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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】運搬装置
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/06 20060101AFI20230815BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20230815BHJP
   B66F 7/12 20060101ALI20230815BHJP
   B66B 9/02 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
B66F9/06 J
E04G21/16
B66F7/12
B66B9/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117036
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004099
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000167233
【氏名又は名称】光洋機械産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 義宣
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-025072(JP,A)
【文献】特開平03-259887(JP,A)
【文献】特開昭59-187971(JP,A)
【文献】特開2016-121014(JP,A)
【文献】特開平09-227089(JP,A)
【文献】特開2004-083076(JP,A)
【文献】特開2013-060778(JP,A)
【文献】米国特許第05941347(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/00 - 11/04
B66F 7/00 - 7/28
E04G 21/14 - 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階を有する建築物の建築施工時に用いられ上層階の開口を介して前記上層階へ建築部材を運搬するための運搬装置であって、
複数の支柱を上方向に繋ぎ合わせて構成されるマスト部と、
前記マスト部を支持するとともに、水平移動可能とするための複数の車輪を備えるベース部と、
前記マスト部に沿って昇降自在な移動部と、
前記移動部を前記マスト部に沿って昇降移動させるための駆動力を付与するための駆動部と、
前記移動部に取り付け可能であって前記建築部材を積載するための積載手段と、
前記移動部が前記マスト部に沿って前記上層階の開口を介して前記上層階に移動したとき、前記上層階の床面に当接して前記移動部を直接的に又は間接的に支持するための支持手段と、を備え、
前記支持手段が前記移動部を支持した状態で、前記駆動部による前記移動部を下方向に移動させる駆動力の反力により、前記マスト部及び前記ベース部を引き上げ移動させ、前記上層階の開口を跨ぐ又は塞ぐための板材又はレール上に前記ベース部の車輪を当接させて、前記板材又はレール上及び前記上層階上を水平移動させることを特徴とする、運搬装置。
【請求項2】
前記積載手段は、前記移動部に固定された搬器からなり、
前記支持手段は、前記搬器の側方に取り付けられた回動自在な二対の支持アームからなる、請求項1に記載の運搬装置。
【請求項3】
前記積載手段は、前記移動部に固定された搬器と、前記搬器に搭載可能な籠部材とからなり、
前記支持手段は、前記搬器の側方及び前記移動部の側方にそれぞれ取り付けられた回動自在な二対の支持アームからなる、請求項1に記載の運搬装置。
【請求項4】
前記積載手段は、前記移動部に装着自在な籠部材からなり、
前記支持手段は、
前記移動部の前方側に取り付けられた平面視でコ字状のコ字状フレーム、前記コ字状フレームの各腕部端部に回動自在にそれぞれ接続されたL字状の一対の中間アーム、及び前記一対の中間アームの各先端部にそれぞれ回動自在に接続された一対の延伸アームと、
前記移動部の側方にそれぞれ取り付けられた回動自在な一対の補助アーム、及び前記一対の補助アームの各先端に回動自在にそれぞれ設けられた一対の先端アームとからなり、
前記籠部材は、前記移動部の昇降時に、前記コ字状フレームの各腕部に掛止される、請求項1に記載の運搬装置。
【請求項5】
前記駆動部は、
