(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】電気絶縁ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20230815BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 H
(21)【出願番号】P 2020540141
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028490
(87)【国際公開番号】W WO2020044850
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018158427
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530447(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191698(WO,A1)
【文献】中国実用新案第201984859(CN,U)
【文献】特開2000-322934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線と、
前記コア電線を覆う内側シース層と、
前記内側シース層を覆う外側シース層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記内側シース層の-30℃での弾性率Aが、10MPa以上1000MPa以下の範囲内にあり、
前記弾性率Aは、JISK7244-1(1998)に準拠し、動的粘弾性測定装置を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で引張法により測定したときの-30℃における貯蔵弾性率であり、
前記内側シース層の厚さが、0.3mm~1.5mmの範囲であり、
前記外側シース層がポリウレタン系樹脂である電気絶縁ケーブル。
【請求項2】
前記コア電線と前記内側シース層との間に、前記コア電線を被覆するテープ部材をさらに含む請求項1に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項3】
前記内側シース層の-30℃での弾性率A(MPa)及び線膨張係数B(/℃)が、A×B<0.5(MPa/℃)を充たす請求項1又は請求項2に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項4】
前記内側シース層の-30℃での弾性率A及び25℃での弾性率Cが、A/C<30を充たす請求項1又は請求項2に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項5】
前記内側シース層が、密度0.85g/cm
3以上0.89g/cm
3以下の超低密度ポリエチレンを40質量%以上含む樹脂より形成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項6】
車載用の電気絶縁ケーブルである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項7】
電動パーキングブレーキ用の電気絶縁ケーブルである請求項6に記載の電気絶縁ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気絶縁ケーブルに関する。本出願は、2018年8月27日に出願した日本特許出願である特願2018-158427号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電動パーキングブレーキ(EPB)システムでは、ホイールハウス内のキャリパーと車体側の電子制御ユニットは、電気絶縁ケーブル(EPB用ケーブル)により電気的に接続されている。EPB用ケーブルや車輪速センサ信号を伝達するための車輪速センサケーブル(WSS用ケーブル)は、通常、導体及びこれを覆う絶縁層からなる少なくとも1本の絶縁線を含むコア電線をシースで被覆した構造からなり、シースは、内側シース層(第1の被覆層)と前記内側シース層を覆う外側シース層(第2の被覆層)の2層からなる。例えば、特許文献1(特開2015-156386号公報)には、導体及びこれを覆う絶縁層からなる絶縁線と、前記絶縁線が複数本撚り合されて形成されたコア電線(撚り線)と、前記コア電線を被覆するテープ部材と、前記テープ部材を覆う内側シース層と、前記内側シース層を覆う外側シース層とを備える電気絶縁ケーブルが開示されており、EPB用ケーブルとしての用途も開示されている(段落0020)。
【0003】
