(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ラーメン構造物のスライド工法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/35 20060101AFI20230815BHJP
E04G 21/14 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
E04B1/35 D
E04G21/14
(21)【出願番号】P 2020139272
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】川添 俊之
(72)【発明者】
【氏名】藤野 照政
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-061819(JP,A)
【文献】特開平11-336329(JP,A)
【文献】特開2008-057226(JP,A)
【文献】特開2007-284922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/32,1/342,1/35
E04G 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラーメン構造物のスライド工法であって、
1)前記ラーメン構造物の部分架構を組立てる構台が、スライドレール上を移動可能に特定の組立位置に設置される工程。
2)前記組立位置に設置された前記構台において組立てられた前記部分架構は、その大梁部が前記構台によって支持され、かつ前記部分架構の柱脚部が宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬される工程。
3)前記所定位置に運搬済みの前記部分架構は、ジャッキダウンにより前記構台による支持が解除され、前記柱脚部が所定の基礎柱上に定着されて自立する工程。
4)前記ラーメン構造物の部分架構の柱脚部が、ジャッキダウンの際、所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれが、
前記柱脚部と前記構台との間に連結設置された位置調整手段にて前記柱脚部に水平力を
外方向に加えて修正される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、ラーメン構造物のスライド工法。
【請求項2】
ラーメン構造物のスライド工法であって、
1)前記ラーメン構造物の部分架構を組立てる構台が、スライドレール上を移動可能に特定の組立位置に設置される工程。
2)前記組立位置に設置された前記構台において組立てられた前記部分架構は、その大梁部が前記構台によって支持され、かつ前記部分架構の柱脚部が宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬される工程。
3)前記所定位置に運搬済みの前記部分架構がジャッキダウンされる前に、次の部分架構を組立てるための新たな構台が、前記特定の組立位置に設置され、次の部分架構が組立てられる工程。
4)前記次の部分架構は、その柱脚部が前記部分架構と同様に宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬され、1つ前に運搬済みの前記部分架構に連結され一体化される工程。
5)手順3)~4)が、少なくとも1回以上実行される工程。
6)連結され一体化された運搬済みの前記部分架構全てについて、ジャッキダウンにより、前記構台による支持が解除され、全ての前記柱脚部が所定の基礎柱上に定着されて自立する工程。
7)前記ラーメン構造物の部分架構の柱脚部が、ジャッキダウンの際、所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれが、
前記柱脚部と前記構台との間に連結設置された位置調整手段にて前記柱脚部に水平力を
外方向に加えて修正される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、ラーメン構造物のスライド工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラーメン構造物のスライド工法において、
