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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】蓄電デバイス、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20230815BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230815BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20230815BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230815BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230815BHJP
   H01G 11/06 20130101ALN20230815BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01G11/30
H01G11/56
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/058
H01G11/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019179615
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057205
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】田渕 雅人
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 俊平
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-077529(JP,A)
【文献】特開2012-226937(JP,A)
【文献】特開2004-179136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
H01M 10/058
H01M 4/00-4/62
H01G 11/56
H01G 11/30
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、高分子電解質層、負極を有する蓄電デバイスであって、正極、高分子電解質層、負極が積層されてなり、高分子電解質層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含有し、負極の負極材料層にシリコン系活物質を含有し、負極材料層の厚さが15μm以下であり、
前記エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が、下記一般式(2)由来の構成単位と、下記一般式(1)由来の構成単位および/または下記一般式(3)由来の構成単位を含有するポリエーテル重合体である蓄電デバイス。
式(1):
【化1】

[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH O(CR )である。R 、R 、R は水素原子または-CH O(CH CH O) であり、nおよびR はR 、R 、R の間で異なっていてもよい。R は炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化2】

式(3)
【化3】

[式中、R はエチレン性不飽和基を有する基である。]
【請求項2】
エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体の重量平均分子量が10万~250万である請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
シリコン系活物質がSiおよび/またはSiOを含有する請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
正極における正極材料に用いられる活物質が、AMO(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AMO(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AMBO(Aはアルカリ金属、BはP、Si、Sまたはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかである請求項1~3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の正極、高分子電解質層、負極を有する蓄電デバイスの製造方法であって、高分子電解質層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含有し、負極の負極材料層にシリコン系活物質を含有し、負極材料層の厚さが15μm以下とし、正極、高分子電解質層、負極が積層する蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
負極における負極材料層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含む電極材料用スラリーを含浸されて製造されていない請求項記載の蓄電デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などの二次電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどといった蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池やキャパシタといった蓄電デバイスは、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。近年、環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用と家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
【0003】
蓄電デバイスを構成する部材としては、正極、負極、電解質の大きく3つに分類され、上記の応用が進むと同時に、蓄電デバイスの高性能化が求められており、各種部材の改良が進められている。
【0004】
蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質と、導電助剤、バインダー、溶媒からなる電極材料を集電体上に塗布、乾燥して得られる。これまで正極材料としては、種々の高容量材料が開発され、実用化されてきたが、負極材料は依然としてグラファイトをはじめとした炭素材料が用いられているのが現状である。
【0005】
負極材料としては、炭素材料よりも理論容量が大きいシリコンやスズのような合金系材料への期待が高まっており、これら材料を用いた負極材料の開発が進められている。しかし、このような合金系材料は充放電における体積変化が大きいために充放電サイクルによる相対容量の低下が著しいことが課題となっている。
【0006】
