(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】抄紙機の自動弛み補正システム
(51)【国際特許分類】
B65H 23/192 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
B65H23/192
(21)【出願番号】P 2020127980
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】藤富 寿之
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-127908(JP,A)
【文献】特開昭60-209459(JP,A)
【文献】特開平09-272647(JP,A)
【文献】特開平07-315647(JP,A)
【文献】特開平07-277565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/188
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動作モード、第2動作モードおよび第3動作モードを順次切り替えて運転される、抄紙機の自動弛み補正システムであって、
紙を搬送するロールのモータを駆動する駆動装置を制御するように設けられた制御コントローラと、
前記制御コントローラに接続され、前記ロールによって搬送される紙の画像を撮影するカメラによって取得された画像データを収集するデータ収集装置と、
を備え、
前記第1動作モードでは、前記制御コントローラは、オペレータの操作によって生成された操作信号にもとづいて生成された補正量および前記駆動装置を制御する第1
速度指令値の
加算によって生成された新たな第2
速度指令値を前記駆動装置に供給し、
前記データ収集装置は、前記制御コントローラから、前記操作信号の第1時系列データおよび前記第2
速度指令値の第2時系列データを収集し、
前記カメラによって取得された画像データを収集して前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに時刻同期して第3時系列データを生成し、
前記第3時系列データのそれぞれを画像処理して数値化した数値化データの第4時系列データを生成し、
前記第1動作モードに続く前記第2動作モードでは、前記制御コントローラは、前記第1時系列データ、前記第2時系列データ、前記第3時系列データおよび前記第4時系列データにもとづいて、前記第2時系列データと前記第4時系列データとの関係を表す近似式を算出し、
前記第2動作モードに続く前記第3動作モードでは、前記データ収集装置は、前記カメラによって紙の新たな画像データを画像処理して新たな数値化データを生成し、
前記制御コントローラは、前記新たな数値化データを前記近似式に入力し出力された新たな
速度指令値のデータにもとづいて第3
速度指令値を生成して前記駆動装置に供給する抄紙機の自動弛み補正システム。
【請求項2】
前記データ収集装置は、データベースを含み、
前記第1動作モードでは、前記データ収集装置は、前記操作信号がアクティブとなるタイミングに応じて前記第1~前記第4時系列データの前記データベースへの格納を開始し、前記操作信号が非アクティブとなるタイミングに応じて前記第1~前記第4時系列データの前記データベースへの格納を終了する請求項1記載の抄紙機の自動弛み補正システム。
【請求項3】
前記第2動作モードでは、前記制御コントローラは、前記第4時系列データの各データとあらかじめ設定された第1しきい値との偏差を計算し、
前記第2時系列データから前記偏差に対応する時刻におけるデータを抽出し、
前記偏差および前記データのプロットにもとづいて前記近似式を算出する請求項1または2に記載の抄紙機の自動弛み補正システム。
【請求項4】
前記第3動作モードでは、前記データ収集装置は、前記新たな紙の画像データの特徴量の大きさがあらかじめ設定した第2しきい値以上の場合に前記新たな数値化データを生成し、前記特徴量の大きさが前記第2しきい値よりも小さい場合には、前記新たな数値化データを生成しない請求項1~3のいずれか1つに記載の抄紙機の自動弛み補正システム。
【請求項5】
前記制御コントローラは、前記近似式として、前記偏差を入力し、前記第1時系列データのアクティブとなっている時刻から非アクティブとなっている時刻までの時間である補正時間を出力する第1近似式と、前記偏差を入力し、前記補正時間の間の前記
