(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】試料保管装置及び試料保管システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230815BHJP
B01L 1/00 20060101ALI20230815BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20230815BHJP
B01L 9/00 20060101ALI20230815BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C12M1/00 G
B01L1/00 C
A61L9/16 F
B01L9/00
F24F7/06 C
(21)【出願番号】P 2019053540
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100097319
【氏名又は名称】狩野 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】中澤 賢
(72)【発明者】
【氏名】中岡 将士
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129452(WO,A1)
【文献】特開2005-229939(JP,A)
【文献】特開2012-231726(JP,A)
【文献】実開昭56-047741(JP,U)
【文献】特開2018-191546(JP,A)
【文献】特開2007-097481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
B01L
A61L
F24F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上方に設けられる保管空間と、を内部に有する本体と、
空調装置から該空調装置の送風機により送り込まれた空気を最終除塵し微生物を捕捉して前記保管空間に導入させる最終除塵手段と、
前記最終除塵手段の直上に位置し前記空調装置からの空気を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の下流側で前記最終除塵手段の上流側の空間に突出するノズルを有し、前記加熱手段を通して送り込まれる空気を加湿する加湿手段と、
を有し、
前記空調装置から給気される設備の内部に設置される、内部に作業空間を有する安全キャビネットの側部に並設設置されて、前記安全キャビネットの側部から前記保管空間と前記作業空間とが連通可能な開口と、該開口を閉鎖する扉と、
を有することを特徴とする試料保管装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料保管装置において、
前記空調装置からの空気を前記本体の前記保管空間に向けて送り出す第1のダクトを接続するとともに、前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、前記加熱手段及び前記加湿手段の少なくとも1つを内部に配置する第1のダクト接続部を有することを特徴とする試料保管装置。
【請求項3】
請求項2に記載の試料保管装置において、
前記保管空間の空気を前記空調装置に向けて送り出す第2のダクトを接続する第2のダクト接続部を有することを特徴とする試料保管装置。
【請求項4】
冷却又は加温された空気を送り出す空調装置と、
細胞が培養される培養容器を保管する保管空間を有する試料保管装置と、
前記空調装置の給気側と前記試料保管装置との間に配置され、前記空調装置からの空気を前記試料保管装置に送り出す第1のダクトと、
前記空調装置の還気側と前記試料保管装置との間に配置され、前記試料保管装置の前記保管空間の空気を前記空調装置に送り出す第2のダクトと、
前記空調装置から前記空調装置の送風機により給気された空気を最終除塵し微生物を捕捉して前記保管空間に導入させる最終除塵手段と、
前記最終除塵手段の直上に位置し前記空調装置からの空気を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の下流側で前記最終除塵手段の上流側の空間に突出するノズルを有し、前記加熱手段を通して送り込まれる空気を加湿する加湿手段と、
前記加熱手段及び前記加湿手段の能力制御を行う制御装置と、
を有し、
前記試料保管装置は、前記空調装置から給気される設備の内部に設置される、内部に作業空間を有する安全キャビネットの側部に並設設置されて、前記安全キャビネットの側部から前記保管空間と前記作業空間とが連通可能な開口と、該開口を閉鎖する扉と、
を有することを特徴とする試料保管システム。
【請求項5】
請求項4に記載の試料保管システムにおいて、
前記試料保管装置は、前記第1のダクトが接続されるダクト接続部を有し、
前記ダクト接続部は、前記最終除塵手段を
最下流位置に配置し、
さらに、
前記ダクト接続部は、前記加湿手段、前記加熱手段、及び前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、のう
ち少なくとも1つを配置することを特徴とする試料保管システム。
【請求項6】
請求項4に記載の試料保管システムにおいて、
