IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪有機化学工業株式会社の特許一覧

特許7330978硬化性樹脂組成物、並びに、重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート
<>
  • 特許-硬化性樹脂組成物、並びに、重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート 図1
  • 特許-硬化性樹脂組成物、並びに、重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、並びに、重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20230815BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20230815BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20230815BHJP
   C08F 299/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C08F220/18
C08F220/26
C08F220/36
C08F299/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020534656
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029772
(87)【国際公開番号】W WO2020027103
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2018144408
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】富盛 祐也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】松山 剛知
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 悠
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043371(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086213(WO,A1)
【文献】特開2015-059160(JP,A)
【文献】特開平11-292930(JP,A)
【文献】特開2017-145325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 - 220/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と、
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、
(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)と、
を含み、
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)の含有率が前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)の総量に対して、0.1~5mol%であり、且つ、
前記(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)の含有率が前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)の総量に対して、1~5mol%である、
硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)が、下記式(1)で示される、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)が、下記式(2)で示される、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【化2】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記イソシアネート系モノマー(C)が、イソシアネート基を保護する熱解離性基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記イソシアネート系モノマー(C)が、下記式(3-1)及び(3-2)から選ばれる少なくとも一種で示される化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【化3】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
【請求項6】
前記熱解離性基が下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基である、請求項4又は5に記載の硬化性樹脂組成物。
【化4】
【請求項7】
さらに、重合開始剤を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなり、重量平均分子量が70万以上300万以下である、重合体。
【請求項9】
請求項8に記載の重合体を反応させてなる(メタ)アクリル系エラストマー。
【請求項10】
前記重合体が、下記式(5)又は式(6)で示される請求項9に記載の(メタ)アクリル系エラストマー。
【化5】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す;X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;l1及びm1は各構成単位のモル比を示す。)
【化6】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す;X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;Y1は熱解離性基を示す;l2,m2及びn2は各構成単位のモル比を示す。)
【請求項11】
請求項8に記載の重合体、或いは、請求項9又は10に記載の(メタ)アクリル系エラストマーを含む、シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、並びに、重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びフレキシブルシートやストレッチャブルシートなどのシートに関する。詳細には、フレキシブルプリント回路基板などのFlexible Printed Circuitsや、回路基板及び配線板の保護フィルム等として好適に用いることのできるシート、並びに、当該シート等の作製に用いられる硬化性樹脂組成物、重合体、及び(メタ)アクリル系エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材に用いられるシートの需要が高まっている。例えば、電子製品の軽量化、小型化、高密度化に伴って、フレキシブルプリント回路基板又はフレキシブルプリント配線板などと呼ばれる、所謂Flexible Printed Circuits(以下、「FPC」と称することがある。)の注目も高まっている。FPCは、絶縁性フィルムをベースフィルム(基板ともいう)とし、接着層などを介して金属箔を貼り合わせたり、導電性インクやフィルムで形成されたパターンを形成するなどして形成される。このようなFPCには各種材料を用いた柔軟性を有する樹脂製のシートがベースフィルムとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、樹脂製のシートは、電子部材用基板の保護用途など種々の用途に適用可能であり、例えば、粘着テープや誘電体材料などにも用いられるなど、種々の用途に応じた開発がなされている(例えば、特許文献2及び3参照)。さらに、FPC用の樹脂フィルムも開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-145325号公報
【文献】特開2014-105325号公報
【文献】特開2017-132905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂製のフレキシブルシートがFPC用途や保護用途に用いられる場合、柔軟性に加えて伸縮性が求められており、低いヤング率を示す材料の開発が進められているが、特許文献1のシートは伸長・伸縮性の点で十分ではない。特に、樹脂製のシートがFPC用途や保護用途に用いられる場合には繰り返し屈曲させられることも多いため柔軟性のみならず、伸張・伸縮を繰り返した際の変化が小さい(以下、“低ヒステリシス”と称することがある)材料が求められている。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決すべく、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成した(メタ)アクリレート系エラストマーを作製可能な硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いた重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と、
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、
(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)と、
を含む、硬化性樹脂組成物。
