(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】車両の車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量を監視する方法および車載電気システム
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20230814BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B60L3/00 H
H02J1/00 309A
(21)【出願番号】P 2022518853
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2020077023
(87)【国際公開番号】W WO2021069240
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】102019006969.2
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】ウルス・ベーメ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ・ハスペル
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-126382(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109342823(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車載電気システム(1)の少なくとも1つのY静電容量(2、3)を監視するための方法であって、
前記車載電気システム(1)の前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の現在の静電容量値および
前記車載電気システム(1)の第1の電位配線(6)と第2の電位配線(7)との間の現在の車載システム電圧(U
B)が確認され、
前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)における現在の貯蔵エネルギーが、前記車載電気システム(1)の前記現在の車載システム電圧(U
B)および前記車載電気システム(1)の前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の前記現在の静電容量値に応じて決定され、
前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)における前記現在の貯蔵エネルギーが、所定の制限値と比較され、
前記所定の制限値を超えた場合、対応する制御信号が生成されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記車載電気システム(1)の
前記第1の電位配線(6)または
前記第2の電位配線(7)と、基準電位(8)との間の第1の電圧が確認され、前記確認された第1の電圧が、前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)における前記現在の貯蔵エネルギーを決定する際に考慮されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の電位配線(6)
と基準電位(8)との間の第2の電圧、および前記車載電気システム(1)の前記第2の電位配線(7)と前記基準電位(8)との間の第3の電圧が確認され、前記確認された第2の電圧および前記確認された第3の電圧が、前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の前記現在の貯蔵エネルギーを決定する際に考慮されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記車載電気システム(1)の電位分布の非対称性が、前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の前記確認された現在の貯蔵エネルギーにより検査されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのY静電容量(2、3)を有する車両の車載電気システム(1)であって、
前記車載電気システム(1)の前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の現在の静電容量値および
前記車載電気システム(1)の第1の電位配線(6)と第2の電位配線(7)との間の現在の車載システム電圧(U
B)を確認するための制御ユニット(4)と、
前記車載電気システム(1)の前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)における現在の貯蔵エネルギーを、前記車載電気システム(1)の前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)の前記現在の静電容量値および前記現在の車載システム電圧(U
B)に応じて決定するための評価ユニット(5)と、
により特徴付けられる
ものであり、
前記少なくとも1つのY静電容量(2、3)における前記現在の貯蔵エネルギーが、所定の制限値と比較され、
前記所定の制限値を超えた場合、対応する制御信号が生成される、車載電気システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量を監視するための方法に関する。更に、本発明は、少なくとも1つのY静電容量を有する車両の車載電気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両では、車載電気システムの絶縁不良が電流の増加につながる場合がある。車載システムのY静電容量における貯蔵電気エネルギーを制限できるようにするために、これらのY静電容量は、最大エネルギーのみを有することができるように設定されている。
【0003】
