(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】紙葉類搬送装置
(51)【国際特許分類】
B65H 5/22 20060101AFI20230815BHJP
B65H 5/38 20060101ALI20230815BHJP
G07D 11/16 20190101ALI20230815BHJP
【FI】
B65H5/22 A
B65H5/38
G07D11/16
(21)【出願番号】P 2019144279
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591085972
【氏名又は名称】日本ゲームカード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】野口 哲
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064787(JP,A)
【文献】国際公開第2008/023514(WO,A1)
【文献】特開2010-037102(JP,A)
【文献】特開平03-018537(JP,A)
【文献】特開平10-329975(JP,A)
【文献】特開2001-148045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/22
B65H 5/38
B65H 29/24
B65H 29/52
A63F 7/02
G07D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流から下流に向けて搬送用流体が流れる搬送管にて、紙葉類を上流から下流へ搬送する紙葉類搬送装置であって、
前記紙葉類を搬送する主搬送路を含む流体通過空間が内部に形成される前記搬送管は、前記紙葉類の主たる2面に対向するよう内壁面側が配置された一対の主搬送壁部と、これら
対向する主搬送壁部における前記紙葉類の搬送方向に直交する二方向の少なくとも一方端側に設け
られ、前記主搬送路の一方端側から前記対向する主搬送壁部の外壁面側の一部を覆う端部カバーとを備え、
前記対向する主搬送壁部における前記端部カバー配設側
で、前記端部カバーに覆われる範囲内には、各外壁面側から各内壁面側に前記搬送用流体が通過し得る流体帰還孔を
、前記搬送方向へ所要間隔でそれぞれ設け、
前記端部カバーは、前記対向する主搬送壁部の各内壁面側から各外壁面側へ前記搬送用流体をそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部と、前記流体誘導空部を介して前記対向する主搬送壁部の各外壁面側へ誘導された前記搬送用流体を前記流体帰還孔へ誘導可能な帰還誘導空部を生じさせる
ように、各終端部が前記対向する主搬送壁部の各外壁面に密着する一対の外方誘導部と、を備え、
前記
対向する主搬送壁部の
各内壁面側には、前記紙葉類が前記
対向する主搬送壁部の
各内壁面に密着することを阻止する凸状の密着阻止手段を設けたことを特徴とする紙葉類搬送装置。
【請求項2】
前記密着阻止手段は、前記流体帰還孔の上流側縁部と下流側縁部との間を含む開口区間を避けて、隣り合う2つの前記開口区間の間である密着阻止区間内にだけ設けた区間リブであることを特徴とする請求項1に記載の紙葉類搬送装置。
【請求項3】
前記区間リブは、少なくとも、前記密着阻止区間において、前記流体帰還孔
における前記端部カバー配設側
とは反対側
の縁部と前記搬送方向に連なる位置へ設けることを特徴とする請求項2に記載の
紙葉類搬送装置。
【請求項4】
前記密着阻止手段は、隣り合う2つの前記流体帰還孔の間である密着阻止領域
の下流側縁部から、該密着阻止領域の上流側に位置する前記流体帰還孔の上流側縁部まで通して設けた通しリブであることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載の紙葉類搬送装置。
【請求項5】
隣り合う2つの前記流体帰還孔の間である密着阻止領域と、該密着阻止領域の上流側に位置する前記流体帰還孔とが連続する範囲を基準連続範囲とし、
前記通しリブは、1つ以上の前記基準連続範囲を通して設けることを特徴とする請求項4に記載の紙葉類搬送装置。
【請求項6】
前記流体帰還孔は、前記搬送方向と平行な中心線に対して前記搬送方向に直交する向きに対称となる開口形状とし、
前記通しリブは、前記流体帰還孔の前記中心線を含む位置に設けたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の紙葉類搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上流から下流に向けて搬送用流体が流れる搬送管にて、紙葉類を上流から下流へ搬送する紙葉類搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄いプラスチック製あるいは紙製のカードや紙幣といった紙葉類を搬送するとき、ベルトやローラを用いて紙葉類を挟み込んで送り出す紙葉類搬送装置が知られており、市場にも普及している。例えば、パチンコやスロットマシン等の遊技機が設置された遊技場においては、遊技機に隣接させて遊技媒体貸出装置等が設けられており、この遊技媒体貸出装置内で紙幣をストックせずに、紙幣金庫部等へ搬送して管理する場合、紙葉類搬送装置が用いられる。遊技場の紙葉類搬送装置では、遊技媒体貸出装置等の紙幣識別部により判別された紙幣を取り込み、ベルトやローラから成る搬送機構によって、遊技機を設置した遊技島の島端に取り付けられた紙幣金庫部まで搬送するのである。
【0003】
このような紙葉類搬送装置では、ベルトやローラで紙幣を挟み込む機構を使って搬送している為に、ベルトやローラの継ぎ渡し部分にて紙幣詰まりがしばしば発生するという問題があった。紙幣詰まりを解消するためには、遊技機で遊技中の遊技客に遊技を中断してもらい、遊技島内の不具合箇所を特定し、詰まった紙幣を取り除かなければならず、来店客に迷惑をかけると共に、遊技店員にとっての負担も少なくなかった。
【0004】
近年においては、搬送管内に搬送用の空気流を発生させ、空気流に乗せて紙幣を搬送する紙葉類搬送装置が提案されている。空気流により紙幣を搬送するなら、ベルトやローラといった機構を使わないので、機構部分で紙幣が詰まるというリスクがない。空気搬送の紙葉類搬送装置として、紙幣の後端部を変形させ、変形部に搬送用の空気流の風圧を作用させることにより、紙幣の搬送をスムーズにしたものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、軽量の搬送補助体を紙幣の後方に配置し、搬送補助体を空気流で搬送方向へ送り出すことにより、搬送補助体が紙幣を後方から搬送方向へ押し動かし、間接的に紙幣の搬送を実現した紙葉類搬送装置も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
また、紙葉類を直接空気流で搬送しようとすると、搬送方向に空気流を受けることが出来ず、搬送管の内壁面に紙幣が吸着されて搬送されなくなるという問題がある。このような紙葉類の吸着が生じる基本原理を、
図10(A)を参照しつつ説明する。紙葉類搬送路として機能する搬送管102は、四側壁(左側壁1021、右側壁1022、上壁1023、下壁1024)に囲まれた流路であり、上流側から下流側へ向かう送風方向WDの搬送流が流れ続ける。
【0006】
搬送管102内を搬送流が流れると、送風方向WDに直交する向きに圧力が生じる。左側壁1021の内壁面には圧力Plが、右側壁1022の内壁面には圧力Prが、上壁1023の内壁面には圧力Ptが、下壁1024の内壁面には圧力Pbがそれぞれ作用し、その力は、搬送流の速度の二乗に比例して高くなる。紙葉類は、その薄さゆえに後縁から搬送流を受け難く、また、上下方向の圧力Pt,Pbの力を上縁と下縁が受けることは無いに等しい。しかしながら、紙葉類の二面は、対向する左側面1021と右側面1022に向かう圧力Pl,Prの影響を大きく受けてしまう。
【0007】
