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特許7330436非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
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  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図2
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図3
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図4
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図5
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図6
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図7
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図8
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図9
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図10
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図11
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230815BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230815BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019174019
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021051909
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】大谷 眞也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/121062(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/115314(WO,A1)
【文献】特開2003-292322(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056760(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/179924(WO,A1)
【文献】特開2000-082466(JP,A)
【文献】国際公開第2015/049862(WO,A1)
【文献】特表2016-526759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
α-NaFeO構造を有し、
遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meであり、
遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1.05≦Li/Meであり、
横軸を粒子径(μm)とし、縦軸を頻度(%)とする粒度分布図における最大ピークの頻度をFre1(%)とし、上記最大ピークを与える粒子径をD1(μm)とし、D1の1/5に相当する粒子径をD2(μm)とし、D2における頻度をFre2(%)としたとき、Fre1に対するFre2の比Fre2/Fre1の値が0.12≦Fre2/Fre1であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子のうち、粒子径がD2であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、一次粒子又は20個以下の一次粒子からなる二次粒子が個数頻度比において60%以上を占める、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の半値幅に対する(003)面の半値幅比(003)/(104)が0.87以上1.1以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meである炭酸塩前駆体を700℃以上900℃以下で熱処理したものを、リチウム化合物と混合し、900℃以上1000℃未満で焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を製造することを備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
請求項に記載の非水電解質二次電池用正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極、及び前記正極を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池用正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoOを用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。しかし、LiCoOの質量当たりの放電容量は120から130mAh/g程度であった。今般の再生可能エネルギーを用いた蓄電システムや、車載用途での需要の高まりに応じて、よりエネルギー密度の向上が求められている。そこで、LiCoOのCoをNi及びMnで置換した150mAh/g程度の放電容量を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3(x≒1)が検討又は実用化されており、さらには、Ni含有量が多く質量当たりの放電容量がより高いLiNi0.5Co0.2Mn0.3やLiNi0.6Co0.2Mn0.2を用いる試みもなされている。
【0003】
一方、エネルギー密度を高めるためには、体積当たりの放電容量を高めることも重要である。その手法の一つとして、活物質の粉体密度を上げ、極板合材密度を上げることがあり、例えば、原料粉末の焼成過程にフッ化リチウム等の焼成助剤を添加し、結晶性を高めることで粉体密度を上げる試みがなされている(非特許文献1参照)。しかし、過剰な焼結助剤の添加は、活物質の結晶構造や粉体の物性に望ましくない変更を引き起こし、かえって体積当たりの放電容量が低下するという問題点があった。
【0004】
以下、Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物についての先行技術(特許文献1から5)を挙げる。
特許文献1には、「遷移金属(Me)がNi、Co及びMnを含み、六方晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記遷移金属(Me)中のNiのモル比が0.5≦Ni/Me≦0.9、Coのモル比が0.1≦Co/Me≦0.3、Mnのモル比が0.03≦Mn/Me≦0.3であり、4.3V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)を電位2.0V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)で除した値が0.9~1.1の間であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。」(請求項1)が記載されている。
また、段落[0072]から[0074]、[0084]、[0085]には、実施例12、13に係る正極活物質について、Ni:Coのモル比が80:20である1.0Mの硫酸塩水溶液(原液1)と、Ni:Co:Mnのモル比が20:12.5:67.5である0.11Mの硫酸塩水溶液(原液2)とをそれぞれ3cm/minの速度で反応槽に12時間、又は24時間滴下して作製した水酸化物前駆体と、水酸化リチウムとを、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比101:99で混合し、800℃で焼成して作製したこと、段落[0114]表1、[0115]表2、[0118]及び図2(a)には、「滴下時間が24時間以下の実施例12及び13では、リチウム遷移金属複合酸化物は粒度分布が2つ以上の極大値を有し、これを正極活物質としたリチウム二次電池は、エネルギー密度は高いが、初期効率は低下する。」ことが、それぞれ示されている。
【0005】
