(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
G01D 21/00 20060101AFI20230815BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01D21/00 N
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2020053458
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】畠中 郁夫
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058120(JP,A)
【文献】特開2016-208773(JP,A)
【文献】特開2013-186717(JP,A)
【文献】特開2013-089596(JP,A)
【文献】特開2017-110916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/00
G01R 31/00-31/01,31/24-31/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交換可能なモジュールを複数備えた被試験器に対して試験を実施する試験装置であって、
試験信号を出力して、前記被試験器からの出力を計測する複数の測定器と、
前記測定器のいずれかと前記被試験器とを接続する切替部と、
前記複数の測定器からの計測結果を入力して分析する制御部とを備え、
前記制御部が、前記複数のモジュールのそれぞれについて、前記各モジュールが関わる性能に関する、前記被試験器の作動時間に応じた劣化傾向を推定して推定性能としての数値を記憶しておき、前記被試験器の試験結果が正常であった場合に、当該時点における作動時間に対応する推定性能の値と、メーカ出荷時の当該性能の値とに基づいて、前記モジュールのいずれかを新品に交換した場合に前記被試験器が故障するまでに予測される作動可能な時間を、予測故障作動時間として前記モジュール毎に算出することを特徴とする試験装置。
【請求項2】
制御部が、予測故障作動時間が長いモジュールから順に、被試験器が故障する前に新品に交換する予防交換の交換候補として選択することを特徴とする請求項1記載の試験装置。
【請求項3】
制御部が、被試験装置のそれぞれの性能を試験する試験項目毎に、交換候補のモジュールを新品に交換した場合に予想される前記被試験器の項目試験結果を、メーカ出荷時の性能の値及び当該時点の作動時間に応じた推定性能の値に基づいて予測し、予測項目試験結果として求めることを特徴とする請求項1又は2記載の試験装置。
【請求項4】
制御部が、試験項目毎に、被試験器の項目試験結果と、正常/故障を判定する基準値と、複数の交換候補と前記各交換候補に対応した予測故障作動時間及び予測項目試験結果とを表示部に表示することを特徴とする請求
項3記載の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のモジュールを備えた無線機等の性能を自動測定する試験装置であって、特に、被試験器が故障する前にモジュールの性能劣化を推定し、予防交換等の整備作業を効率的に行うことができる試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
航空機等に搭載される電子機器(ユニット)が故障すると、電子機器を構成する交換可能な複数のモジュールのうち、どのモジュールが故障したかが特定(要因解析)され、特定された故障モジュールの調整、修理又は交換が行われる。
【0003】
従来の試験装置には、複数の試験の試験結果の組み合わせをパターンとして記憶する試験結果パターン表と、各パターンに対応して故障モジュールの予測順位を特定する故障モジュール予測順位表を備えたものがある。
そして、試験を実施すると、個々の試験の試験結果の組み合わせから、試験結果パターン表を参照してパターンを特定し、故障モジュール予測順位表を参照して、当該パターンに対応する故障モジュール予測順位を求めるようになっている。
【0004】
試験結果パターン表及び故障モジュール予測順位表は、予め設計仕様に基づいて被試験器ごとに作成されて、試験装置に記憶されている。
また、従来の試験装置では、被試験器毎に、試験結果や故障モジュールの候補の順位を表示するようになっていた。
尚、従来の試験装置は、ユニット単位の試験を行うものであり、モジュール単体の試験は実施されていない。
【0005】
