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特許7330995暖炉インサート用ガラスセラミックプレート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】暖炉インサート用ガラスセラミックプレート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230815BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20230815BHJP
   F24C 15/10 20060101ALI20230815BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C03C17/34 Z
F24C15/10 B
H05B6/12 305
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020546365
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 FR2019050560
(87)【国際公開番号】W WO2019175506
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】1852203
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504374919
【氏名又は名称】ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】テオ ジェゴレル
(72)【発明者】
【氏名】クレマン シウタ
(72)【発明者】
【氏名】パブロ ビラト
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536246(JP,A)
【文献】特表2015-516354(JP,A)
【文献】特表2020-512966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
C03C 17/34
F24C 15/10
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、暖房器具、暖炉又は同等のタイプの器具に装備すること、及び/又は火炎バリアとしての役割を果たすことを意図されたプレートであって
少なくとも1つの面を以下の積層体でコーティングされた少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成されており
(1)5nm~50nmの範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
(2)100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物層、
(3)10nm~100nmの範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層
前記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれにおける酸素含有量が、1重量%未満であり、かつ
前記層(1)、層(2)及び層(3)の前記積層体を含む前記基材の前記コーティングは、前記基材と、前記層(1)、層(2)及び層(3)の前記積層体との間に、任意の他の層を含まない、
プレート
【請求項2】
層(1)と層(2)との間、及び層(2)と層(3)との間に酸化物層が存在しないこと、特に層(1)は層(2)と直接に接触していること、特に層(2)は層(3)と直接に接触していること、特に層(1)は3つの層のうちの基材に最も近い層であり、より好ましくは前記積層体は、前記プレートの外側に位置している、請求項1に記載のプレート。
【請求項3】
100nm未満の厚さの前記インジウムスズ酸化物層が、層(1)、層(2)、及び層(3)の前記積層体を含むコーティング全体又は全積層体中に存在する唯一のインジウムスズ酸化物層を構成している、請求項1又は2に記載のプレート。
【請求項4】
前記第1の層(1)の厚さは、10~45nmに含まれ、前記層(2)の厚さは、10~100nm未満に含まれ、前記第2の層(3)の厚さは、10~90nmに含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレート。
【請求項5】
前記金属窒化物層が、窒化ケイ素層である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレート。
【請求項6】
前記第2の金属窒化物層上に、酸化ケイ素系層が形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレート。
【請求項7】
前記積層体を含むコーティングが、厚さ10nm未満の酸化チタン層を外層としてさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレート。
【請求項8】
下記の層を下記の順番で、少なくとも1つのガラスセラミック基材の少なくとも1つの表面上に、マグネトロンスパッタリングによって連続的に堆積させる、少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプレートを製造する方法:
1. 5nm~50nmの範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
