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特許7330888テルペノイド産物を微生物生産するための代謝工学
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】テルペノイド産物を微生物生産するための代謝工学
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/00 20060101AFI20230815BHJP
   C12P 9/00 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20230815BHJP
   C12R 1/19 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
C12P5/00 ZNA
C12P9/00
C12N1/21
C12N9/02
C12N9/04 Z
C12N9/10
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/70
C12R1:19
【請求項の数】 46
(21)【出願番号】P 2019541325
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 US2018015527
(87)【国際公開番号】W WO2018140778
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】62/450,707
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519271159
【氏名又は名称】マナス バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマラン アジクマー パライル
(72)【発明者】
【氏名】リム ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン シェン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】サントス クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ライアン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0162337(US,A1)
【文献】Microbial Cell Factories,2014年,Vol.13, Article No.135,p.1-7
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2007年,Vol.73, No.19,p.6277-6283
【文献】PLOS ONE,2012年,Vol.7, No.11, e47513,p.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルペンまたはテルペノイド産物の生産方法であって、
上流のメチルエリスリトールリン酸経路(MEP経路)を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換するE.coli細菌株を提供することであって、
組み換えIspHの活性及び/または発現が、組換えIspGの活性及び/または発現よりも高いように、組み換えIspG及びIpsHによって前記細菌株においてIspG及びIspHは過剰発現され、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸(HMBPP)中間体への炭素フラックスの増加をもたらすと同時に、MEP経路のフラックス及びテルペンまたはテルペノイドの生産性をフィードバック及び低減する量でのHMBPPの蓄積を防止するように、IspG活性とIspH活性のバランスは調整され、前記株は、前記MEP経路を介した電子の供給及び/または伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び/または伝達を増強する、ピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)の過剰発現を含む、前記細菌株を提供することと、
前記細菌株を培養し、前記テルペンまたはテルペノイド産物を産生させること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記組換えIspHの前記発現が、前記組換えIspGの前記発現よりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組換えIspH及びIspGが、オペロンから発現し、前記オペロン内で前記IspG遺伝子の前にIspH遺伝子が位置する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えIspG及びIspH酵素の発現が、前記ispG及び/またはispHの組換え遺伝子の前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、及び/またはリボソーム結合部位配列を変更することによってバランスが調整される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えispG及びispH遺伝子を含まない親株の場合よりも実質的に多くHMBPPが細胞に蓄積されることがない、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
組換えidi遺伝子の発現または活性が、テルペンまたはテルペノイドの生産量が増加するように高められる、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記PFORがE.coli YdbKである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌株が組換えE.coli YdbK遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記株が、テルペノイド化合物を生産するための1つ以上のP450酵素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
E.coli Dxr、Dxs、IspD、IspE、及びIspFの発現または活性に対する、前記IspG及びIspHの発現または活性のバランスを調整し、培養物中のMEcPP代謝産物を減少させる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌株が、PDHを介在したピルビン酸のアセチル-CoAへの変換を低減または排除する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細菌株が変異型E.coli aceEを発現し、前記変異がG267Cである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細菌株がE.coli aceEの欠失または不活性化を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記細菌株が、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログを過剰発現し、
前記fdxホモログが、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)から選択され、
前記fldAホモログが、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)から選択される、
請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、ファルネセン、アモルファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
培養段階が、細菌バイオマスが生成される第1段階と、それに続くテルペンまたはテルペノイド生産段階とを含む流加法である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記培養物が少なくとも約100Lである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記培養物が微好気条件下に維持される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記テルペンまたはテルペノイド産物を回収することをさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
工業製品または消費者製品を製造する方法であって、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法に従ってテルペンまたはテルペノイドを生産する工程、及び、前記テルペンまたはテルペノイドを前記工業製品または消費者製品に組み込む工程を含む、前記方法。
【請求項22】
前記工業製品または消費者製品が、香味製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記工業製品または消費者製品が、食品、飲料、食感改良剤、医薬品、タバコ製品、栄養補助食品、口腔衛生製品、または化粧品である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細菌株または細胞が、ゲラニル二リン酸シンターゼ(GPPS)、ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)、及びゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPPS)のうちの1つ以上を過剰発現する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)前駆体からの産物の生産量を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有する細菌株であって、
前記細菌株が、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を産生し、かつ前記MEP経路が1つ以上の過剰発現遺伝子を含み、前記株は、下流合成経路を介して前記IPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換し、
前記遺伝子改変が、
(a)HMBPP中間体の蓄積を防止するようにIspG及びIspH酵素の発現または活性のバランスを調整する、前記IspG及びIspH酵素の組換えまたは改変であって、前記組換えまたは改変IspHの発現が、前記組換えまたは改変IspGの発現よりも高い、IspG及びIspH酵素の組換えまたは改変、及び
(b)ピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)をコードする遺伝子の組換えまたは改変、
を含み、
前記細菌株がE.coliである、
細菌株。
【請求項26】
前記細菌株が、E.coli aceEまたはaceE酵素複合体の不活性化もしくは欠失、または発現もしくは活性の低減を含む、請求項25に記載の細菌株。
【請求項27】
前記細菌株が、より高いテルペンまたはテルペノイド生産のために活性を高める組換え又は修飾idi遺伝子を含む、請求項25又は26に記載の細菌株。
【請求項28】
前記細菌株が、E.coli YdbK遺伝子の過剰発現を含む、請求項25~27のいずれかに記載の細菌株。
【請求項29】
前記細菌株が、非天然のfdx及び/またはfldAホモログをコードする組換え又は修飾遺伝子を含み、
前記fdxホモログが、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)から選択され、
前記fldAホモログが、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)から選択される、
請求項25~28のいずれかに記載の微生物。
【請求項30】
前記細菌株が、組換え遺伝子としてE.coli dxs、ispD、ispF、及びidiを発現する、請求項25~27のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項31】
前記E.coli dxs、ispD、ispF、及びidiの組み換え遺伝子がオペロンとして発現される、請求項30に記載の細菌株。
【請求項32】
前記組換えispH及びispGが、オペロンとして発現し、前記オペロン内でispHがispGの前に位置する、請求項30又は31に記載の細菌株。
【請求項33】
組換えidi遺伝子の発現または活性が、テルペンまたはテルペノイド生産量を増加させるように増強されている、請求項25~32のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項34】
組換えidi遺伝子の発現または活性が、前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の位置、またはリボソーム結合部位を変更することにより、増強されている、請求項33に記載の細菌株。
【請求項35】
前記PFORがE.coli YdbKである、請求項25に記載の細菌株。
【請求項36】
前記株が、ピルビン酸を酸化する及び/またはフェレドキシンを還元する酵素を含む、請求項25~35のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項37】
ピルビン酸を酸化する、及び/又は、フェレドキシンを還元する酵素が組換えE.coli YdbKである、請求項35に記載の細菌株。
【請求項38】
組換えE.coli YdbKをコードする遺伝子が、染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、請求項36に記載の細菌株。
【請求項39】
前記株が、前記テルペノイド化合物の生産のための1つ以上のP450酵素を含む、請求項36~38のいずれかに記載の細菌株。
【請求項40】
フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む、請求項35~39のいずれかに記載の細菌株。
【請求項41】
前記細菌株が、PDHを介在したピルビン酸のアセチル-CoAへの変換を低減または排除する、請求項25~40のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項42】
前記細菌株が変異型E.coli aceEを発現し、前記変異がG267Cである、請求項41に記載の細菌株。
【請求項43】
前記細菌株がE.coli aceEの欠失または不活性化を有する、請求項42に記載の細菌株。
【請求項44】
前記細菌株が、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログを過剰発現し、
前記fdxホモログが、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)から選択され、
前記fldAホモログが、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)から選択される、請求項25~43のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項45】
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、ファルネセン、アモルファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項25~44のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項46】
前記細菌株が、ゲラニル二リン酸シンターゼ(GPPS)、ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)、及びゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPPS)のうちの1つ以上を過剰発現する、請求項25~45のいずれか1項に記載の細菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年1月26日出願の米国仮出願第62/450,707号の優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式でEFS-Webを経由して提出された配列表を含み、配列表はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。2018年1月26日に作成された上記ASCIIコピーは、MAN-009PC_ST25という名称であり、そのサイズは125,103バイトである。
【背景技術】
【0003】
食品産業及び飲料産業はもとより、香料産業、化粧品産業、及びヘルスケア産業などの他の産業も、テルペン及び/またはテルペノイド産物を日常的に使用しており、それには着香剤及び芳香剤としての使用を含む。しかしながら、(i)植物原料の可用性及び高価格;(ii)植物中のテルペン含有量の相対的低さ;ならびに(iii)十分量のテルペン産物を工業的規模で生産するには抽出方法が面倒で非効率などの要因はすべて、植物に依存しない系を用いたテルペンの生合成に関する研究を活性化させた。その結果、グルコースなどの再生可能資源をテルペノイド産物に変換するように微生物を操作する技術の開発に労力が費やされてきた。従来の方法と比較して、微生物は土地を必要とせずに急速に成長し、開発を持続できるという利点がある。
【0004】
重要なイソプレノイド前駆体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)には、メバロン酸(MVA)経路とメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路という2つの主要な生合成経路がある。MVA経路は、ほとんどの真核生物、古細菌、及びいくつかの真正細菌に見られる。MEP経路は、真正細菌、植物の葉緑体、シアノバクテリア、藻類、及びアピコンプレックス門寄生生物に見られる。E.coli及び他のグラム陰性菌は、MEP経路を利用してIPP及びDMAPP代謝前駆体を合成する。MEP経路はMVA経路よりも理論上の化学量論的収率が高いが、E.coli及び他の細菌におけるMEP経路は、この経路を通る炭素フラックスを制御及び/または制限する様々な固有の調節機構を有する。Zhao et al.,Methylerythritol Phosphate Pathway of Isoprenoid Biosynthesis,Annu Rev.Biochem.2013;82:497-530;Ajikumar PK,et al.,Isoprenoid pathway optimization for Taxol precursor overproduction in Escherichia coli.Science 2010;330-70-74を参照のこと。
【0005】
細菌系においてテルペン及びテルペノイドを工業的規模で生産するには、MEP経路、ならびに組換え型下流テルペン及びテルペノイド合成経路を通る炭素フラックスを向上させるための微生物株及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
様々な態様において、本発明は、テルペン及びテルペノイド産物を生産するための方法及び細菌株に関する。ある特定の態様では、本発明は、MEP経路及び下流の組換え合成経路への炭素フラックスを向上させる細菌株を提供し、それによって安価な炭素源(例えば、グルコース)を用いた発酵によってテルペン及び/またはテルペノイドの生産量を増加させる。
【0007】
いくつかの態様では、本発明は、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル-4-二リン酸(HMBPP)中間体への炭素フラックスが増加するようにIspG及びIspHを過剰発現するが、細胞増殖または生存率を低下させる量、またはMEP経路のフラックス及び/またはテルペノイドの生産を阻害する量でのHMBPPの蓄積を防止するように発現のバランスが調整された細菌株に関する。IspG及びIspH両方の発現が増加すると、テルペン及びテルペノイド産物の力価が著しく増加する。対照的に、IspGのみが過剰発現すると増殖が欠如し、対してIspHのみが過剰発現すると生産力価に著しい影響を及ぼさない。HMBPP代謝産物は、MEP経路の制御因子または阻害因子として作用でき、ある一定レベルで細菌細胞に対して毒性であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、HMBPPは、約10mg/g乾燥細胞重量(DCW)を超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約5mg/gDCWを超えて、または約2mg/gDCWを超えて蓄積しない。したがって、IspG及びIspHの過剰発現のバランスを調整する(例えば、IspH活性をより有利にする)ことが、MEPの炭素を不均衡及び蓄積を防止しつつ、下流のHMBPPからIPPへと流入させるために重要である。
【0008】
様々な実施形態において、この細菌株は、MEPの炭素をIspGの基質であるMEcPP中間体に移動させるようにバランス調整されたMEP経路を過剰発現し、かつ、Fe-硫黄クラスター酵素であるIspG及びIspH酵素の活性を助ける1つ以上の遺伝子改変を含む。例示的な改変としては、MEP経路を介した電子の供給及び伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び伝達を増強するものが挙げられる。これには、ピルビン酸を酸化する及び/またはフェレドキシン(MEP経路に電子を供給する)の還元をもたらすオキシドレダクターゼを含めた、1つ以上のオキシドレダクターゼ酵素の組換え発現が含まれる。例示的なオキシドレダクターゼは、E.coli YdbKならびにそのオルソログ及び誘導体である。
【0009】
様々な実施形態において、微生物株は、フラボドキシン(fldA)、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン(fdx)、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現または補完を含む。
【0010】
