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特許7330471線維症の予防、改善または治療のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】線維症の予防、改善または治療のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4985 20060101AFI20230815BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230815BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230815BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230815BHJP
   C07K 5/06 20060101ALN20230815BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
A61K31/4985
A23L33/10
A23L33/18
A61K38/05
A61P1/16
A61P1/18
A61P7/00
A61P9/00
A61P11/00
A61P13/00
A61P13/12
A61P15/00
A61P17/00
A61P17/02
A61P19/02
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00 105
C07K5/06
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021557878
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2020004354
(87)【国際公開番号】W WO2020197359
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036269
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0037859
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517288254
【氏名又は名称】ノブメタファーマ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(73)【特許権者】
【識別番号】519001383
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン フェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ ホン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ジョン ス
(72)【発明者】
【氏名】イ ド ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン スン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン チョル
(72)【発明者】
【氏名】ムン ジョン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ウン
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/013974(WO,A1)
【文献】特表2013-537195(JP,A)
【文献】特表2011-521956(JP,A)
【文献】特表2007-500747(JP,A)
【文献】特表2004-518614(JP,A)
【文献】特表2022-528857(JP,A)
【文献】Amino Acids,2008年,Vol.35,pp.283-289
【文献】Journal of the American Society of Nephrology :Kidney Week Edition (Abstract Supplement),2019年11月,p.786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、線維症の予防または治療用薬学組成物であって、前記線維症は、線維芽細胞の調節障害的増殖または活性、フィブロネクチンの異常蓄積、あるいはコラーゲン性組織の病的または過度な蓄積によって引き起こされ、前記シクロ-ヒスプロまたは前記その薬学的に許容可能な塩は、抗線維活性を示す、線維症の予防または治療用薬学組成物
【請求項2】
前記線維症は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で発生するものである、請求項1に記載の線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記線維症は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上である、請求項1に記載の線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記肝維化は、非アルコール性脂肪肝炎を含む、請求項3に記載の線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項5】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、線維症の予防または改善用健康機能食品組成物であって、前記線維症は、線維芽細胞の調節障害的増殖または活性、フィブロネクチンの異常蓄積、あるいはコラーゲン性組織の病的または過度な蓄積によって引き起こされ、前記シクロ-ヒスプロまたは前記その食品学的に許容可能な塩は、抗線維活性を示す、線維症の予防または改善用健康機能食品組成物
【請求項6】
前記線維症は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で発生するものである、請求項5に記載の線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項7】
前記線維症は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上である、請求項5に記載の線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項8】
前記肝維化は、非アルコール性脂肪肝炎を含む、請求項7に記載の線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項9】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、抗線維化組成物。
【請求項10】
前記抗線維化は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で引き起こされるものである、請求項9に記載の抗線維化組成物。
【請求項11】
前記抗線維化は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上で引き起こされるものである、請求項9に記載の抗線維化組成物。
【請求項12】
前記肝維化は、非アルコール性脂肪肝炎を含む、請求項11に記載の抗線維化組成物。
【請求項13】
線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの使用であって、前記線維症は、線維芽細胞の調節障害的増殖または活性、フィブロネクチンの異常蓄積、あるいはコラーゲン性組織の病的または過度な蓄積によって引き起こされ、前記シクロ-ヒスプロは、抗線維活性を示す、シクロ-ヒスプロの使用
【請求項14】
前記線維症は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で発生するものである、請求項13に記載のシクロ-ヒスプロの使用。
【請求項15】
前記線維症は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上である、請求項13に記載のシクロ-ヒスプロの使用。
【請求項16】
前記肝維化は、非アルコール性脂肪肝炎を含む、請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、線維症の予防、改善または治療のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途に関し、より詳細には、CHPを含む線維症の予防または治療用薬学組成物、線維症の予防または改善用健康機能食品組成物、抗線維性組成物、CHPを用いた線維症の予防または治療方法および/または線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるCHPの用途に関する。
[背景技術]
【0002】
線維症(fibrosis)は、線維芽細胞による細胞外基質の異常生成、蓄積および沈着が起こる疾患であって、器官または組織の線維化によって発病する。線維症は、臓器の損傷を誘発する非常に致命的な疾患である。一例として、IPF(idiopathic pulmonary fibrosis)は、線維芽細胞の蓄積および筋線維芽細胞の分化に関連した再発性肺胞上皮細胞の損傷の結果として生じ、肺実質(lung parenchyma)組織の非可逆的破壊とともに細胞外基質(extracellular matrix;ECM)の過量蓄積を引き起こす、慢性、進行性、そして致死性疾患である。
【0003】
従来の治療研究は、コルチコステロイドおよび免疫阻害薬を使用して、概して線維症の炎症過程を標的としてきた。しかしながら、このような製剤は、臨床実験でほとんど効果を示さないため、線維症を治療するための新規な薬物が求められている。
【0004】
一方、韓国特許公開第10-2013-0006170号には、CHP(CYCLO(His-Pro)を高濃度で含有する大豆加水分解物を含む血糖調節用組成物が開示されているが、CHPの抗線維化効果については知られていない。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
【0005】
本発明の目的は、シクロ-ヒスプロを含む線維症の予防または治療用薬学組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、シクロ-ヒスプロを含む線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、シクロ-ヒスプロを含む抗線維性組成物を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、シクロ-ヒスプロを用いた線維症の予防または治療方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む線維症の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む、線維症を予防または治療する方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供する。
【0014】
本発明の好ましい一実施例によれば、前記線維症は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で発生するものであってもよい。
【0015】
