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特許7330994治療用ナノ生物学的組成物による訓練免疫の促進
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】治療用ナノ生物学的組成物による訓練免疫の促進
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/69 20170101AFI20230815BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230815BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/22
A61K39/39
A61K45/00
A61P37/04
A61P35/00
A61P31/04
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020545063
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 US2018061935
(87)【国際公開番号】W WO2019103998
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】62/589,054
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516291619
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディスン アット マウント サイナイ
(73)【特許権者】
【識別番号】520172339
【氏名又は名称】スティヒティング カトリエク ユニバーシテイト
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モルダー,ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】オチャンド,ジョルディ
(72)【発明者】
【氏名】ファヤド,ザヒ
(72)【発明者】
【氏名】ネテア,ミハイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーステン,レオ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/154544(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/024312(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0045161(US,A1)
【文献】Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine,2016年,Vol.12,p.81-103
【文献】Curr. Treat. Options in Oncol.,2015年,Vol.16:26,p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 39/39
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練免疫を促進するためのナノ生物学的組成物であって、
(i)ナノスケール集合体を含み、(ii)前記ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬を有し、
前記ナノスケール集合体は、(a)リン脂質と(b)ヒトアポリポタンパク質A-I(apoA-I)と(c)コレステロールとを含む多成分担体組成物であり、
記促進薬は、リン脂質、脂肪族鎖またはステロールで誘導体化されたムラミルトリペプチド(MTP)、あるいはリン脂質、脂肪族鎖またはステロールで誘導体化されたムラミルジペプチド(MDP)、を含み
前記ナノ生物学的組成物は、約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアである、
ナノ生物学的組成物。
【請求項2】
前記促進薬は、リン脂質、脂肪族鎖またはステロールで誘導体化された、MTPである、請求項1に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項3】
前記促進薬は、リン脂質、脂肪族鎖またはステロールで誘導体化された、MDPである、請求項1に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項4】
前記MTPは、リン脂質で誘導体化されたものである、請求項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項5】
前記MDPは、リン脂質で誘導体化されたものである、請求項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項6】
前記促進薬は、ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミンである、請求項1に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項7】
リン脂質およびリゾ脂質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項8】
前記リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項9】
前記リン脂質はDMPCである、請求項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項10】
前記リゾ脂質は、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MHPC)、1-パルミトイル-2-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PHPC)、1-ステアロイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SHPC)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項11】
前記ナノ生物学的組成物は、疎水性マトリックスコアを含むナノスフェアであり、前記ナノスフェアは、約30nm~約150nmの直径である、請求項1~10のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項12】
前記疎水性マトリックスコアは、1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマー、ステロールエステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項13】
前記疎水性マトリックスコアは、1種以上のトリグリセリドを含む、請求項12に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項14】
前記トリグリセリドはトリカプリリンである、請求項13に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項15】
前記ナノ生物学的組成物は、約8nm~約35nmの直径を有するナノディスクである、請求項1~10のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項16】
前記ナノスケール集合体は、(a)1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)と(b)ヒトapoA-Iと(c)コレステロールとを含み、
前記促進薬は、ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミンである、
請求項1に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項17】
静脈内投与用に構成されている、請求項1~16のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項18】
ヒトへの投与用に構成されている、請求項1~17のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項19】
前記ナノスケール集合体は前記促進薬を骨髄系前駆細胞に送達し、前記細胞は骨髄に位置する、請求項1~18のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項20】
必要とする患者において癌または敗血症を治療するための、請求項1~19のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項21】
必要とする患者において腫瘍の寛解を促進するするための、請求項1~20のいずれか1項に記載のナノ生物学的組成物であって、
(1)前記患者は、化学療法、放射線療法、免疫療法、またはそれらの組み合わせを施され、
(2)前記患者は、前記ナノ生物学的組成物を投与される、
ナノ生物学的組成物。
【請求項22】
前記患者はチェックポイント阻害剤をさらに投与される、請求項21に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項23】
前記癌は、膀胱、血管、骨、脳、乳房、頸部、胸部、結腸、子宮内膜、食道、眼、頭部、腎臓、肝臓、リンパ節、肺、口、首、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、精巣、喉、甲状腺、尿路上皮または子宮の癌である、請求項20に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項24】
前記患者は、深刻な敗血症を有するか敗血症性ショック状態にある、請求項20に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項25】
前記患者は、肺、腹部、腎臓または血流の細菌、ウイルスもしくは真菌による感染に関連する敗血症を有する、請求項20に記載のナノ生物学的組成物。
【請求項26】
前記患者は、前記ナノ生物学的組成物との併用療法として抗癌剤を同時投与される、請求項20に記載のナノ生物学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年11月21日に出願された米国特許出願第62/589,054号の優先権を主張するものであり、その両方の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、国立衛生研究所により付与された認可番号R01 HL118440の下に政府支援でなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、治療用ナノ生物学的組成物ならびに骨髄、脾臓および血液中の骨髄性細胞およびそれらの前駆細胞および幹細胞の刺激のためにナノ生物学的組成物を用いることによって代謝およびエピジェネティック再配線によって引き起こされるサイトカイン排出の増加によって現れるような二次長期応答性亢進である訓練免疫を促進することによる癌または感染症を有する患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
癌に罹患している患者のための現在の治療は不十分な場合がある。癌を有する患者は、持続的であり、かつ一次治療それ自体よりも副作用について多くの問題を引き起こさない治療パラダイムを必要としている。
【0005】
現在の癌治療では、患者の新生細胞を根絶するために外科手術、化学療法、ホルモン療法および/または放射線治療が行われることがある(例えば、Stockdale,1998,Medicine,第3巻,RubensteinおよびFederman編,12章,IV節を参照)。最近では、癌治療において生物学的療法または免疫療法が行われることもある。これらの手法の全てが患者に多くの欠点を呈する。例えば外科手術は患者の健康上禁忌であったり、患者に容認され得なかったりする場合がある。
【0006】
さらに外科手術では新生物組織を完全に除去できない場合がある。放射線療法は新生物組織が正常組織よりも放射線に対して高い感受性を示す場合にのみ有効である。放射線療法は深刻な副作用を引き起こす場合も多い。ホルモン療法は単剤として与えられることは稀である。ホルモン療法が有効である可能性はあるが、他の治療により癌細胞の大部分を除去した後に癌の再発を防止したり遅らせたりするために使用されることが多い。生物学的療法および免疫療法は回数に限界があり、かつ発疹または腫れあるいはインフルエンザのような症状(熱、悪寒および疲労、消化管問題またはアレルギー反応など)などの副作用を引き起こす場合がある。
【0007】
化学療法に関しては、癌の治療のために利用可能な様々な化学療法剤が存在する。癌化学療法剤の大部分は、デオキシリボヌクレオチド三リン酸前駆体の生合成経路を阻害することによってDNA合成を直接または間接的に阻害して、DNA複製および同時に生じる細胞分裂を防止することで作用する。Gilmanら,GoodmanおよびGilmanの治療の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics),第10版(McGraw Hill社、ニューヨーク)。
【0008】
様々な化学療法剤の利用可能性にも関わらず、化学療法は多くの欠点を有する。Stockdale,Medicine,第3巻,RubensteinおよびFederman編,12章,10節,1998。ほぼ全ての化学療法剤は有毒であり、かつ化学療法は深刻な悪心、骨髄抑制および免疫抑制などの重大かつ多くの場合に危険な副作用を引き起こす。さらに、化学療法剤の組み合わせ投与を用いたとしても、多くの腫瘍細胞は化学療法剤に対して耐性があったり耐性を生じたりする。実際に、治療プロトコルで使用される特定の化学療法剤に耐性のある細胞は、他の薬物が特定の治療で使用される薬物の機序とは異なる機序によって作用する場合であっても、それらの薬剤に対しても耐性があることが判明する場合が多い。この現象は多剤(pleiotropic drug)または多剤(multidrug)耐性と呼ばれる。薬物耐性が原因で、多くの癌は標準的な化学療法治療プロトコルに対して抵抗性を有することが判明する。さらに、従来の治療法に付随する毒性および/または副作用を減少または回避しながら、癌ならびに不完全な訓練免疫によって引き起こされる他の疾患および病気、特に外科手術、放射線療法、化学療法およびホルモン療法などの標準治療に対して抵抗性を有する疾患を治療、予防および管理する安全かつ有効な方法の大きな必要性が存在する。
【0009】
ここ数十年の間に、本発明らの免疫系の知識により患者に大きな利点を与えるいくつかの有望な免疫療法的手法が生み出されている。今日の臨床的に関連する免疫療法は、サイトカインなどのエフェクター分子または適応免疫の細胞段階のいずれかに関わる。自己免疫および自己炎症性疾患では抗サイトカイン療法により生物活性サイトカインを上手く中和することができるが、癌患者において最も激しく使用される免疫療法はチェックポイント阻害剤の施用を含む。これらのチェックポイント阻害剤はT細胞のブレーキを解除し、それらが腫瘍細胞を排除するのを可能にする。細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)に特異的な抗体ならびにプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)およびそのリガンドPD-L1に対する抗体は臨床応用に関して最も進歩している。あるいは養子性T細胞治療法では、これらの細胞を患者から回収し、それらの数を培養で増やし、かつそれらを体内に再導入する。培養においてT細胞を遺伝子改変してそれらの腫瘍細胞への親和性を高めることもできる。樹状細胞治療法は多くの関心を得た別の治療法である。この治療法では、エクスビボまたはインビボのいずれかで樹状細胞に腫瘍特異的抗原を提示して腫瘍特異的T細胞応答を誘導する。
【0010】
上記免疫療法的手法は適応免疫系からの細胞であるTリンパ球に焦点を当てているが、改善された治療法がなお必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
従って、先行技術におけるこれらおよび他の不足に対応するために、本発明の好ましい実施形態では、本発明は自然免疫系、特に骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞に関わるナノ生物学的組成物、および訓練免疫を促進するための治療薬によるそれを必要とする患者を治療する方法を提供する。
【0012】
訓練免疫は、骨髄、脾臓および血液中の骨髄性細胞およびそれらの前駆細胞および幹細胞の一次傷害後の再刺激に対する代謝およびエピジェネティック再配線によって引き起こされるサイトカイン排出の増加によって現れるような二次長期応答性亢進によって定められる。訓練免疫(自然免疫記憶とも呼ぶ)は、骨髄および脾臓中の骨髄性自然免疫細胞またはそれらの前駆細胞および幹細胞を刺激する一次傷害によって誘導され、かつエピジェネティック、代謝および転写再配線によって媒介されるこれらの細胞の二次刺激による再刺激後の増加した長期応答性(例えば高いサイトカイン産生)によっても定められる。
【0013】
癌または敗血症の治療
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫を誘導して癌または敗血症を治療することによって患者を治療する方法であって、
(i)前記患者に応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量でナノ生物学的組成物を投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた自然免疫応答促進薬を有し、
ナノスケール集合体は(a)リン脂質、(b)アポリポタンパク質A-I(apoA-I)またはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアであり、
本ナノ生物学的組成物は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造によって官能化されており、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
ナノスケール集合体は訓練免疫促進分子構造を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、
それにより患者において訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進し、かつ癌または敗血症を治療する工程
を含む方法が提供される。
【0014】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0015】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0016】
チェックポイント阻害剤の有効性の向上
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、本発明は、訓練免疫を誘導することによりチェックポイント阻害剤治療の有効性を向上させることによって患者を治療する方法であって、
(1)前記患者に応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量でナノ生物学的組成物を投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた自然免疫応答促進薬を有し、
ナノスケール集合体は(a)リン脂質および(b)アポリポタンパク質A-I(apoA-I)またはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアであり、
本ナノ生物学的組成物は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造によって官能化されており、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