従って、圧力Pl,Prにより、紙葉類が左右側壁1021,1022の内壁面に張り付くという現象が発生してしまうのである。なお、薄い紙葉類の両面に沿って流れる搬送流が均衡している場合は、紙葉類が左右側壁1021,1022へ引きつけられることは無いが、搬送流に僅かな差が生じると、紙葉類の側面にかかる圧力に差が生じ、弱圧力の側へ引き寄せられて内壁面に接触してしまう。接触した紙葉類は左右側壁1021,1022との摩擦力が搬送流の力を上回るため、内壁面に吸着されたまま停滞し、下流へ搬送されなくなるのである。
【0008】
このような搬送管構造に由来する原因によって紙幣が内壁面へ吸着されることを防ぐために、壁面に沿った壁流を生じさせて、紙幣が壁面に吸着されないように工夫した紙葉類搬送装置も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4130697号公報
【文献】特許第5563883号公報
【文献】特許第6339732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3に記載された発明には、以下のような問題がある。
【0011】
特許文献1に記載の発明においては、搬送対象である紙幣が有する癖、皺、よれ具合、コシの強さ等が紙幣毎に異なっているために、搬送中に維持するべき変形形状が一定とならず、搬送管内での詰まりの要因となっていた。更に、搬送のために変形させた紙幣を搬送後に伸長させる必要があるため、紙幣の変形と伸長を繰り返すことで、紙幣の劣化が加速するという問題もある。
【0012】
特許文献2に記載の発明においては、押し込みユニットを用いて紙幣を強制的に押し出すため、紙幣が内壁面に強力に吸着した場合には紙幣が圧縮変形し、搬送管内での詰まりの要因になると共に、紙幣に致命的なダメージが加わるといった問題がある。また、特許文献2に記載の発明が採用している押し込みユニット方式は、風量の影響を受けやすく、湾曲部の搬送や長距離搬送には不向きである。更に、特許文献2に記載の発明では、搬送補助体の強度不足も問題となり、紙幣回収部にて搬送補助体が衝突する等の要因で変形・破損し、流路上を動かなくなって停止することがあるため、定期的な交換を必要とする。
【0013】
このように、特許文献1や特許文献2に記載された発明は、搬送流による紙葉類の安定搬送が期待できないという問題が大きい。これらの発明に対して、特許文献3に記載の発明は、壁面に沿った壁流を生じさせることで紙幣が側壁に張り付いて滞留することを防ぎ、紙幣の安定搬送を行えるものとして開示されている。特許文献3に記載の発明の概略構造につき、
図10(B)を参照して説明する。紙葉類の被搬送物103を搬送する搬送管102内に一対の対向板104,104を設け、対向板104と対向板104との間に搬送路105を形成し、各対向板104と管壁との間に気流路106,106を形成する。対向板104には、壁流発生部となる貫通孔104aを千鳥格子状に配置し、気流路106から搬送路105へ流入した気流が壁面に沿って流れる壁流Fsが生じるというのである。いわば、被搬送物103を搬送するための主たる気流である搬送流Fmの両側(被搬送物103の両側面側)に、それぞれ壁流Fsを生じさせ、被搬送物103が対向板104に近づいて吸着されることを防止しようという技術である。
【0014】
しかしながら、引用文献3に記載の発明では、搬送路105と気流路106とに顕著な圧力差が無いため、気流路106から貫通孔104aを抜けて搬送路105へ流入する強い気流は期待できず、必ずしも有効な壁流Fsを得ることができない。このため、対向壁104に近づいた被搬送物103が、弱い壁流Fsに阻まれること無く対向壁104に張り付いてしまうことが起こり得る(
図10(C)を参照)。このようにして、被搬送物103が対向壁104に張り付いてしまうと、その上流側で発生した弱い壁流Fsが被搬送物103を覆うように流れ、被搬送物103を一層強く対向壁104へ押しつけてしまう現象が発生する。こうなると、被搬送物103が塞いだ貫通孔104aに気流路106側から作用する圧力よりも、被搬送物103を覆うように流れる壁流Fsの方が強いため、被搬送物103は対向壁104から剥離せず、張り付いたままとなってしまう。したがって、特許文献3に記載された発明においても、搬送流による紙葉類の安定搬送を期待できないのである。
【0015】
そこで、本発明は、搬送流による紙葉類の安定搬送を可能にする紙葉類搬送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、上流から下流に向けて搬送用流体が流れる搬送管にて、紙葉類を上流から下流へ搬送する紙葉類搬送装置であって、前記紙葉類を搬送する主搬送路を含む流体通過空間が内部に形成される前記搬送管は、前記紙葉類の主たる2面に対向するよう内壁面側が配置された一対の主搬送壁部と、これら対向する主搬送壁部における前記紙葉類の搬送方向に直交する二方向の少なくとも一方端側に設ける端部カバーとを備え、前記対向する主搬送壁部における前記端部カバー配設側には、各外壁面側から各内壁面側に前記搬送用流体が通過し得る流体帰還孔を、前記搬送方向へ所要間隔でそれぞれ設け、前記端部カバーは、前記対向する主搬送壁部の各内壁面側から各外壁面側へ前記搬送用流体をそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部と、前記流体誘導空部を介して前記対向する主搬送壁部の各外壁面側へ誘導された前記搬送用流体を前記流体帰還孔へ誘導可能な帰還誘導空部を生じさせる一対の外方誘導部と、を備え、前記主搬送壁部の内壁面側には、前記紙葉類が前記主搬送壁部の内壁面に密着することを阻止する凸状の密着阻止手段を設けた構成とする。
【0017】
また、上記構成において、前記密着阻止手段は、前記流体帰還孔の上流側縁部と下流側縁部との間を含む開口区間を避けて、隣り合う2つの前記開口区間の間である密着阻止区間内にだけ設けた区間リブであってもよい。
【0018】
また、上記構成において、前記区間リブは、少なくとも、前記密着阻止区間において、前記流体帰還孔の前記端部カバー配設側の反対側縁部と前記搬送方向に連なる位置へ設けてもよい。
【0019】
また、上記構成において、前記密着阻止手段は、隣り合う2つの前記流体帰還孔の間である密着阻止領域から、該密着阻止領域の上流側に位置する前記流体帰還孔の上流側縁部まで通して設けた通しリブであってもよい。
【0020】
また、上記構成において、隣り合う2つの前記流体帰還孔の間である密着阻止領域と、該密着阻止領域の上流側に位置する前記流体帰還孔とが連続する範囲を基準連続範囲とし、前記通しリブは、1つ以上の前記基準連続範囲を通して設けてもよい。
【0021】
また、上記構成において、前記流体帰還孔は、前記搬送方向と平行な中心線に対して前記搬送方向に直交する向きに対称となる開口形状とし、前記通しリブは、前記流体帰還孔の前記中心線を含む位置に設けてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、主搬送壁部の内壁面に密着阻止手段を設けることで、主搬送路内を搬送中の紙葉類が主搬送壁部の内壁面に密着してしまうことを防ぎ、搬送流による紙葉類の安定搬送を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る紙葉類搬送装置の概略構成図である。
【
図2】(A)は搬送管を搬送方向へ直交する縦方向に割った概略縦断面図である。(B)は
図2(A)におけるIIB-IIB線の矢視断面図である。(C)は
図2(A)におけるIIC-IIC線の矢視断面図である。
【
図3】(A)は密着阻止手段を備えていない搬送管を搬送方向へ直交する向きに割った概略断面図である。(B)は
図3(A)におけるIIIB-IIIB線の矢視断面図である。(C)は
図3(A)におけるIIIC-IIIC線の矢視断面図である。
【
図4】密着阻止手段を備えていない搬送管における帰還流の概略説明図である。
【