前記ラーメン構造物の部分架構の張間方向に並んで相対して立設された各構台の一部と、前記部分架構の大梁部とを繋ぐ補強部材が設置されていることを特徴とするラーメン構造物のスライド工法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のラーメン構造物のスライド工法において、
前記ラーメン構造物の部分架構の張間方向に並んで相対して立設された各構台同士が構造体にて相互に直接連結されていることを特徴とするラーメン構造物のスライド工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラーメン構造物を建方する場合に適用するスライド工法に関する。
【0002】
鉄道駅のプラットホーム上屋あるいは石炭等貯蔵物上屋などの長大な構造物を構築する建方工法として、スライド工法が採用されることがある。スライド工法は、これら建物の桁行が長大である場合、その部分架構を組立て場所にて組立て、仕上げ材等を取付けて順次送り出すことができるので、施工効率がよいとされている。
【背景技術】
【0003】
前記構造物の張間方向はラーメン構造であることが多く、
図11(a)に図示の柱脚がピン支持されたラーメン架構で説明すると、梁部の鉛直荷重wによって
図11(b)に図示のような曲げモーメントM
1およびM
2が発生し、柱脚部には外側に蹴り出そうとする力(以下、柱脚部水平力と称す)に対抗する水平反力Hが生じる。その大きさは、ラーメン架構の張間寸法が長い程大きくなる。
【0004】
従来、そのようなラーメン構造物をスライド工法にて建方する場合、その部分架構がスライド移動中も構造的に安定するように、前記柱脚部水平力を支持するための十分な水平剛性と強度を有する基礎を設けておく必要があった。
【0005】
また、スライド用レールとして、鉛直荷重を受けるレールの他に、前記柱脚部水平力を直接受けて前記基礎に力を伝達するための水平力受けレールも必要であった。
【0006】
更にまた、前記柱脚部水平力により、柱脚部が前記水平力受けレールに押し付けられながらスライド移動するため摩擦抵抗力が発生するので、より大きな牽引力が必要になり、そのため牽引設備が大掛かりになるという問題もあった。この問題は、牽引する部分架構が長くなりその重量がより重くなる程、その影響が大きくなる。
【0007】
このように、従来のスライド工法では、柱脚部水平力を処理するための前記基礎や水平力受けレールの設置費用に加え、牽引設備の能力増強とコストアップも考慮する必要があった。
【0008】
また、スライド移動中においても、水平力受けレールには外側に拡がろうとする前記柱脚部水平力が常に作用しているので、十分な安全対策も必要であった。
【0009】
スライド移動中における部分架構の前記柱脚部水平力を抑制する方法として、例えば、両側柱の柱脚部同士を張間方向につなぐテンション材を水平に設けかつ張力を導入して、柱脚部が水平方向に開こうとする大きな水平力と釣り合わせる工法が考えられる。この場合、両柱脚部をつなぐテンション材の高さ以上の既存物があれば干渉するので適用不可であり、また、張力導入装置等を、スライド移動が完了して柱脚部が定着されるまで、全ての柱脚部に対して存置しておく必要があるので、牽引設備以外に多額の仮設費用がかかる。
【0010】
ラーメン架構のスライド工法において、前記柱脚部水平力への対処に関する先行技術としては、例えば、特許文献1記載の発明がある。
【0011】
特許文献1記載の発明は以下のような工法である。1回目スライドの門型部分架構を、屋根梁部両端と柱部とをピン接合状態にて仮受けして組立て、その状態でその他各部材の接合部のボルトを本締めしてジャッキダウンし、屋根仕上げ等を取付けた後、屋根梁部両端に部材を追加してラーメン架構として完成させる。ラーメン架構となった前記門型部分架構は、スライドレール上を牽引装置によりスライド移動される。
【0012】
次に、前記スライド移動により空いた場所にて、新たな門型部分架構を、1回目と同様に屋根梁部両端をピン接合状態にて仮受けして組立て、前記スライド済みの門型部分架構とを連結する屋根部材をピン接合状態にて組立て、その状態にてジャッキダウンする。