前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、前記加熱手段、前記加湿手段、及び前記最終除塵手段は、前記第1のダクトの内部に配置されることを特徴とする試料保管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば培養装置にて長時間培養される細胞やその組織である試料のうち、培養装置から取り出した試料を安全に取り扱う安全キャビネットの近傍にて試料を一時保管する試料保管装置及び試料保管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品の研究や再生医療の分野では、細胞を操作・加工し、培養することで研究したり、それを発展して試料の培養をシステマティックに行い、例えば幹細胞からの組織再生などの事業化をおこなうため、清浄環境下に管理された実験室(クリーンルーム)内に設置された安全キャビネットを用いて、上記の目的のため試料となる細胞の培地交換や、細胞コロニーへのピペット攪拌操作などの加工作業を行っている。
【0003】
再生医療の再生組織製品製造や細胞加工では、細胞の培養物である試料について生育に適した環境を定常的に提供する炭酸ガスインキュベータやマルチガスインキュベータなどの培養装置で長時間生育しながら、適宜加工作業を施し分化を促進するために培養装置から試料を取り出して、作業者の安全確保、作業者などからの汚染防止、細胞への微生物汚染の防止、作業の効率などから、細胞への操作などである加工作業は無菌的な操作装置である安全キャビネットの中で行われる。
【0004】
安全キャビネットは、病原体などの取り扱い時に発生する汚染エアロゾルから作業者を保護する一次隔離を目的として使用されるもので、キャビネット本体に設けた作業空間で発生する汚染エアロゾルを該作業空間に連通する内部連通路に引き込むことで、作業空間の内部の気流方向を確保し、該作業空間の前面に設けた開閉扉の開口部から作業空間手前の下部吸い込みまで外部の空気(クリーンルーム内の空気)を流入させることで該開口部から外部への汚染エアロゾルの漏洩を防止する機能を有している。また、安全キャビネットでは、作業空間からダクト内に引き込まれた汚染エアロゾルを、例えばHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を用いて無菌・清浄化し、無菌・清浄化した清浄な空気を安全キャビネットの外部に排気する機能や、これら機能に加えて、さらに、無菌・清浄化した清浄な空気を安全キャビネットの内部で循環させる機能を有している。安全キャビネットが上述した機能を有することで、上記一次隔離だけでなく、クリーンルーム内の汚染をも防止することができる。細胞培養操作では、この安全キャビネットの一次隔離性能を活用して、作業空間での操作環境と安全キャビネット外部環境との間において、HEPAフィルタによるろ過での無菌清浄化によるエアロゾル隔離を行い、作業空間内の培養する細胞を保護している。
【0005】
上述した加工作業を行うにあたり、例えばバイオハザード対策用キャビネット(安全キャビネットに相当)が有する作業空間と、インキュベータ等である培養装置に設けられ、試料入りの容器を収納する収納空間との間の、人手による試料移動の際の微生物汚染を警戒して、作業空間と収納空間とをダクトを用いて連通させ、培養する細胞を試料として内包した容器を、ダクト内に配置された搬送装置によりインキュベータとバイオハザード対策用キャビネットとの間で受け渡すことが考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示試料保存システムでは、インキュベータは細胞の生育に適した環境下(例えば温度37℃、湿度95%等)に管理される一方で、バイオハザード対策用キャビネットの作業空間は、その構造上、作業者が快適と感じるようなクリーンルームとほぼ同一の環境下(温度22℃、湿度55%等)となることで、バイオハザード対策用キャビネット内の最大の汚染源となる作業者腕部の発汗を抑制するよう管理する。このような配置構成では、細胞の生育に適する高温湿潤な環境と、作業者の発汗を抑制する冷涼乾燥な環境とを直接接続してしまうので、両環境を接続するダクトにより温度湿度の違う空気が混合均等化されようとしてしまい、設定から離れかけた空気の温度湿度を作業空間や収納空間各々が隣接して持つ温調装置にてエネルギーを消費しながら保とうとする。しかしダクトで接続された箇所近傍ではそれぞれの環境温湿度は達成不可能である。また、頑張ってダクト通過空気による外乱を打ち消そうと、各温調装置では冷熱媒や加湿源を多量に流して熱交換しているときに、例えばダクト通路を急に閉じたりすると外乱空気による熱授受が急になくなって温調装置の冷熱媒調整が追い付かず、オーバーシュートして両環境の温度湿度が暴れてしまう。
【0007】
ところで、安全キャビネット(バイオハザード対策用キャビネット)の作業空間は、クリーンルームとほぼ同一の環境下となり、長期の生育環境であるインキュベータ等の培養装置から取り出された試料から見ると大きな温湿度変化を与えることとなり、長く培養環境から遠い温度湿度の環境に置くと細胞の品質に影響を与える可能性が高いと言われているヒートショックストレスの影響を受けやすい。
【0008】
また、クリーンルーム内の各機器の配置構成において、インキュベータの内部空間と安全キャビネットの作業空間とを、前記の温湿度維持の問題からダクトを介して連通させないことが多い。インキュベータにより長期でじっくり育成するのではなくポリメラーゼ チェイン リアクション;合成酵素連鎖反応法利用により一気に遺伝子DNAを増幅するような場合、異物侵入に関して信頼を高くするために相対的に正圧にされる機材及び材料の保管エリア(室)と安全キャビネットを設置する供試DNAの抽出エリア(室の中にキャビネットあり)との間の受け渡し手段のパスボックスを、安全キャビネットと並設し、例えばパスボックスの内部空間と、安全キャビネット(特許文献1に記載のバイオハザード対策用キャビネットに相当)の作業空間とを試料の出し入れのためダクトを介して連通させて、パスボックスと安全キャビネットに同じ温湿度の外部空気をHEPAフィルタを介して供給することが考案される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4475974号公報