本発明の好ましい他の一実施例によれば、前記線維症は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上であってもよい。
【0016】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロを含む抗線維性組成物を提供する。
[発明の効果]
【0017】
本発明のシクロ-ヒスプロを含む組成物は、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節のような様々な組織または器官で発生する線維化を抑制して、線維症を予防、改善または治療に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、人体の糸球体および尿細管からの細胞分離および初代培養過程を示す図である(左:糸球体、右:尿細管)。
図2図2は、人体由来近位尿細管上皮細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ4、20および100μg/ml)による細胞の形態学的変化を示す図である。
図3図3は、人体由来近位尿細管上皮細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ4、20および100μg/ml)によるE-カドヘリン(E-cadherin)、フィブロネクチン(fibronectin)およびpSTAT3タンパク質の発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認した結果である。
図4図4は、人体由来糸球体内皮細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ40および100μg/ml)による細胞の形態学的変化を示す図である。
図5a図5aは、ヒト由来肝細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ62.5、125および250ng/ml)によるフィブロネクチン(fibronectin)タンパク質の発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認したバンド結果である。
図5b図5bは、バンドのサイズを定量してグラフ化した結果である。
図6a図6aは、肝線維化動物モデルで濃度別CHP投与(それぞれ5および35mg/kg)によるフィブロネクチン(fibronectin)タンパク質の発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認したバンド結果である。
図6b図6bは、バンドのサイズを定量してグラフ化した結果である。
図7a図7aは、ヒト由来肺細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ62.5および125ng/ml)によるフィブロネクチン(fibronectin)タンパク質の発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認したバンド結果である。
図7b図7bは、バンドのサイズを定量してグラフ化した結果である。
図8図8は、肺線維化動物モデルで濃度別CHP投与(それぞれ5および35mg/kg)によるTGFβおよびCollagen 3遺伝子の発現レベルの変化をグラフ化した結果である。
図9a図9aは、ヒト由来皮膚細胞線維化モデルで濃度別CHP処理(それぞれ62.5、125、250および500ng/ml)によるフィブロネクチン(fibronectin)タンパク質の発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認したバンド結果である。
図9b図9bは、バンドのサイズを定量してグラフ化した結果である。
図10図10は、心臓線維化動物モデルで濃度別CHP投与(それぞれ5および35mg/kg)による線維化マーカーTGFβ、Fibronectin、Collagen 1、Collagen 2、Collagen 3およびCollagen 4遺伝子の発現レベルの変化をグラフ化した結果である。
図11図11は、脂肪線維化動物モデルで濃度別CHP投与(それぞれ5および35mg/kg)による線維化マーカーTGFβ、Fibronectin、Collagen 3およびCTGF遺伝子の発現レベルの変化をグラフ化した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明を実施するための最良の形態]
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
上述したように、従来の線維症に関連した治療研究は、コルチコステロイドおよび免疫阻害薬を使用して、概して線維症の炎症過程を標的としてきたが、このような製剤は、臨床実験でほとんど効果を示さないため、線維症を治療するための新規の薬物が求められている。
【0021】
これより、本発明者らは、シクロ-ヒスプロが様々な組織または器官で発生する線維化を抑制して線維症を予防、改善または治療に効果的であることを確認し、本発明を完成した。
【0022】
したがって、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む線維症の予防または治療用薬学組成物および/またはシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0023】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロを含む抗線維性組成物を提供する。
【0024】
本発明において「シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)」は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone,TRH)の代謝産物であるヒスチジン-プロリンから構成された自然的に発生する環状ジペプチド(dipeptide)またはTRH代謝過程とde novoで体内で合成されることがある生理活性ジペプチドであって、脳全般と脊髄および消化管などに広く分布する物質をいう。
【0025】
本発明の組成物において、前記CHPは、合成して使用したり、市販のものが使用できたりする。また、CHPが含有された物質、例えば、前立腺抽出物および大豆加水分解物などから精製して使用することができる。
【0026】
用語「精製された」は、CHPが前立腺抽出物のような天然由来で得ることができる形態に比べて濃縮された形態であることを意味する。精製された成分は、これらの天然源から濃縮させたり、または化学的合成方法を通じて得たりすることができる。
【0027】
本発明において、用語「線維症(fibrosis)」は、「線維症病態」、「線維増殖性病態」、「線維症疾患」、「線維増殖性疾患」、「線維症障害」および「線維増殖性障害」と互換的に使用され、線維芽細胞の調節障害的増殖または活性、フィブロネクチンの異常蓄積および/またはコラーゲン性組織の病的あるいは過度な蓄積を特徴とする病態、疾患または障害を指す。典型的に、このような病態、疾患または障害は、抗線維性活性を持つ化合物の投与によって治療可能である。
【0028】
前記線維症は、例えば、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節からなる群から選択されたいずれか一つ以上で発生できる。
【0029】
例えば、本発明の線維症は、肺線維症(Pulmonary Fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)または肺線維化、肺浮腫、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)、肝線維化、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心筋梗塞(Myocardial Infarction)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、グリア性瘢痕(Glial scar)、腎線維症(Renal Fibrosis)、骨髄線維症(Myelofibrosis)、関節線維症(Arthrofibrosis)、脂肪線維症、皮膚線維症、神経線維腫症および筋線維症からなる群から選択されたいずれか一つ以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0030】
具体的に、本発明によるCHPは、本願に記述される様々な線維症に治療効果を示す。
【0031】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第1態様は、腎臓で発生する線維症である腎線維症に関する。
【0032】
腎疾患は、進行状態によって急性腎不全症と慢性腎不全症に分類され、または発病原因によって血管複合体の沈着による糸球体腎炎、糖尿病に伴う糖尿病性腎疾患または高血圧に伴う高血圧性腎疾患、抗生剤または抗癌剤などの薬物投与による中毒性腎症、細菌感染などに分けられる。原因となる腎疾患の種類に関係なく、慢性的に腎機能障害が進行されて、糸球体ろ過率が50%以下に減少すると、多くの場合、継続して糸球体ろ過率が減少し、究極的に末期腎不全症に到達することになり、血液学的異常、神経系合併症、消化管系合併症、免疫学的合併症、感染または骨形成異常症などの合併症が起こって、ひどい場合、死に至る。
【0033】
慢性腎不全とは、このような腎機能が一方向(不可逆性)に次第に減少し、生体の恒常性を維持しない状態である。すべての腎疾患は、腎臓の線維化を伴い、結局には、末期腎不全に至る。特に慢性的な腎機能低下は、腎線維化の進行と深く関連しているので、線維化の進行抑制は、慢性腎不全の進行阻害につながる。
【0034】
本発明において用語「腎線維症」は、様々な原因によって腎臓で線維化が発生したすべての疾患を含み、線維症は、カテーテル(catheter)の設置、糸球体硬化症、糸球体腎炎、腎炎、急性腎不全、慢性腎不全、末期腎疾患および代謝性疾患からなる群から選択されるいずれか一つ以上によるものを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0035】
前記腎炎の種類としては、例えば、任意の間質性腎炎、例えば、レンサ球菌腎炎、黄色ブドウ球菌腎炎、肺炎球菌腎炎、水痘、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどに伴うウイルス性腎炎、マラリアなどの寄生虫感染による腎炎、真菌性腎炎、マイコプラズマ(mycoplasma)腎炎などに伴う感染性間質性腎炎、全身性エリテマトーデス(erythematosus)(ループス(lupus)腎炎)、全身性強皮症(膠原病腎)、シェーグレン(Sjogren)症候群などの膠原病に伴う間質性腎炎、紫斑病性腎炎、多発性動脈炎、急速進行性糸球体腎炎などの血管の免疫疾患に伴う腎炎、放射線被曝に伴う間質性腎炎、金製剤、NSAID、ペニシラミン(penicillamine)、ブレオマイシン(bleomycin)などの抗癌剤、抗生物質、パラコート(paraquat)等による薬剤性間質性腎炎、昆虫の刺し傷、花粉、ウルシ科の植物などによるアレルギー性腎炎、アミロイドーシス(amyloidosis)腎炎、糖尿病性腎不全、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎症などに伴う腎炎、尿細管間質性腎炎、妊娠中毒症や癌に伴う腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、混合型クリオグロブリン血症(cryoglobulinemia)腎炎、グッドパスチャー(Goodpasture’s)症候群腎炎、ウェゲナー肉芽腫症腎炎、急性間質性腎炎などの特発性間質性腎炎であってもよいが、これらに制限されない。
