(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】羽根車及び水中ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/24 20060101AFI20230815BHJP
F04D 7/04 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
F04D29/24 C
F04D29/24 B
F04D7/04 J
(21)【出願番号】P 2019229553
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000148209
【氏名又は名称】株式会社川本製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 央隆
(72)【発明者】
【氏名】矢田 怜也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利造
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特公昭40-003655(JP,B1)
【文献】実開昭57-040691(JP,U)
【文献】特開2007-51592(JP,A)
【文献】特開昭59-90794(JP,A)
【文献】実開平1-141400(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/24
F04D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定される上シュラウドと、
前記上シュラウドと対向して設けられ、その中心に吸込口を有する下シュラウドと、
前記上シュラウド及び前記下シュラウド間に一体に成形され、一方の端部側が前記下シュラウドの吸込口に沿って設けられ、前記吸込口から前記下シュラウド及び前記上シュラウドの外周縁まで延びる第1羽根、並びに、一方の端部が前記第1羽根と一体に前記吸込口に配置され、前記第1羽根との間に隙間を有して前記吸込口及び前記第1羽根間に設けられ、前記吸込口から前記外周縁側に向かって延びるとともに前記外周縁側の端部が前記外周縁と離間する第2羽根を含む羽根と、
を備えることを特徴とする羽根車。
【請求項2】
前記羽根は、前記第1羽根と前記下シュラウドの軸心周りで対称位置に設けられ、前記吸込口から前記外周縁側に向かって延びるとともに、前記外周縁側の端部が前記外周縁と離間する第3羽根をさらに有する、請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
前記第1羽根及び第2羽根の前記吸込口の端部並びに前記第3羽根の前記吸込口の端部は、前記第3羽根側の前記吸込口の周囲で一体に連続する、請求項2に記載の羽根車。
【請求項4】
前記対称位置とは、前記第1羽根の前記外周縁側の曲率中心と前記第1羽根の外周面の前記外周縁と面一となる部位とを結ぶ線並びに前記第3羽根の前記外周縁側の曲率中心と前記第3羽根の前記外周縁側の端部とを結ぶ線が、前記第1羽根の外周面の前記外周縁と面一となる部位、前記吸込口の中心及び前記第3羽根の前記外周縁側の端部とを結ぶ線にして同じ角度となる前記第1羽根及び前記第3羽根の位置である、請求項2に記載の羽根車。
【請求項5】
モータと、
ポンプケーシングと、
一端が前記モータに接続され、他端が前記ポンプケーシング内に配置される回転軸と、
回転軸に固定される上シュラウドと、前記上シュラウドと対向して設けられ、その中心に吸込口を有する下シュラウドと、前記上シュラウド及び前記下シュラウド間に一体に成形され、一方の端部側が前記下シュラウドの吸込口に沿って設けられ、前記吸込口から前記下シュラウド及び前記上シュラウドの外周縁まで延びる第1羽根、並びに、一方の端部が前記第1羽根と一体に前記吸込口に配置され、前記第1羽根との間に隙間を有して前記吸込口及び前記第1羽根間に設けられ、前記吸込口から前記外周縁側に向かって延びるとともに前記外周縁側の端部が前記外周縁と離間する第2羽根を含む羽根と、を含む羽根車と、
を備える水中ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水等を送水する羽根車及び水中ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
汚水等の送水に用いる水中ポンプは、渦巻形のケーシング内に羽根車が収容された渦巻ポンプが用いられる。このような水中ポンプは、例えば、羽根車が回転することで、ケーシングの下面に設けられた吸込口から汚水を吸い込み、ケーシングの側面に設けられた吐出口から吐出する。
【0003】