【文献】特開平06-319521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示される清浄作業装置では、外部から供給されるフレッシュエアをパスボックス及びクリーンベンチの作業空間に送り込む直前で、HEPAフィルタに通過させることで、パスボックス及びクリーンベンチの作業空間を浄化している。しかしながら、特許文献2に開示される清浄作業装置の場合、例えばパスボックスの内部空間やクリーンベンチの作業空間の温度は、外部温度(例えばクリーンルーム内の温度)であり、これら空間に保持される試料である細胞は、上述したヒートショックストレスを受けやすい。特に、上述した加工作業は、一度に多くの試料をパスボックスの内部に保管しながらの作業であり、パスボックスの内部に収納されてから加工作業が終了し、インキュベータ内に戻されるまでの時間が長いほど、ヒートショックストレスの影響が大きく、試料である細胞の品質の低下に繋がるという懸念がある。
【0011】
本発明は、インキュベータの内部空間とキャビネットの作業空間とをダクトを介して連通させないようにしながら、一時的に試料の受け渡しをするパスボックスに注目し、パスボックスの内部に、作業ロット分の、複数の培養の試料の一時的な試料保管を行うこととし、パスボックスの内部に一時的に保管された試料である細胞が受けるヒートショックストレスの影響を低減することができるようにした試料保管装置及び試料保管システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明の試料保管装置は、細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上方に設けられる保管空間と、を内部に有する本体と、空調装置から該空調装置の送風機により送り込まれた空気を最終除塵し微生物を捕捉して前記保管空間に導入させる最終除塵手段と、前記最終除塵手段の直上に位置し前記空調装置からの空気を加熱する加熱手段と、前記加熱手段の下流側で前記最終除塵手段の上流側の空間に突出するノズルを有し、前記加熱手段を通して送り込まれる空気を加湿する加湿手段と、を有し、前記空調装置から給気される設備の内部に設置される、内部に作業空間を有する安全キャビネットの側部に並設設置されて、前記安全キャビネットの側部から前記保管空間と前記作業空間とが連通可能な開口と、該開口を閉鎖する扉と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記空調装置からの空気を前記本体の前記保管空間に向けて送り出す第1のダクトを接続するとともに、前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、前記加熱手段及び前記加湿手段の少なくとも1つを内部に配置する第1のダクト接続部を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記保管空間の空気を前記空調装置に向けて送り出す第2のダクトを接続する第2のダクト接続部を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の試料保管システムは、冷却又は加温された空気を送り出す空調装置と、細胞が培養される培養容器を保管する保管空間を有する試料保管装置と、前記空調装置の給気側と前記試料保管装置との間に配置され、前記空調装置からの空気を前記試料保管装置に送り出す第1のダクトと、前記空調装置の還気側と前記試料保管装置との間に配置され、前記試料保管装置の前記保管空間の空気を前記空調装置に送り出す第2のダクトと、前記空調装置から前記空調装置の送風機により給気された空気を最終除塵し微生物を捕捉して前記保管空間に導入させる最終除塵手段と、前記最終除塵手段の直上に位置し前記空調装置からの空気を加熱する加熱手段と、前記加熱手段の下流側で前記最終除塵手段の上流側の空間に突出するノズルを有し、前記加熱手段を通して送り込まれる空気を加湿する加湿手段と、前記加熱手段及び前記加湿手段の能力制御を行う制御装置と、を有し、前記試料保管装置は、前記空調装置から給気される設備の内部に設置される、内部に作業空間を有する安全キャビネットの側部に並設設置されて、前記安全キャビネットの側部から前記保管空間と前記作業空間とが連通可能な開口と、該開口を閉鎖する扉と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、前記試料保管装置は、前記第1のダクトが接続されるダクト接続部を有し、前記ダクト接続部は、前記最終除塵手段を最下流位置に配置し、さらに、前記ダクト接続部は、前記加湿手段、前記加熱手段、及び前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、のうち少なくとも1つを配置することを特徴とする。
【0017】
また、前記空調装置から送り出された空気を吸い込んで前記保管空間に向けて送り込む送風手段、前記加熱手段、前記加湿手段、及び前記最終除塵手段は、前記第1のダクトの内部に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、パスボックスの内部に一時的に保管された試料である細胞が受けるヒートショックストレスの影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】クリーンルームにおけるダクトの設置例を示す図である。
【
図2】安全キャビネットの外観の一例を示す斜視図である。
【
図3】安全キャビネットの内部構成の一例を示す概念図である。
