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特許7330899ウイルスのアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を改変する方法および組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ウイルスのアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を改変する方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/015 20060101AFI20230815BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230815BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20230815BHJP
【FI】
C07K14/015
C12N15/35 ZNA
C12N7/01
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019561963
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018032166
(87)【国際公開番号】W WO2018209154
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/504,318
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/669,901
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511140770
【氏名又は名称】マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリー
(73)【特許権者】
【識別番号】516106623
【氏名又は名称】ザ スケペンス アイ リサーチ インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンベルゲ,ルク エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,アンナ クレール
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536011(JP,A)
【文献】AKU89600 Adeno-associated virus capsid protein,EBI[online],2015年,URL: https://www.ebi.ac.uk/ena/browser/api/embl/AKU89600.1?lineLimit=1000,[retrieved on 2022.02.18]
【文献】Maurer AC et al.,Modulating AAP Dependency on AAV Variants While Retaining In Vivo Infectivity,Molecular Therapy,,2017年05月04日,Vol. 25(5) Suppl1: Abstract 549,p. 254,ASGCT Annual Meeting Abstracts
【文献】AKU89597 capsid protein [Adeno-associated virus],NCBI[online],2015年,URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AKU89597.1/,[retrieved on 2022.02.17]
【文献】Zinn E et al.,In Silico Reconstruction of the Viral Evolutionary Lineage Yields a Potent Gene Therapy Vector,Cell Rep.,2015年,Vol. 12(6),pp. 1056-1068
【文献】Earley LF et al.,Adeno-associated Virus (AAV) Assembly-Activating Protein Is Not an Essential Requirement for Capsid Assembly of AAV Serotypes 4, 5, and 11,J Virol.,2016年11月16日,Vol. 91(3): e01980-16,pp. 1-21
【文献】Kollu S et al.,A Single Amino Acid in AAV Capsids Regulate the Requirement of the Assembly Activating Protein (AAP) for Assembly,Molecular Therapy,2017年05月04日,Vol. 25(5) Suppl1:Abstract: 6,p. 3,ASGCT Annual Meeting Abstracts
【文献】Adeno-associated virus isolate Anc82 capsid protein (VP1) gene, complete cds,NCBI[online],2015年,URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KT235806.1/,[retrieved on 2022.02.17]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドであって、低下したアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を有する、AAVカプシドポリペプチド
【請求項2】
配列番号3のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のAAVカプシドポリペプチド。
【請求項3】
配列番号4の核酸配列によりコードされる、請求項1に記載のAAVカプシドポリペプチド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドを含む、ウイルス粒子。
【請求項5】
導入遺伝子をさらに含む、請求項4に記載のウイルス粒子。
【請求項6】
配列番号4の核酸配列からなり、かつ、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする、核酸配列を含む、核酸分子であって、前記AAVカプシドポリペプチドは、低下したアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を有する、核酸分子
【請求項7】
配列番号4の核酸配列からなる、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
配列番号3のアミノ酸配列をコードする、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項10】
請求項6から8のいずれかに記載の核酸分子または請求項9に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項11】
パッケージング細胞である、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする核酸分子を含むパッケージング細胞であって、前記AAVカプシドポリペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有し、かつ、低下したアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を有する、パッケージング細胞。
【請求項13】
アセンブリ活性化タンパク質(AAP)を欠く、請求項12に記載のパッケージング細胞。
【請求項14】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を低下させる方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを有するAAVを提供するステップを含む、方法。
【請求項15】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を少なくとも部分的に軽減する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを前記AAVに組み込むステップを含む、方法。
【請求項16】
アデノ随伴ウイルス(AAV)を、そのアセンブリ活性化タンパク質(AAP)に対する依存性を低下させるように操作する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを含むAAVを操作するステップを含む、方法。
【請求項17】
前記アセンブリ活性化タンパク質(AAP)の非存在下で前記アデノ随伴ウイルス(AAV)を培養するステップをさらに含む、請求項14から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を配列決定するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の前記アセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を、操作されていないまたは野生型AAVに対して比較するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を、操作されていないまたは野生型AAVと整列させるステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
配列番号1のアミノ酸配列を含み、K163S、A206S、K478R、L481V、V520M、T528S、L586H、A592Q、P593A、N598Q、S599NおよびA602Iの置換をさらに含む、AAVカプシドポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C.§ 119(e)の下で、その両方がその全内容にわたって参照により本明細書に組み込まれる、2017年5月10日出願の米国出願第62/504,318号、および2018年5月10日出願の米国出願第62/669,901号の優先権の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は概して、ウイルスベクター系に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、治療用遺伝子導入における、主にin vivoでの遺伝子療法の手法のための主要なプラットフォームである。前臨床および臨床試験により、複数の疾患を緩和する安全かつ効率的な遺伝子送達のための試薬としてのAAVの潜在能力が実証され続けているが、そのより広範な適用に対するボトルネックは、これらの患者集団を治療するのに十分なベクター量の産生である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
概して、本開示は、AAVカプシドタンパク質内の、AAVのアセンブリ活性化タンパク質(assembly-activating protein)(AAP)依存性を改変することができる特定の配列モチーフの有用性について記載および実証する。したがって、この配列モチーフを使用して、ウイルスベクターの産生に際して直面するボトルネックのうち少なくとも1つに対処し、これを緩和することができる。詳細には、本開示は、ウイルスのAAP依存性を改変するのにすることができる、新規の表現型-系統発生マッピング(phenotype-to-phylogeny mapping)法により規定される最小限のモチーフについて記載する。簡潔に言えば、開発されてきた複数の祖先AAV(例えば、その全内容にわたって参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2015/054653号パンフレットおよび国際公開第2017/019994号パンフレットを参照のこと)を使用して、広範な構造上の差異にわたるAAP依存性を試験した。この分析により、AAP依存性を決定する最小限のモチーフの特定が可能となった。
【0005】
一態様において、本開示は、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドを特徴とする。一部の実施形態において、AAVカプシドポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列を有する。一部の実施形態において、AAVカプシドポリペプチドは配列番号4の核酸配列によりコードされる。一部の実施形態において、AAVカプシドポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有するが、AAPに関する「非依存性」または「依存性」についての表6に示す表示される位置のアミノ酸残基を含有する。
【0006】
本開示は、本明細書に記載されるアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドのいずれかを含むウイルス粒子も特徴とする。このようなウイルス粒子は、導入遺伝子をさらに含んでいてもよい。
【0007】
別の態様において、本開示は、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも99%の配列同一性)を有し、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子を特徴とする。一部の実施形態において、核酸分子は配列番号4の核酸配列を有する。一部の実施形態において、核酸分子は配列番号3のアミノ酸配列をコードする。
