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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20230815BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230815BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20230815BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20230815BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C43/04
F16J15/00 C
B60B35/02 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019011474
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020118258
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 茂明
(72)【発明者】
【氏名】永井 奈都子
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038250(JP,A)
【文献】特開2006-224902(JP,A)
【文献】特開2013-213571(JP,A)
【文献】特開2009-068581(JP,A)
【文献】特開2019-173878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/18
F16C 43/04
F16J 15/00
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材のアウター側の開口部とインナー側の開口部とにそれぞれ嵌合される密閉部材を有する車輪用軸受装置の製造方法であって、
室内の気圧を調圧する作業室内に、アウター側の前記密閉部材とインナー側の前記密閉部材のうち、いずれか一方が嵌合されている前記車輪用軸受装置を封入し、前記車輪用軸受装置の使用地域の環境に応じた所定の気圧に前記作業室内を調圧する調圧工程と、
調圧された前記作業室内で、前記外方部材の前記密閉部材が嵌合されていない側の開口部に前記密閉部材を嵌合する密閉工程と、を有する車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記調圧工程において、前記作業室の雰囲気を所定の構成からなる雰囲気に置換した後に調圧する請求項1に記載の車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項3】
前記調圧工程において、前記作業室の雰囲気を所定の湿度からなる雰囲気、または所定の窒素濃度に組成される雰囲気に置換した後に調圧する請求項1に記載の車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項4】
前記調圧工程の前に、内部の気圧を調圧して前記作業室と連通する前室を用い、アウター側の前記密閉部材とインナー側の前記密閉部材のうち、いずれか一方が嵌合されている前記車輪用軸受装置を前記前室内に封入し、前記所定の気圧に前記前室内を調圧した後に前記車輪用軸受装置を前記作業室に移動させる予備調圧工程と、
前記密閉工程の次に、内部の気圧を調圧して前記作業室と連通する後室を用い、前記所定の気圧に前記後室内を調圧した後に前記作業室内の前記車輪用軸受装置を前記後室に移動し、前記車輪用軸受装置を前記後室に封入した後に前記後室を大気解放する大気解放工程と、を有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項5】
前記予備調圧工程と前記大気解放工程とにおいて、前記前室と前記後室との雰囲気を前記作業室と同一の組成からなる雰囲気に置換した後に調圧する請求項4に記載の車輪用軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置の製造方法および車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。例えば、車輪用軸受装置は、車輪に接続される内方部材であるハブ輪が転動体を介して外方部材に回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材の内部に泥水および砂塵等の異物の入り込みを防止するために外方部材と内方部材との隙間にシール部材等を設けて密封性を向上させている。
【0003】
