(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】歯牙の再石灰化を促進できる口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20230814BHJP
A61K 33/16 20060101ALI20230814BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230814BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20230814BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230814BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230814BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230814BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230814BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20230814BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230814BHJP
A61K 31/191 20060101ALI20230814BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20230814BHJP
A61K 31/7024 20060101ALI20230814BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230814BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20230814BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20230814BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K33/16
A61K38/02
A61K8/21
A61K8/64
A61Q11/00
A61P43/00 121
A61P1/02
A61K8/365
A61K8/60
A61K31/191
A61K31/19
A61K31/7024
A23L33/10
A23L33/17
A23L33/16
(21)【出願番号】P 2019506262
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010217
(87)【国際公開番号】W WO2018168997
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017051816
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】田中 智子
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】朝熊 弘樹
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061932(WO,A1)
【文献】特開2002-325556(JP,A)
【文献】特表2011-515332(JP,A)
【文献】特表2011-511091(JP,A)
【文献】特開2002-255773(JP,A)
【文献】Tooth Brushing Gel for Babies,ID 1947152,Mintel GNPD[online],2012年12月,[検索日2022.06.06],インターネット<https://www.portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L33/00
A61K31/191
A61K31/7024
A61K33/16
A61K38/04
A61K38/16
A61P 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
リン酸化糖カルシウム塩、(B)
フッ化ナトリウム、並びに(C)
ε-ポリリジン、α-ポリリジン、ポリアルギニン、及びプロタミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、口腔用組成物(但し、前記
(C)成分を開裂して塩基性アミノ酸を遊離させるプロテアーゼを含む場合を除く)。
【請求項2】
前記リン酸化糖カルシウム塩の糖部分が、グルカン又は還元グルカンである、請求項
1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
前記リン酸化糖カルシウム塩の糖部分の重合度が2~10である、請求項
1又は
2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
前記リン酸化糖カルシウム塩において、1分子当たりのリン酸の数が1又は2である、請求項
1~3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が、ε-ポリリジン、α-ポリリジン、及びプロタミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~
4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
歯牙の再石灰化の促進用途に使用される、請求項1~
5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項7】
飲食品である、請求項1~
6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項8】
オーラルケア製品である、請求項1~
6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項9】
医薬品である、請求項1~
6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項10】
(A)
リン酸化糖カルシウム塩、(B)
フッ化ナトリウム、並びに(C)
ε-ポリリジン、α-ポリリジン、ポリアルギニン、及びプロタミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む組成物(但し、前記
(C)成分を開裂して塩基性アミノ酸を遊離させるプロテアーゼを含む場合を除く)の、口腔用組成物の製造のための使用。
【請求項11】
前記口腔用組成物が、歯牙の再石灰化の促進に使用される口腔用組成物である、請求項
10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙の再石灰化を促進でき、抗齲蝕用途に有用な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙は、カルシウムとリン酸と水酸基で構成されるハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)が主成分となって形成されている。歯牙は、エナメル小柱というハイドロキシアパタイトの六角柱状結晶の集合体が一定方向に並んだ、緻密な構造をもつエナメル質で表面が覆われている。この構造によって、歯牙の硬度は水晶と同程度であり、生体内で最も硬い組織となっている。しかしながら、ハイドロキシアパタイトは化学的には酸に侵される性質があり、臨界pH(通常はpH5.5)以下になるとエナメル質が溶け、カルシウムとリン酸が溶出する可能性がある。
【0003】
