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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】帯電抑制方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20230814BHJP
   F16L 11/10 20060101ALI20230814BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
F16L11/08 B
F16L11/10 B
F16L11/12 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019235864
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105409
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島 嗣典
(72)【発明者】
【氏名】江草 史典
(72)【発明者】
【氏名】祷 康裕
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-162317(JP,U)
【文献】特開2012-063712(JP,A)
【文献】特開2017-053363(JP,A)
【文献】特開2006-057654(JP,A)
【文献】特開平09-267337(JP,A)
【文献】特開2010-000610(JP,A)
【文献】特開2009-056632(JP,A)
【文献】特開2004-330447(JP,A)
【文献】特開平05-027773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
F16L 11/10
F16L 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製ホースを使用して、粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法であって、
前記樹脂製ホースは、
ホースの内周面に第1の樹脂と第2の樹脂が露出しており、
第1の樹脂は、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート樹脂組成物であり、
第2の樹脂は、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル樹脂組成物である、
樹脂製ホースであり、
粉体または粒状体を構成する材料が、帯電列の順位で並べた際に、前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物と前記塩化ビニル樹脂組成物の間に位置する、ポリアミド樹脂である、
帯電抑制方法。
【請求項2】
前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物が、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂を含む
請求項1に記載の帯電抑制方法。
【請求項3】
樹脂製ホースを使用して、粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法であって、
前記樹脂製ホースは、
ホースの内周面に第1の樹脂と第2の樹脂が露出しており、
第1の樹脂は、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート樹脂組成物であり、
第2の樹脂は、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル樹脂組成物である、
樹脂製ホースであり、
粉体または粒状体を構成する材料が、帯電列の順位で並べた際に、前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物と前記塩化ビニル樹脂組成物の間に位置する、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物である、
帯電抑制方法。
【請求項4】
前記第2の樹脂に含まれる可塑剤が、トリオクチルトリメリテートもしくはフタル酸ジイソノニルを含む、
請求項3に記載の帯電抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ホースを使用して粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法に関する。また、本発明は、そのような帯電防止方法に使用される樹脂製ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製ホースは、軽量でつぶれにくいなどといったメリットを有しており、多彩な用途に使用されている。樹脂ペレットなどの粒状体や、木粉、紙粉、金属粉などの粉体が、樹脂製ホースを介して搬送されることがある。粉体や粒状体を樹脂製ホースで搬送する場合、ホース壁と粉体や粒状体とがこすれあうため、静電気が発生することがある。静電気によりホースが帯電すると、感電したり、スパークが発生したりする恐れがあるため、静電気の発生を抑制することが求められている。
