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特許7330448高速度鋼焼結体、及び高速度鋼焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】高速度鋼焼結体、及び高速度鋼焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20230815BHJP
【FI】
B23K26/342
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022534824
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048038
(87)【国際公開番号】W WO2022190574
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/010160
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】本山 裕彬
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155155(JP,A)
【文献】特開2000-017369(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230421(WO,A1)
【文献】特開2019-136799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C21D 9/38
B22F 3/105
B23P 6/00
B21C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
前記母材の表面の上に連続して設けられた固化層と、を備え、
前記母材は、高速度鋼で構成されており、
前記固化層は、前記母材を構成する高速度鋼とは組成が異なる高速度鋼で構成されており、
前記表面に交差する断面を200倍に拡大した観察像において、前記母材と前記固化層との境界が視認されない、
高速度鋼焼結体。
【請求項2】
前記母材と前記固化層との間に亀裂が存在していない、請求項1に記載の高速度鋼焼結体。
【請求項3】
前記母材における炭素の含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の高速度鋼焼結体。
【請求項4】
前記母材の組成は、炭素に加えて以下の元素群(1)から元素群(3)のいずれか1つを含有し、残部が鉄及び不可避不純物である、請求項3に記載の高速度鋼焼結体。
(1)0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、及び0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン
(2)0.2質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン、及び0質量%超2.5質量%以下のケイ素
(3)0.2質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン、0.5質量%以上5質量%以下のタングステン、及び0質量%超2.5質量%以下のケイ素
【請求項5】
前記固化層における炭素の含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体。
【請求項6】
前記固化層の組成は、炭素に加えて0質量%超1.0質量%以下のマンガン、1質量%以上3質量%以下のバナジウム、3質量%以上5.5質量%以下のクロム、4質量%以上6質量%以下のモリブデン、及び5質量%以上7.5質量%以下のタングステンを含有し、残部が鉄及び不可避不純物である、請求項5に記載の高速度鋼焼結体。
【請求項7】
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、
前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、
前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、
前記レーザ光を照射する工程は、温度調整装置によって前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる、
高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記母材のマルテンサイト変態開始温度が、前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上である、請求項7に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記母材における炭素の含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下である、請求項7又は請求項8に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記粉末における炭素の含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下である、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上とする、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記母材のマルテンサイト変態終了温度以上とする、請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記レーザ光を照射する工程において、第n層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度をn-1層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度以下とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の前記粉末層である、請求項7から請求項12のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記粉末層を作製する工程において、第n層目の前記粉末層の高さを第n-1層目の前記粉末層の高さ以上とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の前記粉末層である、請求項7から請求項13のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記レーザ光の出力が、300W超である、請求項7から請求項14のいずれか1項に記載の高速度鋼焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高速度鋼焼結体、及び高速度鋼焼結体の製造方法に関する。
本出願は、2021年03月12日付の国際出願のPCT/JP2021/10160に基づく優先権を主張し、前記国際出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、金型部品の製造方法を開示している。この金型部品の製造方法は、金型部品の母材の第一面に肉盛り部を作製する工程を備えている。肉盛り部を作製する工程では、母材の第一面の上に粉末を層状に敷き詰める工程と、その粉末の層にレーザを照射することで溶融し凝固させた層を形成する工程と、を繰り返している。この繰り返しによって、肉盛り部は複数の固化層が積層されて構成されている。母材は、ダイス鋼で構成されている。粉末は、SUS420J2で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/225803号
【発明の概要】
【0004】
本開示の高速度鋼焼結体は、
母材と、
前記母材の表面の上に連続して設けられた固化層と、を備え、
前記母材は、高速度鋼で構成されており、
