(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】蒲焼の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20230815BHJP
【FI】
A23L17/00 Z
A23L17/00 A
(21)【出願番号】P 2019131575
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】306002858
【氏名又は名称】明神 宏幸
(73)【特許権者】
【識別番号】521321170
【氏名又は名称】明神 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【氏名又は名称】吉田 芳春
(73)【特許権者】
【識別番号】521321181
【氏名又は名称】山▲崎▼ 祥真
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【氏名又は名称】吉田 芳春
(73)【特許権者】
【識別番号】521321192
【氏名又は名称】青野 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】明神 宏幸
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088155(WO,A1)
【文献】特開平11-332752(JP,A)
【文献】特開2007-028990(JP,A)
【文献】特開2012-065627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身締め加工したナマズの皮付き切り身に多数の孔を開ける孔開け工程と、
該孔開け工程後の皮付き切り身をタレ液中に浸漬する浸漬工程と、
該浸漬工程後の皮付き切り身の表面を焼く焼き工程とを備えて
おり、
前記孔開け工程は、平板面から突出する所定太さの多数の針状突起を有する孔開け金具を用いて、前記多数の針状突起を前記ナマズの皮付き切り身の上から刺し込む工程と、刺し込んだ前記多数の針状突起を前記ナマズの皮付き切り身から抜き出す工程とを備えており、
前記抜き出す工程では、前記多数の針状突起を前記ナマズの皮付き切り身から抜き出す際に、前記ナマズの皮付き切り身を押さえる押さえ金具を用いて、前記ナマズの皮付き切り身を押さえながら行うことを特徴とする蒲焼の製造方法。
【請求項2】
前記孔開け金具の多数の針状突起は、互いに1~2.5cmの間隔で設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の蒲焼の製造方法。
【請求項3】
前記孔開け工程の前に、前記皮付き切り身の表皮側に焼き目を入れる焼き目付け工程をさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載の蒲焼の製造方法。
【請求項4】
前記ナマズとしてパンガシウスを用いることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の蒲焼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナマズ、特にパンガシウスを用いた蒲焼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、うなぎの蒲焼の価格は、うなぎ稚魚の漁獲量の激減に伴って大幅に高騰しており、一般消費者が日常的に食することができなくなってきている。特に、国産(日本産)うなぎの蒲焼の価格は、著しく高騰している。
【0003】
このような状況を打開すべく、見た目の感じや食感をできるだけうなぎの蒲焼に近付けた蒲焼代替品が種々の提案されている。例えば特許文献1には、うなぎ蒲焼風食品の製造方法が提案されている。この製造方法は、魚肉切り身と魚肉すり身とを含む表側成形物と、魚肉すり身と黒色着色剤とを含む裏側成形物とを貼り合わせて成形し、蒸し煮又は揚成後に両面焼成し、蒲焼のタレを塗布するものである。
【0004】
