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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】光波距離計
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/484 20060101AFI20230815BHJP
   G01S 17/10 20200101ALI20230815BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S17/10
G01C3/06 120Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019058443
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159824
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】東海林 直樹
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-161411(JP,A)
【文献】特開2014-137374(JP,A)
【文献】特開2013-076645(JP,A)
【文献】特開平02-066484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に測距光を照射し、前記測距光が前記測定対象物で反射した反射測距光に基づいて前記測定対象物までの距離を測定する光波距離計であって、
前記測距光を射出する発光素子と、
前記反射測距光を受光するとともに前記反射測距光に応じた受光信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から出力された前記受光信号のうち特定の周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタと矩形波のパルス信号を生成するタイミング信号発生器とを有する周波数変換部と、
前記周波数変換部から出力された信号に基づいて前記測定対象物までの距離値を求める演算処理を実行する演算制御部と、
所定の周波数の信号を生成する信号発生器と、
前記タイミング信号発生器から出力された前記パルス信号の前記矩形波の波形形状を変換し、前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号を生成する波形変換部と、
前記信号発生器から出力された前記周波数の信号と前記波形変換部から出力された前記波形変換信号とに基づいて前記周波数の信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化したパルス信号を生成するパルス発生器と、
前記パルス発生器により生成された前記パルス信号に基づいて前記発光素子を駆動し前記測距光を射出させる駆動部と、
を備えたことを特徴とする光波距離計。
【請求項2】
前記信号発生器は、第1周波数で変調された第1変調信号と、前記第1周波数に近接する第2周波数で変調された第2変調信号と、を生成し、
前記パルス発生器は、前記信号発生器から出力された前記第1変調信号と前記波形変換部から出力された前記波形変換信号とに基づいて前記第1変調信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号を生成するとともに前記信号発生器から出力された前記第2変調信号と前記波形変換部から出力された前記波形変換信号とに基づいて前記第2変調信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号を生成し、
前記駆動部は、前記第1パルス変調信号および前記第2パルス変調信号に基づいて前記発光素子を駆動し、前記第1周波数で変調された第1測距光および前記第2周波数で変調された第2測距光を切り替えて射出させ、
前記受光素子は、前記測定対象物で反射された前記第1測距光に対応する第1反射測距光と、前記測定対象物で反射された前記第2測距光に対応する第2反射測距光と、を受光し、
前記周波数変換部は、前記受光素子が受光した前記第1反射測距光を周波数変換して第1差周波信号を生成し、前記受光素子が受光した前記第2反射測距光を周波数変換して前記第1差周波信号に対して前記測定対象物への距離に応じた位相差を有する第2差周波信号を生成し、
前記演算制御部は、前記第1差周波信号と前記第2差周波信号とに基づいて前記測定対象物までの距離値を求める演算処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の光波距離計。
【請求項3】
前記波形変換信号の波形形状は、放物線の関数で表される波形形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。
【請求項4】
前記波形変換信号の波形形状は、三角波の波形形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。
【請求項5】
前記波形変換信号の波形形状は、のこぎり波の波形形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。
【請求項6】
前記波形変換信号の波形形状は、ガウシアン関数で表される波形形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の周波数の信号をパルス化したパルス信号を用いて発光素子から測距光を射出させ、測距光が測定対象物で反射した反射測距光を受光素子で受光し、受光素子から出力された受光信号に基づいて測定対象物までの距離を測定する光波距離計が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の近接周波数をパルス化した断続変調測距信号を近接周波数毎に切り替えて発光素子を発光させ、測定対象物からの反射測距光を受光素子で受光する光波距離計が開示されている。特許文献1に開示された光波距離計は、複数の近接周波数に対応する断続受光信号の位相を求めて精密距離値を演算し、各断続受光信号の位相差から粗測定距離値を演算し、粗測定距離値と精密測定距離値とを合わせることにより距離を測定する。例えば特許文献1に開示された光波距離計のように、パルス信号(断続変調測距信号)を用いて測定対象物までの距離を測定する光波距離計においては、測定精度、測定可能距離(到達距離)およびスキャンレートの向上が望まれている。
【0004】
