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特許7330952アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールを前処理する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールを前処理する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20230815BHJP
   C23C 22/56 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C23C22/34
C23C22/56
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020515746
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 EP2018074512
(87)【国際公開番号】W WO2019053023
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】17191077.1
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】508183151
【氏名又は名称】ロデイア・オペラシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ゼブララ,ラルス
(72)【発明者】
【氏名】ケルファラー,ナウェル ソーアド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター,マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】ラボー,マリー-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ゴディ,ジローム
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521100(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046139(WO,A1)
【文献】特表2013-540202(JP,A)
【文献】特表2013-540203(JP,A)
【文献】特開2009-293129(JP,A)
【文献】特表平08-510505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070674(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/34
C23C 22/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールを前処理するための方法であって、アルミニウム材料を連続的に、
i)洗浄し、次にすすぎ、
ii)任意に、アルカリピクリングに供し、次にすすぎ、
iii)任意に、少なくとも1種の鉱酸を含む水性組成物と接触させ、
iv)任意に、すすぎ、及び
v)酸性水性組成物であって、
a)チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び
b)前記水性組成物に可溶である少なくとも1種のコポリマーであって、前記コポリマーが、制御ラジカル重合によって調製され:
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、及び
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む直鎖ターポリマーであるコポリマー
を含む、酸性水性組成物と接触させ、
vi)任意に、すすぎ、
vii)任意に、別の酸性水性組成物と接触させ、
viii)任意に、すすぎ、及び
ix)任意に、乾燥させ、且つ
成分b)であるターポリマーの濃度が、固形添加分として計算して、0.004~1.8g/lの範囲である、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程iii)を実行すること、及び前記少なくとも1種の鉱酸が硫酸及び/又は硝酸であり、好ましくは硝酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程iii)における前記組成物が、チタン及び/又はジルコニウム化合物、好ましくはチタン化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程v)における前記組成物のpH値が、2.0~6.0の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程v)における前記組成物において、成分a)の濃度が、金属として計算して、0.015~0.5g/lの範囲であり、成分b)の濃度が、固形添加分として計算して、0.01~1g/lの範囲であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程v)における前記組成物の成分a)が、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの複合フッ化物からなる群から選択される少なくとも1種の複合フッ化物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程v)における前記組成物の成分b)の前記少なくとも1種のコポリマーが、コポリマー全体に基づいて5~50%のモル含有量で前記コポリマー中に存在する、ビニルホスホン酸モノマー単位m1、コポリマー全体に基づいて5~70%、典型的には20~55%のモル含有量で前記コポリマーに存在する、ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及びコポリマー全体に基づいて25~85%、典型的には40~70%のモル含有量で前記コポリマーに存在する、(メタ)アクリル酸モノマー単位m3を含有するターポリマーであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程v)における前記組成物の成分b)の前記少なくとも1種のコポリマーが、モノマー単位m2として、2-ヒドロキシエチル-(メタ)アクリレート及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートを含有するターポリマーであり、後者が2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート及び3-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートの混合物であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程v)における前記組成物の成分b)が、それぞれ10,000~42,000g/molの範囲の数平均分子量を好ましくは有する、(メタ)アクリル酸-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート-ビニルホスホン酸-ターポリマー、(メタ)アクリル酸-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート-ビニルホスホン酸-ターポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のコポリマーを含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程v)における前記組成物が、少なくとも28,000g/molの数平均分子量を有する少なくとも1種のポリ(メタ)アクリル酸をさらに含有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程v)における前記組成物が、シリコンとして計算して、1~750mg/lの範囲の濃度を好ましくは有する、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及びポリオルガノシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物c)をさらに含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