このような汚水等の送水に用いられる水中ポンプは、汚水中に含まれた異物が回転軸や羽根車等に巻き込まれることによる故障等を防止するために、汚水中に含まれる汚物を確実に排出できる構成が要求される。
【0004】
このため、例えば、羽根車として、一枚のシュラウドに羽根が複数設けられた所謂セミオープン羽根と呼ばれるものが用いられる。しかし、このような羽根車は、ポンプ効率が悪いことから、高効率が要求される場合においては、所謂クローズド羽根やノンクロッグインペラと呼ばれる羽根車が用いられたものが知られている。
【0005】
このようなクローズド羽根を用いた羽根車は、二枚のシュラウド間に羽根が設けられる構成であり、セミオープン羽根を用いた羽根車に比べて、羽根車内に異物が巻き込まれる虞が高い。
【0006】
このため、異物の巻き込みを防止するために、クローズド羽根としてシュラウド間に一枚の羽根を設けた羽根車が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一枚羽根の羽根車は、ポンプ効率を向上させるために、羽根の厚みを厚くする技術が知られている。このような羽根車の羽根は、例えば、羽根車の中心側に位置する一端側から中央側に向かって漸次その厚みが厚くなり、当該中央側から羽根車の外周側に位置する他端側に向かって漸次その厚みが薄くなる構成が知られている。しかしながら、このような羽根車は、シュラウド間に羽根が一枚だけ設けられる構成であるとともに、その羽根の厚みが異なることから、配置や重量等の機械的バランスが悪く、振動や騒音の増加する虞がある。
【0008】
そこで、羽根を中空にする羽根車も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また、羽根車に、軸方向に互いに対向して窪む第1の窪み及び第2の窪みを設ける技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。この羽根車は、一方、例えば第2の窪みが、軸方向であって重力方向に対して上方に窪む構成であり、このため、第2の窪みに空気溜まりが発生する。この空気溜まりを除去するために、特許文献3においては、第1の窪み及び第2の窪みを連通する連通穴を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-77671号公報
【文献】特許第5964576号公報
【文献】特許第5384322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した羽根車は、一枚羽根であることから、吸込口から吐出口へ向かう間の羽根及び一対のシュラウドにより形成される流路面積が一定でない。このため、上述した羽根車を用いた水中ポンプは、ポンプ効率が悪い、という問題がある。また、羽根を二枚用いる羽根車も知られているが、羽根車を通過可能な粒径が小さくなることから、水中ポンプを設置する環境、即ち圧送する汚水の種類によっては使用できない虞もある。
【0012】
そこで本発明は、ポンプ効率を向上可能な羽根車及び水中ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、羽根車は、回転軸に固定される上シュラウドと、前記上シュラウドと対向して設けられ、その中心に吸込口を有する下シュラウドと、前記上シュラウド及び前記下シュラウド間に一体に成形され、前記下シュラウドの吸込口から前記下シュラウド及び前記上シュラウドの外周縁まで延びる第1羽根、並びに、前記第1羽根と前記吸込口側で一体であって、且つ、前記第1羽根との間に隙間を有して前記吸込口及び前記第1羽根間に設けられ、前記吸込口から前記外周縁側に向かって延びるとともに前記外周縁側の端部が前記外周縁と離間する第2羽根を含む羽根と、を備える。
【0014】
本発明の一態様によれば、水中ポンプは、モータと、ポンプケーシングと、一端が前記モータに接続され、他端が前記ポンプケーシング内に配置される回転軸と、前記回転軸に固定される上シュラウドと、前記上シュラウドと対向して設けられ、中心に吸込口を有する下シュラウドと、前記上シュラウド及び前記下シュラウド間に一体に成形され、前記下シュラウドの吸込口から前記下シュラウド及び前記上シュラウドの外周縁まで延びる第1羽根、並びに、前記第1羽根と前記吸込口側で一体であって、且つ、前記第1羽根との間に隙間を有して前記吸込口及び前記第1羽根間に設けられ、前記吸込口から前記外周縁側に向かって延びるとともに前記外周縁側の端部が前記外周縁と離間する第2羽根を含む羽根とを含む羽根車と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポンプ効率を向上可能な羽根車及び水中ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水中ポンプの構成を一部断面で示す説明図。