【0013】
その後、屋根仕上げ等を取付け、前記新たな門型部分架構の屋根梁部両端に部材を追加してラーメン架構とし、前記スライド済みと前記新たな門型部分架構とを連結する前記屋根部材を本締めして一体化する。そして、それら門型部分架構全体を、前記牽引装置より2回目のスライド移動をする。
以上の手順を必要回数繰り返す、大張間架構のスライド工法が開示されている。
【0014】
このスライド工法によれば、梁部の自重によって発生する柱脚部水平力がスライド移動中に生じないので、従来の前記問題は解消されるとしている。
【0015】
この方法では、門型部分架構の組立てにおいて、屋根梁部両端と柱部とがピン接合状態でジャッキダウンし、屋根部の仕上げ材等を取付けた後、前記門型部分架構の屋根梁部両端に部材を追加してラーメン架構として自立させる。即ち、ラーメン架構が完成する前であって、梁部が単純梁状態の時に鉛直荷重が載荷されるので、ラーメン架構完成後に屋根部の仕上げ材等を取付ける場合よりも、梁部材サイズが大きく(重く)なり、その傾向は張間寸法が長い程著しい。
【0016】
本来、ラーメン構造の架構は、梁部と柱部とが剛接されているので、梁部両端部がピン接合状態の時よりも、部材に発生する最大曲げモーメントが小さいので、部材サイズを小さくすることができる。しかし、特許文献1記載の発明は、梁部の自重によって発生する柱脚部水平力を生じさせないことの代償として、その利点が発揮できずコストアップになるという問題があった。
【0017】
また、部分架構が連結されて長くなると、その牽引する重量が重くなるので、大きな容量の牽引装置が必要になるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、張間方向がラーメン構造の架構で、桁行が長大である構造物の建方工法として用いられることの多いスライド工法において、その部分架構のスライド移動中に、建物自重の作用による前記部分架構の柱脚部水平力を生じさせることなく、かつ牽引装置の能力が小容量でも足りる、ラーメン構造のスライド工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するための本発明の第1の手段は、ラーメン構造物のスライド工法であって、
1)前記ラーメン構造物の部分架構を組立てる構台が、スライドレール上を移動可能に特定の組立位置に設置される工程。
2)前記組立位置に設置された前記構台において組立てられた前記部分架構は、その大梁部が前記構台によって支持され、かつ前記部分架構の柱脚部が宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬される工程。
3)前記所定位置に運搬済みの前記部分架構は、ジャッキダウンにより前記構台による支持が解除され、前記柱脚部が所定の基礎柱上に定着されて自立する工程。
4)前記ラーメン構造物の部分架構の柱脚部が、ジャッキダウンの際、所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれが、前記柱脚部と前記構台との間に連結設置された位置調整手段にて前記柱脚部に水平力を外方向に加えて修正される工程。
以上の工程を含むことを特徴とするものである。
【0021】
以上のように、本発明の手段によれば、スライド移動中において、部分架構の柱脚部は宙に浮いた状態なので柱脚部水平力は生じず、また、1回に牽引する部分架構は自立可能な最小単位でよいので、牽引装置は大きな容量を要しない。
【0022】
本発明の第2の手段は、ラーメン構造物のスライド工法であって、
1)前記ラーメン構造物の部分架構を組立てる構台が、スライドレール上を移動可能に特定の組立位置に設置される工程。
2)前記組立位置に設置された前記構台において組立てられた前記部分架構は、その大梁部が前記構台によって支持され、かつ前記部分架構の柱脚部が宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬される工程。
3)前記所定位置に運搬済みの前記部分架構がジャッキダウンされる前に、次の部分架構を組立てるための新たな構台が、前記特定の組立位置に設置され、次の部分架構が組立てられる工程。
