(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】液体噴出器、及びシリンダ部材
(51)【国際特許分類】
B65D 83/00 20060101AFI20230815BHJP
B05B 11/00 20230101ALI20230815BHJP
F04B 9/14 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B65D83/00 K
B05B11/00 101H
F04B9/14 B
(21)【出願番号】P 2019217563
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】先曽 洋一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝之
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109471(JP,A)
【文献】特開2007-223217(JP,A)
【文献】特開2012-067245(JP,A)
【文献】特開2000-218198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/00
B05B 11/00
F04B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状形状を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の上端部に一体形成されたフランジ部とを有するシリンダ部と、
前記シリンダ部を容器本体に固定する装着部材と、
前記シリンダ部に対して上方付勢されるとともに前記シリンダ本体の内側を上下動可能に設けられ、前記シリンダ本体の内部から起立するプランジャ体と、
該プランジャ体の上方に取り付けられ、押下により前記シリンダ本体内に引き込まれた前記容器本体内の内容液を上方に圧送せしめ、外部に噴出させるヘッド部と
を備え、
前記フランジ部の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部が形成され、
該各ゲート部の径方向内側には、前記フランジ部の上面又は下面から鉛直方向に凹む凹部がそれぞれ形成されており、
前記シリンダ部は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されていることを特徴とする液体噴出器。
【請求項2】
前記各凹部は、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように形成されている、請求項1に記載の液体噴出器。
【請求項3】
有底筒状形状を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の上端部に一体形成されたフランジ部とを有するシリンダ部材であって、
前記フランジ部の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部が形成され、
該各ゲート部の径方向内側には、前記フランジ部の上面又は下面から鉛直方向に凹む凹部がそれぞれ形成されており、
前記シリンダ部材は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されて
おり、
前記各凹部は、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように形成されていることを特徴とするシリンダ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容器本体の口部に装着され、容器本体内の内容物を外部に噴出させるための液体噴出器、及びシリンダ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液体噴出器としては、例えば、特許文献1に示すように、容器体の口部へ装着する装着筒部と、この装着筒部より下方へ垂下されたシリンダを有するスプレー本体と、前記スプレー本体に対して上下動可能に設けられ、前記シリンダの内部から起立するプランジャ体の上部に昇降可能に押下げヘッドを取り付けた作動部材と、を具備し、前記押下げヘッドの下側に前記シリンダより大内径の補助シリンダを設けるとともに、前記プランジャ体の下部に前記シリンダ内を摺動可能な小径ピストンを、プランジャ体の上部に前記補助シリンダ内を摺動可能な大径ピストンをそれぞれ形成し、前記シリンダの下部内に第1弁体を、前記プランジャ体の上端と前記押下げヘッドとの間に第2弁体をそれぞれ設けたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の液体噴出器では、シリンダのフランジ部にゲート部を設けて射出成形によりシリンダを形成する場合、シリンダ本体等にウェルドが発生することがある。