【
図4】実施形態に係る羽根車と比較例の羽根車の流路断面積を示す説明図。
【
図5】水中ポンプと比較例の水中ポンプのポンプ性能を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態に係る水中ポンプ1を、
図1を用いて説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る水中ポンプ1の構成を一部断面で示す説明図、
図2は、水中ポンプ1に用いられる羽根車42の構成を
図1中II-II線断面で示すとともに、第1羽根61及び第2羽根62の吸込口58側の端部から第3羽根63までの距離を示す説明図である。
図3は、比較例に係る羽根車142の構成であって、且つ、第1羽根61及び第2羽根62の吸込口58側の端部から第1羽根61までの距離を示す説明図である。
【0018】
図4は、羽根車42と比較例の羽根車の流路断面積を示す説明図である。
図5は、水中ポンプ1と比較例の水中ポンプのポンプ性能を示す説明図である。なお、
図1中、Fは水の流れを示す。
【0019】
図1に示すように、水中ポンプ1は、モータ10と、軸封装置11と、ポンプ12と、を備えている。このような水中ポンプ1は、汚水槽及び下水道等に設置され、異物(汚物等)を含む汚水を送水する所謂水中汚水ポンプと呼ばれるものである。
【0020】
モータ10は、モータケーシング21と、固定子22と、回転子23と、回転軸24と、を備えている。またモータ10は、回転軸24を回転可能に支持する複数の軸受25と、固定子22を外部電源等に接続する電源ケーブル26と、を有している。モータケーシング21は、両端が閉塞する円筒形状に形成され、一方の端面が軸封装置11にボルト90等により固定される。
【0021】
固定子22は、モータケーシング21の内面に固定されている。また固定子22は、電源ケーブル22aを介して供給された電力により、回転子23を回転可能に形成されている。回転子23は、その回転に追従して回転軸24を回転可能に、回転軸24と固定されている。
【0022】
回転軸24は、モータケーシング21の一端側から突出し、且つ、モータケーシング21にベアリング等の軸受25を介して回転自在に軸支されている。なお、回転軸24は、水中ポンプ1を設置面に設置した姿勢において、モータケーシング21から重力方向に延設される。
【0023】
軸封装置11は、シールケーシング30と、メカニカルシール31と、を備えている。
軸封装置11は、モータ10、ポンプ12及び回転軸24間を液密に仕切る。
【0024】
シールケーシング30は、内部にメカニカルシール31を収納可能に形成されている。
このようなシールケーシング30は、両端が閉塞する円筒状に形成され、その両端面に回転軸24を挿通する挿通孔33を備えている。また、シールケーシング30は、その内部に、メカニカルシール31の潤滑油を充満可能な油室34を形成する。
【0025】
メカニカルシール31は、シールケーシング30と回転軸24との間を密閉することで、ポンプ12からの汚水の浸入及びモータ10への潤滑油の浸入を防止可能に形成されている。
【0026】
ポンプ12は、ケーシング41と、羽根車42と、を備えている。ケーシング41は、その内部に羽根車42を収納する渦巻ケーシングであり、その内部にポンプ室43を形成する。ケーシング41は、組み立てることでその内部にポンプ室43を形成する上部材44及び下部材45を有し、羽根車42を回転軸24に固定した状態で分解可能に形成されている。
【0027】
上部材44は、本実施の形態では、シールケーシング30の一部に一体に形成されている。上部材44は、上述した挿通孔33の下方に、羽根車42を回動可能に指示する第1支持部47を有している。
【0028】
下部材45は、水中ポンプ1を据付面に据付ける複数の脚部48を備えている。また、下部材45は、その底面であって、複数の脚部48間に設けられた吸込開口49と、その側面に設けられた吐出開口50と、を備えている。
【0029】
なお、吐出開口50は、その口径(吐出径)が羽根車42を通過可能な粒径の異物を通過可能に形成されている。具体的には、吐出開口50の口径は、羽根車42を通過可能な所定の粒径の異物と略同一径に形成されている。ここで、羽根車42を通過可能な所定の粒径の異物とは、水中ポンプ1の吐出開口50の口径(吐出径)と同直径(所定の粒径)の球形固形物である。
【0030】
吸込開口49は、羽根車42の後述する吸込口58と略同一の口径に形成されている。
吸込開口49は、羽根車42を回動可能に支持する第2支持部49aを有している。なお、挿通孔33、第1支持部47及び第2支持部49aには、回転軸24及び羽根車42と摺動可能なライナリング91が設けられる。第1支持部47及び第2支持部49aは、これらライナリング91の内面により形成される。
