(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
H10K 59/82 20230101AFI20230815BHJP
H10K 50/814 20230101ALI20230815BHJP
H10K 50/818 20230101ALI20230815BHJP
H10K 50/824 20230101ALI20230815BHJP
H10K 50/828 20230101ALI20230815BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230815BHJP
F21S 43/145 20180101ALI20230815BHJP
F21S 43/15 20180101ALI20230815BHJP
F21V 23/00 20150101ALI20230815BHJP
【FI】
H10K59/82
H10K50/814
H10K50/818
H10K50/824
H10K50/828
H10K50/10
F21S43/145
F21S43/15
F21V23/00 160
(21)【出願番号】P 2018245818
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 徹
(72)【発明者】
【氏名】志藤 雅也
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073459(WO,A1)
【文献】特開2016-085797(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133716(WO,A1)
【文献】特開平11-008073(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198605(WO,A1)
【文献】特開2010-140648(JP,A)
【文献】特開2008-108530(JP,A)
【文献】特開2007-265983(JP,A)
【文献】特開2001-345185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0154946(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/00-33/28
H05B 44/00
H05B 45/60
F21S 43/145
F21S 43/15
F21V 23/00
F21W 103/35
F21Y 115/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材に取り付けられる車両用灯具であって、
前記透明部材と対向して配置される透光性の基板と、
前記基板上に配置される透光性の第1の電極と、
前記第1の電極上に配置される有機物層と、
前記有機物層上に配置される第2の電極と、が積層されてなる有機ELパネルを備え、
前記有機ELパネルは、前記透明部材に向けて光を射出する発光部と、光を射出しない非発光部とがストライプ状に配置され、前記発光部においてのみ前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流が流れるように構成され、
前記第1のおよび前記第2の電極の少なくとも一方は、その外周に、前記有機ELパネルの給電端子と電気的に接続する配線部材を備え、
前記配線部材は、該配線部材が設けられた電極よりも抵抗の低い材料で構成され、
前記発光部のストライプの延在方向の中央位置にも、前記配線部材が各ストライ
プを結ぶように配置され
、
前記第2の電極が、透光性の陰極であり、
前記第1の電極および前記第2の電極の一方は、平板状であり、他方は、前記発光部を構成するストライプ状であり、
前記第1の電極および前記第2の電極は、いずれも、前記発光部のストライプの範囲内に、前記発光部のストライプに沿って前記発光部のストライプよりも細い補助電極を備え、前記補助電極は、該補助電極を備える電極よりも抵抗が低く、
前記基板の前記第1の電極と反対の面が光の出射面であることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記補助電極が、該補助電極が設けられる電極の背面側に、前記発光部のストライプに沿って、前記発光部のストライプの全長に亘り配置されていることを特徴とする請求項
1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記補助電極が、前記第1の電極と前記有機物層との間に配置され、
前記有機ELパネルは、前記第1の電極と前記第2の電極との短絡を防止するための絶縁層を備えることを特徴とする請求項