<2> 前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)が、下記式(1)で示される、前記<1>に記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
<3> 前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)が、下記式(2)で示される、前記<1>又は<2>に記載の硬化性樹脂組成物。
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
<4> 前記イソシアネート系モノマー(C)が、イソシアネート基を保護する熱解離性基を有する、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<5> 前記イソシアネート系モノマー(C)が、下記式(3-1)及び(3-2)から選ばれる少なくとも一種で示される化合物である、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
<6> 前記熱解離性基が下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基である、前記<4>又は<5>に記載の硬化性樹脂組成物。
【化4】

<7> さらに、重合開始剤を含む、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<8> 前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなり、重量平均分子量が70万以上300万以下である、重合体。
<9> 前記<8>に記載の重合体を反応させてなる(メタ)アクリル系エラストマー。
<10> 前記重合体が、下記式(5)又は式(6)で示される前記<9>に記載の(メタ)アクリル系エラストマー。
【化5】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す;X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;l1及びm1は各構成単位のモル比を示す。)
【化6】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す;X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基を示す;Y1は熱解離性基を示す;l2,m2及びn2は各構成単位のモル比を示す。)
<11> 前記<8>に記載の重合体、或いは、前記<9>又は<10>に記載の(メタ)アクリル系エラストマーを含む、シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成した(メタ)アクリレート系エラストマーを作製可能な硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いた重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ヒステリシスロス及び残留歪を説明するためのグラフである。
図2】実施例3及び7、並びに、比較例2における測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《硬化性樹脂組成物》
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)〔以下、単に「モノマー(A)」と称することがある〕と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)〔以下、単に「モノマー(B)」と称することがある〕と、(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)〔以下、単に「モノマー(C)」と称することがある〕と、を含む。なお、本明細書を通じて、「アルキル(メタ)アクリレート」は、「アルキルアクリレート」又は「アルキルメタクリレート」を意味し、「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」は「ヒドロキシアルキルアクリレート」又は「ヒドロキシアルキルメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」又は「メタクリロイル」を意味する。また、特に限定がない限り、“アルキル基”と称した場合には、直鎖、分岐及び脂環構造のアルキル基が含まれる。
【0011】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、モノマー(A)~(C)を含むモノマー成分を重合させ、また、架橋構造を付与することで、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成した(メタ)アクリル系エラストマーを合成することができる。特に、本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いたシートは、ヒステリシスの増減が完全に分子量の増減と一致するものではなく、例えば、一定以上の分子量とすると逆にヒステリシスが低下するという特性を示す傾向がある。
本実施形態においては、硬化性樹脂組成物の重合体であって、架橋構造が付与される前の状態を「本実施形態の重合体」と称する(以下、単に「重合体」と称することがある)。また、特にその製法が限定されるものではないが、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、まず、硬化性樹脂組成物を重合させて重合体を合成し、さらに光又は熱を付与して当該重合体に架橋構造を付与することで作製することができる。
加えて、後述する実施例に示すように、本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いた重合体は、溶媒に対する溶解性が高い傾向にある。
【0012】
〈アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)〉
本実施形態において、「アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)」は、(メタ)アクリロイル基を一つ有するモノマーであり、後述の本実施形態におけるモノマー(B)及びモノマー(C)と区別される。
本実施形態におけるモノマー(A)は、例えば、下記式(1)で表わされる化合物を用いることができる。
【0013】
【化7】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
【0014】
式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマーにおいて、R1は、水素原子又はメチル基である。R1のなかでは、重合のさせやすさやヤング率の低い(メタ)アクリル系エラストマーを得る観点から水素原子が好ましい。
【0015】
式(1)で表わされる化合物において、R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基又は水酸基を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基である。
【0016】
直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0017】
アルキル基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は、当該アルキル基の炭素数などによって異なるので一概には決定することができないことから、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0018】
ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロn-プロピル基、トリフルオロイソプロピル基、トリフルオロn-ブチル基、トリフルオロイソブチル基、トリフルオロtert-ブチル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0019】
エーテル結合を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メトキシエチルアクリレートなどの直鎖状のアルキル基や、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなどの環状エーテルを有するアルキル基などが挙げられる。環状エーテルを有するアルキル基としては以下のものが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0020】
【化8】
【0021】
直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシブチル基などの炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキル基を有するアルコキシアルキル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0022】
2のなかでは、低ヤング率や溶媒への高溶解性の観点から、メチル基、エチル基、シクロヘキシル、テトラヒドロフラン又はジオキソランが好ましく、メチル基及びエチル基がさらに好ましい。
【0023】