EPB用ケーブルやWSS用ケーブル等の車載用の電気絶縁ケーブルには、自動車の走行中の石跳ね等に対する耐性(耐外傷性:ダメージの受けにくさ)等が要望される。さらに、ケーブルの配策性の向上のために適度な柔軟性も要望される。そこで、従来は、耐外傷性、柔軟性等の観点から外側シース層をポリウレタン樹脂により形成し、価格等の観点から内側シース層をポリエチレン系樹脂により形成した電気絶縁ケーブルが広く用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明者は検討の結果、内側シース層の柔軟性が、電気絶縁ケーブルの耐屈曲性に大きな影響を与えることを見出した。そして内側シース層の低温での弾性率を所定範囲内とすることにより、電気絶縁ケーブルの配策性を損なうことなく、低温での耐屈曲性を向上できることを見出し、本開示を完成した。
【0006】
本開示の一態様に係る電気絶縁ケーブルは、
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線と、
前記コア電線を覆う内側シース層と、
前記内側シース層を覆う外側シース層とを備える。
前記内側シース層の-30℃での弾性率Aは、10MPa以上1000MPa以下の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の1例の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の他の1例の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例における屈曲試験の方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
EPB用ケーブルやWSS用ケーブル等の車載用の電気絶縁ケーブルは、走行中の屈曲の繰り返しにより断線や劣化等が生じることがあるので、屈曲による断線や劣化等が生じにくいとの性質である優れた耐屈曲性も望まれている。車載用の電気絶縁ケーブルは、-40℃程度の低温から120℃程度の高温に至る環境での使用を想定する必要があり、屈曲の繰り返しによる断線等は低温で生じやすい。そこで、低温での耐屈曲性の向上が特に望まれる。上市されている車載用の電気絶縁ケーブルにもこの要望に対応する製品も存在するが、信頼性をより向上させるため、低温での耐屈曲性の更なる向上が望まれていた。
【0009】
本開示は、少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線を、内側シース層及び前記内側シース層を覆う外側シース層からなる2層のシースで被覆しててなる電気絶縁ケーブルであって、特に低温での耐屈曲性に優れ、EPB用ケーブル等として好適に用いられる電気絶縁ケーブルの提供することを課題とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、導体及びこれを覆う絶縁層を含む少なくとも1本の絶縁線と、前記少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線と、前記コア電線を覆う内側シース層と、前記内側シース層を覆う外側シース層とを備える電気絶縁ケーブルであって、-40℃から0℃程度の低温でも耐屈曲性に優れる電気絶縁ケーブルが提供される。本開示の電気絶縁ケーブルは、低温での耐屈曲性が優れるので、車両に搭載されるEPB用ケーブルや車輪速センサケーブル(WSS用ケーブル)等の信号またはアース用ケーブル等として好適に用いられる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
以下、本開示を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲内及び請求の範囲と均等の意味、範囲内での全ての変更が含まれる。
【0012】
本開示の一態様に係る電気絶縁ケーブルは、
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線と、
前記コア電線を覆う内側シース層と、
前記内側シース層を覆う外側シース層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記内側シース層の-30℃での弾性率Aが、10MPa以上1000MPa以下の範囲内にある電気絶縁ケーブルである。
【0013】
本態様の電気絶縁ケーブルは、コア電線を覆う内側シース層の-30℃での弾性率Aが10MPa以上1000MPa以下の範囲内にあることをその特徴とする。この特徴により、-40℃から0℃程度の低温で使用されても断線や劣化等が生じにくい低温での耐屈曲性に優れた電気絶縁ケーブルが提供される。前記弾性率Aのより好ましい範囲は、10MPa以上500MPa以下であり、この範囲内であれば低温でのより優れた耐屈曲性が得られる。
【0014】
先ず、本開示の電気絶縁ケーブルを構成する各要素について説明する。
(1)コア電線
