(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】耐容性粉末組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/00 20160101AFI20230815BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20230815BHJP
A21D 13/064 20170101ALI20230815BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230815BHJP
【FI】
A23L33/00
A23L7/10 Z
A21D13/064
A23L7/109
(21)【出願番号】P 2020517550
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2018076323
(87)【国際公開番号】W WO2019063721
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】102017122407.6
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510318527
【氏名又は名称】エルンスト ベッカー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ブラント,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】デュスターベルク,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シュッパン,デトレフ
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/075456(WO,A1)
【文献】特表2008-532532(JP,A)
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2007年,Vol.73,No.14,pp.4499-4507
【文献】日本食品科学工学会誌,2010年,Vol.57,No.11,pp.489-491
【文献】Dose Sourdough Offer Hope for the Gluten Intolerant?, [online], 02-12-2013 uploaded, [Retrieved on 28-06-2022], Retrieved from the internet:<URL: https://www.rootsimple.com/2013/12/does-sourdough-offer-hope-for-the-gluten-intolerant/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のアルファアミラーゼ/トリプシンインヒビター(ATI)低減タンパク質源、
該1種以上のATI低減タンパク質源とは異なるものとして添加された1種以上の単離されたATI低減デンプン源、1種以上の焼成添加物、任意に1種以上の親水コロイドを含む粉末混合物であって、
前記粉末混合物全体におけるATI0.19の総含有量及び/又はATI0.28の総含有量が、前記粉末混合物全体がタイプ550の粉末である場合と比較して少なくとも40%低減されており、
前記
1種以上の
ATI低減タンパク質源が、穀類グルテンタンパク質、単離された小麦グルテン、スペルト小麦、ライ麦、大麦、エンマー小麦、オート麦及びヒトツブコムギの単離されたグルテンの変種、又は単離されたグルテン成分並びにそれらの混合物を含む群から選択され
、
前記1種以上の単離されたATI低減デンプン源が、小麦デンプン、軟質小麦デンプン及びデュラム小麦デンプンからなる群から選択される、粉末混合物。
【請求項2】
前記混合物が5~25質量%のグルテンタンパク質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の粉末混合物。
【請求項3】
前記
1種以上の
単離されたATI低減デンプン源が、小麦デンプン、及びコーンスターチ、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、加水分解デンプン、ライ麦デンプン、オート麦デンプン、大麦デンプン及びそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1種のさらなるデンプン源を含む混合物であることを特徴とする、請求項
1に記載の粉末混合物。
【請求項4】
前記混合物が50~95質量%のデンプンを含むことを特徴とする、請求項1から
3のいずれか一項に記載の粉末混合物。
【請求項5】
サイリウム、グアガム、チア種子粉末、リンシード粉末、キサンタンガム、トラガカント、コンニャク、アラビアゴム、カラヤ及びHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ヒマワリ種子粉末又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種以上の親水コロイドを含むことを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の粉末混合物。
【請求項6】
前記混合物が最大で3質量%までの親水コロイドを含むことを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載の粉末混合物。
【請求項7】
この混合物のATI抽出物が、前記混合物1グラムあたりIL-8が8~60ngのIL-8放出に対応する生物活性を有し、IL-8特異的ELISAアッセイで検出可能であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末混合物。
【請求項8】
膨張剤及び酵母を含む群から選択される少なくとも1種以上の焼成添加物をさらに含むことを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の粉末混合物。
【請求項9】
カンジダ・ミレリ(Candida milleri)、カンジダ・フミリス(Candida humilis)及び/又はカザクスタニア・ミレリ(Kazachstania milleri)及びそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1種のサワー種酵母菌株、及び任意にL.ポンティス(L. pontis)、L.サンフランシセンシス(L. sanfranciscensis)及びL.ロイテリ(L. reuteri)及びそれらの混合物を含む群からのさらに少なくとも1種の微生物菌株を含むことを特徴とする、請求項
8に記載の粉末混合物。
【請求項10】
さらに、発酵性オリゴ糖、二糖、単糖及びポリオールの群から選択されるフラクトオリゴ糖が低減されることを特徴とする、請求項
8又は
9に記載の粉末混合物。
【請求項11】
前記1種以上の焼成添加物が、サワー種、サワー種濃縮物及び/又は乾燥サワー種を含むことを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項に記載の粉末混合物。
【請求項12】
カンジダ・ミレリ(Candida milleri)、カンジダ・フミリス(Candida humilis)、カザクスタニア・ミレリ(Kazachstania milleri)、カザクスタニア・エクジグア(Kazachstania exigua)、デバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、カザクスタニア・ユニスポラ(Kazachstania unispora)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、トルラスポラ・デルブルッキ(Torulaspora delbrueckii)、T.プレトリエンシス(T. Pretoriensis)、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ピキア・クドリアブゼビイ(Pichia kudriavzevii)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatschenkia orientalis)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)及びそれらの混合物の群から選択される少なくとも1種以上のサワー種酵母菌株、及び任意にL.ポンティス(L. pontis)、L.サンフランシセンシス(L. sanfranciscensis)、及びL.ロイテリ(L. reuteri)及びそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1種の微生物菌株を含むサワー種又はサワー種スターターと、前記粉末混合物とを混合して、これらの混合物を調製し、発酵させることを特徴とする、請求項1から
