(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20230815BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/042 612
(21)【出願番号】P 2019146049
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047317(WO,A1)
【文献】特開2015-126040(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0311673(US,A1)
【文献】特開2017-212270(JP,A)
【文献】特開2017-098328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された透光性の第1の電極と、
前記第1の電
極上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成され、前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に形成され、前記第2の導電型を有する複数の半導体膜からなり、前記第1の
多層膜反射鏡と共に共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、
前記第2の多層膜反射鏡上に形成され、上面及び前記上面から突出する凸部を有し、前記第2の導電型を有する半導体基板と、
前記半導体基板の前記上面上に形成された第2の電極と、を有
し、
前記半導体基板の前記凸部は、前記凸部の頂面の近傍において導電性が損なわれたダメージ層を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記半導体基板の前記凸部
の前記頂面は、研磨されることで鏡面化され
ていることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記第2の多層膜反射鏡は、前記発光層から放出された光に対して前記第1の多層膜反射鏡よりも小さな反射率を有することを特徴とする請求項1
又は2のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記第1の多層膜反射鏡を埋め込むように前記第1の多層膜反射鏡上に形成され、前記第1の電極に接続された接続電極を有することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記接続電極は、前記第1の多層膜反射鏡を貫通して前記第1の電極に接続されていることを特徴とする請求項
4に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記半導体基板の前記凸部を覆うように形成された反射防止層を有することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
前記第2の電極は、前記凸部から離間して形成されている請求項1乃至
6のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザの1つとして、電圧の印加によって光を放出する半導体層と、当該半導体層を挟んで互いに対向する多層膜反射鏡と、を有する垂直共振器型の面発光レーザが知られている。また、当該半導体レーザには、例えば、当該半導体層に電気的に接続された電極が設けられている。例えば、特許文献1には、n型半導体層及びp型半導体層にそれぞれ接続されたn電極及びp電極を有する垂直共振器型の半導体レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子には、対向する反射鏡によって光共振器が形成されている。例えば、面発光レーザ内においては、電極を介して半導体層に電圧が印加されることで、当該半導体層から放出された光が当該光共振器内で共振し、レーザ光が生成される。
【0005】
ここで、面発光レーザ内において低閾値でレーザ発振を起こさせるためには、例えば、電極を介して半導体層に注入される電流が半導体層内において高効率で光に変換されることが好ましい。従って、例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子は、半導体層に低抵抗で電流を注入できる電極構成を有することが好ましい。