【0003】
静電気によるホースの帯電を抑制するために、ホースに導電性を有する材料や部材を導入する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、円筒状の軟質部に硬質部がスパイラル状に一体化された樹脂製ホースであって、硬質部がホースの内側と外側に露出しているとともに、硬質部に導電性材料が混合されて硬質部が導電性を有するようにしたホースの技術が開示されており、当該ホースによれば、内部を輸送する粉体等の摩擦静電気によるスパーク等の発生を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-57654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のホースでは、導電材を利用したアースを取ることによって、ホースへの帯電は抑制される。しかしながら、依然として搬送される粉体や粒状体が帯電する恐れがある。粉体や粒状体が帯電していると、粉体や粒状体がホッパ等に滞留し詰まりやすくなったりして、好ましくない。
【0006】
本発明の目的は、樹脂製ホースを使用して粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような帯電防止方法に使用される可撓性の樹脂製ホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、鋭意検討の結果、ホースの内周面に軟質塩化ビニル樹脂組成物と軟質なポリメチルメタクリレート樹脂組成物を露出させるとともに、搬送される粉体や粒状体の材料が、帯電列の順位で前記2種の樹脂組成物の間に位置するようにすると、粉体や粒状体が帯電することが抑制されることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、樹脂製ホースを使用して、粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法であって、前記樹脂製ホースは、ホースの内周面に第1の樹脂と第2の樹脂が露出しており、第1の樹脂は、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート樹脂組成物であり、第2の樹脂は、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル樹脂組成物である、樹脂製ホースであり、粉体または粒状体を構成する材料が、帯電列の順位で並べた際に、前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物と前記塩化ビニル樹脂組成物の間に位置する、ポリアミド樹脂である、帯電抑制方法である(第1発明)。
【0009】
第1発明において、好ましくは、前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物が、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂を含む(第2発明)
【0010】
また、本発明は、樹脂製ホースを使用して、粉体または粒状体を搬送する際に、粉体または粒状体への帯電を抑制する方法であって、前記樹脂製ホースは、ホースの内周面に第1の樹脂と第2の樹脂が露出しており、第1の樹脂は、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート樹脂組成物であり、第2の樹脂は、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル樹脂組成物である、樹脂製ホースであり、粉体または粒状体を構成する材料が、帯電列の順位で並べた際に、前記ポリメチルメタクリレート樹脂組成物と前記塩化ビニル樹脂組成物の間に位置する、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物である、帯電抑制方法である(第発明)。また、第発明において、好ましくは、前記第2の樹脂に含まれる可塑剤が、トリオクチルトリメリテートもしくはフタル酸ジイソノニルを含む(第発明)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電抑制方法(第1発明、第3発明)によれば、ホースの内周面に露出する2種類の樹脂が、粉体や粒状体を逆方向に帯電させようとすることになり、粉体や粒状体への帯電が抑制される。また、第1発明の帯電抑制方法によれば、ポリアミド樹脂の粉体や粒状体の帯電を抑制できる。また、第3発明の帯電抑制方法によれば、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物の粉体や粒状体の帯電を抑制できる。