【0008】
本開示は、本明細書に記載される核酸分子のいずれかを含むベクター、ならびに本明細書に記載される核酸分子および/またはベクターのいずれかを含む宿主細胞も提供する。一部の実施形態において、宿主細胞はパッケージング細胞である。
【0009】
別の態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする核酸分子を含むパッケージング細胞であって、AAVカプシドポリペプチドが配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、パッケージング細胞を特徴とする。一部の実施形態において、パッケージング細胞はアセンブリ活性化タンパク質(AAP)を欠く。
【0010】
別の態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を低下させる方法を含む。このような方法は、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを有するAAVを提供するステップを含む。
【0011】
さらに別の態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を少なくとも部分的に軽減する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドをAAVに組み込むステップを含む、方法を特徴とする。
【0012】
さらに別の態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)を、そのアセンブリ活性化タンパク質(AAP)に対する依存性を低下させるように操作する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを含むAAVを操作するステップを含む、方法を提供する。
【0013】
本明細書に記載される方法のいずれかは、アセンブリ活性化タンパク質(AAP)の非存在下でアデノ随伴ウイルス(AAV)を培養するステップをさらに含んでいてもよい。本明細書に記載される方法のいずれかは、操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を配列決定するステップをさらに含んでいてもよい。本明細書に記載される方法のいずれかは、操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を、操作されていないまたは野生型AAVに対して比較するステップをさらに含んでいてもよい。本明細書に記載される方法のいずれかは、操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を、操作されていないまたは野生型AAVと整列させる(アラインする(aligning))ステップをさらに含んでいてもよい。
【0014】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は全て、方法および組成物が属する技術分野の技術者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料が、方法および組成物の実施または試験において使用可能であるが、適切な方法および材料が以下に記載される。さらに、材料、方法、および例は例示のためのものに過ぎず、制限することを意図しているわけではない。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は全て、その全内容にわたって参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】AAP要求がAAVのクレード全てにわたって広範に及ぶことを実証するデータについての一連の模式図、ゲル、および棒グラフである。パネルAは、AAPstop60およびAAP-HA構築物マップの概略図である。黒矢印:p5、p19、およびp40ウイルスプロモーターの転写開始部位。灰色矢印:cap遺伝子産物翻訳開始コドン。AAP ORFへの部位特異的突然変異誘発約60aaにより早期終止コドン(early stop codon)(赤)を導入した。AAP C末端付近の保存されたBsiWI部位にHAタグ(オレンジ)を挿入した。パネルBは、AAV1およびAAV3 AAP-HA構築物が、WT AAPおよびAAPstop60条件の両方で生成されたことを実証するゲルの写真である。トランスフェクトされたHEK293細胞の溶解物を36時間後に採取し、遠心処理により清澄にし、抗HA抗体を用いるウェスタンブロットによりAAPについて調べた。パネルCは、WTまたはAAPstop60 rep-cap構築物から産生されたベクターをqPCRにより力価測定して、DNA分解酵素抵抗性粒子を定量化したことを実証するグラフである。AAPstop60力価は各WT血清型力価に対するパーセンテージとして報告され、少なくとも3回の独立な実験の平均±SEMを表す。バーの色はy軸上のヒートマップの色に対応する。†少なくとも1回の試行についてバックグラウンド(cap遺伝子なし対照)レベル未満のAAPstop60力価。統計については表2を参照のこと。パネルDは、AAV2およびAAV3のWTおよびAAPstop60構築物から産生されたベクターをA20カプシドELISAにより力価測定し、WT力価に対するパーセンテージとして報告したグラフである(2回の実験の平均;ELISAおよびqPCRによる力価測定の個々のデータについては表1を参照のこと)。図11も参照のこと。
図2】天然の血清型におけるVPタンパク質レベルを示す実験データについての一連のゲルおよびグラフである。HEK293細胞に、ヘルパーおよびレーン上方に表記されるrep-capプラスミドをトランスフェクトした:(wt)WT AAP;(s)AAPstop60;(r)AAPstop60プラスCMV作動性AAP2。全細胞溶解物を36時間後に採取し、遠心処理により清澄にし、B1抗体によりVPレベルを調べた(VP1/2/3)。ローディング対照としてアクチンを使用した。rep-capプラスミドの血清型を各ブロット上方に表示する、(パネルA)AAPstop60力価がWT力価の10%以上、および(パネルB)AAPstop60力価がWT力価の10%未満。パネルCは、上記のAAV2トランスフェクションから定量化され、GAPDHに対して正規化され、AAV2 WTと比較して報告されたRNAを示すブロットである。副および主スプライスアイソフォーム、ならびにスプライシング無しの転写物レベルを、x軸に表記され右側に図示されるように試験した;プライマーは矢印で表示する。グラフは3回の独立な実験の平均±SEMを表す;群間には統計的に有意な差がない(統計については表2を参照のこと)。パネルDは、ヘルパーおよび表示されるAAV8 WTまたはAAPstop60 rep-capプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞のブロットである。24時間時点で、AAPstop60をトランスフェクトした細胞を、レーン上方に表示される濃度のボルテゾミブ、MLN7243、またはバフィロマイシンで処理し、さらに8時間インキュベートした後、全細胞溶解物を(パネルA)および(パネルB)のように採取した。B1抗体を用いるウェスタンブロットによりVPレベルを調べた(上)。ブロットをストリッピングし、ユビキチンについてリプローブした(下)。ローディング対照としてアクチンを使用した(中)。パネルEは、下に列挙されるDMSOまたは1μMボルテゾミブ、MLN7243、またはバフィロマイシンで処理され、ADK8抗体(アセンブルされたAAV8カプシドにのみ存在する立体構造エピトープを認識)を用いるドットブロットにより、アセンブルされたカプシドの存在についてアッセイされた、パネルD由来の溶解物を使用したドットブロットである。カプシドアセンブリに対する薬物の任意の効果の対照とするため、AAPの存在下で実験を繰り返した(右パネル)。図8も参照のこと。
図3】AAP要求が、仮想のAAV系統発生の状況において分枝特異性を示すことを実証する実験データを表す一連のゲル、図表、および概略図である。パネルAは、9種の仮想の祖先AAVについてAAPstop60が生成されたことを示すグラフである。WTまたはAAPstop60 rep-cap構築物から産生されたベクターをqPCRにより力価測定し、DNA分解酵素抵抗性粒子を定量化した。AAPstop60力価は各血清型のWT力価に対するパーセンテージとして報告され、少なくとも3回の独立な実験の平均±SEMを表す。バーの色はy軸上のヒートマップの色に対応し、(パネルD)および(パネルE)でも使用される。†少なくとも1回の試行についてバックグラウンド(cap遺伝子なし対照)未満のAAPstop60力価。統計については表2を参照のこと。*Anc126は、WTおよびAAPstop60について一貫して低い力価(1e9GC/mL未満)を産生する。パネルBは、早期終止コドンをAAP ORFの約20aaに導入することにより、AAV4および10%以上のAAPstop60力価を有するAAVバリアント全てについてAAPstop20が生成されたことを示すグラフである。AAPstop20条件(薄灰色バー)および相同なAAPを発現するAAPstop20プラスCMV作動性構築物(暗灰色バー)を追加して、ベクターを産生し、パネルAのように力価測定した(2回の実験の平均;個々のAAPstop60、stop20、およびAAPレスキューベクターの力価測定データについては表3を参照のこと)。†少なくとも1回の試行についてバックグラウンド(cap遺伝子なし対照)未満の力価。‡AAP2を用いて実施されたレスキュー。パネルCは、ヘルパーおよびレーン上方に表記されるrep-capプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞のゲルである:(wt)WT AAP;(s60)AAPstop60;(s20)AAPstop20;(r)AAPstop20プラスCMV作動性の相同なAAP。全細胞溶解物を36時間後に採取し、ウェスタンブロットによりVPレベルを調べた。ローディング対照としてチューブリンを使用した。パネルDはAAP表現型の分類である。各血清型下の箱は、WT力価に対するAAPstop60のパーセンテージを示す。黒の箱はAAP非依存性であることを示す(AAPstop20力価>>1%)。AAPstop60力価10%超を有する血清型(緑)は、AAPのC末端3分の2の非存在下でのアセンブリを示す(AAPC非依存性)。パネルEは再構築されたAAV系統発生であり、分枝はパネルDのように着色されている。分枝上の灰色の数字は、分枝セグメントに隣接する2つの血清型間で分岐したアミノ酸の数を示す。図8、9、10、および12も参照のこと。
図4-1】AAPC非依存性の機能獲得型突然変異体である82DIの特性決定について示す実験データの一連の概略図、グラフ、およびゲルである。パネルAは、部位特異的突然変異誘発により、Anc82 rep-capプラスミドに分枝I残基独自物(Branch I residue identities)を導入することによって生成される82DIの概略図である。パネルBは、Anc82、82DI、およびそれらのAAPstop60から産生され、DNA分解酵素抵抗性粒子(DRP)を定量化することにより力価測定されたベクターについてのグラフであり、Anc82 WT力価に対するパーセンテージとして報告される。グラフは4回の独立な実験の平均±SEMを表す。統計については表2を参照のこと。パネルCは、部位特異的突然変異誘発により82DIおよび82DIAAPstop60の各部位を個別にそのAnc82独自物に戻したグラフである。DRPを定量化するベクター力価は82DI WT力価に対するパーセンテージとして報告され、2回の試行の平均を表す(個々の82DI単一復帰変異体ベクター力価測定データについては表4を参照のこと)。パネルDは、ヘルパーおよびレーン上方に表記されるrep-capプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞のゲルの写真である:(WT)WT AAP;(s60)AAPstop60;(s20)AAPstop20;(r)AAPstop20プラスCMV作動性AAP2。全細胞溶解物を36時間後に採取し、ウェスタンブロットによりVPレベルを調べた。ローディング対照としてチューブリンを使用した。パネルEは、Anc82および82DIについて得られた、正規化されたSYPRO(登録商標)Orange蛍光シグナルである。パネルFは、1x1011vg/マウスのAnc82、82DI、またはAAV8を全身注射した30日後に、マウス肝臓で検出されたGFP蛍光の写真である。各画像は個々の動物を表す。図12および13も参照のこと。
図4-2】AAPC非依存性の機能獲得型突然変異体である82DIの特性決定について示す実験データの一連の概略図、グラフ、およびゲルである。パネルFは、1x1011vg/マウスのAnc82、82DI、またはAAV8を全身注射した30日後に、マウス肝臓で検出されたGFP蛍光の写真である。各画像は個々の動物を表す。図12および13も参照のこと。