1または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記配線部材が、前記発光部のストライプより太いことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記第1のおよび前記第2の電極の夫々が、その外周に、前記有機ELパネルの前記給電端子と電気的に接続する配線部材を備え、
前記第1のおよび前記第2の電極の夫々に備えられた前記配線部材のうち一方の配線部材は、他方の配線部材よりも周長が長く、前記他方の配線部材は、前記一方の配線部材よりも内側に配置されることを特徴とする請求項1
~4のいずれかに記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に係り、より詳細には、有機EL(Electro Luminescence)を使用した車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のリアウィンドウの内側に、有機ELパネルを配置して、ハイマウントストップランプやテールランプ等の標識灯として利用する車両用灯具が知られている。
【0003】
有機ELパネルをリアウィンドウの内側に配置する場合、有機ELパネルによる後方視認性の低下を防止するために、有機ELパネルを透過しうるようにして視認性を確保する必要がある。この目的のために、透明陽極と、ストライプ状に形成した金属陰極とを用いて、ストライプ状に発光するように構成し、透過性を確保した車両用灯具が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、透明陽極と、ストライプ陰極とを用いた車両用灯具では、点灯時に発光部の輝度が中心に向かって低下する、輝度ムラが生じるという問題があった。
【0006】
解析の結果、輝度ムラは、透明陽極の給電部から透明陽極外周までの抵抗値および透明陽極自身が有するシート抵抗値に起因する、給電端子から発光部の外周部および発光部外周部から中央部に向かって生じる電圧降下や、ストライプ陰極の抵抗値に起因する、給電端子からストライプ両端部およびストライプ両端部からストライプ中央に向けて生じる電圧降下により起こることがわかった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透過性を有する有機ELパネルを使用した車両用灯具において、点灯時の輝度ムラを低減することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の1つの態様に係る車両用灯具は、透明部材に取り付けられる車両用灯具であって、前記透明部材と対向して配置される透光性の基板と、前記基板上に配置される透光性の第1の電極と、前記第1の電極上に配置される有機物層と、前記有機物層上に配置される第2の電極と、が積層されてなる有機ELパネルを備え、前記有機ELパネルは、前記透明部材に向けて光を射出する発光部と、光を射出しない非発光部とがストライプ状に配置され、前記発光部においてのみ前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流が流れるように構成され、前記第1のおよび前記第2の電極の少なくとも一方は、その外周の少なくとも一部に、前記有機ELパネルの給電端子と電気的に接続する配線部材を備え、前記配線部材は、該配線部材が設けられた電極よりも抵抗の低い材料で構成されている。
【0009】
なお、上記態様において、前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方は、前記発光部のストライプの範囲内に、前記発光部のストライプよりも細い補助電極をさらに備え、前記補助電極は、該補助電極を備える電極よりも抵抗が低いことも好ましい。
【0010】
また、本発明の別の態様に係る車両用灯具は、透明部材に取り付けられる車両用灯具であって、前記透明部材と対向して配置される透光性の基板と、前記基板上に配置される透光性の第1の電極と、前記第1の電極上に配置される有機物層と、前記有機物層上に配置される第2の電極とが積層されてなる有機ELパネルを備え前記有機ELパネルは、前記透明部材に向けて光を射出する発光部と、光を射出しない非発光部とがストライプ状に配置され、前記発光部においてのみ前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流が流れるように構成され、前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方は、前記発光部のストライプを含む発光領域内に、前記ストライプよりも細い補助電極を備え、前記補助電極は、該補助電極を備える電極よりも抵抗の低い材料で構成されている。
【0011】
なお、上記態様において、前記第2の電極が、透光性の陰極であり、前記第2の電極が、前記補助電極を備えてもよい。
【0012】