【0031】
羽根車42は、ノンクロッグのクローズド羽根車であって、所定の粒径の異物を通過可能に形成されている。このような羽根車42は、軸封装置11側に配置される上シュラウド52と、吸込開口49側に配置される下シュラウド53と、これらシュラウド52,53間に設けられた羽根54と、を備えている。羽根車42は、樹脂材料又は金属材料により形成される。
【0032】
また、羽根車42は、下シュラウド53に設けられた流体を吸込む吸込口58と、上シュラウド52、下シュラウド53及び羽根54により形成され、吸込んだ流体を吐出する吐出口65を有している。このような羽根車42は、上シュラウド52、下シュラウド53及び羽根54が射出成形や鋳造等により一体に又は別体に成型される。例えば、別体に各構成が成形された場合には、成形後に溶着等により一体に組み立てられる。
【0033】
上シュラウド52は、円板状に形成されている。上シュラウド52は、その中央側に、回転軸24が挿通可能であって、キー溝56aを有する挿通孔56が形成された第1被支持部57が形成されている。なお、上シュラウド52は、羽根車42が回転軸24に固定された際に、重力方向に対して下シュラウド53の上方に位置する。
【0034】
下シュラウド53は、円環状に形成されている。下シュラウド53は、その中央に吸込口58が形成されている。また、下シュラウド53は、その中央側が円環状に突起し、当該突起の外周側に第2被支持部59が形成されている。
【0035】
第1被支持部57は、ライナリング91を介して第1支持部47に回転及び摺動自在に支持される。第2被支持部59は、ライナリング91を介して第2支持部49aに回転及び摺動自在に支持される。
【0036】
羽根54は、上シュラウド52及び下シュラウド53間に一体に設けられる。羽根54は、第1羽根61と、第2羽根62と、第3羽根63と、を備えている。また、羽根54は、第1羽根61の一端側が、及び第2羽根62の吸込口58側の端部並びに第3羽根63の吸込口58側の端部を連結する連結壁64を構成する。
【0037】
例えば、第1羽根61、第2羽根62及び第3羽根63は、それぞれ異なる曲率半径で長手方向に湾曲してシュラウド52、53の径方向から外周縁に向かって延びる。また、例えば、第1羽根61、第2羽根62及び第3羽根63は、同じ厚さに形成される。
【0038】
第1羽根61は、一方の端部側が、シュラウド52、53の中心側であって、且つ、下シュラウド53の吸込口58の周縁に配置され、他方の端部がシュラウド52,53の外周縁に配置される。より具体的には、第1羽根61は、一方の端部から中央側に向かって吸込口58の周縁に配置され、そして、中央側から他方の端部までが、吸込口58から離れ、所定の曲率半径で湾曲してシュラウド52、53の外周縁まで延びる。第1羽根61は、一方側の端部によって構成する連結壁64により、第2羽根62及び第3羽根63と一体に形成される。
【0039】
第2羽根62は、吸込口58側の一方の端部が第1羽根61の吸込口58側において一体に形成される。第2羽根62は、吸込口58及び第1羽根61の間に第1羽根61との間に隙間を有して設けられ、吸込口58からシュラウド52、53の外周縁側に向かって延びる。また、第2羽根62は、シュラウド52、53の外周縁側の端部がシュラウド52、53の外周縁と離間する。具体例として、第2羽根62は、連結壁64の内周面から、換言すると、第1羽根61の一方の端部側のうち中央側の内周面から分岐して設けられる。第2羽根62は、第1羽根61側の端部が吸込口58の周縁に配置され、中央側から他方の端部側が吸込口58から離れ、所定の曲率半径で湾曲する。第2羽根62は、第1羽根61の一部と、第1羽根61の内周面と所定の距離を開けて対向して配置され、一端が第1羽根61と一体に、他端が第1羽根61と離間して配置される。第2羽根62は、吸込口58から羽根車42内の内部流路が一定に変化するように、第1羽根61と対向して設けられる。
【0040】
第3羽根63は、第1羽根61及び第2羽根62のそれぞれと、非対称形状に形成される。第3羽根63は、連結壁64の端部、換言すると、第1羽根61の吸込口58側の端部の外周面側から分岐して設けられる。第3羽根63は、吸込口58からシュラウド52、53の外周縁側に向かって延びるとともに、シュラウド52、53の外周縁側の端部がシュラウド52、53の外周縁と離間する。第3羽根63は、第1羽根61とシュラウド52、53の軸心周りで対称位置に設けられる。
【0041】
ここで、対称位置とは、実質的な対称位置を含む。具体例として、第1羽根61及び第3羽根63の対称位置とは、
