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特許7330519生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサ、およびこのようなセンサを使用する、試料における生物学的または化学的因子の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサ、およびこのようなセンサを使用する、試料における生物学的または化学的因子の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
G01N27/02 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020542757
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 IB2019050935
(87)【国際公開番号】W WO2019155366
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P.424524
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】520292394
【氏名又は名称】センスディーエックス エス・アー
【氏名又は名称原語表記】SENSDX S.A.
【住所又は居所原語表記】ul. Postepu 14B, Warszawa Republic of Poland
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】クプチュナス アルトゥル
(72)【発明者】
【氏名】ニヅヴォルスキ ダヴィトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ウルバィンスキ クシシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】ムニフ ヤクプ
(72)【発明者】
【氏名】パラ カタジナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンデク トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】チャチィク エルジュビェタ
(72)【発明者】
【氏名】ヂョンボフスカ カロリナ
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/006677(WO,A1)
【文献】特開2004-117342(JP,A)
【文献】特開2013-057669(JP,A)
【文献】特開2010-160151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0241423(US,A1)
【文献】特表2005-536718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/404
G01N 27/414 - G01N 27/416
G01N 27/42 - G01N 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポテンショスタット・システムにおける生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサであって、エッジ・コネクタの形態の前記センサのエッジにつながる電気接点と共に、照合電極REおよび対電極CEを含み、前記センサは、nは2~256の範囲にあるn個の作用電極WEn(7)を含有し、前記照合電極RE(3)は全ての前記作用電極WEn(7)に対して共通しており、前記作用電極WEn(7)によって存在するこの断片は、測定セグメント(8)RE-CE-WEnを形成し、前記作用電極WEn(7)は、均一の円形であり、前記対電極CE(4)に対称的に位置し、前記対電極CE(4)のエッジは、これらの円と同心の円周形状を有し、前記照合電極RE(3)は、前記対電極CE(4)と前記作用電極WEn(7)との間に位置し、前記照合電極RE(3)の形状は前記対電極CE(4)の外形と同じであり、前記作用電極WEn(7)と前記対電極CE(4)と前記照合電極RE(3)とは、前記生物学的または化学的因子試料(2)で覆われ、2~256の前記生物学的または化学的因子試料の測定が同時に行われ、前記測定は、前記作用電極WEn(7)が前記対電極CE(4)として動作し、前記対電極CE(4)が前記作用電極WEn(7)として動作する逆の配置で行われることを特徴とする、センサ。