前記固化層は、前記母材を構成する高速度鋼とは組成が異なる高速度鋼で構成されており、
前記表面に交差する断面を200倍に拡大した観察像において、前記母材と前記固化層との境界が視認されない。
【0005】
本開示の高速度鋼焼結体の製造方法は、
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、
前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、
前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、
前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、
前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態1に係る高速度鋼焼結体の説明図である。
図2A図2Aは、図1の領域Aの一例を拡大して示す写真であり、かつ試料No.1における固化層の断面を拡大して示す写真である。
図2B図2Bは、図1の領域Bの一例を拡大して示す写真であり、かつ試料No.1における母材と固化層との接合箇所近傍の断面を拡大して示す写真である。
図2C図2Cは、図1の領域Cの一例を拡大して示す写真であり、かつ試料No.1における母材の断面を拡大して示す写真である。
図3図3は、高速度鋼焼結体の製造方法を説明する断面図である。
図4図4は、高速度鋼焼結体の製造方法によって作製される肉盛り部を模式的に示す断面図である。
図5図5は、粉末層の高さ及び造形物の高さとレーザ光のエネルギー密度との関係を示すグラフである。
図6図6は、試料No.101における母材と固化層との境界近傍の断面を拡大して示す写真である。
図7図7は、試料No.112における母材と固化層との境界近傍の断面を拡大して示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される固化層、延いては肉盛り部を作製することが望まれている。しかし、高速度鋼で構成される母材と高速度鋼で構成される固化層との間に亀裂が生じることなく、固化層、延いては肉盛り部を母材に作製する最適な製造方法は、検討されていなかった。
【0008】
本開示は、母材と固化層との間に亀裂が生じ難い高速度鋼焼結体を提供することを目的の一つとする。本開示は、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製できる高速度鋼焼結体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の高速度鋼焼結体は、母材と固化層との間に亀裂が生じ難い。
【0010】
本開示の高速度鋼焼結体の製造方法は、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製できる。
【0011】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る高速度鋼焼結体は、
母材と、
前記母材の表面の上に連続して設けられた固化層と、を備え、
前記母材は、高速度鋼で構成されており、
前記固化層は、前記母材を構成する高速度鋼とは組成が異なる高速度鋼で構成されており、
前記表面に交差する断面を200倍に拡大した観察像において、前記母材と前記固化層との境界が視認されない。
【0013】
上記高速度鋼焼結体は、母材と固化層とは組成が異なる高速度鋼で構成されているものの、上記境界が視認されない。即ち、上記高速度鋼焼結体は、母材と固化層とは組成が異なる高速度鋼で構成されているものの、母材と固化層との馴染みが良い。そのため、上記高速度鋼焼結体は、母材と固化層との間に亀裂が生じ難い。上記高速度鋼焼結体は、金型部品などに好適である。
【0014】
(2)上記高速度鋼焼結体の一形態として、
前記母材と前記固化層との間に亀裂が存在していなくてもよい。
【0015】
上記形態は、破壊の起点となる亀裂が存在していないため、亀裂の伝播による破断が生じ難い。
【0016】
(3)上記高速度鋼焼結体の一形態として、
前記母材における炭素の含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下であってもよい。
【0017】
上記形態は、母材と固化層との馴染み性がよいため、母材と固化層との間に亀裂が生じ難い。
【0018】
(4)上記(3)の高速度鋼焼結体の一形態として、
前記母材の組成は、炭素に加えて以下の元素群(1)から元素群(3)のいずれか1つを含有し、残部が鉄及び不可避不純物であってもよい。
(1)0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、及び0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン
(2)0.2質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン、及び0質量%超2.5質量%以下のケイ素
(3)0.2質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.2質量%以上4.0質量%以下のバナジウム、3質量%以上15質量%以下のクロム、0.5質量%以上4質量%以下のモリブデン、0.5質量%以上5質量%以下のタングステン、及び0質量%超2.5質量%以下のケイ素
【0019】
上記形態は、母材と固化層との馴染み性がよい。
【0020】
(5)上記高速度鋼焼結体の一形態として、
前記固化層における炭素の含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0021】
上記形態は、母材と固化層との馴染み性がよいため、母材と固化層との間に亀裂が生じ難い。
【0022】
(6)上記(5)の高速度鋼焼結体の一形態として、
前記固化層の組成は、炭素に加えて0質量%超1.0質量%以下のマンガン、1質量%以上3質量%以下のバナジウム、3質量%以上5.5質量%以下のクロム、4質量%以上6質量%以下のモリブデン、及び5質量%以上7.5質量%以下のタングステンを含有し、残部が鉄及び不可避不純物であってもよい。
【0023】
上記形態は、母材と固化層との馴染み性がよい。
【0024】
(7)本開示の一態様に係る高速度鋼焼結体の製造方法は、
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、
前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、
前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、
前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる。
【0025】
上記高速度鋼焼結体の製造方法は、第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で粉末層にレーザ光を照射することで、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される固化層、延いては肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製できる。よって、上記高速度鋼焼結体の製造方法は、金型部品の製造方法などに好適である。
【0026】
(8)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記母材のマルテンサイト変態開始温度が、前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上であってもよい。
【0027】
上記母材には、亀裂のない固化層、延いては肉盛り部を作製し易い。
【0028】
(9)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記母材における炭素の含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下であってもよい。
【0029】