他の態様では、本発明は、FPPをファルネソールに、ならびにIPP及びDMAPPをそれぞれイソプレノール及びプレノールに脱リン酸化するPgpBまたはNudBを過剰発現する細菌株を提供する。こうした実施形態では、細胞は、MEP経路でのさらなる産物の流入を含むと同時に、過剰なMEP炭素を経路から細胞外に排出することによって、固有のフィードバック阻害機構を回避する。さらに、これらの産物は細胞外に蓄積するので、下流のテルペノイド合成経路を導入しない場合でも、MEP経路を通る炭素フラックスの追跡にこの産物を使用することができる。したがって、PgpB及び/またはNudBを過剰発現する細菌株は、MEP経路遺伝子の発現バランスを調整するには利便な手段である。それに加えて、またはそれに代わり、いくつかの実施形態では、細菌株は、固有のフィードバック阻害機構を回避する十分な産物をMEP経路に流入させる1つ以上の強力なシンターゼを過剰発現する。例として、いくつかの実施形態では、シンターゼはArtemisia annuaファルネセンシンターゼである。
【0011】
この細菌細胞は、テルペンまたはテルペノイド産物を生産するために、IPP及びDMAPP前駆体からテルペノイドを生産する組換え型下流経路を備えることになる。ある特定の実施形態では、細菌細胞は、特に、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、トリテルペノイド、及びジテルペノイドなどの1つ以上のテルペノイド化合物を産生する。そのようなテルペノイド化合物は、香料に(例えばパチョロール)、香料産業で(例えばヌートカトン)、甘味剤として(例えばステビオールグリコシド)、着色剤として、または治療薬として(例えばタキソール)使用される。
【0012】
回収されたテルペンまたはテルペノイドを製品(例えば、消費者製品または工業製品)に組み込むことができる。例えば、製品は、着香製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品であり得る。本発明の実施形態では、生産収率が高いため、大幅なコスト上の利点に加え、テルペンまたはテルペノイド成分の持続可能性及び品質管理をもたらすことができる。
【0013】
本発明の他の態様及び実施形態は、本発明に関する以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
項1
テルペンまたはテルペノイド産物の生産方法であって、
上流のメチルエリスリトールリン酸経路(MEP経路)を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供することであって、
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸(HMBPP)中間体への炭素フラックスの増加をもたらすようにIspG活性とIspH活性のバランスを調整すると同時に、MEP経路のフラックス及びテルペンまたはテルペノイドの生産性をフィードバック及び低減する量でのHMBPPの蓄積を防止するように、前記細菌株でIspG及びIspHを過剰発現させ、前記株は場合により、前記MEP経路を介した電子の供給及び/または伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び/または伝達を増強する1つ以上の遺伝子改変を含む前記細菌株を提供することと、前記テルペンまたはテルペノイド産物を生産する前記細菌株を培養することとを含む、前記方法。
項2
前記細菌株が、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である、項1に記載の方法。
項3
前記細菌株が、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である、項2に記載の方法。
項4
前記細菌株がE.coliである、項3に記載の方法。
項5
前記細菌株が、場合によりオペロンとして発現される組換え遺伝子としてdxs、ispD、ispF、及びidiを発現する、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
項6
前記細菌株が、場合により1、2、または3個のオペロンとして発現される組換え遺伝子としてdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiを発現する、項5に記載の方法。
項7
前記MEP経路の前記組換え遺伝子が、1つ以上のプラスミドから発現されるか、または染色体に組み込まれる、項5または6に記載の方法。
項8
IspG及びIspHが、組換えispG及びispH遺伝子を前記細菌株に導入することによって過剰発現される、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
項9
前記組換えIspG及び/またはIspH酵素が、1つ以上の有益な変異を含むか、または培養に使用される条件下で改善された特性もしくは活性を有するオルソログである、項8に記載の方法。
項10
前記組換えIspHの活性及び/または発現が、前記組換えIspGの活性及び/または発現よりも高い、項1~9のいずれか1項に記載の方法。
項11
前記組換えIspHの前記発現が、前記組換えIspGの前記発現よりも高い、項10に記載の方法。
項12
前記組換えIspH及びIspGが、オペロンから発現し、前記オペロン内で前記IspG遺伝子の前にIspH遺伝子が位置する、項11に記載の方法。
項13
前記オペロンが強力なプロモーターの制御下で発現される、項12に記載の方法。
項14
前記組換えIspG及びIspH酵素の発現が、前記ispG及び/またはispHの組換え遺伝子の前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、及び/またはリボソーム結合部位配列を変更することによってバランスが調整される、項1~13のいずれか1項に記載の方法。
項15
前記組換えispG及びispH遺伝子を含まない親株の場合よりも実質的に多くHMBPPが細胞に蓄積されることがない、項1~14のいずれか1項に記載の方法。
項16
前記組換えispG及びispH遺伝子がプラスミドから発現されるか、または前記染色体に組み込まれる、項1~15のいずれか1項に記載の方法。
項17
前記組換えidi遺伝子の発現または活性が、テルペンまたはテルペノイドの生産量が増加するように調整される、項1~16のいずれか1項に記載の方法。
項18
前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の位置、またはリボソーム結合部位を変更することにより、前記組換えidi遺伝子の前記発現を調整する、項17に記載の方法。
項19
HMBPPが10mg/g乾燥細胞重量を超えて蓄積しない、項1~18のいずれか1項に記載の方法。
項20
前記細菌株が、前記MEP経路を介した電子の供給及び/または伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び/または伝達を増強し、場合によりピルビン酸を酸化する及び/またはフェレドキシンを還元する1つ以上の遺伝子改変を含む、項1~19のいずれか1項に記載の方法。
項21
前記細菌株がオキシドレダクターゼの過剰発現を含む、項20に記載の方法。
項22
前記オキシドレダクターゼがピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)である、項21に記載の方法。
項23
前記PFORがYdbKである、項22に記載の方法。
項24
前記細菌株が組換えYdbK遺伝子を含む、項21に記載の方法。
項25
前記組換えYdbK遺伝子が、前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現され、場合により弱強度または中強度のプロモーターの制御下にある、項24に記載の方法。
項26
前記株が、テルペノイド化合物を生産するための1つ以上のP450酵素を含む、項21~25のいずれか1項に記載の方法。
項27
フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む、項21~26のいずれか1項に記載の方法。
項28
Dxr、Dxs、IspD、IspE、及びIspFの発現または活性に対する、前記IspG及びIspHの発現または活性のバランスを調整し、培養物中のMEcPP代謝産物を減少させる、項1~27のいずれか1項に記載の方法。
項29
前記細菌株が、PgpB及び/またはNudBの過剰発現を含む、項1~27のいずれか1項に記載の方法。
項30
前記細菌株が少なくとも1つの組換えpgpB及び/またはnudB遺伝子を発現する、項29に記載の方法。
項31
前記組換えPgpB及び/またはNudBの前記発現が、場合によりプロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内での位置、及び/またはリボソーム結合部位を変更することによって、テルペンまたはテルペノイド生産力価を高めるように調整される、項29に記載の方法。
項32
前記組換えPgpB及び/またはNudBが、弱強度または中強度のプロモーターの制御下で発現される、項31に記載の方法。
項33
前記組換えpgpBまたはnudBが、前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、項30~32のいずれか1項に記載の方法。
項34
前記細菌株が、補因子の可用性または代謝回転を増加させるための1つ以上の追加改変を有し、前記1つ以上の追加改変はグリセルアルデヒド-3-リン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(GAPOR)の組換え発現;ydhV及び/またはydhYの過剰発現;gshAの下方制御、不活性化、または欠失:ならびにCHAC1及び/またはCHAC2の組換え発現から場合により選択される、項1~33のいずれか1項に記載の方法。
項35
細菌細胞における前記MEP経路からの過剰な炭素フラックスの排出方法であって、
上流のメチルエリスリトールリン酸経路(MEP経路)を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、場合により下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供することであって、
前記細菌株は1つ以上のMEP経路遺伝子を過剰発現し、PgpB及び/またはNudBを過剰発現する、前記細菌株を提供することと、、
MEP炭素を生産する前記細菌株を培養することとを含む、前記方法。
項36
前記細菌株が、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である、項35に記載の方法。
項37
前記細菌株が、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である、項35に記載の方法。
項38
前記細菌株がE.coliである、項37に記載の方法。
項39
前記細菌株が少なくとも1つの組換えpgpB及び/またはNudB遺伝子を発現する、項35~38のいずれか1項に記載の方法。
項40
前記組換えPgpB及び/またはNudBの前記発現が、場合によりプロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内での位置、及び/またはリボソーム結合部位を変更することによって、テルペンまたはテルペノイド生産力価を高めるように調整される、項39に記載の方法。
項41
前記組換えPgpB及び/またはNudBが、弱強度または中強度のプロモーターの制御下で発現される、項40に記載の方法。
項42
前記組換えpgpBまたはnudBが、前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、項39~41のいずれか1項に記載の方法。
項43
前記細菌株が、HMBPP中間体への炭素フラックスの増加をもたらすようにIspG活性とIspH活性のバランスを調整すると同時に、細胞増殖、生存率、MEPフラックス、または生産力価が実質的に減少する量でのHMBPPの蓄積を防止するように、IspG及びIspHを過剰発現する、項35~42のいずれか1項に記載の方法。
項44
HMBPPが10mg/g乾燥細胞重量を超えて蓄積しない、項43に記載の方法。
項45
前記細菌株が、場合によりオペロンとして発現される組換え遺伝子としてdxs、ispD、ispF、及びidiを発現する、項35~44のいずれか1項に記載の方法。
項46
前記細菌株が、場合により1、2、または3個のオペロンとして発現される組換え遺伝子としてdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiを発現する、項45に記載の方法。
項47
前記MEP経路の前記組換え遺伝子が、1つ以上のプラスミドから発現されるか、または前記染色体に組み込まれる、項45または46に記載の方法。
項48
IspG及びIspHが、少なくとも1つの組換えIspG及びIspH遺伝子を前記細菌株に導入することによって過剰発現される、項43~47のいずれか1項に記載の方法。
項49
前記組換えIspHの活性及び/または発現が、前記組換えIspGの活性及び/または発現よりも高い、項48に記載の方法。
項50
前記組換えIspH及びIspGが、オペロンとして発現し、前記オペロン内でIspHがIspGの前に位置し、前記オペロンが場合により強力なプロモーターの制御下で発現される、項49に記載の方法。
項51
前記組換えIspG及びIspH遺伝子がプラスミドから発現されるか、または前記染色体に組み込まれる、項43~50のいずれか1項に記載の方法。
項52
組換えidi遺伝子の発現または活性が、テルペンまたはテルペノイドの生産量が増加するように調整される、項35~51のいずれか1項に記載の方法。
項53
前記細菌株がオキシドレダクターゼの過剰発現を含む、項42~52のいずれか1項に記載の方法。
項54
前記オキシドレダクターゼがピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)である、項53に記載の方法。
項55
前記PFORがYdbKである、項54に記載の方法。
項56
組換えYdbK遺伝子が、前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、項55に記載の方法。
項57
前記株が、テルペノイド化合物を生産するための1つ以上のP450酵素を含む、項53~56のいずれか1項に記載の方法。
項58
フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む、項53~57のいずれか1項に記載の方法。
項59
前記細菌株が、補因子の可用性または代謝回転を増加させるための1つ以上の追加改変を有し、前記1つ以上の追加改変はグリセルアルデヒド-3-リン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(GAPOR)の組換え発現;ydhV及び/またはydhYの過剰発現;gshAの下方制御、不活性化、または欠失:ならびにCHAC1及び/またはCHAC2の組換え発現から場合により選択される、項35~58のいずれか1項に記載の方法。
項60
前記細菌株が、PDHを介在したピルビン酸のアセチル-CoAへの変換を低減または排除する、項1~59のいずれか1項に記載の方法。
項61
前記細菌株が変異型aceEを発現し、前記変異がG267Cである、項60に記載の方法。
項62
前記細菌株がaceEの欠失または不活性化を有する、項60に記載の方法。
項63
前記細菌株が、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログを過剰発現する、項1~62のいずれか1項に記載の方法。
項64
前記fdxホモログが、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)、または前記のいずれかの誘導体から選択される、項63に記載の方法。
項65
前記fldAホモログが、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)、またはその誘導体から選択される、項63に記載の方法。
項66
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、ファルネセン、アモルファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、項1~65のいずれか1項に記載の方法。
項67
前記株が、酵素反応速度論、テルペンまたはテルペノイド産物のプロファイル、安定性、及び温度耐性のうちの1つ以上を改善するための1つ以上の変更を有するテルペンシンターゼ酵素を含む、項1~66のいずれか1項に記載の方法。
項68
前記株が、C1、C2、C3、C4、C5、またはC6炭素源とともに培養される、項1~67のいずれか1項に記載の方法。
項69
前記炭素源がグルコース、スクロース、またはグリセロールである、項68に記載の方法。
項70
前記細菌株が、22℃~37℃の温度で培養される、項68または69に記載の方法。
項71
培養段階が、細菌バイオマスが生成される第1段階と、それに続くテルペンまたはテルペノイド生産段階とを含む流加法である、項1~70のいずれか1項に記載の方法。
項72
前記培養物が少なくとも約100Lである、項71に記載の方法。
項73
前記培養物が約300L~約1,000,000Lである、項72に記載の方法。
項74
前記培養物が好気条件下に維持される、項68~73のいずれか1項に記載の方法。
項75
前記培養物が微好気条件下に維持される、項74に記載の方法。
項76
前記バイオマス生産段階を好気条件下で行った後、約10~約20時間後まで酸素レベルを低下させる、項74または75に記載の方法。
項77
前記生産段階が、場合により水酸化アンモニウムを含む、窒素源を供給することを含む、項68~76のいずれか1項に記載の方法。
項78
前記生産段階が、場合によりグルコース、スクロース、及び/またはグリセロールを含む、炭素源を供給することを含む、項68~77のいずれか1項に記載の方法。
項79
前記窒素及び炭素の供給が、所定量のバッチ培地が消費されたときに開始される、項76~78のいずれか1項に記載の方法。
項80
前記窒素の供給速度が、1時間あたり約8Lから1時間あたり約20Lである、項78または79に記載の方法。
項81
前記培養物中のインドールの蓄積を監視または試験することをさらに含む、項68~80のいずれか1項に記載の方法。
項82
前記培養物中のMEcPPの蓄積を監視または試験することを含む、項68~81のいずれか1項に記載の方法。
項83
前記細胞中のHMBPPのレベルを監視または試験することをさらに含む、項68~82のいずれか1項に記載の方法。
項84
前記テルペンまたはテルペノイド産物を回収することをさらに含む、項1~83のいずれか1項に記載の方法。
項85
前記産物が揮発性テルペンまたはテルペノイド産物である、項84に記載の方法。
項86
前記培養物から機械的に分離された有機相または疎水相から、前記テルペンまたはテルペノイド産物を回収する、項85に記載の方法。
項87
前記テルペンまたはテルペノイド産物を液相及び/または固相から採取する、項86に記載の方法。
項88
場合により単蒸留、水蒸気蒸留、分別蒸留、薄膜蒸留、または連続蒸留である蒸留によって、前記産物を精製する、項85~87のいずれか1項に記載の方法。
項89
前記産物が逐次抽出及び精製によって精製される、項85~88のいずれか1項に記載の方法。
項90
前記産物が、場合により超臨界流体クロマトグラフィーである、クロマトグラフィーを用いた分離及び回収によって精製される、項85~89のいずれか1項に記載の方法。
項91
前記産物が不揮発性テルペンまたはテルペノイド産物である、項84に記載の方法。
項92
前記産物が前記培養培地から回収された細胞外産物である、項91に記載の方法。
項93
前記産物が、採取された細胞材料から回収された細胞内産物である、項91に記載の方法。
項94
前記産物が溶解性に乏しく、場合により溶媒抽出による濾過によって回収される、項91~93のいずれか1項に記載の方法。
項95
前記溶媒がエタノールである、項94に記載の方法。
項96
前記産物が、場合により液体クロマトグラフィーである、クロマトグラフィーを用いた分離によって回収される、項91~95のいずれか1項に記載の方法。
項97
前記産物が濾過により回収される、項96に記載の方法。
項98
前記産物が逐次抽出及び精製によって回収される、項89~96のいずれか1項に記載の方法。
項99
前記産物が溶液から晶出される、項92または93に記載の方法。
項100
工業製品または消費者製品を製造する方法であって、項1~100のいずれか1項に記載の方法に従って生産された前記テルペンまたはテルペノイドを前記工業製品または消費者製品に組み込むことを含む、前記方法。
項101
前記工業製品または消費者製品が、香味製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品である、項100に記載の方法。
項102
前記工業製品または消費者製品が、食品、飲料、食感改良剤、医薬品、タバコ製品、栄養補助食品、口腔衛生製品、または化粧品である、項100に記載の方法。
項103
前記細菌株または細胞が、ゲラニル二リン酸シンターゼ(GPPS)、ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)、及びゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPPS)のうちの1つ以上を過剰発現する、項1~102のいずれか1項に記載の方法。
項104
イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)前駆体からの産物の生産量を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有する細菌株であって、前記細菌株が、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を産生し、かつ前記MEP経路が1つ以上の過剰発現遺伝子を含み、前記株は、下流合成経路を介して前記IPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換し、前記遺伝子改変が、
(a)HMBPP中間体の蓄積を防止するようにIspG及びIspH酵素の発現または活性のバランスを調整する、前記IspG及びIspH酵素の組換えまたは改変、
(b)前記MEP経路を介した電子の供給及び/または伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び/または伝達を増強する酵素をコードする遺伝子の組換えまたは改変であって、場合によりYdbK遺伝子の過剰発現及び場合により非天然fdx及び/またはfldAホモログによる過剰発現である、前記遺伝子の組換えまたは改変、
