(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】導電性エンドレスベルト及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20230815BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
(21)【出願番号】P 2019106421
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】522345803
【氏名又は名称】株式会社アーケム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】裏川 達也
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-184785(JP,A)
【文献】特開2013-142878(JP,A)
【文献】特開2007-156424(JP,A)
【文献】特開2008-292842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、無端の基材層と、当該基材層の外周側の最表面に形成された表層とを備えた、画像形成装置に用いられる導電性エンドレスベルトであって、
前記表層は、紫外線硬化性樹脂と、少なくとも両末端にメタクリル基を有する変性ポリジメチルシロキサンとを含み、
前記変性ポリジメチルシロキサンの分子量が、3000
~10000であり、
前記表層における前記変性ポリジメチルシロキサンの含有量が、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して1~4質量部であり、
前記基材層は、ポリブチレンナフタレート樹脂及びポリブチレンナフタレートエラストマーを含むことを特徴とする、導電性エンドレスベルト。
【請求項2】
前記変性ポリジメチルシロキサンは、前記メタクリル基を両末端のみに有することを特徴とする、請求項1に記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂が、ウレタンアクリレートを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性エンドレスベルトを、中間転写ベルトとして備えることを特徴とする、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性エンドレスベルト及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタ(LBP)等の電子写真方式の画像形成装置として、中間転写ベルトを用いる中間転写方式の画像形成装置が知られている。かかる中間転写方式の画像形成装置では、感光ドラム上に形成されたトナー像が中間転写ベルトに一次転写され、その後、中間転写ベルト上のトナー像が記録媒体上に二次転写される。ここで、該中間転写ベルトとしては、無端状のベルトである導電性エンドレスベルトが用いられている。
【0003】
前記中間転写ベルトとしては、一般に、
図1に例示するような、ベルト本体である基材層2と当該基材層2上の表層3とを備える複数層構造の導電性エンドレスベルト1が用いられている。
感光ドラム上のトナー像は、導電性エンドレスベルトの表層に1次転写され、その後、表層から記録媒体上に2次転写される。
【0004】
このように導電性エンドレスベルトは、感光ドラムから1次転写されたトナー像を記録媒体に2次転写する機能を有することから、導電性エンドレスベルトには、2次転写時にトナー像が導電性エンドレスベルトに残存せずに記録媒体に転写される性能、すなわち、トナー剥離性が要求される。導電性エンドレスベルトのトナー剥離性が低いと、記録媒体に2次転写されるトナー像が不十分となり、画像品質の低下につながるおそれがある。また、トナー剥離性が低いと、導電性エンドレスベルトに残存したトナーが廃トナーとなるため、材料の利用効率が低下し、省資源化の観点からも好ましくない。
【0005】
そのため、例えば特許文献1では、1分子当たり、アクリロイル基およびメタクリロイル基から選択される1種以上を4個以上有するポリシロキサンを含有するシリコーン樹脂を表層中に用いることによって、中間転写ベルトから記録媒体への画像を転写する際の転写効率を向上させるとともに、画像形成装置の使用に伴う経時的なトナー剥離性の低下抑制を図った導電性エンドレスベルトが開示されている。
【0006】
また、前記中間転写方式の画像成形装置においては、トナー像を中間転写ベルトとしての導電性エンドレスベルトに転写する前に、導電性エンドレスベルトの表面のトナーを除去するクリーニング工程が必要となる。該クリーニング工程では、クリーニング部材としてウレタンゴム等の弾性体で形成されたクリーニングブレードを用いるクリーニング方式が多く採用されている。そのため、クリーニングブレードと、中間転写ベルトとしての導電性エンドレスベルトとの間で摩擦が生じ、また、クリーニングブレードが摩耗することで、クリーニング性能が低下して、クリーニング不良が発生してしまうという問題があった。
【0007】