【請求項2】
ポテンショスタット・システムにおける生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサであって、エッジ・コネクタの形態の前記センサのエッジにつながる電気接点と共に、照合電極REおよび対電極CEを含み、前記センサは、nは2~256の範囲にあるn個の作用電極WEn(7)を含有し、前記照合電極RE(3)は全ての前記作用電極WEn(7)に対して共通しており、前記作用電極WEn(7)によって存在するこの断片は、測定セグメント(8)RE-CE-WEnを形成し、前記作用電極WEn(7)は、均一の円形であり、前記対電極CE(4)に対称的に位置し、前記対電極CE(4)のエッジは、これらの円と同心の円周形状を有し、前記照合電極RE(3)は、前記対電極CE(4)と前記作用電極WEn(7)との間に位置し、前記照合電極RE(3)の形状は前記対電極CE(4)の外形と同じであり、前記作用電極WEn(7)と前記対電極CE(4)と前記照合電極RE(3)とは、前記生物学的または化学的因子試料(2)で覆われ、2~256の前記生物学的または化学的因子試料の測定が同時に行われ、前記照合電極RE(3)が前記対電極CE(4)として動作し、前記対電極CE(4)が前記照合電極RE(3)として動作する逆の配置で行われることを特徴とする、センサ。
【請求項3】
少なくとも2つの作用電極WEn(7)は、外面上が前記生物学的または化学的因子試料(2)における前記生物学的または化学的因子の1つのタイプのみと反応するセンサ材料(9)の層で覆われていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
少なくとも2つの作用電極WEn(7)はさまざまなセンサ材料(9)で覆われていることを特徴とする、請求項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記センサ材料(9)は生物学的または合成タイプの材料であり、これらは、前記生物学的または化学的因子試料(2)における前記生物学的または化学的因子を検出するための、選択的抗体、抗体断片、ペプチド、核酸配列であることを特徴とする、請求項又はに記載のセンサ。
【請求項6】
前記作用電極WEn(7)の数をコード化するためにさらなる接続および/または非接続電極(13)を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記作用電極WEn(7)、前記対電極CE(4)、および前記照合電極RE(3)の配置構成は、同一形状の繰り返し測定セグメント(8)を構成し、前記作用電極WEn(7)、前記対電極CE(4)、および前記照合電極RE(3)の間のそれぞれの測定セグメント(8)における距離は同じであり、さらに、前記作用電極WEn(7)、前記対電極CE(4)の断片、および前記照合電極RE(3)の断片の領域は、対応して、それぞれのセグメントにおいて同じであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項8】
前記作用電極WEn(7)、前記照合電極RE(3)、および前記対電極CE(4)の前記配置構成および形状は対称軸を有することを特徴とする、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記エッジ・コネクタは、測定システムのスロットにおける前記センサ(1)の正確な場所を、前記センサ(1)を前記スロットに置く間に測定スロット接点を接続することによって同定することを対象としている、前記作用電極WEn(7)、前記照合電極RE(3)、および前記対電極CE(4)と無関係の電気回路を構成する接触点(11)を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記エッジ・コネクタは、HDMI(登録商標)ポート(High Definition Multimedia Interface)またはディスプレイポート(universal digital interface)であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項11】
試料における生物学的または化学的因子の検出方法であって、