上記課題を解決するために、例えば、CVD法により集電体に直接シリコンの薄膜を形成する技術(特許文献1:特開2011-216193)、シリコンをダイヤモンドライクカーボン(DLC)で被覆する技術(特許文献2:特開2017-120710参照)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、充放電サイクルに伴う相対容量の低下は抑制できているが、負極活物質層中に含まれるシリコンが少なく、絶対的な電気容量が足りないため実用化は現実的でない。また、特許文献2においては、負極材料層にDLC被覆シリコン系材料に加えて炭素材料を併用することで体積変化、相対容量低下を抑制しているが、DLC被覆シリコン系材料の配合割合は10%でしかなく、シリコン系材料における根本的な課題の解決には至っていない。
【0008】
さらに、特許文献1および2に開示された技術では、蒸着装置などの導入が必要であり、電極の製造方法が煩雑になることから設備費用や管理費用が高額になり、生産性や設備投資の観点から実用、導入に向けての障壁が高い。
【0009】
電極の簡便な製造方法として、含浸工程を行わなくても電池動作を可能とする技術(特許文献3:特開2019-016430)が提案されているが、初期容量の評価のみとなっており、充放電サイクルに伴う相対容量の評価などは行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-216193
【文献】特開2017-120710
【文献】特開2019-016430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、充放電サイクルによる相対容量の低下を抑制、かつ、従来の負極材料層と比較してより薄膜化されたリチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスを提供することを主な目的とする。更に、本発明は、負極材料層が薄膜化したことにより、高分子電解質を用いた蓄電デバイスの製造において必須とされる電解質層と電極を馴染ませる含浸工程が不要である蓄電デバイスの製造方法も提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、電解質層にエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を用い、かつ、負極材料層にシリコン系活物質を用い、さらに、負極材料層が15μm以下とすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成することに至った。すなわち本発明は以下に関する。
【0013】
項1 正極、高分子電解質層、負極を有する蓄電デバイスであって、正極、高分子電解質層、負極が積層されてなり、高分子電解質層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含有し、負極の負極材料層にシリコン系活物質を含有し、負極材料層の厚さが15μm以下である蓄電デバイス。
項2 エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が、下記一般式(2)由来の構成単位と、下記一般式(1)由来の構成単位および/または下記一般式(3)由来の構成単位を含有するポリエーテル重合体である項1に記載の蓄電デバイス。
【化1】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CHO(CR)である。R、R、Rは水素原子または-CHO(CHCHO)であり、nおよびRはR、R、Rの間で異なっていてもよい。Rは炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化2】
式(3)
【化3】
[式中、Rはエチレン性不飽和基を有する基である。]
項3 エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体の重量平均分子量が10万~250万である項1または2に記載の蓄電デバイス。
項4 シリコン系活物質がSiおよび/またはSiOを含有する項1~3いずれかに記載の蓄電デバイス。
項5 正極における正極材料に用いられる活物質が、AMO(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AMO(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AMBO(Aはアルカリ金属、BはP、Si、Sまたはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかである項1~4いずれかに記載の蓄電デバイス。
項6 正極、高分子電解質層、負極を有する蓄電デバイスの製造方法であって、高分子電解質層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含有し、負極の負極材料層にシリコン系活物質を含有し、負極材料層の厚さが15μm以下とし、正極、高分子電解質層、負極が積層される蓄電デバイスの製造方法。
項7 負極における負極材料層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含む電極材料用スラリーを含浸されて製造されていない項6記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄電デバイスは、従来の蓄電デバイスよりも小型化や軽量化に寄与するものであり、電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池および携帯電話などの電子機器に有用に用いられる。
【0015】
また、本発明によれば、高分子電解質を用いた蓄電デバイスの製造において、含浸工程を行うことを必要としない蓄電デバイスの製造方法を提供することができる。
【0016】
本明細書において、蓄電デバイスとは、一次電池、リチウムイオン二次電池およびニッケル水素二次電池等の二次電池、電気化学キャパシタを包含するものである。
【0017】
<1.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、正極と、負極と、高分子電解質層とを備えることを特徴としている。
【0018】
<2.正極>
正極は、公知の正極を用いることができ、集電体と正極材料層とを備える正極を例示することができる。
【0019】
集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。
【0020】
集電体の厚みとしては、特に制限されないが、例えば5~50μm程度、好ましくは10~20μm程度が挙げられる。
【0021】
正極材料層は、集電体の表面に形成されている。正極材料層は、正極活物質を含んでいる。正極材料層は、集電体の表面に、正極材料層を構成する正極活物質、バインダーなどを含む正極材料を塗布することにより形成することができる。
【0022】
正極材料層の厚みとしては、特に制限されないが、例えば5~300μm程度、好ましくは15~200μm程度が挙げられる。
【0023】
正極活物質は、AMO2、AM24、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs.Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0024】