【0012】
また、第2発明では、帯電抑制方法に使用される柔軟なホースの強度が高められる。また、第4発明では、帯電抑制方法に使用される樹脂製ホースの柔軟性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の樹脂製ホースの構成を示す一部断面図である。
図2】ホース壁の構成の変形例を示す断面図である。
図3】ホース内周面における第1の樹脂と第2の樹脂の配置の変形例を示す図である。
図4】第1実施形態の樹脂製ホースの製造方法を示す模式図である。
図5】MIL-HDBK-263Bに例示された帯電列である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照しながら、樹脂ペレットの搬送に使用される樹脂製ホースを例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。樹脂製ホースにより搬送される粉体や粒状体は、樹脂ペレットに限定されない。搬送される粉体や粒状体を構成する材料は、紙、木、繊維、セラミック、金属、薬剤、食品材料などであってもよい。
【0015】
図1は、第1実施形態の樹脂製ホース1の構成を示す一部断面図である。図の左上側が断面図となっている。樹脂製ホース1は、円筒状に形成されたホース壁11と、ホース壁11に一体化された補強体12を有する。ホース壁11は可撓性を有しており、樹脂製ホース1の可撓性に貢献する。樹脂製ホース1は、粉体または粒状体の搬送に使用されうる。
【0016】
樹脂製ホース1において、補強体12は必須ではない。補強体12が設けられていると、樹脂製ホース1がつぶれにくくなる。本実施形態では、補強体12は、ホース壁11の外周面にらせん状に一体化されている。また、本実施形態では、補強体12は、ホース壁11を構成する樹脂よりも硬質な樹脂により構成されている。
【0017】
樹脂製ホース1は、必ずしも樹脂のみで構成されている必要はない。樹脂製ホースの主体、特にホース壁部分の主体が樹脂製であればよい。樹脂製ホース1の構成部材に、金属線や金属箔、金属メッシュ、ガラス繊維やカーボン繊維などが含まれていてもよい。例えば、補強体の一部として、硬鋼線が樹脂製ホースに一体化されていてもよい。
【0018】
必須ではないが、本実施形態では、ホース壁11の内周面は、平滑な円筒状に形成されている。ホース壁11の内周面は、完全に平滑でなくてもよく、蛇腹状であってもよく、多少の段差やギャップが存在していてもよい。
【0019】
円筒状のホース壁11は、比較的柔軟な樹脂製である。ホース壁11は複数の樹脂材料を組み合わせて構成されており、ホース壁11の内周面には、後述する第1の樹脂と第2の樹脂が露出している。図1では、ホース壁内周面の第1の部分14aに第1の樹脂が露出し、ホース壁内周面の第2の部分14bに第2の樹脂が露出している。
【0020】
必須ではないが、本実施形態では、第1の樹脂がテープ状に形成され、らせん状に巻かれた状態でホース内周部に配置される。一方、第2の樹脂は、らせん状の第1の樹脂テープを覆うように、円筒状に形成される。ホース内側から見て、第1の樹脂が露出しているらせんの隙間から、第2の樹脂はホース内周面に露出しており、さらに、第2の樹脂は、第1の樹脂テープの外周に密着している。第1の樹脂と第2の樹脂は互いに一体化していることが好ましい。
【0021】
第1の樹脂は、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂組成物である。この樹脂組成物を、以下、「軟質PMMA樹脂組成物」とも記載する。デュロメータタイプA硬度は、JIS-K-6253-1997に準拠して測定した硬度である。このような軟質PMMA樹脂組成物としては、PMMA樹脂にアクリル系ゴムを混合した樹脂組成物や、PMMA樹脂の分子にゴム成分を加えた樹脂組成物などが例示される。軟質PMMA樹脂組成物には、他の樹脂や添加材等が混合されていてもよい。軟質PMMA樹脂組成物の主体となる樹脂材料としては、例えば、株式会社クラレから「パラペット(商標登録)SA」との製品名で販売されている軟質アクリル樹脂が使用できる。
【0022】
第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)を含むことが好ましい。EVA樹脂を含ませると、第1の樹脂の柔軟性や強度を高めつつ、帯電抑制性能が変化しにくい。
【0023】
第2の樹脂は、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル(PVC)樹脂組成物である。この樹脂組成物を、以下、「可塑剤を含むPVC樹脂組成物」とも記載する。可塑剤を含むPVC樹脂組成物には、各種添加材等が混合されていてもよい。
【0024】
第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物に含まれる可塑剤としては、種々の塩化ビニル樹脂用の可塑剤が単独もしくは併用して使用できる。中でも、可塑剤が、トリオクチルトリメリテート(TOTM)もしくはフタル酸ジイソノニル(DINP)を含むことが好ましい。