このような密封性を高めた車輪用軸受装置は、外部の大気圧の変化によって軸受内部の気圧が変化する。例えば、車輪用軸受装置は、組み立てが行われた地域よりも標高の低い地域において使用される場合、外部の大気圧が軸受内部の気圧(圧力)よりも大きくなる。また、車輪用軸受装置は、組み立てが行われた地域よりも標高の高い地域において使用される場合、外部の大気圧が軸受内部の気圧よりも小さくなる。このため、車輪用軸受装置において、軸受組立地と使用地との気圧差によって、軸受内部が大気圧に対して負圧になると、シール部材のシールリップが摺動面に吸着して回転トルクが増大する。この課題を解決するために、内方部材に摺動自在のピストンを設けて、圧力に応じて軸受内部の体積が変動する車輪用軸受装置を採用することが考えられる。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-227301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、ハブ輪の内周面にピストンが軸方向に摺動自在に設けられている。そして、温度変化に伴い軸受内部の圧力が変化すると、ピストンが軸方向に変位することで当該軸受内部の空間の容積が変化する。しかし、このような車輪用軸受装置では、軸受内部に摺動自在のピストンが圧力調整用としてハブ輪に設けられているため、構造が複雑になる。また、ピストンの摺動部から泥水等が軸受内部に入り込む可能性があった。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、車輪用軸受装置に調圧用の機構を設けることなく、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に収めることができる車輪用軸受装置の製造方法および車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、第一の発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のアウター側の開口部とインナー側の開口部とにそれぞれ嵌合される密閉部材を有する車輪用軸受装置の製造方法であって、室内の気圧を調圧する作業室内に、アウター側の前記密閉部材とインナー側の前記密閉部材のうち、いずれか一方が嵌合されている前記車輪用軸受装置を封入し、前記車輪用軸受装置の使用地域の環境に応じた所定の気圧に前記作業室内を調圧する調圧工程と、調圧された前記作業室内で、前記外方部材の前記密閉部材が嵌合されていない側の開口部に前記密閉部材を嵌合する密閉工程と、を有する車輪用軸受装置の製造方法である。
【0008】
第二の発明は、前記調圧工程において、前記作業室の雰囲気を所定の構成からなる雰囲気に置換した後に調圧する車輪用軸受装置の製造方法である。
【0009】
第三の発明は、前記調圧工程において、前記作業室の雰囲気を所定の湿度からなる雰囲気、または所定の窒素濃度に組成される雰囲気に置換した後に調圧する車輪用軸受装置の製造方法である。
【0010】
第四の発明は、前記調圧工程の前に、内部の気圧を調圧して前記作業室と連通する前室を用い、アウター側の前記密閉部材とインナー側の前記密閉部材のうち、いずれか一方が嵌合されている前記車輪用軸受装置を前記前室内に封入し、前記所定の気圧に前記前室内を調圧した後に前記車輪用軸受装置を前記作業室に移動させる予備調圧工程と、前記密閉工程の次に、内部の気圧を調圧して前記作業室と連通する後室を用い、前記所定の気圧に前記後室内を調圧した後に前記作業室内の前記車輪用軸受装置を前記後室に移動し、前記車輪用軸受装置を前記後室に封入した後に前記後室を大気解放する大気解放工程と、を有する車輪用軸受装置の製造方法である。
【0011】
第五の発明は、前記予備調圧工程と前記大気解放工程とにおいて、前記前室と前記後室との雰囲気を前記作業室と同一の組成からなる雰囲気に置換した後に調圧する車輪用軸受装置の製造方法である。
【0012】
第六の発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のアウター側の開口部とインナー側の開口部とにそれぞれ嵌合される密閉部材を有する車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受装置の内部の気圧が前記車輪用軸受装置の使用地域の環境に応じた所定の気圧に調圧されている車輪用軸受装置である。
【0013】
第七の発明は、前記車輪用軸受装置の内部の気圧と前記車輪用軸受装置の内部の雰囲気の組成とに関する管理情報のうち、少なくとも一つが前記外方部材または前記内方部材に記載されている車輪用軸受装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