懸濁液または溶液の形態の前記生物学的または化学的因子の前記試料(2)は、請求項1から10のいずれか一項に記載のセンサに置かれ、前記作用電極WEn(7)、前記対電極CE(4)、および前記照合電極RE(3)は全て、前記懸濁液または溶液の形態の前記試料(2)で覆われ、その後、インピーダンス分光法またはボルタンメトリーを使用して、2~256の試料のインピーダンス測定(2)が同時に行われ、これらの測定の結果に基づいて、前記試料(2)における前記生物学的または化学的因子の存在が判定されることを特徴とする、検出方法。
【請求項12】
前記生物学的または化学的因子は、病原体、ウィルス、バクテリア、菌類、タンパク質、およびこれらの断片、酵素、抗体、構造タンパク質、抗体断片、ペプチド、アフィボディ、核酸、一本鎖および二本鎖DNAを含むヌクレオチド配列、RNA、アプタマー、短鎖ヌクレオチド配列、脂肪酸、炭水化物、糖脂質、糖ペプチド、殺虫剤、他の有機化合物、抗生物質、重金属を含む無機化合物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、ポテンショスタット・システムにおける生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサであって、エッジ・コネクタの形態のセンサのエッジにつながる電気接点と共に、照合電極(RE)および対電極(CE)を含む、センサである。
【背景技術】
【0002】
現状技術では、生物学的試料における作用物質の高感度測定の問題を解決するいくつかの発明がある。米国特許出願第2014273549(A1)号の出願は、スロットを使用して測定装置と接続されるストリップの形態の(例えば、血液中のグルコースの測定用の)多電極単一チャネル生体認証センサに関する解決策を提示している。ストリップは、導体から作られる多くの電界を含有し、ストリップの周縁部は、センサ・スロットに適合するように形成され、かつ多くの接点を備える。説明されている装置は、数個の電極から成る1つの測定セグメントを含有する。WO2013114291A1の出願は、感知装置のスロットとの接続のためのエッジ・コネクタにつながる、トラックが形成された平板の形態の多チャネル温度センサに関する。平板は導体から作られる多くの電界を含有し、周縁部はセンサ・スロットに適合するように形成され、平板は多くの接触場(エッジ・コネクタ)を備える。測定は、同時にかつ並列に行われる。説明した解決策では、それぞれの測定場は独立した測定システムであり、多チャネル特性は測定システムの増倍によって実現され、回路線の数も増倍する。これらの測定システムのそれぞれは独立して動作するため、試料測定はそれぞれのチャネルにおいて同じ条件で行われない。さらに、電極のこのような分布によって測定時間は長くなり、測定誤差を排除する可能性は与えられない。
【0003】
米国特許第6391558(B1)号は、電気化学的方法に基づいて核酸を検出するためのシステムを提示している。該システムは、作用電極および照合電極のアレイを含むPCB表面上の電極を利用する。作用電極に印加される電位は多重化され、これによって1つの試料におけるさまざまなリガンドの検出が可能になる。センサ電極は、電極上の相互作用によって引き起こされた電気パルスおよび信号変化を検出するアナライザーと接続される。
【0004】
米国特許出願公開第20030042150(A1)号には、グルコース濃度およびコレステロール値などの血液パラメータを検出するための電気化学センサが記載されている。このシステムは、複数のパラメータの同時測定を可能にする多くの電極から成る。
【0005】
他方で、米国特許第6391558(B1)号には、プリント基板上の電極を使用する核酸検出方法が記載されている。電極は、銅、ニッケル、金、白金、およびパラジウムなどを含む、炭素または金属から作られ得る。プリント基板は、スクリーン印刷を使用して製造された後、フォトリソグラフィ加工される。この説明は、多重化せずにいくつかの電極上で同時測定を行う可能性を包含していない。
【0006】
電気化学的測定に基づくバイオセンサは、ポイント・オブ・ケア(PoC)装置において使用されることが多い。Wardらの出版物、PLOS ONE 2014 9 3 e91732、「Detecting P. aeruginosa with a Novel Biosensor」には、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して緑膿菌を判定する方法が記載されている。測定および結果解析は、電荷の移動を引き起こす、線毛、鞭毛、または細胞外タンパク質による微生物と電極面上の生体膜との結合後のインピーダンスの変化、または微生物によって生じた代謝産物の検出に基づく。