Cの含有量が上記範囲を満たす母材は、固化層との馴染み性を向上し易い。そのため、この母材には、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0030】
(10)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記粉末における炭素の含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0031】
Cの含有量が上記範囲を満たす粉末は、母材との馴染み性を向上し易い。そのため、この粉末を用いることで、亀裂のない固化層を母材に作製し易い。
【0032】
(11)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上としてもよい。
【0033】
上記の構成は、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0034】
(12)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記母材のマルテンサイト変態終了温度以上としてもよい。
【0035】
上記の構成は、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0036】
(13)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記レーザ光を照射する工程において、第n層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度を前記n-1層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度以下とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層であってもよい。
【0037】
上記の構成は、母材と第1層目の固化層との接合性を向上し易い。その上、上記の構成は、母材側の固化層同士の接合性を向上し易い。そのため、上記の構成は、母材と肉盛り部との接合性を向上し易い。
【0038】
(14)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記粉末層を作製する工程において、第n層目の前記粉末層の高さを第n-1層目の前記粉末層の高さ以上とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層であってもよい。
【0039】
上記の構成は、母材と第1層目の固化層との接合性を向上し易い。そのため、上記の構成は、母材と肉盛り部との接合性を向上し易い。その上、上記の構成は、各固化層同士の接合性の低下を抑制しつつ、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数を少なくし易いため、高速度鋼焼結体の生産性を向上し易い。
【0040】
(15)上記高速度鋼焼結体の製造方法の一形態として、
前記レーザ光の出力が、300W超であってもよい。
【0041】
出力が300W超であるレーザ光は、粉末層を効率的に結合させ易い。
【0042】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0043】
《実施形態》
〔高速度鋼焼結体〕
図1及び図2Aから図2Cを参照して、実施形態の高速度鋼焼結体1を説明する。本形態の高速度鋼焼結体1は、母材2と固化層30とを備える。固化層30は、肉盛り部3を構成する。図1では、母材2は金型部品10の一部を例示している。固化層30は、母材2を拡張するように母材2の表面21上に形成された肉盛り部3である。母材2は、高速度鋼で構成されている。固化層30は、母材2の表面21の上に連続して設けられている。固化層30は、高速度鋼で構成されている。本形態の高速度鋼焼結体1の特徴の一つは、母材2と固化層30とが異なる組成の高速度鋼で構成されている場合であっても、特定の断面観察像において、母材2と固化層30との境界が視認されない点にある。以下、各構成の詳細を説明する。以下の説明は、高速度鋼焼結体1として金型部品10を例に行う。
【0044】
[母材]
母材2の形状は、特に限定されない。本形態のように高速度鋼焼結体1が金型部品10であり、例えば、金型部品10がパンチの場合、母材2の形状は、図1に示すような円筒状、又は図示は省略しているものの円柱状である。図1に示す母材2は、母材2の長手方向に沿った貫通孔20が設けられている。この貫通孔20は、図示を省略するコアロッドが挿通される。図1に示す母材2は、図1の紙面上側に位置する先端部が図示を省略するダイの孔に嵌合される。図1の紙面上側に位置する母材2の表面21の形状は、円環状である。図示は省略するものの、円柱状の母材の表面の形状は、円形状である。
【0045】
母材2の材質は、高速度鋼である。母材2のMs点は、例えば、後述する固化層30のMs点以上である。Ms点とは、マルテンサイト変態開始温度のことである。即ち、母材2のMs点は、固化層30のMs点と同じであってもよいし、固化層30のMs点よりも高くてもよい。母材2のMs点が固化層30のMs点以上であることで、母材2上の固化層30には亀裂が存在しない。製造過程で、Ms点が固化層30のMs点以上である母材2には、亀裂のない固化層30、延いては肉盛り部3を作製し易いからである。母材2のMs点は、例えば、100℃以上420℃以下であり、更に100℃以上390℃以下であり、特に100℃以上370℃以下である。また、母材2のMf点は、例えば、0℃以上190℃以下であり、更に0℃以上170℃以下であり、特に0℃以上150℃以下である。Mf点は、マルテンサイト変態終了温度である。固化層30のMs点は後述する。
【0046】
母材2を構成する高速度鋼の組成は、例えば、以下の組成(1)から組成(3)のいずれか1つである。
(1)C(炭素)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、及びMo(モリブデン)を含有し、残部がFe(鉄)及び不可避的不純物からならなる。
(2)C、Mn(マンガン)、V、Cr、Mo、及びSi(ケイ素)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(3)C、Mn、V、Cr、Mo、W(タングステン)、及びSiを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0047】
母材2におけるCの含有量は、例えば、0.5質量%以上0.9質量%以下である。Cの含有量が上記範囲を満たす母材2は、固化層30との馴染み性に優れる。そのため、母材2上の固化層30には亀裂が存在し難い。製造過程で、Cの含有量が上記範囲を満たす母材2に、亀裂のない固化層30を作製し易いからである。母材2におけるCの含有量は、更に0.55質量%以上0.85質量%以下であり、特に0.6質量%以上0.8質量%以下である。
【0048】
母材2におけるMn、V、Cr、Mo、W、及びSiの含有量は、例えば、次の通りである。
Mnの含有量は、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下であり、更に0.2質量%以上0.7質量%以下であり、特に0.2質量%以上0.5質量%以下である。
Vの含有量は、例えば、0.2質量%以上4.0質量%以下であり、更に0.2質量%以上3.8質量%以下であり、特に0.2質量%以上3.5質量%以下である。
Crの含有量は、例えば、3質量%以上15質量%以下であり、更に3質量%以上10質量%以下であり、特に3質量%以上6質量%以下である。
Moの含有量は、例えば、0.5質量%以上4質量%以下であり、更に0.5質量%以上3.5質量%以下であり、特に1.0質量%以上3.5質量%以下である。
Wの含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下であり、更に1.0質量%以上4質量%以下であり、特に1.5質量%以上3質量%以下である。
