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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】電力計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 21/133 20060101AFI20230814BHJP
   G01R 21/00 20060101ALI20230814BHJP
   G01R 21/06 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G01R21/133 E
G01R21/00 J
G01R21/00 K
G01R21/00 Q
G01R21/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022554995
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037814
(87)【国際公開番号】W WO2022074724
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】三ツ木 康晃
(72)【発明者】
【氏名】重政 隆
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-213770(JP,A)
【文献】特開2019-078724(JP,A)
【文献】特開2015-215204(JP,A)
【文献】特開2015-166901(JP,A)
【文献】特開2015-152345(JP,A)
【文献】特開2014-071108(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099033(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0187725(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 11/00-11/66、
21/00-22/10、
35/00-35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電力の三相の電圧信号を二相の電圧信号に変換する第1三相二相変換部と、
前記三相交流電力の三相の電流信号を二相の電流信号に変換する第2三相二相変換部と、
前記二相の電圧信号及び前記二相の電流信号を基に、前記三相交流電力の有効電力の瞬時値及び無効電力の瞬時値を演算する瞬時電力演算部と、
移動平均を演算するデータ数の異なる複数の第1移動平均フィルタを有し、前記複数の第1移動平均フィルタのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の有効電力の平均値を演算させる第1移動平均演算部と、
移動平均を演算するデータ数の異なる複数の第2移動平均フィルタを有し、前記複数の第2移動平均フィルタのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の無効電力の平均値を演算させる第2移動平均演算部と、
前記複数の有効電力の平均値及び前記三相交流電力の周波数を表す周波数情報を基に、前記三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値を演算する第1平均値演算部と、
前記複数の無効電力の平均値及び前記三相交流電力の周波数を表す周波数情報を基に、前記三相交流電力の周波数に対応した無効電力の平均値を演算する第2平均値演算部と、
を備えた電力計測装置。
【請求項2】
前記第1平均値演算部は、前記複数の有効電力の平均値のうち、前記周波数情報の表す周波数に近い周波数の所定数の有効電力の平均値を選択し、選択した前記所定数の有効電力の平均値の線形内挿により、前記三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値を演算し、
前記第2平均値演算部は、前記複数の無効電力の平均値のうち、前記周波数情報の表す周波数に近い周波数の所定数の無効電力の平均値を選択し、選択した前記所定数の無効電力の平均値の線形内挿により、前記三相交流電力の周波数に対応した無効電力の平均値を演算する請求項1記載の電力計測装置。
【請求項3】
前記第1平均値演算部によって演算された所定数の前記有効電力の平均値の中央値を演算する第1中央値フィルタと、
前記第2平均値演算部によって演算された所定数の前記無効電力の平均値の中央値を演算する第2中央値フィルタと、
をさらに備えた請求項1記載の電力計測装置。
【請求項4】
前記三相交流電力の周波数を検出し、検出した周波数の前記周波数情報を前記第1平均値演算部及び前記第2平均値演算部に入力する周波数検出器をさらに備えた請求項1記載の電力計測装置。
【請求項5】
前記周波数検出器は、電力系統の前記三相交流電力の周波数の検出を行い、
前記三相交流電力の三相の電圧信号を直交する二相の電圧信号に変換し、前記二相の電圧信号を回転座標系の電圧信号に変換し、前記回転座標系の電圧信号の移動平均を演算し、前記移動平均を演算した後の前記回転座標系の電圧信号を逆変換することにより、前記三相の電圧信号から直交する二相の電圧信号を生成する直交座標信号生成部と、
前記直交座標信号生成部によって生成された前記移動平均を演算した後の前記二相の電圧信号を基に、前記電力系統の角周波数を演算する角周波数演算部と、前記角周波数に1/2πを乗算することにより、前記角周波数から前記電力系統の系統周波数を演算する演算器と、を有する周波数演算部と、
を有し、
前記角周波数演算部は、前記二相の電圧信号を基に、比例積分制御を行うことにより、前記角周波数を演算し、
前記周波数演算部は、
所定の変化率以上の前記系統周波数の変化を制限するレートリミッタを有し、前記レートリミッタの入出力差を前記角周波数演算部の前記比例積分制御の演算にフィードバックするとともに、
前記レートリミッタから出力された前記角周波数及び前記角周波数の微分値を基に、所定時間経過後の前記角周波数の予測値を演算する予測演算器と、
前記レートリミッタから出力された前記角周波数を前記演算器に入力する第1状態と、前記予測演算器から出力された前記予測値を前記演算器に入力する第2状態と、を選択的に切り替える切替回路と、
をさらに有し、
前記切替回路は、前記直交座標信号生成部によって演算された前記回転座標系の電圧信号を基に、前記電力系統の位相跳躍の検出を行い、前記電力系統の位相跳躍を検出していない状態においては、前記第1状態を選択し、前記電力系統の位相跳躍を検出した際に、前記第2状態を一定時間選択し、前記一定時間の経過の後、前記第2状態から前記第1状態に戻る請求項4記載の電力計測装置。
【請求項6】
前記予測演算器は、前記レートリミッタから出力された前記角周波数の移動平均を演算し、移動平均後の前記角周波数の微分値を演算するとともに、前記微分値に所定の係数を乗算した補正値を演算し、移動平均後の前記角周波数と前記微分値と前記補正値とを基に、前記予測値を演算する請求項5記載の電力計測装置。
【請求項7】
前記周波数演算部は、前記レートリミッタから出力された前記角周波数及び前記予測演算器から出力された前記予測値のいずれか一方が選択的に入力され、所定の変化率以上の前記角周波数又は前記予測値の変化を制限することにより、所定の変化率以上の前記系統周波数の変化を制限する制限部をさらに有する請求項5記載の電力計測装置。
【請求項8】
前記周波数演算部は、前記演算器と直列に設けられ、前記系統周波数の高周波成分を抑制するローパスフィルタをさらに有する請求項5記載の電力計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Fast Frequency Response市場において、発電・蓄電プラントなどの高速制御を実現可能とするために、電力系統の高速・高精度な平均皮相電力量の計測技術が求められている。
【0003】
例えば、皮相電力の計測方法として、電力系統の三相交流電圧及び三相交流電流を高速サンプリングで取り込み、三相交流電圧及び三相交流電流に対してクラーク変換を行うことにより、有効電力の瞬時値と無効電力の瞬時値とを求めることが知られている。
【0004】
また、大電流を半導体素子でスイッチングするパワーエレクトロニクス制御では、不平衡状態などの系統擾乱が発生した際に、高調波や歪み波などが、有効電力の瞬時値や無効電力の瞬時値に混入し易い。そこで、有効電力の瞬時値及び無効電力の瞬時値から電源周期に同期した平均値を演算することも提案されている。
【0005】