式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、メチルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノナノール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数1~10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマー;2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2がハロゲン原子を有する炭素数1~10のアルキル基であるアルキルア(メタ)クリレートモノマー;(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2がエーテル結合を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、などの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数2~12のアルコキシアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
これらの中でも、本実施形態におけるアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクレートが好ましく、メチルアクリレート及びエチルアクリレートがさらに好ましい。
これらアルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
〈ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)〉
本実施形態において、「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)」は、(メタ)アクリロイル基を一つと、水酸基を少なくとも一つ有するモノマーである。
本実施形態におけるモノマー(B)は、例えば、下記式(2)で表わされる化合物を用いることができる。
【0025】
【化9】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;Zは、O、NH、又はSを示す;X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
【0026】
式(2)で表わされるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーにおいて、R1は、水素原子又はメチル基である。R1のなかでは、低ヤング率や溶媒への高溶解性の観点から2-ヒドロキシエチルアクリレートや4-ヒドロキシブチルアクリレートが好ましい。
【0027】
式(2)で表わされる化合物において、Zは、-O-、-NH-、又は-S-を示す。Zのなかでは、溶媒への高溶解性の観点から-O-が好ましい。
【0028】
式(2)で表わされる化合物において、X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基である。式(2)においては、これらX1が少なくとも1以上の水酸基を有する。
式(2)で表されるaは1以上の整数であり、特に限定はないが、低ヤング率や溶媒への高溶解性の観点から、1~3が好ましく、1又は2が好ましい。
【0029】
1における、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基;、ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基;及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルコキシアルキル基については、式(1)におけるR2で例示されたものと同様の基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラ基等が挙げられる。また、水酸基を一つ有するX1としては、例えば、下記のような直鎖状アルキル基、環状アルキル基又はアリール基が挙げられる。
【0030】
【化10】
【0031】
式(2)で表わされるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、特に限定されるものはではないが、破断応力向上の観点から、以下の化合物を挙げることができる。また、下記化合物の他水酸基を2つ以上有するグリセリンモノメタクリレートなども用いることができる。これらヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
【化11】
【0033】
〈(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)〉
本実施形態において、「(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)」は、(メタ)アクリロイル基を一つ有するイソシアネート系モノマーである。
本実施形態におけるモノマー(C)は、イソシアネート基を保護する保護基を有していてもよい。保護基を有するモノマー(C)は、保護基が解離すると、解離された部位にイソシアネート基が形成される。保護基としては、熱を加えることによって解離する熱解離性基が挙げられる。本実施形態におけるモノマー(C)は、例えば、下記式(3-1)又は式(3-2)で表わされる化合物を用いることができる。
【0034】
【化12】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキレン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
【0035】
式(3-1)又は式(3-2)で表わされるモノマー(C)において、R1は、水素原子又はメチル基である。R1のなかでは、破断応力向上の観点からメチル基が好ましい。
【0036】
式(3-1)又は式(3-2)で表わされるモノマー(C)において、X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキレン基を示す。
【0037】
炭素数1~10の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、sec-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソアミレン基、n-ヘキシレン基、イソヘキシレン基、シクロヘキシレン基、n-オクチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
水酸基を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシn-プロピレン基、ヒドロキシイソプロピレン基、ヒドロキシn-ブチレン基、ヒドロキシイソブチレン基、ヒドロキシtert-ブチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
アルキレン基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は、当該アルキル基の炭素数などによって異なるので一概には決定することができないことから、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0040】
ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、トリフルオロメチレン基、トリフルオロエチレン基、トリフルオロn-プロピレン基、トリフルオロイソプロピレン基、トリフルオロn-ブチレン基、トリフルオロイソブチレン基、トリフルオロtert-ブチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0041】
炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基としては、例えば、メトキシエチレン基、エトキシエチレン基、メトキシブチレン基などの炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキレン基を有するアルコキシアルキレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0042】
水酸基を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシメトキシエチレン基、ヒドロキシエトキシエチレン基、ヒドロキシメトキシブチレン基などの炭素数1~6のヒドロキシアルコキレン基及び炭素数1~6のアルキレン基を有するアルコキシアルキレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0043】
式(3-2)で表わされる化合物において、Y1は熱解離性基を示す。式(3-2)の末端部(-NH-CO-Y1)からY1が解離すると、当該部位にイソシアネート基(-N=C=O)が形成される。熱解離性基の解離温度は、特に限定はないが、これらモノマーの重合時の熱ではイソシアネート基から解離せず、また、重合体形成後の当該重合体に対する熱負荷を低減する観点から、80~250℃が好ましく、100~230℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。加熱時間は10分~2時間が好ましい。このような熱解離性基としては、例えば、下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基が挙げられる。
【0044】
【化13】
【0045】
式(3-1)又は式(3-2)で表わされるモノマー(C)としては、例えば、特に限定されるものはではないが、製造の容易さや入手性の観点から、以下の化合物を挙げることができ、その中でもモノマー(C)としては、(1)又は(3)の化合物が好ましい。これらモノマー(C)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
【化14】
【0047】
〈硬化性樹脂組成物〉