Siの含有量は、例えば、0質量%超2.5質量%以下であり、更に0.1質量%以上2.0質量%以下であり、特に0.2質量%以上1.5質量%以下である。Mn、V、Cr、Mo、W、及びSiの含有量がそれぞれ上記範囲を満たすことで、母材2と固化層30との馴染み性がよい。
【0049】
母材2の組成は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)によって母材2の断面を分析することで求めることができる。
【0050】
[固化層]
固化層30の形状は、特に限定されない。固化層30の形状は、母材2の形状と同様の形状であってもよいし、母材2の形状とは異なる形状であってもよい。本形態のように金型部品10がパンチである場合、固化層30の形状は、例えば、母材2の一部と同様の形状である。具体的には、固化層30の形状は、円筒状である。
【0051】
固化層30の材質は、高速度鋼である。固化層30のMs点は、上述したように母材2のMs点以下である。固化層30のMs点は、例えば、100℃以上300℃以下であり、更に100℃以上250℃以下であり、特に100℃以上200℃以下である。また、固化層30のMf点は、例えば、-110℃以上180℃以下であり、更に-100℃以上165℃以下であり、特に-90℃以上150℃以下である。
【0052】
固化層30を構成する高速度鋼の組成と母材2を構成する高速度鋼の組成とは、同じであってもよいし異なっていてもよい。母材2の組成と固化層30の組成とが異なっていても、後述するように母材2と固化層30との境界が視認されいない程度に母材2と固化層30とが馴染んでいることによって、母材2と固化層30との間に亀裂が生じ難い。例えば、固化層30を構成する高速度鋼の組成は、上述した組成(1)から組成(3)のいずれか1つであってもよいし、上述した組成(1)から組成(3)以外であってもよい。上述した組成(1)から組成(3)以外として、固化層30を構成する高速度鋼の組成は、例えば、C、Mn、V、Cr、Mo、及びWを含有し、残部がFe及び不可避不純物である。
【0053】
固化層30におけるCの含有量は、母材2におけるCの含有量と同じであってもよいし異なっていてもよい。固化層30におけるCの含有量は、例えば、0.5質量%以上1.5質量%以下である。Cの含有量が上記範囲を満たす固化層30には亀裂が存在し難い。製造過程で、固化層30を形成する後述の粉末におけるCの含有量が上記範囲を満たすことで、亀裂のない固化層30を作製し易いからである。固化層30におけるCの含有量は、更に0.5質量%以上1.2質量%以下であり、特に0.5質量%以上1.0質量%以下である。
【0054】
固化層30を構成する高速度鋼の組成が上述した組成(1)から組成(3)のいずれか1つである場合、固化層30におけるMn、V、Cr、Mo、W、及びSiの含有量は、上述の通りである。固化層30を構成する高速度鋼の組成がC、Mn、V、Cr、Mo、及びWを含有する場合、固化層30におけるMn、V、Cr、Mo、及びWの含有量は、例えば、次の通りである。
【0055】
Mnの含有量は、例えば、0質量%超1.0質量%以下であり、更に0.1質量%以上0.8質量%以下であり、特に0.2質量%以上0.5質量%以下である。
Vの含有量は、例えば、1質量%以上3質量%以下であり、更に1.2質量%以上2.8質量%以下であり、特に1.5質量%以上2.5質量%以下である。
Crの含有量は、例えば、3質量%以上5.5質量%以下であり、更に3.5質量%以上5質量%以下であり、特に4.0質量%以上4.8質量%以下である。
Moの含有量は、例えば、4質量%以上6質量%以下であり、更に4.2質量%以上5.7質量%以下であり、特に4.5質量%以上5.5質量%以下である。
Wの含有量は、例えば、5質量%以上7.5質量%以下であり、更に5.2質量%以上7.2質量%以下であり、特に5.5質量%以上7.0質量%以下である。
Mn、V、Cr、Mo、及びWの含有量がそれぞれ上記範囲を満たすことで、母材2と固化層30との馴染み性がよい。
【0056】
固化層30の組成は、EDXによって固化層30の断面を分析することで求めることができる。
【0057】
[観察像]
図2Aは、本形態の高速度鋼焼結体における固化層30の断面の一例を示す写真である。図2Bは、本形態の高速度鋼焼結体における固化層30と母材2との接合箇所近傍の断面の一例を示す写真である。図2Cは、母材2の断面の一例を示す写真である。図2Aから図2Cの断面は、母材2の表面21に交差する断面である。表面21とは、母材2の外面のうち、固化層30が接合される領域である。断面は、母材2と固化層30の両方にまたがる切断面で構成された断面である。図2Aから図2Cの写真は、光学顕微鏡によって200倍の倍率で観察した観察像である。図2A図2Bの上方部分とは同様の模様になっている。図2Bの上方部分と図2Bの下方部分とは異なる模様になっている。図2Bの下方部分と図2Cとは同じ模様になっている。
【0058】
具体的には、図2A図2Bの上方部分の模様は、図2Cに示すような粒状の部分が見られず、複数の細い線同士が交差した模様になっている。一方、図2Bの下方部分と図2Cとは同じ模様になっている。具体的には、図2Bの下方部分と図2Cの模様は、複数の粒状の部分が点在している上に、複数の細い線同士が交差した模様になっている。上記粒状の部分及び上記複数の細い線の部分はいずれも、炭化物である。これらの模様の違いから、図2Bの上方部分と下方部分との間に固化層30と母材2との境界が存在することが理解できる。しかし、図2Bに示されるように、固化層30と母材2との境界は視認されない。ここでいう境界とは、組成及び組織の少なくとも一方が変わる箇所である。ここでいう視認されてないとは、上記写真を目視した際、上記境界となる線が見えないことをいう。境界を視認できる写真を図6に示す。図6は、本形態ではない後述する試料No.101の高速度鋼焼結体における固化層30と母材2との境界近傍の断面を示す写真である。図6の写真は、図2Bと同様、光学顕微鏡によって200倍の倍率で観察した観察像である。図6では、母材2の表面21、即ち固化層30と母材2との間の境界が境界線として視認できる。この境界は、紙面左右方向に線状に延びている。図2B図6との比較からも明らかなように、図2Bに示す本形態の高速度鋼焼結体は、上記境界が視認されない。即ち、高速度鋼焼結体1は、母材2と固化層30との馴染みが良い。そのため、高速度鋼焼結体1は、母材2と固化層30との間に亀裂が生じ難い。高速度鋼焼結体1は、金型部品10などに好適である。
【0059】
母材2と固化層30が異なる組成の高速度鋼で構成される場合、固化層30における母材2に近い側の組成は傾斜組成になる。固化層30の形成過程で、母材2の成分が固化層30側に拡散するからである。具体的には、固化層30における母材2に近い箇所ほど母材2の成分を多く含有する。そのため、固化層30における母材2に近い箇所の組成と固化層30における母材2から遠い箇所とは組成とが異なる。母材2と母材2の表面21に接合された固化層30との間、及び肉盛り部3における固化層30同士の間には、上述のように200倍の倍率で観察された観察像では境界が視認されない。
【0060】
また、図2Bに示すように、本形態の高速度鋼焼結体1における母材2と固化層30との間には亀裂が存在していない。高速度鋼焼結体1は、破壊の起点となる亀裂が存在していないため、亀裂の伝播による破断が生じ難い。母材2と固化層30との間に亀裂が存在している写真を図7に示す。図7は、本形態ではない後述する試料No.112の高速度鋼焼結体における固化層30と母材2との境界近傍の断面を示す写真である。図7の写真は、光学顕微鏡によって500倍の倍率で観察した観察像である。図7では、固化層30と母材2との境界には亀裂が存在している。図7の亀裂は、固化層30と母材2との間に黒く示されている領域である。図7では、亀裂がわかり易いように500倍に拡大している。図7の亀裂のサイズからすると、200倍の倍率で観察した観察像であっても亀裂が認められることは明らかである。図2B図7との比較から明らかなように、図2Bに示す本形態の高速度鋼焼結体は、母材2と固化層30との間に亀裂が存在していない。そして、図2Aに示すように、本形態の高速度鋼焼結体における固化層30にも亀裂が存在していない。
