(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】酸素供給システムとその制御方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
A01K63/04 C
(21)【出願番号】P 2019132593
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】田代 充孝
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-79628(JP,A)
【文献】特開平5-228491(JP,A)
【文献】特開2006-180829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 - 63/10
B01F 21/00 - 25/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽と酸素溶解器を有し、水に
前記酸素溶解器で酸素を溶解させて前記水槽に供給する酸素供給システムにおいて、前記酸素溶解器の内部水位に応じた量の水をこの酸素溶解器に供給する水供給部と、前記水槽内の水の溶存酸素濃度に応じた量の酸素を前記酸素溶解器に供給する酸素供給部とを備えたことを特徴とする酸素供給システム。
【請求項2】
前記水供給部は、前記酸素溶解器に前記水を流入させる流入口に接続する吐出配管の中間部に複数の分岐吐出配管を並列に有し、前記複数の分岐吐出配管の各々にポンプを備えた請求項1に記載の酸素供給システム。
【請求項3】
前記酸素供給部は、酸素供給源と、前記酸素供給源と前記酸素溶解器の酸素供給口との間を接続する酸素配管を有し、前記酸素配管の中間部に複数の分岐酸素配管を並列に設け、前記分岐酸素配管の少なくとも一部に開閉弁を備えた請求項1又は2に記載の酸素供給システム。
【請求項4】
前記酸素溶解器に内部水位を測定するためのレベルセンサを設け、このレベルセンサの検知結果に基づいて、前記複数の分岐吐出
配管の各々に備えたポンプを稼動又は停止して、前記酸素溶解器への水供給量を調整する請求項
2に記載の酸素供給システム。
【請求項5】
前記水槽の内部に水の溶存酸素濃度を計測する酸素濃度測定器を設け、この酸素濃度測定器の計測結果に基づいて、前記分岐酸素配管に備えた開閉弁を開閉操作して前記酸素溶解器への酸素供給量を調整する請求項
3に記載の酸素供給システム。
【請求項6】
前記酸素溶解器の流出口は絞りを介して前記水槽に接続された請求項1乃至5の何れか1項に記載の酸素供給システム。
【請求項7】
水槽と酸素溶解器を有し、水にこの酸素溶解器で酸素を溶解させて前記水槽に供給する酸素供給システム
の制御方法において、前記酸素溶解器の内部水位に応じて水を制御してこの酸素溶解器に供給するとともに、前記水槽内の水の溶存酸素濃度に応じて酸素を制御して前記酸素溶解器に供給することを特徴とする酸素供給システムの制御方法。
【請求項8】
前記酸素溶解器の内部水位が基準水位以上である場合には、
前記酸素溶解器に前記水を流入させる流入口に接続する吐出配管の中間部に並列に設けた複数の分岐吐出配管に
備えたポンプの一部を稼動させて第1の水供給量を、基準水位未満である場合には、前記複数の分岐吐出配管に設けたポンプをより多く稼動させて第2の水供給量を前記酸素溶解器に供給するとともに、前記水槽内の水の溶存酸素濃度が、基準酸素濃度以上である場合には、
酸素供給源と前記酸素溶解器の酸素供給口との間を接続する酸素配管の中間部に並列に設けた複数の分岐酸素配管の少なくとも一部に備えた開閉弁の少なくとも一部を閉状態として第1の酸素供給量を、基準酸素濃度未満である場合には、より多くの前記開閉弁を開状態として第2の酸素供給量を前記酸素溶解器に供給するようにした請求項7に記載の酸素供給システムの制御方法。
【請求項9】
前記第1の水供給量及び前記第2の水供給量、並びに前記第1の酸素供給量及び前記第2の酸素供給量は、前記第1の水供給量及び前記第1の酸素供給量を前記酸素溶解器に供給したとき、予め想定した通常状態における酸素消費量と同等か若しくはそれ以下の酸素量を水に供給するように設定され、前記第2の水供給量及び前記第2の酸素供給量を前記酸素溶解器に供給したとき、予め想定した最大の酸素消費量と同等か若しくはそれ以上の酸素量を水に供給するように設定された請求項
8に記載の酸素供給システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、魚を飼育する飼育水の残存酸素濃度を適切な範囲内に簡便に維持することができる酸素供給システムとその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産資源の減少や、水産業の健全な発展と安全な水産物の安定供給に対する必要性から、近年、閉鎖循環型陸上養殖が注目を集めている。
【0003】
飼育水槽や池など魚の飼育を行う場合には、 魚の呼吸により飼育水中の溶存酸素が減少するため、適宜外部から飼育水に酸素を供給する必要がある。飼育水に供給する酸素量は、飼育する魚の数が多いほど多量に必要となるため、それに適した酸素量を供給する必要があり、また、飼育する魚の数が一定であっても、魚の酸素消費量は、魚の活動や水温等の外部条件の違いによっても変化して一定ではないので、この変化にも対応させて外部から供給する酸素量を調整する必要がある。
【0004】
このように飼育する魚の酸素消費量に対応させて酸素を供給する方法として、例えば特許文献1には、所定のサイクルで注入酸素量を増減させる方法が提案されており、特許文献2には、溶存酸素計で測定した飼育水槽内の酸素濃度が90%以下で高濃度酸素水の供給弁を開とし、飽和濃度に達すると供給弁を閉とすることで酸素濃度を制御する方法が提案されている。
【0005】
また、通常、飼育水槽内の水は大気や魚の呼吸で発生した二酸化炭素などで飽和しており、ここに酸素を追加溶解するためにはエアーストーンなどにより酸素を直接水槽内に供給し、既に溶解している気体と酸素を置換することが行われるが、特許文献3には、さらに効率よく水中に酸素を溶解させる方法として、水の下方に向かう流れを溶解槽内に導入し、水の下降流の速度と気体の浮力上昇速度のバランスにより水と気体の接触時間を長くすることにより、気体の水への溶解量を増加させる方法が提案されており、特許文献4には、気体の水への溶解量は分圧に比例するという「ヘンリーの法則」を利用して加圧溶解によりさらに多くのガスを溶解する方法が提案されている。
