(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】低光沢な外観を呈する積層体及び表面コーティング剤
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20230815BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230815BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230815BHJP
C09D 7/42 20180101ALI20230815BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B7/023
C09D201/00
C09D7/42
(21)【出願番号】P 2019077851
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直大
(72)【発明者】
【氏名】近藤 紳介
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-027399(JP,A)
【文献】特開2002-258012(JP,A)
【文献】特表2017-534702(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168980(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00;
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、並びに、
4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダーを含有する表面層であって、該表面層は、前記バインダー100質量部を基準として、
前記無機ナノ粒子を85質量部以上含み、前記樹脂ビーズ及び前記無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、6.0GU以下の60度表面光沢度を有する、表面層、
を含む、積層体。
【請求項2】
前記無機ナノ粒子の平均粒径が、10nm以上、100nm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記バインダーが、電離放射線硬化型組成物の硬化物を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記表面層の表面光沢度が、20度で1.5GU以下、60度で6.0GU以下、及び85度で10.0GU以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材が、有色又は無色であり、不透明、半透明又は透明であり、かつ、略平滑な表面又は構造化表面を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記樹脂ビーズを35質量部以上、80質量部以下含み、かつ、前記無機ナノ粒子を
85質量部以上、250質量部以下含む、光学用途に使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記表面層の厚さが、3マイクロメートル以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記表面層の厚さが、前記樹脂ビーズの平均粒径よりも大きく、かつ、HB以上の鉛筆硬度を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダー前駆体を含有する表面コーティング剤であって、
前記バインダー前駆体100質量部を基準として、
前記無機ナノ粒子を85質量部以上含み、前記樹脂ビーズ及び前記無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、前記コーティング剤によって形成された表面層が、6.0GU以下の60度表面光沢度を呈する、表面コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学用途、装飾用途などに用いることができる低光沢な外観を呈する積層体及び表面コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶ディスプレイなどの表示装置において、画面の視認性の低下を抑えるために光拡散性シートが使用されている。また、建造物、車両などの内外装の加飾を目的としてエンボス加工が施された装飾フィルムなども知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第3743624号公報)には、表面に微細凹凸形状が形成されている樹脂皮膜層からなる光拡散層において、前記微細凹凸形状表面の60°光沢度(JIS Z8741)の値が入射方向により異なり、当該光沢度の最大値(a)と最小値(b)が、式:(a-b)>{(a+b)/2}×0.1、を満足する光拡散層を備える光拡散性シートが記載されている。
【0004】
例えば、特許文献2(特開2011-255552号公報)には、化粧シートの表面にエンボス加工が施されてなるエンボス化粧シートにおいて、該化粧シート表面側に合成樹脂ビーズを含有した硬化型樹脂からなる表面保護層を設けてなり、前記エンボス加工が平均振幅15~50マイクロメートルであり、前記合成樹脂ビーズが平均粒径8~20マイクロメートルの合成樹脂ビーズであることを特徴とするエンボス化粧シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3743624号公報
【文献】特開2011-255552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、例えば光学用途、装飾用途において、低光沢な外観を呈するフィルムなどが求められている。エンボス加工などによる機械的手段の場合、エンボスロールなどの装置の維持管理が必要となるためコストアップにつながっていた。コーティング剤中に樹脂ビーズなどを配合し、コート層表面を粗面化する技術も知られているが、樹脂ビーズがコート層中に沈降するなどして良好な低光沢外観を発現できない場合があった。
【0007】
本開示は、優れた低光沢外観を呈する積層体及び表面コーティング剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施態様によれば、基材、並びに、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダーを含有する表面層であって、この表面層は、バインダー100質量部を基準として、樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、6.0GU以下の60度表面光沢度を有する、表面層を含む、積層体が提供される。
【0009】
別の実施態様によれば、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダー前駆体を含有する表面コーティング剤であって、バインダー前駆体100質量部を基準として、樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、コーティング剤によって形成された表面層が、6.0GU以下の60度表面光沢度を呈する、表面コーティング剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、優れた低光沢外観を呈する積層体及び表面コーティング剤を提供することができる。
【0011】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施態様の積層体の概略断面図である。
【
図2】(a)本開示の一実施態様の積層体の表面層表面のSEM写真であり、(b)は、かかる積層体断面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0014】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0015】
本開示において「低光沢度」とは、ある材料又は物品の表面における表面光沢度が、測定角を60度としたときに6.0GU以下であることを意味する。表面光沢度は、JIS Z8741に準拠して決定される。
【0016】
本開示において、「透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける光線透過率が85%以上であることを意味し、「半透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける光線透過率が20%以上、85%未満であることを意味し、「不透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける光線透過率が20%未満であることを意味する。光線透過率はASTM D1003に準拠して決定される。
【0017】
本開示において、例えば「基材の上に配置された表面層」における「上」とは、表面層が基材に直接的に配置されること、又は、表面層が他の層を介して基材の上方に間接的に配置されることを意味している。