【0061】
〔高速度鋼焼結体の製造方法〕
図3及び図4を参照して、本形態の高速度鋼焼結体の製造方法を説明する。本形態の高速度鋼焼結体の製造方法は、母材2の上に肉盛り部3を作製する工程を備える。母材2は、高速度鋼で構成されている。肉盛り部3を作製する工程は、粉末層を作製する工程と粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、図4の二点鎖線で示すように粉末層が結合した固化層30を積層する。粉末層を作製する工程は、第一面4に高速度鋼からなる粉末を敷き詰めることを含む。第一面4は、母材2の表面21又は固化層30の各々の表面31である。本形態の高速度鋼焼結体の製造方法の特徴の一つは、レーザ光を照射する工程が、第一面4の温度を特定の温度に加熱した状態で行われる点にある。以下、各工程を詳細に説明する。以下の説明は、本形態の高速度鋼焼結体の製造方法として金型部品の製造方法を例に行う。
【0062】
[肉盛り部を作製する工程]
肉盛り部3を作製する工程は、粉末層を作製する工程と粉末層にレーザ光を照射する工程とが繰り返されることで、図4の二点鎖線で示すように、母材2に粉末層が結合した固化層30が積層される。この積層された複数の固化層30が肉盛り部3を構成する。即ち、肉盛り部3を作製する工程を経ることで、母材2と肉盛り部3とが接合された金型部品10が製造される。繰り返す回数は、適宜選択できる。母材2と肉盛り部3とを異なる組成の高速度鋼で構成する場合、母材2と肉盛り部3との接合箇所の近傍では、母材2の成分が固化層30側に拡散することによって傾斜組成になる。肉盛り部3における母材2の表面21に近い箇所ほど母材2の成分を多く含有する。肉盛り部3における母材2の表面21から遠い箇所は、粉末の組成の通りの組成となる。そのため、母材2の表面21に近い固化層30の組成と母材2の表面21から遠い固化層30の組成との違いが顕著になる。肉盛り部3の作製には、金属粉末積層造形装置が利用できる。金属粉末積層造形装置は、金属3Dプリンタとも呼ばれる。
【0063】
(母材)
母材2は、第二の金型部品である。第二の金型部品とは、第一の金型部品の一部が摩耗した状態の使用済みの金型部品である。第一の金型部品は、原料粉末の圧縮成形に用いられる粉末冶金用の金型を構成する部品である。第一の金型部品とは、初期状態又は初期状態相当の金型部品である。初期状態の金型部品とは、未使用の金型部品である。初期状態の金型部品は、高速度鋼で構成された焼結体である。初期状態の金型部品の材質は、上述した母材2の材質の通りである。初期状態相当の金型部品とは、本形態の高速度鋼焼結体の製造方法により製造された金型部品10である。図3の実線で示す部分が第二の金型部品である。図3の実線で示す部分と二点鎖線で示す部分とを合わせた部分が第一の金型部品である。第一の金型部品は、例えば、図3に示すようなパンチ、又は図示は省略しているもののダイである。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、パンチの端面は、原料粉末を圧縮成形することで摩耗する。この摩耗した状態のものが母材2である。即ち、母材2の長さは、第一の金型部品の長さよりも短い。母材2の長さは、粉末冶金用の金型のサイズにもよるものの、例えば、50mm以上200mm以下であり、更に50mm以上150mm以下であり、特に50mm以上100mm以下である。
【0064】
母材2の形状は、上述した母材2の形状の通りである。母材2の材質は、上述した母材2の材質の通りである。母材2の材質が上述した母材2の材質の通りであることで、母材2に対して亀裂のない固化層30、延いては肉盛り部3を作製し易い。
【0065】
(粉末層を作製する工程)
粉末層を作製する工程では、第一面4の上に粉末を敷き詰めることを含む。第一面4は、母材2の表面21又は固化層30の各々の表面31である。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、母材2の表面21とは、パンチの端面である。固化層30の表面31とは、図4に示すように、母材2の表面21に作製された固化層30のうち、母材2の表面21側とは反対側の面である。粉末の敷き詰め方は、粉末の大きさ及び粉末層の高さに応じて適宜選択できる。例えば、粉末を構成する個々の粒子が積み重なることなく1層の粉末層を構成するように粉末が敷き詰められてもよいし、粒子が積み重なるように粉末が敷き詰められてもよい。
【0066】
粉末の材質は、上述した固化層30の材質の通りである。この粉末の組成は、固化層30の組成に維持される。粉末の材質が上述した固化層30の材質の通りであることで、母材2に対して亀裂のない固化層30、延いては肉盛り部3を作製し易い。
【0067】
粉末の平均粒径は、例えば、10μm以上100μm以下である。平均粒径が上記範囲を満たす粉末は、取り扱い易く、粉末層及び固化層30を造形し易い。粉末の平均粒径は、更に20μm以上60μm以下であり、特に20μm以上50μm以下である。平均粒子径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒子径を意味する。
【0068】
粉末の形状は、真球状が好ましい。粉末は、例えば、ガスアトマイズ法により製造されたガスアトマイズ粉が好ましい。
【0069】
粉末層の高さは、適宜選択できる。個々の粉末層の高さが高いほど、個々の固化層30の高さが高くなる。個々の固化層30の高さは、個々の粉末層の高さよりも低くなる。固化層30は、粉末層が溶融してから固化することにより形成されるからである。各粉末層の高さは同一としてもよい。少なくとも1つの粉末層の高さが異なってもよい。
【0070】
粉末層の高さを異ならせる場合、例えば、次の要件を満たしてもよい。その要件とは、第n層目の粉末層の高さを第n-1層目の粉末層の高さ以上とする。第n層目の粉末層とは、第2層目の粉末層から最終層目の粉末層の各々である。即ち、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層まで、粉末層の層数が増えるにつれて、粉末層の高さを1つ前の粉末層の高さ以上とする。この要件を満たすことで、母材2と第1層目の固化層30との接合性を向上し易い。そのため、母材2と肉盛り部3との接合性を向上し易い。その上、各固化層30同士の接合性の低下を抑制しつつ、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数を少なくし易いため、金型部品10の生産性を向上し易い。この要件を満たす場合、図4に示すように、ある層の固化層30の高さは、ある層の1つ前の固化層30の高さ以上となる。
【0071】
上記要件を満たす一例として、例えば、粉末層の層数が増えるにつれて粉末層の高さを高くする範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの全ての粉末層としてもよい。また、上記範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの中から選択される連続した複数の粉末層であってもよい。選択される連続した複数の粉末層は、例えば、以下の3つのパターンのいずれか1つである。
【0072】
第1パターンは、第1層目から第m層目の粉末層である。
第2パターンは、第m層目から第m層目の粉末層である。
第3パターンは、第m層目から最終層目の粉末層である。
第m層目の粉末層は、第1層目と最終層目との間の途中の粉末層である。
第m層目の粉末層は、第1層目と第m層目との間の途中の粉末層である。
第m層目の粉末層は、第m層目と最終層目との間の途中の粉末層である。
【0073】
連続する複数の粉末層が第1層目から第m層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層の高さは、層数が増えるにつれて高くする。第m+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m層目の粉末層の高さと同じとする。
【0074】
