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特許7330104アルミニウム合金コーティング層を有する鋼ストリップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】アルミニウム合金コーティング層を有する鋼ストリップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20230814BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20230814BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20230814BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230814BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230814BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/12
C23C2/40
C22C21/00 M
C22C38/00 301T
C22C38/60
C22C38/00 301W
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019546864
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018054599
(87)【国際公開番号】W WO2018158165
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】17158418.8
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17158419.6
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ヒューホ、ファン、スホーンエフェルト
(72)【発明者】
【氏名】グイド、コルネリス、ヘンセン
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-138933(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104880(WO,A1)
【文献】特開平08-100217(JP,A)
【文献】特開昭55-085623(JP,A)
【文献】特開昭61-124558(JP,A)
【文献】特開平03-104848(JP,A)
【文献】特開昭56-130461(JP,A)
【文献】特開2015-131995(JP,A)
【文献】特開2004-083988(JP,A)
【文献】特開2015-227494(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087921(WO,A1)
【文献】米国特許第04546051(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104233149(CN,A)
【文献】国際公開第2015/022821(WO,A1)
【文献】特表2017-535666(JP,A)
【文献】特開2007-107050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続溶融めっき及びそれに続く予備拡散アニーリングプロセスにおいて、アルミニウム合金コーティング層で片側又は両側が被覆された鋼ストリップ又はシートを製造する方法であって、
前記方法が、前記鋼ストリップを溶融アルミニウム合金浴に速度vで通過させ、アルミニウム合金コーティング層を前記鋼ストリップの片側又は両側に形成する、溶融めっき工程と、予備拡散アニーリング工程とを含み、
前記鋼ストリップの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層の厚さが、5~40μmであり、前記鋼ストリップの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層が、0.4~4.0重量%のケイ素を含み、
前記アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップ、又は前記アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップから切断されたシートを、前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層の少なくとも外層がその液相線温度を超えている間に、予備拡散アニーリング工程に進入させ、前記鋼ストリップ又はシートから前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層への鉄の拡散を促進し、実質的に完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層を前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成するために、前記鋼ストリップ又はシートを、600℃以上800℃以下のアニーリング温度で、最大40秒間、アニーリングし、
前記予備拡散アニーリングされた前記被覆された鋼ストリップ又はシートを周囲温度まで冷却する、方法。
【請求項2】
前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の組成が、50~55重量%のAl、43~48重量%のFe、0.4~4重量%のSi、並びに、溶融めっきプロセスに対応する不可避的元素及び不純物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浴中の前記溶融アルミニウム合金が、0.4~4.0重量%のケイ素を含み、前記溶融アルミニウム合金が、630~750℃の温度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶融アルミニウム合金浴に進入する前記鋼ストリップの温度が、550~750℃であり、かつ/あるいは、
前記速度vが、0.6m/秒~4.2m/秒である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層が、0.5重量%以上及び/又は3.5重量%以下のSiを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の厚さが、8μm以上及び/又は40μm以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層のケイ素含有量(重量%)に依存する前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の厚さd(μm)が、式(1)、(2)及び(3):
(1)d≧-1.39・Si+12.6
(2)d≦-9.17・Si+43.7
(3)Si≧0.4%
によるSi-d空間に囲まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶融めっき工程における前記溶融アルミニウム合金浴中の前記鋼ストリップの浸漬時間が、2~10秒であり、前記予備拡散アニーリング工程の前の前記鋼ストリップ又はシートの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層が、前記鋼ストリップ又はシート表面から外側に向かって、少なくとも以下の3種の異なる層:
ケイ素が固溶したFe2Al5からなる金属間化合物層1
ケイ素が固溶したFeAl3からなる金属間化合物層2