10のいずれか一項に記載の粉末混合物を調製する方法。
【請求項13】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の粉末混合物、水及び/又はミルク、及び任意に卵、卵白、卵黄又は調理済卵(ready-made egg)から製造されるパスタであって、タイプ550の粉末から製造したパスタと比較して、全ATI含有量が少なくとも40%低減されていることを特徴とするパスタ。
【請求項14】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の粉末混合物、任意に膨張剤、酵母、砂糖、塩、パンスパイス、グルテン非含有の穀類及び/又は疑似穀類を穀粒及び/又は粉砕物として、及び水を含有するベーカリー製品であって、タイプ550の粉末から製造されたベーカリー製品と比較して、全ATI含有量が少なくとも40%低減されていることを特徴とするベーカリー製品。
【請求項15】
サワー種、サワー種濃縮物及び/又は乾燥サワー種を含む群から選択されるさらなる1種以上の焼成添加物を含む、請求項1に記載の粉末混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製造の分野、特に、公知の食物不耐性にかかわらず消化の良いパン類(ベーカリー製品)及びパンの製造及び供給に関する。
【背景技術】
【0002】
白人(Caucasian)人口のかなりの割合が、穀類製品の消費により引き起こされる食物不耐性を抱えていることが知られている。
【0003】
この食物不耐性の発症の1種は、非熱帯性スプルー又は常在スプルー、又はグルテン過敏性腸疾患としても知られるセリアック病である。セリアック病は、罹患した患者の体がグルテンに、例えば小麦のグリアジン分画及び/又はライ麦のプロラミン(セカリン)及び/又は大麦のホルデインに免疫反応を起こす食物不耐性又は疾患の1種である。グルテン摂取に対するこの病原性反応は、小腸の炎症及び腸壁上皮の破壊にその反応自身を発現させ、ひいては時に生命を脅かす吸収障害をもたらす。
【0004】
近年では、穀類によって引き起こされる食物不耐性の別の形態が想定されることも示されており、ここでは患者が非特異的な腸愁訴を伴ってアミラーゼトリプシンインヒビター(以下ATIと略す)と呼ばれるタンパク質の一種に反応する。この臨床像は現在、小麦過敏症又は非セリアックグルテン過敏症(NCGS)又は非セリアック小麦過敏症(NCWS)又はATI過敏症とも称される。白人人口の約10%が罹患していると推定される。
【0005】
穀類植物は、その中に存在するATIによって、害虫(pest)からの攻撃に対する抵抗力が高まると考えられているので、その遺伝子産物が、現代の穀類の長年にわたる育種でも好まれてきた。さらに、ATIは胚芽の成熟に関与し、極めて安定した3D構造をもたらし、プロテアーゼに対する抵抗力を備え、且つ高温(例えばパンの焼成)でも部分的にしか破壊されないものとされるようである。さらに、ATIはデンプン及びタンパク質の消化酵素をブロックする特性を有するので、それ自体は部分的にしか消化されない。この仮説にかかわらず、現在は、この未消化のATIタンパク質は、腸内で免疫反応又は炎症反応をもたらす、又は既存の免疫反応又は炎症反応を増強すると想定されている。
【0006】
平均的な健康な成人は、1日あたり約150~250gの小麦粉を消費し、これは0.5~1gのATIに相当する。この摂取レベルと、Schuppanら(2015年)によって提案及び記述された、先天性免疫系の刺激、すなわちTLR4刺激を介した作用メカニズム(Schuppan et al.、2015、Best Practice&Research Clinical Gastroenterology29、第469~476頁)からは、ほとんどの人については症状の発現を予期することができない。明確な診断に利用できるNCGSを介したマーカーはまだ利用可能ではないため、開業医に残された唯一の選択肢は除外診断である(Fasano et al.、2015、Gastroenterology;148、1195-1204)。
【0007】
さらに、NCGS、又は、より一般的には、ATIによって引き起こされる不耐性を治癒、改善し、又は影響を与える現在利用可能な唯一の対策は、可能な限り小麦製品を控えることである。しかしながら、小麦を断念することによって、患者は非常に制限を受け、パスタ、パン及び焼成食品など、粉末から作られた最も一般的な食品をもはや食べることができなくなる。グルテンは患者の愁訴(疾患)の原因ではないものの、患者はしばしばグルテン非含有製品へ切り替えざるを得ない。
【0008】
特に、ATI依存性NCGSは摂取量に依存することも示されており、多くの患者が、より少ない量のATIを含むスペルト小麦には、より耐容性があると述べている。このほか実験による仮説及び予備的な動物データによると、ATIの摂取は、他の自己免疫疾患又は慢性炎症過程を伴う疾患にもますます有利に働く(Schuppan et al.、2015、Best Practice&Research Clinical Gastroenterology29、第469~476頁)。
【0009】
罹患した患者及びNCGS患者のニーズにより良く対応し、より幅広い可能な食品を患者に提供するために、ATI非含有の小麦製品又はATIを低減した小麦製品を提供する手段を見出す必要がある。
【0010】
WO2015/168416は、粉末及び焼成食品からのATIの定量的検出法(関連する生物活性を記録する生物学的試験系(バイオアッセイ)を含む)だけでなく、食品を抽出緩衝物で処理し、この緩衝物を通じてATIを溶解する又は食品から低減する抽出法を記載している。しかしながら、この抽出法には完全な加工が必要であり、ひいては完全なタンパク質の分解が必要であるので、処理した原材料は、さらなる産業的加工又は食品加工にはあまり適していない。
【0011】
さらに、物質の水溶液から特異的な抗体によってATIを判定及び測定することができる方法を最初に記載した文献としてWO2011/137322を特記する。すなわちWO2011/137322は、ATIの存在について食品又は加工食品を試験するための前提条件を示している。
【0012】
EP11775619.7は、ジスルフィド還元性微生物を使用するATI除去のための酵素分解プロセスをさらに記載している。しかしながら、小麦粉の処理においては、そのようなプロセスによって、粉末のあらゆる特性を失い、ひいてはパン又はベーカリー製品の製造のための任意の適合性を失った組成物がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】WO2015/168416
【文献】WO2011/137322
【文献】EP11775619.7
【非特許文献】
【0014】
【文献】Schuppan et al.、2015、Best Practice&Research Clinical Gastroenterology29、第469~476頁
【文献】Fasano et al.、2015、Gastroenterology;148、1195-1204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、出発材料の穏やかな処理を可能とする改善された精製プロセス開発の従前からの必要性、及び高品質なATI非含有食品及び/又はATI低減食品の、特にパン及びベーカリー製品の製造が可能となる代替組成物を提供する必要性がある。
【0016】
以前は、ATI依存性NCGSは摂取量依存性であると考えられていたが、本発明者らは、NCGSが、本発明がベースとする粉末混合物を有するATIのタイプに依存すること、及びその中の個別のATIのみが低減される製品はより良好な耐容性をすでに示しているという仮説を確認することができた。
【0017】
現在、17の様々な遺伝子ATIが報告されているが、本出願においてはATI0.19、ATI0.28、ATI0.53及びATI CM3、ATI CM2、ATI CM16及びATI CM17のみを同定及び/又は取りあげる。ATIの様々なタイプは、液体クロマトグラフィー-質量分析/質量分析法(LC-MS/MS法)で、質量分析データ及び検出可能な開裂ペプチドに基づいて、同定及び定量化する。
