(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ナノロッドの製造方法、粒子、及び、ナノロッド
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20230815BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C01G41/00 A
C01B33/20
(21)【出願番号】P 2019194034
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】金 済徳
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-179915(JP,A)
【文献】特開2019-069875(JP,A)
【文献】特開2009-067619(JP,A)
【文献】米国特許第06183716(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00
C01B 33/20
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイタングステン酸と溶媒とを含有する溶液と、
塩化ジルコニウム、及び、オキシ塩化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種のジルコニウム化合物と溶媒とを含有する溶液と、を混合し、混合物を調製することと、
前記混合物を加熱して沈殿物を得て、前記沈殿物を乾燥させて、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する粒子を得ることと、
前記粒子に電離放射線を減圧下で照射して再結晶させ、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する結晶性のナノロッドを得ることとを含む、ナノロッドの製造方法。
【請求項2】
前記粒子の全質量を100質量%としたとき、タングステンの含有量が45~50質量%、ケイ素の含有量が0.50~0.80質量%、及び、ジルコニウムの含有量が13~17質量%である、請求項1に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項3】
前記電離放射線の照射が、結晶性材料からなる基材に配置された前記粒子に対して行われる請求項1又は2に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項4】
前記粒子中における水和水の含有量が、前記粒子の全質量を100質量%としたとき、16~19質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項5】
前記電離放射線が電子線である、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項6】
前記粒子の平均粒子径が0.1~10μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項7】
前記ナノロッドの幅が1~15nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項8】
前記ナノロッドの幅に対する長さの比が、3.0~90である、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項9】
前記ナノロッドの長さが10~350nmである、請求項1~8のいずれか1項に記載のナノロッドの製造方法。
【請求項10】
粒子であって、
タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有し、
平均粒子径が0.1~10μmであって、
前記粒子の全質量を100質量%としたとき、タングステンの含有量が45~50質量%であり、ケイ素の含有量が0.50~0.80質量%であり、及び、ジルコニウムの含有量が13~17質量%である、粒子。
【請求項11】
ナノロッドの製造用である、請求項10に記載の粒子。
【請求項12】
ナノロッドであって、
タングステン、ケイ素、及び、ジルコニウムを含有し、
幅が1~15nmであって、長さが10~350nmであり、結晶性である、ナノロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノロッドの製造方法、粒子、及び、ナノロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸は、有機合成用の触媒、及び、その製造用原料等として用いられ、特許文献1には、「ビニリデン基を有するモノマーを、非共有電子対を有する添加剤の存在下、担体と該担体に担持されたヘテロポリ酸とを有する重合触媒に接触させて、前記モノマーの重合体を得る工程を含む、重合体の製造方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、様々な機能が期待され研究が進んでいるヘテロポリ酸について、ヘテロポリ酸とジルコニウムとが結合した結晶性のナノ構造の製造方法は知られていなかった。