そのため、クリーニングブレード摩耗を抑えることを目的として、例えば特許文献2には、中間転写ベルトとクリーニングブレードとの接触部に固体潤滑剤を滞留させることによって、中間転写ベルトとクリーニングブレードとの間の摩擦力を低減する画像形成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/174042号
【文献】特開2017-182081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示された画像形成装置では、クリーニングブレードの摩耗を抑制することができるものの、固体潤滑剤によって、表面粗さが大きくなる等、中間転写ベルトの表面性状が悪化し、所望の画像品質が得られないことが考えられた。
【0010】
そのため、本発明の目的は、表面性状の悪化を招くことなく、クリーニングブレードの摩耗を抑制することができる、導電性エンドレスベルトを提供することにある。また、本発明の他の目的は、クリーニングブレードの摩耗を抑制できるとともに、画像品質に優れた、画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導電性エンドレスベルトは、少なくとも、無端の基材層と、当該基材層の外周側の最表面に形成された表層とを備えた、画像形成装置に用いられる導電性エンドレスベルトであって、
前記表層は、紫外線硬化性樹脂と、少なくとも、両末端にメタクリル基を有する変性ポリジメチルシロキサンとを含み、前記変性ポリジメチルシロキサンの分子量が、2000以上であり、前記表層における前記変性ポリジメチルシロキサンの含有量が、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して1~4質量部であることを特徴とする。
上記構成を具えることによって、表面性状の悪化を招くことなく、クリーニングブレードの摩耗を抑制可能な導電性エンドレスベルトを提供できる。
【0012】
また、本発明の導電性エンドレスベルトについては、前記変性ポリジメチルシロキサンは、前記メタクリル基を両末端のみに有することが好ましい。良好な表面性状と、クリーニングブレードの摩耗抑制効果とを、より高いレベルで両立できるためである。
【0013】
さらに、本発明の導電性エンドレスベルトについては、前記紫外線硬化性樹脂が、ウレタンアクリレートを含むことが好ましい。表層の表面性を高めることができるためである。
【0014】
さらにまた、本発明の導電性エンドレスベルトについては、前記基材層は、ポリブチレンナフタレート樹脂及びポリブチレンナフタレートエラストマーを含むことが好ましい。ベルトの巻き癖の発生を抑制しつつ、耐久性を高めることができるためである。
【0015】
本発明の画像形成装置は、上述した本発明の導電性エンドレスベルトを、中間転写ベルトとして備えることを特徴とする。
上記構成によって、クリーニングブレードの摩耗を抑制できるとともに、優れた画像品質を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表面性状の悪化を招くことなく、クリーニングブレードの摩耗を抑制することができる導電性エンドレスベルトを提供することが可能となる。また、本発明によれば、クリーニングブレードの摩耗を抑制できるとともに、画像品質に優れた画像形成装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルトを模式的に示した、厚み方向の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルトを中間転写ベルトとして用いた、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の一部を模式的に示した、概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<導電性エンドレスベルト>
以下に、本発明の導電性エンドレスベルトを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルトを模式的に示した、厚み方向の断面図である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルト1は、
図1に示すように、無端のベルト本体である基材層2と、当該基材層の外周側の最表面に形成された表層3と、を備える。なお、前記基材層2と前記表層3との間に、プライマー層などのその他の層を任意に備えることもできる。
以下、本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルト1を構成する部材について、例示説明する。
(基材層)
本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルト1は、無端の基材層2を備える。該基材層2は、無端のベルト本体を構成する必須部材である。
【0020】
なお、前記基材層2の構成については、特に限定されず、従来公知の導電性エンドレスベルトの基材層を用いることができる。
【0021】
前記基材層2は、種々の材料から形成することができる。特に限定されるものではない。例えば、ポリアルキレンナフタレート樹脂等の熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、ポリアルキレンナフタレート樹脂と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)と、を含有することが更に好ましい。