【0007】
国際特許出願WO2001083674A1には、生体分子、好ましくは、ストレプトアビジンと選択的に相互作用するビオチンの単分子膜で覆われる電極から作られる電気化学バイオセンサを使用して反応物を検出する方法が記載されている。他方では、Moreiraら(Sensor and Actuators B 223(2016)927~935)には、銀電極に基づいてセンサを製造するスクリーン印刷技術の利用が記載されている。センサは、がんバイオマーカーを認識する人工抗体を含むものであった。抗体検出信号は、サイクリック・ボルタンメトリー(cyclic voltammetry:CV)、電気化学インピーダンス分光法(electrochemical impedance spectroscopy:EIS)、矩形波ボルタンメトリー(squarewave voltammetry:SWV)などのさまざまな方法を使用して測定された。
【0008】
現状技術において説明される発明の欠点は、全ての測定セグメントに対する並列多チャネル測定を行う可能性がないことであり、このことは測定速度およびこの精度に悪影響を及ぼす。現状技術において説明される解決策を使用して多チャネル測定を行うために、信号多重化による1つのセンサ・システムが使用され、ここでは、一定の間、1つの測定セグメントのみが電源供給されかつ登録され、その後、システムは、電力および測定を次の測定セグメントに切り替える。最後に、同時測定を行う可能性はない。それぞれの測定セグメントはこの電極の別個の組を有し、照合電極上で検出された一定でランダムな、生成された測定誤差は全く補償され得ないが、これは、それぞれの照合電極が別個の電気回路であり(それぞれの電極の一定の誤差)、かつランダム誤差は、さまざまな時間でのセグメントの測定により定めることが不可能であるからである。
【0009】
意外にも、本発明がこの問題を解決することが分かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主題は、ポテンショスタット・システムにおける生物学的または化学的因子試料のインピーダンス測定のためのセンサであって、エッジ・コネクタの形態のセンサのエッジにつながる電気接点と共に、照合電極REおよび対電極CEを含み、センサは、好ましくはn>2であり、かつ好ましくはnは2~256の範囲にあるn個の作用電極WEnを含み、照合電極REは全ての作用電極WEnに対して共通しており、作用電極WEnの傍に存在するこの断片は、測定セグメントRE-CE-WEnを形成する、センサである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
好ましくは少なくとも2つの、より好ましくは全てのWEn電極は、外面上が、センサ材料、すなわち、試料における生物学的または化学的因子の1つのタイプのみと反応する材料の層で覆われている。
【0012】
好ましくは、少なくとも2つのWEn電極は異なるセンサ材料で覆われている。
【0013】
好ましくは、センサ材料は生物学的または合成タイプの材料であり、特にこれらは、試料における生物学的または化学的因子を検出するための、抗体、抗体断片、ペプチド、核酸配列である。
【0014】
好ましくは、作用電極WEnは、均一の円形であり、対電極CEに対称的に位置し、対電極CEのエッジは、これらの円と同心の円周の一部分の形状を有し、照合電極REは、対電極CEと作用電極WEnとの間に位置し、照合電極REの形状は対電極CEの外形と同じである。
【0015】
好ましくは、センサは、作用電極WEnの数をコード化するためにさらなる接続および/または非接続電極を含み、n>2であり、好ましくは、nは2~256の範囲にある。
【0016】
好ましくは、作用電極WEn、対電極CE、および照合電極REの配置構成は、同一形状の繰り返し測定セグメントを構成し、作用電極WEn、対電極CE、および照合電極REの間のそれぞれの測定セグメントにおける距離は同じであり、さらに、作用電極WEn、対電極CEの断片、および照合電極REの断片の領域は、対応して、それぞれのセグメントにおいて同じである。照合電極REの形状は、本質的に同一の、極性電解質における電位値を反映する極性センサにおける電場勾配の分布を含む。
【0017】
好ましくは、作用電極WEn、照合電極RE、および対電極CEの配置構成および形状は対称軸を有する。
【0018】