図5】目的の部位が三量体界面に位置することを実証する一連の分子レベルおよび原子レベルの概略図であり、AAPC非依存性血清型におけるより強いモノマー間相互作用を示唆している。パネルAは、分枝D/分枝I多重配列整列化(multiple sequence alignment)により特定され、VP1開始コドンから付番された10の部位(12残基)の概要である。分枝D残基には、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、AAV8、およびrh10が含まれ、分枝I残基には、Anc110、rh8、およびAAV9が含まれる。AAV8およびAAV9における同一性の変動は括弧書きで表示され、各枝のうちこれらのメンバーにしかない。パネルBはAAV9三量体の側面図であり、パネルCにおける図の面を示す。各モノマーは1色で表され、目的の各部位はその色のより濃い陰で表される。付番された矢印は赤のモノマー内の各部位を示す。パネルD~Fは、AAV8およびAAV9三量体における選択部位の原子レベルの図である。
図6】AAPがVP-VP相互作用を促進することを実証する実験データについての一連の概略図およびゲルである。パネルAは、AAV2、AAV3、Anc82、および82DIのAAP2およびVP1およびVP3の発現構築物の概略図である。CMV-HA-VP1では、VP2およびVP3開始コドンをそれらの発現をサイレンシングするように改変し、AAPstop60突然変異(赤の長方形)を含めた。パネルBは、各レーン上方に表示される血清型のCMV-HA-VP1およびCMV-VP3、+/-CMV-AAP2をトランスフェクトし、48時間後に溶解物を採取したHEK293細胞の写真である。抗HA抗体を使用して免疫沈降を実施し、B1抗体を使用するウェスタンブロットによりVPを検出した。パネルCは、CMV-HA-VP1、CMV-VP3、+/-CMV-AAP2(全てAAV2タンパク質)をトランスフェクトし、カラムの上方に表示されるDMSO、5mMグルタル酸ジスクシンイミジル(DSG)、または5mMスベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)で処理したHEK293細胞由来の溶解物の写真である。VPはB1抗体を用いるウェスタンブロットにより検出した。およその分子量を各列の右側に示す。図13も参照のこと。
図7】AAP表現型にわたるカプシドアセンブリの早期のステップについての概略モデルである。血清型がAAP依存性であれ、AAP非依存性であれ、AAPC非依存性であれ、カプシドアセンブリの核形成は、VPタンパク質の安定性およびオリゴマー化の両方によって決まる可能性が高い。本明細書での発見から、AAPが両機能において活性であることが実証される。これらの機能が独立であるかどうかは不明であり、モデルでは疑問符で示される。
図8】AAV8およびAAV3 VP分解について示すゲルの一連の表示である。図2および図3に関連する。パネルAは、ヘルパーおよび表示されるAAV8 wtまたはAAPstop60 rep-capプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞の写真である。24時間時点で、AAPstop60をトランスフェクトした細胞を50μMシクロヘキシミド(CHX)で処理し、時間が進行するごとに溶解物を採取した。B1抗体を用いるウェスタンブロットによりVPレベルを調べ、CHX有効性についての陽性対照としてp62をブロットした。AAV8 VPがAAPの非存在下で検出されないことを実証するため、AAV8AAPstop60をトランスフェクトした細胞について示される曝露は、より高感度の検出試薬による長期の曝露である。パネルBは、ヘルパーおよび表示されるAAV3 wtまたはAAPstop20 rep-capプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞の写真である。24時間時点で、AAPstop20をトランスフェクトした細胞をレーン上方に表示される濃度のボルテゾミブ、MLN7243、またはバフィロマイシンで処理し、さらに8時間インキュベートした後、全細胞溶解物を採取した。B1抗体を用いるウェスタンブロットによりVPレベルを調べた(上)。ブロットをストリッピングし、ユビキチンについてリプローブした(下)。ローディング対照としてアクチンを使用した(中)。
図9】21種の血清型にわたるAAPの保存について示す概略図である。図1、2、3、6、および7に関連する。血清型21種全てのAAPについての多重タンパク質配列整列化(ClustalW)を本研究で試験した。Anc-AAV(および延長線で考えるとAnc-AAP)を生成するための祖先配列の再構築については他で詳しく述べられている(Zinn et al., 2015、Cell Rep., 12:1056-68)。簡潔に言えば、AncAAVのためのVPコード配列をまずタンパク質レベルで決定し、次いで、利用可能な最も類似した現存のAAV配列由来のコドン表を使用して、その後の合成のためにDNAに逆翻訳した。以前に特定された(Naumer et al., 2012、J. Virol., 86:13038-48)保存されたコア(黒のバー)はAnc-AAPにわたって高度な保存を保持しており、本研究でAAPN(紫のバー)についてのデータにより示唆されるシャペロン機能を付与している可能性がある。本明細書に記載される研究により、AAPのC末端3分の2に大部分が含有されうる、AAPに対するスキャホールディング機能がさらに指摘される(AAPC、灰色のバー)。
図10】AAV3 AAPNがAAP依存性ウイルス産生をレスキューしないことを実証する実験データの一連の概略図およびグラフである。図3に関連する。パネルAは、AAV3ゲノムのVP1、VP2、およびVP3 ORFに早期終止コドンを付加することにより生成される、AAPのみを発現する構築物であり、AAPstop60突然変異を含めて、AAPNのみを発現する構築物を生成した。VP3早期終止コドンはAAP ORFにおけるサイレント突然変異である。パネルBは、AAV2およびAAV3におけるAAPstop20ウイルス産生をトランス補完(trans-complement)するため使用された、(A)における構築物(緑および赤のバー)由来のグラフであり、ウイルス力価はそのWT力価に対するパーセンテージとして報告される。グラフは2回の試行の平均を表す。†少なくとも1回の試行についてバックグラウンド(cap遺伝子なし対照)未満の力価。パネルCは両試行についての個々のデータを示す。
図11】AAPstop60ウイルスはwt AAPウイルスと区別がつかないことを実証する実験データを示す、顕微鏡画像およびグラフの一連の表示である。図1に関連する。パネルAは、酢酸ウラニルで染色されTEMにより撮像されたAAV3およびAAV3AAPstop60.CMV.EGFP.T2A.ルシフェラーゼベクターの写真である。パネルBおよびCは、hAd5(MOI=20)とともに一晩インキュベートし、次いでAAV3、AAV3AAPstop60、AAV9またはAAV9AAPstop60.CMV.EGFP.T2A.ルシフェラーゼをパネルCのx軸に表示されるGC/ウェルで添加したHEK293細胞からの結果である。48時間時点でGFP蛍光を撮像した(パネルB;画像は各ベクターについて最大の力価を表す)。48時間時点でルシフェラーゼ活性を定量化した(パネルC)。パネルDは、AAV3およびAAV9 WTおよびAAPstop60ベクターについて得られた、正規化されたSYPRO(登録商標)Orange蛍光シグナルである。
図12】以下の通り、in vitroおよびin vivoでのAnc82対Anc82DIについての実験データを示す一連のグラフである。図4に関連する。パネルAは、hAd5(MOI=20)とともに一晩インキュベートし、次いでAnc82またはAnc82DI.CMV.EGFP.T2A.ルシフェラーゼベクターを、表示される通り1x10または1x10GC/ウェルで添加したHEK293細胞についてのグラフである。48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。パネルBは、1x1011vg/マウスのAnc82、82DI、またはAAV8.CB7.CI.EGFP.FF2A.hA1AT.RBGを全身に注射されたマウスについてのグラフである。x軸に表示される時点でサンプリングされた血清において、ヒトα-1アンチトリプシン(hA1AT)レベルをELISAにより測定した。
図13】IP画分が完全にアセンブルされたカプシドを含有しないことを示す実験データについての一対の棒グラフである。図6に関連する。Rep、ヘルパー、およびITR-CMV-EGFP-T2A-Luc_ITRレポーターゲノムプラスミドを、x軸に表示されるAAV2タンパク質発現構築物にトランスフェクトした。インプット、IP、および上清画分における完全にアセンブルされたベクターを、(パネルA)DNA分解酵素抵抗性ゲノムに対するqPCR、または(パネルB)A20カプシドELISAにより定量化した。グラフは2回の独立な実験を表す。†少なくとも1つの測定値が検出限界未満に入る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
実験または治療目的の遺伝子導入は、標的細胞に遺伝情報を往復させるのに、ベクターまたはベクター系に依存する。ベクターまたはベクター系は、遺伝子導入反応の効率、特異性、宿主応答、薬理作用、および持続性の主要な決定因子と考えられる。現在、遺伝子導入を実現するための最も効率的かつ有効な方法は、複製欠損にされたウイルスに基づくベクターまたはベクター系の使用によるものである。複製欠損にされて遺伝子導入に使用される最も一般的なウイルスの1つは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0017】
AAVカプシドは、非エンベロープ型で正二十面体60merの、ウイルスタンパク質1(VP1)、VP2、およびVP3と呼ばれる3種の繰り返しタンパク質モノマーサブユニットである。ネステッドオープンリーディングフレーム(ORF)を含有するAAV cap遺伝子から発現される単一の転写物が交互にスプライシングされ、VP3の長さにわたってC末端の同一性を共有する3種の別個のタンパク質産物を生じる。アセンブルされたカプシドにおけるVP1:VP2:VP3の1:1:10の化学量論は各タンパク質の相対的存在量の結果と考えられ、これが、次にスプライス産物存在量およびVP2の非標準のACG翻訳開始コドンにより調節される。
【0018】
アセンブリ活性化タンパク質(AAP)は、AAVのカプシド(cap)遺伝子内に埋め込まれた重複リーディングフレームの非標準のCTG開始コドンから発現される非構造タンパク質である。AAV血清型は異なるAAP要求を有し、一部のAAV血清型はAAP依存性を示し(例えば、AAV8、rh10、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、およびAnc84)、その他のAAV血清型はAAP非依存性を示す(例えば、AAV9、rh8、およびAnc110)。
【0019】
本明細書で使用される場合、祖先スキャホールド配列は、進化確率(evolutionary probability)および進化モデリングを使用して構築され、これまでに存在したことも現在天然に存在することも知られていない配列を指す。これらのスキャホールド配列を本明細書で活用して、AAP機能を調べ、ウイルスのAAP要求に関連するカプシド内の構造上の決定因子を描写した。
【0020】
本開示は、AAVのAAP依存性を改変する方法を提供する。例えば、AAVのパッケージング中のAAP依存性を低下させる(または、反対に、AAP非依存を増大させる)、本明細書で特定されるモチーフを含むように、AAVカプシド配列を操作することができる。これにより、これらに限定されないが、任意のAAV産生系(例えば哺乳動物、酵母、昆虫細胞)における産生的粒子アセンブリに必要な成分の数を減少させる能力、AAPにより課される制約の減少によりAAVカプシド構造を最適化する能力、最小限の成分からのAAVカプシド自己アセンブリの可能性、および最終ベクター調製におけるAAP混入の懸念の低下を含む、製造中の複数の利益がもたらされる。
【0021】
改変されたAAP依存性を付与するアデノ随伴ウイルス(AAV)核酸およびポリペプチド配列
元はAnc82配列(配列番号1、配列番号2によりコードされる)に基づく、パッケージング中にAAP依存性を示すAAVカプシド配列を、Anc82DI(配列番号3、配列番号4によりコードされる)を産生するように本明細書に記載される通り改変した。Anc82DIはパッケージング中にAAP非依存性を示すが、強力な遺伝子導入ベクターとしての機能性を保持していると考えられる。AAP依存性配列にAAP非依存性を付与する配列モチーフを表6に提供する。
【0022】
【表1】
【0023】
Anc82タンパク質(配列番号1)
【0024】
【化1】
Anc82DNA(配列番号2)
【0025】
【化2】
Anc82DIタンパク質(配列番号3):
【0026】
【化3】
Anc82DI DNA(配列番号4):
【0027】
【化4】
【0028】
配列番号1および3に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドに加えて、配列番号1および3に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性)を有するポリペプチドが提供される。同様に、配列番号2および4に示す核酸分子に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性)を有する核酸分子が提供される。
【0029】
パーセント配列同一性を算出するにあたって、2つの配列を整列させ、2つの配列間のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の同一マッチ数を決定する。同一マッチ数を整列させた領域の長さ(すなわち、整列させたヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数)で割り、100を乗じてパーセント配列同一性値に至る。整列させた領域の長さは、最短の配列の全長サイズまでの、一方または両方の配列の一部であってもよいことが理解されよう。単一の配列を1を超えるその他の配列と整列させてもよく、したがって、整列させた各領域について異なるパーセント配列同一性値を有しうることも理解されよう。
