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特許7330968熱可塑性液晶ポリマーフィルム、その製造方法およびフレキシブル銅張積層板
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  • 特許-熱可塑性液晶ポリマーフィルム、その製造方法およびフレキシブル銅張積層板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】熱可塑性液晶ポリマーフィルム、その製造方法およびフレキシブル銅張積層板
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/24 20060101AFI20230815BHJP
   B29C 41/52 20060101ALI20230815BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20230815BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
B29C41/24
B29C41/52
B29K101:12
B29L7:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020530159
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019026928
(87)【国際公開番号】W WO2020013106
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018130892
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 駿
(72)【発明者】
【氏名】猪田 育佳
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-307208(JP,A)
【文献】特開平08-090570(JP,A)
【文献】特開平08-052754(JP,A)
【文献】特開2014-111699(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072361(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/028572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00-41/52
B29C 48/00-48/96
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリマーを成形して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造するフィルム製造工程、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面を2枚の支持体シートと接触させた状態で、前記熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であって、融点より70℃高い温度以下に加熱して、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを溶融する加熱溶融工程、
溶融した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを冷却速度3~7℃/secで、前記熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却する冷却工程、および
冷却した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを前記支持体シートから剥離する剥離工程を有し、
剥離した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、
厚みが100~500μmかつ長尺であり、
広角X線回折装置を用いて、X線をフィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式で算出される面配向度が65%未満であり、
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃における平均線膨張係数が、MD方向で30~60ppm/K、TD方向で40~90ppm/K、厚み方向で0~300ppm/Kであり、
JIS K 7105法で計測されるフィルム面内の明度差△L*が0.5以下である熱可塑性液晶ポリマーフィルム(但し、ガラス繊維を含むものを除く)の製造方法。
【請求項2】
前記加熱溶融工程および前記冷却工程を加圧下で行なう請求項1に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記支持体シートが離型処理を施したポリイミドフィルムである請求項1または請求項2に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
2枚の金属製エンドレスベルトの間に、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび2枚の前記支持体シートを挟んだ状態で、前記加熱溶融工程および前記冷却工程を行う請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
厚みが100~500μmかつ長尺であり、
広角X線回折装置を用いて、X線をフィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式で算出される面配向度が65%未満であり、
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃における平均線膨張係数が、MD方向で30~60ppm/K、TD方向で40~90ppm/K、厚み方向で0~300ppm/Kであり、
JIS K 7105法で計測されるフィルム面内の明度差△L*が0.5以下である熱可塑性液晶ポリマーフィルム(但し、ガラス繊維を含むものを除く)
【請求項6】
請求項5に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いてなるフレキシブル銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムとその製造方法および当該フィルムを用いたフレキシブル銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、耐熱性、機械的強度、電気的特性等に優れているため、電気・電子分野や車載部品分野において、回路基板等の基材フィルムとして広く利用されている。
【0003】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、直鎖状の剛直な分子鎖が規則正しく並んだ構造を取るため、異方性が生じ易い。そのため、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られたフィルムは、一般に、平面内において押出方向に高度の分子配向が生じ、押出方向には高強度を有する半面、幅方向には裂け易いフィルムとなっている。
【0004】