【0018】
一実施態様において、積層体は、基材、並びに、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダーを含有する表面層であって、この表面層は、バインダー100質量部を基準として、樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、6.0GU以下の60度表面光沢度を有する、表面層を含む。表面層が上記範囲の平均粒径を有する樹脂ビーズと無機ナノ粒子とを所定量含むことで、低光沢な外観を提供することができる。
【0019】
本開示の一実施態様の積層体の概略断面図を
図1に示す。
図1の積層体100は、表面層10、及び基材20を含む。表面層10は、バインダー12と、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ14と、無機ナノ粒子16とを含む。
【0020】
バインダーとしては特に制限はなく、例えば、積層体の使用用途に応じた要求性能に基づいて適宜選定することができる。例えば、光学用途では、一般に硬度、耐擦傷性などの性能も求められるため、ハードコート剤などとして公知である電離放射線硬化型組成物、中でも電離放射線硬化型の(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーを含む組成物の硬化物を採用することが好ましい。装飾用途では、表面層を有する積層フィルムが伸ばされる場合があるため、伸長性能を有するバインダー、例えばウレタン成分を含む熱硬化型又は電離放射線硬化型組成物の硬化物を採用することが好ましい。以下に、代表的なバインダーについて例示する。単に「硬化性」と表記されている場合には、かかる「硬化性」は熱硬化性、電離放射線硬化性などの硬化性能を包含し、使用用途、生産性などに応じてその硬化性能を適宜選定することができる。
【0021】
代表的なバインダーとして、例えば、硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを重合することで得られる樹脂、ゾルゲルガラスを重合することで得られる樹脂が挙げられる。より具体的な樹脂の例として、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びポリビニルアルコールが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
さらに、硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーは、本技術分野において既知の硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーから選択することができ、2種以上の硬化性モノマーの混合物、2種以上の硬化性オリゴマーの混合物、又は1種若しくは2種以上の硬化性モノマーと1種若しくは2種以上の硬化性オリゴマーの混合物を使用してもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、樹脂として、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(例えば、サートマー社(Sartomer Company,Exton,PA)から商品名「SR399」として入手可能)、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート(IPDI)(例えば、日本化薬株式会社(日本、東京)から商品名「UX-5000」として入手可能)、ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、日本合成化学工業株式会社(日本、大阪)から商品名「UV1700B」及び商品名「UB6300B」として入手可能)、トリメチルヒドロキシルジイソシアネート/ヒドロキシエチルアクリレート(TMHDI/HEA、例えば、ダイセル・サイテック株式会社(日本、東京)から商品名「Ebecryl 4858」として入手可能)、ポリエチレンオキシド(PEO)改質ビス-Aジアクリレート(例えば、日本化薬株式会社(日本、東京)から商品名「R551」として入手可能)、PEO改質ビス-Aエポキシアクリレート(例えば、共栄社化学株式会社(日本、大阪)から商品名「3002M」として入手可能)、シラン系UV硬化性樹脂(例えば、ナガセケムテックス株式会社(日本、大阪)から商品名「SK501M」として入手可能)、及び2-フェノキシエチルメタクリレート(例えば、サートマー社から商品名「SR340」として入手可能)、及びこれらの混合物を用いて重合したものが挙げられる。
【0024】
例えば、1.0~20質量%の範囲の2-フェノキシエチルメタクリレートを使用することで、ポリカーボネートなどへの接着性を向上させることができる。二官能性樹脂(例えば、PEO改質ビス-Aジアクリレート「R551」)及びトリメチルヒドロキシルジイソシアネート/ヒドロキシエチルアクリレート(TMHDI/HEA)(例えば、ダイセル・サイテック株式会社から商品名「Ebecryl 4858」として入手可能)を使用することで、硬化後の表面層の硬度、耐衝撃性、柔軟性などを向上させることができる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを使用することで、硬化後の表面層の伸び、強度などを同時に向上させることができる。このようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、サートマー・ジャパン株式会社のCN964A85、CN964、CN959、CN962、CN963J85、CN965、CN982B88、CN981、CN983、CN991、CN991NS、CN996、CN996NS、CN9002、CN9007、CN9178、CN9893などを挙げることができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、バインダーとして、硬度及び伸び特性を有する電離放射線硬化型組成物の硬化物を使用することができる。このような硬化型組成物に使用可能な成分としては、例えば、伸びを付与するための数平均分子量が200~3,000程度の長鎖成分(a)と、架橋密度を上げて主に硬さを付与する(メタ)アクリロイル基を平均で3~8個持つ(メタ)アクリレート成分(b)とを混合したものを使用することができる。伸びと硬さのバランスは、(a)と(b)の比率で調整することができる。
【0026】
長鎖成分(a)としては、例えば、脂肪族又は脂環族のジオール類と、イソシアナト基を2個有する化合物類とを反応させてなる両末端にイソシアナト基を有するジイソシアネート;このジイソシアネートとジヒドロキシ基を持つ(メタ)アクリレートとを反応させてなる両末端に(メタ)アクリロイル基を有するジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
ジオール類としては、例えば、炭素原子数が2~10の直鎖、分岐鎖、脂環などの構造を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、ポリエステルジオールなどのオリゴマーが挙げられる。
【0028】
脂肪族又は脂環族のジイソシアネートとしては、炭素原子数8~15の脂肪族ジイソシアネートが例示され、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0029】
長鎖成分(a)に用いる(メタ)アクリレート、及び(b)成分の(メタ)アクリレートとは、アクリロイル基又はメタアクリロイル基を持つ化合物を意味する。(メタ)アクリレートは、モノマー、オリゴマー、プレポリマーのいずれでもよい。(メタ)アクリレートは、単官能、2官能性以上の多官能でもよく、極性基を有していてもよいし低極性分子構造でもよい。極性基としては、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基が例示され、1種以上の極性基を複数持つものも使用することができる。例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレートの水酸基は、イソシアネートとの反応に好適であり、上記の(a)成分の調製に用いられる。
【0030】
(b)成分は、硬度付与の観点から、(メタ)アクリロイル基を3~8個有していることが好ましい。(b)成分は、単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
これらの(メタ)アクリロイル基が結合する部分の分子構造は、その構造中に、直鎖、分岐鎖、脂環、又は芳香環を1種以上有するもの、エーテル、エステル、ウレタン、アミドなどの結合構造、及びシリコーン鎖などにてオリゴマー化したものが例示される。
【0032】
