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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】高周波誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/10 20060101AFI20230815BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20230815BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20230815BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20230815BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C21D1/10 R
C21D1/42 J
C21D9/28 B
H05B6/10 371
H05B6/36 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019115556
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001367
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】久保 啓一
(72)【発明者】
【氏名】和田 進
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-157296(JP,U)
【文献】実開昭59-113342(JP,U)
【文献】実開平04-078257(JP,U)
【文献】国際公開第2018/020873(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104301(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101089202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/10
C21D 1/42
C21D 9/28
H05B 6/10
H05B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状部材の外周面を高周波誘導加熱するための高周波誘導加熱装置であって、
前記軸状部材を挟んで互いに対向する位置にそれぞれ配置されている一対の高周波誘導加熱用の加熱導体と、
前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体を、互いに近づく方向及び遠ざかる方向に移動させるための移動機構部と、
前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体に電力を供給する高周波電源と
を備え、
前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの一方の第1の高周波誘導加熱用の加熱導体が、絶縁体を挟んで2つの導体部からなり、前記2つの導体部の一方に前記高周波電源の一方の給電部が接続され、前記2つの導体部の他方に前記高周波電源の他方の給電部が接続されており、
前記移動機構部が、前記第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記2つの導体部と、前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの他方の第2の高周波誘導加熱用の加熱導体とを、接触させた状態で前記軸状部材を取り囲むように移動させるように構成されている高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
前記第1および第2の高周波誘導加熱用の加熱導体が、互いに摺動可能に接触するための平面形状をそれぞれ有する請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
前記第1および第2の高周波誘導加熱用の加熱導体が、前記軸状部材に向かって凹状に湾曲した湾曲面をそれぞれ有する請求項1又は2に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