好ましくは、エッジ・コネクタは、測定システムのスロットにおけるセンサの正確な場所を、センサをスロットに挿入中に測定スロット接点を接続することによって同定することを対象としている、WEn、RE、およびCE電極と無関係の電気回路を構成する接触場を有する。
【0019】
好ましくは、センサは、センサ数をコード化するために使用される9つの接触点を含有する。
【0020】
好ましくは、エッジ・コネクタは、HDMI(登録商標)プラグ(High Definition Multimedia Interface)またはディスプレイポート・プラグ(universal digital interface)である。
【0021】
本発明の主題は、試料における生物学的または化学的因子の検出方法であって、電解質または溶液の形態の生物学的または化学的因子の試料は、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置に置かれ、作用電極WEn、対電極CE、および照合電極REは全て、溶液の形態の上記の試料で覆われ、その後、特に、インピーダンス分光法またはボルタンメトリーを使用して、2~256の試料測定が同時に行われ、これらの測定の結果に基づいて、試料における生物学的または化学的因子の存在が判定されることを特徴とする検出方法である。
【0022】
好ましくは、測定は、照合電極REが対電極CEとして動作し、対電極CEが照合電極REとして動作する逆の配置で行われる。
【0023】
好ましくは、測定は、刺激信号がCE電極の代わりにWEn電極に印加される逆の配置で行われる。電極配置を逆にすることによって、標準的な配置と比較すると電極インピーダンスの特性のさまざまな結果を得ることが可能になる。ここでの相違は、センサ/生物感知層被試験試料システムにおいて生じる効果の非線形性の結果である。ここで、電極の極性状態(ひいては、溶液中のイオンを含む電荷移動方向)を逆にする可能性、および測定システムの配置(個々の電極に対する電流の測定方法)の変更は両方共、極めて重大である。とりわけ、このやり方によって、測定システムにおけるp-n接合の存在の結果であるインピーダンス特性の非線形性を測定することが可能である。
【0024】
好ましくは、生物学的または化学的因子は、病原体、特に、ウィルス、バクテリア、菌類、タンパク質、およびこれらの断片、例えば、酵素、抗体、構造タンパク質、抗体断片、ペプチド、アフィボディ、核酸、一本鎖および二本鎖DNAを含むヌクレオチド配列、RNA、アプタマー、短鎖ヌクレオチド配列、脂肪酸、炭水化物、糖脂質、糖ペプチド、殺虫剤などの他の有機化合物、抗生物質、重金属を含む無機化合物である。
【0025】
好ましい実施形態
本発明について、所与の図を参照して好ましい実施形態においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ポテンショスタット・システムにおけるインピーダンス測定のためのセンサ1であって、エッジ・コネクタの形態のセンサ1のエッジ6につながる電気接点5と共に、照合電極RE3および対電極CE4を含む、センサ1を示す図である。提示されたセンサ1は、n=8である作用電極WEn7を備え、照合電極RE3は全ての作用電極WEn7に対して共通しており、作用電極WEn7の近くに位置するこの断片は、RE-CE-WEnタイプの測定セグメント8を形成する。
図2】測定スロットにおける正確なセンサの位置の同定を対象としている、WEn7、RE3、およびCE4の電極と別個の電気回路を形成する接触点11、および作用電極WEn7の数をコード化するためのさらなる接続および/または非接続電極13を有するエッジ・コネクタの形態のセンサ1のエッジ6を示す図である。
図3】コード化された番号「11001」を有するセンサの同定システムの表意文字を示す図である。組合せの可能な数は32(M=5に対して2^M)である。
図4】簡略化されたバージョンでのシステムの表意文字を示し、3つの電気接点5の部分集合は同定に使用されるため、組合せの数は2^M=8であることを示す図である。
図5】陽性試料である乳糖製品とのセンサ相互作用の測定を示す図である。
図6】陰性試料である無乳糖製品とのセンサ相互作用の測定を示す図である。
図7】ssDNA修飾センサと相補配列との相互作用を示す図である。
図8】0.5M NaClで連続的に処理された生体層、トリトンX緩衝液(1%)による人工唾液、0.5M NaCl添加剤によるトリトンX緩衝液中のH1N1ウィルスで覆われた銅電極についての電気化学インピーダンス分光測定の結果を示す図である。
