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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】電気炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/10 20060101AFI20230815BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
F27B3/10
F27D11/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018219018
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020085312
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】上手 研二
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隆夫
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-079696(JP,U)
【文献】国際公開第2013/099807(WO,A1)
【文献】特開平09-133471(JP,A)
【文献】実開昭58-008098(JP,U)
【文献】実開昭60-040465(JP,U)
【文献】実開昭59-036498(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00-3/28
F27D 7/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有した炉本体と、
前記開口部を閉じる炉蓋と、
前記炉蓋を通じて前記炉本体に挿入される黒鉛電極と、
前記炉本体と前記炉蓋との境界を炉外に対し覆う遮蔽体と、
を備え
前記遮蔽体は、前記炉本体の中心に対し、前記黒鉛電極に電力を供給するための電気室側のみに位置し、前記炉本体と前記炉蓋との境界から噴出した内容物の飛散する方向を上方に向けて出すように、前記遮蔽体と前記炉本体との隙間を電気炉における中空の隙間として上方に開放する
電気炉。
【請求項2】
前記遮蔽体は、前記境界の水平方向に位置し、かつ、水平面に対し所定の角度を有して交差する板状を有する
請求項1に記載の電気炉。
【請求項3】
前記遮蔽体は、前記境界に沿う周方向に延びる帯状を有した板部材を備える
請求項1または2に記載の電気炉。
【請求項4】
前記遮蔽体は、前記炉本体の外皮に固定される
請求項1から3のいずれか一項に記載の電気炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラップなどの金属材料から溶鋼を生成する電気炉に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電気炉は、金属材料を装入された炉本体内に黒鉛電極を挿入して、黒鉛電極に供給される電気エネルギーによって溶鋼を生成する。炉本体内で生成された溶鋼は、炉本体内から取鍋に出鋼されて、鋼片や半製品に鋳造される(例えば、特許文献1,2,3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-090140号公報
【文献】特開2004-139763号公報
【文献】特開2001-221574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上述した各文献の電気炉は、炉本体の内壁面における補修の高効率化、黒鉛電極と炉本体との間での絶縁性の向上、および、生産性の向上を図れるが、炉本体内で生成された気体などの内容物が炉本体内から飛散することに関し何ら考慮がなされていない。炉本体内から飛散する内容物は高温かつ高圧であるため、こうした内容物の飛散を抑制することは電気炉の使用環境における安全性を向上するうえで非常に重要な課題となっている。
本発明の目的は、炉本体内から噴出した内容物の飛散を抑制可能にした電気炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための電気炉は、炉本体と、前記炉本体の開口部を閉じる炉蓋と、前記炉蓋を通じて前記炉本体に挿入される黒鉛電極と、前記炉本体と前記炉蓋との境界を炉外で覆う遮蔽体と、を備える。この電気炉によれば、炉本体と炉蓋との境界が遮蔽体によって炉外で覆われるため、炉内の異常時に炉本体と炉蓋との境界から噴出した内容物が噴出時の高いエネルギーを有して飛散することを抑制し、高いエネルギーを有した内容物が電気炉以外に直撃することによる被災を遮蔽体が防止する。
【0006】
上記電気炉において、前記遮蔽体は、前記境界の水平方向に位置し、かつ、水平面に対し所定の角度を有して交差する板状を有してもよい。この電気炉によれば、噴出時の高いエネルギーを有した内容物が炉本体と炉蓋との境界から水平方向へ飛散することを抑制可能である。