前記第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記湾曲面は、前記第2の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記湾曲面が有する第2の曲率半径よりも小さい第1の曲率半径を有する湾曲面部分を有する請求項3に記載の高周波誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱装置に関し、より詳しくは、軸状部材の外周面を高周波誘導加熱するための高周波誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸状部材の外周面を高周波誘導加熱するための高周波誘導加熱装置として、特許文献1には、軸状部材の軸線を挟んで、一対の高周波誘導加熱コイルを互いに対向する位置に配置するとともに、これらは移動機構にそれぞれ連結されており、また、一対の高周波誘導加熱コイルは、軸状部材の中心軸線に対して遠ざかる方向に向けて突出するように屈曲された屈曲状コイル部がそれぞれ形成されている高周波誘導加熱装置が記載されている。そして、この高周波誘導加熱装置は、軸状部材の軸部の径の大小に応じて、移動機構により一対の高周波誘導加熱コイルを互いに近づける方向に又は互いに遠ざける方向に移動させることで、屈曲状コイル部で画成されるコイル空間を変えることが可能な構成であることが記載されている。よって、外周面の径の大きさが相異する各種の軸状部材の全てに対して上述の一対の高周波誘導加熱コイルの屈曲状コイル部の間に軸状部材を挟み込むことにより対応することができることから、軸状部材の径の大きさが異なる際には、これに見合った寸法の高周波誘導加熱コイルをそれぞれ別個に準備して使用していた従来技術に比べて、各種サイズの軸状部材に対して作業性よく高周波誘導加熱を行うことができるとともに、一対のコイルを拡縮移動(開閉移動)させるための移動機構の構造も簡便なもので済むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-150640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された高周波誘導加熱装置では、一対の高周波誘導加熱コイルは、軸状部材の中心軸線に対して遠ざかる方向に向けて突出するように屈曲された屈曲状コイル部がそれぞれ形成されていることから、径の小さい軸状部材に対して高周波誘導加熱を行うために一対の高周波誘導加熱コイルが近づくと、屈曲状コイル部の中心部分同士で形成される軸状部材を囲むコイル空間の他に、その両端側に、屈曲状コイル部の端部同士で形成されるコイル空間も発生してしまう。これら端部同士で形成されるコイル空間では、高周波誘導加熱の対象物が存在しないものの、高周波誘導加熱に要するエネルギーが消費されることから、加熱効率の低下を招くとともに、高周波誘導加熱コイルの寿命低下にもつながるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、外周面の径の大きさが相異する各種の軸状部材に対して、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体を移動させることで、対応することができるとともに、径の小さい軸状部材の場合に、高周波誘導加熱の対象物が存在しないコイル空間が生じることがなく、加熱効率に優れた高周波誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、軸状部材の外周面を高周波誘導加熱するための高周波誘導加熱装置であって、前記軸状部材を挟んで互いに対向する位置にそれぞれ配置されている一対の高周波誘導加熱用の加熱導体と、前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体を、互いに近づく方向及び遠ざかる方向に移動させるための移動機構部と、前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体に電力を供給する高周波電源とを備え、前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの一方の第1の高周波誘導加熱用の加熱導体は、絶縁体を挟んで2つの導体部からなり、前記2つの導体部の一方に前記高周波電源の一方の給電部が接続され、前記2つの導体部の他方に前記高周波電源の他方の給電部が接続されており、前記移動機構部は、前記第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記2つの導体部と、前記一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの他方の第2の高周波誘導加熱用の加熱導体とを、接触させた状態で前記軸状部材を取り囲むように移動させるように構成されている。
【0007】
前記第1および第2の高周波誘導加熱用の加熱導体は、互いに摺動可能に接触するための平面形状をそれぞれ有することが好ましい。
【0008】
前記第1および第2の高周波誘導加熱用の加熱導体は、前記軸状部材に向かって凹状に湾曲した湾曲面をそれぞれ有することが好ましい。前記第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記湾曲面は、前記第2の高周波誘導加熱用の加熱導体の前記湾曲面が有する第2の曲率半径よりも小さい第1の曲率半径を有する湾曲面部分を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