図5】(A)は主搬送路における理想的な帰還流の挙動を示す搬送管の概略説明図である。(B)は主搬送路における弱い帰還流の挙動を示す搬送管の概略説明図である。(C)は主搬送路における強い帰還流の挙動を示す搬送管の概略説明図である。
【
図6】(A)は短辺方向が非対称となる折り目を付けられた癖札の表面図である。(B)は
図6(A)の癖札を上流側より見た端面図である。
【
図7】
図5(C)の搬送管中央に配置した
図6の癖札が帰還流を受けたときの動作説明図であり、(A)は帰還流作用前の状態、(B)は帰還流作用後の状態を示す。
【
図8】(A)は第2構成例の搬送管を搬送方向へ直交する縦方向に割った概略縦断面図である。(B)は
図8(A)におけるVIIIB-VIIIB線の矢視断面図である。(C)は
図9(A)におけるVIIIC-VIIIC線の矢視断面図である。
【
図9】(A)は第3構成例の搬送管を搬送方向へ直交する縦方向に割った概略縦断面図である。(B)は
図9(A)におけるIXB-IXB線の矢視断面図である。(C)は
図9(A)におけるIXC-IXC線の矢視断面図である。
【
図10】(A)は従来構造の搬送管による搬送の基本構造説明図である。(B)、(C)は内部に対向壁を設けた従来の搬送管における流体搬送の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面に基づいて、本発明に係る紙葉類搬送装置の実施形態につき説明する。なお、搬送対象である紙葉類とは、紙幣や書面といった保形性のある紙類(ティッシュペーパーのように、搬送流に対して保形性を有しないものを除く)、樹脂製のフィルム(プラスティック紙幣を含む)や薄いカード類などが適用できる。本実施形態の紙葉類搬送装置においては、紙製の紙幣を搬送対象とした紙幣搬送装置として説明する。また、搬送用流体としては、気体に限らず液体を用いることも可能であるが、本実施形態の紙幣搬送装置においては、空気(エア)を搬送用流体として用いた。また、本実施形態では、紙幣を重力方向に立てた状態で搬送するので、便宜上、紙幣の二面が臨む方向を左右または側方、これに直交する重力方向を上下という。
【0025】
図1に示す紙幣搬送装置1は、例えば遊技店に設置され、遊技媒体貸出装置やカード販売装置等へ投入された紙幣を回収して一箇所へ集めるような使い方が可能である。搬送管2内を通過させて搬送する搬送対象の紙幣3は、適所に設けた紙幣導入部4から搬送管2内へ導入される。搬送管2の一方端には送風機5を設け、他方端には紙幣回収部6を設ける。すなわち、送風機5を設けた上流から紙幣回収部6を設けた下流に向けて、搬送用流体としての空気が搬送管2内を流れるのである。なお、下流である紙幣回収部6側に吸引機を設けることで、搬送用流体としての空気が搬送管2内を上流から下流へ流れるようにすることもできる。
【0026】
図2に詳細を示す搬送管2は、所要長さまで連結して、設置場所や状況に応じた流路に調整できる。搬送管2は、紙幣の2面に対向するよう内面側が配置された一対の主搬送壁部である第1主搬送壁211および第2主搬送壁212と、第1,第2主搬送壁211,212の上下両端部に設ける端部カバーとしての上部カバー体221と下部カバー体222をそれぞれ設けた構成である。これら、第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222により、圧縮空気を送り出せる流体通過空間23が内部に形成される。この流体通過空間23のうち、第1主搬送壁211の内壁面211bと第2主搬送壁212の内壁面212bとで挟まれた空間が主搬送路231となり、この主搬送路231を通って紙幣3が搬送されるのである。なお、これら第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222は、個別のパーツとして形成し、組み立てても良いし、射出成形や押出成形といった樹脂加工技術により複合パーツを形成して組み立てるようにしても良い。また、樹脂加工に限らず、厚さ1~2〔mm〕程度の板材を加工して、第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222を作っても良い。
【0027】
また、第1,第2主搬送壁211,212には、外壁面211a,212aから内壁面211b,212bに搬送用エアが通過し得るエア帰還孔24を所要間隔で設ける。本構成の搬送管2においては、上部カバー体221に対応させた第1,第2主搬送壁211,212の上部と、下部カバー体222に対応させた第1,第2主搬送壁211,212の下部とに、それぞれ等間隔で一列状に設けた(例えば、
図2(B)を参照)。
【0028】
各エア帰還孔24は、上流側開口縁241と下流側開口縁242と端部側開口縁243と中央側開口縁244とで囲まれた略四角形状である。上流側開口縁241は、エア帰還孔24の上流側縁部で、搬送方向にほぼ直交する。下流側開口縁242は、エア帰還孔24の下流側縁部で、上流側開口縁241とほぼ平行である。端部側開口縁243は、エア帰還孔24の上部カバー体221または下部カバー体222の配設側縁部で、搬送方向にほぼ平行である。中央側開口縁244は、エア帰還孔24の中央側縁部(上,下部カバー体221,222配設側の反対側で、第1、第2主搬送壁211,212の上下方向中央に近い縁部)で、端部側開口縁243とほぼ並行である。よって、全てのエア帰還孔24は、搬送方向と平行な中心線CL(
図1中、一点鎖線で示す)に対して、上下方向(搬送方向に直交する向き)に対称な開口形状となる。
【0029】
なお、本構成例の搬送管2におけるエア帰還孔24は略四角形状としたが、その開口形状や開口面積、配置間隔等は、特に限定されるものではなく、後述するように、必要十分な帰還流を得ることができれば良い。日本の紙幣3を搬送する場合、第1,第2主搬送壁211,212の高さを80〔mm〕程度、対向間隔を10~15〔mm〕程度とすると、上下2箇所に配列状に設ける各エア帰還孔24の上下方向高さは20~30〔mm〕が適当である。なお、エア帰還孔24の搬送方向幅は、エア帰還孔24の配設間隔に応じて、適宜な風量や風速が得られるように定めれば良い。
【0030】
また、第1主搬送壁211に設ける全てのエア帰還孔24と、第2主搬送壁212に設ける全てのエア帰還孔24とが、主搬送路231を挟んで正対するように、各エア帰還孔24の開設位置を設定することが望ましい。しかしながら、第1主搬送壁211側のエア帰還孔24と第2主搬送壁212側のエア帰還孔24が、紙幣3の搬送方向あるいは上下方向に多少ずれていても、極端に偏った帰還流が紙幣3の二面へ両側から作用しなければ、紙幣3の安定搬送を実現できる。
【0031】
上部カバー体221は、第1,第2主搬送壁211,212の各内壁面211b,212b側から各外壁面211a,212a側へ搬送用エアをそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部を備える。本構成の上部カバー体221においては、第1主搬送壁211の内壁面211b側から外壁面211a側へ搬送用エアを誘導するための第1分岐誘導部221a1と、第2主搬送壁212の内壁面212b側から外壁面212a側へ空気を誘導する第2分岐誘導部221b1を設けた。すなわち、本構成の上部カバー体221は、第1主搬送壁211の上端縁の上方空間に第1流体誘導空部232aを生じさせる滑らかな凹曲面状の第1分岐誘導部221a1と、第2主搬送壁212の上端縁の上方空間に第2流体誘導空部232bを生じさせる第2分岐誘導部221b1を備える。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1の左右幅はそれぞれ15〔mm〕程度、凹曲面最奥部までの距離は5〔mm〕程度である。
【0032】
