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  • 特許-レーザー溶接方法 図1
  • 特許-レーザー溶接方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】レーザー溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20230815BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230815BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230815BHJP
   B23K 26/28 20140101ALI20230815BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/082
B23K26/00 N
B23K26/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023501914
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039853
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 森彦
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-121249(JP,A)
【文献】特開2019-005760(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111843211(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/082
B23K 26/00
B23K 26/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と第2金属部材の突合せラインに沿ってレーザービームを所定の走査パターンで照射して、前記第1、第2金属部材を溶接するレーザー溶接方法であって、
前記突合せラインに沿って、第1レーザービームを第1走査パターンで照射して、前記突合せラインに沿って所定の幅および深さの第1溶接部を形成する第1ウォブリング加工を行い、
前記第1ウォブリング加工によって形成された前記第1溶接部の表面に沿って、第2レーザービームを第2走査パターンで照射して、前記第1溶接部に重ねて当該第1溶接部よりも広い幅で浅い深さの第2溶接部を形成する第2ウォブリング加工を行うことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1ウォブリング加工における前記第1レーザービームの走査速度は、前記第2ウォブリング加工における前記第2レーザービームの走査速度と同一であり、
前記第1ウォブリング加工における前記第1レーザービームの出力は、前記第2ウォブリング加工における前記第2レーザービームの出力よりも大きく、
前記第1ウォブリング加工における前記第1レーザービームの前記第1走査パターンは、前記突合せラインに直交する方向の振幅が、前記第2ウォブリング加工における前記第2レーザービームの前記第2走査パターンの前記突合せラインに直交する方向の振幅よりも小さいレーザー溶接方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1走査パターンは、前記第1レーザービームの照射位置が前記突合せライン上の点を中心とする第1半径の円を描きながら当該突合せラインに沿った方向に移動するパターンであり、
前記第2走査パターンは、前記第2レーザービームの照射位置が前記突合せライン上の点を中心とする前記第1半径よりも大きな第2半径の円を描きながら当該突合せラインに沿った方向に移動するパターンであるレーザー溶接方法。
【請求項4】
請求項3において、
溶接対象の前記第1、第2金属部材は、それぞれ、炭素鋼、合金鋼または鋳鉄からなる部材であるレーザー溶接方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1レーザービームの出力を1000W以下の値に設定し、
前記第2走査パターンの前記第2半径を、1.0mm以下の値に設定するレーザー溶接方法。
【請求項6】
請求項3において、
前記第1金属部材はSUJ2材であり、前記第2金属部材はSNCM材であり、
前記第1ウォブリング加工の前記第1レーザービームの出力は800Wであり、前記第1走査パターンの第1半径は0.2mmであり、
前記第2ウォブリング加工の前記第2レーザービームの出力は150Wであり、前記第2走査パターンの前記第2半径は0.8mmであるレーザー溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォブリングを用いたレーザー溶接により難溶接材料などを接合するレーザー溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー溶接は、公知のように、光学系を用いてレーザービームを溶接箇所に沿って照射して母材を短時間で溶融させることで、熱による影響の少ない溶接が可能である。レーザー溶接方法として、溶接のビード幅を広げるために、ガルバノスキャナーを用いて、レーザービームを、円を描くように溶接箇所に照射しながら溶接箇所に沿った方向に移動させるウォブリング加工が知られている。ウォブリング加工を行うことで、レーザー溶接では難しいとされていた難溶接材料、異種金属の溶接が可能である。
【0003】
特許文献1には、ウォブリング加工を用いてアルミニウム合金板の重ね隅肉溶接方法が提案されている。ここに記載の溶接方法では、レーザー光を照射する期間と照射を中断する期間とを交互に繰り返すことで、重ね隅肉溶接部の割れの発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-078819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、難溶接材料を、ウォブリング加工を用いたレーザー溶接で接合する場合、所定日数経過後に溶接箇所に割れが生じる、いわゆる、遅れ割れが問題になることがある。
【0006】
本発明の目的は、遅れ割れと呼ばれる溶接割れが発生しないように難溶接材料などを接合できるようにしたウォブリング加工を用いたレーザー溶接方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1金属部材と第2金属部材の突合せラインに沿ってレーザービームを所定の走査パターンで照射して、前記第1、第2金属部材を溶接するレーザー溶接方法であって、
前記突合せラインに沿って、第1レーザービームを第1走査パターンで照射して、前記突合せラインに沿って所定の幅および深さの第1溶接部を形成する第1ウォブリング加工を行い、