【
図4】安全キャビネット及び保管ボックスを並設した場合の一例を示す図である。
【
図5】保管ボックスの内部構成の一例を示す概念図である。
【
図6】保管ボックスの各部を制御する構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図7】クリーンルームにおけるダクトの設置例を示す図である。
【
図8】送風機、加湿器、加熱器及び浄化フィルタをダクトの内部に設けた場合の保管ボックスの内部構成の一例を示す概念図である。
【
図9】クリーンルームの温度と、保管ボックスの保管空間の湿度及び温度とを管理する保管システムの一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、クリーンルーム10は、安全キャビネット15、保管ボックス(請求項に記載の試料保管装置に相当)16,17を有する。一例として、安全キャビネット15、保管ボックス16,17は、
図1中左側から、保管ボックス16、安全キャビネット15、保管ボックス17の順となるように並設される。この順とする一つの理由として、インキュベータに格納されていた細胞やその組織である試料を、安全キャビネット15で加工する前の一時保管を保管ボックス16、安全キャビネット15での加工後の一時保管を保管ボックス17とすることで、作業動線を一方向とすることが可能である。なお、クリーンルーム10の内部には、例えば培養装置であるインキュベータなど、他の装置も設置されているが、
図1においては図の煩雑さを解消するために図示を省略している。
【0022】
クリーンルーム10は、空調装置20により環境条件(温度、湿度等)が管理される。例えば、クリーンルーム10の内部の温度は22℃、湿度は55%である。空調装置20は、図示を省略した温度検出センサや湿度検出センサからの信号に基づいて、制御装置によるPID制御やFB制御等により駆動される。
【0023】
空調装置20は、浄化フィルタ21、空調装置20の内部を搬送される空気との間で、冷熱や温熱を熱交換する熱交換器22及び、空調装置20の内部の圧力損失やダクト静圧を賄って空気を搬送する送風機23を有する。浄化フィルタ21は、HEPAフィルタである。浄化フィルタ21は、クリーンルーム10や保管ボックス16,17から排出されるところにも設置される別な浄化フィルタを通って、空調装置20に送り込まれる空気に含まれる細菌や塵などを濾過する。ここで、符号25は、クリーンルーム10へ空調装置20から供給された空気のうち排気として外気へ排出される分を除く還気を再び空調装置20へ導く還気ダクトである。なお、還気ダクト25は、空調装置20の還気側に接続される。空調装置20の還気側には排気分や室圧保持のための空気量を賄う図示しない外気取り入れダクトも接続される。また、符号26は保管ボックス16の空気が還気される還気ダクト、符号27は保管ボックス17の空気が還気される還気ダクトである。なお、還気ダクト(請求項に記載の第2のダクトに相当)26,27は保管ボックス16,17接続近辺に浄化フィルタを設置しており、交叉汚染や微生物汚染が起きないようにされて還気ダクト25に合流される。したがって、保管ボックス16,17から排出される空気は、クリーンルームからの還気とともに、空調装置20に送り込まれる。
【0024】
熱交換器22は、図示を省略した熱源との間で冷水、温水、フロン冷媒などの熱交換媒体を循環させ、浄化フィルタ21を通過した空気と熱交換媒体との間で熱交換を行う。例えば、クリーンルーム10を冷却する場合、浄化フィルタ21を通過した空気は、熱交換媒体との間の熱交換により冷却される。また、クリーンルーム10を加温する場合には、浄化フィルタ21を通過した空気は、熱交換媒体との間の熱交換により加温される。また、空調装置20には図示しないが、熱交換器22の後に加湿器を設けクリーンルーム10へ供給する空気の加湿を行う。
【0025】
送風機23は、熱交換器22により冷却された空気、又は加温された空気を給気ダクト30に向けて送り出す。給気ダクト30は、一端が空調装置20の給気側(吐出側)に接続され、他端がクリーンルーム10に接続される。給気ダクト(請求項に記載の第1のダクトに相当)31は、給気ダクト30から分岐され、保管ボックス16に接続される。同様にして、給気ダクト(請求項に記載の第1のダクトに相当)32は、給気ダクト30から分岐され、保管ボックス17に接続される。これら給気ダクト31,32は、空調装置20から送り出される空気を保管ボックス16,17に空気を送り込む給気用のダクトである。
【0026】
次に、安全キャビネット15の構成について説明する。細胞培養操作では、この安全キャビネットの一次隔離性能を活用して、作業空間での操作環境と安全キャビネット外部環境との間において、HEPAフィルタによるろ過での無菌清浄化によるエアロゾル隔離を行い、作業空間内の培養する細胞を保護している。安全キャビネットはクラスI~IIIに分類され、クラスIは作業者の安全対策のみを目的とし、クラスIIIは病原微生物体分類基準による危険度4など高度な危険性のある微生物を扱う作業を目的としていて細胞培養には向かない。クラスIIの安全キャビネットは、作業者の保護と作業区域への異物混入や微生物汚染の防止及び試料間の混合を防止する目的を持つ無菌の層流式半循環型で、細胞培養にはもっぱらこのクラスが用いられることが多い。
【0027】
図2及び