そこで、本発明はヘテロポリ酸とジルコニウムとが結合した結晶性のナノロッドの製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、上記製造方法に使用できる粒子、及び、上記製造方法により製造される結晶性のナノロッドを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] ケイタングステン酸と溶媒とを含有する溶液と、塩化ジルコニウム、及び、オキシ塩化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種のジルコニウム化合物と溶媒とを含有する溶液とを混合し、混合物を調製することと、上記混合物を加熱して沈殿物を得て、上記沈殿物を乾燥させて、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する粒子を得ることと、上記粒子に電離放射線を減圧下で照射して再結晶させ、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する結晶性のナノロッドを得ることとを含む、ナノロッドの製造方法。
[2] 上記粒子の全質量を100質量%としたとき、タングステンの含有量が45~50質量%、ケイ素の含有量が0.50~0.80質量%、及び、ジルコニウムの含有量が13~17質量%である、[1]に記載のナノロッドの製造方法。
[3] 上記電離放射線の照射が、結晶性材料状に配置された上記粒子に対して行われる[1]又は[2]に記載のナノロッドの製造方法。
[4] 上記粒子中における水和水の含有量が、上記粒子の全質量を100質量%としたとき、16~19質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[5] 上記電離放射線が電子線である、[1]~[4]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[6] 上記粒子の平均粒子径が0.1~10μmである、[1]~[5]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[7] 上記ナノロッドの幅が1~15nmである、[1]~[6]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[8] 上記ナノロッドの幅に対する長さの比が、3.0~90である、[1]~[7]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[9] 上記ナノロッドの長さが10~350nmである、[1]~[8]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法。
[10] 粒子であって、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有し、
平均粒子径が0.1~10μmであって、上記粒子の全質量を100質量%としたとき、タングステンの含有量が45~50質量%であり、ケイ素の含有量が0.50~0.80質量%であり、及び、ジルコニウムの含有量が13~17質量%である、粒子。
[11] ナノロッドの製造用である、[10]に記載の粒子。
[12] ナノロッドであって、タングステン、ケイ素、及び、ジルコニウムを含有し、幅が1~15nmであって、長さが10~350nmであり、結晶性である、ナノロッド。
[13] [1]~[9]のいずれかに記載のナノロッドの製造方法により製造された、結晶性である、ナノロッド。
【発明の効果】
【0007】
本発明によればヘテロポリ酸とジルコニウムとが結合した結晶性のナノロッドの製造方法が提供できる。また、本発明によれば、上記製造方法に使用できる粒子、及び、上記製造方法により製造される結晶性のナノロッドも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】12タングスト(VI)ケイ酸26水のTGDTA特性である。
【
図8】粒子3のフーリエ変換赤外分光測定結果である。
【
図10】ナノロッド1の透過型電子顕微鏡像である。
【
図11】ナノロッド1の1本を拡大した透過型電子顕微鏡像である。
【
図14】ナノロッド2の透過型電子顕微鏡像である。
【
図15】ナノロッド2の透過型電子顕微鏡像である。
【
図16】ナノロッド2のエネルギー分散型X線分光法(EDX)による組成分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[ナノロッドの製造方法]
本発明の実施形態に係るナノロッドの製造方法は、ケイタングステン酸と溶媒とを含有する溶液と、塩化ジルコニウム、及び、オキシ塩化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種のジルコニウム化合物と溶媒とを含有する溶液とを混合し、混合物を調製すること(以下、「混合物調製工程」ともいう。)と、上記混合物を加熱して沈殿物を得て、上記沈殿物を乾燥させて、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する粒子を得ること(以下、「粒子製造工程」)と、上記粒子に電離放射線を減圧下で照射して再結晶させ、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する結晶性のナノロッドを得ること(以下、「ナノロッド製造工程」ともいう。)とを含む、ナノロッドの製造方法である。