【0030】
パーセント配列同一性を決定するための2つ以上の配列の整列化は、ワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.govにて入手可能であるBLAST(基本ローカル整列化検索ツール)プログラムに組み込まれている、Altschul et al. (1997, Nucleic Acids Res., 25:3389 3402)により記載されるアルゴリズムを使用して実施することができる。BLAST検索を実施して、Altschul et al.アルゴリズムを使用して整列させた配列(核酸またはアミノ酸)と任意のその他の配列またはその部分との間のパーセント配列同一性を決定することができる。BLASTNは核酸配列間の同一性を整列させ比較するのに使用されるプログラムであり、BLASTPはアミノ酸配列間の同一性を整列させ比較するのに使用されるプログラムである。配列と別の配列との間のパーセント同一性を算出するのにBLASTプログラムを利用する際には、各プログラムのデフォルトパラメーターが概して使用される。
【0031】
本開示は、ポリペプチドをコードする核酸分子を含有するベクターも提供する。発現ベクターを含めたベクターは市販であっても、組換え技術によって産生されてもよい。核酸分子を含有するベクターは、このような核酸分子に作動可能に連結された、発現のための1つまたは複数のエレメントを有していてもよく、選択可能なマーカー(例えば、抗生物質抵抗性遺伝子)をコードする配列、および/またはポリペプチドの精製に使用可能な配列(例えば、6xHisタグ)などの配列をさらに含んでいてもよい。発現のためのエレメントには、核酸コード配列の発現を誘導および調節する核酸配列が含まれる。発現エレメントの一例はプロモーター配列である。発現エレメントには、核酸分子の発現をモジュレートするイントロン、エンハンサー配列、応答エレメント、または誘導性エレメントのうち1つまたは複数も含まれていてよい。発現エレメントは、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物、またはウイルス起源であってもよく、ベクターは異なる起源の発現エレメントの組合せを含有していてもよい。本明細書で使用される場合、作動可能に連結されるとは、発現のためのエレメントが、コード配列の発現を誘導または調節するように、ベクターにおいてコード配列に対して位置づけられていることを意味する。
【0032】
核酸分子、例えばベクター(例えば、ウイルスベクターなどの発現ベクター)中の核酸分子は、宿主細胞に導入されうる。「宿主細胞」という語は、核酸分子が導入された特定の細胞だけでなく、このような細胞の子孫または潜在的な子孫も指す。多くの適切な宿主細胞が当業者に既知であり、宿主細胞は、原核細胞(例えば、大腸菌(E. coli))であっても真核細胞(例えば、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞)であってもよい。代表的な宿主細胞には、これらに限定されないが、A549、WEHI、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC1、BSC40、BMT10、VERO、WI38、HeLa、293細胞、Saos、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2、ならびにヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、およびハムスターを含む哺乳動物由来の初代線維芽細胞、肝細胞および筋芽細胞が含まれうる。核酸分子を宿主細胞に導入する方法は当技術分野で周知であり、これらに限定されないが、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、熱ショック、リポフェクション、マイクロインジェクション、およびウイルス媒介性核酸導入(例えば、形質導入)を含む。
【0033】
ポリペプチドに関して、「精製された」は、ポリペプチドに天然に付随する細胞成分から分離または精製されたポリペプチド(すなわち、ペプチドまたはポリペプチド)を指す。典型的には、ポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または99%)であり、天然に伴うポリペプチドおよび天然に存在する分子不含である場合に「精製された」と考えられる。化学的に合成されたポリペプチドは本質的に天然に付随する成分から分離されているため、合成ポリペプチドは「精製された」と考えられるが、ポリペプチド(例えば、アミノ酸残基)を合成するのに使用される成分からさらに取り出されてもよい。核酸分子に関して、「単離された」は、ゲノムにおいて通常伴うその他の核酸分子から分離された核酸分子を指す。さらに、単離された核酸分子には、組換えまたは合成核酸分子などの操作された核酸分子が含まれうる。
【0034】
ポリペプチドは、DEAEイオン交換、ゲル濾過、および/またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの既知の方法により、天然の供給源(例えば、生物試料)から得られる(例えば、精製されうる)。精製されたポリペプチドは、例えば、発現ベクターにおいて核酸分子を発現させること、または化学合成によっても得られる。ポリペプチドの純度の程度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析を使用して測定することができる。同様に、核酸分子は、これらに限定されないが、組換え核酸技術(例えば、制限酵素消化およびライゲーション)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbach & Dveksler, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995を参照のこと)などの定常的な方法を使用して得られる(例えば、単離されうる)。さらに、単離された核酸分子は化学的に合成することもできる。
【0035】
改変されたAAP依存性を有するウイルス粒子を作製する方法
ウイルスまたはその部分の望ましい配列(例えば、改変されたAAP依存性を有する)が決定された後、実際の核酸分子および/またはポリペプチドが生成、例えば、合成されうる。例えばin silicoで得られた配列に基づいて人工の核酸分子またはポリペプチドを生成する方法が当技術分野で既知であり、例えば、化学合成または組換えクローニングを含む。核酸分子またはポリペプチドを生成するさらなる方法が当技術分野で既知であり、以下でより詳細に論じられる。
【0036】
ポリペプチドが産生されると、または核酸分子が生成および発現されてポリペプチドを産生すると、ポリペプチドは、例えばパッケージング宿主細胞を使用してウイルス粒子にアセンブルされうる。ウイルス粒子の成分(例えば、rep配列、cap配列、逆位末端反復(ITR)配列)は、本明細書に記載される1つまたは複数のベクターを使用して、パッケージング宿主細胞に一過性にまたは安定に導入されうる。
【0037】
ウイルス粒子は、定常的な方法を使用して精製されうる。本明細書で使用される場合、「精製された」ウイルス粒子は、これらに限定されないが、ウイルス成分(例えば、rep配列、cap配列)、パッケージング宿主細胞、および部分的にまたは不完全にアセンブルされたウイルス粒子などの、ウイルスが作製された混合物中の成分から取り出されたウイルス粒子を指す。
【0038】
アセンブルされると、ウイルス粒子は、例えば、複製する能力;遺伝子導入特性;受容体結合能力;および/または集団(例えばヒト集団)における血清普及率(seroprevalence)についてスクリーニングされうる。ウイルス粒子が複製可能かどうかを決定することは当技術分野で定常的であり、典型的には、一定量のウイルス粒子を宿主細胞に感染させ、ウイルス粒子が数において経時的に増加するかどうかを決定することを含む。ウイルス粒子が遺伝子導入を実施することができるかどうかを決定することも当技術分野で定常的であり、典型的には、導入遺伝子(例えば、レポーター遺伝子などの検出可能な導入遺伝子、以下でより詳細に論じられる)を含むウイルス粒子を宿主細胞に感染させることを含む。ウイルスの感染およびクリアランス後、導入遺伝子の存在または非存在について宿主細胞を評価することができる。ウイルス粒子がその受容体に結合するかどうかを決定することは当技術分野で定常的であり、このような方法はin vitroまたはin vivoで実施可能である。
【0039】
ウイルス粒子の血清普及率を決定することは当技術分野で定常的に実施されており、典型的には、イムノアッセイを使用して、特定の個体集団由来の試料(例えば、血液試料)中の1つまたは複数の抗体の普及率を決定することを含む。血清普及率は、血清陽性である(すなわち、特定の病原体または免疫原に曝露されたことがある)、集団における対象の割合を指すと当技術分野で理解され、特定の病原体または免疫原に対する抗体を産生する、集団における対象の数を、試験を行った集団における個体の総数で割ったものとして算出される。免疫測定法は当技術分野で周知であり、これらに限定されないが、イムノドット(immunodot)、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法(EIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、または放射免疫測定法(RIA)を含む。単に例として、そのそれぞれが所与の集団における特定の抗体の血清普及率を決定した、Xu et al. (2007, Am. J. Obstet. Gynecol., 196:43.e1-6);Paul et al. (1994, J. Infect. Dis., 169:801-6);Sauerbrei et al. (2011, Eurosurv., 16(44):3);Boutin et al. (2010, Hum. Gene Ther., 21:704-12);Calcedo et al. (2009, J. Infect. Dis., 199:381-90);およびSakhria et al. (2013, PLoS Negl. Trop. Dis., 7:e2429)を参照のこと。
【0040】
本明細書に記載される通り、ウイルス粒子は、人、例えば患者の免疫系により中和されうる。血清試料中の中和抗体の程度を決定するいくつかの方法が利用可能である。例えば、中和抗体アッセイは、実験試料が、抗体を有しない対照試料と比較して、50%またはそれを超えて、感染を中和する抗体濃度を含有する力価を測定する。Fisher et al. (1997, Nature Med., 3:306-12)およびManning et al. (1998, Human Gene Ther., 9:477-85)も参照のこと。
【0041】
改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を使用する方法
本明細書に記載される改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を、複数の研究および/または治療上の適用に使用することができる。例えば、本明細書に記載される改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を、ヒトまたは獣医学において、遺伝子療法(例えば、遺伝子導入のためのベクターまたはベクター系)またはワクチン投与(例えば、抗原提示)に使用することができる。より具体的には、本明細書に記載される改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を、遺伝子付加、遺伝子増強、ポリペプチド治療薬の遺伝子送達、遺伝子ワクチン投与、遺伝子サイレンシング、ゲノム編集、遺伝子療法、RNAi送達、cDNA送達、mRNA送達、miRNA送達、miRNAスポンジング(miRNA sponging)、遺伝子免疫化、光遺伝学的遺伝子療法、遺伝子導入(transgenesis)、DNAワクチン投与、またはDNA免疫化に使用することができる。
【0042】
宿主細胞に、in vitro(例えば、培養物中で増殖させる)またはin vivo(例えば、対象において)で、改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を形質導入するまたは感染させることができる。改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分をin vitroで形質導入するまたは感染させることができる宿主細胞は本明細書に記載される。祖先ウイルスまたはその部分をin vivoで形質導入するまたは感染させることができる宿主細胞には、これらに限定されないが、脳、肝臓、筋肉、肺、眼(例えば、網膜、網膜色素上皮)、腎臓、心臓、生殖腺(例えば、精巣、子宮、卵巣)、皮膚、鼻腔、消化器系、膵臓、膵島細胞、ニューロン、リンパ球、耳(例えば、内耳)、毛包、および/または腺(例えば、甲状腺)が含まれる。
【0043】