【0036】
図2図4で立証されたように、CHPは、線維化が誘導された近位尿細管上皮細胞で接合マーカーであるE-カドヘリンタンパク質の発現を回復させ、フィブロネクチンおよびpSTAT3タンパク質の発現を減少させることによって、根本的な抗線維化効果を示すので、線維化を誘導する原因に関係なく、様々な腎線維症を治療するのに適用できる。
【0037】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第2態様は、肝で発生する線維症である肝線維症に関する。
【0038】
本発明において用語「肝線維症(liver fibrosis)」は、肝の慢性損傷に伴って線維組織が増殖する症状を言い、慢性肝臓疾患、B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、D型肝炎ウイルス感染、住血吸虫症、アルコール性肝疾患または非アルコール性脂肪肝炎、代謝性疾患、タンパク質欠乏症、冠動脈疾患、自己免疫性肝炎、嚢胞性線維症、アルファ-1抗トリプシン欠乏症、原発性胆汁性肝硬変、薬物反応および毒素からなる群から選択されたいずれか一つ以上によるものを含んでもよいが、これらに制限されない。
【0039】
肝線維化は、肝硬変の前駆病変であって、慢性肝疾患を起こすひどい肝損傷の結果として色々なサイトカインと成長因子の作用によって始まる。一般的に、肝線維症は、可逆的であり、薄いフィブリル(thin fibril)から構成され、結節形成がなく、肝損傷の原因が一時的な場合、細胞死滅(apoptosis)過程とMMP(matrix metalloproteinases)により増加した細胞外基質(extracellular matrix,ECM)が分解されて正常回復が可能であるが、肝線維症の過程が繰り返して持続すると、厚いフィブリル(thick fibril)を形成し、結節のある肝硬変に進行される。また、様々な炎症誘発要因によって肝細胞が損傷して、コラーゲンを含む異常な細胞外基質タンパク質が蓄積される肝線維症の過程を通じて肝硬変が誘発され、肝硬変の発現調節のためには、細胞外基質の蓄積を調節することが重要である。肝細胞が損傷する場合の炎症反応は、休止期の肝星細胞を活性化させて細胞外基質と様々なサイトカイン(cytokine)およびケモカイン(chemokine)を分泌し、その中でTGF-β1は、強力な成長抑制剤の役割をする。TGF-β1は、25kDの物質として潜在的なTGF-β1結合タンパク質(latent TGF-β1 binding protein)と結合して不活性の潜在的な(inactive latent)形態で分泌され、1、4型膠原質、ラミニンおよびデコリン(decorin)などの細胞外基質と結合した状態で存在して、色々な刺激により活性化する。TGF-β1は、コラゲナーゼ(collagenase)の生産を減少したり、コラゲナーゼ抑制物質の生産を増加してコラーゲン発現を調節し、マクロファージにおいてTNF-α、IL-1およびPDGFなどの生産を増加させ、線維化過程に重要な役割をする。現在TGF-β1は、線維化が進行された部位のみで発現し、正常肝組織や非活動的な部位では発現しないので、肝線維化においてTGF-β1が重要な役割を担当していることが知られている。
【0040】
一方、非アルコール性脂肪肝は、飲酒と関係なく、肥満、糖尿病、高脂血症、薬物などの原因によって発病し、進行の経過によって炎症反応を伴わない単純脂肪肝(steatosis)と肝細胞の炎症反応(hepatocellular inflammation)を示す非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)、進行線維症(advanced fibrosis)および肝硬変(liver cirrhosis)まで含む広い範囲の疾患を意味する。
【0041】
非アルコール性脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease,NAFLD)は、現代社会の高脂肪および高熱量食の摂取による成人病の増加によって先進国を基準として成人の人口の20~30%が非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を示し、その中で2~3%が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に移行されることが報告されていると共に、特に、組織学的に線維化と炎症を伴う脂肪肝炎所見を示して、肝硬変、肝不全および肝癌に発展するリスクが非常に高まることになる。
【0042】
これによって、本発明の一実施例では、高脂肪食で誘導された肝線維化動物モデルを確立し、当該モデルでCHPがフィブロネクチンタンパク質の発現減少効果を示すことを確認した。
【0043】
脂肪肝は、それ自体で病的な状態ではなく、原因物質が除去されると、自然に回復する可逆的な症状である。しかしながら、肝組織に脂肪が過多に蓄積された状態が持続的に維持されると、脂肪肝炎が発生し、その結果、肝細胞の壊死と再生が繰り返して起こり、この過程で線維状の細胞外基質(Extracellular matrix,ECM)が増加して肝の線維化が進行される。肝損傷が一定の段階に達することになると、原因物質の種類と関係なく、ECMの蓄積量が増加することになり、持続的な肝細胞の破壊と再生の結果として再生結節(regenerative nodules)が形成されて、非可逆的な肝硬変(liver cirrhosis)に悪化することになる。
【0044】
したがって、本発明において肝線維症は、可逆的な症状である脂肪肝とは明確に区分される疾患であり、肝組織が再生結節などの線維化組織に変わって肝機能が低下するすべての疾患を指す。
【0045】
図5で立証されたように、CHPは、線維化が誘導された肝細胞において線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量を減少させ、図6で立証されたように、CHPは、肝線維化が誘導された動物モデルでフィブロネクチンタンパク質の発現を減少させることによって、根本的な抗線維化効果を示すので、線維化を誘導する原因に関係なく、様々な肝線維症だけでなく、肝硬変から進行された肝不全および肝癌を治療するのに適用できる。
【0046】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第3態様は、肺で発生する線維症である肺線維症に関する。
【0047】
線維症の中で、特に、肺線維症(Pulmonary fibrosis)は、肺組織の肺胞壁に慢性炎症細胞が浸透して組織線維化を誘導して、肺組織の深刻な構造的変異を起こす疾患をいう。いずれかの原因によってひとまず線維化が進行されると、肺組織が硬く固まって肺胞壁が厚くなって、血液による酸素供給量が減少することになり、これによって、呼吸が難しくなる。現在医学では、すでに線維化が進行された肺組織を完全に復旧できる治療方法がないので、線維化の進行初期に発見したり、または肺移植を除いたりすると、たいてい症状が発病してから3~5年後に患者が結局死に至る。
【0048】
具体的に、本発明において用語「肺線維症」は、肺における過度な線維性連結組織の形成または発達(線維症)によって、傷跡ができた(線維性)組織の発達を意味する。具体的に、肺線維症は、肺胞および肺の間質性組織の膨潤および傷跡を誘発する慢性疾患である。このような傷跡組織が健康な組織に代わって炎症を誘発し、慢性炎症は、線維症の前兆と把握できる。このような肺組織の損傷によって肺が硬くなり、個体が自己呼吸が難しくなることがある。
【0049】
本発明において肺線維症は、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、放射線誘発性肺損傷(Radiation-induced lung injury)、非特異性間質性肺炎(Nonspecific Interstitial Pneumonia)、急性間質性肺炎(Acute Interstitial Pneumonia)、特発性器質化肺炎(Cryptogenic Organizing Pneumonia)、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎(Respiratory Bronchiolitis associated Interstitial Lung)、剥離性間質性肺炎(Desquamative Interstitial Pneumonia)、リンパ球様間質性肺炎(Lymphoid Interstitial Pneumonia)、間質性肺線維症およびびまん性肺線維症、肺浮腫、嚢胞性線維症および代謝性疾患による肺線維症からなる群から選択されるいずれか一つ以上を含んでもよいが、これらに制限されない。
【0050】
前記肺線維症は、様々な原因、例えば微細粒子(石綿、石粉、金属粉塵、タバコの煙に存在する粒子、シリカ粉塵など)の吸入によって誘導される肺の微細損傷により発病できる。また、肺線維症は、他の病気(自己免疫疾患、ウイルスまたはバクテリア感染など)の副次的な影響によって発生でき、細胞毒性製剤(ブレオマイシン、ブスルファンおよびメトトレキサートなど);抗生剤(ニトロフラントインおよびスルファサラジンなど);不整脈治療剤(アミオダロンおよびトカイニドなど);抗炎症薬物(金およびペニシラミンなど);不法薬物(麻薬、コカインおよびヘロインなど)のような特定薬物により誘発でき、前記特発性肺線維症の場合には、このような原因以外の他の不明の原因によって現れるものであってもよい。また、長期間の高脂肪食の摂取は、肺線維化を誘導し、これは、高脂肪食の摂取による炎症数値の増加によるものと見られる。
【0051】
図7で立証されたように、CHPは、線維化が誘導された肺細胞において線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量を減少させ、図8で立証されたように、CHPは、肺線維化が誘導された動物モデルで主な線維化マーカーであるTGFβおよびCollagen 3遺伝子の発現を減少させることによって、根本的な抗線維化効果を示すので、線維化を誘導する原因に関係なく、様々な肺線維症を治療するのに適用できる。
【0052】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第4態様は、皮膚線維症に関する。
【0053】
本発明において用語「皮膚線維症」は、皮膚の過度な傷痕であり、病理学的創傷治癒反応の結果である。広範囲な線維性皮膚疾患がある:強皮症、腎性線維化性皮膚症、混合性結合組織病、硬化性粘液水腫、硬化性水腫、および好酸球性筋膜炎、化学物質や物理的作用剤(機械的外傷、火傷)に対する露出は、また、線維性皮膚疾患の潜在的な原因である。皮膚線維症は、免疫、自己免疫および炎症機序により主導できる。線維芽細胞のコラーゲン生成および分解の均衡は、皮膚線維症の病態生理過程で重要な役割をする。形質転換成長因子-β(TGB-β)およびインターロイキン-4(IL-4)のような特定のサイトカインは、創傷治癒および線維化を促進する。正常皮膚の線維芽細胞は停止している。これらは、結合組織タンパク質の量を制御し、低い増殖活性を有する。皮膚損傷後、このような細胞は活性化し、すなわち、これらはα-平滑筋アクチン(α-SMA)を発現し、多量の結合組織タンパク質を合成する。活性化した細胞は、筋肉線維芽細胞と呼ばれることが多い。
【0054】