また、上記態様において、前記補助電極が、該補助電極が設けられる電極に、前記発光部のストライプに沿って、前記発光部のストライプの全長に亘り配置されていてもよい。
【0013】
また、上記態様において、前記補助電極が、前記第1の電極と前記有機物層との間に配置され、前記有機ELパネルは、前記第1の電極と前記第2の電極との短絡を防止するための絶縁層を備えていてもよい。
【0014】
また、上記態様において、前記配線部材が、前記発光部のストライプより太くてもよい。
【0015】
また、上記態様において、前記有機ELパネルは、前記第1の電極と前記有機物層との間にストライプ絶縁層を備え、前記ストライプ絶縁層をストライプ状に形成することによって、前記発光部と、前記非発光部とがストライプ状に配置されるようにし、前記補助電極が、前記ストライプ絶縁層と対応する位置に配置されていてもよい。
【0016】
なお、本明細書において、「透光性」とは、可視光線の少なくとも一部を透過する性質を意味し、透明であることも含む。
【発明の効果】
【0017】
上記態様によれば、光取出電極よりも抵抗の低い配線部材および補助電極の少なくとも一方を備えることにより、電極の抵抗を低減し、電圧降下を低減することができるので、透過性を有する有機ELパネルを使用した車両用灯具において、点灯時の輝度ムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用灯具を搭載した状態を示す、車両後部の正面図である。
【
図2】(A)は、同形態に係る車両用灯具の有機ELパネルの、遮光層を省略した正面図であり、(B)は同背面図である。
【
図3】同有機ELパネルの積層構造を説明する分解斜視図である。
【
図4】同有機ELパネルの、
図2(B)のIV-IV線に沿う切断面端面図(部分)である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る車両用灯具を構成する有機ELパネルの切断面端面図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係る車両用灯具を構成する有機ELパネルの切断面端面図である。
【
図7】本発明の第4の実施の形態に係る車両用灯具を構成する有機ELパネルの切断面端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
なお、各図面は、各部材の位置関係を説明することを目的としており、実際の各部材の寸法関係を示すものではない。また、各実施の形態の説明において、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0021】
また、以下の実施の形態は、本発明の車両用灯具(以下、単に「灯具」ともいう。)を、車両のリアウィンドウの内側(車室側)に配置されるハイマウントストップランプに適用した例を示す。
【0022】
本明細書において「前」、「後」等の方向を表す用語は、特に言及しない限り、車両用灯具の車両に搭載した状態における方向を基準とし、具体的には、車両用灯具の照射方向を前とする。
【0023】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車両用灯具100が搭載された車両1を後部から見た正面図である。
図1に示すように、灯具100は、正面視横長の矩形の薄い板状に形成されており、車両1のリアウィンドウである透明部材2に沿って車室内に配置されている。
【0024】
灯具100は、有機ELパネル101と、有機ELパネル101を透明部材2に取り付ける取付構造としての高透明の両面テープ(図示せず)とを備える。取付構造は、両面テープに限定されず、透明シリコンシートや他の公知の固定手段であってよい。
【0025】
図2(A)は、後述する遮光層60を省略した有機ELパネル101の正面図、
図2(B)は同背面図である。また、
図3は、有機ELパネル101の積層構造を示す分解斜視図である。なお、
図3では、遮光層60および給電端子21,41の図示を省略している。また、
図4は、一部を省略した
図2(B)のIV-IV線に沿う切断面の端面図である。
【0026】
図3,4に示すように、有機ELパネル101は、全体として、正面視横長の矩形に形成された透光性の基板10と、基板10上に配置される透光性の陽極20と、陽極20上に配置され、陽極20よりも縮小された略相似形状に形成された有機物層30と、有機物層30上に配置される陰極40と、陽極20、有機物層30および陰極40を覆う透光性の封止部材50と、封止部材50上に配置される遮光層60との積層体として構成されている。陽極20、有機物層30および陰極40の重なり合う領域が、矩形の発光領域70を形成している。
【0027】
基板10は、樹脂またはガラスの透光性の基板である。基板10は、陽極20が積層される面と対向する面(光の出射面)10aが透明部材2と対向するように、透明部材に取り付けられる。
【0028】