ナノスケール集合体は訓練免疫促進分子構造を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、
それにより患者において訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進する工程と、
(2)前記患者にチェックポイント阻害剤を投与する工程であって、
それにより訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進することによりチェックポイント阻害剤治療法の有効性を向上させる工程
とを含む方法を含む。
【0017】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0018】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0019】
長期腫瘍寛解の促進
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、癌の診断を受けた患者において長期腫瘍寛解を促進する方法であって、
(1)前記患者に化学療法、放射線療法、免疫療法および治療的に有効なそれらの組み合わせを含む患者の癌に特異的な標準治療レジメンを投与する工程と、
(2)前記患者にナノ生物学的組成物を長期応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量で投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた自然免疫応答促進薬を有し、
ナノスケール集合体は(a)リン脂質、および(b)アポリポタンパク質A-I(apoA-I)またはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化するかそれに結合する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアであり、
ナノスケール集合体は、当該促進薬を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、
それにより患者において訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進する工程と、
(3)任意に、前記患者にチェックポイント阻害剤を投与する工程であって、
それにより訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進することによりチェックポイント阻害剤治療法の有効性を向上させる工程と
を含む方法が提供される。
【0020】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0021】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0022】
長期自然訓練免疫の提供
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、患者における長期応答性亢進自然免疫応答を促進するために、不完全な訓練免疫(免疫麻痺(immunoparalysis))によって影響を受ける前記患者を治療する方法であって、
(1)前記患者に応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量でナノ生物学的組成物を投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬を有し、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、当該薬物を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、かつ
それにより患者における応答性亢進自然免疫応答を促進する工程と、
(2)任意に、本ナノ生物学的組成物の投与後に前記患者にチェックポイント阻害剤を投与する工程であって、
それにより訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進することによりチェックポイント阻害剤治療法の有効性を向上させる工程と
を含む方法が提供される。
【0023】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0024】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0025】
体内への薬物の蓄積のPETイメージング
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫によって影響を受ける患者の骨髄、血液および/または脾臓内へのナノ生物学的組成物の蓄積をイメージングするためのナノ生物学的組成物であって、
(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬および(iii)ナノスケール集合体に組み込まれたポジトロン断層法(PET)放射性同位体を有し、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
PETイメージング放射性同位体は89Zr、124I、64Cu、18Fおよび86Yから選択され、かつPETイメージング放射性同位体は安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを形成するために好適なキレート剤を用いて本ナノ生物学的組成物に錯体化されており、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達する
ことを特徴とする、ナノ生物学的組成物が提供される。
【0026】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0027】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0028】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫によって影響を受ける患者の骨髄、血液および/または脾臓内へのナノ生物学的組成物の蓄積をポジトロン断層法(PET)イメージングする方法であって、
(1)前記患者に応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量でナノ生物学的組成物を投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬および(iii)ナノスケール集合体に組み込まれたポジトロン断層法(PET)放射性同位体を有し、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
PETイメージング放射性同位体は89Zr、124I、64Cu、18Fおよび86Yから選択され、かつPETイメージング放射性同位体は安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを形成するために好適なキレート剤を用いて本ナノ生物学的組成物に錯体化されており、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達する工程と、
(2)患者の体の骨髄、血液および/または脾臓内の安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートの体内分布を可視化するために患者のPETイメージングを行う工程と
を含む方法が提供される。
【0029】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0030】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0031】
非限定的な好ましい実施形態では、放射性医薬品イメージングする方法は、前記患者に本ナノ生物学的組成物と共にチェックポイント阻害剤を投与し、それにより訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進することによりチェックポイント阻害剤治療法の有効性を向上させるさらなる工程を含む。
【0032】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、応答性亢進自然免疫応答を少なくとも7~30日間促進させる方法が提供される。
【0033】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、応答性亢進自然免疫応答を少なくとも30~100日間促進させる方法が提供される。
【0034】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、応答性亢進自然免疫応答を100日超であって最長3年間促進させる方法が提供される。
【0035】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫によって影響を受ける患者が、膀胱、血管、骨、脳、乳房、頸部、胸部、結腸、子宮内膜、食道、眼、頭部、腎臓、肝臓、リンパ節、肺、口、首、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、精巣、喉、甲状腺、尿路上皮または子宮の癌に罹患していることを特徴とする方法が提供される。
【0036】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、本ナノ生物学的組成物を1回投与し、かつ応答性亢進自然免疫応答を少なくとも30日間促進させる方法が提供される。
【0037】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、本ナノ生物学的組成物を複数投与レジメンの各日に少なくとも1日1回投与し、かつ応答性亢進自然免疫応答を少なくとも30日間促進させる方法が提供される。
【0038】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該促進薬は、MDP、MTP、β-グルカン、糖のポリマー、ox-LDL、BCG、細菌のペプチドグリカン、ウイルスペプチド、デクチン-1またはNOD2を活性化するかそれに結合する薬物または化合物またはポリマー、インフラマソームの促進物質、代謝経路の促進物質、および/または造血幹細胞(HSC)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)または骨髄性細胞内のエピジェネティック経路の促進物質である。
【0039】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫が、骨髄中の骨髄性細胞およびそれらの前駆細胞および幹細胞の一次傷害を生じさせるための本ナノ生物学的組成物の投与後の再刺激に対する代謝およびエピジェネティック再配線によって引き起こされるサイトカイン排出の増加によって現れるような二次応答性亢進によって定められることを特徴とする方法が提供される。
【0040】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫が骨髄中の骨髄性自然免疫細胞またはそれらの前駆細胞および幹細胞を刺激する一次傷害を生じさせるための本ナノ生物学的組成物の投与後に誘導され、かつエピジェネティック、代謝および転写再配線によって媒介されるこれらの細胞の二次刺激を生じさせるための本ナノ生物学的組成物の投与後の高いサイトカイン産生により増加した長期応答性によって定められることを特徴とする方法が提供される。
【0041】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該促進薬は、NOD2受容体促進物質、mTOR促進物質、リボソームタンパク質S6キナーゼβ-1(S6K1)促進物質、ヒストンH3K27デメチラーゼ促進物質、BETブロモドメイン遮断促進物質、ヒストンメチルトランスフェラーゼおよびアセチルトランスフェラーゼの促進物質、DNAメチルトランスフェラーゼおよびアセチルトランスフェラーゼの促進物質、インフラマソーム促進物質、セリン/トレオニンキナーゼAkt促進物質、HIF-1αとしても知られている低酸素誘導因子1-αの促進物質、ヒストンおよびDNAデメチラーゼおよび脱アセチル化酵素の阻害剤、およびそれらの1種以上の混合物であることを特徴とする方法が提供される。
【0042】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、患者が深刻な敗血症を有するか敗血症性ショック状態にあることを特徴とする方法が提供される。
【0043】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、患者が肺、腹部、腎臓または血流の細菌、ウイルスもしくは真菌感染に関連する敗血症を有することを特徴とする方法が提供される。
【0044】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、本ナノ生物学的組成物を骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞および造血幹細胞に薬物の蓄積を生じさせるために患者への2回以上の用量を含む治療レジメンで投与することを特徴とする方法が提供される。
【0045】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、本ナノ生物学的組成物との併用療法として抗癌剤を同時投与する工程を含む方法が提供される。
【0046】
ナノ生物学的組成物
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫を促進するためのナノ生物学的組成物であって、
(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬を有し、
(i)ナノスケール集合体は、(a)リン脂質、(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、当該薬物を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、かつ
それにより患者における応答性亢進自然免疫応答を促進する
ナノ生物学的組成物が提供される。
【0047】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0048】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0049】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該促進薬が、MDP、MTP、β-グルカン、糖のポリマー、ox-LDL、BCG、細菌のペプチドグリカン、ウイルスペプチド、デクチン-1、インフラマソームの促進物質、代謝経路の促進物質、および/または造血幹細胞(HSC)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)または骨髄性細胞内のエピジェネティック経路の促進物質であることを特徴とする、訓練免疫を促進するためのナノ生物学的組成物が提供される。
【0050】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該促進薬が、NOD2受容体促進物質、mTOR促進物質、リボソームタンパク質S6キナーゼβ-1(S6K1)促進物質、HMG-CoA還元酵素促進物質(スタチン)、ヒストンH3K27デメチラーゼ促進物質、BETブロモドメイン遮断促進物質、ヒストンメチルトランスフェラーゼおよびアセチルトランスフェラーゼの促進物質、DNAメチルトランスフェラーゼおよびアセチルトランスフェラーゼの促進物質、インフラマソーム促進物質、セリン/トレオニンキナーゼAkt促進物質、HIF-1αとしても知られている低酸素誘導因子1-αの促進物質、およびそれらの1種以上の混合物である、訓練免疫を促進するためのナノ生物学的組成物が提供される。
【0051】
放射性標識されたナノ生物学的組成物
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、骨髄、血液および脾臓における蓄積をイメージングするためのナノ生物学的組成物であって、
(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬および(iii)ナノスケール集合体に組み込まれたポジトロン断層法(PET)イメージング放射性同位体を有し、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチド(MDP)およびムラミルトリペプチド(MTP)などのその誘導体が挙げられ、
PETイメージング放射性同位体は89Zr、124I、64Cu、18Fおよび86Yから選択され、かつPETイメージング放射性同位体は安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを形成するために好適なキレート剤を用いて本ナノ生物学的組成物に錯体化されており、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、安定なナノ生物学的組成物-放射性同位体キレートを患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達する
ことを特徴とするナノ生物学的組成物が提供される。
【0052】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0053】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0054】
製造のためのプロセス
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、訓練免疫を阻害するためのナノ生物学的組成物を製造するためのプロセスであって、
促進薬をナノスケール集合体の中に組み込む工程であって、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクスを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化するかそれに結合して骨髄中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は、当該薬物を患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達し、かつ
それにより患者における応答性亢進自然免疫応答を促進する工程
を含むプロセスが提供される。
【0055】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスも含む。
【0056】
本発明の別の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は、(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックスおよび(d)コレステロールも含む。
【0057】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、ナノスケール集合体は放射性同位体キレート剤に結合されたリン脂質も含む。
【0058】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該促進薬が、MDP、MTP、β-グルカン、糖のポリマー、ox-LDL、BCG、細菌のペプチドグリカン、ウイルスペプチド、デクチン-1、インフラマソームの促進物質、代謝経路の促進物質、および/または造血幹細胞(HSC)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)または骨髄性細胞内のエピジェネティック経路の促進物質であることを特徴とする、訓練免疫を阻害するためのナノ生物学的組成物を製造するためのプロセスが提供される。