無線または有線により外部の装置から駆動可能とされる、請求項1ないし4のいずれかに記載の運搬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築資材を運搬するための運搬装置に関し、特に複数階を有する建築物において上層階に建築資材を運搬する運搬装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばマンション等の複数階を有する建築物は、各階において同じ構造とされることが多い。そのため、マンション等が建築施工される場合には、各階における作業において同様の建築資材が繰り返し使用される。したがって、例えば型枠や支保工等の建築部材は、各階の作業において順次、上層階に運搬されながら用いられる。
【0003】
建築資材を上層階に運搬する装置としては、例えば特許文献1に示すように、資材運搬用の昇降装置が用いられる。この昇降装置は、例えば建築物の外壁に沿って設けられた仮設足場に設けられる。より具体的には、この昇降足場では、仮設足場の外側の支柱に走行レールが設けられ、その走行レールに沿って昇降移動する運搬用籠が設けられている。運搬用籠は建築資材を積載するものであり、走行レールの上部に設けられたホイストやウィンチ等によって昇降される。したがって、この昇降装置を用いれば、建築資材を上層階に順次運搬することができる。
【0004】
しかしながら、この昇降装置では、建築資材を上層階に運搬するために、上層階の高さ分に応じた仮設足場やその高さに応じた長さの走行レールを設ける必要がある。そのため、階数が増えれば増えるほど、大掛かりな装置になってしまい、それを設置する際の工事コストや装置コストが嵩張るといった問題点があった。
【0005】
また、この昇降装置は、仮設足場の外側に設けられるため、建築資材を建築物の各階に搬入したり各階から搬出したりする場合には、必ず仮設足場を介して建築資材を移動させなければならない。そのため、仮設足場を介して建築資材を移動させる際、建築資材を落下させるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-78041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、建築資材を上層階へ容易に運搬することのできる運搬装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって提供される運搬装置は、複数階を有する建築物の建築施工時に用いられ上層階の開口を介して前記上層階へ建築部材を運搬するための運搬装置であって、複数の支柱を上方向に繋ぎ合わせて構成されるマスト部と、前記マスト部を支持するとともに、水平移動可能とするための複数の車輪を備えるベース部と、前記マスト部に沿って昇降自在な移動部と、前記移動部を前記マスト部に沿って昇降移動させるための駆動力を付与するための駆動部と、前記移動部に取り付け可能であって前記建築部材を積載するための積載手段と、前記移動部が前記マスト部に沿って前記上層階の開口を介して前記上層階に移動したとき、前記上層階の床面に当接して前記移動部を直接的に又は間接的に支持するための支持手段と、を備え、前記支持手段が前記移動部を支持した状態で、前記駆動部による前記移動部を下方向に移動させる駆動力の反力により、前記マスト部及び前記ベース部を引き上げ移動させ、前記上層階の開口を跨ぐ又は塞ぐための板材又はレール上に前記ベース部の車輪を当接させて、前記板材又はレール上及び前記上層階上を水平移動させることを特徴としている。
【0009】
本発明の運搬装置において、前記積載手段は、前記移動部に固定された搬器からなり、前記支持手段は、前記搬器の側方に取り付けられた回動自在な二対の支持アームからなるとよい。
【0010】
本発明の運搬装置において、前記積載手段は、前記移動部に固定された搬器と、前記搬器に搭載可能な籠部材とからなり、前記支持手段は、前記搬器の側方及び前記移動部の側方にそれぞれ取り付けられた回動自在な二対の支持アームからなるとよい。
【0011】
本発明の運搬装置において、前記積載手段は、前記移動部に装着自在な籠部材からなり、前記支持手段は、前記移動部の前方側に取り付けられた平面視でコ字状のコ字状フレーム、前記コ字状フレームの各腕部端部に回動自在にそれぞれ接続されたL字状の一対の中間アーム、及び前記一対の中間アームの各先端部にそれぞれ回動自在に接続された一対の延伸アームと、前記移動部の側方にそれぞれ取り付けられた回動自在な一対の補助アーム、及び前記一対の補助アームの各先端に回動自在にそれぞれ設けられた一対の先端アームとからなり、前記籠部材は、前記移動部の昇降時に、前記コ字状フレームの各腕部に掛止されるとよい。
【0012】