【0006】
なお、加圧溶解では、供給酸素と水量、圧力の状況によって、既に溶解している気体が酸素と置換されて溶解槽内に不要なガスとして残る場合があり、特許文献5には、この不要なガスの排出方法が考案され ている。
【0007】
飼育水中の溶存酸素量はこのような技術を組み合わせて制御されており、実際の閉鎖循環型陸上養殖設備においては、下方部分を拡大させて気泡接触室を形成した円錐状の「コーン」などと呼ばれる溶解槽を使用し、水の下降流の速度と気体の浮力上昇速度とをバランスさせて水と気体の接触時間を長くするととともに、加圧溶解の原理を併用して気体の水への溶解量を増加させることが多く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3184778号公報
【文献】特許第5629288号公報
【文献】特開昭46-6339号公報
【文献】特開平6-142681号公報
【文献】特開2003-71267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の所定のサイクルで注入酸素量を増減させる方法では、水温の低下による魚の活動量が減少した時や、養殖した魚を収穫して飼育水槽内の魚の数が減った時の酸素消費量の低下、また、魚の成長やパニックによる酸素消費量の増加などの状況変化に対応することができず、適正な酸素濃度を維持することができない。また、このように適正な酸素濃度の維持が困難であることから、飼育する魚の酸素欠乏を防止するために過剰に酸素を供給することになり、酸素供給量が増加して無駄が多い。
【0010】
特許文献2の溶存酸素計で測定した飼育水槽内の酸素濃度により高濃度酸素水を供給又は停止する方法では、エアーストーンにより飼育水槽内に直接酸素供給を行ない適正な酸素濃度に上昇させる程度の溶解であっても、水中に溶解していて置換されたガスとともに溶解しきれなかった酸素が水面から放出され無駄になる。また、飼育水槽内で希釈されることにより飼育水の酸素濃度を適正な濃度とすることができる高濃度酸素水を準備するためには、エアーストーンによりさらに大量の酸素曝気を行う必要があり、放出される酸素の無駄も増加する。
【0011】
特許文献3および特許文献4の下方部分を拡大させて気泡接触室を形成した溶解槽を使用し、ポンプの圧力による加圧溶解を行えば酸素を効率的に水に溶解させることができるため、酸素の供給量を低減することは可能であるが、高濃度酸素水の酸素濃度と水量が制御されていない。このため、酸素不足という魚の養殖にとって致命的な事態を回避するため、飼育水槽内で飼育している魚の最大酸素消費量に合わせて酸素を供給すると、酸素や電力消費が増加し無駄が発生する。
【0012】
特許文献5の溶解槽内の残留ガスを排出する方法では、供給酸素量に対して水量が少なく、または圧力が低い場合には、溶解槽内に不要なガスとともに溶解しきれなかった酸素が残り、排出されて無駄になる。又は、溶解槽内が満たされたときに吐出口からガスが排出され溶解性能が発揮されなくなる。
【0013】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、例えば、簡単に構成され、飼育する魚の数の増減や、魚の活動状況の変化や水温等の外部条件の変化に対応して飼育水の溶存酸素濃度を適切な範囲内に簡便にコントロールすることができるとともに、運転コストを抑制することができる酸素供給システムとその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、水槽と酸素溶解器を有し、水に酸素溶解器で酸素を溶解させて水槽に供給する酸素供給システムにおいて、酸素溶解器の内部水位に応じた量の水をこの酸素溶解器に供給する水供給部と、水槽内の水の溶存酸素濃度に応じた量の酸素を酸素溶解器に供給する酸素供給部とを備えたことを特徴とする酸素供給システムである。
【0015】
請求項2に係る発明は、水供給部は、酸素溶解器に水を流入させる流入口に接続する吐出配管の中間部に複数の分岐吐出配管を並列に有し、複数の分岐吐出配管の各々にポンプを備えた酸素供給システムである。
【0016】
請求項3に係る発明は、酸素供給部は、酸素供給源と、酸素供給源と酸素溶解器の酸素供給口との間を接続する酸素配管を有し、酸素配管の中間部に複数の分岐酸素配管を並列に設け、分岐酸素配管の少なくとも一部に開閉弁を備えた酸素供給システムである。
【0017】
請求項4に係る発明は、酸素溶解器に内部水位を測定するためのレベルセンサを設け、このレベルセンサの検知結果に基づいて、複数の分岐吐出配管の各々に備えたポンプを稼動又は停止して、酸素溶解器への水供給量を調整する酸素供給システムである。
【0018】
請求項5に係る発明は、水槽の内部に水の溶存酸素濃度を計測する酸素濃度測定器を設け、この酸素濃度測定器の計測結果に基づいて、分岐酸素配管に備えた開閉弁を開閉操作して酸素溶解器への酸素供給量を調整する酸素供給システムである。
【0019】
請求項6に係る発明は、酸素溶解器の流出口は絞りを介して水槽に接続された酸素供給システムである。
【0020】
請求項7に係る発明は、水槽と酸素溶解器を有し、水にこの酸素溶解器で酸素を溶解させて水槽に供給する酸素供給システムにおいて、酸素溶解器の内部水位に応じて水を制御してこの酸素溶解器に供給するするとともに、水槽内の水の溶存酸素濃度に応じて酸素を制御して酸素溶解器に供給することを特徴とする酸素供給システムの制御方法である。
【0021】
請求項8に係る発明は、酸素溶解器の内部水位が基準水位以上である場合には、酸素溶解器に水を流入させる流入口に接続する吐出配管の中間部に並列に設けた複数の分岐吐出配管に備えたポンプの一部を稼動させて第1の水供給量を、基準水位未満である場合には、複数の分岐吐出配管に設けたポンプをより多く稼動させて第2の水供給量を酸素溶解器に供給するとともに、水槽内の水の溶存酸素濃度が、基準酸素濃度以上である場合には、酸素供給源と酸素溶解器の酸素供給口との間を接続する酸素配管の中間部に並列に設けた複数の分岐酸素配管の少なくとも一部に備えた開閉弁の少なくとも一部を閉状態として第1の酸素供給量を、基準酸素濃度未満である場合には、より多くの開閉弁を開状態として第2の酸素供給量を酸素溶解器に供給するようにした酸素供給システムの制御方法である。