【0059】
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、当該集合体をマイクロフルイディクス、スケールアップマイクロフルイダイザー技術、超音波処理、有機物の水溶液への注入(organic-to-aqueous infusion)または脂質膜の水和を用いて1つにまとめることを特徴とする、訓練免疫を阻害するためのナノ生物学的組成物を製造するためのプロセスが提供される。
【0060】
本発明を例示するために、本発明の特定の実施形態が図面に示されている。但し、本発明は図面に示されている実施形態の正確な構成および手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】訓練免疫誘導剤(BCG、MDPまたはMTP-HDL)に24時間曝露させ、その後に細胞を洗浄し、かつLPSによる再刺激の前に5日間放置したヒト単球のサイトカインIL-6(図1A)およびTNF-α(図1B)の濃度を示すグラフである。サイトカイン産生の増加は訓練免疫を誘導するためのMTP-HDLの能力を示している。
図289Zrで標識されたMTP-HDLが静脈内に注射されたマウスの最大値投影(MIP)PET画像を示す。骨髄への高い取り込みが認められる。
図3】黒色腫を増殖させるためにその側腹部にB16F10腫瘍細胞が接種されたC57BL/6マウスにおいて得られた用量反応曲線のグラフである。これらの動物を異なる頻度(1回、2回または3回)で異なる用量のMTP-HDL(ムラミルトリペプチドで官能化されたHDLナノ生物学的組成物)で治療した。腫瘍細胞接種後の時間の関数および異なる治療の関数としての腫瘍体積が示されている。
図4】対照に対する3回の静脈内MDP-HDL注入後の日数にわたる量を示す骨髄1mL当たりの単球のグラフである。
図5】対照対MDP-HDLを示す骨髄のFDG-PETイメージング結果のグラフである。FDG(糖類似体)の取り込みは標準取り込み値(SUV)として表されている。
図6】PD-1阻害剤、MTP-HDLおよびPD-1阻害剤とMTP-HDL治療との組み合わせの比較のグラフであり、腫瘍接種後の日数に対する腫瘍体積を示す。腫瘍接種後8日、11日および13日目にMTP-HDLを静脈内に投与した。11日および14日目にチェックポイント阻害剤を投与した。
図7】CTLA-4阻害剤、MTP-HDLおよびCTLA-4阻害剤とMTP-HDL治療との組み合わせの比較のグラフであり、腫瘍接種後の日数に対する腫瘍体積を示す。腫瘍接種後8日、11日および13日目にMTP-HDLを静脈内に投与した。11日および14日目にチェックポイント阻害剤を投与した。
図8】PD-1+CTLA-4阻害剤、MTP-HDL、およびPD-1+CTLA-4阻害剤とMTP-HDL治療との組み合わせの比較のグラフであり、腫瘍接種後の日数に対する腫瘍体積を示す。腫瘍接種後8日、11日および13日目にMTP-HDLを静脈内に投与した。11日および14日目にチェックポイント阻害剤を投与した。
図9】MTP-HDL治療を継続した場合のPD-1+CTLA-4阻害剤、MTP-HDL、およびPD-1+CTLA-4阻害剤とMTP-HDL治療との組み合わせの比較のグラフであり、腫瘍接種後の日数に対する腫瘍体積を示す。腫瘍接種後8日、11日、13日、15日、17日目にMTP-HDLを静脈内に投与した。11日、14日目にチェックポイント阻害剤を投与した。
図10】MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフであり、各種治療およびPBS対照に対する生存可能なCD11b+骨髄性細胞の割合を示す。
図11】MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフであり、各種治療およびPBS対照に対する生存可能な骨髄単球の割合を示す。
図12A図12は、MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフである。図12Aは各種治療およびPBS対照に対する生存可能なCD11b+血液細胞の割合を示す。
図12B図12は、MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフである。図12Bは各種治療およびPBS対照に対する生存可能なCD11b+脾臓細胞の割合を示す。
図13A図13は、MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフである。図13Aは各種治療およびPBS対照に対する生存可能な血液単球の割合を示す。
図13B図13は、MTP-HDLの3回目の注射後24時間でのフローサイトメトリー結果のグラフである。図13Bは各種治療およびPBS対照に対する生存可能な脾臓単球の割合を示す。
図14】エピジェネティック、細胞およびシステムレベルで訓練免疫を制御するプロセスの概略図である。最初に同定された「トレーナー」としては、真菌のPAMPであるβ-グルカンおよび細菌のPAMPであるペプチドグリカン/BCGが挙げられる。訓練免疫はエピジェネティックに調節され、再刺激に対してより強い応答を生じさせる。骨髄系前駆細胞は刺激を受けて長期間にわたって「訓練された」骨髄性細胞を産生し、それにより持続的治療的介入のための強制的フレームワークを提供することができる。
図15】訓練免疫が細菌、真菌および代謝経路によって細胞レベルで調節され、サイトカイン分泌の根底にあるエピジェネティック修飾が得られることを示す細胞の図である。
図16】プロセスの概略図であり、訓練免疫を阻害(緑色)または促進(赤色)する骨髄に特異的な(bone marrow-avid)ナノ材料を用いて免疫系を刺激し、かつ心血管疾患およびその臨床的帰結、自己免疫不全から敗血症および感染症ならびに癌にまで及ぶ様々な病気を治療することができることを示す。
図17】訓練免疫を促進することにより免疫チェックポイント遮断治療法に対する免疫系の感受性の刺激を達成できることを示す図である。
図18】放射性同位体標識プロセスのグラフィック図である。
図19】ナノ生物学的組成物によって送達される放射性同位体を用いるPETイメージングのグラフィック図であり、マウス、ウサギ、サルおよびブタモデルの骨髄および脾臓におけるナノ生物学的組成物の蓄積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、訓練免疫を促進するためのナノ生物学的組成物、そのようなナノ生物学的組成物を製造する方法、薬物を前記ナノ生物学的組成物の中に組み込む方法、および薬物をリン脂質、脂肪族鎖、ステロールなどの官能化リンカー部分と組み合わせたプロドラッグ製剤に関する。
【0063】
炎症は組織傷害に対する防御機序として自然免疫細胞によって引き起こされる。訓練免疫と命名され、自然免疫記憶とも呼ばれている免疫記憶の古い機序は、骨髄中のこれらの細胞またはそれらの前駆細胞および幹細胞を刺激する一次傷害によって誘導され、かつエピジェネティック、代謝および転写再配線によって媒介される骨髄性自然免疫細胞の二次刺激による再刺激後に増加した長期応答性(例えば高いサイトカイン産生)によって定められる。
【0064】
訓練免疫は、骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞および造血幹細胞の一次傷害後の再刺激に対する代謝およびエピジェネティック再配線によって引き起こされるサイトカイン排出の増加によって現れる二次長期応答性亢進によって定められる。
【0065】
本発明は、訓練免疫の根底にあるエピジェネティックおよび代謝修飾を促進する組み込まれた刺激物質を運ぶまたは有するナノ生物学的組成物を送達することに基づく骨髄性細胞特異的ナノ免疫療法の1つの好ましい実施形態に関する。本発明は、治療用ナノ生物学的組成物、および訓練免疫を促進することにより癌を有する患者を治療する方法、すなわち一次傷害によって誘導され、かつ1回または複数の二次刺激による再刺激後のサイトカイン排出の増加を特徴とする、骨髄および脾臓および血液中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞の代謝およびエピジェネティック再配線の結果である増加した長期応答性に関する。
【0066】
定義
「治療する」または「治療」
状態、障害または病気を「治療する」またはそれらの「治療」という語句は、
(1)状態、障害または病気に罹患しているかそれらにかかりやすいがまだ状態、障害または病気の臨床症状を経験したり呈したりしていない人において発生する状態、障害または病気の臨床症状の出現を予防するか遅らせること、
(2)状態、障害または病気を阻害すること、すなわち疾患の発生またはその再発(維持治療の場合)あるいはその少なくとも1つの臨床症状、徴候または試験を抑止、減少または遅らせること、あるいは
(3)疾患を軽減すること、すなわち状態、障害または病気あるいはその臨床もしくは準臨床症状または徴候のうちの少なくとも1つの緩解を引き起こすこと
を含む。
【0067】
ナノ生物学的組成物
「ナノ生物学的組成物」という用語は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬を有する組成物を指し、ここでは当該薬物はインフラマソームの促進物質、代謝経路の促進物質および/または造血幹細胞(HSC)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)または骨髄性細胞内のエピジェネティック経路の促進物質である。
【0068】
ナノスケール集合体
「ナノスケール集合体」(NA)という用語は、活性ペイロード、例えば薬物を運ぶための多成分担体組成物を指す。ナノスケール集合体は以下の小成分:(a)リン脂質、(b)アポリポタンパク質A-I(apoA-I)またはapoA-Iのペプチドミメティクスおよび任意に(c)疎水性マトリックスを含む。ナノスケール集合体は任意に(d)コレステロールも含んでいてもよい。
【0069】
「ナノスケール集合体」(NA)という用語」は、(a)リン脂質、(b)アポリポタンパク質A-I(apoA-I)またはapoA-Iのペプチドミメティクスおよび(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーおよびステロールエステルを含む疎水性マトリックスを含む多成分担体組成物も指す。ナノスケール集合体は任意に(d)コレステロールも含んでいてもよい。
【0070】
リン脂質
「リン脂質」という用語は、2種類の疎水性脂肪酸「尾部」と、リン酸基からなる1つの親水性「頭部」とからなる両親媒性化合物を指す。この2つの構成要素はグリセロール分子によって互いに結合されている。リン酸基はコリン、エタノールアミンまたはセリンなどの単純な有機分子で修飾されていてもよい。
【0071】
コリンは、化学式R-(CH-N-(CHを有する必須の生物活性栄養素を指す。R-部分がホスホ-である場合、それをホスホコリンと呼ぶ。
【0072】
好適なリン脂質の例としては、限定されるものではないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたは他のセラミドならびにレシチン油などのリン脂質含有油が挙げられる。リン脂質の組み合わせまたはリン脂質と他の物質との混合物を使用してもよい。
【0073】
本組成物中に使用することができるリン脂質の非限定的な例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびホスファチジン酸/エステル(PA)およびリゾホスファチジルコリンが挙げられる。
【0074】
具体例としては、DDPC CAS-3436-44-0 1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DEPA-NA CAS-80724-31-8 1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DEPC CAS-56649-39-9 1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DEPE CAS-988-07-2 1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DEPG-NA 1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DLOPC CAS-998-06-1 1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DLPA-NA 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DLPC CAS-18194-25-7 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DLPE 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DLPG-NA 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DLPG-NH4 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)、DLPS-NA 1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)、DMPA-NA CAS-80724-3 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DMPC CAS-18194-24-6 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DMPE CAS-988-07-2 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DMPG-NA CAS-67232-80-8 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DMPG-NH4 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)、DMPG-NH4/NA 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム/アンモニウム塩)、DMPS-NA 1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)、DOPA-NA 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DOPC CAS-4235-95-4 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DOPE CAS-4004-5-1 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DOPG-NA CAS-62700-69-0 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DOPS-NA CAS-70614-14-1 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)、DPPA-NA CAS-71065-87-7 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DPPC CAS-63-89-8 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DPPE CAS-923-61-5 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DPPG-NA CAS-67232-81-9 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DPPG-NH4 CAS-73548-70-6 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)、DPPS-NA 1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)、DSPA-NA CAS-108321-18-2 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)、DSPC CAS-816-94-4 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DSPE CAS-1069-79-0 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、DSPG-NA CAS-67232-82-0 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)、DSPG-NH4 CAS-108347-80-4 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)、DSPS-NA 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)、EPC 卵PC、HEPC 水素化卵PC、HSPC 水素化大豆PC、LYSOPC MYRISTIC CAS-18194-24-6 1-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、LYSOPC MYRISTIC CAS-17364-16-8 1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、LYSOPC STEARIC CAS-19420-57-6 1-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、ミルクスフィンゴミエリン、MPPC 1-ミリストイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、MSPC 1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、PMPC 1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、POPC CAS-26853-31-6 1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、POPE 1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、POPG-NA CAS-81490-05-3 1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)...](ナトリウム塩)、PSPC 1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、SMPC 1 -ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、SOPC 1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、SPPC 1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンが挙げられる。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、リン脂質の非限定的な具体例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、大豆レシチン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジパルミトイルスフィンゴミエリン(DPSP)、ジステアロイルスフィンゴミエリン(DSSP)およびそれらの混合物が挙げられる。
【0076】