平均値の演算には、例えば、移動平均フィルタが用いられる。しかしながら、公称周期で固定した移動平均フィルタでは、変動する電源周波数の状況下では、正確な平均値を演算することが難しい。このため、電力計測装置では、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、平均皮相電力をより正確に計測できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6199206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、平均皮相電力をより正確に計測できる電力計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によれば、三相交流電力の三相の電圧信号を二相の電圧信号に変換する第1三相二相変換部と、前記三相交流電力の三相の電流信号を二相の電流信号に変換する第2三相二相変換部と、前記二相の電圧信号及び前記二相の電流信号を基に、前記三相交流電力の有効電力の瞬時値及び無効電力の瞬時値を演算する瞬時電力演算部と、移動平均を演算するデータ数の異なる複数の第1移動平均フィルタを有し、前記複数の第1移動平均フィルタのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の有効電力の平均値を演算させる第1移動平均演算部と、移動平均を演算するデータ数の異なる複数の第2移動平均フィルタを有し、前記複数の第2移動平均フィルタのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の無効電力の平均値を演算させる第2移動平均演算部と、前記複数の有効電力の平均値及び前記三相交流電力の周波数を表す周波数情報を基に、前記三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値を演算する第1平均値演算部と、前記複数の無効電力の平均値及び前記三相交流電力の周波数を表す周波数情報を基に、前記三相交流電力の周波数に対応した無効電力の平均値を演算する第2平均値演算部と、を備えた電力計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、平均皮相電力をより正確に計測できる電力計測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図2図2(a)及び図2(b)は、移動平均演算部を模式的に表すブロック図である。
図3図3(a)~図3(f)は、第1の実施形態に係る電力計測装置の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図4】平均値演算部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図5】第2の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図6】第2の実施形態に係る電力計測装置の動作の一例を模式的に表すブロック図である。
図7】第3の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図8】周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図9】切替回路を模式的に表すブロック図である。
図10】予測演算器を模式的に表すブロック図である。
図11図11(a)~図11(g)は、周波数検出器の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図12図12(a)~図12(c)は、周波数検出器の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図13】予測演算器の変形例を模式的に表すブロック図である。
図14】周波数検出器の変形例を模式的に表すブロック図である。
図15】周波数検出器の変形例を模式的に表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、電力計測装置10は、三相二相変換部12(第1三相二相変換部)、三相二相変換部14(第2三相二相変換部)と、瞬時電力演算部16と、移動平均演算部18(第1移動平均演算部)、移動平均演算部20(第2移動平均演算部)と、平均値演算部22(第1平均値演算部)、平均値演算部24(第2平均値演算部)と、を備える。
【0013】
電力計測装置10は、三相交流電力の電力系統の平均皮相電力を計測する。電力計測装置10は、例えば、太陽光発電や風力発電などの分散型電源と電力系統との連系点における平均皮相電力の計測に用いられる。但し、電力計測装置10の計測する平均皮相電力は、これに限ることなく、任意の三相交流電力の平均皮相電力でよい。
【0014】
三相二相変換部12には、三相交流電力の三相の電圧信号V、V、Vが入力される。三相二相変換部12は、三相の電圧信号V、V、Vをαβ変換(クラーク変換)により、α相とβ相の二相の電圧信号Vα、Vβに変換する。三相二相変換部12は、変換後の電圧信号Vα、Vβを瞬時電力演算部16に入力する。
【0015】
三相の電圧信号V、V、Vは、連系点などの電圧を計測する電圧計から三相二相変換部12に入力してもよいし、上位のコントローラなどから三相二相変換部12に入力してもよい。三相の電圧信号V、V、Vの三相二相変換部12への入力方法は、三相の電圧信号V、V、Vを適切に三相二相変換部12に入力可能な任意の方法でよい。
【0016】
三相二相変換部14には、三相交流電力の三相の電流信号I、I、Iが入力される。三相二相変換部14は、三相の電流信号I、I、Iをαβ変換(クラーク変換)により、α相とβ相の二相の電流信号Iα、Iβに変換する。三相二相変換部14は、変換後の電流信号Iα、Iβを瞬時電力演算部16に入力する。
【0017】
三相の電流信号I、I、Iは、連系点などの電流を計測する電流計から三相二相変換部14に入力してもよいし、上位のコントローラなどから三相二相変換部14に入力してもよい。三相の電流信号I、I、Iの三相二相変換部14への入力方法は、三相の電流信号I、I、Iを適切に三相二相変換部14に入力可能な任意の方法でよい。
【0018】
瞬時電力演算部16は、三相二相変換部12から入力された電圧信号Vα、Vβ、及び三相二相変換部14から入力された電流信号Iα、Iβを基に、三相交流電力の有効電力の瞬時値Pinst、及び無効電力の瞬時値Qinstを演算する。瞬時電力演算部16は、例えば、以下の(A)式によって有効電力の瞬時値Pinstを演算し、(B)式によって無効電力の瞬時値Qinstを演算する。
inst=Vα・Iα+Vβ・Iβ … (A)
inst=Vα・Iβ-Vβ・Iα … (B)
瞬時電力演算部16は、演算した有効電力の瞬時値Pinstを移動平均演算部18に入力し、演算した無効電力の瞬時値Qinstを移動平均演算部20に入力する。
【0019】
図2(a)及び図2(b)は、移動平均演算部を模式的に表すブロック図である。
図2(a)に表したように、移動平均演算部18は、移動平均を演算するデータ数の異なる複数の移動平均フィルタ18a~18g(第1移動平均フィルタ)を有する。
【0020】
移動平均演算部18は、瞬時電力演算部16から入力された有効電力の瞬時値Pinstを複数の移動平均フィルタ18a~18gのそれぞれに入力し、移動平均フィルタ18a~18gのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の有効電力の平均値Pmafを演算させる。移動平均演算部18は、移動平均フィルタ18a~18gのそれぞれで演算された複数の有効電力の平均値Pmafを平均値演算部22に入力する。
【0021】
複数の移動平均フィルタ18a~18gにおいて、データ数は、三相交流電力の周波数、及びデータ(電圧信号V、V、V及び電流信号I、I、I)を取得する際のサンプリング周期と相関する。
【0022】
移動平均フィルタ18a~18gのデータ数及びサンプリング周期は、三相交流電力の一周期分のデータを丁度取得する値に設定されることが好ましい。換言すれば、移動平均フィルタ18a~18gは、三相交流電力の一周期分のデータ(有効電力の瞬時値Pinst)の移動平均を演算することが好ましい。
【0023】
例えば、三相交流電力の周波数が50Hzで、サンプリング周期が50μsである場合、三相交流電力の周期は、20000μsであるから、データ数は、20000/50で、400個とすることが好適である。このように、三相交流電力の周波数が50Hzで、サンプリング周期が50μsある場合には、400個のデータを取得し、400個のデータを基に移動平均を演算する。これにより、三相交流電力の一周期分のデータの移動平均を演算することとなり、有効電力の瞬時値Pinstに重畳する三相交流電力の周波数の成分の変動、及び三相交流電力の周波数の整数倍の成分の変動を抑制することができる。