前記溶融アルミニウム合金浴の組成を有する外層
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記予備拡散が、前記鋼ストリップ又はシートのアニーリングにより熱間成形操作の直前に行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続コーティングプロセスにおいてアルミニウム合金コーティング層を有する鋼ストリップを製造する方法に関する。本発明はまた、本発明の方法に従って製造することができるアルミニウム合金コーティング層で被覆された鋼ストリップ、被覆された鋼ストリップの使用及び被覆された鋼ストリップを使用して製造された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野では、熱間成形品を製造するための鋼ストリップのコーティングにアルミニウム-ケイ素合金を使用することが知られている。これに関連して出願された初期の特許出願の1つは、EP0971044である。実用面では、このアルミニウム-ケイ素で被覆された鋼ストリップから切断されたブランクの熱間成形によって製造された製品は、アルミニウム-ケイ素コーティングの存在により、熱間成形プロセス中のスケール(scale)形成を抑制することが判明している。従来技術のアルミニウム-ケイ素コーティングは、約9~10重量%のケイ素を含む。アルミニウム-ケイ素コーティング、別名Al-Siコーティングを参照する場合、Al及びSiは特徴的な元素とみなされるが、コーティングには他の元素も存在する可能性がある、あるいは、通常存在することに留意すべきである。非限定的な例として、コーティングプロセス及び熱間成形プロセスの温度が高いことに起因して、鉄は鋼基板からコーティングに溶解する。
【0003】
しかしながら、熱間成形プロセスでの使用にも関わらず、熱間成形プロセス中に、被覆されたブランクが鋼のAc1温度を超える温度に加熱されると、アルミニウム-ケイ素コーティングが約575℃で溶融し、それによって、ブランクが加熱される放射炉内の搬送ロールに対する溶融アルミニウム-ケイ素の付着が生じることが判明している。熱放射に対するこれらのコーティングの高い反射率によって、ブランクはゆっくりと加熱されるため、鋼基材からの拡散によってコーティングが鉄で飽和するのに長い時間が必要である。これは、反射率をさらに増加させるコーティングの溶融により悪化する。
【0004】
これらの課題を解決するためにいくつかの試みが行われてきた。例えば、EP2240622には、アルミニウム-ケイ素で被覆された鋼のコイルを、ベル型アニーリング炉中、特定の温度で数時間加熱して、コーティングと鉄との合金化を達成できることが開示されている。EP2818571には、アルミニウム-ケイ素で被覆された鋼のコイルがデコイラー(decoiler)上に置かれ、ストリップが特定の温度及び特定の時間で炉を通って搬送され、コーティングと鉄との合金化を達成することが開示されている。この予備拡散(pre-diffusion)の後、予備拡散されたストリップからブランクを製造することができる。しかしながら、これらの方法は両方とも、追加のプロセス工程、追加の機器の使用、追加の時間及び追加のエネルギーを必要とする。これらの理由から、熱間成形炉で加熱する前のストリップ又はブランクの合金化は実用面では使用されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを製造する方法であって、使用が容易で費用対効果が良好であり、熱間成形のための炉内での使用中に搬送ロールに付着しないアルミニウム合金コーティングを提供する方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを製造する方法であって、製造されたブランクを高速で加熱することができる方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを製造する方法であって、既存の製造ラインで実施することができる方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを製造する方法であって、誘導加熱手段又は伝導加熱手段を利用する加熱装置を組み込んだ製造ラインで実施することができる方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、熱間成形プロセスで使用するための、改良されたアルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、熱間成形プロセスにおける上記鋼ストリップの使用を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、本発明による鋼ストリップの使用から生じる製品を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明による工程の要約を示す図である。
図2図2は、アニーリングされたアルミニウム合金コーティング層を示す図である。
図3図3は、生成されたコーティングの断面(SEM)を示す図である。
図4図4は、合金層の厚さを示す図である。
図5図5は、完全に合金化されたコーティングの生産ウィンドウを示す図である。
図6図6は、予備拡散アニーリング後のサンプルA(本発明に従って700℃で20秒間)及び溶融めっき後のサンプルB(予備拡散アニーリングなし、これは従来技術の状態である)の層構造(SEM断面画像)を示す図である。
図7図7は、鋼の加熱曲線を示す図である。
図8図8は、高Alフェライトの延性層の例を示す図である。
図9図9は、3.0%のSi及び1.6%のSiのアニーリングしたAl-Siコーティング層の層構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これらの目的の1以上は、連続溶融めっき(continuous ho-dip coating)及びそれに続く予備拡散アニーリング(pre-diffusion annealing)プロセスにおいて、アルミニウム合金コーティング層で片側又は両側が被覆された鋼ストリップを製造する方法であって、
前記方法が、前記鋼ストリップを溶融アルミニウム合金浴に速度vで通過させ、アルミニウム合金コーティング層を前記鋼ストリップの片側又は両側に形成する、溶融めっき工程と、予備拡散アニーリング工程とを含み、
前記鋼ストリップの片側又は両側に形成された前記アルミニウム合金コーティング層の厚さが、5~40μmであり、前記アルミニウム合金コーティング層が、0.4~4.0重量%のケイ素を含み、
前記アルミニウム合金で被覆された鋼ストリップを、1又は複数のアルミニウム合金コーティング層の少なくとも外層がその液相線温度を超えている間に、予備拡散アニーリング工程に進入させ、前記鋼ストリップから1又は複数の前記アルミニウム合金コーティング層への鉄の拡散を促進し、1又は複数の実質的に完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層を形成するために、前記鋼ストリップを、600℃以上800℃以下のアニーリング温度で、最大40秒間、アニーリングし、
前記予備拡散アニーリングされた前記被覆された鋼ストリップを周囲温度まで冷却する、前記方法により達成することができる。
【0014】
1又は複数の完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層は、ケイ素が固溶した鉄-アルミナイド(iron-aluminides with silicon in solid solution)から実質的に完全になる。本発明において、ケイ素が固溶した鉄-アルミナイドは、FeAl及びFeAl等の鉄-アルミニウム金属間化合物、並びに、τ相(FeSiAl)等の鉄-アルミニウム-ケイ素金属間化合物を含むとみなされる。