いくつかの実施形態において、バインダーは、ラジカル硬化性(メタ)アクリレートとともに非ラジカル硬化性樹脂を用いて調製することができる。ラジカル硬化性アクリレートの例としては、脂肪酸ウレタン(例えば、Daicel-Allnex,Ltd.,Tokyo,Japanから、商標名「EBECRYL 8701」で入手可能)が挙げられる。非ラジカル硬化性樹脂の例としては、メチルメタクリレートコポリマー(例えば、Dow Chemical Company,Midland,MIから商標名「B44」で入手可能)、セルロースアセテートブチレート(例えば、Eastman Chemical Company,Kingsport,TNから商標名「CAB 381-2」で入手可能)が挙げられる。このような非ラジカル硬化性樹脂は、乾燥過程での樹脂ビーズの凝集を低減又は防止する機能を有するとともに、伸び特性を向上させることができる。
【0033】
必要に応じて、バインダーは他の硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを用いて調製することができる。代表的な硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーとしては、(a)1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-へキサンジオールモノアクリレートモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、アルコキシ化脂肪族ジアクリレート、アルコキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン改質ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、カプロラクトン改質ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化(10)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化(30)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールAジアクリレート、ヒドロキシピバルアルデヒド改質トリメチロールプロパンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどの(メタ)アクリル基を2つ有する化合物;(b)グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリアクリレート(例えば、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレートなど)、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシ化トリアクリレート(例えば、プロポキシ化(3)グリセリルトリアクリレート、プロポキシ化(5.5)グリセリルトリアクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレートなど)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートなどの(メタ)アクリル基を3つ有する化合物;(c)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、カプロラクトン改質ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの(メタ)アクリル基を4つ以上有する化合物;(d)例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートなどのオリゴマー(メタ)アクリル化合物;上記のポリアクリルアミド類似体;及びこれらの組み合わせからなる群から選択される多官能性(メタ)アクリルモノマー及び多官能性(メタ)アクリルオリゴマーが挙げられる。このような化合物は市販されており、少なくともいくつかは、例えば、サートマー社、UCB Chemicals Corporation(Smyrna,GA)、アルドリッチ社(Aldrich Chemical Company,Milwaukee,WI)などから入手可能である。他の有用な(メタ)アクリレートとしては、例えば米国特許第4262072号で報告されるようなヒダントイン部分含有ポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
好ましい硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーは、少なくとも3つの(メタ)アクリル基を含む。好ましい市販の硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーは、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)(商品名「SR351」)、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(PETA)(商品名「SR444」及び「SR295」)、及びジペンタエリスリトールペンタアクリレート(商品名「SR399」)などのサートマー社から入手可能なものが挙げられる。さらには、PETAと2-フェノキシエチルアクリレート(PEA)の混合物などの、多官能性(メタ)アクリレートと単官能性(メタ)アクリレートの混合物も使用することができる。
【0035】
必要に応じて、バインダーは単官能性モノマーを用いて調製してもよい。単官能性モノマーとして、例えば、サートマー社から入手可能な環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(商品名「SR531」)、単官能性アクリルモノマー(商品名「SR420NS」)、大阪有機化学工業株式会社から入手可能な環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(商品名「ビスコート(商標)200」)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(商品名「ビスコート(商標)196」)を使用することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、バインダーとして、伸び特性を有する電離放射線硬化型組成物の硬化物を使用することができる。このような硬化型組成物に使用可能な成分としては、例えば、上述した長鎖成分(a)、ウレタン(メタ)アクリレート及びウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーから選択される少なくとも一種と、上述した単官能性モノマーと、任意に上述した多官能性モノマー及び/又は多官能性オリゴマーとを混合したものを使用することができる。伸び特性は、これらの各成分の比率によって調整することができる。多官能成分の割合が、これら各成分の混合物の総重量(固形分)に基づき、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であると、より良好な伸び特性を呈することができる。
【0037】
モノマー又はオリゴマーの重合は、次のものに限定されないが、例えば、熱重合、光重合によって行うことができる。熱重合の場合には、熱重合開始剤を使用することができる。熱重合開始剤としては、次のものに限定されないが、例えば、過酸化物(例えばペルオキソ二硫化カリウム、ペルオキソ二硫化アンモニウム)、アゾ化合物(例えばVA-044、V-50、V-501、VA-057(和光純薬工業株式会社製))といった熱重合開始剤を使用することができる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有するラジカル開始剤なども使用することができる。触媒として、三級アミン化合物であるN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、β-ジメチルアミノプロピオニトリルなどを用いることができる。
【0038】
光重合は、電子線、紫外線などの電離放射線を使用して実施することができる。電子線を使用する場合には、光重合開始剤を使用しなくてもよいが、紫外線による光重合の場合は、一般に光重合開始剤を使用する。光重合開始剤としては、次のものに限定されないが、例えば、イルガキュア(商標)2959、ダロキュア(商標)1173、ダロキュア(商標)1116、イルガキュア(商標)184(BASF社製)、カンタキュア(商標)ABQ、同BT、同QTX(シェル化学社製)、ESACURE ONE(商標)(Lamberti社製)といった光重合開始剤を使用することができる。
【0039】