コア電線は少なくとも1本の絶縁線よりなる。コア電線が1本の絶縁線からなる場合は、絶縁線自体がコア電線である。また、コア電線が2本以上(複数本)の絶縁線からなる場合は、複数本の絶縁線の集合体がコア電線である。コア電線が複数の絶縁線の集合体である場合、コア電線は、例えば、複数の絶縁線を撚り合せてなる撚り線であってもよい。例えば、電気絶縁ケーブルがEPB用ケーブルである場合は、断面積が約1.5mm2~3.0mm2の範囲にある導体を有し、互いに略同一の直径をそれぞれ有する2本以上の絶縁線を撚り合わしてコア電線を形成することができる。車輪速センサ(WSS)用ケーブル等の信号またはアース用のケーブルの場合は、EPB用ケーブルの場合より断面積が小さい導体を有する1本の絶縁線がコア電線であってもよく、又は互いに略同一の直径をそれぞれ有する2本以上の絶縁線(EPB用ケーブルの場合より断面積が小さい導体を有する絶縁線)を撚り合わせてコア電線を形成してもよい。
【0015】
1本のコア電線が、2種類以上の用途の絶縁線を含むこともできる。例えば、断面積が約1.5mm2~3.0mm2の範囲にある導体をそれぞれ有し、互いに略同一の直径を有するEPB用としての2本以上の絶縁線と、断面積が前記の範囲より小さい導体をそれぞれ有し、互いに略同一の直径を有する信号またはアース用ケーブルとしての1本以上の絶縁線と、を撚り合わして、1本のコア電線を形成することもできる。
【0016】
(2)絶縁線
コア電線を構成する少なくとも1本の絶縁線は、導体と前記導体を覆う絶縁層を有する。
導体は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の導電性と柔軟性を有する材料からなる線であり、EPB用ケーブルの場合には、外径0.1mm程度の細い素線を数十本から数百本撚り合せた撚り線が用いられる場合が多い。導体の断面積(複数本の素線の合計断面積)は、給電用途に用いられる電源線(例えばEPB用ケーブル)の場合には、好ましくは1.5mm2~3.0mm2の範囲、より好ましくは1.6mm2~2.5mm2の範囲である。電源線に比べて断面積が小さい信号線用途に用いられるケーブル(例えばWSS用ケーブル)の場合には、好ましくは0.13mm2~0.5mm2の範囲、より好ましくは0.18mm2~0.35mm2の範囲の撚り線が用いられる場合が多い。ここで撚り線には、素線を撚ってなる撚り線に加え、撚り線を撚り合わせてなる撚り線(撚り線の集合体)、および、撚り線の集合体をさらに撚り合わせてなる撚り線等も含まれる。
【0017】
絶縁線は、通常の絶縁電線と同様の方法、例えば、前記のような導体の外周に、絶縁層を形成する樹脂を溶融押出して被覆することにより形成することができる。被覆後、電離放射線照射等により絶縁層を形成する樹脂を架橋してもよい。
【0018】
絶縁層を形成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂を例示することができ、好ましくは、難燃性のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。例えば、難燃剤の配合により難燃性が付与された難燃性ポリエチレンで絶縁層を形成することができる。難燃性のポリオレフィン系樹脂で絶縁層を形成することにより、被覆層や膜状被覆材(テープ部材)が除去されてコア電線(絶縁線)の一部が露出した状態においても、コア電線(絶縁線)の難燃性や絶縁性を確保することができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレンーメチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレンーエチルアクリレート共重合樹脂(EEA)等を挙げることができるが、これらの例に限定されない。絶縁層を形成する材料としては、フッ素系樹脂等のポリオレフィン系樹脂以外の材料も挙げることができる。
【0019】
EPB用ケーブルに用いられるEPB用の絶縁線の場合、絶縁層の厚さは、好ましくは0.2mm~0.8mmの範囲であり、より好ましくは0.25mm~0.7mmの範囲である。絶縁層の外径は、好ましくは2.5mm~4.0mmの範囲であり、より好ましくは2.5mm~3.8mmの範囲である。
【0020】
(3)膜状被覆材(テープ部材)
コア電線と内側シース層との間に、前記コア電線を被覆する薄膜状の部材(膜状被覆材)を配置してもよい。例えばテープ状の部材(テープ部材)をコア電線の外周に巻回してコア電線の外周全体を覆うこともでき、この場合、テープ部材の除去により、コア電線と内側シース層とを分離してコア電線を容易に露出させることができる。
【0021】