魚肉すり身を用いたこのような代替品が提案される一方で、食感や身の質感がうなぎに近いナマズを用いてうなぎ蒲焼風に製造した食品も市場に出回っている。ナマズによる蒲焼代替品の市場での評判は良好であり、漁獲量が低下しているうなぎの代替品として大いに期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ナマズは、コラーゲンの含有量が非常に多く、加熱すると身が柔らかくなるという特性を有している。周知のようにコラーゲンは加熱すると溶けてゼラチンに変質し25℃前後で液体状態となるため、身の結合組織がコラーゲンで構成されるナマズを加熱すると、結合が弱くなって身が柔らかくなってしまうのである。
【0007】
従って、ナマズを用いて蒲焼を製造する場合、温度が上がると身の結合が弱まって柔らかくなるため、焼いている途中で身崩れが起きないように慎重に処理する必要があった。身崩れした状態で焼き上げると、商品価値が大幅に低下してしまうためである。このため、焼き上げ処理にかなりの熟練度を要し、生産効率を高めることが難しかった。
【0008】
ナマズの一種であるパンガシウスは、ベトナム、カンボジア及びタイ等の東南アジアにおいて漁獲量が非常に多いため、今後予想される需要の増大に対する供給量確保の観点から有望視されている。しかしながら、パンガシウスは、コラーゲンの含有量が国産(日本産)ナマズに比して遥かに多いことから、より身崩れを起こし易かった。
【0009】
また、パンガシウスは、うなぎと異なり、身が厚く、しかも、コラーゲンの含有量が多いため、蒲焼タレの浸みこみが困難であり、焼き上げ完成品の内部が白く、見た目及び食感(味)が良くないという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みて創案されたもので、その目的は、パンガシウス等のナマズを焼き上げ処理して製造された食材の内部まで蒲焼タレが浸みこみ、美味しさ及び品質を大幅に向上させることができる蒲焼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、蒲焼の製造方法は、身締め加工したナマズの皮付き切り身に多数の孔を開ける孔開け工程と、孔開け工程後の皮付き切り身をタレ液中に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程後の皮付き切り身の表面を焼く焼き工程とを備えている。
【0012】
身締め加工したナマズの皮付き切り身に多数の孔を開けることにより、その後の浸漬工程において蒲焼タレの浸みこみがよくなり、焼き上げ処理して製造された食材の内部まで蒲焼タレが浸みこみ、美味しさ及び品質を大幅に向上させることができる。
【0013】
孔開け工程は、平板面から突出する所定太さの多数の針状突起を有する孔開け金具を用いて、多数の針状突起をナマズの皮付き切り身の上から刺し込む工程と、刺し込んだ多数の針状突起をナマズの皮付き切り身から抜き出す工程とを備えていることが好ましい。多数の針状突起を有する孔開け金具を用いることにより、簡単に効率よくナマズの皮付き切り身に孔開けることができる。
【0014】
抜き出す工程では、多数の針状突起をナマズの皮付き切り身から抜き出す際に、ナマズの皮付き切り身を押さえる押さえ金具を用いて、ナマズの皮付き切り身を押さえながら行うことが好ましい。これにより、魚の身が針状突起に付着し身崩れを防止することができる。
【0015】
孔開け金具の多数の針状突起は、互いに1~2.5cmの間隔で設けられていることが好ましい。これにより蒲焼タレの浸みこみがより均一にできる。
【0016】
孔開け工程の前に、皮付き切り身の表皮側に焼き目を入れる焼き目付け工程をさらに備えることが好ましい。これにより、孔開け加工において表皮の穴の崩れを防止することができ、蒲焼タレの確実な含浸を実現することができる。
【0017】
ナマズとしてパンガシウスを用いることも好ましい。安価にかつ多量に安定して入手可能なパンガシウスを用いることにより、製造コストの大幅な低減化を図ると共に安定した供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ナマズを用いた蒲焼の製造において、身崩れに対する取り扱い性を向上させることができると共に、身締め加工したナマズの皮付き切り身に多数の孔を開けることにより、その後の浸漬工程において蒲焼タレの浸みこみがよくなり、焼き上げ処理して製造された食材の内部まで蒲焼タレが浸みこみ、美味しさ及び品質を大幅に向上させることができる。