【0007】
上記電気炉において、前記遮蔽体は、前記炉本体と前記炉蓋との境界に沿う周方向に延びる帯状を有した板部材であってもよい。この電気炉によれば、前記炉本体と前記炉蓋との境界に沿う周方向に遮蔽体が延在するため、遮蔽体は、前記炉本体と前記炉蓋との境界の一部から噴出した内容物から受ける圧力を上方、下方、周方向などの多方向に分散可能である。
【0008】
上記電気炉において、前記遮蔽体は、前記遮蔽体と前記炉本体との間に、上方および下方の少なくとも一方を開放した隙間を空けて、前記炉本体の外皮に固定されてもよい。この電気炉によれば、炉本体の外皮に遮蔽体が固定されるため、遮蔽体が炉本体以外に固定される構成と比べて、境界と遮蔽体との間の相対位置を所望の位置に維持することが容易である。そして、遮蔽体と炉本体との間に開放した隙間を空けているため、遮蔽体は、境界から噴出した内容物を上方もしくは下方、または双方に分散可能である。
【0009】
上記電気炉において、前記遮蔽体は、前記炉本体の中心に対し、前記黒鉛電極に電力を供給するための電気室側や作業室側に位置してもよい。この電気炉によれば、炉本体の周囲のなかの電気室に向けた飛散が効果的に抑制可能である。また、前記遮蔽体は、前記炉本体の全周に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電気炉の一実施形態における上面視での構造を概略的に示す平面図。
図2図1のII-II線における断面構造を概略的に示す断面図。
図3】電気炉の変更例における断面構造を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、電気炉を連続装入式電気炉に具体化した一実施形態を説明する。
【0012】
図1が示すように、電気炉は、炉本体11、炉蓋21、3体の黒鉛電極31、および、遮蔽体41を備える。炉蓋21は、炉本体11の開口部11T(図2参照)を開閉する。炉蓋21は、炉本体11の内部に金属材料を装入するための装入部22を備える。各黒鉛電極31は、溶鋼を生成するための電力を電気室から供給される。遮蔽体41は、複数の遮蔽ブロック41Bから構成される。各遮蔽ブロック41Bは、炉本体11の周囲のなかで、炉本体11の中心に対する電気室側に並び、かつ、電気室側とは反対側に位置しない。
【0013】
図2が示すように、炉本体11は、開口部11Tを有した有底の筒状を有する。炉本体11は、開口部11Tを区画する炉壁12と、炉壁12から連続する炉底13とを備える。開口部11Tは、電気炉の操業状態において、金属材料を炉本体11の内部に装入するため、また、黒鉛電極31を炉本体11の内部に挿入するために用いられる。開口部11Tは、電気炉の操業停止状態において、炉本体11の内部を補修するための装置を搬入するためなどに用いられる。開口部11Tの上端面は、絶縁性を有したアルミナやマグネシアなどの耐火物から構成される。
【0014】
炉壁12は、外皮を構成する鉄皮、および、水冷ジャケット14を備える。水冷ジャケット14は、炉本体11に対する熱負荷を軽減する。水冷ジャケット14は、溶鋼Mとの接触に起因した水蒸気爆発を防止するために、出鋼口11Aよりも上方、かつ、溶鋼Mの上面よりも上方に位置する。
【0015】
炉底13は、外皮を構成する鉄皮と、炉底13の内表面を構成する耐火壁とを備える。耐火壁は、アルミナやマグネシアなどの複数層の耐火物から構成されている。炉底13は、溶鋼を出鋼するための出鋼口11Aと、スラグを排出するための排滓口11Bとを備える。出鋼口11Aと排滓口11Bとは、黒鉛電極31を挟んで対向する位置に設けられている。炉底13の内部で生成された溶鋼Mは、炉本体11の傾動によって出鋼口11Aから出鋼される。炉底13の内部で生成されたスラグは、炉本体11の傾動によって排滓口11Bから排出される。
【0016】
黒鉛電極31は、炉蓋21が開口部11Tを閉じた状態で、炉本体11の上方から炉蓋21を貫通して炉本体11の内部に挿入される。3体の黒鉛電極31は、電気室から三相の交流電力を供給されて、溶鋼Mを生成するためのアーク放電を炉本体11の内部に誘起する。
【0017】
遮蔽ブロック41Bは、遮蔽板42、補強鋼43、および、連結鋼44を備える。遮蔽板42は、境界Bの周方向に延在する。複数の遮蔽ブロック41Bは、互いに隣り合う遮蔽板42が接合されることによって、境界Bの周方向に延在する帯状の板部材を構成する(図1参照)。遮蔽板42、補強鋼43、および、連結鋼44は、熱的耐性、および、機械的耐性を有した鉄鋼材から構成される。
【0018】
各遮蔽板42は、炉本体11と炉蓋21との境界Bの水平方向に位置する。互いに隣り合う遮蔽板42は、ボルトなどの締結部材や溶接などによって接合される。炉本体11と炉蓋21との境界Bは、開口部11Tの上端面と炉蓋21の下端面との境界である。各遮蔽板42は、上下方向において、境界Bよりも上側、および、境界Bよりも下側に位置する。各遮蔽板42は、境界Bを含む水平面に対し所定の角度を有して交差する板状を有する。各遮蔽板42と境界Bを含む水平面とは、例えば直交する。
【0019】