4)前記次の部分架構は、その柱脚部が前記部分架構と同様に宙に浮いた状態で、前記スライドレール上を所定位置まで運搬され、1つ前に運搬済みの前記部分架構に連結され一体化される工程。
5)手順3)~4)が、少なくとも1回以上実行される工程。
6)連結され一体化された運搬済みの前記部分架構全てについて、ジャッキダウンにより、前記構台による支持が解除され、全ての前記柱脚部が所定の基礎柱上に定着されて自立する工程。
7)前記ラーメン構造物の部分架構の柱脚部が、ジャッキダウンの際、所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれが、前記柱脚部と前記構台との間に連結設置された位置調整手段にて前記柱脚部に水平力を外方向に加えて修正される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、ラーメン構造物のスライド工法である。
【0023】
以上のように、本発明の第2の手段によれば、第1の手段と同様、スライド移動中に部分架構の柱脚部水平力は生じない。
【0024】
また、本発明の第1の手段では、先行する部分架構が所定位置まで運搬され、ジャッキダウンされ、その柱脚部が定着されて自立し、その部分架構の支持を解除された構台が特定位置に戻されるまでの間、その特定の組立位置(以下、「特定位置」と称す。)において次の部分架構の組立てができないが、第2の手段ではその間に次の部分架構の組立てを進めることが可能になる。
【0025】
また、本発明に係るラーメン構造物のスライド工法において、ラーメン構造物の部分架構の柱脚部が、ジャッキダウンの際、所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれが、位置調整手段を用いて修正される工程を含んでもよい。ジャッキダウンの際、前記部分架構の柱脚部が所定の基礎柱上に載置される前に、前記柱脚部の正確な据付位置とのずれを修正するため、前記柱脚部と前記構台との間に仮設置された位置調整手段(装置)にて、前記柱脚部に水平力を加えて正確な位置に修正することができる。
【0027】
前記部分架構の張間方向に並んで相対して立設された各構台は、相互に分離自立していてもよい。その場合、スライド移動中に作用する可能性のあるスライド直交方向の地震等水平力に対する仮補強として、前記部分架構の大梁部と前記各構台の一部(例えば、下端部)とを繋ぐ補強部材が設置される。
【0028】
スライド直交方向の前記各構台の別補強方法として、相互をトラス梁等の構造体により連結し一体化してもよい。
【0029】
なお、前記構台をスライド移動させる方法は、ウインチによるワイヤーロープ巻取り方式あるいは油圧ジャッキによる尺取り方式など、建設現場の諸条件等を考慮して決定すればよい。
【0030】
また、1回のスライドで運搬する部分架構としては、架構として自立できる最小単位とすれば牽引重量が軽いので、牽引装置の能力として大きな容量を必要としない。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、以上のように、ラーメン構造物のスライド工法において、スライドレール上を移動可能な構台を取入れたことにより、次のような効果が得られる。
【0032】
(1)スライド移動中は部分架構の支持点を大梁部に設けて柱脚部を宙に浮かすので、従来のラーメン構造物のスライド工法において問題であった柱脚部水平力が発生せず、スライド移動中の安全性が高い。
【0033】
(2)スライド移動中の柱脚部水平力が生じないので、その水平力を受けるスライド用基礎の補強が不要であり、そのための費用が削減できる。
【0034】
(3)部分架構の柱脚部が宙に浮いた状態にあるので、柱脚部が所定の基礎柱上に載置される際、仮設置された位置調整手段(装置)を用いて、容易に正確な据付位置とのずれを修正することができる。
【0035】
(4)1回のスライドで運搬する部分架構は、ジャッキダウン後に架構として自立できる最小単位でよいので重量が軽く、容量の大きな牽引装置を必要としない。
【0036】