上部カバー体221の第1分岐誘導部221a1に連なる第1外方誘導部221a2は、第1流体誘導空部232aを介して第1主搬送壁211の外壁面211a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第1帰還誘導空部233aを生じさせる。同様に、上部カバー体221の第2分岐誘導部221b1に連なる第2外方誘導部221b2は、第2流体誘導空部232bを介して第2主搬送壁212の外壁面212a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第2帰還誘導空部233bを生じさせる。なお、第1外方誘導部221a2の下端は、滑らかに湾曲させて第1主搬送壁211の外壁面211aに密着する終端屈曲部221a2-eとし、エア帰還孔24の若干下方位置にて第1帰還誘導空部233aが閉塞されるようにしておく。同様に、第2外方誘導部221b2の下端は、滑らかに湾曲させて第2主搬送壁212の外壁面212aに密着する終端屈曲部221b2-eとし、エア帰還孔24の若干下方位置にて第2帰還誘導空部233bが閉塞されるようにしておく。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2外方誘導部221a2,221b2の上下高さは30~35〔mm〕程度である。
【0033】
下部カバー体222も上部カバー体221と同様に、第1,第2主搬送壁211,212の各内壁面211b,212b側から各外壁面211a,212a側へ空気をそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部を備える。本構成の下部カバー体222においては、第1主搬送壁211の内壁面211b側から外壁面211a側へ空気を誘導するための第1分岐誘導部222a1と、第2主搬送壁212の内壁面212b側から外壁面212a側へ空気を誘導する第2分岐誘導部222b1を設けた。すなわち、本構成の下部カバー体222は、第1主搬送壁211の下端縁の下方空間に第1流体誘導空部232aを生じさせる滑らかな凹曲面状の第1分岐誘導部222a1と、第2主搬送壁212の下端縁の下方空間に第2流体誘導空部232bを生じさせる第2分岐誘導部222b1を備える。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2分岐誘導部222a1,222b1の左右幅はそれぞれ15〔mm〕程度、凹曲面最奥部までの距離は5〔mm〕程度である。
【0034】
下部カバー体222の第1分岐誘導部222a1に連なる第1外方誘導部222a2は、第1流体誘導空部232aを介して第1主搬送壁211の外壁面211a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第1帰還誘導空部233aを生じさせる。同様に、下部カバー体222の第2分岐誘導部222b1に連なる第2外方誘導部222b2は、第2流体誘導空部232bを介して第2主搬送壁212の外壁面212a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第2帰還誘導空部233bを生じさせる。なお、第1外方誘導部222a2の上端は、滑らかに湾曲させて第1主搬送壁211の外壁面211aに密着する終端屈曲部222a2-eとし、エア帰還孔24の若干上方位置にて第1帰還誘導空部233aが閉塞されるようにしておく。同様に、第2外方誘導部222b2の上端は、滑らかに湾曲させて第2主搬送壁212の外壁面212aに密着する終端屈曲部222b2-eとし、エア帰還孔24の若干上方位置にて第2帰還誘導空部233bが閉塞されるようにしておく。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2外方誘導部222a2,222b2の上下高さは30~35〔mm〕程度である。
【0035】
上述したように、上部カバー体221には第1,第2分岐誘導部221a1,221b1を設け、下部カバー体222には第1,第2分岐誘導部222a1,222b1を設ければ、主搬送路231の上方左右および下方左右へ均等に搬送用エアを誘導できる。なお、上,下部カバー体221,222に設ける分岐誘導部は左右一対の構造に限定されない。例えば、第1外方誘導部221a2と第2外方誘導部221b2、或いは第1外方誘導部222a2と第2外方誘導部222b2を滑らかな曲面で連結する一つの分岐誘導部を用いて、上部カバー体221或いは下部カバー体222を構成しても良い。また、端部カバー体として、上部カバー体221と下部カバー体222の両方を設けず、一方端のみに端部カバー体を設けておき、第1,第2主搬送壁211,212にエア帰還孔24をそれぞれ一列だけ設けてもよい。かくする場合、端部カバー体を設けない他方端では、第1主搬送壁211と第2主搬送壁212の間を遮蔽壁等で塞ぐことにより、搬送用エアが漏れない密閉状の流体通過空間23を形成すれば良い。
【0036】
エア帰還孔24を設けた第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側には、上,下部カバー体221,222の第1,第2外方誘導部221a2,221b2にて誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ導く帰還ガイド部25を設ける。帰還ガイド部25は、少なくともエア帰還孔24の上流側開口縁241にエア導入開口25aが位置し、エア帰還孔24の下流側開口縁242に向かって狭まる突出体で、その横断面は略三角形状とした(
図2(C)を参照)。また、帰還ガイド部25の上流側の上下部は、乱流を生じやすい角部とせず、滑らかな曲面部で構成した。この上下2箇所の曲面部が、エア帰還孔24の下流側開口縁242の上端部または下端部へ向かって徐々に収束することで、帰還ガイド部25の内面上部には上方誘導湾曲面が形成され、内面下部には下方誘導湾曲面が形成される。すなわち、エア導入開口25aから帰還ガイド部25内へ導かれ、上方誘導湾曲面に誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24を抜けると上向きに広がり易い帰還流となり、下方誘導湾曲面に誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24を抜けると下向きに広がり易い帰還流となる。なお、エア帰還孔24と帰還ガイド部25は、樹脂加工により第1,第2主搬送壁211,212を形成するとき、同時に形成できる。無論、別体として形成した構造体をエア帰還孔24の縁部に沿って取り付けることにより、帰還ガイド部25を形成するようにしても良い。
【0037】
紙幣3を搬送対象とし、上,下カバー体221,222に各々対応させて二列状にエア帰還孔24を設ける場合、帰還ガイド部25の上下高さを20~30〔mm〕程度、搬送方向幅を8~15〔mm〕程度にすると、帰還ガイド部25の突出量は3~6〔mm〕程度が望ましい。エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流の流入角度(帰還流の流入方向と搬送方向とが成す鋭角)を15~30゜の範囲で調整できるからである。帰還流が強い場合には、帰還流の流入角度を小さくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を長くする。かくすれば、強すぎる帰還流の流下勢は紙幣3へ到達するまでに減衰してゆき、程良い流下勢となった帰還流が紙幣3に作用する。一方。帰還流が弱い場合には、帰還流の流入角度を大きくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を短くする。かくすれば、帰還流が消失する前に紙幣3へ到達させることができ、紙幣3を下流へ搬送する力を帰還流から与えることができる。
【0038】
上述した各エア帰還孔24から主搬送路231内に帰還流が吐出されることで、エア帰還孔24の近傍に紙幣3が密着してしまう可能性は低い。しかしながら、隣接するエア帰還孔24とエア帰還孔24との間の内壁面211b,212bに紙幣3が密着して搬送不能になる事態が懸念される。そこで、搬送管2においては、紙幣3が第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに密着することを阻止する凸状の密着阻止手段として、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに中央側区間リブ26を設けた。