本発明において用語「皮膚線維症」は、また、「皮膚硬化症(scleroderma)」を含むことを意味する。
【0055】
皮膚硬化症は、真皮内に膠原質の過多蓄積によって皮膚の一部分または全身の皮膚が硬くなり、厚くなる硬化性変化と血管系異常を特徴とする原因未詳の慢性自己免疫結合組織疾患の一つである。膠原質(Collagen:コラーゲン)は、結合組織を構成して身体の組織を支持し連結する役割をする。皮膚硬化症は、いくつかの形態があるが、身体の特定部位にのみ症状が現れる形態もあり、内臓器官をはじめとして身体全体に現れる形態もある。すなわち、皮膚の一部分のみが硬くなる限局性皮膚硬化症(localized scleroderma)と、皮膚だけでなく、肺、消化器、腎臓と心臓などの内部臓器においても膠原質の増加による線維症状を示す全身性硬化症(systemic scleroderma)とに分けられる。全身性硬化症は、さらに、皮膚と内部臓器の侵犯程度、予後、免疫学的検査所見によって制限型と広範囲型とに分類される。
【0056】
本発明の皮膚線維症の予防、改善または治療用途において、皮膚線維症は、瘢痕、肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕、限局性皮膚硬化症および全身性硬化症からなる群から選択されるいずれか一つ以上を含んでもよいが、これらに制限されない。
【0057】
皮膚硬化症の原因は、まだ明らかにされていないが、組織の線維化が重要な役割をすると考えられる。
【0058】
皮膚硬化症の初期症状は、非常に多様に現れるが、特に後半期には皮膚症状が明確になる。皮膚硬化症の共通の症状としては、関節痛、朝方の硬直感、疲労、そして体重減少がある。また、寒いところに露出すると、手指、足指、鼻、そして耳に血液供給が一時的に制限される。このような症状は、皮膚硬化症患者の初期症状であり、しばしば現れる症状の一つである。皮膚硬化症を有する患者は、皮膚が固くなる。このように皮膚が固くなる現象が広く広がって典型的に身体の両側に生じる。結局、組織が損傷し、皮膚に色素が沈着される。
【0059】
「限局性皮膚硬化症(localized scleroderma)」は、限局性は、女性が男性より2.6倍好発する。限局性は、20~50歳の間に75%の患者が発生し、線状皮膚硬化症の場合、もっと早い年齢に発生する傾向を示す。限局性皮膚硬化症は、限局性皮膚硬化症、全身限局性皮膚硬化症、線状限局性皮膚硬化症または皮下限局性皮膚硬化症に分類される。
【0060】
限局性皮膚硬化症は、頻繁に紅斑または赤紫色斑から始まって、周囲の正常皮膚と境界が明確になり、一定部位の皮膚が弾力性を失って固くなる。その部位は、茶色を帯びるか、多くの場合、脱色されて、白色を帯びることになる。多くの場合、一ヶ所に発生するが、複数個が発生する場合もあり、サイズは非常に多様で、コインのサイズから成人の手のひらのサイズに達することがある。美容的な問題を招くが、全身性硬化症に進行しない。一部の患者では、治療をしなくても、硬い皮膚がやわらかくなって、自ずから回復することもある。
【0061】
全身限局性皮膚硬化症は、限局性皮膚硬化症のひどい形態であって、広い部位の皮膚が固くなり、過多色素沈着が観察される場合である。胴、臀部、足の皮膚が広範囲に固くなる。しかしながら、レイノー(Raynaud)現象、内部臓器侵犯症状がないので、全身性硬化症とは区別される。
【0062】
線状限局性皮膚硬化症は、皮膚が線状に長くかつ固くなる場合であって、足、腕、額、胸部の順に頻繁に発生し、特に額に垂直線状に陥没して発生した場合をサーベル状切痕(en coup de sabre)と言い、美容的な問題を誘発する。限局性皮膚硬化症とは異なって、線状皮膚硬化症は、皮膚だけでなく、その下部の筋肉、骨膜組織まで侵して下部組織に固定される。小児で発生頻度が高く、時には、腕と足および顔に骨格のひどい発育異常を誘発できる。
【0063】
皮下限局性皮膚硬化症は、脂肪層、筋膜、筋肉、そして、時には、骨の硬化症が現れ、関節運動に制限がありえる。病変が深部に現れるので、皮膚硬化症の特徴的な皮膚色素変化は観察されない。
【0064】
全身性硬化症(systemic scleroderma)は、女性が男性より4倍程度頻繁に発生し、いずれの年齢帯でも発生できるが、一般的に30~50歳の間に多く発生する。広範囲型の場合、制限型に比べてさらに少ない年齢に発生することが知られている。レイノー現象は、全身性硬化症で最も早く現れる症状であり、まもなく皮膚と内部臓器に硬化症状が始まる。全身性硬化症は、皮膚症状と内部臓器症状に分類される。
【0065】
全身性硬化症において、初めての皮膚症状は、指と手から始まる。初めには、レイノー現象のみが現れ、指と手が腫れ、硬くなり、赤く変わる。次第に皮膚が固くなり、腕、顔に広がり、広範囲型の場合、胴を含む全身皮膚が持続的に固くなる。顔に硬化症が生じると、全般的にシワがなくなり、表情が作りづらくなる。鼻のとがりが目立つようになり、口が開きづらくなり、唇が薄くなり、口の周囲に放射状にシワが発生して高齢者の口のように変わる。関節の運動が制限されて、手を最後まで握ることができず、指が曲がったまま伸ばしづらくなる手足の指の硬化症を示す。手の指先と関節には、痛みがひどく、よく治らない潰瘍が発生する。
【0066】
広範囲な過多色素沈着と局所的な性色素沈着低下が現れ、侵犯された部位に脱毛と汗分泌が低下する。毛細血管拡張が顔と上胴に丸い斑点の形態で現れたり、爪のシワの周囲に観察されたりする。レイノー病がある患者において爪のシワの毛細血管に異常があると、以後に全身性硬化症が発生できるので、毛細血管の変化は、予後の決定に重要である。皮膚石灰化が観察でき、指関節の周辺に比較的頻繁に発生する。
【0067】
内部臓器症状として、消化管、肺、心臓または腎臓で発生する。消化管中、食道は、最も頻繁に侵犯される部位であって、90%以上で侵犯される。食道の蠕動運動障害、嚥下困難と逆流性食道炎が頻繁に発生する。小腸運動の低下によって便秘、下痢、吸収障害などの症状が現れる。全身性硬化症患者が死ぬ最も重要な原因は、肺症状によるものであり、約70%の患者で発生する。肺の線維化によって運動時の呼吸困難、息苦しさが生じる。肺胞炎が頻繁に発生して持続的に肺機能が低下する。心臓における症状としては、心臓伝導障害、心不全、心臓膜炎が現れ、心筋の硬化症は50~70%の患者に現れる。腎臓における症状は、全身性硬化症患者の約45%で発生する。突然発生する急性腎不全、高血圧などで現れ、徐々に進める尿毒症が発生することもできる。
【0068】
したがって、本発明の皮膚線維症の予防、改善または治療用途において、皮膚線維症は、制限なく、血管と静脈、顎下腺管(ducts of submandibular)、胆嚢、甲状腺濾胞、汗管、卵巣、腎臓のような器官または腺(gland)の内部空洞;歯ぐき、舌、口蓋、鼻、喉頭、食道、胃、腸、直腸、肛門および膣の上皮細胞;真皮、瘢痕、皮膚および頭皮をはじめとする任意の皮膚組織と上皮細胞の線維症を包括する。
【0069】
図9で確認されたように、CHPは、線維化が誘導された皮膚細胞において線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量を減少させることによって、根本的な抗線維化効果を示すので、線維化を誘導する原因に関係なく、様々な皮膚線維症(皮膚硬化症)を治療するのに適用できる。
【0070】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第5態様は、心臓で発生する線維症である心臓線維症に関する。
【0071】
本発明において用語「心臓線維症(cardiac fibrosis)」は、心臓細胞の間に基質タンパク質が過度に沈着されて心臓が固く固まる現象であって、心筋梗塞患者の心臓で主に現れ、心臓の機能が減少する主原因現象を言い、心内膜心筋線維症(Endomyocardial Fibrosis)、心房線維化(Atrial Fibrosis)、心不全、心筋梗塞および代謝性疾患による心臓線維症からなる群から選択されるいずれか一つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0072】
線維症は、心筋細胞の死滅後に発生する線維化コラーゲンの不均衡的な蓄積、炎症、増加した作業負荷、肥大および多数のホルモン、サイトカインおよび成長因子による刺激を特徴とする。
【0073】
心臓線維症は、また、心臓線維芽細胞の不均衡的増殖によって心臓弁膜の異常濃縮を意味するが、より一般的には、心臓筋肉の線維芽細胞の増殖を意味する。線維細胞(Fibrocyte cells)は、一般的にコラーゲンを分泌し、心臓に対する構造的支持を提供する作用をする。過度に活性化すると、この過程は、弁膜の濃縮と線維症の原因となる。
【0074】
心臓の線維化は、心不全および心筋梗塞の主な原因であるから、用語「心臓線維症」は、心臓線維化によって誘発される心不全および/または心筋梗塞を包括すると解される。
【0075】
図10で確認されるように、CHPは、心臓線維化が誘導された動物モデルで主な線維化マーカーであるFibronectin、Collagen 1、Collagen 2、Collagen 3およびCollagen 4遺伝子の発現を減少させることによって根本的な抗線維化効果を示すので、原因に関係なく、様々な心臓線維症の治療に有用である。
【0076】
本発明の組成物の線維症の予防、改善または治療用途において、第6態様は、脂肪線維症に関する。
【0077】
本発明において用語「脂肪線維症」は、脂肪組織に線維化が発生したすべての疾患を包括することを意味する。
【0078】
正常マウスに60%脂肪含有高脂肪食を16~24週間摂取させたとき、脂肪組織の線維化が現れるという報告がある(Hu,M et al.,Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,1-12,2018;Kwon,E.Y.,& Choi,M.S.,Nutrients,10(10),1415,2018;Nakazeki,F et al.,Scientific Reports,8(1),2018;Muniappan,L et al.,Scientific Reports,7(1),2017;Lancha,A et al.,PLoS ONE、9(5),e98398,2014;Velαzquez,K.T et al.,Physiological Reports,5(18),e13412,2017;Wang,L.,Ye,X.,Hua,Y.,& Song,Y.,Biomedicine & Pharmacotherapy,105,121-129,2018)。
【0079】
これより、本発明者らは、高脂肪食で誘導された脂肪線維化動物モデルを確立した後、CHP投与による線維化マーカーTGFβ、Fibronectin、Collagen 3およびCTGF遺伝子の発現変化を確認した。その結果、図11で確認されるように、CHPは、前記線維化マーカーの発現を顕著に減少させることによって抗線維化効果を示すので、脂肪線維症の治療に有用である。
【0080】
以上のように、本発明では、線維化が誘導された様々な組織細胞および動物モデルでCHPが様々な線維化マーカー遺伝子またはタンパク質の発現を減少させることによって抗線維活性を示すことを確認したところ、腎臓、肝、肺、皮膚、心臓、すい臓、泌尿器系、生殖器系、汗腺、神経、脳、骨髄、筋肉および関節をはじめとする身体内様々な組織および/または器官で発生する線維症の予防、改善または治療に効果的に適用できることを予想できる。
【0081】