【0022】
請求項9に係る発明は、第1の水供給量及び第2の水供給量、並びに第1の酸素供給量及び第2の酸素供給量は、第1の水供給量及び第1の酸素供給量を酸素溶解器に供給したとき、予め想定した通常状態における酸素消費量と同等か若しくはそれ以下の酸素量を水に供給するように設定され、第2の水供給量及び第2の酸素供給量を酸素溶解器に供給したとき、予め想定した最大の酸素消費量と同等か若しくはそれ以上の酸素量を水に供給するように設定された酸素供給システムの制御方法である。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明によると、酸素溶解器で加圧溶解により水に高濃度で酸素を溶解させた後にこの水を水槽に供給するため、水槽に必要な酸素量に合わせて酸素を溶解させた水の供給が可能である。また、酸素溶解器での酸素の溶解量は、酸素溶解器内の水位と水槽の溶存酸素濃度に応じて、酸素溶解器への水と酸素の供給量を変化させるだけで制御することができる。これにより、水温等の外部条件の変化に対応して水の溶存酸素濃度を適切に維持することができるので、供給される酸素が多すぎて水に溶解しきれず、気体のまま放出されてしまうことがないので、酸素や電力等の無駄が発生せず、全体として省エネルギー化を図り、運用コストを抑制することができる。
【0024】
請求項2及び請求項3に係る発明によると、複数の分岐吐出配管のそれぞれに備えたポンプを稼動又は停止することにより酸素溶解器へ供給する水の量を変更することができるとともに、分岐酸素配管の少なくとも一部に備えた開閉弁を開閉操作することにより酸素溶解器へ供給する酸素の量を変更することができるので、酸素溶解器に供給する水の供給量と酸素の供給量の組合せを切替えて水に溶解させる酸素の量を簡単に変更することができるとともに、水に酸素を効率良く溶解させることができる。
【0025】
請求項4に係る発明によると、酸素溶解器に内部水位を測定するためのレベルセンサを設け、このレベルセンサの検知結果に基づいて、複数の分岐吐出配管のそれぞれに備えたポンプを稼動又は停止させて酸素溶解器へ供給する水の量を切り替えるので、簡単に酸素溶解器の内部水位を水に酸素を効率良く溶解することができる位置に維持し、供給される酸素を無駄なく水に溶解させることができる。
【0026】
請求項5に係る発明によると、水槽の内部に水の溶存酸素濃度を計測する酸素濃度測定器を設け、この酸素濃度測定器の計測結果に基づいて、分岐酸素配管に備えた開閉弁を開閉操作して酸素溶解器への酸素供給量を調整するので、簡便に酸素溶解器に供給する酸素の供給量を切替えて、水槽内の水の溶存酸素濃度を適切な範囲に維持することができる。
【0027】
請求項6に係る発明によると、酸素溶解器の流出口は絞りを介して水槽に接続されているので、絞り量を適宜調整することにより、酸素溶解器から水槽に還流する水の量を一定量に調整し、水槽内の環境を安定させることができる。
【0028】
また、絞りを設けることにより、絞りを設けることにより絞りを設けない場合よりも酸素溶解器の内部が加圧されるので、加圧効果により絞りを設けない場合よりも多量の酸素を水に溶解させることができ、より効率的に酸素を水に溶解させることができる。
【0029】
請求項7に係る発明によると、酸素溶解器の内部水位に応じて水を制御してこの酸素溶解器に供給するするとともに、水槽内の水の溶存酸素濃度に応じて酸素を制御して酸素溶解器に供給するので、酸素溶解器で効率良く水に酸素を溶解させて、水槽内の水の溶存酸素濃度を調整することができる。
【0030】
請求項8に係る発明によると、複数の分岐吐出管に備えた各々のポンプを稼動又は停止することにより酸素溶解器への水の供給量を切替えることができるとともに、分岐酸素配管に設けた開閉弁の少なくとも一部を開閉操作することにより酸素溶解器への酸素の供給量を切替えことができるので、酸素溶解器への水と酸素の供給モードを簡単に切替えて酸素溶解器で水に溶解させる酸素量を制御することにより、水槽内の水の溶存酸素濃度を簡便に調整することができる。
【0031】
請求項9に係る発明によると、通常時は、予め想定した通常状態における酸素消費量と同等か若しくはそれ以下の酸素量を水に供給する第1の水供給量及び第1の酸素供給量を酸素溶解器に供給することにより最低限必要な酸素量を水に供給するともに、水槽の酸素が不足しそうな場合には、予め想定した最大の酸素消費量と同等か若しくはそれ以上の酸素量を水に供給する第2の水供給量及び第2の酸素供給量を酸素溶解器に供給することにより最大限必要な酸素量を水に供給することができるので、通常時にはエネルギー消費を最小限に維持が可能となり、水槽の酸素が不足しそうな場合には、所要量と同等かそれ以上の酸素を供給することにより、水の溶存酸素濃度の不足を防止することができる。
【0032】
これにより、資源や電力等の無駄が発生せず、全体として省エネルギー化を図って運用コストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の酸素供給システムの構成を説明する模式図である。
【
図2】
図1の酸素溶解器の構造を説明する断面図である。
【
図3】本発明の酸素溶解システムの制御方法を示したフローチャートである。
【
図4】本発明の酸素溶解システムの制御方法における第1及び第2の水供給量、並びに第1及び第2の酸素供給量の設定方法を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明における酸素供給システムの構成について図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の酸素供給システムの一実施形態の模式図である。
【0035】
図1において、酸素供給システム11は、魚を飼育する飼育水槽12と、飼育水槽12から抜出した飼育水12aに酸素を溶解させる酸素溶解器13と、飼育水槽12から抜出した飼育水12aを酸素溶解器13に供給する飼育水供給部14と、飼育水12aに溶解させる酸素を酸素溶解器13に供給する酸素供給部15と、飼育水供給部
