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特許7330883コーティング組成物及びコーティングを備えた物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】コーティング組成物及びコーティングを備えた物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20230815BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20230815BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20230815BHJP
   B32B 19/02 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C09D183/00
B32B15/082 B
B32B17/10
B32B19/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019237652
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021105137
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】市原 豊
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-119634(JP,A)
【文献】特開2007-276445(JP,A)
【文献】特開2014-205739(JP,A)
【文献】特開2019-183102(JP,A)
【文献】特開2014-024288(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107936750(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/00
B32B 15/082
B32B 17/10
B32B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、
パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物と
を少なくとも含む、コーティング組成物であって、
該第1のアルコキシシラン化合物は、下記式(III)、(IVa)、(IVb)および(IVc)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、
該第2のアルコキシシラン化合物は、下記式(V)で表される化合物であり、
該第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が、該第2のアルコキシシラン化合物の分子量と比較して10倍以上であり、
該第1のアルコキシシラン化合物と、該第2のアルコキシシラン化合物とを、10:1~10:20の重量比で含む、前記コーティング組成物:
【化1】
(式中、a、b、c、dは、それぞれ独立に0以上200以下の整数であり、a、b、c、dのすべてが0であることはなく、各カッコで括られた繰り返し単位は、任意の順で結合されていてよい。)
【化2】
(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数であり、hは、1~4の整数である。)
【化3】

(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化4】

(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化5】

(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化6】

(式中、R は、炭素数1~4のアルキル基であり、fは、1~6の整数であり、gは、0~5の整数である。)。
【請求項2】
さらに溶剤を含む、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
無機基材に、
パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、
パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物と、を少なくとも含むコーティング組成物を反応させてなる、コーティング物品であって、
該第1のアルコキシシラン化合物は、下記式(III)、(IVa)、(IVb)および(IVc)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、
該第2のアルコキシシラン化合物は、下記式(V)で表される化合物であり、
該第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が、該第2のアルコキシシラン化合物の分子量と比較して10倍以上であり、
該第1のアルコキシシラン化合物と、該第2のアルコキシシラン化合物とを、10:1~10:20の重量比で含む、前記コーティング物品:
【化7】
(式中、a、b、c、dは、それぞれ独立に0以上200以下の整数であり、a、b、c、dのすべてが0であることはなく、各カッコで括られた繰り返し単位は、任意の順で結合されていてよい。)
【化8】
(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数であり、hは、1~4の整数である。)
【化9】

(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化10】

(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化11】

(式中、Rfは、式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル部であり、R は、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)
【化12】

(式中、R は、炭素数1~4のアルキル基であり、fは、1~6の整数であり、gは、0~5の整数である。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング組成物、このコーティング組成物と無機基材とを反応させてなるコーティング物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイや、タッチパネルなどのように、光透過性と透明性が求められる光学部材には、表面を覆うコーティング剤が使用される。このようなコーティング剤は、光透過性、透明性のほか、傷つきに対する耐久性、指紋等の汚れに対する防汚性、および耐アルカリ性や耐酸性を含む耐薬品性を高いレベルで有していることが求められる。