このような熱可塑性液晶ポリマーフィルムの異方性を改善する先行技術がいくつか知られている。特許文献1には、熱可塑性液晶フィルムを支持体と接触させた状態で、所定温度に加熱し、その後冷却して、固化させた後に該支持体から分離する処理方法が開示されている。また、特許文献2には、シリコン系ポリマーがコートされた所定の最大粗さの金属箔を熱処理用支持体に用い、この支持体と接触させた状態で熱処理し、冷却固化し、剥離する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3882213号公報
【文献】特開2000-264987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された処理方法は、処理時の温度制御が必ずしも適切ではないため、異方性の改善において、さらに改善する余地を有するものであった。また、特許文献2に開示された熱処理方法は、機械的性質の異方性は改善されるものの、熱風乾燥機を用いて熱処理しており、工業的に利用することが困難な方法であった。
【0007】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの異方性を改善する試みは、フィルム厚みが大きくなるに従い一層困難となる。すなわち、厚みのあるフィルムは通常、押出成形法で製造されるが、押出成形法ではTダイを通過するときにシェアがかかり、異方性が発現し易いためである。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの異方性は、フィルムの平面方向における面配向度、平面方向や厚さ方向の線膨張係数によって評価することができる。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、加熱や冷却処理を施す過程で、熱履歴のばらつき等による波打ちや縦縞模様等の外観不良が発生することがある。このようなフィルムの外観不良は、フィルム面内の位置による明度差によって評価することができる。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、厚みが大きいときであっても、面配向度や線膨張係数における異方性が小さく、外観に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に2枚の支持体シートを接触させた状態で、当該フィルムを加熱溶融し、当該フィルム内の分子の配列を再配列させ、その後所定の冷却速度で急冷させて、その分子配列を固定させることによって、上記課題を解消し得ることを見出した。本発明はこのような知見を基に到達することができたものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0010】
(1)本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム(但し、ガラス繊維を含むものを除く)の製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーを成形して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造するフィルム製造工程、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面を2枚の支持体シートと接触させた状態で、前記熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であって、融点より70℃高い温度以下に加熱して、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを溶融する加熱溶融工程、溶融した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを冷却速度3~7℃/secで、前記熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却する冷却工程、および、冷却した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを前記支持体シートから剥離する剥離工程を有し、剥離した前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、厚みが100~500μmかつ長尺であり、広角X線回折装置を用いて、X線をフィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式で算出される面配向度が65%未満である。
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
さらに、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃における平均線膨張係数が、MD方向で30~60ppm/K、TD方向で40~90ppm/K、厚み方向で0~300ppm/Kであり、JIS K 7105法で計測されるフィルム面内の明度差△L*が0.5以下である。
【0011】
(2)前記加熱溶融工程および前記冷却工程は、加圧下で行なうことが好ましい。
【0012】
(3)前記支持体シートは、離型処理を施したポリイミドフィルムであることが好ましい。
【0013】
(4)2枚の金属製エンドレスベルトの間に、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび2枚の前記支持体シートを挟んだ状態で、前記加熱溶融工程および前記冷却工程を行うことが好ましい。
【0014】
(5)本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム(但し、ガラス繊維を含むものを除く)は、厚みが100~500μmかつ長尺であり、広角X線回折装置を用いて、X線をフィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式で算出される面配向度が65%未満である。
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
さらに、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃における平均線膨張係数が、MD方向で30~60ppm/K、TD方向で40~90ppm/K、厚み方向で0~300ppm/Kであり、JIS K 7105法で計測されるフィルム面内の明度差△L*が0.5以下である。
【0015】
(6)本発明のフレキシブル銅張積層板は、上記の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法では、面配向度や線膨張係数における異方性が小さく、外観に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得ることができる。特に従来のインフレーション法では対応できないような厚み100μm以上のときであっても、異方性が小さく、外観に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】加熱溶融工程、冷却工程および剥離工程で用いる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、以下に説明する具体例としての実施形態に限定されるわけではない。
【0019】
(熱可塑性液晶ポリマー)
液晶ポリマーとは、溶融時に液晶状態あるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーがある。液晶ポリマーは、熱変形温度によって、I型・II型・III型と分類され、いずれの型であっても構わない。