【0025】
上記第1の樹脂と第2の樹脂は、帯電列の順位が異なる。
ここで、帯電列とは、種類の異なる固体と固体とをこすり合わせた際に、どちらがプラスに帯電し、どちらがマイナスに帯電しやすいか、という帯電の傾向順に物質や材料を並べた序列のことである。MIL-HDBK-263Bの付録Aなどに、大まかな序列が示されている。MIL-263Bの付録Aの序列を図5に示す。ホースに使用する材料と搬送される材料の間の帯電性の序列は、それら材料を接触させてこすり合わせ、それぞれの材料がどちらの極性(+か-か)に帯電するかを調べることにより明らかにすることができる。
【0026】
MIL-HDBK-263Bの帯電列に示されているように、樹脂材料の種類により、大まかな帯電列の傾向が現れる。固体の樹脂材料を例にすれば、プラスに帯電しやすいものから、ポリアミド樹脂(ナイロン)、硬質ゴム、アセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂という序列が現れやすい。すなわち、この序列によれば、樹脂同士がこすり合わされる場合、ポリアミド樹脂が一番プラスに帯電しやすく、フッ素樹脂が一番マイナスに帯電しやすい。樹脂と他の物質がこすり合わされる場合には、他の物質や材料は、こうした樹脂の帯電列のどこかに位置づけられる。例えば、図5のMIL-HDBK-263Bの帯電列に示されているように、木材や紙は、ポリアミド樹脂とポリウレタン樹脂の間に位置づけられる。
【0027】
後述するように、上記樹脂製ホースを使用して搬送される粉体や粒状体への帯電の抑制を図る場合には、帯電列の順位で並べた際に、粉体または粒状体を構成する材料が第1の樹脂と第2の樹脂の間に位置するように、これら材料の選択を行う。これにより、搬送される粉体や粒状体(紙片、木粉や樹脂ペレット等)への帯電が抑制される。
【0028】
上記樹脂製ホースの製造は、従来公知のホース製造方法を応用して製造できる。以下にその一例を例示する。図4に、第1実施形態の樹脂製ホース1の製造方法を模式図で示す。帯状体や線材を巻き付けながら回転送り動作が可能なように構成されたホース成型軸SFTを有するホース製造装置9を準備する。なお、この装置は公知のものでよい。所定のホース断面が得られるように、所定の断面形状を有する帯状体T1を、第1の樹脂と第2の樹脂を共押出して、半溶融状態でホース成型軸SFTに供給する。帯状体T1はホース成型軸上でらせん状に捲回され、帯状体T1の両端縁が互いに融着して、円筒状のホース壁11が形成される。さらに、補強体12となるべき樹脂を、所定の断面の線状に押出して線材T2とし、半溶融状態でホース成型軸SFTに供給する。線材T2は、ホース壁11の外周面上でらせん状に捲回され、ホース壁に融着一体化して、補強体12となる。その後ホース壁11や補強体12を冷却してホースの形状を固定する。これら一連の工程をホース成型軸上で連続的に行うことにより、不定長の樹脂製ホース1を連続的に成形できる。
【0029】
上記樹脂製ホースの帯電抑制効果について説明する。
上記樹脂製ホースを使用して搬送される粉体や粒状体への帯電の抑制を図る場合には、帯電列の順位で並べた際に、粉体または粒状体を構成する材料が、帯電列で第1の樹脂(軟質PMMA樹脂組成物)と第2の樹脂(可塑剤を含むPVC樹脂組成物)の間に位置するように、これら材料の選択を行えばよい。これにより、搬送された粉体や粒状体への帯電が抑制される。
【0030】
表1に、上記第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物や、上記第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物に対し、他の樹脂材料を接触させた際の、樹脂材料の帯電状態を測定した結果を示す。
【0031】
なお、帯電状態の測定試験は以下のように行われた。
各材料によって、厚さ1mm、12cm四方のプレスシートを作成する。
表1の縦軸のサンプル(例えばPP)と、横軸のサンプル(例えば軟質PMMA)を選択し、それぞれ、イオナイザー(除電器)にかけて除電し、静電電位測定機によって電位がゼロになったことを確認する。
選択され、除電された2つのサンプルを、互いに密着するように重ね合わせて、引きはがす。引きはがした後の縦軸のサンプル(例えばPP)のシート表面の電位を静電電位測定機によって測定する。
【0032】
【表1】
【0033】
表1において、「軟質PMMA」とは軟質PMMA樹脂組成物であり、具体的には、株式会社クラレの「パラペット(商標登録)SA-CW001」であり、その硬度は60度Aである。
表1において、「軟質PMMA+EVA」とは軟質PMMA樹脂組成物であり、具体的には、株式会社クラレの「パラペット(商標登録)SA-CW001」70重量部に対し、EVA樹脂(東ソー株式会社のウルトラセン YX11)を30重量部混合した樹脂組成物であり、その硬度は70度Aである。
【0034】