ここで、基材層中のPBTの含有量は、基材層中の樹脂成分の36質量%以上であることが好ましい。PBTの含有量が36質量%以上であると、電気抵抗に電圧依存性を有するベルトとすることができる。また、基材層中のPBTの含有量は、基材層中の樹脂成分の60質量%以下であることが好ましく、44質量%以下であることが更に好ましい。
【0022】
前記ポリアルキレンナフタレート樹脂としては、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)等が挙げられる。これらの中でも、PBNが好ましい。なお、これらの樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記基材層2は、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)とポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とを含むことが更に好ましく、ここで、PBNとPBTの質量比率(PBNの質量/PBTの質量)は0.64~1.5の範囲が好ましい。PBNとPBTの質量比率が0.64~1.5の場合、電気抵抗に電圧依存性を有すると共に、巻き癖の発生を抑制したベルトとすることができる。ここで、巻き癖とは、ベルトを一定時間固定した際に、ベルトを固定していた形状によって、ベルトに痕が残ってしまう現象をいう。前記質量比率にするためには、基材層中のPBNの含有量は、基材層中の樹脂成分の46~54質量%であることが好ましい。
【0024】
前記基材層2は、更に、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。基材層が熱可塑性エラストマーを含有することで、ベルトの耐折れ性等の耐久性を向上させることができる。ここで、熱可塑性エラストマーとしては、特に制限されるものではなく、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエーテル系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましく、特には、ポリブチレンナフタレートエラストマーが好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマー、特には、ポリブチレンナフタレートエラストマーを用いることで、ベルトが柔らかくなり、ベルトの耐久性が更に向上する。なお、熱可塑性エラストマーの含有量は、基材層中の樹脂成分の40質量%以下であることが好ましく、5~30質量%の範囲が更に好ましい。なお、前記基材層中の樹脂成分については、上述した熱可塑性エラストマーも含んでいる。
【0025】
そのため、前記基材層2は、ベルトの巻き癖の発生を抑制しつつ、耐久性を大きく向上できる観点からは、前記熱可塑性ポリブチレンナフタレート樹脂及び前記ポリブチレンナフタレートエラストマーをいずれも含むことが、特に好ましい。
【0026】
また、前記基材層2は、更に、カルボジイミド化合物を含むことが好ましい。熱可塑性ポリアルキレンナフタレート樹脂や、熱可塑性ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等のポリエステル系材料は、成形加熱時において加水分解による分子量の低下を引き起こし易いが、これらポリエステル系材料の加水分解によって生じたカルボキシル基と、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基とが反応して再架橋することで、分子量の低下を抑制できる。これにより、ベルトの脆化を防止することができ、耐久時におけるベルトの耐割れ性を向上させることができる。該カルボジイミド化合物としては、市販品を利用することができ、例えば、日清紡ケミカル社製の商品名「カルボジライト」等が挙げられる。また、該カルボジイミド化合物は、予めマスターバッチ化されたペレット等の形態でも用いることができ、例えば、日清紡ケミカル社製の商品名「カルボジライトEペレット」、「カルボジライトBペレット」等が挙げられる。前記カルボジイミド化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、基材層中の樹脂成分100質量部に対して、0.05~30質量部の範囲が好ましく、0.1~5質量部の範囲が更に好ましい。
【0027】
前記基材層2には、導電性を調整するために、導電剤を適宜含有させることができる。
前記基材層2に含有される導電剤としては、特に限定されず、例えば、従来公知の電子導電性物質、イオン導電性物質等を挙げることができる。このような導電剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記電子導電性物質としては、例えば、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラックなどの導電性カーボン;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MTなどのゴム用カーボン;酸化処理などを施したカラー(インク)用カーボン;熱分解カーボン;天然グラファイト;人造グラファイト;ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム、アンチモンドープの酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属および金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンなどの導電性ポリマー、などが挙げられる。