被試験器となる電子機器が無線機の場合、電波出力等のアナログの性能は、複数のモジュールにまたがって性能を満たすもの、つまり当該性能を実現するには複数のモジュールが必要なものがある。
このような場合、当該性能に異常があれば、それに関わる全てのモジュールを順番に交換しながら再度試験を行って、その結果に基づいて故障モジュールを探求する必要があった。そのため、ユニットの整備作業に時間を要していた。
【0006】
[関連技術]
試験装置に関する従来技術としては、特開2012-58120号公報「試験装置」(特許文献1)、特開2013-186717号公報「試験装置」(特許文献2)がある。
特許文献1には、上述した試験装置が記載されている。
特許文献2には、試験結果に基づいてモジュール毎の平均故障期間を算出し、復旧作業予算を求め、更に校正検定予算を算出して、特定期間内の保守予算を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-58120号公報
【文献】特開2013-186717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の試験装置では、ユニット単位の試験結果が不良となってから故障モジュールを特定していたため、複数のモジュールが関わる性能の場合には、故障モジュールの特定が煩雑で、整備作業に時間がかかるという問題点があった。
【0009】
尚、特許文献1及び特許文献2には、ユニットの試験結果が不良となる前に、各モジュールの性能の劣化傾向を推定して、予防交換(不良発生を防ぐための交換)の候補となるモジュールや、ユニットが故障するタイミングを予測することは記載されていない。
【0010】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、被試験器が故障する前にモジュールの性能劣化を推定し、モジュールの利用効率を向上させ、予防交換等の整備作業を効率的に行うことができる試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、交換可能なモジュールを複数備えた被試験器に対して試験を実施する試験装置であって、試験信号を出力して、被試験器からの出力を計測する複数の測定器と、測定器のいずれかと被試験器とを接続する切替部と、複数の測定器からの計測結果を入力して分析する制御部とを備え、制御部が、複数のモジュールのそれぞれについて、各モジュールが関わる性能に関する、被試験器の作動時間に応じた劣化傾向を推定して推定性能としての数値を記憶しておき、被試験器の試験結果が正常であった場合に、当該時点における作動時間に対応する推定性能の値と、メーカ出荷時の当該性能の値とに基づいて、モジュールのいずれかを新品に交換した場合に被試験器が故障するまでに予測される作動可能な時間を、予測故障作動時間としてモジュール毎に算出することを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、上記試験装置において、制御部が、予測故障作動時間が長いモジュールから順に、被試験器が故障する前に新品に交換する予防交換の交換候補として選択することを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記試験装置において、制御部が、被試験装置のそれぞれの性能を試験する試験項目毎に、交換候補のモジュールを新品に交換した場合に予想される被試験器の項目試験結果を、メーカ出荷時の性能の値及び当該時点の作動時間に応じた推定性能の値に基づいて予測し、予測項目試験結果として求めることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記試験装置において、制御部が、試験項目毎に、被試験器の項目試験結果と、正常/故障を判定する基準値と、複数の交換候補と前記各交換候補に対応した予測故障作動時間及び予測項目試験結果とを表示部に表示することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、交換可能なモジュールを複数備えた被試験器に対して試験を実施する試験装置であって、試験信号を出力して、被試験器からの出力を計測する複数の測定器と、測定器のいずれかと被試験器とを接続する切替部と、複数の測定器からの計測結果を入力して分析する制御部とを備え、制御部が、複数のモジュールのそれぞれについて、各モジュールが関わる性能に関する、被試験器の作動時間に応じた劣化傾向を推定して推定性能としての数値を記憶しておき、被試験器の試験結果が正常であった場合に、当該時点における作動時間に対応する推定性能の値と、メーカ出荷時の当該性能の値とに基づいて、モジュールのいずれかを新品に交換した場合に被試験器が故障するまでに予測される作動可能な時間を、予測故障作動時間としてモジュール毎に算出する試験装置としているので、作業者は、実際に被試験器が故障する前から、各モジュールを予防交換した場合の、被試験器が故障するタイミングを知ることができ、モジュールの利用効率を向上させると共に、整備作業の効率化を図ることができる効果がある。