成分c)は、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位あたりアミノ基、尿素基、イミド基、イミノ基及び/又はウレイド基の少なくとも1種をそれぞれ含む、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程v)における前記組成物が、d)元素の周期系のIA、IIA、IIIA、VB、VIB及びVIIB族の金属の、ランタニド及びビスマスの、及びスズ及び/又は少なくとも1種の対応する化合物のカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のタイプのカチオンをさらに含むことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
行程v)における前記組成物がリチウムカチオンを含有することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
成分d)が、金属として計算して、1~400mg/lの範囲の濃度を有する、少なくとも1種のモリブデン及び/又はバナジウム化合物、好ましくは少なくとも1種のモリブデン化合物であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
工程v)における前記組成物が、pH値に影響を与える物質、有機溶媒、水溶性フッ素化合物及びナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である成分e)をさらに含むことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程v)における前記組成物における総フッ化物含有量が、1.5~500mg/lの範囲であることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程v)における前記組成物が、アンモニウムイオン及び/又は対応する化合物を含有することを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
すすぎ工程vi)及び/又はviii)を行うことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記アルミニウム材料を、vi)好ましくは脱イオン水を用いて、すすぎ、及びvii)制御ラジカル重合によって調製され、
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、及び
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む少なくとも1種の直鎖ターポリマーを含有する水性組成物と接触させ、
ここで、工程viii)が省略されることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の工程v)による酸性水性組成物であって、
a)チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び
b)制御ラジカル重合によって調製され、
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、及び
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む少なくとも1種の直鎖ターポリマー
を含み、且つ
成分b)であるターポリマーの濃度が、固形添加分として計算して、0.004~1.8g/lの範囲である、ことを特徴とする、酸性水性組成物。
【請求項22】
請求項1から20のいずれか一項に記載の方法で処理したアルミニウム材料を、
自動車構造、車両構造、航空機構造及びファサード構造において、特にホイール、縁取り及び他の取り付け部品において、
缶、飲料缶、チューブ、フィルム、プロファイル及び筐体に、
アルミニウム仕上げの分野において、すなわち、屋内及び屋外領域、特に窓、ファサード及び屋根構造におけるアルミニウム又はアルミニウム合金製の建築構造要素に、
使用する方法
【請求項23】
工程v)における組成物のpH値は、2.5~6.0の範囲である、請求項1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールを前処理する方法、対応する組成物及び該方法によって処理した材料を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材料、例えばアルミニウム合金から作られたホイール(しばしば「アルリム(alu rims)」と称される)などにラッカーを塗る前に、それら材料は今日、典型的には、チタン及び/又はジルコニウム複合フッ化物をベースとする水溶液を用いて、ホスホネートを含有する化合物をベースとするそのような溶液を用いて、又は二工程法で両溶液の組み合わせを用いて、防食及び接着促進処理に供される。この前処理は一般に、アルミニウム材料の酸洗いが先行する。
【0003】
しかしながら、これにより生成される化成コーティング(単数又は複数)は、いわゆる糸状腐食を十分に制限することができない。
【0004】
これは典型的には、微細な流れる糸の形態で、例えばダイヤモンド切削した(機械加工した)表面(既に化成コーティングした及びラッカーを塗ったセグメントの表面を機械的に切削する)の境界上に、ラッカーを塗った表面のわずかな破裂に続き、ホイールの場合、例えば岩片又は縁石の損傷により、発生する。
【0005】
チタン及び/又はジルコニウム複合フッ化物のみを用いる、又はホスホネートを含有する化合物のみを用いる現在の一工程の前処理では、満足のいく結果が得られない。
【0006】
EP1206977A2により教示されているような二工程の手順の変形は、アルミニウム表面を最初にチタン及び/又はジルコニウム複合フッ化物を用いて処理し、次いで少なくとも1種の特定のホスホネートを用いて処理するが、それでも産業の期待には不十分である。
【0007】
アルミニウム合金製のホイールを前処理するためのWO2010/100187A1に教示されている方法も、二工程の方法である。ここでは、ホイールを最初にシランを含有する化合物と接触させ、次いで少なくとも1種のホスホン酸化合物を含有する水性組成物と接触させ、ポリシロキサン及びホスホネートコーティングを連続的に形成する。
【0008】
実際に、前記方法の適用は、糸状腐食の減少をもたらす。しかしながら、二工程又は複数工程の方法は、時間、エネルギー及び労働の支出が増大することから、より多くの費用を伴い、従って不利である。
【0009】
アルミニウム材料の多くの適用において、例えばアルミニウム合金製のホイールにおいて、ラッカーを塗った後、材料の表面が可視的なままであることも望ましい。よって、材料は次いで、クリアコート、すなわち透明なラッカーを用いて、コーティングされる。材料の視覚的外観に影響を与えないようにするために、前処理、すなわち、それによって達成されるコーティングは、知覚できないものでなければならない。しかしながら、そのようなコーティングの多くは、変色している、又は欠陥又はランナー(runner)を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】EP1206977A2
【0011】
【文献】WO2010/100187A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、先行技術の欠点を回避し、特に、良好な耐腐食性及びラッカー接着値を低コストでもたらし、材料の視覚的外観の光沢の損失がわずかである又は損失がまったくない、アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールをコーティングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
目的は、アルミニウム材料、特にアルミニウムホイールを前処理するための本発明の方法であって、アルミニウム材料を連続的に、
i)洗浄し、次にすすぎ、
ii)任意に、アルカリピクリング(alkaline pickling)に供し、次にすすぎ、
iii)任意に、少なくとも1種の鉱酸を含む水性組成物と接触させ、
iv)任意に、すすぎ、
v)酸性水性組成物であって、
a)チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び
b)前記水性組成物に可溶である少なくとも1種のコポリマーであって、前記コポリマーが、制御されたラジカル重合によって調製され:
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、及び
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む直鎖ターポリマーであるコポリマー
を含む、酸性水性組成物と接触させ、
vi)任意に、すすぎ、
vii)任意に、別の酸性水性組成物と接触させ、
viii)任意に、すすぎ、及び
ix)任意に、乾燥させる、
方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義:
本発明において、「アルミニウム材料」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金を含有する金属表面を意味することを意図し、後者のアルミニウム合金は、50質量%を超えるアルミニウムを含有する。好ましくは、この金属表面は、アルミニウム又はそのようなアルミニウム合金から、より好ましくはそのようなアルミニウム合金からなる。
【0015】
前記金属表面は、シート、部品及び/又はコイルの表面であり得る。
【0016】
「アルミニウムホイール」とは、アルミニウム材料を含有するホイールを指す。ホイールは任意に複合材であってよく、異なるアルミニウム材料だけでなく、異なる材料から製造することも可能である。当業者が「ホイール」という用語を使用しても、一般的に「アルリム」と呼ばれるホイールを意味する。よって、以下に「ホイール」について述べる場合、一般的な使用法におけるアルリムを意味する。
【0017】
本発明の目的のために、「水性組成物」とは、溶媒/分散剤としての水に加えて、溶媒/分散剤の総量に関して、50質量%未満の他の有機溶媒/分散剤を含有するそのような溶液として理解されるべきである。
【0018】
本発明において、用語「ポリ(メタ)アクリル酸」とは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸-コ-メタクリル酸)又はポリアクリル酸及びポリメタクリル酸の混合物を表す。モノマー単位の場合、「(メタ)アクリル」とは、それに応じてアクリル及び/又はメタクリルを表す。同様に、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート、メタクリレート、又はアクリレート及びメタクリレートの混合物を指す。
【0019】
本発明において、「モノマー単位m1及びm2及びm3」を含むターポリマーという用語は、3種類のみのモノマー、すなわち:
-1種類以上のモノマーm1、及び
-1種類以上のモノマーm2、及び
-1種類以上のモノマーm3、
の重合からもたらされるコポリマーを指し、1種類のみの各モノマー単位m1、m2、及びm3を含むターポリマーだけでなく、異なる種類のモノマー単位m1及び/又は異なる種類のモノマー単位m2及び/又は異なる種類のモノマー単位m3を含むコポリマーも包含する。本発明により使用する、モノマー単位m1、m2、及びm3でできているターポリマーは、任意の他のモノマー単位を含まない。本発明で使用するターポリマーは、統計コポリマー又はブロックコポリマーであり得る。
【0020】
本発明で使用するターポリマーの、本発明の方法の工程v)で使用する組成物中への溶解度は、20℃の温度及び大気圧(1.013バール)で決定する。
【0021】
「複合フッ化物」とは、脱プロトン化された形態の他に、それぞれ単一又は多重プロトン化された形態も意味する。
【0022】
オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンに関して、「オルガノ-」とは、炭素原子を介してシリコン原子に直接結合しており、且つそれ故に加水分解でその炭素原子から脱離しない、少なくとも1種の有機基を指す。
【0023】
本発明による方法では、アルミニウム材料を、i)洗浄し、次にすすぎ、及び次いで、ii)任意に、アルカリピクリングに供し、次にすすぐ。
【0024】
工程i)は、酸洗いも含み得る。特にアルミニウム仕上げの分野において、すなわち、屋内及び屋外領域におけるアルミニウム又はアルミニウム合金製の建築構造要素には、一工程での洗浄及び酸洗いの組み合わせが好ましい。
【0025】
本発明による方法の任意の工程iii)では、洗浄し、任意にアルカリピクリングに供したアルミニウム材料を、少なくとも1種の鉱酸を含む水性組成物と接触させ、よって酸洗いする。この役目は主に、酸化アルミニウム、望ましくない合金成分、スキン、ブラシ塵などを材料の表面から除去し、それによって、本発明による方法の工程v)における次の化成処理のために表面を活性化することである。特にアルミニウムホイールの場合、工程iii)を実行することが好ましい。
【0026】
好ましくは、工程iii)における組成物の少なくとも1種の鉱酸は、硫酸及び/又は硝酸であり、より好ましくは硝酸である。
【0027】
少なくとも1種の鉱酸の含有量は、硫酸として計算して、好ましくは1.5~50g/lの範囲、より好ましくは2~20g/lの範囲、及び最も好ましくは3~10g/lの範囲である。
【0028】
工程iii)における組成物は、チタン及び/又はジルコニウム化合物、より好ましくはチタン化合物をさらに含むことが好ましい。
【0029】
チタン及び/又はジルコニウム化合物の含有量は、チタン及び/又はジルコニウムとして計算して、好ましくは0.005~5g/lの範囲、より好ましくは0.007~0.5g/lの範囲、及び最も好ましくは0.01~0.3g/lの範囲である。
【0030】
部品、例えばホイールなどの処理において、工程iii)における組成物での処理持続期間は、好ましくは30秒~10分の範囲、より好ましくは40秒~6分の範囲、及び最も好ましくは45秒~4分の範囲である。処理温度は、好ましくは20~55℃の範囲、より好ましくは25~50℃の範囲、及び最も好ましくは30~45℃の範囲である。
【0031】
コイルの処理において、処理持続期間は、好ましくは3秒~1分の範囲、最も好ましくは5秒~20秒の範囲である。
【0032】
工程iii)における組成物での処理に続き、任意にすすいだ(工程iv)を参照、好ましくは脱イオン水ですすいだ)アルミニウム材料を、工程v)で、a)チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及びb)水性組成物に可溶である少なくとも1種のコポリマーであって、前記コポリマーが、ビニルホスホン酸モノマー単位m1、ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、を含む直鎖ターポリマーであるコポリマー、を含む、酸性水性組成物と接触させる。
【0033】
工程v)における組成物のpH値は、好ましくは0.5~6.9の範囲、より好ましくは2.0~6.0の範囲、さらにより好ましくは2.5~5.5の範囲、及び最も好ましくは3.5~5.4の範囲である。pH値は、好ましくは硝酸及び/又はアンモニアで調整する。
【0034】
好ましくは、工程v)における組成物において、成分a)の濃度は、金属(すなわち、チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウム)として計算して、0.005~5g/lの範囲であり、成分b)の濃度は、固形添加分として計算して、0.002~2g/lの範囲である。
【0035】
a)の濃度は、金属として計算して、好ましくは0.007~3g/lの範囲、より好ましくは0.01~1g/lの範囲、より好ましくは0.015~0.5g/lの範囲、さらにより好ましくは0.02~0.35g/lの範囲である。
【0036】
b)の濃度は、固形添加分として計算して、好ましくは0.004~1.8g/lの範囲、より好ましくは0.007~1.5g/lの範囲、より好ましくは0.01~1g/lの範囲、さらにより好ましくは0.015~0.75g/lの範囲である。
【0037】
特に好ましい実施形態では、a)の濃度は0.015~0.5g/lの範囲であり、b)の濃度は0.01~1g/lの範囲である。
【0038】
さらにより好ましい実施形態では、a)の濃度は0.02~0.35g/lの範囲であり、b)の濃度は0.015~0.75g/lの範囲である。
【0039】
成分a)及び任意のさらなる成分c)及びd)(以下の説明を参照)の含有量は、ICP-OES(誘導結合プラズマを用いる発光分光法)によって、又はおおよそ測光的に、これら成分の単一又は複数のさらなる投与を任意に行うことができるように、アルミニウム材料の処理の間、監視することができる。