図3に示すように、安全キャビネット15は、キャビネット本体35、シャッタ36を有する。安全キャビネット15は、キャビネット本体35が有する作業空間40で、該作業空間40に面する底板(載置台)37に載置された培養容器(図示省略)の培地交換や、培養容器にて培養される細胞に対する加工処理などの作業を行う。作業者は、透明板である前面シャッタ(以下、シャッタと称する)36を介して目視しながら、シャッタ36の下部隙間から差し入れた両手で作業空間40内の培養容器及び操作するピペット類などで培地に対して作業する。キャビネット本体35は、前面に、キャビネット本体35の内部に設けた作業空間40に連通される開口部35aを有する。シャッタ36は、例えば強化ガラスなど、高い透過性を有する部材である。シャッタ36は、キャビネット本体35の前面側に配置され、キャビネット本体35の上方内部に引き込まれた位置から、例えば作業者の腕を挿入しながら作業者の呼気などに含まれる細菌などの侵入が防止できるよう、言い換えると作業面より高い、すなわち気流として上流側からの汚染物質の流入を防止するように開口部35aの下辺とシャッタ36の下辺との間に空間を空けた位置まで引き出される。シャッタ36と前部排気口38とによる気流形成によって、試料である細胞が内包された容器(以下、培養容器)内の培地を交換する際や、培養容器内で培養される細胞の加工作業を行う際に、内在性病原菌を含む細胞の培地などがキャビネット本体35の作業空間40から外部に飛散して、作業者が汚染することも防止する。したがって、作業者は、シャッタ36を引き出したときに、シャッタ36の下方に形成される開口部35aから腕を挿入し、シャッタ36越しで作業空間40の内部を視認しながら、上記作業を行う。
【0028】
載置台として機能する底板37は、上述した培地交換や細胞の加工処理を行う対象となる培養容器を、直接、あるいは底板の上方に保持される水平な網(図示省略)に載置する。底板37は、前端側に、作業空間40の空気や、開口部35aから作業空間40に流入する空気を吸い込む前部排気口38を有する。なお、前部排気口38は、一例として、所定間隔で複数配置されたスリット状の長孔である。開口部35aから流入する空気が前部排気口38から吸い込まれることで、引き出されたシャッタ36と開口部35aとの間に設けられる空間部分にエアカーテンを形成する。これにより、開口部35aから安全キャビネット15内部へ流入する空気に同伴される塵埃や、そこに付着している雑菌が作業空間40に流入せずに前部排気口38へ導かれて、安全キャビネット15の内部に設けた排気用フィルタ46や循環気用フィルタ48で除去されることとなり、作業空間40の空気は無菌的な状態を保たれたまま、前部排気口38に吸い込まれる。
【0029】
また、底板37の後端縁側に立設される背面板41の下部には、作業空間40の空気を吸い込む後部排気口42が設けられる。後部排気口42を設けることで、作業空間40を通過した空気(汚染エアロゾルを含む)は、前部排気口38だけでなく、後部排気口42からも吸い込まれる。
【0030】
ここで、キャビネット本体35は、作業空間40に面する底板37の下方、背面板41の背面側(作業空間40に対峙する面とは反対側)に空間43,44を有する。これら空間43,44のうち、空間43は、前部排気口38から吸い込まれた空気をキャビネット本体35の前端側から後端側に向けて移動させるとともに、後部排気口42から吸い込まれた空気が前部排気口38から吸い込まれた空気と合流する循環路となる。また、空間44は、空間43による循環路によってキャビネット本体35の後端側に移動させた空気を、キャビネット本体35の上部に向けて移動させる循環路となる。
【0031】
キャビネット本体35は、排気用送風機45、排気用フィルタ46、循環気用送風機47、循環気用フィルタ48を上部に有する。
【0032】
排気用送風機45は、循環路44によりキャビネット本体35の上方に移動した空気の一部を吸い込み、排気用送風機45の上方に配置された排気用フィルタ46に向けて送り出す。排気用フィルタ46はHEPAフィルタである。排気用フィルタ46は、排気用送風機45から送り出された空気に含まれる細菌、エアロゾルなどを濾過する。排気用フィルタ46を透過した処理済みの空気(以下、浄化済みの空気と称する)は、排気口35bを介して外部に排気される。
図3においては、排気口35bに対して排気用ダクトを設けていない場合を示しているが、排気用ダクトを設け、排気用ダクトを介して処理済みの空気を外部に排気することも可能である。
【0033】
循環気用送風機47は、循環路44によりキャビネット本体35の上方に移動した空気の一部を吸い込み、循環気用送風機47の下方に配置された循環気用フィルタ48へと送り出す。循環気用フィルタ48は、HEPAフィルタである。循環気用フィルタ48は、循環気用送風機47から送り出された空気に含まれる細菌、エアロゾルなどを、培養容器に内包された細胞を操作する作業空間40の直前で濾過する。循環気用フィルタ48を透過した浄化済みの空気は、上述した作業空間40に送り出される。
【0034】
上述した安全キャビネット15において、キャビネット本体35の上部に設置される排気用送風機45及び循環気用送風機47が作動すると、これら送風機に循環路44の内部の空気が引き込まれる。その結果、排気用送風機45及び循環気用送風機47が作動すると、作業空間40の空気が前部排気口38及び後部排気口42に吸い込まれ、同時に、クリーンルーム10等、安全キャビネット15の外部の空気が前部排気口38に吸い込まれる。クリーンルーム10等、安全キャビネット15の外部の空気が前部排気口38に吸い込まれることで、排気口からクリーンルーム10、あるいは排気口から排出された空気の減少分が補填される。
【0035】
循環路43に吸い込まれた空気は、循環路44に移動し、キャビネット本体35の上方に向けて移動する。そして、キャビネット本体35の上方に向けて移動した空気の一部が排気用送風機45に吸い込まれ、残りの空気が循環気用送風機47に吸い込まれる。その結果、安全キャビネット15の内部の空気は、安全キャビネット15の内部を循環し、循環される過程で浄化される。一方、排気用送風機45に吸い込まれた空気は、排気用フィルタ46を介して排気口35bから、浄化された空気としてクリーンルーム10に排出される、あるいは排気口35bに連通するよう配置されるダクトによってクリーンルーム10の外部に排出される。