(c)aceEまたはaceE酵素複合体の不活性化もしくは欠失、または発現もしくは活性の低減、ならびに場合により
(d)テルペンまたはテルペノイド生産量を高めるように活性を調整する、idi遺伝子の組換えまたは改変を含む、前記細菌株。
項105
前記細菌株が、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である、項104に記載の細菌株。
項106
前記細菌株が、Escherichia coli、Bacillus subtillus、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である、項105に記載の細菌株。
項107
前記細菌株がE.coliである、項106に記載の細菌株。
項108
前記細菌株が、場合によりオペロンとして発現される、組換え遺伝子としてdxs、ispD、ispF、及びidiを発現する、項104~107のいずれか1項に記載の細菌株。
項109
前記細菌株が、場合により1、2、または3個のオペロンとして発現される組換え遺伝子としてdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiを発現する、項108に記載の細菌株。
項110
前記MEP経路の前記組換え遺伝子が、1つ以上のプラスミドから発現されるか、または前記染色体に組み込まれる、項108または109に記載の細菌株。
項111
HMBPPが10mg/g乾燥細胞重量を超えて蓄積しない、項104~110のいずれか1項に記載の細菌株。
項112
前記組換えispG及びispH遺伝子が、1つ以上の有益な変異を含むか、または特性もしくは活性が改善されたIspGまたはIspHオルソログをコードする、項104~111のいずれか1項に記載の細菌株。
項113
前記組換えIspHの発現が、前記組換えIspGの発現よりも高い、項104~112のいずれか1項に記載の細菌株。
項114
前記組換えispH及びispGが、オペロンとして発現し、前記オペロン内でispHがispGの前に位置する、項113に記載の細菌株。
項115
前記オペロンが強力なプロモーターの制御下で発現される、項114に記載の細菌株。
項116
前記組換えispG及びispH遺伝子がプラスミドから発現されるか、または前記染色体に組み込まれる、項112~115のいずれか1項に記載の細菌株。
項117
組換えidi遺伝子の発現または活性が、前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の位置、またはリボソーム結合部位を場合により変更することにより、テルペンまたはテルペノイド生産量を増加させるように調整されている、項104~116のいずれか1項に記載の細菌株。
項118
前記細菌株がオキシドレダクターゼの過剰発現を含む、項104~117のいずれか1項に記載の細菌株。
項119
前記オキシドレダクターゼがピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)である、項118に記載の細菌株。
項120
前記PFORがYdbKである、項119に記載の細菌株。
項121
前記株が、ピルビン酸を酸化する及び/またはフェレドキシンを還元する酵素を含み、場合により組換えYdbK遺伝子であり、場合により前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、項104~120のいずれか1項に記載の細菌株。
項122
前記株が、前記テルペノイド化合物の生産のための1つ以上のP450酵素を含む、項121に記載の細菌株。
項123
フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む、項121または122に記載の細菌株。
項124
前記組換えpgpB及び/またはnudBの前記発現が、場合により前記プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内での位置、及び/またはリボソーム結合部位を変更することによって、テルペンまたはテルペノイド生産力価を高めるように調整される、項104~123のいずれか1項に記載の細菌株。
項125
前記株が、グリセルアルデヒド-3-リン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(GAPOR)の組換え発現;ydhV及び/またはydhYの過剰発現;gshAの下方制御、不活性化、または欠失:ならびにCHAC1及び/またはCHAC2の組換え発現から選択される1つ以上の追加改変を有する、項104~124のいずれか1項に記載の細菌株。
項126
前記組換えpgpB及び/またはnudBが、弱強度または中強度のプロモーターの制御下で発現される、項125に記載の細菌株。
項127
前記組換えpgpBまたはnudBが、前記染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される、項126に記載の細菌株。
項128
前記細菌株が、PDHを介在したピルビン酸のアセチル-CoAへの変換を低減または排除する、項104~127のいずれか1項に記載の細菌株。
項129
前記細菌株が変異型aceEを発現し、前記変異がG267Cである、項128に記載の細菌株。
項130
前記細菌株がaceEの欠失または不活性化を有する、項129に記載の細菌株。
項131
前記細菌株が、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログを過剰発現する、項104~130のいずれか1項に記載の細菌株。
項132
前記非天然のfdxホモログが、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)、または前記のいずれかの誘導体から選択される、項131に記載の細菌株。
項133
前記fldAホモログが、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)、またはその誘導体から選択される、項132に記載の細菌株。
項134
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、ファルネセン、アモルファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、項104~133のいずれか1項に記載の細菌株。
項135
前記株が、酵素反応速度論、テルペンまたはテルペノイド産物のプロファイル、安定性、及び温度耐性のうちの1つ以上を改善するための1つ以上の変更を有するテルペンシンターゼ酵素を含む、項134に記載の細菌株。
項136
前記細菌株が、ゲラニル二リン酸シンターゼ(GPPS)、ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)、及びゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPPS)のうちの1つ以上を過剰発現する、項104~135のいずれか1項に記載の細菌株。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】MEP経路によるテルペノイド生産の概略図である。炭素源としてグルコースを取り入れる細菌細胞を表している。グルコースは、TCAサイクルを経てバイオマスに変換されるか、またはMEP経路を通り目的とするテルペノイド産物になる。グルコースは細胞内に入り、中間体であるグリセルアルデヒド3-リン酸(GAP)によりピルビン酸(PYR)に変換される。PYRとGAPが化合してDOXPを生成し、これがMEPに変換され、(MEcPPを通過して)FPPへの経路に渡される。DOX及びMEは、それぞれDOXP及びMEPの脱リン酸化産物である。DOX、ME、及びMEcPPは細胞外に見られる。MEP経路に送り込まれるフラックスが多いほど、これらの産物が細胞外に多く見られる。これらの副産物は、MEP経路におけるボトルネックのマーカーとして、操作の標的を特定するために使用することができる。nudBまたはpgpBを過剰発現することによって、IPP及びDMAPPまたはFPPは、それぞれプレノール及びイソプレノールまたはファルネソールに脱リン酸化されて、細胞外に蓄積するが、これを利用して、MEP経路の中間体の蓄積及びフィードバック阻害の活性化を緩和することができる。黒色の矢印はテルペノイドに対する酵素介在性の生化学反応を示し、薄灰色の矢印は競合する副産物を示し、暗灰色の矢印は細胞外への産物の輸送を示し、白色の矢印は簡潔にするために簡略化された経路を示す。
図2】ispHのみ、またはispH及びispG両方の発現が増加すると、MEP経路に流入する炭素量を増加させるように操作されている株におけるテルペノイド生産力価が向上するが、ispGのみでは生産性が低下することを示す。MEP経路のフラックスを向上させる変更はその他にもあるが、対照株は、特にdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiの追加のコピーを有する(ispGまたはispHの追加コピーは含まない)E.coliである。株は、20kbの欠失を含むが、操作はしなかった。
図3】MEP経路が増強された改変生産株におけるispG及び/またはispHの発現の増加が、MEP産物の分布パターンに影響を与えることを示す。上段パネル(縮尺1倍)はMEP経路の代謝産物すべてを示し、産物の大部分はDOX、ME、及びMEcPPである。中段パネル(縮尺100倍)は、DOX、ME、及びMEcPPを報告から除外したMEP経路の代謝産物を示す。この図で最も代表的なのはDOXPとMEPである。下段パネル(縮尺25000倍)はHMBPP濃度のみを示す。これらのパネルでは、抽出培養物(ブロス+細胞)からの細胞外及び細胞内の総代謝産物が示されているため、抽出物の量に比例して濃度が記載されている。
図4】細胞の内側または細胞の外側(「細胞内」と「細胞外」)に見られる、それぞれ個々のMEP代謝産物の比率を示す。これらの値は絶対存在量を反映しておらず、例えば、HMBPPが存在するよりも、合計に占めるDOXの方がはるかに多く存在する。DOXは100%細胞外にあるが、HMBPPは100%細胞内にある。図4でプロファイリングした株は、最上位の有効株である「対照+ispH/ispG」である。DOXP/DOX、MEP/ME、及びMEcPPは、すべてではないとしても、ほぼすべて細胞外培地に蓄積するが、CDP-ME、CDP-MEP、HMBPP、IPP/DMAPP、及びFPPは100%細胞内で観察される。細胞内に見られる各代謝産物の比率をグラフの上部に示す。
図5】未補正のispGの上方制御は、600nmでのUV吸光度によって決定される、細胞増殖の著しい低下を引き起こすことを示す。ispH、またはispHとispGの両方を補正した株では、最終細胞密度に対して、ある程度の変化が観察されるが、その変動は著しくはない。
図6】pgpBの過剰発現が、MEP経路を通るフラックスを増強するように操作されているが、下流のテルペノイド産物経路は導入されていない株において、ファルネソール力価を3倍にできることを示す。対照株は、様々なレベルの構成的発現下で、dxs、dxr、ispD、ispF、ispE、ispG、ispH、及びidiの追加コピーを有し、また過剰発現したydbKを有している。この株は、おそらくFPPの過剰な蓄積で生じる「流出」により、経路でフィードバックが生じ、野生型と比較して著しく増殖が遅くなるため、中程度の量のファルネソールを蓄積する。この株でpgpBが過剰発現されると、過剰なFPPがより効率的にファルネソールに変換され(フィードバック制御を阻止する)、フラックスが効果的にMEP経路を通り流入する。
図7】ファルネソールを産生する株において、IspG’及び/またはIspHの発現を増加させる及び調整することで、生産力価を改善できることを示す。対照株は、dxs、dxr、ispD、ispF、ispE、ispG、ispH、及びidiの追加コピー、ならびにydbK及びpgpBの追加コピーを有する。漸増するプロモーター強度で(+、++、+++)、ispH及び/またはispG’の追加コピーを株に組み込む。
図8】ファルネソールの生産力価の増加(図7に示す)は、MEcPPプールサイズの減少を伴うが、それはispGとispHの比率次第であることを示す。
図9】idiの過剰発現はispGHを過剰発現しない株では生産力価を増加させるが、ispGHを過剰発現する2つの株では力価を減少させることを示す。このことは、IPPとDMAPPとのバランスをIdi活性によって制御し、下流経路の需要に応じて上方または下方に調整できることを示している。
図10】テルペノイド生合成を増強する、ピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ及び/またはピルビン酸シンターゼとしてのYdbKの役割を示す。
図11】プロモーター強度を漸増させながらydbKの追加コピーを発現させると、テルペノイドの生産量を向上できることを示す。対照株はテルペノイド産物Aを生産し、定義された構成的発現下でMEP経路の遺伝子dxs、dxr、ispD、ispE、ispF、ispG’、ispH、及びidiの追加コピーを有する。
図12】ydbKの過剰発現によるテルペノイドの生産力価の向上には、十分なispG及び/またはispHが必要であることを示す。対照Aは、MEP経路のdxs、ispD、ispF、及びidiの追加コピー、操作されていない20kbの欠失、ならびに鉄-硫黄クラスタータンパク質の性能を向上させるための他の修飾を有する。対照Bは、対照Aに加え、オペロン構成にispG’及びispHの追加コピーが組み込まれ(G’が最初であることによりH/G比がGに有利である)、対する対照Cは、対照Aに加え、オペロン構成にispH及びispG’の追加コピーが組み込まれている(Hが最初であることによりH/G比がHに有利である)。
図13】ydbKに加えてfdxを発現させると、テルペノイドの力価を向上できることを示す。対照株はテルペノイド産物Aを生産し、定義された構成的発現下でMEP経路の遺伝子dxs、dxr、ispD、ispE、ispF、ispG’、ispH、及びidiの追加コピーを有する。この株はまた、操作されていない20kbの欠失、及び鉄-硫黄クラスタータンパク質の性能を改善するための他の修飾を有する。
図14】解糖系とMEP経路との境界を示し、オキシドレダクターゼ酵素の発現を変えることによって補因子の可用性を調整する可能性を示す。
図15】ピルビン酸(PYR)をアセチル-CoA(AcCoA)に変換する、E.coliにおける3つの公知の反応を示す図であり、PDHを介在したPYRのAcCoAへの変換を低減または排除することで、PFORを介在したPYRのAcCoAへの変換がどのように増加するかを示す。
図16図16A~Dは、対照と比較した、YdbKの過剰発現及びaceEのノックアウト(ΔaceE)を有する細菌株におけるテルペノイド産物の生産量の倍率変化を示すグラフである。対照は(ΔaceE)を含まない同じ株である。ΔaceEは、PDHが介在したPYRのAcCoAへの変換を防止する。図16Aは、テルペノイド産物Bを生産する細菌株の倍率変化を示す。図16Bは、テルペノイド産物Cを生産する細菌株の倍率変化を示す。図16Cは、テルペノイド産物Dを生産する細菌株の倍率変化を示す。図16Dは、テルペノイド産物Eを生産する細菌株の倍率変化を示す。図16Eは、テルペノイド産物Dを生産し、YdbKを過剰発現し、ΔaceEを有する細菌株が、対照(ΔaceEなし)と比較して細胞外MEcPPの減少を示すことを示しているグラフである。
図17図17A~Cは、対照(aceE mutなし)と比較した、YdbKの過剰発現及び変異型aceE(aceE mut)を有する細菌株におけるテルペノイド産物の倍率変化を示すグラフである。aceE mutは、PDHが介在したPYRのAcCoAへの変換を低減する。図17Aは、テルペノイド産物Bを生産する細菌株の倍率変化を示す。図17Bは、テルペノイド産物Cを生産する細菌株の倍率変化を示す。図17Cは、テルペノイド産物Dを生産する細菌株の倍率変化を示す。図17Dは、テルペノイド産物Dを生産し、YdbKを過剰発現し、aceE mutを発現する細菌株が、対照(aceE mutなし)と比較して細胞外MEcPPの減少を有することを示すグラフである。
図18】ピルビン酸(PYR)をアセチル-CoA(AcCoA)に変換する、E.coliにおける3つの公知の反応を示す図であり、fdxまたはfldAホモログの発現がFd酸化還元反応(太字で示す)を介してIspG及び/またはIspHへの電子供給をどのように増加できるかを示す。
図19A】YdbKを過剰発現し、fdxまたはfldAホモログを過剰発現するように操作された細菌株におけるテルペノイド産物Bの生産量の倍率変化(空ベクター対照(emp)との比較)を示すグラフである。
図19B】YdbK及びCv.fdx(Allochromatium vinosum由来のfdxホモログ)を過剰発現するように操作された細菌株におけるテルペノイド産物Dの倍率変化(対照との比較)を示すグラフである。
図19C】テルペノイド産物Dを生産し、YdbK及びCv.fdxを過剰発現する細菌株が、対照(Cv.fdxの過剰発現なし)と比較して細胞外MEcPPの減少を有することを示すグラフである。
図20】テルペノイド産物Fを生産し、1つ以上のPFORまたはfprホモログ、及び場合によりfdxまたはfldAホモログを過剰発現する細菌株におけるテルペノイド産物の生産量の倍率変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な態様において、本発明は、テルペン及びテルペノイド産物を生産するための細菌株及び方法に関し、MEP経路を経て、下流の組換え合成経路に至る炭素フラックスを向上させる細菌株に関する。様々な実施形態において、本発明は、グルコース、グリセロール、スクロースなどの炭素源を用いた細菌株の発酵によるテルペン及び/またはテルペノイド産物の収率を増加させるために提供する。
【0016】
例えば、いくつかの態様では、本発明は、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供する。この細菌株では、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸(HMBPP)中間体への炭素フラックスが増加するようにIspG活性及びIspH活性が増強されるが、バランスを調整して、細胞増殖、生存率、MEP経路のフラックス、または生産力価が大幅に減少する量でのHMBPPの蓄積を防止するように、IspG及びIspHを過剰発現する。
【0017】
IspGとIspH両方の発現を増加させると、テルペン産物及びテルペノイド産物の力価を著しく増加させることができる。IspGのみまたはIspHのみの発現を増加させるだけでは、力価は著しく改善しない。さらに、IspGのみの過剰発現は増殖の欠如をもたらすことがあり、これは、HMBPP(IspGによって生産され、IspHによって消費されるMEP経路の中間体)が細胞外では見られないが、細胞内では100%見られるという観察と関連する可能性がある。HMBPP代謝産物は、MEP経路の阻害因子として作用すると思われ、ある一定レベルで細菌細胞に対して毒性であると思われる。したがって、HMBPPの不均衡及び蓄積を防ぐには、IspGとIspHとの間の活性のバランスが重要である。
【0018】
HMBPPの蓄積は乾燥細胞重量(DCW)あたりの量で決定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、HMBPPは、約10mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約8mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約5mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約4mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約2mg/gDCWを超えて蓄積しない。いくつかの実施形態では、HMBPPは、約1mg/gDCWを超えて蓄積せず、または約0.5mg/gDCWを超えて、もしくは約0.2mg/gDCWを超えて、もしくは約0.1mg/gDCWを超えて蓄積しない。IspG及びIspHの過剰発現のバランスを調整する(例えば、IspH活性をより有利にする)ことが、MEPの炭素を不均衡及び蓄積を防止しつつ、下流のHMBPPからIPPへと流入させるために重要である。
【0019】
いくつかの実施形態では、IspG及びIspHは、組換え型のispG及びispH遺伝子を細菌株に導入することによって過剰発現される。他の実施形態では、内因性遺伝子を、例えば、内因性プロモーターまたはリボソーム結合部位を変更することによって過剰発現させることができる。組換えispG及び/またはispH遺伝子を導入する場合、遺伝子が場合により1つ以上の有益な変異を含んでいてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、追加遺伝子は、野生型酵素(例えば、E.coli野生型酵素)と実質的に同一であってもよく、または活性を増加させるために改変されていても、または天然の細菌(例えばE.coli)酵素と活性が同等の、それより活性が高い、もしくはそれより活性が低いIspGまたはIspHのオルソログであってもよい。例えば、IspGに関して、アミノ酸配列は、配列番号1と50%以上の配列同一性、または配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約98%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、IspGアミノ酸配列(配列番号1)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。E.coliまたは他のIspGに対する改変は、相同性モデルの構築によって知ることができる。例えば、E.coliのIspG相同性モデルの構築に適したホモログは、Lee M,et al.Biosynthesis of isoprenoids:crystal structure of the [4Fe-4S] cluster protein IspG.J Mol Biol.2010 Dec 10;404(4):600-10に開示されている。活性の向上がある例示的なIspG変異体は、野生型E.coli酵素と比較して4つのアミノ酸置換を有する(本明細書でIspG’と称する)。
【0021】