この場合、ウェルド発生部においてシリンダの内面とプランジャ体の摺動部との間に微小な隙間が発生し、当該隙間から内容物が外部に漏れ出ることがあるため、改善の余地があった。また、シリンダは、ポンプの外体としての役割、及びプランジャ体等がシリンダの内面を摺動する点に鑑み、耐衝撃性及び摺動性を備えている必要もある。
【0005】
本開示の目的は、耐衝撃性及び摺動性を備え、内容物の漏れ出しが発生し難い液体噴出器、及びシリンダ部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の液体噴出器は、
有底筒状形状を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の上端部に一体形成されたフランジ部とを有するシリンダ部と、
前記シリンダ部を容器本体に固定する装着部材と、
前記シリンダ部に対して上方付勢されるとともに前記シリンダ本体の内側を上下動可能に設けられ、前記シリンダ本体の内部から起立するプランジャ体と、
該プランジャ体の上方に取り付けられ、押下により前記シリンダ本体内に引き込まれた前記容器本体内の内容液を上方に圧送せしめ、外部に噴出させるヘッド部と
を備え、
前記フランジ部の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部が形成され、
該各ゲート部の径方向内側には、前記フランジ部の上面又は下面から鉛直方向に凹む凹部がそれぞれ形成されており、
前記シリンダ部は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の液体噴出器は、上記構成において、前記各凹部は、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように形成されていることが好ましい。
【0008】
また、本発明のシリンダ部材は、
有底筒状形状を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の上端部に一体形成されたフランジ部とを有するシリンダ部材であって、
前記フランジ部の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部が形成され、
該各ゲート部の径方向内側には、前記フランジ部の上面又は下面から鉛直方向に凹む凹部がそれぞれ形成されており、
前記シリンダ部材は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されており、
前記各凹部は、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、耐衝撃性及び摺動性を備え、内容物の漏れ出しが発生し難い液体噴出器、及びシリンダ部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態である液体噴出器の正面半断面図である。
【
図2A】本開示の一実施形態である液体噴出器に用いられるシリンダ部材の平面図である。
【
図2B】本開示の一実施形態である液体噴出器に用いられるシリンダ部材の正面半断面図である。
【
図3】
図2AにおけるA-A断面による断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態である液体噴出器に用いられるシリンダ部材を射出成形により形成する際の、フランジ部における溶融樹脂の流れの一例を示す図である。
【
図5A】液体噴出器に用いられる従来のシリンダ部材(比較例)の平面図である。
【
図5B】液体噴出器に用いられる従来のシリンダ部材(比較例)の正面半断面図である。
【
図6】液体噴出器に用いられる従来のシリンダ部材を射出成形により形成する際の、フランジ部における溶融樹脂の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面(
図1から
図4)を参照して、本開示の一実施形態に係る液体噴出器100を詳細に説明する。
【0012】
図1において、符号101は、有底筒状形状を有するシリンダ本体1と、シリンダ本体1の上端部に一体形成されたフランジ部2とを備えるシリンダ部101(シリンダ部材)である。フランジ部2は、