【0029】
前記イオン導電性物質としては、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウムなどの無機イオン性導電物質;トリデシルメチルジヒドロキシエチルアンモニウムパークロレート、ラウリルトリメチルアンモニウムパークロレート、変性脂肪族・ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3’-ドデシロキシ-2’-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムエトサルフェート、ステアルアミドプロピルジメチル-β-ヒドロキシエチル-アンモニウム-ジハイドロジェンフォスフェート、テトラブチルアンモニウムホウフッ酸塩、ステアリルアンモニウムアセテート、ラウリルアンモニウムアセテートなどの第4級アンモニウムの過塩素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、メチルサルフェート塩、リン酸塩、ホウフッ化水素酸塩;アセテートなどの有機イオン性導電物質;電荷移動錯体、などが挙げられる。
【0030】
前記導電剤の添加量は、目的とする導電性エンドレスベルトの導電性に応じて、適宜調整できるが、例えば、導電剤が電子導電剤の場合、該電子導電剤の添加量は、基材層中の樹脂成分100質量部に対して、好ましくは1~100質量部、より好ましくは1~80質量部、より一層好ましくは5~50質量部であり、また、導電剤がイオン導電剤の場合、該イオン導電剤の添加量は、基材層中の樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部である。また、特には、導電剤としてカーボンブラックを用いる場合は、該カーボンブラックを、前記樹脂成分100質量部に対し、5~30質量部添加することが好ましい。
【0031】
前記基材層2には、上述したカルボジイミド化合物及び導電剤以外の添加剤を含有させることができる。かかる添加剤としては、例えば、各種充填材、補強材、難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、相溶化剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、架橋剤、着色剤等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、それぞれ、基材層中の樹脂成分100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲が好ましい。
【0032】
前記基材層2の厚さは、適用される部材等の形態に応じて適宜選択することができるが、好ましくは50~200μmの範囲である。また、
図1に示す導電性エンドレスベルト1の基材層2は1層からなるが、前記基材層は、2層以上から構成されていていてもよい。
【0033】
なお、前記基材層2は、表層3との接着性を向上させるために、プライマー処理、プラズマ処理、コロナ処理などの従来公知の表面処理を施してもよい。この他、基材層上に直接、表層が設けられる場合、基材層の表層側表面に、表層を形成する組成物中の紫外線硬化性樹脂、溶媒などが浸透した領域が存在してもよい。
【0034】
(表層)
本発明の一実施形態に係る導電性エンドレスベルト1は、
図1に示すように、前記基材層2上に、表層3を備える。
そして、前記表層3は、紫外線硬化性樹脂と、変性ポリジメチルシロキサンと、を含む。
以下、紫外線硬化性樹脂、変性ポリジメチルシロキサン、及び、必要に応じて添加することができるその他の成分について、例示説明する。
【0035】
前記紫外線硬化性樹脂は、紫外線の照射によって硬化して表層のマトリクス(バインダーともいう)となり得る成分であり、従来公知の導電性エンドレスベルトに用いられている紫外線硬化性樹脂を用いることができる。
【0036】
このような紫外線硬化性樹脂としては、例えば、分子中に重合性不飽和基を有するオリゴマーや、モノマー等が挙げられる。
なお、本発明の導電性エンドレスベルトにおいて表層に含まれる「紫外線硬化性樹脂」には、後述する変性ポリジメチルシロキサン等の「シリコーン樹脂」を含まないものとする。
【0037】
前記重合性不飽和基を有するオリゴマーとしては、(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。該(メタ)アクリレートオリゴマーとして、具体的には、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを指す(以下、同じ)。
【0038】