特許文献2には、請求項1に記載の「組成式LiMn0.5-xNi0.5-yx+y(但し0<a<1.3、-0.1≦x-y≦0.1、MはLi,Mn,Ni以外の元素)で表される複合酸化物を含有する正極活物質。」の具体例について、53頁の表3に、Ni、Co、Mnを含み、Ni/(Ni+Co+Mn)のモル比が0.35以上の複合酸化物C1、C2、C4からC9、C11からC14、及びC16が記載されている。
また、請求項13には、「組成式LiMn0.5-xNi0.5-yM’x+y(但し0.98≦a<1.1、-0.1≦x-y≦0.1、M’は、B,Al,Mg及びCoから選択される少なくとも1種の元素)で表される複合酸化物を含有する正極活物質の製造方法であって、「ニッケル(Ni)化合物とマンガン(Mn)化合物とが水に溶解された水溶液、または、Ni化合物とMn化合物とM’化合物(M’は、前記と同様)とが水に溶解された水溶液に、アルカリ化合物と、還元剤と、錯化剤とを添加して前記水溶液のpHを10~13とし、前記水溶液中で、Ni-Mn複合共沈物、または、Ni-Mn-M’複合共沈物を沈殿させる共沈工程」を経由して、前記複合酸化物を作製することを特徴とする正極活物質の製造方法。」が記載されており、第18頁第10から17行には、前記複合共沈物を「水酸化ナトリウムで沈殿させることが好適」であること、第20頁第21から30行には、前記複合酸化物をリチウム化合物と共に「900℃以上1100℃以下の温度で」焼成することが好ましいことが記載されている。
【0006】
特許文献3には、請求項1に記載された「一般式(1)で表されるリチウム金属複合酸化物粉末からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物粉末が一次粒子と、該一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、から構成され、前記リチウム金属複合酸化物粉末のBET比表面積が1m/g以上3m/g以下であり、前記二次粒子の平均圧壊強度が10MPa以上100MPa以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O(1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、-0.1≦x≦0.2、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0≦w≦01、0.25<y+z+wを満たす。)」の具体例として、例えば段落[0140]から[0144]に、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と炭酸リチウムとを混合した後、720℃で3時間、875℃で10時間焼成して、x=0.03、y=0.222、z=0.267、w=0の正極活物質5(Li[Li0.03(Ni0.489Co0.222Mn0.2670・97]O)を得たことが記載されている。
【0007】
特許文献4には、「2つ以上の一次粒子の凝集体を含む少なくとも1つの二次粒子を含み、前記二次粒子は、ニッケル系リチウム遷移金属酸化物を含み、前記一次粒子の平均粒径が3ないし5μmであり、前記二次粒子は、平均粒径5ないし8μmの小径二次粒子と、平均粒径10ないし20μmの大径二次粒子のうち選択された1つ以上を含み、X線回折分析スペクトル分析で、(003)ピークの半値幅が0.120ないし0.125゜である、正極活物質。」(請求項1)、について、「前記ニッケル系リチウム遷移金属酸化物が、下記の化学式2で表示される化合物である、請求項1 に記載の正極活物質:
[化学式2]
LiCoNiMn2+α
前記化学式2で、0.9<x<1.1、0<a<0.5、0.4<b<1、0<c<0.5、-0.1≦α≦0.1である。」(請求項8)、及び「前記ニッケル系リチウム遷移金属酸化物が、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3を含む、請求項1に記載の正極活物質。」(請求項9)が記載されている。
そして、段落[0031]には、「正極活物質の二次粒子として大径の二次粒子を使って作った正極は、・・・体積当たりの容量を高めることができる。」と記載され、上記の正極活物質の製造例として、段落[0119]から[0124]には、ニッケルコバルトマンガン水酸化物前駆体水溶液を撹拌しつつ水酸化ナトリウムを滴下し、撹拌時間を5時間として得たCo0.2Ni0.5Mn0.3(OH)粉末を600℃で熱処理した後、リチウム前駆体と混合し、1040℃で熱処理し、一次粒子の平均粒径が4μmであり、二次粒子の平均粒径が6μmである粒子を製造したこと(製造例1)、段落[0125]には、前記の撹拌時間を9.5時間に変更して、二次粒子の平均粒径が15μmである粒子を製造したこと(製造例2)、及び段落[0126]には、製造例1で得た活物質と製造例2で得た粉末を20:80の質量比で混合して一次粒子の平均粒径が4μmであり、二次粒子が平均粒径6μmと平均粒径15μmの粒子とからなる正極活物質としたこと(製造例3)が記載されている。
【0008】
特許文献5には、「組成式:LiNi1-(y+z)MnCo2+α(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y+z≦0.3であり、-0.1≦α≦0.1である。)で表され、平均粒子径D50が5~7μmであり、粒子強度が60MPa以上であり、粒子径3μm以上の粒子内部の平均空隙率が5%以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。」(請求項1)、「二次粒子に占める一次粒子数の比率が40~75%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。」(請求項2)が記載されている。
【0009】
また、特許文献6には、「下記組成式で表され、X線回折により測定された(001)結晶面のピーク反値幅が0.14以上0.33以下、平均一次粒子径が0.03μm以上0.4μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[Li1.5][Li0.5(1-x)Mn1-x1.5x]O
(式中のxは0.1≦x≦0.5を満たし、MはNiαCoβMnγで表され、0<α≦0.5、0≦β≦0.33、0<γ≦0.5)」(請求項1)が記載されている。この活物質の遷移金属に対するLiのモル比は1.4以上であり、遷移金属に対するNiのモル比は0.3以下である。そして、この活物質の製造方法について、「正極活物質として、複合炭酸塩法によって、リチウム含有複合酸化物から成る固溶体を合成した。・・・ニッケル-コバルト-マンガンの複合炭酸塩を沈澱させた。なお、炭酸ナトリウム水溶液を滴下している間、アンモニア水によってpH7に保持するようにした。得られた複合炭酸塩を吸引ろ過し、水洗した後、乾燥し、700℃の温度で焼成することによって、ニッケル-コバルト-マンガン酸化物を得た。そして、得られた複合酸化物と水酸化リチウムを所定のモル比よりも、水酸化リチウムが0~0.3%過剰となるように秤量し、粉砕混合後、大気中600~1000℃で12時間焼成することによって、表1に示すような各成分組成を有する正極活物質をそれぞれ合成した。」(段落[0047]から[0049])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開2015/049862
【文献】国際公開2002/086993
【文献】特開2018-081937号公報
【文献】特開2015-018803号公報
【文献】特開2016-149258号公報
【文献】特開2012-190580号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】S.Jouanneau, et al., J. Electrochem. Soc., 151(10)(2004) A1749
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物からは、質量当たりの放電容量が高い正極活物質が得られることは知られているものの、体積当たりの放電容量の向上に適する粒子形状や結晶性、及びそのような粒子形状や結晶性を有する正極活物質の製造方法についての知見は得られていなかった。
本発明は、Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物の粒子形状や結晶性を制御し、体積当たりの放電容量が向上した正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meであり、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1.05≦Li/Meであり、横軸を粒子径(μm)とし、縦軸を頻度(%)とする粒度分布図における最大ピークの頻度をFre1(%)とし、上記最大ピークを与える粒子径をD1(μm)とし、D1の1/5に相当する粒子径をD2(μm)とし、D2における頻度をFre2(%)としたとき、Fre1に対するFre2の比Fre2/Fre1の値が0.12≦Fre2/Fre1である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0014】