このように本発明によれば、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの一方の第1の高周波誘導加熱用の加熱導体を、絶縁体を挟んで2つの導体部からなるようにし、この2つの導体部の一方に高周波電源の一方の給電部を接続し、他方に高周波電源の他方の給電部を接続し、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の2つの導体部と、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの他方の第2の高周波誘導加熱用の加熱導体とが接触した状態で軸状部材を取り囲むように移動するように移動機構部を構成したことで、径の小さい軸状部材を高周波誘導加熱するために、第1及び第2の高周波誘導加熱用の加熱導体を近接させるように移動させても、第1及び第2の高周波誘導加熱用の加熱導体との間で、軸状部材を取り囲む小さいコイル空間のみを形成し、軸状部材を取り囲まないコイル空間が生じることを防ぐことができ、よって、優れた加熱効率で高周波誘導加熱することができる。
【0010】
また、従来、一対の高周波誘導加熱コイルの一方に高周波電源の一方の給電部を接続し、他方に高周波電源の他方の給電部を接続していた構成では、一対の高周波誘導加熱コイル間の距離が変化するように移動させるために、高周波電源と一対の高周波誘導加熱コイルとの接続機構が複雑になっていた。本発明では、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体を、絶縁体を挟んで2つの導体部からなるようにし、この2つの導体部の一方に高周波電源の一方の給電部を接続し、他方に高周波電源の他方の給電部を接続したことから、第2の高周波誘導加熱用の加熱導体とは高周波電源を直接接続させなくて済むので、高周波電源との接続機構を簡素化することができる。また、高周波電源と直接接続する加熱導体は固定させて、高周波電源とは直接接続しない加熱導体のみを移動させるようにすることで、高周波電源との接続機構を大幅に簡素化させることができ、更に簡素で且つ信頼性の高い装置にすることができる。
【0011】
第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の湾曲面は、第2の高周波誘導加熱用の加熱導体の湾曲面が有する第2の曲率半径よりも小さい第1の曲率半径を有する湾曲面部分を有し、このように異なる曲率半径を有する2種類の湾曲面で軸状部材を囲い込むことにより、径の大きさが相異する各種の軸状部材に対して広く対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る高周波誘導加熱装置の一実施の形態であって、径の大きな軸状部材を処理する場合の状態を示す平面図である。
図2図1に示す高周波誘導加熱装置の側面図である。
図3図1に示す高周波誘導加熱装置を矢線IIIから見た正面図である。
図4図1に示す高周波誘導加熱装置のうちの第1の高周波誘導加熱用の加熱導体を示す平面図である。
図5図4に示す第1の高周波誘導加熱用の加熱導体の側面図である。
図6図4に示す第1の高周波誘導加熱用の加熱導体を矢線VIから見た正面図である。
図7図1に示す高周波誘導加熱装置のうちの第2の高周波誘導加熱用の加熱導体を示す平面図である。
図8図7に示す第2の高周波誘導加熱用の加熱導体の側面図である。
図9図7に示す第2の高周波誘導加熱用の加熱導体を矢線IXから見た正面図である。
図10図1に示す高周波誘導加熱装置であって、径の小さな軸状部材を処理する場合の状態を示す平面図である。
図11図1に示す高周波誘導加熱装置において、径の大きな軸状部材を処理する場合の電流の流れを示す模式図である。
図12図1に示す高周波誘導加熱装置において、径の小さな軸状部材を処理する場合の電流の流れを示す模式図である。
図13】従来の高周波誘導加熱装置において、径の大きな軸状部材を処理する場合の電流の流れを示す模式図である。
図14】従来の高周波誘導加熱装置において、径の小さな軸状部材を処理する場合の電流の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る高周波誘導加熱装置の一実施の形態について説明する。
【0014】
図1図3に示すように、本実施の形態の高周波誘導加熱装置1は、軸状部材2の外周面2aを高周波誘導加熱するための装置であって、軸状部材2を挟んで互いに対向する位置にそれぞれ配置されている第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4と第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7とからなる一対の高周波誘導加熱用の加熱導体を備える。これら第1及び第2の高周波誘導加熱用の加熱導体4、7の詳細は後述するが、これらはいずれも、被加熱体である軸状部材2に向かって凹状に湾曲した第1及び第2の湾曲側面41、71を有する略U字形状の第1及び第2の平板状体40、70を備えるものである。また、第1及び第2の高周波誘導加熱用の加熱導体4、7は、移動機構部を備えた基台(図示省略)上に、上下に密接に重ね合わされて水平に配置されている。
【0015】
また、高周波誘導加熱装置1は、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体に電力を供給する高周波電源3を備える。本実施の形態において、高周波電源3は、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体のうちの一方の第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4に対してのみ接続されている。