正極活物質の好ましい具体例としては、LiCoO, LiNiO、LiMnO、LiCrO、LiFeO, LiCoMn1-a, LiCoNi1-a, LiCoCr1-a, LiCoFe1-a, LiCoTi1-a, LiMnNi1-a, LiMnCr1-a, LiMnFe1-a, LiMnTi1-a, LiNiCr1-a, LiNiFe1-a, LiNiTi1-a, LiCrFe1-a, LiCrTi1-a, LiFeTi1-a, LiCoMnNi1-b-C, LiNiCoAl, LiCrMnNi1-b-C, LiFeMnNi1-b-C, LiTiMnNi1-b-C, LiMn, LiMnCo2-d, LiMnNi2-d, LiMnCr2-d, LiMnFe2-d, LiMnTi2-d, LiMnO, LiMnCo1-e, LiMnNi1-e, LiMnFe1-e, LiMnTi1-e, LiCoPO, LiMnPO, LiNiPO, LiFePO, LiCoMn1-fPO, LiCoNi1-fPO, LiCoFe1-fPO, LiMnNi1-fPO, LiMnFe1-fPO, LiNiFe1-fPO,LiCoSiO, LiMnSiO, LiNiSiO, LiFeSiO, LiCoMn1-gSiO, LiCoNi1-gSiO, LiCoFe1-gSiO, LiMnNi1-gSiO, LiMnFe1-gSiO, LiNiFe1-gSiO, LiCoPSi1-h, LiMnPSi1-h, LiNiPSi1-h, LiFePSi1-h, LiCoMn1-gSi1-h, LiCoNi1-gSi1-h, LiCoFe1-gSi1-h, LiMnNi1-gSi1-h, LiMnFe1-gSi1-h, LiNiFe1-gSi1-hなどのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99, g=0.01~0.99, h=0.01~0.99である。)
【0025】
また、正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LiCoO, LiNiO, LiMnO, LiCrO, LiCoNi1-a, LiMnNi1-a, LiCoMnNi1-b-C, LiNiCoAl, LiMn, LiMnO, LiMnFe1-e, LiMnTi1-e, LiCoPO, LiMnPO, LiNiPO, LiFePO, LiMnFe1-fPOを挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99である。なお、上記のx, yの値は充放電によって増減する。)
【0026】
正極材料層中の正極活物質の含有量としては、特に制限されず、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~85質量%程度が挙げられる。活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明の正極材料層は、必要に応じて導電助剤を含有させても良く、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0028】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、正極材料層中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上を例示することができる。
【0029】
正極材料層は、必要に応じてバインダーを含有させても良く、公知のバインダーを用いることができ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、国際公開番号WO2013/180103で公開された重合体、国際公開番号WO2019/17479で公開された重合体等が挙げられる。これらは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0030】
バインダーの含有量は特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、下限は0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましく、上限は20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の正極材料層は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0032】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0034】
正極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。正極活物質、導電助剤、バインダー、増粘剤等を含有した正極材料をドクターブレード法やアプリケーター法、バーコーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布、必要により乾燥することより行われる。
【0035】
正極材料は水等の溶媒を含有したスラリーであってもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、および超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、および超純水である。
【0036】
本発明の正極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の正極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分中の重合体量の割合は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましい。
【0038】
正極材料の調製方法としては特に限定されず、正極活物質、導電助剤、バインダー、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0039】
例えばドクターブレード法では、正極材料スラリーを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は塗布後、余分な有機溶剤および水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0040】
<3.負極>
負極は、集電体と、シリコン系活物質を含む負極材料層とを備える。
【0041】
集電体としては、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン、アルミニウム等の金属が使用される。
【0042】
集電体の厚みとしては、特に制限されないが、例えば5~50μm程度、好ましくは10~20μm程度が挙げられる。
【0043】
負極材料層は、集電体の表面に形成されている。負極材料層は、シリコン系活物質を含んでいる。負極材料層は、集電体の表面に、負極材料層を構成するシリコン系活物質、バインダーなどを含む負極材料を塗布することにより形成することができる。
【0044】
負極材料層の厚みとしては、15μm以下であり、下限としては、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、上限としては、12μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