図1に示すように、容器本体Cにおける口部C2の上端部にパッキンPKを介して配置されている。フランジ部2が口部C2の上端部と後述する装着部材3の肩部4との間で挟持されることで、シリンダ本体1が容器本体Cの口部C2の内側を通って下方に垂下する状態で固定されている。シリンダ本体1は、筒状部1aと、筒状部1aの中央高さよりも下方の高さ位置において内面が径方向外側に拡径する拡径部1bと、下方に向けて縮径する円錐台側面形状を有し、吸入弁10が着座する弁座1eと、容器本体C内の内容物をシリンダ本体1内に導くパイプPを嵌合固定する嵌合筒部1fと、筒状部1aの上下2箇所に並んで設けられる圧力開放孔1c及び開放孔1dとを備えている。拡径部1bは、内容物の噴出が終了したときにシリンダ本体1内の液圧を拡径部1b及び圧力開放孔1c経由で逃がすことでノズルにおける液切れを改善するために設けられている。開放孔1dは、容器本体C内に外気を取り込むために設けられている。すなわち、容器本体C内が負圧状態になると、開放孔1dから外気が取り込まれて容器本体Cが復元する。
【0013】
なお、本明細書、特許請求の範囲、及び図面においては、上下方向は、
図1に示すように液体噴出器100を容器本体Cに装着し正立姿勢とした状態における上方、下方を意味するものとする。また、径方向外側とは、
図1における液体噴出器100の中心軸線Oを通り中心軸線Oに垂直な直線に沿って中心軸線Oから離れる方向であり、径方向内側とは、当該直線に沿って中心軸線Oに向かう方向を意味するものとする。また、周方向とは、中心軸線O周りの回転方向である。
【0014】
本実施形態において容器本体Cは、合成樹脂素材により形成されるパリソンに対し、押出しブロー成形を行うことによって形作っている。そして、容器本体Cを構成する材料には、低密度ポリエチレン(LDPE)又は高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を用いており、特にLDPEを用いた場合には高いスクイズ性を付与することができる。また、HDPEを用いた場合には、高い剛性を備え耐衝撃性に優れた容器本体Cを製造することができる。しかし、この態様に限定されず、例えば二軸延伸ブロー成形を行うことによって容器本体Cを形成する場合には、容器本体Cを構成する材料にはポリエチレンテレフタレート(PET)等を用いてもよい。
【0015】
符号3は、フランジ部2を固定する肩部4を有し当該肩部4の上面からシリンダ本体1の内径よりも大きな内径の内周壁5及びその径方向外側に外周壁5aが一体に起立する装着部材である。装着部材3は、側壁3aの内側にねじ部3sを有し、容器本体Cの口部C2に着脱可能に装着される。なお、ねじ部3sに代えて側壁3aから径方向内側に突出する係合突部を設けて打栓により容器本体Cに装着可能に構成してもよい。
【0016】
符号6は、装着部材3の内周壁5の内側を摺動するサブシリンダ6aと、サブシリンダ6aから径方向内側に延びる水平壁6bと、水平壁6bの内周側から起立するステム6dとを一体化したヘッド基部である。サブシリンダ6aは、
図1に示すように、シリンダ本体1の筒状部1aの内径よりも大きい内径を有している。ヘッド基部6における水平壁6bの内周端には、径方向内側に突出し後述する第1プランジャ11に当接して排出口A2を閉塞する突部6cが形成されている。
【0017】
符号8は、ステム6dを嵌合する凹部8aを有し当該ステム6dとの間に形成した空間C1を通して内容物が圧送される押圧部材である。本実施形態に係る液体噴出器100のヘッド部30は、ヘッド基部6及び押圧部材8を備えており、押圧部材8の押下によって、シリンダ本体1内に蓄えられた内容物がヘッド部30に圧送される。空間C1の径方向内側における押圧部材8の下部には、下方に突出する突部8bが設けられている。突部8bは周方向に間欠的に設けられており、周方向における突部8b同士の間の領域は、内容物が通過可能な液通路を形成している。
【0018】
符号9は、シリンダ本体1の内側を液密状態に摺動する摺動部9aと、サブシリンダ6aの内側を液密状態に摺動する第2ピストン9bとを有し、内容物を吸引、加圧及び圧送する第2プランジャである。第2プランジャ9は、押圧部材8の押し下げ及び復帰の繰り返しに応じてシリンダ本体1及びサブシリンダ6aの内側をそれぞれ摺動する。第2ピストン9bは、
図1に示すように、第2プランジャ9の上端部に形成されている。摺動部9aは、第2プランジャ9の下端部に形成されている。
【0019】