本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーは、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成できる。また、硬化性樹脂組成物を重合させた本実施形態の重合体は、溶媒に対して優れた溶解性を発揮する傾向にある。
【0048】
硬化性樹脂組成物中のモノマー(A)の含有率は、特に限定はないが、低ヤング率や溶媒への高溶解性の観点から、全固形分に対して、30~99質量%が好ましく、60~99質量%がさらに好ましく、90~99質量%が特に好ましい。
【0049】
硬化性樹脂組成物中のモノマー(B)の含有率は、特に限定はないが、得られるエラストマーの耐溶剤性や溶媒への高溶解性の観点から、モノマー(A)の総量に対して、好ましくは0.1~10mol%、1~5mol%がさらに好ましく、1~3mol%が特に好ましい。
【0050】
硬化性樹脂組成物中のモノマー(C)の含有率は、特に限定はないが、得られるエラストマーの耐溶剤性の観点から、モノマー(A)の総量に対して、好ましくは0.1~20mol%、1~10mol%がさらに好ましく、1~5mol%が特に好ましい。
【0051】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述のアルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)、ヒドロキシ(メタ)アルキルアクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート系モノマー(C)(以下、これらを総じて「本実施形態におけるモノマー成分」と称することがある)を含んでいればよいが、所望に応じて、他の成分を含んでいてもよい。
【0052】
(重合開始剤)
硬化性樹脂組成物は、本実施形態におけるモノマー成分を重合させるために重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤のなかでは、(メタ)アクリル系エラストマーに熱履歴を残さないようにする観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0053】
-光重合開始剤-
光重合開始剤は、各種の活性光線、例えば紫外線等により活性化され、重合を開始する化合物である。光重合開始剤としては、例えば、ラジカル光重合開始剤、カチオン光重合開始剤、アニオン光重合開始剤が挙げられる。これら光重合開始剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ラジカル光重合開始剤を2種以上併用することができる。
【0054】
ラジカル光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュアTPO、BASF製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュア819、BASF製;製品名:イルガキュア819DW、BASF製)
【0055】
α-ヒドロキシケトン系化合物:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(製品名:イルガキュア184、BASF製)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア1173、BASF製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア2959、BASF製)、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア127、BASF製)
【0056】
分子内水素引抜系化合物:フェニル グリオキシリック アシッド メチル エステル(製品名:イルガキュアMBF、BASF製)
チタノセン化合物系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニルチタニウム〕(製品名:イルガキュア784、BASF製)
ベンジルケタール系化合物:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(製品名:イルガキュア651、BASF製)
【0057】
α-アミノケトン系化合物:2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン(製品名:イルガキュア907、BASF製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(製品名:イルガキュア369、BASF製)、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(製品名:イルガキュア379EG、BASF製)
【0058】
オキシムエステル系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](製品名:イルガキュアOXE-01、BASF製)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(例えば、製品名:イルガキュアOXE-02、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-03、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-04、BASF製;製品名:N-1919、ADEKA製;製品名:N-1414、ADEKA製)などを用いることができる。
【0059】
他のラジカル光重合開始剤としては、例えば、キノン類化合物(例えば、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン);芳香族ケトン類(例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイン);ベンゾインエーテル類化合物(例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル);アクリジン化合物化合物(例えば、9-フェニルアクリジン(製品名:N-1717、ADEKA製));トリアジン類化合物(例えば、2,4-トリクロロメチル-(4”-メトキシフェニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシナフチル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(ピペロニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシスチリル)-6-トリアジン2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)などが挙げられる。
【0060】
カチオン光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
ヨードニウム塩系化合物:ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(製品名:イルガキュア250:BASF製)
【0061】
ジアゾニウム塩系化合物:4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、
スルホニウム塩系化合物:ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルフォニウム テトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート(製品名:イルガキュア290:BASF製)、トリアリールスルフォニウム ヘキサフルオロフォスフェート(例えば、製品名:イルガキュア270、BASF製;製品名:CPI300、三洋化成工業製;製品名:CPI400、三洋化成工業製)、
フェロセニウム塩系化合物
【0062】
アニオン光重合開始剤としては、例えば、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンなどが挙げられる。
【0063】
また、光重合開始剤と併せて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、例えば、アミン類としてエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEDB:BASF製)、2-エチルへキシル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEHA:BASF製)、ケト化合物としてベンゾフェノン類、チオキサントン類、ケト-クマリン類、アントラキノン類(アントラキュアー UVS-581:川崎化成工業製)を用いてもよい。
【0064】
-熱重合開始剤-
熱重合開始剤としては、例えば、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
重合開始剤の量は、当該重合開始剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0066】
(連鎖移動剤)
硬化性樹脂組成物は本実施形態におけるモノマー成分を重合させる際に、得られる(メタ)アクリル系エラストマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのチオール基を有する化合物;次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩、トルエンやシクロペンタノンなどの有機溶媒などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の量は、当該連鎖移動剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~100質量部程度であることが好ましい。
【0067】
(他のモノマー)