測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させる手段のひとつとして、発光素子から射出させるレーザ等の測距光の強度を増加させることが挙げられる。言い換えれば、発光素子の出力パワーを増加させることが挙げられる。しかし、発光素子から射出させるレーザ等の測距光の強度には規格により制限がある。そのため、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートの向上を目的として測距光の強度を増加させることには限界がある。このように、パルス信号を用いて測定対象物までの距離を測定する光波距離計においては、レーザ等の測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-161411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる光波距離計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、測定対象物に測距光を照射し、前記測距光が前記測定対象物で反射した反射測距光に基づいて前記測定対象物までの距離を測定する光波距離計であって、前記測距光を射出する発光素子と、前記反射測距光を受光するとともに前記反射測距光に応じた受光信号を出力する受光素子と、前記受光素子から出力された前記受光信号のうち特定の周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタを有する周波数変換部と、前記周波数変換部から出力された信号に基づいて前記測定対象物までの距離値を求める演算処理を実行する演算制御部と、所定の周波数の信号を生成する信号発生器と、前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号を生成する波形変換部と、前記信号発生器から出力された前記周波数の信号と前記波形変換部から出力された前記波形変換信号とに基づいて前記周波数の信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化したパルス信号を生成するパルス発生器と、前記パルス発生器により生成された前記パルス信号に基づいて前記発光素子を駆動し前記測距光を射出させる駆動部と、を備えたことを特徴とする本発明に係る光波距離計により解決される。
【0008】
本発明に係る光波距離計によれば、パルス発生器は、信号発生器から出力された周波数の信号と、波形変換部から出力された波形変換信号であって距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号と、に基づいて所定の周波数の信号を距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様の波形形状にパルス化したパルス信号を生成する。これにより、測距時(送光時)のパルス信号の波形形状が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様になる。そのため、バンドパスフィルタにより除去される周波数成分を抑えることができ、バンドパスフィルタで除去されるエネルギー損失を低減することができる。これにより、SN比(signal-noise ratio)のうちのシグナル(signal)成分を増加させることができ、結果としてSN比を向上させることができる。つまり、本発明に係る光波距離計は、比較例に係る光波距離計においてバンドパスフィルタにより除去され測定には使用されない周波数成分を、距離の測定に使用される所望の周波数成分として利用することができる。そのため、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分の強度を増加させることができる。つまり、発光素子の発光効率を向上させることができる。これにより、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0009】
本発明に係る光波距離計において、好ましくは、前記信号発生器は、第1周波数で変調された第1変調信号と、前記第1周波数に近接する第2周波数で変調された第2変調信号と、を生成し、前記パルス発生器は、前記第1変調信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号と、前記第2変調信号を前記距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号と、を生成し、前記駆動部は、前記第1パルス変調信号および前記第2パルス変調信号に基づいて前記発光素子を駆動し、前記第1周波数で変調された第1測距光および前記第2周波数で変調された第2測距光を切り替えて射出させ、前記受光素子は、前記測定対象物で反射された前記第1測距光に対応する第1反射測距光と、前記測定対象物で反射された前記第2測距光に対応する第2反射測距光と、を受光し、前記周波数変換部は、前記受光素子が受光した前記第1反射測距光を周波数変換して第1差周波信号を生成し、前記受光素子が受光した前記第2反射測距光を周波数変換して前記第1差周波信号に対して前記測定対象物への距離に応じた位相差を有する第2差周波信号を生成し、前記演算制御部は、前記第1差周波信号と前記第2差周波信号とに基づいて前記測定対象物までの距離値を求める演算処理を実行することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光波距離計によれば、第1周波数で変調された第1測距光および第2周波数で変調された第2測距光が発光素子から切り替えて射出され、測定対象物で反射された第1測距光に対応する第1反射測距光と測定対象物で反射された第2測距光に対応する第2反射測距光とが受光素子で受光される。第1反射測距光を周波数変換した第1差周波信号および第2反射測距光を周波数変換した第2差周波信号は、測定対象物への距離に応じた位相差を有するため、第1差周波信号と第2差周波信号とに基づいて測定対象物までの距離値を精度良く求めることができる。つまり、測定精度をより一層向上させることができる。
【0011】
本発明に係る光波距離計において、好ましくは、前記波形変換信号の波形形状は、放物線の関数で表される波形形状であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る光波距離計によれば、送光時のパルス信号の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状に精度良く近づけることができる。そのため、バンドパスフィルタにより除去される周波数成分を確実に抑えることができ、バンドパスフィルタで除去されるエネルギー損失を確実に低減することができる。これにより、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分の強度をより確実に増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0013】
本発明に係る光波距離計において、好ましくは、前記波形変換信号の波形形状は、三角波の波形形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る光波距離計によれば、簡易的な構成で比較的容易に、送光時のパルス信号の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状に近づけることができる。そのため、簡易的な構成で比較的容易に、バンドパスフィルタにより除去される周波数成分を抑えることができ、バンドパスフィルタで除去されるエネルギー損失を低減することができる。これにより、簡易的な構成で比較的容易に、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分の強度を増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0015】
本発明に係る光波距離計において、好ましくは、前記波形変換信号の波形形状は、のこぎり波の波形形状であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光波距離計によれば、簡易的な構成で比較的容易に、送光時のパルス信号の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状に近づけることができる。そのため、簡易的な構成で比較的容易に、バンドパスフィルタにより除去される周波数成分を抑えることができ、バンドパスフィルタで除去されるエネルギー損失を低減することができる。これにより、簡易的な構成で比較的容易に、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分の強度を増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0017】