【0036】
図2から
図4に示すように、上述した安全キャビネット15は、キャビネット本体35の側板35cに開口(請求項に記載のキャビネット側開口に相当)51を、キャビネット本体35の側板35dに開口(請求項に記載のキャビネット側開口に相当)52を各々有する。開口51は、安全キャビネット15と保管ボックス16とを並設したときに、保管ボックス16に設けた開口(請求項に記載の装置側開口に相当)76に連通される。同様にして、開口52は、安全キャビネット15と保管ボックス17とを並設したときに、保管ボックス17に設けた開口(請求項に記載の装置側開口に相当)77に連通される。
【0037】
なお、
図2から
図4においては、安全キャビネット15の開口51,52を開閉する開閉扉を各々設けていない場合を説明しているが、安全キャビネット15の開口51,52を開閉するために開閉扉を設けることも可能である。
【0038】
また、本実施形態では、安全キャビネット15及び保管ボックス16を並設したときに、安全キャビネット15の開口51及び保管ボックス16の開口76を直接連通させるようにしているが、安全キャビネット15の開口51及び保管ボックス16の開口76は、ダクトを介して連通してもよい。同様にして、安全キャビネット15及び保管ボックス17を並設したときに、安全キャビネット15の開口52と保管ボックス17の開口77とは、直接連通させるようにしてもよいし、ダクトを介して連通してもよい。
【0039】
次に、保管ボックス16,17の構成について説明する。以下、保管ボックス16と保管ボックス17とは同一の構成となることから、保管ボックス16の構成のみ説明を行い、保管ボックス17の構成については説明を省略する。ただし、保管ボックス16を細胞加工作業前、保管ボックス17を細胞加工作業後として、作業動線の一方向化とすることも可能である。
【0040】
図5に示すように、保管ボックス16は、箱形状の本体56と、本体の前面に配置される開閉扉57とを有する。本体56の内部は、上述した培養容器を単数、又は複数積層して載置して保管する保管空間58を有する。本体56の内部には、培養容器を載置することができる載置台59が保管空間58の下部に設けられる。
【0041】
載置台59の前端部には、保管ボックス16の内部に設けた保管空間58の空気を排出する前部排気口60が設けられる。また、載置台59の後端側と背面板61との間には、上記保管空間58の空気を吸い込む後部排気口62が設けられる。
【0042】
ここで、載置台59と本体56の底板56aとの間には、前部排気口60に吸い込まれた空気を本体56の後部に流すとともに、後部排気口62に吸い込まれた空気を本体56の後部に流れる前部排気口60からの空気とを合流させる循環路として機能する空間63が設けられる。循環路63にて合流された空気は、例えば保管ボックス16の背面下部に設けたダクト取付部(請求項に記載の第2のダクトに相当)64に接続されるダクト26を介して、空調装置20に送り込まれる。
【0043】
また、保管ボックス16は、上面にクリーンルーム10の空調装置20から延びる給気ダクト31を取り付けるダクト取付部(請求項に記載の第1のダクト接続部に相当)65を有する。ダクト取付部65は、上端側に給気ダクト31が取り付けられ、下端側が保管ボックス16の保管空間58と連通する構成である。ダクト取付部65は、その内部に、送風機(請求項に記載の送風手段に相当)71、加熱器(請求項に記載の加熱手段に相当)72、加湿器(請求項に記載の加湿手段に相当)73及び浄化フィルタ(請求項に記載の浄化手段に相当)74を有する。
【0044】
送風機71は、給気ダクト31から送り込まれる空気を吸い込み、吸い込んだ空気を下方に送り出す。なお、
図5においては、送風機71の例としてプロペラファンなどを用いた軸流送風機を挙げているが、シロッコファンなどを用いた遠心送風機を用いてもよい。送風機71は、空調装置20の送風機23の静圧が十分あれば省略できる。
【0045】
加熱器72は、例えば温水や蒸気、電熱線を熱媒とする加熱コイルである。加熱器72は、送風機23や送風機71によって給気された空気を加熱する。加熱器72は、空気を例えば37~40℃まで加熱する。
【0046】
加湿器73は、加熱器72により加熱されて湿度の下がった空気に対し加湿する。こうすることで短い拡散距離で蒸気が空気に乗りやすい。加湿器73は、キャビネット本体35の外部に沸騰釜を設けたユニット型加湿器などで、ごく低圧の蒸気を噴出するノズル73aを有する。なお、ノズル73aは、加熱器72と浄化フィルタ(請求項に記載の最終除塵手段に相当)74の間の空間75に突出するように配置される。
【0047】
浄化フィルタ74は、例えばHEPAフィルタである。浄化フィルタ74は、送風機71から送り出された空気に含まれる細菌、粉塵などを保管空間58の直前で濾過する。浄化フィルタ74を透過した処理済みの空気は、本体56内の保管空間58に送り出される。
【0048】
保管ボックス16の前面には、図示を省略した開口を有し、通常、開口は開閉扉57により被覆される。開閉扉57は、開口を被覆する閉じ位置と、開口を露呈する開き位置との間で回動する。この開口は、例えばインキュベータからその日の加工作業用に取り出された培養容器(試料)を保管空間に収納する際に露呈される。
【0049】