【0040】
工程v)における組成物の成分a)は、好ましくは、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの複合フッ化物からなる群から選択される少なくとも1種の複合フッ化物である。
【0041】
ここで、ジルコニウム複合フッ化物がより好ましい。これにより、ジルコニウムは、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル又は硝酸ジルコニウムとして、好ましくは硝酸ジルコニルとして添加することもできる。よって、これはチタン及びハフニウムにも適用される。
【0042】
好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも2種の異なる複合フッ化物、及びより好ましくはチタン及びジルコニウム複合フッ化物を含有する。
【0043】
好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物の成分b)は、以下を含有するターポリマーである、少なくとも1種のコポリマーを含む。
【0044】
-コポリマー全体に基づいて5~50%のモル含有量でコポリマー中に存在する、ビニルホスホン酸モノマー単位m1、及び
-コポリマー全体に基づいて5~70%、典型的には20~55%、好ましくは40~50%のモル含有量でコポリマー中に存在する、ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-コポリマー全体に基づいて25~85%、典型的には40~70%、例えば45~60%のモル含有量でコポリマー中に存在する、(メタ)アクリル酸モノマー単位m3。
【0045】
特定の実施形態によれば、工程v)における組成物の成分b)の少なくとも1種のコポリマーは、モノマー単位m2として、2-ヒドロキシエチル-(メタ)アクリレート及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート(後者は2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート及び3-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートの混合物である)を含有するターポリマーである。
【0046】
第1の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1種のコポリマーは、モノマー単位m2として、2-ヒドロキシエチル-(メタ)アクリレート、特に2-ヒドロキシエチル-アクリレートを含有するターポリマーである。そのようなコポリマーは、アルミニウム仕上げの分野で特に適している。この分野では、シリコン含有量の低いアルミニウム合金が一般的に使用されるからである。
【0047】
第2の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1種のコポリマーは、モノマー単位m2として、ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、特に2-ヒドロキシプロピル-アクリレート及び3-ヒドロキシプロピル-アクリレートの混合物を含有するターポリマーである。そのようなコポリマーは、アルミニウムホイールへの適用に特に適している。アルミニウムホイールの場合、シリコン含有量の高いアルミニウム合金が一般的に使用されるからである。
【0048】
説明のための例として、本発明による特に有用なターポリマーは、6モル%のビニルホスホン酸、46.3%のヒドロキシプロピルアクリレート、及び47.3%のアクリル酸からなり、12000~15500の数平均分子量M及び21000~25000の質量平均分子量Mを有するモノマー混合物の制御されたラジカル重合(制御ラジカル重合)によって得られるターポリマーである。このようなポリマーは、例えばWO98/58974に記載されている方法により、O-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテート(xanthate)を以下に定義する制御剤として使用する制御されたラジカル重合によって、調製され得る。

【0049】
いずれの場合でも、工程v)の組成物における成分b)の少なくとも1種のコポリマーは、30~500、より好ましくは40~480、及び最も好ましくは55~400の範囲の重合度を好ましくは有するターポリマーである。その数平均分子量Mは、好ましくは5,000~60,000g/molの範囲、より好ましくは10,000~50,000g/molの範囲、より好ましくは10,000~47,000g/molの範囲、及び最も好ましくは10,000~42,000g/molの範囲である。本明細書で言及する数平均数及び質量分子量(それぞれ)M及びMは、以下のプロトコルにより、測定され得る:
試料を、MALS検出器を備えたSECによって分析する。約90%の回収質量を得るために、0.1875mL/gに等しい選択されたdn/dC値で、絶対モル質量が得られる。
【0050】
ポリマー試料を移動相に溶解し、得られた溶液をミリポアフィルター0.45μmでろ過する。
【0051】
溶出条件は以下のものである:
-移動相:H2O 100体積%。0.1M NaCl、25mM NaH2PO4、25mM Na2HPO4;100ppm NaN3
-流速:1mL/分
-カラム:Varian Aquagel OH混合H、8μm、3*30cm
-検出:RI(濃度検出器Agilent)+MALLS(MultiAngle Laser Light Scattering、多角度レーザー光散乱)Mini Dawn Tristar+290nmのUV
-試料濃度:移動相中で約0.5質量%
-注入ループ:100μL。
【0052】
特に好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物の成分b)は、それぞれ10,000~42,000g/molの範囲の数平均分子量を好ましくは有する、(メタ)アクリル酸-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート-ビニルホスホン酸-ターポリマー、(メタ)アクリル酸-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート-ビニルホスホン酸-ターポリマー及び(メタ)アクリル酸-N,N-ジメチル-(メタ)アクリレート-ビニルホスホン酸-ターポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のコポリマーを含む。
【0053】
別の特に好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物は、少なくとも28,000g/molの数平均分子量を有するポリ(メタ)アクリル酸をさらに含有する。
【0054】
そしてポリ(メタ)アクリル酸は、20,000~100,000g/molの範囲、より好ましくは25,000~75,000g/molの範囲、さらにより好ましくは28,000~75,000g/molの範囲、及び最も好ましくは28,000~60,000g/molの範囲の、数平均分子量を有することが好ましい。
【0055】
アルミニウム材料上に堆積されるコーティングを見ると、そのような混合物のポリマー成分は優れた相溶性を示す。すなわち、コポリマーb)の沈殿もポリ(メタ)アクリル酸の沈殿もなく、曇り及び相分離もない。
【0056】
工程v)における組成物中の成分b)の少なくとも1種のコポリマー(以下でしばしば「コポリマーb)」と称する)は、モノマー単位m1、m2及びm3でできているブロックコポリマー又は統計コポリマーであり得、典型的には統計コポリマーである。
【0057】
その上、そのコポリマーは、具体的には、モノマーm1、m2及びm3の制御されたラジカル重合によって得られるコポリマーであり、前記重合は、連続的に又はバッチ式で行う。特定の実施形態によれば、工程vで成分b)として使用する少なくとも1種のコポリマーは、モノマーm1、m2及びm3の制御されたラジカル共重合によって得られる統計コポリマー、すなわちモノマーm1、m2及びm3、遊離ラジカル源及びラジカル重合制御剤を接触させることによって得られるコポリマーである。
【0058】