特定の実施形態では、本組成物が2種類以上のリン脂質を含む(本質的にそれらからなる、またはそれらからなる)場合、2種類のリン脂質の重量比は、約1:10~約10:1、約2:1~約4:1、約1:1~約5:1、約2:1~約5:1、約6:1~約10:1、約7:1~約10:1、約8:1~約10:1、約7:1~約9:1または約8:1~約9:1の範囲であってもよい。例えば、2種類のリン脂質の重量比は、約1:10、約1:9、約1:8、約1:7、約1:6、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1であってもよい。
【0077】
一実施形態では、本ナノスケール集合体の(a)リン脂質は、二本鎖ジアシルリン脂質と一本鎖アシルリン脂質/リゾ脂質との混合物を含む(本質的にそれからなる、またはそれからなる)。
【0078】
一実施形態では、(a)リン脂質はリン脂質とリゾ脂質、すなわち(DMPC)および(MHPC)との混合物である。
【0079】
DMPC:MHPCの重量比は、約1:10~約10:1、約2:1~約4:1、約1:1~約5:1、約2:1~約5:1、約6:1~約10:1、約7:1~約10:1、約8:1~約10:1、約7:1~約9:1または約8:1~約9:1の範囲であってもよい。DMPC:MHPCの重量比は、約1:10、約1:9、約1:8、約1:7、約1:6、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1の範囲であってもよい。
【0080】
一実施形態では、(a)リン脂質はリン脂質とリゾ脂質、すなわち(POPC)および(PHPC)との混合物である。
【0081】
POPC:PHPCの重量比は、約1:10~約10:1、約2:1~約4:1、約1:1~約5:1、約2:1~約5:1、約6:1~約10:1、約7:1~約10:1、約8:1~約10:1、約7:1~約9:1または約8:1~約9:1の範囲であってもよい。POPC:PHPCの重量比は、約1:10、約1:9、約1:8、約1:7、約1:6、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1であってもよい。
【0082】
なお、C4~C30の鎖長のもの、飽和または不飽和のもの、シスまたはトランスのもの、置換されていないか1~6側鎖で置換されているもの、およびリゾ脂質の追加を有するか有しないものにまで及ぶ全てのリン脂質が、本明細書に記載されているナノスケール集合体またはナノ粒子/ナノ生物学的組成物に使用するために企図される。
【0083】
さらに、他の合成バリアントおよび他のリン脂質頭部基を有するバリアントも企図される。
【0084】
本明細書で使用される「リゾ脂質」は、非限定的な実施形態において、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MHPC)、1-パルミトイル-2-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PHPC)および1-ステアロイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SHPC)などの(アシル-、一本鎖)リゾ脂質を含む。
【0085】
アポリポタンパク質A-I(apoA-I)(apoA1)
「アポリポタンパク質A-I」または「apoA-I」という用語、および「アポリポタンパク質A-I」または「apoA1」という用語も、ヒトにおけるAPOA1遺伝子によってコードされるタンパク質を指し、かつ本明細書で使用されるようにapoA-Iのペプチドミメティクスも含む。アポリポタンパク質A-I(apoA-I)はナノスケール集合体中の小成分(b)である。
【0086】
疎水性マトリックス
「疎水性マトリックス」という用語は、ナノ生物学的組成物のコアまたは充填剤または構造修飾剤を指す。構造的修飾としては、(1)疎水性マトリックスを使用して(a)リン脂質および(b)apoA-Iのみから作られたナノスケール集合体の粒径を増加または設計すること、(2)ナノスケール集合体粒子の剛性を増加または減少させること(設計すること)、(3)ナノスケール集合体粒子の粘度を増加または減少させること(設計すること)、および(4)ナノスケール集合体粒子の体内分布特性を向上または低下させること(設計すること)が挙げられる。
【0087】
ナノスケール集合体の粒径、剛性、粘度および/または体内分布は、追加される疎水性分子の量および種類によって加減することができる。非限定的な例では、(a)リン脂質および(b)apoA-Iのみから作られたナノスケール集合体はl0nm~50nmの直径を有していてもよい。トリグリセリドなどの(c)疎水性マトリックス分子を追加することにより、ナノスケール集合体を最小10nm~少なくとも30nmに膨張させる。より多くのトリグリセリドを追加することによりナノスケール集合体の直径を本発明の範囲内で少なくとも50nm、少なくとも75nm、少なくとも100nm、少なくともl50nm、少なくとも200nm、少なくとも300nmであって最大400nmまで増加させることができる。
【0088】
製造方法により、均一なサイズのナノスケール集合体粒子を調製したり、濾過しないことまたはある範囲の異なるサイズのナノスケール集合体粒子を調製して製造後工程においてそれらを再び1つにまとめることによって非均一なサイズのナノスケール集合体粒子の混合物を調製したりすることができる。ナノスケール集合体粒子のサイズが大きくなるほど、より多くの薬物を組み込むことができる。但し、より大きなサイズ(例えばl20nm超)は、治療されている患者の組織内へのナノスケール集合体粒子の拡散を制限、防止または低速させる可能性がある。より小さいナノスケール集合体粒子は1粒子当たりそれほど多くの薬物を保持しないが、骨髄、血液または脾臓あるいは訓練免疫によって影響を受ける他の局所組織、例えば移植組織や周囲組織および動脈硬化性プラークなどに接近することができる(体内分布)。単回投与またはレジメンにおいてナノ粒子サイズの非均一な混合物を使用することにより、自然免疫応答性亢進の即時低下を生じさせ、かつ同時に何日、何週間、何ヶ月および何年も持続し得る自然免疫応答性亢進の持続的長期低下を生じさせることができ、ここでは前記ナノ生物学的組成物により、単球、マクロファージおよび他の寿命の短い循環細胞などの造血幹細胞(HSC)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)および骨髄性細胞の代謝、エピジェネティックおよびインフラマソーム経路が逆行、修正または調節されている。
【0089】
コレステロール、脂肪酸エステル、疎水性ポリマー、ステロールエステルおよび異なる種類のトリグリセリドまたはそれらの特定の混合物などの他の(c)疎水性マトリックス分子を追加することにより、ナノスケール集合体粒子をさらに設計して特定の目的のために特定の所望の特性を強調することができる。サイズ、剛性および粘度は、担持および体内分布に影響を与えることができる。
【0090】
非限定的な例として、最大担持容量は、ナノスケール集合体粒子の内部の体積を薬物担持球状体の体積で割ることにより決定することができる。
【0091】
粒子:2.2nm~3.0nmのリン脂質壁を有する100nmの球状粒子と仮定すると、4/3π(r)3の体積(L)により94nmの内径が得られる。
【0092】
薬物:12×12×35オングストロームまたは1.2×1.2×3.5nmの円筒体としての刺激物質を仮定すると、ここでは、複数(例えば7または9つなど)の薬物分子円筒体が4/3π(r)3のVol(小さい)により1.75nmの半径を有する3.5nmの直径の球状体を仮定することができる。
【0093】
最大担持容量(算出値):100nmの粒子内に約487kの3.5nmの球状体。
【0094】
生物学的に関連する脂質としては、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質(saccharolipid)およびポリケチドが挙げられる。42,000種超の脂質の完全なリストは、https://www.lipidmaps.orgで得ることができる。
【0095】
トリグリセリド
「トリグリセリド」という用語および同様の用語は、1分子のグリセロールと3分子の脂肪酸から得られるエステルを意味する。トリグリセリドを記述するために本明細書で使用される表示法は、脂肪酸を記述するために以下で使用されているものと同じである。トリグリセリドは、多価不飽和および飽和の以下の脂肪酸:C18:1、C14:1、C16:1のあらゆる組み合わせと共にグリセロールを含むことができる。脂肪酸はあらゆる順序でグリセロール分子に結合することができ、例えばあらゆる脂肪酸は、エステル結合を形成するためにグリセロール分子のヒドロキシル基のいずれかと反応することができる。C18:1脂肪酸のトリグリセリドは、トリグリセリドの脂肪酸成分がC18:1脂肪酸に由来するかそれに基づいていることを単に意味する。すなわち、C18:1トリグリセリドは、各脂肪酸が1つの二重結合を有した状態でグリセロールとそれぞれ18個の炭素原子からなる3つの脂肪酸とのエステルである。同様に、C14:1トリグリセリドは各脂肪酸が1つの二重結合を有した状態でグリセロールとそれぞれ14個の炭素原子からなる3つの脂肪酸とのエステルである。同様に、C16:1トリグリセリドは各脂肪酸が1つの二重結合を有した状態でグリセロールとそれぞれ16個の炭素原子からなる3つの脂肪酸とのエステルである。C14:1および/またはC16:1脂肪酸と組み合わせられたC18:1脂肪酸のトリグリセリドは、(a)C18:1トリグリセリドがC14:1トリグリセリドまたはC16:1トリグリセリドあるいは両方と混合されていること、または(b)トリグリセリドの脂肪酸成分の少なくとも1つはC18:1脂肪酸に由来するかそれに基づいているが他の2つはC14:1脂肪酸および/またはC16:1脂肪酸に由来するかそれに基づいていることを意味する。
【0096】
脂肪酸
「脂肪酸」という用語および同様の用語は、飽和もしくは不飽和の長い脂肪族尾部を有するカルボン酸を意味する。脂肪酸はリン脂質およびトリグリセリドにエステル化されていてもよい。本明細書で使用されているように、脂肪酸鎖長としては、飽和もしくは不飽和、シスまたはトランス、置換されていないか1~6側鎖で置換されたC4~C30が挙げられる。不飽和脂肪酸は炭素原子間に1つ以上の二重結合を有する。飽和脂肪酸は二重結合を全く含んでいない。脂肪酸を記述するための本明細書で使用される表示法は、炭素原子のための大文字の「C」、その後に脂肪酸中の炭素原子数を記述する数、その後にコロンおよび脂肪酸中の二重結合の数のための別の数を含む。例えば、C16:1は1つの二重結合を有する16個の炭素原子の脂肪酸、例えばパルミトレイン酸を意味する。この表示法におけるコロンの後の数は、脂肪酸における二重結合の配置や二重結合の炭素原子に結合された水素原子が互いにシスであるかは表していない。この表示法の他の例としては、C18:0(ステアリン酸)、C18:1(オレイン酸)、C18:2(リノール酸)、C18:3(α-リノレン酸)およびC20:4(アラキドン酸)が挙げられる。
【0097】
ステロールおよびステロールエステル
限定されるものではないがコレステロールなどの「ステロール」という用語は、本明細書に記載されている方法および化合物にも利用することができる。ステロールはC-3にヒドロキシル基のみを含むが他の官能基を含まない動物もしくは植物ステロイドである。一般に、ステロールは27~30個の炭素原子および5/6位および時には7/8位、8/9位または他の位置に1つの二重結合を含む。これらの不飽和化学種以外に、他のステロールは水素化によって得られる飽和化合物である。好適な動物ステロールの1つの例はコレステロールである。適用の観点から好ましい好適なフィトステロールの典型的な例は、エルゴステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、好ましくはシトステロールまたはシトスタノール、より詳細にはβ-シトステロールまたはβ-シトスタノールである。上記フィトステロール以外に、それらのエステルが好ましくは使用される。当該エステルの酸成分は、式(I):
R1CO-OH(I)
(式中、R1COは2~30個の炭素原子および0および/または1、2または3個の二重結合を含む脂肪族、直鎖状もしくは分岐鎖状アシル基である。典型的な例は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、共役リノール酸(CLA)、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸およびエルカ酸である)
に対応するカルボン酸に戻ることができる。
【0098】
疎水性ポリマー
当該マトリックスを構成するために使用される1種以上の疎水性ポリマーは、ヒトへの使用のために認可されている(すなわち生体適合性であり、かつFDAによって認可されている)ポリマーの群から選択されてもよい。
【0099】
そのようなポリマーとしては例えば、限定されるものではないが、以下のポリマー:ポリアルケンジカルボキシレート(polyalkenedicarboxlate)、ポリ無水物、ポリ(アスパラギン酸)、ポリアミド、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートおよびアジペートの共重合体(PBSA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリアルキレンカーボネート(PC)などのポリカーボネート、脂肪族ポリエステルおよびポリエステルアミドなどのポリエステル、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリグリコリド(PGA)、ポリイミンおよびポリアルキレンイミン(PI、PAI)、ポリ乳酸(PLA、PLLA、PDLLA)、ポリ乳酸およびグリコール酸の共重合体(PLGA)、ポリ(1-リシン)、ポリメタクリレート、ポリペプチド、ポリオルトエステル、ポリ-p-ジオキサノン(PPDO)、(疎水性)変性多糖類、ポリシロキサンおよびポリアルキルシロキサン、ポリ尿素、ポリウレタンおよびポリビニルアルコール、そのようなポリマーの誘導体、コポリマー、ブロックコポリマー、分岐鎖状ポリマーおよびポリマーブレンドが挙げられる。
【0100】
プロドラッグ
本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は特に明記しない限り、加水分解、酸化またはそれ以外の方法で生物学的条件(インビトロまたはインビボ)で反応して当該化合物を提供する化合物の誘導体を意味する。プロドラッグの例としては、限定されるものではないが、生加水分解性アミド、生加水分解性エステル、生加水分解性カルバメート、生加水分解性カーボネート、生加水分解性ウレイドおよび生加水分解性ホスフェート類似体などの生加水分解性部分を含む本発明のナノ生物学的組成物の誘導体が挙げられる。プロドラッグの他の例としては、-NO、-NO、-ONOまたは-ONO部分を含む本発明のナノ生物学的組成物の誘導体が挙げられる。プロドラッグは典型的には、1ビュルガーの医薬品化学および薬物開発(1 Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery),172-178,949-982(Manfred E.Wolff編,第5版 1995)およびプロドラッグの設計(Design of Prodrugs)(H.Bundgaard編,Elselvier,N.Y.1985)に記載されている方法などの周知の方法を用いて調製することができる。
【0101】
薬物のナノ生物学的組成物との適合性を高めることは、以下に記載されている戦略を用いて達成することができる。薬物をコレステロールなどの疎水性部分と共有結合的に結合させる。必要であれば、プロドラッグ手法は例えば酵素的に切断可能なプロドラッグが得られる不安定な結合により達成することができる。
【0102】
その後に、誘導体化薬物をインビボ薬物送達のために使用される脂質ベースのナノ生物学的組成物に組み込む。薬物誘導体化の主要目的は、親薬物と比較してより高い疎水性を有する薬物複合体を形成することである。その結果として、ナノ生物学的組成物内部への薬物複合体の保持が親薬物のものと比較して高められ、それにより結合の低下および標的組織への送達の向上が得られる。プロドラッグ戦略の場合、異なる種類の疎水性部分は異なるインビボ切断速度を生じさせ、それにより活性薬物が生成される速度、従ってナノ生物学的組成物-薬物構築物の全体的治療効果に影響を与えることができる。
【0103】
生加水分解性
本明細書で使用される「生加水分解性アミド」、「生加水分解性エステル」、「生加水分解性カルバメート」、「生加水分解性カーボネート」、「生加水分解性ウレイド」、「生加水分解性ホスフェート」という用語は特に明記しない限り、1)化合物の生物活性を妨げないがその化合物に取り込み、作用持続期間または作用の発現などのインビボでの有利な特性を付与することができる化合物、あるいは2)生物学的に不活性であるがインビボで生物学的に活性な化合物に変換される化合物のアミド、エステル、カルバメート、カーボネート、ウレイドまたはホスフェートをそれぞれ意味する。生加水分解性エステルの例としては、限定されるものではないが、低級アルキルエステル、低級アシルオキシアルキルエステル(アセトキシルメチル、アセトキシエチル、アミノカルボニルオキシメチル、ピバロイルオキシメチルおよびピバロイルオキシエチルエステルなど)、ラクトニル(lactonyl)エステル(フタリジルおよびチオフタリジル(thiophthalidyl)エステルなど)、低級アルコキシアシルオキシアルキルエステル(メトキシカルボニルオキシメチル、エトキシカルボニルオキシエチルおよびイソプロポキシカルボニルオキシエチルエステルなど)、アルコキシアルキルエステル、コリンエステルおよびアシルアミノアルキルエステル(アセトアミドメチルエステルなど)が挙げられる。生加水分解性アミドの例としては、限定されるものではないが、低級アルキルアミド、α-アミノ酸アミド、アルコキシアシルアミドおよびアルキルアミノアルキルカルボニルアミドが挙げられる。生加水分解性カルバメートの例としては、限定されるものではないが、低級アルキルアミン、置換エチレンジアミン、アミノ酸、ヒドロキシアルキルアミン、複素環式およびヘテロ芳香族アミンおよびポリエーテルアミンが挙げられる。
【0104】
ナノスケール集合体を作製する方法
方法が以下に記載されており、これらの方法に関する変形が存在する。
【0105】
方法1
A.リン脂質、薬物(プロドラッグ)および任意のトリグリセリドまたはポリマーを(典型的にはクロロホルム、エタノールまたはアセトニトリルに)溶解する。次いでこの溶液を真空下で蒸発させてその成分の膜を形成する。その後に、緩衝液を添加してこの膜を水和させ、ベシクル懸濁液を生成する。
B.リン脂質、薬物(プロドラッグ)および任意のトリグリセリドまたはポリマーを(典型的にはクロロホルム、エタノールまたはアセトニトリルに)溶解する。この溶液を有機溶媒が完全に蒸発してベシクル懸濁液が生成されるまで、穏やかに加熱した緩衝液に撹拌しながら注入または滴下する。
【0106】
AまたはBを用いて生成されたこのベシクル懸濁液に、アポリポタンパク質A-I(apoA-I)(なお、apoA-IはBにおいて既に存在していてもよい)を添加し(変性を回避するために滴下で使用)、得られた混合物を外部氷水浴を用いて徹底的に冷却しながら、チップソニケーターを用いて30分間超音波処理した。本ナノ生物学的組成物および他の副生成物を含有する得られた溶液を本ナノ生物学的組成物の推定サイズに応じた分子量カットオフを有するSartorius Vivaspinチューブに移す(典型的には10,000~100,000kDaのカットオフを有するVivaspinチューブを使用する)。溶媒体積の約90%がそのフィルタを通過するまでこれらのチューブを遠心分離する。その後に、残りの溶液の体積にほぼ等しい体積の緩衝液を添加し、かつその体積のほぼ半分がそのフィルタを通過するまでこれらのチューブを再度回転させる。これを2回繰り返し、その後に残りの溶液を0.22μmポリエーテルスルホンシリンジフィルターに通し、最終的なナノ生物学的溶液を得る。
【0107】
方法2
他の手法では、リン脂質、薬物(プロドラッグ)および任意のトリグリセリドまたはポリマーを(典型的にはエタノールまたはアセトニトリルに)溶解し、シリンジの中に充填する。