本発明の運搬装置において、前記駆動部は、無線または有線により外部の装置から駆動可能とされるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マスト部に沿って昇降自在な移動部によって、建築部材が積み込まれた搬器が上層階に到達したとき、支持手段が移動部を支持した状態で、移動部を下方向に移動させる駆動力の反力により、マスト部及びベース部を引き上げる。そのため、下層階から上層階へ搬器によって建築資材を運搬するとともに、マスト部及びベース部も上層階へ引き上げることができる。したがって、従来の構成のように工事コストや装置コストが嵩張ることなく、容易に建築資材を上層階へ運搬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る運搬装置の構成を示す斜視図である。
図2図1に示す運搬装置を示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図3】ベース支柱の斜視図及び要部拡大斜視図である。
図4】駆動部の構成を示す図である。
図5】搬器の支持アームが回動された状態を示す図である。
図6】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図7】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図8】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図9】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図10】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図11】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図12】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図13】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図14】本運搬装置による運搬方法を説明するための図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る運搬装置の構成を示す斜視図である。
図16】ケージが搬器に搭載された状態を示す斜視図である。
図17】各支持アームが回動された状態を示す斜視図である。
図18】本発明の第3実施形態に係る運搬装置の構成を示す斜視図である。
図19】ケージが支持機構によって支持された状態を示す斜視図である。
図20】各支持アームが回動された状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態に係る運搬装置の構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示す運搬装置であって(a)は側面図、(b)は正面図である。なお、図1は、延長支柱12(後述)が複数繋ぎ合わされかつ搬器5(後述)が上昇した状態を示す。以下の説明では、図1において右手前側を「前方側」とし、左奥行側を「後方側」とする。また、図2は、搬器5が上昇していない基準位置にある状態を示しており、アウトリガー6,7(後述)は省略されている。
【0018】
この運搬装置1は、複数階を有する建築施工中の建築物(例えばマンション)において下層階から上層階へ建築資材を運搬するためのものである。運搬装置1は、ベース部2と、ベース部2に立設されたマスト部3と、マスト部3に沿って上下動自在に設けられた移動部4と、移動部4に取り付けられ建築資材を積載するための搬器5とを備えている。なお、建築資材としては型枠や支保工等が挙げられるが、建築作業に用いられる工具や機材等を含むものとする。
【0019】
ベース部2は、マスト部3を立設支持するためのものであり、角柱材が平面状に組み合わされて形成されている。ベース部2には、前方側に広がるように延びた2本のアウトリガー6と、後方側に延びた2本のアウトリガー7とが取外し自在に設けられている。各アウトリガー6,7は、この運搬装置1をグランド(地面)に対して安定保持するためのものである。各アウトリガー6,7の先端部には、それらの高さを調整可能なジャッキ部材8がそれぞれ設けられている。
【0020】
ベース部2の下面には、この運搬装置1を作業者が手押しして移動させるための複数のキャスター9がそれぞれ備えられている。ベース部2の後方側上面には、各アウトリガー6,7の未使用時にそれらを立設収納するための複数の収納部10を備えている。
【0021】
マスト部3は、ベース部2に固定されたベース支柱11と、ベース支柱11の上方に繋ぎ合せて連結される延長支柱12とによって構成される。ベース支柱11は、図3に示すように、所定長さを有する略角柱状に形成されており、下端部にベース支柱11の支持受けとなる支柱受け13を備えている。
【0022】