本発明の他の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meである炭酸塩前駆体を700℃以上900℃以下で熱処理したものを、リチウム化合物と混合し、900℃以上1000℃未満で焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を製造することを備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0015】
本発明のさらに他の一側面は、前記一側面に係る正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0016】
本発明のさらに他の一側面は、前記さらに他の一側面に係る正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、体積当たりの放電容量が向上した非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含有する正極、及び前記正極を備える非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例2に係る正極活物質のSEM写真
図2】本発明の実施例5に係る正極活物質のSEM写真
図3】本発明の実施例8に係る正極活物質のSEM写真
図4】本発明の比較例1に係る正極活物質のSEM写真
図5】本発明の比較例6に係る正極活物質のSEM写真
図6】本発明の比較例3に係る正極活物質のSEM写真
図7】本発明の実施例および比較例に係る正極活物質(NCM523)の粒度分布
図8】本発明の実施例および比較例に係る正極活物質(NCM622)の粒度分布
図9】本発明の比較例に係る正極活物質(NCM111)の粒度分布
図10】粉体プレス密度の測定に用いる装置の概念図
図11】本発明の一態様に係る非水電解質二次電池を示す斜視図
図12】本発明の一態様に係る非水電解質二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限しない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内である。
【0020】
本発明の一実施形態は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meであり、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1.05≦Li/Meであり、横軸を粒子径(μm)とし、縦軸を頻度(%)とする粒度分布図における最大ピークの頻度をFre1(%)とし、上記最大ピークを与える粒子径をD1(μm)とし、D1の1/5に相当する粒子径をD2(μm)とし、D2における頻度をFre2(%)としたとき、Fre1に対するFre2の比Fre2/Fre1の値が0.12≦Fre2/Fre1である、非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「第一の実施形態」という。)である。
【0021】
第一の実施形態において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の半値幅に対する(003)面の半値幅比(003)/(104)が0.87以上1.1以下であることが好ましい。
また、前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子のうち、粒子径がD2であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、一次粒子又は20個以下の一次粒子からなる二次粒子が個数頻度比において60%以上を占めることが好ましい。以下、詳述する。
【0022】
<リチウム遷移金属複合酸化物の組成>
第一の実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、遷移金属(Me)として、Ni、Co及びMnを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有する。このリチウム遷移金属複合酸化物は、組成式Li1+x(NiCoMn1-x(a+b+c=1)で表される。体積当たりの放電容量が高い非水電解質二次電池を得るために、遷移金属元素(Me)に対するLiのモル比Li/Me、すなわち(1+x)/(1-x)は1.05以上とする。当該モル比は1.1以上とすることが好ましい。
【0023】
Niは、非水電解質二次電池の質量当たりのエネルギー密度を向上させる作用がある。正極の充電上限電位を4.25V(vs.Li/Li)に設定した場合、例えば、Li1+x(Ni1/3Co1/3Mn1/31-x(以下「NCM111」という。)のような、NiとMeのモル比Ni/Meが0.33であるリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質では、正極活物質の質量あたりの理論エネルギー密度が約600mWh/gであるのに対し、例えばLi1+x(Ni0.5Co0.2Mn0.3)1-x(以下、「NCM523」という。)のような、NiとMeのモル比Ni/Meが0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質では、理論エネルギー密度が約650mWh/gである。これは、電位4.25V(vs.Li/Li)までの充電過程において脱離させることのできるリチウムの量を、前記リチウム遷移金属複合酸化物をLi1-γMeOと表記した場合のγの値として表記すると、NCM111においては、およそ0.5であるのに対し、NCM523においては、およそ0.7であるためである。したがって、NiとMeのモル比Ni/Meが大きいリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いると、エネルギー密度の点で優れた非水電解質二次電池が提供できることが期待される。したがって、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Me、すなわちaは0.35以上とする。0.4以上とすることが好ましい。ただし、Ni/Meが高すぎない方が、活物質の粒子形状を制御しやすいので、Ni/Meは0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0024】
Coは、活物質の電子伝導性を高め、高率放電性能を向上させる作用があるが、材料コストを削減するために、遷移金属(Me)に対するCoのモル比Co/Me、すなわちbは、0より大きく0.4以下とすることが好ましく、0.1以上0.3以下とすることがより好ましい。
【0025】
遷移金属(Me)に対するMnのモル比Mn/Me、すなわちcは、材料コストの観点から、また、充放電サイクル性能を向上させるために、0より大きくすることが好ましく、0.2以上0.5以下とすることがより好ましく、0.3以上0.4以下とすることがさらにより好ましい。
【0026】
また、このリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Fe、Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除しない。
【0027】
<リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造>
第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)及び充放電後の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、ともに空間群R3-mに帰属されるエックス線回折パターンを有し、CuKα線源を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(003)面に帰属される回折ピークを2θ=18.6±1°に、及び(104)面に帰属される回折ピークを2θ=44±1°に有している。
なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0028】
前記リチウム遷移金属複合酸化物において、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅に対する(003)面に帰属される回折ピークの半値幅の比(以下「半値幅比(003)/(104)」という。)は0.87以上1.1以下であることが好ましい。