2. 100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物層、
3. 10nm~100nmの範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層。
【請求項9】
前記第1の金属窒化物層の堆積及び前記第2の金属窒化物層の堆積を、それぞれ、最大で3.5μbarの圧力下で、好ましくは2.4μbar~3μbarの範囲の圧力下で行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれの堆積中の雰囲気は、酸素が1体積%未満である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングされたガラス-セラミック基材を、熱又はレーザ処理、特に600℃を超える温度での数分間~数十分間の熱処理に供する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、暖房器具、暖炉、火炎バリア、又は同等のタイプの装置であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の少なくとも1つのプレートを含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックの分野に関する。より正確には、本発明は、高温にさらされる装置のためのガラス-セラミックプレート、特に煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、加熱器具、暖炉又は同等のタイプの器具に装備することを意図されたプレート、及び/又は火災(又は火炎)バリアとして働くことを意図されたプレートに関し、上記プレートは、上記器具の前面ガラスを一般的に構成し、上記プレートは、必要が生じた場合、湾曲又は屈曲させることができ、必要が生じた場合、その使用に必要な装飾的又は機能的な付属品又は追加の要素を提供することができる。また、本発明は、上記プレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミックは、元々、前駆体ガラス又はマザーガラス又はグリーンガラスとして知られるガラスであり、その特定の化学組成は、セラミック化として知られる適切な熱処理によって、制御された結晶化をもたらすことを可能にする。この特定の部分的に結晶化した構造は、ガラス-セラミックス特有の特性を与える。
【0003】
伝統的に、ガラスセラミックプレートは、調理台として使用されるが、他の用途、例えば煙突インサートを形成するために使用することもできる。
【0004】
インサート式器具内で作動中に暖炉を観察する楽しさを生かすために、一般に、窓又はガラス部分、特に器具の前面ファサードに取り付けられ、暖炉へのアクセスを可能にするドアに最もしばしば一体化され、この窓は、特に、ガラス又はガラスセラミックで作ることができ、これらの材料は、良好な温度抵抗及び低い熱膨張係数を有する。開放式の暖炉型設備では、これらの材料の1つから作られた火炎バリアによっても、同じ視野及び保護機能を提供することができる。
【0005】
これらのデバイス又はシステムを使用する場合、特にガラス部品は600℃までの温度に達する可能性がある。安全性及び加熱の最適化の理由のために、これらのガラス部品に、熱(すなわち、熱/赤外線放射)反射コーティングを提供することが知られており、これらのコーティングは、典型的には、数百ナノメートルの厚さを有する。ここで、このコーティングは、例えば、必要がある場合にはドープされ得る金属酸化物に基づくコーティングであり、酸化スズコーティング、特にドープ酸化スズ、又は酸化スズ及びインジウム(又はスズドープ酸化インジウム)などであってよい。
【0006】
上記ガラス部品にこのような赤外線放射反射コーティングを付加することは、上記部品上及び周囲で知覚可能な温度を低下させること、ユーザの快適性及び安全性を高めること、燃焼を改善及び最適化すること、空気中の微粒子の数を減少させること、熱分解効果による窓の汚れを減少させることなどの複数の利点を有する。
【0007】
しかしながら、これらのコーティングの大部分の欠点は、高い場合があるそれらのコストを超えて、大きな温度変動にさらされるという事実のために、それらの特性が時間の経過と共に劣化し得ることである。チムニーインサートの場合のように、高温で長時間加熱されると、通常、それらの反射効果が失われる。特に、250℃を超える温度で約100時間使用した後で、バリア又は保護として作用する別の層によって保護された場合でさえ、それらは、それらの反射特性/低い熱放射率特性を失う。
【0008】