表1において、「軟質PVC(DINP)」とは可塑剤を含むPVC樹脂組成物であり、具体的には、重合度1300の塩化ビニル樹脂100重量部に対しDINPを90重量部配合した樹脂組成物であり、その硬度は63度Aである。
【0035】
表1において、「PE」とはポリエチレン樹脂のことであり、具体的には東ソ-株式会社のペトロセン360である。
表1において、「PP」とはポリプロピレン樹脂のことであり、具体的には住友化学株式会社の住友ノーブレンAD571である。
表1において、「硬質PVC」とは可塑剤を含まない硬質塩化ビニル樹脂のことであり、具体的にはサン・アロー化成株式会社のSE-4000である。
表1において、「ABS」とはアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂のことであり、具体的にはデンカ株式会社のGR-2000である。
表1において、「PA」とはポリアミド樹脂のことであり、具体的には旭化成株式会社のレオナ 1300Sである。
表1において、「PA(GF)」とはガラス繊維入りポリアミド樹脂のことであり、具体的にはDuPont株式会社のZytel 70G33である。
表1において、「硬質アクリル」とは硬質ポリアクリル樹脂のことであり、具体的には株式会社クラレのパラペット HR-Lである。
表1において、「POM」とはポリオキシメチレン樹脂のことであり、具体的には旭化成株式会社のテナック 7050である。
表1において、「PC」とはポリカーボネート樹脂のことであり、具体的には三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のユーピロン S-2000である。
表1において、「PBT」とはポリブチレンテレフタレート樹脂のことであり、具体的にはポリプラスチクス株式会社のDURANEX 2002である。
表1において、「PPS」とはポリフェニルスルファイド樹脂のことであり、具体的にはDIC株式会社のFZ-2100である。
【0036】
表1に示されるように、例えば、ポリエチレン樹脂(PE)は、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物と接触しこすれあうことにより、マイナス(-)に帯電する。また、ポリエチレン樹脂(PE)は、第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物と接触しこすれあうことにより、プラス(+)に帯電する。可塑剤を含むPVC樹脂組成物に含まれる可塑剤がTOTMである場合にも、同様の帯電傾向が現れた。
表1の縦軸に示された他の樹脂(PP、硬質PVC、ABS、PA、PA(GF)、硬質アクリル、POM、PC、PBT、PPS)も、いずれも、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物と接触しこすれあうことにより、マイナス(-)に帯電し、第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物と接触しこすれあうことにより、プラス(+)に」帯電する。なお、表1における帯電圧の単位はkVである。
【0037】
搬送される粒状体はホース内で流動し、ホース内周面に接触し、こすれて静電気を生じうる。上記実施形態の樹脂製ホースによれば、搬送される粒状体(例えばPE樹脂)がホース内周面に露出した第1の樹脂にこすれあう場面では、帯電列の順位から、搬送される粒状体はマイナスに帯電する傾向を示す。一方、搬送される粒状体(例えばPE樹脂)がホース内周面に露出した第2の樹脂にこすれあう場面では、帯電列の順位から、搬送される粒状体はプラスに帯電する傾向を示す。
【0038】
ホース内周面には第1の樹脂と第2の樹脂の双方が露出しているので、搬送される粒状体は両方の樹脂に接触しこすれあうこととなる。そして、第1の樹脂に接触した際と、第2の樹脂に接触した際とで、搬送される粒状体が帯電する傾向がプラスマイナス逆であるため、搬送される粒状体に一方の極性の電荷が集積することが抑制され、帯電が抑制される。このような効果を得るためには、帯電列の順位で並べた際に、粉体または粒状体を構成する材料が第1の樹脂と第2の樹脂の間に位置するようにすればよい。
【0039】
また、上記実施形態の樹脂製ホースでは、第1の樹脂が、デュロメータタイプA硬度が50度~90度のポリメチルメタクリレート樹脂組成物であり、第2の樹脂が、可塑剤を含むデュロメータタイプA硬度が50度~90度の塩化ビニル樹脂組成物であるため、表1に示されたような多様な樹脂材料に関し、搬送される樹脂ペレットの帯電を抑制できる。
即ち、上記実施形態の樹脂製ホースは、少なくとも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、可塑剤を含まない硬質塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ガラス繊維入りポリアミド樹脂、硬質ポリアクリル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニルスルファイド樹脂について、搬送される樹脂ペレットの帯電を抑制できる。