新たな速度指令値のデータの大きさを出力する第2近似式と、を設定する請求項3記載の抄紙機の自動弛み補正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、抄紙機の自動弛み補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機のパートや場所によっては張力検出器を設置できない場合がある。張力検出器がない場所における紙の弛みは、オペレータが手動介入することによって調整される。手動介入では、自身の経験をもとに、オペレータが紙の状態を目視確認しながら行っている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手動介入による弛みの調整は、オペレータの感覚に頼る操作となるため、技術継承が難しい。また、手動介入を前提とした制御システムでは、オペレータの常時監視が必要となるため、オペレータの勤務負担が大きくなる一方で交代要員の確保が難しいとの現状もある。
【0005】
本発明の実施形態は、オペレータの手動操作によらず、自動的に紙の弛みを補正する抄紙機の自動弛み補正システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る抄紙機の自動弛み補正システムは、第1動作モード、第2動作モードおよび第3動作モードを順次切り替えて運転される。この自動弛み補正システムは、紙を搬送するロールのモータを駆動する駆動装置を制御するように設けられた制御コントローラと、前記制御コントローラに接続され、前記ロールによって搬送される紙の画像を撮影するカメラによって取得された画像データを収集するデータ収集装置と、を備える。前記第1動作モードでは、前記制御コントローラは、オペレータの操作によって生成された操作信号にもとづいて生成された補正量および前記駆動装置を制御する第1速度指令値の加算によって生成された新たな第2速度指令値を前記駆動装置に供給し、前記データ収集装置は、前記制御コントローラから、前記操作信号の第1時系列データおよび前記第2速度指令値の第2時系列データを収集し、前記カメラによって取得された画像データを収集して前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに時刻同期して第3時系列データを生成し、前記第3時系列データのそれぞれを画像処理して数値化した数値化データの第4時系列データを生成する。前記第1動作モードに続く前記第2動作モードでは、前記制御コントローラは、前記第1時系列データ、前記第2時系列データ、前記第3時系列データおよび前記第4時系列データにもとづいて、前記第2時系列データと前記第4時系列データとの関係を表す近似式を算出する。前記第2動作モードに続く前記第3動作モードでは、前記データ収集装置は、前記カメラによって紙の新たな画像データを画像処理して新たな数値化データを生成し、前記制御コントローラは、前記新たな数値化データを前記近似式に入力し出力された新たな速度指令値のデータにもとづいて第3速度指令値を生成して前記駆動装置に供給する。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態では、オペレータの手動操作によらず、自動的に紙の弛みを補正する抄紙機の自動弛み補正システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る抄紙機の自動弛み補正装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】実施形態に係る抄紙機の自動弛み補正装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】実施形態の抄紙機の自動弛み補正装置の動作を説明するための模式的な動作波形の例である。
【
図4】
図4(a)は、側方および上方からの撮影領域における画像データの例である。
図4(b)は、
図4(a)のA部の模式的な拡大図である。
図4(c)は、側方および上方からの撮影領域における画像データのうち弛みが発生した状態の例である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、紙の画像データの良否比較の例である。