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、高効率な電流注入を行うことで高効率な発光動作を行う垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、第1の多層膜反射鏡と、第1の多層膜反射鏡上に形成された透光性の第1の電極と、第1の電極層上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層と、第1の半導体層上に形成された発光層と、発光層上に形成され、第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層と、第2の半導体層上に形成され、第2の導電型を有する複数の半導体膜からなり、第1の反射鏡と共に共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、第2の多層膜反射鏡上に形成され、上面及び上面から突出する凸部を有し、第2の導電型を有する半導体基板と、半導体基板の上面上に形成された第2の電極と、を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る面発光レーザの上面図である。
【
図2】実施例1に係る面発光レーザの断面図である。
【
図3】実施例1に係る面発光レーザ内に流れる電流を示す図である。
【
図4A】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4B】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4C】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4D】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4E】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4F】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4G】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図4H】実施例1に係る面発光レーザの製造工程を示す図である。
【
図5】実施例2に係る面発光レーザの上面図である。
【
図6】実施例2に係る面発光レーザの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。また、以下の実施例においては、本発明が面発光レーザ(半導体レーザ)として実施される場合について説明する。しかし、本発明は、面発光レーザに限定されず、垂直共振器型発光ダイオードなど、種々の垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、面発光レーザと称する)の模式的な上面図である。また、
図2は、面発光レーザ10の断面図である。
図2は、
図1の2-2線に沿った断面図である。
図1及び
図2を用いて、面発光レーザ10の構成について説明する。
【0011】
面発光レーザ10は、マウント基板10Mと、マウント基板10M上に形成されたp電極(接続電極)11と、p電極11に埋め込まれて部分的にp電極11から露出するように形成された第1の多層膜反射鏡(以下、単に第1の反射鏡と称する)12と、を有する。
【0012】
本実施例においては、第1の反射鏡12は、第1の誘電体膜(以下、低屈折率誘電体膜と称する)12Lと低屈折率誘電体膜12Lよりも高い屈折率を有する第2の誘電体膜(以下、高屈折率誘電体膜と称する)12Hとが交互に積層された構造を有する。本実施例においては、第1の反射鏡12は、誘電体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)を構成する。
【0013】
また、本実施例においては、p電極11は、上面に第1の反射鏡12を部分的に露出させる開口部を有する。また、第1の反射鏡12は、p電極11の当該開口部においてp電極11から突出しつつp電極11から露出する露出部12Eを有する。
【0014】
本実施例においては、第1の反射鏡12は、p電極11に埋め込まれた埋設多層膜部分と、当該埋設多層膜部分から段階的に幅が小さくなるように突出する突出多層膜部分と、を有する。本実施例においては、当該突出多層膜部分は、2段階で直径が小さくなるように当該埋設多層膜部分から円柱状に突出した第1の多層膜12の部分である。
【0015】
また、本実施例においては、第1の反射鏡12における当該突出多層膜部分の下方部分(本実施例においては下段部)の側面はp電極11に覆われ、上方部分(本実施例においては上段部)の側面及び上面はp電極11から突出して露出している。すなわち、本実施例においては、第1の反射鏡12の露出部12Eは、当該突出多層膜部分の下方部分の上面と、上方部分の側面及び上面と、を含む。また、第1の反射鏡12の露出部12Eは、上面視において円形状を有する。