補強鋼43は、遮蔽板42に対し炉本体11とは反対側に固定されている。補強鋼43は、開口部11Tの周方向や上下方向に対し遮蔽板42が撓むことを抑制する。補強鋼43は、例えば、上下方向に延在するH鋼であって、上下方向に延在する片、および、開口部11Tの周方向に延在する片を備える。
【0020】
連結鋼44は、遮蔽板42の下端部と炉壁12の鉄皮とを連結する。連結鋼44は、例えば、炉壁12の外方に向けて炉壁12と直交する方向に延在するH鋼である。連結鋼44は、遮蔽板42と炉壁12との間に上方を開放した隙間を空ける。連結鋼44に下端を支持された遮蔽板42は、境界Bから噴出した内容物と衝突し、内容物が有するエネルギーを噴出時から減衰させる。また、遮蔽板42に衝突した内容物は、それの進行を弱められた状態で、飛散の方向を上方に向けられる。
【0021】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)炉本体11と炉蓋21との境界Bは、各遮蔽ブロック41Bによって炉外で覆われる。そのため、炉本体11の内部から噴出した内容物が噴出時の高いエネルギーを有して飛散することを各遮蔽ブロック41Bが抑制する。そして、噴出時の高いエネルギーを有した内容物が電気炉以外に直撃することによる被災を各遮蔽ブロック41Bが防止する。
【0022】
(2)各遮蔽板42は、境界Bの水平方向に位置し、かつ、境界Bを含む水平面に対し所定の角度を有する。そのため、噴出時の高いエネルギーを有した内容物が境界Bから水平方向へ飛散することが抑制可能である。
【0023】
(3)複数の遮蔽板42の接合体である板部材は、境界Bに沿う周方向に延在する。そのため、遮蔽体41は、境界Bの一部から噴出した内容物から受ける圧力を上方、下方、周方向などの多方向に分散して減衰させることが可能である。
【0024】
(4)各遮蔽板42は、炉本体11の鉄皮に連結鋼44で固定される。そのため、電気炉が設置される施設などのような電気炉の外部に各遮蔽体41が固定される構成と比べて、境界Bと各遮蔽板42との間の相対位置を所望の位置に維持することが容易である。
【0025】
(5)各遮蔽板42と炉本体11とを連結する連結鋼44は、遮蔽板42と炉本体11との間に上方を開放した隙間を空ける。そのため、遮蔽体41は、境界Bから噴出した内容物を上向に分散させて、炉壁12の周囲に対し直接飛散することを抑制する。
【0026】
(6)各遮蔽ブロック41Bは、炉本体11の周囲のなかで、炉本体11の中心に対する電気室側に並び、かつ、電気室側とは反対側に位置しない。そのため、境界Bから噴出した内容物が電気室に向けて飛散することが抑制可能となる。
【0027】
なお、上記実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
[遮蔽部]
・遮蔽ブロック41Bは、開口部11Tにおいて周方向の全体にわたり並ぶことも可能である。遮蔽ブロック41Bが周方向の全体に並ぶ構成であれば、内容物の飛散を開口部11Tの全周にわたり抑制可能ともなる。
【0028】
・遮蔽ブロック41Bは、炉本体11の中心に対し、電気炉の保守や点検を行うための作業室側に位置することも可能である。遮蔽ブロック41Bが作業室側に位置する構成であれば、噴出時の高いエネルギーを有した内容物が作業室に向けて飛散することが抑制可能ともなる。
【0029】
・遮蔽ブロック41Bは、炉本体11に固定される構成に限らず、例えば、図3が示すように、炉蓋21に固定される構成、あるいは、電気炉が設置される施設のなかの構造体に固定される構成に変更可能である。
【0030】
・遮蔽板42の上下方向における長さは適宜変更可能である。また、遮蔽板42の位置は、境界Bの水平方向から外れた位置であってもよく、内容物が境界Bから噴出する方向に位置する構成であればよい。
【0031】
・遮蔽板42の形状は、境界Bに対して水平方向から境界Bを囲う凹面状に変更可能である。遮蔽板42が凹面状を有する構成であれば、遮蔽板42に対し上方や下方に向けて内容物が飛散することも抑制し、遮蔽板42に向けて飛散した内容物を炉本体11や炉蓋21に向けて跳ね返らせやすくもなる。
【0032】
・遮蔽板42と炉本体11との間に形成される隙間は、上方に開放される構成に限らず、下方に開放されてもよく、あるいは、上方および下方の双方に開放されてもよい。
【0033】
[電気炉]
・電気炉は、連続装入式電気炉に限らず、1本の黒鉛電極を備えて電磁的な攪拌を可能にした直流式電気炉、スラグを炉内に残して溶鋼だけを出湯する偏心炉底出鋼式電気炉、内容物にアルゴンガスや石炭などを加えて攪拌する取鍋精錬炉に変更可能である。要は、電気炉は、炉本体と炉蓋との境界を炉外から覆う遮蔽部を備えた構成であればよい。
【符号の説明】
【0034】
B…境界、M…溶鋼、11…炉本体、11A…出鋼口、11B…排滓口、11T…開口部、12…炉壁、13…炉底、14…水冷ジャケット、21…炉蓋、22…装入部、31…黒鉛電極、41…遮蔽体、41B…遮蔽ブロック、42…遮蔽板、43…補強鋼、44…支持鋼。
図1
図2
図3