図9】センサ材料9(生体層)および生物学的または合成因子の加えられた試料2で覆われたセンサ1の上面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましい実施形態では、作用電極WEn7は、センサ材料9で覆われるため、物質は、好ましくは溶液または懸濁液の形態の、試料2における特定の生物学的物質および粒子ならびに化学的物質および粒子の検出に関与している。
【0028】
照合電極RE3および対電極CE4は、全ての電極WEn7による測定中共有される補助電極であり、かつ試料2における検出を対象としている生物学的または化学的因子による電極WEn7上に置かれたセンサ材料9で生じる化学プロセスにより変化する電気量の測定を行うために使用される。
【0029】
センサ・エッジ・コネクタ1は、標準的なHDMIポートまたはディスプレイポートと機械的におよび一部電気的に互換性がある。典型的な使用では、HDMIおよびディスプレイポートのタイプのポートは、デジタル・データの送信に利用され、かつ、ポートと、挿入されたプラグとの間の電気的接続を維持するケーシングにおいて2列の接点を含有する。HDMI/DPポートおよびプラグの機械構造はこれらの逆接続を防止する。
【0030】
それにもかかわらず、提示された解決策では、センサ1には、HDMI/DPポート、および同様の機能性を提供するいずれの機械要素も装着されず、これによって、センサ・スロットへのセンサの逆挿入が防止される。よって、いずれの追加の機械的保護もなく、測定を妨害するような、測定スロットにおけるセンサ1の逆挿入は可能である。このような状況では、さらなる問題は、標準的なHDMI/DPポートの構築であり、接点は、相対させるようにする代わりに交互に位置し、これによって、実際には、センサ・スロットにおけるセンサ1の逆挿入の明白な検出のためにエッジ・コネクタのエッジ6上で電気接点5を使用することが不可能になる。これは、逆挿入によって、センサ・スロットの接続点および電気接点5の中心が重なり合わず、接続点が電気接点5の間の孤立領域に移されるという事実による。効果として、スロット接触によって隣接する電気接点5の短絡を得ること、およびこれらの電気接点5のいずれかとの電気的接続を得ることが可能である。この現象は、実際には予測不可能であり、得られた結果は、逆配向でセンサ・スロットにおいてセンサ1を挿入する次の試行と完全に異なっている可能性がある。これは、ソケット・ハウジングとエッジ・コネクタとの間のすきまによる不適合、およびソケット対称軸に対する直角からのエッジ・コネクタのエッジ6の偏差の結果である。
【0031】
意外にも、このような状況を除外することが不可能であっても、センサ1の正確なまたは不正確な配向を検出しながら、もっぱら電気測定に基づいてこのセンサ1をセンサ・スロットに挿入することが可能であることが分かった。センサ1のエッジ・コネクタのエッジ6に近い部分がソケットにおけるセンサの配向の検出のために接続点11として使用される一方、エッジ・コネクタの他の領域が、個々のセンサ電極と接続される電気接点5とのソケット接続の電気接点を維持するように、接続点11を設計することが必要とされる。実施形態が図2に提示される。ソケットへのセンサ1の挿入中、接点5との接続なく接続点を通して接続ソケットの接点1-2-3-4および6-7-8-9の一時的な接続が生じる。本発明による、スロットに対するセンサ1の配向の検出方法は、完全に、センサ1をセンサソケットに挿入中に電気接点群の間の短絡を監視することによる電気測定に基づいており、センサ1の完全な挿入後の動作に対して、機能的に限定もしないし影響を与えもしない。
【0032】
説明した解決策の変形は、センサ・スロットの巡回接続のさまざまな配置におけるエッジ・コネクタの、上側、下側、または両側での接続点11の分離を包含する。
【0033】
センサ・スロットにおける正確なセンサ1の配向の検出後のみ、センサ1の同定に使用され、かつ正確な測定に必要とされる電気信号は活性化される。
【実施例1】
【0034】
センサタイプの同定
センサの汎用性は、さまざまな生物学的または化学的物質の検出のためのこのセンサの使用を含む。センサ1は、特定の選択された病原体または他の物質に対して感度がよい作用電極WEn7のセンサ材料9のタイプが異なる多くのバージョンで作られ得る。従って、センサに位置するセンサ1のタイプの明白な同定の可能性を有効にし、かつ、これに基づいて、個々のセンサ1のタイプに対して変化し得る、刺激信号値および測定時間などの測定条件を選択することが必要であった。一般に見られる解決策は、比色定量、光学画像解析に基づくコードの利用(例えば、バーコード、QRコード(登録商標))、または有線もしくは無線同定に使用される特殊電子システム(例えば、RFID)に基づいている。