本明細書において、「ラジカル重合制御剤」(又はより簡潔には「制御剤」)という用語は、ラジカル重合反応において成長するポリマー鎖の寿命を延ばすことができ、且つ重合の際に、リビング性又は制御性を与えることができる化合物を指す。この制御剤は典型的には、専門用語RAFT又はMADIXによって示される制御されたラジカル重合で使用される可逆的移動剤であり、これは典型的には、例えばWO96/30421、WO98/01478、WO99/35178、WO98/58974、WO00/75207、WO01/42312、WO99/35177、WO99/31144、FR2794464又はWO02/26836に記載されているような、可逆的付加フラグメンテーション移動プロセスを使用する。
【0059】
有利な実施形態によれば、コポリマーb)を調製するために使用するラジカル重合制御剤は、チオカルボニルチオ基-S(C=S)-を含む化合物である。よって例えば、それは、少なくとも1つのキサンテート基(-SC=S-O-官能基を有する)、例えば、1つ又は2つのキサンテートを含む化合物であり得る。一実施形態によれば、化合物はいくつかのキサンテートを含む。他のタイプの制御剤が想定されてもよい(例えば、ATRP(原子移動ラジカル重合)又はNMP(ニトロキシド媒介重合)で使用されるタイプ)。
【0060】
典型的には、制御剤は、ラジカル重合の制御を確実にする基、特にチオカルボニルチオ基-S(C=S)-を有する非ポリマー化合物である。より具体的な変形によれば、ラジカル重合制御剤は、ポリマー、有利にはオリゴマーであり、チオカルボニルチオ-S(C=S)-基、例えばキサンテート-SC=SO-基を有し、典型的にはチオカルボニルチオ-S(C=S)-基、例えばキサンテートを有する制御剤の存在下におけるモノマーのラジカル重合により得られる。
【0061】
適した制御剤は、例えば、以下の式(A):
【化1】
を有し得、
式中:
-Zは:
-水素原子、
-塩素原子、
-任意に置換されたアルキル又は任意に置換されたアリールラジカル、
-任意に置換された複素環、
-任意に置換されたアルキルチオラジカル、
-任意に置換されたアリールチオラジカル、
-任意に置換されたアルコキシラジカル、
-任意に置換されたアリールオキシラジカル、
-任意に置換されたアミノラジカル、
-任意に置換されたヒドラジンラジカル、
-任意に置換されたアルコキシカルボニルラジカル、
-任意に置換されたアリールオキシカルボニルラジカル、
-任意に置換されたアシルオキシ又はカルボキシルラジカル、
-任意に置換されたアロイルオキシラジカル、
-任意に置換されたカルバモイルラジカル、
-シアノラジカル、
-ジアルキル-又はジアリールホスホナトラジカル、
-ジアルキル-ホスフィナート又はジアリール-ホスフィナトラジカル、又は
-ポリマー鎖、
を表し、及び
-Rは:
-任意に置換されたアルキル、アシル、アリール、アラルキル、アルケニル又はアルキニル基、
-飽和又は不飽和の、芳香族の、任意に置換された炭素環又は複素環、又は
-好ましくは親水性又は水分散性であるポリマー鎖、
を表す。
【0062】
基R又はZは、それらが置換されている場合、任意に置換されたフェニル基、任意に置換された芳香族基、飽和又は不飽和炭素環、飽和又は不飽和複素環、又は以下から選択される基:アルコキシカルボニル又はアリールオキシカルボニル(-COOR)、カルボキシル(-COOH)、アシルオキシ(-OCR)、カルバモイル(-CONR)、シアノ(-CN)、アルキルカルボニル、アルキルアリールカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルキルカルボニル、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、アミジノ、グアニジモ、ヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NR)、ハロゲン、パーフルオロアルキルC2n+1、アリル、エポキシ、アルコキシ(-OR)、S-アルキル、S-アリール、親水性又はイオン性の基、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸のアルカリ金属塩、ポリアルキレンオキシド(PEO、PPO)鎖、カチオン性置換基(第4級アンモニウム塩)で、置換され得、Rはアルキル基又はアリール基、又はポリマー鎖を表す。
【0063】
あるいは基Rは両親媒性であってよく、すなわち、それは親水性及び親油性の両方の性質を有してよい。Rは疎水性でないことが好ましい。
【0064】
は、典型的には置換された又は非置換の、好ましくは置換されたアルキル基であり得る。それにもかかわらず、式(A)の制御剤は、他のタイプの基R、特に環又はポリマー鎖を含み得る。
【0065】
任意に置換されたアルキル、アシル、アリール、アラルキル又はアルキレン基は、一般に1~20個の炭素原子、好ましくは1~12個、及びより優先的には1~9個の炭素原子を有する。それらは、直鎖又は分岐状でよい。それらはまた、特にエステルの形態では酸素原子、硫黄原子又は窒素原子で置換されてもよい。
【0066】
アルキルラジカルの中で、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル又はドデシルラジカルが、特に挙げられる。
【0067】
アルキレン基は一般に、2~10個の炭素原子のラジカルであり、それらは、少なくとも1種のアセチレン性不飽和、例えばアセチレニルラジカルなどを有する。
【0068】
アシル基は一般に、カルボニル基を有する1~20個の炭素原子を有するラジカルである。
【0069】
アリールラジカルの中で、ニトロ又はヒドロキシル官能基で任意に置換されたフェニルラジカルが、特に挙げられる。
【0070】
アラルキルラジカルの中で、ニトロ又はヒドロキシル官能基で任意に置換されたベンジル又はフェネチルラジカルが、特に挙げられる。
【0071】
又はZがポリマー鎖である場合、このポリマー鎖は、ラジカル又はイオン重合から、又は重縮合から生じ得る。
【0072】
有利には、制御剤は、キサンテート-S(C=S)O-、トリチオカーボネート、ジチオカルバメート又はジチオカルバゼート官能基を有する化合物から、例えば、式-S(C=S)OCHCHのO-エチルキサンテート官能基を有する化合物から選択される。キサンテート、特にO-エチルキサンテート-S(C=S)OCHCH官能基を有するもの、例えばO-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテート(CHCH(COCH))S(C=S)OEtなどは、非常に特に有利であることが証明されている。
【0073】
本発明によって用いられるコポリマーb)の添加により、前処理によって形成された化成コーティングの特性、特に、さらなるコーティングのための接着促進剤としての役目を果たす能力を、著しく改善することができる。
【0074】
酸性水性組成物を用いた金属表面の処理の間に、表面の酸洗い、及び結果として、表面に向かって増加するpH値に伴うpH勾配の形成が起こる。
【0075】
コポリマーは、表面で増加したpH値で少なくとも部分的に解離する酸基を含有する。これにより、コポリマーで負の電荷が発生し、今度は金属表面へのコポリマーの静電蓄積が発生する。
【0076】
形成されたコーティングの特性、特に上部ラッカーコーティングへの接着が、こうして改善される。しかしながら、ここで重要なのは、従来技術で使用されるポリマーの場合のように、コポリマーの蓄積によって、pH勾配が不十分にのみ展開する、又はまったく展開しないような量で、金属表面の酸洗い浸食が低減されないことである。
【0077】
本発明による方法の工程v)における組成物は、好ましくは成分c)をさらに含む。この成分c)は、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及びポリオルガノシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、シリコンとして計算して、1~750mg/lの範囲の濃度を好ましくは有する。
【0078】
c)の濃度は、シリコンとして計算して、より好ましくは、5~500mg/lの範囲、さらにより好ましくは15~250mg/lの範囲、及び最も好ましくは17~45mg/lの範囲である。
【0079】
そしてこの成分c)は、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位あたりアミノ基、尿素基、イミド基、イミノ基及び/又はウレイド基の少なくとも1種をそれぞれ含む、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの少なくとも1種であることが好ましい。