【0016】
また、本発明によれば、制御部が、予測故障作動時間が長いモジュールから順に、被試験器が故障する前に新品に交換する予防交換の交換候補として選択する上記試験装置としているので、作業者は、交換候補を容易に認識できる効果がある。
【0017】
また、本発明によれば、制御部が、被試験装置のそれぞれの性能を試験する試験項目毎に、交換候補のモジュールを新品に交換した場合に予想される前記被試験器の項目試験結果を、メーカ出荷時の性能の値及び当該時点の作動時間に応じた推定性能の値に基づいて予測し、予測項目試験結果として求める上記試験装置としているので、作業者は、予測項目試験結果に基づいて、交換すべきモジュールを適切に選択することができる効果がある。
【0018】
また、本発明によれば、制御部が、試験項目毎に、被試験器の項目試験結果と、正常/故障を判定する基準値と、複数の交換候補と前記各交換候補に対応した予測故障作動時間及び予測項目試験結果とを表示部に表示する上記試験装置としているので、作業者は、被試験器の現状や、交換候補のモジュールを新品に交換した場合の予測項目試験結果及び予測故障作動時間を考慮して、予防交換の必要性の有無や、予防交換を行う場合の交換モジュール選定を総合的に判断することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】単体モジュール性能テーブルの説明図である。
【
図4】本試験装置を用いた試験の流れを示すフローチャートである。
【
図5】予防交換処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る試験装置(本試験装置)は、被試験装置(ユニット)毎に、当該ユニットを構成する複数のモジュールについて、メーカ出荷時の初期値や、過去の試験結果に基づいて、作動時間に対応する性能(劣化傾向)を推定して推定性能として記憶しておき、試験を実施する毎に、試験実施時点における各モジュールの推定性能とメーカ出荷時の性能に基づいて、各モジュールを新品に交換した場合に、ユニットが故障するまでに作動可能な時間(予測故障作動時間)を算出し、予測故障作動時間が最も長いモジュールを交換候補モジュールとして特定し、また、交換候補モジュールを新品に交換した場合に予測される試験項目毎の試験結果(予測項目試験結果)を算出するものであり、ユニットが実際に故障する前に、予防交換の候補となるモジュールや、ユニットが故障するタイミングを予測して、モジュールの利用効率及び整備作業の効率を向上させることができるものである。
【0021】
[本試験装置の構成:
図1]
本試験装置の構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本試験装置の概略構成図である。
図1に示すように、試験装置(本試験装置)1は、被試験器(被試験装置)2とネットワークにより接続され、各種の試験を実施するものである。
試験装置1は、試験コントローラ20と、各種の計測を行うn台の測定器10-1,10-2,…~10-n(測定器10と記載することもある)と、切替部30とを備えている。
【0022】
測定器10-1,10-2,…~10-nは、試験コントローラ20の指示に従って、切替部30を介して試験信号を被試験器2に出力し、被試験器2からの出力信号を受信して計測し、計測結果を試験コントローラ20に出力する。
切替部30は、試験コントローラ20と切替部制御ラインによって接続され、試験コントローラ20からの切替制御信号に従って、被試験器2に接続する測定器10を切り替える。
【0023】
試験コントローラ20は、試験全体の制御を行うコンピュータであり、基本的に、処理を行う制御部と、処理プログラムやデータを記憶する記憶部と、ネットワーク等に接続するインタフェース部とを備えている。また、試験コントローラ20は、表示部及び入力部を備えている。尚、試験コントローラ20は、請求項に記載した制御部に相当している。
後述する実施の形態で説明する各種の処理は、制御部が、記憶部に記憶された処理プログラムを起動することによって実行されるものである。