さらに、IspHに関して、アミノ酸配列は、配列番号2と50%以上の配列同一性、または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約98%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、IspHアミノ酸配列(配列番号2)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。IspH酵素に対する修飾は、Grawert,T.,et al.Structure of active IspH enzyme from Escherichia coli provides mechanistic insights into substrate reduction 2009 Angew.Chem.Int.Ed.Engl.48:5756-5759を含め、入手可能なIspH構造によって知ることができる。
【0022】
表1は、細菌株を構築する、及び/または細菌細胞における発現の増強または物理的特性の増強のためにIspGまたはIspH酵素を変更するのに有用な代替酵素の一覧を示している。これらはそれぞれ、アミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入によって修飾することができる。例えば、アミノ酸配列が、表1に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性、または少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約98%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、表1の配列に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。いくつかの実施形態では、IspG及び/またはIspH酵素は、培養に用いられる条件下で改善された特性または活性を有するE.coli酵素のオルソログである。
【表1】
【0023】
組換えIspG及びIspH酵素の発現は、例えば、プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の遺伝子の位置を変更すること、及び/またはispG及び/またはispHの組換え遺伝子のリボソーム結合部位配列を変更することによってバランスをとることができる。IspG及びIspHの発現及び/または活性のバランスがとれている場合、組換えまたは改変されたispG及びispH遺伝子を含まない親株の場合よりも実質的に多くHMBPP中間体が細胞に蓄積されることがない。それにもかかわらず、発酵によるテルペン及びテルペノイドの商用生産に必要とされる、MEP経路を通る炭素フラックスは実質的に増加する。この結果を図3に示す。ここで、ispG及びispHを過剰発現する株は、ispG及びispHを過剰発現しない対照株と比較して、生産力価の4倍近い増加を生じさせることができるが(図2)、対照以上にHMBPP中間体を蓄積することはない。
【0024】
いくつかの実施形態では、組換えIspHの活性及び/または発現は、組換えIspGの活性及び/または発現よりも高い。IspG/IspH比がH酵素の方に有利であると、その比がIspG側に有利である株と比較して、MEP経路を通るフラックスが上昇する。IspG及びIspHが逐次作用して、MEcPPがHMBPPに、さらにIPPへと変換される。IspGが増加すると、HMBPPプール(株の増殖に対して阻害効果を示す可能性がある)の蓄積が大きくなり、対してIspHが増加すると、IPPに変換されるにつれてHMBPPプールは縮小する。したがって、IspGとIspHとのバランスが理想的であれば、HMBPPの形成と消費双方の速度を高め、HMBPPの蓄積を回避しながら、MEP経路から標的テルペノイドへのフラックスを著しく改善する。さらにIspGよりもIspHがわずかに有利であれば、生産性を25%、親株の力価のほぼ4倍まで向上させることができる。図2を参照のこと。
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、組換えIspHの発現が、組換えIspGの発現よりも高い。例えば、組換えIspH及びIspG酵素を、オペロン内でispGの前にispHが位置するオペロンから発現させることができる。オペロンの最初に位置する遺伝子は発現にわずかに有利であり、IspHとIspGのバランスをとる精密なメカニズムを提供する。いくつかの実施形態では、ispGが最初に配置されてもよく、場合により他の改変、例えば発現を低下させるRBSに対する変異、または酵素生産性のレベルで活性のバランスをとるためのIspG及びIspHの一方または両方への点変異などとともに配置することができる。いくつかの実施形態では、ispG及びispHは別々のオペロン(例えば、モノシストロン性)で発現され、異なる強度のプロモーターまたはRBSを使用して発現のバランスが保たれる。
【0026】
いくつかの実施形態では、IspH及びIspGは、(ispH遺伝子がispG遺伝子の前に位置する)オペロンから同時に発現し、かつ、そのオペロンは強力なプロモーターの制御下で発現される。オペロン内でispHがispGの前に位置する場合、プロモーター強度の増加は生産性に対して良い影響を与えるが、ispGがispHの前に位置する場合、プロモーター強度の増加は悪い影響を与える可能性がある。ファルネソール産物を代替物として生産に利用している図7を参照のこと。
【0027】
組換えIspG及びIspH酵素はプラスミドから発現させることも、またはそのコード遺伝子を染色体に組み込むこともでき、単一または複数のコピー、いくつかの実施形態では、例えば細胞あたり約2コピー、約5コピー、または約10コピー存在させることができる。(当技術分野において周知のように)異なるコピー数を有するプラスミドを使用することによって、または例えば、タンデム遺伝子複製により複数のコピーをゲノムに組み込むことによって、コピー数を制御することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、微生物株は、例えば、1つ以上のMEP酵素(例えばIspG及びIspHに加えて)の過剰発現によるものを含め、MEP経路を通るフラックスが多い。炭素源としてグルコースを用いると、MEP経路に流入する炭素の理論上の最大値は、E.coliの場合の約30%である。文献に報告されているMEP炭素の以前の収率は1%未満である。Zhou K,Zou R,Stephanopoulos G,Too H-P(2012)Metabolite Profiling Identified Methylerythritol Cyclodiphosphate Efflux as a Limiting Step in Microbial Isoprenoid Production.PLoS ONE 7(11):e47513.doi:10.1371/journal.pone.0047513を参照のこと。本明細書に記載の他の改変に加えて、MEP経路遺伝子の過剰発現及びバランスにより、MEP経路から下流の合成経路へと炭素を流入させ、テルペン及び/またはテルペノイド産物への炭素フラックスを向上させることができる。
【0029】
この宿主細胞(細菌株)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を産生するMEP経路を発現する。具体的には、グルコースが細胞内に入り、中間体としてのグリセルアルデヒド-3-リン酸(G3PまたはGAP)によりピルビン酸(PYR)に変換される。G3PとPYRが化合して1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DOXP)を生成し、これが2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸(MEP)に変換され、IPP及びDMAPPへの経路に渡される。DOX、ME、及びMEcPPは細胞外に見られる。不均衡経路を有する株では、MEP経路へのフラックスが多いほど、これらの産物が細胞外に多く見られる。図1を参照のこと。
【0030】
MEP(2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸)経路はまた、MEP/DOXP(2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸/1-デオキシ-D-キシルロース5-リン酸)経路または非メバロン酸経路またはメバロン酸非依存性経路とも呼ばれる。この経路は典型的には以下の酵素の作用を伴う:1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸シンターゼ(Dxs)、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr、またはIspC)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールシンターゼ(IspD)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)、2C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸シンターゼ(IspG)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸レダクターゼ(IspH)、及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(Idi)。MEP経路、ならびにMEP経路を構成する遺伝子及び酵素は、US8,512,988に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、MEP経路を構成する遺伝子として、dxs、dxr(またはispC)、ispD、ispE、ispF、ispG、ispH、idi、及びispAが挙げられる。MEP経路酵素のアミノ酸配列は添付の配列表に示されている。
【0031】
IPP及びDMAPP(MEP経路の産物)は、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、トリテルペノイド、及びジテルペノイドを含むテルペン及びテルペノイドの前駆体であり、これらは、香料、芳香剤、化粧品、及び食品の分野において特に有用である。テルペン及びテルペノイドの合成は、プレニルトランスフェラーゼ酵素(例えば、GPPS、FPPS、またはGGPPS)の作用により、IPP及びDMAPP前駆体をゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、またはゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)に変換することによって進行する。そのような酵素は公知であり、例えば、US8,927,241、WO2016/073740、及びWO2016/029153に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
様々な実施形態において、本発明はMEP炭素に実質的な改善をもたらす。本明細書で使用される場合、用語「MEP炭素」とは、MEP経路の投入物、中間体、代謝産物、または産物として存在する全炭素を指す。代謝産物には、分解産物などの誘導体、ならびにリン酸化及び脱リン酸化の産物が含まれる。MEP炭素には、テルペノイド合成経路を含む下流経路の産物及び中間体を含む。本開示の目的では、MEP炭素には、MEP経路の以下の投入物、中間体、及び代謝産物を含む:D-グリセルアルデヒド3-リン酸、ピルビン酸、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸、1-デオキシ-D-キシルロース、2-C-メチル-D-エリスリトール-5-リン酸、2-C-メチル-D-エリスリトール、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール、2-ホスホ-4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール、2C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸、イソペンテニル二リン酸、及びジメチルアリル二リン酸。MEP炭素には、細胞によって発現する下流のテルペノイド合成経路における中間体及び主要な代謝産物をさらに含む。同一性は使用される経路及び酵素に応じて異なるが、そのような産物には以下が含まれる:ゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)、またはゲラニルファルネシル二リン酸(FGPP);それらのモノリン酸化型であるゲラニルリン酸、ファルネシルリン酸、ゲラニルゲラニルリン酸、またはゲラニルファルネシルリン酸;それらのアルコール類であるゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、またはゲラニルファルネソール;ならびに下流のテルペン及びテルペノイド産物。MEP炭素には、FPPまたはFPPを使用する経路に由来する化合物がさらに含まれ、これには、スクアレン、ウンデカプレニル二リン酸(UPP)、ウンデカプレニルリン酸、オクタプレニル二リン酸(OPP)、4-ヒドロキシベンゾエート、3-オクタプレニル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-オクタプレニルフェノール、3-オクタプレニルベンゼン-1,2-ジオール、2-メトキシ-6-オクタプレニル-2-メトキシ-1,4-ベンゾキノール、6-メトキシ-3-メチルオクタプレニル-1,4-ベンゾキノール、3-デメチルユビキノール-8、ユビキノール-8、ユビキノン、2-カルボキシ-1,4-ナフトキノール、デメチルメナキノール-8、メナキノール-8、及びメナキノンを含む。MEP炭素には、イソプレノール、プレノール、イソペンテニルリン酸、及びジメチルアリルリン酸代謝産物をさらに含む。MEP炭素(上記中間体及び代謝産物)は、三連四重極(QQQ)質量検出器によるタンデム質量分析(MS/MS)などの質量分析(MS)によって定量することができる。例示的なシステムは、Agilent 6460 QQQである。あるいは、定量的飛行時間型(QTOF)、飛行時間型(TOF)、またはイオントラップ質量検出器を用いる。
【0033】
いくつかの実施形態では、微生物株は、dxs、ispD、ispF、及び/またはidi遺伝子の少なくとも1つの追加コピーを有する。これらは律速を可能にし、オペロンまたはモジュールからプラスミドで発現させることも、または細菌染色体に組み込むこともできる。いくつかの実施形態では、細菌株は、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させたdxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する。いくつかの実施形態では、細菌株は組換え遺伝子としてdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiを発現し、これらは場合により1、2、または3個の個々のオペロンまたはモジュールとして発現される。MEP経路の組換え遺伝子は、1つ以上のプラスミドから発現されるか、または染色体に組み込まれる。これらの実施形態では、この株は、野生型と比較して、MEP経路を通るフラックスを増加させる。
【0034】
野生型E.coli酵素Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、及びIdiのアミノ酸配列を、配列番号3~8として本明細書に示す。様々な実施形態において、構造的相同性または配列相同性、および同等の機能性を有する酵素を使用することができる(細菌ホモログを含む)。例えば、アミノ酸配列は、配列番号3~8のいずれか1つと50%以上の配列同一性、または配列番号3~8のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約98%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、アミノ酸配列(配列番号3~8)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。酵素に対する修飾は、相同性モデルの構築によって知ることができる。そのような変異体は、Yajima S,et al.,Structure of 1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate reductoisomerase in a quaternary complex with a magnesium ion,NADPH and the antimalarial drug fosmidomycin,Acta Cryst.F63,466-470(2007)を含め、当技術分野において利用可能な酵素構造によって知ることができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、MEPの補完は、IspGの基質であるMEcPPへのDOXP及びMEPプールの変換を増強する。図1を参照のこと。MEP経路におけるdxsからispFへのボトルネックを、細胞外で検出できるDOX、ME、及びMEcPPレベルに基づいて決定することができる。MEP経路酵素の補完及び発現のバランスをとることで、代謝産物のプロファイリングによって決定される、MEcPP中間体へと炭素フラックスを移動させることができる。いくつかの実施形態では、MEcPP代謝産物をIPP及びDMAPP前駆体へと流入させるため、Dxr、Dxs、IspD、IspE、及びIspFの発現または活性に対するIspG及びIspHの発現または活性のバランスが調整される。MEcPPは細胞外培地に移されることがあるため、MEcPPプールが多いとMEP炭素の損失を招く可能性がある。
【0036】
いくつかの実施形態では、組換えidi遺伝子の発現または活性は、テルペンまたはテルペノイドの生産量が増加するように調整される。Idi酵素は、IPPとDMAPPとの可逆的異性化を触媒する。あらゆる望ましいテルペノイド産物または望ましくないMEP副産物(例えばUPP)は1つのDMAPP及び様々な数のIPPを使用するため、2つの前駆体間の比率は株の生産性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、Idiの発現または活性を変えることによって、利用可能なIPP:DMAPPの比率を変更すると、MEP経路からの他の望ましくない産物と比較した、望ましいテルペノイドの生産量に影響を及ぼすことができる。例えば、図9に示すように、Idiの過剰発現はIspGHを過剰発現しない株(株1)では生産力価をわずかに増加させるが、過剰発現する2つの株(株2及び3)では力価を減少させる。このことは、IPPとDMAPPとのバランスをIdiによって制御し、下流経路の需要に応じて上方または下方に調整できることを示している。しかしながら、MEP経路の酵素発現のバランスが異なる株4(図9)は、Idiの補完により力価が2倍以上になる。酵素生産性を増加または減少させる点変異に加えて、プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の位置、またはリボソーム結合部位を変更することにより、様々な実施形態において、組換えidi遺伝子の発現を調整することができる。
【0037】
微生物株は、例えば培養中の光学密度(O.D.)、ピークO.D.、及び/または増殖速度によって決定される、株の増殖及び生存率に実質的な影響を与えることなく、IPP及びDMAPP前駆体フラックスの実質的な増加を含め、MEP炭素の実質的な増加をもたらす。例えば、MEP経路を通るフラックスの増加が、細菌細胞において厳密に制御されているにもかかわらず、微生物株はピークO.D.が約20%を超えて低下せず、またはいくつかの実施形態では、ピークO.D.が約15%を超えて、または約10%を超えて、または約5%を超えて低下しない。いくつかの実施形態では、株は、例えば増殖速度またはピークO.D.を測定することによって決定される、株の増殖または生存率に対して測定可能な影響を示さない。
【0038】
いくつかの実施形態では、細菌株は、MEP経路を介した電子の供給及び伝達、及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び伝達を増強する1つ以上の遺伝子改変を含む。いくつかの実施形態では、MEP経路を介した電子の供給及び伝達の増強は、ピルビン酸を酸化する及び/またはフェレドキシンの還元をもたらすオキシドレダクターゼを含む、1つ以上のオキシドレダクターゼ酵素の組換え発現によるものである。フェレドキシンはMEP経路に電子を供給し、(Fe-Sクラスター酵素である)IspG及びIspHの活性を助ける。図10を参照のこと。様々な実施形態において、微生物株は、フラボドキシン(fldA)、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン(fdx)、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現または補完を含む。
【0039】
例として、いくつかの実施形態では、オキシドレダクターゼはピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)である。いくつかの実施形態では、PFORはYdbKである。いくつかの実施形態では、YdbKはE.coli YdbK、またはそのオルソログ及び誘導体である。
【0040】
いくつかの実施形態では、株はYdbKの補完または過剰発現を含む。YdbKは、ピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ及び/またはピルビン酸シンターゼとして機能すると予測される。オキシドレダクターゼは、ピルビン酸をアセチル-CoAに酸化し、フェレドキシンを還元することで、MEP経路に電子を供給することができ、特にFe-Sクラスターを含んでいるIspG及びIspH酵素の大幅な上方制御を助けると考えられている。いくつかの実施形態では、組換えYdbKの発現は、IspG及びIspHの発現とバランスが保たれており、これは生産力価(または以下に記載のファルネソール力価)によって決定することができる。いくつかの実施形態では、YdbK遺伝子は弱強度または中強度のプロモーターの制御下にある。加えて、過剰な電子を保有または伝達する補因子を、YdbKの過剰発現に加えて発現させることができる。例えば、Akhtar,et al.,Metabolic Engineering,11(3):139-147(2009)を参照のこと。いくつかの実験では、YdbKは、Clostridium pasteurianum(配列番号10)及び/またはE.coli(Ec.ydhY)(配列番号34)由来のfdx(フェレドキシン)、またはそれと少なくとも80%または少なくとも90%の配列同一性を有する酵素により過剰発現する。この細菌株は、染色体に組み込むことも、またはプラスミドから発現させることもできる、組換えYdbK遺伝子を含み得る。E.coli YdbK酵素のアミノ酸配列は、本明細書に配列番号9として示す。様々な実施形態において、構造的相同性または配列相同性、および同等の機能性を有する酵素を使用することができる。例えば、アミノ酸配列は、配列番号9のいずれか1つと50%以上の配列同一性、または配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約97%の配列同一性、または少なくとも約98%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、アミノ酸配列(配列番号9)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられる。