【0024】
例えば、上記の(A)式及び(B)式に表したように、有効電力の瞬時値Pinst及び無効電力の瞬時値Qinstは、電圧信号Vα、Vβと電流信号Iα、Iβとの積で表される。このため、例えば、電圧信号V、V、V及び電流信号I、I、Iに不平衡が生じると、三角公式から、有効電力の瞬時値Pinst及び無効電力の瞬時値Qinstが、三相交流電力の周波数の倍の周波数で変動してしまう。このように、有効電力の瞬時値Pinst及び無効電力の瞬時値Qinstが倍の周波数で変動した場合にも、上記のように、三相交流電力の一周期分のデータの移動平均を演算することにより、変動の影響を抑制することができる。例えば、三相交流電力に不平衡状態などの系統擾乱が発生した際にも、系統擾乱の影響を抑制し、系統擾乱に起因する有効電力の平均値Pmafの変動を抑制することができる。
【0025】
このように、移動平均フィルタ18a~18gのデータ数をLとし、三相交流電力の一周期をTとし、データのサンプリング周期をΔtとする時、データ数Lは、以下の(C)式によって表すことができる。
L=T/Δt … (C)
なお、サンプリング周期Δtは、三相交流電力の一周期Tに対して、十分に小さく設定することが好ましい。サンプリング周期Δtは、例えば、三相交流電力の一周期Tの10分の1以下に設定することが好ましい。
【0026】
図2(a)では、データ数Lをそれぞれ397、398、399、400、401、402、403とした7つの移動平均フィルタ18a~18gを移動平均演算部18に設けた例を示している。データ数Lを397とした移動平均フィルタ18aは、三相交流電力の50.3778Hzの周波数に対応する。データ数Lを398とした移動平均フィルタ18bは、三相交流電力の50.2513Hzの周波数に対応する。データ数Lを399とした移動平均フィルタ18cは、三相交流電力の50.1253Hzの周波数に対応する。データ数Lを400とした移動平均フィルタ18dは、三相交流電力の50Hzの周波数に対応する。データ数Lを401とした移動平均フィルタ18eは、三相交流電力の49.8753Hzの周波数に対応する。データ数Lを402とした移動平均フィルタ18fは、三相交流電力の49.7512Hzの周波数に対応する。データ数Lを403とした移動平均フィルタ18gは、三相交流電力の49.6278Hzの周波数に対応する。
【0027】
三相交流電力の周波数が、50Hzである場合には、データ数Lを400とした移動平均フィルタ18dの演算結果を用いることにより、上記のように、有効電力の平均値Pmafの変動を抑制することができる。一方で、三相交流電力の周波数が50Hzから変動した場合には、移動平均フィルタ18dの演算結果を用いたとしても、有効電力の平均値Pmafの変動を適切に抑制することが難しい。
【0028】
このため、移動平均演算部18は、移動平均を演算するデータ数の異なる複数の移動平均フィルタ18a~18gを用意する。これにより、移動平均演算部18では、三相交流電力の複数の周波数に対応することができる。例えば、三相交流電力の周波数が、50Hzから変動した場合には、他の移動平均フィルタ18a~18c、18e~18gの演算結果を用いる。これにより、移動平均演算部18では、三相交流電力の周波数が変動した場合にも、有効電力の平均値Pmafの変動を抑制することができる。
【0029】
なお、複数の移動平均フィルタ18a~18gに設定されるデータ数Lは、上記に限定されるものではない。複数の移動平均フィルタ18a~18gには、少なくとも三相交流電力の公称の周波数に対応するデータ数L(この例では400個)が、移動平均フィルタ18a~18gのいずれかに設定されていればよい。
【0030】
複数の移動平均フィルタ18a~18gのデータ数Lは、例えば、上記の例のように、三相交流電力の公称の周波数±1、±2、…±nといったように、三相交流電力の公称の周波数を中心に、周波数の高い側及び低い側にそれぞれ設定することが好ましい。これにより、三相交流電力の周波数の高い側への変動及び低い側への変動に適切に対応することができる。但し、移動平均フィルタ18a~18gのデータ数Lの設定方法は、上記に限ることなく、任意の方法でよい。例えば、周波数の高い側への変動の傾向が大きいなど、三相交流電力の周波数の変動の傾向が事前に分かっている場合などには、周波数の高い側あるいは低い側にデータ数Lの設定に偏りを設けてもよい。また、移動平均演算部18に設けられる移動平均フィルタの数は、7つに限ることなく、任意の数でよい。
【0031】
図2(b)に表したように、移動平均演算部20は、移動平均を演算するデータ数の異なる複数の移動平均フィルタ20a~20g(第2移動平均フィルタ)を有する。
【0032】
移動平均演算部20は、瞬時電力演算部16から入力された無効電力の瞬時値Qinstを複数の移動平均フィルタ20a~20gのそれぞれに入力し、移動平均フィルタ20a~20gのそれぞれに移動平均のデータ数の異なる複数の無効電力の平均値Qmafを演算させる。移動平均演算部20は、移動平均フィルタ20a~20gのそれぞれで演算された複数の無効電力の平均値Qmafを平均値演算部24に入力する。以下、移動平均演算部20の構成は、移動平均演算部18の構成と同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0033】
図3(a)~図3(f)は、第1の実施形態に係る電力計測装置の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図3(a)は、電圧信号V及び電流信号Iの一例を模式的に表す。
図3(b)は、電圧信号V及び電流信号Iの一例を模式的に表す。
図3(c)は、電圧信号V及び電流信号Iの一例を模式的に表す。
図3(d)は、瞬時電力演算部16で演算された有効電力の瞬時値Pinst、及び移動平均演算部18の複数の移動平均フィルタ18a~18gで演算された有効電力の平均値Pmafの一例を模式的に表す。
図3(e)は、瞬時電力演算部16で演算された無効電力の瞬時値Qinst、及び移動平均演算部20の複数の移動平均フィルタ20a~20gで演算された無効電力の平均値Qmafの一例を模式的に表す。
図3(f)は、移動平均演算部18の複数の移動平均フィルタ18a~18gで演算された有効電力の平均値Pmafの一例を模式的に表す。
【0034】
図3(a)~図3(c)に表したように、この例では、電圧信号V=1pu(Per Unit)、電圧信号V=0.9pu、電圧信号V=0.8pu、電流信号I=1pu、電流信号I=0.9pu、電流信号I=0.8puとした不平衡状態の例を表している。また、この例において、電圧信号V、V、V及び電流信号I、I、Iの周波数は、50Hzである。
【0035】
図3(d)に表したように、不平衡状態であるため、有効電力の瞬時値Pinstには、100Hzの動揺成分が表れている。これに対し、有効電力の平均値Pmafでは、データ長の20ms以降については、有効電力の瞬時値Pinstの動揺成分が、抑制できている。
【0036】
なお、図3(d)では、複数の移動平均フィルタ18a~18gで演算された有効電力の平均値Pmafが重なって一本の線状に見えている。同様に、図3(e)では、複数の移動平均フィルタ20a~20gで演算された無効電力の平均値Qmafが重なって一本の線状に見えている。
【0037】
図3(f)は、図3(d)に表した移動平均フィルタ18a~18gの有効電力の平均値Pmafの20ms以降の部分を拡大して表している。図3(f)に表したように、この例では、電圧信号V、V、V及び電流信号I、I、Iの周波数が50Hzであるため、データ数Lを400とした移動平均フィルタ18dによって演算された有効電力の平均値Pmafにおいて、有効電力の瞬時値Pinstの動揺成分を最も良く抑制できている。そして、データ数Lが、400から離れるほど、有効電力の瞬時値Pinstの動揺成分の影響が残ってしまうことが分かる。
【0038】
このように、三相交流電力の一周期分のデータの移動平均を演算することにより、有効電力の瞬時値Pinstに重畳する三相交流電力の周波数の倍の周波数の成分の変動を適切に抑制することができる。
【0039】
平均値演算部22には、移動平均演算部18から複数の有効電力の平均値Pmafが入力されるとともに、三相交流電力の周波数を表す周波数情報fが入力される。周波数情報fは、例えば、外部の周波数検出器や上位のコントローラなどからネットワークなどを介して平均値演算部22に入力される。
【0040】