また、試験コントローラ20の記憶部には、後述する各種テーブルが記憶されている。
【0024】
試験コントローラ20は、ネットワークを介して測定器10、切替部30、及び被試験器2と接続されている。
また、試験コントローラ20は、試験結果を蓄積するデータベース(図示せず)に接続され、データベースへのデータの書き込み/読み出しを行う。
【0025】
被試験器2は、たとえば航空機等に搭載される電子機器(機器)であって、試験装置1によって実行される試験の対象となる機器である。また、被試験器2は、交換可能な複数のモジュール21-1、21-2、…21-n(モジュール21と記載することもある)を備えている。被試験器2をユニットと称することもある。
被試験器2は、ネットワークを介して試験コントローラ20に接続し、試験に必要な情報の送受信を行う。
例えば、試験コントローラ20は、被試験器2に各種の試験条件を設定し、被試験器2は、応答を送信する。
【0026】
そして、本試験装置の特徴として、試験コントローラ20は、モジュール21の単体に関する複数の性能(特性)について、作動時間に対応した性能(パフォーマンス)の劣化傾向を数値化してテーブルに記憶しておき、現時点での作動時間に応じた性能とメーカ出荷時の性能に基づいて、被試験器2が故障するまでの予測作動時間や、予防的に交換するモジュールの候補を求めるものである。
試験コントローラ20の動作については後述する。
【0027】
[単体モジュール性能テーブル:
図2]
次に、試験コントローラ20の記憶部に記憶されている単体モジュール性能テーブルについて
図2を用いて説明する。
図2は、単体モジュール性能テーブルの説明図である。
単体モジュール性能テーブルは、本試験装置の特徴部分であり、被試験器2を構成する複数のモジュール21のそれぞれに対応して、作動時間に応じて推定される性能を数値化して記憶するものである。
【0028】
図2に示すように、単体モジュール性能テーブルは、被試験器(ユニット)名称と、モジュール名称と、シリアルナンバーに対応して、当該モジュールが関わる性能(特性)の項目毎に、試験日時と作動時間に応じて、予測される性能の数値を記憶しており、被試験器を構成する単体のモジュールごとに設けられている。
【0029】
一般に、モジュール21の性能は、被試験器に組み込まれて動作し続けると、メーカ出荷時の性能から、作動時間に応じて徐々に劣化していくことが予想される。
本試験装置の試験コントローラ20は、これを前提に、過去に実施した試験結果や同種類のモジュール21の故障履歴等に基づいて、作動時間に対応した性能(推定性能)を数値として算出する。
【0030】
図2の例では、当該モジュールが関わる性能の項目(性能A、性能B、性能C)について、予定されている試験日時毎の作動時間に対応した推定性能を記憶している。尚、性能A、性能B、性能C…等の性能の項目は、「特性」と称することもある。
【0031】
ここで、作動時間「0」に対応した列には、メーカ出荷時の性能(メーカ出荷時性能)を示す値(X0、Y0、Z0)が記載されている。メーカ出荷時の性能は、設計値である。
作動時間「0」以外の各時点における推定性能は、例えば、メーカ出荷時性能を100とした場合の、各時点での性能(能力、パフォーマンス)を表す数値としてもよい。
【0032】
図2の例では、当該モジュールの性能Aは、メーカ出荷時にはX0であるが、作動時間100時間の時点の推定性能はX1、作動時間200時間の時点ではX2、というように変化していき、作動時間500時間の時点ではX5になると推定されている。
【0033】
つまり、試験コントローラ20は、個々のモジュールについて、各性能の劣化傾向を推定しているものである。モジュールによって、徐々に劣化していくものもあれば、あまり変化しないものの、ある時点を過ぎると急激に劣化するものもあり、試験コントローラ20は、これまでの実績に基づいて推定性能を求めて、単体モジュール性能テーブルを生成するものである。
そして、試験コントローラ20は、試験を実施する度に、最新の試験結果を反映させて推定性能を算出しなおして、単体モジュール性能テーブルを更新するようになっている。
【0034】
[予防交換のサポート]
被試験器2の整備では、試験を実施して故障と判定される前に、予防的にモジュールを交換する場合がある。
本試験装置では、予防交換の作業をサポートするために、現時点で予防交換をする必要があるか、また、予防交換を行う場合にはどのモジュールを交換するのが望ましいか、を作業者が判断する際の判断材料となる情報を提供する。
これらの情報は、性能改善予測画面として表示される。
【0035】
[性能改善予測画面:
図3]