即ち、第一の発明は、使用地域の環境に基づいた圧力に調圧した作業室内において、密閉部材によって車輪用軸受装置のインナー側開口部を密閉するので、軸受内部の気圧が使用地域の環境に基づいた所定の気圧に設定される。これにより、車輪用軸受装置に調圧用の機構を設けることなく、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に収めることができる。
【0016】
第二の発明、第三の発明および第五の発明は、所定の成分構成や状態からなる雰囲気に置換した作業室内において、密閉部材によって車輪用軸受装置のインナー側開口部を密閉するので、軸受内部に所定の成分構成や状態からなる雰囲気が充填される。これにより、軸受内部の雰囲気状態が安定し、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に収めることができる。
【0017】
第四の発明は、調圧された前室から調圧された作業室に車輪用軸受装置を移動させ、調圧された作業室から調圧された後室に車輪用軸受装置を移動させることで、車輪用軸受装置の搬入出時に作業室内の雰囲気の圧力や成分構成が変動しない。これにより、車輪用軸受装置の軸受内部の気圧や雰囲気状態の管理が容易になり、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に収めることができる。
【0018】
第六の発明は、軸受内部の気圧が使用地域の環境に基づいた所定の気圧を保持するように密閉部材で密閉されている。これにより、車輪用軸受装置に調圧用の機構を設けることなく、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に保持することができる。
【0019】
第七の発明は、軸受外部から軸受内部の雰囲気の組成や状態が容易に確認されるので、使用環境に応じた内部の雰囲気に調整された車輪用軸受装置を確実に選択することができる。これにより、車輪用軸受装置の軸受内部の気圧や雰囲気状態の管理が容易になり、軸受内部の気圧と使用地域の気圧との圧力差を許容範囲内に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す斜視図。
図2】第一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図3】第一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図4】車輪用軸受装置の製造装置の全体構成を示す概略断面図。
図5】車輪用軸受装置の製造装置において前室に車輪用軸受装置が密閉された状態を示す概略断面図。
図6】車輪用軸受装置の製造装置において前室から作業室に車輪用軸受装置が移動された状態を示す概略断面図。
図7】車輪用軸受装置の製造装置において作業室で車輪用軸受装置にシール部材が嵌合された状態を示す概略断面図。
図8】車輪用軸受装置の製造装置において車輪用軸受装置を密閉していた後室が大気解放された状態を示す概略断面図。
図9】車輪用軸受装置の製造方法における調圧工程において車輪用軸受装置の使用地域の大気圧毎の調圧量を表すグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図1図2とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0022】
図1図2とに示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a(図2参照)、アウター側ボール列5b(図2参照)、インナー側シール部材6(図2参照)、アウター側シール部材9(図2参照)を具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0023】
図2に示すように、外輪2は、例えばS53C等の炭素0.40~0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。インナー側の外側軌道面2cとアウター側の外側軌道面2dとには、例えば高周波焼入れによって表面硬さを58~64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に形成されている。
【0024】
ハブ輪3は、例えばS53C等の炭素0.40~0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置に複数のハブボルト3eが設けられている。また、ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材9のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3には、小径段部3aに内輪4が設けられている。
【0025】