このように、バインダーとしては、電離放射線硬化型組成物又は熱硬化型組成物の硬化物を使用することができるが、基材の熱変形などの不具合を低減又は防止する観点から、電離放射線硬化型組成物を使用することが好ましく、電離放射線硬化型の(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーを含む組成物を使用することがより好ましい。熱硬化型組成物の硬化物としては、後述するウレタン樹脂組成物の熱硬化物以外のものも使用することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、バインダーはウレタン樹脂を含むことができる。ウレタン樹脂として公知の様々なウレタン樹脂を使用することができる。ウレタン樹脂はウレタン樹脂組成物を乾燥及び/又は熱硬化して得ることができる。ウレタン樹脂組成物は水系であってもよく非水系であってもよい。ウレタン樹脂は2液型ウレタン樹脂組成物の熱硬化物であることが有利である。2液型ウレタン樹脂組成物は一般に非水系ウレタン樹脂組成物である。2液型ウレタン樹脂組成物を用いることで、表面層の形成時に表面層の他の成分、例えば樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、中でもウレタン樹脂ビーズ、シリカナノ粒子などがウレタン樹脂と化学結合を形成して、表面層からこれら粒子の脱落、成分のブリードアウトを低減又は抑制することができる。
【0041】
2液型ウレタン樹脂組成物は、一般に主剤としてポリオール及び硬化剤として多官能イソシアネートを含み、必要に応じて触媒及び/又は溶剤を含む。
【0042】
ポリオールとして、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールなどのポリエステルポリオール;シクロヘキサンジメタノールカーボネート、1,6-ヘキサンジオールカーボネートなどのポリカーボネートポリオール、及びそれらの組み合わせを使用することができる。これらのポリオールは透明性、耐候性、強度、耐薬品性などを表面層に付与することができる。特に、ポリカーボネートポリオールは高い透明性及び耐薬品性を有する表面層を形成することができる。過度の架橋構造を形成せずに表面層に伸長性を付与する観点から、ポリオールはジオールであることが望ましく、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオール、特にポリカーボネートジオールを有利に使用することができる。
【0043】
ポリオールのOH値は、一般に10mg/KOH以上、20mg/KOH以上、又は30mg/KOH以上であってもよく、150mg/KOH以下、130mg/KOH以下、又は120mg/KOH以下であってもよい。
【0044】
多官能イソシアネートとして、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなど、及びこれらのポリイソシアネートの多量体(ダイマー、トリマーなど)、ビウレット変性体、アロファネート変性体、ポリオール変性体、オキサジアジントリオン変性体、カルボジイミド変性体などが挙げられる。過度の架橋構造を形成せずに表面層に伸長性を付与する観点から、多官能イソシアネートはジイソシアネートであることが望ましい。そのようなジイソシアネートとして、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、trans,trans-、trans,cis-、及びcis,cis-ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート及びこれらの混合物(水添MDI)などの脂環式ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート及び2,6-トリレンジイソシアネート、並びにこれらトリレンジイソシアネートの異性体混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、並びにこれらジフェニルメタンジイソシアネートの異性体混合物(MDI)などの芳香族ジイソシアネート;1,3-若しくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物(XDI)、1,3-若しくは1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート又はその混合物(TMXDI)などの芳香脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0045】
ポリオールとポリイソシアネートとの当量比は、一般に、ポリオール1当量に対して、ポリイソシアネートが、0.6当量以上、又は0.7当量以上であってもよく、2当量以下、又は1.2当量以下であってもよい。
【0046】
触媒としてウレタン樹脂の形成に一般に使用されるもの、例えばジ-n-ブチルスズジラウレート、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、トリエチレンジアミンなどを用いることができる。触媒の使用量は、一般に2液型ウレタン樹脂組成物100質量部を基準として、0.005質量部以上、又は0.01質量部以上であってもよく、0.5質量部以下又は0.2質量部以下であってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、表面層はセルロースエステルをさらに含んでもよい。セルロースエステルをバインダーに含有させることで、乾燥過程でのバインダーの粘度を上げ、表面流動性を下げることができるため、樹脂ビーズを含むコーティング剤を均一に塗布することが可能になる。セルロースエステルは、表面コーティング剤に速乾性、指触乾燥性、フロー性、又はレベリング性などを付与することができる。セルロースエステルとして、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられる。
【0048】
セルロースエステルの数平均分子量は、溶剤への溶解性を考慮して、例えば12,000以上、16,000以上又は20,000以上とすることができ、110,000以下、100,000以下又は90,000以下とすることができる。数平均分子量は標準ポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0049】
セルロースエステルのガラス転移温度(Tg)は、使用温度での形状維持性を考慮して、例えば85℃以上、96℃以上又は101℃以上とすることができ、190℃以下、180℃以下又は160℃以下とすることができる。
【0050】
いくつかの実施態様では、セルロースエステルは、バインダー100質量部を基準として、5質量部以上、10質量部以上又は15質量部以上、35質量部以下、30質量部以下又は25質量部以下の量でバインダーに含まれてもよい。セルロースエステルの配合量を上記範囲とすることで、樹脂ビーズを表面層により均一に分散させて均一な低光沢外観を表面層に付与することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、表面層は、イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含んでもよい。低光沢の表面に指脂が付着するとその痕跡は容易に観察される。イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーを表面層に含ませることで、表面層の耐指紋性を高めることができる。シリコーン変性ポリマーは、表面層の摩擦係数を低下させて滑りによる耐擦傷性を表面層に付与することもできる。シリコーン変性ポリマーのイソシアネート又は水酸基が、例えば、上述したバインダー中のウレタン樹脂又は後述する樹脂ビーズの水酸基又はイソシアネート基と反応してシリコーン変性ポリマーがウレタン樹脂又は樹脂ビーズに結合していてもよい。この実施態様ではシリコーン変性ポリマーの表面層からのブリードアウトを低減又は防止することができる。
【0052】
イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーとして、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、(メタ)アクリル変性シリコーン、シリコーン変性ポリ(メタ)アクリレート、ウレタン変性シリコーンなどのシリコーン変性ポリマーを使用することができる。シリコーン変性ポリマーのイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基として、水酸基、活性水素を有するアミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、酸無水物基などが挙げられる。耐指紋性に特に優れることから、シリコーン変性ポリマーは、シリコーン変性ポリ(メタ)アクリレートであることが有利である。シリコーン変性ポリマーは、イソシアネート又は水酸基との反応性が高い水酸基又はイソシアネート基、特に水酸基を有することが望ましい。
【0053】
いくつかの実施態様では、イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマー、例えばシリコーン変性ポリ(メタ)アクリレートは、表面層において、バインダー100質量部を基準として、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は1.0質量部以上、15質量部以下、12質量部以下、又は10質量部以下の量で含まれてよい。シリコーン変性ポリマーの配合量を上記範囲とすることで、表面層の耐指紋性及び/又は耐擦傷性をより高めることができる。
【0054】
本実施形態の表面層は樹脂ビーズを含む。樹脂ビーズは、