連続する複数の粉末層が第m層目から第m層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層の高さは一様である。第m+1層目から第m層目の粉末層の高さは、第m層目の粉末層の高さ超であり、かつ層数が増えるにつれて高くする。第m+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m層目の粉末層の高さと同じとする。
【0075】
連続する複数の粉末層が第m層目から最終層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層の高さは一様である。第m+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m層目の粉末層の高さ超であり、かつ層数が増えるにつれて高くする。
【0076】
ここでいう「粉末層の高さが一様」及び「粉末層の高さが同じ」とは、後述する粉末層の高さの上昇率が3.0%未満である場合をいう。即ち、上記上昇率が3.0%以上である場合、「粉末層の高さが高くなる」という。上記上昇率は、{(t-tA-1)/tA-1}×100で示される。tとは、ある層の粉末層の高さである。tA-1とは、ある層の1つ前の粉末層の高さである。粉末層の高さの上昇率は、層数が増えるにつれて徐々に小さくなることが好ましい。
【0077】
第m層目の粉末層は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の1/5層目以上1/2層目以下の粉末層である。例えば、総積層数が30である場合、第m層目の粉末層は、6層目以上15層目以下の粉末層である。また、第m層目は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の1/5層目以上2/5層目以下であり、第m層目は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の3/5層目以上4/5層目以下である。例えば、総積層数が30である場合、第m層目の粉末層は、6層目以上12層目以下であり、第m層目の粉末層は、18層目以上24層目以下である。
【0078】
各粉末層の高さは、例えば、0.02mm以上0.08mm以下であり、更に0.03mm以上0.07mm以下であり、特に0.04mm以上0.05mm以下である。
【0079】
(レーザ光を照射する工程)
レーザ光を照射する工程では、粉末層にレーザ光が照射されることで粉末層が固化した固化層30を作製する。レーザ光は粉末層上を走査する。レーザ光が走査されることで、粉末層全体にわたってレーザ光が照射される。レーザ光の照射により、粉末層を構成する粒子が溶融して粒子同士が互いに結合する。
【0080】
この工程では、粉末層が作製される第一面4の温度を130℃以上に加熱した状態とする。即ち、第1層目の固化層30を作製する際、母材2の表面21の温度を130℃以上に加熱した状態とする。第2層目以降の固化層30を作製する際、粉末層が作製される固化層30の表面31の温度を130℃以上に加熱した状態とする。第一面4の温度が130℃以上に加熱された状態でレーザ光が粉末層に照射されることで、亀裂のない固化層30を作製できる。言い換えると、高速度鋼で構成されている肉盛り部3を高速度鋼で構成されている母材2上に作製できる。この肉盛り部3を作製する工程によって、母材2を初期状態相当の金型部品に復元できる。復元された初期状態相当の金型部品、即ち、本形態の高速度鋼焼結体の製造方法によって製造された金型部品10は、摩耗状態が改善されているため、再利用できる。そのため、本形態の高速度鋼焼結体の製造方法は、初期状態の金型部品を一から作製する場合に比較して、金型部品10のコストを低減できる。第一面4の温度は、例えば、更に150℃以上であり、特に200℃以上である。第一面4の温度の上限は、実用上、300℃である。即ち、第一面4の温度は、130℃以上300℃以下であり、更に150℃以上300℃以下であり、更に200℃以上300℃以下である。第一面4の温度は、温度センサで測定できる。温度センサは、例えば、赤外線温度センサである。
【0081】
第一面4の加熱は、温度調整装置によって行える。温度調整装置は、発熱源110と発熱源110の発熱状態を制御する温度制御部とを有する。温度制御部の図示は省略する。発熱源110は、例えば抵抗発熱体や高温流体の流路である。高温流体は、例えばスチームである。発熱源110は、母材2が載置されるテーブル100に内蔵されている。固化層30の第一面4の位置によっては、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す過程で、発熱源110の出力を徐々に高くするとよい。固化層30が積層されるたびに、固化層30の第一面4の位置がテーブル100から離れる。そのため、発熱源110の出力を徐々に高くすることで、固化層30の第一面4の温度を130℃以上に高め易い。
【0082】
第一面4の温度は、例えば、粉末のMs点以上である。また、第一面4の温度は、例えば、母材2のMf点以上である。第一面4の温度は、例えば、粉末のMs点以上及び母材2のMf点以上の両方を満たす。第一面4の温度が粉末のMs点以上及び母材2のMf点以上の少なくとも一方を満たすことで、亀裂のない固化層30を作製し易い。
【0083】
レーザ光のエネルギー密度は、粉末層を結合できれば特に限定されず適宜選択できる。レーザ光のエネルギー密度とは、レーザ光の照射領域での単位体積あたりに投入されるエネルギー量のことである。レーザ光のエネルギー密度は、E=P/(v×s×t)によって算出される値である。Eは、レーザ光のエネルギー密度(J/mm)である。Pは、レーザ光の出力(W)である。vは、レーザ光の走査速度(mm/s)である。sは、レーザ光の走査ピッチ(mm)である。tは、粉末層の高さ(mm)である。
【0084】
各粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度は同一としてもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度が他の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度と異なってもよい。
【0085】
レーザ光のエネルギー密度を異ならせる場合、例えば、次の要件を満たしてもよい。その要件とは第n層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度を第n-1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度以下とする。ここでいう第n層目の粉末層とは、粉末層の高さについて上述した第n層目の粉末層と同じである。即ち、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層まで、粉末層の層数が増えるにつれて、粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度を1つ前の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度以下とする。この要件を満たすことで、母材2と第1層目の固化層30との接合性を向上し易い。その上、母材2の固化層30同士の接合性を向上し易い。そのため、母材2と肉盛り部3との接合性を向上し易い。
【0086】
上記要件を満たす一例として、例えば、粉末層の層数が増えるにつれてレーザ光のエネルギー密度を小さくする範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの全ての粉末層とする。また、上記範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの中から選択される連続した複数の粉末層であってもよい。選択される連続した複数の粉末層は、粉末層の高さの説明で述べた3つのパターンのいずれか1つである。第m層目から第m層目の意義は、粉末層の高さの説明で述べたものと同じである。
【0087】