【0011】
なお、本明細書において、ナノロッドとは、棒状の微粒子を意味し、その長さ(長径)が1000nm以下の粒子を意味し、500nm以下がより好ましく、350nm以下が更に好ましい。長さの下限値としては特に制限されないが、一般に、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましい。なお、ナノロッドの長さ、及び、後述する幅は透過型電子顕微鏡像の解析から得られる粒子50個の平均長径(長さの場合)、及び、平均短径(幅の場合)を意味する。
【0012】
<混合物調製工程>
混合物調製工程において、ケイタングステン酸と溶媒とを含有する溶液(以下、「溶液A」ともいう。)を調製する方法としては特に制限されず、例えば、ケイタングステン酸の水和物(12タングスト(VI)ケイ酸26水)を室温の溶媒に添加して、攪拌、溶解させる方法が挙げられる。
溶媒としてはケイタングステン酸を溶解可能であれば特に制限されないが、水が好ましい。
【0013】
溶液A中におけるケイタングステン酸の含有量としては特に制限されないが、一般に、1~80g/100mLが好ましい。
【0014】
塩化ジルコニウム、及び、オキシ塩化ジルコニウム(ジクロロオキソジルコニウム(IV))からなる群より選択される少なくとも1種のジルコニウム化合物と溶媒とを含有する溶液(以下、「溶液B」ともいう。)を調製する方法としては特に制限されず、ジルコニウム化合物を室温の溶媒に添加して、攪拌、溶解させる方法が挙げられる。
【0015】
溶媒としては、ジルコニウム化合物を溶解可能であれば特に制限されないが、水が好ましい。
なお、溶液Bは上記以外の成分を含有してもよく、例えば、無機酸(塩酸が好ましい)を含有していてもよい。
【0016】
なお、上記ジルコニウム化合物は、水中で加水分解し、加水分解生成物を生成していてもよい。加水分解生成物としては、例えば、4員環を基本にした4核錯体([Zr(OH)2・4H2O]4
8+)等が挙げられる。
【0017】
溶液B中におけるジルコニウム化合物の含有量としては特に制限されないが、一般に、0.1~30質量%が好ましい。
【0018】
溶液Aと溶液Bとを混合して混合物を得る方法としては特に制限されないが、溶液Aに対して溶液Bを室温で添加し、攪拌する方法が挙げられる。攪拌の時間としては特に制限されないが、より効率的に反応が進行する観点で、30分~120分が好ましい。
【0019】
溶液Aと溶液Bの混合比としては特に制限されないが、溶液A中におけるケイタングステン酸の含有量(固形分)に対する溶液B中におけるジルコニウム化合物の含有量(固形分)の含有モル比(ジルコニウム化合物/ケイタングステン酸)が、1/50~10が好ましく、1/20~2がより好ましく、1/10~1が更に好ましい。
【0020】
<粒子製造工程>
混合物を加熱して沈殿物を得る際の加熱の温度としては特に制限されないが、より効率的に反応が進行する点で、35~95℃が好ましい。また、加熱の時間としては特に制限されないが、一般に、0.5~48時間が好ましい。
【0021】
沈殿物を乾燥させる方法としては特に制限されないが、例えば、沈殿物をろ過して、その後乾燥させる方法が挙げられる。乾燥の温度としては特に制限されないが、一般に、25~100℃が好ましく、乾燥の時間としては特に制限されないが、一般に、0.5~48時間が好ましい。
【0022】
(粒子)
本工程によって、タングステン、ケイ素、及び、ジルコニウムを含有する粒子が得られる。
【0023】
粒子中におけるタングステン、ケイ素、及び、ジルコニウムの含有量としては特に制限されないが、粒子の全質量を100質量%としたとき、タングステンの含有量が45~50質量%であることが好ましく、ケイ素の含有量が0.50~0.80質量%であることが好ましく、ジルコニウムの含有量が13~17質量%であることがより好ましい。
【0024】
なお、本明細書において粒子中におけるタングステン、ケイ素、及び、ジルコニウムの含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により求められる値を意味する。その測定方法は、実施例に記載した前処理、及び、分析方法のとおりである。
【0025】
また、粒子中における水和水の含有量としては特に制限されないが、粒子の全質量を100質量%としたとき、16~19質量%であることが好ましい。
なお、本明細書において、粒子中の水和水の含有量は、粒子を所定の方法で加熱処理したときの加熱前後の質量差を意味する。その測定方法、実施例に記載した加熱処理方法、及び、分析方法のとおりである。
【0026】
粒子の大きさとしては特に制限されないが、平均粒子径として0.1~10μmであることが好ましい。上記数値範囲内にある粒子を用いると、後述する工程においてナノロッドがより得られやすい。
なお、本明細書において粒子径とは、走査型電子顕微鏡像から求められる50個の粒子の粒子径の算術平均を意味する。
【0027】