【0020】
熱可塑性液晶ポリマーとしては、例えば、熱可塑性の芳香族液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性の芳香族液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。また熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0021】
熱可塑性液晶ポリマーは、分子が剛直な棒状構造を有しており、成形時には分子が成形流れ方向に揃った状態のまま固まるため、成形品の寸法安定性に優れている半面、異方性を発現し易い特性を有している。また、耐熱性、剛性、耐薬品性等にも優れているため、電気・電子分野や車載部品分野において、回路基板等の基材フィルムとして使用されている。
【0022】
熱可塑性液晶ポリマーは、溶融状態では、高分子の絡み合いが少なく、流動性が高くなる。そのため、いったん成形された熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、融点以上に再度加熱することによって、成形時に形成された分子の配向がくずれて、異方性が緩和される。
【0023】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造装置]
図1は、本実施形態の加熱溶融工程、冷却工程および剥離工程で用いる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造装置20の模式的断面図である。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造装置20は、液圧式ダブルベルトプレス方式の製造装置であり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを連続的に処理することができ、生産性に優れている。
【0024】
製造装置20には、フィルム製造工程で製造された長尺の熱可塑性液晶ポリマーフィルムのロール11と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に積層される2枚の長尺の支持体シートのロール12が設置されている。ロール11から引き出された熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、ロール12から引き出された2枚の支持体シートによって両側からサンドイッチされて、2台のコンベヤ装置15の間に供給される。
【0025】
製造装置20は、2台のコンベヤ装置15を上下に有している。コンベヤ装置15は、2個のエンドレスベルトロール1、2によって、エンドレスベルト3を駆動させる。コンベヤ装置15はその内部に、加熱ヒーターブロック5および冷却ブロック6を内蔵した加圧ブロック4を有している。2台のコンベヤ装置15は、その間に投入される熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび支持体シートを2枚のエンドレスベルト3の間に保持しつつ、連続的に所定の圧力で加圧しつつ、加熱し、その後冷却することができる。エンドレスベルト3の材質は特に限定されず、金属、樹脂、ゴム等が使用できるが、耐熱性や熱膨張が少ない点から金属が好ましい。
【0026】
加圧ブロック4は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび支持体シートを所定の圧力で加圧することができる能力を有している。加圧ブロック4は、内部にオイルが充填されており、油圧で加圧することができる。油圧で加圧することができると、フィルム面内に均一に圧力を加えることができるため、外観不良が起こりにくい。加熱ヒーターブロック5は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび支持体シートを熱可塑性液晶ポリマーの融点以上の所定の温度に加熱することができる機能を有している。冷却ブロック6は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび支持体シートを熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下の温度に所定の冷却速度で冷却することができる機能を有している。
【0027】
製造装置20は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムや支持体シートを搬送するための複数のガイドロール7を備えている。また、製造装置20は、2台のコンベヤ装置15で処理された熱可塑性液晶ポリマーフィルムを支持体シートから剥離して、それぞれ熱可塑性液晶ポリマーフィルムのロール14および支持体シートのロール13として巻き取ることができる。
【0028】
支持体シートは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に接触させた状態で積層して使用される。支持体シートは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを加圧し、加熱し、冷却する際に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを保持し、保護する機能を有している。支持体シートは、加熱時に密着している熱可塑性液晶ポリマーフィルムとずれが生じないようにするため、加熱寸法変化率等の熱的挙動が、熱可塑性液晶ポリマーに近いものが望ましい。
【0029】
支持体シートとしては、耐熱性に優れた樹脂シートや金属シートが使用される。耐熱性に優れた樹脂シートとしては、ポリイミドフィルム、PTFEフィルム等がある。ポリイミドフィルムは、金属製のエンドレスベルトからの剥離が容易であり、耐熱性に優れ、加熱寸法変化も小さいため好ましい。耐熱性に優れた樹脂シートの市販品として、東レ・デュポン社製カプトン(登録商標)、カネカ社製アピカル(登録商標)が知られている。金属シートとしては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔等がある。
【0030】
支持体シートの厚みは、25~200μmが好ましく、50~125μmがより好ましい。支持体シートの厚みが200μmを超えると、熱伝導の関係で、熱可塑性液晶ポリマーの加熱溶融が不十分となる恐れがある。また、支持体シートは、表面に離型処理を施したシートが好ましい。離型処理の方法は、公知の方法を適宜用いることができる。また、支持体シートは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムから剥離した後に、繰り返して使用することができる。
【0031】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法]
本実施形態の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法は、(1)熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造するフィルム製造工程、(2)熱可塑性液晶ポリマーフィルムを溶融する加熱溶融工程、(3)熱可塑性液晶ポリマーフィルムを冷却する冷却工程、(4)熱可塑性液晶ポリマーフィルムを支持体シートから剥離する剥離工程とを有している。これらの工程のうち、加熱溶融工程、冷却工程および剥離工程は、図1の液圧式ダブルベルトプレス方式の製造装置20を用いて行うことが望ましい。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法の各工程は、バッチ方式でも実施することができるが、生産性の点から連続方式で実施する方が好ましい。以下、各工程について説明する。