【0045】
シリコン系活物質としては、Si元素、Siとの合金、Siを含む酸化物、Siを含む炭化物等であり、Si、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<x≦2)、SnSiO、LiSiOを例示することができ、Si、SiO(0<x≦2)であることが好ましく、Si、一酸化ケイ素(SiO)等であることが特に好ましい。
【0046】
シリコン系活物質の平均粒径(D50)は、下限は0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましく、0.7μm以上であることが特に好ましく、上限は50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
【0047】
平均粒径(D50)の測定はレーザー回折式粒度分布計で行う。
【0048】
負極材料層における活物質として、更に炭素材料を含有してもよい。
【0049】
炭素材料としては、グラファイト、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどの炭素材料を例示することができ、グラファイトであることが好ましい。
【0050】
負極材料層中の活物質の含有量としては、特に制限されず、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~80質量%程度が挙げられる。
【0051】
負極材料層は、必要に応じて導電助剤を含有させても良く、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0052】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質全量100質量部に対して、上限値は20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上を例示することができる。
【0053】
負極材料層は、必要に応じてバインダーを含有させても良く、公知のバインダーを用いることができ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、国際公開番号WO2013/180103で公開された重合体、国際公開番号WO2019/17479で公開された重合体等が挙げられる。これらは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0054】
バインダーの含有量は特に制限されないが、負極活物質全量100質量部に対して、下限は0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましく、上限は20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが特に好ましい。
【0055】
負極材料は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0056】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質全量100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0058】
負極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。正極活物質、導電助剤、バインダー、増粘剤等を含有した正極材料をドクターブレード法やアプリケーター法、バーコーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布、必要により乾燥することより行われる。
【0059】
負極材料は水等の溶媒を含有したスラリーであってもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、および超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、および超純水である。
【0060】
本発明の負極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の負極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分中の重合体量の割合は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましい。
【0062】
負極材料の調製方法としては特に限定されず、正極活物質、導電助剤、バインダー、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0063】
例えばドクターブレード法では、負極材料スラリーを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は塗布後、余分な有機溶剤および水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0064】
<4.高分子電解質層>
高分子電解質層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含有する。ポリエーテル重合体は架橋されていることが好ましい。
【0065】
エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体としては、下記一般式(1)由来の構成単位を0~50モル%と、下記式(2)由来の構成単位を30~100モル%と、下記式(3)由来の構成単位を0~20モル%を含有するポリエーテル重合体であることが好ましい。なお、構成単位は繰り返し単位と記載することもできる。
式(1):
【化1】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CHO(CR)である。R、R、Rは水素原子または-CHO(CHCHO)であり、nおよびRはR、R、Rの間で異なっていてもよい。Rは炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化2】
式(3)
【化3】
[式中、Rはエチレン性不飽和基を有する基である。]
【0066】
ここで一般式(1)由来の構成単位および一般式(3)由来の構成単位は、それぞれ2種以上の異なるモノマーから誘導されるものであってもよい。
【0067】
式(1)の化合物は市販品からの入手、またはエピハロヒドリンとアルコールからの一般的なエーテル合成法等により容易に合成が可能である。また、アリール基としては、フェニル基が挙げられる。
市販品から入手可能な化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシヘプタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシへキサン、グリシジルフェニルエーテル、1,2-エポキシペンタン、グリシジルイソプロピルエーテルなどが使用できる。これら市販品のなかでは、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテルが好ましく、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテルが特に好ましい。