前記第1ウォブリング加工によって形成された前記第1溶接部の表面に沿って、第2レーザービームを第2走査パターンで照射して、前記第1溶接部に重ねて当該第1溶接部よりも広い幅で浅い深さの第2溶接部を形成する第2ウォブリング加工を行うことを特徴としている。
【0008】
例えば、第1レーザービームの出力を高くし、第1走査パターンの振幅を小さくすることで、金属間の突合せ面において、狭い幅で深い範囲に第1溶接部が形成される。これに対して、第2レーザービームの出力を低くし、第2走査パターンの振幅を大きくすることで、突合わせ面において、第1溶接部を包含する広い幅で第1溶接部より浅い範囲に第2溶接部が形成される。
【発明の効果】
【0009】
このように金属間の突合せ面に、2回に亘ってウォブリング加工を行って溶接部を形成することで、溶接部における遅れ割れを防止あるいは抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】レーザー溶接装置を示す説明図である。
図2】本発明によるレーザー溶接方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して本発明を適用したレーザー溶接方法の実施の形態を説明する。
【0012】
まず、使用するレーザー溶接装置1は一般的な構成のものである。図1に示すように、レーザー溶接装置1は、レーザー光源2を備えたレーザービーム発生部3から射出したレーザービームLを、一対のガルバノスキャナー4、5の走査ミラー4a、5aを介して、溶接対象の第1金属部材11と第2金属部材12の突合せライン13に沿って照射するように構成されている。直交する回転軸回りに回動する走査ミラー4a、5aを同期させて回動させることで、レーザービームLの照射位置を、突合せライン13に沿って所定の走査パターンPで走査するウォブリング加工が行われる。
【0013】
図2は本例のレーザー溶接方法の概略フローチャートである。本例の溶接方法では、レーザー溶接装置1に、第1金属部材11および第2金属部材12を突合せた状態にセットし、突合せライン13に沿って第1ウォブリング加工を行う(ST1)。これに続けて、第1ウォブリング加工によって突合せライン13に沿って形成された第1溶接部21に沿って第2ウォブリング加工を行い、第1溶接部21に重ねて第2溶接部22を形成する(ST2)。
【0014】
第1ウォブリング加工(ST1)においては、レーザービームLとして第1出力の第1レーザービームを、突合せライン13に沿って、第1走査パターンで照射して、突合せライン13に沿って所定の幅および深さの第1溶接部21を形成する。本例における第1走査パターンP1は、第1レーザービームの照射位置を、突合せライン13上に中心が位置する第1半径の円を描きながら突合せライン13に沿った方向に一定速度で移動させることによって描かれるパターンである。第1走査パターンP1としては各種のパターンを採用できる。
【0015】
第1ウォブリング加工により、第1、第2金属部材11、12には、突合せライン13に沿って、突合せライン13を中心として部材表面上における幅がW1で、部材表面から突合せ面15に沿った方向の深さがH1の第1溶接部21が形成される。
【0016】
第2ウォブリング加工(ST2)においては、レーザービームLとして第1出力よりも小さな第2出力の第2レーザービームを、第1溶接部21に沿って、第2走査パターンP2で照射して、突合せライン13に沿って第1溶接部21に重ねて第2溶接部22を形成する。例えば、第2レーザービームの走査速度は第1レーザービームの走査速度と同一である。本例における第2走査パターンP2は、第2レーザービームの照射位置を、突合せライン13上に中心が位置する第2半径の円を描きながら突合せライン13に沿った方向に一定速度で移動させることによって描かれるパターンである。第2半径は第1半径よりも大きい。第2走査パターンP2も各種のパターンを採用できる。
【0017】
第2ウォブリング加工により、第1、第2金属部材11、12には、それらの突合せライン13に沿って、突合せライン13を中心として部材表面上における幅がW1よりも広いW2で、部材表面から突合せ面15に沿った方向の深さがH1よりも浅いH2の第2溶接部22が形成される。
【0018】
このように、高出力の第1レーザービームを用いて第1、第2金属部材11、12の間に狭い幅で深い第1溶接部21を形成し、この第1溶接部21に重ねて、低出力の第2レーザービームを用いて、広い幅で浅い第2溶接部22を形成している。このように、2回に亘ってウォブリング加工を行うことで形成された溶接部20においては、遅れ割れの発生が防止、あるいは抑制できることが確認された。
【0019】
本発明者等は本発明のレーザー溶接方法の効果を確認するために以下のように溶接実験を行った。第1金属部材11として、軸受鋼(SUJ2)を用い、第2金属部材12として機械構造用合金鋼(SNCM439)を用いた。第1ウォブリング加工における第1レーザービームの出力を800Wとし、第1走査パターンP1の円の第1半径(ウォブリング半径)を0.2mmとした。第2ウォブリング加工における第2レーザービームの出力を150Wとし、第2走査パターンP2の円の第2半径(ウォブリング半径)を0.8mmとした。この結果、突合せ面15に沿って深さH1が約2.3mmの第1溶接部21が形成され、第1溶接部21に重ねて、幅W2が約2.3mmの第2溶接部22が形成された。この溶接部20について経過観察を行ったところ、遅れ割れの発生は認められず、良好な溶接部が形成されたことが確認された。
【0020】
本発明者等は、合金鋼であるSUJ2材と機械構造用合金鋼であるSNCM439材の溶接実験の他、各種の金属材料の組み合わせについても溶接実験を行った。例えば、SCM415材とSNCM439材の溶接実験、炭素鋼材(S45C)と球状黒鉛鋳鉄材(FCD)の溶接実験を行った。鉄鋼材(炭素鋼、合金鋼、鋳鉄)の溶接においては、第1、第2レーザービームの出力を1000W程度までの範囲内で適切に設定し、走査パターンのウォブリング半径(振幅)を1.0mm程度までの範囲で適切に設定することにより、遅れ割れの生じない良好な溶接部を得られることが確認された。
【要約】
第1金属部材(11)と第2金属部材(12)を溶接するレーザー溶接方法では、突合せライン(13)に沿って、第1レーザービームを第1走査パターン(P1)で照射して第1溶接部(21)を形成する第1ウォブリング加工(ST1)を行う。次に、第1ウォブリング加工(ST1)によって形成された第1溶接部(21)の表面に沿って、第2レーザービームを第2走査パターン(P2)で照射して、第1溶接部(21)に重ねて当該第1溶接部(21)よりも広い幅で浅い深さの第2溶接部(22)を形成する第2ウォブリング加工(ST2)を行う。遅れ割れを防止あるいは抑制可能な溶接部(20)が形成される。
図1
図2