(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】チピラシル塩酸塩結晶III型の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 403/06 20060101AFI20230814BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230814BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C07D403/06
A61K31/513
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020524633
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2018078964
(87)【国際公開番号】W WO2019086292
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】102017000124805
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510207368
【氏名又は名称】プロコス ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】PROCOS S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】モラナ、 ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ゴバート、 ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】コッツィ、 ルチア
(72)【発明者】
【氏名】ロレット、 ヤコポ
(72)【発明者】
【氏名】パイッソニ、 パオロ
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/203877(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106333952(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105859691(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104744443(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104945385(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107216314(CN,A)
【文献】国際公開第96/030346(WO,A1)
【文献】Process of preparation of Crystal III of 5-Chloro-6-[(2-imino-1-pyrrolidinyl)methyl]-2,4(1H,3H)-pyrimidinedione hydrochloride having low content of residual solvent,IP.COM JOURNAL,2017年06月20日,IP.com Number :IPCOM000250259D
【文献】芦澤 一英,塩・結晶形の最適化と結晶化技術,Pharm Tech Japan,2002年,Vol. 18, No. 10,pp. 81-96
【文献】高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,Vol.6, No.10,2007年01月15日,p.20-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 403/06
A61K 31/506
A61P 35/00
A61K 31/513
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤としての使用に適合する溶媒の含量を有するチピラシル塩酸塩結晶III型の製造方法であって、該方法が、
a)イソプロパノール中に、チピラシル塩酸塩結晶II型を懸濁すること、
b)その懸濁液を撹拌し、濾過すること
を含み、ここで、チピラシル塩酸塩結晶II型は、回折角(2θ±0.1°)として6.5°、20.6°、25.5°、26.1°、27.0°及び30.2°に特徴的なピークを示す粉末X線回折パターンを有するチピラシル塩酸塩の結晶形であり、チピラシル塩酸塩結晶III型は、回折角(2θ±0.1°)として10.5°、19.6°、23.7°、26.2°及び31.2°に特徴的なピークを示す粉末X線回折パターンを有するチピラシル塩酸塩の結晶形である製造方法。
【請求項2】
前記懸濁液を0℃~溶媒の沸点の範囲の温度で1~24時間撹拌する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
懸濁液を20~60℃の範囲の温度で12~24時間撹拌する、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICH限界未満の残留溶媒含量を有するチピラシル塩酸塩結晶III型の調製方法、ならびに前記結晶III型の医薬的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
チピラシル塩酸塩(5-クロロ-6-[(2-イミノ-1-ピロリジニル)メチル]-2,4(1H,3H)-ピリミジンジオン)(式1)は、結腸直腸転移癌の治療のための抗腫瘍剤としてトリフルリジンと組み合わせて使用される活性医薬成分(API)である。
【0003】
【0004】
国際公開第96/30346号パンフレットは、APIの物理的状態およびその多型についてのいかなる情報も提供することなく、チピラシル塩酸塩を開示する。
【0005】
Bioorganic & Medicinal Chemistry (2004)、12(13)、3443-3450は、245℃の融点を有する白色結晶の形態のチピラシル塩酸塩を開示している。
【0006】
EP3012255A1は、I型、II型およびIII型と命名されたチピラシル塩酸塩の3つの異なる結晶型、ならびにそれらの製造方法を開示している。
【0007】
I型の粉末X線回折パターンは、回折角(2θ±0.1°)として11.6°、17.2°、17.8°、23.3°、27.1°および29.3°の角度で特徴的なピークを示す。
【0008】
II型の粉末X線回折パターンは回折角(2θ±0.1°)として6.5°、20.6°、25.5°、26.1°、27.0°および30.2°の角度で特徴的なピークを示す。
【0009】
III型の粉末X線回折パターンは、回折角(2θ±0.1°)として10.5°、19.6°、23.7°、26.2°および31.2°の角度で特徴的なピークを示す。
【0010】