【0018】
本発明による粉末混合物、及びそれに由来するパスタ又はベーカリー製品を提供するために、或る特定のATIが低減された出発製品を選択し、そのATI組成又はATI含有量について試験を行った。特に、全ATI含有量又は個別のATIの含有量が加水分解処理又は酵素処理等によって低減されている、タンパク質源及びデンプン源、及び前処理した粉末を選択した。
【0019】
最新技術において、粉末、及び特にグルテンなどの穀粒タンパク質を処理するための数多くの酵素プロセス及び加水分解プロセスが公知である(Day et al.、2006 Trends in Food Science17、82-90における編集物)。特に、タンパク質源を酸又はアルカリで処理し(Batey et al、1981(J Food Technology、16(5)、561-566);Wu et al、1976(J Agricultural and Food Chemistry、24(3)、504-510)による)、それによって数多くのグルタミン残基を低減することにより、粉末の全タンパク質組成を変更し、低分子量ポリペプチドの浸出を増加させることが示されている。
【0020】
このプロセスでは、処理する粉末又はタンパク質源及びデンプン源を、まずわずかに塩気のある溶液に2~4時間浸し、次いで、例えばプロテアーゼを用いて酵素的に、又は例えばジスルフィド架橋を破壊することができる乳酸桿菌を用いて微生物的に処理する。次いで、前処理した溶液を遠心分離にかけてタンパク質を分離する。あらゆる又は個別のATIなどの軽量及び球状のタンパク質を分離することができる。次いで残りのバッチを乾燥させ、タンパク質含有量又はタンパク質組成を変更した粉末として、さらに加工する。
【0021】
本発明者らは、このように前処理した粉末及びタンパク質源が、さらに明らかなATIの転換(シフト)を示すこと、及び特に、小麦製品を消費したときに一般的な不耐性反応及び/又は疾患症状を示す個人に対して、いくつかの選択されたATIの低減は有益な効果を有することを示すに至った。本発明者らは、特にATI0.19及び/又はATI0.28の含有量を低減した粉末混合物、及びそれらから製造したパスタ及び焼成食品が、NCGS患者に好ましく、ATI誘発症状の緩和に寄与できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って本発明は、従来の小麦粉(タイプ550)と比較して、ATI0.19及び/又はATI0.28の含有量が著しく低減されていることを特徴とする粉末混合物を提供する。これにより、本発明の粉末混合物中のATIタイプ0.19及び/又はATIタイプ0.28の含有量は、タイプ550の小麦粉又は従来の粉末と比較して少なくとも40%低減される。
【0023】
さらに、いずれも非常に活性の免疫刺激物であるATI CM3及びCM16のレベルを低減する又は制御することも、有益である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、LC/MS+MS分析の区別化したATI判定の結果を示す。
【
図2】
図2は、ファリノグラフ測定の結果を示し、よって様々な試験混合物1~7の混捏挙動を示す。
【0025】
図3は、混捏挙動に対する様々な小麦グルテンの影響を示す。
【
図3】
図4A及びBは、焼成挙動に対する小麦グルテンの様々な量の影響を示す。
【
図4】
図5は、混捏挙動に対する様々な量のデンプンの影響を示す(ファリノグラフ測定)。
【0026】
図6は、焼成挙動に対する様々な量のデンプンの影響を示す(写真)。
【
図5】
図7A及びBは、種々の焼成添加物を用いた焼成試験の結果を示す。
【
図6】
図8は、14人の試験者による試食の結果を示す。
【0027】
図9は、ヒト単球に対するJunkerら(2012年)によるATI生物活性分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
対照粉末「小麦粉タイプ550」は、ドイツDIN規格10355により規定されるものである。
【0029】
一般的な及び特定のATI含有量、特にATI0.19又はATI0.28の含有量の分析測定は、本発明の範囲内では、比較対象である粉末又は粉末混合物の酵素的に加水分解した抽出物からのLC-MS/MSによって、及び実験的に生成したMSデータと、スペルト小麦、ライ麦、デュラム小麦、大麦、一般的な小麦、ヒトツブコムギ、エンマー小麦、オート麦の全ATI含有量に関するデータベースからの公表値との比較によって、行う。
【0030】
発明者らは、単離されたATI低減タンパク質及びデンプン源(任意に親水コロイドを含む)からなる粉末混合物が、パン及びパン等のベーカリー製品の製造に特に適していることを見出した。特にATI0.19及び/又はATI0.28、さらにはCM3及びCM16の含有量を、従来の粉末と比較して少なくとも40%低減した粉末混合物は、パン及びパン等のベーカリー製品の製造に適している。
【0031】
そのような粉末混合物は生物活性の低減を示し、バイオアッセイでの測定によって確認されるように、炎症性生物活性は、いくつかの場合では6分の1の低減を示す。
【0032】
本発明において、粉末混合物は、粉砕した植物部分、特に粉砕した植物種子をベースとする任意の組成物として規定される。典型的には、本発明の範囲内では、穀類穀粒、特にスペルト小麦、ライ麦、オート麦、小麦、大麦、エンマー小麦、オート麦及びヒトツブコムギを、粉砕して粉末にする。
【0033】
本明細書において粉末混合物の製粉度は、典型的なケーキ用の家庭用小麦粉であるタイプ405からパン用のタイプ550、及び全粒粉とほぼ同等の小麦粉であるタイプ1700まで、種々のものとすることができる。ライ麦及びスペルト小麦についても同様である。「製粉度」という用語は粉末の「タイプ」を指し、専門家には、ドイツDIN規格10355で規定されている特性、すなわち、例えば、穀粒の外縁層、つまりミネラル含有量がどのくらい粉末に含有されているかを明確に理解可能とする。タイプ番号は、100グラムの粉末に何ミリグラムのミネラル物質(いわゆる灰数)が含有されているかを示す。タイプ番号が高いほど、ミネラル含有量が高くなり、粉末が暗色になる。
【0034】
製粉度に加えて、本明細書に記載する粉末混合物中の植物部分の製粉度も重要であり、様々な穀粒サイズで表す。本出願に記載する粉末混合物には、典型的には平均穀粒径が最大で150μmまでの粉末を使用する。本明細書に記載のベーカリー製品及びパンの製造のために、粉末混合物は、平均穀粒径又は平均粒子径が<1000μm、さらに<750μmの粉砕度を有し、さらに特に適しているのは、<500μm、さらに<400μm、さらに<300μmの粉砕度、及び最後に特殊な混合物については特に<150μmの粉砕度を有する粉末混合物である。
【0035】
本発明の粉末混合物のATI含有量を、再現可能な比較値で判定するための標準化された分析を行うために、標準のタイプ550の製粉された小麦粉を使用する。
【0036】
記載する粉末混合物に使用する粉末は、単離されたタンパク質源及びデンプン源からも構成される。一実施形態によれば、記載する粉末混合物は、少なくとも5質量%から最大で25質量%までのタンパク質、主にグルテンタンパク質を含む。さらに、さらなる実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、5~20質量%のタンパク質又は5~15質量%のタンパク質、好ましくは8~18質量%のタンパク質、あるいは7~25質量%のタンパク質、10~25質量%のタンパク質又は15~25質量%のタンパク質を含有し、さらに好ましくは、本発明による粉末混合物は、6~19質量%のタンパク質又は10~14質量%のタンパク質を含む。
【0037】
これらのタンパク質源はグルテンを含有してもよいが、必ずしも必要ではないことに特に注意すべきである。さらに、本発明において、グルテン又はグルテンタンパク質は集合的な用語であり、いくつかのタイプの穀類の種子に現れる様々なタンパク質からなる物質の混合物を表し、よってこの集合的な用語は、本出願によれば、タンパク質源も指すことに注意すべきである。
【0038】
対応して、使用するタンパク質源は、スペルト小麦、小麦、ライ麦、大麦、オート麦、エンマー小麦又はヒトツブコムギ粉末、及び単離された穀類グルテンの変形、単離された小麦グルテン、スペルト小麦、小麦、ライ麦、大麦、オート麦、エンマー小麦又はヒトツブコムギの単離されたグルテン変形だけでなく、スペルト小麦、小麦、ライ麦、大麦、オート麦、エンマー小麦又はヒトツブコムギの単離されたグルテン成分及び上記の混合物からなる群から選択される。