図2(a)に例示されるように、積層体の表面層表面に対し、ビーズに基づく微細な凹凸を形成して好適な低光沢構造を形成することができる。
【0055】
樹脂ビーズとしては、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(メタ)アクリル樹脂などから調製された樹脂ビーズを挙げることができる。このような樹脂ビーズは、中実であってもよく又は空隙を有してもよく、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、低光沢度の発現性、表面層が伸長されるような場合の追従性などの観点から、ウレタン樹脂ビーズが好ましい。ここで、ウレタン樹脂には、(メタ)アクリル成分を含む樹脂、例えばウレタン(メタ)アクリレートを重合して得られた樹脂も含まれる。樹脂ビーズは公知の表面改質剤でその表面が改質されていてもよい。
【0056】
ウレタン樹脂ビーズとしては、懸濁重合、シード重合、乳化重合などにより得られる架橋型のウレタン樹脂ビーズを用いることができる。かかる樹脂ビーズは柔軟性、強靭性、耐擦傷性などに優れており、これらの特性を表面層に付与することができる。
【0057】
樹脂ビーズとバインダーとが同種の樹脂成分である場合、例えば、ウレタン成分を含む樹脂ビーズ及びバインダー、或いは、(メタ)アクリル成分を含む樹脂ビーズ及びバインダーの場合、このような樹脂ビーズはバインダーとの親和性に優れるため、バインダーとの密着性を向上させることができる。その結果、積層体を伸長又は変形したとしても、バインダーからの樹脂ビーズの脱離を低減又は抑制することができる。ここで、「同種の樹脂成分」とは、樹脂の構成成分が完全に同一であることに限らず、樹脂を構成している成分において共通する樹脂成分が一つ以上存在している場合も含まれる。例えば、ウレタンアクリレートから調製された樹脂ビーズは、ウレタン成分とアクリル成分の二種類が存在しているため、かかる樹脂ビーズは、ウレタン樹脂バインダーと同種の樹脂成分であるとともに、アクリル樹脂バインダーとも同種の樹脂成分であるといえる。
【0058】
表面層表面の凹凸に基づく光の散乱効果に加え、表面層内部での樹脂ビーズによる光の散乱又は屈折効果も期待する場合には、樹脂ビーズの屈折率は、バインダーの屈折率と相違していることが好ましい。
【0059】
樹脂ビーズの平均粒径は、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下であることが好ましい。いくつかの実施態様では、樹脂ビーズの平均粒径は、5マイクロメートル以上、6マイクロメートル以上、又は10マイクロメートル以上であってもよく、10マイクロメートル以下、又は15マイクロメートル以下であってもよい。樹脂ビーズの平均粒径は、かかる範囲から使用用途などに応じて適宜選定することができる。樹脂ビーズの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて測定される積算体積50%粒子径である。
【0060】
樹脂ビーズの平均粒径が4マイクロメートル未満の場合は、光の散乱によるフィルム表面の白化、すなわちヘイズの増加が生じやすくなる。樹脂ビーズの平均粒径が20マイクロメートルを超えると、光沢が生じやすくなり、低光沢性が得られにくくなる。上記範囲の平均粒径を有する樹脂ビーズは、表面層に入射した光を狭い角度で適度に散乱することができるため、表面層にクラリティー(透明性)が低く白みの少ない低光沢性を付与することができる。ここで、「クラリティー」とは、フォーカスのブレの発生に関与するパラメーターであり、例えば、積層体を通じて模様を確認した際に、模様が視認できる場合は、フォーカスのブレが生じていない、すなわちクラリティ(透明性)が高い状態であることを意味し、模様がぼやけて視認される場合は、フォーカスのブレが生じている、すなわちクラリティ(透明性)が低い状態であることを意味している。このようなクラリティ(透明性)の低下は、積層体を通過する光が狭い角度範囲で散乱する場合に生じる性能であって、広い角度での散乱として定義されるヘイズとは異なる性能である。積層体を透過した光が、広角度で散乱する場合、視認者の目に届く光の量は減少するが、広角度で散乱した光線は目に届かないため、ピントがぶれることは少ない。一方、積層体を透過した光が、狭角度(小角度)で散乱する場合には、光の大部分がわずかにずれた状態で目に届くため、目に届く光量の減少は少ないがピントがぶれた状態で視認される。つまり、ヘイズが高いからといってクラリティーが必然的に低くなるというものでもない。例えば、ヘイズが高くてもクラリティーも高い場合には、積層体を通じて模様を確認すると、全体的に白くはなるが模様はぼやけることなく視認することができる。
【0061】
いくつかの実施態様では、表面層の白化、低光沢性、クラリティー、伸張性、硬度、耐擦傷性などを考慮し、樹脂ビーズは、表面層において、バインダー100質量部を基準として、35質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、又は100質量部以上とすることができ、240質量部以下、230質量部以下、200質量部以下、180質量部以下、150質量部以下、120質量部以下、100質量部以下、又は80質量部以下とすることができる。樹脂ビーズの配合量は、かかる範囲から使用用途などに応じて適宜選定することができる。例えば、積層体を装飾用途に使用する場合には、樹脂ビーズは100~240質量部の範囲で使用することが好ましい。装飾用途では積層体は伸ばして使用される場合があるため、樹脂ビーズを比較的多く含む表面層はこのような伸びに対して追従しやすくなる。積層体を光学用途に使用する場合には、樹脂ビーズは35~80質量部の範囲で使用することが好ましい。光学用途では、表面層の硬度、耐擦傷性も要する場合があるため、無機粒子に比べて柔らかい樹脂ビーズを比較的低量で含む表面層は硬度、耐擦傷性の低下を低減又は防止することができる。
【0062】
本実施態様の表面層は、無機ナノ粒子をさらに含む。樹脂ビーズのみを含むコーティング剤を基材に塗工した場合には、樹脂ビーズはコーティング層(表面層)の内部に沈降する傾向を示すが、樹脂ビーズと無機ナノ粒子を含むコーティング剤を使用した場合には、樹脂ビーズと無機ナノ粒子はいずれもコーティング層中に均一に分散する傾向を示す。これは、樹脂ビーズと無機ナノ粒子を含むコーティング剤の場合には、塗工後に急激な粘度増加をもたらして樹脂ビーズの沈降を防いでいるためだと考えられる。このように本開示の表面層は、比較的大きな樹脂ビーズを使用しているにも関わらず、無機ナノ粒子を併用することによってかかる樹脂ビーズの沈降を防ぐことができ、樹脂ビーズを表面層の表面付近に留まらせることができるため、表面層の表面に凹凸構造を付与できると考えられる。また、本開示の積層体は、比較的柔らかい樹脂ビーズを表面層に対して大量に配合しなくても、表面層の表面に凹凸構造を付与することができるため、表面層の硬度、耐擦傷性などの性能を向上させることもできる。
【0063】
無機ナノ粒子がバインダー中に存在することで、樹脂ビーズのみでは積層体が伸ばされた場合に生じやすい低光沢性の変化を抑制し、積層体の白化を効果的に低減又は防止することができる。
【0064】
無機ナノ粒子としては特に制限はなく、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子を使用することができる。中でも、シリカナノ粒子が好ましい。シリカナノ粒子として、例えば水ガラス(ケイ酸ナトリウム溶液)を出発原料として得られるシリカゾルを使用することができる。
【0065】
無機ナノ粒子は、市販品を使用することができる。例えば、シリカ粒子としては、NALCO(商標)2327、2329(Nalco社製);アルミナ粒子としては、バイラール(商標)AL-A7(多木化学株式会社製);酸化チタン粒子としては、TTO-51(A)(石原産業株式会社製) ;酸化亜鉛粒子としては、NANOBYK(商標)3820(BYK社製);酸化ジルコニウムとしては、バイラール(商標)Zr-20(多木化学株式会社製);スズドープ酸化インジウムとしては、PI-3(三菱マテリアル電子化成株式会社製);アンチモンドープ酸化スズとしては、549541(シグマアルドリッチ社製)を使用することができる。
【0066】
無機ナノ粒子は、シラン、アルコール、アミン、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、チタネートなどの表面処理剤を用いてその表面が改質されていてもよい。
【0067】
いくつかの実施態様では、無機ナノ粒子の平均粒径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は40nm以上とすることができ、100nm以下、90nm以下、80nm以下、75nm以下、60nm以下、又は45nm以下とすることができる。無機ナノ粒子の平均粒径は、かかる範囲から使用用途などに応じて適宜選定することができる。無機ナノ粒子の平均粒径は、TEMを用いて測定される、10個以上、例えば10~100個の粒子径の平均値である。
【0068】