【0015】
連続溶融めっきは、ストリップを溶融アルミニウム合金浴に通過させることによって実施されることに留意すべきである。後続の予備拡散アニーリングは、溶融コーティングに沿って、すなわち、溶融コーティングの直後に、又は(かなり)後のオフラインで実施することができる。予備拡散アニーリングは、片側又は両側がアルミニウム合金コーティング層で被覆された鋼ストリップから得られたシート又はブランクに対して、後で実施することもできる。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0016】
加熱及び熱間成形及び予備拡散の前の被覆された鋼ストリップ又はシート上のアルミニウム合金コーティング層は、鋼基材から外側に向かって見て、少なくとも以下の3種の異なる層:
Siが固溶したFeAl相(Fe2Al5 phase with Si in solid solution)からなる金属間化合物層1;
Siが固溶したFeAl相(FeAl3 phase with Si in solid solution)からなる金属間化合物層2;
溶融アルミニウム合金浴の組成を有する(すなわち、前述のストリップからの不純物及び溶解元素の不可避的存在を含む)アルミニウム合金が固化した、外層
を備える。
【0017】
予備拡散アニーリング工程後の完全に合金化されたコーティング層の組成は、鉄-アルミニウム金属間化合物から実質的に完全になる。ミクロ組織中には他の成分がわずかな量で存在する可能性があるが、これらは、予備拡散アニーリング工程後の本発明による方法で得られる完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の特性に悪影響を与えない。意図されることは、予備拡散アニーリング工程後の完全に合金化されたコーティング層が鉄-アルミニウム金属間化合物から完全になり、したがって、1又は複数の完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層が得られることである。
【0018】
本発明者らは、従来技術のアルミニウム-ケイ素コーティングは、アルミニウムコーティング中のケイ素含有量が高いため、鉄との合金化が難しいと考えている。理論に縛られるわけではないが、ケイ素の存在は、鉄の拡散経路をブロックし、Fe-Al金属間化合物の成長を遅延させると考えられる。
【0019】
本発明者らは、本発明に従ってコーティング中のケイ素含有量を低下させた場合、依然として存在するケイ素が鉄のアルミニウム合金コーティング層への拡散を実質的に妨げないことを見出した。したがって、先行技術のアルミニウム-ケイ素層と比較して、鉄の拡散は全く妨げられないか、又は、比較的効果的でない程度にしか妨げられない。
【0020】
試験後、本発明者らは、アルミニウム合金コーティング層による鋼ストリップのコーティング直後の予備拡散アニーリング工程においてアルミニウム合金コーティングへの鉄の拡散を可能にするためには、アルミニウム合金コーティング層におけるケイ素含有量が0.4~4.0(別段規定される場合を除き、全てのパーセンテージは、重量パーセント(wt%)で表される)であることが必要であることを見出した。拡散は最大40秒という短い時間内に実施することができ、この時間内に鉄が鋼ストリップからコーティングの厚さ全体にわたって拡散する。アニーリングサイクルを既存の溶融めっきライン又はラインコンセプトに適合させるには、時間を短くする必要がある。拡散は600~800℃のアニーリング温度で行われる必要があるため、液体アルミニウム合金コーティング層における鉄の拡散は速い。鋼ストリップを溶融アルミニウム合金に浸漬した後、溶融アルミニウム合金浴から出る被覆された鋼ストリップの外層はまだ液体である。そのため、アニーリング温度は、アルミニウム合金コーティング層の融解温度を超えている。予備拡散アニーリング工程において、鋼ストリップからアルミニウム合金コーティング層への鉄の拡散が促進され、ケイ素が固溶した鉄-アルミナイドで実質的に完全に構成される、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素(例えば、FeAl、FeAl、τ相(FeSiAl))が形成される。アニーリング温度は連続コーティングの温度と同じ範囲であることが好ましいため、溶融めっき工程と予備拡散アニーリング工程との間に、実質的な冷却又は加熱を行う必要はなく、連続コーティング後に拡散アニーリングを迅速に実施することができる。コーティング層への鉄の迅速な拡散を可能にするために、形成されたコーティング層がまだ液体である間に、予備拡散アニーリング工程を実施する必要がある。既に固化したコーティング層における鉄の拡散は非常に遅くなる。固化したアルミニウム合金コーティング層への鉄のゆっくりとした拡散は、従来の熱間成形プロセスにおける加熱工程が非常に長い時間を要する理由の1つである。固化したコーティングの高い反射率は、他の要因である。図1に示すように、連続コーティング及びアニーリングラインに予備拡散アニーリング工程を組み込むと、コーティング層の溶融状態に起因して、拡散アニーリングを迅速に実施することができ、再加熱及び冷却の追加のプロセス工程は、連続コーティングラインに統合されているため、必要とならない。このような追加のプロセス工程には、既に固化したコーティング層から拡散を開始させる必要があるという欠点もあるため、このプロセスには、熱間成形プロセスにおける加熱工程と同じ問題がある(反射率、遅い拡散)。本発明によるプロセスは、非常に早く進み、比較的少ないスペース、資本支出及び運用コストしか必要としないため、既存のラインに統合することができる。
【0021】
本発明において、溶融めっきで被覆された鋼ストリップ又はシートは、被覆後に、予備拡散処理に供される。このことが、アルミニウム合金コーティング層への鉄の拡散が既に生じている点、及び、アルミニウム合金コーティング層が、ケイ素が固溶した鉄-アルミナイドから本質的になる、完全に合金化されたAl-Fe-Siコーティング層に変換されている点で、熱間成形工程を短縮する。予備拡散処理は、より制御された環境で、例えば、別の連続アニーリングラインにおいて、又は、溶融めっき工程の直後のアニーリングセクションにおいて実施することができるため、製品の一貫性も向上する場合がある。また、本発明による予備拡散された被覆シート又はストリップをアニーリングする時にもはや液相が存在しないため、熱間成形の前にブランクをアニーリングするために放射炉ではなく誘導炉の使用が可能になる。
【0022】
本発明の一実施形態において、加熱及び熱間成形及び必要に応じて行われる予備拡散の前に、被覆された鋼ストリップ又はシート上のアルミニウム合金コーティング層は、鋼基材から外側に向かって見て、少なくとも以下の3種の異なる層:
Siが固溶したFeAl相からなる金属間化合物層1;
Siが固溶したFeAl相からなる金属間化合物層2;
溶融アルミニウム合金浴の組成を有する(すなわち、前述のストリップからの不純物及び溶解元素の不可避的存在を含む)アルミニウム合金が固化した、外層
を含む。
【0023】
図9Aは、この層の構成を示し、ダークグレーの上層は外層、大文字のAを伴う黒い部分は包埋材料(embedding material)、最も明るい部分は金属基材並びに外層と金属基材との間のFeAl及びFeAlである。
【0024】
理想的には、金属間化合物層は、上記の化合物のみで構成されるが、微量のその他の成分及び不可避的不純物又は中間化合物が存在する可能性がある。ケイ素含有量がより大きい分散τ相(FeSiAl)は、そのような不可避的化合物の1つであろう。しかしながら、これらの微量成分は、被覆された鋼基材の特性に悪影響を及ぼさないことが判明している。意図されることは、予備拡散アニーリング工程後の完全に合金化されたコーティング層が、ケイ素が固溶した鉄-アルミナイドから完全になり、したがって、1又は複数の完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層が得られることである。