【0039】
あるいは、他の実施形態によれば、タンパク質源はグルテン非含有であり、粉末混合物は、疑似穀類又はアマランサス、キノア、チア、ソバ、コメ、トウモロコシ、キビ、テフ、フラックスシード(flaxseed)、豆類、クリ、及びそれらの混合物からなる群から選択される、他のグルテン非含有のタンパク質豊富な源を使用し及び粉砕して製造される。
【0040】
他の実施形態によれば、粉末混合物に添加されるデンプン源は、グルテンを含有してもよいが、必ずしも必要ではない。
【0041】
したがって、上記実施形態によれば、使用するデンプン源は、小麦デンプン、軟質小麦デンプン及びデュラム小麦デンプン、及び小麦デンプンと少なくとも1種のさらなるデンプン源、すなわちコーンスターチ、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、加水分解デンプン、ライ麦デンプン、オート麦デンプン、大麦デンプン、アロールートデンプン、バナナデンプン、コメデンプンとの混合物又はそれらの混合物を含む群から選択される。
【0042】
一実施形態によれば、記載する粉末混合物は、少なくとも50質量%の及び/又は最大で96質量%までのデンプンを含む。さらに、他の実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、55~90質量%のデンプン、65~85質量%のデンプン、75~85質量%のデンプン、70~92質量%のデンプン、60~85質量%のデンプン又は80~96質量%のデンプンを含む。
【0043】
発明者らは、ATI低減タンパク質源及びデンプン源で製造した生地が、その組成に依存して、良好~優れた弾性及び粘度を呈することを示すことができた。例えば、タンパク質含有量が5~15質量%で、且つデンプン含有量が70~92質量%又は80質量%を超えると、標準の粉末タイプ550(実施例1)に匹敵する生地特性を有する生地が得られる。
【0044】
より良好な耐容性という望ましい効果は、変更されていない通常の製品、すなわち標準の小麦粉タイプ550と比較して、ATIを少なくとも40%低減することにより現れていることも示している。従って、本発明による粉末混合物は、使用する出発製品及び最終製品、すなわち混合物自体が、標準の小麦粉タイプ550と比較して、少なくとも40%低減されたATIを有するという特徴を有する。
【0045】
さらに、代替の実施形態によれば、使用する出発製品及び最終製品は、標準の小麦粉タイプ550と比較して、少なくとも50%、さらに標準の小麦粉タイプ550と比較して少なくとも60%、さらに標準の小麦粉タイプ550と比較して少なくとも70%、さらに標準の小麦粉タイプ550と比較して少なくとも80%、さらに標準の小麦粉タイプ550と比較して少なくとも90%又は標準の小麦粉タイプ550と比較して100%低減されたATIを有する。
【0046】
本発明の本質的な特徴は、ATIが低減された出発物質の使用である。ATIは、本出願において、小麦タンパク質のサブグループ、すなわちアルファ-アミラーゼ/トリプシンインヒビターのファミリーの、略称及び集合名として使用する。現在知られているATIのファミリーは、約15kDの分子量を有する17の様々なタンパク質変種からなる。ATIは、ジスルフィド架橋を介して接続された複数の高度に保存されたアルファヘリックス構造からなる密な水溶性タンパク質であり、高いプロテアーゼ抵抗力によってさらに特徴付けられる。典型的には、ATIタンパク質はグルテン含有食品中に、又は単離されたグルテン中に直接、約2~4%の割合で見出される。
【0047】
発明者らは、いくつかの選択されたATIの割合を低減した出発物質の使用が、特に有利であることを示すことができた。すなわち、本発明によれば、低減されたATI含有量、特にATI0.19、ATI0.28、CM3、CM16及びCM17群からなるATIから選択されるATI含有量を低減した出発物質が好ましい。
【0048】
従って、本発明で使用する粉末又は他の出発物質は、選択されたATIの含有量について試験する。よっていくつかの実施形態によれば、天然に発生する低いATI0.19含有量及び/又はATI0.28含有量、又は工業的に低減したATI0.19含有量及び/又はATI0.28含有量に基づいて選択された、粉末及び出発材料を使用する。さらに、ATI含有量はまた、種々の公知の方法によって低減することができるので、低減されたATI0.19含有量及び/又はATI0.28含有量を有する出発材料が利用可能となる。
【0049】
ATI含有量を測定するための種々の方法が公知である。Prandi et al.(Food Chemistry2013、141-146)は例えば、ATI CM3含有量を判定するLC/MS分析を記載している。略語LC/MS(しばしばHPLC-MSとも呼ばれる)とは、液体クロマトグラフィーと質量分析カップリングとの組み合わせを指す。溶液の分子を分離するために、クロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーを行い、次いで分離した物質(分子)を質量分析によって同定及び/又は定量化する。
【0050】
しかしながら、LC/MS手順の難しさの1つは、2つの個別の手順間の界面である。過剰サンプル体積及び溶媒の両方を廃棄しなければならず、これは、界面における汚染及び欠陥をしばしば引き起こす。これらの問題を克服するために、今日のイオン化プロセスでは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)又は大気圧での化学イオン化(APCI)がしばしば使用される。本発明において使用することができるさらなる可能性は、ナノ-LC/MSであり、それによりこの場合、サンプル体積が低下し、分離は著しく低い流速で行われることになる。
【0051】
一方、本発明において最も効果的であることが証明された方法は、質量分析の液体クロマトグラフィーとの二重カップリングであり、これはLC-MS/MSとしても知られ、存在する物質のより良好でより意味のある検査が可能になる。この方法は、今日の研究、特にプロテオミクス及びペプチドミクス(peptidomics)の分野で非常に一般的である。これは、LC-MS/MS法を使用すると、純粋な物質だけでなく、物質混合物中の物質も同定及び定量化することができるためである。
【0052】
しかしながら、分析するサンプルをあらかじめ準備しておく必要があり、これは時間がかかる。そしてLC-MS/MS手順に供するサンプルを調製するための以下に記載する方法は、既知の最新技術のあらゆる部分であり、本出願における分析に、単独で又は組み合わせて、どれも使用することができる。
【0053】
最もよく知られている方法の1つは、1次元又は2次元(1D又は2D)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)であり、これにより、タンパク質がタンパク質分解フラグメントとしてゲルから抽出され、次いでMS法で分析される。
【0054】
(PAGE)法は非常に堅牢で安定しているが、解像度が低いため、複雑な混合物には適さない場合がある。このため、今日では、ペプチドを分離するためにゲルの代わりにpH溶液を使用することにより、ゲル非含有の分離が行われることも多い。タンパク質及びペプチドはpH勾配を有する(IPG)ゲル上に固定化され、次いで移動によって分離され、IPGストリップの隣のウェルに拡散によって配向される。
【0055】
上記の方法の代替として、タンパク質は、(免疫)アフィニティークロマトグラフィーを使用して、その生化学的及び生物物理学的特性に基づいてしばしば分離され、最も多く存在するタンパク質が除去される。典型的には、これは色素ベースの分離又は抗体を使用した分離によって行う。
【0056】
さらに、本発明の範囲内の出発物質及び粉末を分析するのに適した数多くの他の方法があるが、これらについては、ここではごく簡単に説明する。
【0057】
限外ろ過法は上流に設置することができ、遠心分離によって全タンパク質を複数の分画に分離する。
【0058】
有機溶媒沈殿では、高分子質量のタンパク質が有機溶媒を添加することによって沈殿し、あらゆるペプチドを含む低分子タンパク質が溶液中に残る。有機溶媒の代わりに硫酸アンモニウムを使用することも可能であるが、これにより後のLC-MS/MS工程で界面汚染がもたらされる。
【0059】