保管ボックス16の側方には、安全キャビネット15の開口51と連通する開口76が設けられる。開口76は、安全キャビネット15の作業空間40において加工作業を行う試料を、保管ボックス16の開口76及び安全キャビネット15の開口51を介して作業空間40へと移動させる際に用いられる。なお、複数の加工作業を行う場合には、1工程を行う毎に、加工作業後の試料を安全キャビネット15の作業空間40から保管ボックス16の保管空間58に戻してもよい。
【0050】
上述した保管ボックス16の開口76には、開閉扉77が設けられる。開閉扉77は、閉じ位置にあるときに、開口76と安全キャビネット15の開口51との連通を遮断し、開き位置にあるときに、開口76と安全キャビネット15の開口51との連通させる。なお、開閉扉77は、安全キャビネット15の開口51側から、その開閉動作を行うことができる。交叉汚染などの面から、手が接近すると感知する非接触センサにより安全キャビネット15内での作業者の意識した開口51側からの開口76に向けた手の非接触での接近にて開閉扉77が自動で開放し、開口51側から手を引っ込めると開閉扉77が自動で閉止するようにするとなおよい。なお、開閉扉77としては、上下方向に移動可能なスライド式の扉が挙げられる。
【0051】
ここで、
図4に示すように、保管ボックス17の場合、保管ボックス16と同様に、保管ボックス17の側方に開口78が設けられる。開口78は、安全キャビネット15において加工作業を行った試料を、安全キャビネット15の開口52及び保管ボックス17の開口77を介して、保管ボックス17の保管空間79に移動させる際に用いられる。
【0052】
また、保管ボックス17の開口78には、開閉扉80が設けられる。開閉扉80は、閉じ位置にあるときに、開口78と安全キャビネット15の開口52との連通を遮断し、開き位置にあるときに、開口78と安全キャビネット15の開口52との連通させる。なお、開閉扉80は、安全キャビネット15の開口52側から、その開閉動作を行うことができる。交叉汚染などの面から、手が接近すると感知する非接触センサにより安全キャビネット15内での作業者の意識した開口52側からの開口78に向けた手の非接触での接近にて開閉扉80が自動で開放し、開口52側から手を引っ込めると開閉扉80が自動で閉止するようにするとなおよい。なお、開閉扉80としては、上下方向に移動可能なスライド式の扉が挙げられる。
【0053】
図6に示すように、保管ボックス16は、上述した送風機71、加熱器72、加湿器73の他に、温度検出センサ81、湿度検出センサ82、操作パネル83及び制御装置84を有する。
【0054】
温度検出センサ81は、本体56の保管空間58に配置され、本体56の保管空間58における空気の温度を検出する。
【0055】
湿度検出センサ82は、本体56の保管空間58に配置され、本体56の保管空間58における空気の湿度を検出する。
【0056】
操作パネル83は、例えば、本体56の前面上部に設けられる。操作パネル83は、保管ボックス16の保管空間58における温度、湿度などの環境条件を設定する際に用いられる。操作パネル83は、表示装置83aを備える。表示装置83aは、設定画面や、環境条件などを表示する。
【0057】
制御装置84は、CPU85及び記憶媒体86を有する。CPU85は、記憶媒体86に記憶された制御プログラム87を実行し、操作パネル83からの信号や、温度検出センサ81及び湿度検出センサ82からの信号に基づいて、送風機71、加熱器72、加湿器73の作動制御を実行する。なお、加熱器72、加湿器73の制御は、一例として、温度検出センサ81の乾球温度の設定値と実測値との偏差、及び湿度検出センサ82の相対湿度を設定値と実測値との偏差に応じてそれぞれ制御するPID制御によって行われる。
【0058】
なお、保管ボックス16,17に操作パネル83や制御装置84を設ける必要はなく、例えば、クリーンルーム10の温度や湿度を管理する管理装置が保管ボックス16,17が有する送風機71、加熱器72、加湿器73の作動制御を行い、保管ボックス16,17の保管空間58,79における温度や湿度を管理することも可能である。
【0059】
以下、本実施形態の保管ボックス17における制御について説明する。以下、保管ボックス16における制御は、クリーンルーム10に設置された空調装置が駆動していることを前提に説明する。なお、以下では、保管ボックス16における制御について説明するが、保管ボックス17における制御も同様であることから、説明は省略する。
【0060】
空調装置20の送風機23や熱交換器22の熱媒制御弁などが駆動すると、空調装置20の送風機23によって、空調装置20の内部から給気ダクト30に空気が送り出される。給気ダクト30に送り出された空気はクリーンルーム10の内部に送り込まれる。そして、クリーンルーム10に空気が送り込まれる一方で、クリーンルーム10内の空気が還気ダクト25に還気排出される。還気ダクト25に還気された空気は、還気ダクト25の内部を移動して空調装置20に戻される。これにより、クリーンルーム10の空気が空調装置20との間で循環される。例えば、空調装置20の還気ダクト25の吸込み還気口又はクリーンルーム10の内部には、図示を省略した温度検出センサが設けられており、空調装置20の熱交換器22の熱媒制御弁などは該温度検出センサにより検出される温度に基づいて駆動制御される。したがって、空調装置20は、温度検出センサにより検出される温度が予め設定した温度(例えば22℃)となるように駆動制御される。なお、空調装置20に加湿器が設けられている場合には、クリーンルーム10の内部に設けた湿度検出センサにより検出される湿度が、設定される湿度(例えば55%)となるように加湿器が駆動制御される。
【0061】