なお、本工程によって粒子が得られるメカニズムは必ずしも明確ではないが、本発明者は以下のとおり推測している。まず、ジルコニウム化合物(例えば塩化ジルコニウム)は水溶液中では4員環を基本にした4核錯体([Zr(OH)2・4H2O]4
8+)として存在する。また、ジルコニウム化合物(特に塩化ジルコニウム)は強い酸水溶液なので加水分解反応が進行している。
【0028】
ケイタングステン酸(12タングスト(VI)ケイ酸26水)水溶液に塩化ジルコニウム水溶液を加えると、後述する実施例で示す組成分析結果から推察すると、ジルコニウムは[Zr(OH)8・8H2O]8+を形成し、12タングスト(VI)ケイ酸26水は[SiW12O40]8-を形成する。その結果、後述する実施例で示すとおり、これらがイオン結合した、SiO2・8ZrO2・12WO3・mH2Oで表される粒子が得られたと考えられる。
【0029】
<ナノロッド製造工程>
電離放射線としては特に制限されず、ガンマ線、及び、エックス線等の電磁放射線であってもよく、アルファ線、ベータ線、及び、電子線等の粒子放射線であってもよく、なかでも、より効率的に反応が進行しやすい点で、粒子放射線が好ましく、電子線がより好ましい。電離放射線は、100~1500kVの加速電圧を有する電子線であってもよい。電子線の放射線量は、10~500kGyであってもよい。
【0030】
電離放射線の照射は減圧下で行われるがその際の真空度としては特に制限されないが、10-13~10-4Paが好ましい。
【0031】
上記電離放射線の照射によりすでに説明した粒子が再結晶し、結晶性のナノロッドが得られる。このとき、結晶性材料からなる基材上で再結晶することが好ましい。すなわち、基材上に配置された粒子に電離放射線が照射されることが好ましい。なお、結晶性材料としては特に制限されず、銅、白金、モリブデン、金、及び、ニッケル等の金属等が挙げられる。また、基材の形状としては特に制限されず、板状であってもよいし、ワイヤ状であってもよい。
【0032】
(ナノロッド)
本工程を経て、タングステンとケイ素とジルコニウムとを含有する結晶性のナノロッドが得られる。
上記結晶性のナノロッドの大きさとしては特に制限されないが、一般に、幅(短径)は、1~15nmが好ましく、長さ(長径)は10~350nmがより好ましい。
ナノロッドの幅に対する長さの比としては特に制限されないが、3.0~90が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0034】
[実施例1]
水50mlに12タングスト(VI)ケイ酸26水(SiO2・12WO3・26H2O,Mw=3310.66、富士フイルム和光純薬社製)の5g(1.51mmol)を入れて溶解し、溶液Aを得た。
次に、ジルコニルクロリド溶液(ジクロロオキソジルコニウム(IV)の30質量%塩酸溶液、シグマアルドリッチ社製)の0.8961g(1.5mmol)に水50mlを入れて撹拌し、溶液Bを得た。
次に、溶液Bを溶液Aに加えて室温で1時間撹拌した。その後、80℃で24時間放置して、沈殿物を生成させた。沈殿物を濾過し、乾燥させて粒子1を得た。
【0035】
次に、上記粒子1を銅メッシュにより支持し、電界放射型電子銃を有するJEM-2100F(UHR)装置を用いて200kVの加速電圧を有する電子線を減圧下で粒子に照射して再結晶させ、結晶性のナノロッド1を作製した。
【0036】
[実施例2]
ジルコニルクロリド溶液の0.4480g(0.75mmol)を使用して、粒子2を調製した以外は実施例1と同様にして結晶性のナノロッド2を得た。
【0037】
[実施例3]
ジルコニルクロリド溶液の0.08961g(0.15mmol)を使用して、粒子3を調製した以外は実施例1と同様にして結晶性のナノロッド3を得た。
【0038】
[評価]
粒子1~3を以下の方法により評価した。
【0039】
(粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察)
日立S-4800装置を用いて観察した。結果を
図1~3に示した。
図1は、粒子1、
図2は粒子2、
図3は粒子3の走査型電子顕微鏡像である。
図1~3の結果から、それぞれ、平均粒子径(直径)0.3~5μmの粒子が得られたことが分かった。
【0040】
(粒子の熱的安定性(TGDTA)分析)
セイコーインスツル社のTG/DTA6200を用いてair(空気下)の条件で測定した。結果を
図4~7に示した。
図4は12タングスト(VI)ケイ酸26水のTGDTA特性を示しており、横軸は温度、縦軸(第1軸)は、熱重量変化(熱重量、TG、質量%)、縦軸(第2軸)は、熱量変化(示唆熱、DTA、μV)を示している。同様に、
図5~7には粒子1~3のTGDTA特性を示した。
【0041】
いずれの試料も加熱開始から500℃までの間で、水和水の脱離(気化)による吸熱ピークが観察された。また、
図4では、528℃に再結晶化による吸熱ピークが観察されたが、
図5~7では、700~710℃に同様のピークが確認された。
【0042】
(粒子のフーリエ変換赤外分光(FTIR)測定)
FT/IR-6200(ATRPRO410-S、JASCO社製)を用いて評価した。結果を
図8に示した。
図8中、横軸は波数(cm
-1)、縦軸は透過率(任意単位)を示している。また、
図8中、「比較例」とあるのは、12タングスト(VI)ケイ酸26水のFTIR特性を示しており、「粒子3」とあるのは、粒子3のFTIR特性を示している。