合成によって得られる式(1)で表される単量体では、Rは-CHO(CR)が好ましく、R、R、Rの少なくとも一つが-CHO(CHCHO)であることが好ましい。Rは炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。nは0~6が好ましく、0~4がより好ましい。
【0068】
式(2)の化合物は基礎化学品であり、市販品を容易に入手可能である。
【0069】
式(3)の化合物において、Rはエチレン性不飽和基を含む置換基であり、炭素数としては2~6であることが好ましい。エチレン性不飽和基含有のモノマー成分としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカンジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエートが用いられる。好ましくは、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルである。
【0070】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位、一般式(2)由来の構成単位、および一般式(3)由来の構成単位のモル比率が、(1)0~50モル%、(2)30~100モル%、および(3)0~20モル%であることが好ましく、(1)0~40モル%、(2)45~100モル%、および(3)0~15モル%であることがより好ましく、(1)0~30モル%、(2)65~100モル%、および(3)0~10モル%であることがさらに好ましい。
【0071】
ポリエーテル重合体としては、一般式(2)由来の構成単位と、一般式(1)由来の構成単位および/または一般式(3)由来の構成単位を有することが好ましく、一般式(1)由来の構成単位、一般式(2)由来の構成単位、一般式(3)由来の構成単位を全て有することが特に好ましい。
【0072】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位と一般式(2)由来の構成単位を有する場合には、一般式(1)由来の構成単位のモル比率は1モル%以上有することが好ましく、3モル%以上有することがより好ましく、5モル%以上有することが特に好ましく、50モル%以下有することが好ましく、40モル%以下有することがより好ましく、30モル%以下有することが特に好ましい。一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、50モル%以上有することがさらに好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、99モル%以下有することが好ましく、97モル%以下有することがより好ましく、95モル%以下有することが特に好ましい。
【0073】
ポリエーテル重合体としては、一般式(2)由来の構成単位と一般式(3)由来の構成単位を有する場合には、一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、80モル%以上有することが最も好ましく、99モル%以下有することが好ましく、97モル%以下有することがより好ましく、95モル%以下有することが特に好ましい。一般式(3)由来の構成単位のモル比率は0.5モル%以上有することが好ましく、1モル%以上有することがより好ましく、1.5モル%以上有することが特に好ましく、20モル%以下有することであってもよいが、15モル%以下有することが好ましく、12モル%以下有することがより好ましく、10モル%以下有することが特に好ましい。
【0074】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位と一般式(2)由来の構成単位と一般式(3)由来の構成単位を有する場合には、一般式(1)由来の構成単位のモル比率は1モル%以上有することが好ましく、3モル%以上有することがより好ましく、5モル%以上有することが特に好ましく、50モル%以下有することが好ましく、40モル%以下有することがより好ましく、30モル%以下有することが特に好ましい。一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、98.5モル%以下有することが好ましく、96モル%以下有することがより好ましく、93.5モル%以下有することが特に好ましい。一般式(3)由来の構成単位のモル比率は0.5モル%以上有することが好ましく、1モル%以上有することがより好ましく、1.5モル%以上有することが特に好ましく、15モル%以下有することが好ましく、12モル%以下有することがより好ましく、10モル%以下有することが特に好ましい。
【0075】
ポリエーテル重合体の重合組成のモル比率は、H-NMRにより各ユニットの積分値を求め、その算出結果から組成を決定することができる。
【0076】
ポリエーテル重合体は、ブロック重合体、ランダム重合体いずれの重合タイプでも良い。ランダム重合体がよりポリエチレンオキシドの結晶性を低下させる効果が大きいので好ましい。
【0077】
ポリエーテル重合体の重量平均分子量に関しては、重量平均分子量の下限が10万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、30万以上であることが更に好ましく、重量平均分子量の上限は300万以下であることが好ましく、270万以下であることがより好ましく、250万以下がさらに好ましい。ポリエーテル重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を算出した。尚、溶媒にはDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を用いる。
【0078】
ポリエーテル重合体の合成は次のようにして行える。開環重合触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などの配位アニオン開始剤、または対イオンにKを含むカリウムアルコキシド、ジフェニルメチルカリウム、水酸化カリウムなどのアニオン開始剤を用いて、各モノマーを溶媒の存在下または不存在下、反応温度10~120℃、撹拌下で反応させることによってポリエーテル重合体が得られる。
【0079】
本発明の高分子電解質層は、ポリエーテル重合体(またはその架橋物)に電解質塩化
合物を含有する。
【0080】
本発明においては、以下に挙げる電解質塩化合物が好ましく用いられる。即ち、金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、およびグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF 、PF 、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、XSO 、[(XSO)(XSO)N]、[(XSO)(XSO)(XSO)C]、および[(XSO)(XSO)YC]から選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。但し、X、X、X、およびYは電子吸引基である。好ましくはX、X、およびXは各々独立して炭素数が1~6のパーフルオロアルキル基または炭素数が6~18のパーフルオロアリール基であり、Yはニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基またはシアノ基である。X、XおよびXは各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0081】