また、これらのコーティングをガラスセラミックス上に施すことは、上記ガラスセラミックスを曲げる場合に課題を引き起こす可能性がある。例えば、これらのコーティングはセラミック化の間に破壊されることがあるので、曲げ及びセラミック前のこれらのコーティングの付与は、一般に不可能であり、また、セラミック化後のこれらのコーティングの付与は、均質な厚みを得るという点に関して課題を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、改良されたガラスセラミック製品、特に、新しいガラスセラミックプレートを開発しようとした。ここで、これらのプレートは、高温にさらされる設備又は装置で使用することを意図したものであり、特に、煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、加熱器具、暖炉又は同等のタイプの器具に装備すること、及び/又は火炎バリアとして役立てることを意図したものである。また、これらのプレートは、エージングの問題を示さず、かつ、赤外線放射(熱放射)を効果的に反射する。また、これらのプレートは、高温及び経時の条件下でそれらの低放射特性の劣化がなく、かつ、考慮される用途に要求される性質を損なうことがない(ガラスセラミックプレートに対する変更、及び/又はそれらを得るための方法、又は異なる特性を有する他の材料とのそれらの組み合わせを得るための方法は、実際に、求められる他の特性に有害であり得る)。ここで、考慮される用途に要求される性質は、例えば、可視範囲の波長における十分な透過率(器具内の活性な暖炉の魅力的な視覚的外観を保持するためのものである)、十分な機械的強度(圧力に対する抵抗性、衝撃に対する抵抗性など)、並びに保守及び洗浄の容易さである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、本発明によるプレートによって達成される。ここで、これらのプレートは、煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、加熱器具、暖炉又は同等のタイプの器具に装備すること、及び/又は火炎バリアとして役立てることを意図したものである。これらのプレートは、その少なくとも1つの面を下記の積層体でコーティングされた少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成されており(又はその少なくとも1つのその面を下記の積層体でコーティングされた少なくとも1つのガラスセラミック基材を含んでいる):
(1)5nm~50nm(両端の値を含む)の範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
(2)100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物(ITO)層、
(3)10nm~100nm(両端の値を含む)の範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層。
【発明を実施するための形態】
【0011】
有利には、上記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれにおける酸素含有量は、さらに1重量%未満である。層中の酸素含有量は、マイクロアナリシス、特に二次イオン質量分析(SIMS)によって、特にIONTOF社が上市したTQF SIMS 5分析計を用いて評価される。
【0012】
層の順序は、有利には、層が引用される順序、すなわち、1/2/3であり、この順序はまた、基材から出発し、外側に向かう層の順序である(換言すれば、3つの層のうち、層1は、基材に最も近い)。
【0013】
また、有利には、層1は、層2と直接接触しており、層2は、層3と直接接触している;言い換えると、層3は、直接に(中間層を有さずに)、層2上にあり(層2上に堆積されており)、かつ層2は、直接に(中間層を有さずに)、層1上にある(層1上に堆積されている)。特に、層1と2の間、及び層2と3の間には、酸化物層が存在していない。
【0014】
さらに、上記積層体(又は少なくとも上記積層体から形成されたコーティング)は、好ましくは、プレートの外面、すなわち、プレートが一体化されるべき器具の外側に面するように意図された面上に位置する。ここで、この面は、器具の作業中、熱源と直接には接触しない。ガラスセラミック基材は、有利には、上記面の全体にわたってコーティングされる。
【0015】
本発明はまた、少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成される上記プレートの製造方法に関し、ここでは、下記の層を下記の順番で、上記基材の少なくとも1つの面に、マグネトロンスパッタリングによって連続的に堆積させる:
(1)5nm~50nmの範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
(2)100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物層、
(3)10nm~100nmの範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層。
【0016】
有利には、第1の金属窒化物層の堆積及び第2の金属窒化物層の堆積は、それぞれ、最大で3.5μbarの圧力下で行われる。
【0017】
また、有利には、上記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれの堆積中の雰囲気(アルゴン及び窒素などのプラズマ発生ガスからなる)は、(これらの堆積物が作製される各チャンバ内において、)1体積%未満の酸素(チャンバ内に残留するか、又は場合によっては供給される)を含むか、又は酸素を含まないことさえある。好ましくは、上記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれの堆積中の酸素の流量はゼロである。
【0018】
また、本発明は、煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、暖房器具、暖炉、火炎バリア、又は同等のタイプの装置(器具又は設備)に関し、この装置は、少なくとも1つの本発明によるプレートを含む。このプレートは、装置の前面に優先的に配置され、例えば、暖炉へのアクセスを可能にするドアに一体化され、又は窓として装置に一体化され、又は場合によっては着脱可能であり、特に、防炎壁の形態で暖炉に結合されたプレートの場合には着脱可能である。