符号10は、第2プランジャ9の摺動に応動してシリンダ本体1の下端に形成した吸入口A1を開閉する吸入弁である。本形態では、吸入弁10をボール弁で構成している。
【0020】
符号11は、第2プランジャ9の摺動に応動して排出口A2を開閉して押圧部材8に内容物を圧送する第1プランジャである。第1プランジャ11の上部には、上方に向かって縮径する円錐台側面形状を備えた弁座11bが設けられており、ヘッド基部6の突部6cとの間で排出口A2を開閉する排出弁を形成している。第1プランジャ11は、その下部に段部11sが形成されており、この段部11sで、第2プランジャ9の下端部を保持している。
【0021】
本実施形態では、第1プランジャ11及び第2プランジャ9によりプランジャ体40が構成されている。第2プランジャ9は、
図1に示すように、第1プランジャ11の径方向外側に設けられている。プランジャ体40は、後述するリターンスプリングSによりシリンダ本体1に対してスペーサ13のフィン13aを介して上方付勢されている。また、プランジャ体40は、シリンダ本体1に対して上下動可能とされている。プランジャ体40の上方に取り付けられたヘッド部30の押圧部材8を押下することで、プランジャ体40が下方に押し下げられる。
【0022】
第1プランジャ11は、
図1に示すように有頂筒状形状を備えており、その内部空間Nは、圧送された内容物を上方に導く流路を形成している。本実施形態では、内部空間Nの上部において内部空間Nと第1プランジャ11の外周面を連通させる開口部A3が設けられている。第1プランジャ11の下部には、シリンダ本体1の内面に摺動する第1ピストン11dが形成されている。
【0023】
また、第1プランジャ11の外周面には、上下方向に延びる液体流路Lが設けられている。液体流路Lは、押圧部材8の押下によってシリンダ本体1内を圧送され開口部A3から径方向外側に押し出された内容物を上方の排出口A2へと導く。
【0024】
また、第1プランジャ11は、リターンスプリングSを介してシリンダ本体1内に弾性保持されている。これにより、第2プランジャ9は、第1プランジャ11と共に、リターンスプリングSを介してシリンダ本体1内に弾性保持されている。
【0025】
押圧部材8には、ノズルチップ12が嵌合している。ノズルチップ12には、内容物を噴出させる開孔12aが形成されている。この開孔12aは、大径部と小径部からなり、圧送された内容物の流速を高めて外部に噴出させることができる。
【0026】
図1において、符号13は、吸入弁10の上方に配置されたスペーサである。スペーサ13は、下端外縁に周方向に間隔を空けて複数のフィン13aを有し、これらのフィン13aは、リターンスプリングSを介して第1プランジャ11を弾性保持する。
【0027】
また、フィン13aの相互間はそれぞれ、複数の流路として構成されている。これらの流路から導入された内容物は、スペーサ13の上端部を構成するピン13bを案内に、第1プランジャ11に設けた開口部A3から第2プランジャ9との間の液体流路Lを通って排出口A2に圧送される。
【0028】
符号20は、ヘッド部30を径方向外側及び上方から覆うカバーである。カバー20は、側壁21と、側壁21の上端部を閉塞する頂壁23とを備えている。カバー20は、下端部が肩部4の上面に当接すると共に、側壁21の内周面に外周壁5aの外周面が嵌合することによって着脱可能に装着されている。
【0029】
なお、液体噴出器100を構成する各部材は、例えば合成樹脂材や金属などで形成することができる。
【0030】
ここで、本実施形態に係るシリンダ部101について更に詳説する。
【0031】
シリンダ部101は、
図2A及び
図2Bに示すように、有底筒状形状を有するシリンダ本体1と、シリンダ本体1の上端部に一体形成されたフランジ部2とを備えている。フランジ部2は、
図2Aに示すように、外周部における周方向の対向する2箇所にゲート部2gが設けられており、ゲート部2gの径方向内側には、フランジ部2の上面から鉛直方向に凹む(
図3参照)凹部2aが形成されている。なお、ゲート部2gの径方向内側とは、平面視においてゲート部2gと中心軸線Oとの間の領域の意味である。凹部2aは、
図2Aに示すようにゲート部2gの近傍に設けられていることが望ましく、例えば、平面視において中心軸線Oよりもゲート部2gに近い位置に配置されていることが望ましい。ゲート部2gは、例えば、平面視において少なくとも一部がゲート部2gと中心軸線Oを結ぶ直線上に配置されていることが望ましい。各凹部2aは、フランジ部2の周方向に延在し、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように構成されている。なお、本実施形態において、ゲート部2gは、シリンダ部101を金型で成形する際に、溶融した樹脂材料を金型内に注入するための注入口であるゲート内で固化した樹脂のうち、シリンダ部101側に僅かに残存している部位である。但し、ゲート部2gは、必ずしも