性能改善予測画面について、
図3を用いて説明する。
図3は、性能改善予測画面の説明図である。
性能改善予測画面は、試験実施後に試験コントローラ20によって表示され、特に、試験結果が「正常」であった場合に表示されるものである。
作業者は性能改善予測画面に表示される情報に基づいて、予防交換をするか否か、またどのモジュールを交換するか、といった判断を行う。
試験コントローラ20の記憶部には、性能改善予測画面を表示するための元になるデータが記憶され、必要に応じて制御部が演算処理を行って値を算出し、表示部に表示する。
【0036】
図3に示すように、性能改善予測画面は、ユニット毎に表示されるものであり、ユニットに対して実施された試験項目毎に、試験結果、正常判定基準(しきい値)を表示すると共に、試験コントローラ20で解析した交換予測結果を表示する。
更に、性能改善予測画面は、各状態に応じた予測故障作動時間(予測される故障タイミングまでの作動時間)も表示する。
【0037】
「試験結果」は、被試験器(ユニット)に対して各試験項目の試験を実施した結果であり、当該ユニットの結果は、試験項目1は「良」、試験項目2は「75」、試験項目3は「95」というように、記憶された試験結果が試験項目毎に表示される。
【0038】
「正常判定基準」は、故障か否かを判定するための基準となるしきい値であり、試験項目1は「良」、試験項目2は「70」、試験項目3は「75」というように予め設定されている。
【0039】
「交換予測結果」は本試験装置の特徴部分であり、当該ユニットにおいて、現時点で予防交換の候補となるモジュール(交換候補モジュール)と、交換候補モジュールを新品に交換した場合に予測されるユニットの試験項目毎の試験結果(予測項目試験結果)と、新品に交換した場合、ユニットが故障するまでの予測作動時間(予測故障作動時間)を表示する。
交換候補モジュールは、試験コントローラ20によって選択され、予測項目試験結果が算出されて、性能改善予測画面に表示される。交換予測結果については後述する。
【0040】
[予測故障作動時間の算出]
本試験装置では、予防交換をサポートする情報として、予測故障作動時間を算出する。
上述したように、予測故障作動時間とは、現時点から被試験器(ユニット)2が故障するまでの作動時間であり、試験コントローラ20が、現時点での作動時間や推定性能、メーカ出荷時の初期値に基づいて、過去のユニット及びモジュールの故障の情報や、故障までの作動時間の実績等を参照して算出する。
【0041】
図3に示した「試験結果」に対応する予測故障作動時間(T1)は、予防交換をしない場合の、現時点(試験実施後)からユニットが故障するまでの予測作動時間である。作業者は、予測故障作動時間(T1)によって、予防交換を行わない場合の故障のタイミングを予測することができるものである。
【0042】
予測故障作動時間(T1)の算出は、
図2に示した単体モジュール性能テーブルを参照して、試験日時における作動時間に対応する推定性能と、これまでのユニットの故障実績等に基づいて経験的に求めた計算式を用いてもよいし、それらのデータを学習させ、予測故障作動時間(T1)を算出するモデルを搭載したAI(Artificial Intelligence)を用いて行ってもよい。
【0043】
また、「正常判定基準」に対応する予測故障作動時間(T0)は、最低限の基準を満たす状態で、現時点からユニットが故障するまでの予測作動時間である。予測故障作動時間(T0)は、例えば、基準値に応じて予め設定された時間から実際の作動時間を減じた値としてもよい。
【0044】
そして、作業者は、例えば、正常判定基準に対応する予測故障作動時間が特定の設定値より短くなった場合には、予防交換を検討する。
その際、例えば、予防交換をしない場合の予測故障作動時間(T1)と、正常判定基準に対応する予測故障作動時間(T0)とを比較して、T1がT0に比べて十分長ければ、予防交換の必要はないと判断し、T1がT0にかなり近い場合には、予防交換の必要があると判断する。
【0045】
[交換候補モジュールの選択]
試験コントローラ20は、試験実施後、予防交換を行うとしたらどのモジュールを交換するのがよいかを予測して、性能改善予測画面に表示する。
具体的には、試験コントローラ20は、各モジュールを新品に交換した場合の予測故障作動時間を算出し、予測故障作動時間が長いモジュールを交換候補モジュールとして選択する。
図3の例では交換候補モジュールを3つ(候補M1、候補M2、候補M3)選択している。
【0046】
各モジュールに対応する予測故障作動時間の算出について説明する。