【0003】
特許文献1には、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が開示されている。パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物は、優れた撥水性、撥油性、防汚性、および摩擦耐久性を提供するため、表面処理剤、特に防汚性コーティング剤として使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-218639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の表面処理剤を用いて形成した表面処理層は、摩擦耐久性があり、水の接触角が大きく、滑り性に優れている。しかしながら、特許文献1の表面処理剤による表面処理層の良好な性能がどのくらいの期間維持できるのかを本発明者らが評価したところ、アルカリ性の物質に接触すると、表面処理層の性能が著しく低下することが判明した。そこで、本発明は、防汚性に優れ、耐擦傷性があり、かつ薬品全般に対する耐久性を併せ持つコーティング層を形成することができる、新規のコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物とを少なくとも含む、コーティング組成物である。
【0007】
本発明の他の実施形態は、無機基材に、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物と、を少なくとも含むコーティング組成物を反応させてなる、コーティング物品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティング組成物は、水の接触角が大きく防汚性に優れ、撥油性、耐擦傷性ならびに耐薬品性を併せ持つ、光透過性のコーティング層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の一の実施形態は、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物とを少なくとも含む、コーティング組成物である。
【0010】
本実施形態において、コーティング組成物とは、常温下では液体状態で存在し、主に物品の表面の保護や、つや出し等を目的としたコーティング被膜を形成するために塗布される混合物のことである。すなわちコーティング組成物は、主に塗料として使用され、施工される場所や物品に対応する種々の要求性能を満たす必要がある。本実施形態のコーティング組成物から形成されるコーティング被膜(コーティング層)は、主に金属やガラスなどの無機基材のほか、場合によっては樹脂、プラスチック製の物品の表面の被覆、加工、加飾のため用いられる。実施形態のコーティング組成物は、これらの物品表面上に密着して剥がれにくく、光透過性で、概して透明なコーティング層を形成する。
【0011】
本実施形態のコーティング組成物は、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物を含む。アルコキシシラン化合物とは、分子内にケイ素(Si)を有するケイ素化合物の一種であり、ケイ素に置換基-OR(Rは、アルキル基を表す。)が1~3個結合したアルコキシシリル基を1以上有する化合物のことである。本実施形態では、特に、置換基-OR(Rは、アルキル基を表す。)が3つケイ素に結合した、トリアルコキシシリル基を1つ、または2つ有するアルコキシシラン化合物を、第1のアルコキシシラン化合物として用いることが好ましい。
【0012】
本明細書においてパーフルオロポリエーテル部とは、パーフルオロ基がエーテル結合により結合した部分のことを云う。パーフルオロポリエーテル部は、以下の式I:
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、a、b、c、dは、それぞれ独立に0以上200以下の整数であり、a、b、c、dのすべてが0であることはなく、各カッコで括られた繰り返し単位は、任意の順で結合されていてよい。)で表される構造を有している。本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、アルコキシシリル基を1つまたは2つ有することが好ましい。本実施形態で使用するパーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式II:
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、Xは、アルコキシシリル基を有する置換基であるか、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であることが好ましい。式II中、Xがアルコキシシリル基を有する置換基である場合、本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式III:
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数であり、hは、1~4の整数である。)で表される化合物であることができる。式II中、Xが炭素数1~3のパーフルオロアルキル基である場合、本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式IVa:
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であるか、以下の式IVb:
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であるか、あるいは、以下の式IVc:
【0023】
【化6】
【0024】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であることができる。
【0025】
本実施形態のコーティング組成物は、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する第2のアルコキシシラン化合物を含む。実施形態で使用する第2のアルコキシシラン化合物は、上記の第1のアルコキシシラン化合物と同様、分子内にケイ素(Si)を有するケイ素化合物の一種であり、ケイ素に置換基-OR(Rは、アルキル基を表す。)が1~3個結合したアルコキシシリル基を1以上有する化合物のことである。本実施形態では、特に、置換基-OR(Rは、アルキル基を表す。)が3つケイ素に結合したトリアルコキシシリル基を1つ有するアルコキシシラン化合物を、第2のアルコキシシラン化合物として用いることが好ましい。本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さずパーフルオロ基を分子内に有する第2のアルコキシシラン化合物は、以下の式V:
【0026】
【化7】
【0027】
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、fは、1~6の整数であり、gは、0~5の整数である。)で表される化合物であることができる。第2のアルコキシシラン化合物として、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロブチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、ヘプタフルオロエチルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロブチルトリエトキシシラン等の、パーフルオロ基を分子内に有するアルコキシシラン化合物を挙げることができる。
【0028】
実施形態において、第1のアルコキシシラン化合物(上記の式II、式III、式IVa、式IVb、式IVcで表される化合物)の数平均分子量は、第2のアルコキシシラン化合物(上記の式Vで表される化合物)の分子量よりも大きいことが特に好ましい。特に第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が、第2のアルコキシシラン化合物の分子量と比較して10倍以上であることが好ましい。第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量は、2000以上、好ましくは3000以上、さらに好ましくは4000以上である。第2のアルコキシシラン化合物の分子量は、第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量に応じて選択すればよく、たとえば第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が3,000の場合は、第2のアルコキシシラン化合物の分子量を300、等とすることができる。第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量と、第2のアルコキシシラン化合物の分子量との比を上記のようにすることの技術的な意味は、後述する。
【0029】
実施形態のコーティング組成物において、第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とが、10:1~10:40の重量比で含まれていることが好ましい。特に好ましいコーティング組成物は、第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とが、10:1~10:20の重量比で含まれている。すなわち、第2のアルコキシシランの重量は、第1のアルコキシシラン化合物の重量の2倍程度までとすることが好ましい。
【0030】
実施形態のコーティング組成物は、さらに溶剤を含むことができる。実施形態のコーティング組成物を希釈する溶剤としては、上記の第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物とを溶解することができるものが好ましく、パーフルオロカーボン類(PFC)、ハイドロフルオロオレフィン類(HFO)、ハイドロフルオロエーテル類(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)等の、いわゆる次世代フッ素系溶剤(代替フロン)と呼ばれるフッ素系溶剤を用いることが好ましい。実施形態で用いることができる溶剤は、たとえば、アレモア(AGC株式会社)、アサヒクリン(AGC株式会社)、ノベック(スリーエムジャパン株式会社)、セレフィン(セントラル硝子株式会社)、ゼオローラ(日本ゼオン株式会社)、ディップソール(ディップソール株式会社)を挙げることができ、これらの市販の溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0031】
溶剤は、上記の第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物との合計重量を基準として、100倍以上、好ましくは150倍以上、さらに好ましくは200倍以上の量、さらにより好ましくは500倍以上用いることができる。第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とを溶剤に溶解した実施形態のコーティング組成物は、特に無機基材上にて好適に広がることができる。
【0032】
実施形態のコーティング組成物は、第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物とを混合し、これを溶剤に溶解することにより製造することができる。さらに実施形態のコーティング組成物は、上記の成分のほか、従来のコーティング剤に通常含まれている添加剤(つや消し剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、無機粒子等)を必要に応じて配合することができる。
【0033】
続いて、実施形態のコーティング組成物の成分である第1のアルコキシシラン化合物の製造例を説明する。第1のアルコキシシラン化合物は、好ましくは、以下の式VIa:
【0034】
【化8】
【0035】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部である。)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物、または、以下の式VIb:
【0036】
【化9】
【0037】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部である。)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物、または、以下の式VIc:
【0038】
【化10】
【0039】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部である。)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物と、以下の式VII:
【0040】
【化11】
【0041】