本発明に係る光波距離計において、好ましくは、前記波形変換信号の波形形状は、ガウシアン関数で表される波形形状であることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る光波距離計によれば、送光時のパルス信号の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状により一層精度良く近づけることができる。そのため、バンドパスフィルタにより除去される周波数成分をより一層確実に抑えることができ、バンドパスフィルタで除去されるエネルギー損失をより一層確実に低減することができる。これにより、測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分の強度をより確実に増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる光波距離計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る光波距離計の測距光学系を示す概略図である。
図2】本実施形態に係る光波距離計の演算処理部を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る光波距離計の発光信号および受光信号を示すタイミングチャートである。
図4】比較例に係る光波距離計の発光信号および受光信号を示すタイミングチャートである。
図5】本実施形態のパルス変調信号を説明する模式図である。
図6】本実施形態のローパスフィルタに入力される受光信号のフーリエ変換を行ったグラフである。
図7】比較例のパルス変調信号を説明する模式図である。
図8】比較例のローパスフィルタに入力される受光信号のフーリエ変換を行ったグラフである。
図9】本実施形態のパルス変調信号の第1変形例を説明する模式図である。
図10】本実施形態のパルス変調信号の第2変形例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る光波距離計の測距光学系を示す概略図である。
図1に示すように、測距光学系1は、射出光学系2と、受光光学系3と、視準光学系4と、を備える。図1において、測定対象物5は、再帰反射体であるプリズムを示している。
【0023】
測距光学系1は、測定対象物5に向けられる測距光軸6を有する。射出光学系2は、射出光軸7を有する。受光光学系3は、受光光軸8を有する。視準光学系4は、視準光軸9を有する。
射出光軸7上には、発光素子11と、集光レンズ12と、ハーフミラー13と、偏向ミラー15、16と、が設けられる。射出光軸7を通過する測距光は、偏向ミラー15、16によって偏向され、測距光軸6と合致する。発光素子11は、例えばレーザダイオードであり、不可視光の測距光を発光する。なお、測距光は、不可視光に限定されるわけではなく、可視光であってもよい。
【0024】
測距光軸6上には、対物レンズ17と、ダイクロイックミラー18と、が設けられる。ダイクロイックミラー18は、可視光を透過し、測距光を反射する。測距光軸6がダイクロイックミラー18を透過した部分は、視準光軸9となっている。視準光軸9上には、接眼レンズ19が設けられている。
【0025】
対物レンズ17、ダイクロイックミラー18、および接眼レンズ19等は、視準光学系4を構成する。
集光レンズ12、ハーフミラー13、偏向ミラー15、16、および対物レンズ17等は、射出光学系2を構成する。
【0026】
測距光軸6がダイクロイックミラー18によって反射された部分は、受光光軸8となっている。受光光軸8上には、光量調整器14と、受光素子21が設けられている。受光素子21としては、例えば、フォトダイオードやアバランシフォトダイオード(APD)が用いられる。対物レンズ17、ダイクロイックミラー18および光量調整器14等は、受光光学系3を構成する。
【0027】
ハーフミラー13の反射光軸は、内部参照光軸23として反射鏡22を経て受光素子21に導かれている。ハーフミラー13および反射鏡22は、内部参照光学系24を構成している。発光素子11および受光素子21のそれぞれは、演算処理部27に電気的に接続されている。
【0028】
射出光軸7および内部参照光軸23には、光路切替器25が設けられている。光路切替器25は、射出光軸7と内部参照光軸23とを択一的に遮断または開放する。光路切替器25は、ハーフミラー13を透過した測距光が測定対象物5に向けて射出される状態と、ハーフミラー13で反射された測距光の一部が内部参照光学系24に向けて射出される状態と、を切り替える。
【0029】
次に、測距光学系1の作用について説明する。
発光素子11から発せられて集光レンズ12で平行光束とされた測距光28は、対物レンズ17の中心部を透過して測定対象物5に射出される。
【0030】
測定対象物5で反射された測距光は、反射測距光28’として対物レンズ17に入射し、対物レンズ17で集光され、ダイクロイックミラー18で反射され、光量調整器14で光量調整された後に、受光素子21に入射する。受光素子21は、受光した反射測距光28’に応じた断続受光信号29を出力する。
【0031】
発光素子11から射出された測距光28の一部(内部参照光28”)は、ハーフミラー13で反射される。光路切替器25の光路切替えにより、内部参照光軸23が開放されると、内部参照光28”が内部参照光学系24を経て受光素子21に入射する。受光素子21は、受光した内部参照光28”に応じた受光信号を出力する。受光素子21が反射測距光28’を受光した際の受光信号の処理は、受光素子21が内部参照光28”を受光した際の受光信号の処理と同様である。そこで、本実施形態では、反射測距光28’の受光信号の処理を例に挙げて説明する。
【0032】
対物レンズ17を経て入射する可視光は、ダイクロイックミラー18を透過し、接眼レンズ19で集光される。測量者は、接眼レンズ19を介して入射する可視光により、測定対象物5を視準することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る光波距離計の演算処理部27について説明する。
図2は、本実施形態に係る光波距離計の演算処理部を示す概略図である。
基準信号発生器31は、所定の基準周波数fcの基準周波数信号s1を生成し出力する。なお、以下に示される数値は、測定距離、測定精度に応じて適宜変更が可能である。例えば、以下の説明では120MHzを基準周波数fcとしている。
【0034】
基準信号発生器31は、基準周波数fcの基準周波数信号s1を生成し出力する。本実施形態の基準信号発生器31は、本発明の「信号発生器」の一例である。基準信号発生器31から出力された基準周波数信号s1の基準周波数fcは、分周器32によって1/nに分周される。これにより、周波数fの分周波信号s2が生成される。分周波信号s2は、第1信号発生器33および第2信号発生器34に入力される。分周波信号s2の周波数fは、fc/nであり、分周器32が120MHzの基準周波数fcを1/16に分周する分周器である場合には7.5MHzとなる。
【0035】