本明細書に記載される改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を、導入遺伝子を含む(その他のウイルス配列とシスまたはトランスで)ように改変することができる。導入遺伝子は、例えば、レポーター遺伝子(例えば、ベータ-ラクタマーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ(LacZ)、アルカリホスファターゼ、チミジンキナーゼ、緑色蛍光ポリペプチド(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、またはルシフェラーゼ、または、血球凝集素もしくはMycなどの抗原タグドメインを含む融合ポリペプチド)、または治療遺伝子(例えば、ホルモンもしくはその受容体、増殖因子もしくはその受容体、分化因子もしくはその受容体、免疫系調節因子(例えば、サイトカインおよびインターロイキン)もしくはその受容体、酵素、RNA(例えば、阻害性RNAまたは触媒RNA)、または標的抗原(例えば、発癌性抗原、自己免疫性抗原)をコードする遺伝子)とすることができる。
【0044】
特定の導入遺伝子は、少なくとも一部は、治療される特定の疾患または欠損症によって決まる。単に例として、遺伝子導入または遺伝子療法は、血友病、網膜色素変性症、嚢胞性線維症、leber先天黒内障、リソソーム蓄積症、先天性代謝異常(例えば、フェニルケトン尿症を含む先天性アミノ酸代謝異常、プロピオン酸血症を含む先天性有機酸代謝異常、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD)を含む先天性脂肪酸代謝異常)、がん、色覚異常、錐体杆体ジストロフィー、黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症)、リポポリペプチドリパーゼ欠損症、家族性高コレステロール血症、脊髄性筋萎縮症、Duchenne型筋ジストロフィー、アルツハイマー病、パーキンソン病、肥満、炎症性腸障害、糖尿病、うっ血性心不全、高コレステロール血症、難聴、冠動脈性心疾患、家族性腎アミロイドーシス、Marfan症候群、致死性家族性不眠症、Creutzfeldt-Jakob病、鎌状赤血球症、Huntington病、前頭側頭葉変性症、Usher症候群、乳糖不耐症、脂質蓄積障害(例えば、Niemann-Pick病、C型)、Batten病、コロイデレミア、糖原病II型(Pompe病)、毛細血管拡張性運動失調症(Louis-Bar症候群)、先天性甲状腺機能低下症、重症複合免疫不全症(SCID)、および/または筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に適用することができる。
【0045】
導入遺伝子は、例えば、対象(例えば、ヒト、動物(例えば、伴侶動物、家畜、絶滅危惧動物)を免疫化するのに有用な免疫原とすることもできる。例えば、免疫原は生物(例えば、病原性生物)またはその免疫原性部分もしくは成分(例えば、毒素ポリペプチドまたはその副産物)から得られる。例として、免疫原性ポリペプチドが得られる病原性生物には、ウイルス(例えば、ピコルナウイルス、エンテロウイルス、オルソミクソウイルス、レオウイルス、レトロウイルス)、原核生物(例えば、肺炎球菌(Pneumococci)、ブドウ球菌属(Staphylococci)、リステリア属(Listeria)、シュードモナス属(Pseudomonas))、および真核生物(例えば、アメーバ症、マラリア、リーシュマニア症、線虫)が含まれる。本明細書に記載される方法およびこのような方法により産生される組成物が、いかなる特定の導入遺伝子によっても制限されるべきでないことが理解されるはずである。
【0046】
通常は生理学的に適合する担体で懸濁される、改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分を、対象(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物)に投与することができる。適切な担体には、様々な緩衝溶液により製剤化されうる生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、および水が含まれる。改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分は、細胞に形質導入するまたは感染させるのに十分な量、かつ十分なレベルの遺伝子導入および発現をもたらし、過度の副作用なしに治療上の利益をもたらすのに十分な量で投与される。従来のおよび薬学的に許容される投与経路には、これらに限定されないが、例えば肝臓または肺などの器官への、経口的、経鼻的、気管内、吸入による、静脈内、筋肉内、眼内、皮下、皮内、経粘膜的、またはその他の投与経路による直接送達が含まれる。投与経路は必要に応じて組み合わせることができる。
【0047】
対象に投与される、改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分の用量は主に、治療される状態、ならびに対象の年齢、体重、および健康状態などの因子によって決まる。例えば、ヒト対象に投与される、改変されたAAP依存性を有するウイルスまたはその部分の治療上有効な投与量は概して、濃度約1x10~1x1012のウイルスゲノムコピー(GC)(例えば、約1x10~1x10GC)を含有する溶液約0.1mL~約10mLの範囲にある。形質導入および/または導入遺伝子発現は、DNA、RNA、またはタンパク質アッセイにより、投与後の種々の時点でモニタリングすることができる。一部の例では、導入遺伝子の発現レベルをモニタリングして、投薬の頻度および/または量を決定することができる。治療目的で記載されるものと同様の投薬レジメンを、免疫化に利用することもできる。
【0048】
本発明によれば、当技術分野の技術の範囲内の、従来の分子生物学、微生物学、生化学的、および組換えDNA技術を使用することができる。このような技術は文献において十分に説明されている。本発明は、請求項に記載される方法および組成物の範囲を制限しない以下の実施例においてさらに記載される。
【実施例
【0049】
実施例1 ベクターおよび配列
アデノ随伴ウイルスベクターを、現存のまたは祖先のウイルスカプシドのいずれかによりシュードタイプ化した(pseudotyped)。現存のカプシドには、AAV1(Genbank[GB]AAD27757.1)、AAV2(GB AAC03780.1)、AAV3(GB U48704.1)、AAV4(GB U89790.1)、AAV5(GB AAD13756.1)、AAV6(GB AF028704.1)、AAV7(NC_006260.1)Rh.10(gb AAO88201.1)、AAV8(GB AAN03857.1)、AAV9(GB AAS99264.1)、およびRh32.33(GB EU368926)が含まれる。祖先AAVカプシドには、Anc80L65、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、Anc126、およびAnc127(KT235804-KT235812)が含まれる。本研究では、Anc83は推定AAP ORF:Q1L(83AAP-KI)で以下の突然変異を有する。
【0050】
実施例2 部位特異的突然変異誘発
QuikChange(登録商標)II Site-Directed Mutagenesis Kitを使用し、製造業者の説明書に従って、AAPstop60、AAPstop20、および82DI単一復帰変異体突然変異を生成した。82DIを生成するのには、QuikChange(登録商標)Lightning Multi Site-Directed Mutagenesis Kitを、製造業者の説明書に従って、2相で使用した:まず、Anc82骨格の5つの部位を突然変異させ、次いでこの五重突然変異体骨格に残りの5つの突然変異を導入した。
【0051】
実施例3 粗ウイルス調製/力価測定
全ての血清型および突然変異体における産生をアッセイするためのウイルス調製物を以下の通り調製した:AAV cis ITR-CMV-EGFP-T2A-Luc-ITR(2μg)、AAV trans rep-cap(2μg)、およびアデノウイルスヘルパープラスミド(4μg)のポリエチレンイミントランスフェクションを、HEK293細胞に対して6ウェルディッシュにおいて90%培養密度で実施した。無血清培地においてPEI Max(Polysciences)/DNA比を1.375:1(w/w)に維持した。72時間後に、3回の凍結/解凍サイクル、その後の15000xgでの遠心処理によりウイルスを採取した。
【0052】
DRP力価については、粗調製物をDNA分解酵素I処理し、抵抗性の(パッケージングされた)ベクターゲノムコピーを使用して、導入遺伝子カセットのCMVプロモーター領域を検出するプライマーおよびプローブを用いるTaqMan qPCR増幅(Applied Biosystems 7500、Life Technologies)により調製物を力価測定した。
【0053】
実施例4 熱安定性アッセイ(AAV-ID)
AAV-ID(Pacouret et al., 2017, Mol. Ther., 25:1375-86)により、精製されたベクターの熱安定性をアッセイした。簡潔に言えば、SYPRO(登録商標)Orange 50Xの試料500μLを、溶媒としてPBS2+(21-030-CV、Corning Inc.、Corning、NY)を使用して調製した。96ウェルプレートに試料45μLをローディングし、Sypro Orange 50X 5μLを補充した。PBS2+および0.25mg/mLリゾチーム(L6876、SIGMA-ALDRICH、St.Louis、MO、USA)溶液をそれぞれ陰性および陽性対照として使用した。プレートを密封して3000rpmで2分間遠心処理し、次いで、7500 Real-Time PCR System(ThermoFisher SCIENTIFIC)に入れた。両qPCRシステムで利用可能なROXフィルターキューブを使用してSYPRO(登録商標)Orange色素の蛍光をモニタリングしながら、試料を25℃で2分間インキュベートし、その後温度勾配にかけた(25~99℃、約2℃/10分間、0.4℃温度増加でステップアンドホールドモード(step and hold mode))。蛍光シグナルFは0~100%の間で正規化し、融解温度は数値での微分係数dF/dTがその最大値に到達した温度と定義した。
【0054】
実施例5 酵素結合免疫吸着アッセイ
PROGEN AAV 2 Titration ELISAキット(ref#PRATV)を用い、製造業者の説明書に従って、粗ウイルス調製物に対してA20カプシドELISAを実施した。
【0055】
α-1アンチトリプシン用Cloud-Clone ELISAキット(SEB697Hu、96テスト)を用い、製造業者の説明書に従って、マウス血清の1:1250~1:10000段階希釈物に対してhA1AT ELISAを実施した。
【0056】
実施例6 動物研究
C57BL/6オスマウス(6~8週齢)をJackson Laboratoriesから購入した。実験手順は全て、Schepens Eye Research InstituteのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認されたプロトコールに従って実施した。
【0057】
腹腔内へのケタミン/キシラジンでマウスを麻酔した。各動物に、1.00E+11VG/マウスの以下のベクター:Anc82.CB7.CI.EGFP.FF2A.hA1AT.RBGおよびAnc82DI.CB7.CI.EGFP.FF2A.hA1AT.RBGを後眼窩注射した(100μl)。注射前、ならびに注射3、7、15および28日後に、GoldenRodアニマルランセット(MEDIpoint、Inc.)を使用して顎下放血により血液を収集した。試料を8,000rpmで7.5分間遠心処理し、血清を収集した。
【0058】
動物を安楽死させ、肝臓を収集して4%パラホルムアルデヒド溶液(Electron Microscopy Sciences)に30分間浸漬させ、次いで30%スクロース中に一晩配置した。翌日、肝臓をTissue-Tek O.C.T. Compound(Sakura Finetek)に載せ、低温のイソペンタンで急速凍結させた。
【0059】
実施例7 組織の組織学
肝臓におけるeGFP発現を可視化するため、DAPI含有VECTASHIELD(登録商標)Hard Set(商標)封入剤(H-1500)を用いて15μmの切片を載せ、Zeiss Axio Imager M2を用いて、全ての切片にわたって同じゲインおよび強度で撮像した。
【0060】
実施例8 分子表示
本研究における分子の表示は全て、PyMOLならびに蛋白質構造データバンクファイル2QA0(AAV8)および3UX1(AAV9)を使用して生成した。
【0061】
実施例9 AAV3、AAV3s、AAV9およびAAV9sの産生および精製
AVB Sepharose HP(25-4112-11、GE Healthcare)(AAV3およびAAV3s)、または製造業者の説明書に準拠して、POROS CaptureSelect AAV9アフィニティー樹脂(Thermo Fisher)(AAV9およびAAV9s)のいずれかを使用するアフィニティークロマトグラフィーにより、ベクターを精製した。
【0062】
