる主面側に積層して備えることができる。
更に、リライアントプレス処理などの、表面を平滑とするための加圧処理工程へ供してもよい。
【実施例
【0068】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0069】
(繊維集合体の調製)
原着ポリエステル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:38mm)を100%用いて、カード機により開繊して繊維ウェブを形成した後、片面から針密度400本/mでニードルパンチ処理を行い、その後、熱ロール間(ギャップ間隔:0.6mm、ロール加熱温度:165℃)へ供することで、ニードルパンチ不織布(目付:180g/m、厚さ:1.5mm)を調製した。
次いで、ニードルパンチ不織布のニードリングを施した面とは反対の面から、以下に記載の割合で配合したバインダ液を泡立てた状態で塗布し、ロール間(ギャップ間隔:0.25mm)へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、バインダ接着不織布(目付:185g/m、厚さ:1.6mm、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる不織布)を調製した。
バインダ液
・アクリル酸樹脂バインダー4(詳細は後述する):5.4部
・増粘剤:0.2部
・界面活性剤:1.0部
・25%アンモニア水:0.1部
・水:93.3部
【0070】
(プリント液の調製)
表1に記載の割合で配合した各種プリント液を調製した。なお、プリント液に配合した中空粒子は有機成分からなる中空粒子(加熱前の平均粒子径:13μm)であって、160℃の加熱雰囲気下で3倍に発泡する粒子であった。また、プリント液中に存在していない組成物については、表中に「-」を記載した。
【0071】
【表1】
【0072】
(アクリル系樹脂層塗布液の調製)
表2に記載の割合で配合した各種樹脂液を調製した。なお、アクリル系樹脂バインダー1~2およびアクリル系バインダー5を構成するアクリル系樹脂を(アクリル系樹脂の評価方法)へ供したところ、項目(iii)および項目(iv)を共に満足しないものであった。一方、アクリル系樹脂バインダー3~4を構成するアクリル系樹脂を(アクリル系樹脂の評価方法)へ供したところ、項目(iii)および項目(iv)を共に満足するものであった。ガラス転移温度(Tg)の違いや(アクリル系樹脂の評価方法)へ供した結果からもわかる通り、使用した各アクリル系樹脂バインダーを構成する各々のアクリル系樹脂の種類(例えば、ポリマー鎖の構造、分子量など)は、互いに異なるものである。
なお、本発明でいう「Tg(ガラス転移温度)」とは、測定対象となる樹脂(アクリル系樹脂バインダーを構成するアクリル系樹脂など)を示差熱分析計(DTA)へ供し測定されたDTA曲線におけるベースラインの接線と、ガラス転移による吸熱領域の急峻な下降位置の接線との交点にあたる温度をいう。
なお、アクリル系樹脂層塗布液中に存在していない組成物については、表中に「-」を記載した。
【0073】
【表2】
【0074】
(参考例1)
バインダ接着不織布のバインダ液を塗布した方の主面に対して、シリンダを用いてプリント液Aを図2に図示するA柄に塗布した。そして、プリント液A由来のプリントが露出する主面に対して、シリンダを用いてプリント液Bを図3に図示するB柄に塗布した。
その後、温度160℃のドライヤーで乾燥することで、バインダ接着不織布の一方の主面上に、プリント液A由来のA柄のプリントならびにプリント液B由来のB柄のプリント(発泡した中空粒子を含有してなるプリント)が、重ね合わされてなる柄のプリントを設けた。
このようにして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えた表面材(目付:195.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面のSMDは6.494μm、MIUは0.243であった。
【0075】
(比較例1)
参考例1で調製した表面材のプリントを備えている側の主面に対して、シリンダを用いてアクリル系樹脂塗布液1を全面に塗布(ベタ印刷)した。その後、温度140℃のドライヤーで乾燥することで、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:203.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、アクリル系樹脂塗布液1由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは6.039μm、MIUは0.215であった。
【0076】
(比較例2)
アクリル系樹脂塗布液1の代わりにアクリル系樹脂塗布液2を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:203.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、アクリル系樹脂塗布液2由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは6.082μm、MIUは0.270であった。
【0077】
(実施例1)
アクリル系樹脂塗布液1の代わりにアクリル系樹脂塗布液3を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:203.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、アクリル系樹脂塗布液3由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは6.164μm、MIUは0.218であった。
【0078】
(実施例2)
アクリル系樹脂塗布液1の代わりにアクリル系樹脂塗布液4を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:203.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、アクリル系樹脂塗布液4由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは5.957μm、MIUは0.267であった。
【0079】
(実施例3)
プリント液Bの塗布量を増量したこと以外は、実施例2と同様にして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:206.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:7.0g/m、アクリル系樹脂塗布液4由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.7mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは6.944μm、MIUは0.214であった。
【0080】
(比較例3)
アクリル系樹脂塗布液1の代わりにアクリル系樹脂塗布液5を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、バインダ接着不織布の一方の主面上に中空粒子を含有するプリントを備えていると共に、前記プリント上にアクリル系樹脂層を備えた表面材(目付:203.0g/m、プリント液A由来のプリントの目付:6.0g/m、プリント液B由来のプリントの目付:4.0g/m、アクリル系樹脂塗布液5由来のアクリル系樹脂層の目付:8.0g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
なお、このようにして調製した表面材における、プリントが存在している側の主面(アクリル系樹脂層)のSMDは6.144μm、MIUは0.213であった。
【0081】
上述のようにして調製した表面材について、各種物性を測定して評価し表3にまとめた。なお、上述した項目(i)および項目(ii)の項目については、項目を満足した表面材には「〇」を、満足しなかった表面材には「×」を記載した。また、構成上評価の対象外となる表面材には「-」を記載した。
【0082】
また、(地合い)の項目については以下の方法で評価した。
(地合いの評価方法)
項目(i)および項目(ii)を評価した後の試験片における、上型のアルミホイル部分と接触していた試験片におけるプリントが存在している側の主面を目視で観察した。
観察の結果、当該主面にプリントムラの発生が認められた場合には、表面材へ加熱と加圧を作用させた結果、樹脂層の剥離や樹脂層及びプリントの剥離が発生したことを意味するため、金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製した場合に、地合いに優れる内装材や外装材を提供するのが困難な表面材であると評価し、表中に「×」を記載した。
一方、観察の結果、当該主面にプリントムラの発生が認められなかった場合には、表面材へ加熱と加圧を作用させとしても、樹脂層の剥離や樹脂層及びプリントの剥離が発生しなかったことを意味するため、金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製した場合に、地合いに優れる内装材や外装材を提供するのが容易な表面材であると評価し、表中に「〇」を記載した。
【0083】
【表3】
【0084】
参考例および比較例と、実施例を比較した結果から、本発明にかかる構成を満足する表面材であることによって、表面材を金型に挟み込み加熱成型して内装材や外装材を調製した際に発生し得る、
・アクリル系樹脂層由来の主面に意図しない凹凸が存在するという問題や、
・アクリル系樹脂層由来の主面側から、プリントに含まれている粒子が脱落することがあるという問題、
の発生を防止して、地合いに優れる内装材や外装材を容易に提供できた。
【0085】
また、本発明にかかる構成を満足する表面材であることによって、加熱成型後に金型から取り出し易いという副次的な効果も発揮できる表面材を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の表面材は、天井、ドアサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージなど自動車用;パーティションなどのインテリア用;壁装材などの建材用に、好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10:表面材
1:繊維集合体
2:粒子を含有するプリント
3:アクリル系樹脂層
図1
図2
図3