平均値演算部22は、移動平均演算部18から入力された複数の有効電力の平均値Pmaf、及び周波数情報fを基に、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Paveを演算する。
【0041】
図4は、平均値演算部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図4は、データ数L(三相交流電力の周波数)と、移動平均演算部18で演算された有効電力の平均値Pmafと、の関係の一例を表している。なお、図4に表した例では、図2(a)に表した例よりも多くの有効電力の平均値Pmafを移動平均演算部18で演算した例を表している。図4では、19個の有効電力の平均値Pmafを演算した例を表している。
【0042】
図4に表したように、移動平均演算部18で演算される有効電力の平均値Pmafは、所定のデータ数Lに対応する離散的なデータとして取得される。このため、三相交流電力の現在の周波数が、各データ数Lの間にある場合には、移動平均演算部18の演算結果からでは、有効電力の瞬時値Pinstに重畳する三相交流電力の周波数の倍の周波数の成分の変動を適切に抑制することが難しい。
【0043】
一方で、図4に表したように、各データ数Lの間の有効電力の平均値Pmafの変化は、各データ数Lの有効電力の平均値Pmafの間において、連続的かつ単調であると判断される。
【0044】
このため、平均値演算部22は、移動平均演算部18で演算された複数の有効電力の平均値Pmafのうち、周波数情報fの表す周波数に近い周波数(データ数L)の所定数の有効電力の平均値Pmafを選択し、選択した所定数の有効電力の平均値Pmafの線形内挿により、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Paveを演算する。所定数は、例えば、2つ又は3つ程度であることが好適である。但し、所定数は、これに限ることなく、サンプリング周期Δtやデータ数Lなどの設定に応じた任意の数とすればよい。
【0045】
例えば、周波数情報fの表す周波数が、50.1Hzである場合、上記の(C)式より、対応するデータ数Lは、約399.2となる。この場合、平均値演算部22は、例えば、図4のデータ数L=395の有効電力の平均値Pmafとデータ数L=400の有効電力の平均値Pmafとを選択し、選択した2つの有効電力の平均値Pmafの線形内挿により、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Paveを演算する。これにより、三相交流電力の周波数が変動し、三相交流電力の現在の周波数が、各データ数Lの間にある場合にも、有効電力の瞬時値Pinstに重畳する三相交流電力の周波数の倍の周波数の成分の変動を適切に抑制した有効電力の平均値Paveを得ることができる。
【0046】
なお、平均値演算部22による有効電力の平均値Paveの演算方法は、上記に限定されるものではない。例えば、図4において破線で表したように、移動平均演算部18で演算された複数の有効電力の平均値Pmafの近似曲線CAを演算し、近似曲線CAを基に、有効電力の平均値Paveを演算してもよい。
【0047】
しかしながら、この場合には、近似曲線CAの演算が複雑になるとともに、複数の有効電力の平均値Pmafのいずれかの部分において、電力値にずれが生じてしまう可能性がある。上記のように、移動平均演算部18で演算された複数の有効電力の平均値Pmafのうち、周波数情報fの表す周波数に近い周波数の所定数の有効電力の平均値Pmafを選択し、選択した所定数の有効電力の平均値Pmafの線形内挿により、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Paveを演算する。これにより、比較的簡単な演算で、有効電力の平均値Paveをより適切に演算することができる。
【0048】
平均値演算部24には、移動平均演算部20から複数の無効電力の平均値Qmafが入力されるとともに、三相交流電力の周波数を表す周波数情報fが入力される。平均値演算部24は、平均値演算部22と同様に、移動平均演算部20から入力された複数の無効電力の平均値Qmaf、及び周波数情報fを基に、三相交流電力の周波数に対応した無効電力の平均値Qaveを演算する。
【0049】
これにより、三相交流電力の周波数が変動し、三相交流電力の現在の周波数が、各データ数Lの間にある場合にも、無効電力の瞬時値Qinstに重畳する三相交流電力の周波数の倍の周波数の成分の変動を適切に抑制した無効電力の平均値Qaveを得ることができる。
【0050】
このように、本実施形態に係る電力計測装置10では、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、変動を適切に抑制した有効電力の平均値Paveと無効電力の平均値Qaveとを得ることができる。従って、本実施形態に係る電力計測装置10によれば、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、有効電力の平均値Paveと無効電力の平均値Qaveとを基に、平均皮相電力をより正確に計測することができる。平均皮相電力をSとする時、S=Pave +Qave の式より、平均皮相電力を計測することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図5に表したように、電力計測装置10aは、中央値フィルタ26(第1中央値フィルタ)、中央値フィルタ28(第2中央値フィルタ)をさらに備える。なお、上記第1の実施形態と機能・構成上実質的に同じものについては、同符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0052】
中央値フィルタ26には、平均値演算部22によって演算された有効電力の平均値Paveが入力される。中央値フィルタ26は、平均値演算部22によって演算された所定数の有効電力の平均値Paveの中央値Pmedを演算する。
【0053】
中央値フィルタ28には、平均値演算部24によって演算された無効電力の平均値Qaveが入力される。中央値フィルタ28は、中央値フィルタ26と同様に、平均値演算部24によって演算された所定数の無効電力の平均値Qaveの中央値Qmedを演算する。
【0054】
中央値フィルタ26、28が中央値Pmed、Qmedを演算する所定数は、例えば、10個~20個程度である。但し、所定数は、これに限ることなく、任意の数でよい。所定数は、中央値フィルタ26、28で必ずしも同じである必要はなく、異なってもよい。
【0055】
図6は、第2の実施形態に係る電力計測装置の動作の一例を模式的に表すブロック図である。
図6は、平均値演算部22によって演算された有効電力の平均値Pave、中央値フィルタ26によって演算された有効電力の平均値Paveの中央値Pmed、及び有効電力の参考の平均値Prefの一例を模式的に表している。有効電力の参考の平均値Prefは、三相交流電力の公称の周波数に対応するデータ数Lの移動平均フィルタで演算された有効電力の移動平均値である。
【0056】
図6では、三相交流電力のうちの一相の電圧及び電流をゼロとした不平衡状態とし、かつタイミングt1とタイミングt2との間において周波数が50Hzから51Hzに変動した場合の電力計測装置10aの動作の一例を模式的に表している。
【0057】
図6に表したように、移動平均フィルタのデータ数Lを固定した有効電力の参考の平均値Prefは、周波数の変動が発生したタイミングt1とタイミングt2との間において、大きく変動している。
【0058】
これに対し、平均値演算部22によって演算された有効電力の平均値Paveでは、有効電力の参考の平均値Prefと比べて、周波数の変動が発生したタイミングt1とタイミングt2との間においても、変動を適切に抑制できている。そして、中央値フィルタ26によって演算された有効電力の平均値Paveの中央値Pmedでは、有効電力の平均値Paveと比べて、周波数の変動が発生したタイミングt1とタイミングt2との間において、より変動を抑制できている。
【0059】
このように、電力計測装置10aは、中央値フィルタ26、28をさらに備え、有効電力の平均値Paveの中央値Pmed、及び無効電力の平均値Qaveの中央値Qmedを演算する。これにより、本実施形態に係る電力計測装置10aでは、系統擾乱下において周波数変動が発生した際にも、有効電力の平均値Paveの中央値Pmedと無効電力の平均値Qaveの中央値Qmedとを基に、平均皮相電力をより正確に計測することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態に係る電力計測装置を模式的に表すブロック図である。