【0019】
また、孔開け工程では、多数の針状突起を有する孔開け金具を用いることで、簡単に効率よくナマズの皮付き切り身に孔開けることができる。さらに、多数の針状突起をナマズの皮付き切り身から抜き出す際に、ナマズの皮付き切り身を押さえる押さえ金具を用いてナマズの皮付き切り身を押さえながら行うことで、魚の身が針状突起に付着し身崩れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の食材の製造方法及び蒲焼の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図2】皮付き切り身を液切り金具に載せた状態を概略的に示す斜視図であり、(A)皮付き切り身の身側を上にした状態、(B)皮付き切り身の表皮側を上にした状態である。
【
図3】皮付き切り身を液切り金具に載せた状態を概略的に示す上から見た平面図である。
【
図4】孔開け金具の構成例を概略的に示す斜視図である。
【
図5】押さえ金具の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図6】孔開け金具及び押さえ金具を用いて、皮付き切り身に孔を開ける際の状態を概略的に示す斜視図である。
【
図7】孔開け金具及び押さえ金具を用いて、皮付き切り身に孔を開ける際の状態を概略的に示す断面図である。
【
図8】孔開け金具及び押さえ金具を用いて、皮付き切り身に孔を開ける際の状態を概略的に示す上から見た平面図である。
【
図9】本発明の製造方法を用いて製造されたナマズ(パンガシウス)の蒲焼の切り断面を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の蒲焼の製造方法について説明する。
【0022】
本実施形態において、ナマズの一種であるパンガシウスを用いた。まず、皮付き切り身(皮付きフィレ)Fを準備する。皮付き切り身Fとしては、2種類があり、1つは新鮮な魚から加工し、新鮮のまま又は+2~3℃の冷蔵庫で保管した新鮮な皮付き切り身であり、もう一つは、-20℃の冷凍庫に保管した冷凍皮付き切り身である。新鮮な皮付き切り身を用いる場合は、凍結及び解凍工程がなく、細胞膜の破壊によるドリップの発生を回避することができ、チルド状態で加工工程に入るため、皮付き切り身の質を保持することができる。一方、冷凍皮付き切り身を用いる場合は、まず、-20℃の冷凍庫に保管されているナマズ(例えば、パンガシウス)の皮付き切り身(皮付きフィレ)を取り出し、取り出した冷凍の皮付き切り身を流水で解凍する。本実施形態における1枚の皮付き切り身の大きさは、例えば約230gであり、流水解凍の時間は約10分である。皮付き切り身の大きさを、100g~300g又はそれ以上としても良い。この流水による解凍によれば、淡水魚特有の泥臭さも除去される。
【0023】
図1は本発明の一実施形態における蒲焼の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明の蒲焼の製造方法は、まず、新鮮な皮付き切り身(又は、解凍を終えたナマズの皮付き切り身)Fを食塩水に浸して水分を抜く水抜き工程を行う(ステップS1)。この水抜き工程では、例えば容器(鍋)内に3wt%濃度の食塩水を収容しておき、この食塩水内に解凍した皮付き切り身Fを浸漬するものである。この場合の食塩水の塩分濃度は、ナマズ(例えばパンガシウス)の皮付き切り身Fの塩分濃度よりも高い濃度に設定されている。従って、食塩水の塩分濃度は3%に限定されず、1~3wt%である。ここで、
図2(A)に示すように、液切り金具1上に皮付き切り身Fを身側Faが上となるように複数枚(縦方向に2枚、横方向に6枚)液切り金具1の上に並べて作業を行う。ここで、皮付き切り身Fの自重で身崩れが起きないようするため、身側Faを上にして並べる。液切り金具1は、例えば、直径5mmのステンレス棒からなる長尺方向幅60cm、短尺方向幅35cmの枠に2.5cmの間隔で複数のステンレス棒が設けられて構成された切り身載置部2の両端に取手3を設け、加熱した場合にこれら取手3にフック4を引っ掛けて持ち運びできるように構成されている。なお、切り身載置部2は、格子状又は網状に構成されても良い。