陽極20は、ITO(酸化インジウムスズ)や銀等の透明電極である。陽極20は、発光領域70と略相似形状に形成されている。陽極20上には、複数の、第1の補助電極22と絶縁層23との積層体24が、所定の間隔で、発光領域70の短手方向に沿って、その全長に亘り平行に延在し、後述する発光部72のストライプの幅方向の中央に配置されるようになっている。
【0029】
また、陽極20の外周縁部には、有機ELパネル101の給電端子21と電気的に接続される第1の配線部材26が、その全周に亘り、所定の幅で配置されている。
【0030】
第1の補助電極22は、陽極20よりも抵抗の低い材料で構成される電極であり、陽極の材料に応じて適宜選択される。例えばアルミニウム、金、銅等の金属電極であってよいが、特に限定されない。また、第1の補助電極22および絶縁層23は、後述する発光部72のストライプよりも細く形成されている。
【0031】
絶縁層23は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの無機材料の膜や、有機ポリマーなどの有機材料の膜である。
【0032】
第1の配線部材26は、陽極20よりも抵抗の低い材料により構成される電極であり、いわゆるバスラインとして機能する。第1の配線部材26は、陽極の材料に応じて適宜選択され、例えばアルミニウム、金、銅等の金属電極であると好ましいが、特に限定されない。また、第1の配線部材26は、第1の補助電極22と電気的に接続されている。また、第1の配線部材26は、後述する発光部72のストライプよりも太く形成されている。
【0033】
有機物層30は、有機EL材料として公知の蛍光性有機化合物を含むものであり、電子輸送層、発光層、正孔輸送層から構成されている。あるいは、有機物層30として、リン光性有機化合物を含むものを用いてもよい。
【0034】
陰極40は、例えば、ITOや銀の透明電極である。陰極40は、全体として発光領域70と略相似な矩形に形成されるが、メタルマスク蒸着の手法により、該発光領域70内で、複数の等幅の陰極40の帯(ストライプ)が、所定の間隔で、発光領域70の短手方向に沿って、平行に延在するストライプ状に形成されている。
【0035】
陰極40上には、後述する複数の第2の補助電極42が、陰極40の各ストライプの幅方向の中央と合致するように、陰極40のストライプの全長に亘り延在している。
【0036】
また、陰極40全体の外周縁部には、有機ELパネル101の給電端子41と電気的に接続される第2の配線部材46が、陰極40のストライプの端部を結ぶように、その全周に亘り所定の幅で配置されている。また、陰極40の各ストライプが延在する、発光領域70の短手方向の中央位置にも、第2の配線部材46aが各ストライプと直交して、各ストライプを結ぶように配置されている。
【0037】
第2の補助電極42は、陰極40よりも抵抗の低い材料で構成される電極であり、陰極40の材料に応じて適宜選択される。例えばアルミニウム、金、銅等の金属電極であってよいが、特に限定されない。
【0038】
第2の配線部材46,46aは、陰極40よりも抵抗の低い材料により構成される電極であり、いわゆるバスラインとして機能する。第2の配線部材46,46aは、陰極40の材料に応じて適宜選択され、例えばアルミニウム、金、銅等の金属電極であってよいが、特に限定されない。また、第2の配線部材46,46aは、陰極40および第2の補助電極42と電気的に接続されている。また、第2の配線部材46,46aは後述する発光部72のストライプよりも太く形成されている。
【0039】
なお、陰極40と有機物層30との間の、第2の配線部材46,46aと対応する位置には、第2の配線部材46,46aと有機物層30との短絡を防ぐための絶縁層43が配置されている。絶縁層43は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの無機材料の膜や、有機ポリマーなどの有機材料の膜であり、透明の絶縁体である。
【0040】
封止部材50は、例えば、窒化ケイ素などの透明の無機膜や、バリア機能を持った透明樹脂フィルムを接着したものであり、外部から有機層へ水分や酸素が浸入するのを防ぐ。
【0041】
遮光層60は、例えば、黒色塗料を印刷した透明粘着フィルムである。あるいは、封止部材50上に直接印刷することにより形成したものでよい。または、アルミニウムを蒸着したものとしてもよい。
【0042】
遮光層60は、封止部材50上の、ストライプ状に形成された陰極40と対応する位置に、陰極40のストライプよりも幅広のストライプ状に形成されている。
【0043】
なお、有機ELパネル101は、基板10、陽極20、第1の補助電極22および絶縁層23、第1の配線部材26の積層体81、有機物層30および絶縁層43の積層体82、および陰極40、第2の補助電極42および第2の配線部材46の積層体83をそれぞれ作成し、その後、各積層体81~83を積層して、製造される。