(5)柱脚部が宙に浮いた状態でスライド移動されるので、建物の桁行方向に並ぶ柱列が、スライド方向と平行でなくても、各柱の所定位置への据付けが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施例における建設現場の仮設機器材配置例であり、(a)は、最初の部分架構3がスライド開始される直前の状況を示す伏図、(b)は、最初の部分架構3が自立した後、構台2が引き戻される途中の状況を示す伏図である。
【
図2】本発明の実施例において、2つ目の部分架構3と最初の部分架構3とが連結される状況を示す伏図である。
【
図3】本発明の実施例において、先行の部分架構3、3が自立した後に、構台2が引き戻される途中の状況を示す図であり、(a)は伏図、(b)は(a)のX-X断面視である。
【
図4】本発明の実施例において、スライドの別手順を説明する図であり、(a)は、新たな構台2により組立てられた2つ目の部分架構3がスライド開始される直前の状況を示し、(b)は、2台連結された構台2が特定位置S付近まで引き戻される状況を示す図である。
【
図5】本発明の実施例におけるスライド直交方向の断面架構図であり、(a)はブレースによる構台2の張間方向の補強方法を示し、(b)は(a)のイ断面視、(c)は(a)のロ断面視である。
【
図6】本発明の実施例において、
図5(a)とは別案の構台補強方法を示す、スライド直交方向の断面架構図である。
【
図7】
図5(a)において、部分架構3の大梁Gが山形の場合の架構図である。
【
図8】本発明の実施例におけるスライド直交方向の断面架構図であって、張間方向2スパンの部分架構3をスライドする場合の説明図である。
【
図9】大梁Gが支持点A、Aで支持されたラーメン架構の例題として、構造解析に用いた架構モデルと荷重条件を示す図である。
【
図10】
図9の架構モデルの解析結果であり、(a)は曲げモーメント図、(b)は変位図、(c)は柱下端部の水平移動を拘束した時の曲げモーメント図と反力を示す。
【
図11】(a)は、柱脚ピン支持のラーメン架構の梁部に鉛直荷重wが載荷された架構モデルを示し、(b)は、前記ラーメン架構に発生する曲げモーメントM1、M2の分布状態と柱脚部反力Hを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の第1実施例を、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、建物の建設現場において、仮設のスライドレール(2本1組)1、1が敷設され、その上を自立して移動可能な構台2、2が、部分架構3の特定位置Sに設置されている様子を示す配置図である。図中に破線表示された部分架構3’は、最初の部分架構3がスライド移動されて設置される所定位置を示す。
【0039】
構台2、2は、ワイヤーロープ4、4を巻取り装置(ウインチ)のドラム5a、5a(5b、5b)で巻き取ることで、スライドレール1、1上を前後に移動可能となっている。
【0040】
部分架構3は、
図5に図示のように、大梁Gと2本の柱Cとで構成されるラーメン架構Fが3面と、それらを連結する小梁g、g、…、および屋根面と壁面の面内に配置されたブレースv、v、…等から成る。実際の工事では、胴縁等の二次部材や仕上げ材等が取付けられることが多いと思われるが、本例では省略する。
なお、図中のf、f、…は、柱C、C、…が据付けられる基礎柱、9は、既設もしくは後施工の施設(例えば、鉄道駅のプラットフォーム等)を示す。
【0041】
本実施例において、スライド工事を実施する手順は以下の通りである。
1)
図1に図示のように、特定位置Sに設置された構台2、2の支保工2a、2aを跨ぐようにして(
図5(a)参照)、3面のラーメン架構Fの大梁Gがそれぞれ2箇所の支持点A、Aにて支持された(最初の)部分架構3が組立てられる。この時、柱C、C、…の柱脚部(柱下端)は、基礎柱f、f、…の天端よりも少し高い位置で、宙に浮いた状態になっている(
図1、
図5参照)。
【0042】
2)各大梁Gがそれぞれ2箇所の支持点A、Aで支持された部分架構3を載せた構台2、2は、ワイヤーロープ4、4がドラム5a、5aにて巻取られることにより、スライドレール1、1上を、矢印方向(
図1(a)参照)に、所定位置(破線の部分架構3’)まで運搬される。