【0080】
より好ましくは、前記成分c)は、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位あたり少なくとも1個、特に1~2個のアミノ基をそれぞれ有する、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの少なくとも1種である。特に好ましいのは、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位として、2-アミノエチル-3-アミノ-プロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノ-プロピルトリエトキシシラン、ビス(トリ-メトキシシリルプロピル)アミン又はビス(トリエトキシシリル-プロピル)アミン又はこれらの組み合わせである。
【0081】
特に好ましいのは、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位として、2-アミノエチル-3-アミノ-プロピルトリメトキシシラン又はビス(トリ-メトキシシリルプロピル)アミン又は両方の組み合わせである。
【0082】
本発明の目的のために、ポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサンを加えない、シリコーンではない、少なくとも1種のオルガノシロキサンで形成することができるような化合物として理解される。
【0083】
本発明による方法の工程v)における組成物は、好ましくは成分d)をさらに含む。この成分d)は、元素の周期系のIA、IIA、IIIA、VB;VIB及びVIIB族の金属の、ランタニド及びビスマスの、及びスズ及び/又は少なくとも1種の対応する化合物のカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のタイプのカチオンである。
【0084】
好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物の前記成分d)は、セリウム及び他のランタニド、クロム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ニオブ、タンタル、リチウム、ビスマス及びスズ、より好ましくはマンガン、リチウム及び亜鉛のカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のタイプのカチオンである。特に好ましくは、それらは、酸化状態+IIのマンガンカチオン又はリチウムカチオンである。
【0085】
このように、驚くべきことに、工程v)の組成物中のリチウムカチオンの存在が、糸状腐食のさらなる低減をもたらすことが見出された。
【0086】
上述の好ましい実施形態において、d)の濃度は、金属の合計として計算して、好ましくは1~950mg/lの範囲、より好ましくは5~700mg/lの範囲、さらにより好ましくは15~500mg/lの範囲、及び最も好ましくは17~350mg/lの範囲である。
【0087】
さらに好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物の成分d)は、少なくとも1種のモリブデン及び/又はバナジウム化合物、好ましくは少なくとも1種のモリブデン化合物であり、金属として計算して、1~400mg/lの範囲、より好ましくは2~300mg/lの範囲、及び最も好ましくは4~75mg/lの範囲の濃度を有する。
【0088】
特に好ましい実施形態によれば、工程v)における組成物は、チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物及びモリブデン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、(Zr-/Mo-金属として計算して)15:1~3.5:1、好ましくは13:1~7:1のZr:Moの質量比で含有する。
【0089】
本発明の方法の工程v)における組成物は、0.1~20g/lの範囲の濃度を好ましくは有する、pH値に影響を与える物質、有機溶媒、水溶性フッ素化合物及びナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である成分e)をさらに含むことが好ましい。
【0090】
pH値に影響を与える物質は、好ましくは、硝酸、硫酸、酢酸、フッ化水素酸、アンモニウム/アンモニア及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される。ここで、硝酸及び/又はアンモニウムがより好ましい。
【0091】
有機溶媒は、好ましくは、メタノール及びエタノールからなる群から選択される。よって実際には、成分c)が存在する場合、メタノール及び/又はエタノールは、工程v)における組成物中のオルガノアルコキシシラン加水分解の反応生成物として存在する。
【0092】
水溶性フッ素化合物は、好ましくは、フッ化物及びフッ化物アニオンを含有する化合物からなる群から選択される。
【0093】
工程v)における組成物において、総フッ化物含有量は、好ましくは1.5~500mg/lの範囲である。
【0094】
実際に、遊離フッ化物は化成コーティング形成の開始に特に有利であるが、コーティングの接着に悪影響を有する。よって遊離フッ化物含有量は、好ましくは1~250mg/lの範囲、より好ましくは3~100mg/lの範囲、及び最も好ましくは5~100mg/lの範囲である。
【0095】
その上、遊離フッ化物含有量はフッ化物電極によって決定される。
【0096】
ナノ粒子は、好ましくは金属酸化物粒子であり、より好ましくは、ZnO、SiO、CeO、ZrO及びTiOからなる群から選択される金属酸化物粒子である。
【0097】
工程v)における組成物は、好ましくは、アンモニウムイオン及び/又は対応する化合物を含有する。
【0098】
工程v)における組成物は、ホスフェート及び/又はホスホネートなどのリン及び酸素を含有する化合物をさらに含むことができる。また、それは硝酸塩を含むことができる。
【0099】
しかしながら、硫黄、特に硫酸塩、及び亜硝酸塩を含有する化合物の含有量は、好ましくは可能な限り低く保たれるべきである。より好ましくは、硫黄を含有する化合物の含有量は、硫黄として計算して、100mg/l未満である。より好ましくは、亜硝酸塩の含有量は5mg/l未満である。
【0100】
処理するアルミニウム材料は、工程v)における組成物を噴霧し、その組成物に浸漬し、又はその組成物で満たすことができる。拭く又はブラシをかけることにより、又はロール又はローラーを用いて(コイルコーティング法)、処理する材料に手動で組成物を適用することも可能である。処理する材料上へ組成物を電着させることも可能である。
【0101】
部品、例えばホイールなどの処理において、処理持続期間は、好ましくは15秒~10分の範囲、より好ましくは30秒~5分の範囲、及び最も好ましくは45秒~1分の範囲である。処理温度は、好ましくは5~50℃、より好ましくは15~40℃、最も好ましくは30~35℃の範囲である。
【0102】
本発明の方法は、コイルのコーティングにも適している。ここで、処理持続期間は、好ましくは数秒から数分の範囲、例えば1~300秒である。
【0103】
本発明による方法の工程v)の後、アルミニウム材料を、vi)任意にすすぎ、vii)任意に別の水性組成物と接触させ、viii)任意にすすぎ、ix)任意に乾燥させる。
【0104】
乾燥工程ix)の前のすすぎ工程vi)及びviii)は必須ではないので、いわゆる「すすぎなし」の変形も本発明による方法に含まれる。
【0105】
しかしながら、すすぎ工程vi)及びviii)は、過剰な成分、例えば工程v)における成分b)からのコポリマー、工程vii)からのコポリマー及び/又はアルミニウム材料からの破壊的イオン又は工程vii)の後すすぎの組成物などを除去するため、行ってよい。
【0106】
乾燥工程ix)は必須ではないので、いわゆる「ウェットオンウェット」変形も、本発明による方法に含まれる。ウェットオンウェット法は、(電気泳動)浸漬塗料をラッカーとして適用する場合、特に有利である(下記参照)。
【0107】
本発明による方法の工程vii)で適用する水性組成物は、例えば、工程v)による別の組成物、すなわち、工程v)で使用する組成物とは異なる組成物、又は例えば或る特定の金属イオン及び/又は(コ)ポリマーを含有する後すすぎ組成物であり得る。
【0108】