【0044】
次に有機ELパネル101の発光の機構について説明する。
陽極20および陰極40は、それぞれ、電源と接続される給電端子21および41を備える。電源を駆動して、陽極20および陰極40から有機物層30に電圧を印加すると、陽極20からは正孔が、陰極40からは電子が、有機物層30に注入される。そして、有機物層30で正孔と電子が結合する際に生じるエネルギーにより、有機物が励起され、その励起状態から再び基底状態に戻る際に赤色の光を発光する。
【0045】
陰極40はストライプ状に構成されているので、
図4に示すように、発光領域70には、陽極20、有機物層30、陰極40が積層された部分と、陰極40が積層されない部分が、陰極40のストライプと対応するストライプ状に配置される。従って、前者が、電源を投入した際に、陽極20から有機物層30を介して陰極40へと電流が流れて発光する発光部72となり、後者が非発光部74となる。このようにして、灯具100は、点灯時にストライプ状に発光する。
【0046】
なお、有機物層30で発光した光のうち、陽極20へ向かう光は、陽極20を透過して基板10の出射面10aから透明部材2に向けて、すなわち前方へ向けて出射される。
【0047】
一方、有機物層30で発光した光のうち、陰極40へ向かう光は、陰極40を透過し、遮光層60で遮光される。すなわち、遮光層60により、光が、後方(車室側に)に出射されないようになっている。
【0048】
また、陽極20へ向かう光の一部が、出射面10aで反射して後方へ向かう場合もある。しかし、遮光層60が、陰極40のストライプと対応する位置に、発光部72よりも幅広に構成されているので、このような光も遮光層60により遮光される(
図4)。このように、灯具100の発した光が、車室側に漏れにくくなり、運転者の眩惑を防止できる。
【0049】
なお、灯具100において、発光部72は、背面が遮光層60により覆われているが、非発光部74は、透光性を有する部材で構成されているため、灯具100は、全体として透過性を有し、運転席からの後方視認性を確保できる。
【0050】
本実施の形態による効果について説明する。
通常、陽極では、陽極自身の抵抗値によって、給電端子から陽極の外周(発光部のストライプの両端)にむかって電圧降下が生じる。本形態では、第1の配線部材26を陽極20の外周縁部に設けることにより、陽極20が第1の配線部材26と電気的に接続されて、陽極20の給電端子21に近い部分と、陽極20の外周縁部に位置する発光部72のストライプの両端との間で電圧差がほとんどなくなり、給電端子21から発光部72のストライプの両端に向かって生じる電圧降下を減少させ、輝度ムラを低減することができる。
【0051】
陰極側も同様に、通常、給電端子から、発光部のストライプの両端にむかって電圧降下が生じる。本形態では、電気抵抗の小さい第2の配線部材46を、陰極40全体の外周縁部に設けることにより、陰極40が第2の配線部材46と電気的に接続されて、陰極40の給電端子41に近い部分と発光部72のストライプの両端との間で電圧差がほとんどなくなり、給電端子41から発光部72のストライプ両端に向かって生じる電圧降下を減少させ、輝度ムラを低減することができる。
【0052】
また、ストライプの両端部から中央部に向かっても同様に電圧降下が生じる。本形態では、陰極40の各ストライプが延在する、発光領域70の短手方向の中央位置にも、第2の配線部材46aが各ストライプと直交して、各ストライプを結ぶように配置されている。このように構成することにより、陰極40の各ストライプの中央部が、第2の配線部材46aと電気的に接続されて、陰極40の給電端子41に近い部分と陰極40のストライプ(発光部72のストライプ)の長さ方向の中央部との間での電圧差がほとんどなくなり、発光部72のストライプの両端から中央部に向かって生じる電圧降下を減少させ、輝度ムラを低減することができる。
【0053】
第1の配線部材26、第2の配線部材46,46aの太さおよび配置は、各配線部材が設けられた電極の材質、発光領域の形状等に応じて適宜設定することができる。しかしながら、配線部材26,46,46aの太さは発光部72のストライプよりも太いと、抵抗の低減効果を十分に得ることができるので好ましい。
【0054】
さらに、陽極では、陽極の外周から中央部にむかって電圧降下が生じる。本形態では、第1の補助電極22を発光領域70内に設けることより、陽極20の抵抗が低減され、陽極20の外周から中央部に向かって生じる電圧降下を減少させ、輝度ムラを低減することができる。本形態のように、発光部72のストライプ内に、発光部72の延在する方向に沿って第1の補助電極22を設けると、ストライプの両端と、ストライプの長さ方向の中央部との間での電圧差が低減されるので、特に好ましい。
【0055】