半値幅比(003)/(104)が上記の範囲であることは、結晶性が高く、かつ、(003)面に垂直な方向と(104)面に垂直な方向との成長がほぼ等方的であることを示しており、質量当たりの放電容量を向上させる要因であると考えられる。したがって、上記リチウム遷移金属複合酸化物の組成、及び次に述べる粒子形状と相まって、体積当たりの放電容量を向上させることができると考えられる。
【0029】
<リチウム遷移金属複合酸化物の粒子形状>
第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、横軸を粒子径(μm)とし、縦軸を頻度(%)とする粒度分布図における最大ピークの頻度をFre1(%)とし、上記最大ピークを与える粒子径をD1(μm)とし、D1の1/5に相当する粒子径をD2(μm)とし、D2における頻度をFre2(%)としたとき、Fre1に対するFre2の比Fre2/Fre1の値が0.12≦Fre2/Fre1である粒度分布を有する。
ここで、図1から3は、後述の実施例に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質のSEM写真であり、図4、5は、後述の比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質のSEM写真である。比較例においては、ほぼ同じ粒子径且つ大粒径であり、一次粒子が多数集合した二次粒子が全体を占める正極活物質が得られている(図4、5)。これに対して、実施例においては、大粒径であり、一次粒子が多数集合した二次粒子と、小粒径であり、単粒子である一次粒子又は20個以下の一次粒子からなる二次粒子(以下、一次粒子及び20個以下の一次粒子からなる二次粒子を合わせて「低凝集性粒子」という。)とが混在した状態の正極活物質が得られている(図1から3)。したがって、実施例と比較例とでは、粒子形状、粒径分布が大きく異なることがわかる。図9、10は、実施例1、2、7、11から13と比較例1、6、8に係る正極活物質についての、横軸を粒子径(μm)とし、縦軸を頻度(%)とする粒度分布図である。この粒度分布図から、実施例に係る粒度分布は、最大ピークの頻度をFre1(%)とし、上記最大ピークを与える粒子径をD1(μm)とし、D1の1/5に相当する粒子径をD2(μm)とし、D2における頻度をFre2(%)としたとき、Fre2の小ピーク又は肩が存在し、Fre2/Fre1の値が0.12以上であることがわかる。
そして、粒度分布と粒子形状の写真とを対応させると、D1が大粒径の二次粒子の粒子径に、D2が小粒径の低凝集性粒子の粒子径に、それぞれほぼ対応しており、小粒径の低凝集性粒子が個数頻度比において60%以上を占めることが見て取れる。
一次粒子が多数集合した二次粒子は一次粒子界面に空隙を有するのに対して、低凝集性粒子は一次粒子界面が少ないために高密度である。さらに、小粒径の低凝集性粒子は大粒径の二次粒子間の隙間を埋めることによって、より粉体密度の向上に寄与する。したがって、第一の実施形態においては、粉体密度が高く、体積当たりの放電容量が向上した正極活物質を提供することができると推測される。
【0030】
<リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法>
本発明の他の一実施形態は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meが0.35≦Ni/Meである炭酸塩前駆体を700℃以上900℃以下で熱処理したものを、リチウム化合物と混合し、900℃以上1000℃未満で焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を製造することを備える非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「第二の実施形態」という。)である。
【0031】
第二の実施形態においては、「共沈法」を採用して、Ni、Co及びMnの化合物を含む水溶液を、反応槽に滴下して供給することにより、反応溶液中でNi、Co及びMnを含有する炭酸塩を共沈させて炭酸塩前駆体を作製している。
【0032】
「共沈法」においては、前駆体を水酸化物とする場合と、炭酸塩とする場合とがある。炭酸塩前駆体をリチウム化合物と混合して焼成すると、焼成過程で炭酸ガスが発生するため、比表面積が大きく体積密度が低い活物質が作製される。したがって、体積当たりのエネルギー密度を高めようとする場合、水酸化物前駆体を用いて活物質を製造することが通常であった。例えば、上記特許文献4には、体積当たりの容量を高める活物質が水酸化物前駆体から作製されることが記載されている。
しかし、本発明者らは、炭酸塩前駆体を予め適切な温度で熱処理した後、リチウム化合物と混合して焼成することにより、体積当たりの放電容量を高めることができることを見出した。その作用・機序は以下のように推測される。
【0033】
炭酸塩前駆体は球状であり、これを適切な温度で熱処理すると、炭酸ガスが発生することで、微細孔を有する球状の酸化物前駆体となる。この酸化物前駆体をリチウム化合物と混合し、適切な温度で焼成すると、Liとの反応による体積変化により一部の前駆体が微細孔を起点に割れて、小粒径であり、単粒子である一次粒子や少数の一次粒子が集合した二次粒子からなる低凝集性粒子が生成する。このような低凝集性粒子は高密度であり、加えて、大粒径粒子間の隙間を埋めることによってより粉体密度を高めることができるから、体積当たりの放電容量を高めることができると考えられる。
一方、水酸化物前駆体は、一次粒子が炭酸塩前駆体と比較して大きく、一次粒子間の界面で強固に接触しているため、仮に熱処理を行ったとしても、水蒸気は発生するが、炭酸ガスは発生しないから、適切な微細孔を生成することができない。したがって、その後、水酸化物前駆体とリチウム化合物を混合して焼成しても、大粒径の二次粒子と、小粒径の低凝集性粒子とが混在した状態の活物質は得られ難い。水酸化物前駆体を用いた場合の比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物のSEM写真を図6に示す。
【0034】
≪炭酸塩前駆体の作製及び熱処理≫
以下、共沈法について詳述する。
前記水溶液に含まれるNi、Co及びMnの化合物としては、水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を一例として挙げることができる。
【0035】
炭酸塩前駆体を作製するにあたって、Ni、Co、MnのうちMnは酸化されやすく、Ni、Co、Mnが2価の状態で均一に分布した炭酸塩前駆体を作製することが容易ではないため、Ni、Co、Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分になりやすい。したがって、炭酸塩前駆体に十分に均一ではない状態で分布して存在するMnの酸化を抑制するために、反応槽の溶液から溶存酸素を除去しておくことが好ましい。溶存酸素を除去する方法としては、酸素(O)を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素(O)を含まないガスとしては、限定されないが、窒素(N)ガス、アルゴン(Ar)ガス、二酸化炭素(CO)ガス等を用いることができる。
【0036】
反応槽の溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて炭酸塩前駆体を作製する工程におけるpHは限定されないが、pHを7.5から11とすることができる。このとき、pHを9.4以下とすることにより、前駆体のタップ密度を1.25g/cm以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0037】
反応槽のpHを一定に保つために、原料水溶液の滴下の開始から終了までの間、錯化剤を含む炭酸塩水溶液を適宜滴下することが好ましい。
錯化剤としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等を用いることができ、アンモニアが好ましい。錯化剤を用いた晶析反応によって、よりタップ密度の大きな前駆体を作製することができる。
炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液等が好ましい。
【0038】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する炭酸塩前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30cm/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10cm/min以下がより好ましく、5cm/min以下が最も好ましい。