【0108】
さらに、アポリポタンパク質A-I(apoA-I)のリン酸緩衝生理食塩水溶液を第2のシリンジの中に充填する。マイクロ流体ポンプを使用し、両シリンジの内容物をマイクロボルテックスプラットフォームを用いて混合する。本ナノ生物学的組成物および他の副生成物を含有する得られた溶液を粒子の推定サイズに応じた分子量カットオフを有するSartorius Vivaspinチューブに移す(典型的には10,000~100,000kDaのカットオフを有するVivaspinチューブを使用する)。溶媒体積の約90%がそのフィルタを通過するまでこれらのチューブを遠心分離する。その後に、残りの溶液の体積にほぼ等しい体積のリン酸緩衝生理食塩水を添加し、かつその体積のほぼ半分がそのフィルタを通過するまで、これらのチューブを再度回転させる。これを2回繰り返し、その後に残りの溶液を0.22μmポリエーテルスルホンシリンジフィルターに通し、最終的なナノ生物学的溶液を得る。
【0109】
マイクロフルイダイザー法
本発明に係る別の好ましい方法では、マイクロフルイダイザー技術を使用してナノスケール集合体および最終的なナノ生物学的組成物を調製する。
【0110】
マイクロフルイダイザーは、潜りジェット原理で動作する小さい粒径の材料を調製するための装置である。ナノ粒子を得るためにマイクロフルイダイザーを作動させる際はプレミックス流を、そのプレミックスを2つの流れに分割するセラミックブロック内のチャネルのシステムからなるいわゆる相互作用チャンバーの中を高圧ポンプにより押し通す。微少溶液操作中に正確に制御された剪断力、乱流およびキャビテーション力を相互作用チャンバー内で発生させる。この2つの流れを高速で再度1つにまとめて剪断力を生成する。そうして得られた生成物をマイクロフルイダイザーの中に再循環させてさらにもっと小さい粒子を得ることができる。
【0111】
従来の粉砕プロセスよりも優れた微少溶液操作の利点としては、最終生成物の汚染を大きく減らすこと、および製造のスケールアップを容易にすることが挙げられる。
【0112】
併用療法-チェックポイント阻害剤と組み合わせたナノ生物学的組成物の送達
チェックポイント阻害剤および訓練免疫誘導ナノ生物学的組成物との併用療法も本発明の主題の範囲内で企図される。
【0113】
チェックポイント阻害剤
チェックポイント阻害剤は、T細胞などのいくつかの種類の免疫系細胞およびいくつかの癌細胞によって作られた特定のタンパク質を遮断する種類の薬物を指す。これらのタンパク質は免疫応答をチェック下に維持するのを助け、かつT細胞が癌細胞を死滅させるのを防ぐことができる。これらのタンパク質が遮断された場合、免疫系に対する「ブレーキ」が解放され、T細胞は癌細胞をより良好に死滅させることができる。T細胞または癌細胞に存在するチェックポイントタンパク質の例としては、PD-1/PD-L1およびCTLA-4/B7-1/B7-2が挙げられる。いくつかの免疫チェックポイント阻害剤を使用して癌を治療する。
【0114】
チェックポイント阻害剤の背景
免疫チェックポイントは免疫系においてT細胞機能を調節する。T細胞は細胞媒介性免疫において中心的な役割を担う。チェックポイントタンパク質は、T細胞にシグナルを送る特異的リガンドと相互作用し、T細胞機能を本質的に停止または阻害する。癌細胞は、それらの表面でのチェックポイントタンパク質の高レベルの発現を促進し、それにより腫瘍微小環境に入るT細胞の表面でチェックポイントタンパク質を発現するT細胞を制御し、このようにして抗癌免疫応答を抑制することにより、このシステムを利用する。従ってチェックポイントタンパク質の阻害により、T細胞機能および癌細胞への免疫応答の完全もしくは部分的な回復をもたらす。チェックポイントタンパク質の例としては、限定されるものではないが、CTLA-4、PD-L1、PD-L2、PD-1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4(CD2ファミリーの分子に属し、かつ全てのNK、γδおよび記憶CD8+(αβ)T細胞上で発現される)、CD160(BY55ともいう)、CGEN-15049、CHK1およびCHK2キナーゼ、A2aRおよび各種B-7ファミリーリガンドが挙げられる。
【0115】
チェックポイント阻害剤の種類
チェックポイント阻害剤としては、統計的に有意な方法で免疫系の阻害経路を遮断または阻害するあらゆる薬剤が挙げられる。そのような阻害剤は小分子阻害剤を含んでもよく、あるいは免疫チェックポイント受容体に結合してそれを遮断または阻害する抗体もしくはその抗原結合断片あるいは免疫チェックポイント受容体リガンドに結合してそれを遮断または阻害する抗体を含んでもよい。
【0116】
免疫応答を再活性化させるために遮断または阻害するための標的とされ得る例示的なチェックポイント分子としては、限定されるものではないが、CTLA-4、PD-L1、PD-L2、PD-1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、GAL9、LAG3、TIM3、VISTA、KIR、2B4(CD2ファミリーの分子に属し、かつ全てのNK、γδおよび記憶CD8+(αβ)T細胞上で発現される)、CD160(BY55ともいう)、CGEN-15049、CHK1およびCHK2キナーゼ、A2aRおよび各種B-7ファミリーリガンドが挙げられる。B7ファミリーリガンドとしては、限定されるものではないが、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6およびB7-H7が挙げられる。
【0117】
チェックポイント阻害剤としては、CTLA-4、PD-L1、PD-L2、PD-1、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160およびCGEN-15049のうちの1種以上に結合してその活性を遮断または阻害する抗体もしくはその抗原結合断片、他の結合タンパク質、生物学的治療薬または小分子が挙げられる。
【0118】
例示的な免疫チェックポイント阻害剤としては、トレメリムマブ(CTLA-4遮断抗体)、抗OX40、PD-L1モノクローナル抗体(抗B7-H1、MEDI4736)、MK-3475(PD-1遮断薬)、ニボルマブ(抗PD-1抗体)、CT-011(抗PD-1抗体)、BY55モノクローナル抗体、AMP224(抗PD-L1抗体)、BMS-936559(抗PD-L1抗体)、MPLDL3280A(抗PD-L1抗体)、MSB0010718C(抗PD-L1抗体)およびヤーボイ/イピリムマブ(抗CTLA-4チェックポイント阻害剤)が挙げられる。チェックポイントタンパク質リガンドとしては、限定されるものではないが、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、CD28、CD86およびTIM-3が挙げられる。
【0119】
PD-1を遮断するチェックポイント阻害剤としては、ニボルマブ(オプジーボ)およびペンブロリズマブ(キートルーダ)が挙げられる。ニボルマブおよびペンブロリズマブは、黒色腫皮膚癌、ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌および尿路の癌(尿路上皮癌)を有する何人かの人々のための治療薬である。尿路は、腎臓の中心(腎盂)、尿を腎臓から膀胱まで運ぶ管(尿管)、膀胱および尿を膀胱から体外に排出させる管(尿道)を含む。
【0120】
CTLA-4を遮断するチェックポイント阻害剤としては、進行性黒色腫のための治療薬として使用されるイピリムマブ(ヤーボイ)が挙げられる。
【0121】
PD-L1を遮断するチェックポイント阻害剤としてはアテゾリズマブ(MPDL3280Aとしても知られている)が挙げられる。アテゾリズマブは肺癌および尿路上皮癌を有する何人かの人々のための治療薬である。それは乳癌を含む他の癌のために臨床試験中である。
【0122】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)はT細胞およびpro-B細胞上で発現される288個のアミノ酸からなる細胞表面タンパク質分子であり、かつそれらの運命/分化において役割を担う。PD-1はB7ファミリーのメンバーである2種類のリガンド、PD-L1およびPD-L2を有する。PD-1は免疫学的監視からの腫瘍特異的逃避において役割を担う。PD-1はTリンパ球(TIL)に浸潤している黒色腫において上方制御される(Doth(2009)Blood 114(8):1457-58)。腫瘍はCTLにおけるPD-1の上方制御と組み合わせられた場合に、T細胞機能の喪失および、CTLが有効な抗腫瘍応答を媒介することができなくなることの要因になり得るPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)を発現することが分かっている。
【0123】
黒色腫における臨床試験により、抗PD-1遮断による強い抗腫瘍応答が証明されている。進行性黒色腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、腎細胞癌および結腸直腸癌の場合のPD-1阻害による大きな利点も記載されている。マウスのモデルにおける研究では、この証明を神経膠腫治療法に適用した。放射線促進細胞傷害性T細胞集団への抗PD-1遮断アジュバントおよび関連する長期生存は、神経膠腫腫瘍を有するマウスに有用である。
【0124】
本明細書に提供されている結果を考慮して、本開示の態様は、MDP-HDL、MTP-HDL、PG-HDL、BG-HDLおよびUA-HDLなどの訓練免疫誘導ナノ生物学的組成物のうちの1種以上と組み合わせられた任意のチェックポイント阻害剤によるあらゆる固形腫瘍の併用治療を含む。
【0125】
抗体チェックポイント阻害剤
本開示の一態様は、PD-1阻害剤として機能し、それによりPD-1によって制御される免疫応答を調節することができる抗体であるチェックポイント阻害剤を提供する。一実施形態では、抗PD-1抗体は抗原結合断片であってもよい。本明細書に開示されている抗PD-1抗体は、ヒトPD-1に結合し、かつPD-1の活性に作用し、それによりPD-1を発現している免疫細胞の機能を阻害することができる。PD-1およびPD-L1遮断薬の例は、米国特許第7,488,802号、第7,943,743号、第8,008,449号、第8,168,757号、第8,217,149号、ならびにPCT特許出願の国際公開第03042402号、国際公開第2008156712号、国際公開第2010089411号、国際公開第2010036959号、国際公開第2011066342号、国際公開第2011159877号、国際公開第2011082400号および国際公開第2011161699号に記載されている。
【0126】
臨床試験において現在試験中であるいくつかのPD-1阻害剤が存在する。CT-011はPD-1に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体である。自己幹細胞移植を受けたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する対象における第II相臨床試験が最近完了した。予備段階の結果は、対照群における47%と比較して対象の70%が経過観察期間の終了時に進行しておらず、かつ対照群における62%と比較して対象の82%が生存していることを実証した。この試験により、CT-011はPD-1機能を遮断するだけでなく、ナチュラルキラー細胞の活性を増強し、このようにして抗腫瘍免疫応答を増強することも実証された。
【0127】
BMS-936558はPD-1を標的にする完全ヒトIgG4モノクローナル抗体である。第I相試験では、進行性の難治性悪性腫瘍を有する対象におけるBMS-936558の隔週投与は持続的な部分的もしくは完全な退縮を示した。最も有意な応答率は黒色腫(28%)および腎細胞癌(27%)を有する対象において観察されたが、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する対象でも大きな臨床的活性が観察され、いくつかの応答は1年を超えて持続した。
【0128】
BMS-936559はPD-1リガンドPD-L1を標的にする完全ヒトIgG4モノクローナル抗体である。第I相の結果から、この薬物の隔週投与により特に黒色腫を有する対象において持続的応答が得られることが分かった。客観的応答率は、進行期NSCLC、黒色腫、RCCまたは卵巣癌を有する対象では癌型に応じて6%~17%の範囲であり、その何人かの対象は1年以上も持続する応答を経験した。
【0129】
MK-3475は、進行性の胃もしくは胃食道接合部(GEJ)腺癌のための第一選択の治療法としての化学療法単独に対して単独または化学療法と組み合わせられた第III相研究中のヒト化IgG4抗PD-1モノクローナル抗体である。MK-3475は現在のところ数多くの世界的な第III相臨床試験の段階にある。
【0130】
MPDL-3280A(アテゾリズマブ)もPD-L1を標的にするモノクローナル抗体である。MPDL-3280Aは、自身のNSCLCがPD-L1を発現し、かつ標準治療の間または後に進行した人々の治療のために、米国食品医薬品局(FDA)から画期的治療法指定(Breakthrough Therapy Designation)を受けた治療である。
【0131】
AMP-224は、PD-L2/PD-1相互作用を遮断する可能性を有する第2のPD-1リガンド、PD-L2およびIgG1の細胞外ドメインの融合タンパク質である。AMP-224は現在、進行癌を有する対象における単剤療法として第I相試験の段階にある。
【0132】
MEDI-4736は、この用量漸増研究において許容される安全性プロファイルおよび持続的臨床活性を実証した抗PD-L1抗体である。多発性癌の増殖および単剤療法および組み合わせとしてのMEDI-4736の開発が現在行われている。
【0133】
従って特定の実施形態では、PD-1遮断薬としては、ニボルマブ(MDX-1106、BMS-936558、ONO-4538)(PD-1に結合してそのリガンドPD-L1およびPD-L2によるPD-1の活性化を遮断する完全ヒトIgG4抗体)などの抗PD-1抗体および同様の結合タンパク質、ペンブロリズマブ/ランブロリズマブ(MK-3475またはSCH-900475)(PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体)、CT-011(PD-1に結合するヒト化抗体)、AMP-224(B7-DCの融合タンパク質)、抗体Fc部分、PD-L1(B7-H1)遮断のためのBMS-936559(MDX-1105-01)が挙げられる。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、IMP321などのリンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)阻害剤、可溶性Ig融合タンパク質(Brignoneら,2007,J.Immunol.179:4202-4211)が挙げられる。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、B7-H3およびB7-H4阻害剤などのB7阻害剤が挙げられる。特に抗B7-H3抗体MGA271(Looら.,2012,Clin.Cancer Res.7月15日(18)3834)。TIM3(T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3)阻害剤も含まれる(Fourcadeら,2010,J.Exp.Med.207:2175-86およびSakuishiら,2010,J.Exp.Med.207:2187-94)。
【0134】
併用療法-抗癌剤と組み合わせたナノ生物学的組成物の送達
抗癌剤の例としては、限定されるものではないが、アシビシン、アクラルビシン、アコダゾール塩酸塩、アクロニン、アドゼレシン、アルデスロイキン、アルトレタミン、アンボマイシン、酢酸アメタントロン、アムサクリン、アナストロゾール、アントラマイシン、アスパラギナーゼ、アスペルリン、アザシチジン、アゼテパ、アゾトマイシン、バチマスタット、ベンゾデパ、ビカルタミド、ビサントレン塩酸塩、ジメシル酸ビスナフィド(bisnafide dimesylate)、ビゼレシン、硫酸ブレオマイシン、ブレキナルナトリウム、ブロピリミン、ブスルファン、カクチノマイシン、カルステロン、カラセミド、カルベチマー、カルボプラチン、カルムスチン、カルビシン塩酸塩、カルゼレシン、セデフィンゴール、セレコキシブ(COX-2阻害剤)、クロラムブシル、シロレマイシン、シスプラチン、クラドリビン、メシル酸クリスナトール、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン塩酸塩、デシタビン、デキソルマプラチン、デザグアニン、メシル酸デザグアニン、ジアジコン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ドキソルビシン塩酸塩、ドロロキシフェン、クエン酸ドロロキシフェン、プロピオン酸ドロモスタノロン、デュアゾマイシン、エダトレキサート、エフロミチン塩酸塩(eflomithine hydrochloride)、エルサミトルシン、エンロプラチン、エンプロメート、エピプロピジン、エピルビシン塩酸塩、エルブロゾール、エソルビシン塩酸塩(esorubicin hydrochloride)、エストラムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、エタニダゾール、エトポシド、リン酸エトポシド、エトプリン、塩酸ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、フルオロウラシル、フルロシタビン、ホスキドン、フォストリエシンナトリウム、ゲムシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、ヒドロキシ尿素、イダルビシン塩酸塩、イホスファミド、イルモホシン、イプロプラチン、イリノテカン、イリノテカン塩酸塩、酢酸ランレオチド、レトロゾール、酢酸ロイプロリド、リアロゾール塩酸塩、ロメトレキソールナトリウム、ロムスチン、ロソキサントロン塩酸塩、マソプロコール、マイタンシン、メクロレタミン塩酸塩、酢酸メゲストロール、酢酸メレンゲストロール、メルファラン、メノガリル、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトトレキサートナトリウム、メトプリン、メツレデパ、ミチンドミド、ミトカルシン、ミトクロミン(mitocromin)、ミトギリン、ミトマルシン、マイトマイシン、ミトスペル(mitosper)、ミトタン、ミトキサントロン塩酸塩、ミコフェノール酸、ノコダゾール、ノガラマイシン、オルマプラチン、オキシスラン、パクリタキセル、ペガスパルガーゼ、ペリオマイシン(peliomycin)、ペンタムスチン(pentamustine)、硫酸ペプロマイシン、ペルホスファミド(perfosfamide)、ピポブロマン、ピポスルファン、ピロキサントロン塩酸塩、プリカマイシン、プロメスタン、ポルフィマーナトリウム、ポルフィロマイシン、プレドニムスチン、プロカルバジン塩酸塩、ピューロマイシン、ピューロマイシン塩酸塩、ピラゾフリン、リボプリン、サフィンゴール、サフィンゴール塩酸塩、セムスチン、シムトラゼン、スパルフォセートナトリウム、スパルソマイシン、スピロゲルマニウム塩酸塩、スピロムスチン、スピロプラチン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、スロフェヌル、タリソマイシン、テコガランナトリウム、タキソテール、テガフール、テロキサントロン塩酸塩、テモポルフィン、テニポシド、テロキシロン、テストラクトン、チアミプリン、チオグアニン、チオテパ、チアゾフリン、チラパザミン、クエン酸トレミフェン、酢酸トレストロン、リン酸トリシリビン、トリメトレキサート、グルクロン酸トリメトレキサート、トリプトレリン、ツブロゾール塩酸塩、ウラシルマスタード、ウレデパ、バプレオチド、ベルテポルフィン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ビンデシン、硫酸ビンデシン、硫酸ビネピジン、硫酸ビングリシネート、硫酸ビンロイロシン、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンロシジン、硫酸ビンゾリジン、ボロゾール、ゼニプラチン、ジノスタチンおよびゾルビシン塩酸塩が挙げられる。
