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特許7330736老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物
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  • 特許-老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20230815BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61P27/10
A61K9/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019074519
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020158479
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019054654
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 発行日 2019年3月13日 刊行物 日本眼科學會雜誌 第123回臨時増刊号 p.309 P2-233 (その2) ウェブサイトの掲載日 2019年4月8日 ウェブサイトのアドレス https://convention.jtbcom.co.jp/123jos/index.html https://convention.jtbcom.co.jp/123jos/application/index.html
(73)【特許権者】
【識別番号】519102901
【氏名又は名称】久瀬 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久瀬 真奈美
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-108015(JP,A)
【文献】Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,2007年,Vol.48,pp.3677-3682
【文献】Vision,1995年,Vol.7,pp.85-89
【文献】European Ophthalmic Review,2017年,Vol.11, No.2,pp.99-102
【文献】MEHDI Ophthalmology Journal,2012年,Vol.1, No.1,pp.3-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビマトプロストを含む老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物であって、点眼液である、医薬組成物
【請求項2】
ビマトプロストの含有量が0.01~0.05w/v%である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
pHが6.5~8.0である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1回1滴、1日1回投与することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来により、現在日本人の4人に1人が65歳以上の高齢者、2人に1人が45歳以上であり、本邦において約6500万人が老視を患うものと推測される。老視人口の増加傾向は本邦のみならず、広く欧米よりアジアに拡大するものである。このような状況により老視の治療及び/又は予防に対するニーズと期待は高まる一方であるが、依然効果的な治療方法はなく、主として眼鏡やコンタクトレンズなどの装用具による屈折矯正による対処療法しかないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】PLoS One. 2019 Jan 31;14(1) e0211631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のプロスタグランジン様化合物が老視に効果を有することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0006】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ビマトプロストを含む老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
項2.
ビマトプロストの含有量が0.01~0.05w/v%である、項1に記載の医薬組成物。
項3.
pHが6.5~8.0である、項1又は2に記載の医薬組成物。
項4.
点眼液である、項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
項5.
1回1滴、1日1回投与することを特徴とする、項4に記載の医薬組成物。
項6.
ビマトプロストを含む老視を改善するための医薬組成物。
項7.
ビマトプロストを含む近見視力を向上させるための医薬組成物。
項8.
ビマトプロストを含む近方加入度数を低減するための医薬組成物。
項9.
ビマトプロストの含有量が0.03w/v%である、項1に記載の医薬組成物。
項10.
ベンザルコニウム塩化物、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、クエン酸水和物、塩酸、及び水酸化ナトリウムをさらに含む、項1に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ビマトプロストを含む医薬組成物を点眼後の近方加入度数の変化(絶対値)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、ビマトプロストを含む老視を治療及び/又は予防するための医薬組成物を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示される全ての主題を包含する。
【0010】
「老視」とは、加齢により近見視が困難になった状態である。加齢により、水晶体の弾性が低下することによって、調節力が減退し、近見視が困難になることが知られている。本開示の医薬組成物は、老視の症状を有する被験者に投与されることが好ましい。被験者は好ましくは45歳以上、より好ましくは50歳以上、特に好ましくは55歳以上、さらに好ましくは60歳以上である。
【0011】
本開示の医薬組成物は、ビマトプロストを含有することが好ましい。本開示において、ビマトプロストは、薬学的に許容される溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、プロドラッグ、または多形体の形態であってもよい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
ビマトプロストの含有量はビマトプロスト換算で0.01~0.05w/v%であることが好ましく、0.02~0.04w/v%であることがより好ましく、0.03w/v%であることがさらに好ましい。
【0013】
本開示の医薬組成物は、ビマトプロストの他に、医薬組成物に含有させることができる公知の成分を含んでいてもよい。このような公知の成分としては、例えば、界面活性剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、保存剤、粘稠化剤、キレート剤、清涼化剤、他の薬理成分などが挙げられる。なお、このような公知の成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
界面活性剤としては、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0015】
安定化剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、エデト酸塩、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0016】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物;プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。中でも、塩化ナトリウムが好ましい。