【0016】
面発光レーザ10は、第1の反射鏡12の露出部12Eを覆いつつp電極11上に形成された透光電極(第1の電極)13を有する。本実施例においては、第1の反射鏡12は、マウント基板10M側から透光電極13側に至る貫通孔を有する。また、p電極11は、第1の反射鏡12を部分的に貫通して透光電極13に接続されている。また、本実施例においては、第1の反射鏡12は筒状に形成された貫通孔を有し、p電極11は筒状に第1の反射鏡12を貫通して透光電極13に接続されている。
【0017】
また、面発光レーザ10は、p電極11及び透光電極13上に形成され、かつ第1の反射鏡12の露出部12E上において透光電極13を露出させる開口部14Aを有する絶縁層14を有する。
【0018】
本実施例においては、透光電極13は、絶縁層14の開口部14Aから露出する露出部13Eを有する。本実施例においては、透光電極13の露出部13Eは、円形の上面形状を有する。
【0019】
例えば、マウント基板10Mは、熱伝導性の高い材料、例えばAlNなどのセラミックス材料からなる。p電極11は、Au、Al及びCuなどの金属材料からなる。第1の反射鏡12における低屈折誘電体膜12LはSiO2からなり、高屈折率誘電体膜12HはNb2O5からなる。透光電極13は、ITO及びIZOなどの透明導電膜からなる。また、絶縁層14は、SiO2及びSiNなどからなる。
【0020】
面発光レーザ10は、絶縁層14上に形成され、かつ絶縁層14の開口部14Aにおいて透光電極13の露出部13Eに接続された光半導体層15を有する。例えば、光半導体層15は、窒化物系半導体からなる複数の半導体層を含む。透光電極13の露出部13Eは、透光電極13(p電極11)と光半導体層15とを電気的に接続するコンタクト領域として機能する。
【0021】
本実施例においては、光半導体層15は、透光電極13の露出部13Eに接しつつ絶縁層14上に形成されたp型半導体層(第1の導電型を有する第1の半導体層)15Pと、p型半導体層15P上に形成された発光層(活性層)15Aと、発光層15A上に形成されたn型半導体層(第2の半導体層、第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する半導体層)15Nと、を有する。
【0022】
本実施例においては、n型半導体層15Nは、GaNの組成を有し、Siをn型不純物として含む。発光層15Aは、InGaNの組成を有する井戸層及びGaNの組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する。また、p型半導体層15Pは、GaN系の組成を有し、Mgをp型不純物として含む。
【0023】
なお、光半導体層15の構成はこれに限定されない。例えば、n型半導体層15Nは、互いに組成が異なる複数のn型の半導体層を有していてもよい。また、発光層15Aは、単一量子井戸構造を有していてもよいし、単層構造を有していてもよい。
【0024】
また、p型半導体層15Pは、互いに組成が異なる複数のp型の半導体層を有していてもよい。例えば、p型半導体層15Pは、透光電極13とのオーミックコンタクトを形成するためのコンタクト層(図示せず)を有していてもよい。この場合、例えば、p型半導体層15Pは、当該コンタクト層と発光層15Aとの間に、クラッド層としてのGaN層を有していればよい。
【0025】
また、光半導体層15は、例えば、発光層15Aとp型半導体層15Pとの間に、発光層15Aに注入された電子のp型半導体層15Pへのオーバーフローを防止する電子ブロック層(図示せず)を有していてもよい。例えば、当該電子ブロック層は、AlGaNの組成を有していてもよい。また、当該電子ブロック層は、不純物を含んでいてもよく、例えばp型の不純物を有し、p型の導電型を有していてもよい。
【0026】
面発光レーザ10は、光半導体層15上に形成された第2の多層膜反射鏡(以下、単に第2の反射鏡と称する)16を有する。第2の反射鏡16は、光半導体層15を挟んで第1の反射膜12に対向して配置されている。第2の反射鏡16は、第1の反射鏡12と共に、光半導体層15に垂直な方向(マウント基板10Mに垂直な方向)を共振器長方向とする共振器10Cを構成する。
【0027】
本実施例においては、第2の反射鏡16は、第1の半導体膜(以下、低屈折率半導体膜と称する)16Lと低屈折率半導体膜16Lよりも高い屈折率を有する第2の半導体膜(以下、高屈折率半導体膜と称する)16Hとが交互に積層された構造を有する。すなわち、本実施例においては、第2の反射鏡16は、半導体材料からなる分布ブラッグ反射器を構成する。
【0028】