本発明の線維症の予防、改善または治療用組成物において、用語「予防」、「改善」および/または「治療」は、病気または病症の発病を抑制したり遅延させたりするすべての行為、病気または病症状態を好転または有益に変更するすべての行為、および病気または病症の進行を遅延、中断または逆転させるすべての行為を意味する。
【0082】
本願で、用語「薬学的に許容可能な」は、生理学的に許容され、ヒトに投与されるとき、通常、アレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさないことを言い、前記塩としては、薬剤学的に許容可能な遊離酸(free acid)により形成された酸付加塩が好ましい。
【0083】
前記薬剤学的に許容可能な塩は、有機酸または無機酸を用いて形成された酸付加塩であってもよく、前記有機酸は、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、トリフルオロ酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸モノアミド、グルタミン酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、アントラニル酸、ジクロロ酢酸、アミノオキシ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸を含む。無機酸は、例えば塩酸、臭素酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸またはホウ酸を含む。酸付加塩は、好ましくは、塩酸塩または酢酸塩の形態であってもよく、より好ましくは、塩酸塩の形態であってもよい。
【0084】
その他にも、更に塩が可能な形態は、ガバ塩、ガバペンチン塩、プレガバリン塩、ニコチン酸塩、アジペート塩、ヘミマロン酸塩、システイン塩、アセチルシステイン塩、メチオニン塩、アルギニン塩、リシン塩、オルニチン塩またはアスパルト酸塩などがある。
【0085】
また、本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体は、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体、マグネシウムステアレート、ステアリン酸などを含んでもよい。非経口投与用担体は、水、好適なオイル、食塩水、水性グルコースおよびグリコールなどを含んでもよい。また、安定化剤および保存剤をさらに含んでもよい。好適な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチルまたはプロピルパラベンおよびクロロブタノールがある。その他の薬学的に許容される担体としては、下記の文献に記載されているものを参考にすることができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences,19th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PA,1995)。
【0086】
本発明の薬学組成物は、ヒトを始めとする哺乳動物にいかなる方法でも投与できる。例えば、経口または非経口で投与でき、非経口的な投与方法としては、これらに制限されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸内投与であってもよい。
【0087】
本発明の薬学組成物は、上述したような投与経路に沿って経口投与用または非経口投与用製剤に剤形化できる。剤形化する場合には、一つ以上の緩衝剤(例えば、食塩水またはPBS)、カーボハイドレイト(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストランなど)、抗酸化剤、静菌剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、充填剤、増量剤、結合剤、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキシド)、懸濁剤、濃厚剤、湿潤剤、崩解剤または界面活性剤、希釈剤または賦形剤を使用して調製できる。
【0088】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液またはカプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の薬学組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、デンプン(とうもろこしデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプンなどを含む)、カルシウムカーボネート(Calcium carbonate)、スクロース(Sucrose)、ラクトース(Lactose)、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはゼラチンなどを混ぜて調製できる。例えば、活性成分を固体賦形剤と配合した後、これを粉砕し、好適な補助剤を添加した後、顆粒混合物に加工することによって、錠剤または糖衣錠を収得できる。
【0089】
単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤またはシロップ剤などが該当するが、頻用される単純希釈剤である水またはリキッドパラフィン以外に、色々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤または保存剤などが含まれ得る。
【0090】
また、場合によって架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどを崩解剤として添加でき、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤および防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0091】
非経口的に投与する場合、本発明の薬学組成物は、好適な非経口用担体とともに注射剤、経皮投与剤および鼻腔吸入剤の形態で当業界に公知となった方法によって剤形化できる。前記注射剤の場合には、必ず滅菌しなければならないし、バクテリアおよび真菌のような微生物の汚染から保護しなければならない。注射剤の場合、好適な担体の例としては、これらに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、これらの混合物および/または植物油を含む溶媒または分散媒質であってもよい。より好ましくは、好適な担体としては、ハンクス溶液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)または注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコールおよび5%デキストロースのような等張溶液などを使用できる。前記注射剤を微生物の汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどのような様々な抗菌剤および抗真菌剤をさらに含んでもよい。また、前記注射剤は、多くの場合、糖またはナトリウムクロリドのような等張剤をさらに含んでもよい。
【0092】
経皮投与剤の場合、軟こう剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、パスタ(paste)剤、リニメント剤、エアロゾル剤などの形態が含まれる。前記で「経皮投与」は、薬学的組成物を局所的に皮膚に投与して、薬学的組成物に含有された有効な量の活性成分が皮膚内に伝達されることを意味する。
【0093】
吸入投与剤の場合、本発明によって使用される化合物は、好適な推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を使用して、加圧パックまたは煙霧機からエアロゾルスプレーの形態で便利に伝達できる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を伝達するバルブを提供して決定することができる。例えば、吸入器または吹込み機に使用されるゼラチンカプセルおよびカートリッジは、化合物、およびラクトースまたはデンプンのような好適な粉末基剤の粉末混合物を含有するように剤形化できる。非経口投与用剤形は、すべての製薬化学に一般的に公知となった処方書である文献(Remington’s Pharmaceutical Science,15th Edition,1975.Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania 18042,Chapter 87:Blaug,Seymour)に記載されている。
【0094】
本発明の薬学的組成物は、シクロ-ヒスプロを有効量で含む場合、好ましい線維症の予防、改善または治療効果を提供できる。本願において、用語「有効量」は、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量を言い、好ましくは、線維症を予防、改善または治療するのに十分な量をいう。本発明の薬学的組成物にシクロ-ヒスプロが0.01~99.9%含まれてもよく、残量は、薬学的に許容可能な担体が占めることができる。本発明の薬学的組成物に含まれるシクロ-ヒスプロの有効量は、組成物が製品化される形態などによって変わる。
【0095】
本発明の薬学的組成物の総有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与でき、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)によって投与できる。本発明の薬学組成物は、疾患の程度によって有効成分の含量を異ならせることができる。例えば、シクロ-ヒスプロを基準として一日に体重1kg当たり好ましくは0.001~100mg、さらに好ましくは、0.01~10mgの量で投与されるように、1~数回に分けて投与できる。しかしながら、前記シクロ-ヒスプロの用量は、薬学的組成物の投与経路および治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食事および排泄率など様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されることであるから、このような点を考慮して、当該分野における通常の知識を有する者なら前記シクロ-ヒスプロを線維症の予防、治療または改善のための特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定できる。本発明による薬学組成物は、本発明の効果を示す限り、その剤形、投与経路および投与方法に特に制限されない。
【0096】
本発明の線維症の予防または治療用薬学的組成物は、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療または生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用できる。
【0097】
本発明の線維症の予防または治療用薬学的組成物は、また、シクロ-ヒスプロを含む外用剤の剤形で提供できる。このような態様において、本発明の組成物は、線維症の予防または改善用医薬部外品組成物および前記組成物を含む医薬部外品であってもよい。
【0098】