【0039】
中央側区間リブ26は、エア帰還孔24の上流側開口縁241と下流側開口縁242との間を含む上下方向(搬送方向に直交する方向)に連続した帯状の範囲である開口区間213aを避けて設ける突状体である。すなわち、隣り合う2つの開口区間213aの間である密着阻止区間213b内で、エア帰還孔24の中央側である中央側開口縁244と搬送方向に連なる位置に設けた突状体が、中央側区間リブ26として機能する。なお、密着阻止手段としては、紙幣3が内壁面211b,212bに密着しないように、微小な凸状体(半球状、円柱状、三角錐状などの突起)を内壁面211b,212bへ分散配置しておいても良い。しかしながら、微少な凸状体とは言え、帰還流に何らかの悪影響が生じる可能性もある。そこで、本構成例の搬送管2では、断面が略四角形の長尺材を搬送方向に配して成る中央側区間リブ26を密着阻止手段として用いた。
【0040】
中央側区間リブ26は、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bから突出する第1面261と、第1面261とほぼ平行に突出する第2面262と、これら第1面261と第2面262の突出端を連結する滑らかな弧状突出面263を備える。上流から搬送されてきた紙幣3が内壁面211b,212bに張り付くような力を受けても、中央側区間リブ26の弧状突出面263に紙幣3が押し当たるため、内壁面211b,212bに密着してしまうことを抑止できる。そして、中央側区間リブ26に紙幣3が覆い被さるようになっても、中央側区間リブ26の上下両側には搬送用エアが搬送方向に流れる隙間ができるので、紙幣3は自然と内壁面211b,212bから剥がれて、更に下流へと搬送されてゆく。なお、日本の紙幣3を搬送対象とする場合、第1面261と第2面262の離隔距離は2~4〔mm〕程度、弧状突出面263の最大突出量は2~4〔mm〕程度で十分である。
【0041】
また、中央側区間リブ26の上流側には、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bとほぼ面一となる上流側端部から下流に向かって徐々に突出量が増えてゆく上流側傾斜面26aを設ける。上流側傾斜面26aを設けておけば、上流から搬送されてきた紙幣3の辺縁が内壁面211b,212bに近接していても、中央側区間リブ26に引っ掛かることを防ぎ、上流側傾斜面26aに沿って主搬送路231の左右方向中央側へ誘導することができる。なお、第1,第2主搬送壁211,212と中央側区間リブ26を樹脂成形等で一体的に設ければ、内壁面211b、212bから上流側傾斜面26aへ段差無くつながるので、紙幣3の引っ掛かり抑止に理想的である。無論、別体として作成した中央側区間リブ26を、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bの適所へ取り付けるようにしても構わない。上流側傾斜面26aが内壁面211b,212bに対して傾斜する角度は、概ね20°~45°程度であれば、引っ掛かり防止機能を発揮できる。
【0042】
一方、中央側区間リブ26の最下流側である下流側端面26bは、ちょうどエア帰還孔24の上流側開口縁241に沿う位置に設け、開口区間213aに入り込まないようにする。なお、上流から搬送されてきた紙幣3が下流側端面26bに引っかかる可能性は無いので、下流側端面26bを上流側傾斜面26aのように傾斜面とする必要はない。そこで、下流側端面26bは、中央側区間リブ26の突出範囲を最大化できるように、エア帰還孔24の上流側開口縁241に沿う位置で内壁面211b、212bに直交する壁面とした。
【0043】
このように、中央側区間リブ26は、上流側傾斜面26aが上流側に、下流側端面26bが下流側にそれぞれ配置されるように、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bへ設ける必要がある。中央側区間リブ26を第1,第2主搬送壁211,212と一体成形する場合は問題ないが、中央側区間リブ26を第1,第2主搬送壁211,212とは別体構成とした場合、第1,第2主搬送壁211,212へ中央側区間リブ26を取り付けるときの向きに注意する必要がある。なお、上下方向に対称な中央側区間リブ26であれは、第1主搬送壁211への取付用リブと、第2主搬送壁212への取付用リブとを共用できる。すなわち、第1主搬送壁211に中央側区間リブ26を取り付けるときの上下方向と、第2主搬送壁212に中央側区間リブ26を取り付けるときの上下方向を逆にすれば良い。例えば、第1主搬送壁211に中央側区間リブ26を取り付けるときは、第1面261が上側となるように取り付けることで、上流側傾斜面26aが上流側に配置される。一方、第2主搬送壁212に中央側区間リブ26を取り付けるときは、第2面262が上側となるように取り付けることで、上流側傾斜面26aが上流側に配置される。
【0044】
上記のように構成した中央側区間リブ26を密着阻止区間213bに設けておけば、密着阻止区間213bにおいて紙幣3が内壁面211b,212bに密着して搬送不能になる危険性を抑制できる。この中央側区間リブ26は、必ずしもエア帰還孔24の中央側開口縁244に沿って設ける必要はなく、端部側あるいは中央側に若干ずらして設けても良い。ただし、中央側区間リブ26の配設位置を、エア帰還孔24の中央側開口縁244より端部側にずらし過ぎると、エア帰還孔24から主搬送路231内へ流入する帰還流の流下勢や流下方向に悪影響を及ぼす可能性があるので、注意を要する。
【0045】
また、上述したように、開口区間213a内では、上,下カバー体221,222に対応させて設けた上下2箇所のエア帰還孔24から帰還流が流入しており、開口区間213a内で紙幣3が密着する危険性は低いので、中央側区間リブ26は、密着阻止区間213bに設ければ良い。むしろ、中央側区間リブ26を延長して開口区間213aにまで設けることは好ましくない。エア帰還孔24から流入した帰還流は、搬送方向に流れるだけでなく、端部側開口縁243や中央側開口縁244から上下方向へ拡散する流れもあり、このような拡散流が紙幣3に到達することで、紙幣3の壁面吸着現象を抑制していると考えられる。したがって、エア帰還孔24の中央側開口縁244に沿わせるように中央側区間リブ26を延長して設けると、主搬送路231内の上下方向中央側へ向かう拡散流が阻害されて、紙幣3の壁面吸着現象を抑制できなくなる可能性がある。このことからも、中央側区間リブ26は、開口区間213aを避けて、密着阻止区間213bのみに設けることが望ましい。
【0046】
また、開口区間213aは、エア帰還孔24の上流側開口縁241と下流側開口縁242との間を含んでいれば良く、上流側開口縁241よりも適宜上流側、或いは下流側開口縁242よりも適宜下流側まで開口区間213aとしても良い。開口区間231aの下流側を延ばすと、密着阻止区間213bの上流側が若干狭くなるので、エア帰還孔24の下流側開口縁242よりも若干下流側に中央側区間リブ26の上流側端部が位置することとなる。中央側区間リブ26の上流側端部とエア帰還孔24の下流側開口縁242とを離隔させておけば、エア帰還孔24の下流側開口縁242近傍から主搬送路231内へ流入した帰還流の流下勢や流下方向に中央側区間リブ26が悪影響を及ぼす危険性を一層低減できる。しかも、中央側区間リブ26の上流側端部とエア帰還孔24の下流側開口縁242との間が若干開いていても、そこは帰還流の勢いが強い箇所なので、中央側区間リブ26が短くなっていても紙幣3の密着防止機能が損なわれることはない。
【0047】
また、密着阻止区間213b内で、エア帰還孔24の端部側開口縁243に沿う位置に端部側区間リブ26′を設けても良い(