上述したように、空調装置20の出力側に接続される給気ダクト30から、給気ダクト31,32が分岐される。したがって、空調装置20から空気が送り出されると、空気は給気ダクト30の他、ここから分岐した給気ダクト31及びダクト32にも流れる。その結果、給気ダクト31内に流れる空気は保管ボックス16に、給気ダクト32内に流れる空気は保管ボックス17に各々送り込まれる。
【0062】
保管ボックス16に送り込まれる空気は、送風機71により引き込まれ、空間75に送り出される。空間75に送り出された空気は、加熱器72によって加熱され、加湿器73のノズル73aから噴出される蒸気によって加湿される。加熱加湿された空気は、最終除塵手段の浄化フィルタ74に入るまでにインキュベータ内の温度相当(例えば37℃)に加熱し、インキュベータ内の湿度相当(例えば相対湿度95%)に必要に応じて加湿することも可能である。加熱加湿された空気は、浄化フィルタ74に送り込まれ、空気内の細菌、粉塵が濾過される。そして、浄化済みの空気として、保管ボックス16の保管空間58に送り出される。
【0063】
なお、保管空間58の内部にある空気は、前部排気口60や後部排気口62から排出され、還気ダクト26に送り出される。還気ダクト26に送り出される空気は、空調装置20に送り込まれる。
【0064】
上述したように、給気ダクト31を流れる空気の温度は、クリーンルーム10において設定される温度(例えば22℃)が実現できる室内負荷を賄えるだけの冷熱あるいは温熱を有する(例えば吹き出し温度16℃)である。一方、保管ボックス16の保管空間58の温度や湿度は、インキュベータ内の温度(例えば37℃)に近い温度や湿度に保持される。例えばクリーンルーム10において設定される温度を実現できる空気を保管ボックス16に送り込んだ場合には、クリーンルーム10の設定空気状態が例えば22℃55%RHならば給気温度は例えば16℃80%RHとなるので、インキュベータ内37℃95%RHに比べ低温で絶対湿度が低く乾いており、ヒートショック又は水分変化のショックを起こす可能性がある。そこで、保管ボックス16や保管ボックス17に送り込まれる直前の空気を、加熱器72により加熱し、また加湿器73により加湿することで、保管ボックス16の保管空間58や保管ボックス17の保管空間79の温度や湿度がインキュベータ内の環境条件と同一、又は環境条件に近似したものになる。その結果、保管ボックス16の保管空間58に保管される試料が、上記ヒートショックや水分変化のショックを起こすことを防止できる。したがって、細胞を内包した培養容器を約一日間と比較的長時間保管ボックス16,17で保管した場合であっても、培養容器内の細胞の品質を劣化させることが防止できる。
【0065】
本実施形態では、クリーンルーム10の温度調節を行う空調装置20からの空気をクリーンルームだけでなく、保管ボックス16,17に各々送り込むようにしているが、
図7に示すように、空調装置20からの空気を、保管ボックス16,17のみに送り込むようにしてもよい。この場合、クリーンルーム10’の温度調整を行う空調装置を別に設ける必要がある。
図7に示すように、例えば空調装置20’の給気吐出側に接続される給気ダクト91は、保管ボックス16のダクト取付部65に接続される。また、該給気ダクト91から分岐される給気ダクト92は、保管ボックス17のダクト取付部65に接続される。これにより、空調装置20’からの空気は、保管ボックス16,17に送り込まれる。
【0066】
さらに、保管ボックス16のダクト取付部64に取り付けた還気ダクト93を空調装置20の還気側に接続する。同時に、保管ボックス16のダクト取付部64に取り付けた還気ダクト94を、還気ダクト93に合流させる。これにより、各保管ボックス16,17から送り出される空気が、空調装置20’に戻される。
【0067】
本実施形態では、保管ボックス16,17のダクト取付部64に送風機71、加熱器72、加湿器73及び浄化フィルタ74を配置した場合を説明しているが、
図8に示すように、送風機71、加熱器72、加湿器73及び浄化フィルタ74は、給気ダクト31や給気ダクト32の内部や一部に配置することも可能である。
【0068】
この場合、クリーンルーム10の温度や湿度を管理する管理装置が、送風機71、加熱器72、加湿器73の作動制御を行って、保管ボックス16,17の保管空間58,79における温度や湿度を管理すればよい。
【0069】
本実施形態では、保管ボックス16の保管空間58及び保管ボックス17の保管空間79の温度や湿度の制御を、空調装置20の駆動制御とは別に実行しているが、
図9に示すように、空調装置20の制御を実行する制御装置95が、例えば保管ボックス16,17の送風機71、加熱器72及び加湿器73の制御を行うことで、クリーンルーム10の温度制御や、保管ボックス16の保管空間58,保管ボックス17の保管空間79の温度、湿度制御を一括して行う保管システムSYSとしてもよい。
図9中符号96は操作パネル、符号96aは表示装置である。この場合、制御装置が有するCPU97は、記憶媒体98に記憶された制御プログラム99を用いて、空調装置20の温度制御の他、保管ボックス16の保管空間58,保管ボックス17の保管空間79の温度、湿度制御を実行する。
【0070】
この場合、送風機71、加熱器72、加湿器73及び浄化フィルタ74は、保管ボックス16,17のダクト取付部65の内部に各々設置してもよいし、保管ボックス16,17のダクト取付部65に接続される給気ダクト31,32の内部又は一部に各々設置してもよい。
【符号の説明】
【0071】
15…安全キャビネット、16,17…保管ボックス、20、20’…空調装置、26,27,93,94…還気ダクト,31,32,91,92…給気ダクト、51,52,76,78…開口、58,79…保管空間、59…載置台、64,65…ダクト接続部、71…送風機、72…加熱器、73…加湿器、74…浄化フィルタ、77,80…開閉扉