このように微小なサイズの無機ナノ粒子を使用することで、無機ナノ粒子を表面層中に高度に分散させることができる。その結果、コーティング層中における樹脂ビーズの沈降を低減又は抑制することができる。また、積層体が伸ばされたとしても、微小な無機ナノ粒子は延伸部に分散して残留するので、低光沢性の消失が抑えられ、フィルムの白化を効果的に低減又は防止することができる。樹脂ビーズに隣接して存在する無機ナノ粒子が、樹脂ビーズとバインダー間のある種の物理的架橋点として働く可能性もある。このような物理的架橋点として作用しうる無機ナノ粒子の存在により、樹脂ビーズの沈降が抑制され、低光沢性が発現されやすくなるとともに、積層体が伸長された場合の樹脂ビーズの脱落が抑制され、積層体の白化を効果的に低減又は防止することができると考えられる。
【0069】
いくつかの実施態様では、表面層の白化、低光沢性、クラリティー、伸張性、硬度、耐擦傷性などを考慮し、無機ナノ粒子は、表面層において、バインダー100質量部を基準として、5質量部以上、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、70質量部以上、85質量部以上、又は100質量部以上とすることができ、250質量部以下、230質量部以下、200質量部以下、170質量部以下、150質量部以下、120質量部以下、110質量部以下、100質量部以下、90質量部以下、又は80質量部以下とすることができる。無機ナノ粒子の配合量は、かかる範囲から使用用途などに応じて適宜選定することができる。例えば、積層体を装飾用途に使用する場合には、無機ナノ粒子は5~100質量部の範囲で使用することが好ましい。装飾用途では積層体は伸ばして使用される場合があるが、このような割合で無機ナノ粒子を含む表面層は、積層体の伸長時にも低光沢の外観を維持し、例えば積層体の元の長さを100%とした場合の150%伸長時に白化を低減又は防止することができる。積層体を光学用途に使用する場合には、無機ナノ粒子は70~250質量部の範囲で使用することが好ましい。このような割合で無機ナノ粒子を含む表面層は、クラリティー(透明性)が低く白みの少ない低光沢性を付与できるとともに、表面硬度及び耐擦傷性も向上させることができる。
【0070】
本実施態様の表面層は、上述した樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子を合計で、バインダー100質量部を基準として100質量部以上含むことが好ましい。いくつかの実施態様では、樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子は合計で、バインダー100質量部を基準として、120質量部以上、150質量部以上、又は170質量部以上とすることができ、900質量部以下、800質量部以下、700質量部以下、600質量部以下、500質量部以下、400質量部以下、350質量部以下、300質量部以下、又は250質量部以下とすることができる。樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子の合計量がこのような割合であると、優れた低光沢外観を呈する表面層を提供することができる。
【0071】
表面層は、その他の任意成分として、樹脂ビーズ及び無機ナノ粒子以外のフィラー、フレーク、木片、繊維、草、藁、塩、胡椒、砂糖、青海苔、ジオラマパウダー、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、レベリング剤、顔料、染料、香料などの添加剤を含んでもよい。これらの添加剤は、表面層中に分散させてもよく、或いは、表面層に振りかけて表面付近のみに配置してもよい。例えば、積層体を装飾用途として使用する場合、フレーク、木片、繊維、草、藁、塩、胡椒、砂糖、青海苔、ジオラマパウダーなどを表面層の表面に適用すると独特の風合いを提供することができる。これらの添加剤の個々の及び合計の配合量は、表面層に必要な特性を損なわない範囲で決定することができる。
【0072】
表面層を形成するための本実施態様の表面コーティング剤は、上述した表面層で用い得る各種材料を含むことができ、少なくとも、4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズと、無機ナノ粒子と、バインダー前駆体を含有する。ここで、バインダー前駆体とは、表面層において最終的にバインダーとなる成分を意味し、例えば、硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマー、これらを予め硬化させた樹脂、上述したメチルメタクリレートコポリマー、セルロースアセテートブチレートなどの非硬化性の樹脂を挙げることができる。
【0073】
表面コーティング剤の配合は表面層について説明したとおりである。上述した、樹脂ビーズ、無機ナノ粒子などの各種材料の配合量は、コーティング剤にバインダーの前駆体の形態、すなわち硬化性モノマー、硬化性オリゴマーなどの形態で含まれている場合には、基準としてバインダー100質量部をバインダー前駆体100質量部に読み替えて適用される。
【0074】
表面コーティング剤は、作業性、塗工性などを改善するために、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(1-メトキシ-2-プロピルアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルなどの溶剤をさらに含んでもよい。表面コーティング剤中の溶剤の配合量は、一般にバインダー前駆体100質量部を基準として、20質量部以上、又は30質量部以上とすることができ、60質量部以下又は50質量部以下とすることができる。
【0075】
表面コーティング剤の粘度は、一般に20mPa・s以上、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上とすることができ、1,000mPa・s以下、800mPa・s以下、又は600mPa・s以下とすることができる。表面コーティング剤の粘度はB型粘度計を用い、適当なスピンドルを選択して回転数60rpmで測定される。
【0076】
表面層は、表面コーティング剤を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって基材上にコーティングし、必要に応じて乾燥及び/又は熱硬化若しくは電離放射線硬化することによって形成することができる。
【0077】
表面層の厚みは、例えば、3マイクロメートル以上、4マイクロメートル以上、5マイクロメートル以上、6マイクロメートル以上、8マイクロメートル以上、又は10マイクロメートル以上とすることができ、50マイクロメートル以下、30マイクロメートル以下、20マイクロメートル以下、15マイクロメートル以下、又は10マイクロメートル以下とすることができる。表面層の厚みは、かかる範囲から使用用途などに応じて適宜選定することができる。例えば、積層体を光学用途に使用する場合には、低光沢性に加えて表面層の硬度、耐擦傷性も要する場合があるため、表面層の厚みは、6マイクロメートル以上又は8マイクロメートル以上と厚くすることが有利である。ここで、本開示における表面層の厚みとは、最も厚い部分の厚み、すなわち最大厚みを意味する。最大厚みは、JIS K6783に準拠し、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーター(型番:ID-C112XB)を用いて任意に5箇所以上、好ましくは10箇所において測定した値の平均値より求める。
【0078】
本開示の表面層には、平均粒径4~20マイクロメートルの樹脂ビーズが含まれている。表面層の厚さが樹脂ビーズの平均粒径よりも大きい場合、一般に樹脂ビーズは表面層内に沈降して埋没しやすいため、表面層の表面に樹脂ビーズに伴う凹凸を付与することは難しい。本開示の表面層には、このような樹脂ビーズと無機ナノ粒子が所定量含まれていることから、かかる無機ナノ粒子が樹脂ビーズの沈降を低減又は抑制することができる。その結果、たとえ表面層の厚さが樹脂ビーズの平均粒径よりも大きくても、樹脂ビーズを表面層の表面に留まらせることができるため、表面層の表面に凹凸構造を付与できるとともに、表面層の硬度又は耐擦傷性の向上効果をもたらすことができる。
【0079】
基材としては特に制限はなく、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む有機系の基材を使用することができる。基材として、ガラスなどの無機系基材、アルミニウムなどの金属系基材を使用することもできる。
【0080】
基材の形状又は構成としては特に制限はなく、例えば、フィルム形状、板形状、曲面形状、異形状、又は3次元形状であってもよく、単層構成、積層構成、又は形状の相違する複数の基材が組み合わさったような複合構成であってもよい。
【0081】
基材は有色であってもよく無色であってもよい。基材は、不透明、半透明又は透明であってよい。基材は、略平滑な表面を有してもよく、エンボスなどの表面加工により形成することのできる構造化表面を有してもよい。
【0082】
一実施態様では、基材は、透明樹脂層と有色樹脂層、例えば透明ポリ塩化ビニル樹脂層と、有色ポリ塩化ビニル樹脂層とを含んでもよい。この実施態様の積層体では、透明樹脂層により有色樹脂層が支持又は保護されるため、積層体の装飾性などに対して耐久性を付与することができる。この実施態様の積層体は、例えば建造物又は車両の内装材又は外装材に貼り付ける用途に好適に使用することができる。