大規模粗調製物をベンゾナーゼ処理し(250U/mL、1時間、37℃)その後遠心処理ステップ(1時間、10,000rpm、20℃)を行い、次いで0.2μm Nalgene Rapid-Flowフィルターを使用して濾過した。AVB Sepharose HP(25-4112-11、GE Healthcare)1mLで予め充填されたHiTrapカラム(AAV3およびAAV3s)、または製造業者の説明書に準拠して、POROS CaptureSelect AAV9アフィニティー樹脂(Thermo Fisher)1mLで充填された5x125mm Econolineカラム(TAC05/125PE0-AB-3、essentialLife Solutions)(AAV9およびAAV9s)のいずれかを使用するアフィニティークロマトグラフィーにより、ベクターを精製した。カラムを5カラム体積(CV)の0.1M HPO4、1M NaCl、pH2(1mL/分)で衛生化し、5CVのPBS(21-030-CV、Corning)(1mL/分)で平衡化した。清澄にされた溶解物を1mL/分で注入した。カラムを10CVのPBS(1mL/分)でさらに洗浄した。0.1M NaOAc、0.5M NaCl、pH2.5 3mL(1mL/分)でベクター粒子を溶出し、1Mトリス-HCl、pH10 400μLで直ちに中和した。試料をさらにPBSで緩衝液交換し、製造業者の説明書に準拠してAmicon濾過(UFC910024、EMD Millipore)により濃縮した。試料純度はSDS-PAGEにより評価し、DNA分解酵素I抵抗性ベクターゲノムは、SV40またはeGFPを標的とするプライマーおよびプローブとともにTaqMan(Life Technologies)システムを使用する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により定量化した。
【0063】
実施例10 統計方法
データは全てRを使用して分析し、その後図で報告するため正規化した(別途示されない限り)。P値は表2で報告する。ウイルス力価は対応のある片側Studentのt検定を使用して比較し、RNAレベルは対応のある両側Studentのt検定を使用して比較した。
【0064】
表2は、図1、2、3、および4に関連する統計解析を示す。統計解析は全てRで実施し、その後データについて、表の左側に表示される主要な図において報告するため正規化した。パネルAは、バックグラウンドを差し引いた後(cap遺伝子なしの対照)、qPCRにより測定されるWTおよびAAPstop60ウイルス力価を比較する。P値は対応のある片側t検定から得られた。ND=「未決定」;測定されたバックグラウンドの3標準偏差以内の1回または複数の試行を有する血清型に対してはt検定を実施することができなかった。パネルBは、AAPstop60またはレスキューをWTのRNAレベルに対して比較する(全てGAPDHに対して正規化)。P値は対応のある両側t検定から得られた。
【0065】
実施例11 発現構築物
AAP-HA:BsiWIオーバーハング(5’GTAC、3’CATG)を有し血球凝集素(HA)タグをコードする相補的オリゴヌクレオチドを、5°/分で95℃~25℃の勾配をなすT4リガーゼ緩衝液中でアニーリングさせ、PNK処理し、BsiWIで消化されCIP処理されたAAV1およびAAV3 wtおよびAAPstop60 rep-capプラスミドにライゲーションした。
【0066】
CMV-HA-VP1およびCMV-VP3:以下の改変:5’末端に付加されたEcoRI部位、開始コドン、およびHA配列、VP2開始コドンのACGからACCへの突然変異、ならびにVP3開始コドンのATGからCTGへの突然変異、を有する、AAV2、AAV3、Anc82、および82DI用のVP1のbp#4-696のgBlocks(登録商標)Gene Fragments(IDT)を得た。gBlocks(登録商標)はcapにおいて保存されたBsrDI制限部位を含む;gBlocksをEcoRIおよびBsrDIで消化した。VP3配列を、5’EcoRIおよび3’HindIII制限部位を組み込むプライマーにより、適切なAAPstop60 rep-capプラスミドからPCR増幅させ、次いでEcoRIおよびHindIII(CMV-VP3用)またはBsrDIおよびHindIII(CMV-HA-VP1用)のいずれかで消化した。断片を適切な組合せでpCDNA3.1(-)にライゲーションした。CMV-AAP2については、AAPをAAV2 rep-capプラスミドから増幅させ、pCDNA3.1(-)にライゲーションした。
【0067】
実施例12 タンパク質溶解物調製および分解/代謝回転研究
粗ウイルス調製と同様にトランスフェクションを実施した。36時間時点で、上清を吸引し、溶解緩衝液(1%Triton X-100、150mM NaCl、50mMトリス、pH8、cOmplete Mini(商標)プロテアーゼ阻害剤を追加)100μL(図2)または150μL(図3および4)で細胞をプレートにおいて溶解させた。溶解物を15,000xgの遠心処理により清澄にし、アクチンについては溶解緩衝液で1:50に、またはチューブリンローディング対照ブロットについては1:100に希釈し、4x NuPAGE(登録商標)LDS試料緩衝液+0.5%βMEで90℃で変性させた。1ウェルあたりに総タンパク質(またはローディング対照ブロットについてはその希釈物)100μg(図2)または50μg(図3および4)をローディングし、NuPAGE(登録商標)4~12%ビス-トリスゲルで電気泳動した。プロテアソームおよびリソソーム阻害実験に関しては、トランスフェクション24時間後に培地を除去し、適切な濃度のボルテゾミブ(Selleckchem PS-341)、MLN7243(Chemgood C-1233)、バフィロマイシン(Enzo BML-CM110-0100)、またはDMSO(wtおよびAAPstop未処理試料用)を含む培地に交換し、さらに8時間インキュベートした。1ウェルあたりに総タンパク質25μgをローディングした(ローディング対照については1:10に希釈)。タンパク質合成を遮断することによるタンパク質代謝回転実験については、トランスフェクション24時間後に培地を除去し、50μg/mL CHX(Sigma C7698)を含有する培地に交換し、溶解物を1、2、4、6、および8時間時点で上記のように採取し、0時間時点では培地は交換しないが溶解物を採取した。ここで記載されるトランスフェクションおよび薬物インキュベーション全てを通して10%FBSを維持した。
【0068】
実施例13 ウェスタン/ドットブロッティング
電気泳動されたタンパク質をPVDF膜に転写し、一次抗体(B1、1:250、ARP#03-65158;アクチン、1:20000、Abcam 8227;チューブリン、1:20000、Abcam 7291;HA、1:5000、Abcam 9110;p62、1:1000、Cell Signalling 5114)とともに一晩インキュベートし、抗マウス(GE Healthcare LNXA931/AE)または抗ウサギ(Sigma A0545)HRPコンジュゲート二次抗体、およびThermo Super Signal(登録商標)West PicoまたはFemtoで検出した。
【0069】
ドットブロットでは、タンパク質溶解物を1:100に希釈し、2μLをニトロセルロース膜にスポットし、乾燥させ、5%乳でブロッキングし、ADK8(ARP#03-651160)とともに一晩インキュベートした。
【0070】
実施例14 免疫沈降
培養密度約80%のHEK293細胞の10cmディッシュにおいて、適切な血清型のCMV-HA-VP1、CMV-VP3、およびCMV-AAP2プラスミド各10μgを用いてPEIトランスフェクションを実施した(表示される箇所のみCMV-AAP2添加)。無血清培地においてPEI Max(Polysciences)/DNA比を1.375:1(w/w)に維持した。トランスフェクション後24時間時点で、細胞をペレットにし、溶解緩衝液(1%Triton X-100、150mM NaCl、50mMトリス、pH8、cOmplete Mini(商標)プロテアーゼ阻害剤を追加)1mLに再懸濁させた。rb抗HA抗体(Abcam 9110)およびPierceプロテインA/G Plusアガロースビーズを用いて免疫沈降を実施した。沈降させたタンパク質を、4x NuPAGE(登録商標)LDS試料緩衝液+0.5%βMEで、90℃で10分間溶出させた。10μL(IP)または30μL(インプット)をNuPAGE(登録商標)4~12%ビス-トリスゲルにローディングして電気泳動し、上記のウェスタンブロッティングにおいて検出した。全長ビリオンの検出(図6C)では、ITR-CMV-EGFP-T2A-Luc-ITRおよびpRepプラスミドを、AAV2による上記のトランスフェクションに添加した。AAV2カプシドの熱変性を回避するため、代わりに複合体を0.2Mグリシン、pH2.8で溶出し、溶出液を等しい体積のトリスpH8.5で中和した。精製されたAAV2調製物を溶出および中和緩衝液で並行して処理し、これらの条件でカプシドが変性しないようにした。対照、IP、インプット、および上清画分をDNA分解酵素I処理し、抵抗性の(パッケージングされた)ベクターゲノムコピーを、導入遺伝子カセットのCMVプロモーター領域を検出するプライマーおよびプローブを用いるTaqMan qPCR増幅(Applied Biosystems 7500、Life Technologies)により定量化した。
【0071】
実施例15 架橋
培養密度約80%のHEK293細胞の6ウェルプレートにおいて、適切な血清型のCMV-HA-VP1、CMV-VP3、およびCMV-AAP2プラスミド各2μgを用いてPEIトランスフェクションを実施した(表示される箇所のみCMV-AAP2添加)。無血清培地においてPEI Max(Polysciences)/DNA比を1.375:1(w/w)に維持した。36時間後、cOmplete(商標)miniプロテアーゼ阻害剤を補充したM-PER(商標)(Thermo)緩衝液を用いてプレートでの溶解を実施した。溶解物を3つに分け、最終濃度5mMのグルタル酸ジスクシンイミジル(DSG、Thermo)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS、Thermo)、またはモック処理として等しい体積のDMSOで処理した。反応物を氷上で1時間インキュベートし、定期的に混合し、次いで1Mトリスでクエンチした。NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer+2-メルカプトエタノールを添加して、試料を10分間煮沸し、SDS-PAGEゲルにローディングし、B1抗体を用いるウェスタンブロットにより調べた。
【0072】
実施例16 RNA定量化
粗ウイルス調製/力価測定に記載される通りトランスフェクションを実施した。Qiagen RNeasy mini(登録商標)キットを用いて、製造業者の説明書に従って36時間後にRNAを採取した。TURBO DNA-free(商標)キット(Invitrogen)を製造業者の説明書(厳密なDNA分解酵素処理プロトコール)に従って使用し、混入しているDNAを試料から除去した。iScript(商標)キット(BioRad)を用い、各試料由来の総RNA250ngを使用してcDNA合成を実施した。次いで反応物を10倍に希釈し、希釈されたcDNA5μLを、PowerUp(商標)SYBR(商標)Green Master Mix(Applied Biosystems)およびイントロンの、イントロンをまたがる、またはGAPDHのプライマーとともに調製された各qPCR反応に使用し、スプライシング無しの、スプライシングされた、またはハウスキーピング遺伝子産物を検出した。
【0073】
実施例17 透過型電子顕微鏡
クロマトグラフィー精製されたAAV3およびAAV3stopに対するネガティブ染色では、ベクター試料(5μLまたは50μL液滴)およびブランク緩衝液対照を、200メッシュ炭素およびホルムバールでコーティングされたニッケルグリッドに吸着させ、すすぎ、2%酢酸ウラニル水溶液で30秒間染色し、次いで濾紙に吸収させて除き、風乾させた。デジタルTIFFファイル画像取得のためAMT XR41デジタルCCDカメラ(Advanced Microscopy Techniques、Woburn、Massachusetts)と接続されたFEI Tecnai G2 Spirit透過型電子顕微鏡(FEI、Hillsboro、Oregon)を加速電圧100kVで使用して、全てのグリッドを撮像した。AAV試料のTEMイメージングを評価し、デジタル画像を2kx2kピクセル、16ビットの解像度で取得した。
【0074】
実施例18 in vitroでの形質導入
AAV-CMV-EGFP-T2A-Lucの適切な血清型およびGC粒子を、24時間前に感染多重度20粒子/細胞のヒトアデノウイルス5(hAd5)を予め感染させた、96ウェルプレート上のHEK-293細胞に添加した。24および48時間時点で細胞をEVOS(登録商標)FL Imaging Systemにより撮像し、その後緩衝液を含有するD-ルシフェリンを添加し、Synergy H1マイクロプレートリーダー(BioTek;Winooski、VT)を使用して発光を測定した。
【0075】
実施例19 表
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
実施例20 AAP要求は全てのAAVクレードにわたって広範に及ぶ
VPタンパク質の全数(すなわち、VP1、2、および3)からカプシドをアセンブルするのにAAPが必要かどうかを試験するため、AAPリーディングフレームにおける早期終止コドン、VPにおけるサイレント突然変異により、rep-capトランスプラスミドからAAP発現を失わせた(図1A、AAPstop60)。哺乳動物AAV血清型にわたるAAP要求の包括的な評価を目的として、各AAVクレードの少なくとも1つのメンバーを含む12の血清型についてAAPstop60を生成した。AAPの非標準のCTG開始コドンを考慮して、AAPstop60突然変異を、潜在的な代替開始コドンの十分に下流、ただしAAP2機能に必須であることが示されている(Naumer et al., 2012, J. Virol., 86:13038-48)領域の上流に来るように位置づけた。AAPタンパク質が失われたことを検証するため、2つの代表的な血清型のAAP ORFのC末端領域に血球凝集素タグを挿入した(図1A、AAP-HA)。これらの構築物をトランスフェクトした全細胞溶解物をウェスタンブロットにより分析し(図1B)、AAPstop60が、代替開始コドンから翻訳される全長AAPまたは任意のより短いタンパク質産物の喪失をもたらすことを確認した。AAP-HAレーンの二重のバンドはさらなる下流の開始コドンの可能性を支持し、終止コドンがその後ろに配置されていることを裏付けている(図1B)。