例えば、第2の反射鏡16における低屈折率半導体膜16L及び高屈折率半導体膜16Hの各々は、光半導体層15と同種の半導体材料、本実施例においては窒化物系半導体材料からなる。例えば、低屈折率半導体膜16LはAlInNからなり、高屈折率半導体膜16HはGaNからなる。
【0029】
また、本実施例においては、第2の多層膜16は、n型の導電型を有する。本実施例においては、低屈折率半導体膜16L及び高屈折率半導体膜16Hの各々は、n型不純物を含む。例えば、本実施例においては、低屈折率半導体膜16L及び高屈折率半導体膜16Hは、それぞれSiを含むAlInN膜及びGaN膜である。
【0030】
面発光レーザ10は、第2の反射鏡16上に形成された半導体基板17を有する。半導体基板17は、光半導体層15及び第2の反射鏡16と同種の半導体材料、本実施例においては窒化物系半導体材料からなる。半導体基板17は、発光層15Aから放出された光に対して透光性を有する。
【0031】
また、本実施例においては、半導体基板17は、光半導体層15及び第2の反射鏡16の結晶成長に用いられる成長用基板である。例えば、半導体基板17は、GaNの組成を有する。また、本実施例においては、半導体基板17と第2の反射鏡16との間にはGaNの組成を有するバッファ層(図示せず)を有する。
【0032】
また、本実施例においては、半導体基板17は、n型の導電型を有する。本実施例においては、半導体基板17は、n型不純物を有する半導体材料からなり、本実施例においてはSiを含むGaN基板である。
【0033】
また、半導体基板17は、上面17S及び上面17Sから突出した凸部17Pを有する。凸部17Pは、研磨されることで鏡面化された頂面17PSを有する。また、凸部17Pは、頂面17PSから所定の深さの領域に形成され、研磨されることで導電性が損なわれたダメージ層17Aを有する。
【0034】
本実施例においては、凸部17Pは、半導体基板17における上面17Sから円柱状に突出した部分である。また、凸部17Pは、凸部17Pの中心軸が透光電極13における露出部13E(すなわち光半導体層15とのコンタクト領域)の中心を通る位置に配置されるように、形成されている。また、本実施例においては、凸部17Pの幅(直径)D2は、透光電極13の露出部13Eの幅(直径)D1よりも大きい。
【0035】
また、本実施例においては、半導体基板17の上面17Sは、エッチングによって除去された半導体基板17の表面領域である。より具体的には、半導体基板17の上面17Sは、研磨された後にドライエッチングによって当該研磨面が除去されて表出した半導体基板17の表面領域である。従って、半導体基板17の上面17Sは、n型の導電型を示す領域である。また、本実施例においては、半導体基板17の凸部17Pは、ドライエッチングされずに研磨面が残存した半導体基板17の表面領域である。
【0036】
面発光レーザ10は、半導体基板17の上面17S上に形成され、凸部17Pを囲む開口部18Aを有するn電極(第2の電極)18を有する。本実施例においては、n電極18は、Au、Al及びCuなどの金属材料からなる。
【0037】
また、本実施例においては、n電極18は、半導体基板17上に層状に形成されている。また、n電極18の開口部18Aは、半導体基板17の凸部17Pの幅よりも大きな開口幅を有し、凸部17Pから離間して形成されている。
【0038】
面発光レーザ10は、半導体基板17の凸部17Pを埋設するようにn電極18上に形成された反射防止層19を有する。反射防止層19は、例えば、誘電体多層膜からなり、本実施例においては、Ta2O5層及びSiO2層が複数回交互に積層された構造を有する。反射防止層19は、発光層15Aから放出された光が半導体基板17の凸部17Pの頂面17PSで反射することを抑制する。
【0039】
本実施例においては、透光電極13の露出部13E(すなわち絶縁層14の開口部14A)は、発光層15Aの発光領域の中心である発光中心を画定し、共振器10Cの中心軸(以下、発光中心軸と称する)AXを画定する。共振器10Cの中心軸AXは、透光電極13の露出部13Eの中心を通り、光半導体層15に垂直な方向に沿って延びる。
【0040】
なお、発光層15Aの発光領域とは、例えば、発光層15A内における所定の強度以上の光が放出される所定の幅の領域であり、その中心が発光中心である。また、例えば、発光層15Aの発光領域とは、発光層15A内において所定の密度以上の電流が注入される領域であり、その中心が発光中心である。また、当該発光中心を通るマウント基板10Mに垂直な直線が発光中心軸AXである。発光中心軸AXは、第1及び第2の反射鏡12及び16によって構成される共振器10Cの共振器長方向に沿って延びる直線である。また、発光中心軸AXは、面発光レーザ10から出射されるレーザ光の光軸に対応する。
【0041】