第1信号発生器33は、分周波信号s2と基準周波数信号s1とによりfc+f[Hz]で変調された第1変調信号s3を生成し、第1断続パルス発生器35に出力する。第2信号発生器34は、分周波信号s2と基準周波数信号s1とによりfc-f[Hz]で変調された第2変調信号s4を生成し、第2断続パルス発生器36に出力する。第1信号発生器33と、第2信号発生器34と、によって、周波数の近接した2つの変調信号(fc+f[Hz]およびfc-f[Hz])が生成される。
【0036】
第1断続パルス発生器35は、連続信号である第1変調信号s3をパルス化し、所定時間間隔毎に発せられる断続信号である第1パルス変調信号s5に変換する。つまり、第1断続パルス発生器35は、連続信号である第1変調信号s3をパルス化し、断続信号である第1パルス変調信号s5を生成する。
ここで、本願明細書において、「パルス化」された信号あるいは「パルス信号」には、矩形波の断続信号だけではなく、放物線の関数で表される波形形状の断続信号や、三角波の断続信号や、のこぎり波の断続信号や、正弦波の断続信号や、ガウシアン関数で表される波形形状の断続信号などが含まれるものとする。
本実施形態の第1断続パルス発生器35は、本発明の「パルス発生器」の一例である。第1断続パルス発生器35は、第1パルス変調信号s5をアンド回路37に出力する。従って、第1パルス変調信号s5のパルスには、fc+f(120MHz+7.5MHz)の周波が含まれている。第1パルス変調信号s5の詳細については、後述する。
【0037】
第2断続パルス発生器36は、連続信号である第2変調信号s4をパルス化し、所定時間間隔毎に発せられる断続信号である第2パルス変調信号s6に変換する。つまり、第2断続パルス発生器36は、連続信号である第2変調信号s4をパルス化し、断続信号である第2パルス変調信号s6を生成する。本実施形態の第2断続パルス発生器36は、本発明の「パルス発生器」の一例である。第2断続パルス発生器36は、第2パルス変調信号s6をアンド回路37に出力する。従って、第2パルス変調信号s6のパルスには、fc-f(120MHz-7.5MHz)の周波が含まれている。第2パルス変調信号s6の詳細については、後述する。
【0038】
タイミング信号発生器39は、基準信号発生器31が生成する基準周波数信号s1を基準とし、第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6のそれぞれの発光状態と非発光状態とを切り替えるタイミング信号s7を生成する。タイミング信号発生器39は、波形変換部51にタイミング信号s7を出力し、第1断続パルス発生器35からの第1パルス変調信号s5と、第2断続パルス発生器36からの第2パルス変調信号s6と、が交互に且つ時間間隔(バースト周期)tb(図3参照)で出力されるように制御する。
【0039】
波形変換部51は、タイミング信号発生器39から出力されたタイミング信号s7の波形形状を変換し、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号s8を生成する。波形変換部51としては、例えばオペアンプやアナログフィルタやDAC(Digital Analog Converter)などが挙げられる。波形変換部51の作用の詳細については、後述する。タイミング信号s7の波形形状が波形変換部51により変換された波形変換信号s8は、第1断続パルス発生器35および第2断続パルス発生器36に入力される。つまり、タイミング信号発生器39から第1断続パルス発生器35および第2断続パルス発生器36に向かって出力されたタイミング信号s7は、波形変換部51により波形形状を変換された波形変換信号s8として第1断続パルス発生器35および第2断続パルス発生器36に入力される。
【0040】
また、タイミング信号発生器39から出力されたタイミング信号は、切替えゲート40に入力される。切替えゲート40は、切替え信号をアンド回路37に出力する。アンド回路37は、切替えゲート40から出力された切替え信号に対応して、第1パルス変調信号s5と、第2パルス変調信号s6と、を交互にドライバ38に出力する。
【0041】
ドライバ38は、第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6に基づいて発光素子11を駆動し、fc+f(120MHz+7.5MHz)で変調された測距光(第1測距光)およびfc-f(120MHz-7.5MHz)で変調された測距光(第2測距光)を所定の時間間隔tb(図3参照)で切り替えて射出させる。本実施形態のドライバ38は、本発明の「駆動部」の一例である。
【0042】
測定対象物5で反射され受光光学系3を経た測距光28(すなわち反射測距光28’)は、受光素子21に入射する。受光素子21から出力された受光信号は、増幅器42で増幅される。増幅器42により増幅された信号は、ミキシング回路43に入力される。ミキシング回路43には、基準信号発生器31からアンド回路48を介して基準周波数fc(120MHz)の基準周波数信号s1が入力される。基準周波数信号s1がミキシング回路43に入力されるタイミングは、タイミング信号発生器39から出力されるタイミング信号によって制御される。これにより、基準周波数信号s1は、fc+f(120MHz+7.5MHz)のパルス変調光の受光信号(断続信号)と、fc-f(120MHz-7.5MHz)のパルス変調光の受光信号(断続信号)と、のそれぞれに対してミキシング回路43においてミキシングされる。
【0043】
120MHz+7.5MHzのパルス変調光の受光信号と、120MHz-7.5MHzのパルス変調光の受光信号と、は基準周波数信号s1とのミキシングによって周波数変換される。そして、基準周波数fcの減算により求められる±7.5MHz(-120MHz+120MHz+7.5MHz、-120MHz+120MHz-7.5MHz)の周波数と、基準周波数fcの加算により求められる240MHz±7.5MHz(120MHz+120MHz+7.5MHz、120MHz+120MHz-7.5MHz)の周波数と、が得られる。ミキシング回路43から出力された信号は、ローパスフィルタ44を通り、高周波成分を除去される。つまり、ローパスフィルタ44は、高周波帯域(高周波成分)を除去し、特定の周波数帯域を通過させる。本実施形態のローパスフィルタ44は、本発明の「バンドパスフィルタ」の一例である。その結果、±7.5MHzの差周波が残る。ローパスフィルタ44を通過可能な帯域は、差周波7.5MHzに十分な10MHz程度に設定される。
【0044】
ミキシング回路43およびローパスフィルタ44は、受光素子21が受光した120MHz+7.5MHzのパルス変調光を周波数変換して+7.5MHzの差周波信号(第1差周波信号)を生成するとともに、受光素子21が受光した120MHz-7.5MHzのパルス変調光を周波数変換して-7.5MHzの差周波信号(第2差周波信号)を生成する。-7.5MHzの差周波信号は、+7.5MHzの差周波信号に対して測定対象物5への距離に応じた位相差を有する信号である。
【0045】
2つの差周波信号において、一方は時間的に位相が進行する7.5MHzの差周波信号であり、他方は時間的に位相が後退する7.5MHzの差周波信号である。両差周波間では、距離(時間)に対応した位相ずれ(位相差)が生じている。基準信号発生器31、タイミング信号発生器39、アンド回路48、ミキシング回路43、ローパスフィルタ44等は、本発明の「周波数変換部」として機能する。
【0046】
ADコンバータ45は、ローパスフィルタ44から出力されるアナログ信号である差周波信号をデジタル信号に変換し、記憶手段としてのメモリ46にサンプリングデータとして記憶させる。
【0047】