14と酸素供給部
15の作動状況を制御する制御盤16とから構成されている。なお、本例では、飼育水槽の飼育水を抜き出し、酸素を溶解させて再び飼育水槽に戻す循環型の養殖システムを例に挙げて説明するが、必ずしもこれに限られず、飼育水槽の飼育水をそのまま掛け流す非循環式の養殖システムであっても良い。
【0036】
飼育水槽12には、所要量の飼育水12aが貯留されており、魚の飼育が行われる。飼育水槽12を使用した魚の養殖においては、飼育水12aの溶存酸素濃度(DO値)を所定範囲に維持することが極めて重要であるため、飼育水槽12内には、飼育水12aの溶存酸素濃度を測定する酸素濃度測定器(DO計)17が備えられている。また、飼育水槽12の底部には、内部に貯留した飼育水12aを取出すための吐出口18が設けられている。
【0037】
酸素溶解器13は、内部を通過する飼育水に効率的に酸素を溶解させるための装置であり、本発明では「オキシジェンコーン」と呼ばれているタイプの酸素溶解器を使用している。
【0038】
図2の断面図に示すように、酸素溶解器13の形状は三角フラスコの形状に似ており、下方に向かうに従って水平断面の面積が拡大する円錐状の空洞を備えた溶解槽21と、溶解槽23上部の円筒状の首部22とから構成されている。
【0039】
首部22の上部には供給される飼育水を取り入れる流入口24が設けられるとともに、首部22の側部には供給される酸素を取り入れる酸素供給口25が設けられている。溶解槽21の底部26には、酸素が溶解した飼育水を外部に取出すための流出口27が設けられている。この流出口27は、絞り28を介して還流配管29により飼育水槽12に接続されている。
【0040】
また、酸素溶解器13には、酸素溶解器13内の飼育水の水位である内部水位を検知するレベルセンサ31と下限センサ32が設けられている。レベルセンサ31は、酸素溶解器13内で酸素を飼育水に効率良く溶解させる基準水位を検知する位置に設けられており、下限センサ32は、何らかの不具合により酸素溶解器13内の水位が低下し過ぎ、最早酸素溶解器として機能しないことを検知する位置に設けられている。
【0041】
図2に示すように、本実施形態では溶解槽21の側面にチューブラ式レベルゲージ33を設け、このチューブラ式レベルゲージ33にレベルセンサ31と下限センサ32を取り付けているが、レベルセンサ31と下限センサ32の設置方法はこれに限られるわけではない。
【0042】
飼育水供給部14は、飼育水槽12の吐出口18と酸素溶解器13の流入口24との間を接続する吐出配管35と、吐出配管35に設けた分岐部36から分岐して合流部37で再び吐出配管35に合流する2本の並列な分岐吐出配管38、39の各々に設けたポンプ40、417とから構成されている。なお、通常、吐出口18直後の吐出配管35には、固形のごみを取り除くフィルタが設けられるが、
図1では省略している。
【0043】
このように2本の並列な分岐吐出配管38、39を構成し、分岐吐出配管38、39のそれぞれにポンプ40、41を設けたことにより、稼動するポンプを1台にするか2台にするかを切替えるのみで、酸素溶解器13に供給する飼育水の量を簡単に調整することができる。
【0044】
なお、本実施形態では分岐吐出配管の数が2本の場合を説明しているが、分岐吐出配管の数は2本に限られるわけではなく、分岐吐出配管を3本以上で構成し、順番に運転するポンプの数を増加させると、さらに小刻みに酸素溶解器への飼育水の供給量を切替えることもできる。また、本発明の実施においては、酸素溶解器への飼育水の供給量を変化させることができれば分岐吐出配管を複数設ける必要はなく、例えば飼育水の供給量を一台で変えられるインバーターポンプ等を用いるなどして、配管を一本としても良い。
【0045】
酸素供給部15は、酸素ボンベを用いた酸素供給源43と、酸素供給源43と酸素溶解器13の酸素供給口25との間を接続する酸素配管44と、酸素配管44に設けた分岐部45から分岐して合流部46で再び酸素配管44に合流する2本の並列な分岐酸素配管47、48のうち分岐酸素配管47に設けた開閉弁49とから構成されている。また、この他、分岐酸素配管47、48には、酸素供給源43から酸素供給口25に供給される酸素流量を調整するために調整弁50、50を取り付けている。
【0046】
分岐酸素配管47にのみ開閉弁49を設け、分岐酸素配管48に開閉弁49を設けていない理由は、酸素供給源43から供給される酸素が常に分岐酸素配管48を通過するようにし、この分岐酸素配管48を通過する酸素量を最少酸素流量とするためである。
【0047】
このように2本の並列な分岐酸素配管47、48を構成し、分岐酸素配管47に開閉弁49を設けたことにより、開閉弁49を開状態か閉状態に切替えるのみで、酸素溶解器13に供給する酸素量を最少酸素流と最大酸素流量とに簡単に切替えることができる。
【0048】
なお、本実施形態では分岐酸素配管の数が2本の場合を説明しているが、分岐酸素配管の数は2本に限られるわけではなく、分岐酸素配管を3本以上で構成し、1本の分岐酸素配管を除いた他の分岐酸素配管には開閉弁を設け、開閉弁を順番に開状態にすることにより、さらに小刻みに酸素溶解器13への酸素の供給量を切替えることができる。また、開閉弁49の代わりに、中間開度での制御が可能な自動弁等を適用すれば、分岐酸素配管を設けずに酸素溶解器への酸素供給量を変化させることも可能である。
【0049】
また、本実施形態では、酸素供給源43として酸素ボンベを使用しているが、酸素ボンベに限られることなく、例えば、PSA式酸素ガス発生装置等を使用することもできる
【0050】
制御盤16は、酸素溶解器13のレベルセンサ31が検知した酸素溶解器13の内部水位に応じ、分岐吐出配管38に設けたポンプ40と分岐吐出配管39に設けたポンプ41の稼動、停止を制御する。具体的には、レベルセンサ31が酸素溶解器13の内部水位を基準値以上であると検知した場合には、ポンプ40とポンプ41のどちらか一方のみを稼動して酸素溶解器13に供給する飼育水の量を少なくし、レベルセンサ31が酸素溶解器13の内部水位が基準値未満であると検知した場合には、ポンプ40とポンプ41の両方を稼動して酸素溶解器13に供給する飼育水の量を多くする。レベルセンサ31が検知した酸素溶解器13の内部水位に応じ、酸素溶解器13に供給する飼育水の量を変える理由については、後述する。