【0041】
いくつかの実施形態では、株は、テルペノイド化合物を生産するための1つ以上のP450酵素を含む。YdbK及び場合により他のオキシドレダクターゼの過剰発現が、より高レベルのP450の酸化化学を助ける場合がある。
【0042】
細菌株がピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ(PFOR)を過剰発現するかまたはより高い活性を有する実施形態を含め、いくつかの実施形態では、この株は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)によるピルビン酸のアセチル-COAへの変換に減少を示す。いくつかの実施形態では、PDHによるピルビン酸のアセチル-COAへの変換が、PDHを欠失させるもしくは不活性化することによって、またはPDHの発現もしくは活性を低下させることによって低減される。いくつかの実施形態では、PDHが欠失している。あるいは、PDHの活性が、1つ以上のアミノ酸修飾によって低減される場合もある。PDH活性を低減するための例示的な変異は、aceEのG267C変異である。
【0043】
いくつかの実施形態では、PDHによるピルビン酸のアセチル-COAへの変換が、PDHのaceE-aceF-lpd複合体を改変することによって低減される。いくつかの実施形態では、aceE-aceF-lpd複合体は、aceE、aceF、lpd、またはそれらの組み合わせの欠失、不活性化、または発現もしくは活性の低減によって改変されている。例として、いくつかの実施形態では、aceEは(例えば、ノックアウトにより)欠失されている。あるいは、いくつかの実施形態では、aceE-aceF-lpd複合体は、aceE、aceF、lpd、またはそれらの組み合わせの1つ以上の変異によって改変されている。
【0044】
PDHによるピルビン酸のアセチル-COAへの変換を低減することによって、細菌株は、ピルビン酸をアセチル-COAに変換する際に、PFOR(例えば、YdbK)の方により依存することになる。図15を参照のこと。この依存性により、IspG及びIspHの活性が増強される。
【0045】
いくつかの実施形態では、IspG及びIspHへの電子の供給及び伝達は、例えばPFORなどの1つ以上のオキシドレダクターゼの過剰発現または補完によって改善される。例として、いくつかの実施形態では、PFOR、またはそのホモログは、YdbK(配列番号9)、Scy.pfor(Synechocystis sp.)(配列番号29)、Ki.pfor(Kluyvera intermedia)(配列番号30)、Da.pfor(Desulfovibrio africanus)(配列番号31)、Ns.pfor(Nostoc sp.)(配列番号32)、Ec.ydhV(E.Coli)(配列番号33)、Ga.pfor(Gilliamella apicola)(配列番号35)、及びSco.pfor(Synechococcus sp.)から選択される。いくつかの実施形態では、PFORはYdbKである。
【0046】
いくつかの実施形態では、PFORは配列番号29~35のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、PFORは、配列番号29~35のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、例えばYdbKなどのPFORの過剰発現または補完は、約400~550mV、またはいくつかの実施形態では約400~500mVの範囲内、もしくは約400~475mVの範囲内の酸化還元電位を有する電子伝達体の発現により生産力の向上をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、電子伝達体はフェロドキシン、フラボドキシン、またはNADPHである。例として、いくつかの実施形態では、電子伝達体はCv.fdx(Allochromatium vinosum)である。
【0048】
いくつかの実施形態では、細菌株は、1つ以上のfprホモログの過剰発現または補完を有する。例として、いくつかの実施形態では、fprホモログは、Ns.fpr(Nostoc sp.)(配列番号36)、Sco.fpr(Synechococcus sp.)(配列番号37)、及びEc.fpr(E.coli)(配列番号38)から選択される。
【0049】
いくつかの実施形態では、fprは配列番号36~38のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、fprは、配列番号36~38のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、YdbKまたはそのホモログもしくは誘導体を過剰発現する細菌株は、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログなどの非天然の電子受容体/供与体をさらに発現する。例として、fdxホモログは、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)(配列番号15)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)(配列番号16)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)(配列番号17)、Cv.fdx_C57A(合成)(配列番号18)、Ec.yfhL(E.Coli)(配列番号19)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)(配列番号20)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)(配列番号10)、Ec.fdx(E.Coli)(配列番号21)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)(配列番号22)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)(配列番号23)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)(配列番号24)から選択され得る。いくつかの実施形態では、fldAホモログは、Ec.fldA(E.coli)(配列番号27)、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)(配列番号26)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)(配列番号25)、及びBs.fldA(B.subtilis)(配列番号28)から選択される1つ以上を含む。非天然のfdxホモログ及び/またはfldAホモログの発現は、IspG及び/またはIspHへの電子供給の増加、IspG/H活性の増加、ならびにテルペノイド生産量の増加をもたらす。図19A~Cを参照のこと。
【0051】
いくつかの実施形態では、非天然のfdxホモログは、配列番号10及び15~24のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、非天然のfdxホモログは、配列番号10及び15~24のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、非天然のfldAホモログは、配列番号25~28のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、非天然のfldAホモログは、配列番号25~28のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、細菌株は、1つ以上のPFOR及び/またはfpr、ならびに場合により1つ以上のフラボドキシン(fldA)、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン(fdx)、及びフェレドキシンレダクターゼの過剰発現または補完を有する。例として、いくつかの実施形態では、細菌株は、Ec.ydhV(E.Coli)(配列番号33)及びEc.ydhY(E.Coli)(配列番号34);Ec.ydbK(E.Coli)(配列番号9)及びCp.fdx(Clostridium pasteurianum)(配列番号10);Ec.fpr(E.Coli)(配列番号38)及びEc.fdx(E.Coli)(配列番号21);またはEc.fpr(E.Coli)(配列番号38)及びEc.fldA(E.coli)(配列番号27)を含む。
【0054】
他の態様では、本発明は、MEP炭素の流入を増加させるため、PgpBまたはNudB酵素を過剰発現する細菌株を提供する。pgpB及びnudBなどの遺伝子を過剰発現させることによって、この代替「産物」の流入を導入することで、さらに多くのフラックスがMEP経路を通り流入し(非目標産物に至る)、潜在的毒性またはフィードバック阻害性の中間体(例えば、IPP、DMAPP、FPP)の蓄積が最小限に抑えられる。いくつかの実施形態では、PgpBまたはNudBの過剰発現は、下流テルペノイド経路が存在しないことで、「汎用シャーシ」、すなわち、どのような下流テルペノイドも転換することができ、商用生産向けに迅速に最適化できる株を形成する。
【0055】
より具体的には、炭素がMEP経路を通り流入し、細胞外にプールすることになる代替産物を生成することができる。PgpBはFPPをファルネソール(FOH)に脱リン酸化し、NudBはIPP及びDMAPPをイソプレノール(3-メチル-3-ブテン-1-オール)及びプレノール(3-メチル-2-ブテン-1-オール)にそれぞれ脱リン酸化する(図1を参照)。細胞外へのこれらの産物の輸送を増強すると、IPP、DMAPP、及びFPPの蓄積が防止され、HMBPPと同様に、MEP経路でのフィードバック及び抑制が可能になる。IPPは増殖を阻害し、フィードバックはDxsを阻害する。Cordoba,Salmi & Leon(2009)J.Exp.Bot.60,10,2933-2943を参照のこと。FPPは増殖を阻害し、フィードバックはispF-MEP複合体を阻害する。この複合体自体は、MEPが結合して、フィードフォワード方式でIspF活性を増強するときに形成される。Bitok & Meyers(2012)ACS Chem.Biol.2012,7,1702-1710。ファルネソール、イソプレノール、及びプレノールは細胞外に蓄積し、MEP経路の中間体と同様に、これを使用して、LC/MSまたはGC/MS定量法によって、MEP経路を通る炭素フラックスを追跡することができる。
【0056】
様々な実施形態において、構造的相同性または配列相同性、および同等の機能性を有する酵素を使用することができる。例えば、アミノ酸配列は、配列番号11(PgpB)または12(NudB)のいずれかと50%以上の配列同一性、または配列番号11または12のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、アミノ酸配列(配列番号11または12)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。
【0057】
したがって、pgpBまたはnudBの追加コピーを構成的に発現させることによって、MEP経路からの炭素フラックスを向上させ、増殖の遅い表現型を改善することができる。ispGとispHのバランスが保たれ、pgpBまたはnudBが過剰発現している場合、ファルネソール産物の増加または減少はMEcPPレベルと逆相関する(図7及び8)。
【0058】
しかしながら、PgpBまたはNudBが過度に発現すると、ファルネソールに至る総フラックスに悪影響を及ぼし、力価はより低く、倍率変化は小さくなる可能性がある。図6を参照のこと。したがって、様々な実施形態において、組換えPgpB及び/またはNudBの発現は、場合によりプロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内での位置、及び/またはリボソーム結合部位を変更することによって、テルペンまたはテルペノイド生産力価を高めるように調整される。いくつかの実施形態では、組換えpgpB及び/またはnudB遺伝子は、弱強度または中強度のプロモーターの制御下で発現される。組換えpgpBまたはnudBは、染色体に組み込むことも、またはプラスミドから発現させることもできる。
【0059】
いくつかの実施形態では、細菌株は、MEP炭素の流入を増加させるために1つ以上のシンターゼを過剰発現する。例として、いくつかの実施形態では、このシンターゼはArtemisia annuaファルネセンシンターゼ及びバレンセンシンターゼから選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、細菌株は、NADH及びNADPH補因子を含む、補因子の可用性または代謝回転を増加させるための1つ以上のさらなる改変を有し、それによってMEP炭素の増加をもたらす。図14を参照のこと。いくつかの実施形態では、細菌株は、例えば、Methanococcus maripaludis(配列番号14)または他の中温性生物由来のグリセルアルデヒド3-リン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(GAPOR)を発現する。GAPORの発現は、中央の炭素代謝においてフェレドキシンに電子を供給することになり、IspG、IspH、またはP450酵素に電子を供給することができる。いくつかの実施形態では、細菌株は、(例えば、野生型遺伝子を補完するかまたは内因性細菌遺伝子の発現を増強することによって)ydhVまたはydhYなどのydhオペロンの1つ以上の遺伝子を過剰発現する。YdhV、またはGAPOR様活性を有する他の細菌遺伝子は、補因子の可用性を増加させてMEP炭素をさらに増強することができる。他の遺伝子改変としては、gshAの下方制御、不活性化、もしくは欠失、またはCHAC1及び/またはCHAC2(例えば、ホモサピエンス由来)の発現が挙げられる。このような改変により、グルタチオンレベルを変化させることによって、NADPHの可用性を間接的に増加させることができる。
【0061】
本開示によれば様々な細菌種を改変することができるが、いくつかの実施形態では、細菌株は、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である。いくつかの実施形態では、細菌株は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である。いくつかの実施形態では、細菌株はE.coliである。
【0062】
本明細書に記載の実施形態に従って、様々な戦略を用いて、組換え遺伝子及び酵素の発現または活性を操作することができる。これには特に、例えば、異なる強度のプロモーターの改変または置換、リボソーム結合配列の改変、オペロンまたはモジュール内の遺伝子順序、遺伝子コドン使用頻度、RNAまたはタンパク質安定性、RNA二次構造、及び遺伝子コピー数の変更を含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、リボソーム結合部位配列を変更して、mRNAの翻訳を調整することができる。シャイン-ダルガノ(SD)配列は、細菌中のリボソーム結合部位であり、一般に、開始コドンAUGの約8塩基上流に位置する。このRNA配列は、リボソームをメッセンジャーRNA(mRNA)に動員するのを助け、リボソームを開始コドンに配置することによってタンパク質合成を開始させる。Escherichia coliの6塩基コンセンサス配列はAGGAGG(配列番号13)である。コンセンサス配列内の変異を、生産力価(いくつかの実施形態ではファルネソール力価を含む)の改善についてスクリーニングすることも、またはMEP炭素のメタボローム解析によってスクリーニングすることもできる。
【0064】
遺伝子の補完に野生型遺伝子を用いることができ、いくつかの実施形態では、遺伝子は野生型E.coli遺伝子である。あるいは、E.coli遺伝子に対してヌクレオチドまたはアミノ酸の相同性を示し得る種々のオルソログを使用することができる。例示的な遺伝子は、例えば、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、Pseudomonas spp.、Chloroboculum spp.、Synechocystis sp.、Burkholderia spp.、及びStevia rebaudianaのオルソログに由来し得る。
【0065】
ヌクレオチド及びアミノ酸配列の類似性、すなわち配列同一性の比率は、配列アラインメントによって決定することができる。そのようなアラインメントは、Karlin及びAltschulの数学的アルゴリズム(Karlin&Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877)、hmmalign(HMMERパッケージ、http://hmmer.wustl.edu/)、またはCLUSTALアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.&Gibson,T.J.(1994)Nucleic Acids Res.22,4673-80)などによる、技術分野で公知のいくつかのアルゴリズムを用いて実施することができる。配列同一性(配列一致)の程度は、例えばBLAST、BLAT、またはBlastZ(またはBlastX)を用いて計算することができる。同様のアルゴリズムは、Altschul et al(1990)J.Mol.Biol.215:403-410のBLASTN及びBLASTPに組み込まれている。BLASTポリヌクレオチド検索は、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて実施することができる。
【0066】
BLASTタンパク質検索は、BLASTPプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施することができる。比較目的としてギャップありアラインメントを得るために、Altschul et al(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されるようなGapped BLASTが利用される。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムの初期設定パラメーターを使用する。Shuffle-LAGAN(Brudno M.、Bioinformatics 2003b,19 Suppl 1:154-162)またはマルコフ確率場のような確立された相同性マッピング技術によって、配列一致解析を補完することができる。
【0067】
「保存的置換」は、例えば、関与するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、溶解度、疎水性、親水性、及び/または両親媒性といった性質の類似性に基づいて行うことができる。20種の天然型アミノ酸は、以下の6つの標準アミノ酸群に分類することができる:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;Asn、Gin;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を与える残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0068】
本明細書で使用される場合、「保存的置換」は、あるアミノ酸を上記の6つの標準アミノ酸群の同じ群内に列挙された別のアミノ酸に交換することであると定義される。例えば、AspをGluに交換しても、そのように修飾されたポリペプチドには1つの負電荷が保持される。加えて、グリシンとプロリンとは、α-ヘリックスを妨害するその能力に基づいて、互いに置換可能である。上記の6つの群内でのいくつかの好ましい保存的置換は、以下のサブグループ内での交換である:(i)Ala、Val、Leu、及びIle;(ii)Ser及びThr;(ii)Asn及びGin;(iv)Lys及びArg;ならびに(v)Tyr及びPhe。
【0069】
本明細書で使用される場合、「非保存的置換」は、あるアミノ酸を上記(1)~(6)の6つの標準アミノ酸群の異なる群内に列挙された別のアミノ酸に交換することであると定義される。
【0070】
本明細書に記載の酵素の修飾は、保存的変異及び/または非保存的変異を含み得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、酵素における特異的変異の構築に「合理的設計」を伴う。合理的設計とは、反応熱力学及び反応速度論、3次元構造、活性部位(複数可)、基質(複数可)、及び/または酵素と基質との間の相互作用など、酵素または関連酵素の知見を特異的変異の設計に取り入れることを指す。合理的設計手法に基づいて、酵素に変異を生じさせた後、親株レベルと比較したテルペンまたはテルペノイド生産量の増加について、またはMEP炭素の改善と一致する代謝産物プロファイルについてスクリーニングすることができる。いくつかの実施形態では、相同性モデリングに基づいて、変異を合理的に設計することができる。「相同性モデリング」とは、関連する相同タンパク質の3次元構造を利用して、タンパク質のアミノ酸配列から、その原子分解能モデルを構築する方法を指す。
【0072】
酵素にアミノ酸修飾を加えて、酵素または酵素複合体の活性を増加または減少させることができる。遺伝子変異は、当技術分野で公知の任意の遺伝子変異方法を用いて行うことができる。いくつかの実施形態では、遺伝子ノックアウトにより、遺伝子産物の全部または一部を排除する。遺伝子ノックアウトは、当技術分野で公知の任意のノックアウト方法を用いて行うことができる。
【0073】