内輪4は、転動列であって車載時に車体側に配置されるインナー側ボール列5aと車載時に車輪側に配置されるアウター側ボール列5bとに予圧を与えるものである。内輪4は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで58~64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側軌道面4aが形成されている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4の内側軌道面4aが外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。
【0026】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボール5が保持器10によって環状に保持されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで62~67HRCの範囲で硬化処理されている。インナー側ボール列5aは、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0027】
車輪用軸受装置1は、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5aと、アウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているが、複列円錐ころ軸受等の軸受で構成されていてもよい。なお、本実施形態において、アウター側ボール列5bのピッチ円直径は、インナー側ボール列5aのピッチ円直径よりも大きいがこれに限るものではない。
【0028】
密閉部材であるインナー側シール部材6は、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間を塞ぐパックシールである。インナー側シール部材6は、例えば二枚のシールリップを接触させる2サイドリップタイプのエンコーダ付パックシールから構成されている。インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板7と略円筒状のスリンガ8とを具備する。
【0029】
シール板7は、芯金とシールリップとから構成されている。芯金は金属製であり、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。芯金は、円環状の鋼板の外縁部がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。シール板7は、外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されて固定されている。
【0030】
シール板7のインナー側面には、複数のシールリップが例えば加硫接着されている。複数のシールリップは、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0031】
スリンガ8は、例えば、シール板7と同等の鋼板から構成されている。スリンガ8は、円環状の鋼板の外縁部と内縁部とがプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。スリンガ8は、シール板7よりもインナー側の内輪4に嵌合されて固定されている。この際、スリンガ8は、シール板7と軸方向に対向するように配置されている。このように、インナー側シール部材6は、外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されたシール板7と内輪4に嵌合されたスリンガ8とが対向するように配置され、パックシールを構成している。
【0032】
シール板7の複数のシールリップは、摺動面であるスリンガ8にグリースの油膜を介して接触または近接し、車輪用軸受装置1の内部のグリースの外部への漏れを防止し、車輪用軸受装置1の外部から泥水や粉塵等の内部への入り込みを防止している。これにより、インナー側シール部材6は、外輪2のインナー側開口部2aからの潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止する。
【0033】
密閉部材であるアウター側シール部材9は、主に外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐシール部材である。アウター側シール部材9は、例えばインナー側シール部材6のシール板7と同等の金属板が略円筒状に形成された芯金に、例えばNBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。アウター側シール部材9は、外輪2のアウター側開口部2bに円筒部分が嵌合され、ハブ輪3のリップ摺動面3dに複数のシールリップが油膜を介して接触または近接することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。