【0051】
また、制御盤16は、飼育水槽12内の酸素濃度測定器17が測定した飼育水の溶存酸素濃度に応じ、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49の開閉状態を制御する。具体的には、酸素濃度測定器17が測定した飼育水の溶存酸素濃度が基準値以上である場合には、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を閉状態にして分岐酸素配管48のみで酸素を酸素溶解器13に供給するようにして酸素溶解器13に供給する酸素の量を少なくし、酸素濃度測定器17が測定した飼育水の溶存酸素濃度が基準値未満である場合には、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を開状態にして分岐酸素配管47と分岐酸素配管48の双方で酸素を酸素溶解器13に供給するようにして酸素溶解器13に供給する酸素の量を多くする。酸素濃度測定器17が測定した飼育水の溶存酸素濃度に応じ、酸素溶解器13に供給する酸素の量を変える理由については、後述する。
【0052】
続いて、
図1に示す酸素供給システム11の動作を説明する。先ず、通常の条件下における酸素供給システム11の作動状況を説明する。通常の条件とは、この実施形態においては、分岐吐出配管38、39のそれぞれに設けたポンプ40、41のうち1台のポンプのみ稼動させて酸素溶解器13に飼育水を供給し、かつ分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を閉状態として、分岐酸素配管48のみから酸素溶解器13に酸素を供給する場合である。
【0053】
飼育水槽12の吐出口18から取り出された飼育水は、ポンプにより酸素溶解器13へ圧送されて流入口24から酸素溶解器13の内部に送り込まれ、また酸素供給口25から供給された酸素が供給される。
【0054】
酸素が供給された飼育水は、順次送り込まれる飼育水に押されるために下降流となり、酸素の気泡53の浮上速度よりも大きな下降速度で底部26に設けられた流出口27へと向かうため、酸素の気泡53はこの下降流により押されて浮上することができずに溶解槽21の内部に留まるため、酸素の気泡53と飼育水との接触時間が長くなって酸素が飼育水に溶解し易くなる。
【0055】
また、前述したように、溶解槽21は底面26方向に向かうに従って水平断面の面積が拡大する円錐状の空洞なので、内部の流路面積は底部26に向かうに従って増加するため、飼育水の下降速度は飼育水が溶解槽21内を下降するに従って遅くなり、その結果、圧力は増加して加圧溶解効果が生じる。これに加え、流出口27は、絞り28を介して還流配管29により飼育水槽12に接続されているため、溶解槽21内の圧力はさらに増加し、加圧溶解効果を増加させる。なお、酸素溶解器13にて加圧溶解が生じるメカニズムは必ずしもこれに限られない。
【0056】
このようにして酸素溶解器13で酸素を十分に溶解させた飼育水は、還流配管29を介して飼育水槽12に還流して内部の飼育水12aと混ざり合う、酸素溶解器13を経た飼育水は飼育水槽12内の飼育水より酸素濃度が高いので、飼育水槽12内の酸素濃度を高めることができる。そのため、飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度を所定濃度に維持することができる。
【0057】
ところで、飼育水槽12内の魚の活動量が給餌等により活発化し、それに伴って魚の酸素消費量が増加した場合には、それに応じて酸素の供給量を増加させることが考えられるが、発明者が行った実験の結果では、酸素の供給量を増加させることで水への酸素の溶解量を増加させることができるものの、効果的に酸素を水に溶解させるためには、酸素の供給量の増加に対応させて水の供給量も増加させることが好ましいことを確認した。
【0058】
実験では、酸素溶解器に流量83(L/min)のポンプ2台を並列に接続し、酸素供給量を2(L/min)、3(L/min)、4(L/min)と変化させ、ポンプ1台を作動させた場合とポンプ2台を作動させた場合について、酸素の溶解状態を確認するとともに、酸素用溶解器から流出する水に溶解した酸素量を計測した。
【0059】
計測結果は表1に示すとおりであり、ポンプ1台を作動させて酸素溶解器に流量83(L/min)で水を供給した場合には、酸素供給量が2(L/min)では安定した溶解状況で、酸素溶解量は0.0353(mg/L)であるのに対し、酸素供給量を3(L/min)に増加させると、不安定な溶解状況となって酸素溶解器の流出口からは溶解しなかった酸素ガスが排出され、酸素溶解量は0.0484(mg/L)に留まって酸素供給量に比例して増加しなかった。
【0060】
【0061】
これに対し、ポンプ2台を作動させて酸素溶解器に流量166(L/min)で水を供給した場合には、酸素供給量が3(L/min)では安定した溶解状況で、酸素溶解量は0.0693(mg/L)であり、酸素供給量が4(L/min)でも安定した溶解状況で、酸素溶解量は0.0752(mg/L)であった。
【0062】
このように、酸素が安定して水に溶解する状態で水に溶解する酸素量を増加させるためには、酸素の供給量の増加に対応させて水の供給量も増加させることで、効率良く水に酸素を溶解させることができることを確認した。
【0063】
このため、本発明の酸素供給システムにおいては、飼育水槽12と酸素溶解器13とを接続する吐出配管35の途中に分岐吐出配管38、39を形成するとともに、この分岐吐出配管38、39にそれぞれポンプ40、41を設け、これらのポンプを稼動、停止することにより、酸素溶解器13への飼育水の供給量を切替えることができるようにしている。
【0064】
このように、大出力のポンプを1台備えてポンプの出力を制御することにより酸素溶解器13への飼育水の供給量を制御するのではなく、小出力のポンプ2台を並列に設置してポンプの稼動数を増減することにより酸素溶解器13への飼育水の供給量を切り替えるように構成したことにより、酸素溶解器13への飼育水の供給量の制御が簡便に行えるとともに、装置コストを抑制することができる。