【0017】
緩衝剤としては、例えば、リン酸水素ナトリウム水和物などのリン酸緩衝剤、クエン酸水和物などのクエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アミノ酸などが挙げられる。中でも、リン酸水素ナトリウム水和物などのリン酸緩衝剤、クエン酸水和物などのクエン酸緩衝剤が好ましい。
【0018】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸、クエン酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。
【0019】
保存剤としては、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、ホウ酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、ベンザルコニウム塩化物、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。中でもベンザルコニウム塩化物が好ましい。
【0020】
粘稠化剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。
【0021】
キレート剤としては、例えばエデト酸塩、クエン酸塩などが挙げられる。
【0022】
清涼化剤としては、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。
【0023】
他の薬理成分としては、例えば、ピロカルピン塩酸塩等の副交感神経刺激薬;ジスチグミン臭化物等の抗コリンエステラーゼ薬;ジピベフリン塩酸塩等の交感神経刺激薬;チモロールマレイン酸塩等のβ遮断剤;ベタキソロール塩酸塩等のβ1遮断薬;ニプラジロール、レボブノロール塩酸塩等のα・β遮断薬;ブナゾシン塩酸塩等のα遮断薬などが挙げられる。
【0024】
本開示の医薬組成物のpHは、6.5~8.0であることが好ましい。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、又は7.9であってもよい。特に6.9~7.5であることがより好ましい。
【0025】
本開示の医薬組成物は、ビマトプロスト、並びにベンザルコニウム塩化物、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、クエン酸水和物、塩酸、及び水酸化ナトリウムよりなる群から選択される1種以上の成分を含有し、pHは6.9~7.5であることが好ましい。また、ビマトプロスト、ベンザルコニウム塩化物、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、クエン酸水和物、塩酸、及び水酸化ナトリウムを含有し、pHは6.9~7.5であることがより好ましい。
【0026】
本開示の医薬組成物は、点眼液であることが好ましい。点眼液の形態は、水性点眼液、水性懸濁点眼液、粘性点眼液、非水性点眼液、非水性懸濁点眼液又はエマルション点眼液などが挙げられ、特に水性点眼液であることが好ましい。
【0027】
本開示の医薬組成物は、1回に1滴を1日1~3回投与してもよく、1回に1滴を1日1~2回投与してもよく、中でも1回1滴、1日1回投与することを特徴とすることが好ましい。
【0028】
本開示の医薬組成物は、近方加入度数を低減することによって、老視を治療及び/又は予防できることができる。近方加入度数が低減すると、近見視力が向上、すなわち老視が改善していることを意味する。
【0029】
プロスタグランジン様化合物は、毛様体のぶどう膜強膜流を促進することによって、眼圧を低下させる作用があることが知られており、ビマトプロストやラタノプロストを含む点眼液が緑内障や高眼圧症の治療剤として用いられている。また、プロスタグランジンF2α誘導体の1つである、ラタノプロストは老視を促進することも知られている(非特許文献1)。しかし、本開示の医薬組成物は、意外にもビマトプロストを含むことにより、老視を改善することができる。
【0030】
本開示において近方加入度数は、検査員により山地式近見視力表の国際標準ランドルト氏環や文字の指標を眼前40cmの距離で雲霧法を用いて測定した値である。
【0031】
本開示の医薬組成物は、ビマトプロストを用いて公知の方法によって調製することができる。
【0032】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0033】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0034】
本開示の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。また特に言及する場合を除いて、「%」は「w/v%」を意味する。
【0035】
老視以外の視覚障害を有するヒト(いずれかの眼の視力が20/25未満)、3ヵ月以内に何らかの眼科手術を受けたヒト、又は20歳未満のヒトを除外した、20名を被験者とした。被験者を、点眼群(10名、平均51.9±6.7歳)と対照群(10名、平均52.3±8.2歳)とに分け、点眼群には、0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガン(登録商標)点眼液0.03%、千寿製薬株式会社)を両眼に1滴ずつ点眼し、対照群には、0.03%ビマトプロスト点眼液に代えて生理食塩水を点眼した。なお、0.03%ビマトプロスト点眼液は、ビマトプロスト、ベンザルコニウム塩化物、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、クエン酸水和物、塩酸、及び水酸化ナトリウムを含有し、pH6.9~7.5の無色澄明の水性液剤である。
【0036】
すべての被験者を日本眼科学会認定の眼科医専門医が検査した。標準的な眼科検査として眼底鏡及びスリットランプを使用した。さらに、視野検査(Humphrey Visual Field Analyzer 30-2標準プログラム;Carl Zeiss、Jena、ドイツ)、光干渉断層計(RC3000(登録商標)、ニデック、蒲郡、日本)を用い眼球に異常がないことを確認した。
【0037】
0.03%ビマトプロスト点眼液、又は生理食塩水の単回点眼投与前、並びに点眼5、10、及び60分後に眼圧、他覚的屈折度数、及び近方加入度数を測定した。眼圧で知られているような日内変動の影響を避けるため、測定は14時から16時の間に行った。眼圧は眼圧計(NT-530、ニデック、蒲郡、日本)により、他覚的屈折度数はオートレフラクトメータ(ARK-530A、ニデック、蒲郡、日本)により測定した。近方加入度数は熟練した検査師が山地式近点表(はんだや、東京、日本)を用いて雲霧法により測定した。
【0038】
他覚的屈折度数及び近方加入度数はクラスカル=ウリィス及びダネット検定を、眼圧はt検定を用いた。データは、平均値±標準偏差(SD)で示した。すべての分析は、エクセル統計(登録商標)(社会調査研究情報株式会社、東京、日本)を用いて実施し、P<0.05を有意差ありとした。
【0039】
眼圧(mmHg)について、対照群では点眼前12.38±2.04、点眼60分後12.53±1.88で、有意な変化はなかった。一方、点眼群の眼圧は、点眼前13.17±2.7、点眼60分後12.0±2.19で、有意な眼圧下降を認めた(P<0.01、対応のあるt検定)。
【0040】
近方加入度数は老視の進行を反映する数値として、一般的に用いられている数値であり、小さい数値であるほど近見視力が向上、すなわち老視が軽減していることを示す。対照群では、近方加入度数に変化がみられなかったのに対して、点眼群の近方加入度数は、点眼前+2.19±0.73で、点眼5分後で+1.94±0.75、10分で+1.97±0.70、60分では+1.91±0.79であった。したがって、点眼群では、近方加入度数の変化値は、点眼5分後で-0.25±0.34、点眼10分後で-0.22±0.36、点眼60分後で-0.28±0.43(P<0.03 クラスカル=ウリィス検定)と改善した(図1)。なお、点眼群の点眼前及び点眼60分後の遠見における屈折値を反映する他覚的屈折度数は-0.59±2.17及び-0.22±2.24であり、変化は有意でなかった(P = 0.31)。これらの結果から、ビマトプロストを含む医薬組成物を点眼すると、遠見視力よりも近見視力の向上に効果があるため、近見視が困難な老視に対して、優れた効果を有することが分かった。
図1