好ましい実施形態では、アルミニウム材料を、vi)好ましくは脱イオン水を用いて、すすぎ、及びvii)制御されたラジカル重合によって調製され、
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む少なくとも1種の直鎖ターポリマーを含有する水性組成物と接触させ、
ここで、工程viii)が省略される。
【0109】
その上、工程v)及び工程vii)で適用される少なくとも1種のコポリマーは、同じであってよい。
【0110】
前記好ましい実施形態は、アルミニウムホイールの場合に特に有利であり、耐食性及びラッカー接着値の顕著なさらなる改善をもたらす。
【0111】
本発明の方法は、50質量%を超えるアルミニウムを含有するあらゆるアルミニウム合金に、特にAA5005を含むがこれに限定されないアルミニウムマグネシウム合金に、及びAA6060及びAA6063を含むがこれに限定されないアルミニウムマグネシウムシリコン合金に、鋳造合金、例えばAlSi7Mg、AlSi9Mg、AlSi10Mg、AlSi11Mg、AlSi12Mgに、及び鍛造合金、例えばAlSiMgに適している。しかしながら、その方法は、いわゆるAA1000、AA2000、AA3000、AA4000、AA5000、AA6000、AA7000及びAA8000シリーズのあらゆる合金に主として適している。
【0112】
AA5005を含むアルミニウムマグネシウム合金、及びAA6060及びAA6063を含むアルミニウムマグネシウムシリコン合金は、アルミニウム仕上げの分野で一般的に使用されるが、鋳造合金、例えばAlSi7Mg、AlSi9Mg、AlSi10Mg、AlSi11Mg、AlSi12Mg、及び鍛造合金、例えばAlSiMg、は、アルミニウムホイールの製造に一般的に使用される。
【0113】
本発明の方法は、陽極酸化処理金属表面、すなわち、陽極酸化処理アルミニウム又は陽極酸化処理アルミニウム合金(後者は50質量%を超えるアルミニウムを含有する)を含有する金属表面にも適している。
【0114】
本発明の方法を用いて、異なる金属材料の混合物を同じ浴で処理することができる(いわゆる「複金属容量(multi-metal capacity)」)。
【0115】
本発明の方法において形成されるコーティングは、好ましくは、XRF(X線蛍光分光法)により決定して:
i)成分a)のみに基づき、ジルコニウムとして計算して、0.5~200mg/m、より好ましくは2~50mg/m、及び最も好ましくは3~40mg/m、及び/又は任意に、
ii)成分b)のみに基づき、リンとして計算して、0.01~50mg/m、より好ましくは0.05~40mg/m、及び最も好ましくは0.1~20mg/m、及び/又は任意に、
iii)成分c)のみに基づき、シリコンとして計算して、0.1~50mg/m、より好ましくは1~40mg/m、及び最も好ましくは2~20mg/m
の、コーティング質量を有する。
【0116】
本発明の方法で製造したコーティングは、さらなるコーティングのための腐食防止及び接着促進剤としての役目を果たす。
【0117】
このようにして、それらは、少なくとも1種のプライマー、ラッカー、特に透明なラッカー、接着性の及び/又はラッカー様の有機組成物を用いて容易にさらにコーティングすることができる。それにより、好ましくは、これらのさらなるコーティングの少なくとも1種は、加熱及び/又は照射によって硬化することができる。
【0118】
ラッカーとして、例えばポリエステル及び/又はエポキシ樹脂又はポリアクリレート又はPVDFに基づく粉末塗料、例えばポリアクリレート分散液又はPVDFに基づく液体塗料、浸漬塗料又は電気泳動浸漬塗料-カソード又はアノード-を適用することができる。
【0119】
本発明はまた、工程v)による酸性水性組成物であって、
a)チタン、ジルコニウム及びハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び
b)制御されたラジカル重合によって調製され、
-ビニルホスホン酸モノマー単位m1、
-ヒドロキシエチル-及び/又はヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレートモノマー単位m2、及び
-(メタ)アクリル酸モノマー単位m3、
を含む少なくとも1種の直鎖ターポリマー
を含む、酸性水性組成物に関する。
【0120】
好ましくは、本発明のこの組成物は、上記で論じたように、1つ以上の好ましい特徴をさらに含む。
【0121】
本発明はまた、アルミニウム材料の処理のための、すなわち、上記の本発明の組成物を用いた浴を希釈及び任意のpH値調整によって調製することができる、濃縮物にも関する。
【0122】
濃縮物は、成分a)及びb)及び-存在する場合-c)及びd)を、以下の含有量で含む:
a)の濃度は、好ましくは、ジルコニウムとして計算して、0.5~100g/lの範囲である。
【0123】
b)の濃度は、好ましくは、固形添加分として計算して、0.1~500g/lの範囲である。
【0124】
c)の濃度は、好ましくは、シリコンとして計算して、0.05~10g/lの範囲である。
【0125】
d)の濃度は、好ましくは、金属の合計として計算して、0.01~50g/lの範囲である。
【0126】
特に好ましい実施形態では、a)の濃度は、0.5~75g/lの範囲であり、b)の濃度は、0.1~300g/lの範囲であり、c)の濃度は、0.05~5g/lの範囲であり、及びd)の濃度は、0.01~20g/lの範囲である。
【0127】
成分e)について、存在する場合、濃縮物は、好ましくは、0.01~20g/lの範囲の含有量を有する。
【0128】
濃縮物は、0.5~6.5、より好ましくは1.5~5.5、及び最も好ましくは1.9~4.9の範囲のpH値を好ましくは有する。
【0129】
本発明の組成物を含有する処理浴は、濃縮物を水、水溶液及び/又は適した有機溶媒で、好ましくは1:5,000~1:10、より好ましくは1:3,000~1:10、さらにより好ましくは1:2,000~1:10の係数、及び最も好ましくは約1:1,000の係数で希釈することにより、得ることができる。
【0130】
さらに、本発明は、本発明による方法によって得ることができる化成コーティングしたアルミニウム材料にも関する。
【0131】
最後に、本発明は、本発明の方法で処理したアルミニウム材料を、自動車構造、車両構造、航空機構造及びファサード構造において、特にホイール、縁取り及び他の取り付け部品、缶、飲料缶、チューブ、フィルム、プロファイル(profile)及び筐体に、使用する方法に関する。
【0132】
本発明は、本発明の方法で処理したアルミニウム材料を、アルミニウム仕上げの分野において、すなわち、屋内及び屋外領域、特に窓、ファサード及び屋根構造におけるアルミニウム又はアルミニウム合金製の建築構造要素に、使用する方法にも関する。
【0133】
試験方法
1.平均分子量M及びMの決定
数平均及び質量平均分子量(M及びM)は、それぞれ以下のプロトコルによって測定する。試料を、MALS検出器を備えたSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって分析する。約90%の回収質量を得るために、0.1875mL/gに等しい選択されたdn/dC値で、絶対モル質量を得る。ポリマー試料を移動相に溶解し、得られた溶液をミリポアフィルター0.45μmでろ過する。溶出条件は以下のものである。移動相:HO100体積% 0.1M NaCl、25mM NaHPO、25mM NaHPO;100ppm NaN;流速:1mL/分;カラム:Varian Aquagel OH混合H、8μm、3*30cm;検出:RI(濃度検出器Agilent)+MALLS(多角度レーザー光散乱)Mini Dawn Tristar+290nmのUV;試料濃度:移動相で約0.5質量%;注入ループ:100μL。
【0134】
2.ICP-OES
分析中の試料の或る特定の元素、例えば、成分a)に存在する、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの量は、DIN EN ISO11885(日付:2009年9月1日)による誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-OES)を使用して決定する。試料を、高周波電界により生成したアルゴンプラズマ中で試料を熱励起に供し、電子遷移により放出される光を対応する波長のスペクトル線として可視化し、光学系を使用して分析する。放出される光の強度と、該元素、例えばチタン、ジルコニウム及び/又はハフニウムの濃度との間には線状の関係がある。実装前に、既知の元素標準(参照標準)を使用して、分析中の特定の試料の関数として較正測定を行う。これらの較正は、未知の溶液の濃度、例えばチタン、ジルコニウム及びハフニウムの量の濃度を決定するために使用することができる。