図7に表したように、電力計測装置10bは、周波数検出器30をさらに備える。周波数検出器30は、三相交流電力の周波数を検出し、検出した周波数の周波数情報fを平均値演算部22、24に入力する。
【0061】
電力計測装置10bにおいて、平均値演算部22は、移動平均演算部18から入力された複数の有効電力の平均値Pmaf、及び周波数検出器30から入力された周波数情報fを基に、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Paveを演算する。同様に、平均値演算部24は、移動平均演算部18から入力された複数の無効電力の平均値Qmaf、及び周波数検出器30から入力された周波数情報fを基に、三相交流電力の周波数に対応した無効電力の平均値Qaveを演算する。
【0062】
図8は、周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図8に表したように、周波数検出器30は、直交座標信号生成部32と、周波数演算部34と、を備える。周波数検出器30は、三相交流電力の電力系統の周波数を検出する。
【0063】
直交座標信号生成部32は、三相交流電力の三相の電圧信号V、V、Vから直交する二相の電圧信号Vα´、Vβ´を生成する。三相の電圧信号V、V、Vは、例えば、電圧検出器などによって検出され、直交座標信号生成部32に入力される。三相の電圧信号V、V、Vは、例えば、所定のサンプリング周期で入力される三相交流電圧の瞬時値である。
【0064】
直交座標信号生成部32は、三相二相変換部40と、回転座標変換部41と、移動平均フィルタ42、43と、逆変換部44と、を有する。
【0065】
三相二相変換部40は、三相の電圧信号V、V、Vをαβ変換(クラーク変換)により、α相とβ相の二相の電圧信号Vα、Vβに変換する。
【0066】
回転座標変換部41には、二相の電圧信号Vα、Vβが入力されるとともに、電力系統の公称の角周波数ωを積分して得られる公称の位相θが入力される。回転座標変換部41は、いわゆるdq変換(パーク変換)により、直交二軸座標の電圧信号Vα、Vβを位相θに同期した座標系(dq座標)の電圧信号V、Vに回転座標変換する。電圧信号Vは、三相交流電力(電圧信号V、V、V)のd軸成分を表す電圧信号であり、電圧信号Vは、電力系統の三相交流電力(電圧信号V、V、V)のq軸成分を表す電圧信号である。
【0067】
移動平均フィルタ42は、電圧信号Vの移動平均を演算することにより、移動平均演算後の電圧信号V´を出力する。同様に、移動平均フィルタ43は、電圧信号Vの移動平均を演算することにより、移動平均演算後の電圧信号V´を出力する。このように、移動平均フィルタ42、43は、電圧信号V、Vの移動平均を演算することにより、電圧信号V、Vの高周波成分を抑制する。移動平均フィルタ42、43は、例えば、電圧信号V、Vに含まれる高調波成分を抑制する。これにより、例えば、三相の電圧不平衡、高調波、及びノイズなどの電力系統側のトラブルが、周波数の検出に影響を与えてしまうことを抑制することができる。
【0068】
逆変換部44は、回転座標系の電圧信号V´、V´を直交二軸座標系に逆変換することにより、電圧信号V´、V´から移動平均演算後の直交二軸座標の電圧信号Vα´、Vβ´に変換する。これにより、直交座標信号生成部32は、三相の電圧信号V、V、Vから直交する二相の電圧信号Vα´、Vβ´を生成する。
【0069】
周波数演算部34は、直交座標信号生成部32によって生成された二相の電圧信号Vα´、Vβ´を基に、周波数情報fを演算する。周波数演算部34は、PLL(Phase-Locked-Loop)の演算を用いることにより、二相変換後の電圧信号Vα´、Vβ´に同期した同期位相θαβPLLを検出するとともに、同期位相θαβPLLの検出過程で得られる角周波数ωから周波数情報fを演算する。
【0070】
周波数演算部34は、角周波数演算部AFPを有する。角周波数演算部AFPは、例えば、演算器50、51、52と、乗算器53、54と、減算器55と、演算器56、57と、積分器58と、加算器59、60と、積分器61と、演算器62と、減算器63と、を有する。
【0071】
演算器50は、二相の電圧信号Vα´、Vβ´からcosθとsinθとを演算する。演算器50は、Vα´/√(Vα´+Vβ´)の式により、cosθを演算し、Vβ´/√(Vα´+Vβ´)の式により、sinθを演算する。演算器50は、演算したcosθを乗算器53に入力し、演算したsinθを乗算器54に入力する。
【0072】
演算器51は、検出された同期位相θαβPLLを基に、sinθαβPLLを演算し、sinθαβPLLを乗算器53に入力する。
【0073】
演算器52は、検出された同期位相θαβPLLを基に、cosθαβPLLを演算し、cosθαβPLLを乗算器54に入力する。
【0074】
乗算器53は、入力されたcosθとsinθαβPLLとを乗算し、乗算結果を減算器55に入力する。
【0075】
乗算器54は、入力されたsinθとcosθαβPLLとを乗算し、乗算結果を減算器55に入力する。
【0076】
減算器55は、sinθ・cosθαβPLL-cosθ・sinθαβPLLを演算することにより、電力系統の位相θと同期位相θαβPLLとの誤差位相Δθを演算する。周波数演算部34は、
Δθ=θ-θαβPLL≒sinθ・cosθαβPLL-cosθ・sinθαβPLL
として、誤差位相Δθを演算する。
【0077】
演算器56は、誤差位相Δθに比例ゲインKを乗算し、乗算結果を加算器59に入力する。
【0078】
演算器57は、誤差位相Δθに積分ゲインKを乗算し、乗算結果を積分器58に入力する。
【0079】
積分器58は、誤差位相Δθと積分ゲインKとの乗算結果を積分し、積分値を加算器59に入力する。
【0080】
加算器59は、演算器56の乗算結果と積分器58の積分値とを加算する。演算器56、57、積分器58、及び加算器59は、いわゆる比例積分制御により、誤差位相Δθをゼロにするための角周波数の指令値Δωを演算する。
【0081】
加算器60には、加算器59によって演算された角周波数の指令値Δωが入力されるとともに、電力系統の公称の角周波数ωが入力される。加算器60は、角周波数の指令値Δωと電力系統の公称の角周波数ωとを加算することにより、電力系統の角周波数ωを演算する。このように、角周波数演算部AFPは、二相の電圧信号Vα´、Vβ´を基に、比例積分制御を行うことにより、角周波数ωを演算する。
【0082】
積分器61は、加算器60によって演算された角周波数ωを積分することにより、角周波数ωから同期位相θを演算する。積分器61は、演算した同期位相θを減算器63に入力する。
【0083】
演算器62は、積分器58の積分結果に定数Kφを乗算することにより、補正値を演算する。定数Kφは、Kφ=(Tω-TSP)/2によって求められる。TSPは、電圧信号V、V、Vのサンプリング周期を表す。Tωは、移動平均フィルタ42、43の窓長を表す。Tωは、移動平均フィルタ42、43の平均数をNとするとき、N・TSPで表される。演算器62は、演算した補正値を減算器63に入力する。
【0084】
減算器63は、同期位相θから補正値を減算することにより、同期位相θを補正する。この補正により、減算器63は、同期位相θαβPLLを演算する。
【0085】
角周波数演算部AFPは、検出した同期位相θαβPLLを演算器51、52にフィードバックすることにより、同期位相θαβPLLを電力系統の位相θと同期させる。このように、角周波数演算部AFPは、角周波数ωを基に、移動平均を演算した後の二相の電圧信号Vα´、Vβ´に同期した同期位相θαβPLLを検出するとともに、電力系統の公称の位相θと同期位相θαβPLLとの誤差位相Δθを演算し、誤差位相Δθをゼロにするように角周波数ωを演算する。この例の角周波数演算部AFP(周波数演算部34)のPLLの構成は、例えば、αβEPMAFPLL(αβ Enhanced Pre-filtering Moving Average Filter PLL)と呼ばれる場合がある。
【0086】
周波数演算部34は、演算器65と、レートリミッタ66と、減算器67、68と、予測演算器70と、スイッチング素子71と、切替回路72と、をさらに有する。周波数演算部34は、演算した角周波数ωから周波数情報fを演算する。加算器60は、演算した角周波数ωを積分器61に入力するとともに、角周波数ωをレートリミッタ66に入力する。
【0087】
レートリミッタ66は、所定の変化率以上の角周波数ωの変化を制限することにより、所定の変化率以上の周波数情報fの変化を制限する。レートリミッタ66は、例えば、4Hz/sec以上の周波数情報fの変化を抑制する。
【0088】