演算制御部47は、メモリ46に記憶されたサンプリングデータに基づいて各種の演算処理を実行する。具体的には、演算制御部47は、メモリ46に保存されたサンプリングデータに基づいて、光波距離計から測定対象物5までの距離値d3を求める演算処理を実行する。
【0048】
すなわち、演算制御部47は、メモリ46に保存されたサンプリングデータから、7.5MHzの差周波信号と-7.5MHzの差周波信号とを演算し、2つの差周波信号の位相差から粗測定距離値d1(第1距離値)を演算する。2つの差周波信号の位相差は、断続変調周波数の差(15MHz)で測定した場合と等価である。それぞれの位相をφ1、φ2とすると、周波数差15MHzの場合の波長は10mであるから、求める粗測定距離値d1(m)は、下記の式(1)で表される。
d1=10×(φ1-φ2)/2π (1)
【0049】
演算制御部47は、メモリ46に保存されたサンプリングデータから、7.5MHzの差周波信号と-7.5MHzの差周波信号とを演算し、さらに双方の差周波信号からそれぞれ位相を求め、位相および光速から双方の差周波信号に対応する精密測定距離値d2(第2距離値)を演算する。演算制御部47は、粗測定距離値d1に精密測定距離値d2を加算して、光波距離計から測定対象物5までの距離値d3(第3距離値)を求める演算処理を実行する。
【0050】
演算制御部47は、粗測定距離値d1を演算する際には、反射測距光28’の受光信号から演算した粗測定距離値から、内部参照光28”の受光信号から演算した粗測定距離値を減算する。同様に、演算制御部47は、精密測定距離値d2を演算する際には、反射測距光28’の受光信号から演算した精密測定距離値から、内部参照光28”の受光信号から演算した精密測定距離値を減算する。
【0051】
演算制御部47は、反射測距光28’から演算した測定距離値と内部参照光28”から演算した測定距離値との差を求めることで電気回路である演算処理部27の温度ドリフト等による影響を除去することができる。内部参照光28”の受光信号から演算した粗測定距離値および精密測定距離値は、あらかじめ演算されメモリ46に記憶されていてもよい。
【0052】
ここで、本実施形態に係る光波距離計のようにパルス信号を用いて測定対象物までの距離を測定する光波距離計においては、レーザ等の測距光の強度を規格の制限内に抑えつつ、測定精度、測定可能距離(到達距離)およびスキャンレートを向上させることが望まれている。本発明者の得た知見によれば、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートの向上を目的としてSN比(signal-noise ratio)を増加させると、周期性誤差が増加する。つまり、SN比と周期性誤差とは、互いにトレードオフの関係にある。SN比を増加させると周期性誤差が増加する要因のひとつは、信号の波形形状の歪みである。すなわち、本発明者の得た知見によれば、反射測距光に応じた受光信号が受光素子から出力されバンドパスフィルタを通過すると、信号の波形形状が歪む。言い換えれば、測距時(送光時)の測距信号(ドライバに入力されるパルス信号)の波形形状は、受光時に受光信号がバンドパスフィルタを通過することにより歪む。つまり、受光時にバンドパスフィルタを通過した受光信号の波形形状は、送光時のパルス信号の波形形状とは異なる。
【0053】
さらに、本発明者の得た知見によれば、パルス信号を用いて測定対象物までの距離を測定する光波距離計においては、距離の測定に使用される所望の周波数の信号だけではなく、所望の周波数から外れた帯域の周波数の信号が送光時のパルス信号および受光信号に含まれている。所望の周波数から外れた周波数成分は、受光時に受光信号がバンドパスフィルタを通過することにより除去される。言い換えれば、バンドパスフィルタは、距離の測定に使用される所望の周波数成分だけを受光信号から抽出する。そのため、バンドパスフィルタにより除去され距離の測定には使用されない周波数成分についても、発光素子の発光時においてエネルギーが消費されていることになる。
【0054】
これに対して、本実施形態に係る光波距離計では、波形変換部51は、タイミング信号発生器39から出力されたタイミング信号s7の波形形状を変換し、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号s8を生成する。そして、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3と、波形変換部51により生成され出力された波形変換信号s8と、に基づいて、第1変調信号s3を距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号s5を生成する。また、第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4と、波形変換部51により生成され出力された波形変換信号s8と、に基づいて、第2変調信号s4を距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号s6を生成する。
【0055】
本実施形態に係る光波距離計によれば、測距時(送光時)にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様になる。そのため、ローパスフィルタ44により除去される周波数成分を抑えることができ、ローパスフィルタ44で除去されるエネルギー損失を低減することができる。これにより、SN比(signal-noise ratio)のうちのシグナル(signal)成分を増加させることができ、結果としてSN比を向上させることができる。そのため、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分(本実施形態では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号)の強度を増加させることができる。つまり、発光素子11の発光効率を向上させることができる。これにより、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0056】
本実施形態に係る光波距離計の作用を、図面を参照してさらに詳しく説明する。
図3は、本実施形態に係る光波距離計の発光信号および受光信号を示すタイミングチャートである。
図4は、比較例に係る光波距離計の発光信号および受光信号を示すタイミングチャートである。
図5は、本実施形態のパルス変調信号を説明する模式図である。
図6は、本実施形態のローパスフィルタに入力される受光信号のフーリエ変換を行ったグラフである。
図7は、比較例のパルス変調信号を説明する模式図である。
図8は、比較例のローパスフィルタに入力される受光信号のフーリエ変換を行ったグラフである。
【0057】
図3および図4の上段に示すタイミングチャートは、ドライバ38から出力されるパルス信号(発光信号)の発生タイミングを示すタイミングチャートである。言い換えれば、図3および図4の上段に示すタイミングチャートは、発光素子11の発光タイミングを示すタイミングチャートである。図3および図4の下段に示すタイミングチャートは、受光素子21から出力される受光信号の発生タイミングを示すタイミングチャートである。また、図6では、説明の便宜上、本実施形態の受光信号のフーリエ変換を行ったグラフに、比較例の受光信号のフーリエ変換を行ったグラフを破線で重ね合わせている。
【0058】