【0065】
従って、飼育水槽12内の魚の活動量が給餌等により活発化して酸素消費量が増加した場合に、酸素溶解器13で飼育水に溶解させる酸素量を増加させるためには、後述する制御方法により、制御盤16が分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を開状態として酸素供給量を増やすだけでなく、分岐吐出配管38、39に設けたポンプ40、41の両方を稼動させて飼育水の供給量も増加させている。
【0066】
以上説明したように、本発明の酸素供給システムでは、酸素溶解器13への飼育水の供給量と酸素の供給量を各々2通りに設定し、飼育水の供給量と酸素の供給量の組合せを切替えることにより、酸素を効率良くかつ無駄なく飼育水に溶解させて飼育水槽に供給し、飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素量を魚の活動等に適した範囲に維持することができる。なお、飼育水の供給量と酸素の供給量は必ずしもそれぞれ2通りである必要はなく、必要に応じて3通り以上としても良い。
【0067】
次に、本発明の酸素供給システムの制御方法について説明する。飼育水槽12内の飼育水の溶存酸素濃度を魚の活動等に対応させて常に適切な範囲に維持するように細かい制御を行うと、システム自体が複雑化するとともに運用も容易ではないことから、本発明の酸素供給システムでは、酸素溶解器による加圧溶解を適用することで、簡便な制御方法により飼育水の溶存酸素濃度を適切な範囲に維持している。
【0068】
すなわち、本発明の酸素供給システムの制御方法においては、酸素溶解器13に供給する飼育水の供給量を並列な2本の分岐吐出配管38、39に設けたポンプ40、41の運転、停止を切替えることで、ポンプ1台により飼育水を酸素溶解器に供給する第1の水供給量、ポンプ2台により飼育水を酸素溶解器に供給する第2の水供給量に切替えるとともに、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49の開閉状態を切替えることで、分岐酸素配管48だけで酸素を酸素溶解器に供給する第1の酸素供給量、分岐酸素配管47、48の2本で酸素を酸素溶解器に供給する第2の酸素供給量に切替えるようにしている。
【0069】
これらの切替えは、飼育水の供給量については、酸素溶解器13に設けたレベルゲージが検知した酸素溶解器13に内部水位に基づいて行い、内部水位が基準水位以上である場合には第1の水供給量に、内部水位が基準水位未満である場合には第2の水供給量に切替える。
【0070】
また、酸素の供給量については、飼育水槽12の設けた酸素濃度測定器17が測定した飼育水の溶存酸素濃度に基づいて行い、溶存酸素濃度が基準酸素濃度以上である場合には第1の酸素供給量に、溶存酸素濃度が基準酸素濃度未満である場合には第2の酸素供給量に切替える。
【0071】
これらの切替えにより、酸素溶解器に供給される飼育水と酸素の供給量の組合せは表2に示すAからDの4通りのモードとなる。
【0072】
【0073】
以下、各モードにおける本発明の酸素供給システムの操作方法について、
図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0074】
Aモードは、本実施形態の酸素供給システム11における通常時のモードである。この通常時は、魚の活動が落着いて安定している状態であり、酸素溶解器13に第1の水供給量を連続的に供給され、酸素溶解器13から流出した飼育水は、還流配管29を介して飼育水槽12に還流する。この飼育水槽12に還流する飼育水の流量は、還流配管29に設けた絞り28によって一定量に調整されている。
【0075】
酸素溶解器13への酸素供給については、並列に2本設けた分岐酸素配管47、48のうち、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を閉状態とし、もう一方の分岐酸素配管48を通じて連続的に供給する。
【0076】
本実施形態の酸素供給システム11においては、飼育水槽12における通常時の酸素消費量を予め想定しておき、これと同程度の酸素量を飼育水に供給できるように酸素溶解器13に供給する第1の水供給量及び第1の酸素供給量を設定する。
【0077】
この通常時の酸素消費量は、例えば、飼育水槽で魚を飼育する場合、飼育水槽のサイズや、飼育する魚の数や大きさ等を考慮して決定することができる。この状態で酸素溶解器内の水位が一定に保たれるようにすれば、通常時は酸素溶解器へ供給する飼育水量と酸素量を変化させずに済むため、制御が容易となる。
【0078】
Aモードは、酸素供給システム11の基本運転モードであり、
図3のフローチャートに示すように、ステップ101で第1の水供給量に、ステップ102で第1の酸素供給量に設定し、ステップ103で飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度が基準酸素濃度以上であるか、ステップ104で酸素溶解器13の内部水位が基準水位以上であるかの判定を行う。なお、以上の説明では、飼育水の溶存酸素濃度を判定した後に内部水位を判定するとしているが、これはフローチャートの記述方法の制約によるものであり、実際の制御盤16では、飼育水槽12における飼育水の溶存酸素濃度と酸素溶解器13の内部水位の判定を同時に実施しているが、本発明の酸素供給システムでは、飼育水槽内の飼育水の溶存酸素濃度が重要な制御対象なので、飼育水の溶存酸素濃度を酸素溶解器13の内部水位よりも先に判定するようにフローチャートを記述している。
【0079】
Aモードで酸素供給システム11を運転している場合に、例えば、給餌後などに飼育水槽内の魚の活動が活発化すると酸素消費量が増加するが、酸素溶解器13から供給される酸素量はAモードのままなので、魚の酸素消費量の増加に伴って、飼育水の溶存酸素濃度が低下することになる。飼育水の溶存酸素濃度が一定レベル未満に低下すると魚の生存に好ましくない条件となる。そこで、予め飼育水槽で飼育する魚の数等を考慮し、飼育水の基準酸素濃度を決めておく。
【0080】