【0034】
車輪用軸受装置1は、外輪2からなる外方部材とハブ輪3および内輪4からなる内方部材との間の空間(以下、単に「軸受内部」と記す)が、インナー側シール部材6とアウター側シール部材9とで密閉されている。車輪用軸受装置1は、インナー側シール部材6の嵌合によって密閉される際に、軸受内部の雰囲気Aが所定の組成からなる雰囲気Atに置換され、軸受内部の気圧Pが使用地域(使用される地域)の環境に応じた所定の気圧Ptに調圧される。車輪用軸受装置1は、インナー側シール部材6とアウター側シール部材9とで密閉されることで軸受内部の気圧Pが使用地域の環境に応じた所定の気圧Ptに維持される。
【0035】
車輪用軸受装置1における「使用地域の環境に応じた所定の気圧Pt」(以下、単に「所定の気圧Pt」と記す)とは、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気圧Paと車輪用軸受装置1が使用地域の大気圧Puが異なる場合に、軸受内部の気圧Pと使用地域の大気圧Puとの圧力差によってインナー側シール部材6とアウター側シール部材9のシール性が低下したり、ハブ輪3(内輪4)の回転抵抗が増大したりしない気圧を言う。また、所定の気圧Ptは、組み立てられる地域の温度と使用地域の温度との温度差によって生じる気体の体積変化による圧力差も考慮されている。所定の気圧Ptは、使用地域の大気圧Puに対して若干の正圧となるように設定されることが望ましい。
【0036】
次に、図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置11について説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置11は、図1図2に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0037】
車輪用軸受装置11は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a(図2参照)、アウター側ボール列5b(図2参照)、カバー12、カバー12に設けられている円環状のインナー側シール部材13、アウター側シール部材9(図2参照)を具備する。
【0038】
図3に示すように、密閉部材であるカバー12は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで外部から泥水等の異物の入り込みを防止する。カバー12は、プレス加工によって有底円筒状に形成されている。カバー12は、例えばフェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。カバー12は、嵌合部12a、シール支持部12bおよび底部12cが一体に連結されたものである。
【0039】
カバー12の円筒部分には、嵌合部12aとシール支持部12bとが同一軸心上に形成されている。嵌合部12aは、カバー12の開口側端部に形成されている。嵌合部12aは、外輪2のインナー側開口部2aの内径よりも大きい外径に形成されている。嵌合部12aは、インナー側開口部2aに圧入嵌合可能な外径および軸方向長さを有している。嵌合部12aは、外輪2のインナー側開口部2aに嵌合される。
【0040】
シール支持部12bは、インナー側シール部材13を支持する。シール支持部12bは、嵌合部12aのインナー側に隣接して配置されている。シール支持部12bは、嵌合部12aよりも小さい外径に形成されている。これにより、シール支持部12bは、インナー側開口部2aの内周面との間にインナー側シール部材13を配置可能な空間を構成している。シール支持部12bのインナー側には、底部12cが形成されている。底部12cは、外輪2のインナー側開口部2aを覆っている。
【0041】
環状のインナー側シール部材13は、外輪2とカバー12との間の隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材13は、カバー12のシール支持部12bの外周面に、例えば加硫接着により固着されている。つまり、インナー側シール部材13は、嵌合部12aと隣接するようにして設けられている。インナー側シール部材13は、例えばNBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0042】
インナー側シール部材13は、外輪2のインナー側開口部2aの内径よりも大きい外径に形成されている。インナー側シール部材13は、カバー12の嵌合部12aよりも径方向外側に突出している。インナー側シール部材13は、嵌合部12aが外輪2のインナー側開口部2aに嵌合された際、インナー側開口部2aの内周面に密着するように構成されている。インナー側シール部材13は、インナー側開口部2aに弾性変形して圧着されることで、外輪2とカバー12との隙間を塞いでいる。