【0025】
本発明による方法において、ストリップは、溶融めっき工程と予備拡散アニーリング工程との間において、周囲温度まで冷却されない。好ましくは、溶融めっき工程と予備拡散アニール工程との間において、積極的な冷却は全く行われない。浴を出た後のストリップの冷却及びエアナイフ等の厚さ制御手段の冷却効果を補償するために、ストリップを600~800℃の予備拡散アニーリング温度に再加熱する必要がある場合がある。予備拡散アニーリング工程の後においてのみ、ストリップは周囲温度まで冷却される。この冷却は、通常、2つの工程で行われ、アニーリング直後の冷却は、完全に合金化されたコーティング層の回転ロールへの付着又は損傷を防ぐことを目的としており、通常、約10~30℃/秒の冷却速度での空冷又はミスト冷却で実行され、さらにライン内において、完全に合金化されたAl-Fe-Siコーティング層を備えたストリップは、通常、水で急冷することにより、急速に冷却される。冷却の効果は、主に熱的であり、ラインに対する損傷及び完全に合金化されたAl-Fe-Siコーティング層に対する損傷を防ぐことができること、並びに、鋼基材の特性に対する冷却の影響は無視できることに留意すべきである。
【0026】
アルミニウム合金コーティング層の最小ケイ素含有量は0.4重量%である。0.4%未満では、溶融めっき工程後の初期合金層と、合金層の不規則な成長に起因して溶融アルミニウム合金の組成を依然として有する、まだ合金化されていないアルミニウム合金コーティング層の残余物(remnants)との間に、指状の界面(finger-like interface)を形成するリスクが増加する。0.4%を超えると、この不規則な成長が回避される。Siが4.0%を超えると、Siの存在が急速な合金化を不可能にする。
【0027】
本発明によるアルミニウム合金コーティング層の低ケイ素含有量(0.4~4.0重量%のSi)は、先行技術のアルミニウム-ケイ素コーティング層(9~10重量%のSi)と比較して、既存の溶融めっきラインにおける実施を可能にするために十分に短い(最大40秒)時間範囲で完全な合金化を完了することを可能にする。
【0028】
必要とされる鉄のアルミニウム合金コーティング層への拡散及び鉄による飽和は既に生じていることから、予備拡散アニーリング工程後の完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層は、予備拡散されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層とも呼ばれる。従来技術のプロセスにおいて、この鉄の拡散及び鉄-アルミニウム金属間化合物から実質的に完全になる鉄-アルミナイドの形成は、熱間成形工程の前の加熱工程中に生じる必要があり、したがって、この従来技術の加熱工程は、本発明による予備拡散されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層を使用する場合に必要となる加熱工程よりもかなり長い。成形工程における加熱工程は、予備拡散アニーリング工程(600~800℃で最大40秒間)よりも長い時間(通常、4~10分のオーダー)、より高い温度(通常、850~950℃)まで加熱するものであり、ストリップが完全に合金化されたAl-Fe-Siコーティング層であるか、又は、新たに浸漬されてまだ合金化されていないコーティング層であるかに関係なく、被覆されたストリップの構造に変化をもたらす。コーティング層がFeで飽和するとすぐに、Alが鋼基材に拡散し始め、それにより、鋼がAlで強化される。十分なAlが鋼基材に拡散するとすぐに、鋼基材の表面層は熱間成形中のフェライト状態を維持する。高Alフェライトのこの層は非常に延性があり、アルミニウム合金コーティング層の亀裂が鋼基材に到達することを防止する。この高Alフェライトの延性層の例を図8に示す。
【0029】
熱間成形には、2つのバリエーション、すなわち、直接及び間接ホットスタンピングが存在する。直接プロセスは、加熱及び成形された被覆ブランクから開始する一方、間接プロセスは、被覆ブランクから予備成形されたコンポーネントを使用して、このコンポーネントが、その後、加熱及び冷却され、冷却後に所望の特性及びミクロ組織が得られる。直接法では、鋼ブランクを、炉内で、鋼がオーステナイトに変態するのに十分に高い温度まで加熱し、プレスで熱間成形し、冷却して製品の所望の最終ミクロ組織を得る。本発明者らは、本発明による方法が、熱間成形製品の冷却後に改善された特性をもたらす任意の鋼種の鋼ストリップの被覆に使用することに非常に適していることを見出した。これらの例は、臨界冷却速度を超える冷却速度でオーステナイト範囲から冷却した後にマルテンサイトミクロ組織をもたらす鋼である。ただし、冷却後のミクロ組織は、マルテンサイトとベイナイトとの混合物、マルテンサイトと残留オーステナイトとベイナイトとの混合物、フェライトとマルテンサイトとの混合物、マルテンサイトとフェライトとベイナイトとの混合物、マルテンサイトと残留オーステナイトとフェライトとベイナイトとの混合物、又はフェライトや非常に細かいパーライトさえも含むことがあり得る。完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層は、加熱、熱間成形及び冷却中の酸化及び脱炭から鋼ストリップを保護し、例えば自動車用途で使用される最終成形製品への適切な塗料接着性及び腐食保護性を提供する。
【0030】
鋼ストリップは、熱間圧延ストリップであってもよいし、冷間圧延ストリップであってもよい。好ましくは、鋼は冷間圧延された硬質(full hard)鋼ストリップである。溶融アルミニウム合金に浸漬する前に、冷間圧延された硬質ストリップは、再結晶アニーリング又は回復アニーリングに供されていてもよい。ストリップが再結晶アニーリング又は回復アニーリングに供されていた場合、この再結晶アニーリング又は回復アニーリングは連続的であり、溶融めっき工程にホットリンク(hot-linked)されることが好ましい。鋼ストリップの厚さは、典型的には0.4~4.0mm、好ましくは0.7mm以上及び/又は3.0mm以下である。
【0031】
本発明による被覆された鋼ストリップは、一方で熱間成形中の酸化に対する良好な保護を提供し、他方で完成部品の優れた塗料接着性を提供する。表面層にτ相が存在する場合、それは連続した層としてではなく、埋め込まれた島(embedded islands)、すなわち分散物の形態で存在することが重要である。分散物は、2以上の相を含む物質であって、1以上の相(分散相)がマトリックス相に埋め込まれた微細に分割された相領域で構成される物質として定義される。塗料の付着性の改善は、本発明者らが既知のコーティングの接着しにくさの原因であることを見出したτ相の不存在又は制限された存在による成果である。本発明において、組成が以下の範囲、50~70重量%のFe、5~15重量%のSi及び20~35重量%のAlの組成範囲を有するFeSiAl相である場合には、相はτ相であると見なされる。アルミニウム層への鉄の拡散の結果として、ケイ素の溶解度が超過するとき、τ相が形成される。鉄の富化の結果として、ケイ素の溶解度が超過すると、FeSiAl等のτ相が形成される。この形成により、熱間成形工程中のアニーリングの持続時間及びアニーリング温度の高さに制限が課せられる。そのため、第一に鋼ストリップ又はシート上のアルミニウム合金層におけるケイ素含有量の制御、第二にアニーリング温度及び時間によって、τ相の形成を容易に回避又は制限することができる。このことの付加的な利点は、炉内のブランクの所要時間も短縮できることであり、これにより、炉に供する時間を短くすることができ、これは経済的に有利である。所定のコーティング層のアニーリング温度及び時間の組み合わせは、簡単な実験に続く通常のミクロ組織観察によって容易に決定される(下記の実施例を参照)。割合はコーティング層の断面で測定されるため、τ相の割合は面積%で表されることに留意すべきである。好ましくは、τ相は表面層に存在しない。塗料の接着性に対するτ相の存在の影響のため、表面層にτ相が存在しないか、又は、少なくとも、塗料がコーティング層と接触する場所である最も外側の表面層にτ相が存在しないことが好ましい。