上記のHPLC液体クロマトグラフィーに加え、以下を含む別法も使用することができる。
【0060】
溶解した物質の個別の分子をそのサイズ(より正確には、それらの流体力学的体積)に基づいて分離する、一種の液体クロマトグラフィーとしてのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)。
【0061】
個別の分子をその様々な疎水特性に基づいて分離する、逆相クロマトグラフィー。
【0062】
タンパク質をその電荷に基づいて特定の塩環境及び特定のpHで分離する、イオン交換クロマトグラフィー。
【0063】
複雑な生体サンプルについては、複数の多次元分離がしばしば示され、上記のあらゆる方法を組み合わせることができる。これらのあらゆる方法及びこれらの方法の組み合わせは、最新技術の一部であり、本発明の範囲内の低減されたATI含有量を有する、適した出発材料及び粉末を選択するために使用することができる。
【0064】
本発明による出発物質は、著しく低減されたATI含有量を有する。特に、本発明による出発物質及び粉末混合物は、ATI0.19及び/又はATI0.28の含有量が低減されている一方で、他のATIの含有量は、ほぼ不変、又はほぼ不変とされる。
【0065】
実施例9では、本発明による粉末混合物について、様々なATIのATI含有量を標準的な粉末と比較して、LC/MS+MSによって判定した(
図1)。
【0066】
さらなる調査により、本発明による粉末混合物に含有されるATIの生物活性は、標準的な粉末のATI誘発生物活性とは著しく異なることが示された。
【0067】
図9は、例えば、IL8特異的ELISAアッセイの結果を示している。すなわち、この試験に適した試験細胞、すなわちATI反応性細胞(WO2017075456による、例えば、TLR4発現細胞、好ましくはTLR4発現単球)をATI抽出物(緩衝液抽出物)と接触させ、その後サイトカイン放出、すなわち上清中のIL8放出をELISAで測定した。Junkerらは、この生物活性試験を開発し、Junker et al.(Wheat amylase trypsin inhibitors drive intestinal inflammation via activation of toll-like-receptor、Journal Experimental Medicine201、209:2395-2408)で初めて報告された。
【0068】
本発明者らにより、本発明による粉末混合物が、ATI生物活性試験において、標準的な粉末と比較して著しく低いサイトカイン放出を誘因することが示された。よって、ATI感受性患者及び種々のNCGS症状を示し得る患者は、予期されるATI誘発性の免疫反応又はアレルギー反応がないので、本発明による粉末混合物から作られた製品の著しく良好な耐容性及び消化性を予期することができる。
【0069】
別の実施形態によれば、本発明による粉末混合物のATI生物活性測定は、混合物1グラムあたりIL-8が約10対約115ngのIL8放出に対応し、IL-8特異的ELISAアッセイにおいて検出可能である生物活性が示された。
【0070】
この結果は、焼成特性及びより良好な耐容性に関して有益な効果を達成するために、あらゆるATIを低減する必要があるわけではないことも示している。本発明の一般的な目的、すなわち、患者全般に、特に非セリアック病のグルテン過敏症患者のために、パン及びベーカリー製品、又はより良好な耐容性を有する製品の製造に適した粉末混合物を提供するのに、ATI0.19又はATI0.28以外を低減することは有害ではないが、必ずしも必要ではない。
【0071】
さらなる調査により、本発明による粉末混合物において、及び粉末の酵素的又は加水分解的前処理を介して、粉末に本来存在するフラクトオリゴ糖(FODMAP)、すなわち発酵性オリゴ糖、二糖、単糖又はポリオールの割合も著しく低減することが示された。標準的な測定では、本発明による粉末混合物中のFODMAPの割合が、市販の小麦粉(実施例10)と比較して10分の1に低減されたことが示された。
【0072】
よって、オリゴ糖全般(FOS、XOS、又はGOS)及びFODMAP、特に細菌発酵性オリゴ糖、二糖、単糖又はポリオールの存在に対する過敏症が増強している患者は、本発明による粉末混合物に対してさらに極めて良好な耐容性を呈する。
【0073】
本発明による粉末混合物は、低減されたATI含有量及びその結果としての穀粒タンパク質含有量の変化にもかかわらず、焼成食品及びパンの製造に特に適しているので、特に興味深い。
【0074】
種々の試験シリーズにおいて、発明者らは、どのように様々な粉末混合物の組成、又はどのように様々な粉末混合物のタンパク質又はデンプン分画が、生地の特性、及び特に弾性、生地粘度、伸張性及び混捏挙動に影響を及ぼすかを示した(実施例1~4)。
【0075】
数多くの他の試験シリーズにおいて、親水コロイド及び他の焼成添加物の使用、及び本発明による粉末混合物で製造した生地の生地特性に対するそれらの影響を調査した(実施例4~6)。
【0076】
このように、他の実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、任意に、1種以上の親水コロイドを含有できることが示される。典型的には、この目的のために、1種以上の親水コロイドは、サイリウム、グアガム、チア種子粉末、リンシード(linseed)粉末、キサンタンガム、トラガカント、コンニャク、アラビアゴム、カラヤ、ヒマワリ種子粉末、及びHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を含む群から選択される。
【0077】
さらなる実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、最大で3質量%までの1種以上の親水コロイドを含む。さらなる実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、0~0.5質量%又は0~最大で1質量%までの親水コロイド、さらに最大で2質量%までの親水コロイド、さらに最大で3質量%までの親水コロイドを含む。
【0078】
穏やかな条件下では、親水コロイドは生地の特性、特に生地の粘度特性を向上及び改善させる。これらは、混捏挙動の分析中に、ファリノグラフで判定及び比較する(実施例5)。
【0079】
さらに、親水コロイドは、ガス保持特性に影響を与え、ひいては焼成食品の体積収率にも影響を与える。いずれにせよ、ここでは、小麦パンに匹敵する最終製品を得るために、親水コロイドの添加は必要ではなく、有害でもなく、場合によっては望ましいとすることもできる。
【0080】
さらに、他の実施形態によれば、本発明による粉末混合物は、任意に、1種以上の焼成添加物を含有できることが示される。典型的には、この目的のために、1種以上の焼成添加物は、アスコルビン酸、モルト粉末、アミラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、レシチン、ホスフェート、脂肪酸のモノグリセリド及びジグリセリド、乳化剤、システイン、及びそれらの混合物を含む、及び膨張剤、酵母、サワー種、サワー種濃縮物及び乾燥サワー種をさらに含む群から選択される。
【0081】
粉末混合物に添加された焼成添加物は、製造する焼成食品の焼き色、体積の発達、又は味の調整又は味の発達に関して影響を与え、それらを最高の形態で小麦パンに類似又は同等なものとする役割を有する。専門家に公知の他の焼成添加物又は一般的な焼成添加物は、本発明のコア及び所望の適合性を変えることなく、粉末混合物に添加することができる。
【0082】
従って、本発明の粉末混合物で製造した焼成食品が従来の小麦パン同等であるかどうかを判定するために、試食試験も行った。この目的のために、試行混合物17(本発明の混合物)及び試行混合物1(市販の小麦粉)からロール及びパンを製造し、試験者が試食して比較した。光学的印象(色及び外観)、匂い及び香り、味及び質感及び感触を評価した。
【0083】
結果から、試験者が様々に評価し、特に味に関して違いが認められたものの、全体的な印象では、標準の小麦粉又はATI低減粉末混合物から作られた製品が非常に類似しており、同等であることも明らかであることが示される(
図8)。
【0084】