EP3012255A1に開示されている結晶化手順によれば、結晶化の時間および温度を適切に変化させることによって、水とエタノールとの混合物から3つの異なる結晶形が得られる。結晶I型は40℃より高い温度と引き続いての冷却で得られ、結晶II型は40℃以下の温度で得られ、これに対し結晶III型はHCl水溶液と、エタノールおよびメタノールから選択される有機溶媒とを使用する2つのプロトコルに従って得られる。両方の手順において、III型の結晶中に存在する残留有機溶媒の値は、APIについてICHガイドラインによって推奨される仕様限界をはるかに上回る。
【0011】
EP3012255A1の開示によれば、結晶IおよびIII型は、光、酸素、湿度および加熱に対し、結晶II型のものよりも高い安定性を与えられるが、結晶III型は結晶I型のものよりも高い残留溶媒の含有量を有し、この含有量は医薬品における使用のためのICHガイドラインと対立する。
【0012】
CN106333952Aは、75~80℃の塩酸中でチピラシル遊離塩基を溶解し、続いて2~8℃で析出することにより、先に得られた不特定結晶形のチピラシル塩酸塩を、水-有機溶媒の混合物中で加熱することにより再び溶解するプロセスを開示している。その後の新たな冷却は、この文献のすべての実施例に明示的に記載されているように、チピラシル塩酸塩のI型結晶の析出につながる。
【0013】
IP.com Journal、20 June 2017、XP013175208、ISSN:1533-0001は、残留溶媒含量が低いと述べられている、III型チピラシル塩酸塩の調製方法を開示している。実際には同じスケールで実施される本発明の比較例1において以下に示されるように、前記方法はICHガイドラインによって設定された限界未満の残留溶媒含有量を有するチピラシル塩酸塩の結晶III型をもたらさない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例2に従って得られたチピラシル塩酸塩のIII型のX線回折パターンを示す。
【発明の概要】
【0015】
チピラシル塩酸塩の結晶III型が、医薬としてのその使用に適合する残留溶媒の含有量、特にICHガイドラインに準拠する溶媒の含有量を有し、工業規模でのその製造を可能にするプロセスを使用して得ることができることがこの度見出された。
【0016】
チピラシル塩酸塩の結晶III型(以下、III型)はチピラシル塩酸塩の結晶II型(以下、II型)から、またはチピラシル遊離塩基から、イソプロパノールを用いて得ることができる。
【0017】
反応は、0℃~溶媒の沸点、好ましくは20~60℃の温度で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、以下に記載されるように実施され、ここで、原料の添加の順序は異なり得る。
【0019】
典型的には、II型は、水溶液を最初に活性炭で処理して粒子状物質および異物を除去し、次いで水溶性不純物を除去する、水からの溶解-濃縮の手段による公知の手順で得られ、このII型を、イソプロパノール中に、好ましくは6~10容量で懸濁させ、溶液を、好ましくは1~24時間、より好ましくは12~24時間、20~60℃の温度で撹拌する。加熱期間の終わりに、懸濁液を濾過して、本発明のIII型を得る。
【0020】
あるいは、本発明のIII型は公知の手順に従って調製されたチピラシルの遊離塩基から得ることができる。遊離塩基をHCl水溶液に溶解し、活性炭で水溶液を処理することによって粒子状物質および異物を除去した後、0~40℃、好ましくは25~30℃の温度で濃縮乾固する。次いで、イソプロパノール、好ましくは6~10容量を添加する。次いで、溶液を、0℃と溶媒の沸点との間の温度、好ましくは20~60℃で、好ましくは1~24時間、より好ましくは12~24時間撹拌する。加熱期間の終わりに、懸濁液を濾過して、III型を得る。
【0021】
X線回折パターンから、上記の2つの手順に従って得られた固体は、もっぱらIII型からなる。
【0022】
カールフィッシャー滴定による残留水分含量の分析は、III型のような無水形態の獲得と完全に一致する。
【0023】
さらに、ヘッドスペース法によるガスクロマトグラフィー(GC)分析は、残留溶媒の含有量が現在のICHガイドラインによって設定された限界(イソプロパノールについて5000ppm)未満であることを示す。
【0024】
したがって、本発明のIII型は、医薬組成物の調製に特に有用である。
【0025】
医薬的使用のための本発明のIII型は、本発明のさらなる目的である。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
【0027】
実施例1:ICH限界未満の残留溶媒含量を有するチピラシル塩酸塩のIII型の調製(チピラシル塩酸塩II型から出発)
EP3012255の参考例1に従って得られた10gのII型を50mLのイソプロパノールに懸濁し、懸濁液を25℃で24時間撹拌した後、濾過する。
【0028】
8.5gのIII型のチピラシル塩酸塩が得られる(カールフィッシャー滴定による残留水の含量:0.37%;GC分析による残留溶媒の含量(ヘッドスペース):3540ppm <5000ppm、ICH限界)。
【0029】
実施例2:国際公開第96/30346号パンフレットに従って得られたチピラシルの遊離塩基から出発して、ICH限界未満の残留溶媒含量を有するチピラシル塩酸塩のIII型の調製
国際公開第96/30346号パンフレットに従って得られたチピラシル(IUPAC名:5-クロロ-6-((2-イミノピロリジン-1-イル)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン)の遊離塩基10gを、0.6M HCl水溶液90mlに25℃で溶解する。溶液を活性炭で処理し、濾過し、25~30℃の内部温度を保ちながら濃縮乾固する。
【0030】
60mLのイソプロパノールを残渣に添加し、懸濁液を25℃で24時間撹拌した後、濾過する。
【0031】
9gのIII型のチピラシル塩酸塩が得られる(カールフィッシャー滴定による残留水の含量:0.31%;GC分析による残留溶媒の含量(ヘッドスペース):3640ppm <5000ppm、ICH限界)。
【0032】
得られた生成物のX線回折パターンを
図1に示す。パターンはIII型のものと一致しており、回折角10.5°、19.6°、23.7°、26.2°及び31.2°(2θ±0.1°)に特徴的なピークを有する。
【0033】
比較例1: IP.com Journal、20 June 2017、XP013175208、ISSN:1533-0001に準拠したチピラシル塩酸塩の調製
6N HCl (38mL)を、メタノール(150mL)中の5-クロロ-6-[(2-イミノ-1-ピロリジニル)メチル]-2,4(1H,3H)-ピリミジンジオン(25g)の冷却混合物にゆっくりと添加し、得られた反応混合物を7.5℃で45分間撹拌する。濾過によって単離された生成物をメタノールで洗浄する。乾燥後、26.8gの乾燥生成物が得られる。
【0034】
残留メタノールの含有量を、GC(ヘッドスペース)およびNMR分析の両方によって評価する。両方の場合において、残留量は29600ppmであり、これは残留メタノールのICH限界(3000ppm)よりもほぼ10倍高い。
【0035】
X線回折パターンはIII型のそれと一致し、10.5°、19.6°、23.7°、26.2°および31.2°(2θ±0.1°)の回折角で特徴的なピークを有する。