【0043】
車輪用軸受装置11は、軸受内部が、アウター側シール部材9とカバー12およびインナー側シール部材13とで密閉されている。車輪用軸受装置11は、カバー12およびインナー側シール部材13の嵌合によって密閉される際に、軸受内部の雰囲気Aが所定の組成からなる雰囲気Atに置換され、軸受内部の気圧Pが使用地域の環境に応じた所定の気圧Ptに調圧される。車輪用軸受装置11は、カバー12およびインナー側シール部材13とアウター側シール部材9とで密閉されることで軸受内部の気圧が使用地域の環境に応じた所定の気圧Ptに維持される。また、車輪用軸受装置1、11は、外輪2の外周面等の外部から視認可能な個所に、軸受内部の雰囲気Atの組成、雰囲気Atの気圧Ptの値等からなる雰囲気の管理情報が2次元コードCとしてレーザ等によって印字されている(図1参照)。車輪用軸受装置1、11は、2次元コードCの読み取りによって確認が難しい軸受内部の雰囲気の管理情報を軸受外部から容易に確認することができる。
【0044】
次に、図4から図8を用いて、車輪用軸受装置1の製造方法ついて説明する。本製造方法の説明において車輪用軸受装置1は、第1実施形態に係る車輪用軸受装置1であり、公知の製造方法によって外輪2にハブ輪3と内輪4とが、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとを介して回転自在に支持されている状態に組み立てられているものとする。さらに、外輪2のアウター側開口部2bには、アウター側シール部材9が組み込まれているものとする。一方、外輪2のインナー側開口部2aには、インナー側シール部材6が組み込まれていないものとする。つまり、車輪用軸受装置1は、アウター側開口部2bのみがアウター側シール部材9によって密閉され、インナー側開口部2aが解放されている。車輪用軸受装置1は、その製造方法において予備調圧工程と、調圧工程と、密閉工程と、大気解放工程とを経て組み立てが完了する。なお、本製造方法は、車輪用軸受装置11についても適用可能である(図3参照)。
【0045】
図4に示すように、車輪用軸受装置1の製造方法における予備調圧工程と、調圧工程と、密閉工程と、大気解放工程とに用いられる製造装置は、作業室Rwと、前室Rfと、後室Rbとから構成されている。本実施形態において車輪用軸受装置1は、製造装置における各工程によって軸受内部の雰囲気Aが、所定の組成からなる雰囲気At(例えば窒素100%の雰囲気)であり、軸受内部の気圧Pが、組み立てられる地域の大気圧Pa(例えば1.0気圧)よりも若干(例えば0.1気圧)高い所定の気圧Pt(例えば1.1気圧)になるように組み立てられるものとする。なお、所定の組成からなる雰囲気Atは、窒素100%の雰囲気だけでなく、絶乾状態(湿度1%以下)の雰囲気等、車輪用軸受装置1が使用される環境に応じた所望の状態の雰囲気でよい。
【0046】
作業室Rwは、車輪用軸受装置1にインナー側シール部材6を嵌合する作業空間を構成する筐体である。作業室Rwには、開閉可能な投入部Rwiと排出部Rwoとが設けられている。作業室Rwは、投入部Rwiと排出部Rwoを閉状態にすることで密閉された作業空間を構成することができる。また、作業室Rwの内部には、車輪用軸受装置1の軸方向に移動自在なシール部材圧入治具J1と図示しないシール部材供給装置が設けられている。作業室Rwは、その作業空間において図示しないシール部材供給装置から供給されるインナー側シール部材6をシール部材圧入治具J1によって車輪用軸受装置1に嵌合することができる。作業室Rwは、密閉された作業空間において室内の雰囲気を所定の組成からなる雰囲気Atに置換し、所定の気圧Ptに調圧することができる。作業室Rwは、所定の環境下において所定の作業を行う主室として構成されている。
【0047】
前室Rfは、作業室Rwの投入部Rwiの周辺に作業室Rwの室内と同じ状態の雰囲気が充填された空間を構成する筐体である。前室Rfは、作業室Rwの投入部Rwiを覆うように設けられている。つまり、前室Rfは、投入部Rwiを介して作業室Rwに連通されている。前室Rfには、開閉可能な前室投入部Rfiが設けられている。また、前室Rfは、作業室Rwの投入部Rwiが前室Rfの排出部を兼ねている。前室Rfは、前室投入部Rfiと作業室Rwの投入部Rwiとを閉状態にすることで密閉された空間を構成することができる。また、密閉された前室Rfの室内を所定の気圧Ptに調圧し、室内の雰囲気を所定の組成からなる雰囲気Atに置換することができる。このように、前室Rfは、作業室Rwの上流側に配置され、作業室Rwに車輪用軸受装置1を投入する際に作業室Rw内の環境を一定に保つための上流側調圧室として構成されている。
【0048】