他の実施形態によれば、ATI低減粉末混合物を、サワー種、サワー種濃縮物、焼成添加物及び/又は膨張剤と混合する。使用するサワー種又はサワー種濃縮物は、L.アシディファリナエ(L. acidifarinae)、L.アシドフィルス(L. acidophilus)、L.アリメンタリウス(L. Alimentarius)、L.アミロボラス(L. Amylovorus)、L.ブレヴィス(L. brevis)、L.ブチネリ(L. buchneri)、L.セロビオスス(L. cellobiosus)、L.・コレオホミニス(L. coleohominis)、L.コリノイド(L. collinoides)、L.クリスパタス(L. crispatus)、L.クラストラム(L. crustorum)、L.クルバタス(L. curvatus)、L.デルブリッキ(L. delbrueckki)、L.ファルシミニス(L. farciminis)、L.フェルメンツム(L. fermentum)、L.フルクチボランス(L. fructivorans)、L.フルメンチ(L. frumenti)、L.ガリナルム(L. gallinarum)、L.ガッセリ(L. gasseri)、L.ハメシイ(L. hammesii)、L.ヘルヴェティクス(L. Helveticus)、L.ヒルガルディ(L. hilgardii)、L.ホモヒオチ(L. homohiocchi)、L.ジョンソニイ(L. johnsonii)、L.ケフィリ(L. kefiri)、L.キムチイ(L. kimchi)、L.クンケエイ(L. kunkeei)、L.リンデリ(L. linderi)、L.マリ(L. mali)、L.ミンデンシス(L. mindensis)、L.ムコサエ(L. mucosae)、L.ナゲリイ(L. nagelii)、L.ナンテンシス(L. nantensis)、L.ナムレンシス(L. namurensis)、L.ノデンシス(L. nodensis)、L.オリス(L. oris)、L.パニス(L. panis)、L.パラリメンタリウス(L. paralimentarius)、L.パラブチネリ(L. parabuchneri)、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.ペントサス(L. pentosus)、L.ペロレンス(L. perolens)、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ポンティス(L. pontis)、L.ロイテリ(L. reuteri)、L.ロシアエ(L. rossiae)、L.サケイ(L. sakei)、L.サンフランシセンシス(L. sanfranciscensis)、L.セカリフィラス(L. secaliphilus)、L.シリギニス(L. siliginis)、L.スピチェリ(L. spicheri)、L.バギナリス(L. vaginalis)、L.ジマエ(L. Zymae)及び他のラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ルーコノストク・シトレウム(Leuconostoc citreum)、L.ゲリダム(L. gelidum)、Lc.メセンテロイド(Lc. mesenteroides)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、P.パルバラス(P. Parvulus)、P.ペントサセウス(P. Pentosaceus)、ワイセラ・シバリア(Weissella cibaria)、ワイセラ・コンフューザ(Weissella confusa)、ワイセラ・カンドレリ(Weissella kandleri)、ワイセラ・パラメセンテロイデス(Weissella paramesenteroides)、ワイセラ・ビリデセンス(Weissella viridescens)、カンジダ・ミレリ(カザクスタニア・ミレリ)(Candida milleri (Kazachstania milleri))、カンジダ・フミリス(Candida humilis)、カザクスタニア・エクジグア(Kazachstania exigua)、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、デバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、カザクスタニア・ユニスポラ(Kazachstania unispora)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、S.バヤナス(S. Bayanus)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、トルラスポラ・デルブルッキ(Torulaspora delbrueckii)、T.プレトリエンシス(T. Pretoriensis)、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ピキア・クドリアブゼビイ(Pichia kudriavzevii)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatschenkia orientalis)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)及びそれらの混合物を含む微生物の群からの1種以上の菌株又は純粋な育種菌株を含む。
【0085】
さらに、本発明は、粉末中のATIを低減する方法を提供し、このため、生きたサワー種及び/又はサワー種スターターを有する粉末混合物を調製し発酵させる。
【0086】
この目的のために、本発明は、調製した粉末及び/又は生地のATI含有量を変更することができる生きたサワー種及びサワー種スターターを提供する。選択された混合物は特に、含有される培養物及び純粋な育種菌株が、ATI0.19及び/又はATI0.28を代謝及び/又は低減させることができるという事実によって特徴付けられる。
【0087】
従って本発明の粉末中のATI含有量に影響を与えることができる、本発明の範囲内で提供される生きたサワー種及びサワー種スターターは、主要生物としてカンジダ・ミレリ(Candida milleri)、カンジダ・フミリス(Candida humilis)及び/又はカザクスタニア・ミレリ(Kazachstania milleri)のうち少なくとも1種のサワー種酵母を含む。さらに、本発明によるサワー種又はサワー種スターターは、カザクスタニア・エクジグア(Kazachstania exigua)、デバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、カザクスタニア・ユニスポラ(Kazachstania unispora)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、トルラスポラ・デルブルッキ(Torulaspora delbrueckii)、T.プレトリエンシス(T. Pretoriensis)、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ピキア・クドリアブゼビイ(Pichia kudriavzevii)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatschenkia orientalis)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)及びそれらの混合物の群から選択される少なくとも1種以上のさらなるサワー種酵母菌株を含むことができる。サワー種にしばしば見いだされるサッカロミセス属の菌株については、粉末混合物中にATIの低減量を検出することはできなかった。従って、それら菌株の存在は必要ではないが、障害でもない。
【0088】
さらに、好ましくは、本発明のサワー種は、L.ポンティス(L. pontis)、L.サンフランシセンシス(L. sanfranciscensis)及びL.ロイテリ(L. reuteri)の群からの少なくとも1種の微生物を含む。本発明によるサワー種における他の公知のサワー種菌株の存在は、ATI含有量に全く又はほとんどさらなる影響を及ぼさず、よって発明者の現在の知識によれば、所定の生物が存在していてもATIの低減を妨げることはない。このように、選択された菌株によってATIを低減するあらゆるサワー種、特にサワー種酵母カザクスタニア・ミレリ(Kazachstania milleri)は、本発明のアプローチに該当する。
【0089】
この組み合わせにおいて、選択した菌株は粉末ミックスのタンパク質組成を特定の程度まで変化させるので、それら菌株はおいしいパン及びベーカリー製品のためのATI低減粉末ミックスを製造するのに特に適している。選択した菌株を使用することにより、選択した菌株の代謝相互作用からの恩恵を、そのATI組成に関して受け、さらに、通常の小麦サワー種のガス保持特性又はレオロジー特性を示す、生地が製造される。