図5(c)は、抄紙機の自動弛み補正装置が生成する補正時間近似式および補正量近似式の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る抄紙機の自動弛み補正装置を例示する模式的なブロック図である。
図1には、抄紙機の自動弛み補正システム(以下、単に自動弛み補正システム)110のほか、抄紙機100全体の構成が示されている。
図1に示すように、実施形態の自動弛み補正システム110は、データ収集装置2と、制御コントローラ10と、を備える。自動弛み補正システム110は、カメラ1a,1b、ロール5a,5bの駆動装置(図示せず)および操作パネル3に接続されている。
【0011】
ロール5a,5bは、ロール5a,5bを駆動するモータ(図示せず)に接続されており、モータは、駆動装置によってそれぞれ駆動される。自動弛み補正システム110は、駆動装置およびモータを介して、ロール5a,5bに接続されている。ロール5a,5b間には紙6が設けられており、紙6は速度制御されたロール5a,5bによって、たとえば所望の張力を維持しつつ搬送される。
【0012】
カメラ1a,1bは、ロール5a,5b間で搬送される紙6を撮影するように設けられている。カメラ1aは、紙6の上面の撮影領域SVaを撮影するように、紙6の上方に設けられている。カメラ1bは、紙6の側方からの撮影領域SVbを撮影するように、紙6の側方に設けられている。
【0013】
撮影領域SVa,SVbは、たとえば、搬送される紙6の弛みの状態をオペレータが目視する範囲にもとづいて設定される。紙6の弛みをより正確に数値化するためには、より広い範囲に設定されることが好ましいが、後述するように、数値化するときの演算処理負担を軽減する観点からは、より狭い範囲に設定される。
【0014】
自動弛み補正システム110は、カメラ1a,1bによって撮影された紙6の上面および側面の画像データを取得する。
【0015】
自動弛み補正システム110は、駆動装置からロール5a,5bの速度等のデータを取得する。自動弛み補正システム110は、たとえば、ロール5a,5b間の紙6の張力を所望の値となるように、駆動装置から得たデータ等にもとづいて、駆動装置に対する速度指令値を生成し、駆動装置に供給する。自動弛み補正システム110が駆動装置と送受信する信号を制御信号と呼び、制御信号は、実測の速度データを含む速度信号や速度指令値等を含む。
【0016】
操作パネル3は、オペレータによって操作され、操作に応じた信号を生成する。生成された信号は、操作信号として、自動弛み補正システム110に送信される。オペレータは、たとえば、ロール5a,5b間を搬送される紙6の弛み等の状態を目視して、適切な状態となるように、操作パネル3を操作する。
【0017】
実施形態の自動弛み補正システム110は、複数の動作モードを有する。複数の動作モードは、手動データ収集モード、補正量データ生成モードおよび自動運転モードである。自動弛み補正システム110は、手動データ収集モード、補正量データ生成モードおよび自動運転モードの順に動作モードを切り替えて動作する。
【0018】
手動データ収集モード(第1動作モード)では、自動弛み補正システム110は、操作パネル3によって生成された操作信号を受信している期間のデータを収集する。この期間を手動データ収集期間と呼ぶことがある。
【0019】
自動弛み補正システム110は、手動データ収集期間において、操作信号の時系列データ(第1時系列データ)および制御信号の時系列データ(第2時系列データ)を収集する。自動弛み補正システム110は、手動データ収集期間において、撮影領域SVa,SVbの画像データを収集し、収集した画像データ(第3時系列データ)を操作信号等の時系列データに時刻同期させる。自動弛み補正システム110は、手動データ収集期間において、時刻同期された画像データを画像処理することによって、2次元メッシュの明度情報の数値化データ(第4時系列データ)を生成する。
【0020】
自動弛み補正システム110は、時刻同期された操作信号、制御信号、画像データおよび数値化データをデータベースに格納する。
【0021】