【0024】
次いで、身締め材を付加する身締め材付加工程を行う(ステップS2)。この身締め材付加工程では、水抜き工程を終えた皮付き切り身Fの表面に、身崩れを抑制するための身締め材を付加する。本実施形態において、身締め材付加工程は、穀物粉と水との懸濁液(例えば、米粉10%溶液)を容器(鍋)内に収容しておき、この懸濁液内に皮付き切り身Fを例えば5分浸漬することによって行う。この浸漬により、懸濁液が皮付き切り身Fの内部へ浸透し、その表面には懸濁液の皮膜が形成される。
【0025】
次いで、身締め材を固める身締め材固化工程を行う(ステップS3)。身締め材固化工程では、身締め材付加工程を終えた皮付き切り身Fについて、付加された米粉を固める。まず、
図2(B)に示すように、液切り金具1上に皮付き切り身Fを表皮側Fbが上となるように複数枚(縦方向に2枚、横方向に6枚)並べる。表皮側Fbを上にする理由は、次の工程の作業性を向上するためである。複数の皮付き切り身Fを載置した液切り金具1を、加熱された油内に浸漬する。容器(鍋)内に油を収容し、この油をガスコンロ等の加熱器で所定温度(例えば、180℃)に加熱しておき、この油の中に複数の皮付き切り身Fを浸漬するのである。加熱油への浸漬時間は約5分である。油としては、サラダ油やオリーブオイル等を使用できる。なお、この身締め材固化工程において、皮付き切り身Fの自重で身崩れが起きないようするため、身側Faを上にするようにしても良い。この場合、次の焼き目付け工程を行う前に、皮付き切り身Fの表皮側Fbを上に並べ替えることが必要となる。
【0026】
次いで、身締め加工した皮付き切り身Fの表皮側Fbをガスバーナーで軽く焼き目を入れる焼き目付け工程を行う(ステップS4)。ここで、
図2(B)に示すように、身締め加工した皮付き切り身Fの表皮側Fbを上にしたままで、ガスバーナーで皮付き切り身Fの表皮側Fbを軽く焼き目を入れる。例えば、約850℃程度のLPガスバーナーで、薄く皮に焼き目が付くくらいで焼きを入れる。皮付き切り身Fの表皮側Fbに焼き加えることで、次の孔開け加工において表皮側Fbの穴の崩れを防止することができ、蒲焼タレの確実な含浸を実現することができる。
【0027】
次いで、身締め加工した皮付き切り身Fに多数の孔を開ける孔開け工程を行う(ステップS5)。この孔開け工程では、例えば、
図3に示すように、焼き目付けた皮付き切り身Fを、表皮側Fbが上になるように液切り金具1の上に縦方向に2枚、横方向に6枚で並べる。次に、多数の針状突起30を有する孔開け金具100(
図4参照)を用いて、多数の針状突起30を皮付き切り身Fの上から刺し込み、そして、刺し込んだ多数の針状突起30を皮付き切り身Fから抜き出す。多数の針状突起30を皮付き切り身Fから抜き出す際に、皮付き切り身Fを押さえる押さえ金具200(
図5参照)を用いて、皮付き切り身Fを押さえながら行う。孔開け金具100の多数の針状突起30を皮付き切り身Fの上から刺し込む際に、押さえ金具200を皮付き切り身Fの上に配置した状態で行う(
図6参照)。
【0028】
図4は孔開け工程で用いられる孔開け金具100の構成例を示している。
図4に示すように、本実施形態において、孔開け金具100は、例えば、直径5mmのステンレス棒からなる枠10に2.5cmの間隔で複数のステンレス棒20が設けられ、これらステンレス棒20の片側に複数の針状突起30が互いに2cmの間隔で設けられて構成されている。複数の針状突起30は、例えば、ステンレス材から形成され、長さが4cm、根元の直径が3mmで、先端が針状に加工されている。孔開け金具100の多数の針状突起30は、互いに1~2.5cmの間隔であれば良い。
【0029】
図5は押さえ金具200の構成を示している。
図5に示すように、押さえ金具200は、皮付き切り身Fを押さえる押さえ部200aと、押さえ部200aの手元側に設けられた押さえるための手持ち部200bとから構成されている。押さえる押さえ部200aは、例えば、φ3mmのステンレス棒を4本、5cmの間隔で形成されている。手持ち部200bは、主に押さえるために手で持つことができる手持ち部分であり、例えば、ステンレス棒を矩形に折り曲げて押さえ部200aの手元側に溶接によって固定して形成される。