図2中、二点鎖線で示す)。但し、端部側区間リブ26′を設けるのは、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ効率良く搬送用エアが誘導されており、必要十分な帰還流が得られている場合に限る。端部側区間リブ26′は、密着阻止区間213bの全域に亘って搬送方向に突出するので、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ至る気流を乱してしまう危険性がある。このため、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれる循環流が激減し、十分な帰還流を得られなくなるような場合は、端部側区間リブ26′を設けることは望ましくない。なお、端部側区間リブ26′よりも適宜中央側(上,下部カバー体221,222配設側の反対側)であれば、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれる循環流が極端に減ぜられないので、区間リブを設け易い。無論、複数箇所に複数の区間リブを設けて密着阻止手段としても良い。
【0048】
以上のように構成した本実施形態の紙幣搬送装置1では、密着阻止手段(中央側区間リブ26,端部側区間リブ26′)を設けることによって、紙幣3が第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに張り付くことを抑制し、搬送管2内で紙幣3の安定した搬送を行うことができる。この密着阻止手段の有用性を説明するため、密着阻止手段を備えていない搬送管2-0を用いた場合の搬送動作を説明する。
図3に示すように、搬送管2-0は、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに、中央側区間リブ26や端部側区間リブ26′のような密着阻止手段に相当する機能を備えていない。
【0049】
密着阻止手段を備えていない搬送管2-0における帰還流の発生原理を
図4(A),(B)に示す。なお、
図4(B)は、上、下部カバー体221,222の第2流体誘導空部232bおよび第2帰還誘導空部233bを透かして、第2主搬送壁212の外壁面212a側を見た状態を示す。
【0050】
前述したように、加圧した搬送用エアが送り込まれる搬送管2内では、上下左右の壁面を外向きに押す圧力が生じる。上,下部カバー体221,222の第1,第2分岐誘導部221a1,222a1,221b1,222b1を外向きに押す力は、搬送用エアを第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導する力として作用する。なお、上,下部カバー体221,222には、第1主搬送壁211と第2主搬送壁212の中間部位より左右両側に第1分岐誘導部221a1,222a1と第2分岐誘導部221b1,222b1を設けたので、左右に偏り無く気流が分岐して行く。
【0051】
しかも、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1の内面は外側(主搬送路231から遠ざかる方向)に突出して滑らかに第1,第2外方誘導部221a2,221b2に連なる凸面形状の誘引流動面となるので、コアンダ効果により、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導され易い。なお、コアンダ効果とは、粘性流体が近接した壁面に沿って流れる性質のことで、搬送用エアも粘性流体であるから、上部カバー体221および下部カバー体222の内面に沿って流れて行くことは理に適っている。
【0052】
したがって、搬送管2内へ圧送された搬送用エアの一部は、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ、更には第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導され、第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ回り込む。この気流は途切れること無く続くので、第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ回り込んだ搬送用エアが、極端に減圧されることは無い。第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ至った搬送用エアは、第1,第2帰還誘導空部233a,233b内を下流へ向かいつつ、主搬送路231の中央側(上部カバー体221では下方、下部カバー体222では上方)へ誘導される。
【0053】
第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24の帰還ガイド部25へ到達すると、エア導入開口25aから導入され、エア帰還孔24を介して第1主搬送壁211の内壁面211b側へ戻される帰還流となる。なお、搬送用エアが帰還ガイド部25に到達しないまま第1帰還誘導空部233aの下方部に至っても、第1帰還誘導空部233aの下部は終端屈曲部221a2-eで閉塞されているため、終端屈曲部221a2-eに沿って更に下流へ流れる。その下流にもエア帰還孔24を適宜な間隔で設けてあるので、下流のエア帰還孔24の帰還ガイド部25へ到達した搬送用エアの一部は、エア導入開口25aから導入されて帰還流となる。
【0054】
なお、搬送管2-0内へ圧送された搬送用エアの一部は、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ至るものの、そのまま第1,第2流体誘導空部232a,232b内を下流へ流れてゆく搬送用エアの割合が多い。搬送管2-0の実験結果では、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導される搬送用エアは50%以下であった。したがって、第1,第2流体誘導空部232a,232bから効率良く第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ搬送用エアを誘導するために、誘導プレート7(
図3中、二点鎖線で示す)を設けるようにしても良い。
【0055】
図3に示すように、例えば、上,下部カバー体221,222にそれぞれ設ける第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に、第1,第2流体誘導空部232a,232b内に突出する誘導プレート7を設ける。誘導プレート7は、半円弧状の板材を弦方向に引き延ばした外観の板状体であり、一方の第1面が上流側に、他方の第2面が下流側に向くよう、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1へ斜めに取り付ける。このため、誘導プレート7における弧状の曲縁部は、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1の凹状内面と密に接するような曲率に設定しておく。そして、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に取り付けた誘導プレート7の平坦縁部は、搬送用エアの送風方向WDとほぼ平行となり、主搬送路231と第1,第2流体誘導空部232a,232bの境界近傍に位置する。
【0056】
また、上部カバー体221において、第1分岐誘導部221a1に設ける誘導プレート7の上流側端部と、第2分岐誘導部221b1に設ける誘導プレート7の上流側端部は、第1分岐誘導部221a1と第2分岐誘導部221b1との連結部にて当接、或いは近接させる。第1分岐誘導部221a1と第2分岐誘導部221b1との連結部は、第1,第2主搬送壁211,212の中間位置となるので、左右一対の誘導プレート7,7は、主搬送路231から上方へ圧入しつつ下流へ向かう搬送用エアを二等分するV字状の楔として機能する。下部カバー体222においても同様に、左右一対の誘導プレート7,7は、第1分岐誘導部222a1と第2分岐誘導部222b1との連結部にて当接、或いは近接させる。
【0057】