ヒトが糖質を摂取すると、ストレプトコッカス・ミュータンス等の口腔内の齲蝕原因菌が糖質を資化して、酸を産生する。また、ショ糖からはこれら細菌のグルコシルトランスフェラーゼの働きにより、α(1→3)結合をもつ不溶性のグルカンが形成され、バイオフィルムが形成される。これがネバネバとした細菌の塊、プラーク(歯垢)である。プラークに糖質が供給され、酸が産生され続けると、エナメル質が溶けて、脱灰の状態になる。このときエナメル質では、表面を残したまま200μm程度までの深さの範囲のハイドロキシアパタイト密度が減り、スカスカの構造が形成される(表層下脱灰)。更に、酸による侵食が進むと、表面が崩壊し、最終的にエナメル質表面に穴の開いた状態となる。現在では、この状態に至って初めて齲蝕(う窩形成齲蝕)と呼んでおり、外科的治療が必要なステージと捉えられている。一方、表層下脱灰の状態(初期むし歯、初期齲蝕)では、外科的な処置を行わずとも、唾液の作用により可逆的に回復することが知られている。これを再石灰化と呼んでいる。従って、口腔内での脱灰と再石灰化のバランスがとれていて、初期むし歯の状態で速やかに再石灰化が起こる状態であれば、歯科治療が必要なむし歯に進行せず、初期むし歯を元の健康な状態に回復させることができる。
【0004】
唾液による歯牙の再石灰化は、唾液に含まれるカルシウムとリン酸が表層下脱灰部位に補給されることによって行われている。但し、刺激唾液中のカルシウムとリンの比率(Ca/Pモル比)は0.4であり、歯牙の構成成分であるハイドロキシアパタイトのCa/Pモル比1.67に比べてカルシウム不足となっている。そのため、食生活や衛生習慣等から口腔内が脱灰に傾きがちになると、唾液によるカルシウムとリン酸の補給だけでは脱灰に打ち勝つだけの再石灰化が得られず、徐々にむし歯が進行するようになる。
【0005】
歯牙の再石灰化の促進には、唾液のCa/Pモル比をハイドロキシアパタイトのCa/Pモル比に近づけるように唾液にカルシウムを補給することが有効であることが知られており、従来、水溶性カルシウムを配合した歯牙の再石灰化用の口腔用組成物が種々提案されている。例えば、特許文献1及び2には、リン酸カルシウムを含む口腔用組成物が、歯牙の再石灰化を促進できることが開示されている。また、特許文献3には、リン酸化糖カルシウム塩は、歯牙の再石灰化を促進する作用に加えて、腔内細菌が産生する酸によるpH低下を抑制する作用、及び口腔内細菌が作る不溶性グルカンの形成を抑制する作用があり、抗齲蝕用の飲食品組成物に使用できることが開示されている。
【0006】
一方、歯科分野において、歯牙を健全な状態に維持させるために、フッ素が広く使用されている。ハイドロキシアパタイトの水酸基の一部若しくは全てがフッ素化されると、アパタイトが硬くなり、歯牙の硬度を改善できることが知られている。フッ化物、特に高濃度のフッ化物を作用させると、歯の表面にフッ化カルシウム様の物質を形成し、歯面を被覆することで、耐酸性効果が得られることが知られている。しかし、この被覆によって唾液から歯へのカルシウム・リン酸の補給路が遮断され、さらなる再石灰化を阻害することもある。また、ハイドロキシアパタイトのフッ素化で生じるフッ化アパタイトは、ハイドロキシアパタイトよりも低い臨界pHをもつため、歯牙そのものに耐酸性を備えさせ得ることも知られている。そこで、従来、水溶性カルシウム塩の再石灰化効果とフッ素の歯質改善効果を併せ持つ口腔用組成物についても報告されている。具体的には、特許文献4には、リン酸化糖カルシウム塩、フッ化物、及びポリフェノールを含み、口腔内の唾液中でこれらの成分が所定の濃度となるように配合されている食品は、フッ化カルシウムの沈殿と被覆を生じさせることなく、高い再石灰化効果と歯質改善効果を両立できることが開示されている。
【0007】
また、リジンやアルギニン等の塩基性アミノ酸、塩基性ペプチド、及び塩基性タンパク質等を歯牙の健全化の用途に使用できることも知られている。例えば、特許文献5には、ε-ポリリジンには抗齲蝕作用及び抗歯周病作用があることが開示されている。また、特許文献6には、塩基性ペプチド、フッ素化合物、及び糖アルコールを含む口腔用組成物は、口腔内細菌の酸産生によるpH低下を抑制し、齲蝕予防に有効であることが開示されている。また、特許文献7には、基性アミノ酸と、配合物の少なくとも約5重量%を構成する約5μm未満のd50を有する粒子の画分と、可溶性フッ化物塩を含む口腔ケア組成物が開示されており、フッ化物と塩基性アミノ酸の組み合わせは、再石灰化を促進することが開示されている。しかしながら、従来、塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質に、歯牙の再石灰化を促進させる作用があることについては報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-310513号公報
【文献】特開平11-228369号公報
【文献】特開2002-325557号公報
【文献】国際公開第2010/61932号
【文献】特開平5-310544号公報
【文献】特開2002-255773号公報
【文献】特表2011-511066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
歯牙の再石灰化を促進させる従来の口腔用組成物では、効果が不十分であったり、効果発現に口腔内で長時間滞留させることが必要であったりするため、更なる改善の余地がある。また、近年、消費者の健康意識の高まりを受けて、口腔用組成物に対する要求性能が益々向上している。このような背景の下、口腔内で短時間滞留させるだけでも、歯牙の再石灰化の促進効果が認められる口腔用組成物の開発が切望されている。
【0010】
そこで、本発明は、優れた歯牙の再石灰化の促進効果を有し、口腔内で短時間滞留させるだけでも、歯牙の再石灰化を効果的に促進できる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、フッ化物、塩基性ペプチド、及び塩基性タンパク質は、単独では、歯牙の再石灰化を促進する作用がないにも拘らず、(A)有機酸カルシウム塩、(B)フッ化物、並びに(C)構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を組み合わせて配合した口腔用組成物は、これらの成分の相乗効果によって歯牙の再石灰化を飛躍的に促進でき、口腔内で短時間滞留させるだけでも、歯牙の再石灰化を効果的に促進できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)有機酸カルシウム塩、(B)フッ化物、並びに(C)構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を含む、口腔用組成物。
項2. 前記(A)成分が、リン酸化糖カルシウム塩、乳酸カルシウム、及びグルコン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の口腔用組成物。
項3. 前記(A)成分が、リン酸化糖カルシウム塩である、項1又は2に記載の口腔用組成物。
項4. 前記リン酸化糖カルシウム塩の糖部分が、グルカン又は還元グルカンである、項3に記載の口腔用組成物。
項5. 前記リン酸化糖カルシウム塩の糖部分の重合度が2~10である、項3又は4に記載の口腔用組成物。
項6. 前記リン酸化糖カルシウム塩において、1分子当たりのリン酸の数が1又は2である、項3又は4に記載の口腔用組成物。
項7. 前記(C)成分が、ε-ポリリジン、α-ポリリジン、及びプロタミンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~6のいずれかに記載の口腔用組成物。
項8. 歯牙の再石灰化の促進用途に使用される、項1~7のいずれかに記載の口腔用組成物。
項9. 飲食品である、項1~8のいずれかに記載の口腔用組成物。
項10. オーラルケア製品である、項1~8のいずれかに記載の口腔用組成物。
項11. 医薬品である、項1~8のいずれかに記載の口腔用組成物。
項12. (A)有機酸カルシウム塩、(B)フッ化物、並びに(C)構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を含む組成物の、口腔用組成物の製造のための使用。
項13. 前記口腔用組成物が、歯牙の再石灰化の促進に使用される口腔用組成物である、項12に記載の使用。
項14. (A)有機酸カルシウム塩、(B)フッ化物、並びに(C)構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を含む口腔用組成物を、歯牙の再石灰化の促進が求められる者に経口投与又は摂取させる、歯牙の再石灰化の促進方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の口腔用組成物によれば、(A)有機酸カルシウム塩と、(B)フッ化物と、(C)構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質との相乗効果によって、歯牙の再石灰化を飛躍的に促進することができるので、齲蝕の予防、初期齲蝕の改善等の抗齲蝕用途に好適に使用できる。