【0043】
3)所定位置にて部分架構3は、ジャッキダウンにより全ての支持点A、A、…の支持が解除され、柱C、C、…の柱脚部がそれぞれ基礎柱f、f、…に載置され、アンカーボルトにて定着され自立する(
図1(b)参照)。
【0044】
ジャッキダウンの際、柱C、C、…の柱脚部が所定の基礎柱f、f、…に載置される前に、それら柱脚部と構台2、2の下端部との間に設置された位置調整装置6、6(
図5(a)参照)により、それら柱脚部に外方向の水平力が加えられることにより、正確な据付位置とのずれが修正される。
【0045】
なお、上記の水平力については具体例を後述するが、柱脚部の正確な据付位置とのずれが部分架構3の建方に問題ない程度に僅少の場合は、位置調整装置6、6を用いることなく、柱脚部ベースプレートのアンカーボルト孔(図示せず)を予め大き目に開けておいて、アンカーボルトが挿通され、柱脚部がf、f、…に載置された後に、前記アンカーボルト孔を覆う座金板を前記ベースプレートに溶接する、従来の方法も可能である。
【0046】
4)部分架構3が基礎柱f、f、…の上に定着され自立した後、構台2、2は、ワイヤーロープ4、4がドラム5b、5bにて巻取られることにより、次の部分架構を組立てる特定位置Sまで、スライドレール1、1上を矢印方向(
図1(b)参照)に移動して引き戻される。
【0047】
5)特定位置Sに戻された構台2、2を用いて、次の部分架構3が以上と同様の手順にて組立てられ、矢印方向(
図2参照)にスライド移動され、そしてジャッキダウンにより、所定位置に設置される。
【0048】
6)先行して設置された部分架構3との接続部3aを小梁g、g、…等にて接続し、2つの部分架構3、3が一体化される(
図2参照)。接続部3aの部材取付け作業は、高所作業車等を使用してもよい。
【0049】
7)2つの部分架構3、3が一体化され、自立した後、構台2、2は再び、次の部分架構を組立てる特定位置Sまで、スライドレール1、1上を矢印方向(
図3(a)、(b)参照)に移動して引き戻される。
【0050】
以上の手順が、最後の部分架構まで繰り返され、架構建方が全て完了した後、構台2、2は特定位置S付近まで引き戻されて解体され、スライドレール1、1および牽引装置(ドラム5a、5b他)が撤去される。
【0051】
以上は、部分架構3を1台ずつジャッキダウンしたが、例えば、部分架構3を2台以上連結した後、ジャッキダウンしてもよい。つまり、
図4(a)を参照して、所定位置に運搬済みの部分架構3(同図の右端の実線表示)がジャッキダウン前の状態にある時、特定位置Sにて、新たな構台2、2により次の部分架構3が組立てられ、同図中の太い矢印方向にワイヤーロープ4にて牽引され、運搬済みの部分架構3の隣(破線表示部分)の所定位置まで、破線矢印のように運搬された後、小梁g、g、・・・等にて2台の部分架構3、3が連結され、その後、一体的にジャッキダウンする方法である。
図4では、一体化される部分架構3は2台だが、3台以上を連結し一体化した後にジャッキダウンしてもよい。
【0052】
ジャッキダウンされて自立した2台の部分架構3、3の支持を解除された構台2、2は、連結されて一緒に、矢印方向(
図4(b)参照)へ特定位置S付近まで引き戻される。
【0053】
前記手順3)において、ジャッキダウンの際、柱C、C、…の柱脚部が所定の基礎柱f、f、…に載置される前に、正確な据付位置とのずれを修正する必要があるが、それは、本発明による方法特有の課題を含む。以下、
図9および
図10により説明する。
【0054】
図9は、1構面のラーメン架構Fの大梁Gが2箇所の支持点A、Aで鉛直支持され、柱C、Cの下端部が宙に浮いた状態の解析用架構モデル(左右対称とする)を示す。大梁Gには等分布荷重(大梁自重)wgの他に二次部材と仕上げ材を含む節点荷重Pgが載荷されており、大梁Gの両端に剛接合された柱C、Cには二次部材と仕上げ材が取付いて、柱自重を含む等分布荷重wcが鉛直荷重となっている。
【0055】
このような状態の時、柱C、Cの下端部には水平方向内側への変位δhが発生するので、本発明では、柱C、Cの柱脚部が基礎柱f、fに載置される前に、その柱脚部に水平力Pを外方向に加えて変位δhをゼロに押し戻すことが必要となる。
【0056】