図2に示すように、第1羽根61の外周縁側の曲率中心と第1羽根61の外周面の外周縁と面一となる部位61aとを結ぶ線を線L1、並びに、第3羽根63のシュラウド52、53の外周縁側の曲率中心と第3羽根63の外周縁側の端部63aとを結ぶ線を線L2としたときに、線L1及び線L2が、第1羽根61の外周面のシュラウド52、53の外周縁と面一となる部位61a、吸込口58の中心及び第3羽根63のシュラウド52、53の外周縁側の端部63aを結ぶ線Lcに対して同じ角度となる位置である。
【0042】
連結壁64は、上シュラウド52及び下シュラウド53間であって、且つ、第3羽根63と径方向で対向して設けられ、第1羽根61の吸込口58側の端部側により構成される。連結壁64は、第1羽根61と、第2羽根62の吸込口58側の端部及び第3羽根63の吸込口58側の端部を、吸込口58の縁部に沿って連結する。即ち、連結壁64は、吸込口58から吸い込まれた水を、第2羽根62及び第3羽根63の吸込口58側の端部間からシュラウド52、53の外周縁に向かう1つの流路を形成する。
【0043】
このように構成された羽根車42は、吸込口58側の第1羽根61及び第3羽根63の端部、並びに、吸込口58側の第2羽根62の端部が第1羽根61の端部側(連結壁64)で一体に形成される。この構成により、羽根車42は、吸込口58から第1羽根61の一端側(連結壁64)の内周面及び第3羽根63の端部間を通って吐出口65へ向かう位置の流路を形成するとともに、回転時に第1羽根61の外周面及び第3羽根63の外周面で水を圧送する。即ち、羽根車42は、第1羽根61及び第3羽根63により所謂1.5枚羽根のノンクロッグインペラを構成する。加えて、羽根車42は、第2羽根62によって、吸込口58から吐出口65への流路の流路断面積の変化量をおおよそ一定とし、過度な流路断面積の変化を抑制する。
【0044】
このように構成された羽根車42を備える水中ポンプ1によれば、第1羽根61の内周面に対向するように、第1羽根61の吸込口58側に配置された第2羽根62を有することで、吸込口58の二次側の流路における流路面積が一定となるように、当該流路面積の変化量を低減できる。これにより、羽根車42は、損失が低下することから、ポンプ効率を向上させることが可能となる。
【0045】
また、第1羽根61と径方向で対向するとともに、シュラウド52、53の外周縁側の端部がシュラウド52、53の外周縁よりも径方向でシュラウド52,53の中心側に位置する第2羽根62を有することで、羽根車42は、従来の中空に形成された肉厚の羽根を用いる構成に比べて回転時のスラスト荷重を小さくすることができる。
【0046】
また、羽根車42は、第1羽根61と羽根車42の回転中心(軸心)周りで対称位置、又は、略対称位置に第3羽根63が設けられることで、第1羽根61及び第3羽根63によって水を圧送することになることから、回転時のラジアル荷重を低減することができる。
【0047】
次に、
図2に示す本実施形態の羽根車42と
図3に示す比較例の羽根車142との評価試験を行う。なお、本実施形態の羽根車42及び比較例の羽根車142は、吸込口58の孔径はφ60mmに設定した例を用いた。
図3に示すように、比較例の羽根車142は、本実施形態の羽根車42の構成のうち、第2羽根62を有さない構成とし、その他の構成は本実施形態の羽根車42と同様の構成とした。
【0048】
先ず第1の評価試験として、羽根車42,142の軸方向に対して直交する方向における、羽根車42、142の第1羽根61の一端から第1位置、第2位置、第3位置、第4位置、第5位置における羽根車42内の流路断面積を比較した。
【0049】
なお、
図2及び
図3において、第1位置を(1)と、第2位置を(2)と、第3位置を(3)と、第4位置を(4)と、第5位置を(5)として示す。
【0050】
図2に示すように、羽根車42の第1羽根61の一端から第2羽根62の内周面までの幅は、第1位置において61mm、第2位置において59mm、第3位置において53mm、第4位置において48mm、第5位置において42mmであった。
【0051】
これに対し、
図3に示すように、第2羽根62を有さない羽根車142は、第1羽根61の一端から第1羽根61の内周面までの幅は、第1位置において64mm、第2位置において66mm、第3位置において66mm、第4位置において64mm、第5位置において59mmであった。
【0052】
また、羽根車42、142の両シュラウド52、53間の距離がおおよそ35mmであることから、羽根車42の流路断面積は、吸込口58において2826mm2、第1位置で2135mm2、第2位置で2065mm2、第3位置で1855mm2、第4位置で1680mm2、第5位置で1470mm2となる。
【0053】
これに対し、比較例の羽根車42の流路断面積は、吸込口58において2826mm2、第1位置で2240mm2、第2位置で2310mm2、第3位置で3310mm2、第4位置で2240mm2、第5位置で2065mm2となる。