【0081】
AAPstop60および野生型AAP(WT)プラスミドから組換えAAVベクターを産生し、DNA分解酵素抵抗性粒子(DRP)を定量化するqPCRにより力価測定した。AAPstop60ベクター力価から、3つのVPタンパク質全てが存在すれば、AAPはいくつかの血清型ではビリオンをアセンブルするのに厳密には必要でないことが明らかである(図1C)。むしろ、血清型全体でAAP要求は広範に及び、AAPstop60ベクターはrh32.33ではWT力価の39%も産生し、AAV8ではWT力価の0.035%しか産生しない。この観察は、VP3単独のカプシド、特にAAV9およびAAV1をアセンブルするのにAAPが絶対的に必要であることを実証した以前の発見と対照的である(Sonntag et al., 2011, J. Virol., 85:12686-97)。
【0082】
DRP力価測定の利点は、測定値の差異による偏りが存在しない、同じベクターゲノムを有する任意のカプシド血清型のウイルスを定量化する能力である。しかしDRPは、カプシドアセンブリの下流で発生するプロセスであるウイルスゲノムパッケージングも受けた、アセンブルされた粒子の量を測定する。さらに、DRPはパッケージングされていない空のAAVビリオンを評価しない。カプシドアセンブリを直接アッセイし、低いAAPstop60力価を有する血清型がパッケージング欠損によるものである可能性を除外するため、アセンブルされたAAV2カプシドにのみ存在する立体構造エピトープを認識するA20カプシドELISAを実施した。A20はAAV3と交差反応し、AAPが必要なAAV(AAV2)およびAAPstop60条件においてアセンブリを実現するAAV(AAV3)について直接アセンブリをアッセイすることが可能である。両血清型についてのA20 ELISAデータにより、アセンブリのDRP間接的な測定が裏付けられた(図1D)。
【0083】
実施例21 VPタンパク質安定性におけるAAPの役割
アセンブリにおけるAAP依存性について観察された範囲が、AAPstop60突然変異体に代替コドンを使用することで課されるVP翻訳効率の変動によるものではないことを確実にするため、WTおよびAAPstop60構築物により産生されるVPタンパク質レベルを調べた。B1モノクローナル抗体は、AAV4およびrh32.33を除き、本研究で試験されたAAV全てにわたって、変性条件でVPタンパク質の保存された直線状エピトープを検出し、ほぼ全ての血清型をアッセイすることを可能にする。各WT力価の10%またはそれ超を産生するAAPstop60については、VP2またはVP3タンパク質レベルではほとんど差が観察されず、VP1レベルではわずかな低下が観察され(図2A)、一方、この閾値未満の力価を有するAAPstop60はVPタンパク質レベルの劇的な低下を示す(図2B)。観察されたVPレベルの低下が潜在的な翻訳の欠損によるものかどうかを試験するため、AAP2をAAPstop60とともにトランスで共発現させた(レスキュー;図2B)。影響を受けた血清型全てについて、VPタンパク質の相当の回復が観察された。さらに、WT、AAPstop60、またはレスキューの転写物レベル間では差が観察されず(図2C)、AAPの非存在下でのVPタンパク質の喪失が、翻訳後に(または翻訳と同時に)発生する可能性が最も高いことを示した。
【0084】
不安定性の機構として分解について調べるため、AAV8 AAPstop60をトランスフェクトした細胞を、漸増濃度のプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ、E1阻害剤MLN7243、または液胞特異的H+ATP分解酵素阻害剤バフィロマイシンで処理した(図2D)。これにより、必要な酸性化を阻害することで、ユビキチン-プロテアソーム経路の最初期および最終期のステップ、ならびにリソソーム分解またはオートファジーの後期のステップの試験が可能となった。リソソームでの酸性化を阻害すると、AAV8 VP3タンパク質の軽度だが用量依存性のレスキューがもたらされた。プロテアソームの阻害には、用量依存的にAAV8 VPタンパク質における強力なレスキューが付随するが、これはアセンブルされたカプシドのレスキューを伴わなかった(図2E)。E1阻害により、薬物濃度とは独立な等しく軽度~中度のVPレスキューがもたらされた。まとめると、これらの結果は、AAPの非存在下でVPタンパク質が不安定であることは主にプロテアソーム分解に起因する可能性があり、これは部分的にユビキチンとは独立でありうることを示唆している。リソソーム分解またはオートファゴソーム分解も、VPタンパク質の一部を分解しうる。
【0085】
AAV8 VP分解の速度を試験しようと、タンパク質合成をシクロヘキシミド(CHX)により遮断し、時間が進行するごとにタンパク質溶解物を採取した(図8A)。AAPstop60溶解物で予期されるように、CHX処理なしでも、かつ感受性の高い検出試薬による長い曝露時間にもかかわらず、検出するにはVPタンパク質レベルがあまりに小さかった。しかし、AAPの存在下では、CHX処理の全ての時点でVPタンパク質レベルが一定のままである。これは、AAPの存在下ではカプシドが迅速にアセンブルされるため、かつ、アセンブルされたVPタンパク質は分解されにくく、VPバンドが持続するためである可能性が高い。
【0086】
主要なクレードにわたって観察されたAAP表現型のスペクトルを前提として、VP構造のどのエレメントが、観察されたAAP要求を課すのか、またはこれらの機能を独立して実施する能力をいくつかのVPに付与するのかについての見識を得るため、主要なAAV血清型に対する仮想の進化上の中間体(AncAAV)9種についても試験した(Zinn et al., 2015, Cell Rep., 12:1056-68)。天然血清型と同様に、AAPstop60 AncAAVでも広範なAAP要求が観察された(図3A)。
【0087】
AAPstop60の早期終止コドンは、AAP2機能に必要であることが示されているドメインの上流に配置されているが、AAPの高度に保存された領域(残基52~57)の下流にある(図9、保存されたコア)。このドメインは、欠失分析によりAAP2機能にとって重要であることが示されたが、存在するAAPのさらなるC末端部分なしにVP3単独カプシドをアセンブルするのには十分でなかった(Naumer et al., 2012, J. Virol., 86:13038-48)。その他の血清型におけるAAPは未だ欠失分析により試験されておらず、またAncAAVを生成したアルゴリズムはVP ORFのみに適用されており、AAPに対して予測されない結果を有しうるため(Zinn et al., 2015、Cell Rep., 12:1056-68)、我々は、部分的に機能性のN末端AAP(AAPN)がいくつかのAAPstop60構築物から発現され、試験を行った21のAAVにわたって観察された様々なAAP要求に寄与するかどうかを試験したかった。そのAAPstop60がWT力価の少なくとも10%を産生する6種のAAV、およびAAPなしにVP3単独カプシドをアセンブルすることが最近実証されたAAV4(Earley et al., 2017, J. Virol., 91:e01980-16)について、早期終止コドンをAAP ORFの残基約23に配置した(VPにおけるサイレント突然変異)さらに上流の停止構築物(AAPstop20)を生成した。これらのうち、AAV5、rh32.33、およびAAV4 AAPstop20はウイルスを産生し、AAV3、AAV9、Anc110、およびAnc113は産生しない(図3B)。B1抗体はAAV4およびrh32.33を検出しないが、残りのAAPstop20構築物から産生されたVPタンパク質レベルは力価を反映している(図3C)。図2とまとめると、これらの結果は、安定性が、3つのカテゴリーのうち1つに入るVPタンパク質の血清型特異的な特性であることを実証している:(i)独立して安定、(ii)安定性にはAAPNのみが必要、または(iii)全長AAPが必要。これらの結果は、VP安定性におけるAAPの役割を明確に示し、広範なAAP要求に対する説明をもたらす。特にAAPNのみが必要な血清型におけるAAPstop60とWT力価との間の不一致から、AAPが埋め合わせるいくつかの血清型のVPにおけるさらなる短所、およびAAPのC末端3分の2(AAPC)に対し主にAAPNに含有する潜在的に別個の機能が指摘される。VP安定性、AAPstop60力価、およびAAPstop20力価を考慮して、明確にするため、AAP表現型を(i)AAP非依存性、(ii)AAPC非依存性、および(iii)AAP依存性として分類した(図3D)。さらに、AAPC非依存性血清型のAAPNがAAP依存性血清型のウイルス産生をレスキューすることができないことを実証することにより、AAPC非依存性の表現型がVPタンパク質の特性であり、十分に機能性のAAPNの結果ではないことが示された(図10)。
【0088】
異なるAAP表現型のVPを有する血清型が同じ分解機構を受けるかどうかを試験するため、AAV8について事前に実施されたのと同じようにAAV3タンパク質の分解を遮断した(図8B)。ボルテゾミブによるプロテアソーム阻害では、AAV8と同様に用量反応性の強力なレスキューがもたらされ、MLN7243によるE1阻害では最大用量でVPがレスキューされた。AAV8とは異なり、バフィロマイシンによりリソソームでの酸性化を阻害すると、用量に依存した形でAAV3 VPレベルが強力にレスキューされ、AAPC非依存性の血清型(または少なくともAAV3)が、リソソーム分解またはオートファジーをより受けやすい可能性があることを示した。これらの結果は、AAPNはAAV8 AAPstop60溶解物には存在するがAAV3 AAPstop20溶解物には存在しないことから、AAPNが、リソソーム分解を遮断するかその他の手段によって、分解の一次手段としてのプロテアソームをどうにかして促進することも示唆しうる。
【0089】
実施例22 AAPCはビリオン形態、感染性、または安定性に影響を及ぼさない
多くの血清型で、AAPNは単独で相当量のウイルス産生を容易にするが、AAPNによりアセンブルされた粒子が適切な形態および感染機能を保持するかどうかについて次に取り組んだ。AAV3 WTおよびAAV3AAPstop60ベクターのTEMイメージングにより、同一の肉眼粒子形態が示される(図11A)。AAPC喪失が感染能力に作用するかどうかを試験するため、AAV9、AAV3、およびそれらのAAPstop60ベクターを、培養物中でHEK293細胞に対して試験し(図11B、C)、AAPCなしでアセンブルされたウイルスが感染能力を保持していることを実証した。さらに、これらの粒子の融解温度を試験し、ほとんど差が観察されなかった(図11D)。
【0090】
実施例23 AAP要求は仮想AAV系統発生の状況において分枝特異性を示す
アセンブリ機能に関与するVP構造を特定するための次のステップとして、わずかな遺伝子距離にわたる表現型の差を特定することを目標として、試験された広い遺伝子範囲のAAVカプシドにわたってAAP表現型がどのように分岐しているかについての概要を探った。天然血清型12種および祖先バリアント9種のAAP表現型を、再構築された系統発生に相関させた(図3E)。これにより、分枝特異的なAAP依存性プロファイルが明らかとなり、系統発生学的分岐点によりAAP表現型の明らかな分岐が説明された。その他の明らかな傾向の中で、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、およびAnc84は、AAV8およびrh.10で終結する十分に依存性の系統を含み、したがって分枝Dと呼ばれることになる(図3E、赤い矢印)。Anc82分岐点では、その後継であるAnc110においてAAP依存性からAAPC非依存性への表現型スイッチ(phenotypic switch)が観察される。Anc110から分岐する血清型、rh8およびAAV9もAAPC非依存性であり、この分枝を分枝Iと命名した(図3E、緑の矢印)。
【0091】
実施例24 表現型-系統発生マッピング分析により、AAPC非依存性アセンブリにおいて機能する一連の残基が明らかとなる
AAP表現型が系統発生内で分枝特異的な傾向を有するという観察により、アセンブリ機能に不可欠なVP構造のエレメントを特定する容易な方法の機会が提示された。VP配列がこれらの分枝のそれぞれに沿ってわずかな差で分岐することを前提として、各分枝のメンバー内のみで相同な一連の残基がカプシドアセンブリに機能的に寄与する可能性が高いと仮定した。この目的のため、分枝Dおよび分枝Iメンバーで多重配列整列化を生成した。整列化内で合計149の位置が変動したが、12の位置のみで、残基が分枝I内で保存され、分枝Dでは同一性が異なるが共有される。これらの12個のうち、8個の独立した残基および2対の隣接する残基がVPにおいて10の部位を含む。これらの部位のうちいくつかでは、分枝Iメンバー内で残基同一性が分岐している。しかし、これらは分枝Dと対照をなす化学的特性を共有している。例えば部位1は、分枝IのAnc110およびrh8ではスレオニン、AAV9ではセリンと、ともにヒドロキシル残基であるのと比較して、分枝D血清型では塩基性リジンである。原因となる構造上の決定因子をマッピングするため、再構築された系統発生に沿って表現型スイッチを特定し、次いで目的の表現型について分岐している2つの系統にわたって保存された差を調べる手法を表現型-系統発生マッピングと命名した。