遺伝子モジュールを含む遺伝子及び/またはタンパク質の発現の操作は、様々な方法によって達成することができる。例えば、遺伝子またはオペロンの発現を、異なる強度(例えば、強、中、または弱)を有する、誘導性または構成的プロモーターなどのプロモーターの選択によって制御することができる。プロモーターのいくつかの非限定的な例としては、Trc、T5、及びT7が挙げられる。加えて、遺伝子またはオペロンの発現を、細胞内の遺伝子またはオペロンのコピー数を操作することによって制御することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子またはオペロンの発現を、モジュール内の遺伝子の順序を操作することによって制御することができる。その場合、最初に転写された遺伝子が一般に、より高レベルで発現する。いくつかの実施形態では、遺伝子またはオペロンの発現は、1つ以上の遺伝子またはオペロンの染色体への組み込みによって制御される。
【0074】
いくつかの実施形態では、遺伝子発現のバランス調整には、高コピー数プラスミド、または単一コピー数、低コピー数、もしくは中コピー数プラスミドの選択を含む。さらに他の実施形態では、転写終結の段階を対象として、ステムループなどの構造の導入または排除によって遺伝子発現を制御することもできる。
【0075】
発現に必要なすべての要素が含まれた発現ベクターが市販されており、当業者に知られている。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989を参照のこと。細胞は、異種DNAの細胞への導入によって遺伝子操作される。異種DNAは、宿主細胞内での異種DNAの発現が可能になるように、転写要素の機能的制御下に置かれる。
【0076】
遺伝子の補完とは対照的に、いくつかの実施形態では内因性遺伝子が編集される。編集により、内因性プロモーター、リボソーム結合配列、または他の発現制御配列を変更することができ、及び/またはいくつかの実施形態では、遺伝子制御におけるトランス作用性因子及び/またはシス作用性因子が変更される。ゲノム編集は、CRISPR/Casゲノム編集技術、またはジンクフィンガーヌクレアーゼ及びTALENを使用する類似の技術を用いて行うことができる。いくつかの実施形態では、内因性遺伝子は相同組換えによって置換される。
【0077】
いくつかの実施形態では、遺伝子コピー数を制御することによって遺伝子を少なくとも部分的に過剰発現させる。異なるコピー数を有するプラスミドを用いて遺伝子コピー数を制御すると利便であるが、遺伝子重複及び染色体組み込みもまた用いることができる。例えば、遺伝的に安定なタンデム遺伝子複製のための方法が、US2011/0236927に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
ある特定の実施形態では、細菌細胞は、1つ以上のテルペンまたはテルペノイド化合物を産生する。イソプレノイドとも呼ばれるテルペノイドは、5炭素イソプレン単位(C5)に由来する有機化学物質である。テルペノイドは、テルペノイドに含まれるイソプレン単位の数に基づいて分類され、いくつかの非限定的な例として、ヘミテルペノイド(1イソプレン単位)、モノテルペノイド(2イソプレン単位)、セスキテルペノイド(3イソプレン単位)、ジテルペノイド(4イソプレン単位)、セスタテルペノイド(5イソプレン単位)、トリテルペノイド(6イソプレン単位)、テトラテルペノイド(8イソプレン単位)、及びこれより多数のイソプレン単位を有するポリテルペノイドが挙げられる。一実施形態では、細菌宿主細胞は、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、ジテルペノイド、セステルペノイド、またはトリテルペノイドから選択されるテルペノイドを産生する。テルペノイドとは、食品及び飲料産業はもとより、香料産業、化粧品産業、及びヘルスケア産業を含む多数の商業的用途を提供する多様なクラスの分子を表す。例として、テルペノイド化合物は、香料に(例えばパチョロール)、香味産業で(例えばヌートカトン)、甘味剤として(例えばステビオール)、着色剤として、または治療薬として(例えばタキソール)使用され、従来は多くが植物から抽出されている。それにもかかわらず、テルペノイド分子は本質的にppmレベルで存在するため、商業的用途に足る量を得るには大量の収穫を必要とする。
【0079】
この細菌細胞は一般に、IPP及びDMAPP前駆体からテルペノイドを生産する組換え下流経路を備えることになる。モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セスタテルペン(C25)、及びトリテルペン(C30)などのテルペンは、テルペン(テルペノイド)シンターゼと呼ばれる非常に大きな酵素群の作用によって、プレニル二リン酸基質である、ゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)、ゲラニルファルネシル二リン酸(FGPP)、及び2つのFPPからそれぞれ誘導される。これらの酵素は、反応産物が環化され、様々なモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、セスタテルペン、及びトリテルペン炭素骨格産物を形成しているため、テルペンシクラーゼと呼ばれる場合が多い。得られた炭素骨格の多くは、シトクロムP450酵素による後続の酸素化を受けて、大きなファミリーの誘導体となる。
【0080】
本発明に従って生産することができる例示的なテルペンまたはテルペノイド産物は、参照により本明細書に組み込まれるUS8,927,241に記載されており、これには、ファルネセン、アモファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンが挙げられる。E.coliの経路を組換えにより構築するための酵素は、参照により本明細書に組み込まれる、US8,927,241、WO2016/073740、及びWO2016/029153に記載されている。
【0081】
セスキテルペン骨格に作用して酸素化テルペノイドを産生する例示的なP450酵素は、参照により本明細書に組み込まれるWO2016/029153に記載されている。さらに、本明細書に記載の細菌株に使用されるP450レダクターゼタンパク質は、WO2016/029153及びWO2016/073740に記載されている。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「酸素化テルペノイド」とは、1つ以上の酸素化事象を有し、対応するアルコール、アルデヒド、カルボン酸、及び/またはケトンを生成するテルペン骨格を指す。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、アビエタジエン、アビエチン酸、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、セラストロール、セロプラストール、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ククルビタン、フォルスコリン、ガスカルジン酸(Gascardic Acid)、ゲラニオール、ハスレン、レボピマル酸、リモネン、ルペオール、メントール、メントン、モグロサイド、ヌートカトン、ヌートカトール、オフィオボリンA、パチョリ、ピペリトン、レバウジオシドD、レバウジオシドM、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド、タキサジエン、チモール、及びウルソール酸から選択される少なくとも1つのテルペノイドを産生する。
【0083】
いくつかの実施形態では、例えば、本明細書に組み込まれるWO2016/029153及びWO2016/073740に開示されるように、テルペノイドシンターゼ酵素を上方制御して、酵素の反応速度、安定性、産物プロファイル、及び/または温度耐性を増強する。
【0084】
別の実施形態では、細菌細胞はバレンセン及び/またはヌートカトンを産生する。そのような実施形態では、細菌細胞は、ファルネシル二リン酸シンターゼ、バレンセンシンターゼ、及びバレンセンオキシダーゼをさらに含む生合成経路を発現させることができる。ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)からファルネシル二リン酸を生成する。例示的なファルネシル二リン酸シンターゼは、Saccharomyces cerevisiaeのERG20(NCBIアクセッション番号P08524)及びE.coli ispAである。バレンセンシンターゼはセスキテルペン骨格を生成し、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2012/0107893、US2012/0246767、及びUS7,273,735に記載されている。バレンセン及び/またはヌートカトンを含むテルペノイド産物を生産するための遺伝子及び宿主細胞は、参照により本明細書に組み込まれるWO2016/029153に記載されている。
【0085】
一実施形態では、細菌細胞はステビオールまたはステビオールグリコシド(例えば、RebDまたはRebM)を産生する。ステビオールは、2つのP450酵素、カウレンオキシダーゼ(KO)、及びカウレン酸ヒドロキシラーゼ(KAH)の作用によってカウレンから生産される。ステビオールの生産後に、一連のグリコシル化反応を経て、様々なステビオールグリコシド産物を生産することができる。これは、in vitroまたはin vivoで行われ得る。ステビオール及びステビオールグリコシドを生産するための経路及び酵素は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2013/0171328、US2012/0107893、WO2012/075030、WO2014/122328に開示されている。WO2016/073740はさらに、RebMを生産するための酵素及び細菌宿主細胞を開示している。
【0086】
テルペンまたはテルペノイド化合物を生産するための他の生合成経路は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS8,927,241に開示されている。
【0087】
この細菌株は、バッチ培養、連続培養、または半連続培養で培養することができる。いくつかの実施形態では、細菌株は、細菌バイオマスが生成される第1段階と、それに続くテルペンまたはテルペノイド生産段階とを含む流加法を使用して培養される。流加培養とは、培養中に栄養分をバイオリアクターに供給するが、産物(複数可)は工程終了までバイオリアクター内に貯留する方法である。一般に、基本培地は初期の細胞培養を助け、フィード培地は栄養分の枯渇を防ぐために添加される。栄養分の添加を制御することは、培養の増殖速度に直接影響を及ぼし、オーバーフロー代謝及び副代謝産物の形成を回避するのに役立つ。
【0088】
細菌株を増殖させる(バイオマスを生産する)ための例示的なバッチ培地には、酵母抽出物を含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、C1、C2、C3、C4、C5、及び/またはC6炭素基質のような炭素基質を培養物に供給して、テルペンまたはテルペノイド産物を生産する。例示的実施形態では、炭素源はグルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、及び/またはグリセロールである。培養条件は、一般に、好気性、微好気性、及び嫌気性から選択される。
【0089】
いくつかの実施形態では、好気条件下または微好気条件下に培養物が維持される。例えば、流加法を使用する場合に、好気条件下でバイオマス生産段階を行った後、産物生産段階で酸素レベルを低下させることができる。例えば、約10~約20時間後に培養物を微好気条件に移してもよい。これに関連して、用語「微好気条件」とは、検出可能な溶存酸素量よりわずか下に培養物が維持されることを意味する。Partridge JD,et al.,Transition of Escherichia coli from Aerobic to Micro-aerobic Conditions Involves Fast and Slow Reacting Regulatory Components,J.Biol.Chem.282(15):11230-11237(2007)を参照のこと。
【0090】
生産段階には、窒素源及び炭素源の供給を含む。例えば、窒素源にはアンモニウム(例えば、水酸化アンモニウム)を含み得る。炭素源にはC1、C2、C3、C4、C5、及び/またはC6炭素源を含み得るが、いくつかの実施形態では、グルコース、スクロース、またはグリセロールなどである。所定量のバッチ培地が消費されたときに窒素及び炭素の供給を開始することができ、容易なスケーリングを可能にする方法である。いくつかの実施形態では、窒素供給速度は、1時間あたり約8Lから1時間あたり約20Lであるが、ある程度は産物、株、及び規模に依存することになる。
【0091】
様々な実施形態において、細菌宿主細胞は、22℃~37℃の温度で培養され得る。E.coliなどの細菌中での商業的生合成は、過剰発現酵素及び/または外来酵素が安定である温度によって制限される可能性があるが、組換え酵素(テルペノイドシンターゼを含む)は、より高温で培養物を維持することを可能にするように操作できるため、収率及び全体生産性をより高めることができる。いくつかの実施形態では、培養は、約22℃以上、約23℃以上、約24℃以上、約25℃以上、約26℃以上、約27℃以上、約28℃以上、約29℃以上、約30℃以上、約31℃以上、約32℃以上、約33℃以上、約34℃以上、約35℃以上、約36℃以上、または約37℃で実施される。いくつかの実施形態では、温度22~37℃、または温度25~37℃、または温度27~37℃、または温度30~37℃に培養物が維持される。
【0092】
いくつかの実施形態では、細菌株は商業規模で培養される。いくつかの実施形態では、培養物の規模は、少なくとも約100L、または少なくとも約200L、または少なくとも約500L、または少なくとも約1,000L、または少なくとも約10,000L、または少なくとも約100,000L、または少なくとも約500,000Lである。いくつかの実施形態では、培養物は約300L~約1,000,000Lである。
【0093】
様々な実施形態において、方法には、細胞培養物または細胞溶解物からテルペンまたはテルペノイド産物を回収することをさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも約100mg/L、少なくとも約150mg/L、または少なくとも約200mg/L、または少なくとも約500mg/L、または少なくとも約1g/L、または少なくとも約5g/L、または少なくとも約10g/L、または少なくとも約15g/Lのテルペンまたはテルペノイド産物が培養物から生産される。
【0094】
いくつかの実施形態では、インドールの生産量がテルペノイド生産量の代用マーカーとして使用され、及び/または培養物中のインドールの蓄積を制御して生産量を増加させる。例えば、様々な実施形態において、培養物中のインドールの蓄積は、約100mg/L未満、または約75mg/L未満、または約50mg/L未満、または約25mg/L未満、または約10mg/L未満に制御される。インドールの蓄積は、US8,927,241(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の多変数モジュラー手法を用いて酵素の発現及び活性のバランス(及び具体的には上流経路と下流経路のバランス)を調整することによって制御することができる。いくつかの実施形態では、インドールの蓄積は化学的手段によって制御される。
【0095】
テルペン及びテルペノイドの効率的生産についての他のマーカーとして、培養培地中のDOXまたはMEの蓄積が挙げられる。一般に、本明細書に記載の細菌株は、これらの化学種を大量に蓄積することがなく、培養物中の蓄積が、約5g/L未満、または約4g/L未満、または約3g/L未満、または約2g/L未満、または約1g/L未満、または約500mg/L未満、または約100mg/Lである。
【0096】
いくつかの実施形態では、MEcPPが培養培地中で優勢なMEP代謝産物であるが、その蓄積は細菌株に対する遺伝子改変によって制限されており、MEP炭素が下流のIPP及びDMAPP前駆体へと流入される。様々な実施形態において、培養物中に蓄積するMEcPPは、約30g/L未満、または約20g/L未満、または約2g/L未満、または約1g/L未満、または約500mg/L未満、または約100mg/L未満である。
【0097】
MEP経路遺伝子の操作、ならびに上流経路及び下流経路の操作によるテルペンまたはテルペノイド生産の最適化は、単純な線形過程または加法過程になるとは予測されない。むしろ、組み合わせ論によって、MEP経路の構成成分ならびに上流経路及び下流経路のバランスをとることにより最適化が達成される。培養物または細胞中でのインドールの蓄積(プレニル化インドールを含む)及びMEP代謝産物の蓄積(例えば、DOX、ME、MEcPP、HMBPP、ファルネソール、プレノール、及びイソプレノール)を、この過程の指標となる代用マーカーとして使用することができる。
【0098】
テルペンまたはテルペノイド産物は任意の好適な方法で回収することができる。一般に、回収には、培養物または細胞からの、産物を含む物質の分離と、それに続く抽出及び精製を含む。例えば、回収には、望ましい産物を有機相または疎水相に分配することを含み得る。あるいは、水相を回収して、または全細胞バイオマスを回収して、さらに処理することもできる。
【0099】
例えば、いくつかの実施形態では、産物は揮発性テルペンまたはテルペノイド産物である。そのような実施形態では、培養物から機械的に分離された有機相または疎水相から、テルペンまたはテルペノイド産物を回収することができる。その代わりに、またはそれに加えて、液相及び/または固相からテルペンまたはテルペノイド産物を採取する。いくつかの実施形態では、逐次抽出及び精製によって産物を精製する。例えば、超臨界流体クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを用いた分離及び回収によって産物を精製することができる。単蒸留、水蒸気蒸留、分別蒸留、薄膜蒸留、または連続蒸留を含む蒸留によって、産物を精製することができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、産物は不揮発性テルペンまたはテルペノイド産物であり、いくつかの実施形態では、これは培養培地から回収された細胞外産物である。あるいは、産物は採取された細胞材料から回収された細胞内産物である。産物が溶解性に乏しい場合、濾過によって、及び場合により溶媒抽出(例えば、エタノールによる抽出)によって回収することができる。その代わりに、またはそれに加えて、液体クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを用いた分離によって産物を回収する。いくつかの実施形態では、逐次抽出及び精製によって産物を回収する。さらに他の実施形態では、産物を溶液から晶出させる。
【0101】
望ましい産物の生産量は、例えばガスクロマトグラフィー(例えばGC-MS)によって決定及び/または定量することができる。産物の生産、その産物の回収及び/または分析は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2012/0246767に記載されるように実施することができる。例えば、いくつかの実施形態では、産生油を、ヘプタンまたはドデカンなどのアルカンのような有機溶媒を使用して水性反応媒から抽出した後、分別蒸留する。他の実施形態では、植物油などの疎水相を使用して水性反応媒から産生油を抽出した後、有機溶媒抽出及び分別蒸留を行う。画分のテルペン及びテルペノイド成分を、GC/MSによって定量的に測定した後、画分を混合して、所望する産物プロファイルを生成することができる。
【0102】
様々な実施形態において、回収されたテルペンまたはテルペノイドが、製品(例えば、消費者製品または工業製品)に組み込まれる。例えば、製品は、着香製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、回収される産物にはヌートカトンを含み、製品は飲料、チューインガム、キャンディー、または香味添加剤から選択される着香製品であるか、または製品は虫除け剤である。いくつかの実施形態では、酸素化産物はステビオールまたはステビオールグリコシド(例えば、RebM)であり、これは甘味料として提供されるか、または原材料、香料、飲料、または食品に組み込まれる。
【0103】
本発明はさらに、本明細書で生産されるテルペンまたはテルペノイドを組み込むことにより、食品、飲料、食感改良剤(例えば、デンプン、繊維、ガム、脂肪及び脂肪模倣物、ならびに乳化剤)、医薬品、タバコ製品、栄養補助食品、口腔衛生製品、及び化粧品などの製品を製造する方法を提供する。本発明の実施形態で生産されるような種の収率は高いため、大幅なコスト上の利点に加え、持続可能性をもたらすことができる。
【0104】
他の態様では、本発明は、IPP及びDMAPP前駆体の産物を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有する、E.coliなどの細菌細胞を提供する。様々な実施形態において、この細菌細胞は、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する。下流合成経路は一般に組換え経路であり、プレニルトランスフェラーゼ、1つ以上のテルペンシンターゼ、ならびに場合により1つ以上のP450酵素及びP450レダクターゼ酵素(例えば、それぞれ上記の通り)を含み得る。例えば、産物はジテルペンまたはジテルペノイドであり得るが、その場合、GGPPに対する組換えII型ジテルペンシンターゼ(DiTPS)と、それに続く組換えI型DiTPSの逐次作用を用いるか、またはその代わりに、単一の組換えシンターゼで両方の工程を実施する。
【0105】
さらに、産物の生合成に利用可能なMEP炭素を向上させるために、細菌株は、以下の遺伝子改変のうちの1つ以上を有する:
(a)IspG及びIspH酵素の過剰発現。IspG及びIspH酵素は、HMBPP中間体の蓄積を防止するように発現のバランスを調整されている。
(b)MEP経路を介した及び/またはテルペンもしくはテルペノイド産物への電子の供給及び/または伝達を増強するような酵素をコードする遺伝子の組換えまたは改変。これは、YdbK遺伝子の過剰発現の場合もあれば、非天然fdx及び/またはfldAホモログによる場合もある。
(c)aceEまたはaceE酵素複合体の不活性化もしくは欠失、または発現もしくは活性の低減。ならびに場合により