【0030】
図6は孔開け金具100及び押さえ金具200を用いて、皮付き切り身Fに孔を開ける際の状態を示す斜視図である。
図6に示すように、孔開け工程において、孔開け金具100の多数の針状突起30を皮付き切り身Fの上から刺し込む際に、押さえ金具200を皮付き切り身Fの上に配置した状態で、その上から孔開け金具100の多数の針状突起30を皮付き切り身Fの上から刺し込むように行う。
【0031】
図7は孔開け金具100及び押さえ金具200を用いて、皮付き切り身Fに孔を開ける際の状態の断面を概略的に示している。
図7に示すように、孔開け金具100の多数の針状突起30が上から皮付き切り身Fに刺し込み挿通している。また、押さえ金具200は、皮付き切り身Fの上面と孔開け金具100との間に位置されている。多数の針状突起30を皮付き切り身Fから抜き出す際に、押さえ金具200で皮付き切り身Fを押さえ、孔開け金具100を上方へ引き出すことで、皮付き切り身Fに身崩れがなく多数の孔を開けることができる。
【0032】
図8は皮付き切り身Fに孔を開ける際の上から見た状態(孔開け金具100と押さえ金具200が重なった状態)を示している。
図8に示すように、皮付き切り身Fに孔を開ける際に皮付き切り身Fの上に押さえ金具200を配置し、その上から孔開け金具100の多数の針状突起30皮付き切り身Fに刺し込む。また、孔開け金具100を用い、一度に4枚の皮付き切り身Fに対して穴を開けることができる。
【0033】
次いで、孔開け工程を終えた食材である皮付き切り身Fを蒲焼タレに浸漬する第1の浸漬工程を行う(ステップS6)。この第1の浸漬工程では、皮付き切り身Fの載った液切り金具1を、フック4を使って、蒲焼タレを有する容器内に入れて蒲焼タレで浸漬する。このタレ漬けを、約10分間行う。
【0034】
次いで、タレ漬けした皮付き切り身Fの一面を焼く第1の焼き工程を行う(ステップS7)。この第1の焼き工程では、皮付き切り身Fの載った液切り金具1を、空の容器に入れて皮付き切り身Fの表皮側Fbをガスバーナーで焼く。これは皮付き切り身Fの一面を焼く工程であり、約3分間行う。焼き入れを行う手段は、ガスバーナーに限定されない。焼く面を適宜に焦がすことができる手段であればどのようなものであっても良い。
【0035】
次いで、第1の焼きを行った皮付き切り身Fを仕上げタレに浸漬する第2の浸漬工程を行う(ステップS8)。この第2の浸漬工程では、皮付き切り身Fが載った液切り金具1を仕上げタレ槽内に入れて仕上げタレで浸漬する。この第2のタレ漬け工程は、第1の浸漬工程と同様に約10分間行う。
【0036】
次いで、タレ漬けした皮付き切り身Fの他面を焼く第2の焼き工程を行う(ステップS9)。この第2の焼き工程では、皮付き切り身Fの載った液切り金具1を、仕上げタレ槽から引き上げ、空の容器に入れて皮付き切り身Fの身側Faをガスバーナーで焼く。これは皮付き切り身Fの他面を焼く工程であり、第1の焼き工程と同様に約3分間行う。焼き入れを行う手段は、ガスバーナーに限定されない。焼く面を適宜に焦がすことができる手段であればどのようなものであっても良い。
【0037】
最後に、出荷工程を行う(ステップS10)。出荷工程では、第2の焼き入れ工程の終了後、皮付き切り身Fを常温放置台に載せ常温放置し、放熱させて冷却する。この常温放置時間は約8分である。常温冷却後の皮付き切り身Fを真空袋へ投入し、この真空袋へ仕上げタレを注入した後、真空パッケージングを行う。その後、皮付き切り身Fの真空パッケージを85℃の湯にて15分間湯煎する。これにより、蒲焼タレの含浸効果を向上させると共に、殺菌を行い、商品の衛生管理を確実にできる。次に、真空パッケージのまま清水で冷却する。そして、-35℃以下で凍結した後、-25℃以下の冷凍庫にて保管・出荷する。
【0038】
このように製造されたナマズの蒲焼を、色度測定法を用いて蒲焼タレの含浸効果を評価した。表1は本発明の蒲焼の製造方法で製造した蒲焼品と従来の製造方法で製造した蒲焼品との比較を示している。評価は、製造したナマズの蒲焼品を斜めに切った断面で複数のサンプルを作成した。色度測定は、色彩色度計(コニカミノルタ株式会社製CR-400型)を用いて、ナマズの蒲焼完成品の切り面の蒲焼タレの含浸状態を測定した。各サンプルに対して常温で測定を行った。サンプル1を13個の測定値、サンプル2を12個の測定値、サンプル3を12個の測定値、サンプル4を14個の測定値、比較例のサンプルを14個の測定値を測定し、それぞれの平均値を計算した。