【0039】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、前駆体粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でなくなる虞を低減させるため、24h以下が好ましく、10h以下がより好ましい。
【0040】
撹拌停止後、生成した炭酸塩前駆体を分離し、イオン交換水で洗浄した後、80℃から100℃で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましく、必要に応じて粉砕により粒子径を揃えてもよい。
【0041】
本発明は、上記のようにして得られた炭酸塩前駆体をリチウム化合物との混合に先立って、酸素を含んだ雰囲気下、例えば大気中で、700℃以上900℃以下の温度で熱処理することに特徴を有する。これにより、微細孔を有する酸化物前駆体を作製することができる。この熱処理温度は700℃より低いと、炭酸ガスの発生が十分に起こらないので、微細孔が形成され難い。また、1000℃以上であると、焼結が生じるため、一旦形成された微細孔が失われてしまう。
【0042】
≪リチウム遷移金属複合酸化物の作成≫
熱処理後の炭酸塩前駆体とリチウム化合物とを混合し、900℃以上1000℃未満の温度で焼成することで、多数の一次粒子が集合した大粒径の二次粒子(多結晶粒子)と、二次粒子が崩壊して一次粒子または20個以下の一次粒子からなる低凝集性粒子とが混在したリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。したがって、これを用いることにより、粉体密度が向上した質量当たりの放電容量が高い正極活物質、すなわち、体積当たりの放電容量が向上した正極活物質を提供することができる。
【0043】
リチウム化合物としては、通常使用されている水酸化リチウム、炭酸リチウムとともに、焼結助剤としてフッ化リチウム、硫酸リチウム、又はリン酸リチウムを使用してもよい。フッ化リチウム等の焼結助剤の存在下で焼成することで、より結晶性が高い正極活物質を得ることができる。これらの焼結助剤の添加比率は、リチウム化合物の総モル量に対して1から10mol%とすることが好ましい。なお、リチウム化合物の総モル量は、焼成中にリチウム化合物の一部が消失することを見込んで、炭酸塩前駆体中の遷移金属元素のモル量に対してリチウムのモル量が1から5mol%程度過剰に仕込むことが好ましい。これらの焼結助剤を使用して製造されたリチウム遷移金属複合酸化物は、粒子表面にF、S、又はPの元素を含む。リチウム遷移金属複合酸化物が粒子表面にF、S、又はPの元素を含むことは、エネルギー分散型エックス線分析(EDX)によって確認できる。後述する実施例では、フッ化リチウム等の焼結助剤を用いなくても十分に結晶性が高い正極活物質が得られるため、上記焼結助剤は用いなかった。
【0044】
前駆体とリチウム化合物の混合物を焼成する温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極性能が低下する傾向があるので、第二の実施形態においては、焼成温度は900℃以上とする。900℃以上とすることにより、焼結度を高め、活物質の半値幅比(003)/(104)を0.87以上1.1以下とすることができ、質量当たりの放電容量を高め、充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0045】
一方、焼成温度が高すぎるとα-NaFeO構造から岩塩型立方晶構造へと構造変化がおこり、充放電反応中における活物質中のリチウムイオン移動に不利な状態となるため、放電性能が低下する。本実施形態において、焼成温度は1000℃未満とする。1000℃未満とすることにより、質量当たりの放電容量を低下させることなく、充放電サイクル性能を向上させることができる。放電性能を高めるためには950℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
<非水電解質二次電池用正極>
本発明のさらに他の一実施形態は、第一の実施形態に係る正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極(以下、「第三の実施形態」という。)である。この正極活物質は、必要であれば、粉砕機や分級機を用いて、粒度分布を調整してもよい。具体的には、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等を用いてもよい。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いてよい。
【0047】
第三の実施形態において、正極には、主要構成成分である正極活物質の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0048】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0049】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極の総質量に対して0.1質量%から50質量%が好ましく、特に0.5質量%から30質量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1から0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、均一混合が好ましい。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を用いて、乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0050】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極の総質量に対して1質量%から50質量%が好ましく、特に2質量%から30質量%が好ましい。
【0051】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極の総質量に対して30質量%以下が好ましい。
【0052】
第3の実施形態に係る正極は、前記主要構成成分である正極活物質、及びその他の材料と、分散媒としてN-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水とを混合し、得られた塗布ペーストを下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃から250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理して分散媒を除去し、正極合剤を形成することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されない。
【0053】
正極の集電体としては、アルミニウム箔、チタン、タンタル、ステンレス鋼箔等の金属箔を用いることができる。正極の集電体としてはアルミニウム箔が好ましい。正極の集電体の厚さは10から30μmが好ましい。また、正極合剤の厚さはプレス後において、40から150μm(正極の集電体の厚さを除く)が好ましい。
【0054】
<非水電解質二次電池>
本発明のさらに他の一実施形態は、第三の実施形態に係る正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池(以下、「第四の実施形態」という。)である。以下、正極以外の電池の各要素について詳述する。
【0055】
≪負極≫
第四の実施形態に係る負極の主要構成成分である負極材料としては、限定されず、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態であればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料、リチウム金属、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム,リチウム-鉛,リチウム-スズ,リチウム-アルミニウム-スズ,リチウム-ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム-チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、非黒鉛質炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0056】
負極材料は、粉体であることが好ましく、負極には、負極材料以外に導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよいことは正極と同様である。
集電体としては、金属箔を用いることができ、銅箔が好ましい。
【0057】
≪非水電解質≫
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されず、一般にリチウム電池等への使用が提案されている非水電解質が使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