【0035】
作用電極WEn7の測定に使用される同じ電気接点5を使用するセンサ1のタイプ同定が可能である。センサ1のタイプのコード化は、利用可能なMからNの電気接点5の部分集合の選択によって行われ、ここでN<Mである。Nの電気接点5の選択された組合せはさらに、照合電極RE3または対電極CE4またはシールド電極GE14と接続される。センサ電気回路は、どの電気接点5が接続されるかを検出し、このように接続される電気接点5は適正な測定のさらなる工程中に使用されない。
【0036】
図3によると、作用電極WE1およびWE2 7につながる電気接点5の番号1、2、および電気接点5の番号5は、電極CE4、電極RE3、GE14の電気接点5のいずれの線にも電気的に接続されなかったため、これらの電極は生物学的または化学的因子含有率の測定を行うために使用される。電気接点5の番号3および4は、中央に位置する電極GE14と接続される。GE14またはRE、CEに関する全ての電気接点5の500mV~5Vの範囲における初期電圧極性VPOLによって、電気接点5、3、および4のみに対するVGEと同様の測定結果が得られ、電圧測定結果は、電気接点5の番号1、2、および5に対するVPOLと同様である。コード「11001」は、VGEと同様の電位に「0」シンボルを、およびVPOLと同様の電位に「1」シンボルを割り当てて、得られる。
【0037】
電極GE14、電極RE3、または対電極CE4と接続されるまたは接続されない任意の組合せでのエッジ・コネクタの組の電気接点5の選択された部分集合による提示された解決策によって、2^Nのさまざまな組合せの符号化が可能になる。例示の解決策について、電気接点5のN=3による同定に使用される電気接点5の部分集合によって、センサ1の8つの異なるタイプの明白な同定が可能になる。同様に、N=8に対して、センサ1の256のタイプを同定することが可能である。
【0038】
センサ1のタイプの同定のための全ての電気接点5の利用を可能にする解決策は、より多くの数の組合せ、すなわち、32の組合せ(M=5に対して2^M)を提供する。
【0039】
図4は、簡略化されたバージョンでの配置図を提示し、部分集合は、3つの電気接点5を含有するため、組合せの数は2^M=8である。
【0040】
センサ動作
提示された解決策の場合、作用電極WEn7、ならびに照合電極RE3および対電極CE4の対応する断片で構成されるそれぞれの個々の測定セグメント8は同一であり、すなわち、これらの要素の間の同一の距離が保たれ、面積値は一定に保たれる。照合電極RE3の電位は、システム全体において一定であることで、システム全体に対する完全な測定条件がもたらされる。全ての他の電極対は完全に同じように動作し、照合電極RE3は他の電極の周囲環境内の電位を等化する。
【0041】
作用電極WEn7、照合電極RE3、対電極CE4は、低抵抗率の材料、例えば、特定の化学的物質および生物学的物質と反応する、例えば、病原体が検出される、試料2またはセンサ材料9の抵抗率と比較してごくわずかである銅から作られる。
【0042】
多チャネル・システムは、個々のチャネルから得られた結果に対する電位勾配の悪影響を示す。
【0043】
多チャネル・センサ1の提示された解決策では、測定セグメント8のそれぞれが同一の幾何学的配置、特に、個々の電極の同一面積、電極間の距離、および、RE電極の経路が極性センサ1における電気力線の分布におけるある特定の固定電位に対応するように割り当てられた電極の形状を保つ、作用電極WEn7、照合電極RE3、および対電極CE4のシステムを形成する、測定セグメント8が使用される。
【0044】
意外にも、行われた検査中、このように設計された電極システムが、解析されたWEn7の電極とは無関係の結果の非常に良好な繰り返し精度をもたらし、また、新しいインピーダンス測定方法の利用を可能にすることが分かった。
【0045】
N1測定方法
ポテンショスタット・システムによる典型的なインピーダンス分光法と比較して、照合電極RE3の目的は、対電極CE4の電位における変化により設定電位に達する代わりに、CE-WEn電極システム内のインピーダンス値である最終結果から電解質インピーダンスを補償する(排除する)ために、電解質の形態の試料2の溶液における電位を測定することである。
【0046】
N2方法