硬化性樹脂組成物は、所望の特性に応じて、本実施形態におけるモノマー成分以外のモノマー成分を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)以外のカルボン酸アルキルエステル系モノマー、アミド基含有モノマー、アリール基含有モノマー、スチレン系モノマー、窒素原子含有モノマー、脂肪酸ビニルエステル系モノマー、ベタインモノマーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
《重合体、及び、(メタ)アクリル系エラストマー》
上述のように、硬化性樹脂組成物を重合させてなる本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成できる。本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、後述するように、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる各モノマーを重合させて本実施形態の重合体を得る第1の重合工程と、本実施形態の前記重合体同士を重合(架橋)させる第2の重合工程とによって得られる。第1の重合工程と第2の重合工程とのそれぞれは、各工程の中で多段階であってもよい。以下の重合に関する記載は、特に記載しない限り、第1の重合工程と第2の重合工程とのいずれの工程においても共通する。
【0069】
上述の本実施形態における硬化性樹脂組成物を重合させた本実施形態の重合体は、溶媒に対する溶解性に優れる。本実施形態の重合体を溶解可能な溶媒は特に限定はないが、例えば、ベンゼン系溶媒(例えば、トルエン、キシレン等)、ケトン系溶媒(例えば、シクロペンタノン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸へキシル、酢酸ブチル、カルビトールアセテート等)等が挙げられる。本実施形態の重合体は、これら溶媒に対する溶解性に優れるため、一定値以下の厚みを有するシートを作製すること(薄膜化)が可能などフィルム厚に対する自由度が高く、フィルム形成性に優れる。
【0070】
本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、70万以上300万以下であることが好ましい。具体的に、成膜性、並びに、機械物性(低ヤング率、低ヒステリシス)の観点から、70万以上であることが好ましく、100万以上であることがさらに好ましい。また、溶媒に対する溶解性の観点から、300万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル系エラストマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min〕を用いてポリスチレン換算で測定することができる。
【0071】
本実施形態の重合体のガラス転移温度(は、特に限定はないが、低ヤング率の観点から、50℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。
【0072】
硬化性樹脂組成物を重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、高分子量化の観点から、塊状重合法及び乳化重合法が好ましく、塊状重合法がより好ましい。塊状重合法によって本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーを重合させた場合には、合成の際に分散剤や溶媒などを用いる必要がないため、本実施形態の重合体を合成した系から分散剤や溶媒などを除去する必要がないため、生産性に優れる。
【0073】
硬化性樹脂組成物を溶液重合法によって重合させる際には、溶媒が用いられる。溶媒のなかでは、非水系有機溶媒が好ましい。非水系有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、トルエン、流動パラフィンなどの炭化水素系有機溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系有機溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩化物系有機溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の量は、当該溶媒の種類によって異なるので一概には限定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、100~1000質量部程度であることが好ましい。
【0074】
硬化性樹脂組成物を重合させる際の雰囲気は、特に限定がなく、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0075】
硬化性樹脂組成物を重合させる際の温度は、特に限定がなく、通常、5~100℃程度の温度であることが好ましい。モノマー成分を重合させるのに要する時間は、重合条件によって異なるので一概には決定することができないことから任意であるが、通常、10分間~20時間程度である。
【0076】
重合反応は、残存しているモノマー成分の量が20質量%以下になった時点で、任意に終了することができる。なお、残存しているモノマー成分の量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0077】
なお、本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いる場合、使用するモノマー(C)の種類に応じて重合方法を変更することができる。具体的には、モノマー(C)として、イソシアネート基に熱解離性基を有さないものを用いる場合と、熱解離性基を有するものを用いる場合とで、光重合法(PC)と熱重合法(TC)とを使い分けることができる。
【0078】
(イソシアネート基に熱解離性基を有さないモノマー(C)を用いた合成方法)
イソシアネート基に熱解離性基を有さないモノマー(C)を用いた場合、例えば、以下のPC工程(1)~(3)を含む製造方法にて、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーを合成することができる。
なお、以下においては、第1の重合体及び第2の重合体と本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーとを区別して説明しているが、当該説明は、第1及び第2の重合体が、弾性体(エラストマー)としての性質を有することを否定するものではない。
【0079】
PC工程(1):モノマー(A)とモノマー(B)とを重合させて第1の重合体を合成し、さらに当該重合体を溶媒に溶解し、樹脂溶液を得る工程
PC工程(2):得られた前記樹脂溶液に、モノマー(C)と触媒とを添加し、加熱して第2の重合体を得る工程
PC工程(3):得られた第2の重合体に光照射して反応させる工程
【0080】
PC工程(1)とPC工程(2)とは、上述の第1の重合工程に相当し、PC工程(3)は、上述の第2の重合工程に相当する。すなわち、PC工程(1)とPC工程(2)とによって本実施形態の重合体(第2の重合体)が得られ、PC工程(3)によって、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーが得られる。
【0081】
PC工程(1)はモノマー(A)とモノマー(B)とを重合させることを目的とする工程である。PC工程(1)では、例えば、下記のように第1の重合体を得ることができる。第1の重合体の合成方法は特に限定はないが、例えば、上述の塊状重合法を用いることができる。この際、モノマー(A)とモノマー(B)とに加えて、上述の重合開始剤や連鎖移動剤などを用いてもよい。第1の重合体の塊状重合の条件は、特に限定はないが、上述の好ましい分子量の範囲のものを得る観点、低ヒステリシス化の観点から、紫外線照射量10mW/cm2以下が好ましく、1mW/cm2以下がより好ましく、0.5mW/cm2以下がさらに好ましい。また、重合性の観点から0.01mW/cm2以上が好ましい。
【0082】
【化15】
【0083】
PC工程(1)においては第1の重合体を溶媒に溶解し樹脂溶液とする。第1の重合体を樹脂溶液とする目的は、主として、第1の重合体にモノマー(C)を(脱水)縮合させるため、及び、得られる(メタ)アクリル系エラストマーのフィルム化である。第1の重合体を溶解する溶媒としては特に限定はないが、例えば、ベンゼン系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等を用いることができ、具体的には、トルエン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、カルビトールアセテート等を挙げることができる。
【0084】
つぎに、PC工程(2)は、モノマー(A)とモノマー(B)との重合物である第1の重合体にモノマー(C)を導入して第2の重合体を合成する工程である。第2の重合体は、本実施形態の重合体に該当する。PC工程(2)においてモノマー(C)とともに用いられる触媒は、主として、PC工程(1)で合成された第1の重合体に添加したモノマー(C)を(脱水)縮合させることを目的として添加される。PC工程(2)においては、第1の重合体の(ポリマー(B)由来の)ヒドロキシアルキルアクリロイル基とポリマー(C)のイソシアネート基との縮合反応によって、第1のポリマーにモノマー(C)が導入される。第1の重合体とモノマー(C)との縮合反応に用いることのできる触媒であれば特に限定はないが、例えば、錫触媒などを用いることができる。
【0085】