図2Aに示すようにフランジ部2の外周面(本実施形態では、Dカット2b)から径方向外側に突出している必要はなく、外周面と面一になるように後処理されていてもよいし、外周面から凹むように後処理されていてもよい。各凹部2aが形成された周方向位置におけるフランジ部2の外周面には、それぞれDカット2bが形成されている。なお、凹部2aは、フランジ部2の上面に設ける代わりに、フランジ部2の下面から鉛直方向に凹むように形成されていてもよい。
【0032】
図2A及び
図3に示すような凹部2aを周方向に対向するゲート部2gの近傍(径方向内側)の2箇所に設けることによって、シリンダ部101を射出成形する際の金型内の樹脂の流れは、例えば
図4に破線矢印で示すように、凹部2aの両側へと広く分散する。従って、周方向の対向する側から注入された溶融樹脂に対して正面からぶつかりにくくなり、樹脂の流れに対する抵抗が生じにくい。その結果、一般に溶融樹脂同士の再合流により生じるとされるウェルドの厚みを薄くすることができる。本願の発明者が鋭意検討した結果、
図2A及び
図2Bに示すような凹部2aを周方向の対向する2箇所に設け、更にシリンダ部101の材料としてブロックポリプロピレン(ブロックPP)を用いることにより、フランジ部2に直交するシリンダ本体1の上部におけるウェルドの発生を効果的に抑制することができる。なお、ブロックPPとは、ポリプロピレンにエチレン等をブロック的に共重合させて耐衝撃性等を向上させた樹脂である。
【0033】
図1の構成を有する液体噴出器100において、ヘッド部30の押圧部材8を下方に押下すると、ヘッド基部6を介してプランジャ体40に押し下げ力が作用する。
【0034】
この押し下げ力の作用によって、シリンダ本体1及びサブシリンダ6aの内部は等しく圧力が上昇するが、シリンダ本体1と比較してサブシリンダ6aの方が内径が大きいため、サブシリンダ6aの内面に摺動する第2ピストン9bの受圧面積が、シリンダ本体1の内面に摺動する第1ピストン11dの受圧面積よりも大きくなる。従って、シリンダ本体1内の液圧がプランジャ体40を押し上げる力よりも、サブシリンダ6a内の液圧がプランジャ体40を押し下げる力の方が大きくなる。このため、プランジャ体40は、ヘッド部30に対しても下降し、排出弁が開放される。これによって、シリンダ本体1内の内容物が内部空間N、液体流路L、サブシリンダ6aの内部及び排出口A2を通ってノズルチップ12の開孔12aから噴出される。更に押圧部材8の押し下げを継続すると、排出弁が開いたままで第1ピストン11dは下がり続ける。
【0035】
押圧部材8を可動範囲の下限まで押し下げると、第1プランジャ11の下端部がシリンダ本体1の拡径部1bを覆う位置まで到達する。これによって、シリンダ本体1及びサブシリンダ6aの内部の液圧は拡径部1b及び圧力開放孔1cを経由して解放される。シリンダ本体1及びサブシリンダ6aの内部の液圧の解放によって、プランジャ体40に作用していた下向きの押し下げ力も解放され、突部6cが弁座11bに着座して排出弁は閉塞される。これによって、ノズルチップ12の開孔12aからの内容物の噴出は停止される。また、シリンダ本体1及びサブシリンダ6a内の液圧が急激に開放されるため、液切れよく内容物の噴出を終了させることができる。
【0036】
以上述べたように、本実施形態は、有底筒状形状を有するシリンダ本体1と、シリンダ本体1の上端部に一体形成されたフランジ部2とを有するシリンダ部101と、シリンダ部101を容器本体Cに固定する装着部材3と、シリンダ部101に対して上方付勢されるとともにシリンダ本体1の内側を上下動可能に設けられ、シリンダ本体1の内部から起立するプランジャ体40と、プランジャ体40の上方に取り付けられ、押下によりシリンダ本体1内に引き込まれた容器本体C内の内容液を上方に圧送せしめ、外部に噴出させるヘッド部30とを備え、フランジ部2の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部2gが形成され、各ゲート部2gの径方向内側には、フランジ部2の上面から鉛直方向に凹む凹部2aがそれぞれ形成されており、シリンダ部101は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されるように構成した。このような構成の採用によって、フランジ部2に直交するシリンダ本体1の上部におけるウェルドの発生を抑制することができる。従って、シリンダ本体1の内側と、プランジャ体40との間の隙間の発生を低減して、内容液が外部に漏れ出るのを抑制することができる。また、シリンダ部101にブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂を採用することで耐衝撃性及びシリンダ内面の摺動性を備えることもできる。