まず、図4図7図8を参照し、比較例に係る光波距離計を説明する。なお、比較例に係る光波距離計の構成要素が、図1および図2に関して前述した本実施形態に係る光波距離計の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。比較例に係る光波距離計の演算処理部には、図2に関して前述した波形変換部51が設けられていない。その他の構成要素は、図2に関して前述した本実施形態に係る光波距離計の演算処理部の構成要素と同様である。
【0059】
図4に示すように、比較例の発光素子11は、第1パルス変調信号s5’に基づいた測距光と、第2パルス変調信号s6’に基づいた測距光と、を時間間隔tbで切り替えて交互に出力する。一方で、比較例の受光素子21は、反射測距光28’として、fc+f(120MHz+7.5MHz)の第1パルス変調信号s5’に基づいたパルス変調光と、fc-f(120MHz-7.5MHz)の第2パルス変調信号s6’に基づいたパルス変調光と、を交互に受光する。従って、比較例の受光素子21の受光信号は、パルス出力となる。そして、受光信号のパルス内部には、fc+f[Hz]、fc-f[Hz]の周波数を有する断続受光信号29が含まれる。図4に示すように、受光信号と発光信号との間において、光波距離計と測定対象物5との直線距離に応じた遅延時間tdが生じている。
【0060】
第1パルス変調信号s5’と、第2パルス変調信号s6’と、比較例の受光素子21の受光信号と、をさらに説明すると、図7に示すように、第1信号発生器33は、fc+f[Hz]で変調された第1変調信号s3を生成し出力する。第2信号発生器34は、fc-f[Hz]で変調された第2変調信号s4を生成し出力する。これは、図2に関して前述した第1変調信号s3および第2変調信号s4と同様である。また、タイミング信号発生器39は、タイミング信号s7を生成する。図7に示すように、タイミング信号s7は、矩形波のパルス信号である。つまり、タイミング信号s7の波形形状は、矩形波の波形形状である。そして、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3を矩形波の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号s5’を生成する。第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4を矩形波の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号s6’を生成する。そのため、図7に示すように、矩形波の第1パルス変調信号s5’のパルス内部には、fc+f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。矩形波の第2パルス変調信号s6’のパルス内部には、fc-f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。
【0061】
比較例に係る光波距離計において、ミキシング回路43を通過しローパスフィルタ44に入力される受光信号のフーリエ変換を行うと、図8に示すグラフが得られる。すなわち、図8に示すように、比較例に係る光波距離計では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号だけではなく、±7.5MHzの差周波から外れた帯域の周波数信号が、ローパスフィルタ44に入力される受光信号に含まれている。±7.5MHzの差周波から外れた帯域の周波数信号は、ローパスフィルタ44を通過することにより除去される。図8では、ローパスフィルタ44を通過可能な周波数帯域は、二点鎖線の内部の領域として表されている。そのため、比較例に係る光波距離計では、受光信号がローパスフィルタ44を通過する際に、比較的大きなエネルギー損失が生じている。つまり、ローパスフィルタ44により除去され距離の測定には使用されない周波数成分についても、発光素子11の発光時においてエネルギーが消費されていることになる。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る光波距離計の演算処理部27には、波形変換部51が設けられている。すなわち、図3に示すように、本実施形態の発光素子11は、第1パルス変調信号s5に基づいた測距光と、第2パルス変調信号s6に基づいた測距光と、を時間間隔tbで切り替えて交互に出力する。一方で、本実施形態の受光素子21は、反射測距光28’として、fc+f(120MHz+7.5MHz)の第1パルス変調信号s5に基づいたパルス変調光(第1反射測距光)と、fc-f(120MHz-7.5MHz)の第2パルス変調信号s6に基づいたパルス変調光(第2反射測距光)と、を交互に受光する。従って、本実施形態の受光素子21の受光信号は、パルス出力となる。そして、受光信号のパルス内部には、fc+f[Hz]、fc-f[Hz]の周波数を有する断続受光信号29が含まれる。図3に示すように、受光信号と発光信号との間において、光波距離計と測定対象物5との直線距離に応じた遅延時間tdが生じている。
【0063】
図5に示すように、第1信号発生器33は、fc+f[Hz]で変調された第1変調信号s3を生成し出力する。第2信号発生器34は、fc-f[Hz]で変調された第2変調信号s4を生成し出力する。これは、図2に関して前述した通りである。また、タイミング信号発生器39は、タイミング信号s7を生成する。図5に示すように、タイミング信号s7は、矩形波のパルス信号である。つまり、タイミング信号s7の波形形状は、矩形波の波形形状である。そして、波形変換部51は、タイミング信号発生器39から出力されたタイミング信号s7の矩形波の波形形状を変換し、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される波形変換信号s8を生成する。
【0064】
比較例に係る光波距離計に関して前述したように、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波から外れた帯域の周波数信号は、ローパスフィルタ44を通過することにより除去される。そのため、ローパスフィルタ44を通過した受光信号の波形形状は、矩形波の両側あるいは片側が除去された形状に近似する波形形状になる。そこで、図5に示すように、本実施形態の波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状として三角波の波形形状を設定し、三角波の波形形状の波形変換信号s8を生成する。三角波の波形形状の波形変換信号s8を生成する波形変換部51としては、例えばオペアンプやDACなどが挙げられる。
【0065】
そして、図5に示すように、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3を三角波の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号s5を生成する。つまり、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3と、波形変換部51により生成され出力された波形変換信号s8と、に基づいて、三角形状の輪郭線を包絡線とするパルスの内部にfc+f[Hz]の周波数の変調信号を含む第1パルス変調信号s5を生成する。第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4を三角波の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号s6を生成する。つまり、第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4と、波形変換部51により生成され出力された波形変換信号s8と、に基づいて、三角形状の輪郭線を包絡線とするパルスの内部にfc-f[Hz]の周波数の変調信号を含む第2パルス変調信号s6を生成する。そのため、図5に示すように、三角波の波形形状の第1パルス変調信号s5のパルス内部には、fc+f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。三角波の波形形状の第2パルス変調信号s6のパルス内部には、fc-f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。