PC工程(2)において第1の重合体及びモノマー(C)の反応における反応条件は特に限定はないが、モノマー(C)同士の反応を防ぐ観点とモノマー(C)と第1の重合体を反応させる点から、加熱温度は40~100℃が好ましく、60~80℃がさらに好ましく;加熱時間は1~12時間が好ましく、4~8時間がさらに好ましい。加熱温度を40℃以上、加熱時間を1時間以上とすることで、モノマーCと第1の重合体を十分に反応させることができる。また、加熱温度を100℃以下、加熱時間を12時間以下とすることで、モノマー(C)同士が反応することを防ぐことができる。モノマー(C)同士が反応すると、モノマー(C)の2量体を形成し、第1の重合体とモノマー(C)とが反応しなくなる場合がある。
【0086】
PC工程(3)は、第2の重合体をさらに光照射によって反応させることで(メタ)アクリル系エラストマーとする工程である。下記に示すように式(5)で表される第2の重合体(本実施形態における重合体)は、モノマー(C)由来のアクリロイル基を有している。PC工程(3)において、第2の重合体に光を照射することによって、これら各重合体のアクリロイル基同士を結合させることができ、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーを得ることができる。すなわち、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、下記式(5)で示される重合体(本実施形態における重合体)を反応させて得ることができる。PC工程(3)における光照射条件は、特に限定はないが、紫外線などを用いることができ、各重合体のアクリロイル基同士を確実に結合させる観点と必要十分な照射量の観点から、紫外線照射量が10~100mW/cm2×10パスであることが好まし
く、50~100mW/cm2×10パスがさらに好ましい。特に、紫外線照射量は90mW/cm2以上であることが好ましい。また、PC工程(3)においては、第2の重合体が含まれる溶液から必要に応じて溶媒を除去したり、また、必要に応じて光重合開始剤を添加することができる。PC工程(3)においては、光照射を行う前に、第2の重合体が含まれる溶液から溶媒を加熱乾燥等によって除去すること、及び、光重合開始剤を添加すること、の少なくともいずれかをおこなうことが好ましい。
【0087】
【化16】

(式(5)中、R1,R2,Z,X1及びX2は、それぞれ独立して前記式(1),(2)及び(3-1)と同様である;l1及びm1は各構成単位のモル比を示す。)
【0088】
(イソシアネート基に熱解離性基を有するモノマー(C)を用いた合成方法)
イソシアネート基に熱解離性基を有するモノマー(C)を用いた場合、例えば、以下のTC工程(1)~(2)を含む製造方法にて本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーを合成することができる。
なお、以下においては、重合体と本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーとを区別して説明しているが、当該説明は、下記重合体が、弾性体(エラストマー)としての性質を有することを否定するものではない。
【0089】
TC工程(1):モノマー(A)、モノマー(B)及びモノマー(C)を重合させて重合体を合成し、さらに当該重合体を溶媒に溶解し、樹脂溶液を得る工程
TC工程(2):得られた前記樹脂溶液を加熱して反応させる工程
【0090】
TC工程(1)は、上述の第1の重合工程に相当し、TC工程(2)は、上述の第2の重合工程に相当する。すなわち、TC工程(1)によって本実施形態の重合体が得られ、TC工程(2)によって、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーが得られる。
【0091】
TC工程(1)はモノマー(A)~(C)を重合させることを目的とする工程である。TC工程(1)では、例えば、下記のように式(6)で示される重合体(本実施形態の重合体)を得ることができる。重合体の合成方法は特に限定はないが、例えば、上述の塊状重合法を用いることができる。この際、各モノマーに加えて、上述の重合開始剤や連鎖移動剤などを用いてもよい。また、重合体の塊状重合の条件は、特に限定はないが、上述の好ましい分子量の範囲のものを得る観点、低ヒステリシス化の観点から、紫外線照射量10mW/cm2以下が好ましく、1mW/cm2以下がより好ましく、0.5mW/cm2以下がさらに好ましい。また、重合性の観点から0.01mW/cm2以上が好ましい。
【0092】
【化17】

(式(6)中、R1,R2,Z,X1,X2及びY1は、それぞれ独立して前記式(1),(2)及び(3-2)と同様である;l2,m2及びn2は各構成単位のモル比を示す。)
【0093】
TC工程(1)においては重合体を溶媒に溶解し樹脂溶液とする。重合体を樹脂溶液とする目的は、主として、得られる(メタ)アクリル系エラストマーのフィルム化である。重合体(本実施形態における重合体)を溶解する溶媒としては特に限定はないが、例えば、ベンゼン系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等を用いることができ、具体的には、トルエン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、カルビトールアセテート等を挙げることができる。
【0094】
TC工程(2)は、樹脂溶液を加熱し、重合体をさらに熱によって反応させることで(メタ)アクリル系エラストマーとする工程である。上述のように式(6)で表される重合体(本実施形態における重合体)は、モノマー(B)由来のヒドロキシアルキルアクリロイル基と、モノマー(C)由来の熱解離性基を有している。また、下記に示すように、モノマー(C)の熱解離性基は、重合体を一定以上の温度に加熱すると解離する。重合体の熱解離性基が解離した部位は、イソシアネート基となる。TC工程(2)においては樹脂溶液を加熱する際、必要に応じて樹脂溶液に触媒を添加することができる。TC工程(2)において添加される触媒は、主として、ヒドロアルキルアクリロイル基とイソシアネート基との(脱水)縮合させることを目的として添加される。TC工程(2)において、重合体が加熱されると、熱解離性基が解離しイソシアネート基が生成される。続いて当該重合体を加熱すると、各重合体のヒドロキシアルキルアクリロイル基とイソシアネート基とを結合させることができ、これにより本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーを得ることができる。すなわち、本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、下記式(6)で示される重合体を反応させて得ることができる。TC工程(2)においては、意図的に、または必然的に、熱による反応と同時に溶媒が除去される場合がある。
【0095】
【化18】
【0096】
TC工程(2)における加熱は、特に限定はないが、二段階で行うことができる。具体的には、一段目の加熱によって重合体を含む溶液から溶媒を除去し、引き続き熱解離性基が解離する温度にまで重合体を加熱することでヒドロキシアルキルアクリロイル基とイソシアネート基と(脱水)縮合反応を進行させることができる。このように2段で加熱処理を施すことで形成されるフィルム内の物性及びフィルム形状の均一性を向上させることができる。
【0097】
TC工程(2)における加熱条件は、特に限定はないが、一段目の加熱条件としては、加熱温度の下限は溶液から溶媒を除去できる温度、すなわち用いた溶媒を沸点にできる温度、代表的には用いた溶媒の沸点を超える温度が好ましい。加熱温度の上限は、熱解離性基が解離しない温度とすればよく、一例としては、150℃以下、120℃以下である。同様に、加熱時間は溶媒の除去と熱解離性基の解離とを防ぐ観点から設定すればよく、一例として10分間~1時間が挙げられる。また、二段目の加熱条件としては、モノマー(C)の熱解離性基の解離温度にもよるが、加熱温度は80~250℃が好ましく、100~230℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。加熱時間は10分~2時間が好ましい。
【0098】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーの幅や厚み、長さなどの形状は特に限定されるものではない。
【0099】
《シート》
本実施形態のシートは、硬化性樹脂組成物を重合させて得ることができる。本実施形態においては、例えば、(メタ)アクリル系エラストマーを合成する際に、エラストマーとなる前の重合体の状態(即ち、本実施形態の重合体)にて溶媒に溶解させることができる。このため、本実施形態のシートは、所望の機械特性を維持しながら薄膜化が可能である。
いわば、本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーにおいて、一定以下の厚みを有する幅広のものが本実施形態のシートであるといえる。本実施形態のシートは、柔軟性や伸張・伸縮性に優れるため、フレキシブルシート、又はストレッチャブルシートとして好適に用いることができる。
【0100】
本実施形態のシートの厚さは、特に限定されないが、低ヤング率と低ヒステリシスとを両立させたシートを得る観点から、10μm~5mm程度であることが好ましく、500μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。また、本実施形態のシートは、所定値以下の薄さを達成しながら機械特性に優れ、例えば、100μm程度の薄さを達成しながら破断応力を0.5MPa以上とすることができる。
【0101】
本実施形態のシートは、用途によっては、そのままの状態で用いることができるが、強靭性を付与する観点から、一軸延伸又は二軸延伸されていることが好ましく、二軸延伸されていることがより好ましい。前記フィルムの延伸倍率は、強靭性を付与する観点から、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、シートの厚さにもよるが、延伸時の破断を防止する観点から、好ましくは8倍以下、より好ましくは6倍以下、さらに好ましくは5倍以下である。なお、シートを延伸させる際には、必要により、加熱してもよい。