一方、誘導プレート7の下流側端部は、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1と第1,第2外方誘導部221a2,221b2との連結部(或いは、第1,第2分岐誘導部222a1,222b1と第1,第2外方誘導部222a2,222b2との連結部)近傍に位置させる。かくすれば、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に各々設けた誘導プレート7により、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ円滑に搬送流を誘導できる。
【0058】
このように誘導プレート7を配置すると、主搬送路231から上,下部カバー体221,222へ圧入された搬送用エアは、誘導プレート7に沿って、滑らかに第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ誘導される。誘導プレート7を設けた搬送管2,2-0の実験結果では、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導される搬送用エアは80%以上と大幅に改善された。
【0059】
次に、各エア帰還孔24から主搬送路231へ流入した帰還流の挙動を
図5に基づいて説明する。なお、
図5(A)~(C)は、搬送管2-0の上部カバー体221を搬送方向へ略水平に切り欠いて、主搬送路231と第1,第2帰還誘導空部233a,233bを情報から見た状態を示す。
図5(A)~(C)において、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれた循環流Fgが帰還ガイド部25のエア導入開口25aから導入されて帰還流となる。また、エア導入開口25aへ導入されずに帰還ガイド部25の下流側へ至った搬送用エアの一部は、更に下流のエア帰還孔24から帰還流となる可能性がある。
【0060】
図5(A)に示すのは、理想的な設計の搬送管2-0aであり、第1,第2主搬送壁211,212の各エア帰還孔24からの帰還流によって、内壁面211b,212bに沿った側方流Fr,Frが形成され、これらに挟まれて搬送方向へ直進する中央流Fcが形成される。搬送管2-0aにおいては、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んで、帰還流と干渉して乱流を生ずることはないので、帰還ガイド部25の角度調整により制御できる流入角度で帰還流を中央流Fc内へ到達させることができる。
【0061】
なお、中央流Fcを両側から中央へ閉じ込め得るような流速の側方流Fr,Frが得られる場合、各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込まない構造の搬送管2-0aを設計することは現実的でないが、あくまで仮想上の理想設計である。搬送管2-0aでは、紙幣3の両側面へ帰還流を到達させると、紙幣3は中央流Fc内を左右に大きく蛇行すること無く、略中央へ安定的に保持され、更には、帰還流より搬送方向(下流)へ向かう力を受けて、効率良く搬送されることとなる。
【0062】
このとき、紙幣3の両側面へ到達する帰還流の流速は、強過ぎたり、弱過ぎたりしない、程良い流速が望ましい。帰還流が強過ぎて、主搬送路231の中央付近を超えると、対抗する帰還流との干渉の関係で乱流が発生し、紙幣3がこの乱流に巻き込まれてしまうため、搬送効率が低下してしまう。帰還流が弱くて、主搬送路231の中央付近にある紙幣3まで届かなければ、搬送方向への力を紙幣3に与えることができず、紙幣3は左右へフラフラと蛇行することになり、効率的な搬送は困難である。すなわち、紙幣3の両側面へ到達する帰還流の流速は、対向する帰還流の干渉による乱流が生じるほど強過ぎず、主搬送路231の中央付近へ届く程度の流速が望ましいのである。
【0063】
上述したように、エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流が強い場合には、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を長くすれば良い。また、エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流が弱い場合には、帰還流の流入角度を大きくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を短くすれば良い。しかしながら、帰還流を主搬送路231の中央付近へ届かせるために流入角度を大きくする(90゜に近づける)と、搬送方向へ向かわせる力が弱くなり、本来の搬送機能が損なわれる。
【0064】
よって、エア帰還孔24から得られる帰還流が弱すぎる場合には、誘導プレート7を設けるといった対策を行うことが望ましい。このほか、適切な帰還流を得るための対策として、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれた循環流Fgを効率良くエア導入開口25aへ流入させることが考えられる。エア導入開口25aへ流入せずに帰還ガイド部25の下流側へ至った搬送用エアは、上,下部カバー体221,222の内壁面と帰還ガイド部25の傾斜面とで形成される拡開空間内で乱流を生じ、循環流Fgとは異なる向きの流れとなるため、下流の循環流Fgに悪影響を及ぼす可能性がある。その影響を減らすために、帰還ガイド部25の配設間隔(エア帰還孔24の配設間隔)、帰還ガイド部25の傾斜角度(帰還流の流入角度)、エア導入開口25aの開口形状等を適切に設定すると、適切な帰還流を得られる可能性がある。
【0065】
図5(B)に示すのは、十分な帰還流が得られない設計となった搬送管2-0bであり、内壁面211b,212bに沿った両サイドの側方流Fr,Frが弱いために、中央流Fcが左右に広がってしまった状態である。搬送管2-0bにおいては、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んでも、帰還流と干渉して有害な乱流を生じ難い反面、帰還流を中央流Fc内中心付近の紙幣3まで到達させることは困難である。側方流中央流Fc内中心付近の紙幣3の両側面へ帰還流を到達させることができないと、上述した搬送管2-0aのような高い搬送効率は得難い。
【0066】
搬送管2-0bにおいては、帰還流が弱いために内壁面211b,212b付近にしか影響を与えられないので、紙幣3は左右に広がった中央流Fc内を左右に大きく蛇行しながら流れてゆく可能性が高く、紙幣3は不安定な状態となってしまう。また、なんらかの理由で紙幣3が内壁面211b,212bに接触しエア帰還孔24を塞いでしまうと、帰還流が発生しなくなり、そのまま内壁面211b,212bに紙幣3が張り付いてしまう危険性がある。そうなると、外部から力を加えない限り、紙幣3は内壁面211b,212bから外れないため、搬送されなくなってしまう。
【0067】
図5(C)に示すのは、強すぎる帰還流がエア帰還孔24より主搬送路231内へ流入する設計となった搬送管2-0cであり、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んで、強い帰還流と干渉して渦状の乱流を生じてしまった状態である。この乱流の影響で、主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3には細かな振動が繰り返し生じるため、効率的な搬送は実現できない。
【0068】
加えて、搬送管2-0cのように帰還流が強すぎる場合、更なる問題が生じる可能性がある。例えば、
図6に示す紙幣(癖札3′)のように、表面3aと裏面3bが非対称となる折り目を付けられると、癖札3′の両側から同じ強さの帰還流が作用しても、癖札3′の表面3aと裏面3bが異なる力を受ける可能性がある。
【0069】