後室Rbは、作業室Rwの排出部Rwoの周辺に作業室Rw内と同じ状態の雰囲気が充填された空間を構成する筐体である。後室Rbは、作業室Rwの排出部Rwoを覆うように設けられている。つまり、後室Rbは、排出部Rwoを介して作業室Rwに連通されている。後室Rbには、開閉可能な後室排出部Rboが設けられている。また、後室Rbは、作業室Rwの排出部Rwoが後室Rbの投入部Rwiを兼ねている。後室Rbは、作業室Rwの排出部Rwoと後室排出部Rboとを閉状態にすることで密閉された空間を構成することができる。また、後室Rbの室内を所定の気圧Ptに調圧し、室内の雰囲気を所定の組成からなる雰囲気Atに置換することができる。このように、後室Rbは、作業室Rwの下流側に配置され、作業室Rwから車輪用軸受装置1を排出する際に作業室Rw内の環境を一定に保つための下流側調圧室として構成されている。
【0049】
車輪用軸受装置1の製造方法において、前室Rfは、前室投入部Rfiが開口されている。前室Rfの室内は、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気である雰囲気Aaが大気圧Paで満たされている状態である。作業室Rwは、投入部Rwiと排出部Rwoとが閉口されて密閉されている。同様に、作業装置の後室Rbは、後室排出部Rboが閉口されて密閉されている。また、作業室Rwと後室Rbとの室内は、所定の組成(窒素100%)からなる雰囲気Atに置換されている。さらに、作業室Rwと後室Rbとの室内は、所定の気圧Pt(1.1気圧)に調圧されている(薄墨部分参照)。車輪用軸受装置1は、アウター側端を上下方向下側に向けた状態で保持具J2によって保持されている。つまり、車輪用軸受装置1は、インナー側開口部2aを上方向に向けた状態で保持具J2に保持されている。
【0050】
図5に示すように、車輪用軸受装置1の製造方法における予備調圧工程は、車輪用軸受装置1が密閉されている前室Rfの雰囲気の置換および調圧を行う工程である。予備調圧工程において、車輪用軸受装置1は、保持具J2に保持された状態で、前室Rfの前室投入部Rfiから前室Rfの室内に移動される(黒塗り矢印参照)。車輪用軸受装置1は、前室投入部Rfiの閉口によって前室Rfの室内に封入される(矢印参照)。
【0051】
車輪用軸受装置1を密閉した前室Rfは、室内の雰囲気が所定の組成からなる雰囲気Atに置換される。所定の組成からなる雰囲気Atに置換された前室Rfは、所定の気圧Ptになるように調圧される(薄墨部分参照)。前室Rfは、調圧が完了すると作業室Rwの投入部Rwiの開口によって作業室Rwと連通される(図6参照)。この際、作業室Rwの雰囲気の組成とその気圧は、前室Rfの雰囲気の組成とその気圧に等しいので、投入部Rwiを開口しても作業室Rw内の雰囲気の組成とその気圧が変動することがない。
【0052】
図6に示すように、車輪用軸受装置1の製造方法における調圧工程は、車輪用軸受装置1が封入されている作業室Rwの雰囲気の置換および調圧を行う工程である。調圧工程において、車輪用軸受装置1は、保持具J2に保持された状態で、作業室Rwの投入部Rwiから作業室Rwの室内に移動される(黒塗り矢印参照)。車輪用軸受装置1は、投入部Rwiの閉口によって作業室Rwの室内に封入される(矢印参照)。作業室Rwは、予め所定の組成からなる雰囲気Atに置換され、かつ所定の気圧Ptになるように調圧されている(薄墨部分参照)。つまり、車輪用軸受装置1は、作業室Rwの室内に封入された時点で、軸受内部の雰囲気Aが所定の組成からなる雰囲気Atに置換されるとともに、所定の気圧Ptに調圧されている。
【0053】
図7に示すように、車輪用軸受装置1の製造方法における密閉工程は、作業室Rwの室内でインナー側開口部2aを密閉する工程である。密閉工程において、作業室Rwの室内の車輪用軸受装置1には、保持具J2に保持された状態で、シール部材供給装置からインナー側シール部材6が供給される。車輪用軸受装置1は、供給されたインナー側シール部材6がシール部材圧入治具J1によって軸方向上側からインナー側開口部2aに嵌合される(黒塗り矢印参照)。これにより、車輪用軸受装置1は、軸受内部の空間がインナー側シール部材6とアウター側シール部材9とで密閉される。車輪用軸受装置1は、軸受内部が所定の組成からなる雰囲気Atで充満され、かつ所定の気圧Ptの状態で維持されている。
【0054】
図8に示すように、車輪用軸受装置1の製造方法における大気解放工程は、車輪用軸受装置1が封入されている後室Rbを大気解放する工程である。大気解放工程において、車輪用軸受装置1は、保持具J2に保持された状態で、作業室Rwの排出部Rwoから後室Rbの室内に移動される(黒塗り矢印参照)。後室Rbは、作業室Rwの排出部Rwoの開口によって作業室Rwと連通される。この際、後室Rbの雰囲気の組成とその気圧は、作業室Rwの雰囲気の組成とその気圧に等しいので、排出部Rwoを開口しても作業室Rw内の雰囲気の組成とその気圧が変動することがない。車輪用軸受装置1は、作業室Rwの排出部Rwoの閉口によって後室Rb内に封入される(矢印参照)。車輪用軸受装置1を封入した後室Rbは、後室排出部Rboの開口によって大気解放される(矢印参照)。車輪用軸受装置1は、後室排出部Rboから室外に排出される。