(式中、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表されるアルコキシシリル基を有するイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。ここで、式VIa-式VIcで表される化合物と、式VIIで表される化合物とは、理論上、モル比で1:1の割合で反応することになる。式VIで表される化合物と、式VIIで表される化合物とを反応させて、以下の式IVa:
【0042】
【化12】
【0043】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される第1のアルコキシシラン化合物か、以下の式IVb:
【0044】
【化13】
【0045】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される、第1のアルコキシシラン化合物か、または、以下の式IVc:
【0046】
【化14】
【0047】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される、第1のアルコキシシラン化合物を得る。
【0048】
さらに、第1のアルコキシシラン化合物は、好ましくは、以下の式VIII:
【0049】
【化15】
【0050】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部である。)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物と、以下の式VII:
【0051】
【化16】
【0052】
(式中、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表されるアルコキシシリル基を有するイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。ここで、式VIIIで表される化合物と、式VIIで表される化合物とは、理論上、モル比で1:2の割合で反応することになる。式VIIIで表される化合物と、式VIIで表される化合物とを反応させて、以下の式III:
【0053】
【化17】
【0054】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数であり、hは、1~4の整数である。)で表される、第1のアルコキシ化合物を得る。
【0055】
第2のアルコキシシラン化合物は、合成することも可能であるが、KBM-7103(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社)、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社)、ノナフルオロへキシルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社)、ノナフルオロへキシルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社等)の市販品を適宜用いることができる。
【0056】
本発明の他の実施形態は、無機基材に、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物と、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物と、を少なくとも含むコーティング組成物を反応させてなる、コーティング物品である。本実施形態において、コーティング物品とは、コーティング組成物を用いて形成したコーティング層を備えた物品である。コーティング層とは、無機基材に、本発明の一の実施形態であるコーティング組成物を、塗布等の方法により接触させて、無機基材と、当該コーティング組成物に含まれている第1のアルコキシシラン化合物ならびに第2のアルコキシシラン化合物とを反応させることにより、膜形状となったもののことを云う。ここで、実施形態に用いることができる無機基材は、ガラス、金属、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ガラス繊維、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、チタン酸カリウム、カオリン、グラファイト、フェライト、セピオライト、ゼオライト、ネフェリンサイアナイト等の無機材料で作られたもの全般を指す。
【0057】
無機基材とコーティング組成物との接触は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング(塗布)方法により適宜行うことができる。たとえば、コーティング組成物をローラーコーター法等による塗布にて行うためには、第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物との合計重量を基準として、600倍以上の量の溶剤を用いて希釈することができる。ここで、第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物とを希釈するための溶剤として、パーフルオロカーボン類(PFC)、ハイドロフルオロオレフィン類(HFO)、ハイドロフルオロエーテル類(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)等の、いわゆる次世代フッ素系溶剤(代替フロン)と呼ばれるフッ素系溶剤を用いることが好ましい。
【0058】
ここで、コーティング組成物に含まれている、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式II:
【0059】
【化18】
【0060】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、Xは、アルコキシシリル基を有する置換基であるか、炭素数1または2のパーフルオロアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であることが好ましい。式II中、Xがアルコキシシリル基を有する置換基である場合、本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式III:
【0061】
【化19】
【0062】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数であり、hは、1~4の整数である。)で表される化合物であることができる。式II中、Xが炭素数1または2のパーフルオロアルキル基である場合、本実施形態で使用する、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する第1のアルコキシシラン化合物は、以下の式IVa:
【0063】
【化20】
【0064】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であるか、以下の式IVb:
【0065】
【化21】
【0066】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であるか、以下の式IVc:
【0067】
【化22】
【0068】
(式中、Rfは、式Iで表されるパーフルオロポリエーテル部であり、Rは、各々独立に炭素数1~4のアルキル基であり、eは、1~4の整数である。)で表される化合物であることができる。
【0069】
一方、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有する、第2のアルコキシシラン化合物は、以下の式V:
【0070】
【化23】
【0071】
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、fは、1~6の整数であり、gは、0~5の整数である。)で表される化合物であることができる。
【0072】
上記の無機基材と、本実施形態のコーティング組成物と接触させて、当該無機基材と、当該コーティング組成物に含まれている第1のアルコキシシラン化合物ならびに第2のアルコキシシラン化合物とを反応させることができる。第1のアルコキシシラン化合物ならびに第2のアルコキシシラン化合物には、アルコキシシリル基が含まれている。アルコキシシリル基は、加水分解して、無機基材と結合することができる。すなわち、第1のアルコキシシラン化合物は、-SiO-を介して、パーフルオロポリエーテル部を無機基材表面にもたらし、一方、第2のアルコキシシラン化合物は、-SiO-基を介して、パーフルオロ基を無機基材表面にもたらすことになる。このような化合物は、一般にシランカップリング剤とも呼ばれる。実施形態のコーティング組成物には、シランカップリング剤が2種以上含まれており、これらが無機基材と反応して、無機基材の表面の特性を改質するコーティング層を形成することができる。
【0073】
第1のアルコキシシラン化合物(上記の式II、式III、式IVa、式IVb、式IVcで表される化合物)の数平均分子量は、第2のアルコキシシラン化合物(上記の式Vで表される化合物)の分子量よりも大きいことが特に好ましい。特に第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が、第2のアルコキシシラン化合物の分子量と比較して10倍以上であることが好ましい。上記の通り、第1のアルコキシシラン化合物は、無機基材と反応して、無機基材表面にパーフルオロポリエーテル部をもたらす役割を果たす。一方、第2のアルコキシシラン化合物は、無機基材と反応して、無機基材表面にパーフルオロ基をもたらす役割を果たす。この際、第1のアルコキシシラン化合物に由来する比較的長いパーフルオロポリエーテル部と、第2のアルコキシシラン化合物に由来する比較的短いパーフルオロ基とが、無機基材表面に混在することが、特に無機基材の防汚性を向上させる上で非常に好ましい。第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量は、2000以上、好ましくは3000以上、さらに好ましくは4000以上である。したがって第2のアルコキシシラン化合物の分子量は、第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量にあわせて選択し、200、300、400等とすることができる。
【0074】
上記のような第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とを含むコーティング組成物が、無機基材と反応して形成したコーティング層には、比較的長いパーフルオロポリエーテル部(第1のアルコキシシラン化合物由来)と、それと比較して短いパーフルオロ基(第2のアルコキシシラン化合物由来)とが混在している。仮に、第1のアルコキシシラン化合物のみを含むコーティング組成物を作成して、無機基材表面に比較的長いパーフルオロポリエーテル部のみを有するコーティング層を形成した場合、無機基材の防汚性を改善することは可能である。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、このようなコーティング層は、耐アルカリ性に劣ることがわかった。一方、仮に第2のアルコキシシラン化合物のみを含むコーティング組成物を作成して、無機基材表面に短いパーフルオロ基のみを有するコーティング層を形成した場合は、無機基材表面上に防汚性ならびに滑り性の良好なコーティング層を形成することが難しいことがわかった。すなわち、実施形態のコーティング組成物は、第1のアルコキシ化合物と、第2のアルコキシ化合物との両方を含むことが好ましく、実施形態のコーティング物品に形成されたコーティング層には、比較的長いパーフルオロポリエーテル部と、それと比較して短いパーフルオロ基とが混在していることが非常に好ましい。
【0075】
特定の理論に拘泥する訳ではないが、上記の現象を詳しく説明する。第1のアルコキシシラン化合物は、分子内に比較的長いパーフルオロポリエーテル基が存在するために、数多くの第1のアルコキシシラン化合物が無機基材と反応することができない。すなわち、仮に、第1のアルコキシシラン化合物のみを含むコーティング組成物を作成して、無機基材と反応させたとしても、無機基材表面すべてを被覆するほど第1のアルコキシシラン化合物を反応させることは難しいものと考えられる。このような状態のコーティング物品をアルカリ性物質に曝すと、無機基材と第1のアルコキシシラン化合物との結合部がアルカリ加水分解反応し、第1のアルコキシシラン化合物が無機基材から外れてしまう。したがって、第1のアルコキシシラン化合物のみを含むコーティング組成物により形成したコーティング層は、耐アルカリ性に劣るものと考えられる。
【0076】
一方、第2のアルコキシシランは、第1のアルコキシシランのような、長いパーフルオロポリエーテル部分を有していないため、無機基材とは比較的良好に反応することができる。そこで、コーティング組成物が、第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物との両方を含んでいると、無機基材表面上で、第1のアルコキシシラン化合物の結合部の間を埋めるように、第2のアルコキシシラン化合物が結合するので、結果として、第1のアルコキシシラン化合物に由来するパーフルオロポリエーテル部と、第2のアルコキシシラン化合物に由来するパーフルオロ基とで無機基材表面全体をムラなく被覆することができる。