【0083】
基材の厚みは、例えば、25マイクロメートル以上、50マイクロメートル以上、又は80マイクロメートル以上とすることができ、5mm以下、1mm以下、又は0.5mm以下とすることができる。
【0084】
いくつかの実施態様では、基材として、伸長可能な基材を使用することができる。伸長可能な基材の引張伸長率は、10%以上、20%以上、又は30%以上とすることができ、400%以下、350%以下、又は300%以下とすることができる。伸長可能な基材の引張伸長率は、幅25mm、長さ150mmのサンプルを用意し、引張試験機を用いて、温度20℃、引張速度300mm/分、チャック間隔100mmでサンプルを破断するまで伸長したときの、[破断時のチャック間隔(mm)-伸長前のチャック間隔(mm)(=100mm)]/伸長前のチャック間隔(mm)(=100mm)×100(%)で計算される値である。
【0085】
いくつかの実施形態では、本実施形態の積層体は、例えば、表面層と基材との間、又は表面層の反対側の基材面に、任意に、着色層、装飾層、導電層、プライマー層、接着層などの追加の層を適用してもよい。
【0086】
接着層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接着層の厚さは、一般に、5マイクロメートル以上、10マイクロメートル以上、又は20マイクロメートル以上とすることができ、100マイクロメートル以下、80マイクロメートル以下、又は50マイクロメートル以下とすることができる。
【0087】
接着層の表面にライナーが付与されていてもよい。ライナーとして、例えば、紙;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、酢酸セルロースなどのプラスチック材料;このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどにより剥離処理した表面を有してもよい。ライナーの厚さは、一般に、5マイクロメートル以上、15マイクロメートル以上又は25マイクロメートル以上とすることができ、500マイクロメートル以下、300マイクロメートル以下又は250マイクロメートル以下とすることができる。
【0088】
本実施形態の積層体は、例えば、枚葉品であってもよく、ロール状に巻かれたロール体であってもよく、或いは、3次元形状の物品であってもよい。
【0089】
本開示の積層体の表面層における表面光沢度は、測定角を60度としたときに6.0GU以下である。いくつかの実施態様では、かかる表面光沢度は、測定角60度で、5.5GU以下、5.0GU以下、又は4.5GU以下とすることができる。測定角が60度での表面光沢度の下限値については特に制限はないが、例えば、1.0GU以上又は1.5GU以上とすることができる。いくつかの実施態様では、積層体の表面層における表面光沢度は、測定角20度で、1.5GU以下、1.0GU以下、0.60GU以下、又は0.50GU以下とすることができる。測定角が20度での表面光沢度の下限値については特に制限はないが、例えば、0.10GU以上又は0.15GU以上とすることができる。いくつかの実施態様では、積層体の表面層における表面光沢度は、測定角85度で、10.0GU以下、9.0GU以下、8.0GU以下、又は7.0GU以下とすることができる。測定角が85度での表面光沢度の下限値については特に制限はないが、例えば、1.0GU以上又は1.2GU以上とすることができる。ここで、表面光沢度は、JIS Z8741に準拠して、携帯型光沢計BYKガードナー・マイクロ-トリ-グロス(ビックケミー・ジャパン株式会社、日本国東京都新宿区)を用いて測定する。
【0090】
一実施態様では、積層体の表面層における表面光沢度は、測定角20度で1.5GU以下、測定角60度で6.0GU以下、測定角85度で10.0GU以下である。いくつかの実施態様では、積層体の表面層における表面光沢度は、20度で1.0GU以下、60度で5.5GU以下、85度で9.0GU以下であり、或いは、20度で0.8GU以下、60度で5.0GU以下、85度で8.0GU以下である。積層体の表面光沢度が上記範囲の組み合わせであると、例えば、積層体を装飾用途に使用する場合には、積層体に対して様々な角度で入射する光の反射を低減又は抑制することができるため、幅広い視角から積層体の装飾を認識することができる。かかる表面光沢度を有し、かつ光を透過する性能を有する積層体は、クラリティーを低減させることができるため、光学用途、例えば液晶ディスプレイの光拡散部材として使用した場合には、RGBのグリッド線、LEDの外観などの視認性を低減又は抑制することができる。
【0091】
いくつかの実施態様では、積層体は透明又は半透明であってもよい。これらの実施態様において、積層体の波長範囲400~700nmにおける光線透過率は、80%以上、85%以上、又は90%以上とすることができる。かかる光線透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、99%以下、98%以下、97%以下、又は96%以下とすることができる。積層体がこのような光線透過率を有していると、例えば、積層体を光拡散部材などの光学用途に使用した場合には、光源からの輝度の低下を低減又は防止することができる。ここで光線透過率は、ASTM D1003に準拠して、ヘイズ-ガード プラス(BYK社製)を使用して測定する。
【0092】
いくつかの実施態様では、本開示の積層体をヘイズで評価することができる。積層体の初期ヘイズ値は、76%以上、78%以上、80%以上、又は82%以上とすることができる。初期ヘイズ値の上限値については特に制限はないが、例えば、92%以下、90%以下、又は88%以下とすることができる。積層体がこのようなヘイズ値を有していると、例えば、積層体を光拡散部材などの光学用途に使用した場合には、光源からの光を好適に拡散させることができる。ここでヘイズは、ASTM D1003に準拠して、ヘイズ-ガード プラス(BYK社製)を使用して測定する。
【0093】
いくつかの実施態様では、本開示の積層体をクラリティー(透明性)で評価することができる。積層体のクラリティーは、50%以下、40%以下、30%以下、又は20%以下とすることができる。クラリティーの下限値については特に制限はないが、例えば、5.0%以上、6.0%以上、又は7.0%以上とすることができる。積層体がこのようなクラリティーを有していると、例えば、液晶ディスプレイの光拡散部材(例えば光拡散フィルム、防眩(AG)フィルム)として使用した場合には、視認者にとって不都合なRGBのグリッド線、LEDの外観などの視認性を低減又は抑制することができる。ここでクラリティーは、ASTM D1003に準拠して、ヘイズ-ガード プラス(BYK社製)を使用して測定する。
【0094】
いくつかの実施態様では、積層体は優れた表面硬度又は耐擦傷性を有していてもよい。これらの実施態様において、積層体の表面硬度は、鉛筆硬度で評価することができ、HB以上又はF以上とすることができ、3H以下、2H以下又はH以下とすることができる。ここで鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4に準拠し、積層体のサンプルをガラス板の上に固定し、鉛筆の芯の先端に750gの荷重がかかった状態で600mm/分の速度でサンプルの表面を引っかいたときの鉛筆硬度を意味する。
【0095】
積層体の耐擦傷性は、スチールウール摩耗試験によって評価することができる。かかる試験は、スチールウール摩耗試験器(ラビングテスターIMC-157C、株式会社井元製作所製)を用い、27mm角の#0000スチールウールを使用し、350gの荷重、85mmのストローク、60サイクル/分の速さで、積層体の表面層の表面を10回(サイクル)研磨し、上述したヘイズ測定に基づくΔヘイズ値(摩耗試験後のヘイズ値-初期ヘイズ値)によって評価する。積層体のΔヘイズ値は、-2.0%~2.0%、-1.5%~1.5%、又は-1.0%~1.0%にすることができる。
【0096】
いくつかの実施態様では、積層体の明度L*は、分光測色計を用いて光源D65/10°、正反射処理SCI、UV反射0%にて測定したときに、23以下、22.5以下、又は22.0以下である。
【0097】
いくつかの実施態様では、積層体が伸長性を有する場合において、積層体の伸長前の明度をL*
1、150%伸長後の明度をL*
2、明度差をΔL*=L*
2-L*
1としたときに、明度差ΔL*が3.0以下、2.5以下、又は2.0以下である。この実施態様では、積層体を伸長したときの白化が抑制されている。そのため、例えば積層体を装飾用途に使用した場合において、積層体を曲げたり伸ばしたりして表面に適用したときに、屈曲部又は伸長部においても積層体の装飾性を維持することができる。
【0098】