【0016】
更に、高周波誘導加熱装置1は、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4と第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7と互いに近づく方向及び互いに遠ざかる方向にどちらにも移動させることが可能な移動機構部(図示省略)を備えている。なお、移動機構部は、上述した特許文献1に記載されている移動機構とほぼ同様の構造を採用できるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0017】
第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4について詳細に説明する。図4図7に示すように、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4は、上述した凹状に湾曲した第1の湾曲側面41を備えた略U字形状の第1の平板状体40と、この第1の平板状体40の中心から延びる導体ホルダ50とで主に構成されている。第1の平板状体40の素材は、電気伝導度が高い金属、一般的には銅で形成される。第1の平板状体40は、その側面として、対向する第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7に面する第1の対向側面42と、この第1の対向側面42から開口して、軸状部材に向かって凹状に湾曲した第1の湾曲側面41と、第1の対向側面42とは反対側に位置する直線状の第1の外側側面44と、第1の対向側面42と第1の外側側面44とをつなぎ、対向する第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7に向かって直線の形状を有する第1の端側側面43とを有する。
【0018】
第1の対向側面42に開口する第1の湾曲側面41の開口幅は、被加熱体である軸状部材2の最大径に対応して設計される。第1の湾曲側面41は、その中央部分41aにおいて略半円弧の形状を有している。この第1の湾曲側面41の中央部分41aの形状の第1の曲率半径は、上述した軸状部材2の最大径の半径よりも小さい。第1の湾曲側面41は、第1の対向側面42との隣接部分41bにおいて、対向する第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7に向かって直線の形状を有している。また、第1の湾曲側面41は、中央部分41aと隣接部分41bとの間の中間部分41cにおいて、中央部分41aと隣接部分41bとを滑らかにつなぐ曲線形状を有している。
【0019】
第1の平板状体40の上面46は、第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7の第2の平板状体70と摺動可能に接するために平面形状である。第1の平板状体40の下面46には、両端側にそれぞれ絶縁性プレート47が積層されている。この絶縁性プレート47は、重ね合わされる第2の平板状体70との位置を固定するために、第1及び第2の平板状体40、70を挟んで保持するクランプ(図示省略)が当接する部分である。絶縁性プレート47は、その四隅でボルト48により第1の平板状体40に固定されている。
【0020】
第1の平板状体40の両側の第1の端側側面43に沿って、第1の平板状体40の厚さより高さを有するガイドプレート49がそれぞれ設けられている。このガイドプレート49は、第1の平板状体40の上面に摺動可能に重ね合わされている第2の平板状体70の移動方向を制御する。ガイドプレート49は、ボルト48により第1の平板状体40に固定されている。
【0021】
導体ホルダ50は、一対の導体部51で絶縁板52を挟んだ構造体から主に構成されている。この構造体は、第1の平板状体40の中心を貫通するように配置されている。すなわち、第1の平板状体40も、絶縁板52を挟んでその両側の導体部40a、40bが、絶縁板52を介して絶縁されている。導体ホルダ50の一対の導体部51は、絶縁板52とともにボルト53で固定されている。導体ホルダ50は、第1の平板状体40とは反対側の位置に固定プレート54が設けられ、固定プレート54表面に設けられた固定用穴55を介して、高周波電源(図示省略)と接続ならびに固定されている。第1の平板状体40と高周波電源との接続は、絶縁板52を挟んだ一方の第1の平板状体の導体部40aに、導体ホルダ50の導体部51aを介して高周波電源の一方の給電部が接続され、絶縁板52を挟んだ他方の第1の平板状体の導体部40bに、導体ホルダ50の導体部51bを介して高周波電源の他方の給電部が接続されている。
【0022】