補正量データ生成モード(第2動作モード)では、自動弛み補正システム110は、手動データ収集期間における、操作信号、制御信号および数値化データの関係を抽出する。具体的には、自動弛み補正システム110は、数値化データに関するしきい値(第1しきい値)があらかじめ設定されており、数値化データとしきい値との偏差を計算する。自動弛み補正システム110は、操作信号による補正時間と偏差との関係を表す近似式(補正時間近似式)および制御信号に対する補正量と偏差との関係を表す近似式(補正量近似式)を算出し、設定する。
【0022】
自動運転モード(第3動作モード)では、自動弛み補正システム110は、補正量データ生成モードにおいて生成された近似式にもとづいて、制御信号が補正され、抄紙機100が運転される。より具体的には、自動弛み補正システム110は、カメラ1a,1bで撮影された画像データから数値化データを生成する。自動弛み補正システム110は、生成した数値化データとしきい値との偏差を補正時間近似式および補正量近似式に入力し、算出された制御信号の補正量を算出された補正時間にわたって適用する。
【0023】
このようにして、自動弛み補正システム110は、オペレータの手動介入によらずに自動的に紙6の弛みを調整する。
【0024】
自動弛み補正システム110の構成について、より詳細に説明する。
図2に示すように、自動弛み補正システム110では、データ収集装置2および制御コントローラ10は、相互に接続されている。
【0025】
データ収集装置2は、データ収集部21と、画像処理部22と、記憶部23と、を含む。データ収集部21は、制御コントローラ10を介して、操作信号、制御信号および画像データを受信する。手動データ収集期間では、データ収集部21がこれらの信号等を受信する。手動データ収集期間は、操作信号がアクティブに遷移するタイミングに応じて開始され、操作信号が非アクティブに遷移するタイミングで終了される。
【0026】
操作信号および制御信号は、時刻のデータに関連付けられた時系列データである。データ収集部21は、時系列データである操作信号および制御信号の時刻に、画像データの撮影時刻を関連付けることによって、操作信号、制御信号および画像データを時刻同期させる。
【0027】
画像処理部22は、時刻同期された画像データを画像処理して、紙6の上面および側面の明度情報を数値化する。明度情報は、後述するように、2次元メッシュにおける明度のデータを移動平均することによって数値化される。
【0028】
画像処理部22は、手動データ収集モードでは、生成した数値化データを記憶部23のデータベースに格納する。画像処理部22は、自動運転モードでは、生成した数値化データを制御コントローラ10の補正量抽出部14に送信する。
【0029】
記憶部23は、データベースを記憶する。データベースは、データ収集部21で収集された操作信号の時系列データ、制御信号の時系列データ、時系列データに同期された画像データ、および画像データにより生成された数値化データを格納する。なお、抄紙機100で製造される紙6は、たとえば製品ごとに製品識別番号に関連付けされて、データベースに格納される。制御コントローラ10は、製品識別番号を指定することによって、データベースからその製品に関する時刻同期されたデータを抽出することができる。
【0030】
制御コントローラ10は、通信ネットワーク120を介して、カメラ1a,1b、駆動装置40、表示器18および操作用品31に接続されている。通信ネットワーク120は、たとえば制御系の通信ネットワークであり、送受信するデータの定周期性が保証されている。
【0031】
操作用品31は、オペレータの操作により操作信号を生成する用品である。操作用品31は、たとえば操作パネル3上に設けられたボタンスイッチである。オペレータがボタンスイッチを押下することによって、操作信号はアクティブとなり、ボタンスイッチを押下している期間中、操作信号のアクティブ状態が維持される。
【0032】
表示器18は、制御コントローラ10からの出力を表示する。たとえば、制御コントローラ10は、紙6の異常な弛みを検出した場合等に、警報出力を生成し、警報出力を表示器18に送信することができる。表示器18は、警報出力に応じて、たとえば弛みの状態が異常である旨のテキストを画面に表示する。また、表示器18は、制御コントローラ10がデータ収集装置2のデータベースから読み出した画像データを表示するようにしてもよい。データベースから画像データを順次読み出して、表示器18に出力し、目視により紙6の弛みの状態の良否判定の基準を設定する場合等に用いることができる。
【0033】