上記の非水電解質には、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビニルエチレンカーボネート;エチレンスルフィド、1,3-プロペンスルトン、ジグリコールサルフェート、1,3-プロパンスルトン(PS)、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、スルホラン、エチレングリコール環状サルフェート、プロピレングリコール環状サルフェート等の硫黄含有化合物;ジフルオロリン酸リチウム等のリン含有化合物;アジポニトリル、スクシノニトリル等のシアン系化合物などが挙げられる。非水電解質中のこれら化合物の添加量は、0.5質量%から2質量%が好ましい。
【0059】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0060】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温性能をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
【0061】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0062】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池性能を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/dmから5mol/dmが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/dmから2.5mol/dmである。
【0063】
≪セパレータ≫
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池に用いるセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0064】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、非水電解質二次電池の充放電性能の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0065】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0066】
さらに、セパレータは、前記したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0067】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0068】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池容器等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0069】
≪非水電解質二次電池の組立≫
第四の実施形態に係る正極活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池を図11に示す。図11は、矩形状の非水電解質二次電池の電池容器内部を透視した斜視図である。電極群2が収納された電池容器3内に非水電解質(電解液)を注入することにより非水電解質二次電池1が組み立てられる。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
非水電解質二次電池の形状については特に限定されず、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0070】
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池は、複数個集合して蓄電装置とすることができる。蓄電装置の一例を図12に示す。図12において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は再生可能エネルギーを用いた蓄電システムや車載用途の非水電解質二次電池として使用することができる。
【0071】
次に、非水電解質二次電池用正極活物質に対する各種測定方法について述べる。
【0072】
<測定対象>
正極作製前のリチウム遷移金属複合酸化物粉末(充放電前粉末)であれば、そのまま測定に供する。
非水電解質二次電池を解体して取り出した正極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池に1時間の定電流通電を行ったときに電池の公称容量と同じ電気量となる電流値の10分の1となる電流値(0.1C)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電する。電池を解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、集電体上の正極合剤を採取する。
エックス線回折測定においては、採取した正極合剤を測定に供する。プレス密度の測定においては、採取した正極合剤を小型電気炉を用いて空気中600℃で4時間加熱することで導電剤および結着剤を除去し、正極活物質を取り出す。
上記の電池の解体から再解体までの作業、及び正極板の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0073】
<エックス線回折測定>
本明細書において、エックス線回折測定及びこれを用いた半値幅の測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、走査時間は14min(スキャンスピードは5.0)、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリット幅は8.0mmとする。
【0074】
<半値幅比(003)/(104)の測定>
当該エックス線回折測定により得られたデータを、エックス線回折装置に付属のソフトウェアであるRigaku社の「PDXL(Ver 1.8.1.0)」を適用して半値幅を計算する。
空間群R3-mに帰属したときに(003)面に指数付けされるピークである2θ=18.6±1°に存在する回折ピークの半値幅を、(104)面に指数付けされるピークである2θ=44±1°に存在する回折ピークの半値幅で除算することで、「半値幅比(003)/(104)」を得る。
【0075】
<粉末プレス密度の測定>
本明細書において、正極活物質の粉末プレス密度の測定は、次の条件にて行う。測定は室温(20℃以上25℃以下)の大気中にて行う。粉末プレス密度の測定に用いる装置の概念図を図10に示す。一対の測定プローブ1A、1Bを準備する。測定プローブ1A、1Bは、直径18.0mm(±0.05mm)のステンレス鋼(SUS304)製の円柱の一端を平面加工した測定面2A、2Bを有し、他端をステンレス鋼製の台座3A、3Bに前記円柱を垂直に固定したものである。アクリル製の円柱の中心部に、前記ステンレス鋼製円柱が重力によって空気中で自然にゆっくりと下降しうるように内径を調整し研磨加工された貫通孔7を設けた側体6を準備する。側体6の上面及び下面は平滑に研磨加工されている。
一方の前記測定プローブ1Aを測定面2Aが上方を向くように水平な机上に設置し、上方から前記側体6を被せるようにして側体6の貫通孔7に前記測定プローブ1Aの円柱部を挿入する。もう一方の測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔7の上方から挿入し、前記測定面2A、2B間の距離をゼロの状態とする。このとき、ノギスを用いて測定プローブ1Bの台座3Bと測定プローブ1Aの台座3Aとの距離を測定しておく。
【0076】
次に、測定プローブ1Bを引き抜き、貫通孔7の上部から薬さじで0.3000gの被測定試料の粉体を投入し、再度、測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔7の上方から挿入する。圧力計の付いた手動式の油圧プレス機を用いて前記測定プローブ1Bの上方から、プレス機の目盛りが示す値が、貫通孔の面積(2.545cm)にかかる圧力が16MPaとなるに相当する値に達するまで加圧する。なお、その後前記目盛りが示す値が減じても追加の加圧は行わない。この状態で、再び、ノギスを用いて測定プローブ1Bの台座3Bと測定プローブ1Aの台座3Aとの距離を測定する。被測定試料投入前後の測定プローブ1Bの台座3Bと測定プローブ1Aの台座3Aとの距離の差(cm)と、貫通孔の面積(2.545cm)と、被測定試料の投入量(0.3000g)から、加圧された状態の被測定試料の密度を算出し、これを粉体プレス密度(g/cm)とする。
【0077】
<体積当たりの放電容量の算出>