図6(A),(B)の癖札3′は、長手方向の上縁31tおよび下縁31bとほぼ平行で等間隔の上折れ線32a、中折れ線32b、下折れ線32cで折り曲げ癖が付けられている。上折れ線32aは表面3a側が谷(裏面3b側が山)、中折れ線32bは表面3a側が山(裏面3b側が谷)、下折れ線32cは表面3a側が谷(裏面3b側が山)である。このため、上縁31tと上折れ線32aとの間である第1折れ部331、上折れ線32aと中折れ線32bとの間である第2折れ部332、中折れ線32bと下折れ線32cとの間である第3折れ部333、下折れ線32cと下縁31bとの間である第4折れ部334は、互いに傾斜方向が異なる。例えば、上縁31tが上に、下縁31bが下になるように癖札3′を立てておいたとき、第1折れ部331と第3折れ部333は表面31a側が上向きの面、第2折れ部332と第4折れ部334は裏面31b側上向きの面となる。
【0070】
この癖札3′の表面31a側が第1主搬送壁211に、裏面31b側が第2主搬送壁212に対向するように、搬送管2-0cの主搬送路231中央付近に配置した状態を
図7(a)に示す。第1主搬送壁211の各エア帰還孔24からの帰還流と、第2主搬送壁212の各エア帰還孔24からの帰還流は同等で、極端な偏りは無く、他方の内壁面211b,212bまで到達し得るほどの強さとする。しかしながら、癖札3′の表面3aと裏面3bで受ける力が異なるため、
図7(B)に示すように、癖札3′は、第1主搬送壁211側へ押圧されることとなる。
【0071】
具体的には、第2主搬送壁212に面した癖札3′の裏面3bの上半部では、上側のエア帰還孔24からの帰還流を第1折れ部331と第2折れ部332で受け、その流体圧は上折れ線32aへ集中する。同じく、癖札3′の裏面3bの下半部では、下側のエア帰還孔24からの帰還流を第3折れ部333と第4折れ部334で受け、その流体圧は下折れ線32cへ集中する。したがって、癖札3′の裏面3bには、帰還流によって第1主搬送壁211側へ押圧する力が効率良く作用する。
【0072】
一方、第1主搬送壁211に面した癖札3′の表面3aの上半部では、上側のエア帰還孔24からの帰還流を第1折れ部331と第2折れ部332で受けるが、第1折れ部331の流体圧は上方へ抜けてしまい、横方向に受ける圧力は減ぜられる。同じく、癖札3′の表面3aの下半部では、下側のエア帰還孔24からの帰還流を第3折れ部333と第4折れ部334で受けるが、第4折れ部334の流体圧は下方へ抜けてしまい、横方向に受ける圧力は減ぜられる。したがって、癖札3′の表面3aには、第2折れ部332と第3折れ部333で受けた帰還流が中折れ線32bへ集中して、第2主搬送壁212側へ癖札3′を押す力として作用するが、第1折れ部331と第4折れ部334への押圧力はさほど作用しない。
【0073】
図7に示すように、第1主搬送壁211の各エア帰還孔24から流入する帰還流と、第2主搬送壁212の各エア帰還孔24から流入する帰還流とが同等であっても、癖札3′の裏面3bに作用する力が癖札3′の表面3aに作用する力に勝る。このため、癖札3′は第1主搬送壁211の内壁面211bに押しつけられることとなり、内壁面211b,212bに張り付いたまま搬送不能状態となる危険性がある。
【0074】
このように、密着阻止手段を設けていない搬送管2-0では、帰還流が弱すぎても、帰還流が強すぎても、紙幣3が内壁面211b,212bに張り付いてしまう危険性があり、紙幣3の安定した搬送を行うことができない。一方、本実施形態の紙幣搬送装置1では、搬送管2内に密着阻止手段を設けることで、紙幣3が第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに張り付くことを抑制し、紙幣3の安定した搬送を行うことが可能となる。
【0075】
上述した第1構成例の搬送管2では、密着阻止手段として、中央側区間リブ26または端部側区間リブ26′を用いたが、リブは、本来途切れることなく連続した状態で設けることが望ましい。そこで、
図8に示す第2構成例の搬送管2′は、隣り合う2つのエア帰還孔24の間である密着阻止領域BAから、その密着阻止領域BAの上流側に位置するエア帰還孔24の上流側縁部まで通して設けた通しリブ27を備える。密着阻止領域BAは密着阻止区間213b内であって、エア帰還孔24の端部側開口縁243よりも中央側、エア帰還孔24の中央側開口縁244よりも端部側に制限された領域である。この密着阻止領域BAと、その上流側に位置するエア帰還孔24とが連続する範囲を基準連続範囲RCRとすると、通しリブ27は複数の基準連続範囲RCRに連続して設けられる。すなわち、通しリブ27は、2つ以上の基準連続範囲RCRで継ぎ目無く連続する長尺な凸状体である。この通しリブ27の凸形状は、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bから突出する第1面271と、第1面271とほぼ平行に突出する第2面272と、これら第1面271と第2面272の突出端を連結する滑らかな弧状突出面273を備える。
【0076】
ただし、通しリブ27は、搬送方向とほぼ平行に設けることで、主搬送路231内へ流入する帰還流に悪影響が出ないようにする。さらに、通しリブ27は、各エア帰還孔24の上下方向中心位置(中心線CLを含む位置)に設けることが望ましい。通しリブ27がエア帰還孔24の上下方向中心位置よりも端部方向あるいは中央方向に設けられていると、前述したように、帰還流の上下方向への拡散に影響を与えてしまい、紙幣3の壁面吸着現象を抑制できなくなる可能性がある。しかしながら、上下方向に対称な開口形状としたエア帰還孔24の上下方向中心位置に通しリブ27を設けた場合には、帰還流の上下方向への拡散に殆ど影響を与えないので、紙幣3の壁面吸着現象を帰還流によって抑制できる。無論、帰還流の上下方向への拡散に悪影響が無い範囲であれば、エア帰還孔24の上下方向中心位置から若干上下にずらして通しリブ27を設けても良い。
【0077】
また、通しリブ27と第1,第2主搬送壁211,212とを一体成形すれば、第1,第2主搬送壁211,212と同一長さで切れ目のない通しリブ27を形成できる。無論、第1,第2主搬送壁211,212と通しリブ27を別体として設けても良い。その場合には、適宜長さの通しリブ27を継ぎ足しながら第1,第2主搬送壁211,212の全域に配設すれば良い。なお、第1,第2主搬送壁211,212の壁長よりも短い通しリブ27を継ぎ足す場合は、継ぎ目が密着阻止領域BA内となるようにすることが望ましい。継ぎ目がエア帰還孔24内にあると、通しリブ27を繋ぎ合わせる作業が繁雑になる上、長時間に亘って帰還流が継ぎ目に作用して強度が低下したり継ぎ目が外れたりする危険がある。
【0078】
上述した第2構成例の搬送管2′では、通しリブ27を1つ以上の基準連続範囲RCRを通して設け、紙幣3でエア帰還孔24が塞がれるような事態を確実に防げるので、紙幣3の壁面吸着抑制には十分と考えられる。しかしながら、通しリブ27の端部側や中央側に比較的広い平坦面があると、紙幣3が内壁面211b,212bへ張り付く可能性もある。そこで、
図9に示す第3構成例の搬送管2″では、通しリブ27に加えて、前述した中央側区間リブ26や端部側区間リブ26′を設けるようにした。このように、通しリブ27に加えて中央側区間リブ26および端部側区間リブ26′を設ければ、搬送中の紙幣3が吸着されるほどの広い平坦面が生じないので、紙幣3が内壁面211b,212bへ張り付く可能性を一層抑制できる。
【0079】
以上、本発明に係る紙葉類搬送装置を実施形態に基づき説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての紙葉類搬送装置を権利範囲として包摂するものである。
【符号の説明】
【0080】
1 紙幣搬送装置
2 搬送管
211 第1主搬送壁
212 第2主搬送壁
221 上部カバー体
221a1 第1分岐誘導部
221a2 第1外方誘導部
221b1 第2分岐誘導部
221b2 第2外方誘導部
222 下部カバー体
222a1 第1分岐誘導部
222a2 第1外方誘導部
222b1 第2分岐誘導部
222b2 第2外方誘導部
23 流体通過空間
231 主搬送路
232a 第1流体誘導空部
232b 第2流体誘導空部
233a 第1帰還誘導空部
233b 第2帰還誘導空部
24 エア帰還孔
26 中央側区間リブ
3 紙幣