また、陰極40では、陰極40(発光部72)のストライプの両端からストライプの中央部にむかって電圧降下が生じる。本形態では、第2の補助電極42を発光領域70内に設けることより、陰極40の抵抗が低減され、陰極40のストライプの両端から中央部に向かって生じる電圧降下を減少させ、輝度ムラを低減することができる。本形態のように、発光部72のストライプ内に、その全長に亘り、ストライプに沿って第2の補助電極42を設けると、ストライプの両端と、ストライプの長さ方向の中央部との間での電圧差が低減されるので、特に好ましい。
【0056】
また、第1の補助電極22および第2の補助電極42は、発光部72のストライプよりも細い。第1の補助電極および第2の補助電極は、金属電極であるため、非点灯時には、外部からの光が反射して、後続車の運転者を眩惑する虞があるが、発光部72のストライプよりも細く構成することにより、眩惑しにくくなる。第2の補助電極は、発光する有機層30からの光を全て遮光しないので、光を前方に照射することができる。また、第1の補助電極22および第2の補助電極42は、有機ELパネル101の厚み方向において、遮光層60と対応する位置に配置されることになるので、灯具100の透過性に悪影響を及ぼさない。
【0057】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る車両用灯具200は、灯具100と同様に、車両のリアウィンドウに取り付けられる正面視矩形状のハイマウントストップランプである。灯具200は、灯具100と同様に取付構造(図示せず)と有機ELパネル201とを備える。
図5は、有機ELパネル201の、第1の実施の形態に係る
図4に相当する断面の端面図である。
【0058】
図5に示すように、有機ELパネル201は、全体として、基板10と、透光性の陽極220と、陽極220よりも小さい略相似形状に形成された有機物層30と、陰極240と、陽極220、有機物層30および陰極240を覆う透光性の封止部材50と、遮光層60とをこの順で積層した積層体として構成される。
【0059】
有機ELパネル201の各層は、有機ELパネル101の各層と同様の材料で構成される。陽極220、有機物層30および陰極240の重なり合う領域が、灯具200の正面形状と略相似となる矩形状の発光領域70を形成している。
【0060】
具体的には、陽極220は、全体として、発光領域70と略相似な矩形に形成されるが、例えば、フォトリソグラフィ等の手法により、発光領域70内で複数の等幅の陽極の帯(ストライプ)が、平行に、発光領域70の短手方向沿って延在するストライプ状に形成されている。
【0061】
陽極220上には、複数の第1の補助電極22と絶縁層23との積層体24が、陽極220の各ストライプの幅方向の中央に、陽極の各ストライプに沿って延在している。絶縁層23は、第1の補助電極22の有機物層30側との絶縁を確保し、第1の補助電極22に、有機物層30に覆われていない部分が生じても、陰極240と短絡するのを防ぐ。
【0062】
また、陽極220の外周縁部には、有機ELパネル201の給電端子41と電気的に接続されるバスラインである第1の配線部材26が、陽極220のストライプの端部を結ぶように、その全周に亘り所定の幅で配置されている。
【0063】
一方、陰極240は、発光領域70と略相似な矩形状に形成されている。また、陰極240上には、陽極220の各ストライプと対応する位置に、陽極のストライプよりも細い複数の第2の電極が、灯具200の短手方向に延在している。
【0064】
また、陰極240外周縁部には、有機ELパネルの給電端子41と電気的に接続されるバスラインである第2の配線部材46が、その全周に亘り所定の幅で配置されている。
【0065】
このように、灯具200では、陽極220をストライプ状に構成することにより、陽極220のストライプに対応する部分が、陽極220から陰極240へと有機物層30を介して電流が流れて発光する発光部72を構成し、陽極220が形成されない部分が、非発光部74を構成して、ストライプ状に発光する。
【0066】
また、第1の実施の形態と同様に、陽極220および陰極240が、第1のおよび第2の補助電極22,42、および第1のおよび第2の配線部材26,46を備えているため、それぞれの電極における抵抗を下げることができ、その結果、各電極における電圧降下が低減し、輝度ムラを低減することができる。
【0067】
また、本形態では、第1の実施の形態と同様に、第1のおよび第2の補助電極22,42は、発光部72に配置されている。このため、第1の補助電極および第2の補助電極は、有機ELパネルの厚み方向において、遮光層60と対応する位置に配置されることになり、灯具200の透過性に悪影響を与えない。
【0068】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る車両用灯具300も、灯具100,200と同様に、車両のリアウィンドウに取り付けられる正面視矩形状のハイマウントストップランプである。灯具300も、灯具100と同様の取付構造(図示せず)と有機ELパネル301とを備える。