テープ部材を構成する材料としては、容易な巻回を可能にする柔軟性やケーブルの屈曲等により破損しにくい強度を有し、被覆層を形成(樹脂の溶融押出)する際の熱により溶融や変形等をしない材料が好ましく用いられる。具体的には、屈曲の繰り返しにより破損しにくい強度、コア電線の外周への巻回しやすさ等の観点から、パルプ原料の紙やポリエステル等の樹脂材料で形成された不織布、ポリエステルペーパー、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。
テープ部材の厚みや形状(幅等)、形成材料は、強度や巻回しやすさを考慮して選択することが好ましい。
【0022】
(4)内側シース層(第1の被覆層)
本態様の電気絶縁ケーブルは、コア電線を保護するため、コア電線の外周(膜状被覆材を配置する場合は膜状被覆材の外周)を覆う被覆層(シース)を有し、前記被覆層(シース)は、内側シース層と外側シース層の2層以上の層から構成される。
前記のように本態様の電気絶縁ケーブルを構成する内側シース層の-30℃での弾性率Aは、10MPa以上1000MPa以下の範囲内にある。前記弾性率Aとは、JIS-K7244-1(1998)に準拠し、動的粘弾性測定装置を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で引張法により測定したときの-30℃における貯蔵弾性率を意味する。
【0023】
内側シース層の-30℃での弾性率Aを1000MPa以下とすることにより、電気絶縁ケーブルは柔軟となるとともに、低温での耐屈曲性に優れた電気絶縁ケーブルが得られる。一方、内側シース層の-30℃での弾性率Aが10MPa未満の場合は、ケーブルの自立性がなくなり配策が困難になる。-30℃での弾性率Aの好ましい範囲は、10MPa以上500MPa以下であり、この範囲内で低温での耐屈曲性により優れかつ配策しやすい電気絶縁ケーブルが得られる。
【0024】
本態様の電気絶縁ケーブルの中でも、内側シース層の-30℃での弾性率A(MPa)及び内側シース層の線膨張係数B(/℃)が、A×B<0.5(MPa/℃)の関係を充たす電気絶縁ケーブルが好ましい。ここで、線膨張係数Bとは、動的粘弾性測定装置を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で測定したときの、-30℃の時のサンプル長と25℃の時のサンプル長の差を、25℃の時のサンプル長及び温度差(55℃)で除した値である。
【0025】
又、本態様の電気絶縁ケーブルは、内側シース層の-30℃での弾性率Aと25℃での弾性率Cが、A/C<30の関係を充たすことが好ましく、A/C<10の関係を充たすことがより好ましい。この関係を充たすことにより、30℃程度の室温から-40℃程度の低温までの広い温度範囲で優れた耐屈曲性を有する電気絶縁ケーブルを製造することができる。中でも内側シース層の25℃での弾性率Cが、1MPa以上30MPa以下である電気絶縁ケーブルがより好ましい。弾性率Cが前記範囲内の内側シース層を用いることにより、室温での耐屈曲性により優れかつ配策が容易な電気絶縁ケーブルを得ることができる。
なお、25℃での弾性率Cは、JIS-K7244-1(1998)に準拠し、動的粘弾性測定装置を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で引張法により測定したときの25℃における貯蔵弾性率を意味する。
【0026】
内側シース層を形成する樹脂(ベース樹脂)としては、低温で柔軟な樹脂であり、内側シース層(他の成分の配合や樹脂の架橋等を施す場合は、その配合や架橋等がされた後の内側シース層)の-30℃での弾性率Aを10MPa以上1000MPa以下の範囲内にすることができる樹脂であれば特に限定されないが、電気絶縁ケーブルには、優れた難燃性や、耐摩耗性、耐熱性が望まれる場合も多いので、難燃性、耐摩耗性、耐熱性を電気絶縁ケーブルに付与できる樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
具体的には、内側シース層を形成する樹脂としては、ポリエチレンやEVA等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー又はこれらを混合した樹脂等を挙げることができる。内側シース層をポリウレタンエラストマーより形成することにより、ケーブルの耐摩耗性を向上させることができる。内側シース層をポリエステルエラストマーより形成することにより、ケーブルの耐熱性を向上させることができる。又、ケーブルの難燃性を向上させるために樹脂に難燃剤を添加してもよい。又、電離放射線照射等により、内側シース層を形成している樹脂を架橋してもよい。
【0028】
さらに、ポリオレフィン系樹脂の場合は、当該樹脂により形成される内側シース層の-30℃での弾性率Aを10MPa以上1000MPa以下の範囲内とすること、-30℃での弾性率A及び線膨張係数BをA×B<0.5(MPa/℃)の関係を充たすようにすること、及び-30℃での弾性率A及び25℃での弾性率CをA/C<30の関係を充たすようにすることが容易であるため、ポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましい。又、耐熱性や押出性に優れる等の性質を有する樹脂の選択が容易である点からも、ポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましい。