金属陽イオンとしては遷移金属の陽イオンを用いる事ができる。好ましくはMn、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびAg金属から選ばれた金属の陽イオンが用いられる。また、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、CaおよびBa金属から選ばれた金属の陽イオンを用いても好ましい結果が得られる。電解質塩化合物として前述の化合物を2種類以上併用することが可能である。
特に、リチウムイオンキャパシタにおいて電解質塩化合物としては、Li塩化合物が好適に用いられる。
【0082】
Li塩化合物としては、リチウムイオンキャパシタに一般的に利用されているような、広い電位窓を有するLi塩化合物が用いられる。たとえば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN[CFSC(CSOなどを挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0083】
また、電解質塩化合物として、常温溶融塩を用いることができる。常温溶融塩を電解質として用いる場合には常温溶融塩の常温で液状であるという該塩固有の物理的性質から、これのみの添加で非プロトン性有機溶媒をさらに添加した場合と同様の溶媒としての効果を併せて発揮させることができる。
【0084】
常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0085】
常温溶融塩はイオン性液体とも呼ばれており、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0086】
イミダゾリウムカチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンが例示される。ジアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられ、トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、ジメチルジエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
アルキルピリジニウムイオンとしては、N-メチルピリジニウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4-ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いても良い。
【0090】
アニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化リンイオンなどの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0091】
本発明において、電解質塩化合物の使用量は、電解質塩化合物のモル数/ポリエーテル重合体のエーテル酸素原子の総モル数の値が0.0001~5が好ましく、0.001~0.5の範囲がより好ましい。
【0092】
高分子電解質層の作製方法については、エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体と電解質塩化合物と、非プロトン性有機溶媒またはイオン性液体とを含有した(混合した)高分子電解質組成物を塗布・乾燥させることにより作製することができる。イオン性液体については前述の化合物を用いることができる。
【0093】
非プロトン性有機溶媒としては、非プロトン性のニトリル類、エーテル類およびエステル類が好ましい。具体的には、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2-メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリル等のニトリル類、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2-ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,6-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ-テル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン等のエーテル類、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル、炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3-ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2-ビニル炭酸エチレン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、安息香酸メチル、安息香酸エチ、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のエステル類が挙げられる。
【0094】
高分子電解質層のエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を架橋させる場合には、高分子電解質組成物に熱重合開始剤または光反応開始剤を含有させて架橋反応をさせることにより、エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を架橋することができる。
【0095】
熱重合開始剤として、有機過酸化物系、アゾ化合物系等から選ばれるラジカル開始剤が挙げられる。
【0096】
有機過酸化物系としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0097】
アゾ化合物系としてはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)・二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
【0098】
本発明に用いることができる光反応開始剤として、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン類、トリアジン類、ビスイミダゾール類、オキシムエステル類などが挙げられる。アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系の光反応開始剤が好ましい。光反応開始剤として、種類以上併用することも可能である。
【0099】
アルキルフェノン系光反応開始剤の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンなどが挙げられる。2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンが好ましい。
【0100】
ベンゾフェノン系光反応開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、メチル-2-ベンゾイルベンゾエートなどが挙げられる。ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが好ましい。