【0135】
他の抗癌剤としては、限定されるものではないが、20-epi-1,25ジヒドロキシビタミンD3、5-エチニルウラシル、アビラテロン、アクラルビシン、アシルフルベン、アデシペノール、アドゼレシン、アルデスロイキン、ALL-TKアンタゴニスト、アルトレタミン、アンバムスチン、アミドックス、アミホスチン、アミノレブリン酸、アムルビシン、アムサクリン、アナグレリド、アナストロゾール、アンドログラホリド、血管新生阻害剤、アンタゴニストD、アンタゴニストG、アンタレリクス、抗背側化(anti-dorsalizing)形態形成タンパク質-1、抗アンドロゲン薬(前立腺癌治療薬)、抗エストロゲン薬、抗新生物薬、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アフィジコリングリシネート、アポトーシス遺伝子調節剤、アポトーシス調節剤、アプリン酸、ara-CDP-DL-PTBA、アルギニンデアミナーゼ、アスラクリン、アタメスタン、アトリムスチン、アキシナスタチン1、アキシナスタチン2、アキシナスタチン3、アザセトロン、アザトキシン、アザチロシン、バッカチンIII誘導体、バラノール、バチマスタット、BCR/ABLアンタゴニスト、ベンゾクロリン、ベンゾイルスタウロスポリン、βラクタム誘導体、βアレチン、βクラマイシン(betaclamycin)B、ベツリン酸、bFGF阻害剤、ビカルタミド、ビサントレン、ビスアジリジニルスペルミン、ビスナフィド、ビストラテンA、ビゼレシン、ブレフラート、ブロピリミン、ブドチタン、ブチオニンスルホキシミン、カルシポトリオール、カルホスチンC、カンプトテシン誘導体、カペシタビン、カルボキサミド-アミノ-トリアゾール、カルボキシアミドトリアゾール、CaRest M3、CARN 700、軟骨由来阻害剤、カルゼレシン、カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS)、カスタノスペルミン、セクロピンB、セトロレリクス、クロリン(chlorln)、クロロキノキサリンスルホンアミド、シカプロスト、シス-ポルフィリン、クラドリビン、クロミフェン類似体、クロトリマゾール、コリスマイシンA、コリスマイシンB、コンブレタスタチンA4、コンブレタスタチン類似体、コナゲニン、クラムベシジン816、クリスナトール、クリプトフィシン8、クリプトフィシンA誘導体、クラシンA、シクロペンタントラキノン、シクロプラタム、シペマイシン、シタラビンオクホスファート、細胞溶解因子、シトスタチン、ダクリキシマブ、デシタビン、デヒドロジデムニンB、デスロレリン、デキサメタゾン、デキシホスファミド、デクスラゾキサン、デクスベラパミル、ジアジコン、ジデムニンB、ジドックス、ジエチルノルスペルミン、ジヒドロ-5-アザシチジン、9-ジヒドロタキソール、ジオキサマイシン、ジフェニルスピロムスチン、ドセタキセル、ドコサノール、ドラセトロン、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、ドロロキシフェン、ドロナビノール、デュオカルマイシンSA、エブセレン、エコムスチン、エデルホシン、エドレコロマブ、エフロミチン、エレメン、エミテフル、エピルビシン、エプリステリド、エストラムスチン類似体、エストロゲンアゴニスト、エストロゲンアンタゴニスト、エタニダゾール、リン酸エトポシド、エキセメスタン、ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フィルグラスチム、フィナステリド、フラボピリドール、フレゼラスチン、フルアステロン、フルダラビン、フルオロダウノルニシン塩酸塩、ホルフェニメクス、フォルメスタン、フォストリエシン、フォテムスチン、ガドリニウムテキサフィリン(gadolinium texaphyrin)、硝酸ガリウム、ガロシタビン、ガニレリクス、ゼラチナーゼ阻害剤、ゲムシタビン、グルタチオン阻害剤、ヘプスルファム、ヘレグリン、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ヒペリシン、イバンドロン酸、イダルビシン、イドキシフェン、イドラマントン、イルモホシン、イロマスタット、イマチニブ(例えば、グリーベック(登録商標))、イミキモド、免疫刺激ペプチド、インスリン様増殖因子-1受容体阻害剤、インターフェロンアゴニスト、インターフェロン、インターロイキン、イオベングアン、ヨードドキソルビシン、4-イポメアノール、イロプラクト、イルソグラジン、イソベンガゾール、イソホモハリコンドリンB、イタセトロン、ジャスプラキノリド、カハラリドF、ラメラリン-Nトリアセテート、ランレオチド、レイナマイシン、レノグラスチム、硫酸レンチナン、レプトルスタチン、レトロゾール、白血病抑制因子、白血球αインターフェロン、ロイプロリド+エストロゲン+プロゲステロン、リュープロレリン、レバミゾール、リアロゾール、直鎖状ポリアミン類似体、親油性二糖ペプチド、親油性白金化合物、リソクリナミド7、ロバプラチン、ロンブリシン、ロメトレキソール、ロニダミン、ロソキサントロン、ロキソリビン、ルルトテカン、ルテチウムテキサフィリン、リソフィリン、溶解性ペプチド、マイタンシン、マンノスタチンA、マリマスタット、マソプロコール、マスピン、マトリリシン阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、メノガリル、メルバロン、メテレリン、メチオニナーゼ、メトクロプラミド、MIF阻害剤、ミフェプリストン、ミルテホシン、ミリモスチム、ミトグアゾン、ミトラクトール、マイトマイシン類似体、ミトナフィド、マイトトキシン線維芽細胞増殖因子-サポリン、ミトキサントロン、モファロテン、モルグラモスチム、アービタックス、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、モノホスホリルリピドA+ミオバクテリウム細胞壁sk、モピダモール、マスタード抗癌剤、ミカペルオキシドB、ミオバクテリウム細胞壁抽出物、ミリアポロン、N-アセチルジナリン、N-置換ベンズアミド、ナファレリン、ナグレスチップ、ナロキソン+ペンタゾシン、ナパビン、ナフテルピン、ナルトグラスチム、ネダプラチン、ネモルビシン、ネリドロン酸、ニルタミド、ニサマイシン、一酸化窒素調節剤、窒素酸化物抗酸化剤、ニトルリン、オブリメルセン(ゲナセンス(Genasense)(登録商標))、06-ベンジルグアニン、オクトレオチド、オキセノン、オリゴヌクレオチド、オナプリストン、オンダンセトロン、オンダンセトロン、オラシン、経口サイトカイン誘導物質、オルマプラチン、オサテロン、オキサリプラチン、オキサウノマイシン、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、パクリタキセル誘導体、パラウアミン、パルミトイルリゾキシン、パミドロン酸、パナキシトリオール、パノミフェン、パラバクチン、パゼリプチン、ペガスパルガーゼ、ペルデシン、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、ペントスタチン、ペントロゾール、ペルフルブロン、ペルホスファミド、ペリリルアルコール、フェナジノマイシン、酢酸フェニル、ホスファターゼ阻害剤、ピシバニール、ピロカルピン塩酸塩、ピラルビシン、ピリトレキシム、プラセチンA、プラセチンB、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、白金錯体、白金化合物、白金-トリアミン錯体、ポルフィマーナトリウム、ポルフィロマイシン、プレドニゾン、プロピルビス-アクリドン、プロスタグランジンJ2、プロテアソーム阻害剤、タンパク質Aベースの免疫調節剤、タンパク質キナーゼC阻害剤、タンパク質キナーゼC阻害剤(微細藻類)、タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤、プルプリン、ピラゾロアクリジン、ピリドキシル化ヘモグロビンポリオキシエチレン結合体、rafアンタゴニスト、ラルチトレキセド、ラモセトロン、rasファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、ras阻害剤、ras-GAP阻害剤、脱メチル化レテリプチン、レニウムRe186エチドロネート、リゾキシン、リボザイム、RIIレチナミド、ロヒツキン、ロムルチド、ロキニメックス、ルビギノンB1、ルボキシル、サフィンゴール、サイントピン、SarCNU、サルコフィトールA、サルグラモスチム、Sdi1模倣体、セムスチン、老化由来阻害剤1、センスオリゴヌクレオチド、シグナル伝達阻害剤、シゾフィラン、ソブゾキサン、ナトリウムボロカプテイト(sodium borocaptate)、フェニル酢酸ナトリウム、ソルベロール、ソマトメジン結合タンパク質、ソネルミン、スパルホス酸、スピカマイシンD、スピロムスチン、スプレノペンチン、スポンギスタチン1、スクアラミン、スチピアミド、ストロメライシン阻害剤、スルフィノシン、超活性血管作動性腸管ペプチドアンタゴニスト、スラジスタ、スラミン、スワインソニン、タリムスチン、タモキシフェンメチオジド、タウロムスチン、タザロテン、テコガランナトリウム、テガフール、テルラピリリウム、テロメラーゼ阻害剤、テモポルフィン、テニポシド、テトラクロロデカオキシド、テトラゾミン、タリブラスチン、チオコラリン、トロンボポエチン、トロンボポエチンミメティクス、チマルファシン、チモポエチン(thymopoietin)受容体アゴニスト、チモトリナン、甲状腺刺激ホルモン、スズエチルエチオプルプリン、チラパザミン、二塩化チタノセン、トプセンチン、トレミフェン、翻訳阻害剤、トレチノイン、トリアセチルウリジン、トリシリビン、トリメトレキサート、トリプトレリン、トロピセトロン、ツロステリド、チロシンキナーゼ阻害剤、チルホスチン、UBC阻害剤、ウベニメクス、尿生殖洞由来増殖阻害因子、ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト、バプレオチド、バリオリンB、ベラレソール、ベラミン、ベルジン、ベルテポルフィン、ビノレルビン、ビンキサルチン、ビタキシン、ボロゾール、ザノテロン、ゼニプラチン、ジラスコルブおよびジノスタチンスチマラマーが挙げられる。
【0136】
小分子二次薬剤
本発明のナノ生物学的組成物との併用療法で使用することができる小分子薬物としては、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、アドリアマイシン、アザチオプリン、Biaxin、ビスホスホネート、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、セレコキシブ、クロロキン、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビン、d-ペニシラミン、ダカルバジン、ダウノルビシン、デキサメタゾン、ジフルニサル、ドセタキセル、ドキソルビシン、リン酸エストラムスチンナトリウム、エトポシド、エトリコキシブ、フェノプロフェン、フルダラビン、フルフェナミン酸、フルオロウラシル、フルルビプロフェン、ガンシクロビル、ゲムシタビン、ギリアデル、GM-CSF、ヒドロキシクロロキンイブプロフェン、IL-2、インドメタシン、インターフェロンα、イリノテカン、ケトプロフェン、レフルノミド、ロイコボリン、ルミラコキシブ、メクロフェナメート、メフェナム酸、メルファラン、メチルプレドニソロン、メトトレキサート、ナプロキセン、ニメスリド、オブリメルセン、オキサプロジン、パシリタキセル(pacilitaxel)、パルミトロネート(palmitronate)、パレコキシブ、ペグ化インターフェロンα、フェニルブタゾン、ピロキシカム、プレドニゾン、プレドニソロン、プロカルバジン、レミケード、ロフェコキシブ、ステロイド、スルファサラジン、スリンダク、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、テモダール、テモゾロミド、テノキシカム、チオテパ、トポテカン、バルデコキシブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビンおよびゾレドロン酸が挙げられる。
【0137】
投薬
投薬は一般に、1日当たり5μg~100mg/kgレシピエント(哺乳類)体重、より通常では1日当たり5μg~10mg/kg体重の範囲である。この量は1日当たり単回投与で、あるいはより通常では総1日用量が同じになるような1日当たりある回数(例えば2回、3回、4回、5回または6回)のサブ用量で投与してもよい。その塩または溶媒和物の有効量は、促進物質を含むナノ生物学的組成物の化合物の有効量の割合として決定することができ、ここでは促進物質あるいはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、多形、互変異性体またはプロドラッグはナノスケール集合体を用いたナノ生物学的組成物(IMPEPi-NA)として製剤化される。
【0138】

本明細書で使用される「癌」という用語は、限定されるものではないが、固形腫瘍および血液由来腫瘍を含む。「癌」という用語は、皮膚組織、臓器、血液および血管の疾患、例えば限定されるものではないが、膀胱、血管、骨、脳、乳房、頸部、胸部、結腸、子宮内膜、食道、眼、頭部、腎臓、肝臓、リンパ節、肺、口、首、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、精巣、喉、甲状腺、尿路上皮および子宮の癌を指す。
【0139】
具体的な癌としては、限定されるものではないが、進行性悪性腫瘍、アミロイドーシス、神経芽細胞腫、髄膜腫、血管外皮腫、多発性脳転移、多形性膠芽腫、膠芽腫、脳幹神経膠腫、予後不良悪性脳腫瘍、悪性神経膠腫、再発性悪性神経膠腫、未分化星状細胞腫、未分化乏突起神経膠腫、神経内分泌腫瘍、直腸腺癌、デュークスCおよびDの結腸直腸癌、切除不能結腸直腸癌、転移性肝細胞癌、カポジ肉腫、核型急性骨髄芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、皮膚B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、低悪性度の濾胞性リンパ腫、悪性黒色腫、悪性中皮腫、悪性胸水中皮腫症候群、腹膜癌、乳頭状漿液性腺癌、婦人科肉腫、軟部組織肉腫、強皮症、皮膚血管炎、ランゲルハンス細胞組織球症、平滑筋肉腫、進行性骨化性線維異形成症、ホルモン不応性前立腺癌、切除ハイリスク軟部組織肉腫、切除不能肝細胞癌、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、くすぶり型骨髄腫、無痛性骨髄腫、卵管癌、アンドロゲン非依存性前立腺癌、アンドロゲン依存性ステージIV非転移性前立腺癌、ホルモン非感受性前立腺癌、化学療法非感受性前立腺癌、甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、甲状腺髄様癌および平滑筋腫が挙げられる。具体的な実施形態では、癌は転移性である。別の実施形態では、癌は難治性であるか化学療法または放射線に抵抗性であり、特にサリドマイドに対して提供性である。
【0140】
一般的な製薬の定義
本明細書で使用される「予防的に有効な」量は、物質が投与されるべき対象における所与の病状の発症を防止するか遅らせるのに有効な物質の量である。予防的に有効な量とは、所望の予防的結果を達成するのに必要な投与量および期間での有効量を指す。典型的には、対象において疾患の前または初期段階で予防的用量が使用されるため、予防的有効量は治療的有効量よりも少なくなる。
【0141】
本明細書で使用される「治療的に有効な」量は、物質が投与されるべき症状また所与の病状に苦しんでいる対象におけるそれらの原因を治療、寛解または軽減するのに有効な物質の量である。
【0142】
一実施形態では、治療的もしくは予防的に有効な量は、1回の投与当たり約1mgの薬剤/kg対象~約1gの薬剤/kg対象である。別の実施形態では、治療的もしくは予防的に有効な量は、約10mgの薬剤/kg対象~500mgの薬剤/対象である。さらなる実施形態では、治療的もしくは予防的に有効な量は約50mgの薬剤/kg対象~200mgの薬剤/kg対象である。さらなる実施形態では、治療的もしくは予防的に有効な量は約100mgの薬剤/kg対象である。なおさらなる実施形態では、治療的もしくは予防的に有効な量は、50mgの薬剤/kg対象、100mgの薬剤/kg対象、150mgの薬剤/kg対象、200mgの薬剤/kg対象、250mgの薬剤/kg対象、300mgの薬剤/kg対象、400mgの薬剤/kg対象および500mgの薬剤/kg対象から選択される。
【0143】
本発明の医薬組成物は、例えば経口(口腔内または舌下を含む)、吸入、経鼻、経眼または非経口(静脈内および筋肉内)経路による任意の適当な経路による投与のために構成されていてもよい。そのような組成物は薬学の技術分野で知られている任意の方法によって、例えば有効成分を担体または賦形剤と会合させることによって調製してもよい。非経口剤形が好ましい。
【0144】
非経口剤形は、限定されるものではないが、皮下、静脈内(ボーラス注射を含む)、筋肉内および動脈内などの各種経路によって患者に投与することができる。それらの投与は典型的に汚染物質に対する患者の自然防御を迂回するので、非経口剤形は好ましくは無菌であるか患者への投与前に滅菌することができる。非経口剤形の例としては、限定されるものではないが、注射できる状態の溶液、注射のために薬学的に許容される媒体に溶解または懸濁できる状態の乾燥製品、注射できる状態の懸濁液および乳濁液が挙げられる。
【0145】
本発明の非経口剤形を提供するために使用することができる好適な媒体は当業者に周知である。例としては、限定されるものではないが注射用水USP、限定されるものではないが塩化ナトリウム注射、リンゲル液、デキストロース注射、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射および乳酸加リンゲル液などの水性媒体、限定されるものではないがエチルアルコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどの水混和性媒体、ならびに限定されるものではないが、トウモロコシ油、綿実油、落花生油、胡麻油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルおよび安息香酸ベンジルなどの非水性媒体が挙げられる。
【0146】
本明細書に開示されている有効成分のうちの1種以上の溶解性を高める化合物を本発明の非経口剤形に組み込むこともできる。例えば、シクロデキストリンおよびその誘導体を使用して本発明のナノスケール粒子およびその誘導体の溶解性を高めることができる。
【0147】
医薬組成物または剤形のpHを調節して1種以上の有効成分の送達を向上させてもよい。同様に溶媒担体の極性、そのイオン強度または張度を調節して送達を向上させることができる。送達を向上させるために、ステアリン酸などの化合物を医薬組成物または剤形に添加して有利には1種以上の有効成分の親水性または親油性を変えることができる。この点に関しては、ステアリン酸は製剤のための脂質媒体として、乳化剤または界面活性剤として、および送達促進もしくは浸透促進剤として機能することができる。有効成分の異なる塩、水和物または溶媒和物を使用して得られる組成物の特性をさらに調節することができる。
【0148】
体内への薬物の蓄積のPETイメージングのための放射標識
本発明の非限定的な好ましい実施形態では、放射性医薬品組成物と、訓練免疫によって影響を受ける患者の骨髄、血液および/または脾臓内へのナノ生物学的組成物の蓄積を放射性医薬品イメージングする方法であって、
(i)前記患者に応答性亢進自然免疫応答を促進するのに有効な量でナノ生物学的組成物を投与する工程であって、
本ナノ生物学的組成物は、(i)ナノスケール集合体を含み、かつ(ii)ナノスケール集合体に組み込まれた促進薬および(iii)ナノスケール集合体に組み込まれたポジトロン断層法(PET)造影剤を有し、