このように、レートリミッタ66を設けることにより、三相交流電力に位相跳躍などが発生した場合にも、周波数情報fの急激な変動を抑制し、周波数情報fの演算の誤差を小さくすることができる。
【0089】
減算器67は、レートリミッタ66の入力側及び出力側と接続されている。減算器67は、レートリミッタ66の入力値からレートリミッタ66の出力値を減算する。すなわち、減算器67は、レートリミッタ66の入力値と出力値との差分を演算する。角周波数ωの演算値が急に大きくなり、レートリミッタ66によって角周波数ωが制限され、レートリミッタ66の出力値がレートリミッタ66の入力値よりも小さくなると、その差分が減算器67によって演算される。減算器67は、差分の演算結果を減算器68に入力する。
【0090】
減算器68は、角周波数演算部AFPの演算器57と積分器58との間に設けられる。減算器68は、誤差位相Δθに積分ゲインKを乗算した演算器57の乗算結果から減算器67の差分の演算結果を減算する。すなわち、減算器68は、レートリミッタ66が角周波数ωを制限した際に、レートリミッタ66によって制限された分を比例積分制御の積分動作の演算から減算する。
【0091】
このように、周波数演算部34は、減算器67、68を設け、レートリミッタ66の入出力差を角周波数演算部AFPの比例積分制御の演算にフィードバックする。これにより、三相交流電力に位相跳躍などが発生した場合にも、周波数情報fの急激な変動をより確実に抑制し、周波数情報fの演算の誤差をより小さくすることができる。こうしたフィードバックの制御は、例えば、Anti reset wind upと呼ばれる場合がある。
【0092】
予測演算器70は、レートリミッタ66と直列的に設けられる。予測演算器70は、レートリミッタ66から出力された角周波数ω及びその角周波数ωの微分値を基に、所定時間経過後の角周波数ωの予測値ω´を演算する。
【0093】
スイッチング素子71は、レートリミッタ66のみを演算器65に直列に接続する状態と、レートリミッタ66と予測演算器70と演算器65とを直列に接続する状態と、を選択的に切り替える。この際、スイッチング素子71は、どちらの状態においてもレートリミッタ66の出力を減算器67に入力し、レートリミッタ66の入出力差が、角周波数演算部AFPの比例積分制御の演算にフィードバックされるようにする。
【0094】
切替回路72は、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを演算器65に入力する第1状態と、予測演算器70から出力された予測値ω´を演算器65に入力する第2状態と、を選択的に切り替える。切替回路72は、例えば、スイッチング素子71による経路の切り替えを制御することにより、第1状態と第2状態とを選択的に切り替える。
【0095】
但し、第1状態と第2状態との切り替えは、これに限定されるものではない。例えば、レートリミッタ66のみを動作させることによって第1状態とし、レートリミッタ66と予測演算器70とを動作させることによって第2状態としてもよい。この場合、スイッチング素子71は、省略可能である。
【0096】
切替回路72には、直交座標信号生成部32の回転座標変換部41によって演算されたd軸成分の電圧信号Vと、q軸成分の電圧信号Vと、が入力される。切替回路72は、入力された電圧信号V、Vを基に、電力系統の位相跳躍の検出を行う。切替回路72は、電力系統の位相跳躍を検出していない状態においては、第1状態を選択し、角周波数ωを演算器65に入力する。そして、切替回路72は、電力系統の位相跳躍を検出した際に、第2状態を一定時間選択し、予測値ω´を演算器65に一定時間入力する。切替回路72は、一定時間の経過の後、第2状態から第1状態に戻る。
【0097】
演算器65は、角周波数ω又は角周波数ωの予測値ω´に1/2πを乗算することにより、角周波数ω又は予測値ω´から周波数情報fを演算する。
【0098】
このように、周波数演算部34は、二相の電圧信号Vα´、Vβ´から三相交流電力の周波数情報fを演算する。周波数検出器30は、三相の電圧信号V、V、Vから三相交流電力の周波数情報fを検出する。
【0099】
図9は、切替回路を模式的に表すブロック図である。
図9に表したように、切替回路72は、微分回路80と、絶対値演算回路81と、微分回路82と、絶対値演算回路83と、加算器84と、判定回路85と、を有する。切替回路72には、回転座標変換部41によって演算された電圧信号V、Vが入力される。
【0100】
微分回路80は、電圧信号Vの微分値を演算する。換言すれば、微分回路80は、電圧信号Vの傾きを演算する。絶対値演算回路81は、微分回路80によって演算された電圧信号Vの微分値の絶対値を演算する。
【0101】
同様に、微分回路82は、電圧信号Vの微分値を演算する。換言すれば、微分回路82は、電圧信号Vの傾きを演算する。絶対値演算回路83は、微分回路82によって演算された電圧信号Vの微分値の絶対値を演算する。
【0102】
加算器84は、電圧信号Vの微分値の絶対値と、電圧信号Vの微分値の絶対値と、の合計値を演算し、演算した合計値を判定回路85に入力する。
【0103】
判定回路85は、入力された合計値が所定値以上か否かを判定する。三相交流電力に位相跳躍が発生すると、三相交流電力のd軸成分を表す電圧信号V及びq軸成分を表す電圧信号Vは、急激に変化する。このため、電圧信号Vの微分値の絶対値と電圧信号Vの微分値の絶対値との合計値が所定値以上になった場合には、三相交流電力に位相跳躍が発生したと考えることができる。
【0104】
判定回路85は、スイッチング素子71の経路の切り替えを行う。判定回路85は、合計値が所定値未満である場合には、スイッチング素子71をレートリミッタ66の出力を演算器65に入力する状態とする。すなわち、判定回路85は、電力系統に位相跳躍が発生していないと判断した場合には、第1状態を選択する。
【0105】
判定回路85は、合計値が所定値以上である場合には、スイッチング素子71を予測演算器70の出力を演算器65に入力する状態とする。すなわち、判定回路85は、三相交流電力に位相跳躍が発生していると判断した場合には、第2状態を選択する。
【0106】
このように、切替回路72は、電圧信号Vの微分値の絶対値と電圧信号Vの微分値の絶対値との合計値が所定値未満である場合に第1状態を選択し、合計値が所定値以上である場合に第2状態を選択する。
【0107】
判定回路85は、第1状態から第2状態に切り替えた場合、例えば、第1状態から第2状態への切り替えのタイミングから一定時間が経過したか否かを判定し、一定時間が経過した後に、第2状態から第1状態に戻す。
【0108】
すなわち、周波数演算部34は、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを基に系統周波数fを演算するとともに、電力系統に位相跳躍が発生していると判断した場合には、予測演算器70から出力された予測値ω´に一定時間切り替え、位相跳躍の発生の判断から一定時間については、予測値ω´を基に系統周波数fを演算する。
【0109】
なお、周波数検出器30は、位相跳躍の発生の検出結果を外部に出力する機能を有してもよい。これにより、例えば、周波数検出器30を備えた電力計測装置10bなどにおいて、位相跳躍の発生の検出結果を活用することが可能となり、周波数検出器30の機能性をより高めることができる。
【0110】
図10は、予測演算器を模式的に表すブロック図である。
図10に表したように、予測演算器70は、加算器90と、微分回路91と、積分回路92と、を有する。
【0111】
予測演算器70は、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを加算器90に入力するとともに、微分回路91に入力する。予測演算器70は、より詳しくは、三相交流電力に位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)を加算器90及び微分回路91に入力する。
【0112】
微分回路91は、入力された角周波数ω(t0)を時間で微分した微分値dω(t0)/dtを演算する。積分回路92は、微分値dω(t0)/dtを積分することにより、位相跳躍が発生していると判断された時点t0から所定時間t経過した後の角周波数ωの予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtを演算し、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtを加算器90に入力する。
【0113】