飼育水槽内の溶存酸素濃度がこの基準酸素濃度を下回ると、ステップ103で飼育水の溶存酸素濃度が基準未満であると判定されてステップ105に移行する。ステップ105では、通常時(Aモード時)には閉状態である分岐酸素供給配管47に設けた開閉弁49を開状態にし、酸素供給量を2本の分岐酸素配管47、48で供給する第2の酸素供給量とし、酸素溶解器13への酸素供給量を増加させるBモードに移行する。Bモードでは、酸素溶解器13内に供給される酸素量が増えるので、酸素溶解器13で飼育水に溶解される酸素量が増加し、ひいては飼育水槽12への酸素供給量が増加する。
【0081】
ステップ105で酸素溶解器13への酸素供給量を第2の酸素供給量に設定した後、ステップ106に移行し、酸素溶解器13の内部水位が基準水位以上であるか否かが判定され、供給された酸素が安定して飼育水に溶解して水位が基準水位以上である場合には、ステップ107に移行する。
【0082】
ステップ107では、飼育水槽12内の飼育水の溶存酸素濃度が基準酸素濃度に達したか否かが判定され、飼育水の溶存酸素濃度が回復して基準酸素濃度以上に達するとステップ108に移行する。
【0083】
ステップ108では、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を閉状態にして酸素溶解器13への酸素供給量を第1の酸素供給量に戻し、Bモードを終了して通常モードであるAモードに戻る。
【0084】
水に対する酸素の溶解量は、水温が上昇するに従って減少する。このため、例えば、気温の上昇などによって飼育水の水温が上昇した結果、酸素溶解器13で第1の酸素供給量で供給した酸素が飼育水に溶解し切れなくなった場合、酸素溶解器13内では気体状の酸素の量が増加し、酸素溶解器13の内部水位が低下する。
【0085】
飼育水の酸素溶解量が低下したことにより酸素溶解器13の内部水位が基準水位を下回ると、例えば、通常モードでは分岐吐出配管38に設けたポンプ40を稼動していた場合には、分岐吐水配管39に設けた2つ目のポンプ41を稼動させ、酸素溶解器への水の供給量を第2の水供給量を増やして飼育水への酸素の溶解量を増加させるCモードに移行する。すなわち、Aモードで酸素供給システム11を運転している場合に、酸素溶解器13の内部水位が基準水位より低下したことがステップ104で判定されると、ステップ109に移行する。
【0086】
ステップ109では、それまで稼動させていないポンプも稼動させて酸素溶解器13への飼育水の供給量を第2の供給量に設定するので、飼育水の供給量が増えることで酸素溶解器13での酸素の溶解量も増え、酸素溶解器13の内部水位は徐々に上昇する。
【0087】
ステップ110において、酸素溶解器13の内部水位が基準水位以上になったと判定されると、ステップ111において、2つ目のポンプの稼動を停止し、酸素溶解器13への飼育水の供給量を第1の水供給量に戻し、Cモードを終了して通常モードであるAモードに戻る。
【0088】
上述したAモード、Bモード及びCモードの他に、本酸素供給システムにおいては、第2の水供給量及び第2の酸素供給量としたときに、予め想定した飼育している魚の最大の酸素消費に対し、同等かそれ以上の酸素量を飼育水槽内の飼育水に供給するように設定したDモードを用意している。このDモードでは、想定される魚の最大の酸素消費を超える酸素を酸素供給器13から飼育水槽12に供給することができるので、魚の酸素消費量が想定した範囲内であれば、飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度を必ず増加させることができる。
【0089】
上述したBモードの状態では、通常時のAモードに比べ、酸素溶解器13への酸素供給量を第2の酸素供給量に増加している一方で、飼育水の供給量は第1の水供給量のままであって増加していない。このため、例えば、魚の活動量の増加に加えて水温の上昇が発生した場合には、酸素溶解器13内で飼育水に酸素が溶解しにくくなり、供給した酸素の全てが飼育水に溶解しない場合がある。また、第2の酸素供給量の酸素が第1の水供給量の水に溶解しきれないように設定されている場合でも、酸素溶解器13内で気体状態の酸素が増加する。これらの場合には、酸素が気体状態で酸素溶解器13内に溜まることになるため、徐々に酸素溶解器13の内部水位が低下する。
【0090】
ステップ105において酸素溶解器13への酸素供給量を第2の酸素供給量に設定した後、ステップ106において酸素溶解器13の内部水位が基準水位以下であると判定された場合には、ステップ112に移行し、Dモードを実行する。
【0091】
Dモードでは、ステップ112で、分岐吐水配管に設置された2つ目のポンプを稼動させ、酸素溶解器13への水の供給量を第2の水供給量に増加させる。この状態では、酸素溶解器13に第2の酸素供給量の酸素と、第2の水供給量の飼育水が供給されているので、上述したように飼育水槽12内に飼育水12aの溶存酸素濃度が必ず増大するとともに、通常時より酸素溶解器13への飼育水の供給量が増加しているため、酸素溶解器13の内部水位も上昇する。
【0092】
したがって、飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度、及び酸素溶解器13の内部水位はやがて基準値以上に戻るが、その過程で、飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度が先に基準酸素濃度以上となる場合は、ステップ113で飼育水槽12内の飼育水12aの溶存酸素濃度が基準値以上であると判定されるとステップ114に移行し、分岐酸素配管47に設けた開閉弁49を閉状態にして酸素溶解器13への酸素供給量を第1の酸素供給量に戻してDモードを終了し、Cモードを経て通常モードに戻る。
【0093】
また、先に酸素溶解器13の内部水位が基準水位以上になる場合は、ステップ115で酸素溶解器13の内部水位が基準水位以上であると判定されるとステップ116に移行し、2つ目のポンプの稼動を停止し、酸素溶解器13への飼育水の供給量を第1の水供給量に戻して、Bモードに移行し、またはDモードとBモードとを繰り返した後に通常状態であるAモードに戻る。
【0094】
以上説明したように、本発明の酸素供給システムにおいては、飼育する魚の種類や数に応じ、それに適したサイズの飼育水槽を選択した上で、魚の通常時の活動で消費する酸素量を想定し、それに応じて第1の水供給量及び第1の酸素供給量を設定するとともに、魚の最大酸素消費量を想定し、それに応じて第2の水供給量及び第2の酸素供給量を設定する。