【0032】
接触率(C:contiguity)は、材料のミクロ組織を特徴付けるために使用される特性である。接触率は、複合材料内の複数の相の結び付けられた性質(connected nature)を定量化するものであり、α-βの2相組織において他のα相粒子と共有されるα相(an α phase shared with other α phase particles)の内部表面の割合として定義することができる。一方の相の他方の相中の分布が、完全に分散した組織(α-α接触なし)から完全に凝集した組織(α-α接触のみ)まで変化するにつれて、相の接触率は0~1の間で変化する。界面面積は、ミクロ組織の研磨面上の相界面での交差を数えるという簡単な方法を使用して得ることができ、接触率は以下の式で与えられる。
【0033】
【数1】
【0034】
式中、Cα及びCβは、α及びβ相の接触率であり、ΝL αα及びΝL ββは、それぞれ、単位長さのランダムな線とα/α界面及びβ/β界面との交差数であり、ΝL αβは単位長さのランダムな線とα/β界面との交差数である。接触率Cαが0の場合には、他のα粒子に接触するα粒子は存在しない。接触率Cαが1の場合には、すべてのα粒子は他のα粒子に接触し、これは、β相に埋め込まれたα粒子(α-grains embedded the β-phase)の大きな塊が1つだけ存在することを意味する。
【0035】
表面層中のτ相の接触率は、τ相が存在する場合には、Cτ≦0.4であることが好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態において、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の組成は、50~55重量%のAl、43~48重量%のFe、0.4~4重量%のSi並びに溶融めっきプロセスに対応する不可避的元素及び不純物である。いくつかの元素は、特定の理由で溶融物に添加されることが知られていることに留意すべきである。すなわち、Ti、B、Sr、Ce、La及びCaは、粒子径を制御したり、アルミニウム-ケイ素共晶を調整したりするために使用される元素である。Mg及びZnは、最終的な熱間成形製品の耐食性を改善するために、浴に添加することができる。その結果、これらの元素も、アルミニウム合金コーティング層に、ひいては完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層に、最終的に含まれる可能性がある。好ましくは、溶融アルミニウム合金浴中のZn含有量及び/又はMg含有量は、トップドロス(top dross)を防止するために1.0重量%未満である。Mn、Cr、Ni及びFe等の元素も、浴を通過する鋼ストリップから、これらの元素が溶解する結果として、溶融アルミニウム合金浴に存在する可能性が高く、したがって、アルミニウム合金コーティング層に最終的に含まれる可能性がある。溶融アルミニウム合金浴中の鉄の飽和レベルは、典型的には2~3重量%である。したがって、本発明の方法において、アルミニウム合金コーティング層は、典型的には、マンガン、クロム及び鉄等の、鋼基材からの溶解元素を、溶融アルミニウム合金浴中におけるこれらの元素の飽和レベルまで含む。
【0037】
本発明の一実施形態において、溶融アルミニウム合金は、0.4~4.0重量%のケイ素を含み、溶融アルミニウム合金浴は、その融解温度と750℃との間の温度、好ましくは660℃以上及び/又は700℃以下の温度に維持される。好ましくは、溶融アルミニウム合金に進入する鋼ストリップの温度は、550~750℃、好ましくは660℃以上及び/又は700℃以下である。これにより、ストリップは、実質的な加熱又は冷却なしに、好ましくは溶融めっき工程と予備拡散アニーリング工程との間の積極的な冷却なしに、溶融めっき工程から予備拡散アニーリング工程に進むことができる。積極的な加熱は、浴を出た後の受動的な冷却に起因する、及び、厚さ制御手段の(意図しない)冷却効果に起因する温度の低下を補償する場合にのみ要求される。予備拡散アニーリング工程の温度は、600~800℃、好ましくは630℃以上、さらに好ましくは650℃以上及び/又は750℃以下である。通常、予備拡散アニーリング工程の温度は680~720℃である。
【0038】
好ましい実施形態において、鋼ストリップは、0.6m/秒~4.2m/秒、好ましくは3.0m/秒以下、さらに好ましくは1.0m/秒以上及び/又は2.0m/秒以下の速度vで、溶融めっき工程及び予備拡散アニーリング工程を通って搬送される。これらの速度は、溶融めっきラインの工業的速度であり、本発明による方法は、この製造速度を維持することを可能にする。
【0039】
一実施形態において、アルミニウム合金コーティング層は、0.5重量%以上のSi、好ましくは0.6重量%以上のSi、さらに好ましくは0.7又は0.8重量%以上のSiを含む。一実施形態において、アルミニウム合金コーティング層は、3.5重量%以下、好ましくは3.0重量%以下、さらに好ましくは2.5重量%以下のSiを含む。
【0040】
一実施形態において、アルミニウム合金コーティング層は、1.6~4.0重量%のケイ素、好ましくは1.8重量%以上、及び/又は3.5、3.0又は2.5重量%以下のケイ素を含む。この実施形態は、典型的には20μm未満の薄いコーティング層に特に適している。
【0041】
別の実施形態において、アルミニウム合金コーティング層は、0.4~1.4重量%のケイ素、好ましくは0.5~1.4重量%のケイ素、さらに好ましくは0.7~1.4重量%のケイ素を含む。好適な最大値は1.3重量%のケイ素である。この実施形態は、典型的には厚さが20μm以上の厚いコーティング層に特に適している。
【0042】
好ましくは、アルミニウム合金コーティング層の厚さは、10μm以上及び/又は40μm以下、好ましくは12μm以上、さらに好ましくは13μm以上、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。合金化コストを考慮したコーティング層の厚さという一方の面と、アニーリングプロセスの速度及び耐酸化性という他方の面とのバランスが存在する。本発明者らは、上記の範囲がバランスの取れた選択を可能にすることを見出した。この観点からの最適な範囲は、15~25μmである。さらに、鋼ストリップの片側の厚さは反対側の厚さと異なる場合があり、極端な場合には、鋼ストリップの片側にのみアルミニウム合金コーティング層が存在し、反対側には何も存在しない場合もあり得ることに留意すべきである。ただし、これには、溶融めっき中に付加的な予防措置が必要となるため、通常は、両側に、必要に応じて異なる厚さを有するアルミニウム合金コーティング層が存在する。
【0043】
好ましい実施形態において、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層のケイ素含有量(重量%)に依存する、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層の厚さd(μm)は、式(1)、(2)及び(3):
(1)d≧-1.39・Si+12.6
(2)d≦-9.17・Si+43.7
(3)Si≧0.4%