(d)テルペンまたはテルペノイド生産量を高めるように活性を調整する、idi遺伝子の組換えまたは改変。
【0106】
本明細書の他の箇所に開示されているように、組換え遺伝子の補完によって遺伝子を過剰発現させることも、または内因性遺伝子を改変して発現を変化させることもできる。
【0107】
細菌株は、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である。例えば、細菌株は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である。いくつかの実施形態では、細菌株はE.coliである。
【0108】
様々な実施形態において、培養時にHMBPPは、約10mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約8mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約5mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約4mg/gDCWを超えて蓄積せず、またはいくつかの実施形態では、約2mg/gDCWを超えて蓄積しない。いくつかの実施形態では、HMBPPは、約1mg/gDCWを超えて蓄積せず、または約0.5mg/gDCWを超えて、もしくは約0.2mg/gDCWを超えて、もしくは約0.1mg/gDCWを超えて蓄積しない。
【0109】
いくつかの実施形態では、細菌株は組換え遺伝子として(例えば、野生型MEP経路酵素を補完する)dxs、ispD、ispF、及びidiを発現し、これらは場合によりオペロンとして発現される。いくつかの実施形態では、細菌株は組換え遺伝子としてdxs、dxr、ispD、ispE、ispF、及びidiを発現し、これらは場合により1、2、または3個の個々のオペロンとして発現される。MEP経路の組換え遺伝子は、1つ以上のプラスミドから発現されるか、または染色体に組み込まれ、MEP炭素フラックスを改善するように発現のバランスが保たれる。具体的には、細菌細胞は、細胞外培地中で優勢なMEP代謝産物としてMEcPPを生産することができる。
【0110】
組換えIspG及びIspH遺伝子は、本明細書に記載するように、1つ以上の有益な変異を含む場合もあれば、または特性もしくは活性が改善されたIspGまたはispHオルソログである場合もある。さらに、様々な実施形態において、組換えIspHの発現は組換えIspGの発現よりも高く、これは、少なくとも部分的には、オペロン内でispHをispGの前に配置することによって達成できる場合がある。したがって、細菌株は、強力なプロモーターの制御下で同じオペロン(ispHが最初に位置する)からispH及びispGを発現することができる。組換えIspG及びIspH遺伝子はプラスミドから発現されるか、または染色体に組み込まれる。
【0111】
いくつかの実施形態では、細菌株は組換えidi遺伝子を発現するが、この遺伝子は、プロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内の位置、またはリボソーム結合部位を場合により変更することにより、産物を増加させるように調整されている。
【0112】
いくつかの実施形態では、細菌株は、染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される組換えYdbK遺伝子を発現する。細菌株は、Clostridium pasteurianumフェレドキシン(Cp.fdx)など、フラボドキシン、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼのうちの1つ以上の過剰発現をさらに含む。いくつかの実施形態では、株は、1つ以上の非天然のfdx及び/またはfldAホモログを発現する。例として、fdxホモログは、Hm.fdx1(Heliobacterium modesticaldum)、Pa.fdx(Pseudomonas aeruginosa)、Cv.fdx(Allochromatium vinosum)、Ca.fdx(Clostridium acetobutylicum)、Cp.fdx(Clostridium pasteurianum)、Ev2.fdx(Ectothiorhodospira shaposhnikovii)、Pp1.fdx(Pseudomonas putida)、及びPp2.fdx(Pseudomonas putida)から選択され得る。いくつかの実施形態では、fldAホモログは、Ec.fldA(E.coli)、Ac.fldA2(Azotobacter chroococcum)、Av.fldA2(Azotobacter vinelandii)、及びBs.fldA(B.subtilis)から選択される1つ以上を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、fdxホモログは、配列番号10及び15~24のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、非天然のfdxホモログは、配列番号10及び15~24のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、fldAホモログは、配列番号25~28のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、非天然のfldAホモログは、配列番号25~28のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0115】
いくつかの実施形態では、細菌株は、1つ以上のPFOR及び/またはfpr、ならびに場合により1つ以上のフラボドキシン(fldA)、フラボドキシンレダクターゼ、フェレドキシン(fdx)、及びフェレドキシンレダクターゼの過剰発現または補完を有する。例として、いくつかの実施形態では、細菌株は、Ec.ydhV(E.Coli)(配列番号33)及びEc.ydhY(E.Coli)(配列番号34);Ec.ydbK(E.Coli)(配列番号9)及びCp.fdx(Clostridium pasteurianum)(配列番号10);Ec.fpr(E.Coli)(配列番号38)及びEc.fdx(E.Coli)(配列番号21);またはEc.fpr(E.Coli)(配列番号38)及びEc.fldA(E.coli)(配列番号27)を含む。
【0116】
いくつかの実施形態では、細菌株は、1つ以上のPFORまたはそのホモログの過剰発現または補完を有する。例として、いくつかの実施形態では、PFORは、YdbK(配列番号9)、Scy.pfor(Synechocystis sp.)(配列番号29)、Ki.pfor(Kluyvera intermedia)(配列番号30)、Da.pfor(Desulfovibrio africanus)(配列番号31)、Ns.pfor(Nostoc sp.)(配列番号32)、Ec.ydhV(E.Coli)(配列番号33)、Ga.pfor(Gilliamella apicola)(配列番号35)、及びSco.pfor(Synechococcus sp.)から選択される。いくつかの実施形態では、PFORはYdbKである。
【0117】
いくつかの実施形態では、PFORは配列番号29~35のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、PFORは、配列番号29~35のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、例えばYdbKなどのPFORの過剰発現または補完は、約400~550mV、またはいくつかの実施形態では約400~500mVの範囲内、もしくは約400~475mVの範囲内の酸化還元電位を有する電子伝達体の発現により生産力の向上をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、電子伝達体はフェロドキシン、フラボドキシン、またはNADPHである。例として、いくつかの実施形態では、電子伝達体はCv.fdx(Allochromatium vinosum)である。
【0119】
いくつかの実施形態では、細菌株は、1つ以上のfprホモログの過剰発現または補完を有する。例として、いくつかの実施形態では、fprホモログは、Ns.fpr(Nostoc sp.)(配列番号36)、Sco.fpr(Synechococcus sp.)(配列番号37)、及びEc.fpr(E.coli)(配列番号38)から選択される。
【0120】
いくつかの実施形態では、fprは配列番号36~38のいずれか1つと少なくとも60%同一である配列を含む。例えば、fprは、配列番号36~38のいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%同一である配列を含み得る。
【0121】
いくつかの実施形態では、E.coliは、pgrR、mppA、ynaI、insH-4、ynaJ、uspE、fnr、ogt、abgT、abgB、abgA、abgR、mcaS、isrA、smrA、ydaM、ydaN、fnrS、C0343、dbpA、REP115、ttcA、intR、ydaQ、ydaC、ralA、ralR、recT、recE、racC、ydaE、及びkilRから選択される1つ以上の遺伝子の欠失を含む。
【0122】
組換えpgpB及び/またはnudBの発現は、場合によりプロモーター強度、遺伝子コピー数、オペロン内での位置、及び/またはリボソーム結合部位を変更することによって、生産力価を高めるように調整することができる。いくつかの実施形態では、組換えpgpB及び/またはnudBは、弱強度または中強度のプロモーターの制御下で発現される。組換えpgpBまたはnudBは、染色体に組み込まれるか、またはプラスミドから発現される。
【0123】
様々な実施形態において、細菌株は、アモファジエン、アルテミシン酸、アルテミシニン、ビサボロール、ビサボレン、アルファ-シネンサール、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ファルネセン、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンのうち少なくとも1つを含むテルペンまたはテルペノイド産物を生産する。
【0124】
本発明の態様及び実施形態を、以降の実施例を参照して以下でさらに説明する。
【実施例
【0125】
実施例1:IspG/IspH発現の調整
結論
MEP経路遺伝子の過剰発現及びバランス調整により、MEP経路に流入する炭素を増加させることができ、その炭素をDOXP及びMEPからMEcPPへと「下流」に移動させることができる。ispG及び/またはispHの発現を改変することで、MEcPPをHMBPPからIPPへとさらに変換することができる。
【0126】
実際に、ispG及びispH両方の発現が増加すると、テルペン及びテルペノイド産物の力価が著しく増加した。しかしながら、ispGのみまたはispHのみの発現を増加させるだけでは、力価は改善しなかった。ispGのみが過剰発現すると増殖が欠如し、IspHのみが過剰発現すると、HMBPPがIPPに変換されたが、力価に著しい影響を及ぼさなかった。ispGの過剰発現の影響は、HMBPPが細胞外では見られないが、細胞内では100%見られるという観察に関連する可能性がある。分子は細胞外へ輸送されていないと思われるため、これがフィードバック分子として作用し、MEP経路で急停止が生じる可能性がある。例えば、HMBPPのプールが一定の規模を超えると、経路が遮断される。あるいは、または加えて、HMBPPは一定レベルで毒性を示す場合があり、これはIspGの過剰発現が細胞増殖に与える影響についての観察と一致している。
【0127】
したがって、HMBPPの不均衡及び蓄積を防ぐには、ispGとispHとの間の活性のバランスが重要である。場合によっては少ないほど良好であり、すなわち、MEP遺伝子の過剰発現が最も強くなると、生産性が損なわれ始める可能性がある。
【0128】
要約すると、ispGまたはispHの一方または両方が野生型であるか、または適切にバランスのとれた構成で変異/操作されている場合、ispG及びispHがともに過剰発現すると、HMBPPの蓄積が毒性になるのを防ぎ、かつ、MEP経路からIPP、DMAPP、ならびに下流のテルペン及びテルペノイド産物へと炭素が流出される。
【0129】
実験結果の説明
図2は、IspHのみ、またはIspH及びIspG両方の発現が増加すると、MEP経路に流入する炭素量を増加させるように予め操作されている生産株におけるテルペノイド生産力価が向上するが、ispGのみでは生産性が低下することを示している。本実施例では、対照株は、MEP経路遺伝子がバランス調整された過剰発現を有し(ただし、ispGまたはispHの追加コピーは含まない)、MEP経路に流入する炭素量を増加させるE.coli株である。示されるように、IspGの過剰発現は生産力価を約15%減少させるが、同じ発現強度でのIspHの過剰発現は生産力価を17%増加させる。IspG及びIspH両方の過剰発現は生産力価を3倍以上にする。
【0130】
このデータはまた、ispG/ispH比がH酵素の方に有利であると、その比がispG側に有利である株と比較して、MEP経路を通るフラックスがさらに向上することを示す。ispG及びispHは、本明細書ではオペロン型で発現されるため、オペロンの2番目の遺伝子は、1番目の遺伝子よりも発現レベルが低くなる。したがって、ispH/ispGオペロンは、ispG/ispHよりも著しく高い生産力価を示した。
【0131】
ispG及びispHが逐次作用して、MEcPPがHMBPPに、さらにIPPへと変換される。ispGが増加すると、HMBPPプールの蓄積が大きくなり、対してispHが増加すると、IPPに変換されるにつれてHMBPPプールが縮小することになる。IspGのみでは生産性が低下するが、ispHのみでは生産性を増加するという事実は、HMBPPの蓄積がMEP経路に対して負のフィードバック効果を有することを強く示唆している。IspGとIspHの両方を過剰発現させると、HMBPPの形成と消費双方の速度を高め、MEP経路から標的テルペノイドへのフラックスを著しく改善する。しかしながら、このフラックスを増強した方式であっても、IspGとIspHのバランスは重要である。なぜなら、ispGよりもispHがわずかに有利であれば、生産性を25%、すなわちIspG及びIspHの野生型発現を有する親株の力価のほぼ4倍までさらに向上させることができるからである。
【0132】
MEP経路が増強された改変生産株におけるIspG及び/またはIspHの発現の増加は、MEP産物の分布パターンに影響を与える(図3)。産物の大部分はDOX、ME、及びMEcPP(図3、上段パネル)であり、続いてDOXP及びMEP(図3、中段パネル)、そしてHMBPP(図3、下段パネル)である。これらのパネルでは、培養物(ブロス+細胞)から細胞外及び細胞内の総代謝産物が抽出されているため、抽出物の量に比例して濃度記載されている。
【0133】
IspHが生産力価増加させ、IspGが生産力価を失う場合でも、IspGのみまたはIspHのみが増加すると、MEcPPの変換率が増加し、プールサイズは減少する(上段パネル)。しかしながら、2つの変異体間の著しい差は、HMBPP濃度(下段パネル)で明らかであり、IspGのみでは対照に対して2.5倍増加し、IspHのみでは20%減少する。HMBPPのこの蓄積により、MEP経路にフィードバックが生じ、フラックスの増強が停止する可能性がある。蓄積されるHMBPPが非常に低レベル(nM濃度)であれば、その100%が細胞内に見られる。
【0134】
オペロンでの順序を問わず、ispGとispHの発現がともに増加すると、残りのDOXを完全に変換できるようになり、MEプールの規模が減少する。さらに、IspHに有利であるIspG/IspH比は、IspGに有利である株と比較して、MEcPPの改善された変換(及び改善された生産力価)が可能である。
【0135】
細胞の内側または細胞の外側(「細胞内」と「細胞外」)に見られる、それぞれ個々のMEP代謝産物の比率を図4に示す。これらの値は絶対存在量を反映しておらず、図3に示すように、HMBPPが存在するよりも、合計に占めるDOXの方がはるかに多く存在する。DOXは100%細胞外にあるが、HMBPPは100%細胞内にある。図2及び図3から、本実施例でプロファイリングした株は、最上位の有効株である「対照+ispH/ispG」である。DOXP/DOX、MEP/ME、及びMEcPPは、ほぼすべて細胞外培地に蓄積するが、CDP-ME、CDP-MEP、HMBPP、IPP/DMAPP、及びFPPは100%細胞内で観察される。細胞内に見られる各代謝産物の比率をグラフの上部に示す。
【0136】
未補正のispGの上方制御は、600nmでのUV吸光度によって決定される、細胞増殖の著しい低下を引き起こす(図5)。ispH、またはispHとispGの両方を補正した株では、最終細胞密度に対して、ある程度の変化が観察されるが、その変動は大きくはない。
【0137】
HMBPPの蓄積を決定する際、HMBPPを乾燥細胞重量(DCW)換算で表すことができる。例えば、ispGHの発現バランスのとれた株を使用した場合:
[HMBPP]=0.35mLのサンプル培養物中0.42ug/mL
[OD600]=12.69
推定値:1 OD600=0.4g-DCW/L=0.4mg-DCW/mL
HMBPP収率=[(0.42ug/mL)*(0.35mL)]/[(12.69*0.4mg-DCW/mL)*0.35mL)]
【0138】
この例では、HMBPP=0.0827ug/mgDCWまたは0.0827mg/gDCWである。
【0139】
実施例2:pgpB及びnudBの過剰発現
結論
pgpB及びnudBなどの遺伝子を過剰発現させることによって、代替「産物」の流入を導入することで、さらに多くのフラックスがMEP経路を通り流入することができる(非目標産物に至る)か、または様々な下流テルペノイド経路と置き換えて、「汎用シャーシ」(すなわち、どのような下流テルペノイドも転換することができ、商用生産向けに迅速に最適化できる株)を操作する手段をも生み出すことができる。
【0140】
炭素はMEP経路を通り流入し、細胞外にプールすることになる代替産物を生成することができる。PgpBはFPPをファルネソール(FOH)に脱リン酸化し、nudBはIPP及びDMAPPをイソプレノール(3-メチル-3-ブテン-1-オール)及びプレノール(3-メチル-2-ブテン-1-オール)にそれぞれ脱リン酸化する。細胞外へのこれらの産物の輸送を増強すると、IPP、DMAPP、及びFPPの蓄積が防止され、HMBPPと同様に、MEP経路でのフィードバック及び抑制が可能になる。IPPは増殖を阻害し、フィードバックはDxsを阻害する。Cordoba,Salmi & Leon(2009)J.Exp.Bot.60,10,2933-2943を参照のこと。FPPフィードバックはIspF-MEP複合体を阻害する。この複合体自体は、MEPが結合して、フィードフォワード方式でIspF活性を増強するときに形成される。Bitok&Meyers(2012)ACS Chem.Biol.2012,7,1702-1710。これらの産物は細胞外に蓄積し、MEP経路の中間体と同様に、これを使用して、LC/MS代謝定量法によって、MEP経路を通るCフラックスを追跡することができる。
【0141】
pgpBの追加コピーを構成的に発現させることによって、MEP遺伝子は過剰発現しているが、その炭素をすべて産物まで流入させるための追加の下流経路はない株において、MEP経路からの炭素フラックスを向上させ、増殖の遅い表現型を改善することができる。実際には、下流への「流入」が、FPPからファルネソールへの変換となり、ファルネソールは細胞外に排出される。同様に、nudBの構成的発現により、IPP及びDMAPPプールの細胞外産物イソプレノール及びプレノールへの再誘導は増加するはずである。
【0142】
さらに、過剰発現されたpgpBまたはnudBの存在下でMEP経路遺伝子の発現レベルを調節することで、この経路を通るMEPフラックス及び炭素分配に著しい影響を及ぼすことができる。ファルネソール、プレノール、またはイソプレノール産物の増加または減少は、MEcPPのレベルと逆相関する可能性がある。
【0143】
実験結果の説明
MEP経路を通るフラックスを増強するように操作されているが、下流のテルペノイド産物経路は導入されていない株において、PgpBの過剰発現はファルネソール力価を3倍にすることができる(図6)。対照株は、様々なレベルの構成的発現下で、dxs、dxr、ispD、ispF、ispE、ispG、ispH、及びidiの追加コピーを有し、また過剰発現したYdbKを有している(実施例4)。この対照は、おそらくFPPの過剰な蓄積で生じる「流出」により、経路でフィードバックが生じ、野生型と比較して著しく増殖が遅くなるため、中程度の量のファルネソールを蓄積する。この株でPgpBが過剰発現されると、過剰なFPPがより効率的にファルネソールに変換され(フィードバック制御を阻止する)、フラックスが効果的にMEP経路を通り流入する。
【0144】
しかしながら、PgpBの過度な発現(「+++」条件)は、ファルネソールに至る総フラックスに悪影響を及ぼすと思われ、平均的に力価の低下及び倍率変化の減少が観察された。この結果のいくつかの理由として以下の可能性が考えられる:(1)PgpBからの流入が強すぎて、FPPの需要、特に必要な競合産物からの需要にMEP経路の能力が追いつくことが困難になる;または(2)PgpBは、必須の膜リン脂質を含め、複数の標的をin vivoで脱リン酸化することが知られているため、PgpBの発現レベルの高さが、細胞の健常性に意図しない悪影響を及ぼした可能性がある。
【0145】
ファルネソールを産生する株において、IspG’及び/またはIspHの発現を増加させる及び調整することで、生産力価を改善することができる(図7)。本実施例では、IspG’酵素は、野生型よりも高活性を有する操作型である。対照株は、dxs、dxr、ispD、ispF、ispE、ispG、ispH、及びidiの追加コピー、ならびにYdbK及びpgpBの追加コピーを有する。漸増するプロモーター強度で(+、++、+++)、ispH及び/またはispG’の追加コピーを株に組み込む。
【0146】
IspHが過剰発現している場合(図7、パネルA)、生産力価に著しい変化は観察されない。IspHの量が増加すると、HMBPPのIPPへの変換は改善に向かうが、IspG’が追加されていないと、追加のHMBPPが供給されない。IspG活性が介在するMEcPPプールは、経路内で律速段階になる。しかしながら、IspHに加えてIspG’が過剰発現している場合(図7、パネルB)、ファルネソールの生産力価は大幅に増加することがわかっている。この状況では、IspG’の追加コピーによってHMBPPの追加が可能になり、IspHレベルの増加によって急速にIPPに変換され、HMBPPが蓄積して経路でフィードバックを生じさせることを阻止する。