【0092】
実施例25 AAPC非依存性アセンブリおよびVPタンパク質安定性を付与する機能性モチーフは、異種のカプシドに導入可能である
10の部位が、カプシドアセンブリにおいて機能するモチーフを構成するかどうかを試験するため、分枝I独自物を分枝Dのメンバーに移植し、試験して、生じたハイブリッドがAAPC非依存性アセンブリ機能を獲得するかどうかを決定した。分枝Iがそこから分岐する分岐点であるAnc82を、これらの突然変異におけるバックグラウンドとして選択した。分枝I血清型に対して最も近い類縁物(relative)として、Anc82は、いくつかの標的とされる突然変異を許容し、機能性を保持する可能性がより遠位の類縁物よりも高い。Anc82の10の部位を全て、部位特異的突然変異誘発によりまとめて分枝I独自物に突然変異させ、82DIと命名されるバリアントを作り出した(図4A)。82DIAAPstop60はAAPC非依存性アセンブリ機能を獲得した(図4B)。この表現型を付与するのに必要な最小限のモチーフを決定するため、各部位を個別にその分枝D独自物に復帰させた。復帰変異体は全てAAP依存性であり(図4C)、表現型-系統発生マッピングを使用して特定された10の部位が、カプシドアセンブリに不可欠な機能性モチーフを構成するだけでなく、血清型のこのサブセットにおいてAAPC非依存性アセンブリに必要な最小限のモチーフを含むことを裏付けている。
【0093】
このDIモチーフがVPタンパク質安定性に作用するかどうかを次に評価した。その他のAAP依存性血清型と一致して(図2B)、Anc82はAAPstop60条件ではVPレベルの劇的な低下を示すが、82DIAAPstop60は示さない(図4D)。82DIのAAP表現型を適切に分類するため、Anc82およびDIについてAAPstop20を生成し、82DIstop20におけるタンパク質喪失を観察し、82DIがAAPC非依存性であることを示した(図4D)。
【0094】
カプシド全体に対するAAPC非依存性アセンブリのより広範な影響を評価するため、82DIの生物物理学的特性および形質導入能力を、その親株であるAnc82と比較してさらに特徴付けた。82DIのTはAnc82より5℃低く(図4E)、生物物理学的に別個の実体である主要な兆候である(Pacouret et al., 2017, Mol. Ther., 25:1375-86)。Anc82対82DIのTおよびAAP表現型の著しい変化を考慮して、両バリアントの感染性を試験した。82DIは感染性を保持しており、形質導入はin vitro(図12A)およびin vivo(図4Fおよび12B)の両方で、Anc82と比較して適度に増大しうる。
【0095】
実施例26 AAP非依存性アセンブリに寄与する候補残基はVP三量体界面に存在する
このモチーフが粒子アセンブリにどのように影響を与えるかを試験するため、これらの残基がVPの3次元フォールド(3-dimensional fold)内、およびアセンブルされたカプシド内のどこに存在するかをマッピングした。AncAAVの結晶構造は入手不可能だが、末端の分枝D(AAV8)および分枝I血清型(AAV9)は解明されており(DiMattia et al., 2012, J. Virol., 86:6947-58;Nam et al., 2007, J. Virol., 81:12260-71)、これをDIモチーフをマッピングするための代用として使用した。10の部位のうち2つはVP N末端の非構造領域に存在するが、部位1のみがVP3の外部にある。VPの構造領域内の8つの部位のうち7つがVP三量体の3フォールド界面に位置し、近隣のモノマーに接触している(図5A~C)。AAV8(AAP依存性)三量体をAAV9(AAPC非依存性)三量体と原子レベルで比較すると、これらの部位の大部分が、AAPC非依存性三量体内ではAAP依存性三量体よりも強くモノマー間で相互作用しているという強力な証拠を示す(図5D~F)。例えば、保存されたグルタミン酸は、AAV9三量体の部位7では隣接するモノマーのヒスチジンと塩橋を形成するが、AAV8の部位7のロイシンとは塩橋を形成できない(図5D)。AAV9では、隣接するVPモノマーの部位8において、保存されたアスパラギンとグルタミンの間で水素結合が生じる。AAV8では、GlnからAlaへの置換のためこの結合が実現不可能である(図5E)。部位10は3フォールド軸に存在し、保存されたフェニルアラニンの下で、AAV9のバリン残基が、AAV8のアラニンよりもはるかに大きい疎水性相互作用ネットワークを作り出す(図5F)。さらに、三量体の3つのモノマー全ての間で同時に部位10の相互作用が存在する。これらの観察結果は、AAPC非依存性血清型において、このモチーフが三量体安定化の一助となり、おそらくは全長AAPの非存在下でカプシドアセンブリの核となることを示唆している。
【0096】
実施例27 AAPC非依存性カプソマー核形成
次に、AAPC非依存性AAVのVPはAAPCの非存在下で会合してオリゴマーになることができるが、AAP依存性血清型のVPは全長AAPが存在しない限り強く会合しないと仮定した。この理論を試験するため、AAP依存性およびAAPC非依存性AAVのVP-VP相互作用を、VP3を、ベイトとしてのHA-タグ付きVP1とともに共免疫沈降させることにより評価した(図6A~B)。試験されたAAPC非依存性VP1、AAV3および82DIは、インプットにおけるVP3レベルが小さいにもかかわらず、全長AAPの非存在下でVP3を共沈させることができた。反対に、AAP依存性のAAV2およびAnc82 VP1はいずれも、相当のインプットレベルにもかかわらずほとんどVP3を共沈させなかった(図6B)。AAP2を付加すると、AAP依存性血清型でもVP3共沈が可能となり、AAPC非依存性血清型ではVP2およびVP3の予測分子量の間の未知のVP種が共沈した(*印、図6B)。これらは代替開始コドンから翻訳されたVP2様タンパク質、またはAAPにより安定化したVP1 N末端切断/分解産物である可能性がある。+AAP条件においてAnc82およびAAV3 VP3インプットレベルを相当に増大させたにもかかわらず、これらのデータは上記の仮説を支持する。
【0097】
三量体もしくは五量体などの規定される形状の種へのオリゴマー化をAAPが促進しているかどうか、またはco-IPにより観察されたVP-VP相互作用の増大がよりランダム化された会合であるかどうかの試験を開始するため、トランスフェクトされた細胞溶解物に架橋剤を添加し、ウェスタンブロットによりVP種を調べた(図6C)。AAPの存在下で、DSG(7オングストローム架橋アーム)を添加すると、スーパーシフトした単一のVPバンドが97kDa付近に現れ、DSS(11オングストローム架橋アーム)を添加すると、それよりわずかに大きいスーパーシフトした二重線が現れる。予測されない泳動パターンのため架橋種の分子量を決定するのは困難であるが、別個のバンド形成は、AAPが、規定される形状またはモノマー数のVP-VP相互作用を促進することを示唆しており、しかしカプシドアセンブリ、AAPにより促進される会合に関与する宿主タンパク質とVPの会合増大も示す可能性がある。
【0098】
VPオリゴマー化プロセスが全長カプシドへのアセンブリとは別々に調べられていたことをさらに確実にするため、rep、aap2、ヘルパー、およびITR隣接レポーターゲノムプラスミドをトランスで付加して、AAV2 VPを用いてIP実験を繰り返し、アセンブルされたDRPを定量化した(図13A)。インプットおよび上清画分でのみ相当量のゲノムが検出されたが、IP画分には存在しなかった。完全にアセンブルされたカプシドを定量化するELISAがこれらの結果を反映しており(図13B)、オリゴマー化されたVPのみが沈殿したことを示した。まとめると、これらのデータは、VPタンパク質安定性におけるAAPの役割に加えて、AAPがVPタンパク質のオリゴマー化も促進して正二十面体のアセンブリの核となり、これによりカプシドアセンブリプロセスの効率が潜在的に増大しうることを支持している。
【0099】
他の実施形態
方法および組成物が複数の異なる態様と併せて本明細書に記載されているが、種々の態様についての上記の記載は、方法および組成物の範囲を例示することを意図し、制限する意図はないことを理解されたい。他の態様、利点、および改変は以下の請求項の範囲内である。
【0100】
開示される方法、組成物、およびその他の材料は、本明細書に記載の通り開示されるが、これらの方法、組成物、およびその他の材料の組合せ、サブセット、相互作用、群なども開示されることが理解される。すなわち、これらの組成物および方法についての各種々の個別のおよび集合的な組合せおよび順列への特定の言及は明確に開示されない可能性があるが、それぞれが本明細書において明確に企図および記載される。例えば、特定の組成物または特定の方法が開示されかつ論じられ、複数の組成物または方法が論じられる場合、そうではないと明確に示されない限り、組成物および方法のあらゆる組合せおよび順列が明確に企図される。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せも明確に企図および開示される。

本願明細書に記載の発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチド。
[2]
配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する、上記[1]に記載のAAVカプシドポリペプチド。
[3]
配列番号3のアミノ酸配列を有する、上記[1]に記載のAAVカプシドポリペプチド。
[4]
配列番号4の核酸配列によりコードされる、上記[1]に記載のAAVカプシドポリペプチド。
[5]
上記[1]から[4]のいずれかに記載のアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドを含む、ウイルス粒子。
[6]
導入遺伝子をさらに含む、上記[5]に記載のウイルス粒子。
[7]
配列番号4の核酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子。
[8]
配列番号4の核酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する、上記[7]に記載の核酸分子。
[9]
配列番号4の核酸配列を有する、上記[7]に記載の核酸分子。
[10]
配列番号3のアミノ酸配列をコードする、上記[7]に記載の核酸分子。
[11]
上記[7]から[10]のいずれかに記載の核酸分子を含む、ベクター。
[12]
上記[7]から[10]のいずれかに記載の核酸分子または上記[11]に記載のベクターを含む、宿主細胞。
[13]
パッケージング細胞である、上記[12]に記載の宿主細胞。
[14]
アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドをコードする核酸分子を含むパッケージング細胞であって、前記AAVカプシドポリペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、パッケージング細胞。
[15]
アセンブリ活性化タンパク質(AAP)を欠く、上記[14]に記載のパッケージング細胞。
[16]
アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を低下させる方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを有するAAVを提供するステップを含む、方法。
[17]
アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を少なくとも部分的に軽減する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを前記AAVに組み込むステップを含む、方法。
[18]
アデノ随伴ウイルス(AAV)を、そのアセンブリ活性化タンパク質(AAP)に対する依存性を低下させるように操作する方法であって、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するカプシドポリペプチドを含むAAVを操作するステップを含む、方法。
[19]
前記アセンブリ活性化タンパク質(AAP)の非存在下で前記アデノ随伴ウイルス(AAV)を培養するステップをさらに含む、上記[16]から[18]のいずれかに記載の方法。
[20]
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を配列決定するステップをさらに含む、上記[18]に記載の方法。
[21]
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の前記アセンブリ活性化タンパク質(AAP)依存性を、操作されていないまたは野生型AAVに対して比較するステップをさらに含む、上記[18]に記載の方法。
[22]
前記操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を、操作されていないまたは野生型AAVと整列させるステップをさらに含む、上記[18]に記載の方法。
[23]
配列番号1のアミノ酸配列を含み、AAP依存性についての表6に示す表示される位置のアミノ酸残基をさらに含む、AAVカプシドポリペプチド。

図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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