【0032】
(フィルム製造工程)
フィルム製造工程では、熱可塑性液晶ポリマーを成形して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムが製造される。熱可塑性液晶ポリマーから熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造するフィルム製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。すなわち、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法としては、インフレーション法やTダイ法等の押出成形法、キャスト法、カレンダー法等を挙げることができる。これらの中では、Tダイ法が最も汎用的である。Tダイ法で成形した場合には、Tダイを通過するときにシェアがかかり、分子が配向して、異方性が発現し易い。
【0033】
そこで、本発明者らは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの異方性を低減させるための方法について検討を加えた。前記したように、熱可塑性液晶ポリマーは、いったん成形された後に、再度融点以上に加熱して溶融させることによって、成形時に形成された分子の配向がくずれて、異方性が緩和される。その異方性が緩和された状態で固定することにより、異方性が低減した熱可塑性液晶ポリマーフィルムとすることができる。本発明者らは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを所定の加圧下で、融点以上に加熱して再溶融した後、所定の冷却速度で急冷して、異方性が緩和された状態で固定させることによって、異方性が改善された熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得ることに成功した。
【0034】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面を2枚の支持体シートと接触させた状態で、熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であって、融点より70℃高い温度以下に加熱して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを溶融する工程である。熱可塑性液晶ポリマーフィルム自体の温度や加熱速度は、2枚の支持体シートの間に熱電対を挟み込み、それをフィルムと共に2枚のエンドレスベルト3の間に通して測定した。熱可塑性液晶ポリマーフィルムを融点以上に加熱溶融させることによって、高分子の絡み合いを解いて、分子の配向をくずし、異方性を緩和させることができる。そのため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱温度は、熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であることが必要である。一方、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱温度が熱可塑性液晶ポリマーの融点より70℃高い温度を超えてしまうと、ポリマーが熱によって劣化するため、好ましくない。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱温度は、より好ましくは、熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であって、融点より50℃高い温度以下である。
【0035】
加熱溶融工程において、熱可塑性液晶ポリマーの融点以上であって、融点より70℃高い温度以下に加熱する時間は、1~900秒が好ましく、5~600秒がより好ましい。また、加熱溶融工程における加熱は、熱可塑性液晶ポリマーの両面から均等に加熱されることが好ましい。
【0036】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融した熱可塑性液晶ポリマーフィルムを冷却速度3~7℃/secで、熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却する工程である。熱可塑性液晶ポリマーフィルム自体の温度や冷却速度は、2枚の支持体シートの間に熱電対を挟み込み、それをフィルムと共に2枚のエンドレスベルト3の間に通して測定した。加熱溶融工程で融点以上に加熱された熱可塑性液晶ポリマーフィルムを冷却速度3~7℃/secで急冷することによって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、異方性が緩和された状態で固定される。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの冷却速度が3℃/sec未満であると、ポリマーの変動が生じて、外観不良が発生するおそれがある。外観不良を防止するためには、十分な冷却が必要であり、冷却速度が3℃/sec未満の場合、ライン速度を下げるかライン長を長くする必要があり、前者では生産性が下がり、後者では製造機のコストアップになるため好ましくない。一方、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの冷却速度が7℃/secを超えると、急冷により成形ひずみが残った状態となり、面配向度や線膨張係数の異方性が増大するおそれがある。また、冷却工程における冷却は、熱可塑性液晶ポリマーの両面から均等に冷却することが、反り等の欠点が生じ難くなり、好ましい。
【0037】
冷却工程において、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却されることが必要である。冷却温度として、熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却されることによって、熱可塑性液晶ポリマーフィルム内の緩和された異方性の状態が固定され、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの形態が安定化する。冷却温度が、結晶化温度以上であると、熱可塑性液晶ポリマーが固化する前に圧力が開放されるため、熱可塑性液晶ポリマーが自由変形して、外観不良が生じるおそれがある。一方、結晶化温度より70℃低い温度以下まで急冷すると、成形ひずみが大きくなり、加熱寸法変化が大きくなってしまうおそれがある。
【0038】
加熱溶融工程および冷却工程は、2枚のエンドレスベルト3の間に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび支持体シートを挟んだ状態で行なうことが好ましい。また、加熱溶融工程および冷却工程は、加圧下で行なうことが好ましい。加熱溶融工程および冷却工程を加圧下で行なうと、処理中に熱可塑性液晶ポリマーフィルムが変形することを抑えることができ、熱履歴のばらつきを平準化して、波打ちや縦縞模様等の外観不良が発生することを抑制することができる。加熱溶融工程および冷却工程におけるプレス圧力は、1~7MPaが好ましく、1~3MPaがより好ましい。
【0039】
(剥離工程)