ユニットの試験結果が良であった場合、当該性能(特性)に関わるモジュールは現時点では不良とはなっていないものの、性能としては新品に比べて劣化している。
試験コントローラ20は、このことを反映させて、現時点で各モジュールを新品に交換した場合に、ユニットが故障するまでの期間をどの程度長くできるかを比較するため、予測故障作動時間を算出する。
【0047】
交換候補モジュールに対応する予測故障作動時間の算出には、
図2に示した単体モジュール性能テーブルを用いる。
具体的には、交換対象のモジュールの性能としては、新品(メーカ出荷時)の性能の値を用い、当該ユニットの他のモジュールについては、現時点での推定性能の値を用いて、被試験器全体の予測故障作動時間を算出する。これが、当該モジュールを交換した場合の予測故障作動時間となる。
交換候補モジュールの予測故障作動時間も、上述した予測故障作動時間(T0)と同様の方法で算出される。
【0048】
そして、このような予測故障作動時間を、当該ユニットの全てのモジュールについて算出して比較し、例えば、予測故障作動時間が長いものから順に、3つのモジュールを交換候補モジュールとして選択する。
図3の例では、交換候補モジュールとして、候補M1、候補M2、候補M3が選択されており、それぞれの予測故障作動時間はt1、t2、t3(t1>t2>t3)となっている。
つまり、現時点で候補M1を交換すれば、当該ユニットは、これから時間t1が経過するまでは故障せずに作動することが予測されており、最も有力な予防交換候補となっている。
尚、
図3の性能改善予測画面において、予測故障作動時間の代わりに(又は、予測故障作動時間に加えて)、推定故障タイミングを算出して表示してもよい。
【0049】
[予測項目試験結果:
図3]
次に、性能改善予測画面の交換予測結果で表示される予測項目試験結果について説明する。
予測項目試験結果は、交換候補モジュールを新品に交換した場合に予測されるユニットの試験結果であり、試験コントローラ20が、各モジュールの推定性能、被試験器及び試験項目に対応して記憶された計算式によって算出した数値である。
計算式は、実績や実験によって求められている。
【0050】
例えば、あるユニットの、ある試験項目の予測項目試験結果が、
予測項目試験結果=定数a×Σ(性能A×性能B+性能C)-定数b 式(1)
で算出されるものとする。
カッコ内の項は、モジュール単体の性能を示す項であり、式(1)では、当該試験項目に関わる全てのモジュールの性能を合算して、定数aを乗算し、定数bを減算している。
【0051】
式(1)の性能A、性能B、性能Cには、
図2に示した単体モジュール性能テーブルに記憶されているメーカ出荷時性能の値又は試験実施日時点の作動時間に対応した推定性能の値が入力される。
具体的には、交換候補モジュールについてはメーカ出荷時性能の値を用い、それ以外のモジュールについては試験実施日時点の推定性能の値を用いて、当該試験項目に関わる全てのモジュールの性能を反映させて、交換候補モジュールだけを新品に交換した場合の予測項目試験結果を算出する。
【0052】
同じユニットであっても、別の試験項目については別の計算式で算出することになり、また、試験結果に基づいて
図2の単体モジュール性能テーブルが更新された場合には、異なる推定性能の値を用いて算出することになる。
試験コントローラ20は、交換候補モジュールについて、試験項目ごとに予測項目試験結果を算出して記憶し、性能改善予測画面に表示する。
【0053】
図3の例では、試験項目2について、候補M1を交換した場合の予測項目試験結果は「90」、候補M2を交換した場合の予測項目試験結果は「85」、候補M3を交換した場合の予測項目試験結果は「75」と算出されている。
【0054】
ここで、試験項目2の実際の試験結果は、「75」であるから、候補M1、候補M2については、交換した場合にユニットの状態が改善されると考えられる。しかし、候補M3については、交換したとしても現状と変わらない試験結果となることから、候補M3を交換しても試験項目2については改善しないことがわかる。
【0055】
作業者は、上述した予測故障作動時間に加えて、全ての試験項目について交換候補モジュールの予測項目試験結果を参照し、総合的に判断して予防交換を行うモジュールを特定することができるものである。
尚、予測項目試験結果は、作業者によって指示が入力された場合に、算出して表示するようにしてもよい。
【0056】
[本試験装置を用いた試験の流れ:
図4]
本試験装置を用いた試験の流れについて、
図4を用いて説明する。