ナノスケール集合体は、(a)リン脂質および(b)apoA-IまたはapoA-Iのペプチドミメティクス、および任意に(c)1種以上のトリグリセリド、脂肪酸エステル、疎水性ポリマーまたはステロールエステルあるいはそれらの組み合わせを含む疎水性マトリックス、および任意に(d)コレステロールを含む多成分担体組成物であり、
当該促進薬は、病原体認識受容体デクチン-1またはNOD2を活性化させるかそれに結合して骨髄、血液および脾臓中の骨髄性細胞およびそれらの幹細胞および前駆細胞において訓練免疫を誘導する分子構造であり、デクチン-1を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、β-グルカンおよび11~13グルコ-オリゴマーなどのその誘導体が挙げられ、NOD2を活性化させるかそれに結合する分子構造としては、限定されるものではないが、ペプチドグリカンならびにムラミルジペプチドおよびムラミルトリペプチドなどのその誘導体が挙げられ、
PET造影剤は89Zr、124I、64Cu、18Fおよび86Yから選択され、PET造影剤は安定な薬物-造影剤キレートを形成するために好適なキレート剤を用いてナノ生物学的組成物に錯体化されており、
前記ナノ生物学的組成物は水性環境において自己集合して約8nm~400nmの直径サイズを有するナノディスクまたはナノスフェアになり、
ナノスケール集合体は安定な薬物-造影剤キレートを患者の骨髄、血液および/または脾臓中の骨髄性細胞、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞に送達する工程と、
(ii)患者の体の骨髄、血液および/または脾臓内での安定な薬物-造影剤キレートの体内分布を可視化するために患者のPETイメージングを行う工程と
を含む方法とが提供される。
【0149】
非限定的な好ましい実施形態では、放射性医薬品イメージングする方法は、本ナノ生物学的組成物と同時または本ナノ生物学的組成物の後の指定された期間にわたって前記患者にチェックポイント阻害剤を投与し、それにより訓練免疫によって引き起こされる応答性亢進自然免疫応答を促進することによりチェックポイント阻害剤治療法の有効性を向上させるさらなる工程を含む。
【0150】
89Zrを用いる例示されているプロトコルが実施例5に記載されている。
【0151】
さらに、エクスビボ方法を使用して、ガンマ係数(gamma counting)またはオートラジオグラフィーを用いて89Zrで標識されたナノ粒子の組織取り込みを定量化してイメージング結果を確認してもよい。
【0152】
これは、オートラジオグラフィーに基づく組織学検査の新規な手法も提供し、これはオートラジオグラフィーで得られた放射活性堆積パターンを同じもしくは隣接する部分に対する組織学的および/または免疫組織化学的染色と比較することにより、目的の組織内でのナノ材料の局所分布の評価も可能にする。
【0153】
現在のところ、ナノ治療のインビボ挙動を評価するための最もよく使用される方法は蛍光染料に依存している。但し、これらの技術は自家蛍光、消光、FRET、および環境(例えばpHまたは溶媒極性)に対する蛍光体の高い感受性により定量的でない。ナノ粒子標識としての磁気共鳴イメージング造影剤の組み込みが試みられてきたが、ナノ粒子製剤の完全性を妥協する高いペイロードおよび投与を必要とする。核造影剤はこれらの欠点を有しておらず、89ZrはPETイメージングのために必要なそのポジトロンの排出ならびにその比較的長い物理的半減期(78.4時間)により特に適しており、これはゆっくり除去される物質の縦断的研究を可能にし、かつ近くのサイクロトロンの必要性をなくす。
【0154】
本明細書に記載されている手法は、89Zrを用いてナノ生物学的組成物を官能化するための優れた方法を提供する。DSPE-DFOは、DFOキレート剤を脂質の単相または二重層の中に固定するための安定な方法の代表である。また、DFOはナノ粒子プラットフォームの外側に存在するので、ナノ粒子を製剤化した後に標識することができる。これは放射線遮断条件下でそれらの製剤化を行う必要性をなくし、かつ用いる必要がある活性の量を減らす。最初にDSPE-DFOが組み込まれ、次いで89Zrが組み込まれる穏やかな条件は多種多様なナノ粒子の種類および製剤方法と適合可能である。
【0155】
製剤においてさらなる安定性が望まれる本発明のさらに別の好ましい実施形態では、本発明は、同じプロトコルに従って組み込むことができるC34-DFO、という名前の親油性DFO誘導体を使用する。
【0156】
本発明のなおさらなる非限定的な好ましい実施形態では、本発明は、最初に粒子を製剤化し、次いでタンパク質成分を市販されているp-NCS-Bz-DFOで官能化し、かつ最後に本発明らの一般的な手順を用いて89Zrを導入することによって調製された放射性標識したタンパク質でコーティングされたナノ粒子を含む。
【0157】
訓練免疫
図14は、エピジェネティック、細胞およびシステムレベルで訓練免疫を制御するプロセスの最新の概略図を示す。最初に同定された「トレーナー」としては、真菌のPAMPであるβ-グルカンおよび細菌のPAMPであるペプチドグリカン/BCGが挙げられる。訓練免疫をエピジェネティックに調節し、再刺激に対してより強い応答を生じさせる。骨髄系前駆細胞は刺激を受けて長期間にわたって「訓練された」骨髄性細胞を産生し、それにより持続的治療的介入のための強制的フレームワークを提供することができる。
【0158】
ヒト単球がカンジダ・アルビカンス(C.albicans)またはβ-グルカンのいずれかに曝露されるインビトロモデルにより、H3K4me1、H3K4meおよびH3K27Ac(図14、上)を含むエピジェネティックマークにおけるゲノム全体での変化が証明された。他の研究では、NOD2依存経路を介したとしても、BCGおよびペプチドグリカンがこれらの訓練免疫関連エピジェネティック修飾の誘導因子として同定された。これらのエピジェネティック修飾に加えて、細胞代謝経路は同時に上方制御される。実際に、これらの代謝性変化により特定のエピジェネティック酵素の機能を調節するための細胞の能力が高まる。β-グルカン訓練により、デクチン-1/Akt/mTOR/HIF-1α経路は細胞代謝を酸化的リン酸化から、基本呼吸数の減少、グルコース消費の増加およびより高い乳酸産生に関連している解糖に切り換える。
【0159】
これらのエピジェネティックおよび代謝性変化は、二次傷害に対する個々の骨髄性細胞の応答の増加を申し分なく表しているが、どのようにこの自然免疫記憶が長期間にわたって保存されるかはつい最近まで不明なままであった。単球はたった数日間の寿命であるが、訓練免疫の保護機能は患者においてより長く、最長数ヶ月間またはほぼ1年間保存される。最新の洞察により、システムレベルでは訓練免疫が特異的造血幹および前駆細胞(図14、下)においても誘導される機能的プログラムであることは明らかになっている。β-グルカンをマウスに投与すると、より多くの骨髄分化偏向性多能性前駆細胞(MPP)および骨髄中の長期造血幹細胞(LT-FlSC)が観察され得る。細胞周期遺伝子を含む各種細胞増殖関連経路、コレステロール生合成経路および解糖は上方制御され、かつこれらの増加はIL-1βおよび顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)依存性として同定された。これらの効果の寿命は最長1ヶ月間持続することが分かり、β-グルカンで訓練されたマウスからの造血幹細胞の移植により訓練されていないレシピエントに骨髄造血が導入された。BCGを投与した後に同様の観察がなされた。
【0160】
訓練免疫は骨髄分化偏向性前駆細胞の性質であるため、訓練免疫を標的とする長期治療効果を誘導するために骨髄系前駆細胞に蓄積するように設計されたナノ材料が図示されている。
【0161】
図15は、訓練免疫を示す細胞が細菌、真菌および代謝経路によって細胞レベルで調節され、サイトカイン分泌の根底にあるエピジェネティック修飾が得られることを示す図である。
【0162】
訓練免疫表現型をもたらす免疫学的シグナル伝達イベント
微生物リガンドによる訓練免疫の誘導は特異的受容体シグナル伝達経路によって促進され、それはその後に代謝、エピジェネティックおよび転写事象を活性化させる。現在同定されている最も重要な経路の概略が図に提供されている。
【0163】
デクチン-1依存性真菌経路
自然免疫細胞はβ-グルカンを認識した後に外来性病原体に対して非特異的免疫応答を惹起する。真菌の細胞壁に存在するβ-グルカンは、C型レクチン受容体デクチン-151を介してPAMPとしてマクロファージによって認識されるグルコースポリマーである。デクチン-1を介したマクロファージ活性化は、訓練免疫をもたらす特異的エピジェネティックマークを誘導する(図15、赤色の経路)。治療的介入のために利用することができるこの活性化経路は真菌感染に典型的なものであり、カンジダ・アルビカンスによる非致死的感染が一例である。序文で述べたように、カンジダ・アルビカンスは単球依存性訓練免疫により致死的カンジダ症からマウスを保護することが分かっている。
【0164】
NOD2依存性細菌経路
ペプチドグリカンはエンドトキシンと協力して炎症性サイトカイン放出を引き起こすPAMPである。全ての細菌に共通するペプチドグリカン最小生物活性モチーフはムラミルジペプチド(MDP)である。MDPによる自然免疫細胞活性化には細胞質PRRのヌクレオチド結合オリゴマー形成ドメイン2(NOD2)が関わる。NF-κBを介したNOD2活性化およびシグナル伝達はマクロファージのエピジェネティック再配線を刺激し、かつ訓練免疫19(図15、緑色の経路)を誘導する。この訓練免疫活性化経路はBCGワクチンなどの細菌感染を特徴とし、これにより炎症誘発性サイトカイン産生が生じる。BCGの非特異的保護効果は非侵襲的な膀胱癌のための免疫療法として利用されている。
【0165】
酸化された低密度リポタンパク質
脂質代謝は訓練免疫の誘導をもたらすことができる。酸化された低密度リポタンパク質(oxLDL)は細胞表面受容体CD36に結合するDAMPである。細胞質内に内部移行して放出されると、oxLDLはコレステロール結晶の形成をもたらすことができ、これによりNLRP3インフラマソームを活性化させる。最近のレポートでは、Ldlr-/-マウスによって洋風の食事の消費によるNRLP3活性化の重要な役割が強調され、oxLDL誘導訓練免疫とインフラマソームの活性化による心血管疾患との間の機構的な関連性が確立された。oxLDLは単球において長く続く炎症誘発性表現型を誘導し、かつアテローム性動脈硬化症を加速させるが、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤のメチルチオアデノシンはoxLDLによって誘導された訓練を完全に無効にした。
【0166】
訓練免疫の誘導中の代謝およびエピジェネティック再配線
訓練免疫の効果のうち、最も重要なプロセスの1つは自然免疫細胞の代謝を再配線することである。この再配線の重要な部分は、酸化的リン酸化から好気的解糖への代謝スイッチであり、これにより自然免疫細胞の活性化および炎症誘発性サイトカインの分泌が生じる。カンジダ・アルビカンスおよびβ-グルカンはAKT/mTOR/Hif-1α経路を介してこの特異的代謝プロセスを誘導する。またBCGワクチン接種は免疫代謝活性化およびエピジェネティックリモデリングを誘導し、これはサイトカイン産生(図15、紫色の経路)の増加を抑制するBCG訓練中に2-デオキシグルコース(2-DG)による解糖の阻害を伴う。律速解糖酵素の薬理学調節は、β-グルカンおよびBCG誘導訓練免疫の両方の根底にあるヒストンマークH3K4me3およびH3K9me3を妨害する。
【0167】
訓練された単球における別の重要な代謝事象は、クエン酸およびアセチルCoAからコレステロールおよびリン脂質を合成するというクレブス回路の同化作用リパーパシングである。コレステロール合成経路は、H3K4me3を下方制御し、かつ炎症誘発性サイトカイン産生および訓練免疫を防止するフラバスタチンによるコレステロール合成の制限によるβ-グルカン訓練後に上方制御される。訓練免疫が3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル-補酵素A(HMG-CoA)-還元酵素61の下流の酵素阻害剤によって防止されるため(図15、黄色の経路)、コレステロール代謝産物のメバロン酸を合成することはこのプロセスにおいて非常に重要である。2-DGにより解糖を阻害し、ラパマイシンによりmTOR経路を阻害し、かつメチルチオアデノシン(MTA、メチルトランスフェラーゼ阻害剤)によりヒストンメチル化を阻害することによりメバロン酸誘導訓練免疫を防止し、訓練されたマクロファージの分子、代謝およびエピジェネティック制御間の繊細なバランスを示す。
【0168】
クレブス回路はグルタミノリシスによって補充される。興味深いことに、これにより重要なエピジェネティック酵素ファミリーの補因子であるコハク酸、特にフマル酸が蓄積される。この点において、コハク酸はJMJD3を抑制し、特定の遺伝子(例えばM2表現型に関連するもの)のH3K27トリメチル化を生じさせる。但し、JMJD酵素発現は訓練された単球において異なっていなかった。対照的に、フマル酸はKDM5ヒストンデメチラーゼを阻害する。KDM5の発現および機能の両方が訓練された単球60において遮断/妨害されることが分かっている。KDM5はH3K4メチル化のデメチラーゼであるので、その抑制はオープンクロマチンのこの重要なマークの長期安定性を可能にし、従って遺伝子転写を促進する。
【0169】
訓練免疫の促進
BCGはNOD2依存性細菌経路を介して訓練免疫を誘導した。NOD2は、細菌細胞壁に不可欠な糖およびアミノ酸からなるポリマー構造であるペプチドグリカンによって活性化される細胞内PRRである。NOD2依存性免疫応答を誘導することができる最も小さい分子構造はムラミルジペプチド(MDP)である。MDPはN-アセチルムラミン酸およびL-アラニン-D-イソグルタミンジペプチドの短いアミノ酸鎖からなる合成のペプチド複合体である。
【0170】
あるいは、訓練免疫はデクチン-1経路を介して真菌病原体によって誘導させることができる。デクチン-1は、β-グルカンとして公知のβ1,3-結合グルコースまたはβ1,3-およびβ1,6-結合グルコースの両方に多く含まれる多糖によって活性化することができるC型レクチン膜貫通シグナル伝達受容体である。リポソーム製剤を含む他のデクチン-1を活性化させる多糖がPalmaおよび同僚によって広範囲に研究され、彼らは10または11merの最小長さを有する1,3-結合グルコースオリゴマーがデクチン-1結合に必要とされることを見い出した。従ってNOD2結合とは異なり、小分子リガンドはデクチン-1依存性訓練免疫誘導のために利用可能でない。
【0171】
PAMP関連機序に加えて、尿酸およびoxLDLなどの代謝性「トレーナー」がmTORシグナル伝達およびタンパク質キナーゼB(AKT)のリン酸化を介して訓練免疫を誘導することが分かった。これは尿酸それ自体を使用して訓練免疫を誘導できることを示している。oxLDLが訓練を誘導する正確な機序は調査の主題のままであるが、Christおよび同僚は、IL-1βの重要な役割を強調するNLRP3インフラマソームおよび下流IL-1Rシグナル伝達経路の重要性についての有力な証拠を得た。またoxLDLのコンテキストへの関心は、コレステロール合成中間体であるメバロン酸の最近発見された役割である。Bekkeringおよび同僚は、メバロン酸がIGF-l受容体(IGF-1R)およびmTORの活性化およびその後のヒストン修飾6lを介して訓練を誘導することを見い出した。従って6-フルオロメバロン酸によってさらに増強されるメバロン酸は、訓練免疫を誘導するために薬理学的に用いることができる。研究が進むにつれて、訓練免疫を促進する他の細菌および真菌誘導体ならびにウイルスPAMPを含む現在未知の経路および分子構造が恐らく同定されるであろう。
【0172】
図16はプロセスの概略図を示し、訓練免疫を阻害(緑色)または促進(赤色)する骨髄に特異的なナノ材料を用いて免疫系を刺激し、かつ心血管疾患およびその臨床的帰結、自己免疫不全から敗血症および感染症ならびに癌にまで及ぶ様々な病気を治療することができることを示す。
【0173】
ナノ粒子送達媒体はその目的とする標的に到達する薬物の割合を高め、かつ治療薬の毒性プロファイルを改善することができる。さらにナノ粒子送達媒体は、ヌクレオチド治療法に特に関連する薬物の細胞内移行を促進することができる。さらに、ナノ粒子は薬物が早まって代謝または分解されるのを保護することができる。
【0174】
図17は、免疫チェックポイント遮断療法に対する免疫系の感受性を刺激することを訓練免疫を促進することによって達成できるということを示す図である。
【0175】
例えば特定の腫瘍型について、チェックポイント遮断免疫療法が患者の一部のみに有益であることが益々明らかになっている。KEYNOTE-001127試験の統合分析により、後期黒色腫患者のおよそ34%が客観的応答を有し、当該患者の6%が完全な応答者であることが分かった。さらに前立腺および卵巣癌を含む様々な他の悪性腫瘍では、チェックポイント阻害剤による治療効果は非常に低かった。
【0176】
患者からの末梢血に対する最近の研究では、高次元の単一細胞マスサイトメトリーおよびバイオインフォマティクスパイプラインを用いて、古典的に活性化された単球の頻度が治療応答を予測することを明らかにした。さらに高レベルの免疫抑制骨髄性細胞により、チェックポイント遮断免疫療法に応答するためのT細胞機能の障害および不全が生じる。本発明者らは、訓練免疫促進療法は全身および腫瘍に蓄積された古典的に活性化された単球を促進し、それにより図17に概説されているようにチェックポイント阻害剤に対する感受性を高めることができると予測する。
【実施例
【0177】
以下の実施例は本開示の実施形態を実証するために含められている。以下の実施例は例示としてのみ提供され、かつ当業者が本開示を使用するのを支援するため提供されている。本実施例は決してそれ以外に本開示の範囲を限定するものではない。当業者は、本開示を考慮して、開示されている具体的な実施形態において多くの変形が可能であり、かつ本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果をなお得ることができることを理解すべきである。
【0178】
実施例1-マイクロフルイダイザー集合体1
本実施例は、当該刺激物質濃度がナノスケール集合体/乳濁液中に4~8mg/mLであり、かつ当該製剤が300mLのスケールで調製される、刺激物質およびナノスケール集合体を含む医薬組成物の調製を実証する。刺激物質(2400mg)を12mLのクロロホルム/t-ブタノールに溶解する。次いでこの溶液を、POPC/PHPCリン脂質の混合物、apoA-I、トリカプリリンおよびコレステロールを含む288mLのナノスケール集合体溶液(3%w/v)の中に添加する。この混合物を粗製乳濁液を形成するために10,000~15,000rpmで5分間均質化し(VitrisホモジナイザーモデルTempest I.Q.)、次いで高圧ホモジナイザーの中に移す。この乳化は乳濁液を再循環させながら20,000psiで行う。得られた系をRotavapの中に移し、40℃および減圧(25mmのHg)で溶媒を素早く除去する。得られる分散系は透明である。この分散系を複数のフィルタで連続的に濾過する。濾過される製剤のサイズは8~400nmである。
【0179】
実施例2-マイクロフルイダイザー集合体2
本実施例は、刺激物質濃度がナノスケール集合体/乳濁液中に4~8mg/mLであり、かつ当該製剤が300mLのスケールで調製される、刺激物質およびナノスケール集合体を含む医薬組成物の調製を実証する。刺激物質(2400mg)を12mLのクロロホルム/t-ブタノールに溶解する。次いでこの溶液を、POPC/PHPCリン脂質の混合物、apoA-Iのペプチドミメティクス、C16~C20トリグリセリドの混合物、コレステロールと1種以上のステロールエステルとの混合物、および疎水性ポリマーを含む288mLのナノスケール集合体溶液(3%w/v)の中に添加する。この混合物を粗製乳濁液を形成するために10,000~15,000rpmで5分間均質化し(VitrisホモジナイザーモデルTempest I.Q.)、次いで高圧ホモジナイザーの中に移す。この乳化は乳濁液を再循環させながら20,000psiで行う。