【0014】
更に、本発明の口腔用組成物は、口腔内で短時間滞留させるだけでも、歯牙の再石灰化を効果的に促進できるので、口腔内での滞留時間を短くしたり、口腔内での滞留時間が比較的少ない食品(例えば、タブレット等)として提供したりしても、歯牙の再石灰化を効果的に促進することができる。
【0015】
また、有機酸カルシウム塩の内、リン酸化糖カルシウム塩は、比較的高コストであるが、本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化の促進効果が格段に優れているため、リン酸化糖カルシウム塩の使用量を低減して低コスト化を図っても、十分な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】試験例1において、実施例1及び比較例6の再石灰化処理液での処理前後のエナメル質歯片の深さ毎のミネラル分布(ミネラルプロファイル)を測定した結果である。
【
図2】試験例2において、実施例11のタブレットを摂取させたin situ試験において、エナメル質歯片の深さ毎のミネラル分布(ミネラルプロファイル)を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の口腔用組成物は、有機酸カルシウム塩(以下、(A)成分と表記することもある)、フッ化物(以下、(B)成分と表記することもある)、並びに構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質(以下、(C)成分と表記することもある)を含むことを特徴とする。以下、本発明の口腔用組成物について詳述する。
【0018】
定義
本発明において、「口腔用組成物」とは、口腔内に適用される組成物を指し、飲食品、オーラルケア製品、及び医薬品が包含される。また、「飲食品」とは、食品と飲料の双方を含む概念である。「オーラルケア製品」とは、口腔内に適用され、嚥下されない製品である。
【0019】
(A)水溶性の有機酸カルシウム塩
[(A)成分の種類]
本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化に必要とされるカルシウム源として、有機酸カルシウム塩を含む。有機酸カルシウム塩は、単独でも、歯牙の再石灰化促進作用を示すが、本発明の口腔用組成物では、有機酸カルシウム塩と共に後述する(B)成分及び(C)成分を併用することによって、これらの成分の相乗効果により、歯牙の再石灰化促進作用を飛躍的に向上させることができる。
【0020】
本発明で使用される有機酸カルシウム塩の種類については、口腔内への適用に安全上の問題がないもの又は可食性のものであることを限度として特に制限されないが、口腔内の唾液中にカルシウムイオンを補給できるように水溶性であることが好ましい。
【0021】
本発明で使用される有機酸カルシウム塩として、具体的には、リン酸化糖カルシウム塩、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グルコース-1-リン酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、ラクトビオン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、カゼインホスホペプチド-アモルファスカルシウムホスフェート(CPP-ACP)、等が挙げられる。これらの有機酸カルシウム塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
これらの有機酸カルシウム塩の中でも、歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、好ましくはリン酸化糖カルシウム塩、乳酸カルシウム、及びグルコン酸カルシウム、更に好ましくはリン酸化糖カルシウム塩が挙げられる。なお、本発明において、有機酸カルシウム塩として好適に使用されるリン酸化カルシウム塩の詳細については後述する。
【0023】
[(A)成分として好適に使用されるリン酸化糖カルシウム塩]
「リン酸化糖カルシウム塩」とは、分子内に少なくとも1個のリン酸基を有する糖のカルシウム塩である。
【0024】
本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩の糖部分の重合度(単糖の数)については、特に制限されないが、例えば、2~100、好ましくは2~90、更に好ましくは2~80、特に好ましくは2~70、2~60、2~50、又は2~40が挙げられる。当該重合度の特に好適な例として、2~30又は2~20が挙げられる。とりわけ、本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩は、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩であることが好ましく、当該リン酸化オリゴ糖カルシウム塩の糖部分の重合度として、具体的には、2~10、2~9、2~8、2~7、又は2~6が挙げられ、特に好ましくは2~5、最も好ましくは3~5が挙げられる。
【0025】
本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩を構成する糖部分の種類については、特に制限されないが、例えば、グルカン、還元グルカン、キシログルカン、フルクタン、マンナン、デキストラン、寒天、シクロデキストリン、フコイダン、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、グルカン又は還元グルカンが挙げられる。ここで、還元グルカンとは、グルカンの還元末端のアルデヒドがアルコールに還元されたものをいう。還元グルカンは、例えば、グルカンに水素添加してアルデヒドをアルコールに還元することによって得ることができる。糖部分を構成するグルカン又は還元グルカンは、グルコースがα-1,4結合によって連結した直鎖構造であってもよく、グルコースがα-1,4結合によって連結した主鎖にα-1,6による分岐構造を有していてもよい。糖部分を構成するグルカン又は還元グルカンとして、好ましくはα-1,4結合によって連結した直鎖構造が挙げられる。
【0026】
リン酸化糖カルシウム塩では、リン酸基は糖の水酸基にリン酸エステル結合によって結合している。本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩において、リン酸基の結合部位については、特に制限されず、糖のグリコシド結合していない水酸基のいずれか少なくとも1つにリン酸基が結合していればよいが、好ましくは、糖の3位及び6位に存在する水酸基のいずれか少なくとも1つにリン酸基が結合している態様が挙げられる。
【0027】
本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩において、1分子当たりのリン酸基の数については、特に制限されないが、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、更に好ましくは1~3個、特に好ましくは1個又は2個が挙げられる。
【0028】
リン酸化糖カルシウム塩は、リン酸化糖のリン酸基にカルシウムがイオン結合しているリン酸化糖の無機塩である。本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩において、1分子当たりのカルシウム原子の数については、特に制限されず、リン酸化糖中に存在するリン酸基のすべてにカルシウム原子が結合してもよく、またリン酸基の一部のみにカルシウム原子が結合してもよい。リン酸化糖カルシウム塩1分子当たりのカルシウム原子の数として、具体的には1~20個、好ましくは1~5個、更に好ましくは1~3個、特に好ましくは1個又は2個が挙げられる。
【0029】
本発明で使用されるリン酸化糖カルシウム塩の分子量については、特に制限されないが、例えば、400~100万、好ましくは500~10万、更に好ましくは600~1万が挙げられる。当該分子量のより好適な範囲として、700~9000、700~8000、700~7000、700~6000、700~5000、700~4000、又は700~3000が挙げられ、特に好ましくは700~2000、最も好ましくは700~1000が挙げられる。