上記のようにして測定された正極活物質の粉体プレス密度(g/cm)と質量当たりの放電容量(mAh/g)の積から、体積当たりの放電容量(mAh/cm)を算出する。
【実施例
【0078】
(実施例1)
(炭酸塩前駆体の作製工程)
反応晶析法を用いて炭酸塩前駆体を作製した。まず、硫酸ニッケル6水和物262.9g、硫酸コバルト7水和物112.4g、及び硫酸マンガン5水和物144.6gを秤量し、これらの全量をイオン交換水2dmに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が50:20:30となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。次に、5dmの反応槽に2dmのイオン交換水を注ぎ、COを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌し、反応層内に対流が十分おこるように設定した。上記硫酸塩水溶液を1.6cm/minの速度で反応槽に24h滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、1.0Mの炭酸ナトリウム、及び0.2Mのアンモニアからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中の反応液のpHが常に8.0(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2dmを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した炭酸塩前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて洗浄し、粒子に付着しているナトリウムイオンを低減させ、乾燥炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。
【0079】
(熱処理工程)
上記炭酸塩前駆体をアルミナ製ボート内に10.0g秤量し、電気炉を用いて、0.5dm/minの空気フロー雰囲気下で、700℃まで10hかけて昇温し、700℃で4h熱処理することで酸化物前駆体を作製した。
【0080】
(焼成工程)
上記酸化物前駆体と水酸化リチウム1水和物をLi:(Ni,Co,Mn)のモル比が110:100となるように秤量し、瑪瑙製自動乳鉢を用いて十分混合し、混合粉体を調製した。上記混合粉体をペレット成型した後、アルミナ製ボートに載置し、電気炉を用いて、0.5dm/minの空気フロー雰囲気下で、900℃まで10hかけて昇温し、900℃で4h焼成した。焼成後、電気炉のスイッチを切り、自然放冷し、炉の温度が60℃以下になった後、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.05(Ni0.5Co0.2Mn0.30.95(NCM523)を作製し、実施例1に係る正極活物質とした。
【0081】
(実施例2)
炭酸塩前駆体の熱処理温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る正極活物質を作製した。
【0082】
(実施例3、4)
焼成工程における焼成時間をそれぞれ8h、12hに変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例3、4に係る正極活物質を作製した。
【0083】
(実施例5)
焼成工程における焼成温度を950℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例5に係る正極活物質を作製した。
【0084】
(実施例6)
Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が115:100である混合粉体を調製して焼成した以外は実施例2と同様にして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.07(Ni0.5Co0.2Mn0.30.93を作製し、実施例6に係る正極活物質とした。
【0085】
(実施例7)
炭酸塩前駆体の熱処理温度を850℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例7に係る正極活物質を作製した。
【0086】
(実施例8)
焼成工程における焼成温度を950℃に変更した以外は、実施例7と同様にして、実施例8に係る正極活物質を作製した。
【0087】
(実施例9、10)
Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が115:100である混合粉体を調製して焼成した以外はそれぞれ実施例7、8と同様にして、実施例9、10に係る正極活物質を作製した。
【0088】
(実施例11)
炭酸塩前駆体の熱処理温度を900℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例11に係る正極活物質を作製した。
【0089】
(比較例1)
炭酸塩前駆体の熱処理を行わず、前駆体に混合するリチウム化合物を炭酸リチウムに変更した以外は、実施例2と同様にして、比較例1に係る正極活物質を作製した。
【0090】
(比較例2)
炭酸塩前駆体の熱処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2に係る正極活物質を作製した。
【0091】
(比較例3)
(水酸化物前駆体の作製工程)
水酸化物前駆体の作製を、以下の反応晶析法を用いて行った。
まず、硫酸ニッケル6水和物525.7g、硫酸コバルト7水和物224.9g、及び硫酸マンガン5水和物289.3gを秤量し、これらの全量をイオン交換水4dmに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が50:20:30となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。次に、5dmの反応槽に2dmのイオン交換水を注ぎ、Nガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応層内に対流が十分おこるように設定した。上記硫酸塩水溶液を1.3cm/minの速度で反応槽に50h滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0Mの水酸化ナトリウム、0.5Mのアンモニア、及び0.29Mのヒドラジンからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に11.0(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2dmを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて洗浄し、粒子に付着しているナトリウムイオンを低減させ、乾燥炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、水酸化物前駆体を作製した。
この前駆体を用いたこと、前駆体の熱処理を行わなかったこと、及び焼成工程における焼成温度を1000℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例3に係る正極活物質を作製した。
【0092】
(比較例4、5)
焼成工程における焼成温度を850℃に変更した以外は、それぞれ実施例2、6と同様にして、比較例4、5に係る正極活物質を作製した。
【0093】
(比較例6、7)
炭酸塩前駆体の熱処理温度をそれぞれ、1000℃、600℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、比較例6、7に係る正極活物質を作製した。
【0094】
<エックス線回折測定及び半値幅の計算>
上記実施例及び比較例(比較例7を除く。)、並びに後述する全ての実施例及び比較例に係る正極活物質について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlexII)を用いて、上記条件で粉末エックス線回折測定を行った。全ての正極活物質について、付属のソフトウェアである「PDXL」を用いて解析を行い、R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、α-NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有することを確認した。また、(003)面及び(104)面の半値幅を用いて半値幅比(003)/(104)を計算した。
【0095】
<粒度分布の測定>