また、本実施例においては、第2の反射鏡16は、第1の反射鏡12よりも小さな光反射性を有する。また、第2の反射鏡16は、発光層15Aから放出された光に対して透光性を有する。第2の反射鏡16は、発光層15Aから放出された光の大部分を反射させ、かつ共振器10C内で共振したレーザ光LBの一部を透過させて共振器10Cの外側に出射する。
【0042】
従って、本実施例においては、面発光レーザ10は、共振器10C内に生成されるレーザ光LBを半導体基板17の凸部17Pの頂面17PSから出射するように構成されている。
【0043】
換言すれば、面発光レーザ10は、半導体基板17の凸部17Pの領域を光取り出し領域として有し、半導体基板17の凸部17Pの周囲の領域である上面17Sの領域(凸部17Pに対する凹部領域と称することもできる)を光半導体層15へのコンタクト領域として有する。
【0044】
図3は、面発光レーザ10内の電流経路を模式的に示す図である。本実施例においては、
図3の破線に示すように、透光電極13(p電極11)及びn電極18間に流れる電流CRは、ほぼ光半導体層15及び第2の反射鏡16に垂直な方向(以下、縦方向と称する)に沿って流れる。この電流CRの経路は、光半導体層15に電流を注入する上で最も電気抵抗が小さくなる経路といえる。
【0045】
具体的には、まず、面発光レーザ10のように、縦方向において対向する電極を配置した場合、電極間の距離は、約200μm未満となる場合が多い。これは、面発光レーザ10自体にある程度の機械的強度がなければハンドリングできないため、半導体基板17の厚みとして、概ね80~200μm程度を残す必要があるためである。
【0046】
一方、仮に、光半導体層15を部分的に除去するなどし、光半導体層15に平行な方向(以下、横方向と称する)に電極を配置した場合、電流は、光半導体層15に平行な方向に流れることとなる。また、この場合、安定した放熱特性や電気的特性を考慮すると、当該電極間の電流経路の距離は約50μm以上となる場合が多い。
【0047】
ここで、光半導体層15内の電気抵抗は、光半導体層15内を流れる電流経路の距離に比例し、電流経路の断面積に反比例する。そして、縦方向に電極を配置する場合、電流経路の断面積は、横方向に電極を配置する場合に比べて、電流経路の距離の差を打ち消すほど大きい。例えば、縦方向の電極配置の場合の電流経路の断面積は、横方向の電極配置の場合の電流経路の断面積よりも2桁以上大きい(100倍を大きく超える断面積である)。従って、縦方向に電極を配置することで、電極間の電気抵抗を横方向の場合よりもはるかに小さくすることができる。
【0048】
従って、電流CRは、光半導体層15内において、無駄になることなく、発光層15Aに注入され、高効率で光に変換されることとなる。従って、光半導体層15は、高効率な発光動作を行うことができる。
【0049】
また、本実施例においては、レーザ光LBは、鏡面化された半導体基板17の凸部17Pの頂面17PSから出射する。これは、レーザ光LBの出力及びビーム形状を安定させる上で最も好ましい構成となる。
【0050】
具体的には、面発光レーザ10のように縦方向に電極を配置する場合において、高い電気的特性を得ること、及びレーザ光LBが出力を低下させずに出射されることを考慮すると、半導体基板17はある程度薄い方が好ましい。
【0051】
また、レーザ光LBのビーム形状や出力分布など、レーザ光LBの光学特性を安定させることを考慮すると、レーザ光LBの出射面である凸部17Pの頂面17PSは、高度に平坦化されていることが好ましい。この場合、例えば、半導体基板17となる成長用基板を薄くする加工を行った上で、研磨などの鏡面化処理を行うことが用いられる。
【0052】
しかし、本願の発明者らは、研磨を行うことによって、成長用基板の研磨面の近傍に導電性を有さない領域が形成されるというデメリットを有することに着目した。また、本願の発明者らは、研磨面上にn電極18を形成した場合、p電極11との導通がとれなかったことを実験によって確認した。
【0053】
これに対し、本実施例においては、光出射面となる部分を除いて成長用基板の研磨面を除去することで、レーザ光LBの光路となる部分以外の半導体基板17の表面領域である上面17Sの領域をn電極18とのコンタクト領域として用いる。従って、光半導体層15を挟んで、半導体基板17の上面17Sと透光電極13の露出部13Eとの間で、良好な縦方向の電流CRの経路を形成することができる。
【0054】
従って、面発光レーザ10は、高効率な電流注入を行うことで高効率な発光動作を行うことが可能な発光素子となる。また、面発光レーザ10は、安定した高出力なレーザ光LBを出射することが可能なレーザ素子となる。また、凸部17P上に反射防止層19が設けられていることで、より安定して高い出力及び光学特性のレーザ光LBを出射することができる。
【0055】