【0030】
本発明の口腔用組成物では、(A)成分として、1種の構造のリン酸化糖カルシウム塩を単独で使用してもよく、また、2種以上の構造のリン酸化糖カルシウム塩を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
リン酸化糖カルシウム塩は、公知の糖類をリン酸化して酸の形態のリン酸化糖を得て、その後、酸の形態のリン酸化糖をカルシウム塩とすることにより得ることができる。リン酸化糖カルシウム塩の製造方法は、詳細には、特開平8-104696号公報、特開2002-325557号公報等に開示されており、当該公報に記載の方法に従って、リン酸化糖カルシウム塩を得ることができる。また、リン酸化糖カルシウム塩は、江崎グリコ株式会社、王子コーンスターチ株式会社等から市販されており、市販品を入手して使用することもできる。また、リン酸化糖カルシウム塩の検出方法についても、例えば、特開2002-325557号公報等に開示されており、公知である。
【0032】
[(A)成分の含有量]
本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量については、当該口腔用組成物の形態、使用する(A)成分の種類等に応じて異なるが、口腔内に適用した際の口腔内の唾液中のCa/Pモル比が1.0~2.0程度、好ましくはハイドロキシアパタイトのCa/Pモル比1.67程度になるように設定すればよい。
【0033】
本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量の好適な態様として、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のカルシウム濃度が1.5~20mMとなるのに適切な量が挙げられる。歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量として、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは1.5~20mM、更に好ましくは2~10mM、特に好ましくは3~8mMとなるのに適切な量に設定することが挙げられる。ここで、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のカルシウム濃度がX mMとなるのに適切な量とは、口腔用組成物を喫食又は使用した際に、喫食中、使用中、喫食後、又は使用後の口腔内の唾液におけるカルシウム濃度がX mMに到達できる量をいう。口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のカルシウム濃度については、唾液を回収し、唾液中のカルシウム濃度を測定することによって求めることができる。ここで、唾液とは、口腔腺から分泌される純粋な唾液ではなく、口腔用組成物を喫食中又は使用中、或は口腔用組成物の喫食後又は使用後に口腔内にたまる液体を指す。人間の唾液は1分間で平均1mL分泌されるので、唾液の分泌量、口腔用組成物の1回当たりの喫食量又は使用量、並びに口腔用組成物の喫食時間又は使用時間を勘案することにより、口腔内に存在する際に口腔内の唾液中のカルシウム濃度が前記範囲を充足するように、(A)成分の含有量を設定することは、当業者であれば容易に為し得る。
【0034】
本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量として、具体的には、カルシウム含量換算で0.001~20重量%、好ましくは0.01~5重量%、更に好ましくは0.02~1重量%が挙げられる。本発明において、(A)成分の含有量に関し、カルシウム含量換算とは、含有する有機酸カルシウム塩に含まれるカルシウム原子の重量に換算して算出される(A)成分の含有量を指す。
【0035】
より具体的には、本発明の口腔用組成物の形態毎の(A)成分の含有量として、以下の範囲が挙げられる。
本発明の口腔用組成物が食品形態の場合:(A)成分の含有量として、カルシウム含量換算で0.001~10重量%、好ましくは0.01~2重量%、更に好ましくは0.02~1重量%が挙げられる。特に、タブレットの場合であれば、(A)成分の含有量として、カルシウム含量換算で、特に好ましくは0.05~0.5重量%が挙げられ、ガムの場合であれば、(A)成分の含有量として、カルシウム含量換算で、特に好ましくは0.05~0.5重量%、最も好ましくは0.05~0.2重量%が挙げられる。
本発明の口腔用組成物が飲料形態の場合:(A)成分の含有量として、カルシウム含量換算で0.001~4重量%、好ましくは0.01~1重量%、更に好ましくは0.02~0.8重量%が挙げられる。
本発明の口腔用組成物がオーラルケア製品の場合:(A)成分の含有量として、カルシウム含量換算で0.001~20重量%、好ましくは0.01~5重量%、更に好ましくは0.02~1重量%が挙げられる。
【0036】
(B)フッ化物
[(B)成分の種類]
本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化を促進させる成分として、フッ化物を含む。フッ化物は、単独でも、カルシウムとリン酸の存在下で歯牙の再石灰化を促進させる作用を有することが知られているが、本発明の口腔用組成物では、フッ化物と共に前記(A)成分と後述する(C)成分を併用することによって、歯牙の再石灰化促進作用を飛躍的に向上させることができる。また、フッ化物イオンはカルシウムイオンと反応して沈澱を生じ易いが、カルシウムイオンをリン酸化糖カルシウム塩の形態で供給することにより、フッ化物イオンとカルシウムイオンによる沈殿の発生を抑制することができる(特開2002-325557号公報)。
【0037】
本発明で使用されるフッ化物の種類については、口腔内への適用に安全上の問題がないもの又は可食性のものであることを限度として特に制限されないが、口腔内の唾液中にフッ化物イオンを補給できるように水溶性であることが好ましい。
【0038】
本発明で使用されるフッ化物として、具体的には、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸及びその塩(例えば、モノフルオロリン酸ナトリウム)、珪フッ化ナトリウム、珪フッ化水素酸、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、氷晶石、モノフルオロ酢酸、フッ化スズ、フッ化アンモニウム等が挙げられる。これらのフッ化物塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
これらのフッ化物の中でも、歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、好ましくはモノフルオロリン酸ナトリウム及びフッ化ナトリウム、更に好ましくはフッ化ナトリウムが挙げられる。
【0040】
フッ化物は、茶抽出物等の植物エキスにも含まれていることが知られており、本発明では、フッ化物として、フッ化物を含む植物エキスを使用してもよい。
【0041】
[(B)成分の含有量]
本発明の口腔用組成物における(B)成分の含有量については、当該口腔用組成物の形態、使用する(B)成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、口腔内に適用された際に口腔内の唾液中のフッ素濃度が0.03~300ppmとなるのに適切な量であることが好ましい。歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、本発明の口腔用組成物における(B)成分の含有量として、口腔内に適用された際に口腔内の唾液中のフッ素濃度が、好ましくは0.03~300ppm、更に好ましくは0.1~200ppm、特に好ましくは0.3~100ppmとなるのに適切な量に設定することが挙げられる。ここで、口腔内に適用された際に口腔内の唾液中のフッ素濃度がX ppmとなるのに適切な量とは、口腔用組成物を喫食又は使用した際に、喫食中、使用中、喫食後、又は使用後の口腔内の唾液におけるフッ素濃度がX ppmに到達できる量をいう。口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のフッ素濃度については、唾液を回収し、唾液中のカルシウム濃度を測定することによって求めることができる。人間の唾液は1分間で平均1mL分泌されるので、唾液の分泌量、口腔用組成物の1回当たりの喫食量又は使用量、並びに口腔用組成物の喫食時間又は使用時間を勘案することにより、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のフッ素濃度が前記範囲を充足するように(B)成分の含有量を設定することは、当業者であれば容易に為し得る。