【0066】
本実施形態に係る光波距離計において、ミキシング回路43を通過しローパスフィルタ44に入力される受光信号のフーリエ変換を行うと、図6に示すグラフが得られる。すなわち、図6に示すように、本実施形態に係る光波距離計では、ドライバ38に入力される第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6の波形形状が距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様であるため、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波から外れた帯域の周波数信号は、ローパスフィルタ44に入力される受光信号にはほとんど含まれていない。そのため、本実施形態に係る光波距離計では、受光信号がローパスフィルタ44を通過する際に生ずるエネルギー損失を低減することができる。つまり、ローパスフィルタ44により除去され距離の測定には使用されない周波数成分について消費されるエネルギーを抑えることができる。
【0067】
本実施形態に係る光波距離計によれば、測距時(送光時)にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様になる。そのため、ローパスフィルタ44により除去される周波数成分を抑えることができ、ローパスフィルタ44で除去されるエネルギー損失を低減することができる。これにより、SN比(signal-noise ratio)のうちのシグナル(signal)成分を増加させることができ、結果としてSN比を向上させることができる。つまり、本実施形態に係る光波距離計は、比較例に係る光波距離計においてローパスフィルタ44により除去され測定には使用されない周波数成分を、距離の測定に使用される所望の周波数成分として利用することができる。そのため、図6に示すように、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分(本実施形態では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号)の強度を増加させることができる。つまり、発光素子11の発光効率を向上させることができる。これにより、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る光波距離計によれば、fc+f(120MHz+7.5MHz)で変調された測距光およびfc-f(120MHz-7.5MHz)で変調された測距光が発光素子11から所定の時間間隔tbで切り替えて射出される。そして、反射測距光28’として、fc+f(120MHz+7.5MHz)の第1パルス変調信号s5に対応するパルス変調光と、fc-f(120MHz-7.5MHz)の第2パルス変調信号s6に対応するパルス変調光と、が交互に受光素子21で受光される。第1パルス変調信号s5に対応するパルス変調光を周波数変換した+7.5MHzの差周波信号および第2パルス変調信号s6に対応するパルス変調光を周波数変換した-7.5MHzの差周波信号は、測定対象物への距離に応じた位相差を有するため、±7.5MHzの差周波信号に基づいて測定対象物までの距離値を精度良く求めることができる。つまり、測定精度をより一層向上させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る光波距離計によれば、波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状として三角波の波形形状を設定し、三角波の波形形状の波形変換信号s8を生成する。そのため、本実施形態に係る光波距離計は、例えばオペアンプやDACなどの波形変換部51を有する簡易的な構成で比較的容易に、送光時にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状に精度良く近づけることができる。そのため、簡易的な構成で比較的容易に、ローパスフィルタ44により除去される周波数成分を確実に抑えることができ、ローパスフィルタ44で除去されるエネルギー損失を確実に低減することができる。これにより、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分(本実施形態では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号)の強度をより確実に増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、波形変換部51が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状として三角波の波形形状を設定する場合を例に挙げて説明した。但し、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状として波形変換部51が設定する波形形状は、三角波の波形形状に限定されるわけではない。以下では、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状として波形変換部51が設定する波形形状の他の例を、図面を参照して説明する。
【0071】
図9は、本実施形態のパルス変調信号の第1変形例を説明する模式図である。
第1変調信号s3、第2変調信号s4およびタイミング信号s7は、図2図8に関して前述した通りである。本変形例では、図9に示すように、波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状としてのこぎり波の波形形状を設定し、のこぎり波の波形形状の波形変換信号s8を生成する。のこぎり波の波形形状の波形変換信号s8を生成する波形変換部51としては、例えばオペアンプやDACなどが挙げられる。
【0072】
そして、図9に示すように、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3をのこぎり波の波形形状にパルス化した第1パルス変調信号s5を生成する。つまり、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3と、波形変換部51から出力された波形変換信号s8と、に基づいて、のこぎり歯の形状の輪郭線を包絡線とするパルスの内部にfc+f[Hz]の周波数の変調信号を含む第1パルス変調信号s5を生成する。第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4をのこぎり波の波形形状にパルス化した第2パルス変調信号s6を生成する。つまり、第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4と、波形変換部51から出力された波形変換信号s8と、に基づいて、のこぎり歯の形状の輪郭線を包絡線とするパルスの内部にfc-f[Hz]の周波数の変調信号を含む第2パルス変調信号s6を生成する。そのため、図9に示すように、のこぎり波の波形形状の第1パルス変調信号s5のパルス内部には、fc+f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。のこぎり波の波形形状の第2パルス変調信号s6のパルス内部には、fc-f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。