【0040】
中でも、上記実施形態の樹脂製ホースでは、粉体または粒状体(樹脂ペレット)を構成する材料がポリアミド樹脂であっても、搬送される樹脂ペレットの帯電を抑制できる。発明者らは、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物とポリアミド樹脂が接触してこすれあうと、ポリアミド樹脂がマイナスに帯電する傾向があることを発見した(表1のPAの欄)。この発見は図5のMILの帯電列の序列とは逆の傾向である。すなわち、上記実施形態の樹脂製ホースによりポリアミド樹脂の樹脂ペレットを搬送する際の帯電抑制効果は、およそ予測できない効果である。
【0041】
また、上記実施形態の樹脂製ホースでは、粉体または粒状体(樹脂ペレット)を構成する材料が可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物、いわゆる硬質塩化ビニル樹脂であっても、搬送される樹脂ペレットの帯電を抑制できる。発明者らは、第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物と、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物が接触してこすれあうと、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物がプラスに帯電する傾向があることを発見した(表1の硬質PVCの欄)。この発見は図5のMILの帯電列の序列には見られない傾向である。すなわち、上記実施形態の樹脂製ホースにより、可塑剤を含まない塩化ビニル樹脂組成物の樹脂ペレットを搬送する際の帯電抑制効果は、およそ予測できない効果である。
【0042】
また、上記実施形態の樹脂製ホースでは、第1の樹脂も、第2の樹脂も、その硬度が、デュロメータタイプA硬度で50度~90度とされているため、これら樹脂により構成されるホース壁が柔軟性に富んだものとなり、ホースの可撓性が損なわれにくく、ホースが柔軟なものとなる。
【0043】
また、第2の樹脂である可塑剤を含むPVC樹脂組成物が、可塑剤にトリオクチルトリメリテート(TOTM)もしくはフタル酸ジイソノニル(DINP)を含むと、第2の樹脂の硬度を下げやすく、ホースの柔軟性をより高めることができる。
【0044】
また、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物が、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)を含むようにすれば、第1の樹脂の強度や伸びを改善できる。また、表1にも示したように、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物にEVA樹脂を含むようにしても、こすれあう対象の樹脂(PE、PP、硬質PVC、等)の帯電の傾向は、いずれもマイナス(-)のままであり、変化しない。すなわち、第1の樹脂である軟質PMMA樹脂組成物が、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)を含むようにすると、帯電抑制効果のある樹脂の種類を減らすことなく、柔軟性に富むホースの強度を高められる。
【0045】
また、第1の樹脂および第2の樹脂が、ホース内周面でそれぞれらせん状に露出しているのであれば、ホース内部で粉体や粒状体が搬送される際には、これら粉体や粒状体が第1の樹脂や第2の樹脂の双方にまんべんなく接触でき、帯電抑制効果がより高くなる。
【0046】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0047】
ホース壁の具体的構成は、例示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態としてもよい。例えば、ホース壁の構成を以下のような構成としてもよい。図2には、樹脂製ホースのホース壁部分を、ホース中心軸を含む平面で切った断面図を示しており、図の下側がホース内周側である。
【0048】
ホース壁の構造は、図2(a)に示す構造のように、第1の樹脂で構成される樹脂の帯状体15aが、約半分がホース内周面に露出しつつ、第1の樹脂の帯状体15aの残り半分が、第2の樹脂で構成される樹脂15bの間に挟み込まれるように構成されていてもよい。このような構成は、上述したホース成型法を応用して製造できる。このような構成であっても、同様に、搬送される粒状体への帯電を抑制しうる。
【0049】
ホース壁の構造は、図2(b)に示す構造のように、第1の樹脂で構成される樹脂の帯状体16aと、第2の樹脂で構成される樹脂の帯状体16bとが、ホース内周面に交互にらせん状に巻かれていて、これら樹脂の帯状体16a、16bを覆うように第3の樹脂によって円筒状の外層16cが形成された構造となっていてもよい。第1の樹脂の帯状体16aと、第2の樹脂の帯状体16bとは、それぞれ、第3の樹脂の外層16cの内周面に接合一体化されている。このような構成のホース壁は、上述したホース成型法を応用して製造できる。このような構成であっても、同様に、搬送される粒状体への帯電を抑制しうる。