【0042】
本発明の口腔用組成物における(B)成分の含有量として、具体的には、フッ素含量換算で0.03~20000ppm、好ましくは0.1~1500ppm、更に好ましくは0.3~500ppmが挙げられる。本発明において、(A)成分の含有量に関し、フッ素含量換算とは、含有するフッ化物に含まれるフッ素原子の重量に換算して算出される(A)成分の含有量を指す。
【0043】
より具体的には、本発明の口腔用組成物の形態毎の(B)成分の含有量として、以下の範囲が挙げられる。
本発明の口腔用組成物が食品形態の場合:(B)成分の含有量として、フッ素含量換算で0.03~300ppm、好ましくは0.1~150ppm、更に好ましくは0.3~20ppmが挙げられる。特に、タブレットの場合であれば、(B)成分の含有量として、フッ素含量換算で、特に好ましくは0.3~5ppmが挙げられ、ガムの場合であれば、(B)成分の含有量として、フッ素含量換算で、特に好ましくは0.3~10ppmが挙げられる。
本発明の口腔用組成物が飲料形態の場合:(B)成分の含有量として、フッ素含量換算で0.03~300ppm、好ましくは0.1~150ppm、更に好ましくは0.3~20ppmが挙げられる。
本発明の口腔用組成物がオーラルケア製品の場合:(B)成分の含有量として、フッ素含量換算で0.03~20000ppm、好ましくは0.1~1500ppm、更に好ましくは0.3~600ppmが挙げられる。
【0044】
また、本発明の口腔用組成物において、(A)成分と(B)の比率については、特に制限されず、前述する(A)成分と(B)成分の含有量に応じて定まるが、例えば、(A)成分の総量100重量部当たり、(B)成分が総量で0.05~30重量部、好ましくは0.1~20重量部、更に好ましくは0.3~10重量部が挙げられる。
【0045】
(C)塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質
本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化を促進させる成分として、構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を含む。当該塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質は、単独では、歯牙の再石灰化促進作用は有していないが、本発明の口腔用組成物では、塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質と共に、前記(A)成分及び(B)成分を併用することによって、歯牙の再石灰化促進作用を飛躍的に向上させることができる。
【0046】
本発明において、「ペプチド」とは、構成アミノ酸残基数が50個未満であるペプチドを指す。また、本発明において、「タンパク質」とは、構成アミノ酸残基数が50個以上であるポリペプチドを指す。即ち、本発明で使用される塩基性ペプチドとは、構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基であり、構成アミノ酸残基数が50個未満であるペプチドである。また、本発明で使用される塩基性タンパク質とは、構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基であり、構成アミノ酸残基数が50個以上であるポリペプチドである。
【0047】
本発明で使用される塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質は、構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基である。このように塩基性アミノ酸残基の比率が高い塩基性ペプチド及び/又は塩基性タンパク質を使用することによって、歯牙の再石灰化促進作用を飛躍的に向上させることが可能になる。ここで、塩基性アミノ酸とは、塩基性を示す残基を有するアミノ酸の総量であり、塩基性アミノ酸として、具体的にはリジン、アルギニン、ヒスチジン、及びオルニチンが挙げられる。
【0048】
本発明で使用される塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質において、構成アミノ酸残基の60%以上が塩基性アミノ酸残基であればよいが、歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、構成アミノ酸残基の総数に対する塩基性アミノ酸残基の割合が、好ましくは65~100%、更に好ましくは70~100%、特に好ましくは80~100%が挙げられる。
【0049】
本発明で使用される塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の好適な態様として、構成アミノ酸残基の総量に対して、アルギニン残基とリジン残基の総量が、60%以上、好ましくは65~100%、更に好ましくは70~100%、特に好ましくは80~100%であるものが挙げられる。ここで、「アルギニン残基とリジン残基の総量」とは、塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質において、アルギニン残基が含まれずリジン残基を含む場合には、リジン残基の総数を示し、リジン残基が含まれずアルギニン残基を含む場合には、アルギニン残基の総数を示し、リジン残基とアルギニン残基の双方を含む場合には、リジン残基とアルギニン残基の総数を示す。
【0050】
本発明で使用される塩基性ペプチドの構成アミノ酸残基の総数については、50個未満であればよいが、好ましくは5~45個、更に好ましくは10~40個、特に好ましくは25~35個が挙げられる。本発明で使用される塩基性ペプチドとして、具体的には、ε-ポリリジン、α-ポリリジン、プロタミン、ポリアルギニン、後述する塩基性タンパク質の加水分解物等が挙げられる。なお、サケ由来のプロタミンは、構成アミノ酸残基数が31個であり、その内、L-リジン残基が21個含まれているペプチドであり、本発明において好適に使用される塩基性ペプチドである。これらの塩基性ペプチドは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
本発明で使用される塩基性タンパク質の構成アミノ酸残基の総数については、50個以上であれあばよいが、好ましくは50~1000個、更に好ましくは50~500個、特に好ましくは50~200個が挙げられる。本発明で使用される塩基性タンパク質として、具体的には、ε-ポリリジン、α-ポリリジン、ポリアルギニン等が挙げられる。これらの塩基性タンパク質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
本発明の口腔用組成物では、(C)成分として、塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の中から、1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0053】
これらの塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の中でも、好ましくは、ε-ポリリジン(ペプチド及びタンパク質の双方の場合を含む)、α-ポリリジン(ペプチド及びタンパク質の双方の場合を含む)、及びプロタミン、更に好ましくは、リジン残基の総数が5~45のε-ポリリジン、特に好ましくは、リジン残基の総数が25~35のε-ポリリジンが挙げられる。
【0054】
本発明で使用される塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質は、天然物から得られたもの、微生物培養により得られたもの、遺伝組み換え技術を使用して製造したもの、化学的に合成したもの等のいずれであってもよい。