【0090】
本出願によれば、ATI低減粉末混合物は、さらなる材料を任意に添加して及び添加せずに、パスタ、ペストリー製品、及び無論古典的なパン及びベーカリー製品の製造に特に適している。味又はレシピに応じて、卵、卵白、卵黄、調理済卵(ready-to-eat egg)、ミルク、酵母、砂糖、塩、パンスパイス、グルテン非含有の穀類及び/又は疑似穀類を、穀粒及び/又は粉砕物として添加することができる。
【0091】
典型的には、本発明のATI低減粉末混合物から製造されるあらゆる二次製品は、タイプ550粉末から製造される製品と比較して、全ATI含有量で少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、さらに70%、さらに80%、さらには最大で90%までもATI低減される(
図9)。本発明によるサワー種を用いた発酵時間の持続時間の変化(延長)は、粉末混合物のATI含有量を変化させ、よってこれは必要に応じて調整することができる。
【0092】
よって、本発明による粉末混合物について、Junkerらによる生物活性試験(2012年)では、IL-8Elisa試験(ThermoFischer scientific)で10ng/粉末混合物1g未満のIL-8放出を検出することができたのに対し、対照的に、市販の粉末混合物は、約116ng/粉末1gのIL-8放出を検出することができた。これは、市販の粉末での結果と比較して、ATI特有の生物活性が90%以上低減されたことに相当する。所定の仮説にかかわらず、現在の知識によれば、本発明による粉末混合物の適合性は、粉末混合物1gあたり最大で60ng/IL-8 1gのIL-8放出で表される、ATI特有の生物活性で保証される。
【0093】
従って、本発明の範囲内で製造されるベーカリー製品及び/又はパスタは、少なくとも40%、しかしなお50%、60%、70%、80%及び特に90%の低減された全ATI含有量を有する限り、特に適合性がある。
【0094】
図面の簡単な説明
図1は、LC/MS+MS分析の区別化したATI判定の結果を示す。二重判定;白色バー=市販のタイプ550の小麦粉、黒色バー=本発明による粉末混合物。三重判定;ピーク面積を比較する。しかしながら、あらゆるサンプルは同様に処理し、同じ体積で記録する。ATI0.19、0.28及びCM3については2種のペプチドを使用し、CM2及びCM16についてはそれぞれ1種のみのペプチドを使用した。粉末Bでは、ATI0.29及び0.28が著しく低減された一方で、ATI CM2、CM3及びCM16では違いは見られない。
【0095】
図2は、ファリノグラフ測定の結果を示し、よって様々な試験混合物1~7の混捏挙動を示す。種々の試験混合物のファリノグラムは、実験1(-小麦粉550)、実験2(---グルテンなし)、実験3(-- -- --サイリウムなし)、実験4(- - -グルテン13%、サイリウム2.9%)、実験5(……グルテン13%、サイリウム0.8%)、実験6(-- - -- グルテン6.8%、サイリウム3.2%)、実験7(--- --- グルテン13%、サイリウム0.8%、胚芽(Germe)2%)と示される。
【0096】
図3は、混捏挙動に対する様々な小麦グルテンの影響を示す。
【0097】
図4A及びBは、焼成挙動に対する小麦グルテンの様々な量の影響を示す。視覚的に認識できる違いから、小麦グルテンが(左から右に)約4%、約12%及び約19%のグルテン含有量を有する生地から焼成したパンが示される。
【0098】
図5は、混捏挙動に対する様々な量のデンプンの影響を示す(ファリノグラフ測定)。
【0099】
図6は、焼成挙動に対する様々な量のデンプンの影響を示す(写真):ATI低減基本ミックスに基づいて、左から右へ、約95%、約83%、約70%及び約50%のデンプンの、様々なデンプン含有量のブリキ缶ローフのクラムの写真である。
【0100】
図7A及びBは、種々の焼成添加物を用いた焼成試験の結果を示す(左から右へ):アスコルビン酸、ジアスターゼモルト及びアスコルビン酸、αアミラーゼ及びアスコルビン酸。
【0101】
図8は、14人の試験者による試食の結果を示す。ここで、市販の小麦粉から作られたロール及びパンを、本発明による粉末混合物から作られたロール及びパンと比較した。
【0102】
図9は、ヒト単球に対するJunkerら(2012年)によるATI生物活性分析の結果を示す。
【実施例】
【0103】
実施例1:生地の特性に対する様々な組成の影響
ATI低減小麦デンプン及びATI低減単離小麦グルテンの種々の混合比をまとめ、試験した。試験生地を最高粘度に達するまでファリノグラフで混捏した。生地をロールプレスで丸編みした。次いで、生地を15分間休ませた。次いで、生地を長時間穏やかに混捏し、プレスを使用して小さなストリップ生地に成形した。さらに35分の期間休ませた後、測定を行った。
【0104】
【0105】
図2は、ファリノグラフ測定の結果を示し、よってタイプ550の小麦粉と比較した、種々の試験混合物1~7の混捏曲線又は混捏挙動を示す。
【0106】
この目的のために、様々な試験混合物(レシピの概要については表1を参照)を用いて、30℃で混捏時間20分及び速度63rpmで、ファリノグラフで生地を調べた。
【0107】
以下の表2に、伸長及び伸長抵抗も示す。試験は、使用したあらゆる化合物間の明確な違いを示す。試験混合物1は、対照例を表し、通常の小麦粉の伸張性及び最高粘度を示す。
【0108】
【0109】
実施例2:混捏挙動に対する様々な小麦グルテンの影響
生地のレオロジー特性に対する様々な粘着性物質及び単離された粘着性タンパク質の影響を調査した。
【0110】
以下の配合(#8)において様々な粘着性物質を使用し、その量は変化させなかった。
【0111】
【0112】
この目的のために、グルテン、すなわち単離された小麦グルテンを、種々の製造業者によって試験した。混捏曲線の結果を
図3に示す。
【0113】
混捏曲線に示された、加水分解グルテンの混捏抵抗の著しい低減の結果が特に重要である。他の粘着性物質も同様の混捏抵抗を示すが、「第二」の増加は様々な時間に存在する。
【0114】
例3:焼成挙動に対する小麦グルテンの様々な量の影響
小麦グルテンの様々な含有量の影響を調査して、小麦グルテン量の耐容範囲を判定すべきである。以前の一連の試験で使用した小麦グルテンの量は約13%であり、標準を表す。比較として、約4%から最大で約20%のグルテン(水を除いた材料の全量に基づく)を含む混合物を試験した。
【0115】
【0116】
粘着性物質含有量が5%未満の生地は、弾性特性がほとんどなかった。他方で、約20%以上の粘着性物質を有する生地は、ゴム状稠度を有していた。
【0117】
生地が非常に強い「グルテン臭」を有していたことが顕著であった。グルテン含有量が約20%のすぐに焼けるパンは、非常にゴムのような咀嚼挙動を示し、これは従来の小麦パンと比較すると非常に非典型的であった。
【0118】
全体として、5%及び20%の含有量は極端であり、焼成食品の品質に様々な負の影響を有すると言える。理想的には、6%~19%の粘着性物質量を使用するべきである。
【0119】
図4A及び4Bは、(左から右に)小麦グルテン4%、12%、及び19%のグルテン含有量を有する生地から焼成したパンの間で視覚的に認識できる違いを示す。
【0120】
実施例4:様々な量のデンプンの使用及び生地特性及び焼成挙動に対するその影響
この試験シリーズでは、ATI低減混合物の基本配合における様々なデンプン含有量の影響を調査した。これにより、後の製品変形へのベースミックスの変動性を推定することができる。
【0121】
当該試験シリーズでは、生地の特性を、ファリノグラフを使用して調査した。様々なデンプン含有量が焼成特性に与える影響を評価するために、焼成試験を行った。次のデンプン含有量を調べた:83%(hrs)、95%、70%及び50%。
【0122】
以下の表5に、レシピ及び測定したパラメータを示す。
【0123】
【0124】
ファリノグラフ測定(
図5)は、様々なデンプン含有量の使用が、生地/塊の混捏特性に著しい影響を有し、よって全体的な曲線特性を変化させることを示す。小麦粉550及びデンプン含有量95%の試験塊の曲線の類似性は印象的であるが、これは焼成特性に関する情報をほとんど提供しない。処理特性及び焼成特性の違いの程度は、焼成結果(
図6)及び以下の記載に基づいて評価することができる。
【0125】
焼成試験:
以下の表6は、焼成試験のレシピ及び製造パラメータ、及びその結果を示す。
【0126】