前記外用剤は、皮膚または口腔内に直接適用できる。本発明の線維症の予防または治療用薬学組成物を外用剤として使用する場合、さらに脂肪物質、有機溶媒、溶解剤、濃縮剤およびゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤(foaming agent)、芳香剤、界面活性剤、水、イオン型乳化剤、非イオン型乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート化剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、エッセンシャルオイル、染料、顔料、親水性活性剤、親油性活性剤または脂質小胞など皮膚外用剤に通常的に使用される任意の他の成分のような皮膚科学分野において通常的に使用される補助剤を含有できる。また、前記成分は、皮膚科学分野において一般的に使用される量で導入できる。
【0099】
本発明の組成物が外用剤として提供される場合、これらに制限されるものではないが、液剤、軟膏、パッチ、ゲル、クリームまたは噴霧剤などの剤形であってもよい。本発明の一実施例によれば、本発明の医薬部外品は、歯磨き粉、液体歯磨きおよびマウススプレーを含む口腔管理製品、軟こう剤、マスク、湿布剤、貼付剤および経皮吸収剤などを含んでもよい。
【0100】
本発明の組成物を医薬部外品組成物として使用する場合、シクロ-ヒスプロをそのまま添加したり、他の医薬部外品成分と共に通常の方法によって適切に使用できたりする。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)によって適合するように決定できる。
【0101】
本発明の医薬部外品組成物および医薬部外品については、本発明の薬学的組成物および健康機能食品組成物の内容が準用できる。
【0102】
本発明において、用語「健康機能食品」は、「機能性食品」および「健康食品」の意味を全部含む。
【0103】
本発明において、用語「機能性食品(functional food)」は、特定保健用食品(food for special health use,FoSHU)と同じ用語であって、栄養供給の他にも、生体調節機能が効率的に現れるように加工された医学、医療効果の高い食品を意味する。
【0104】
本発明において用語「健康食品(health food)」は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進効果を有する食品を意味し、健康補助食品(health supplement food)は、健康補助目的の食品を意味する。場合によって、機能性食品、健康食品、健康補助食品の用語は混用される。前記食品は、肝機能の改善および回復に有用な効果を得るために、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの様々な形態で製造できる。
【0105】
このような機能性食品の具体的な例として、前記組成物を用いて農産物、畜産物または水産物の特性を生かして変形させると同時に、貯蔵性を良くした加工食品を製造できる。
【0106】
本発明の健康機能食品組成物は、また、栄養補助剤(nutritional supplement)、食品添加剤(food additives)および飼料などの形態で製造でき、ヒトまたは家畜を始めとする動物を取食対象とする。
【0107】
前記類型の食品組成物は、当業界に公知となった通常の方法によって様々な形態で製造できる。一般食品としては、これらに限定されないが、飲料(アルコール性飲料を含む)、果実およびその加工食品(例:果物缶詰、瓶詰、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類およびその加工食品(例:ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類および麺類(例:うどん、ソバ、ラーメン、スパゲティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例:バター、チイズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性タンパク質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例:味噌、醤油、ソースなど)などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0108】
また、栄養補助剤としては、これらに限定されないが、カプセル、タブレット、丸剤などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0109】
また、健康機能食品としては、これらに限定されないが、例えば、前記シクロ-ヒスプロをお茶、ジュースおよびドリンクの形態で製造して飲用(健康飲料)できるように、液状化、顆粒化、カプセル化および粉末化して摂取することができる。また、前記シクロ-ヒスプロを食品添加剤の形態で使用するためには、粉末または濃縮液の形態で製造して使用できる。また、前記シクロ-ヒスプロと線維症の予防または改善に効果があると知られた公知の活性成分と共に混合して組成物の形態で製造できる。
【0110】
本発明の食品組成物が健康飲料組成物として用いられる場合、前記健康飲料組成物は、通常の飲料のように、色々な香味剤または天然炭水化物などを更なる成分として含有できる。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド;マルトース、スクロースのようなジサッカライド;デキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド;キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールであってもよい。甘味剤は、ソーマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤;サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用できる。前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100mL当たり、一般的に約0.01~0.04g、好ましくは、約0.02~0.03gである。
【0111】
シクロ-ヒスプロは、線維症の予防または改善用食品組成物の有効成分として含有でき、その量は、前記予防または改善効果を得るのに有効な量であって、例えば全体組成物の総重量に対して0.01~100重量%であることが好ましいが、これに特に限定されるものではない。本発明の食品組成物は、シクロ-ヒスプロとともに線維症の予防または改善に効果があると知られた他の活性成分と共に混合して製造できる。
前記の他に、本発明の健康機能食品は、色々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸、ペクチン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコールまたは炭酸化剤などを含有できる。その他、本発明の健康食品は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料、または野菜飲料の製造のための果肉を含有できる。このような成分は、独立して、または混合して使用できる。このような添加剤の割合は、大きく重要なことではないが、本発明の組成物100重量部当たり0.01~0.1重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0112】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む、線維症を予防または治療する方法に関する。
【0113】
本発明の方法において、用語「個体」は、任意の動物(例えば、ヒト、馬、豚、ウサギ、犬、羊、ヤギ、非ヒト霊長類、牛、猫、ギニアピッグまたはげっ歯類)を含むが、これらに限定されない。このような用語は、特定の年齢または性別を示さない。したがって、女性/雌性、男性/雄性、成人/成体および新生対象体だけでなく、胎児が含まれるように意図される。患者は、疾患または障害にかかった対象体を指す。患者という用語は、ヒトおよび獣医学対象体を含む。
【0114】
本発明の方法において、CHPの効果およびその投与経路、投与回数、投与量などを含む構成に関する説明は、前述した通りであるので、その記載を省略する。
【0115】
本発明は、また、線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供する。
【0116】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、本発明は、様々な変更を加えることができ、色々な形態を有することができるところ、以下で記述する特定の実施例および説明は、本発明の理解を助けるためのものに過ぎず、本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではない。本発明の範囲は、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
【発明の実施のための形態】
【0117】
[準備例]
下記実施例で使用したCHP(シクロ-ヒスプロ)は、バッケム社から購入して使用した。
【0118】
[実施例1]
CHP処理による人体由来近位尿細管上皮細胞における抗線維効果の確認
1-1.人体由来近位尿細管上皮細胞の分離および培養
図1に示されたように、正常な成人の腎臓組織から糸球体および尿細管間質組織を分離し、これを初代培養することによって、細胞実験に活用可能な人体由来糸球体内皮細胞および人体由来近位尿細管上皮細胞を純粋分離および培養した。
【0119】
1-2.人体由来近位尿細管上皮細胞の線維化モデルでCHP処理後に細胞学的形態の観察
前記実施例1-1で分離および初代培養された人体由来近位尿細管上皮細胞に組換えTGFβ(2ng/ml)を処理して細胞線維化を誘導することによって、細胞骨格リモデリング(cytoskeletal remodeling)と形態学的変化(細くて長くなり、構造が消える)が発生して、線維化が適切に誘導されたことを確認した(図2)。
【0120】
以後、様々な濃度のCHP(4、20および100μg/ml)を処理したとき、線維化が好転することを細胞形態学的に確認した(図2)。
【0121】
1-3.人体由来近位尿細管上皮細胞の線維化モデルでCHP処理後にE-カドヘリン(E-cadherin)、フィブロネクチン(fibronectin)およびpSTAT3タンパク質発現の確認
前記実施例1-2と同様の条件で、CHP投与後に接合マーカー(junction marker)であるE-カドヘリン、線維化マーカーであるフィブロネクチンおよび線維化転写因子であるpSTAT3タンパク質の発現レベルをウェスタンブロットで確認した。
【0122】
その結果、図3に示されたように、CHP投与によってE-カドヘリンのタンパク質発現が回復し、フィブロネクチンおよびpSTAT3タンパク質発現が減少することを確認した。
【0123】
[実施例2]
CHPによる人体由来糸球体内皮細胞における抗線維効果の確認
人体由来糸球体内皮細胞の線維化モデルでCHP処理後に細胞学的形態の観察
前記実施例1-1の人体由来近位尿細管上皮細胞の線維化モデルと同様に、rTGFβ(2ng/ml)を処理して糸球体内皮細胞で細胞線維化を誘導することによって、細胞骨格リモデリング(cytoskeletal remodeling)と形態学的変化が発生して、線維化が適切に誘導されたことを確認した(図4)。
【0124】
以後、様々な濃度のCHP(40および100μg/ml)を処理したとき、線維化が好転することを細胞形態学的に確認した(図4)。
【0125】