【0037】
また、本実施形態では、各凹部2aは、周方向幅が径方向幅よりも大きくなるようにした。このような構成の採用によって、ゲートから注入された溶融樹脂が各凹部2aにおいて更に周方向に分散される。従って、フランジ部2に直交するシリンダ本体1の上部におけるウェルドの発生を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態は、有底筒状形状を有するシリンダ本体1と、シリンダ本体1の上端部に一体形成されたフランジ部2とを有するシリンダ部材(シリンダ部101)であって、フランジ部2の外周部には、周方向の対向する2箇所にゲート部2gが形成され、各ゲート部2gの径方向内側には、フランジ部2の上面から鉛直方向に凹む凹部2aがそれぞれ形成されており、シリンダ部材は、ブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂により形成されるように構成した。このような構成の採用によって、フランジ部2に直交するシリンダ本体1の上部におけるウェルドの発生を抑制することができる。従って、シリンダ本体1の内側と、プランジャ体40との間の隙間の発生を低減して、内容液が外部に漏れ出るのを抑制することができる。また、シリンダ部101にブロックポリプロピレンを主材とする合成樹脂を採用することで耐衝撃性及びシリンダ内面の摺動性を備えることもできる。
【0039】
また、本実施形態では、各凹部2aが形成された周方向位置におけるフランジ部2の外周面には、それぞれDカット2bが形成されるように構成した。このような構成の採用によって、ゲート径を広げることが可能となるので、シリンダ部101の材料に流動性が良くない樹脂を使用する場合にも対応し易くすることができる。
【0040】
本開示を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0041】
例えば、上述の形態は、予め液体噴出器100としてユニット化されているが、本開示に従えば、ユニットさせることなく、容器本体Cに対して個々のパーツを組み付けるものとすることもできる。
【0042】
また、本実施形態では、凹部2aの周方向幅が径方向幅よりも大きくなるように構成したが、この態様には限定されない。凹部2aの径方向幅が周方向幅と等しい、又は周方向幅よりも大きくなるように構成してもよい。
【0043】
また、本実施形態では、各凹部2aが形成された周方向位置におけるフランジ部2の外周面には、それぞれDカット2bが形成されているが、この態様には限定されない。Dカット2bに代えて、ゲート部2gを径方向外側にはみ出させないための切り欠き部等を設けてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、各凹部2aは、
図3に示すように、フランジ部2の上面から鉛直方向に凹み、下面まで貫通しないように構成したが、この態様には限定されない。凹部2aは、上面から下面まで貫通するように構成してもよい。
【0045】
また、本実施形態に係るシリンダ部101は、液体噴出器100に用いられるものとして説明したが、この態様には限定されない。シリンダ部101の内面に他の部材が当接してシール部を形成する他の製品にも適用しても、本開示の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、例えば、化粧水、整髪料等の化粧品、虫除け等の医薬品及び、美容・健康用品の分野に係る液体噴出器100として採用することができる。
【実施例】
【0047】
シリンダ部101の材料として、表1に示すブロックPP及びHDPEを各2グレード、LDPE、ホモPP及びランダムPPを各1グレードずつ用意し、各グレードごとに凹部2aが有るサンプルと無いサンプルを試作して、耐衝撃性の良/否、摺動性の良/否、ウェルドの発生の良/否、及び液漏れの発生の良/否を評価した。凹部2aが有るサンプルの外形を
図2A、
図2Bに示し、凹部2aが無いサンプルの外形を
図5A、
図5Bに示している。