【0055】
次に、図9を用いて、車輪用軸受装置1の軸受内部の気圧Pの設定について具体的に説明する。図9は、大気圧が0.84気圧である標高1500mの地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合に、使用地域の大気圧Pu毎の軸受内部の気圧Pの調圧量について表したグラフである。本実施形態において、車輪用軸受装置1は、使用時にインナー側シール部材6とアウター側シール部材9のシールリップを摺動面に押さえつける力や、摺動面から離間させる力の発生が抑制されるように、軸受内部の気圧Pが使用地域の大気圧Puよりも0.1気圧だけ高い気圧に設定されるものとする。(このとき、標高差に伴う、気温変化による圧力変化も考慮される。)
【0056】
図9に示すように、車輪用軸受装置1が例えば大気圧が1.0気圧である標高0mの地域で走行する車両に搭載される場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気圧Pa(0.84気圧)が使用地域の大気圧Pu(1.0気圧)よりも低いため、車輪用軸受装置1は、予備調圧工程、調圧工程および密閉工程において軸受内部の気圧Pが使用地域の大気圧Puよりも0.1気圧だけ高い所定の気圧Pt(1.1気圧)になるように組み立てる必要がある。従って、車輪用軸受装置1は、予備調圧工程、調圧工程において、軸受内部の気圧Pが組み立てられる地域の大気圧Paよりも高い気圧になるように0.26気圧だけ加圧(調圧)される。
【0057】
車輪用軸受装置1が例えば大気圧が0.70気圧である標高3000mの地域で走行する車両に搭載される場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気圧Pa(0.84気圧)が使用地域の大気圧Pu(0.70気圧)よりも高いため、車輪用軸受装置1は、予備調圧工程、調圧工程および密閉工程において軸受内部の気圧Pが使用地域の大気圧Puよりも0.1気圧だけ高い所定の気圧Pt(0.80気圧)になるように組み立てる必要がある。従って、車輪用軸受装置1は、予備調圧工程、調圧工程において、軸受内部の気圧Pが組み立てられる地域の大気圧Paよりも低い気圧になるように0.04気圧だけ減圧(調圧)される。
【0058】
このように構成することで、車輪用軸受装置1は、予備調圧工程および調圧工程において軸受内部の気圧Pが調圧され、密閉工程において軸受内部の気圧Pが保持される。これにより、車輪用軸受装置1は、軸受内部の気圧Pと使用地域の大気圧Puとの圧力差を許容範囲内に抑制し、圧力差によるシールリップの吸着による回転トルクの上昇を防止することができる。また、車輪用軸受装置1は、軸受内部の酸化、結露および潤滑剤の酸化等を抑制しつつ、シールリップの摩耗も防止することができる。また、車輪用軸受装置1は、全体の大きさや構造を変更することなく軸受内部の気圧Pが車輪用軸受装置1の使用地域の大気圧Puに基づいた所定の気圧Ptに設定される。また、車輪用軸受装置1は、軸受内部に所定の組成や状態からなる雰囲気が充填されることで軸受内部の雰囲気状態が安定する。
【0059】
本願における車輪用軸受装置1、11は、外方部材である外輪2と内方部材として一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、外輪2と、内輪4およびハブ輪3の嵌合体で構成された内輪回転仕様の第3世代構造の車輪用軸受装置(従動輪タイプ)としているが、外方部材と内方部材とで構成され、その開口部を密閉部材であるシール部材またはカバーで密閉された車輪用軸受装置であれば、取付フランジを持たない、第1世代構造の車輪用軸受装置や、外輪回転、あるいは、内輪回転タイプの第2世代構造の車輪用軸受装置、駆動輪タイプの第3世代構造の車輪用軸受装置、軸受内方部材と等速自在継手の外輪を一体化した第4世代構造の車輪用軸受装置であってもよい。また、外方部材と内方部材とで構成され、その開口部をシール部材またはカバーで密閉されたものであれば、軸受装置として、車輪用に限定されるものでもなく、同様に、内圧の変化が課題となるものであれば、本願製造方法は、軸受装置に限定されるものでもない。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0061】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a インナー側開口部
3 ハブ輪
4 内輪
6 インナー側シール部材
9 アウター側シール部材
Rw 作業室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9