制御コントローラ10は、通信ネットワーク120を介して、操作用品31から操作信号を受信し、駆動装置40から速度信号を受信する。制御コントローラ10は、操作信号および速度信号にもとづいて、駆動装置40に対する速度指令値を生成する。この例では、制御コントローラ10は、操作信号がアクティブとされたときに、速度指令値を増大させるように補正量を生成し、速度指令値に加算して、新たな速度指令値として駆動装置40に供給する。
【0034】
制御コントローラ10は、通信ネットワーク120を介して、カメラ1a,1bが撮影した紙6の画像データを受信する。制御コントローラ10は、受信した画像データをデータ収集装置2に送信する。
【0035】
制御コントローラ10は、手動データ収集モードでは、取得した操作信号、制御信号および画像データをデータ収集装置2に送信する。制御コントローラ10は、補正量データ生成モードでは、データ収集装置2から手動データ収集モードにおいて収集されたデータを読み出して、補正時間近似式および補正量近似式を生成して、設定する。制御コントローラ10は、自動運転モードでは、常時取得する画像データを用いて生成された数値化データとしきい値との偏差を補正時間近似式および補正量近似式に入力して、出力された補正量を速度指令値に加算して、出力された補正時間にわたって駆動装置40に送信する。
【0036】
制御コントローラ10は、演算部12と、補正量抽出部14と、補正パターン解析部16と、を含む。演算部12は、操作信号、制御信号および画像データの送受信を通信ネットワーク120を介して実行する。演算部12は、図示しない記憶部に格納された制御プログラムにしたがって、通信ネットワーク120を介したデータの送受信を実行し、取得等したデータにもとづいて所望の処理を実行する。演算部12は、たとえば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)の演算処理装置(CPU)である。
【0037】
補正パターン解析部16は、補正量データ生成モードにおいて動作する。補正パターン解析部16は、手動データ収集モードにおいてデータベースに格納されたデータにもとづいて、補正時間近似式および補正量近似式を算出する。上述したように、補正時間近似式は、補正時間と数値化データのしきい値に対する偏差との関係を表す近似式である。補正量近似式は、速度指令値(制御信号)に対する補正量と数値化データのしきい値との偏差の関係を表す近似式である。補正パターン解析部16は、たとえば、製品識別番号ごとにデータベースから対応するデータを抽出し、製品識別番号ごとに、補正時間近似式および補正量近似式を算出する。
【0038】
補正パターン解析部16は、算出した補正時間近似式および補正量近似式を補正量抽出部14に設定する。自動弛み補正システム110を単一の製品に対して運転する場合には、たとえば、補正パターン解析部16は、自動運転モードに入る前にあらかじめ補正時間近似式および補正量近似式を補正量抽出部14に設定する。自動弛み補正システム110を複数の製品に対して運転する場合には、自動運転モードにおいて、製品識別番号ごとに補正時間近似式および補正量近似式を補正量抽出部14に設定する。
【0039】
補正量抽出部14は、補正パターン解析部16によって計算された補正時間近似式および補正量近似式を設定する。補正量抽出部14は計算した補正量を演算部12に送信し、送信された補正量は、演算部12によって、新たな速度指令値を計算され、設定される。
【0040】
実施形態の自動弛み補正システム110の動作について詳細に説明する。
手動データ収集モードでの動作について説明する。
手動データ収集モードでは、データ収集部21は、制御コントローラ10を介して、手動データ収集期間の操作信号、制御信号および画像データを収集する。
【0041】
収集されたデータは、データ収集部21によって、時刻同期されたデータとして、データベースに格納され、記憶部23に記憶される。複数の製品のデータをデータベースとする場合には、製品識別番号ごとに時刻同期された時系列データがデータベースに格納される。
【0042】
手動データ収集期間の設定方法および収集するデータについて説明する。
図3は、実施形態の抄紙機の自動弛み補正装置の動作を説明するための模式的な動作波形の例である。
図3は、手動データ収集モードにおける主要な信号およびデータの動作波形の例が示されている。
【0043】