【0101】
アシルフォスフィンオキサイド系光反応重合開始剤の具体例としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0102】
熱重合開始剤の量はエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内が好ましく、更に好ましくは0.1~4.0質量部である。
光反応開始剤の量はエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体100質量部に対して0.01~6.0質量部の範囲内が好ましく、更に好ましくは0.1~4.0質量部である。
【0103】
光反応開始剤を用いる場合には、架橋助剤を併用してもよい。架橋助剤は、通常、多官能性化合物(例えば、CH=CH-、CH=CH-CH-、CF=CF-を少なくとも2個含む化合物)である。架橋助剤の具体例は、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェート、ヘキサフルオロトリアリルイソシアヌレート、N-メチルテトラフルオロジアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどである。
【0104】
高分子電解質層は高分子電解質組成物を塗布・乾燥させることにより作製することができるが、塗布する基板については、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートフィルム等を例示することができる。
【0105】
熱による架橋を行う場合には、室温から200℃ぐらいの温度設定で10分から24時間程度加熱することによって行なうことができる。
【0106】
光による架橋を行う場合には、紫外線、可視光線、電子線等の活性エネルギー線を用いることができる。特に装置の価格、制御のしやすさから紫外線が好ましい。具体的には、キセノンランプ、水銀ランプ、高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプを用いることができ、例えば、高分子電解質組成物を波長365nm、光量1~50mW/cmで0.1~30分間照射することによって行うことができる。
【0107】
<5.蓄電デバイスの製造方法>
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、正極、高分子電解質層、負極を積層することにより製造することができ、具体的には、正極と負極との間に高分子電解質層を挟持することにより製造される。
【0108】
本発明の蓄電デバイスは、負極に用いられる負極材料層にシリコン系活物質を用いているが、負極における負極材料層がエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を含む電極材料用スラリーを含浸されずに製造することができる。
【0109】
本発明の蓄電デバイスの製造方法を具体的に例示すると、
前記エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体と電解質塩化合物を含有する高分子電解質層を作製する工程、および
前記作製された高分子電解質層を正極、負極の間に積層させる工程を含む蓄電デバイスの製造方法である。
【0110】
本発明の蓄電デバイスの製造方法において、正極は「2.正極」の項、負極は「3.負極」の項、高分子電解質層は「4.高分子電解質層」の項で記載したものを用いることができる。
【実施例
【0111】
以下に例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、発明の主旨を越えない限り本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。
【0112】
実施例では、負極材料と、非水電解質と、正極材料とからなる非水電解質二次電池において、電気化学特性(可逆容量、サイクル性能および放電容量)を比較するために以下の実験を行った。尚、実施例1、2、比較例1を評価する際には、対極にリチウムシートを用いることで、電極材料の可逆性を評価する。
【0113】
[合成例(ポリエーテル共重合用触媒の製造)]
撹拌機、温度計および蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10gおよびトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。以下の重合例で重合触媒として用いた。
【0114】
ポリエーテル共重合体のモノマー換算組成はH-NMRスペクトルにより求めた。
ポリエーテル共重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を算出した。GPC測定は(株)島津製作所製RID-6A、昭和電工(株)製ショウデックスKD-807、KD-806、KD-806MおよびKD-803カラム、および溶媒にDMFを用いて60℃で行った。
【0115】
[重合例1]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a):
【化1】
150g、および溶媒としてn-ヘキサン1000gを仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド150gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加えて反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー280gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0116】
[重合例2]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a)150g、アリルグリシジルエーテル 30g、および溶媒としてn-ヘキサン1000gを仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド150gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加えて反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー290gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
[架橋例1]
重合例2で得たポリエーテル共重合体1.0g、光開始剤としてベンゾフェノン0.002g、架橋助剤としてN,N’-m-フェニレンビスマレイミド0.05g、かつモル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテル酸素原子の総モル数)が0.05となるようにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムをアセトニトリル10mLに溶解したものを、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に500μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、そのまま80℃に加熱して乾燥させたのち、電解質表面をラミネートフィルムでカバーした状態で、高圧水銀灯(30mW/cm)を30秒間照射することにより架橋高分子電解質膜を作製した。当該架橋高分子電解質膜の厚みは80μmであった。