連続する複数の粉末層が第1層目から第m層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、層数が増えるにつれて小さくする。第m+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度と同じとする。
【0088】
連続する複数の粉末層が第m層目から第m層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は一様である。第m+1層目から第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度未満であり、かつ層数が増えるにつれて小さくする。第m+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度と同じとする。
【0089】
連続する複数の粉末層が第m層目から最終層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は一様である。第m+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度未満であり、かつ層数が増えるにつれて小さくする。
【0090】
ここでいう「レーザ光のエネルギー密度が一様」及び「レーザ光のエネルギー密度が同じ」とは、後述するレーザ光のエネルギー密度の下降率が7.5%未満である場合をいう。即ち、上記下降率が7.5%以上である場合、「レーザ光のエネルギー密度が小さくなる」という。上記下降率は、{(E-EA-1)/EA-1}×100の絶対値で示される。Eとは、ある層の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度である。EA-1とは、ある層の1つ前の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度である。レーザ光のエネルギー密度の下降率は、層数が増えるにつれて徐々に小さくなることが好ましい。
【0091】
レーザ光のエネルギー密度は、例えば、10J/mm以上300J/mm以下である。エネルギー密度が10J/mm以上であるレーザ光は、亀裂のない固化層30を作製し易い。エネルギー密度が300J/mm以下であるレーザ光は、粉末層を過度に溶解させることを抑制できる。そのため、固化層30を作製し易く、固化層30の形状精度を維持し易い。レーザ光のエネルギー密度は、更に10J/mm以上200J/mm以下であり、特に10J/mm以上180J/mm以下である。
【0092】
レーザ光の出力は、例えば、300W超である。出力が300W超であるレーザ光は、粉末層を効率的に結合させ易い。レーザ光の出力は、更に350W以上であり、特に400W以上である。レーザ光の出力の上限は、例えば、550W以下である。出力が550W以下であるレーザ光は、粉末層を過度に溶解させることを抑制できる。即ち、レーザ光の出力は、300W超550W以下であり、更に350W以上520W以下であり、特に400W以上500W以下である。各粉末層に照射されるレーザ光の出力は同一でもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光の出力が他の粉末層に照射されるレーザ光の出力と異なってもよい。
【0093】
レーザ光の走査速度は、例えば、300mm/s以上1000mm/s以下である。レーザ光の走査速度が300mm/s以上であることで、粉末層を十分に溶融させられる。レーザ光の走査速度1000mm/s以下がであることで、粉末層が過度に溶解することを抑制できる。レーザ光の走査速度は、更に320mm/s以上800mm/s以下であり、特に350mm/s以上700mm/s以下である。各粉末層に照射されるレーザ光の走査速度は同一でもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光の走査速度が他の粉末層に照射されるレーザ光の走査速度と異なってもよい。
【0094】
レーザ光の走査ピッチは、例えば、0.05mm以上0.3mm以下である。レーザ光の走査ピッチが0.05mm以上であることで、粉末層が過度に溶解することを抑制できる。レーザ光の走査ピッチが0.3mm以下であることで、粉末層全体を十分に溶融させられる。レーザ光の走査ピッチは、更に0.08mm以上0.25mm以下であり、特に0.1mm以上0.2mm以下である。
【0095】
レーザ光の種類は、例えば、固体レーザ又は気体レーザである。固体レーザは、例えば、ファイバレーザ、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザである。ファイバレーザは、レーザスポット径を小さくしたり、高い出力が得られることから好適である。ファイバレーザは、例えば、Ybファイバレーザである。気体レーザは、例えば、COレーザである。
【0096】
[前処理する工程]
本形態の高速度鋼焼結体の製造方法は、肉盛り部3を作製する工程の前に、母材2を前処理する工程を備えていてもよい。前処理は、機械加工によって母材2の摩耗箇所を含む所定領域を除去することで第一面4を作製する。所定領域とは、例えば、上述した第一の金型部品がパンチであれば、摩耗した端面を含む所定長さの端部である。所定領域の除去によって露出した端面が表面粗さの小さい第一面4となる。第一面4は、平坦面であることが好ましい。第一面4の表面粗さは、例えば、JIS B 0601:2013に準拠される最大高さ粗さRzで1μm以下である。機械加工は、例えば、フライス加工などの切削加工、ワイヤーカットなどの放電加工、平面研磨などの研削加工である。
【0097】
[後処理する工程]
本形態の高速度鋼焼結体の製造方法は、肉盛り部3を作製する工程の後に、肉盛り部3を後処理する工程を備えていてもよい。後処理は、例えば、熱処理及び仕上げ加工の少なくとも一方である。
【0098】
(熱処理)
熱処理は、肉盛り部3の組織を変態させたり、応力を除去したりする。熱処理を行う回数は、例えば複数回である。具体的には、2回、又は3回である。
【0099】
レーザの照射後、肉盛り部3は室温に冷却される。この冷却されるまでの間が、焼入れ処理に相当する。室温までの冷却は、徐冷である。そのため、室温まで冷却した時点では、肉盛り部3の組織はマルテンサイトと残留オーステナイトとが存在している。よって、本熱処理は焼戻し処理から行われる。1回目の熱処理及び2回目の熱処理は、焼戻し処理である。1回目の熱処理は、肉盛り部3の残留オーステナイトをマルテンサイト変態させる。2回目の熱処理は、1回目の熱処理で生じたマルテンサイト組織を焼戻して安定化させることができる。これらの焼戻し処理によって、肉盛り部3の組織と母材2の組織とを同様のマルテンサイト組織にすることができる。肉盛り部3の組織と母材2の組織とが同様のマルテンサイト組織であることで、金型部品10の全体の機械的特性を均質化することができる。
【0100】
これらの焼戻し処理の加熱温度は、例えば、530℃以上630℃以下であり、更に540℃以上620℃以下であり、特に550℃以上615℃以下である。加熱温度での保持時間は、例えば、1時間以上4時間以下であり、更に1時間以上3時間以下であり、特に1時間以上2時間以下である。保持した後、金型部品10を肉盛り部3のMs点以下の温度にまで冷却する。
【0101】
3回目の熱処理は、応力を除去する処理である。加熱温度は、例えば、焼き戻し処理の加熱温度よりも30℃~50℃程度低い温度とする。加熱温度は、480℃以上600℃以下である。加熱温度での保持時間は、例えば、焼き戻し処理の保持時間と同様である。金型部品10は、加熱温度に保持した後、室温にまで冷却する。
【0102】
(仕上げ加工)
仕上げ加工は、肉盛り部3の寸法誤差を補正する。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、仕上げ加工は、肉盛り部3の端面、外周面、及び内周面に施す。この場合、肉盛り部3の端面が原料粉末を圧縮成形する面を構成する。肉盛り部3の外周面がダイの貫通孔の内周面と摺接される。肉盛り部3の内周面がコアロッドの外周面と摺接される。仕上げ加工は、例えば、前処理と同様の機械加工である。上記熱処理を行う場合、仕上げ加工は、例えば、上記熱処理の後に行う。