図3の最上段の図は、手動データ収集期間を自動的に設定するために生成される記録範囲設定信号(図では、記録範囲と表記)を示している。記録範囲設定信号は、ハイレベル(図ではON)となることによって、データの記録が開始され、ローレベル(図ではOFF)となることによって、データの記録が終了する。
【0044】
図3の2段目の図は、操作信号(図では操作用品出力信号と表記)の時間変化のデータである。オペレータが操作用品31を操作すると操作信号がアクティブとなり、図では操作信号がアクティブの場合に、ONと表記され、操作信号が非アクティブの場合に、OFFと表記されている。
【0045】
図3の3段目の図は、速度指令値のための補正量(図では制御補正値と表記)の大きさの時間変化のデータである。
【0046】
図3の4段目の図は、上方から見た紙6の画像データが時刻順に配置された状態が模式的に示されている。
図3の最下段の図は、側方から見た紙6の画像データが時刻順に配置された状態が模式的に示されている。
図3の画像データの図は、実際には、画像処理部22によって数値化され、その数値化データが時刻同期されてデータベース中に格納されている。
【0047】
図3に示すように、データ収集部21は、常時、制御コントローラ10からのデータを取得している。データ収集部21は、取得したデータを一時的に収容するバッファを有している。データ収集部21は、操作信号がアクティブとなったことを検出すると、期間T0だけトレースバックした時刻からの各信号の時系列のデータをデータベースに格納する。期間T0は、通信ネットワーク120によるデータ送受信のための周期を考慮して、たとえば通信ネットワーク120の処理サイクルの1から数サイクル分とされる。
【0048】
時刻t1からオペレータによる手動介入が始まり、時刻t2で手動介入は一旦終了する。時刻t1から時刻t2までのオペレータの手動介入によって、速度指令値は、C1だけ増加する。したがって、補正時間(t2-t1)では、補正量はC1とされる。
【0049】
オペレータは、紙6の弛み状態がどの程度解消されているか否かを目視しながら、次の手動介入のタイミングを見計らっており、時刻t3で再度手動介入している。このときの手動介入は、時刻t4で終了しており、時刻t3から時刻t4の補正時間(t4-t3)おける補正量は、C2である。同様に、補正時間(t6-t5)において補正量は、C3である。
【0050】
データ収集部21は、最後の手動介入の終了からあらかじめ設定された期間T1が経過したことをもって、期間データの記録を終了する。期間T1は、十分長い期間があらかじめ設定され、抄紙機100の実際の運転状況に応じて、調整できるようにしてもよい。
【0051】
画像処理部22は、撮影領域SVa,SVbのそれぞれの画像データを画像処理して、数値化データを生成し、記憶部23のデータベースに格納する。数値化データは、時刻同期され、製品識別番号に関連付けされる。
【0052】
数値化データの生成方法について説明する。
図4(a)は、側方および上方からの撮影領域における画像データの例である。
図4(b)は、
図4(a)のA部の模式的な拡大図である。
図4(c)は、側方および上方からの撮影領域における画像データのうち弛みが発生した状態の例である。
図4(a)は、側方からの撮影領域SVbの画像データ(左の図)および上方からの撮影領域SVaの画像データ(右の図)を示している。
【0053】
図4(a)および
図4(b)に示すように、上方からの撮影領域SVaの画像データは、2次元メッシュの領域に区分され、領域ごとの明度の大きさのデータとされる。2次元メッシュの領域ごとの明度のデータは、たとえば、各領域の明度の大きさの移動平均をとることによって、数値化データとされる。各領域の移動平均は、たとえば、搬送方向に沿う方向に順次移動平均をとり、さらに搬送方向に直交する方向に移動平均をとることによって計算される。
【0054】
側方からの撮影領域SVbの画像データは、SVaの画像データの数値化と同様に、2次元メッシュの明度データにもとづいて数値化してもよいし、より簡単に、基準位置からの紙6の弛みによって下がった位置までの距離を数値化データとしてもよい。
【0055】
実施形態の自動弛み補正システム110では、手動データ収集モードでの運転に入る前に、あるいは手動データ収集モードでの運転の終了後に、数値化データのためのしきい値(以下、単にしきい値という)があらかじめ設定される。