【0095】
このように設定した第1及び第2の水供給量と、第1及び第2の酸素供給量との組合せをAモード、Bモード、Cモード、Dモードの4通りに切り替えるだけで、飼育水槽内の飼育水の溶存酸素濃度を適切な範囲内に簡便にコントロールすることができる。
【0096】
ところで、魚が成長すると、当初の想定よりも酸素の消費量が通常時、最大時ともに増加することになる。また、出荷に適した魚が一定程度の割合で含まれるようになれば、その魚は水槽から取り出し、その分新たな魚を追加することがある。いずれの場合でも、飼育水槽での通常時及び最大時の酸素消費量は変化する。
【0097】
そこで、本発明の酸素供給システムを使用する際には、定期的に飼育水槽内の魚の状況を確認し、その状況に適した第1及び第2の水供給量、並びに第1及び第2の酸素供給量を設定し直すことが好ましい。
【0098】
図4は、飼育する魚の成長に応じて第1及び第2の水供給量、並びに第1及び第2の酸素供給量の見直しを行う場合を模式的に示している。
図4に示した上下しながら増加する実線の曲線55は魚の酸素消費量の変化を、破線のうち、下側の破線56が第1の水供給量及び第1の酸素供給量としたときに飼育水槽中の飼育水に供給可能な酸素量を示し、上側の破線57が第2の水供給量及び第2の酸素供給量としたときに飼育水槽中の飼育水に供給可能な酸素量を示している。
【0099】
ここで、第1の水供給量及び第1の酸素供給量は、予め想定した飼育水槽での通常時の酸素消費に対し、飼育水槽の酸素濃度が維持するか又は減少するように設定する。この通常時の酸素消費も、魚の成長に伴い変化するが、例えば所定期間内での変化を想定し、その期間を通じた通常時の酸素消費に対応できる程度に第1の水供給量及び第1の酸素供給量を設定する。
【0100】
ここで設定する第1の水供給量及び第1の酸素供給量により飼育水槽内の飼育水へ供給する酸素供給量が過少であると、頻繁に第2の水供給量及び第2の酸素供給量への切り替えが必要となるために酸素供給システムの運転効率が低下し、酸素供給量が過剰であると初期の酸素供給量が多くなり過ぎ、魚への悪影響が出たり、酸素が無駄となって運転効率が悪化したりする。
【0101】
一方、第2の水供給量及び第2の酸素供給量は、上記の所定期間内で想定される最大の酸素消費に対応できるように設定する。これは、飼育水槽内の飼育水の溶存酸素濃度の不足は、魚の生存に深刻な影響を与えるからである。
【0102】
図4では、上述した所定期間を半月と設定し、この所定期間が経過した時点で第1の水供給量及び第1の酸素供給、並びに第2の水供給量及び第2の酸素供給量の見直しを行う。この見直しは、その後の所定期間内(
図4では、飼育開始から1ヶ月経過後まで)での飼育水槽での魚の飼育状況の変化を想定し、上記と同様にして行う。
【0103】
図4に示す例では、その後の半月間の魚の成長を想定し、それに対応できるように第1の水供給量及び第1の酸素供給量、並びに第2の水供給量及び第2の酸素供給量をそれぞれ引き上げているため、見直し後の第1の水供給量及び第1の酸素供給量により飼育水槽中の飼育水に供給可能な酸素量を示す破線58と、見直し後の第2の水供給量及び第2の酸素供給量により飼育水槽中の飼育水に供給可能な酸素量を示す破線59の位置も変化している。
【0104】
なお、見直しは、必ずしも予め設定した所定期間の経過時点で行う必要はなく、例えば、飼育水槽の最大酸素消費に、第2の水供給量及び第2の酸素供給量では対応できなくなりそうな時点で行うようにしてもよい。
【0105】
図4に示すように、飼育開始後1ヶ月を経過した時点で、飼育していた魚が出荷可能な程度にまで成長したら、飼育水槽内の魚を入れ替える。この入れ替えに伴い、飼育水槽での酸素消費量は再び大きく変化するので、それに応じて第1の水及び酸素供給量と第2の水及び酸素供給量の見直しを行う。
【0106】
上記の通り、本発明の酸素供給システムによれば、飼育水槽の状況の変化に対して第1の水供給量及び第1の酸素供給、並びに第2の水供給量及び第2の酸素供給量の見直しを行うことで、その飼育水槽の状況に適した酸素供給を行うことが可能となる。この見直しを頻繁に行うほど無駄の少ない酸素供給が可能となるが、あまり多すぎても作業が煩雑となるので、この見直しのタイミングは、飼育する魚の種類や数等に応じて適宜設定することが好ましい。
【0107】
以上説明したように、本発明による酸素供給システムとその制御方法によると、飼育水槽内の飼育水の溶存酸素濃度と酸素溶解器の内部水位に応じて、酸素溶解器への飼育水と酸素の供給モードを切替えるだけで、簡単に酸素を効率良くかつ無駄なく飼育水に溶解させて飼育水槽に供給し、飼育水槽内の飼育水の溶存酸素濃度を適切な範囲に維持することができるので、システム全体として省エネルギー化を図り、運用コストを抑制することができる。
【0108】
従来のように、飼育水槽に直接酸素を送り込んで飼育水の酸素濃度を調節する場合は、酸素量の厳密な制御が必要となるか、或いは過剰に酸素を供給して酸素が無駄となり易い。これに対し、本発明では、酸素溶解器で酸素を溶解させてから飼育水を飼育水槽に供給するので、酸素溶解器で効率良く酸素を溶解させながら、飼育水槽には必要なだけ酸素溶解後の飼育水を供給すれば良いので、酸素の無駄が生じにくい。また、酸素溶解器での酸素溶解量も、酸素溶解器への水及び酸素の供給量を切替える(好ましくはそれぞれ2通り)だけで調整できるので、従来に比して極めて簡便である。
【0109】
また、本発明による酸素供給システムとその制御方法は、以上説明した魚の養殖だけ ではなく、酸素の供給により水を浄化する排水処理や汚水処理の分野においても適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
11 酸素供給システム
12 飼育水槽
13 酸素溶解器
14 飼育水供給部
15 酸素供給部
16 制御盤
17 酸素濃度測定器
28 絞り
29 還流配管
31 レベルセンサ
35 吐出配管
38、39 分岐吐出配管
40、41 ポンプ
43 酸素供給源(酸素ボンベ)
44 酸素配管
47、48 分岐酸素配管
49 開閉弁
50 調整弁