ベース支柱11は、その4つの側面に上下方向に延びる凹部11aがそれぞれ形成されており、4つの側面のうちの前方側の一側面には、長板状のトラック14が嵌め込まれている。トラック14には、長手方向に沿って複数の係合孔15が形成されている(図3の円内参照)。
【0023】
ベース支柱11の左右側面の上端部には、延長支柱12を連結するための連結レバー16が備えられている。連結レバー16は、ベース支柱11の上端と延長支柱12の下端とが合わさったとき、延長支柱12の下端に設けられた図示しないレバーロックと接続され、これにより、ベース支柱11と延長支柱12とが連結される。
【0024】
延長支柱12は、図1に示すように、ベース支柱11の上方に連結されるものである。延長支柱12は複数備えられており、延出方向に順次繋ぎ合せられることにより、作業者は、マスト部3の高さを所望の高さに調整することができる。延長支柱12は、ベース支柱11と同様に、トラック14及び連結レバー16(図1では図示略)を備えており、他の延長支柱12と同様の構造で連結することができる。
【0025】
移動部4は、搬器5を支持しつつそれを昇降移動させるためのものであり、上下方向に延びかつ平面視で略コの字状に形成された移動プレート18からなる。移動プレート18は、その裏面側にベース支柱11の側面に沿って回転自在な複数のローラ(図略)を有しているとともに、その正面中央部にギアボックス19が取付けられている。
【0026】
ギアボックス19は、モータ20(後述)による回転動作を移動部4の移動方向への進行動作に変換することにより、マスト部3に沿って移動部4が昇降するための駆動力を付与するものである。ギアボックス19は、側面視で略台形状とされ、内部に複数のギア(図略)が備えられており、いずれかのギアが上記したトラック14の係合孔15に係合される。ギアボックス19の上面には、図4に示すように、ドライバ受け21が設けられ、ドライバ受け21には、モータ20の回転軸20aが接合される。
【0027】
モータ20は、ギアボックス19に対して所定の回転力を付与するものであり、制御部22に接続されている。制御部22は、移動プレート18に固定され、モータ20をオン、オフ制御するものである。図示していないが、制御部22は、電源ケーブルが接続されており、外部からの遠隔操作により動作される。なお、制御部22には無線用の通信機能が備えられ、制御部22及びモータ20は、無線による遠隔操作により動作されてもよい。また、搬器58には、制御部22に対して電源を供給するためのバッテリが備えられていてもよい。
【0028】
モータ20が回転駆動されることにより、移動プレート18は、マスト部3に沿って上下動される。この移動プレート18の上下動にともない、それに取り付けられた搬器5も昇降移動される(図1の矢印A参照)。
【0029】
搬器5は、建築資材を積載するためのものであり、略四角平面状の底部24と、建築資材の落下を防止するための二段の手摺25とを備えている。なお、搬器5の前面側の手摺25には、これに代えて建築資材を出し入れし易くするための開放可能なゲート部材が備えられていてもよい。また、図4には示していないが、ギアボックス19に接合されたモータ20の周囲には、搬器5に積載された建築資材との干渉を防止するためのカバーが設けられていてもよい。
【0030】
搬器5は、移動部4によってマスト部3に沿って昇降移動可能とされるので、搬器5に建築資材が積載されておれば、建築資材を上層階に容易に運搬することができる。
【0031】
搬器5には、図1図2及び図5に示すように、その左右側方に二対の支持部27が設けられている。支持部27は、後述するように、この搬器5が下層階から上層階に移動されたときに、上層階の床面に対して押圧力を付与しながら搬器5を支持するためのものである。各支持部27は、一対の支持アーム28によってそれぞれ構成されており、各支持アーム28は略L字状にそれぞれ形成されている。各支持アーム28は、短辺側の一端が搬器5の側方下部に回動自在に支持されている。
【0032】
各支持アーム28は、未使用時(図1図2及び図5(点線)参照)には、搬器5の側方に沿うように配されている一方、使用時(図5の実線参照)には、搬器5の側方下部を中心にして回動し(矢印B参照)、長辺が垂直方向に延びるように配される。なお、図示していないが、図5に示す状態では、各支持アーム28にはそれらの回動を阻止するための固定部材が短辺側の一端近傍に設けられている。
【0033】
図5に示すように、支持アーム28が回動されてその下端が例えば上層階の床面に当接され、この状態で搬器5(移動部4)をマスト部3に沿って下降させると、支持アーム28は、上層階の床面に対して押圧力を付与する状態となるので、搬器5は静止したままである。このとき、マスト部3には、移動部4を下方向に移動させるための駆動力の反力が生じ、マスト部3は移動部4に沿って上昇し(矢印C参照)、それにともなってベース部2も引き上げられる。よって、マスト部3及びベース部2を下層階から上層階に引き上げることができ、結果的に運搬装置1全体を下層階から上層階に移動させることができる。