【0102】
本実施形態のシートは、その粘度を調製するために、他のポリマーを適量含有していてもよい。
【0103】
他のポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他のポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0104】
本実施形態のシートは、必要により、中和剤が含まれていてもよい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基性化合物;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、オクチルアミン、トリブチルアミン、アニリンなどの有機塩基性化合物などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中和剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0105】
本実施形態のシートには、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、熱伝導性フィラー、導電性フィラーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0106】
本実施形態のシートのヤング率、破断応力、ストレインは、例えば、引張測定器を用い後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
本実施形態のシートのヤング率は、5.00MPa以下程度であることが好ましく、1.0MPa以下がさらに好ましく、0.7MPa以下が特に好ましい。
本実施形態のシートの最大点応力は、靱性や取扱い性の観点から、0.5MPa以上であることが好ましい。
本実施形態のシートのストレインは、伸縮・伸張性の観点から200%以上が好ましい。
【0107】
本実施形態のシートのヒステリシスは後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的には、ヒステリシスは、シートの“残留歪"や“ヒステリシスロス”を測定し、これを一つの指標として評価できる。
本実施形態のシートの残留歪は、スムーズな伸張・伸縮によって保護対象等の曲げ伸ばしに良好に追従する観点から、1.3%以下であることが好ましく、1.15%以下がより好ましく、1.05%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0108】
本実施形態のシートは低ヤング率と、低ヒステリシスとをバランスよく発揮できることから、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、またはロボット材料等に好適に用いることができる。
【実施例
【0109】
次に、本実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本実施形態は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0110】
[実施例1]PC1
エチルアクリレート(モノマー(A))10.00g、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.116g(モノマー(B))、連鎖移動剤としてトルエン2.00g、及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.0125gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、第1の重合体を得た。得られた第1の重合体11.27gをトルエン20.10gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に下記モノマー(C-1)0.14g及び錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.019gを添加し、これを70℃の温度で2時間よく撹拌し第2の重合体を含む樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に重合開始剤としてIrgacureTPO 0.09gを加えて撹拌し、50℃の温度で1時間加熱し、重合開始剤及び溶媒を除去してフィルムを得た。得られたフィルムを窒素雰囲気下で、紫外線照射量92mW/cm2×10パスで硬化させ、(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0111】
【化19】
【0112】
[実施例2]PC2
エチルアクリレート(モノマー(A))10.00g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.116g、連鎖移動剤としてトルエン1.00g、及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.0125gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、第1の重合体を得た。得られた第1の重合体10.71gをトルエン38.02gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に前記モノマー(C-1)0.14g及び錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.019gを添加し、これを70℃の温度で2時間よく撹拌し第2の重合体を含む樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン〔BASF社製、商品名:Irgacure1173〕1.00gを加えて撹拌し、50℃の温度で1時間加熱し、重合開始剤及び溶媒を除去してフィルムを得た。得られたフィルムを窒素雰囲気下で、紫外線照射量92mW/cm2×10パスで硬化させ(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0113】
[実施例3]PC3
エチルアクリレート(モノマー(A))24.00g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.28g、及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.030gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。 得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、第1の重合体を得た。得られた第1の重合体100gをトルエン900gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に前記モノマー(C-1)1.42g及び錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.20gを添加し、これを70℃の温度で2時間よく撹拌し第2の重合体を含む樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン〔BASF社製、商品名:Irgacure1173〕1.00gを加えて撹拌し、を50℃の温度で1時間加熱し、重合開始剤及び溶媒を除去してフィルムを得た。得られたフィルムを窒素雰囲気下で、紫外線照射量92mW/cm2×10パスで硬化させ(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0114】
[実施例4]TC-1
エチルアクリレート(モノマー(A))20.02g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.23g、下記モノマー(C-2)0.49g、連鎖移動剤としてトルエン20.00g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.60gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、重合体を得た。得られた重合体19.73gをトルエン14.23gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.02gを添加し、よく撹拌した。これを50℃の温度で1時間加熱して溶媒を除去した後、180℃の温度で1時間加熱し(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0115】
【化20】
【0116】
[実施例5]TC-2
エチルアクリレート(モノマー(A))20.02g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.23g、前記モノマー(C-2)0.49g、連鎖移動剤としてトルエン4.00g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.60gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、重合体を得た。得られた重合体16.92gをトルエン30.58gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.029gを添加し、よく撹拌した。これを50℃の温度で1時間加熱して溶媒を除去した後、180℃の温度で1時間加熱し(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0117】