なお、半導体基板17における凸部17Pの形状及びサイズなどは、例えば、レーザ光LBのビーム形状、放射角などに基づいて設計することができる。例えば、発光層15Aをレーザ光LBの出射点とし、n型半導体層15Nからレーザ光LBが半導体基板17の凸部17Pの頂面17PSまでの距離と、n型半導体層15N、第2の反射鏡16及び半導体基板17内でのレーザ光LBの放射角と、を考慮すると、半導体基板17の凸部17Pの頂面17PSでのレーザ光LBのビーム形状及びビーム幅(ビーム径)を算出することができる。
【0056】
また、本実施例においては、半導体基板17における上面17Sに対する凸部17Pの高さは、n電極18の厚さ(上面17Sからの高さ)よりも大きい。これによって、レーザ光LBが凸部17Pの頂面17PSから出射された後に、当該レーザ光LBの外縁部がn電極18によって吸収されることが抑制される。従って、レーザ光LBを設計上のビーム形状及び出力で安定して出射することができる。
【0057】
また、本実施例においては、n電極18の開口部18Aは、半導体基板17の凸部17Pの幅D2よりも大きい開口径を有する。従って、n電極18は、凸部17Pの側面から離間している。これは、n電極18の製造上好ましい。具体的には、n電極18となる金属層をリフトオフによって形成する場合において、当該金属層をリフトオフする際に当該金属層の端部にバリが発生する場合がある。この場合においても、凸部17Pよりも大きなマスクを用いてn電極18を形成することで、当該バリが凸部17P上に形成されることを抑制することができる。
【0058】
また、本実施例においては、p電極11がマウント基板11のほぼ全面に接している。これによって、p電極11は、光半導体層15から発生する熱を効果的にマウント基板11に送る放熱経路を形成することができる。従って、面発光レーザ10は、高い放熱性能を有し、長時間及び大電流で駆動した場合でも安定して動作する発光素子となる。
【0059】
また、本実施例においては、p電極11は、第1の反射鏡12を貫通して透光電極13に接続されている。従って、光半導体層15からの熱を効果的にマウント基板10Mに送る経路を形成することができる。また、p電極11は、発光中心軸AXを包むように筒状に第1の反射鏡12を貫通するように形成されている。これによって、大きな放熱効果が期待できる。
【0060】
図4A~
図4Hの各々は、面発光レーザ10の製造過程を示す断面図である。
図4A~
図4Hを用いて、面発光レーザ10の製造方法の例について説明する。なお、
図4A~
図4Hの各々は、面発光レーザ10の製造過程における
図2と同様の断面図である。
【0061】
まず、
図4Aに示すように、半導体基板17となる成長用基板17Wを準備し、成長用基板17W上に第2の反射鏡16、光半導体層15を成長させる。例えば、第2の反射鏡16及び光半導体層15の成長には、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いることができる。
【0062】
具体的には、まず、成長用基板17Wとして平板状のn型のGaN基板を準備した。また、当該GaN基板上にバッファ層としてのn-GaN層を成長させた後、当該バッファ層上に高屈折率半導体膜16Hとしてのn-GaN膜及び低屈折率半導体膜16Lとしてのn-AlInN膜を交互に複数回成長させる。これによって、成長用基板17W上に第2の反射鏡16が形成される。
【0063】
次に、第2の反射鏡16上に、n型半導体層15Nとしてのn-GaN層、発光層15Aとしての複数ペアのInGaN層及びGaN層、並びにp型半導体層15Pとしてのp-GaN層をそれぞれ成長させる。これによって、第2の反射鏡16上に光半導体層15が形成される。
【0064】
続いて、光半導体層15上に絶縁層14を形成する。本実施例においては、p型半導体層15P上に、SiO2層を形成し、当該SiO2層の一部に開口部を形成した。これによって、開口部14Aを有する絶縁層14が形成される。
【0065】
次に、絶縁層14上に透光電極13を形成する。本実施例においては、絶縁層14の開口部14Aにおいてp型半導体層15Pの上面に接するように、絶縁層14上に透光電極13としてのITOを層状に形成した。
【0066】
続いて、絶縁層14上にp電極11の一部をなす層状電極11Aを形成する。本実施例においては、層状電極11Aとして、絶縁層14の開口部14Aの幅D1よりも大きな開口幅の開口部11Bを有する金属層を形成した。層状電極11Aの開口部11Bは、層状電極11Aに垂直な方向から見たときに絶縁層14の開口部14Aに重なるように(本実施例においては開口部14Aを取り囲むように)配置した。
【0067】
次に、