【0034】
次に、本実施形態の運搬装置1による建築資材の運搬方法について、図6ないし図14を参照して説明する。
【0035】
以下では、建築資材が下層階としての1階から上層階としての2階に運搬される場合を説明するが、建築資材が2階から3階へ、あるいは3階から4階へ運搬される場合も同様とされる。なお、各上層階には、例えば900mm角の開口H(後述)が形成されており、本実施形態に係る運搬装置1においてはこの開口Hが利用されて建築資材が運搬される。
【0036】
まず、図6に示すように、作業者は、下層階F1上において搬器5が上層階F2の開口Hのほぼ真下になる位置に運搬装置1を移動させ配置させる。運搬装置1が配置されると、作業者は、図7に示すように、ベース部2にアウトリガー6,7を取り付け、ベース部2を安定保持させる。
【0037】
次いで、作業者は、図8に示すように、下層階F1においてベース支柱11に2段目の延長支柱12を繋ぎ合せる。その後、図9に示すように、2段目の延長支柱12に3,4段目の延長支柱12を順次繋ぎ合せる。この場合、作業者は、必要に応じて上層階F2上に上がり(図9参照)、上層階F2において繋ぎ合せ作業を行ってもよい。作業者は、延長支柱12の繋ぎ合せ作業を終えれば、下層階F1上において搬器5に建築資材Mを積載する。なお、建築資材Mの搬器5への積載は、延長支柱12の繋ぎ合せ作業の前に行われてもよい。
【0038】
次に、作業者は、モータ20を回転駆動させ、図10に示すように、搬器5をマスト部3に沿ってかつ開口Hを通過するように上昇させる(矢印E参照)。この場合、モータ20は、例えばリモートコントロール装置等を用いて無線で駆動させてもよいし、あるいは電源ケーブル等が接続されて有線で駆動させてもよい。搬器5の底部が上層階F2の開口Hよりやや上方の位置にくるまで上昇されると、作業者は、搬器5に積載された建築資材Mを搬器5から取り出し、上層階F2の適当な場所に移動させる。
【0039】
このとき、下層階F1において運搬すべき建築資材Mが他にあれば、作業者は、図9に示したように、搬器5を再び下層階F1まで下降させ、下層階F1にある建築資材Mを搬器5に積載する。そして、図10に示したように、搬器5を上層階F2まで上昇させ、他の建築資材Mを搬器5から取り出す。このように、図9及び図10に示す搬器5の上下動動作は、下層階F1に運搬すべき建築資材Mがなくなるまで行われればよい。
【0040】
次に、作業者は、搬器5を上層階F2の床面に対して支持させる。具体的には、図11に示すように、搬器5をマスト部3に沿って若干上昇させ、搬器5の側方に沿う二対の支持部27の各支持アーム28を回動させ(矢印B参照)、各支持アーム28の長辺が垂直方向に向くように配する。
【0041】
そして、作業者は、搬器5を下降させる方向に移動させると、各支持アーム28の下端が上層階F2の床面に当接し、これにより、搬器5は、移動プレート18に取り付けられた状態で支持アーム28によって支持される。
【0042】
次いで、作業者は、下層階F1においてアウトリガー6,7をベース部2から取り外した後、搬器5を操作上、下降させる方向にモータ20を回転駆動させる。このとき、搬器5は、支持アーム28によって上層階F2の床面に支持されているため、それ自体は静止した状態である。
【0043】
その一方で、上層階F2の床面には、各支持アーム28を通じて所定の押圧力が付与される。そのため、マスト部3には、モータ20による搬器5を下降させる駆動力の反力が生じ、マスト部3は、上層階F2に向かって移動する(図12の矢印F参照)。これにともなってベース部2も引き上げられる。この場合、作業者は、モータ20の回転動作と一時停止とを繰り返し、マスト部3を適当な停止位置で停止させて、延長支柱12を一つずつ取り外す。
【0044】
その後、作業者は、図13に示すように、ベース部2のキャスター9の最下端が開口Hよりやや上方の位置にくるまでベース部2を引き上げる。ベース部2が所望の高さ位置まで移動すれば、上層階F2の床面とキャスター9との間に、開口Hを跨ぐあるいは塞ぐように板材30あるいはレール等を敷設する。そして、搬器5を若干下降させて、板材30等の上にキャスター9を当接させる。
【0045】
次いで、搬器5を若干上昇させて、支持アーム28の下端と下層階F2の間に隙間を生じさせる。これにより、支持アーム28が自由になるので、支持アーム28を回動させて搬器5の元の側方位置に戻す。そして、図14に示すように、作業者は、運搬装置1を押すことにより、運搬装置1を板材30上及び上層階F2上で移動させ(矢印G参照)、運搬装置1を任意の位置に運ぶ。