特許文献1は、少なくとも1つの第1の電位配線および第2の電位配線を備えた、自動車用の車載電気システムを開示しており、車載システムは、適切な動作では、電位配線間に直流電圧を印加するように形成されている。車載システムは、少なくとも1つのYコンデンサを有し、Yコンデンサは、第1の接続部により第1の電位配線と、第2の接続部により電気的基準電位と、電気的に結合され、スイッチレバーは、少なくとも1つのYコンデンサと直列に接続されている。
【0004】
特許文献2は、車両用電池と、自動車の適切な走行動作時に、電気機械に電気機械電圧を印加するためのクロックエネルギーコンバータと、を備える、少なくとも1つの電気機械により駆動可能な自動車用の車載電気システムを開示している。クロックエネルギーコンバータは、直流電圧中間回路を有し、直流電圧中間回路は、車両用電池に電気的に結合され、電磁両立性を確立するための少なくとも1つのYコンデンサを有する。車両用電池に接続された交流電圧充電ユニットは、車両外部の充電ステーションに接続され、充電ステーション側で交流電圧が印加されるように形成されている。直流電圧中間回路は、スイッチングユニットを使用して車両用電池に電気的に結合されており、スイッチングユニットは、交流電圧充電ユニットを使用して車両用電池が充電されているときに、直流電圧中間回路を車両用電池から電気的に絶縁するように形成されている。
【0005】
その際、従来の方法では、車両の使用者が感電する可能性があるかどうかについて、Y静電容量におけるエネルギー容量を検査しないというような欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】DE 10 2018 002 926 A1
【文献】DE 10 2017 008 840 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、HVシステム、特に800ボルトの電圧を用いる車両において、電圧安全性を高めることを確立できる方法および車載電気システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、独立請求項に記載の方法および車載電気システムによって解決される。適切な発展形態は、従属請求項から明らかになる。
【0009】
本発明の態様は、車両の車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量を監視するための方法に関する。車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値および現在の車載システム電圧が確認され、少なくとも1つのY静電容量における現在の貯蔵エネルギーが、車載電気システムの現在の車載システム電圧および車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値に応じて決定される。少なくとも1つのY静電容量における現在の貯蔵エネルギーが、所定の制限値と比較され、所定の制限値を超えた場合、対応する制御信号が生成される。特に、提案された方法によって、車両の高電圧システムにおいて電圧安全性の特に高い信頼性を達成することができる。特に、提案された方法は、800ボルトの電圧レベルを用いる電動車両において少なくとも1つのY静電容量を監視するために使用することができる。特に、少なくとも1つのY静電容量の監視は、簡単な手段を用いて実現することができ、例えば、電動車両の既存の絶縁監視装置を用いて機能を拡張することができる。例えば、少なくとも1つのY静電容量における貯蔵エネルギーの決定は、車載電気システムまたは車載電気システムの制御ユニットに組み込まれたソフトウェア機能を使用して、安価に、かつ簡単に実現することができる。
【0010】
特に車両の使用者を危険にさらすことを回避するために、少なくとも1つのY静電容量による現在の貯蔵エネルギーについて所定の限界値は、以下の例示的な規格、ISO 6469-3、SAE J1772またはISO 17409に基づいて予め決められる。例えば、使用者を危険にさらすことを回避するために、HV電位当たりの最大エネルギー容量を200mJに設定することができる。これにより、使用者を感電から保護することができる。
【0011】
車両の車載電気システムのY静電容量は、例えば、干渉抑制コンデンサ、無線干渉抑制コンデンサ、または安全コンデンサであり得る。これらのコンデンサは、電気機器もしくは電子機器の動作によって引き起こされた高周波干渉信号をアースもしくは中性線に伝導するか、またはそれらを短絡させて、それにより電磁干渉の低減をもたらす。
【0012】
車載電気システムは、特に、電動車両またはハイブリッド車両の高電圧システムである。例えば、少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値は、評価ユニットを用いて決定することができ、車載電気システムの現在の車載システム電圧は、電圧測定を用いて決定することができる。評価ユニットを用いて、少なくとも1つのY静電容量における現在の貯蔵エネルギーは、車載電気システムの確認された現在の車載システム電圧および車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値に応じて決定することができる。特に、現在の貯蔵エネルギーは、少なくとも1つのY静電容量の最大エネルギー容量である。例えば、現在の車載システム電圧は、現在のHV中間回路電圧であり得る。例えば、評価ユニットおよび電圧測定ユニットは、HV制御装置に統合することができ、それにより、少なくとも1つのY静電容量を監視するためのコンパクトなユニットを提供することができる。例えば、HV制御装置は、絶縁監視装置であり得る、または電圧検出ユニットを備えたHVコンポーネントであり得る。
【0013】
例えば、対応する制御信号は、所定の制限値が少なくとも1つのY静電容量における現在の貯蔵エネルギーを超えたときに、HV制御装置によって生成され、車両の車載システムの安全コンポーネントに送信することができる。
【0014】
特に、所定の制限値を超えた場合、警告信号を車両の使用者に出力することができる、および/または車載電気システムを停止することができる、および/または少なくとも1つのY静電容量を放電することができる。これにより、例えば、絶縁体に不具合が生じた場合、車両の使用者を最適に保護することができる。