【0039】
【表1】
表中:Lは、白色度であり、真白が100で、真黒が0である。aは、赤色度であり、強いと数値が高く、低いと緑色に近づく。bは、黄色度であり、強いと数値が高く、低いと青色に近づく。なお、サンプル1は、切り面に針状突起30による刺し穴がないため、赤色度及び黄色度の測定値が比較的に小さい結果となっている。
【0040】
表1に示すように、本発明の蒲焼の製造方法で製造した蒲焼品は、従来の製造方法で製造した蒲焼品(比較例)に比べ、白色度が低く、赤色度及び黄色度が高くなっているので、蒲焼タレが多く含浸している結果になっている。一方、従来の製造方法で製造した蒲焼品(比較例)は、白色度が高く、赤色度及び黄色度が低くなっているので、蒲焼タレが含浸していない結果を表している。
図9は本発明の製造方法を用いて製造されたナマズ(パンガシウス)の蒲焼の切り断面を示している。
図9に示すように、穴の開いたところ(図中矢印Mで示す)からの蒲焼タレの含浸が明らかである。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、ナマズ(例えばパンガシウス)の皮付き切り身Fを皮付き切り身Fの塩分濃度より高い塩分濃度を有する食塩水に浸漬して水分を抜いているので皮付き切り身Fが締り、さらに、身締め材を付加した後この身締め材を固めているので、その後の皮付き切り身Fも身崩れに対する取り扱い性を向上させることができる。また、皮付き切り身Fに多数の孔を開けることで、浸漬工程において蒲焼タレの浸みこみがよくなり、焼き上げ処理して製造された食材の内部まで蒲焼タレが浸みこみ、美味しさ及び品質を大幅に向上させることができる。従って、うなぎの蒲焼の代替品としてのナマズの蒲焼の生産性を国産ナマズ(日本産ナマズ)及び輸入ナマズの違いに拘わらず向上させることができる。また、孔開け工程では、多数の針状突起30を有する孔開け金具100を用いることで、簡単に効率よくナマズの皮付き切り身Fに孔開けることができる。さらに、多数の針状突起30をナマズの皮付き切り身Fから抜き出す際に、ナマズの皮付き切り身Fを押さえる押さえ金具200を用いて、ナマズの皮付き切り身Fを押さえながら行うことで、魚の身が針状突起に付着し身崩れを防止することができる。
【0042】
また、孔開け工程で多数の針状突起30を有する孔開け金具100を用いることで、簡単に効率よくナマズの皮付き切り身Fに孔開けることができる。さらに、多数の針状突起30をナマズの皮付き切り身Fから抜き出す際に、押さえ金具200を用いてナマズの皮付き切り身Fを押さえながら行うことで、魚の身が針状突起30に付着することにより身崩れを防止することができる。
【0043】
なお、上述した本実施形態では、第1の焼き工程において、皮付き切り身Fの表皮側Fbを上にして処理を行い、第2の焼き工程において、皮付き切り身Fの身側Faを上にして処理を行う例を説明したが、本発明はこれに限定するものではない。逆の処理順にしても良い。
【0044】
また、本実施形態では、孔開け金具100は、直径5mmのステンレス棒からなる枠10に2.5cmの間隔で複数のステンレス棒20が設けられ、これらステンレス棒20の片側に複数の針状突起30が設けられて構成されている例を説明したが、本発明はこれに限定するものではない。木製、樹脂製又は金属製の平板に数の針状突起を設けて構成するようにしても良い。
【0045】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ナマズ、特にパンガシウスを用いた蒲焼を含む照り焼き食材の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 液切り金具
2 切り身載置部
3 取手
4 フック
10 枠
20 ステンレス棒
30 針状突起
100 孔開け金具
200 押さえ金具
200a 押さえ部
200b 手持ち部
F 皮付き切り身
Fa 身側
Fb 表皮側