図4Bに示すように、成長用基板17Wの第2の反射鏡16とは反対側の表面から成長用基板17Wを切削及び研磨する。具体的には、まず、成長用基板17Wを切削又は切断し、成長用基板17Wの厚さを小さくする。そして、当該切削面に対し、研削及び研磨処理を行う。これによって、成長用基板17Wにおける第2の反射鏡16とは反対側の面が鏡面化された成長用基板17WGが形成される。
【0068】
ここで、成長用基板17Wの研磨処理を行うことで、当該研磨された面の近傍においては、n型の導電性が損なわれる。従って、研磨後の成長用基板17WGには、非常に抵抗が高く、そのままn電極を形成しても非オーミック接触となる高抵抗領域17DA、すなわち半導体基板17のダメージ層17Aとなる表面領域が形成される。
【0069】
続いて、
図4Cに示すように、開口部11Bを埋め込むように、層状電極11A上に、第1の反射鏡12となる高屈折率誘電体膜12H及び低屈折率誘電体膜12Lからなる誘電体多層膜12MLを形成する。本実施例においては、高屈折率誘電体膜12H及び低屈折率誘電体膜12Lとして、それぞれNb
2O
5膜及びSiO
2膜Nb
2O
5を交互に複数回積層した。
【0070】
次に、
図4Dに示すように、誘電体多層膜12MLの一部を除去し、層状電極11Aを露出させる。本実施例においては、層状電極11Aの開口部11Bが層状電極11Aの当該誘電体多層膜12MLから露出した部分によって環状に囲まれるように、誘電体多層膜12MLが筒状に除去された領域を形成する。
【0071】
また、本実施例においては、層状電極11Aの当該誘電体多層膜12MLから露出した部分が透光電極13上の領域に配置されるように、誘電体多層膜12MLを除去する。誘電体多層膜12MLを部分的に除去することで、層状電極11A上に第2の反射鏡12が形成される。
【0072】
続いて、
図4Eに示すように、第2の反射鏡12を埋設するように、かつ第2の反射鏡12から露出した層状電極11Aに接するように、p電極11をなす埋設電極11Cを形成する。また、埋設電極11Cの上面を平坦化する。埋設電極11Cは、例えば層状電極11Aと同様の金属材料からなる。これによって、層状電極11A及び埋設電極11Cの全体は、部分的に第2の反射鏡12を露出させつつ第2の反射鏡12を埋設するp電極11となる。
【0073】
次に、
図4Fに示すように、p電極11側から成長用基板17WGをマウント基板10Mに接合する。例えば、マウント基板10Mとしてセラミックス基板を準備し、当該セラミックス基板の上面に金属層(図示せず)を形成した後、p電極11を当該金属層に接合する。これによって、マウント基板10Mに、光半導体層15、第1及び第2の反射鏡12及び16と共に成長用基板11WGが搭載される。
【0074】
続いて、
図4Gに示すように、成長用基板17WGをダメージ領域17DA側から部分的に除去する。例えば、成長用基板17WGの当該部分的な除去には、ドライエッチングなどの加工技術を用いることができる。これによって、成長用基板17WGの当該除去されなかった部分は、当該除去されて露出した表面から突出することとなる。
【0075】
また、当該除去されなかった部分には、ダメージ領域17DAが残存することとなる。一方、当該除去された部分は、ダメージ領域17DAを有さず、n型の導電型を示す部分となる。これによって、上面17S及び上面17Sから突出した凸部17Pを有し、凸部17Pの上面にダメージ層17Aを有する半導体基板17が形成される。
【0076】
次に、
図4Hに示すように、半導体基板17上に金属層を形成し、当該金属層に凸部17Pを露出させる開口部を形成する。これによって、n電極18が形成される。また、半導体基板17の凸部17Pを埋め込みつつn電極18上に誘電体の多層膜を形成することで、反射防止層19が形成される。面発光レーザ10は、例えばこのようにして作製されることができる。
【0077】
なお、本実施例においては、半導体基板17が凸部17Pに鏡面化された頂面17PSを有し、頂面17PSの近傍に導電性が損なわれたダメージ層17Aを有する場合について説明した。しかし、半導体基板17の構成はこれに限定されない、半導体基板17は、少なくともn電極18が形成される上面17S及び上面17Sから突出して光出射面として機能する凸部17Pを有していればよい。これによって、半導体基板17を介した縦方向の導通と凸部17Pからの良好な光出射を行うことができる。
【0078】
また、本実施例においては、半導体基板17における凸部17P以外の表面領域である上面17Sがドライエッチングによって表出した半導体基板17の表面領域である場合について説明した。しかし、半導体基板17の上面17Sは、n型の導電型を示す表面領域であればよく、その形成方法はエッチングに限定されない。
【0079】