【0077】
なお、上記のように、実施形態のコーティング組成物において、第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とが、10:1~10:40の重量比で含まれていることが好ましい。特に好ましいコーティング組成物は、第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とが、10:1~10:20の重量比で含まれている。仮に、第1のアルコキシシラン化合物の数平均分子量が、第2のアルコキシシラン化合物の分子量の10倍で、コーティング組成物に第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物とが10:10で含まれていた場合、第1のアルコキシシラン化合物と第2のアルコキシシラン化合物とのモル比は1:10である。実施形態のコーティング組成物において、比較的長いパーフルオロポリエーテル部分を有する第1のアルコキシ化合物の数平均分子量と、短いパーフルオロ基を有する第2のアルコキシシランが化合物の分子量のバランスと、これらを適切なモル比で配合することが、コーティング物品の防汚性ならびに耐アルカリ性を向上させる上で重要である。
【0078】
実施形態のコーティング組成物を塗布した無機基材を、常温付近から300℃までの雰囲気下に置いて、第1のアルコキシシランと第2のアルコキシシランと無機基材とを反応させて、無機基材表面にコーティング層を形成することができる。第1のアルコキシシラン化合物と、第2のアルコキシシラン化合物とを確実に無機基材と反応させて、無機基材表面全体をパーフルオロポリエーテル部とパーフルオロ基とで被覆するためには、コーティング組成物を塗布した無機基材を150℃~250℃程度の雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0079】
実施形態のコーティング組成物と、無機基材とを反応させてコーティング層を形成したコーティング物品は、防汚性に優れ、摩擦耐久性があり、かつアルカリに対する耐久性を併せ持つ。実施形態のコーティング組成物は、車載ディスプレイ、モバイル端末、パーソナルコンピュータ、各種表示装置等に適用可能で、これらに優れた防汚性、摩擦耐久性ならびに耐アルカリ性をもたらすことができる。
【実施例
【0080】
(1)パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物の合成
(合成例1-1)パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1a)の合成
スターラーを入れた30ミリリットルのナスフラスコに、Fluorolink D-4000(ソルベイ株式会社)11.82グラム(3.0ミリモル)と、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(関東化学株式会社)1.48グラム(7.2ミリモル)と、触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社)0.015グラム(0.15ミリモル)と、反応溶剤としてメタキシレンヘキサフルオライド(東京化成工業株式会社)12.0グラムとを秤量した。反応液を50℃で撹拌した。反応後の反応液にメタノールを添加して反応液を分層させ、反応を停止させた。上層を除去し、下層のみをメタノールで3回洗浄した。洗浄後の液を減圧乾燥して溶媒を除去し、パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1a)を得た(10.2グラム、収率87%)。なお、Fluorolink D-4000は、以下の式:
【0081】
【化24】
【0082】
で表される、数平均分子量4000のパーフルオロポリエーテル化合物である。よって、パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1a)の数平均分子量は、4,400程度である。
【0083】
(合成例1-2)パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1b)の合成
スターラーを入れた30ミリリットルのナスフラスコに、Fluorolink ZMF-402(ソルベイ株式会社)11.82グラム(3.0ミリモル)と、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(関東化学株式会社)0.74グラム(3.6ミリモル)と、触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社)0.015グラム(0.15ミリモル)と、反応溶剤としてメタキシレンヘキサフルオライド(東京化成工業株式会社)12.0グラムとを秤量した。反応液を50℃で撹拌した。反応後の反応液にメタノールを添加して反応液を分層させ、反応を停止させた。上層を除去し、下層のみをメタノールで3回洗浄した。洗浄後の液を減圧乾燥して溶媒を除去し、パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1b)を得た(10.2グラム、収率87%)。なお、Fluorolink ZMF-402は、以下の式:
【0084】
【化25】
【0085】
で表される、数平均分子量4,000のパーフルオロポリエーテル化合物である。したがって、パーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1b)の数平均分子量は、4,200程度である。
【0086】
(2)コーティング組成物の作製
(2-1)実施例1
200ミリリットルのビーカーに、合成例1-1で合成したパーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1a)を1.0グラムと、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有するアルコキシシラン化合物であるKBM-7103(信越化学工業株式会社)0.05グラムと、溶剤であるノベックHFE-7200(スリーエムジャパン株式会社)99.85グラムとを秤量し、室温で1時間撹拌して、コーティング組成物を作製した。
【0087】
(2-2)実施例2
200ミリリットルのビーカーに、合成例1-2で合成したパーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1b)を1.0グラムと、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有するアルコキシシラン化合物であるKBM-7103(信越化学工業株式会社)0.05グラムと、溶剤であるノベックHFE-7200(スリーエムジャパン株式会社)99.85グラムとを秤量し、室温で1時間撹拌して、コーティング組成物を作製した。なお、KBM-7103は、以下の式:
【0088】
【化26】
【0089】
で表されるトリフルオロプロピルトリメトキシシラン(分子量:218)である。またノベックHFE-7200は、ハイドロフルオロエーテル(エチルノナフルオロブチルエーテルとエチルノナフルオロイソブチルエーテルとの混合物)である。
【0090】
(2-3)実施例3
KBM-7103の量を0.1グラム、ノベックHFE-7200の量を99.8グラムとしたこと以外は、実施例1と同様にコーティング組成物を作製した。
【0091】
(2-4)実施例4
KBM-7103の量を0.2グラム、ノベックHFE-7200の量を99.7グラムとしたこと以外は、実施例1と同様にコーティング組成物を作製した。
【0092】
(2-5)比較例1
200ミリリットルのビーカーに、合成例1-1で合成したパーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1a)を1.0グラムと、溶剤であるノベックHFE-7200(スリーエムジャパン株式会社)99.9グラムとを秤量し、室温で1時間撹拌して、コーティング組成物を作製した。
【0093】
(2-6)比較例2
200ミリリットルのビーカーに、合成例1-2で合成したパーフルオロポリエーテル部含有アルコキシシラン化合物(1b)を1.0グラムと、溶剤であるノベックHFE-7200(スリーエムジャパン株式会社)99.9グラムとを秤量し、室温で1時間撹拌して、コーティング組成物を作製した。
【0094】
(2-7)比較例3
KBM-7103の量を0.5グラム、ノベックHFE-7200の量を99.4グラムとしたこと以外は、実施例1と同様にコーティング組成物を作製した。
【0095】
(2-8)比較例4
KBM-7103の代わりに、アルコキシシラン化合物である、メチルシリケート51(コルコート株式会社)0.1グラムを入れたこと以外は、実施例1と同様にコーティング組成物を作製した。なお、メチルシリケート51は、以下の式:
【0096】
【化27】
【0097】
で表される、メチルシリケート4量体(平均)である。
【0098】
(3)コーティング層の形成
各実施例および比較例で作製したコーティング組成物を、洗浄したガラス板(水接触角が10°程度のもの、サイズ:100ミリメートル×100ミリメートル)の片面にスプレーで塗布し、170℃のオーブンで30分間加熱して、コーティング組成物を硬化させ、コーティング層を形成した。
【0099】
(4)コーティング層の外観の評価
コーティング層の外観を目視により観察した。透明で平滑なコーティングが形成されているものを「良」、コーティング層にムラが見られるものを「ムラ有り」、コーティング層に白濁が見られるものを「白化有り」と評価した。
【0100】
(5)水接触角の測定
コーティング層を形成したガラス板の静的水接触角の測定は、日本工業規格JIS R3257の静滴法に準拠して、接触角測定装置(協和界面科学株式会社)を用いて行った。水接触角が大きいことは、コーティング層の濡れ性が低い、すなわち撥水性が高いことを意味する。コーティング層は、通常、種々の埃や異物を含む水と接触することで、その表面が汚染されることがわかっている。そこで本明細書では、コーティング層が水に濡れにくいことを、コーティング層の防汚性の目安とした。
【0101】
(6)耐アルカリ性の評価
コーティング層を形成したガラス板を、0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、25℃で24時間静置した。ガラス板を取り出し、ガラス板表面を純水で洗浄して水酸化ナトリウム水溶液を除去し、常温で乾燥した後、接触角測定装置(協和界面化学株式会社)を用いて水接触角の測定を行った。
【0102】
実施例、比較例の結果を、表1と表2に示す。なお、表1、表2において、コーティング組成物の配合に記載された数字は「重量部」である。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
実施例のコーティング組成物を用いて、概ね透明のコーティング層を形成することができた。実施例のコーティング組成物は、ガラス板の表面の濡れ性を低下させるコーティング層を形成した。一方、比較例1、2のコーティング組成物は、ガラス板の表面の濡れ性を低下させる、概ね透明のコーティング層を形成できたが、これらのガラス板をアルカリ性水溶液に浸漬すると濡れ性が大きくなってしまった。実施例1と比較例1、ならびに実施例2と比較例2のコーティング組成物の配合をそれぞれ比較すると、比較例1、2のコーティング組成物には、「第2のアルコキシシラン化合物」、すなわち、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有さず、パーフルオロ基を分子内に有するアルコキシシラン化合物に相当するKBM-7103が含まれていない。比較例1、2の結果によると、パーフルオロポリエーテル部を分子内に有する、第1のアルコキシシラン化合物に相当するアルコキシシラン化合物1aや、アルコキシシラン化合物1bのみでも、ガラスに撥水性のコーティング層を形成することはできるが、ひとたびアルカリ性水溶液に接触すると、アルコキシシラン化合物がガラス板から外れてしまうため、水接触角が大きくなってしまうものと考えられる。
【0106】
実施例1と比較例3のコーティング組成物の配合を比較すると、比較例3のコーティング組成物には、「第2のアルコキシシラン化合物」であるKBM-7103が多量(第1のアルコキシシラン化合物の5倍量)含まれている。比較例3のコーティング組成物は、アルカリ性水溶液にも耐えうるコーティング層を形成することができたが、コーティング層にムラが見られ、物品の被覆をする用途に好適ではないと云える。実施例1と比較例4のコーティング組成物の配合を比較すると、比較例4のコーティング組成物には、「第2のアルコキシシラン化合物」とは異なるアルコキシシラン化合物(メチルシリケート51)が含まれている。比較例4のコーティング組成物は、アルカリ性水溶液にも耐えうるコーティング層を形成することができたが、コーティング層に白濁が見られ、物品の被覆をする用途に好適ではないと云える。
【0107】
これらの結果より、防汚性に優れたコーティング層を形成するには、第1のアルコキシシラン化合物に由来する、比較的長いパーフルオロポリエーテル部と、第2のアルコキシシラン化合物に由来する、短いパーフルオロ基とが良好なバランスで混在するようにコーティング組成物の配合を検討することが重要であることがわかった。