図5Aにおいて、フランジ部2には、Dカット2bに代えてゲート部2gの側方への突出を抑制する円弧状の切り欠き部2cが設けられている。内容液には、表面張力が小さく隙間から漏洩し易い、オイル及びエタノールを含む液体を使用した。なお、表1におけるMFR(メルトマスフローレート)は、JIS K7210-1:2014により規定される、溶融時の熱可塑性プラスチックの流動性の指標である。本願明細書では、MFRは、230℃における値(単位:g/10min.)を採用している。
【0048】
【0049】
表1において、「耐衝撃性:良」は、5℃の環境下で液体噴出器100の組み立てを行う際に、シリンダ部101に破損が発生しなかったサンプルであり、「耐衝撃性:否」は、上記条件下でシリンダ部101に破損が発生したサンプルである。「摺動性:良」は、シリンダ部101(シリンダ本体1)の内面でプランジャ体40が正常に摺動し作動するサンプルであり、「摺動性:否」は、シリンダ部101の内面でプランジャ体40が正常に摺動せず作動しなかったサンプルである。表1において、実施例1及び2(共にブロックPP)、並びに比較例1(HDPE)のみ、耐衝撃性及び摺動性が共に「良」という結果になった。
【0050】
ウェルドの発生の良/否、及び液漏れの発生の良/否の評価は、「耐衝撃性」及び「摺動性」が共に「良」であったサンプルのみについて実施した。「ウェルド:良」は、シリンダ部101のシリンダ本体1にウェルドが観察されなかったサンプルであり、「ウェルド:否」は、シリンダ本体1にウェルドが観察されたサンプルである。「ウェルド:-」は、「耐衝撃性」又は「摺動性」の少なくとも一方が「否」であったために、ウェルドの発生の良/否の評価を行わなかったサンプルである。シリンダ部101を形成する樹脂材料にブロックPPを用い、フランジ部2に凹部2aを形成した場合(表1の実施例1及び2)のみ、シリンダ本体1にウェルドが観察されない結果となった。これは、フランジ部2に凹部2aを形成することで、シリンダ部101を射出成形により形成する際に、ゲートから注入された溶融樹脂が凹部2aの両側へと広く分散する(
図4に樹脂の流れを破線矢印で示す。)。従って、周方向の対向する側から注入された溶融樹脂に対して正面からぶつかりにくくなる。そのため、樹脂が大きな抵抗無く流れることができるので、ブロックPPの使用効果と併せてウェルドの厚みを抑制することができる。他方、フランジ部2に凹部2aを形成しない場合には、ゲートから注入された溶融樹脂が対向するゲートから注入された溶融樹脂と正面からぶつかり(
図6に樹脂の流れを破線矢印で示す。)、大きな抵抗力を受ける。従って、ウェルドが発生し易くなると考えられる。
【0051】
表1において、「液漏れ:良」は、液体噴出器100を内容液が収容された容器本体Cに装着し、内容液をヘッド部30から噴出させた後に、環境温度50℃で3日間横倒し状態で保管し、液体噴出器100からの液漏れが観察されなかったサンプルである。他方、「液漏れ:否」は、上記条件において液漏れが観察されたサンプルである。「液漏れ:-」は、「耐衝撃性」又は「摺動性」の少なくとも一方が「否」であったために、液漏れの発生の良/否の評価を行わなかったサンプルである。シリンダ部101を形成する樹脂材料にブロックPPを用い、フランジ部2に凹部2aを形成した場合(表1の実施例1及び2)のみ、液漏れが観察されない結果となった。比較例1から12では、シリンダ本体1において観察されたウェルドと摺動部9aとの隙間から内容液が漏れ出ていることを確認した。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダ本体
1a 筒状部
1b 拡径部
1c 圧力開放孔
1d 開放孔
1e 弁座
1f 嵌合筒部
2 フランジ
2a 凹部
2b Dカット
2c 切り欠き部
2g ゲート部
3 装着部材
3a 側壁
3s ねじ部
4 肩部
5 内周壁
5a 外周壁
6 ヘッド基部
6a サブシリンダ
6b 水平壁
6c 突部
6d ステム
8 押圧部材
8a 凹部
8b 突部
9 第2プランジャ
9a 摺動部
9b 第2ピストン
10 吸入弁
11 第1プランジャ
11b 弁座
11d 第1ピストン
11s 段部
12 ノズルチップ
12a 開孔
13 スペーサ
13a フィン
13b ピン
20 カバー
21 側壁
23 頂壁
30 ヘッド部
40 プランジャ体
100 液体噴出器
101 シリンダ部(シリンダ部材)
A1 吸入口
A2 排出口
A3 開口部
C 容器本体
C1 空間
C2 口部
L 液体流路
N 内部空間
O 中心軸線
P パイプ
PK パッキン
S リターンスプリング