また、本実施例においては、第1の反射鏡12は、p電極11に埋め込まれるように形成されており、p電極11から突出して露出する露出部12Eを有する場合について説明した。また、透光電極13がp電極11に接続されている場合について説明した。しかし、p電極11、第1の反射鏡12及び透光電極13の構成はこれに限定されない。
【0080】
例えば、面発光レーザ10は、少なくとも第1の反射鏡12及び第1の反射鏡12上に形成されたp側電極として機能する透光電極13を有していればよい。また、透光電極13上に絶縁層14が設けられている場合について説明した。しかし、絶縁層14は設けられていなくてもよい。例えば、p型半導体層15Pにおける透光電極13上の領域の一部が低抵抗化されていれば、この領域が電流注入領域として機能する。また、反射防止層19は、設けられていなくてもよい。
【0081】
このように、本実施例においては、面発光レーザ10は、第1の反射鏡12と、第1の反射鏡12上に形成された透光電極(第1の電極)13と、透光電極13上に形成されたp型半導体層15P(第1の半導体層)と、p型半導体層15P上に形成された発光層15Aと、発光層15A上に形成されたn型半導体層15Nと、n型半導体層15N上に形成され、n型の導電型(第2の導電型)を有する複数の半導体膜からなる第2の反射鏡16と、第2の反射鏡16上に形成され、上面17S及び上面17Sから突出した凸部17Pを有し、かつn型の導電型を有する半導体基板17と、半導体基板17の上面17S上に形成されたn電極18と、を有する。従って、高効率な電流注入を行うことで高効率な発光動作を行う面発光レーザ10(垂直共振器型発光素子)を提供することができる。
【実施例2】
【0082】
図5は、実施例2に係る面発光レーザ20の上面図である。また、
図6は、
図5の6-6線に沿った断面図であり、面発光レーザ20の断面図である。
図5及び
図6を用いて、面発光レーザ20の構成について説明する。
【0083】
本実施例においては、面発光レーザ20は、複数の露出部21Pを有する第1の反射鏡21、当該露出部21Pの各々に対応する複数の開口部23Aを有する絶縁層23、複数の露出部22Eを有する透光電極22、及び複数の凸部24Aを有する半導体基板24を有する。すなわち、面発光レーザ20は、複数の光出射部を有し、複数の発光中心軸AXを有する。
【0084】
より具体的には、第1の反射鏡21は、第1の反射鏡12における低屈折率誘電体膜12L及び高屈折率誘電体膜12Hとそれぞれ同様の低屈折率誘電体膜21L及び高屈折率誘電体膜21Hが交互に積層された構造を有する。また、第1の反射鏡21は、各々がp電極11から露出した複数の露出部21Eを有する。本実施例においては、第1の反射鏡21が第2の反射鏡16と共に共振器20Cを構成する。
【0085】
また、透光電極22は、第1の反射鏡21の複数の露出部21Eの各々を覆いつつ第1の反射鏡21上に形成されている。また、絶縁層23は、透光電極22における第1の反射鏡21の露出部21E上の領域において透光電極22を露出させる開口部23Aを有する。これによって、透光電極22は、各々が絶縁層23から露出する複数の露出部22Eを有する。すなわち、光半導体層15のp型半導体層15Pには、複数の透光電極22とのコンタクト領域が形成されている。
【0086】
また、半導体基板24は、上面24Sと、透光電極22の複数の露出部22E上にそれぞれ形成されかつ各々が上面24Sから露出した複数の凸部24Pと、を有する。また、凸部24Pの各々は、上面の近傍にダメージ層24Aを有する。
【0087】
また、面発光レーザ20は、半導体基板24の上面24S上に形成され、複数の凸部24Pをそれぞれ囲む複数の開口部25Aを有するn電極25を有する。また、面発光レーザ20は、半導体基板24の凸部24P及びn電極25を覆うように形成された反射防止層26を有する。また、面発光レーザ20は、n電極25に接続されたパッド電極27を有する。
【0088】
本実施例においては、面発光レーザ20は、半導体基板24の複数の凸部24Pをレーザ光LBの出射部として有する。この面発光レーザ20においても、半導体基板24の凸部24P以外の領域をn電極25とのコンタクト領域として使用することで、縦方向の良好な導通を形成することが可能となり、光半導体層15に対して高効率な電流注入を行うことが可能となる。従って、高効率な電流注入を行うことで高効率な発光動作を行う面発光レーザ20(垂直共振器型発光素子)を提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
10、20 面発光レーザ(垂直共振器型発光素子)
11 p電極(接続電極)
12、21 第1の反射鏡
13、22 透光電極(第1の電極)
15 光半導体層
16 第2の反射鏡
17、24 半導体基板