によるSi-d空間に囲まれる(enclosed in the Si-d space by the equations (1), (2) and (3))。
【0044】
ケイ素含有量が多いほど、コーティング層の厚さdは小さくなり、操作ウィンドウ(operational window)は小さくなる。
【0045】
好ましい実施形態において、予備拡散アニーリング工程におけるアニール時間は、30秒以下である。アニーリング時間が短いほど、予備拡散アニーリング工程におけるアニーリング手段が短くなるため、設備投資及び運用コストが低くなる。好ましくは、アニーリング手段は、誘導型炉を含むか、又は、誘導型炉からなる。このタイプの加熱は、迅速であり、クリーンであり、反応性が高い(reactive)。バーナーを使用する場合のように、複雑な炉の雰囲気を維持する必要はない。また、誘導炉の環境への影響は、他のタイプの炉に比べて低い。接触加熱又は抵抗加熱でも同じ利点が得られる。誘導加熱と抵抗加熱の付加的な利点は、ストリップ内で熱が発生し、したがって、内部に由来することであり、このことは、鋼ストリップからアルミニウム合金コーティング層への鉄の拡散を促進する上で有益である。誘導炉に代えて又は誘導炉とともに、放射管炉、直火炉、電気加熱炉、又はそれらの組み合わせを使用することができる。好ましくは、予備拡散アニーリング工程におけるアニーリング時間は、2秒以上、好ましくは5秒以上、好ましくは25秒以下である。典型的な最小アニーリング時間は10秒であり、典型的な最大アニーリング時間は20秒である。予備拡散アニーリング工程は、アルミニウム合金コーティング層のうち少なくとも外層がまだ液体である間に実施される必要があるため、予備拡散アニーリング工程の入口は、
エアナイフ等のアルミニウム合金コーティング層の厚さ制御手段に実際に可能な限り近くに位置する。実際には、予備拡散アニーリング工程の入口は、厚さ制御手段の約0.5~5.0m後に位置する。
【0046】
溶融アルミニウム合金浴への鋼ストリップの浸漬時間は2~10秒である。より長い時間は、非常に深い浴又はその中の複雑な軌道、又は非常に遅い走行ラインを必要とするが、これらは全て望ましくない一方、層の厚さを構築するのに十分な時間が必要である。典型的な最小浸漬時間は3秒であり、典型的な最大浸漬時間は6秒である。
【0047】
溶融アルミニウム合金浴を出ると、鋼ストリップ上のアルミニウム層の厚さは、空気、窒素又は他の適切なガスを高圧でノズルスリットから新たに浸漬した鋼に吹き付ける、エアナイフ等の厚さ制御手段によって制御される。圧力、鋼ストリップからの距離、又は溶融アルミニウム合金上のノズルの高さを変更することにより、コーティングの厚さを要求に応じて調整することができる。
【0048】
第2の態様によれば、本発明は、請求項10に記載の鋼ストリップに関する。好ましい実施形態は、請求項11及び12に提供されている。
【0049】
本発明の一実施形態において、鋼ストリップは、重量%で、
C:0.01~0.5
P:≦0.1
Nb:≦0.3
Mn:0.4~4.0
S:≦0.05
V:≦0.5
N:0.001~0.030
B:≦0.08
Ca:≦0.05
Si:≦3.0
O:≦0.008
Ni:≦2.0
Cr:≦4.0
Ti:≦0.3
Cu:≦2.0
Al:≦3.0
Mo:≦1.0
W:≦0.5
を含み、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する。これらの鋼は、熱間成形プロセス後に非常に良好な機械的特性を実現することができる一方、Ac1又はAc3を超える熱間成形中は非常に成形性が高い。好ましくは、窒素含有量は0.010%以下である。1種以上の任意の元素がいずれも存在しない可能性がある、すなわち、元素の量が0重量%であるか、元素が不可避的不純物として存在することに留意するべきである。好ましい実施形態において、鋼ストリップの炭素含有量は、0.10%以上及び/又は0.25%以下である。好ましい実施形態において、マンガン含有量は1.0%以上及び/又は2.4%以下である。好ましくは、ケイ素含有量は0.4重量%以下である。好ましくは、クロム含有量は1.0重量%以下である。好ましくは、アルミニウム含有量は1.5重量%以下である。好ましくは、リン含有量は0.02重量%以下である。好ましくは、硫黄含有量は0.005重量%以下である。好ましくは、ホウ素含有量は50ppm以下である。好ましくは、モリブデン含有量は0.5重量%以下である。好ましくは、ニオブ含有量は0.3重量%以下である。好ましくは、バナジウム含有量は0.5重量%以下である。好ましくは、ニッケル、銅及びカルシウムはそれぞれ0.05重量%未満である。好ましくは、タングステンは0.02重量%以下である。これらの好ましい範囲は、上記に個別に又は組み合わせて開示された鋼ストリップの組成と組み合わせて使用することができる。
【0050】
好ましい実施形態において、鋼ストリップは、重量%で、
C:0.10~0.25
P:≦0.02
Nb:≦0.3
Mn:1.0~2.4
S:≦0.005
V:≦0.5
N:≦0.03
B:≦0.005
Ca:≦0.05
Si:≦0.4
O:≦0.008
Ni:≦0.05
Cr:≦1.0
Ti:≦0.3
Cu:≦0.05
Al:≦1.5
Mo:≦0.5
W:≦0.02
を含み、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する。好ましくは、窒素含有量は0.010%以下である。
【0051】
熱間成形に適した典型的な鋼種を表Aに示す。
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の第3の態様によれば、本発明による完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素で被覆された鋼ストリップは、熱間成形プロセスにおいて熱間成形製品を製造するために使用される。熱間成形されるブランクは、既に本発明による拡散プロセスを受けている、すなわち、予備拡散されているため、熱間成形プロセスの加熱工程中に液体層が存在しないことにより、付着リスクのないよりクリーンなプロセスが可能になる。また、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素で被覆された鋼ストリップの反射率は、従来技術(10重量%のSi)のアルミニウム-ケイ素で被覆された鋼ストリップの反射率よりもはるかに低く、放射炉を使用するとブランクの加熱が速くなるため、再加熱炉の数及びサイズを減少させるとともに、ロールのビルドアップによる製品の損傷及び機器の汚染を減少させる可能性がある。FeAl相は色が濃いため、放射炉での反射率が低くなり、熱の吸収が大きくなる。
【0054】
さらに、誘導加熱及び赤外線加熱等の他の加熱手段を、非常に高速の加熱のために使用することができる。これらの加熱手段は、単独の状況で、又は短い放射炉の前の高速加熱工程として使用することができる。
【0055】
さらに、熱間成形された被覆鋼製品は、向上した塗料の接着性を実現する。10重量%のSiを含む従来技術のアルミニウム-ケイ素で被覆された鋼ストリップの誘導加熱は、不良な表面品質を招く。なぜなら、これらの鋼の外層は、熱間成形ラインの加熱炉における鋼の再加熱中に液体になるためである。液体層は誘導場(induction field)に反応し、滑らかではなく波状になる。本発明による完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素で被覆された鋼ストリップでは、鉄の拡散が予備拡散アニーリング工程で既に生じているため、熱間成形ラインの加熱炉における総アニーリング時間がさらに短縮されるとともに、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素で被覆された鋼ストリップの反射率が低いことに起因して、加熱速度が速くなる。