図4は、本試験装置を用いた試験の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、本試験装置の試験コントローラ20は、被試験器が選択されて(S11)、試験が実施されると、試験結果を取得し(S12)、今回の試験結果や過去のデータに基づいてモジュール単体の性能を推定し、
図2に示した単体モジュール性能テーブルを更新する(S13)。
【0057】
そして、試験コントローラ20は、試験結果に基づいて被試験器が故障しているか否かを判定し(S14)、「故障」と判定した場合には、故障要因を分析し(S15)、推定故障モジュールを特定して表示する(S16)。故障要因の分析は、例えば、従来と同様に試験結果パターン表と故障モジュール予測順位表に基づいて行われる。分析結果は、試験コントローラ20に記憶されて、単体モジュール性能テーブルの更新時に反映される。
作業者によって故障モジュールが交換されると(S17)、処理S19に移行する。
【0058】
処理S14で、被試験器が「正常」であると判断した場合には、試験コントローラ20は、予防交換処理を行う(S18)。
予防交換処理については後述する。
【0059】
処理S18の予防交換処理が完了した場合、及び処理S17で故障モジュールを交換した場合には、試験コントローラ20は、再試験の指示が入力されたか否かを判断し(S19)、再試験を行う場合には、処理S11に移行して再度試験を行う。
また、処理S19で再試験の指示が入力されなかった場合には、そのまま処理を終わる。
このようにして、本装置を用いた試験が行われるものである。
【0060】
[予防交換処理:
図5]
次に、
図4のS18に示した予防交換処理について
図5を用いて説明する。
図5は、予防交換処理の流れを示すフローチャートである。
図4の処理S14で「正常」と判定された場合に、予防交換処理が開始され、試験コントローラ20は、上述した予防交換を行わない場合の予測故障作動時間(T1)、正常判定基準に対応した予測故障作動時間(T2)、各モジュールを交換した場合の予測故障作動時間を算出する(S21)。
【0061】
そして、試験コントローラ20は、各モジュールの予測故障作動時間に基づいて、予測故障作動時間が長いモジュールを交換候補モジュールとして例えば3つ選択し(S22)、
図3に示した性能改善予測画面を表示する(S23)。
【0062】
作業者によって予防交換を行うか否かが選択され(S24)、予防交換が行われない場合には、
図4の「END」に移行して処理を終わる。
また、予防交換を行う旨が入力された場合には、試験コントローラ20は、交換候補モジュールのそれぞれについて、試験項目毎の予測項目試験結果を算出して表示する(S25)。
そして、作業者が交換するモジュールを特定して、予防交換を行って(S26)、
図4の処理S19に移行する。
このようにして予防交換処理が行われる。
【0063】
[実施の形態の効果]
本試験装置によれば、試験コントローラ20が、被試験装置(ユニット)毎に、当該ユニットを構成する複数のモジュールについて、メーカ出荷時性能の値や、過去の試験結果に基づいて、作動時間に対応する性能を推定して推定性能として記憶しておき、試験を実施する毎に、試験実施時点での各モジュールの推定性能とメーカ出荷時の性能に基づいて、各モジュールを新品に交換した場合に、ユニットが故障するまでに作動可能な時間(予測故障作動時間)を算出し、予測故障作動時間が長いモジュールから順に交換候補モジュールとして特定するようにしているので、ユニットが故障してから故障モジュールを特定するのではなく、ユニットが正常な内に、予防交換の候補となるモジュールや、ユニットが故障するタイミングを予測して、モジュールの利用効率及び整備作業の効率を向上させることができる効果がある。
【0064】
また、本試験装置によれば、試験コントローラ20が、交換候補モジュールを新品に交換した場合に予測される試験結果(予測項目試験結果)を算出して、実際の試験結果と共に性能改善予測画面に表示するようにしているので、作業者は、試験項目毎に実際の試験結果と交換候補モジュールを交換した場合の予測項目試験結果とを比較して、交換すべきモジュールを適切に選択することができ、モジュールの利用効率及び整備作業の効率を向上させることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、被試験器が故障する前にモジュールの性能劣化を推定し、予防交換等の整備作業を効率的に行うことができる試験装置に適している。
【符号の説明】
【0066】
1…試験措置、 2…被試験器、 10…測定器、 20…試験コントローラ、 21…モジュール、 30…切替部