ポリオレフィン系樹脂の中でも価格等の観点からポリエチレン系樹脂がより好ましく、特に密度0.85g/cm3以上0.89g/cm3以下のVLDPEを40質量%以上含む樹脂が内側シース層を形成する樹脂(ベース樹脂)として好ましい。密度が0.85g/cm3未満のVLDPEを主成分とする樹脂を用いた場合は、樹脂の融点が低くなりケーブルの耐熱性が低下しやすい。一方、0.89g/cm3以下のVLDPEを40質量%以上含む樹脂を用いることにより、内側シース層の-30℃での弾性率Aを10MPa以上500MPa以下のより好ましい範囲内とすることが容易になり、低温での耐屈曲性に特に優れたケーブルを得やすくなると考えられる。
【0029】
前記のVLDPEを40質量%以上含む樹脂には、VLDPEのみからなる樹脂、及びVLDPEとともに発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分を含む樹脂のいずれも含まれる。例えば、VLDPEに、本開示の趣旨を損ねない範囲で、EVA、EEA、酸変性VLDPE等のその他の樹脂をブレンドすることもできる。さらに、本開示の趣旨を損ねない範囲であれば、内側シース層を形成する樹脂には、前記の難燃剤以外にも酸化防止剤や着色剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0030】
EPB用ケーブルの場合、内側シース層の厚さは、好ましくは0.3mm~1.5mmの範囲であり、より好ましくは0.45mm~1.2mmの範囲である。
【0031】
(5)外側シース層(第2の被覆層)
ケーブルの外側シース層には難燃性が望まれることも多い。又、EPB用ケーブル等の車両に搭載されるケーブルの場合、外側シース層は走行中の石跳ね等によるダメージを受けやすく摩耗しやすい。従って、外側シース層を形成する材料には耐外傷性や耐摩耗性に優れた樹脂が望まれる。さらにケーブルを柔軟なものにするため柔軟性に優れた材料が望まれる。
【0032】
そこで、外側シース層を形成する材料としては、難燃性であり、耐外傷性、柔軟性に優れる樹脂が好ましく、中でも、耐外傷性、柔軟性等の観点から、ポリウレタン系樹脂が好ましく、特に難燃性のポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。EPB用ケーブルの場合、外側シース層の厚さは通常、0.3mm~0.7mmの範囲が好ましい。又、電離放射線照射等により外側シース層を形成する樹脂を架橋してもよい。
【0033】
(6)本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の例
(A)実施形態の例1
図1は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の1例の断面図である。
図1に示す電気絶縁ケーブルは、EPB用ケーブルとして用いられるケーブルであり、2本の絶縁線を撚り合せてなるコア電線、テープ部材並びに内側シース層及び外側シース層の2層からなる被覆層から構成される。
【0034】
図1中、1は導体である。導体1は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を約400本撚り合わせて形成された撚り線であって、その外径は2mm~3mm程度である。導体1の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.5mm程度の絶縁層2で被覆して絶縁線3が形成される。このようにして形成された2本の絶縁線3を撚り合してコア電線4が形成される。
【0035】
コア電線4の外周には、テープ部材5が螺旋状に巻回されておりコア電線4の外周全体を覆っている。テープ部材5は、幅3mm~5mm程度、厚さ0.033mm程度のパルプ原料の薄紙のテープである。
【0036】
図1中、6は内側シース層(第1の被覆層)であり、7は外側シース層(第2の被覆層)である。内側シース層6は、密度が、0.85g/cm
3以上0.89g/cm
3以下の範囲内にあるVLDPEにより形成されており、その厚さは0.6mm程度である。内側シース層6の-30℃における弾性率Aは、10MPa以上1000MPa以下の範囲内にあり、又、-30℃での弾性率A及び線膨張係数Bは、A×B<0.5(MPa/℃)を充たす。さらに、-30℃での弾性率A及び25℃での弾性率Cは、A/C<30を充たす。
【0037】
外側シース層7は、難燃剤が配合された難燃性のポリウレタン樹脂からなり、その厚さは0.5mm程度である。