図6は、有機ELパネル301の、第1の実施の形態に係る
図4に相当する断面の端面図である。
【0069】
図6に示すように、有機ELパネル301は、全体として、基板10と、透光性の陽極20と、絶縁層(ストライプ絶縁層)80と、陽極20よりも縮小された略相似形状に形成された有機物層30と、陰極240と、陽極20、有機物層30および陰極240を覆う透光性の封止部材50と、封止部材50上に配置される遮光層60とをこの順に積層した積層体として構成される。
【0070】
有機ELパネル301の各層、配線部材および補助電極は、絶縁層80を除き、第1の実施の形態に係る有機ELパネル101の各層、配線部材、および補助電極と同様の材料で構成される。陽極20、有機物層30および陰極240の重なり合う領域が、灯具300の正面形状と略相似となる矩形状の発光領域70を形成している。
【0071】
また、陽極20および陰極240はそれぞれ、第1の配線部材26および第2の配線部材46を備える。
【0072】
絶縁層80は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの無機材料の膜や、有機ポリマーなどの有機材料の膜であり、透明の絶縁体である。絶縁層80は、フォトリソグラフィ等の手法により、発光領域70内で、複数の等幅の絶縁層80の帯(ストライプ)が、平行に、発光領域70の短手方向に延在するストライプ状に形成されている。
【0073】
このように、車両用灯具300では、絶縁層80を設け、絶縁層80をストライプ状に構成することで、有機ELパネル301のうち、絶縁層80のストライプに対応する部分では、陽極20から陰極240へ電流が流れず、絶縁層80のストライプが形成されていない位置では陽極20から陰極240へと有機物層30を介して電流が流れ、絶縁層80に対応する部分が、非発光部74となり、絶縁層80の形成されていない部分が発光部72となって、ストライプ状に発光する。
【0074】
陽極320と絶縁層80との間には、発光部72のストライプの幅よりも細い第1の補助電極322が設けられている。第1の補助電極322は、絶縁層80のストライプと対応する位置に配置され、所定の間隔で灯具300の短手方向に延在している。
【0075】
また、陰極240上には、複数の第2の補助電極42が、絶縁層80が形成されていない部分、すなわち発光部72のストライプの幅方向の中央に、発光部72のストライプに沿って延在している。
【0076】
上記構成によれば、第1の補助電極322は、非発光部74に配置されることになり、発光する有機物層30の前面には配置されない。したがって、有機物層30から出射する光の光路を妨げることがなく、点灯時の光量の低下を引き起こさない。
【0077】
また、第1の補助電極322の、非発光部74における配置は特に限定されないが、
図6に示すように、第1の補助電極322の有機物層30との絶縁を確保しながらできるだけ発光部72に近くなるように配置すると、発光部72の陽極20の抵抗を下げる観点から好ましい。
【0078】
なお、第1の補助電極322が、非発光部74における遮光層60が形成されている位置に配置されていると、非点灯時における灯具300の透過性に影響を与えることがなく、特に好ましい。
【0079】
また、第1の補助電極322は、発光部72のストライプの両側に、発光部72のストライプに沿って延在するように配置されている。これにより、発光部72のストライプに対向する陽極の抵抗がストライプの両側から低減されるので、ストライプ内の電圧の差がほとんどなくなり、より効果的に輝度ムラを低減することができる。
【0080】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態に係る車両用灯具400も、灯具100~300と同様に、車両1のリアウィンドウに取り付けられる正面視矩形状のハイマウントストップランプである。灯具400は、リアウィンドウに取り付けるための取付構造(図示せず)と有機ELパネル401とを備える。
図7は、有機ELパネル401の、第1の実施の形態に係る
図4に相当する断面の端面図である。
【0081】
図7に示すように、有機ELパネル401も、全体として、基板10と、透光性の陽極20と、絶縁層(ストライプ絶縁層)80と、陽極20よりも縮小された略相似形状に形成された有機物層430と、陰極240と、陽極20、有機物層430および陰極240を覆う透光性の封止部材50と、封止部材50上に配置される遮光層60とをこの順に積層した積層体として構成されている。
【0082】
有機ELパネル401の各層、配線部材、および補助電極は、第3の実施の形態に係る有機ELパネル301の各層、配線部材、および補助電極と同じ材料で構成される。また、陽極20、有機物層430および陰極240の重なり合う領域が、灯具300の正面形状と略相似となる矩形状の発光領域70を形成する。