【0056】
たとえば、しきい値は、データベースに格納された画像データにもとづいて設定される。しきい値は、データベース中に格納されている画像データを順次読み出して、目視等により正常な状態のデータを複数抽出し、抽出した画像データごとに求められた数値化データの平均値とすることができる。しきい値は、抽出されたデータの平均値に限らず、中央値等であってもよいし、標準偏差を用いて、上限値および下限値を設定等してももちろんよい。
【0057】
たとえば、しきい値は、しきい値設定のために別途取得された画像データにもとづいて設定される。抄紙機100を試験的に運転し、正常な状態の画像データを取得できるように十分に調整した上で、画像データを取得し、その場合の数値化データをしきい値とするようにしてもよい。
【0058】
しきい値は、データ収集装置2によって計算された後、制御コントローラ10に送信され、補正パターン解析部16および補正量抽出部14は、しきい値を設定する。
【0059】
図4(c)に示すように、制御状態にずれ等が生じると、紙6に弛みが生じ、撮影領域SVa,SVbの画像データの少なくとも一方に弛みに応じた曲りや影が生じる。手動データ収集モードでは、このような状態の画像データが画像処理され数値化データとして、データベースに格納される。
【0060】
このようにして、手動データ収集期間における操作信号、制御信号、画像データおよび数値化データが時刻同期されてデータベースに格納される。
【0061】
補正量データ生成モードについて説明する。
補正量データ生成モードでは、補正パターン解析部16がデータベースから必要なデータを抽出して、補正時間近似式および補正量近似式を算出し、算出した近似式を補正量抽出部14に設定する。
【0062】
データベースには、上方からの撮影領域SVaの画像データにもとづく数値化データaおよび側方からの撮影領域SVbの画像データにもとづく数値化データbが格納されているので、たとえば、これらを適切な重みづけ計数を付すことによって、単一の数値化データとされる。数値化データの単一化は、補正量データ生成モードにおいて補正パターン解析部16が行ってもよいし、手動データ収集モードにおいて、数値化データa,bを計算したときに、行って、データベースに格納するようにしてもよい。
【0063】
図5(a)および
図5(b)は、紙の画像データの良否比較の例である。
図5(c)は、抄紙機の自動弛み補正装置が生成する補正時間近似式および補正量近似式の例である。
図5(a)の右の図は、画像データの2次元メッシュの各領域の明度の大きさのデータを濃淡で表している。上の図がしきい値を提供する画像データであり、下の図が手動データ収集期間に取得された画像データにもとづく2次元メッシュの明度データである。補正パターン解析部16は、これらの偏差を計算し、時刻同期された操作信号および制御信号のデータを抽出する。ここで、抽出する制御信号は、操作信号により生成される補正量のデータである。なお、
図5(a)の左の図については、後述の自動運転モードにおいて説明する。
【0064】
補正パターン解析部16は、時刻を進めて、順次偏差を計算し、その時刻における操作信号および制御信号のデータを抽出する。補正パターン解析部16は、操作信号が非アクティブとなった時刻までを補正時間として、偏差に対する補正時間および補正量とする。これを繰り返して、1つの手動データ収集期間におけるプロットを終了する。
【0065】
補正パターン解析部16は、他の時刻における手動データ収集期間のデータを抽出し、上述と同様に、偏差に対する補正時間および補正量のプロットを生成する。
【0066】
補正パターン解析部16は、このようにして生成した多数のプロットを適切な近似式にあてはめて、補正時間近似式および補正量近似式を算出する。
【0067】
自動運転モードの動作について説明する。
自動運転モードでは、データ収集装置2は、常時、画像データを収集する。画像処理部22は、画像データを画像処理して、数値化データを生成する。画像処理部22は、生成した数値化データを補正量抽出部14に送信する。
【0068】
補正量抽出部14は、受信した数値化データとしきい値との偏差を計算する。補正量抽出部14は、計算した偏差を、補正時間近似式および補正量近似式にそれぞれ入力し、近似式によって計算された補正時間および補正量を演算部12に送信する。