剥離工程は、冷却した熱可塑性液晶ポリマーフィルムを支持体シートから剥離する工程である。熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度以下に冷却されているため、形態的に安定しており、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを支持体シートから剥離することができる。
【0040】
図1の液圧式ダブルベルトプレス方式の製造装置20を用いて、上記各工程を適切な条件で行うことによって、面配向度や線膨張係数における異方性に優れ、外観に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを連続的に得ることができる。このとき、製造装置20のライン速度としては、本発明の加熱、冷却温度条件と冷却速度を満たすように適宜変更できるが、経済的には0.1~10m/minが好ましく、0.7~10m/minがより好ましい。
【0041】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルム]
上記の本実施形態の製造方法を用いて製造することによって、面配向度や線膨張係数における異方性に優れ、外観不良の少ない熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得ることができる。上記の本実施形態の製造方法で得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの特性について以下に説明する。
【0042】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、厚みが100~500μmであり、200~400μmであることがより好ましい。
【0043】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、面内の異方性の尺度として、面配向度が65%未満である。面配向度は、広角X線回折装置を用いて、X線をフィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式で算出される。
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
面配向度(%)は、60%未満であることがより好ましい。
【0044】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、面内および厚み方向の異方性の尺度として、23~200℃における平均線膨張係数が、MD方向で20~60ppm/K、TD方向で40~90ppm/K、厚み方向で0~300ppm/Kである。ここで、平均線膨張係数は、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される。23~200℃における平均線膨張係数は、MD方向で30~50ppm/K、TD方向で50~80ppm/K、厚み方向で0~140ppm/Kであることがより好ましい。ここで、MD方向とはフィルム面内における成形流れ方向(Machine Direction)であり、TD方向とはフィルム面内においてMD方向と垂直の方向である。
【0045】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、JIS K 7105法で計測されるフィルム面内の明度差△Lが0.5以下である。ここで、JIS K7105法で計測されるフィルム面内の明度差△Lとは、フィルム面内でランダムに10箇所を取り、明度Lを測定した際に、明度Lの最大値と最小値との差のことである。フィルム面内の明度差△Lは、フィルムの波打ちや縦縞模様等の外観不良の尺度として用いている。フィルム面内の明度差△Lは、0.3以下がより好ましい。
【0046】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの用途としては、電気・電子分野や車載部品分野において、高耐熱性のフレキシブルプリント基板、ソーラーパネル基板、高周波用配線基板等がある。特に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを基板として用いたフレキシブル銅張積層板に適性を有している。
【実施例
【0047】
以下に実施例と比較例を用いて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0048】
実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
(1)熱可塑性液晶ポリマーフィルム
熱可塑性液晶ポリマーフィルム:上野製薬社製、品番A-5000、融点280℃、結晶化温度230℃、厚み100、250、500μm
(2)支持体シート
離型処理を施したポリイミドフィルム:東レ・デュポン社製、品番200EN、厚み50μm
【0049】
(実施例1~9、比較例1~6)
図1に示す製造装置20を用いて、上記市販の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面を2枚の支持体シートと接触させた状態で、表1に記載の種々の条件で、加熱溶融工程、冷却工程および剥離工程を行った。
得られた各熱可塑性液晶ポリマーフィルムについて、以下に記載の方法に従って、各種性能を評価した。評価結果を表1に示した。
【0050】
(明度差△L
JIS K7105に準拠して、フィルム面内でランダムに10箇所を取り、明度Lを測定し、明度Lの最大値と最小値との差を求めた。0.5以下のとき合格と判定した。
【0051】
(面配向度)
広角X線回折装置を用いて、X線を、フィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から下記式を用いて算出した。
面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
65%未満のとき、合格と判定した。
【0052】
(線膨張係数)
JIS K 7197に準拠して、TMA法によって、MD方向、TD方向、厚み方向における23~200℃の温度範囲での平均線膨張係数を求めた。
判定基準:MD方向の線膨張係数は20~60ppm/Kのとき合格と判定した。TD方向の線膨張係数は40~90ppm/Kのとき合格と判定した。厚み方向の線膨張係数は0~300ppm/Kのとき合格と判定した。
【0053】
(加熱寸法変化率)
JIS K 7133に準拠した方法によって、150℃において、MD方向およびTD方向における加熱寸法変化率を測定した。
判定基準:MD方向は、-0.10~0.30%のとき合格と判定した。TD方向は、0~0.50%のとき合格と判定した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の評価結果から、実施例1~9はいずれも、明度差、面配向度、線膨張係数、加熱寸法変化率において良好な性能を有していた。比較例1、比較例3、比較例5は、いずれも冷却温度が熱可塑性液晶ポリマーの結晶化温度よりも高く、冷却速度が3℃/sec未満であるため、明度差△Lが大きく、外観において劣るものであった。比較例2、比較例4、比較例6は、いずれも冷却速度が7℃/secを超えるため、面配向度が65%を超え、MD方向の線膨張係数が小さく、TD方向の線膨張係数が大きく、フィルム面内の異方性や加熱寸法変化率において劣るものであった。
【符号の説明】
【0056】
1、2 エンドレスベルトロール
3 エンドレスベルト
4 加圧ブロック
5 加熱ヒーターブロック
6 冷却ブロック
7 ガイドロール
11、12、13、14 ロール
15 コンベヤ装置
20 製造装置
図1