導体ホルダ50には、一対の導体部51a、51bに沿って冷却水パイプ56a、56bがそれぞれ設けられている。また、第1の平板状体40の下面46にも、凹状の第1の湾曲側面41の端部に隣接する位置に、第1の平板状体40の内部に冷却水を流通させるための冷却水パイプ61a、61bがそれぞれ設けられている。第1の平板状体40の内部には、凹状の第1の湾曲側面41および導体ホルダ50の導体部51に沿って、第1の平板状体40の冷却水パイプ61a、61bと導体ホルダ50の冷却水パイプ56aとの間をそれぞれ連通する冷却水流路62a、62bが設けられている。これら冷却水パイプ56、61は、その先端に設けられているジョイント57、63を介して、冷却水供給機構(図示省略)と連結されており、これにより冷却水流路62への冷却水の流通ができるようになっている。
【0023】
第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7について詳細に説明する。図7図9に示すように、第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7は、上述した凹状に湾曲した第2の湾曲側面71を備えた略U字形状の第2の平板状体70で主に構成されている。第2の平板状体70の素材は、電気伝導度が高い金属、一般的には銅で形成される。第2の平板状体70は、その側面として、対向する第1の平板状体40に面する第2の対向側面72と、この第2の対向側面72から開口して、軸状部材に向かって凹状に湾曲した第2の湾曲側面71と、第2の対向側面72とは反対側に位置する直線状の第2の外側側面74と、第2の対向側面72と第2の外側側面74とをつなぎ、対向する第1の平板状体40に向かって直線の形状を有する第2の端側側面73とを有する。
【0024】
第2の湾曲側面71は、その中央部分71aにおいて略半円弧の形状を有しており、その両側部分71bにおいて、対向する第1の平板状体40に向かって直線の形状を有している。第2の湾曲側面71の中央部分71aの形状の第2の曲率半径は、被加熱体である軸状部材2の最大径に対応して設計される。すなわち、第1の平板状体40の第1の湾曲側面41の第1の曲率半径は、第2の曲率半径よりも小さいものとなる。このように異なる曲率半径を有する第1及び第2の湾曲側面41、71を用いることで、径の大きさが相異する各種の軸状部材に対して広く対応することができる。
【0025】
第2の平板状体70の下面76は、第1の平板状体40と摺動可能に接するために平面形状である。第2の平板状体70の上面75には、両端側にそれぞれ絶縁性プレート77が積層されている。この絶縁性プレート77は、重ね合わされる第1の平板状体40との位置を固定するために、第1及び第2の平板状体40、70を挟んで保持するクランプ(図示省略)が当接する部分である。絶縁性プレート77は、その四隅でボルト78により第2の平板状体70に固定されている。
【0026】
また、第2の平板状体70の上面75には、第2の平板状体70の内部に冷却水を流通させるための冷却水パイプ81が設けられている。第2の平板状体70の内部には、凹状の第2の湾曲側面71に沿って、冷却水パイプ81間を連通する冷却水流路82が設けられている。また、冷却水パイプ81は、その先端に設けられているジョイント83を介して、上述した冷却水供給機構(図示省略)と連結されており、これにより冷却水流路82への冷却水の流通ができるようになっている。
【0027】
以上の構成を有する本実施の形態の高周波誘導加熱装置1によれば、先ず、移動機構部(図示省略)を作動させて、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4の第1の平板状体40の上面45に摺動可能に配置される第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7の第2の平板状体70を、第1の平板状体40の両側のガイドプレート49に沿って移動させて、図1に示すように、第1の平板状体40の湾曲側面41と第2の平板状体70の湾曲側面71とで、軸状部材2を挟み、軸状部材2の外周面2aに対して僅かな間隔を隔てた位置で、第1及び第2の平板状体40、70を固定する。固定には、第1及び第2の平板状体40、70の側面側から、クランプ(図示省略)で、第1及び第2の平板状体40、70の下面および上面に積層されている絶縁プレート47、77の部分を挟んで保持する。
【0028】
このような状態の下で、高周波電源3から第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4の導体ホルダ50の導体部51を介して第1の平板状体40に電流を供給する。第1の平板状体40の上面は第2の平板状体70の下面と密着しており、また、第1の平板状体40の第1の湾曲側面41は、絶縁板52を介してその両側の湾曲側面41A、41Bは絶縁されていることから、電流の流れは、図11に示すように、第1の平板状体の湾曲側面41と第2の平板状体の湾曲側面71との接点Cを介して、矢印αのように、一方の第1の平板状体の湾曲側面41Aから、第2の平板状体の湾曲側面71を通って、他方の第1の平板状体の湾曲側面41Bへと流れる。よって、第1の平板状体40の湾曲側面41と第2の平板状体70の湾曲側面71とでコイル空間を形成し、軸状部材2の外周面2aに対して高周波誘導加熱を行うことができる。
【0029】