【0043】
図8の結果からは、12タングスト(VI)ケイ酸26水と、粒子3とは類似のスペクトル特性を有していることが分かった。表1には、それぞれのスペクトルにおけるピーク波数を示した。表1に示した結果から、粒子3では、スペクトル吸収帯が大きくシフトすることがわかった。また、ジルコニウムに由来する新しい吸収帯が、634cm
-1と458cm
-1に観察された。
【0044】
【0045】
(粒子のXRD(X線回折)測定)
Scintag XDS 2000装置を用いて40kV、40mAの条件で測定した。結果を
図9に示した。
図9中、横軸は回折角(2θ、単位°)を示し、縦軸は、強度(任意単位)を示している。
図9中、「比較例」とあるのは、12タングスト(VI)ケイ酸26水のスペクトル、「粒子1」とあるのは、粒子1のスペクトルを示している。
図9の結果から、粒子1は、比較例の12タングスト(VI)ケイ酸26水とは異なる構造を有し、非晶質に近い構造であることがわかった。なお、粒子2、及び、粒子3についても、粒子1と同様の結果だった。
【0046】
(粒子中のタングステン、ジルコニウム、及び、ケイ素の含有量の測定)
粒子中に含まれるタングステン、ジルコニウム、及び、ケイ素の含有量は以下の方法により測定した。
【0047】
まず、試料の40mgを白金ルツボに精秤し、フッ酸0.5mlと硝酸1mlを加えて溶解後、100mlに定容した。これを10倍希釈(ホウ酸添加)して、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法でW(タングステン)、Zr(ジルコニウム)、Si(ケイ素)を定量した。
【0048】
使用した分析装置、及び、測定条件は以下のとおりである。
・ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置:日本ジャーレル・アッシュ製(IRIS AP)
・高周波出力:1.15kW、軸方向測光-マルチチャンネルCID検出器
・波長:W239.709nm(140)、Zr272.261nm(123)、Si251.612nm(133)
【0049】
上記方法で測定した粒子中のタングステン、ジルコニウム、及び、ケイ素の含有量を表2に示した。
【0050】
【0051】
(粒子中の水和水の含有量の分析)
粒子中に含まれる水和水の含有量は以下の方法により想定した。
まず、試料の50mgを白金ルツボに精秤し、110℃で120分加熱後、秤量(W_init、単位g)した。
次に、200℃で60分加熱、300℃で60分、400℃で60分、及び、500℃で60分加熱後秤量(W_end、単位g)した。
このW_end(g)とW_init(g)の差を水和水の含有量とした。
【0052】
使用した分析装置は以下のとおりである。
・電気炉(いすず)、加熱温度:110℃ ~ 500℃
【0053】
上記の方法で測定した水和水の含有量を表3に示した。
【0054】
【0055】
表2、及び、表3に示した結果から、粒子1~3はそれぞれ、W(46.4質量%)、Zr(15.6質量%)、Si(0.67質量%)、H2O(18.3質量%)であり、SiO2・8ZrO2・12WO3・34H2O(粒子1)、W(47.8質量%)、Zr(15.5質量%)、Si(0.59質量%)、H2O(17.8質量%)であり、SiO2・8ZrO2・12WO3・33H2O(粒子2)、W(48質量%)、Zr(15.2質量%)、Si(0.64質量%)、H2O(18.8質量%)であり、SiO2・8ZrO2・12WO3・32H2O(粒子3)で表されることがわかった。
【0056】
(透過型電子顕微鏡観察)
透過型電子顕微鏡を用いてナノロッドを観察した。結果を
図10~14に示した。
図10はナノロッド1の画像、
図11は、ナノロッド1の1本を拡大した画像、
図12は更にその一部を拡大した画像である。
図10に示した結果から、複数のナノロッド1が銅マイクログリッド上に成長しているのが分かる。また、
図11には、ナノロッド1の長手方向に平行な方向に、
図12には、ナノロッド1の長手方向に垂直な方向に、規則的な縞模様が表れており、ナノロッド1が結晶性(結晶質)であることを表している。
【0057】
図13は、粒子2の透過型電子顕微鏡像であり、
図14、及び、
図15はナノロッド2の透過型電子顕微鏡像である。
図13~15の結果から、粒子2が電子線照射によって再結晶し、結晶性のナノロッド2が得られたことがわかった。
【0058】
図16にはナノロッド2のエネルギー分散型X-線分光法(EDX)による組成分析結果を示した。白抜きのピークがナノロッド2に由来するものであり、上記の結果から、ナノロッド2には、粒子2の構成成分と同様に、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、及び、酸素が含まれることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本製造方法により提供されるナノロッドは、従来にない組成、及び、形状を有しており、この特徴を利用して、有機合成用触媒、触媒製造原料、プロトン伝導体、ミクロカロリメトリー、バイオメディカル、及び、バイオ燃料用触媒等に利用可能である。