【0050】
ホース壁の構造は、図2(c)に示す構造のように、第1の樹脂で構成される樹脂の帯状体17aと第2の樹脂で構成される樹脂の帯状体17bとが、交互にらせん状に並んで巻かれており、第1の樹脂の帯状体17aと、第2の樹脂の帯状体17bが、互いの側縁部同士で接合一体化されて形成されたものであってもよい。このような構成は、上述したホース成型法を応用して製造できる。このような構成であっても、同様に、搬送される粒状体への帯電を抑制しうる。
【0051】
また、上記実施形態の説明では、2種類の樹脂がホース内周面に露出する形態を説明したが、ホース内周面に3種類以上の樹脂が露出するようにしてもよい。この場合、少なくとも2種の樹脂が、上記第1の樹脂および第2の樹脂となるように選択すれば、同様に、搬送される粉体や粒状体の帯電抑制効果が得られる。
【0052】
また、ホース壁の内周面は、好ましくは平滑な円筒状に形成されるが、多少の凹凸やギャップなどがホース内周面に存在する内周面形状のものであってもよい。被搬送体の帯電を抑制するためには、搬送される粉体や粒状体が、第1の樹脂にも、第2の樹脂にも接触するようになっていればよい。第1の樹脂の部分と、第2の樹脂の部分が、ホース半径方向に実質的に同じ高さとなるようにされていることが好ましい。第1の樹脂の部分と、第2の樹脂の部分との間で、ホース半径方向に段差がある場合には、段差の大きさが、第1の樹脂の部分や第2の樹脂の部分の幅(これら部分のホース軸方向の長さ)の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。
【0053】
なお、ホースを構成する材料の接合一体化の手段は特に限定されず、溶着や接着、機械的係合、埋入、など、ホースの構造や材料の特性に応じて選択すればよい。また、ホースを構成する材料には、ホースへの成型一体化が可能であれば、熱硬化性樹脂、例えば合成ゴムなどが含まれていてもよい。
【0054】
図3には、ホース壁の内周面において、第1の樹脂材料が露出する部分と、第2の樹脂材料が露出する部分のパターンを模式的に示している。なお、図3では、ホース内周面のみを示している。図1に示した実施形態では、第1の樹脂材料が露出する部分14aと、第2の樹脂材料が露出する部分14bは、らせん状に設けられていた。図3(a)のように、第1の樹脂材料が露出する部分18a,18aと、第2の樹脂材料が露出する部分18b,18bとが、それぞれリング状に形成され、ホース長さ方向に交互に並ぶように設けられていてもよい。この形態も、らせん状形態と同じく、樹脂ペレットなどが搬送される際、ホース内周面に露出する2種の樹脂に、搬送されるペレットなどが交互に接触しやすくなり、帯電防止効果に優れている。
【0055】
図3(b)のように、第1の樹脂材料が露出する部分19aと、第2の樹脂材料が露出する部分19bとが、それぞれホース長さ方向に沿った直線状に形成され、ホース周方向に交互に並ぶように設けられていてもよい。この形態は、円筒状のホース壁の内周部分を直接押出成形する場合に有用である。
【0056】
例示した第1実施形態の樹脂製ホース1は、補強体を備えるものであったが、補強体は必須ではない。すなわち、樹脂製ホースは、補強体を有しないチューブ状であってもよい。また、樹脂製ホースに他の構成部材を備えさせてもよい。たとえば、樹脂製ホースは、他の層、例えば補強繊維などを含む補強層を有していてもよい。また、樹脂製ホースは、ホース壁や補強体のほかに、導電体(金属線など)を有していてもよい。また、樹脂製ホースは、樹脂以外の材料、例えば、補強繊維や繊維メッシュ、金属箔、金属線、金属メッシュなどを含んでいてもよい。
【0057】
また、樹脂製ホースの一部もしくは全体に、導電性を付与してもよい。導電性の付与は、例えば、ホース壁表面もしくは内部や、補強体の表面もしくは内部に、金属線や金属メッシュを配置することによりなされうる。あるいは、ホースの一部を構成する樹脂材料に、金属粉や導電性カーボンなどを練りこんで導電性を付与してもよい。
【0058】
なお、上記した樹脂製ホースは、粉体や粒状体の搬送に使用できるが、他の用途、例えば、気体や液体の搬送に使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記樹脂製ホースや樹脂製ホースを用いた帯電防止方法は、例えば粉体や粒状体(樹脂ペレットなと)の搬送に使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0060】
1 樹脂製ホース
11 ホース壁
14a 第1樹脂が露出する部分
14b 第2樹脂が露出する部分
12 補強体
9 ホース製造装置
SFT ホース製造軸
T1 ホース壁となる帯状体
T2 補強体となる線材
図1
図2
図3
図4
図5