なお、高周波誘導加熱は、軸状部材2をその軸線を中心に回転させ、且つ軸状部材2をその軸線の方向に沿って移動させながら行う。軸状部材2の回転および移動のための回転台(図示省略)等の機構は、特許文献1に記載されていることから、ここでの詳細な説明は省略する。
【0030】
そして、高周波誘導加熱が終了した後、即ち加熱コイルを通過後、焼入冷却手段(図示省略)により被加熱領域を急速冷却することにより焼入工程を完了する。
【0031】
図1では、径の大きい軸状部材2を高周波誘導加熱する場合について説明したが、本実施の形態の高周波誘導加熱装置1では、径の小さい軸状部材であっても優れた加熱効率で高周波誘導加熱することができる。図10に示すように、径の小さい軸状部材2sの場合には、移動機構部(図示省略)によって、第1の高周波誘導加熱用の加熱導体4の第1及び第2の平板状体40の湾曲側面の中央部分41aと、第2の高周波誘導加熱用の加熱導体7の第2の平板状体70の湾曲側面の中央部分71aとが近接するように移動させる。これにより、第1の平板状体の湾曲側面41と第2の平板状体の湾曲側面71との2つの接点Cも、互いに近づいた位置に移動する。
【0032】
この状態で高周波電源3から電流を供給すると、図12に示すように、第1の平板状体の湾曲側面41と第2の平板状体の湾曲側面71との接点Cを介して、矢印αのように第1の平板状体の湾曲側面41Aから、第2の平板状体の湾曲側面71を通って、第1の平板状体の湾曲側面41Bへと流れる。よって、第1の平板状体40の湾曲側面41と第2の平板状体70の湾曲側面71とで、径の小さい軸状部材2sを取り囲む小さいコイル空間が形成される。よって、径の大きい軸状部材と比べて少ないエネルギー消費で済み、優れた加熱効率で高周波誘導加熱することができる。
【0033】
上記の効果は、特許文献1の高周波誘導加熱装置によって、径の小さい軸状部材を高周波誘導加熱する場合と比較することで、より明確になる。この従来の高周波誘導加熱装置は、図13に示すように、一対の高周波誘導加熱コイル101、102は、軸状部材2に向かってそれぞれ屈曲した形状を有している。一対の高周波誘導加熱コイル101、102は、一端でそれぞれ高周波電源103に接続しており、他端でコイルホルダ(図示省略)を介した接続Cが行われている。なお、一対の高周波誘導加熱コイル101、102は、一部で重なって図示されているが、重なった部分で接触してはいない。そのため、高周波電源103からの電流は、矢印αのように、一方の高周波誘導加熱コイル101から、端部の接続Cを介して、他方の高周波誘導加熱コイル102へと流れ、軸状部材2を囲むコイル空間の他に、高周波電源103側やその反対端の接続C側にもそれぞれコイル空間が発生してしまう。特に、図14に示すように、径の小さい軸状部材2sに対して高周波誘導加熱を行う場合、一対の高周波誘導加熱コイル101、102を近づけて高周波電源103から矢印αのように電流を流すと、軸状部材2sを囲む小さなコイル空間の他に、高周波電源103側やその反対端の接続C側にそれぞれ大きなコイル空間が発生してしまう。これらの2つの大きなコイル空間では、高周波誘導加熱の対象物が存在しないものの、高周波誘導加熱に要するエネルギーが消費されてしまう。これに対し、図11図12に示すように、本実施の形態の高周波誘導加熱装置1では、軸状部材2の径の大きさに合ったコイル空間が1つのみ形成されることから、優れたエネルギー効率で高周波誘導加熱することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、高周波誘導加熱装置1の一対の高周波誘導加熱用の加熱導体4、7がそれぞれ略U字型形状の平板状体40、70を備える場合について説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、一対の高周波誘導加熱用の加熱導体が、互いに接触した状態で軸状部材を取り囲むように移動できる形状であれば、上述した実施の形態と同様に、径の小さい軸状部材の場合であっても、高周波誘導加熱の対象物が存在しないコイル空間が生じることがなく、優れたエネルギー効率で高周波誘導加熱することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 高周波誘導加熱装置
2 軸状部材
3 高周波電源
4 第1の高周波誘導加熱用の加熱導体
7 第2の高周波誘導加熱用の加熱導体
40 第1の平板状体
41 第1の湾曲側面
42 第1の対向側面
43 第1の端側側面
44 第1の外側側面
45 上面
46 下面
47 絶縁プレート
48 ボルト
49 ガイドプレート
50 導体ホルダ
51 一対の導体部
52 絶縁板
53 ボルト
54 固定プレート
55 固定用穴
56 冷却水パイプ
57 ジョイント
61 冷却水パイプ
62 冷却水流路
63 ジョイント
70 第2の平板状体
71 第2の湾曲側面
72 第2の対向側面
73 第2の端側側面
74 第2の外側側面
75 上面
76 下面
77 絶縁性プレート
78 ボルト
81 冷却水パイプ
82 冷却水流路
83 ジョイント
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
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図11
図12
図13
図14