本開示の積層体の用途は特に限定されない。例えば、本開示の積層体は、装飾用途、光学用途などに使用することができる。例えば、本開示の積層体は、ビル、マンション、住宅等の建造物の壁、階段、天井、柱、仕切り等の内装材、又は外壁等の外装材として使用でき、鉄道車両、船舶、飛行機、二輪、四輪を含む自動車等の各種交通車両の内装又は外装として使用でき、また、道路標識、看板、家具、電化製品等あらゆる物品の表装材として使用することも可能である。さらに、本開示の積層体は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL表示装置などの表示装置に用いられる光拡散部材、例えばバックライトの輝度の均一性を確保するための光拡散フィルム若しくは光拡散板、又は蛍光灯の光などの映り込みを低減若しくは防止するための防眩(AG)フィルムなどとして使用することも可能である。
【実施例】
【0099】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。数値は本質的に測定原理及び測定装置に起因する誤差を含む。数値は通常の丸め処理が行われた有効数字で示される。
【0100】
本実施例で使用した材料、試薬等を表1に示す。
【0101】
【0102】
〈変性シリカゾルの調製〉
5.95gのSILQUEST(商標)A-174、及び0.5gのPROSTAB(商標)を、ガラス瓶中の400gのNALCO(商標)2329及び450gのMIPAの混合物に加え、10分間室温で撹拌した。ガラス瓶を密封し、80℃のオーブン内に16時間静置した。得られた溶液から、溶液の固形分が45質量%近くになるまで60℃でロータリーエバポレーターを用いて水を除去した。得られた溶液に200gのMIPAを投入し、次いで、60℃でロータリーエバポレーターを使用して残りの水を除去した。後半のステップを2回繰り返して溶液からさらに水を取り除いた。最後に、MIPAを加えることで全SiO2ナノ粒子の濃度を47.5質量%に調整して、75nmの平均粒径を有する表面改質SiO2ナノ粒子を含有するSiO2ゾル(以下、変性シリカゾルという。)を得た。
【0103】
〈コーティング剤1の調製〉
2.4gのCN991NS、1.6gのCN996NS、3.2gのSR531及び0.8gのSR833を混合した。光重合開始剤として0.08gのIrgacure 184、及び0.016gのTEGO(商標)Rad 2250を混合物に添加した。次いで、12.00gのIPAを混合物に加え、コーティング剤1を調製した。
【0104】
〈コーティング剤2の調製〉
16.0gのアートパール(商標)CE-800T、4.48gのEBECRYL(商標)8701、1.6gのSR833を混合した。光重合開始剤として0.24gのESACURE(商標)ONE、0.016gのTEGO(商標)Rad 2250及び0.32gのCAB-381-2を混合物に添加した。次いで、12.00gのMIPAを混合物に加え、コーティング剤2を調製した。
【0105】
〈コーティング剤3~17の調製〉
下記の表2~表3に示される配合割合を採用したこと以外は、コーティング剤2と同様にしてコーティング剤3~17を各々調製した。なお、表2及び表3中の配合量は全て質量部である。
【0106】
【0107】
【0108】
〈例1〉
#20のメイヤーロッドを用いて、コーティング剤5を基材(PCLR#100)上に塗布し、8~12マイクロメートル厚のコーティング層を形成した。大気雰囲気下において60℃で5分間乾燥した後、コーティング層を適用した基材を、窒素雰囲気下で紫外線照射器(Fusion UV System Inc.のH-バルブ(DRSモデル))に二度通して、コーティング層を硬化させた。このとき、照度700mW/cm2、積算光量900mJ/cm2の条件で、紫外線(UV-A)をコーティング層に対して照射した。このようにして、厚さ約12~約15マイクロメートルのコーティング層を有する積層体を作製した。
【0109】
〈例2~8〉
表4及び表5に示されるコーティング剤を使用したこと以外は、例1と同様にして例2~例8の積層体を作製した。
【0110】
〈比較例1〉
拡散シートである市販のSabic Gen I PCを使用した。
【0111】
〈比較例2〉
拡散シートである市販のKeiwa LH PCを使用した。
【0112】
〈比較例3〉
基材として用いた市販のPCLR#100を使用した。
【0113】
〈比較例4~12〉
表4及び表5に示されるコーティング剤を使用したこと以外は、例1と同様にして比較例4~12の積層体を作製した。
【0114】
例1~8及び比較例1~12の各サンプルについて下記の評価を実施し、その結果を表4及び表5に示す。
【0115】
(表面光沢度)
JIS Z8741に準拠して、携帯型光沢計BYKガードナー・マイクロ-トリ-グロス(ビックケミー・ジャパン株式会社)を用いて、各サンプルの表面光沢度を測定角20°、60°、85°にて測定した。
【0116】
(可視光領域における光学特性)
各サンプルの光学特性を、ASTM D1003に準拠して、ヘイズ-ガード プラス(BYK社製)を使用して測定した。ここで光学特性としては、可視光領域(波長400~700nm)における、光線透過率、ヘイズ、及びクラリティー(透明性)を評価した。
【0117】
(表面硬度)
JIS K5600-5-4に準拠し、各サンプルをガラス板の上に固定し、鉛筆の芯の先端に750gの荷重がかかった状態で600mm/分の速度でサンプルの表面を引っかいて測定した鉛筆硬度から各サンプルの表面硬度を評価した。
【0118】
(耐擦傷性)
スチールウール摩耗試験後の光学特性の変化によって各サンプルの耐擦傷性を評価した。かかる試験は、摩耗試験器(ラビングテスターIMC-157C、株式会社井元製作所製)を用い、27mm角の#0000スチールウールを使用し、350gの荷重、85mmのストローク、60サイクル/分の速さで、各サンプルの表面層等の表面を10回(サイクル)研磨して実施した。上記の光学特性と同様にして、研磨後のサンプルに対し、可視光領域(波長400~700nm)における、光線透過率、ヘイズ、クラリティー、及びΔヘイズ(摩耗試験後のヘイズ-初期ヘイズ)を評価した。
【0119】
【0120】
【0121】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0122】
100 積層体
10 表面層
12 バインダー
14 樹脂ビーズ
16 無機ナノ粒子
20 基材
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目12]に記載する。
[項目1]
基材、並びに、
4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダーを含有する表面層であって、該表面層は、前記バインダー100質量部を基準として、前記樹脂ビーズ及び前記無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、6.0GU以下の60度表面光沢度を有する、表面層、
を含む、積層体。
[項目2]
前記無機ナノ粒子の平均粒径が、10nm以上、100nm以下である、項目1に記載の積層体。
[項目3]
前記バインダーが、電離放射線硬化型組成物の硬化物を含む、項目1又は2に記載の積層体。
[項目4]
前記表面層の表面光沢度が、20度で1.5GU以下、60度で6.0GU以下、及び85度で10.0GU以下である、項目1~3のいずれか一項に記載の積層体。
[項目5]
前記基材が、有色又は無色であり、不透明、半透明又は透明であり、かつ、略平滑な表面又は構造化表面を有する、項目1~4のいずれか一項に記載の積層体。
[項目6]
前記基材が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の積層体。
[項目7]
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記樹脂ビーズを35質量部以上、80質量部以下含み、かつ、前記無機ナノ粒子を70質量部以上、250質量部以下含む、光学用途に使用される、項目1~6のいずれか一項に記載の積層体。
[項目8]
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記樹脂ビーズを100質量部以上、240質量部以下含み、かつ、前記無機ナノ粒子を5質量部以上、100質量部以下含む、装飾用途に使用される、項目1~6のいずれか一項に記載の積層体。
[項目9]
前記表面層の厚さが、3マイクロメートル以上である、項目1~8のいずれか一項に記載の積層体。
[項目10]
前記表面層の厚さが、前記樹脂ビーズの平均粒径よりも大きく、かつ、HB以上の鉛筆硬度を有する、項目1~9のいずれか一項に記載の積層体。
[項目11]
前記積層体の伸長前の明度をL
*
1
、前記積層体の150%伸長後の明度をL
*
2
、明度差をΔL
*
=L
*
2
-L
*
1
としたときに、明度差ΔL
*
が3.0以下である、項目1~9のいずれか1項に記載の積層体。
[項目12]
4マイクロメートル以上、20マイクロメートル以下の平均粒径を有する樹脂ビーズ、無機ナノ粒子、及びバインダー前駆体を含有する表面コーティング剤であって、
前記バインダー前駆体100質量部を基準として、前記樹脂ビーズ及び前記無機ナノ粒子を合計で100質量部以上含み、かつ、前記コーティング剤によって形成された表面層が、6.0GU以下の60度表面光沢度を呈する、表面コーティング剤。