【0055】
[(C)成分の含有量]
本発明の口腔用組成物における(C)成分の含有量については、当該口腔用組成物の形態、使用する(C)成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中の塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量が5~1500ppmとなるのに適切な量であることが好ましい。歯牙の再石灰化促進作用をより一層向上させるという観点から、本発明の口腔用組成物における(C)成分の含有量として、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中の塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度が、好ましくは5~1500ppm、更に好ましくは10~500ppm、特に好ましくは15~300ppmとなるのに適切な量に設定することが挙げられる。ここで、塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度とは、塩基性ペプチドを使用せず塩基性タンパク質を使用する場合には、塩基性タンパク質の総量の濃度を示し、塩基性タンパク質を使用せず塩基性ペプチドを使用する場合には、塩基性ペプチドの総量の濃度を示し、塩基性ペプチドと塩基性タンパク質の双方を使用する場合には、塩基性ペプチドと塩基性タンパク質の濃度を示す。また、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中の塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度がX ppmとなるのに適切な量とは、口腔用組成物を喫食又は使用した際に、喫食中、使用中、喫食後、又は使用後の口腔内の唾液における塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度がX ppmに到達できる量をいう。口腔内に適用した際に口腔内の唾液中のフッ素濃度については、唾液を回収し、唾液中の塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度を測定することによって求めることができる。人間の唾液は1分間で平均1mL分泌されるので、唾液の分泌量、口腔用組成物の1回当たりの喫食量又は使用量、並びに口腔用組成物の喫食時間又は使用時間を勘案することにより、口腔内に適用した際に口腔内の唾液中の塩基性ペプチド及び塩基性タンパク質の総量の濃度が前記範囲を充足するように(C)成分の含有量を設定することは、当業者であれば容易に為し得る。
【0056】
本発明の口腔用組成物における(C)成分の含有量として、具体的には、5~15000ppm、好ましくは10~5000ppm、更に好ましくは15~3000ppmが挙げられる。
【0057】
より具体的には、本発明の口腔用組成物の形態毎の(C)成分の含有量として、以下の範囲が挙げられる。
本発明の口腔用組成物が食品形態の場合:(C)成分の含有量として、1~1000ppm、好ましくは5~250ppm、更に好ましくは15~125ppmが挙げられる。特に、タブレット又はガムの場合であれば、(C)成分の含有量として、特に好ましくは30~125ppmが挙げられる。
本発明の口腔用組成物が飲料形態の場合:(C)成分の含有量として、1~1000ppm重量%、好ましくは5~250ppm、更に好ましくは15~125ppmが挙げられる。
本発明の口腔用組成物がオーラルケア製品の場合:(B)成分の含有量として、5~15000ppm、好ましくは10~5000ppm、更に好ましくは15~3000ppmが挙げられる。
【0058】
また、本発明の口腔用組成物において、(A)成分と(C)の比率については、特に制限されず、前述する(A)成分のカルシウム含量換算量と(C)成分の含有量に応じて定まるが、例えば、(A)成分のカルシウム含量換算量100重量部当たり、(C)成分が総量で1~100重量部、好ましくは2~50重量部、更に好ましくは4~20重量部が挙げられる。
【0059】
・その他の成分
本発明の口腔用組成物には、前記(A)~(C)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、口腔用組成物の形態に応じて、当該技術分野で通常使用される成分を含有していてもよい。
【0060】
このような成分としては、例えば、ポリフェノール、リン酸化合物、ビタミン類、アミノ酸、セルロース、澱粉、ゲル化剤、ガムベース、酸味料、小麦粉、食塩、糖アルコール、食物繊維、乳酸菌、油脂、研磨剤、防腐剤、殺菌剤、抗菌剤、消炎剤、グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)阻害剤、プラーク抑制剤、知覚過敏抑制剤、歯石予防剤、粘着剤、粘稠剤、賦形剤、滑沢剤、香料、酸味料、甘味料、高甘味度甘味料、清涼化剤、光沢剤、色素、消臭剤、乳化剤、pH調整剤、その他の各種食品素材等が挙げられる。これらの成分の含有量については、口腔用組成物の形態、使用する成分の種類等に応じて、当該技術分野で通常採用されている含有量に適宜設定すればよい。
【0061】
・形状及び形態
本発明の口腔用組成物の形状については、特に制限されず、液状、固形状、半固形状(ゲル状、軟膏状、ペースト状)等のいずれであってもよい。
【0062】
また、本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用されて口腔内で一定時間滞留し得るものである限り、可食性、非可食性の別を問わない。発明の口腔用組成物の形態として、具体的には、飲食品、オーラルケア製品、医薬品等が挙げられる。なお、本発明において、オーラルケア製品とは、日本では、医薬部外品又は化粧料に分類される製品が包含される。
【0063】
本発明の口腔用組成物を飲食品形態にする場合、一般飲食品の他、栄養機能食品や特定保健用食品等の保険機能食品であってもよい。本発明の口腔用組成物を食品形態にする場合、その具体的態様として、例えば、チューインガム類;キャンディー類;錠菓;複合飲料;ヨーグルト等の半流動性食品;ビスケット、せんべい、クッキー等の焼き菓子;アイスクリーム等の冷菓;グミ、ゼリー等のゲル状食品;スナック;麺類;可食性フィルム;タブレット、顆粒、細粒、粉末、カプセル等のサプリメント等が挙げられる。また、本発明の口腔用組成物を飲料形態にする場合、その具体的態様として、例えば、
栄養ドリンク、炭酸飲料、清涼飲料等が挙げられる。これらの飲食品の中でも、喫食時に前記(A)~(C)成分の有効量が唾液に補給されるのに十分な口腔内での滞留時間を確保することにより、歯牙の再石灰化を効率的に促進させるという観点から、好ましくは、チューインガム類、キャンディー類、錠菓、ゲル状食品、可食性フィルム、サプリメントが挙げられる。
【0064】
本発明の口腔用組成物をオーラルケア製品にする場合、その具体的態様として、例えば、液体歯磨剤、練歯磨剤、潤製歯磨剤、粉歯磨剤、洗口剤(マウスウォッシュ)、マウスリンス、含嗽剤、マウススプレー、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム、人工唾液、口腔湿潤剤、歯磨きワイプ、デンタルフロス等が挙げられる。
【0065】
本発明の口腔用組成物を医薬品にする場合、その具体的態様として、例えば、トローチ剤、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、塗布剤、等が挙げられる。
【0066】
・製造方法
本発明の口腔用組成物は、その形態に応じて、当該技術分野で公知の製造方法に従って製造することができる。
【0067】
・用途及び使用方法
本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化を効果的に促進させる作用があるので、歯牙の再石灰化促進剤として使用できる。また、歯牙の再石灰化の促進は、抗齲蝕用途(齲蝕の予防、初期齲蝕の改善等)に有効であり、本発明の口腔用組成物は、抗齲蝕剤(齲蝕の予防剤、初期齲蝕の改善剤等)として使用することもできる。即ち、本発明の口腔用組成物は、歯牙の再石灰化の促進を求めている者、具体的には、齲蝕の予防を必要としている者、歯の喪失予防を必要としている者、初期齲蝕を発症しやすい者、初期齲蝕の者等に対して好適に使用される。なお、本発明において、「初期齲蝕」とは、初期むし歯とも呼ばれており、歯牙のエナメル質表面に限局した、実質欠損を有するう窩を形成していない脱灰病変を指す。