[実施例6]TC-3
エチルアクリレート(モノマー(A))20.02g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.23g、前記モノマー(C-2)0.49g、連鎖移動剤としてトルエン2.00g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.60gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、重合体を得た。得られた重合体21.90gをトルエン44.85gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.04gを添加し、よく撹拌した。これを50℃の温度で1時間加熱して溶媒を除去した後、180℃の温度で1時間加熱し(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0118】
[実施例7]TC-4
エチルアクリレート(モノマー(A))36.00g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(モノマー(B))0.42g、前記モノマー(C-2)0.87g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.04gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることにより、重合体を得た。得られた重合体100gをトルエン900gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.20gを添加し、よく撹拌した。これを50℃の温度で1時間加熱して溶媒を除去した後、180℃の温度で1時間加熱し(メタ)アクリル系エラストマー(フィルム)を得た。
【0119】
[比較例1]EA-HEA
エチルアクリレート(モノマー(A))36.00g、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.42g(モノマー(B))及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.04gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、(メタ)アクリル系エラストマーを得た。得られた(メタ)アクリル系エラストマー100gをトルエン900gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。これを50℃の温度で1時間加熱しフィルムを得た。
【0120】
[比較例2]EA
エチルアクリレート(モノマー(A))100g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.062gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、(メタ)アクリル系エラストマーを得た。得られた(メタ)アクリル系エラストマー100gをトルエン900gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。これを50℃の温度で1時間加熱しフィルムを得た。
【0121】
[比較例3]EA
エチルアクリレート(モノマー(A))100g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.031gを混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.16mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることにより、(メタ)アクリル系エラストマーを得た。得られた(メタ)アクリル系エラストマー100gをトルエン900gに溶解させようとしたが、溶解しなかった。
【0122】
[比較例4]EA-(C-2)
エチルアクリレート(モノマー(A))36.00g、前記モノマー(C-2)0.87g及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.04gを混合することによって、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、(メタ)アクリル系エラストマーを得た。得られた(メタ)アクリル系エラストマー100gをトルエン900gに溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.20gを添加し、よく撹拌した。これを50℃の温度で1時間加熱後、180℃の温度で1時間加熱しフィルムを得た。
【0123】
《評価》
以下に示す方法に従って、実施例及び比較例のフィルム(シート)の各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
[膜厚]
得られたエラストマーにつき、厚さ計(製品名:PG-20,株式会社 テクロック製)を用いて、フィルム厚を測定した。なお、測定は任意の部位について5回おこない、平均値をそのフィルムの厚みとした。
【0125】
[分子量及び分散度]
各実施例及び比較例中で得られた重合体(実施例1~3における第2の重合体、実施例4~7における重合体)、及び比較例1~4における(メタ)アクリル系エラストマーの重量平均分子量及び数平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.5mL/min〕を用いてポリスチレン換算で調べ、分子量分布を求めた。
【0126】
[溶媒に対する溶解性]
各実施例及び比較例中で得られた重合体(実施例1~3における第2の重合体、実施例4~7における重合体)、及び比較例1~4における(メタ)アクリル系エラストマーについて、樹脂濃度が10%になるように溶媒を添加し、55℃恒温槽で一晩放置し、自公転ミキサーで撹拌した。その後、均一に溶解したか否かを目視にて確認し下記基準にしたがって重合体(比較例のエラストマーを含む)の溶解性を評価した。なお、本評価は、シクロペンタノン及びトルエンの両方に対しておこなった。
〔基準〕
A:シクロペンタノン及びトルエンともに沈殿物などは確認されず重合体が均一に溶解されていた。
B:多少沈殿物が確認されたが、問題のない範囲だった。
C:シクロペンタノン及びトルエンのいずれか、又は、両溶媒に対し沈殿物などが確認された。
【0127】
[破断応力、ヤング率、ストレイン、ヒステリシスの測定]
JIS K6251の6.1に規定するダンベル状7号形に打ち抜くことにより、試験片を得た。得られた試験片を引張り試験機〔(株)エー・アンド・デイ製、品番:Tensilon RTG-1310〕のチャック間距離が17mmとなるように取り付け、50mm/minの引張り速度で試験片が破断するまで引張り荷重を加える操作を行ない、ヤング率及び伸びを測定した。なお、上述で得られたフィルムの伸びは、式:〔フィルムの伸び(%)〕=〔破断時の試験片の長さ(mm)-試験片の元の長さ(mm)〕÷〔試験片の元の長さ(mm)〕×100に基づいて求めた。
また、試料片破断時の応力(破断応力)、及び、ストレインを表1に示す。
【0128】
[ヒステリシスの測定]
ヒステリシスについて、その評価指標となるヒステリシスロス及び残留歪を導きだした。詳細には、上述の試験片及び引張試験機を用い、下記測定を行い、得られたグラフを用いて、ヒステリシスロス及び残留歪を算出した。
測定は、試験片に対し、100%伸びまで引張り荷重を加える操作(チャック間距離を34mmにする操作)と100%に達した試験片を0%まで戻す操作(34mmのチャック間距離を17mmまで戻す操作)(いずれも50mm/min)を1サイクルとして2サイクル行い、2サイクル目の測定結果のグラフからヒステリシスロス及び残留歪を算出した。
【0129】
図1を用いてヒステリシスロス及び残留歪の算出方法を詳細に説明する。図1は、ヒステリシスロス及び残留歪を説明するためのグラフである。
ヒステリシスロスは図1において点線(往路)と実線(復路)とに囲まれる領域についてその面積を算出した。ヒステリシスロスが小さいほど追従性が良いことを示す。
残留歪は、図1に記載のように、立ち上がり点(往路において加重0MPa時のstrain値の点)から最大荷重までの線分Aと及び戻り点(復路において加重0MPa時と同様のstress値を示す時のstrain値の点)から最大荷重までの線分Bとの差を用い、ひずみ(残留歪)=(A-B)から算出した。
参考として、実施例3及び7、並びに、比較例2について、実測した結果のグラフを図2に示す。図2は、実施例3及び7、並びに、比較例2における測定結果を示すグラフである。
【0130】
【表1】
【0131】
表1からわかるように、実施例のフィルム(シート)は比較例に比して、ヤング率が同等ながら、残留歪が低く、低ヤング率と低ヒステリシスとのバランスに優れていることがわかる。また、通常残留歪は分子量の上昇と共に上昇するが、実施例3、並びに実施例6及び7を参照すると、それぞれ実施例1及び2、並びに、実施例4及び5と比較して分子量が上昇しているにも関わらず残留歪が低下しており、低ヒステリシスが達成されていた。さらに実施例中で得られた本実施形態の重合体は全て溶媒に対する溶解性に優れていた。したがって、溶媒に対する溶解性に優れた本実施形態の重合体は、(メタ)アクリル系エラストマーや、これを含むフィルムを容易に製造できるといえる。
【0132】
2018年7月31日に出願された日本国特許出願2018-144408号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の(メタ)アクリル系エラストマーは、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、またはロボット材料等に好適に用いることができる。
図1
図2