ここで、1例として、変位δhとそれをゼロに押し戻すのに必要な水平力Pがどの程度になるかを求めた計算例を示す。計算条件は、
図9において下記のように仮定した。
梁長さs=19.115m、柱長さh=9.015m
大梁G:H-900×300×16×32
wg=3.04kN/m(大梁自重)、Pg=5.65~15.21kN(二次部材+仕上げ材)
柱C :□-550×550×32、wc=7.17kN/m(柱自重+二次部材+仕上げ材)
【0057】
計算結果を
図10(a)~(c)に示す。(a)は曲げモーメント図、(b)は変位図である。また、(c)は、柱脚部の変位δhをゼロに押し戻した場合の水平力Pを求めるために、柱下端部の水平移動を拘束した場合の曲げモーメント図である。(b)より、柱下端部の水平変位はδh=19.6mmである。また、(c)より、変位δhをゼロに押し戻すのに必要な水平力はP(=124kNm/9.015m)≒13.8kNであることが分かる。
【0058】
上記の例から、柱C、Cの下端部の水平変位δh(=19.6mm)と、それをゼロに押し戻すのに必要な水平力Pの大きさ(≒13.8kN)は、それ程大きなものではないことが分かる。従って、この程度の水平力Pであれば、柱C、Cの下端部と同じ高さにあるベント支柱2a、2aの足元でその反力受けても、ベント支柱2a、2aの脚部からスライドレール1、1を介して地盤へ、安全に力を伝達できる。
【0059】
なお、構台2の構成は、例えば、
図5(a)、(b)のように、1箇所の支持点Aが1台のベント支柱2aにより支持され、片側のスライドレール1側の支持点Aの数(
図5では3箇所)と同じ台数のベント支柱2a同士を、繋ぎ材b、b、…とブレースv、v、…にて連結され、一体化されたものである。
【0060】
また、部分架構3を支持する1対の構台2、2には、スライド直交方向の地震水平力等に対する抵抗力を確保するため、
図5(a)に図示のように、補強ブレース7、7が大梁Gの支持点A、Aとベント支柱2a、2aの最下部とに掛け渡されている。本設の大梁Gを利用した簡易な仮補強方法である。
【0061】
スライド直交方向の抵抗力を確保する他の方法としては、例えば、
図6に図示のように、一対の構台2、2同士を構造体、例えばトラス梁Tで連結して、水平荷重に対して十分安定したトラスラーメン架構にすることが考えられる。この場合、両構台2、2間の往来を可能にできるので、部分架構3の組立て作業時の足場としても利用できる。
【0062】
以上のように、本発明における構台2は、繰り返し使用を前提とするベント支柱2aを利用するので、解体と組立てが容易であり、仮設費は安価である。
【0063】
以上の実施例では、ラーメン架構Fの大梁Gは水平の場合であったが、例えば、
図7に図示のように、棟部が軒部よりも高い場合、大梁Gの支持点A、Aは自重によって外側に広がろうとするので、それを抑制するため、支持点A、Aを繋ぐタイバー8を設置することが好ましい。
【0064】
また、
図8は、ラーメン架構Fが2スパン連続する場合であり、スライド直交方向の架構図を示す。各スパン内にそれぞれ1対のスライドレール1、1と構台2、2が設けられている。この場合、4列ある構台2、2、・・・のスライド移動速度の同期について、2列の場合よりも、より慎重に操作する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、張間方向がラーメン構造で、例えば、鉄道駅のプラットホーム上屋等のように、桁行が長大である構造物の建方工法としてスライド工法が採用された場合、従来のような、スライド移動中の柱脚部における外側に蹴り出そうとする水平力が発生せず、また牽引装置の小容量化が図れるので、安全性が向上し、かつ基礎工事費および機材費の削減にも貢献できる。
【符号の説明】
【0066】
1:スライドレール
2:構台
2a:支保工(ベント支柱)
3、3’:部分架構
3a:連結部
4:ワイヤーロープ
5a、5b:ドラム
6:位置調整装置
7:補強ブレース
8:タイバー
9:プラットホーム
A:支持点
C:柱
F:ラーメン架構
G:大梁
H:水平反力
P:水平力
S:特定位置S(特定の組立位置)
T:トラス梁
b:繋ぎ材
f:基礎柱
g:小梁
v:ブレース