【0046】
このように、本実施形態によれば、建築資材を下層階から上層階へ容易に運搬することができ、さらに、運搬装置1も下層階から上層階へ支障なく移動させることができる。建築資材を上層階へ運搬する場合、従来の構成のように資材運搬用の昇降装置を用いることも可能であるが、この場合、上層階の高さ分に応じた仮設足場やその高さに応じた長さの走行レールを設ける必要があり、工事コストや装置コストが嵩張るといった問題点があった。
【0047】
しかしながら、本実施形態の運搬装置1によれば、それ自体も下層階から上層階へ移動されるので、上記工事コストや装置コストが嵩張ることはない。また、本運搬装置1では、資材運搬用の昇降装置を用いた場合のそれを設置したり撤去したりする時間が不要である。そのため、運搬作業時間を短縮することができ、ひいては運搬作業の効率化を図ることができる。
【0048】
また、従来の構成で示した資材運搬用の昇降装置は、仮設足場の外側に設けられているので、建築資材を建築物の各階に搬入又は各階から搬出させる場合には、仮設足場を介して移動させなければならず、建築資材を移動させる際、建築資材を落下させるおそれがあった。しかしながら、本実施形態の運搬装置1によれば、建築物の各階に形成された開口を介して建築資材が運搬されるので、上記の不都合は生じることがない。
【0049】
また、建築資材を上方に運搬する方法としては、例えば移動式のリフター装置を用いて1階から2階へ建築資材を運搬することは可能であるが、リフター装置はそれ自体をそのまま上層階へ移動させることは困難である。すなわち、継続して例えば2階から3階へ建築資材を運搬する場合には、リフター装置自体を1階から2階へエレベーター等の別途外部の方法により移動させる必要があり、余計な労力を費やすことになるが、本実施形態によれば、そのような労力は不要である。
【0050】
図15は、本発明の第2実施形態に係る運搬装置1Aの構成を示す斜視図である。この運搬装置1Aでは、建築資材を積載するものとして専用のケージ31(後述)が用いられる点、ケージ31を搭載するための運搬装置1Aの本体側の構造等で、上記第1実施形態の運搬装置1と異なる。
【0051】
ケージ31は、建築資材を積載し運搬するものであり、略長方形状の底部33と、その周囲に立設された複数のパイプ部材34と、複数のパイプ部材34を中央高さ位置及び上端位置で水平方向に接続する連結部材35とからなる。ケージ31では、四側面のうちの一側面が扉として開閉自在に設けられている(矢印J参照)。また、ケージ31の底部33の裏面には、複数のキャスター36が備えられている。
【0052】
搬器32は、このケージ31を搭載して昇降するものであり、第1実施形態に示した搬器5と比べ、やや幅広に形成されている。搬器32の底面前面側には、ケージ31を搬器32にスムーズに搬入または搬出するための案内部材37が回動自在に設けられている。また、搬器32の前方側の上部には、搭載されたケージ31の落下を防止するためのゲート部材38が取付自在に設けられている。
【0053】
運搬装置1Aのベース部39は、平面視でコの字状に形成されており、このベース部39の内側は、搬器32を包囲可能なスペースを有している。ベース部39の中央上部には、ベース支柱11が立設されている。ベース部39の下部には、複数のキャスター40が備えられている。
【0054】
運搬装置1Aには、第1実施形態と同様の機能を有する支持部41が設けられている。支持部41は、二対の支持アーム42,43からなり、前方側の各支持アーム42は、略L字状であって搬器32の左右側方にそれぞれ回動自在に設けられている。
【0055】
一方、後方側の各支持アーム43は、補助アーム44と先端アーム45とからそれぞれなり、補助アーム44は、移動プレート18の左右側方に回動自在に設けられており、先端アーム45は、補助アーム44の先端に回動自在に設けられている。各支持アーム43は、未使用時には移動プレート18の左右側方において略直線状に配され(図15参照)、使用時には補助アーム44と先端アーム45とが略L字状になるように配される(図17参照)。
【0056】
上記の構成によれば、この運搬装置1Aによって下層階から上層階へ建築資材を運搬する場合には、図16に示すように、建築資材(図略)が積載されたケージ31が搬器32に搭載され、その搬器32が上層階の開口Hを介して上層階に昇降移動される。搬器32が上層階に移動されると、ケージ31が搬器32から降ろされ、ケージ31は、建築資材を積載したまま上層階の所望位置に移動される。
【0057】
そして、図17に示すように、二対の支持アーム42,43がそれぞれ回動され、これにより、搬器32は、支持アーム42,43によって上層階の床面において支持される。次いで、モータ20(図略)が回転駆動されることにより、ベース部39は、下層階から上層階へ移動され、運搬装置1Aの本体側を上層階へ移動させることができる。