以上の結果を通じて、腎線維症に対するCHPの優れた治療効果を確認できた。
【0126】
[実施例3]
CHP処理によるヒト由来肝細胞における抗線維効果の確認
3-1.ヒト由来肝細胞の培養および線維化誘導後にCHP処理
Huh7肝細胞株の培養のために、Hyclone社からDMEM培地とFBSを購入し、線維化誘導のためのTGFβは、R&D systems社から購入した。10%FBSを添加したDMEM培地で37℃で5%COインキュベーターで培養し、TGFβを2ng/mlの濃度になるように処理すると同時に、CHPを0、62.5、125、250ng/mlになるように処理し、処理48時間目に細胞を回収した。
【0127】
3-2.ヒト由来肝細胞線維化モデルでCHP処理後に線維化マーカーフィブロネクチン(fibronectin)タンパク質発現の確認
線維化タンパク質であるフィブロネクチン(Fibronectin)タンパク質発現分析のために、Thermo社のRIPA溶解バッファー(lysis buffer)とHaltTMプロテアーゼ(Protease)およびホスファターゼ(Phosphatase)阻害剤カクテルを購入し、タンパク質定量のためには、Thermo社のBCAタンパク質定量キットを購入した。ウェスタンブロットは、Thermo社のBoltTMタンパク質ゲル電気泳動システムとBio-rad社のWetトランスファーシステムを準備した。肝線維症マーカーであるフィブロネクチンタンパク質の抗体とローディングコントロールとして使用されるGAPDH抗体は、Abcam社から購入した。回収したHuh7細胞にプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤が添加されたRIPAバッファー100μlを入れ、ピペッティングで細胞を溶解させた。10分間氷に放置させた後、4℃で15,000rpmで10分間遠心分離した。上澄み液を集めて、BCA定量法でタンパク質の濃度を測定し、同量のサンプルをBoltTMタンパク質ゲル電気泳動システムを用いてタンパク質を分離させ、ニトロセルロースメンブレン(Nitrocellulose membrane)に移した。メンブレンは、5%スキムミルク(skim milk)で常温で1時間遮断(blocking)を進めた後、1次抗体であるフィブロネクチンおよびGAPDH抗体と4℃で一晩中(overnight)反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗った後、2次抗体と常温で1時間反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗った後、ECLで反応させて、発現程度を測定した。現れるバンドのサイズは、ImageJプログラムを用いて定量し、フィブロネクチンバンドのサイズ値をGAPDHバンドのサイズ値で割って補正した。統計的有意性は、対照群とのスチューデントt-検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した。#p<0.05(陰性対照群:TGFβ処理対照群)。
【0128】
実験結果、図5のaおよびbに示されたように、TGFβ処理によって増加する線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量が、TGFβとともにCHP 250ng/mlを処理したとき、減少する傾向が現れたことを確認した。これを通じて、肝細胞株であるHuh7細胞においてCHPが線維化を改善させることができることを確認できた。
【0129】
[実施例4]
CHP投与による肝線維化動物モデルにおける抗線維効果の確認
長期間の高脂肪食の摂取は、肝線維化を誘発するリスク要素と知られている。脂肪食を長期間摂取時に現れるインスリン抵抗性と増加した血中脂肪酸、アディポカイン、サイトカインによって肝組織に炎症環境が誘発され、肝組織に蓄積された免疫細胞の相互作用は線維化を進行させるが、特に、Th2 CD4+ T細胞が分泌するIL-13サイトカインが、マクロファージから線維化の核心誘発因子であるTGFβを多量生成させる。TGFβによるシグナル伝達は、肝組織内細胞の変形を引き起こし、線維化の進行を促進する(Rosselli,M et al.,Current Pharmaceutical Design,20(31),5010-5024,2014;Wu.D et al.,Science,332:243-7,2011;J Investig Med,60(8):1147-1150,2012;Fichtner-Feigl S et al.,Nat Med,12:99-106,2006;Lee CG et al.,J Exp Med,194:809-21,2001)。
【0130】
正常マウスに60%脂肪含有高脂肪食を10~16週間摂取させたとき、肝線維化が観察され、代表的な線維化マーカータンパク質であるフィブロネクチンの発現を通じて確認が可能である(Kim,I.H et al.,AGE,38(4),291-302,2016;Chen,H.J.,& Liu,J.,Biomedicine & Pharmacotherapy,97,1386-1396,2018.1-2)。
【0131】
4-1.実験動物の設計および肝線維化の誘導
動物における肝線維症の実験のために、米国のJackson社から6週間60%脂肪含有高脂肪食を摂取した12週齢のC57BL/6マウスを購入し、60%脂肪含有高脂肪食の飼料は、Research diets D12492をセロンバイオ社から購入して17週間摂取させた。マウスは、24±3℃の環境で飼料と水に自由に接近が可能に飼育した。6週間高脂肪食を摂取したC57BL/6マウスを1週間飼育環境に適応させ、体重を測定して、表1のように均等に3グループに分けた。CHPは、5mg/kgまたは35mg/kgの濃度で各グループに1日に1回、16週間経口投与し、対照群には、同量の蒸留水を同一の方法で経口投与した。
【0132】
【表1】
【0133】
4-2.CHPを投与した肝線維化動物モデルで線維化マーカーフィブロネクチンタンパク質発現の確認
マウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの肝組織の分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、肝組織を直ちに摘出してPBSで洗浄した後、肝組織を50mg切り出して、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤が添加されたRIPAバッファー500μlに入れ、IKA社のT10ホモジナイザー(homogenizer)を用いて粉砕した。15分間氷に放置させた後、4℃で15,000rpmで遠心分離した。線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質発現の分析のために、実施例3-2と同一の方法でウェスタンブロットを実施した。統計的有意性は、HFD対照群とのスチューデントt-検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した(*p<0.05、**p<0.01)。
【0134】
実験結果、図6のaおよびbに示されたように、代表的な線維症マーカーであるフィブロネクチンタンパク質の発現量がCHP投与群において有意に減少したことを確認でき、CHPの濃度によって効果が強くなることを確認した。これは、CHPが肝線維化を改善させるという意味であり、肝線維症の治療に適用できる明確な根拠である。
【0135】
[実施例5]
CHP処理によるヒト由来肺細胞における抗線維効果の確認
5-1.ヒト由来肺細胞の培養および線維化誘導後にCHP処理
L-132肺細胞株の培養のために、Hyclone社からMEM培地とFBSを購入し、線維化誘導のためのTGFβは、R&D systems社から購入した。10%FBSを添加したMEM培地で37℃、5%COインキュベーターで培養し、TGFβを2ng/mlの濃度になるように処理すると同時に、CHPを0、62.5または125ng/mlになるように処理し、処理48時間目に細胞を回収した。
【0136】
5-2.ヒト由来肺細胞線維化モデルでCHP処理後に線維化マーカーフィブロネクチン(Fibronectin)タンパク質発現の確認
線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質発現の分析のために、実施例3-2と同一の方法でウェスタンブロットを実施した。統計的有意性は、対照群とのスチューデントt-検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した(#p<0.05(陰性対照群:TGFβ処理対照群)、**p<0.01(TGFβ処理対照群:CHP 125ng/ml処理群))。
【0137】
実験結果、図7のaおよびbに示されたように、TGFβ処理によって増加する線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量が、TGFβとともにCHP 125ng/mlを処理したとき、有意に減少したことを確認できた。肺細胞株であるL-132細胞においてCHPが線維化を改善させた当該結果を通じて、CHPが肺線維症に対する優れた治療効果を示すことを確認できた。
【0138】
[実施例6]
CHP投与による肺線維化動物モデルにおける抗線維効果の確認
長期間の高脂肪食の摂取によって肺線維化が発生する。これは、高脂肪の摂取による炎症数値の増加によるものと見られるが、正常マウスに60%脂肪含有高脂肪食を15週間摂取させたとき、肺線維化が現れた報告がある(Ge,X.N et al.,Experimental Lung Research、39(9),365-378,2016)。具体的に、高脂肪食の長期間摂取は、肥満を誘導し、肥大化した脂肪組織とこちらに集まった免疫細胞が分泌するアディポカインとサイトカインは、骨髄から肺への免疫細胞の移動をかく乱させ、慢性炎症反応を起こす(de Vries A et al.,Clin Exp Allergy,39:731-739,2009)。また、Th2 CD4+ T細胞が分泌するIL-13サイトカインは、線維化の核心誘発因子であるTGFβが多量生成されるようにし、TGFβによるシグナル伝達は、肺組織の変形と線維化現象を促進する(Fichtner-Feigl S et al.,Nat Med,12:99-106,2006;Lee CG et al.,J Exp Med,194:809-21,2001)。肺の線維化は、正常に比べて増加したTGFβ遺伝子などの発現量を通じて確認が可能である(Ge,X.N et al.,Experimental Lung Research,39(9),365-378,2016)。
【0139】
6-1.実験動物の設計および肺線維化の誘導
動物における肺線維症の実験のために、実施例4-1と同一の方法で肺線維化動物モデルを確立した。
【0140】
6-2.CHPを投与した肺線維化動物モデルで線維化マーカーTGFβおよびCollagen 3遺伝子発現の確認
マウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの肺組織分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、肺組織を直ちに摘出して肺50mgを切り出して、NucleoZOL 500μLを入れ、IKA社のT10ホモジナイザーを用いて粉砕した。次に、NucleoZOLのTotal RNA分離プロトコルによってRNAを抽出し、1μgのRNAをiScript cDNA合成キットを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)でcDNAを合成した。合成したcDNAは、各遺伝子に該当する正方向/逆方向プライマーセットを用いてiQ SYBR Green SupermixでリアルタイムPCRを進めて分析した。各遺伝子の発現値は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現値で割って補正した。リアルタイムPCRのためのプライマーは、表2のような塩基配列でBioneer社で合成して使用した。