【0135】
3. DIN EN ISO2409(06-2013)によるクロスカット試験
クロスカット試験は、基材上のコーティングの接着強度を確認するために、DIN EN ISO2409(06-2013)により、使用する。カッター間隔は2mmである。評価は、0(非常に良好な接着)から5(非常に悪い接着)の範囲の特徴的なクロスカット値に基づいて行う。クロスカット試験は、湿潤接着を測定するために、DIN EN ISO6270-2CH(09-2005及び10-2007の修正)により、結露気候中最大で240時間までの曝露後、又は試料を63℃の温度を有する水中で48時間貯蔵した後、実行してもよい。各試験は3回実行し、平均値を決定する。
【0136】
4. DIN EN ISO9227(09-2012)による銅促進酢酸塩噴霧(CASS)ミスト試験
銅促進酢酸塩噴霧フォグ(fog)試験は、基材上のコーティングの耐食性を決定するために使用する。DIN EN ISO9227(09-2012)により、分析中の試料は、5%濃度の一般的な塩溶液の連続するミストが中にあるチャンバー内にあり、塩溶液は、制御されたpHで、50℃の温度で240時間の間、酢酸及び塩化銅とそれぞれ混合する。噴霧ミストが分析中の試料に堆積し、試料は塩水の腐食性膜で覆われる。CASSミスト試験のさらに前に、調査のための試料のコーティングがブレードの切り込みで基材まで刻み目を入れられている場合、基材はCASSフォグ試験の間に刻み目が入れられた線に沿って腐食するので、試料はその膜下腐食のレベルについてDIN EN ISO4628-8(03-2013)に従って調査することができる。腐食の進行過程の結果として、コーティングは試験の間、多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[mm]は、コーティングの耐性の尺度である。評価は、0(膜下腐食なし)から5(著しい腐食)の範囲の特徴的な値に基づいて行ってもよい。各試験は3回実行し、平均値を決定する。
【0137】
5.糸状腐食(FFC)
糸状腐食の決定は、基材上のコーティングの耐食性を確認するために使用する。この決定は、MBN10494-6、5.5(DBL7381)により、672時間の持続期間にわたって行う。最大ねじ長(LF)及び平均腐食(MU)[mm]を測定する。
【実施例
【0138】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0139】
1.酸性水性組成物
1.1 成分b)としてのポリマー(P1)を使用したが、これは、4~25モル%のビニルホスホン酸、30~60モル%のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び30~60モル%の(メタ)アクリル酸(ポリマー(P1)中に存在するあらゆるモノマー単位を合計すると100モル%である)からなるモノマー混合物の制御されたラジカル重合によって得られ、12000~15500の数平均分子量M、及び21000~25000の質量平均分子量Mを有するターポリマーである。ポリマー(P1)は、制御剤としてO-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテートを使用する制御されたラジカル重合によって調製した。
【0140】
1.2 市販の製品Gardobond(登録商標)X4707(Chemetall GmbH社から入手可能)を0.75~5.5g/Lの範囲の量で含有する、又は市販の製品Gardobond(登録商標)X4742(Chemetall GmbH社から入手可能)を0.75~5.5g/Lの範囲の量で含有する、複数の水溶液(それぞれ脱イオン水を使用して作成)を、ビーカーに入れた。Gardobond(登録商標)X4707は、成分a)としてチタン化合物及びジルコニウム化合物を含有する酸性水溶液である。Gardobond(登録商標)X4742は、成分a)としてジルコニウム化合物を含有する酸性水溶液である。
【0141】
上述のGardobond(登録商標)X4707を含有する水溶液に、(P1)を含有するポリマー(P1)の水溶液を0.1g/L~10g/Lの範囲の異なる量で加えた。
【0142】
上述のGardobond(登録商標)X4742を含有する水溶液に、(P1)を含有するポリマー(P1)の水溶液を0.1g/L~10g/Lの範囲の異なる量で加えた。
【0143】
1.3 Oxsilan(登録商標)9801及びOxsilan(登録商標)添加剤9900から、さらに一連の水溶液(それぞれ脱イオン水を使用して作成)を調製した。Oxsilan(登録商標)9801及びOxsilan(登録商標)添加剤9900は、Chemetall GmbH社から入手可能な市販の製品である。
【0144】
上述の水溶液に、(P1)を含有するポリマー(P1)の水溶液を0.1g/L~10g/Lの範囲の異なる量で加えた。
【0145】
1.4 市販の製品Gardobond(登録商標)X4742(Chemetall GmbH社から入手可能)を0.75~5.5g/Lの範囲の量で含有する、複数のさらなる比較水溶液(それぞれ脱イオン水を使用して作成)をビーカーに入れた。上述のGardobond(登録商標)X4742を含有する水溶液に、市販のポリ(メタ)アクリル酸の水溶液を、0.1g/L~10g/Lの範囲の異なる量で加えた。
【0146】
2. 本発明の方法
2.1 Ronal(スイス)社から入手可能なアルミニウムホイール(AlSi7)を基材として使用した。
【0147】
洗浄工程i)では、これらの基材を市販のGardoclean(登録商標)S5086(Chemetall GmbH社)を使用して洗浄し(60℃、10分)、その後工程iii)で鉱酸を用いて処理した。処理は、市販の製品Gardacid(登録商標)P4325(Chemetall GmbH社)又はGardobond(登録商標)X4717(Chemetall GmbH社)のうち1つを使用して実行した(90秒)。工程iii)の実行後、工程iv)で水道水を用いるすすぎを実行した(30秒)。
【0148】
2.2 項目2.1で概説した工程の実行後、接触工程v)を行った。すなわち、基材上に化成コーティング層を形成するために、基材の表面を本発明の又は比較の酸性組成物と接触させた。接触工程は45秒間実行した。
【0149】
前記接触工程v)を実行した後得られた、接触工程を行ったことにより化成コーティング層を有する基材を、脱イオン水によるすすぎ工程vi)に供した。
【0150】
すすぎ工程に続いて、乾燥工程ix)を実行した(80℃で10分)。その後、少なくとも1種のさらなるコーティング層を基材上に適用した。別法の1)では、ポリエステル粉体コーティング(市販製品PT1005BR999F、Freilacke社から入手可能;以下「PE」と称する)を最初に基材上に適用し、180℃で硬化を実行してから、アクリルクリアコーティング組成物(市販製品KO1853LRA999、Freilacke社から入手可能;以下「AC1」と称する)を硬化したPEコートに適用した。硬化を190℃で実行する。別法の2)では、市販の粉体コーティング(市販製品PO1857BR999A、Freilacke社から入手可能;以下「KSP」と称する)を最初に基材に適用し、180℃で硬化を実行してから、アクリルクリアコーティング組成物(市販製品KO1853LRA999、Freilacke社から入手可能;以下「AC1」と称する)を硬化したKSPコートに適用する。硬化を190℃で実行した。別法の3)では、市販のクリアコーティング組成物(市販製品PY1005、Freilacke社から入手可能;以下「AC2」と称する)を基材に適用し、硬化を200℃で実行した。得られたこれらのコーティングの乾燥層の厚さは、10~120μmの範囲であった。
【0151】
2.3 実行した実験を、以下の表1、2、3及び4に要約する。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
【表4】
【0156】
3. コーティングした基材の特性
3.1 項目2に記載した本発明の方法により得られたコーティングした基材の複数の特性を調査した。これらの特性は、本明細書中に前述した試験方法により決定した。結果を以下の表に示す。
【0157】
【表5】