【0073】
本変形例において、ミキシング回路43を通過しローパスフィルタ44に入力される受光信号のフーリエ変換を行うと、図6に示すグラフと同様のグラフが得られる。
【0074】
本変形例によれば、波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状としてのこぎり波の波形形状を設定し、のこぎり波の波形形状の波形変換信号s8を生成する。そのため、本変形例に係る光波距離計は、例えばオペアンプやDACなどの波形変換部51を有する簡易的な構成で比較的容易に、送光時にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状に近づけることができる。そのため、簡易的な構成で比較的容易に、ローパスフィルタ44により除去される周波数成分を確実に抑えることができ、ローパスフィルタ44で除去されるエネルギー損失を確実に低減することができる。これにより、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分(本変形例では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号)の強度をより確実に増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0075】
また、測距時(送光時)にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様になるため、図3図5および図6に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0076】
図10は、本実施形態のパルス変調信号の第2変形例を説明する模式図である。
第1変調信号s3、第2変調信号s4およびタイミング信号s7は、図2図8に関して前述した通りである。本変形例では、図10に示すように、波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状としてガウシアン関数で表される波形形状を設定し、ガウシアン関数で表される波形形状の波形変換信号s8を生成する。ガウシアン関数で表される波形形状の波形変換信号s8を生成する波形変換部51としては、例えばアナログフィルタやDACなどが挙げられる。
【0077】
そして、図10に示すように、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3をガウシアン関数で表される波形形状にパルス化した第1パルス変調信号s5を生成する。つまり、第1断続パルス発生器35は、第1信号発生器33から出力された第1変調信号s3と、波形変換部51から出力された波形変換信号s8と、に基づいて、ガウシアン関数を包絡線とするパルスの内部にfc+f[Hz]の周波数の変調信号を含む第1パルス変調信号s5を生成する。第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4をガウシアン関数で表される波形形状にパルス化した第2パルス変調信号s6を生成する。つまり、第2断続パルス発生器36は、第2信号発生器34から出力された第2変調信号s4と、波形変換部51により生成され出力された波形変換信号s8と、に基づいて、ガウシアン関数を包絡線とするパルスの内部にfc-f[Hz]の周波数の変調信号を含む第2パルス変調信号s6を生成する。そのため、図10に示すように、ガウシアン関数で表される波形形状の第1パルス変調信号s5のパルス内部には、fc+f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。ガウシアン関数で表される波形形状の第2パルス変調信号s6のパルス内部には、fc-f[Hz]の周波数を有する変調信号が含まれる。
【0078】
本変形例において、ミキシング回路43を通過しローパスフィルタ44に入力される受光信号のフーリエ変換を行うと、図6に示すグラフと同様のグラフが得られる。
【0079】
本変形例によれば、波形変換部51は、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状としてガウシアン関数で表される波形形状を設定し、ガウシアン関数で表される波形形状の波形変換信号s8を生成する。そのため、本変形例に係る光波距離計は、送光時にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状を、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状により一層精度良く近づけることができる。そのため、ローパスフィルタ44により除去される周波数成分をより一層確実に抑えることができ、ローパスフィルタ44で除去されるエネルギー損失をより一層確実に低減することができる。これにより、測距光28の強度を規格の制限内に抑えつつ、所望の周波数成分(本変形例では、距離の測定に使用される±7.5MHzの差周波信号)の強度をより確実に増加させ、測定精度、測定可能距離およびスキャンレートを向上させることができる。
【0080】
また、測距時(送光時)にドライバ38に入力されるパルス信号(第1パルス変調信号s5および第2パルス変調信号s6)の波形形状が、距離の測定に使用される所望の周波数成分で構成される信号の波形形状と同様になるため、図3図5および図6に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0082】
1:測距光学系、 2:射出光学系、 3:受光光学系、 4:視準光学系、 5:測定対象物、 6:測距光軸、 7:射出光軸、 8:受光光軸、 9:視準光軸、 11:発光素子、 12:集光レンズ、 13:ハーフミラー、 14:光量調整器、 15:偏向ミラー、 16:偏向ミラー、 17:対物レンズ、 18:ダイクロイックミラー、 19:接眼レンズ、 21:受光素子、 22:反射鏡、 23:内部参照光軸、 24:内部参照光学系、 25:光路切替器、 27:演算処理部、 28:測距光、 28’:反射測距光、 28”:内部参照光、 29:断続受光信号、 31:基準信号発生器、 32:分周器、 33:第1信号発生器、 34:第2信号発生器、 35:第1断続パルス発生器、 36:第2断続パルス発生器、 37:アンド回路、 38:ドライバ、 39:タイミング信号発生器、 40:切替えゲート、 42:増幅器、 43:ミキシング回路、 44:ローパスフィルタ、 45:ADコンバータ、 46:メモリ、 47:演算制御部、 48:アンド回路、 51:波形変換部、 d1:粗測定距離値、 d2:精密測定距離値、 d3:距離値、 f:周波数、 fc:基準周波数、 s1:基準周波数信号、 s2:分周波信号、 s3:第1変調信号、 s4:第2変調信号、 s5:第1パルス変調信号、 s5’:第1パルス変調信号、 s6:第2パルス変調信号、 s6’:第2パルス変調信号、 s7:タイミング信号、 s8:波形変換信号、 tb:時間間隔、 td:遅延時間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10