【0056】
図1において、本発明による工程が要約される。鋼ストリップは、必要に応じて洗浄セクションに通され、薄片(scale)、油残留物等の先行する工程の不要な残余物が除去される。その後、洗浄したストリップは、必要に応じてアニーリングセクションに進む。これは、熱間圧延ストリップの場合には、ストリップを加熱して溶融めっき(いわゆるheat-to-coatサイクル)を可能にするためだけに使用することができ、冷間圧延ストリップの場合には、回復又は再結晶アニーリングのために使用することができる。アニーリングの後、ストリップは、溶融めっき工程に進み、そこでは、本発明のアルミニウム合金コーティング層が設けられる。溶融めっき工程と、その後に必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程との間に配置された、アルミニウム合金コーティング層の厚さを制御するための厚さ制御手段が模式的に示されている。必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程において、アルミニウム合金コーティング層が、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素層に変換され、その後、被覆されたストリップは、巻き取り前に後処理(例えば、必要に応じて行われる調質圧延又は張力レベリング等)に供される。
【0057】
図1には、本発明によるプロセスの実施形態が要約されている。鋼ストリップは、必要に応じて洗浄セクションを通され、薄片(scale)、油残留物等の先行する工程の不要な残余物が除去される。その後、洗浄したストリップは、必要に応じてアニーリングセクションに進む。これは、熱間圧延ストリップの場合には、ストリップを加熱して溶融めっき(いわゆるheat-to-coatサイクル)を可能にするためだけに使用すうことができ、冷間圧延ストリップの場合には、回復又は再結晶アニーリングのために使用することができる。アニーリングの後、ストリップは、溶融めっき工程に進み、そこでは、本発明のアルミニウム合金コーティング層が設けられる。溶融めっき工程と、その後に必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程との間に配置された、アルミニウム合金コーティング層の厚さを制御するための厚さ制御手段が示されている。必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程において、アルミニウム合金コーティング層が、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素層に変換される。厚さ制御手段の通過後の被覆ストリップの冷却は、通常2つの工程で行われる。厚さ制御手段の通過直後の冷却は、アルミニウム合金コーティング層の回転圧延への接着又は損傷を防止することを目的としており、通常、約10~30℃/sの冷却速度で空冷又はミスト冷却によって行われ、さらにラインにおいて、アルミニウム合金コーティング層を備えたストリップは、通常は水中での急冷により、急速に冷却される。冷却の影響は、主に熱によるものであり、ライン及びアルミニウム合金コーティング層の損傷を防止して、鋼基材の特性に対する冷却の影響は無視できることに留意すべきである。その後、図1に従って製造された(すなわち、被覆時の又は予備拡散された)ストリップ又はシートを、本発明の熱間成形工程において使用することができる。
【0058】
本発明の一実施形態において、溶融めっきされたストリップは、溶融めっきの直後ではなく、加熱成形操作の直前に予備拡散される。この予備拡散は、ブランキング前のコイル状にされていないストリップ、ストリップから切断されたシート、又はストリップ又はシートから切断されたブランクに対して実施されてもよい。この実施形態は、巻き取り(coiling)、搬送(tansport)、巻き戻し(uncoiling)及び取扱い(handling)中の予備拡散されたストリップの損傷のリスクを減少させる。なぜなら、鋼基材上の鉄-アルミニウム金属間化合物から実質的に完全になる、1又は複数の実質的に完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層が脆くなる傾向があるからである。ケイ素含有量が少ない結果として、表面に液体材料が存在しないため、誘導を使用して予備拡散を行うことができる。予備拡散されたストリップから得られたブランク、又は事前に個別に予備拡散されたブランクには、予備拡散後にFeAlを含むコーティングが施されている。
【実施例
【0059】
以下の非限定的な実施例により本発明をさらに説明する。試験のための鋼基材は、表1に示す組成を有する。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1
2つのアルミニウム合金被覆鋼を製造した。サンプルAは、0.9重量%のSiを含む溶融アルミニウム合金浴中で鋼ストリップを溶融めっき(hot-dipping)することにより製造した。サンプルBは、9.6重量%のSiを含む先行技術のアルミニウム合金浴中で溶融めっきすることにより製造した。両方の浴はFe(約2.8重量%)で飽和した。使用した鋼種は、硬質状態(full hard condition)の1.5mmの冷間圧延鋼であり、熱間成形用途に適した組成を有する。溶融めっきの前に、鋼を再結晶アニーリングした。再結晶アニーリングの直後に、鋼をそれぞれのアルミニウム合金浴に3秒間浸漬した。これは、約120m/秒のライン速度と一致する。浴内のストリップの入口温度(entry temperature)は680℃、浴温度は700℃であった。溶融めっき後、コーティングの層厚を、窒素ガスでワイピングすることにより20μmに調整した。鋼は、事前に合金化するために、予備拡散アニーリング工程において700℃で20秒間アニーリングし、その後、窒素ガスで強制冷却した。
【0062】
図2は、アニーリングされたアルミニウム合金コーティング層を示す。サンプルAのコーティングは、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層であり、サンプルBのコーティングは、コーティング浴の組成を有する非合金化層を表面に有する厚さ10μm未満の合金化層(サンプルAの完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティングとは組成が異なる)で構成される。700℃の予備拡散アニーリング工程におけるアニーリング時間を変化させたサンプルBの追加実験では、合金層の成長速度が非常に遅いことが示されている(表1参照)。コーティング層の残部は液体のままである。
【0063】
図9には、3.0%のSi及び1.6%のSiのアニーリングしたAl-Siコーティング層の層構成を示す[AB1]。
【0064】
右側の列は、1.6重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングが設けられた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達(development)を示す。図Aは、浸漬直後に形成された層を含むコーティング時の層(as-coated layer)と、浴の組成を有する上層とを示し、Bは、サンプルが700℃に達した時点における再加熱中の発達を示し、Cは、900℃で5分間アニーリングした後の状態を示す。サンプルCでは、拡散領域(diffusion zone)がはっきりと見えるようになり、浴の組成を有する上層が完全に消えた(EDS:加速電圧(EHT)15keV,作動距離(wd:working distance)6.0、6.2及び5.9mm)。