【0119】
[実施例1]負極/高分子固体電解質層/金属リチウムで構成された電池の作製
負極活物質には、平均粒径5μmのSiを用いた。この負極活物質8.0gに対して、導電助剤としてアセチレンの熱分解によって製造された球状炭素微粒子を0.2g、バインダーとして溶剤系ポリイミドを1.8g添加し、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として自公転攪拌機を用いて、10分攪拌したのち、Niめっき処理を施した鉄集電体(厚み10μm)上に25μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、大気下80℃で10分仮乾燥した。その後にロールプレスを行い、アルゴン雰囲気下350℃で1時間熱処理後、負極とした。当該負極の厚みは14μm、負極材料層の厚みは4μmであった。
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、負極上に架橋例1で得た架橋高分子電解質膜を貼り合わせ、更に対極として金属リチウムを貼り合わせて、ラミネートセルを組み立てた。電気化学特性(可逆容量、サイクル性能)は北斗電工(株)製の充放電装置を用い、50時間で所定の充電および放電が行える試験条件(0.02C)にて、上限を1.0V、下限を0.001Vとし、一定電流通電により正極の評価をした。試験温度は45℃環境とした。試験結果を表2に示す。
【0120】
[実施例2] 負極/高分子固体電解質層/金属リチウムで構成された電池の作製
負極活物質には、平均粒径1μmのSiOを用いた。この負極活物質8.0gに対して、導電助剤としてアセチレンの熱分解によって製造された球状炭素微粒子を0.2g、バインダーとして溶剤系ポリイミドを1.8g添加し、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として自公転攪拌機を用いて、10分攪拌したのち、Niめっき処理を施した鉄集電体(厚み10μm)上に28μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、大気下80℃で10分仮乾燥した。その後にロールプレスを行い、アルゴン雰囲気下350℃で1時間熱処理後、負極とした。熱処理後の負極の厚みは14μm、負極材料層の厚みは4μmであった。
実施例1と同様の方法で負極と架橋高分子電解質膜を貼り合わせ、更に対極として金属リチウムを貼り合わせてラミネートセルを作製した。電気化学特性は実施例1と同様の方法で行った。試験温度は60℃環境とした。試験結果を表2に示す。
【0121】
[比較例1] 負極/高分子固体電解質層/金属リチウムで構成された電池の作製
負極活物質には、平均粒径12μmのグラファイト粉末(多孔質構造材料)を用いた。この負極活物質9.8gに対して、バインダーとして水溶液系ポリイミドを0.2g添加し、水を溶媒として自公転攪拌機を用いて、10分攪拌したのち、Niめっき処理を施した鉄集電体(厚み10μm)上に75μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、大気下80℃で10分仮乾燥した。その後にロールプレスを行い、真空下150℃で12時間熱処理後、負極とした。熱処理後の負極は50μm、負極材料層の厚みは40μmであった。
その後、実施例1と同様の方法でラミネートセルを作製し、負極の電気化学特性を評価した。試験結果を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
表2に示されるように、本発明において負極活物質にSi(実施例1)およびSiO(実施例2)を用い、負極材料層の厚さを15μm以下とすることで、グラファイト粉末(比較例1)よりも、高い初回可逆容量が得られ、20サイクル後における相対容量も高い数値で維持できることが分かった。
【0124】
[実施例3] 正極/高分子固体電解質層/負極で構成された電池の作製
正極活物質には、平均粒径10μmのLiFePOを用いた。この正極活物質8.5gに対して、導電助剤としてアセチレンの熱分解によって製造された球状炭素微粒子を1.0g、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を0.5g添加し、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として自公転攪拌機を用いて、10分攪拌したのち、ステンレス集電体(厚み10μm)上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、大気下80℃で10分仮乾燥した。その後にロールプレスを行い、真空下150℃で12時間熱処理後、正極とした。熱処理後の正極の厚みは60μmで、正極材料層の厚みは50μmあった。
また、重合例1で得たポリエーテル共重合体1.0g、かつモル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテル酸素原子の総モル数)が0.05となるようにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムをアセトニトリル10mLに溶解したものを、上記の正極上に500μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、そのまま80℃に加熱して、正極上に高分子電解質が一体化された正極/電解質シートを作製した。
このシートをアルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、架橋例1で得た架橋高分子電解質膜を貼り合わせ、更に対極として実施例1で得られた負極を貼り合わせてラミネートセルを作製した。電気化学特性(放電容量)は充放電装置を用い、上限を3.8 V、下限を2.5Vとし、一定電流通電により正極・負極の評価をした。充放電レートは、20時間で所定の充電および放電が行える試験条件(0.05C)から、1時間で所定の充電および放電が行える試験条件(1.0C)までの範囲において表3に記載の条件で実施した。試験温度は80℃環境とした。試験結果を表3に示す。
【0125】
[比較例2] 正極/高分子固体電解質層/負極で構成された電池の作製
比較例1で得た負極を用いた以外は実施例3と同様の方法でラミネートセルを作製し、正極・負極の電気化学特性を評価した。試験結果を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
表3が示すように、負極活物質層にSiを用い、負極材料層の厚さを15μm以下とすることでいずれの試験条件においても高い放電容量を示しており、本発明の電池(実施例3)が従来の活物質が用いられた電池(比較例2)より優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の蓄電デバイスは、従来の蓄電デバイスよりも小型化や軽量化に寄与するものであり、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池等おいて、有用に用いられる。