【0015】
本発明の更なる態様は、少なくとも1つのY静電容量を有する車両の車載電気システムに関する。車載電気システムは、車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値および現在の車載システム電圧を確認するための制御ユニットを含む。同様に、車載電気システムは、車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量における現在の貯蔵エネルギーを、車載電気システムの少なくとも1つのY静電容量の現在の静電容量値および現在の車載システム電圧に応じて決定するための評価ユニットを含む。特に、車載電気システムにより、上記で詳述した態様またはその実施形態に記載の方法を実施することができる。特に、本方法は、提案された車載電気システムにより実施される。
【0016】
本発明の更なる利点、特徴、および詳細は、好ましい実施形態の以下の説明および(複数の)図面の参照によって明らかになる。先の説明において言及した特徴および特徴の組み合わせ、並びに以下の図面の説明で挙げる、および/または単一の図に単独で示す特徴および特徴の組み合わせは、それぞれ記載されている組み合わせのみならず、本発明の範囲から逸脱することなく、他の組み合わせまたは単独でも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】単一図面は、車載電気システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この図は、車両の車載電気システム1の概略図を示す。車載電気システム1は、例えば、電動車両のHVシステムである。車載電気システム1は、少なくとも1つのY静電容量2を有する。特に、車載電気システム1は、更なるY静電容量3を有することができる。Y静電容量2、3は、例えば、干渉抑制コンデンサであり得る。車載電気システムは、車載電気システム1の少なくとも1つのY静電容量2の現在の静電容量値および現在の車載システム電圧UBを確認するための制御ユニット4を含む。制御ユニット4は、特に、例えば、電圧検出ユニットを有するHV制御装置であり得る。同様に、制御装置4は、車両の絶縁監視装置またはHVコンポーネントであってもよい。例えば、絶縁監視装置は、車両の車載電気システム1の少なくとも1つのY静電容量2を監視することができる機能または機能ソフトウェアを備えた制御ユニット4として統合することができる。制御ユニット4は、特に、評価ユニット5を有するか、または評価ユニット5と統合されている。評価ユニット5を用いて、少なくとも1つのY静電容量2における現在の貯蔵エネルギーは、車載電気システム1の現在の車載システム電圧UBおよび車載電気システム1の少なくとも1つのY静電容量2の現在の静電容量値に応じて決定することができる。
【0019】
例えば、少なくとも1つのY静電容量2における現在の貯蔵エネルギーは、以下の式を使用して計算することができる。
【0020】
【0021】
例えば、現在の車載システム電圧UBおよびY静電容量2、3の現在の静電容量値を直前に示した式に代入して、現在のエネルギー容量を計算することができる。Y静電容量2のエネルギー容量では、車両のHV電圧が増加すると、Y静電容量2、3のエネルギー容量は、電圧の二乗に比例して増加することを考慮に入れる必要がある。これは、特に、制御ユニット4の評価ユニット5において定義することができる。
【0022】
特に、少なくとも1つのY静電容量2における現在の貯蔵エネルギーは、所定の制限値と比較することができる。これは、特に、制御ユニット4の評価ユニット5を用いて行うことができる。特に、少なくとも1つのY静電容量2における現在の貯蔵エネルギーによる所定の制限値の監視では、対応する制御信号は、制御ユニット4によって生成される。生成された制御信号は、例えば、車両の安全装置に送信することができる。例えば、生成された制御信号を用いて、警告信号を車両内で出力することができる。これにより、車両の使用者は、特に感電の可能性について警告を受けることができる。同様に、生成された制御信号を用いて、車載電気システム1は、停止することができるか、または電池から切断することができる。同様に、生成されて送信された制御信号を用いて、少なくとも1つのY静電容量2、3の放電プロセスを実行することができる。
【0023】
例えば、車載電気システム1の第1の電位配線6または第2の電位配線7と、基準電位8との間の第1の電圧を確認することができる。確認された第1の電圧は、少なくとも1つのY静電容量2における現在の貯蔵エネルギーを決定する際に考慮に入れることができる。特に、第1の電圧の確認は、制御ユニット4を用いて実行することができる。
【0024】
例えば、第1の電位配線6と基準電位8との間の第2の電圧、および車載電気システム1の第2の電位配線7と基準電位8との間の第3の電圧を確認することができる。基準電位8は、特に、保護導体(PE)である。これらの確認された第2の電圧および第3の電圧は、同様に、少なくとも1つのY静電容量2の現在の貯蔵エネルギーを決定する際に考慮に入れることができる。同様に、車載システム電圧UBの代わりに、第1の電圧、第2の電圧、または第3の電圧は、少なくとも1つのY静電容量2の現在の貯蔵エネルギーを決定するために使用されることも考えられる。
【0025】
例えば、直流電圧充電ポストにおける車両の充電プロセスでは、現在の静電容量値に対して所定の値を指定することができる。例えば、この場合、電位当たり500nFを設定することができる。
【0026】
特に、少なくとも1つのY静電容量2の確認された現在の貯蔵エネルギーにより、車載電気システム2の電位分布における非対称性または非平衡を検査することができる。特に、電位分布における非対称性または非平衡を検出する際、これを考慮することができ、少なくとも1つのY静電容量を監視する際に、一緒に考慮に入れることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 車載システム
2 Y静電容量
3 Y静電容量
4 制御ユニット
5 評価ユニット
6 第1の電位配線
7 第2の電位配線
8 基準電位
UB 車載システム電圧