加算器90は、位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)と、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtと、を加算することにより、角周波数ωの予測値ω´を演算する。すなわち、予測演算器70は、以下の(1)式により、予測値ω´を演算する。
【数1】



このように、予測演算器70は、角周波数ω及びその角周波数ωの微分値を基に、所定時間経過後の角周波数ωの予測値ω´を演算する。予測演算器70は、例えば、(1)式に表したように、予測値ω´の演算に用いる角周波数ω及び微分値を、位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)、及び微分値dω(t0)/dtに固定する。
【0114】
図11(a)~図11(g)は、周波数検出器の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図11(a)~図11(g)の横軸は、時間である。
図11(a)の縦軸は、三相の電圧信号Vの一例である。
図11(b)の縦軸は、三相の電圧信号Vの一例である。
図11(c)の縦軸は、三相の電圧信号Vの一例である。
図11(d)の縦軸は、回転座標系の電圧信号Vの一例である。
図11(e)の縦軸は、加算器60によって演算された角周波数ωからレートリミッタ66などを通すことなく、そのまま演算器65で演算した参考の系統周波数fの一例である。
図11(f)の縦軸は、周波数検出器30の構成において、位相跳躍が発生した場合にも、予測演算器70に切り替えることなく、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを演算器65に入力して演算した参考の周波数情報fの一例である。
図11(g)の縦軸は、周波数検出器30の構成によって演算した周波数情報fの一例である。
【0115】
図11(a)~図11(g)では、時刻T1において約30度の位相跳躍が発生した場合の一例を表している。また、図11(a)~図11(g)では、三相交流電力の実際の周波数を50Hzに設定している。
【0116】
図11(d)に表したように、位相跳躍が発生すると、三相交流電力のd軸成分を表す電圧信号Vは、急激に変化する。同様に、q軸成分を表す電圧信号Vも、急激に変化する。
【0117】
図11(e)に表したように、レートリミッタ66などを用いることなく周波数情報fを演算した場合には、位相跳躍の発生時に5Hz程度の誤計測が発生している。
【0118】
これに対して、図11(f)に表したように、レートリミッタ66の入出力差を比例積分制御の演算にフィードバックする構成では、位相跳躍が発生した時の誤計測を1Hz程度に抑えることができている。
【0119】
そして、位相跳躍の発生を検出した時にレートリミッタ66の角周波数ωから予測演算器70の予測値ω´に切り替える周波数検出器30では、位相跳躍が発生した時の誤計測をさらに抑えることができている。周波数検出器30では、誤計測を0.01Hz程度に抑えることができている。
【0120】
例えば、図11に表した例のように、三相交流電力の実際の周波数が実質的に一定である場合、位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)の微分値dω(t0)/dtは、実質的に0である。従って、この場合には、ω´≒ω(t0)となり、周波数情報fの変動を抑制することができる。
【0121】
図12(a)~図12(c)は、周波数検出器の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図12(a)~図12(c)の横軸は、時間である。
図12(a)及び図12(b)の縦軸は、周波数検出器30の構成において、位相跳躍が発生した場合にも、予測演算器70に切り替えることなく、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを演算器65に入力して演算した参考の周波数情報fの一例である。 図12(c)の縦軸は、周波数検出器30の構成によって演算した周波数情報fの一例である。
【0122】
図12(a)~図12(c)では、三相交流電力の実際の周波数Fが、レートリミッタ66の変化率よりも小さい変化率で変動している条件において、演算された周波数情報fの一例を模式的に表している。また、図12(a)では、時刻T2において正の方向に位相跳躍が発生した場合の一例を表している。図12(b)では、時刻T2において負の方向に位相跳躍が発生した場合の一例を表している。
【0123】
本願発明者は、鋭意の検討の結果、図12(a)及び図12(b)に表したように、三相交流電力の実際の周波数Fが、レートリミッタ66の変化率よりも小さい変化率で変動している場合に、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを用いて周波数情報fを演算すると、周波数情報fの誤計測が発生し、レートリミッタ66の変化率に応じて周波数情報fが変動してしまうことを見出した。また、本願発明者は、図12(a)及び図12(b)に表したように、位相が正の方向に跳躍した場合には、周波数情報fが高くなる方向に変動し、位相が負の方向に跳躍した場合には、周波数情報fが低くなる方向に変動することを見出した。
【0124】
これに対し、予測演算器70の予測値ω´を用いて周波数情報fを演算する場合には、位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)の微分値dω(t0)/dtを基に、三相交流電力の実際の周波数Fの変動(傾き)を予測することができる。
【0125】
従って、周波数検出器30では、図12(c)に表したように、三相交流電力の実際の周波数Fが、レートリミッタ66の変化率よりも小さい変化率で変動している状態で位相跳躍が発生した場合においても、位相跳躍が発生した時の周波数情報fの誤計測を抑制することができる。
【0126】
以上、説明したように、本実施形態に係る周波数検出器30は、レートリミッタ66から出力された角周波数ωを基に周波数情報fを演算するとともに、三相交流電力に位相跳躍が発生していると判断した場合には、予測演算器70から出力された予測値ω´に一定時間切り替え、位相跳躍の発生の判断から一定時間については、予測値ω´を基に周波数情報fを演算する。これにより、三相交流電力に位相跳躍などが発生した場合にも、周波数情報fの急激な変動を抑制し、周波数情報fの演算の誤差を小さくすることができる。また、周波数情報fの演算は、オープンループのため、周波数情報fを演算する部分にレートリミッタ66を設けたとしても、PLLによる電圧位相追従の速度に影響を与えることを抑制することができる。従って、周波数情報fの変化に対して高速に追従できるとともに、系統擾乱が発生した際にも周波数情報fの誤検出を抑制できる周波数検出器30を提供することができる。
【0127】
予測演算器70に切り替える一定時間は、例えば、10msec以上300msec以下程度である。一定時間が短すぎると、例えば、図12(a)や図12(b)などに表したように、レートリミッタ66によって演算される周波数情報fが変動している状態で、レートリミッタ66を用いた周波数情報fの演算に戻ってしまうことが懸念される。このため、一定時間は、10msec以上であることが好ましい。一方、一定時間が長すぎると、三相交流電力の実際の周波数Fの変化の傾きが変動した際に、周波数情報fの誤検出が発生してしまうことが懸念される。このため、一定時間は、300msec以下であることが好ましい。一定時間は、例えば、100msec以上200msec以下程度であることがより好適である。これにより、周波数情報fの誤検出をより適切に抑制することができる。
【0128】
このように、本実施形態に係る電力計測装置10bは、周波数検出器30をさらに備え、周波数検出器30で検出された周波数情報fを基に、三相交流電力の周波数に対応した有効電力の平均値Pave、及び無効電力の平均値Qaveを演算する。これにより、三相交流電力に位相跳躍などが発生した場合にも、より正確な周波数情報fを基に、有効電力の平均値Pave、及び無効電力の平均値Qaveを演算することができ、平均皮相電力をより正確に計測することができる。
【0129】
図13は、予測演算器の変形例を模式的に表すブロック図である。
図13に表したように、予測演算器70aは、移動平均フィルタ93と、演算器94と、をさらに有する。
【0130】
移動平均フィルタ93は、レートリミッタ66から出力された角周波数ωの移動平均を演算し、移動平均演算後の角周波数ωを加算器90及び微分回路91に入力する。
【0131】
微分回路91は、移動平均フィルタ93から入力された移動平均演算後の角周波数ω(t0)を基に微分値dω(t0)/dtを演算し、微分値dω(t0)/dtを積分回路92及び演算器94に入力する。