前記重合性不飽和基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルモノマーが好ましい。該(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。また、該(メタ)アクリレートモノマーとして、具体的には、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリルモノマー」とは、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーを指し(以下、同じ)、また、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸を指す(以下、同じ)。
【0039】
また、前記紫外線硬化樹脂としては、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレート及びアクリルモノマーのうちの少なくとも一種を含むことが好ましく、少なくともウレタンアクリレートを含むことがより好ましい。表層が、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレート及びアクリルモノマーのうちの少なくとも一種を含む場合、表層形成後、更に研磨した後の表面の欠陥が少なくなり、導電性エンドレスベルトの表面性が良好となる。これら紫外線硬化性樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
前記変性ポリジメチルシロキサンは、少なくとも両末端にメタクリル基を有する変性ポリジメチルシロキサンである。
少なくとも両末端にメタクリル基を有する変性ポリジメチルシロキサンは、反応性が低く、前記表層中に含まれることによって、表層の摩擦係数を小さくすることができる結果、接触するクリーニングブレードの摩耗を抑えることができると考えられる。そして、本発明の導電性エンドレスベルトにおける表層は、表面に潤滑剤等を滞在させることがないため、表層の表面性状の悪化を招くこともなく、良好な画像品質を維持できる。
【0041】
前記変性ポリジメチルシロキサンは、メタクリル基を1分子中の少なくとも両末端に有すればよく、ポリジメチルシロキサンのポリマー分子の末端以外の部分(主鎖や側鎖)に有することもできる。
また、前記変性ポリジメチルシロキサン中のメタクリル基の合計数は、記表層の摩擦係数をより小さくでき、良好な表面性状と、クリーニングブレードの摩耗を抑制効果とを、より高いレベルで両立できる観点からは、1分子当たり、2~6個であることが好ましく、両末端のみに有する(メタクリル基の数が2個である)ことがより好ましい。
【0042】
なお、ポリシロキサンの主鎖の繰り返し単位は、一般式-[C
2H
6OSi]
n-で表すことができる。繰り返しの数(n)については、要求される分子量に応じて適宜変更することができる。
例えば、両末端のみにメタクリル基を有する変性ポリジメチルシロキサンの構造は、以下のとおり示すことができる。
【化1】
【0043】
また、前記変性ポリジメチルシロキサンは、その分子量が2000以上である。該変性ポリジメチルシロキサンを含む表層の成膜性を高め、所望の画像品質を得るためである。同様の観点から、前記変性ポリジメチルシロキサンの分子量は、2500以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましい。
なお、前記変性ポリジメチルシロキサンの分子量は、前記表層の表面状態を正常に保ち、画像品質の低下を防ぐ観点からは、7500以下であることが好ましい。
【0044】
さらに、前記表層における前記変性ポリジメチルシロキサンの含有量は、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して1~4質量部である。
前記変性ポリジメチルシロキサンの含有量を、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して1質量部以上とすることによって、クリーニングブレードの摩耗を十分に抑制でき、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して4質量部以下とすることによって、表層の柔軟性や、表層と基材層との間の接着性を十分に確保できる。同様の観点から、前記変性ポリジメチルシロキサンの含有量は、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して1~2質量部であることが好ましい。
【0045】
また、前記表層3には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記紫外線硬化性樹脂及び前記変性ポリジメチルシロキサンに加えて、用途や、トナー剥離性等の他の性能向上を目的として、適宜、導電剤、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、光安定剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、接着剤、防汚剤、難燃剤、分散剤等の公知の添加剤を、さらに含むこともできる。また、前記表層3を形成する際の塗工性向上のために、メチルエチルケトンなどの溶剤を前記表層3中に添加することもできる。