【0180】
得られた系をRotavapの中に移し、40℃および減圧(25mmのHg)で溶媒を素早く除去する。得られる分散系は透明である。この分散系を複数のフィルタで連続的に濾過する。この濾過される製剤のサイズは35~100nmである。
【0181】
実施例3-実施例1および2のナノ生物学的組成物の凍結乾燥
ナノ生物学的組成物を上記実施例のいずれかと同様に形成する。分散系をさらに60時間凍結乾燥する(FTS Systems社,Dura-Dry μP,ニューヨーク州ストーンリッジ)。得られる凍結乾燥ケーキは滅菌水または0.9%(w/v)無菌生理食塩水の添加により元の分散系に容易に再構成可能である。再構成後の粒径は凍結乾燥前と同じである。
【0182】
実施例4-単独またはチェックポイント阻害剤と組み合わせたナノ生物学的組成物治療は腫瘍サイズを減少させ、かつ訓練免疫を高めるのに有効であった
MTP-HDLナノ生物学的組成物を、本明細書に記載されているようにリン脂質DMPC、コレステロールおよびムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(MTP-DSPE)から製剤化した。
【0183】
単球をそれぞれの「訓練」薬剤(β-グルカン、MDPまたはMTP-HDL)に24時間曝露し、次いで放置し、かつLPSで再刺激するインビトロアッセイでは、IL-6およびTNF-α分泌の増加から認識されるように、MTP-HDLがインビトロでヒト単球において訓練免疫を誘導することが分かった(図1)。インビボでPET-CTを用いて89Zrで標識されたMTP-HDLナノ生物学的組成物のインビボ挙動を定量的かつ非侵襲的に研究した。骨髄に対する高い結合活性(図2)および造血幹細胞および骨髄系前駆細胞中のMTP-HDLの存在が観察された。
【0184】
異なるレジメン、すなわち低用量(0.375mg/kgMTP)および高用量(1.5mg/kgMTP)および非官能化HDL対照群において1回、2回または3回目の注射を行う用量応答研究を、B16F10黒色腫腫瘍を有するC57BL/6において行った。どんな有害作用も生じることなく用量およびレジメン依存性が観察された(図3)。図3に示すように、全ての用量のMTP-HDLが腫瘍体積を最も有効に減少させる2回または3回投与される1.5mg/kgのより高い投与量で腫瘍体積を減少させた。
【0185】
1.5mg/kg(MTP)で3回の静脈内MTP-HDL注射からなる最も有効なレジメンを一般的なC57BL/6マウスに施用した。最後のMTP-HDL注射後のいくつかの時点で、マウスを屠殺し、単球の数を定量化した。MTP-HDL治療の結果としての単球数の明らかな増加が観察された(図4)。
【0186】
別個のセットの実験では、一般的なC57BL/6マウスに1.5mg/kg(MTP)で3回の静脈内MTP-HDL注射を与え、その後に骨髄のFDG-PETイメージングに供した。FDGは糖類似体であるため、その取り込みは代謝活性に比例し、これはMTP-HDLで治療したマウスの骨髄においてより高いことが分かった(図5)。異なるチェックポイント遮断免疫療法と組み合わせたMTP-HDLを用いたインビボ治療研究を行った。治療群は、MTP-HDLによる訓練免疫の同時の誘導を伴うまたは伴わない200μgのチェックポイント阻害剤用量の抗CTLA-4(図6)、抗PD-1(図7)または両方の組み合わせ(図8および図9)からなっていた。チェックポイント阻害とMTP-HDL誘導訓練免疫との組み合わせにより、いくつかの対照と比較して著しく高まった抗腫瘍活性が得られた。
【0187】
血液、骨髄および脾臓中の細胞のフローサイトメトリー分析により、MDP-HDL単独が対照ならびに組み合わせ抗CTLA4および抗PD-1治療法よりも全ての組織において単球およびCD11b+細胞の両方を増加させるだけでなく、3つ全ての組み合わせが全ての組織において両種類の細胞を増加させるのに最も有効であることが分かった。図10図13を参照されたい。
【0188】
実施例5-訓練免疫促進薬の放射性医薬品標識
非限定的な例では、訓練免疫促進薬/分子の放射性医薬品標識は、各種キレート剤、主に3ヒドロキサメート基を介して89Zrとの安定なキレートを形成することができるデフェロキサミンB(DFO)により達成することができる。
【0189】
一般に、リン脂質をキレート剤化合物と結合させ、ナノ生物学的組成物を当該促進薬または分子と共に調製し、最後に放射性同位体をナノ生物学的組成物(既にキレート剤が結合されている)に錯体化させる。
【0190】
このプロトコルは、リン脂質DSPEとキレート剤DFO(p-NCS-Bz-DFO)のイソチオシアネート誘導体との反応、そのナノ生物学的組成物への製剤化、およびナノエマルジョンの生成、およびその後のこれらのナノ製剤の89Zrによる放射標識により得られるDSPE-DFOの合成を含む。
【0191】
放射性同位体89Zrはその3.3日の物理的崩壊半減期により選択され、これにより近くのサイクロトロンの必要性をなくし、かつ抗体などの身体からゆっくりと除去される薬剤の研究が可能になる。どちらも本明細書において実行可能なものとして企図されるが、89Zrの比較的低いポジトロンエネルギーにより124Iなどの他の同位体と比較してより高いイメージング解像度が可能になる。
【0192】
ナノ治療薬の89Zr標識により、患者におけるポジトロン断層法(PET)イメージングによるインビボ挙動の非侵襲的研究が可能になる。
【0193】
当該プロトコルは、
キレート剤デフェロキサミンB(DFO)をリン脂質DSPEに結合させて、それにより異なる脂質ナノ粒子プラットフォーム(約0.5wt%)に容易に組み込まれる親油性キレート剤(DSPE-DFO)を形成する工程と、
DSPE-DFOが組み込まれているナノスケール集合体製剤を調製する工程(超音波処理、高温滴下によるナノエマルジョンの生成、またはマイクロフルイディクスを使用する)と、
ナノ粒子をpH約7のPBS中30~40℃で89Zr-シュウ酸塩と30~60分間混合することによって、脂質ナノ粒子を含有するDSPE-DFOを89Zrで標識する工程と
を含む。
【0194】
さらに、精製および特性評価方法を使用して放射化学的に純粋な89Zrで標識された脂質ナノ粒子を得る。精製は典型的に遠心濾過またはPD-10脱塩カラムのいずれかを用いて行い、その後にサイズ排除ラジオHPLCを用いて評価する。典型的には、放射化学的収率は80%超であり、95%超の放射化学的純度が通常得られる。
【0195】
一般的なイメージング戦略を使用してPET/CTまたはPET/MRIによる89Zrで標識されたナノ生物学的組成物のインビボ挙動を研究する。
【0196】
図19は、ナノ生物学的組成物によって送達される放射性同位体を用いるPETイメージングを示し、かつマウス、ウサギ、サルおよびブタモデルの骨髄および脾臓におけるナノ生物学的組成物の蓄積を示す。
【0197】
実施例6-プロドラッグを含むナノ生物学的組成物の合成
材料および方法
全ての化学物質をSigma Aldrich社、Medchem Express社またはSelleckchem社から購入し、PESシリンジフィルターはCelltreat社から得た。World Precision Instruments社からのNE-1002Xモデルマイクロ流体ポンプをMicrofluidic-chipshop社からのZeonorヘリンボーンミキサー(#14-1038-0187-05)と組み合わせて使用した。100kDaのMWCOの20mL Vivaspin遠心フィルタを用いて粒子を精製した。透析袋はThermo Scientific社製であった。以前に公開された手順を用いて社内でApoA-Iタンパク質を精製した。ApoA-Iの分光学的定量化はブラッドフォード(Bradfort)アッセイを用いてBioTek Cytation 3イメージングプレートリーダー上で行った。DLSおよびゼータ電位測定はBrookhaven Instrument社製ZetaPals分析計で行い、数の分布の平均をとって粒子サイズを決定した。Bruker advance 600コンソールに接続されたBruker 600 Ultrashieldマグネットを用いてHおよび13C NMR試料を分析し、Topspinバージョン3.5 pl7を用いてデータを処理した。
【0198】
全ての薬物の定量的分析は、C18もしくはCNカラムのいずれかを備えられたShimadzu社製UFLC装置を用いてHPLC分析により行った。アセトニトリルおよび水を移動相として使用し、SPD-M20aダイオードアレイ検出器で化合物を検出した。
【0199】
約35nmのナノ生物学的組成物の合成
10mg/mlのクロロホルムストック溶液から、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC、250μL)、1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PHPC、65μL)、コレステロール(15μL)、トリカプリリン(1000μL)および薬物またはプロドラッグ(65μL)を20mlバイアル中で1つにまとめ、真空乾燥した。得られた膜をアセトニトリル:メタノール混合物(95%:5%、3mLの総体積)に再溶解した。別々に、ApoA-Iタンパク質のPBS(0.1mg/ml)溶液を調製した。マイクロ流体装備を用いて両方の溶液を同時に、脂質溶液のために0.75ml/分の流量およびApoA-I溶液のために6ml/分の流量でヘリンボーンミキサーの中に注入した。得られた溶液を100MWCOのVivaspinチューブを用いる4000rpmでの遠心濾過によって濃縮して5mLの体積を得た。PBS(5mL)を添加し、この溶液を5mLに濃縮し、再度PBS(5mL)を添加し、この溶液をおよそ3mLまで濃縮した。残りの溶液を0.22μmのPESシリンジフィルターで濾過して最終ナノ生物学的組成物の溶液を得た。FACS測定のためのナノ生物学的組成物を得るために、3,3’-ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩(DIO-C18、0.25mg)をアセトニトリル溶液に添加した。89Zr標識のためのナノ生物学的組成物を得るために、DSPE-DFO(50μg)をアセトニトリル溶液(社内で調製)に添加した。前記ナノ生物学的組成物の合成をスケールアップするために、十分な量が生成されるまで上記手順を単に繰り返した。
【0200】
本ナノ生物学的組成物の合成(約15nm)
15nmサイズのナノ粒子の合成のために、35nmサイズの粒子のための手順と同様のマイクロ流体手順を使用した。ここでのアセトニトリル混合物は、(この場合も10mg/mlのストック溶液からの)POPC(250μL)、PHPC(15μL)、コレステロール(13μL)および薬物またはプロドラッグ(65μL)を含有していた。アセトニトリル溶液を0.75mL/分の流量で注入した。ApoA-I溶液(0.1mg/mLのPBS溶液)を3mL/分で注入した。FACS測定のためのナノ生物学的組成物を得るために、DIO-C18(0.25mg)をアセトニトリル溶液に添加した。89Zr標識のためのナノ生物学的組成物を得るために、DSPE-DFO(50μg)をアセトニトリル溶液に添加した。
【0201】
本ナノ生物学的組成物の合成(約65nm)
65nmサイズのナノ粒子の合成のために、35nmサイズの粒子のための手順と同様のマイクロ流体手順を使用した。ここでのアセトニトリル混合物は、(この場合も10mg/mlのストック溶液からの)POPC(250μL)、コレステロール(12μL)、トリカプリリン(1400μL)および薬物またはプロドラッグ(65μL)を含有していた。アセトニトリル溶液を0.75mL/分の流量で注入した。ApoA-I溶液(0.1mg/mLのPBS溶液)を4mL/分で注入した。FACS測定のためのナノ生物学的組成物を得るために、DIO-C18(0.25mg)をアセトニトリル溶液に添加した。89Zr標識のためのナノ生物学的組成物を得るために、DSPE-DFO(50μg)をアセトニトリル溶液に添加した。
【0202】
本ナノ生物学的組成物の合成(約120nm)
120nmサイズのナノ粒子の合成のために、35nmサイズの粒子のための手順と同様のマイクロ流体手順を使用した。ここでのアセトニトリル混合物は、(この場合も10mg/mlのストック溶液からの)POPC(100μL)、コレステロール(10μL)、トリカプリリン(4000μL)および薬物またはプロドラッグ(65μL)を含有していた。アセトニトリル溶液を0.75mL/分の流量で注入した。ApoA-I溶液(0.1mg/mLのPBS溶液)を1.5mL/分で注入した。FACS測定のためのナノ生物学的組成物を得るために、DIO-C18(0.25mg)をアセトニトリル溶液に添加した。89Zr標識のためのナノ生物学的組成物を得るために、DSPE-DFO(50μg)をアセトニトリル溶液に添加した。
【0203】
4種類の異なるサイズのナノ粒子のサイズ安定性
一定分量(10μL)の最終粒子溶液をPBS(1mL)に溶解し、0.22μmのPESシリンジフィルターで濾過し、DLSによって分析して数平均サイズ分布の平均を決定した。粒子の合成直後ならびにその2日、4日、6日、8日、10日後に試料を分析した。
【0204】
本明細書中の実施形態ならびにその各種特徴および有利な詳細が添付の図面に図示され、かつ上記説明に詳述されている非限定的な実施形態を参照しながらより完全に説明されている。本明細書中の実施形態を不必要に曖昧にしないために、周知の成分および処理技術の説明は省略されている。本明細書で使用される実施例は単に、本明細書中の実施形態を実施することができる方法の理解を容易にし、かつさらに当業者が本明細書中の実施形態を実施するのを可能にするためのものである。従って当該実施例は本明細書中の実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0205】
むしろ、これらの実施形態は本開示が徹底的かつ完全になり、かつ当業者に本発明の範囲を完全に伝えるために提供されている。同様の符号は全体を通して同様の要素を指す。本明細書で使用される「および/または」という用語は、関連する列挙されている項目の1つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。
【0206】
本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態について記述するためのものであり、本発明の全範囲を限定するものではない。本明細書で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(前記)(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、複数形も含むことが意図されている。さらに、「~を含む(comprise)」および/または「~を含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用される場合、記載されている特徴、整数、工程、動作、要素および/または成分の存在を明記しているが、その1つ以上の他の特徴、整数、工程、動作、要素、成分および/またはグループの存在または追加を排除するものではないことが理解されるであろう。
【0207】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本開示におけるどんな言葉も本開示に記載されている実施形態が先願発明によりそのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきでない。本明細書で使用される「~を含む(comprising)」という用語は、「~を含むが、それ(ら)に限定されない」ことを意味する。
【0208】
当業者には明らかであるように、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多くの修正および変更を行うことができる。本明細書中に列挙されているものに加えて本開示の範囲内の機能上同等の方法および装置が上記説明から当業者に明らかであろう。そのような修正および変更は添付の特許請求の範囲の範囲に含まれることが意図されている。本開示は、そのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と共に添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定されるべきである。本開示は特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物系に限定されず、それらは当然ながら異なってもよいことを理解されたい。本明細書で使用される用語は特定の実施形態についてのみ記述するためのものであり、本発明を限定するものではないことも理解されたい。本明細書中の実質的にあらゆる複数および/または単数の用語に関して、当業者は文脈および/または用途にとって適当である場合には複数から単数および/または単数から複数に翻訳することができる。様々な単数/複数の順列は明確性のために本明細書に明示的に記載されている場合がある。
【0209】
一般に、本明細書および特に添付の特許請求の範囲(例えば添付の特許請求の範囲の本文)で使用されている用語は、一般に「非限定」用語として意図されていること(例えば、「~を含む(including)」は「~を含むが、それ(ら)に限定されない」と解釈されるべきであり、「~を有する(having)」という用語は「少なくとも~を有する」と解釈されるべきであり、「~を含む(include)」という用語は「~を含むが、それ(ら)に限定されない」と解釈されるべきであることなど)が当業者によって理解されるであろう。本明細書、特許請求の範囲または図面のいずれの中にあるかに関わらず、2つ以上の他の用語を示す実質的にあらゆる離接語および/または離接句はそれらの用語のうちの1つ、それらの用語のいずれかまたはそれらの用語の両方を含む可能性を企図しているように理解されるべきであることが当業者によってさらに理解されるであろう。例えば、「AまたはB」という語句は「A」または「B」あるいは「AおよびB」の可能性を含むように理解される。
【0210】
また、本開示の特徴または態様がマーカッシュ群の用語で記載されている場合、当業者であれば、本開示がそれによりマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関しても記載されていることを認識するであろう。
【0211】
当業者によって理解されるように、ありとあらゆる目的のために、例えば本明細書を提供することに関して、本明細書に開示されている全ての範囲はありとあらゆる可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせも包含する。あらゆるリスト化された範囲は、少なくとも等しい下位部分に分解される同じ範囲を十分に記述および可能にするものとして容易に認識することができる。当業者によって理解されるように、範囲は各個々のメンバーを含む。
【0212】
上に開示されている特徴および機能ならびに他の特徴および機能のいくつかまたはそれらの代替物を多くの他の異なるシステムまたは用途に向けて組み合わせてもよい。様々な現在のところ予見または予測されていないそれらの代替、修飾、変更または改良形態はその後に当業者によって考案することができ、それらのそれぞれも開示されている実施形態によって包含されることが意図されている。
【0213】
本明細書において本発明の実施形態について記載してきたが、上記教示を考慮して当業者によって修正および変更が可能であることに留意されたい。従って、開示されている本発明の特定の実施形態において添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲および趣旨に含まれる変形が可能であることを理解されたい。以上、特許法によって必要とされる細部および詳細と共に本発明について説明してきたが、特許請求されるもの、および特許証によって保護されることが望まれるものは添付の特許請求の範囲に記載されている。
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