【0065】
1.6重量%のSiの層(図9-右)は、主にFeAlで構成されており、上側には、図9A-右に示すように、FeAlの薄い層が基材界面に存在している。標準的な10重量%のSiのコーティングとは対照的に、FeSiAl層は存在しない。加熱中に、薄いFeAl層が上側に存在するFeAl層が表面に向かって成長している。FeAlのSiの溶解度限界を超えていないため、Siに富む相は沈殿しない。図9B-右を参照のこと。FeAlは、FeSiAlの沈殿なしに表面まで成長し続け、鉄基材に近づくと、FeAlとして同定される鉄に富む相が発達する。図9C-右を参照のこと。
【0066】
図9(左側の列)は、3.0重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングが設けられた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す(EHTは15keV,wdはそれぞれ6.6、6.5、6.2mm)。図Aは、浸漬直後に形成された層を含むコーティング時の層と、浴の組成を有する上層とを示す。Bは、サンプルが850℃に達した時点における再加熱中の発達を示し、Cは、900℃で7分間アニーリングした後の状態を示す。サンプルCでは、拡散領域がはっきりと見えるようになり、浴の組成を有する上層が完全に消えた。また、FeAl層中に分散しており、連続層を形成していない、ある程度のτ相(FeSiAl)が見える。
【0067】
図3に示すように、3重量%の浴に浸漬したコーティングでは、熱処理の最初の段階でほぼ同様の層の発達が観察される。しかしながら、Siの溶解度の限界をちょうど超えており、熱処理の終わりに球状のFeSiAlの沈殿が生じる。表面でのFeSiAlの富化は観察されない。
【0068】
両方の合金含有量は、金属間化合物FeAl、FeAl、及びSi含有量に応じてFeSiAl2から実質的に完全になる完全に合金化されたコーティング層をもたらす。
【0069】
【表3】
【0070】
したがって、予備拡散アニーリング工程は、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層を生成しないため、9.6重量%のSiを含む従来技術のコーティングは、本発明によるインラインでの事前合金化(pre-alloying)に適していない。一方、0.9%のSiを含むコーティングは、20秒後に既に20μmの厚さの完全に合金化された層を呈する。
【0071】
実施例2
実施例1のサンプルA(再結晶された1.5mm厚の冷間圧延ストリップ)を、0.5、0.9、1.1、1.6重量%の間で変化する異なるSi濃度を有する本発明によるアルミニウム合金浴中で溶融めっきし、予備拡散アニーリング時間を0~30秒の範囲とした。予備拡散のアニーリング温度は700℃とした。コーティング浴を出た後、窒素ジェットによりコーティング層の厚さを30~40μmに調整した。これらの実施例の目的は、形成されたコーティングの厚さの制限効果なしに、達成可能な最大の合金化前の厚さを決定することであったため、比較的厚い層を作製することは意図的な選択であった。アニーリング時間を変化させた点を除き、鋼を実施例1と同様に処理した。生成されたコーティングの断面(SEM)を図3に示す。画像は、Si濃度が低く、熱処理時間が長いほど、合金層の厚さが厚くなることを明確に示している。合金層の厚さを図4に示す。測定は、Si濃度及び熱処理時間に応じて、合金層の厚さは10~35μmの範囲であることを示す。図4には、測定値及び測定値の外挿に基づいて、3秒の浸漬時間及び0~30秒の加熱時間で生成できる完全に合金化されたコーティングの厚さを示す三角形が描かれている。
【0072】
実施例3
熱間成形鋼(1.5mm)を、0.9重量%のSi及び2.3重量%のFeを含むアルミニウム合金コーティング層で被覆し、この際、溶融アルミニウム合金浴への浸漬時間を3、5及び10秒とした。コーティング浴を出た後、窒素でワイピングすることにより層の厚さを25μmに調整した。次いで、鋼を窒素で強制冷却した。浴及びストリップの入口温度は上記と同一とした。合金層の厚さを表2に示す。より長い浸漬時間、すなわちより低いライン速度における合金層の厚さの増加が明確に示されている。
【0073】
【表4】
【0074】
浸漬時間を変更することにより、実施例3(図4)の製造ウィンドウを拡大することができる。両方の実施例のデータを組み合わせると、図5に示すように、完全に合金化されたコーティングの生産ウィンドウが得られた。
【0075】
実施例4
熱間成形鋼(1.5mm)を、1.9重量%のSi及び2.3重量%のFeを含むアルミニウム合金コーティング層で被覆し、この際、溶融アルミニウム合金浴への浸漬時間を3、5及び10秒とした。コーティング浴を出た後、窒素でワイピングすることにより層の厚さを25μmに調整した。次いで、鋼を窒素で強制冷却した。浴及びストリップの入口温度は上記と同一とした。合金層の厚さを表3に示す。より長い浸漬時間、すなわちより低いライン速度における合金層の厚さの増加が明確に示されている。
【0076】
【表5】
【0077】
実施例5
予備拡散アニーリング後のサンプルA(本発明に従って700℃で20秒間)及び溶融めっき後のサンプルB(予備拡散アニーリングなし、これは従来技術の状態である)の層構造が図6(SEM断面画像)で比較されている。サンプルAは、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素コーティング層を示す一方、サンプルBのコーティングは、鋼界面の薄い合金層であるが、コーティングの上部は合金化されておらず、コーティング浴の組成と等しい平均組成を有する。結果として、上層は約575℃の温度で融解を開始する。この状態の鋼を、900℃に設定された放射炉で熱処理し、熱電対をストリップに溶接して昇温速度を記録し。両方の鋼の加熱曲線(図7参照)は、比較サンプルBと比較して、事前に合金化されたサンプルAの加熱速度が速いことを明確に示している。事前に合金化されたコーティングの光沢のない外観(dull appearance)により、放射線の量は著しく減少する。より速い加熱速度は、同じ炉でより高いスループットを可能にする。代わりに、より小さな炉及びより少ない投資を必要とするより短い炉を使用することができる。サンプルBの加熱中に700、800、850℃の温度で得られたサンプルは、850℃の温度に到達して初めて完全に合金化された層が得られることを明らかにした。このことは、コーティング層の外側部分が575~850℃の温度範囲全体にわたって液体のままであることを意味する。コーティングが溶融している間に、炉ロールとの接触によってロールのビルドアップが形成される。ロールのビルドアップは、メンテナンスの増加及び炉のダウンタイムにつながるだけでなく、製品の損傷の原因にもなる。非溶融の事前に合金化されたコーティングを施したサンプルAは、どの温度でもロールのビルドアップを引き起こさない。
【0078】
実施例6
サンプルA(1.1重量%のSi)及びサンプルB(9.6重量%のSi)のシートを、900℃に設定された放射炉で加熱した。様々な時間間隔で、断面の検査のためにサンプルを炉から取り出して、固溶体のアルミニウムを含む延性層である拡散層の成長速度を決定した。10μmの拡散層の厚さは、良好な亀裂伝播抵抗を有する適切な拡散領域であると考えられる。試験の結果、900℃で170秒間後のサンプルA及び400秒間後のサンプルBにおいて10μmの厚さが達成されたことが判明した。サンプルA(本発明例)では、サンプルB(従来技術)と比較して、50%以上の炉時間の節約が達成されている。関連する画像を図8A及びBに示す。
図1
図2
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図7
図8
図9