【0132】
積分回路92は、上記と同様に、微分値dω(t0)/dtを積分することにより、角周波数ωの予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtを演算し、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtを加算器90に入力する。
【0133】
演算器94は、微分回路91から入力された微分値dω(t0)/dtに所定の係数delaycompを乗算することにより、積分回路92で演算される予測変化量の補正値を演算する。演算器94は、演算した補正値を加算器90に入力する。
【0134】
加算器90は、位相跳躍が発生していると判断された時点t0における角周波数ω(t0)と、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtと、補正値と、を加算することにより、角周波数ωの予測値ω´を演算する。すなわち、予測演算器70aは、以下の(2)式により、予測値ω´を演算する。
【数2】
このように、予測演算器70aは、角周波数ω(t0)と、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtと、補正値と、を基に、予測値ω´を演算する。
【0135】
レートリミッタ66から出力された角周波数ωには、電源ノイズや計測ノイズなどのノイズが乗っている可能性がある。微分回路91で微分値dω(t0)/dtを演算する際に、角周波数ω(t0)にノイズが乗っていると、ノイズに応じた傾きを誤って演算し、周波数情報fの誤検出を起こしてしまう可能性がある。
【0136】
このため、予測演算器70aは、移動平均フィルタ93をさらに有し、角周波数ωの移動平均を演算する。これにより、角周波数ωに乗るノイズの影響を抑制することができる。
【0137】
一方で、移動平均フィルタ93を設けると、移動平均フィルタ93による位相遅れにより、予測値ω´に基づく周波数情報fの予測値に遅れが生じてしまう可能性がある。例えば、三相交流電力の実際の周波数Fが変動している状態で位相跳躍が発生した場合に、周波数情報fの予測値に遅れが生じてしまう可能性がある。
【0138】
このため、予測演算器70aは、演算器94をさらに有し、予測変化量の補正値を演算し、角周波数ω(t0)と、予測変化量(t-t0)×dω(t0)/dtと、補正値と、を基に、予測値ω´を演算する。
【0139】
演算器94は、移動平均フィルタ93による位相遅れを抑制するように補正値を演算する。演算器94の係数delaycompは、例えば、移動平均フィルタ93の窓長Tωに応じて設定される。係数delaycompは、例えば、窓長Tωの半分程度(0.4倍~0.6倍程度)の値に設定される。例えば、移動平均フィルタ93の窓長Tωが、40msecである場合には、係数delaycompは、20msec(0.02)の値に設定される。これにより、移動平均フィルタ93による位相遅れを抑制することができる。
【0140】
なお、移動平均フィルタ93の窓長Tωは、例えば、10msec以上100msec以下である。移動平均フィルタ93の窓長Tωを10msec以上に設定することにより、角周波数ωに乗るノイズを適切に抑制することができる。移動平均フィルタ93の窓長Tωを100msec以下に設定することにより、移動平均フィルタ93による位相遅れが過度に長くなってしまうことを抑制することができる。
【0141】
このように、予測演算器70aは、移動平均フィルタ93によって角周波数ωに乗るノイズの影響を抑制するとともに、演算器94によって移動平均フィルタ93による位相遅れを抑制する。これにより、角周波数ωにノイズが乗っている場合においても、ノイズの影響を抑制し、周波数情報fの誤検出をより適切に抑制することができる。周波数情報fをより正確に検出することができる。
【0142】
例えば、直交座標信号生成部32に設けられた移動平均フィルタ42、43などで角周波数ωに乗るノイズを適切に抑制できる場合などには、移動平均フィルタ93及び演算器94を省略してもよい。すなわち、図10に表した予測演算器70の構成で周波数情報fを予測してもよい。
【0143】
図14は、周波数検出器の変形例を模式的に表すブロック図である。
図14に表したように、周波数検出器30aでは、周波数演算部34が、レートリミッタ73(制限部)さらに有する。
【0144】
レートリミッタ73は、演算器65とレートリミッタ66との間、及び演算器65と予測演算器70との間に設けられる。換言すれば、レートリミッタ73は、演算器65とスイッチング素子71との間に設けられる。これにより、レートリミッタ73には、レートリミッタ66から出力された角周波数ω及び予測演算器70から出力された予測値ω´のいずれか一方が選択的に入力される。
【0145】
レートリミッタ73は、所定の変化率以上の角周波数ω又は予測値ω´の変化を制限することにより、所定の変化率以上の周波数情報fの変化を制限する。レートリミッタ73は、例えば、4Hz/sec以上の周波数情報fの変化を抑制する。
【0146】
このように、レートリミッタ73を設けることにより、切替回路72が第1状態と第2状態とを切り替えた際の周波数情報fの急激な変化を抑制することができる。すなわち、角周波数ωから予測値ω´に切り替わったタイミング、又は予測値ω´から角周波数ωに切り替わったタイミングにおいて、周波数情報fが急激に変化してしまうことを抑制することができる。
【0147】
図15は、周波数検出器の変形例を模式的に表すブロック図である。
図15に表したように、周波数検出器30bでは、周波数演算部34が、ローパスフィルタ74をさらに有する。ローパスフィルタ74は、演算器65と直列に設けられる。ローパスフィルタ74は、例えば、演算器65とレートリミッタ73との間に設けられる。
【0148】
ローパスフィルタ74は、角周波数ω又は予測値ω´の高周波成分を抑制する。ローパスフィルタ74は、角周波数ω又は予測値ω´の所定の周波数よりも高い周波数の成分を減衰させる。換言すれば、ローパスフィルタ74は、角周波数ω又は予測値ω´の急激な変動を抑制する。ローパスフィルタ74は、例えば、移動平均フィルタを用いてもよい。ローパスフィルタ74は、高周波成分を抑制した後の角周波数ω又は予測値ω´を演算器65に入力する。
【0149】
ローパスフィルタ74は、演算器65と直列に設けられる。ローパスフィルタ74は、角周波数ω又は予測値ω´の高周波成分を抑制することにより、周波数情報fの高周波成分を抑制する。ローパスフィルタ74は、周波数情報fの急激な変動を抑制する。
【0150】
このように、ローパスフィルタ74を設けることにより、三相交流電力に位相跳躍などが発生した場合にも、周波数情報fの急激な変動を抑制し、周波数情報fの演算の誤差をより小さくすることができる。
【0151】
なお、ローパスフィルタ74は、演算器65とレートリミッタ73との間に限ることなく、レートリミッタ73の前に設けてもよいし、演算器65の後に設けてもよい。ローパスフィルタ74の構成は、演算器65と直列に設けられ、周波数情報fの高周波成分を抑制可能な任意の構成でよい。
【0152】
なお、上記各実施形態では、周波数演算部34の角周波数演算部AFPとしてαβEPMAFPLLの構成を模式的に表している。角周波数演算部AFPの構成は、これに限定されるものではない。角周波数演算部AFPの構成は、例えば、EPMAFPLL(Enhanced Pre-filtering Moving Average Filter PLL)の構成、PMAFPLL(Pre-filtering Moving Average Filter PLL)の構成、あるいはEPMAFPLL Type2の構成などでもよい。
【0153】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、電力計測装置10、10a、10bに含まれる各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0154】
その他、本発明の実施の形態として上述した電力計測装置10、10a、10bを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての電力計測装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0155】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0156】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15