【0083】
陽極20および陰極240はそれぞれ、第1の実施の形態と同様に、第1の配線部材26および第2の配線部材46を備える。
【0084】
有機物層430は、フォトリソグラフィ等の手法により、発光領域70内で、複数の等幅の有機物層430の帯(ストライプ)が、平行に、発光領域70の短手方向に延在するストライプ状に形成されている。
【0085】
絶縁層80は、発光領域70内で、複数の等幅の絶縁層80の帯(ストライプ)が、有機物層430のストライプと相補するように、発光領域70の短手方向に延在するストライプ状に形成されている。
【0086】
このように、車両用灯具400では、有機物層430と、絶縁層80とが相補するストライプ状に構成することで、有機ELパネル401のうち、絶縁層80のストライプに対応する部分では、陽極20から陰極240へ電流が流れない。一方、絶縁層80のストライプが形成されていない、有機物層430のストライプが形成されている部分では、陽極20から陰極240へと有機物層430を介して電流が流れる。従って、絶縁層80に対応する部分が、非発光部74となり、絶縁層80の形成されていない、有機物層430に対応する部分が発光部72となって、ストライプ状に発光する。
【0087】
絶縁層80と陰極240との間には、発光部72のストライプの幅よりも細い第1の補助電極422が設けられている。第1の補助電極422は、有機ELパネル401の厚み方向において絶縁層80のストライプの幅方向の両側に、絶縁層80のストライプに沿って配置されている。また、第1の補助電極422は非発光部74において、発光部72になるべく近くなるように配置されている。
【0088】
上記構成によれば、第1の補助電極422は、陽極20との絶縁が確保され、陰極240と電気的に接続されている。従って、本実施の形態においては、第1のおよび第2の補助電極422,42は、いずれも、陰極240の補助電極として機能し、陰極240の電圧降下を効果的に低減することができる。
【0089】
また、第3の実施の形態と同様に、第1の補助電極は、非発光部に配置されることになり、発光する有機物層30の前面には配置されない。したがって、有機物層430から出射する光の光路を妨げることがなく、点灯時の光量の低下を引き起こさない。
【0090】
なお、実施の形態は上記に限らず、例えば以下のように構成することもできる。
【0091】
第1の配線部材および第2の配線部材は、それぞれが設けられた電極の外周部の全周を囲む必要はなく、外周部の少なくとも一部に配置されていればよい。例えば、第2の配線部材は、陰極の全周ではなく、全てのストライプの両端を結ぶように配置されていてもよい。
【0092】
必ずしも陽極および陰極の両方に、配線部材を設ける必要はなく、少なくとも陽極または陰極のいずれか一方に設けていればよい。
【0093】
必ずしも陽極および陰極の両方に、補助電極を設ける必要はなく、少なくとも陽極または陰極のいずれか一方に設けていればよい。
【0094】
陰極は、透明電極に限らず、金属電極を用いてもよい、この場合には、陰極を発光部のストライプの幅よりも幅広に構成し、遮光層を省略してもよい。
【0095】
第1のおよび第2の補助電極は、発光部のストライプに沿う配置に限らず、発光領域の全面に亘り格子状に配置してもよい。
【0096】
第1のおよび第2の配線部材としては、金属電極に限らず、例えばポリエチレンテレフタラートのベースフィルムに銅箔を貼り合わせたFPC(Flexible printed Circuits,プリント基板)配線であってもよい。
【0097】
発光部のストライプは、発光領域の短手方向に沿う方向に限定されず、長手方向に沿う方向に配置してもよい。ただし、発光部のストライプを短手方向に沿う方向に延在するように配置すると、ストライプの長さを相対的に短くすることができるので、ストライプ電極両端から中央部への電圧降下が減少するので好ましい。
【0098】
車両用灯具を取り付ける透明部材は、平板状のリアウィンドウに限らず、三次元曲面を有する透明部材であってもよい。この場合において、取付構造は、光学部材、透明な両面テープ、シリコンシート等の介在部材を備えても良い。
【符号の説明】
【0099】
2 透明部材
10 基板
20,220,320 陽極(第1の電極)
21,41 給電端子
22,322,422 第1の補助電極(補助電極)
23 絶縁層
26 第1の配線部材(配線部材)
30,430 有機物層
40,240 陰極(第2の電極)
42 第2の補助電極(補助電極)
46,46a 第2の配線部材(配線部材)
70 発光領域
72 発光部
74 非発光部
80 絶縁層(ストライプ絶縁層)
100,200,300,400 車両用灯具
101,201,301,401 有機ELパネル