【0068】
本発明の口腔用組成物は、口腔用組成物の形態に応じた通常の方法で口腔内に適用すればよい。例えば、飲食品の場合であれば飲食品の種類に応じた通常の方法で喫食すればよく、オーラルケア製品の場合であればオーラルケア製品の種類に応じた通常の方法で使用すればよく、医薬品の場合であれば医薬品の種類に応じた通常の方法で投与すればよい。
【0069】
本発明の口腔用組成物は、口腔内の唾液に前記(A)~(C)成分を補給することによって、歯牙の再石灰化を促進するので、本発明の口腔用組成物は、前記(A)~(C)成分の有効量が唾液に補給されるように口腔内で一定時間滞留させる態様で、喫食、使用、又は投与されることが望ましい。従来技術では、口腔内での滞留時間が比較的短い形態(例えば、タブレット等)の場合には、十分な歯牙の再石灰化の促進ができなかったが、本発明の口腔用組成物では、口腔内での滞留時間が比較的短い形態であっても、効果的に歯牙の再石灰化を促進することが可能になっている。
【0070】
具体的には、本発明の口腔用組成物を口腔内に滞留させる時間としては、口腔用組成物の形態、(A)~(C)成分の濃度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば20秒以上、好ましくは20秒~1時間、更に好ましくは60秒~20分、特に好ましくは2分~10分が挙げられる。
【0071】
本発明の口腔用組成物の1回当たりの適用量については、口腔用組成物の形態、期待される効果等に応じて、歯牙の再石灰化を促進できる有効量を適宜設定すればよいが、例えば、1回当たり、(A)成分の適用量が0.1mg以上、好ましくは0.5~50mg、更に好ましくは1~30mg、特に好ましくは1.5~20mgとなる量に設定すればよい。
【0072】
本発明の口腔用組成物の適用頻度については、特に制限されず、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1日当たり1~10回程度、好ましくは1~5回程度を、連日、一日おき、2日おき、1週間で1~3日の頻度に設定すればよい。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0074】
なお、以下に示す試験例において、リン酸化糖カルシウム塩(POs-Ca)は、王子コーンスターチ株式会社製のものを使用した。当該リン酸化糖カルシウム塩には、カルシウムが5.0重量%含まれている。また、当該リン酸化糖カルシウム塩は、糖部分が3~5個のグルコースがα-1,4結合で結合しているオリゴ糖であるものが主に含まれ、7個のグルコースがα-1,4結合で結合しているオリゴ糖であるものも僅かに含まれている。また、当該リン酸化糖カルシウム塩において、糖部分が3~5個のグルコースからなるオリゴ糖である場合にはリン酸基が1個結合しており、糖部分7個のグルコースからなるオリゴ糖である場合にはリン酸基が2個結合している。
【0075】
試験例1:歯牙の再石灰化の促進効果の検証
1.試験材料
(1)水
水は、いずれもMilliQ(Merck Millipore, US)を用いて製造した脱イオン水を用いた。
【0076】
(2)試薬
塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、α-ポリリジン、プロタミン、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、水酸化カリウム、塩酸(1N水溶液)、塩化カルシウム、L-乳酸、及びフッ化ナトリウムは、いずれも和光純薬工業株式会社製の特級品を用いた。HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)は株式会社同仁化学研究所製を用いた。ε-ポリリジンは、JNC株式会社製の食品グレードのε-ポリ-L-リジン(リジンの重合度25~35)を用いた。メチルセルロースは、Methocel MC(SIGMA製)を用いた。ポリアルギニンは、分子量5,000~15,000(SIGMA製)のものを用いた。ポリヒスチジンは、分子量5,000~25,000(SIGMA製)のものを用いた。キトサン、アルギニン、及びヒスチジンは、和光純薬社株式会社製のものを用いた。
【0077】
(3)リン酸化糖カルシウム塩水溶液(POs-Ca水溶液)
リン酸化糖カルシウム塩(POs-Ca)1.0gを水8mlに溶かし、それを、10mlにメスアップした後に、10mlシリンジ(テルモ株式会社)で0.45μmフィルター(Minisart, Surfactant-free cellulose acetate、Sartorius Stedim Biotech, US)に通し、POs-Caを10重量%含有するPOs-Ca水溶液を得た。
【0078】
(4)各試薬のストック液
リン酸二水素カリウム及び塩化カルシウムは100mM、塩化カリウムは2M、水酸化カリウムは1M、フッ化ナトリウムは1000ppm、HEPESは200mMとなるように水に溶かして調製した。いずれも調製後、0.45μmフィルター(Minisart, Surfactant-free cellulose acetate、Sartorius Stedim Biotech, US)に通した。これらをストック液として使用した。
【0079】
(5)エナメル質歯片
エナメル質ブロック(10mm×10mm)をウシ切歯の冠部から切り出し、次いで、このブロックを樹脂(ユニファストトラッド、ジーシー社製)に包埋した。このブロックを、湿らせた研磨紙で研磨して新たで平らなエナメル質表面を露出させた。エナメル質表面のおよそ1/3の領域にネイルバーニッシュを塗布して被覆し、その後の脱灰処理から保護した。この部分がコントロールの健全部となる。その後、エナメル質ブロックを、150ml容の円筒容器の底面に置き、そこに加温して溶解させた8重量%メチルセルロースゲルを75ml注ぎ入れ、室温で30分放置して固めた。その上に予め0.22μmフィルターを通して滅菌した0.1MのL-乳酸緩衝液(pH4.7に調整)を重層し、37℃にて14日間インキュベートし、ネイルバーニッシュで被覆されていない2/3の領域にエナメル初期う蝕つまり表層下脱灰病巣を形成させた(ten Cate J.M.ら、Caries Res.40,400-407,1996)。脱灰の度合いは、後述のTransversal microradiography(TMR)を用いた方法で実施したところ、ミネラル欠損(ML)が2000~3500容量%・μmの範囲であった。
【0080】
(6)人工唾液
人工涙液とは、通常、表1に示す組成の溶液である。本試験では、人工涙液に含まれるカルシウム源(塩化カルシウム)の種類を変更し、pH調整のために酸を使用せずに水酸化カリウムを使用した溶液を、人工唾液のベースとして使用した。
【0081】
【0082】
2.試験方法
各試薬のストック液、カルシウム源(塩化カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウム、乳酸カルシウム、又はグルコン酸カルシウム)、フッ化物(フッ化ナトリウム)、塩基性ペプチド(ε-ポリリジン、α-ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン又はプロタミン)、及び塩基性アミノ酸(アルギニン、又はヒスチジン)を使用して、人工唾液をベースとして、カルシウム源、フッ化物、塩基性ペプチド、及び塩基性アミノ酸を所定濃度含む再石灰化処理液を調製した。調製した再石灰化処理液の組成は、表2及び3に示す通りである。なお、各再石灰化処理液において、Ca/Pモル濃度比は1.67になるように調整されている。
【0083】
各再石灰化処理液100mLに、初期齲蝕を形成したエナメル質歯片を浸漬し、37℃の温度条件で6時間又は24時間静置した。その後、エナメル質歯片を下記のTMR法に従って解析を行った。
【0084】
<TMR法(Transversal microradiography法)>