【0038】
(B)実施形態の例2
図2は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の他の1例の断面図である。
図2に示す電気絶縁ケーブルは、EPB用及びWSS用として用いられるケーブルであり、4本の絶縁線を撚り合せてなるコア電線を有し被覆層が2層からなる。
【0039】
図2中、11、12は導体である。導体11は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を約400本撚り合わせて形成された撚り線であって、その外径は2mm~3mm程度である。導体11の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.4mm程度の絶縁層21で被覆して絶縁線31が形成される。絶縁線31によりEPB用の送電がされる。導体12は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を48本撚り合わせて形成された撚り線であって、その外径は1.5mm~2.5mm程度である。導体12の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.4mm~0.8mm程度の絶縁層22で被覆して絶縁線32が形成される。絶縁線32によりWSS用の送電がされる。このようにして形成された2本の絶縁線31及び2本の絶縁線32を撚り合して、コア電線41が形成される。
【0040】
コア電線41の外周には、テープ部材51が螺旋状に巻回されており、コア電線41の外周全体が覆われている。テープ部材51としては、実施形態の例1のテープ部材5と同様な幅、厚さのテープを用いることができ、又その形成材料も、テープ部材5と同様なものを用いることができる。
【0041】
図2に示される実施形態の電気絶縁ケーブルでは、テープ部材51(コア電線41)の外周を内側シース層が被覆しており、内側シース層の外周を外側シース層が被覆している。
図2中の61は内側シース層であり、71は外側シース層である。
【0042】
内側シース層61の厚さは、実施形態の例1の内側シース層6と同様な厚さとすることができ、又その形成材料も、内側シース層6と同様なVLDPEである。外側シース層71の厚さは、実施形態の例1の外側シース層7と同様な厚さとすることができ、又その形成材料も、外側シース層7と同様なものを用いることができる。
【0043】
(7)本開示の電気絶縁ケーブルの製造方法
次に、本開示の電気絶縁ケーブルを製造する方法について説明する。
絶縁線は、前記のような導体の外周を、絶縁層を構成する材料である絶縁性樹脂で被覆して製造することができる。絶縁性樹脂の被覆は、公知の絶縁電線の製造の場合と同様な方法、例えば、絶縁性樹脂を公知の押出し機を用いて溶融押出して行うことができる。
【0044】
コア電線は、前記のようにして製造された絶縁線の1本よりなる、又は前記のようにして製造された絶縁線の2本以上を撚り合わして形成される。絶縁線の撚り合わせは、例えば、絶縁線が巻き付けられた2以上のサプライリールのそれぞれから絶縁線を、撚り合せ手段(複数本の絶縁線を撚り合せる装置)に供給して行うことができる。このようにして形成されたコア電線に、例えば、テープサプライリール(テープ部材が巻き付けられたリール)から供給されてきたテープ部材を巻き付けて、テープ被覆コア電線(テープ部材により外周が被覆されたコア電線)が形成される。テープ部材は、例えば、コア電線の外周に螺旋状に巻き付けられる。
【0045】
テープ被覆コア電線は、内側シース層被覆部に送られて、その外周にVLDPE等の樹脂材料が被覆されて内側シース層が形成される。樹脂材料の被覆は、例えば、テープ被覆コア電線の外周に、公知の押出し機を用いて樹脂材料を溶融押出することにより行うことができる。内側シース層の形成後、電線は外側シース層被覆部に送られて、内側シース層の外周に外側シース層形成のための樹脂材料が被覆されて外側シース層が形成され、本開示の電気絶縁ケーブルが製造される。前記のように、電離放射線照射等により内側シース層や外側シース層を形成する樹脂を架橋してもよいが、外側シース層が形成された後、ケーブルに電離放射線照射等を行う方法により前記樹脂の架橋をすることができる。外側シース層を形成する樹脂を架橋することにより、電気絶縁ケーブルの耐傷性を向上させることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(1)屈曲試験用電気絶縁ケーブルの形成材料
下記の材料を使用して、屈曲試験用の電気絶縁ケーブルを作製した。
1)絶縁層の形成材料:難燃性のポリエチレン系樹脂
2)内側シース層形成用樹脂
VLDPE1(密度0.862g/cm3、三井化学社製タフマーDF610)
VLDPE2(密度0.885g/cm3、三井化学社製タフマーDF810)