前記任意成分の含有量は、用途や、要求される性能等に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、前記導電剤をさらに含む場合、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部とすることができる。さらに、その他の任意成分についても、例えば、前記紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.01~10質量部とすることができる。
【0046】
前記表層3の厚みは、導電性エンドレスベルトとしての導電性を確保することができる範囲であれば特に限定されず、従来公知の表層の厚みとすればよい。前記表層3の厚みとしては、例えば、2~8μmの範囲とすることができる。前記表層3の厚さが2μm以上であれば、導電性エンドレスベルト1の表面性が良好であり、また、8μm以下であれば、導電性エンドレスベルトの耐久性を良好に維持できる。
【0047】
なお、前記表層3を形成する際には、上述した紫外線硬化性樹脂、変性ポリジメチルシロキサン及びその他の成分を含む表層形成用組成物を、前記基材層上に塗工することによって形成することができる。前記表層形成用組成物中の調製方法は特に限定されず、例えば、溶媒を用いて含有する各成分を混合することにより調製することができる。
前記表層形成用組成物の塗工方法についても特に限定はされず、例えば、スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングなどの従来公知の方法を用いて塗布することにより、塗膜を形成し、乾燥させ、乾燥させた塗膜に紫外線を照射して表層形成用組成物を硬化させて表層3を形成することができる。前記紫外線照射における積算照射エネルギーとしては、適宜調節すればよいが、例えば、100mJ/cm2~1500mJ/cm2の範囲とすることができる。
【0048】
(その他の層)
本発明に係る導電性エンドレスベルト1のその他の層としては、例えば、基材層2と表層3との接着性向上のためのプライマー層が挙げられる。プライマー層としては、従来公知のアクリル系のプライマー層を用いることができる。
【0049】
なお、本発明の導電性エンドレスベルトは、上述したように、画像品質に優れるとともに、優れたトナー剥離性も発揮し得るため、上述した中間転写ベルトに加えて、画像形成装置におけるトナーカートリッジの転写ベルト等としても用いることが可能である。
【0050】
<画像形成装置>
本発明の一実施形態に係る画像形成装置は、中間転写ベルトとして本発明の導電性エンドレスベルトを備える。
これにより、本発明の一実施形態に係る画像形成装置は、クリーニングブレードの摩耗を抑制でき、優れた画像品質を得ることが可能となる。また、前記クリーニングブレードが長期間にわたって摩耗しないため、優れた画像品質を長期間得ることが可能となる。
なお、本発明の画像形成装置は、上述した本発明に係る導電性エンドレスを中間転写ベルトとして用いること以外は、従来公知の中間転写ベルト方式の画像形成装置を採用することができる。
【0051】
ここで、
図2は、本願の一実施形態に係る画像形成装置100の一部を示した概略図である。本願の一実施形態に係る画像形成装置100は、中間転写ベルト11と、感光ドラム12a,12b,12c,12dと、第1現像部13a、第2現像部13b、第3現像部13c及び第4現像部13dと、クリーニングブレード16を有するクリーニング部15と、駆動ローラ17と、2次転写ローラ18と、記録媒体送り装置19と、定着装置20と、を備える。
図2に示した画像形成装置100においては、感光ドラム12a,12b,12c,12d上の静電潜像をそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックにより現像する第1現像部13a、第2現像部13b、第3現像部13c、第4現像部13dが、中間転写ベルト11に沿って順次配置されており、この中間転写ベルト11を図中の矢印方向に循環駆動させて、各現像部13a,13b,13c,13dの感光ドラム12a,12b,12c,12d上に形成された4色のトナー像を順次転写することにより、中間転写ベルト11上にカラーのトナー像を形成し、このトナー像を紙等の記録媒体14上に転写することにより、プリントアウトを行う。記録媒体14上への転写後に、中間転写ベルト11上に残存するトナーは、クリーニング部15のクリーニングブレード16により掻き取られる。また、
図2中、符号17は、中間転写ベルト11を循環駆動するための駆動ローラ(又はテンションローラ)を示し、符号18は、2次転写ローラを示し、符号19は、記録媒体送り装置を示し、符号20は、記録媒体上の画像を加熱等により定着させる定着装置を示す。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(サンプル1~13)
以下の手順で、各サンプルの導電性エンドレスベルトを作製した。
(1)基材層の作製
熱可塑性ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN、帝人社製、商品名「TQB-OT」)85質量部と、熱可塑性エラストマー(東洋紡社製、商品名「ペルプレンEN-16000」)15質量部と、カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製、商品名「カルボジライトHMV-8CA」)0.3質量部と、導電性カーボン(アセチレンブラック、デンカ社製、商品名「デンカブラック」)18~20質量部と、を2軸混練機で混合分散して、ペレットを得た。配合量は、いずれの成分についても、樹脂成分100質量部に対する量とする。