【0069】
演算部12は、補正量抽出部14によって計算された補正量を速度指令値に加算し、計算された補正時間にわたって駆動装置40に供給する。
【0070】
このようにして、抄紙機の自動弛み補正システム110は、オペレータによる手動介入によることなく、自動的に紙6の弛みを補正することができる。
【0071】
自動運転モードでは、画像データの画像処理および数値化処理(移動平均計算)を常時行うので、演算回路の負担が重くなる。そこで、画像認識技術を導入して、画像データの特徴量等を検出し、特徴量に異常が生じたことを検出したときに、数値化処理を開始し、近似式による補正量等の生成を行うようにしてもよい。
【0072】
図5(a)の右の図は、画像データの画像認識を行う場合の例を示している。画像処理部22は、画像認識機能を有している。画像処理部22は、常時取得する画像データを、あらかじめ設定した正常時の画像データと比較し、それぞれの特徴量にあらかじめ設定されたしきい値以上の差が生じたか否かを判定する。画像処理部22は、それぞれの特徴量にしきい値以上の差がある場合には、取得した画像データを画像処理し、数値化データを生成する。以降は、上述と同様に動作する。これによって、自動弛み補正システム110は、紙6に異常な弛みが発生しない場合には、通常の運転を継続し、補正すべき弛みを検出したときに、補正運転をするようにできる。そのため、画像処理部22等の演算処理負担が軽減され、十分な余裕をもってフィードバック制御を行うことができる。
【0073】
実施形態の抄紙機の自動弛み補正システム110の効果について説明する。
実施形態の抄紙機の自動弛み補正システム110は、データ収集装置2によって、データを収集し、制御コントローラ10によって、収集したデータにもとづいて算出した手動介入に対応する自動化のための近似式を算出することができる。そのため、抄紙機100は、手動介入によらず、搬送される紙6の弛みを自動的に補正することができる。手動介入を排除することにより、オペレータの習熟度を要することなく、かつ、オペレータの負担を軽減することが可能になる。
【0074】
自動弛み補正システム110は、データ収集装置2を備えることによって、抄紙機100の操作信号、制御信号および搬送される紙6の状態を表す画像データを時刻同期させてデータベースに格納することができる。データベースに格納するに際して、すべての時系列データや画像データ等を記憶するのではなく、操作信号にもとづいて設定された手動データ収集期間のデータを収集することによって、記憶部23の記憶容量を適切に設定することができる。
【0075】
自動弛み補正システム110は、手動データ収集モード、補正データ生成モードおよび自動運転モードを順次切り替えて運転する。手動データ収集モードでは、近似式の生成のためのデータ収集を確実に行うことができる。また、製品ごとに設定された製品識別番号を各データに関連付けることができるので、複数種類の製品に対応する近似式生成のためのデータベースを構築することができる。
【0076】
制御コントローラ10は、たとえば、演算処理のための複数のCPU(Central Processing Unit)のコアを有することとすることができる。複数のCPUコアのうちの1つは、制御プログラムにしたがってプロセス制御処理を実行するPLCコアである。複数のCPUコアのうち、他の1つは、高速な演算処理を行う高速CPUコアである。PLCコアは、たとえば演算部12を含み、高速CPUコアは、補正量抽出部14および補正パターン解析部16を含んでいる。このように複数のCPUコアを有するように制御コントローラ10を構成することによって、小型で低コストな自動弛み補正システム110を実現することができる。
【0077】
以上説明した実施形態によれば、オペレータの手動操作によらず、自動的に紙の弛みを補正する抄紙機の自動弛み補正システムを実現することができる。
【0078】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0079】
1a,1b カメラ、2 データ収集装置、3 操作パネル、5a,5b ロール、6 紙、10 制御コントローラ、12 演算部、14 補正量抽出部、16 補正パターン解析部、18 表示器、21 データ収集部、22 画像処理部、23 記憶部、31 操作用品、40 駆動装置、100 抄紙機、110 自動弛み補正システム