VLDPE3(密度0.905g/cm3、三井化学社製タフマーDF110)
EVA(三井デュポン社製エバフレックスEV360)
3)外側シース層形成用樹脂:難燃性のポリウレタン樹脂
4)テープ部材の形成材料:薄紙(厚さ30μm、幅3mm)
【0048】
(2)屈曲試験用電気絶縁ケーブルの作製
銅合金からなり外径0.08mの素線を52本撚り合されて形成された撚り線の7本を、さらに撚り合わせた外径2.0mmの撚り撚り線を導体として用いた。その導体の外周に難燃性ポリエチレンを溶融押出して厚さ0.4mmの絶縁層を形成して絶縁線を作製した。
【0049】
作製された前記絶縁線を2本撚り合してコア電線を作製した。作製された前記コア電線の外周にテープ部材を巻き幅3mmで螺旋状に1層に巻いてコア電線の外周を被覆した。テープ部材が巻かれた前記コア電線の外周に、表1に記載の内側シース層形成用樹脂(組成物)を溶融押出して被覆し、厚さ0.5mmの内側シース層を形成した。
その後難燃性のポリウレタン樹脂を溶融押出して被覆し、厚さ0.5mmの外側シース層を形成し、屈曲試験用電気絶縁ケーブルを作製した。
【0050】
(3)内側シース層の弾性率(-30℃、25℃)及び線膨張係数(-30℃)の測定
表1に記載の内側シース層形成用樹脂(組成物)、すなわち前記の屈曲試験用電気絶縁ケーブルの作製に用いた内側シース層形成用樹脂(組成物)と同じ樹脂(組成物)のそれぞれを溶融押出して、弾性率及び線膨張係数の測定用の試料を作製した。作製された各試料について、JIS-K7244-1(1998)に準拠し、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社の「DVA200」)を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で-50℃~200℃の範囲で貯蔵弾性率を測定した。この測定により得られた、各試料についての-30℃及び25℃における貯蔵弾性率を、それぞれ、表1の「弾性率」の「-30℃ A」及び「25℃ C」の欄に示した。
又、前記各試料について、前記動的粘弾性測定装置を用いて、歪0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で測定したときの、-30℃の時のサンプル長と25℃の時のサンプル長の差を25℃の時のサンプル長及び温度差(55℃)とで除した値を、表1の「線膨張係数(-30℃)」の欄に示した。
【0051】
(4)屈曲試験
上記で得られた屈曲試験用電気絶縁ケーブルについて、JIS C 6851(2006)(光ファイバ特性試験方法)に準ずる方法にて屈曲試験を行った。
具体的には、
図3に示すように、水平かつ互いに平行に配置された直径60mmの2本のマンドレルA、Bの間に、屈曲試験用電気絶縁ケーブルを鉛直方向に配置して挟み、上端を一方のマンドレルAの上側に当接するように水平方向に90°屈曲させた後、他方のマンドレルBの上側に当接するように水平方向に90°屈曲させることを-30℃の恒温槽内で繰り返した。この繰り返しは、ケーブル中の2本の導体を接続して抵抗値を測定しながら行い、初期抵抗値の10倍以上まで抵抗が上昇したときの回数(右側に曲げてから、左側に曲げた後、右側に戻ってくるまでを屈曲回数1回とする。)を耐屈曲性の指標値とした。その結果を表1の「屈曲回数」の欄に示した。
【0052】
【0053】
表1に示されるように、内側シース層の-30℃での弾性率Aが10MPa以上1000MPa以下の範囲内にある試料1~5では、屈曲回数は10000回を超えており低温での優れた耐屈曲性が得られている。特に、内側シース層が、密度0.85g/cm3以上0.89g/cm3以下の超低密度ポリエチレン(VLDPE)を40質量%以上含む樹脂より形成されており、前記弾性率Aが500MPa以下である試料1~4では、屈曲回数は30000回以上であり特に優れた耐屈曲性が得られている。
一方、内側シース層の-30℃での弾性率Aが1000MPaを超えている試料6及び7では、屈曲回数は10000回以下であり、充分な耐屈曲性は得られていない。
【0054】
これらの結果より、内側シース層の-30℃での弾性率Aを10MPa以上1000MPa以下の範囲内とすることにより、電気絶縁ケーブルの低温での優れた耐屈曲性が得られることが示されている。さらに、内側シース層の前記弾性率Aを500MPa以下とすることにより特に優れた耐屈曲性が得られており、より好ましいことが示されている。
なお、密度0.90g/cm3を超えるVLDPEにより内側シース層を形成した試料6では、前記弾性率Aは1000MPaを超えており、充分な耐屈曲性は得られていない。
【符号の説明】
【0055】
1,11,12 導体、2,21,22 絶縁層、3,31,32 絶縁線、4,41 コア電線、5,51 テープ部材、6,61 内側シース層、7,71 外側シース層。