得られたペレットを用いて、単軸押し出し機の先に円筒状のダイスを具えた成形機にて押出成形することにより、内径250mm、厚さ80μm、幅250mmにて、エンドレス形状のベルトの基材層を作製した。
【0054】
(2)表層の作製
上記のようにして作製した基材層の表面に、表1に示す配合の表層形成用組成物を、硬化後の厚さが1μmになるようにスプレーコーティングにより塗布して、塗膜を形成した。
なお、表層形成用組成物には、表1に示す紫外線硬化性樹脂及び変性ポリジメチルシロキサンの他に、光重合開始剤(IGM Resins.B.V社製、商品名「Omnirad184」)を5質量部、光重合開始剤(IGM Resins.B.V社製、商品名「Omnirad819」)を0.5質量部、さらには導電性金属酸化物(レジノカラー工業社製)を15質量部加えた。配合量は、いずれの成分についても、紫外線硬化樹脂100質量部に対する量とする。
次に、塗膜を、50℃で2分間乾燥させた。
その後、ライトハンマー6(へレウス社製)を用いて、照度100~700mW/cm2、積算光量200~3000mJ/cm2、窒素パージ下の条件で紫外線を照射して、塗膜を硬化させて、表層を形成した。
【0055】
(評価)
作製した各サンプルの導電性エンドレスベルトについて、以下の方法で、(1)表面粗さ、(2)摩擦係数変化の評価を行った。
【0056】
(1)表面粗さ
各サンプルの導電性エンドレスベルトの表面粗さRz(最大高さ粗さ)を、JIS B 0601に準拠して測定した。
測定したRzについては、以下の基準に従って評価を行った。評価結果を表1に示す。
○:Rz≦0.3
×:Rz>0.3
【0057】
(2)摩擦係数変化
各サンプルの導電性エンドレスベルトの表面の摩擦係数を、バランスアームを持つ装置(表面性試験機Type38(新東科学株式会社製))を使用して測定した。端子には熱硬化ウレタンやSUSボールを樹脂フィルムでくるんだ球体のものを用いてベルトと接触させ、端子とベルト間の動摩擦係数を測定した。端子の走査速度は60mm/min、荷重は50gとした。
アクリル樹脂粒子とベルトを擦り、擦った部分(摩擦係数が大)と擦っていない部分(摩擦係数が小)の摩擦係数の差を評価基準とする。摩擦係数の差が小さい程、クリーニング不良を抑制できることを示す。
樹脂粒子の擦り方は、摩擦摩耗試験機(FPR2100(レスカ製))を用い、端子にアクリル樹脂微粒子をまぶしてベルト表面に接触させたのち、線速度150mm/s、半径15mm、荷重50gで20min円運動させて実施した。評価は、以下の基準に従って行い、評価結果を表1に示す。
○:擦った部分と擦っていない部分の摩擦係数の差が0.1以下
△:擦った部分と擦っていない部分の摩擦係数の差が0.1超0.2未満
×:擦った部分と擦っていない部分の摩擦係数の差が0.2以上
【0058】
【0059】
*1 紫外線硬化性樹脂:共栄社化学株式会社製「UA-306H」
*2 両末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン1:JNC株式会社製「サイラプレーン(登録商標)FM-7711」、分子量1000
*3 両末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン2:JNC株式会社製「サイラプレーン(登録商標)FM-7721」、分子量5000
*4 両末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン3:JNC株式会社製「サイラプレーン(登録商標)FM-7725」、分子量10000
*5 アクリル変性ポリジメチルシロキサン:エボニック デグサ社製「TEGO(登録商標) Rad2300」
*6 紫外線硬化型シリコーンアクリルポリマー:大成ファインケミカル株式会社製「8SS-723」
【0060】
表1の結果から、実施例の範囲に属する各サンプルの導電性エンドレスベルトは、比較例の範囲に属する各サンプルの導電性エンドレスベルトに比べて、表面粗さが適正範囲であり、摩擦係数の変化(上昇)が小さく、バランスの良い結果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、表面性状の悪化を招くことなく、クリーニングブレードの摩耗を抑制することができる導電性エンドレスベルトを提供することが可能となる。また、本発明によれば、クリーニングブレードの摩耗を抑制できるとともに、画像品質に優れた画像形成装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1:導電性エンドレスベルト、 2:基材層、 3:表層、 11:中間転写ベルト(導電性エンドレスベルト)、 12a,12b,12c,12d:感光ドラム、 13a,13b,13c,13d:現像部、 14:記録媒体、 15:クリーニング部、 16:クリーニングブレード、 17:駆動ローラ(又はテンションローラ)、 18:2次転写ローラ、 19:記録媒体送り装置、 20:定着装置