【0127】
結果:
【0128】
【0129】
実施例5:様々な親水コロイドの使用及び生地特性及び焼成挙動に対するその影響
この試験シリーズにおいて、ATI低減焼成食品を製造するためのベースミックスに対する様々な親水コロイドの影響を調査した。結果は、ベースミックスの機能が特定の親水コロイドに拘束されていないことを確実とすべきである。あらゆる親水コロイドの含有量は1%(水を除いた材料に基づく)であった。これは、焼成食品中の親水コロイドの典型的な含有量を表す。
【0130】
様々な親水コロイドが焼成特性に及ぼす影響を評価するために、焼成試験を行った。以下の親水コロイドを調査した:
- 親水コロイドなし、欠落した親水コロイドは小麦デンプンで置き換えた(略語:なし)
- サイリウム、基本レシピでは0.8%の標準として使用した(略称:Psy(標準))
- グアガム(3500cps)(略称:Guar)
- HPMC(4000cps)(略称:HPMC)
- キサンタンガム(1550cps)(略語:Xan)
- トラガンス(400cps)(略語:Trag)
- コンニャク(36000cps)(略語:Konj)
- アラビアゴム(-cps)(略語:Ara)
- カラヤ(-cps)(略称:Kara)
【0131】
焼成試験:
表7に焼成試験の基本レシピ及び製造パラメータを示す。
【0132】
【0133】
以下の表8に、種々の親水コロイドを使用した場合と、親水コロイドの使用しない場合の焼成試験の結果を示す。
【0134】
【0135】
実施例6:様々な焼成添加物の使用及び生地特性及び焼成挙動に対するその影響
様々な焼成添加物の影響を調査すべきである。上述の配合10をベースとして使用した。
【0136】
【0137】
生地はその特性において、ほとんど違いを示さなかった。
【0138】
焼成試験において、添加物に依存して焼成食品に違いを検出することができた。糖化性モルトを用いて製造したパンは、より強い褐色化を示したが、アスコルビン酸のみを用いて製造したパンと比較して、体積は増加しなかった。アスコルビン酸を含まないパンは、同様の体積を示した(実験結果は記載しない)。
【0139】
αアミラーゼを使用することにより、約100mlのペストリー体積増加を達成することができた。淡褐色は、より強く褐色化したようには見えなかった。
【0140】
図7A及び7Bは、焼成試験の結果を示す(左から右へ):アスコルビン酸、ジアスターゼモルト及びアスコルビン酸、αアミラーゼ及びアスコルビン酸。
【0141】
例7:ATI低減配合の標準化
【0142】
【0143】
生地特性:
生地収率は、TA164を用いると、典型的な小麦生地と比較してわずかに増加した。混捏時間は、従来の小麦生地よりもわずかに長かった。加工中、生地特性の明確な違いが明らかになった。生地の表面は非常に「乾燥」しているように見え、生地は伸縮性があるというよりもプラスチックのようであり、これは使用したサイリウムに起因するものと思われる。
【0144】
生地はカットロールとして加工したが、この加工はほぼ不可能であった。この生地片では許容できる結果のものではなかった。これは乾燥した生地の特性から明確に判断可能であった。調理の過程で、体積はごくわずかにしか増加しなかった。
【0145】
焼成特性:
調理中の生地片のガス保持が不十分なため、非常に体積の小さい焼成食品を得た。体積が小さいにもかかわらず、ロールの切断には非常に明白な効果があった。加えて、焼成中、焼成食品の典型的な褐色化はなかった。焼成食品は灰色がかったように見え、不均一で「革のような」表面を示した。表面及びクラムも「点描」のように見えたが、これもサイリウムに起因し得る。
【0146】
さらなる実験では、サイリウムは生地及び焼成特性に著しい影響を有するので、その量を著しく低減した。グルテン特性に関連して顕著な特性が存在するようにおもわれる。
【0147】
【0148】
実験配合15:
生地及び焼成特性は、試験レシピ14の生地及び焼成特性と同等であった。これにより、サイリウムの含有量が多すぎる場合、この親水コロイドの特性が顕著であり、粘弾性特性が生じないという印象が確認された。
【0149】
実験配合16:
生地特性は小麦生地の生地特性と同等であった。TA169の選択された生地収率は高く、生地は加工には非常に柔らかかった。生地は、クラムの構造及びクラムの形成に関して従来のパンに匹敵した。非定型の灰色がかったクラストの色が明確に顕著であった。
【0150】
実験配合17:
生地収率(TA167)及び混捏時間を調整して、従来の小麦生地に典型的な生地特性を得た。この結果及び砂糖の使用により、体積、質感、クラム構造及びクラストの色が、従来の小麦パンとほとんど変わらない程度まで改善された。
【0151】
試食
試食試験では、試行ミックス17(本発明による混合物)及び試行ミックス1(小麦粉)で製造したロール及びパンが、14名の試験者にどのように影響したかを比較して判定した。光学的印象(色及び外観)、匂い及び香り、味、及び質感及び触覚を評価した。
【0152】
結果(
図8)は、試験者が様々な評価を与え、特に味に関して違いが認められるものの、全体的な印象は、標準の粉末又はATI低減粉末混合物から作られた製品は、感触、質感、色及び外観に関して、非常に類似しており匹敵していた。
【0153】
実施例8:試験配合物のATI-生物活性の判定
試験レシピ17(本発明による粉末混合物)及び試験レシピ1(市販の小麦粉)のATI生物活性を、Junkerら、2012(JEM、2012)の方法及び例えばWO2017075456に記載の方法を用いて比較した。
【0154】
この目的のために、ATIの生物活性をヒト単球、例えばTHP-1細胞株で試験した。集密して増殖させたTHP-1細胞は、中性緩衝液に溶解した粉末混合物抽出物で刺激される。ATIの量に応じて、IL-8がこの細胞株から上清に放出され、これを次いで、製造者(ThermoFischer Scientific)の仕様により標準化されたELISAによって判定する。
【0155】
試験細胞の上清には明確に様々なサイトカイン放出が見出され、含有されるATIの様々な生物活性を示していることは注目に値する。
【0156】
図9は、IL-8特異的ELISAアッセイの結果を示し、そのための適した試験細胞、すなわちATI反応性細胞(WO2017075456による、例えば、TLR4発現細胞、好ましくはTLR4発現単球)をATI抽出物(緩衝液抽出物)と接触させ、次いで上清中のサイトカイン放出(IL-8放出)をELISAによって測定する。
図9は、本発明による粉末混合物が、市販の標準の粉末と比較して、ATI生物活性試験において著しく低い(90%以上低い)IL-8放出の誘因であることを示す。
【0157】
これらのデータから、ATI感受性である患者及び種々のNCGS症状を示す患者は、本発明による粉末混合物から作られた製品の著しくより良好な耐容性及び消化性を期待できると、明確に結論付けることができる。
【0158】
実施例9:区別化したATIの判定
試験レシピ17(本発明による粉末混合物-黒色バー)及び試験レシピ1(市販の標準小麦粉-白色バー)について、Prandiら(Food Chemistry、2013、141-146)によってLC-MS/MSを使用して、区別化したATI判定を行った。
【0159】
この目的のために、塩可溶性抽出物の酵素的開裂に由来するペプチドを、LC-MS/MS法を使用して同定した。ATI定量化のリードペプチドは、それぞれ2つの開裂ペプチドを有するATI0.19、0.28及びCM3、及び1つの開裂ペプチドを有するATI CM2、及びCM16である。あらゆる測定は、少なくとも二重の判定で行った。
図1に結果を示す。
【0160】
図1から分かるように、本発明による粉末混合物は、標準の粉末とは対照的に、ATI0.19及びATI0.28の含有量がはるかに低く、一方でATI CM3含有量及びATI CM2及びCM16含有量は不変のままである。
図1のY軸は、クロマトグラフィーによって判定したピークの面積を示す。(ピーク)面積が分析対象物(この場合、様々なATIタンパク質)の濃度に比例することは、熟練者には一般的に既知である。
【0161】
よって発明者らは、ATI生物活性の低減が見出された実験混合物17が、驚くべきことにATI0.19及びATI0.28の含有量を主に低減し、一方で他のATは、より小さい差異を示したことを示すことができた。
【0162】
実施例10:AOAC法による糖判定(997.08)
試験レシピ17(本発明による粉末混合物及び試験レシピ1(市販の標準の粉末))について、標準的な方法であるAOAC法(997.08)を使用して全糖を判定した。
【0163】