【0147】
IspGとIspHとのバランスが重要であることは明らかである。このデータは、IspG/Hがオペロン型で発現され、それによってオペロンの2番目の遺伝子が1番目の遺伝子よりも発現レベルが低くなることを示している。オペロン内でispG’とispHの遺伝子の順序が入れ替わっている場合(すなわち、ispH+ispG’とispG’+ispH)、それによってIspG’/IspHの発現比が変化し、データに相反する傾向が生じることがわかっている。比率がIspG’よりもIspHに有利である場合(B)、プロモーター強度が増加するにつれて、徐々に生産力価が増加する。しかしながら、比率がIspHよりもIspG’に有利である場合(C)、この不均衡な経路によって生成され得る過剰なHMBPPが、プロモーター強度が増加するにつれて徐々に蓄積し、その結果、生産量の向上が次第に減少し、増殖が遅くなる。
【0148】
ファルネソールの生産力価の増加は、MEcPPプールサイズの減少を伴うことがあるが、それはIspGとIspHの比率次第である(図8)。図7で明らかなように、ファルネソール産生株において、IspG’及びIspHの追加コピーは、ファルネソールの生産力価を最大2.5倍まで改善することができる。IspGを追加せず、IspHのみが上方制御されている場合(図8、パネルA)、力価は著しく変化せず、またMEcPPも変化しなかった。MEcPPはわずかに減少するが、これはおそらく、過剰なIspH酵素によってHMBPPがIPPにより効率的に変換されるため、MEcPPが下流に流入することによる。IspG’よりも比較的多くのIspHが発現している場合(図8、パネルB)、プロモーター強度が増加するにつれて、ファルネソールの生産力価が増加した。MEcPPは逆に減少するが、これは目的の最終産物にフラックスが分配するように経路のバランスをとることで、MEcPPが消費されるためである。
【0149】
しかしながら、IspHよりもIspG’に有利である非至適な比率では、MEcPPのHMBPPを経たIPPへの変換を改善し、ファルネソールの生産力価を改善できるものの、E.coli株で許容できないほど不均衡が過度になると、生産量の向上がなくなり、それと同時にさらに多くのMEcPPが蓄積し、MEP経路の中間体炭素プールに捕捉される。
【0150】
実施例3:Idi発現の調整
結論
Idi酵素は、IPPとDMAPPとの可逆的異性化を触媒する。あらゆる望ましいテルペノイド産物または望ましくないMEP副産物(例えばUPP)は1つのDMAPP及び様々な数のIPPを使用するため、2つの前駆体間の比率は株の生産性に重要な影響を及ぼす可能性がある。例えば、1 FPP=1 DMAPP+2 IPP、対して1 UPP=1 FPP+8 IPP(または1 DMAPP+10 IPP)である。したがって、FPPを生産するFPPSの至適なIPP:DMAPP比は2:1であるが、UPPでは10:1である。したがって、idiの発現を変えることによって、IPP:DMAPPの比率を変更すると、MEP経路からの他の望ましくない産物と比較した、望ましいテルペノイドの生産量に影響を及ぼすことになる。
【0151】
実験結果の説明
産物AまたはBを生産する異なる株にIdiを補完した。グルコースを炭素源として用いたカスタム培地を入れた96丸型ウェル培養プレート中で、37℃、280RPMで48時間、細胞を培養した。IPTG誘導性プロモーター下で、pBACからIdiを発現させた。株1は、dxs、dxr、ispD、ispF、ispE、idi、FPPS、及びYdbKを予め過剰発現しているが、株2及び3はそれに加えて、ispH及び変異型のIspGをさらに過剰発現している。逆に、株4は同じ酵素を過剰発現しているが、発現方式は大きく異なっている。
【0152】
Idiの過剰発現はispGHを過剰発現しない株では生産力価を増加させるが、過剰発現する2つの株では力価を減少させる。このことは、IPPとDMAPPとのバランスをIdiによって制御し、下流経路の需要に応じて上方または下方に調整できることを示している(図9)。しかしながら、株4は、idiの補完により力価が2倍を超える。この株では同じ遺伝子が過剰発現しているが、MEP遺伝子の発現のバランスは大きく異なっている。
【0153】
実施例4:YdbKの過剰発現
結論
YdbKは、ピルビン酸:フラボドキシンオキシドレダクターゼ及び/またはピルビン酸シンターゼとして機能すると予測される。オキシドレダクターゼは、ピルビン酸をアセチル-CoAに酸化し、フェレドキシンを還元することで、MEP経路に電子を供給することができ、特にFe-Sクラスターを含んでいるIspG及びIspH酵素の大幅な上方制御を助けると考えられている。YdbKの過剰発現は、水素(H)の生産については示されているが(Akhtar MK&Jones PR(2014),Cofactor engineering for enhancing the flux of metabolic pathways.”Frontiers in Bioeng.and Biotech.)、テルペノイドの生産については示されていない。
【0154】
これらの株ではテルペン産物Aの生産力価が2倍になった。Fe-Sクラスターは追加のYdbK補因子によってより良好に促進され、その活性が向上する。生産力価が上昇するほか、MEP代謝産物をプロファイリングしたとき、対照株がispH-ispG’オペロンの別のコピーをさらに付加されたときに観察されるのと同様に、MEcPPの変換が増加することがわかっている。
【0155】
他方で、WTと比較してIspG/Hを過剰発現していない産物B株がYdbKで補完されている場合、産物Bの力価は低下した。この株でIspG/Hが増加した場合、YdbKの補完は産物Bの力価を改善した。このことは、YdbKの発現をIspG/Hの発現と注意深くバランスを調整しなければならない(さらには、H/G比を注意深くバランス調整する必要がある)ことを示唆している。
【0156】
加えて、過剰な電子を保有または伝達する補因子を、YdbKの過剰発現の上位に追加し、力価をさらに改善できるかどうかを確認した。いくつかの実験では、YdbK+Clostridium pasteurianum由来のfdx(フェレドキシン)は生産性をある程度改善した。
【0157】
実験結果の説明
E.coliのYdbK遺伝子の追加コピーは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターの制御下で、染色体に組み込まれるか、またはプラスミド(具体的には、シングルコピーpBAC、またはマルチコピープラスミド)で発現される。さらに、天然または非天然の組換え電子受容体/供与体のコピーをYdbKとともに過剰発現させ、生合成に供給される追加電子を最も効率的に活用及び利用することもできる。
【0158】
プロモーター強度を漸増させながらYdbKの追加コピーを発現させると、テルペノイドの生産量を向上させることができる。本実施例では、対照株はテルペノイド産物Aを生産し、定義された構成的発現下でMEP経路の遺伝子dxs、dxr、ispD、ispE、ispF、ispG’、ispH、及びidiの追加コピーを有する。
【0159】
この株に、オペロン形式でispH及びispG’の追加コピーを(H/G’比がHに有利になるように)付加すると、産物Aの力価はさらに増加するが、この段階は限定的であることを示している(図10、パネルA)。これらのFe-Sクラスターが含まれている遺伝子を増加させると、明らかにMEcPPの変換が増加し、培養物で観察される濃度が低下する(図10、パネルC)。
【0160】
対照株にYdbKを補うと、上方制御に段階的に応答することがわかっている。その場合、発現が増加するとテルペノイドの生産はある時点まで増加するが、強度の発現に移行すると、+++YdbK株では産物Aの50%の減少をもたらすとみられる(図10、パネルB)。これらの株についてMEcPPの同様の変換が起こることがわかっており(図10、パネルD)、このことはYdbKがIspG及び/またはIspH活性の増強を促進することを示唆している。特筆すべきは、++株対+++株のMEP代謝産物プロファイルは著しく変化しないが、生産力価は約3分の1に減少していることである。これは、ある種のフィードバック機構が活性化されたことを示唆している。IspG及びIspHを用いた研究の観察を考慮すると、このフィードバックはHMBPPの蓄積による可能性がある。
【0161】
YdbK発現の増加によるテルペノイドの生産力価の向上には、十分なIspG及び/またはIspHが発現している必要がある(図11)。本実施例では、対照Aは、MEP経路のdxs、ispD、ispF、及びidiの追加コピー、ならびにrhyBの欠失及びiscオペロンの変更を有する。対照Bは、対照Aに加え、オペロン構成にispG’及びispHの追加コピーが組み込まれ(G’が最初であることによりH/G比がGに有利である)、対する対照Cは、対照Aに加え、オペロン構成にispH及びispG’の追加コピーが組み込まれている(Hが最初であることによりH/G比がHに有利である)。
【0162】
パネルAでは、IspG/Hの上方制御がない場合、YdbKを補うと、テルペノイド産物Bの力価が約25%減少することがわかる。しかしながら、ispG’-ispHまたはispH-ispG’のコピーが追加された株にYdbKを補うと、テルペノイド力価に18%及び27%の向上が観察された。明らかに、YdbKの利点を見出すには、WT MEP経路と比較してIspG及びIspHが過剰発現されていなければならない。
【0163】
さらに、このデータでもまた、IspGとIspHとの間の発現バランスがMEP経路のフラックス及びテルペノイド生産性にとっていかに重要であり得るかが特に注目される。対照BとCを比較すると、同じプロモーター強度で同じ酵素が上方制御されており、その差はオペロン内の遺伝子の順序による。プロモーターに最も近い遺伝子は、オペロン内の後続の遺伝子よりも強く発現されるため、H/G酵素比は、対照BではIspGに、対照CではIspHに有利になる。このことから、Hが有利な比率は、Gが有利な比率よりも力価が向上することがわかる。さらに、YdbKによって可能となる向上は、Hに有利である株において増強される。したがって、IspHとIspGとの間のバランスは、株の生産性にとって非常に重要である。
【0164】
YdbKに加えてfdxを発現させると、テルペノイド力価をさらに向上させることができる(図12)。本実施例では、対照株はテルペノイド産物Aを生産し、定義された構成的発現下でMEP経路の遺伝子dxs、dxr、ispD、ispE、ispF、ispG’、ispH、及びidiの追加コピーを有する。
【0165】
図10に示すように、構成的発現下でYdbKの追加コピーを発現させると、産物Aの生産が増加する。3種の追加電子受容体/供与体、fldA、fldA及びerpA(それぞれE.coli由来)、またはClostridium pasteurianum由来のfdx(IspG及びIspHに見られるように、2Fe-2Sクラスターではなく4Fe-4Sクラスターを促進できる)による補完を試みた。
【0166】
YdbKに加えて、fldA(フラボドキシン)、またはfldA及びerpA(必須呼吸タンパク質A)の別のコピーを追加しても、産物Aの力価はさらに向上しなかったが、Clostridium pasteurianum fdxを追加すると産物Aの力価が向上した。興味深いことに、YdbKの追加は、下流のME/MEPへのDOX/DOXPの完全な変換をもたらすが、fldAをさらに追加することで、いくらかの炭素がMEP経路の上流にDOX/DOXPとしてプールされる。この混合物にerpAを追加すると、プロファイルが元に戻る。しかしながら、さらに強化されたydbK+fdx株のMEP代謝産物プロファイルは、ydbK+fldAと最も類似しており、至適なMEPフラックスが、MEP経路の遺伝子発現のバランス調整、ならびに重要な電子供与体/受容体の発現に起因することを示唆している。
【0167】
実施例5:ピルビン酸からアセチル-COAへのPDH変換の減少は、ピルビン酸からアセチル-COAへのYdbKの変換を増強する。
YdbKは、fldAのFMNヒドロキノン/セミキノンの対よりも酸化還元電位が低い(表4で絶対数が大きい)ため、ピルビン酸のアセチル-COAへの変換に対するYdbKへの依存度を増加させると、操作された微生物株によるテルペン及び/またはテルペノイド産物の生産を向上させることができる。そのため、YdbKは、IspG及びIspHによる(fpr/NADPHではない)好ましい電子源である。
【0168】
酵素(IspG及びIspHなど)の鉄硫黄クラスター(例えばFe)は、広範囲の還元電位を利用する(例えば-200~-800mV)。Blachly,et al.,Inorganic Chemistry,54(13):6439-6461(2015)。
【0169】
電子伝達体YdbK及びfprを荷電する還元電位は、それぞれ表2及び3に開示されており、IspG及びIspHに電子伝達体(例えばYdbK及びfpr)を放出する還元電位は表4に開示されている。McIver,et al.,FEBS J,257(3):577-85(1998)及びLupton,et al.,J Bacteriol,159:843-9(1984)を参照のこと。
【表2】
【表3】
【表4】
【0170】
IspGの至適活性は、様々な酸化還元色素を使用することによってin vitroで試験した。Xiao,et al.,Biochemistry,48(44):10483-10485(2009)。IspGの至適活性は、外部から供給されたメチルビオロゲン(ε=446mV)を用いて試験した。供給されたメチルビオロゲン(ε=446mV)を用いたIspGの活性は、in vitroのfpr-fldA系よりも20倍大きかった。
【0171】
IspHの活性は、メチルビオロゲン(ε=446mV)では50倍大きく、外部から供給された亜ジチオン酸塩-MDQ(ε=490mV)では100倍大きかった。Xiao,et al.,Journal of the American Chemical Society,131(29):9931-9933(2009)。
【0172】
YdbKによる接触は可能であるがfprによる接触は不可能であるfldAセミキノン/ヒドロキノン対が、IspG及びIspHにとって好ましいin vivo還元系であると仮定される。
【0173】
PFOR(例えば、YdbK)を介在したピルビン酸からアセチル-COAへの変換に対する微生物株の依存度を高めるために、PDHを介在したピルビン酸からアセチル-COAへの変換を減少させた。図15を参照のこと。
【0174】
E.coliでは、ピルビン酸(PYR)をアセチル-CoA(AcCoA)に変換する3つの反応物が知られており、それはpflB、PDH、及びPFORまたはYdbKである。
【0175】
3つの酵素のうち、PDHが優位であり、これは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(aceE)の24サブユニット、リポ酸アセチルトランスフェラーゼ(aceF)の24サブユニット、及びジヒドロリポ酸デヒドロゲナーゼ(lpd)の12サブユニットからなる多酵素複合体(aceE-aceF-lpd)である。PDH系の正味の反応は、NAD+の還元に加えて、中央代謝系の主要反応である、ピルビン酸からAcCoA及びCOへの変換である。これは、ピルビン酸を生成する解糖系Iを、AcCoAが流入するTCAサイクルと連結しているためである。好気性増殖の間、PDHはAcCoAの必須供給源であり、AcCoAをTCAサイクルに供給し、それによってサイクルが形成する前駆体代謝産物に対する細胞の要求を満たす。PDH複合体に欠損のある変異株は、この要求を満たすには外因性の酢酸源を必要とする。
【0176】
pflBは嫌気条件下でのみ活性である。したがって、これは、微好気条件及び好気条件下でPYRをAcCoAに変換する際の主要反応物ではない。
【0177】
少なくともYdbKの過剰発現を有する微生物株では、YdbKを使用してAcCoAを供給することができるため、PDH(例えば、実施例4を参照)はもはや必須ではない。PYRからAcCoAへの段階が主にYdbKによって触媒され、それによってIspG及びIspHに電子を供給することを確実にするために、PDH活性を遺伝子ノックアウトまたはノックダウン(例えば変異による)によって低減または排除した。
【0178】
aceEのノックアウトによるPDHの排除
4種類のテルペノイド産物(産物B、産物C、産物D、及び産物Eと表記)を生産するように操作された4種類のE.coli株を、aceEをノックアウト(ΔaceE)するようにさらに操作し、PDH活性を除去した。対照株は同じであったが、aceEをノックアウトしなかった。
【0179】
データによると、aceEの欠失により、4つのテルペノイド産物それぞれの力価が、対照と比較して増加を示している。図16A~Dを参照のこと。倍率変化の向上にみられる差異は、下流経路に使用される異なるテルペノイドシンターゼ酵素の生化学的特徴(例えば、Km及びkcat)に大きく起因し得る。具体的には、産物Dのシンターゼ(最も触媒効率が高い)と比較してシンターゼ活性が低い酵素は、倍率変化の向上がわずかに少なかった。これはおそらく、FPP基質の蓄積に起因し、FPP基質が蓄積すると、MEP経路の上流成分に対する細胞毒性またはフィードバック制御のいずれかをもたらす可能性があるためである。
【0180】
データはまた、対照と比較した、細胞外ブロス中のMEcPP濃度の減少を示しており(図16E)、これは、炭素フラックスがIspG/H段階を経て産物に流出されたことを立証している。図1を参照のこと。
【0181】
変異aceEによるPDHのノックダウン
それぞれが3種類のテルペノイド産物(産物B、産物C、及び産物Dと記載)を生産するように操作された3種類のE.coli株を、変異型aceE(G267C;aceE mut)を発現するようにさらに操作し、PDH活性を低下させた。対照株は同じであったが、変異型aceEを有していなかった。
【0182】
aceEノックアウトの結果と同様に、データによると、変異型aceEを発現する微生物株では、3つのテルペノイド産物それぞれの力価が、対照と比較して増加を示している。図17A~Cを参照のこと。
【0183】
データはまた、対照と比較した、細胞外ブロス中のMEcPP濃度の減少を示しており(図17D)、これは、炭素フラックスがIspG/H段階を経て産物に流出されたことを立証している。図1を参照のこと。
【0184】
実施例6:非天然の電子受容体/供与体は、YdbK依存性イソプレノイド生産量を増加させる
E.coliでYdbKが過剰発現している場合、天然のフェレドキシン(fdx)またはフラボドキシン(fldA)はIspG及びIspHに電子を輸送した(PYR/YdbK/fldAまたはfdx)。産物Bを生産し、YdbKを過剰発現するように操作されたE.coliを、以下の表5のfdxホモログまたは表6のfldAホモログのうちの1つを過剰発現するようにさらに操作した。最初の7つのfdxホモログは、2[4Fe-4S]フェレドキシンであり、これは、酸化還元電位が同じであるかまたは異なる可能性のある、2つの4Fe-4S鉄-硫黄クラスターが含まれることを意味する。YdbKの酸化還元電位を考慮すると、クラスターの酸化還元電位が異なるフェレドキシンでは、ほとんどの場合、クラスター1が関連するクラスターになると予想される。残りのfdxホモログは、どちらも単一クラスターを含んでいる、2Fe-2Sフェレドキシン及び高電位の4Fe-4Sフェレドキシンである。対照E.coliは、どのfdxまたはfldAホモログも発現していなかった。
【表5】
【表6】
【0185】
データは、E.coliでの特定のfdxまたはfldAホモログの過剰発現、及びYdbKの過剰発現が、空ベクター対照(emp)と比較して、テルペノイド産物(本実施例では産物B)の力価を増加させたことを示す(例えば、H.fdx、Cv.fdx、Cv.fdxC57A、及びPa.fdx)。図19A
【0186】
産物Dを生産し、YdbKを過剰発現するように操作されたE.coliを、Cv.fdxを過剰発現するようにさらに操作した。先の結果と同様に、データは、テルペノイド産物(本実施例では産物D)を生産し、YdbKを過剰発現するように操作されたE.coliでのCv.fdxの過剰発現が、対照と比較して、テルペノイド産物の力価を増加させたことを示す。図19B。さらに、データは、対照と比較した、細胞外ブロス中のMEcPP濃度の減少を示しており(図19C)、これは、炭素フラックスがIspG/H段階を経て産物に流出されたことを立証している。図1を参照のこと。
【0187】
実施例7:PFORホモログ、fprホモログ、及び/またはfdxもしくはfldAホモログによる過剰発現または補完
産物Fを生産するように操作されたE.coliを、表7に示すような、少なくとも1つのPFORホモログまたはfprホモログ、及び場合によりfdxまたはfldAホモログを過剰発現するようにさらに操作した。
【表7】
【0188】
データは、PFOR及びfprホモログを発現するように操作された、いくつかの細菌株が、空ベクター対照(CTRL)と比較して、テルペノイド産物(本実施例では産物F)の力価を増加させたことを示す(例えば、Da.pfor(Desulfovibrio africanus)(配列番号31);Sco.pfor(Synechococcus sp.);Ga.pfor(Gilliamella apicola)(配列番号35);Ec.ydbk(E.Coli)(配列番号9);及びSco.fpr(Synechococcus sp.)(配列番号37))。図20を参照のこと。
【0189】
データはまた、少なくとも1つのPFORホモログ及びfdxを過剰発現するように操作された細菌株が、空ベクター対照(CTRL)と比較して、テルペノイド産物(産物F)の力価を増加させたことを示す(例えば、Ec.ydhV/Ec.ydhY;E.coli(それぞれ配列番号33及び配列番号34)、及びEc.ydbK/Cp.fdx;E.coli(それぞれ配列番号9及び10))。図20を参照のこと。
【0190】
さらに、データは、少なくとも1つのfprホモログ及びfdxまたはfldAのいずれかを過剰発現するように操作された細菌株が、空ベクター対照(CTRL)と比較して、テルペノイド産物(産物F)の力価を増加させたことを示す(例えば、Ec.fpr/Ec.fdx;E.coli(それぞれ、配列番号38及び配列番号21)、及びEc.fpr/Ec.fldA;E.coli(それぞれ配列番号38及び配列番号27))。図20を参照のこと。
配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図18
図19A
図19B
図19C
図20
【配列表】
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