上記実施例及び比較例、並びに後述する全ての実施例及び比較例に係る正極活物質について、測定装置に日機装社製Microtrac(型番:MT3000)を使用し、測定制御ソフトにMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を使用して粒度分布を測定した。粒度分布図に基づき、最大ピークを与える粒子径D1(μm)における頻度Fre1(%)に対する、D1の1/5に相当する粒子径D2(μm)における頻度Fre2(%)の比Fre2/Fre1を求めた。
【0096】
<非水電解質二次電池の作製>
上記実施例及び比較例(比較例7を除く。)、並びに後述する実施例及び比較例(比較例11、12を除く。)に係る正極活物質を用い、以下の手順で、非水電解質二次電池を作製した。
N-メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比92:4:4の割合(固形分換算)で混練分散されている塗布ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し乾燥、プレスして正極を得た。
【0097】
上記の正極の理論容量に対して十分に大きい容量を備える金属リチウムをニッケル集電体に貼り付けて金属リチウム負極を作製した。
【0098】
非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/dmとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、金属樹脂複合フィルムを用いた。
前記正極と前記金属リチウム負極を前記セパレータを介して積層し、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように前記外装体内を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記非水電解質を注液後、注液孔を封止した。このようにして、各実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0099】
<放電容量の測定>
それぞれの実施例、比較例に係る非水電解質二次電池について、25℃にて、2サイクルの初期充放電を行った。充電は、電流0.2C、電圧4.35Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.2C、終止電圧2.85Vの定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設け、2サイクル目の放電容量を確認し、正極に含有される正極活物質質量で除して「0.2C放電容量(mAh/g)」とするとともに、これに上記の方法で測定した粉体プレス密度を掛け合わせて「0.2C放電容量(mAh/cm)」とした。
【0100】
前記実施例及び比較例に係る正極活物質及び非水電解質二次電池の各測定結果を表1に示す。また、図1から6にそれぞれ実施例2、5、8及び比較例1、3、6に係る正極活物質のSEM写真を示す。図9に実施例1、2、7、11及び比較例1及び6に係る正極活物質の粒度分布を示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1によると、炭酸塩前駆体の熱処理を行わなかった比較例1、2に係る正極活物質は、いずれも体積当たりの放電容量が低く、粒子径D1の1/5に相当する粒子径D2の粒子(低凝集性粒子)は殆ど見当たらなかった(Fre2/Fre1=0.00。図4、7も参照。)。比較例1は、熱処理を行っていない炭酸塩前駆体を焼成工程に供する場合に好適であることが知られている炭酸リチウムを混合して焼成を行った。比較例1に係る正極活物質は、半値幅比(003)/(104)が0.90と適度な結晶性を有し、質量当たりの放電容量は高かったが、粉体密度が低かった。比較例2は、炭酸塩前駆体に対して水酸化リチウムを混合して焼成を行ったことから、質量当たりの放電容量、及び粉体密度がともに実施例に及ばなかった。
【0103】
比較例3は、水酸化物前駆体を用い、熱処理を行わず、焼成温度を1000℃とした例である。低凝集性粒子の生成が殆ど見られず(Fre2/Fre1=0.00。図6参照。)、また、半値幅比(003)/(104)は1.15と等方性が不十分であった。高温で焼成したため、焼結が進行し、粉体密度は高かったが、質量あたりの放電容量が低く、体積当たりの放電容量も低かった。
【0104】
比較例4、5は、低凝集性粒子の生成頻度が低く(Fre2/Fre1<0.12)、質量当たりの放電容量が低かった。焼成温度が850℃と低かったことで、炭酸塩前駆体とリチウム化合物との反応が十分でなかったことにより、前駆体の割れによる低凝集性粒子の生成も十分でなかったためと考えられる。また、結晶が十分発達していなかった(半値幅比(003)/(104)<0.87)。
【0105】
比較例6、7も、低凝集性粒子の生成が起こり難かった(Fre2/Fre1<0.12)。比較例6は、粉体密度は高かったが、質量当たりの放電容量も、体積当たりの放電容量も低かった。比較例6は、1000℃という高温での熱処理が前駆体の焼結を進め、炭酸ガスの発生によって生成した微細孔を埋めてしまったため、低凝集性粒子が生成し難かったと考えられる。また、その後の焼成工程による前駆体とリチウム化合物との反応が不均一となって結晶歪が生じたことが、半値幅比(003)/(104)=0.70という値から推定される。一方、比較例7では、熱処理温度が600℃であって、炭酸ガスの発生が十分でなかったため、前駆体に微細孔が生成し難く、低凝集性粒子の生成が起こり難かったと推定される。比較例7の活物質を用いた非水電解質二次電池の作製は行わなかった。
【0106】
これらの比較例に対して、熱処理温度が700℃から900℃、焼成温度が900℃から950℃である実施例1から11に係る正極活物質は、いずれもFre2/Fre1≧0.12と、低凝集性粒子の生成頻度が高く、質量当たりの放電容量、及び体積当たりの放電容量がともに高かった。好適な温度による熱処理及び焼成により、適度な割合の低凝集性粒子が形成されたため、3.44g/cm以上という高い粉体密度、及び半値幅比(003)/(104)が0.87から1.1の範囲という良好な結晶性を示す正極活物質が得られ、体積当たりの放電容量が向上したものと推定される。
【0107】
(実施例12、13、比較例8)
炭酸塩前駆体の作製において、Ni:Co:Mnのモル比が60:20:20になるように原料を秤量した以外は、それぞれ実施例2、6及び比較例1と同様にして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.05(Ni0.6Co0.2Mn0.20.95(NCM622)を作製し、実施例12、13及び比較例8に係る正極活物質とした。
【0108】
(比較例9、10)
炭酸塩前駆体の作製において、Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1になるように原料を秤量した以外は、それぞれ比較例1及び実施例2と同様にして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.05(Ni0.33Co0.33Mn0.330.95(NCM111)を作製し、比較例9、10に係る正極活物質とした。
【0109】
表2に、実施例12、13及び比較例8から10の正極活物質及び非水電解質二次電池の各測定結果を示す。また、図8に実施例12、13及び比較例8に係る正極活物質の粒度分布を、図9に比較例9、10に係る正極活物質の粒度分布を示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2及び図8から、実施例12、13に係るリチウム遷移金属複合酸化物(NCM622)を含有する正極活物質は、実施例2や実施例6(NCM523)と同程度に、低凝集性粒子の生成頻度が高く、粉体密度が高く、かつ、質量当たりの放電容量はNCM523を上回っているので、体積当たりの放電容量がより高いことがわかる。比較例8は、前駆体に微細孔を生成させる熱処理工程を有しないから、低凝集性粒子の生成が殆どなく(Fre2/Fre1=0.02)(図12参照)、粉体密度も低いので、質量当たりの放電容量は実施例12、13に及ばなかった。
【0112】
比較例9、10に係るリチウム遷移金属複合酸化物(NCM111)を含有する正極活物質は、粉体密度が低く、体積当たりの放電容量が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を用いることにより、体積当たりの放電容量が向上した非水電解質二次電池を提供することができるので、この非水電解質二次電池は、再生可能エネルギーを用いた蓄電システムや車載用途の非水電解質二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
1A、1B 測定プローブ
2A、2B 測定面
3A、3B 台座
6 側体
7 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12