ポテンショスタットによるインピーダンス分光法で使用される典型的な測定方法と比較して、作用電極WEn7および対電極CE4の役割が変更されており、このようなシステムにおいて、対電極CE4の代わりに作用電極WEn7によって刺激が生成される。方法N1と同様の照合電極RE3の役割は、電解質における電位分布の測定である。意外にも、方法N2を使用して測定されたインピーダンス値が、従来の方法またはN1方法を使用して得られた値と異なっているが、N1とN2との間の測定システムに対する動作モードの周期的な切り替えが、測定される試料についての追加の情報を与えることが分かった。
【0047】
N1およびN2方法は両方共、ポテンショスタット・システムによる、一般に行われるインピーダンス測定にとって代表的な制約がないことを特徴とし、特に、全ての作用電極WEn7に対する測定の同時実行が可能である。
【0048】
N1およびN2方法を変更する間に得られる所与の試料2についてのデータ量の有益な増大の他に、追加の利点として、個々の電極に対する別個の測定の実行に基づいて、時間に関して多重化された測定と比較して測定時間が大幅に低減されることが分かった。N1およびN2方法を両方使用する測定時間の低減における利得は、チャネルの数に正比例し、同時に測定された8つのチャネルについて、従来の方法による、すなわち、時分割多重化による類似の測定より8倍短い。
【0049】
電解質は、典型的な電気化学的測定による状況とは違って、電気の伝導のための単なる湿潤剤および補助剤であり、電極の幾何学的配置はインピーダンスに対する電解質自体の影響を排除する。
【0050】
電極の構築および相互の配置構成はまた、逆検出モードの使用を可能にする。典型的なシステムでは、対電極CE4で刺激が生じ、信号は作用電極WEn7に登録される。所与の解決策の場合、測定は、作用電極WEn7および対電極CE4における刺激が測定システム全体に対する基準として使用されるように行われ得る。電解質を通るイオン電流方向を逆にすることによって、ある周波数範囲において、従来の方法を使用して得られる結果と異なる結果がもたらされ、これによって、装置の感度は改善され、センサ1または個々の電極に対する自動異常検出に関するこの装置の能力が高まる。
【実施例2】
【0051】
乳糖/電極相互作用の解析
作用電極WEn7の表面は、ベータ・ガラクトシダーゼ酵素で修飾される。その後、作用電極WEn7は、(作用させるために調製された、ひいては、電極活性化に使用されるゼロ溶液に浸した)緩衝液でゼロになり、その後、試料2は乳糖含有溶液として適用される。図5は、乳糖が存在する場合のインピーダンスの異なる変化を示す。
【0052】
無乳糖試料は対照実験として使用された。図6に示されるように、センサ1は対照試料が存在する間に変化を示さない。
【実施例3】
【0053】
電極上のDNA相互作用の解析
作用電極WEn7の番号1~8は、測定前にHSoで洗浄される。最初に、清浄な作用電極WEn7による測定が行われ、その後、センサ材料9がこれら電極に対して調製される。センサ材料9は下記によって調製される。
・修飾SH-DNA形態(ssDNA)の沈着、および2~24時間の室温での定温放置。
・その後、10μlのMCH溶液が加えられ(相補的DNA、CssDNA)、非結合分子を除去するためにpH7.4のPBS緩衝液での洗浄が行われる。
【0054】
センサ材料9によってこのように調製されたセンサ1によって、測定を行うことが、例えば、測定される試料に存在する相補的DNAによる(電極面に取り付けられる)修飾SH-DNAの相互作用を示す電気化学インピーダンス分光法によって、可能になる。
【0055】
結果はグラフ(図7)に示されており、相補的DNAと修飾DNAとの相互作用によってインピーダンスの増大が引き起こされる。
【実施例4】
【0056】
銅表面センサ相互作用の解析-ウィルスH1N1560
・(抗M1抗体を有する)生体層を有するセンサ表面の修飾
・抗体で修飾されたセンサのいわゆる「ゼロ設定」-乾燥ペプチド層が検査用に調製される結果としてセンサの生物活性の適正な測定の工程の1つ
・1%トリトンXを添加した人工唾液の形態の陰性試料とのセンサ相互作用の解析
・H1N1ウィルスを含有する試料とのセンサの相互作用の解析
【0057】
結果は図8に示されている。
【0058】
結果:抗体で修飾された銅ベースで作られたセンサは、
・陰性試料である、1%トリトンXを添加した人工唾液との相互作用中のインピーダンスにおけるわずかな変化を示し、
・ペプチドとウィルス含有試料との相互作用中のインピーダンスにおける明瞭な変化(増大)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9