【0054】
図4に、第1位置乃至第5位置における羽根車42、142の流路断面積のグラフを示す。
図4に示すように、羽根車42は、流路断面積が漸次低減することになるが、比較例の羽根車142は、第4位置で最も流路断面積が高くなる結果となった。
【0055】
次に、第2の評価試験として、羽根車42を用いた水中ポンプ1と、羽根車142を用いた水中ポンプとのポンプ性能曲線との比較試験の結果を、
図5に示す。なお、
図5に示す実線が、本実施形態の羽根車42を用いた水中ポンプ1のポンプ性能曲線であり、破線が従来例の羽根車を用いた水中ポンプのポンプ性能曲線である。
【0056】
図5に示すように、本実施形態の羽根車42を用いた水中ポンプ1は、比較例の羽根車142を用いた水中ポンプ1に比べて、電流値及び軸動力は略変わらなかったが、全揚程及びポンプ効率が向上した。特に、羽根車42を用いた水中ポンプ1は、比較例の羽根車142を用いた水中ポンプ1に比べ、最高でポンプ効率が7%向上した。
【0057】
これらの結果からも、第2羽根62を有することで、羽根車42の吸込口58からの流路断面積が略一定に変化する構成とすることで、第2羽根62を有さない構成に比較して、ポンプ効率を向上させることができる。また、同様に、第3羽根63を有さない構成とした場合であっても、第1羽根61に加えて第2羽根62を設けることで、同様の理由から、ポンプ効率を向上できることが推定できる。
【0058】
上述したように、本発明の一実施形態に係る羽根車42を用いた水中ポンプ1によれば、ポンプ効率を向上可能となる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。上述した例では、羽根54は、第1羽根61、第2羽根62、第3羽根63及び連結壁64を有する構成を説明したがこれに限定されない。例えば、羽根54は、第1羽根61、第2羽根62及び連結壁64を有し、第3羽根63を有さない構成であってもよい。第3羽根63を有さない場合には、ラジアル荷重は、従来の一枚羽根と同程度となるが、第2羽根62によって吸込口58の二次側の流路面積を極力一定とすべく、当該流路面積の変化量を低減することができることから、ポンプ効率を向上させることができる。
【0060】
また、例えば、上述した例では、羽根車42は、上シュラウド52、下シュラウド53及び羽根54を射出成形や鋳造により製造する構成を説明したが、羽根車42の製造方法はこれに限定されない。また、例えば、上シュラウド52を、下シュラウド53及び羽根54を別体に製造する場合には、例えば、上シュラウド52及び羽根54を射出成形にて樹脂材料により一体に成形し、下シュラウド53を射出成形にて樹脂材料により成形し、その後、溶着等により羽根54に下シュラウド53を一体にしてもよい。また、上シュラウド52、下シュラウド53及び羽根54を全て別体で製造し、それぞれ接合させる構成であってもよい。即ち、羽根54の凹部55の下端を下シュラウド53の開口と連続させる構成であれば、適宜設定可能である。
【0061】
また、上述した例では、羽根車42は、上シュラウド52、下シュラウド53及び羽根54を有する構成を説明したがこれに限定されない。例えば、羽根車42は、上シュラウド52及び羽根54を有し、下シュラウド53を有さない構成としてもよい。このような羽根車42を水中ポンプに用いる場合には、例えば、ケーシング41の形状のうち、羽根車42と対向する部位の形状を下シュラウド53と同形状とすれば良い。
【0062】
さらに、上述した例では、第1羽根61、第2羽根62及び第3羽根63を有する1.5枚羽根の羽根車42の例を挙げたが、これに限定されない。例えば、羽根車42は、第1羽根61を有する1枚羽根とし、流路断面積の変化量を一定とすべく、さらに第2羽根62を有する構成とし、第3羽根63を有さない構成としてもよい。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0064】
1…水中ポンプ、10…モータ、11…軸封装置、12…ポンプ、21…モータケーシング、22…固定子、22a…電源ケーブル、23…回転子、24…回転軸、25…軸受、26…電源ケーブル、30…シールケーシング、31…メカニカルシール、33…挿通孔、34…油室、41…ケーシング、42…羽根車、43…ポンプ室、44…上部材、45…下部材、47…第1支持部、48…脚部、49…吸込開口、49a…第2支持部、50…吐出開口、52…上シュラウド、53…下シュラウド、54…羽根、55…凹部、56…挿通孔、56a…キー溝、57…第1被支持部、58…吸込口、59…第2被支持部、61…第1羽根、61a…部位、62…第2羽根、63…第3羽根、63a…端部、64…連結壁、65…吐出口、90…ボルト、91…ライナリング。