【0141】
【表2】
【0142】
統計的有意性は、一元分散分析(One-way ANOVA)統計分析法を使用し、ダネット(Dunnett)事後検定法で対照群との有意性を比較した(*p<0.05、***p<0.001)。
【0143】
実験結果、図8に示されたように、肺に現れる主な線維化マーカーであるTGFβ、Collagen 3遺伝子の発現が、CHP投与濃度によってさらに有意に減少することを確認した。これは、CHPが肺線維化を改善させるという意味であり、肺線維症の治療に優れた治療効果を確認できた。
【0144】
[実施例7]
CHP処理によるヒト由来皮膚細胞における抗線維効果の確認
7-1.ヒト由来皮膚細胞の培養および線維化誘導後にCHP処理
HS68皮膚線維芽細胞由来細胞株の培養のために、Hyclone社からDMEM培地とFBSを購入し、線維化誘導のためのTGFβは、R&D systems社から購入した。10%FBSを添加したDMEM培地で37℃、5%COインキュベーターで培養し、TGFβを2ng/mlの濃度になるように処理すると同時に、CHPを0、62.5、125、250または500ng/mlになるように処理し、処理48時間目に細胞を回収した。
【0145】
7-2.ヒト由来皮膚細胞線維化モデルでCHP処理後に線維化マーカーフィブロネクチンタンパク質発現の確認
線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質発現の分析のために、実施例3-2と同一の方法でウェスタンブロットを実施した。統計的有意性は、対照群とのスチューデントt-検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した(#p<0.05(陰性対照群:TGFβ処理対照群)、*p<0.05(TGFβ処理対照群:CHP 500ng/ml処理群))
【0146】
実験結果、図9のaおよびbに示されたように、TGFβ処理によって増加する線維化タンパク質であるフィブロネクチンタンパク質の発現量が、TGFβとともにCHP 500ng/mlを処理したとき、有意に減少したことを確認できた。皮膚細胞株であるHS68細胞においてCHPが線維化を改善させた当該結果を通じて、CHPが皮膚線維症の治療に適用できることを確認できた。
【0147】
[実施例8]
CHP投与による心臓線維化動物モデルにおける抗線維効果の確認
心臓線維症のリスク要因としては、誤った食習慣と肥満、高いコレステロール数値などがよく知られている。高脂肪食を長期間摂取時、肥満による血量過多症が発生して、心臓に過負荷が誘発されて、心臓の収縮と弛緩機能に変形が引き起こされる。これと共に現れる高血糖、インスリン抵抗性、高脂血症、慢性炎症などの症状は、心臓線維化に決定的に作用することが知られている(Kaltman AJ,Goldring RM.,Am J Med,60:645-653,1976;Xia Y et al.,Histochem Cell Biol,131:471-481,2009;Ulasova E et al.,J Mol Cell Cardiol.,50:147-156,2011;Lo CS et al.,J Cell Biochem.,103:1999-2009,2008;Cavalera,M et al.,Translational Research,164(4),323-335,2014)。特に、肥満による心臓肥満細胞(Cardiac mast cell)の増加とこれらの脱顆粒現象は、心臓組織にTGFβのような線維化誘発因子を提供し、心臓線維化をさらに促進することが知られている(Kong P,Christia P,Frangogiannis NG,Cell Mol Life Sci.,71:549-574,2014)。
【0148】
また、正常マウスに長期間高脂肪食を摂取させたとき、心臓線維化が現れるという報告がある。正常マウスに60%脂肪含有高脂肪食を14~22週間摂取させたとき、心臓線維化が誘発され、正常に比べて増加したTGFβ、Collagen遺伝子などの発現量の変化が確認可能であることが報告されている(Li,W et al.,Nutrition & Metabolism,14(1);68,2017;Ternacle,J et al.,European Heart Journal,18(11),1283-1291,2017;Zhao,Y et al.,Biochimica et Biophysica Acta(BBA)-Molecular Basis of Disease,1863(8),1991-2000,2017;Xu,Z.,& Kong,X.Q.,Biomedicine & Pharmacotherapy,89,991-1004,2017)。
【0149】
8-1.実験動物の設計および心臓線維化の誘導
動物における心臓線維症の実験のために、実施例4-1と同一の方法で心臓線維化動物モデルを確立した。
【0150】
8-2.CHPを投与した心臓線維化動物モデルで線維化マーカーTGFβ、Fibronectin、Collagen 1、Collagen 2、Collagen 3およびCollagen 4遺伝子発現の確認
マウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの心臓組織分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、心臓組織を直ちに摘出して心臓50mgを切り出し、RNA抽出および遺伝子発現分析は、実施例6-2と同一に行った。リアルタイムPCRのためのプライマーは、表3のような塩基配列でBioneer社で合成して使用した。各遺伝子の発現値は、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンの発現値で割って補正した。
【0151】
【表3】
【0152】
統計的有意性は、一元分散分析(One-way ANOVA)統計分析法を使用し、ダネット(Dunnett)事後検定法でHFD対照群との有意性を比較した(*p<0.05、**p<0.01、****p<0.0001)。
【0153】
実験結果、図10に示されたように、心臓に現れる主な線維化マーカーであるFibronectin、TGFβ、Collagen 1、3、4遺伝子の発現が、CHP投与によって有意に減少したことを確認した。しかしながら、CHPの濃度によってさらに減少した効果は確認されなかったが、これは、CHP 5mg/kg濃度だけで十分な効果がすでに発生したためと見られる。CHPが心臓線維化の進行を抑制し、心臓線維症を改善させた当該結果は、CHPが心臓線維症の治療に適用できることを意味する。
【0154】
[実施例9]
CHP投与による脂肪線維化動物モデルにおける抗線維効果の確認
線維症を防ぐためには、炎症反応を遮断することが最善であると知られている。特に、脂肪組織は、炎症物質を分泌して炎症による脂肪線維化の悪循環を惹起する。正常マウスに60%脂肪含有高脂肪食を16~24週間摂取させたとき、脂肪組織の線維化が現れるという報告がある(Hu,M et al.,Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,1-12,2018;Kwon,E.Y.,& Choi,M.S.,Nutrients,10(10),1415,2018;Nakazeki,F et al.,Scientific Reports,8(1),2018;Muniappan,L et al.,Scientific Reports,7(1),2017;Lancha,A et al.,PLoS ONE、9(5),e98398,2014;Velazquez,K.T et al.,Physiological Reports,5(18),e13412,2017;Wang,L.,Ye,X.,Hua,Y.,& Song,Y.,Biomedicine & Pharmacotherapy,105,121-129,2018)。高脂肪食を長期間摂取時、栄養過多によって脂肪細胞の拡張が起こることで、中性脂肪の蓄積、脂肪細胞死滅、アディポカインとサイトカインの生成、小胞体ストレス、脂肪組織低酸素症などが発生して、脂肪組織への免疫細胞の浸透が起こり、慢性炎症が起こる(Schenk S et al.,J Clin Invest,118:2992-3002,2008;Sun K,Kusminski CM,Scherer PE,J Clin Invest,121:2094-101,2011)。脂肪組織に蓄積された様々な炎症性免疫細胞とマクロファージ-脂肪細胞間の相互作用は、線維化の核心誘発因子であるTGFβを生成し、そのため、脂肪組織の変形が起こって、脂肪線維化が誘発される(Lee CG et al.,J Exp Med,194:809-21,2001;Fichtner-Feigl S et al.,Nat Med,12:99-106,2006;Pessin,J.E.,& Kwon,H,Journal of Investigative Medicine,60(8),1147-1150,2012)。脂肪組織の線維化は、正常脂肪組織に比べて増加する代表的線維化遺伝子マーカーの発現変化を通じて確認が可能である。
【0155】
9-1.実験動物の設計および脂肪線維化の誘導
動物における脂肪線維症の実験のために、実施例4-1と同一の方法で脂肪線維化動物モデルを確立した。
【0156】
9-2.CHPを投与した脂肪線維化動物モデルで線維化マーカーTGFβ、Fibronectin、Collagen 3およびCTGF遺伝子発現の確認
マウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの脂肪組織分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、副睾丸脂肪組織(EAT)を直ちに摘出して脂肪100mgを切り出し、RNA抽出および遺伝子発現分析は、実施例6-2と同一に行った。リアルタイムPCRのためのprimerは、表4のような塩基配列でBioneer社で合成して使用した。各遺伝子の発現値は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現値で割って補正した。
【0157】
【表4】
【0158】
統計的有意性は、一元分散分析(One-way ANOVA)統計分析法を使用し、ダネット(Dunnett)事後検定法で対照群との有意性を比較した(*p<0.05、**p<0.01)。
【0159】
実験結果、図11に示されたように、脂肪に現れる主な線維化マーカーであるFibronectin、TGFβ、Collagen 3、CTGF遺伝子の発現が、CHP投与によって顕著に減少したことを確認した。これは、CHPが脂肪線維化を改善させるという意味であり、脂肪線維症の治療に優れた治療効果を確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
図9a
図9b
図10
図11
【配列表】
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