【0103】
《試験例》
〔試料No.1から試料No.3〕
試料No.1から試料No.3として、上述した実施形態の高速度鋼焼結体の製造方法と同様にして、高速度鋼焼結体を製造した。
【0104】
[準備する工程]
母材と粉末とを準備した。各試料の母材には、円筒状の部材を用意した。各試料の母材は、高速度鋼で構成された焼結体である。各試料の母材を構成する高速度鋼の組成は、表1に示しているように異なる。表1に示す「-」は、当該元素を含んでいないことを意味する。本例では、母材の先端部をワイヤーカットにより母材の軸に垂直に切断して除去することによって第一面を形成した。その後、母材の第一面を平面研削加工することによって、第一面の最大高さ粗さRzを1μm以下とした。母材の第一面の外径は23.96mmであり、内径は14.99mmである。各試料の粉末は、高速度鋼で構成されている。各試料の粉末を構成する高速度鋼の組成は、表2に示しているように、互いに同一とした。各試料の母材及び粉末の組成は、EDXによって求めた。
【0105】
表2に示す組成のMs点は、作成したTTT(Time-Temperature-Transformation)線図に基づく実測値である。表2に示す組成のMf点は、Ms点-215℃で求めた値である。表1に示す組成のMs点は、算出値+166℃で求めた値である。算出値は、「金属工学シリーズ1改訂 構成金属材料とその熱処理 昭和56年6月10日第3刷発行(一部改定)」の第103頁に記載の組成からMs点を推定する式に基づいて求めた値である。上記式は、Ms点(℃)=550-350×(Cの質量%)-40×(Mnの質量%)-35×(Vの質量%)-20×(Crの質量%)-17×(Niの質量%)-10×(Moの質量%)-10×(Cuの質量%)-10×(Wの質量%)+15×(Coの質量%)-10×(Siの質量%)である。上記166℃は、次のようにして求めたものである。表2に示す組成のMs点の実測値は、135℃である。表2に示す組成のMs点の上記式に基づく算出値は、-31℃である。この実測値と算出値との差分が166℃である。よって、この差分を算出値に加算して表1に示す組成のMs点を求めた。表1に示すMf点は、Ms点-215℃で求めた値である。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
[肉盛り部を作製する工程]
粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返して粉末層が固化した固化層を積層することによって、母材に肉盛り部を作製した。肉盛り部の作製には、温度調整装置を備える金属3Dプリンタを用いた。金属3Dプリンタは、株式会社ソディック製のOPM350Lを使用した。母材の第一面の温度及び各固化層の第一面の温度を130℃以上に加熱できるように、母材が載置されるテーブルに内蔵される発熱源を調整した。
【0109】
本例では、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数は30回とした。本例では、第1層目の粉末層へのレーザ光の照射は、発熱源によって母材の第一面の温度を150℃に加熱した状態で行った。第2層目以降の粉末層へのレーザ光の照射は、発熱源によって各粉末層が敷き詰められる各固化層の第一面の温度を150℃に加熱した状態で行った。
【0110】
本例では、固化層の内径が母材の内径と同一となり、固化層の外径が母材の外径よりも小さくなるように、各試料における第1層目から第30層目の各粉末層を敷き詰めた。各試料における第1層目から第30層目の各粉末層の高さ、粉末層の高さの上昇率、造形物の高さ、及びレーザ光の条件は、表3に示す通りである。造形物の高さとは、固化層の合計高さである。即ち、第30層目の造形物の高さが肉盛り部の高さである。レーザ光の条件とは、出力、走査ピッチ、走査速度、エネルギー密度、及びエネルギー密度の下降率である。表3に示すエネルギー密度は、小数点第一位を四捨五入している。表3に示す粉末層の高さの上昇率、及びエネルギー密度の下降率は、小数点第二位を四捨五入している。各試料における第1層目から第30層目の各粉末層の高さ、造形物の高さ、及びレーザ光のエネルギー密度は、図5にグラフとして示す。図5の横軸は、各固化層の積層順に対応した層番号である。図5の左側の縦軸は、レーザ光のエネルギ密度(J/mm)である。図5の右側の縦軸は、粉末層の高さ(mm)及び造形物の高さ(mm)である。図5の実線及び黒丸印は、エネルギー密度を示す。図5の点線及びバツ印は、粉末層の高さを示す。図5の破線及び黒菱形印は、造形物の高さを示す。
【0111】
【表3】
【0112】
〔試料No.101から試料No.103〕
試料No.101から試料No.103として、各粉末層にレーザ光を照射する際、母材の第一面の温度及び各固化層の第一面の温度を120℃に加熱した点を除き、試料No.1から試料No.3と同様にして、金属部品を製造した。
【0113】
〔試料No.111から試料No.113〕
試料No.111から試料No.113として、各粉末層にレーザ光を照射する際、母材の第一面及び各固化層の第一面を加熱しなかった点を除き、試料No.1から試料No.3と同様にして、金属部品を製造した。母材の第一面及び各固化層の第一面の温度はいずれも室温、具体的には30℃とした。
【0114】
〔肉盛り部の亀裂の有無〕
各試料の高速度鋼焼結体における肉盛り部の亀裂の有無を目視にて調べた。
【0115】
代表して、試料No.1の高速度鋼焼結体における肉盛り部の写真を図2Aに示す。図2Aに示すように、試料No.1の高速度鋼焼結体における肉盛り部には亀裂が見られなかった。図示は省略しているものの、試料No.2及び試料No.3の高速度鋼焼結体における肉盛り部には、試料No.1と同様、亀裂が見られなかった。一方、図示は省略しているものの、試料No.101から試料No.103、及び試料No.111から試料No.113の高速度鋼焼結体における肉盛り部には、亀裂が見られた。
【0116】
〔境界の視認性〕
各試料の高速度鋼焼結体における母材と第1層目の固化層との境界を確認した。代表して、試料No.1の高速度鋼焼結体における母材と1層目の固化層との接合箇所近傍の写真を図2Bに示し、試料No.101の高速度鋼焼結体における上記境界近傍の写真を図6に示す。
【0117】
図2Bに示すように、試料No.1の高速度鋼焼結体は、上記境界が視認されない。図示は省略しているものの、試料No.2及び試料No.3の高速度鋼焼結体は、試料No.1と同様、上記境界が視認されない。一方、図6に示すように、試料No.101の高速度鋼焼結体は、上記境界を視認できる。図示は省略しているものの、試料No.102及び試料No.103の高速度鋼焼結体は、試料No.101と同様、上記境界を視認できる。また、図示は省略しているものの、試料No.111から試料No.113は、上記境界を視認できる。
【0118】
〔接合箇所の亀裂の有無〕
各試料の高速度鋼焼結体における母材と固化層との接合箇所の亀裂の有無を調べた。代表して、試料No.112の高速度鋼焼結体における上記境界近傍の写真を図7に示す。
【0119】
図示は省略しているものの、試料No.1から試料No.3の高速度鋼焼結体における上記接合箇所には、亀裂が見られなかった。一方、図7に示すように、試料No.112の高速度鋼焼結体における上記境界には亀裂が見られた。図示は省略しているものの、試料No.111及び試料No.113の高速度鋼焼結体における上記境界には、試料No.112と同様、亀裂が見られた。また、図示は省略しているものの、試料No.101から試料No.103の高速度鋼焼結体における上記境界には、亀裂が見られた。
【0120】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
1 高速度鋼焼結体
10 金型部品
2 母材、20 貫通孔、21 表面
3 肉盛り部、30 固化層、31 表面
4 第一面
100 テーブル、110 発熱源
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7