水冷式ダイアモンド鋸を用いて、エナメル質歯片から薄い平行切片を切り出した。この薄い切片を平行な水平面になるように研磨して150μmの厚さにした。このナメル質歯片の薄い切片を、高分解能プレートを用い、20kV及び20mAによって生成されたCu-Kα X線(PW-3830,Philips,The Netherlands)によって13分間にわたってX線撮影し、現像し、顕微鏡解析をした。X線撮影の際には標準物質としてアルミニウムステップウェッジを同時に撮影し、カルシウム量の検量線を作成するために使用した。Inspektor Research SystemsBV(The Netherlands)のソフトフェアTMR2012 ver.4.00.23を用いて、顕微鏡で観察されるエナメル質表層部の画像とステップウェッジの画像濃淡から得られる検量線を解析用にデータ化した。そして、デジタル画像よりミネラルプロファイルを、Inspektor Research SystemsBV(The Netherlands)のソフトフェア(TMR2006 ver.3.0.0.17)を用いて作成した。種々のミネラルパラメーター(病巣深さLd、ミネラル欠損(ML)及び最表層点(Vmax))を前記ソフトウェアのデフォルトの設定による自動解析で計算した。更に、各再石灰化処理液に6時間浸漬した場合について、再石灰化によるミネラル回復率を次のようにして求めた。(i)まず脱灰部と再石灰化部のミネラル損失量を、ミネラルプロファイルからソフトウェアの自動解析に従って求めた。(ii)そして脱灰部のミネラル損失量(Mineral loss)を100%の損失としたときのミネラル回復率(%)を以下の式に基づいて算出した。
【0085】
【0086】
3.試験結果
得られた結果を表2~4に示す。比較例6に示すように、POs-Caと1ppmのフッ化物の組み合わせでは20.5%であり、POs-Ca単独(比較例1、回復率16.1%)と比較して、回復率が若干向上したに過ぎなかった。また、比較例1と比較例4では、回復率に殆ど差が認められなかったことから、POs-Caとε-ポリリジンの組み合わせだけでは、再石灰化の促進効果は不十分であるといえる。一方、実施例1に示すように、POs-Ca、1ppmのフッ化物、及び25ppmのε-ポリリジンを組み合わせた場合には、回復率が42.3%と著しく向上したことから、POs-Ca、フッ化物、及びε-ポリリジンを組み合わせることによって、再石灰化が相乗的に促進されることが確認された。
【0087】
また、比較例2及び3の対比から、カルシウム源としてカルシウムの無機酸塩(塩化カルシウム)を使用すると、逆にポリリジンの添加により再石灰化が阻害されることも確認された。塩化カルシウムの場合は、カルシウム濃度を上げるとε-ポリリジンを添加しないときに比べれば改善するものの溶液自体の安定性は悪く、再石灰化前に徐々に沈殿を形成した。実際、比較例7の条件(塩化カルシウム濃度6mM)ではリン酸化オリゴ糖カルシウムをベースとして1ppmのフッ化物を加えた比較例6と比べて低い再石灰化率を示した。このことから、塩化カルシウムのようにリン酸イオン(リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオンを含む)の存在下でリン酸とカルシウムからなる沈殿を生じやすいカルシウム種を用いた場合は、フッ化物及びε-ポリリジンと組み合わせても顕著な再石灰化促進効果は期待できない。この傾向は、比較例14及び15に示されているように、塩化カルシウムと、フッ化物と、ポリアルギニン又はポリヒスチジンとを組み合わせた場合にも認められた。更に、実施例6及び7に示されているように、カルシウム源として、乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウムを使用しても、フッ化物及びε-ポリリジンの共存下で回復率の向上が認められ、カルシウム源として、有機酸カルシウム塩を使用し、フッ化物及びε-ポリリジンを併用すれば、再石灰化の促進効果の向上が認められることが確認された。
【0088】
更に、実施例8~10に示すように、α-ポリリジン、プロタミン又はポリアルギニンを使用した場合であっても、POs-Ca及びフッ化物の共存下で回復率が著しく向上しており、ε-ポリリジンに代えて、塩基性ペプチド又は塩基性ポリペプチドを使用しても、有機酸カルシウム塩とフッ化物の共存下で再石灰化の促進効果の向上が認められることが確認された。一方、比較例8~13に示すように、塩基性アミノ酸であるアルギニン、又は塩基性多糖であるキトサンを使用した場合には、比較例6との比較で明らかなようにPOs-Ca及びフッ化物の共存下でも、回復率の向上は認められなかった。
【0089】
また、実施例1、4及び5に示すように、フッ化物濃度を100ppmまで上昇させると、濃度依存的に回復率は増加しており、唾液中でのフッ化物が1~100ppmとなる濃度が、有機酸カルシウム塩と塩基性ペプチド又は塩基性ポリペプチドの併用には適していることが確認された。
【0090】
また、実施例1と比較例6(24時間浸漬後)について、再石灰化処理液での処理前後のエナメル質歯片の深さ毎のミネラル分布(ミネラルプロファイル)を測定した結果を
図1に示す。この結果、POs-Ca及びε-ポリリジンを組み合わせただけの比較例6では、脱灰深度のみが回復されるに止まっていたが、POs-Ca、フッ化物、及びε-ポリリジンを組み合わせた実施例1では、脱灰深度、再表層のミネラル密度、及びミネラル密度最低点の全てにおいて回復していた。即ち、実施例1では、密度が深い部分から回復しており、脱灰領域の厚みが減少し、全般的に再石灰化が進行していた。表層のみが密度が高くなると、深部への浸透が妨げられる可能性があるため、実施例1のように深層から再石灰化が進むことは初期齲蝕の再石灰化による回復においてより好ましいといえる。
【0091】
なお、本試験のミネラル回復率を算出している条件では、エナメル質歯片を再石灰化処理液に37℃で6時間浸漬して行っており、短時間での再石灰化効果を評価できる試験系になっている。本試験の条件は、口腔用組成物を1回当たり3分間口腔内に含み、1日3回の頻度で14日間、口腔用組成物を使用した場合に認められる効果を評価できているといえる。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
試験例2:in situにおける歯牙の再石灰化の促進効果の検証
1.試験方法
表5に示す組成のタブレット(1粒当たり0.83g)を常法に従って調製した。実施例11のタブレットは、摂取時の唾液中のカルシウムイオンが6mM程度、ε-ポリリジン25ppm程度、及びフッ化物濃度(緑茶エキス由来)が1ppm程度になるように調節されている。エナメル質ブロックを取り付けできるくぼみを設けた樹脂部、エナメル質ブロックを保護する金属メッシュ製の蓋部、及び下顎歯の頬側に掛けて樹脂部を前歯裏側の歯根部位から舌尖下部に保持するための金属製フックを有する口腔内装着用装置を準備した (東京医科歯科大学歯学部付属歯科技工士学校製)。その口腔内装着用装置のくぼみに試験例1と同様の方法で脱灰処理したエナメル質ブロックを取り付け、金属メッシュの蓋で保護した状態で被験者の下顎に装着してもらった。そして口腔内装着用装置を装着した状態で前記タブレットを1回1粒、1日3回、14日間毎食後に摂取させた。口腔内装着用装置は、前記タブレットの摂取するごとに、摂取10分前から摂取10分後まで被験者の口内に装着され、それ以外の時間はエナメル質ブロックを装着したまま取り外され、軽く水洗いを行ってから、乾燥しない状態で保存した。14日間の摂取が終了した時点で、前記口腔内装着用装置に取り付けていたエナメル質歯片を前記試験例1に示すTMR法に従って解析を行った。
【0096】
【0097】
2.試験結果
再石灰化部の脱灰深度の回復率が14.5%、再石灰化部のカルシウムの回復率(%)が27.5%であった。タブレットは、ガムと比べて摂取時間が約1/3~1/5短縮されるが、実施例11のタブレットでは、短い摂取時間であっても、初期齲蝕の再石灰化促進効果が認められた。
【0098】
また、実施例11のタブレットを摂取した場合について、エナメル質歯片の深さ毎のミネラル分布(ミネラルプロファイル)を測定した結果を
図2に示す。この結果から、実施例11のタブレットを摂取した場合には、病巣深さ(Ld)及び最表層点(Vmax)の回復も見られることから、in situ における試験でも、有機酸カルシウム塩、フッ化物、及び塩基性ペプチドを併用した場合に歯牙の再石灰化が格段に促進されることが確認された。