【0058】
このように、第2実施形態においても、建築資材を容易に下層階から上層階へ運搬することができる。特に、この運搬装置1Aにおいては、建築資材が積載されたケージ31を搬器32に搭載し、ケージ31が搭載されたまま搬器32を昇降させるので、第1実施形態のように建築資材を搬器5に積み込んだり取り出したりする必要はなく、より簡便にかつ効率的に建築資材を運搬することができる。
【0059】
図18は、本発明の第3実施形態に係る運搬装置1Bの構成を示す斜視図である。この運搬装置1Bは、上記した搬器自体が設けられておらずケージ47(後述)を直接的に支持したまま昇降させる点、ケージ47を支持するための運搬装置1Bの本体側の構造等で上記第1及び第2実施形態の運搬装置1,1Aと異なる。
【0060】
運搬装置1Bには、ベース部39及びマスト部3を引き上げる際に移動プレート18を支持する支持部48が設けられている。支持部48は、移動プレート18の前面側に設けられた支持機構49と、移動プレート18の側面に沿って設けられた一対の支持アーム43とによって構成される。なお、支持アーム43は、第2実施形態で説明したものと同様の構成である。
【0061】
ここで、支持機構49は、ケージ47が昇降される際にそれを支持する機能と、ベース部39及びマスト部3を引き上げる際に移動プレート18を支持する機能とを有している。支持機構49は、後述するように、コ字状フレーム50と、一対の中間アーム51と、一対の延伸アーム52とからなる。
【0062】
コ字状フレーム50は、平面視でコ字状に形成されており、平板状の基部53と、基部53の両端から前方側に延びた一対の腕部54とからなる。コ字状フレーム50は、基部53が移動プレート18に固定されており、両腕部54の内側の幅は、ケージ47の幅とほぼ同一とされる。各腕部54の前方端側は、略L字状にそれぞれ形成されている。
【0063】
一対の中間アーム51も、それぞれ略L字状に形成されており、各腕部54の前方端部に回動自在に接続されている。また、一対の延伸アーム52は、それぞれ略平板状に形成されており、各中間アーム51の長辺の先端部に回動自在にそれぞれ接続されている。
【0064】
ケージ47は、第2実施形態のケージ31の構成とほぼ同様に形成され、それに加えて側方部にコ字状フレーム50の一対の腕部54に掛止可能な掛止部材55が設けられている。この運搬装置1Bを用いてケージ47が昇降されるときには、上記一対の腕部54がケージ47の掛止部材55に挿嵌されて、ケージ47がコ字状フレーム50によって支持される。なお、腕部54の先端には、掛止部材55からの抜脱を防止するための抜脱防止部材が設けられていてもよい。
【0065】
上記の構成によれば、この運搬装置1Bによって下層階から上層階へ建築資材を運搬する場合には、図19に示すように、建築資材(図略)を積載したケージ47が支持機構49に支持されて、ケージ47自体が上層階の開口Hを介して上層階に昇降移動される。ケージ47自体が上層階に移動されると、ケージ47が支持機構49から外され、ケージ47は、建築資材を積載したまま上層階の所望位置に移動される。
【0066】
そして、図20に示すように、支持機構49の中間アーム51及び延伸アーム52が回動されるとともに、支持アーム43が回動され、これにより、移動プレート18は、支持機構49及び支持アーム43によって上層階の床面において支持され、モータ20(図略)が回転駆動されることにより、ベース部39及びマスト部3が下層階から上層階へ移動される。
【0067】
このように、第3実施形態においても、建築資材が積載されたケージ47によって建築資材を容易に下層階から上層階へ運搬することができる。よって、第2実施形態の運搬装置1Bと同様に、より簡便にかつ効率的に建築資材を運搬することができる。また、第1及び第2実施形態に比べ搬器5,32が設けられていないため、装置構成が容易であり製作コストを低減することができる。
【0068】
なお、本発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、上記実施形態における運搬装置の各構成部材の形状、大きさ及び数量等は、上記実施形態に限るものではなく、適宜設計変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 運搬装置
2 ベース部
3 マスト部
4 移動部
5 搬器
11 ベース支柱
12 延長支柱
18 移動プレート
20 モータ
27 支持部
28 支持アーム
31 ケージ
M 建築資材
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