【0019】
本発明者らは、本発明に従って選択された上記積層体が設けられた基材が、高温の条件下で、その低放射率特性の経時的な劣化を受けることなく、赤外線を効率的に反射することを実証した。酸素含有量が有利に制限される制御された厚さの2つの金属窒化物層(ITO層のいずれかの側に配置される)によって、制限された厚さを有するインジウムスズ酸化物ベース層(機能層)を、その2つの面において、包囲すること、特に直接に(中間層なしで)包囲することは、上記ITO層の導電性の低下を防止し、このアセンブリは、温度の有意な変動に供された場合でさえ、長期間にわたって低い放射率を保持する。
【0020】
インジウムスズ酸化物ベースの層は、好ましくは、そのような酸化物から本質的にからなるか(少なくとも90重量%)、又はそのような酸化物(のみ)からなる(存在する場合の任意の不純物を除いて)。Snの原子百分率は、好ましくは5~70%、特に6~60%、有利には8~12%の範囲である。
【0021】
ITO層の厚さは、好ましくは、10~100nm未満、特に30~80nm、特に40~70nmの範囲で構成され、特に50nm未満であってもよい。有利にかつ一般に、上記積層体の100nm未満の厚さのITO層は、上記積層体(及び以下に示されるように必要がある場合には他の層)を含むコーティング全体体又は全積層体中に存在する唯一のITO層である。すなわち、上記コーティング/全積層体中に他のITO層が存在しない。言い換えると、本発明によるガラスセラミック基材上に存在する上記層を含む全積層体中には、ITO層(層2)が1つしか存在しない。
【0022】
本発明において、「金属窒化物」という表現は、ケイ素などの半金属の窒化物と金属の窒化物との両方を意味する。好ましくは、本発明によれば、金属窒化物層は、ケイ素又は窒化アルミニウムをベースとし(好ましくはケイ素又は窒化アルミニウムからなり)、特に好ましくは、窒化ケイ素Siをベースとし、特に、本質的に窒化ケイ素Siからなる。「窒化ケイ素」という表現は、ケイ素及び窒素以外の原子の存在、又は層の実際の化学量論を事前に判断しない。実際、窒化ケイ素は、好ましくはケイ素ターゲット中にドーパントとして添加される少量の1種以上の原子、典型的にはアルミニウム又はホウ素を含む。ここで、この1種以上の原子は、ケイ素ターゲットの電子伝導性を増加させ、それによってマグネトロンスパッタリングによる堆積を容易にするために使用される。使用されるターゲット、並びに層中のドーパント(アルミニウムなど)のレベルは、好ましくは15重量%未満であり、使用されるケイ素ターゲットは、例えば、有利には3~15重量%のアルミニウムを含む。
【0023】
好ましくは、第1の金属窒化物層(1)の厚さは、5~50nm、特に10~45nmに含まれ、層(3)の厚さは、10~100nm、特に15~90nmに含まれる。
【0024】
既に述べたように、ITO層は、その面の1つ(主面)上で層1と(直接に)接触し、かつその反対面で、層(3)と(直接に)接触する。特に、ITO層(2)は、任意の他の酸化物層との接触がなく、特に例えばケイ素酸化物層が本発明による上記積層体(1/2/3)に付与される場合に、特に任意のケイ素酸化物層(SiOなど)との接触がない。
【0025】
好ましくは、本発明による上記積層体は、本発明により規定される層厚を有する、以下の積層体:Si/ITO/Siである。
【0026】
上記積層体を含む基材のコーティングは、必要であれば、上記積層体のいずれかの側及び/又は他の側に、他の層を含むことができる。
【0027】
基材のコーティングは、例えば、基材と上記積層体との間に、少なくとも1つの層又は積層体を含むことができる。ここで、この少なくとも1つの層又は積層体は、例えばプレートの反射的外観に影響を及ぼすものであり、又は可能なイオンマイグレーションを遮断する機能を有するものであり、又は結合層等としての機能を有する層であり、例えば基材の屈折率とITO層の屈折率との間の屈折率を有する層(例えば、1.6~2.1の屈折率を有する酸窒化ケイ素層、又は比較的高い圧力(5μbar超)で堆積されたAl若しくはSnZnO若しくは窒化ケイ素の層)であり、又はそれぞれ高屈折率層及び低屈折率層を含む積層体(例えば、SiO/Si若しくはSiO/TiO若しくはSiO/SnZnO)であり、ここで、高屈折率層は、基材に最も近い層であり、又はシリカの結合層である。ここで、この層又はこれらの層の厚さは、好ましくは1~20nmの範囲である。しかしながら、本発明の有利な実施形態によれば、上記積層体を含む基材のコーティングは、基材と上記積層体との間に任意の他の層を含まない。
【0028】
上記積層体は、1つ以上の他の層(周囲雰囲気側)でコーティングすることもできる。それは、例えば積層体の光反射率を低減するために、特に酸化ケイ素ベースの層、有利にはシリカ層でコーティングすることができる。必要な場合には、シリカは、ドープすることができ(例えば、スパッタリングプロセスによるその堆積を容易にするためにアルミニウム又はホウ素原子でドープすることができ)、酸化ケイ素ベースの層の厚さは、好ましくは、1~50nmの範囲に含まれる。
【0029】
酸化チタン又はTiZrO又はZrOをベースとする層、好ましくは酸化チタンの層もまた、上記積層体上に堆積させることができる。この層の存在は、特に積層体のひっかき感受性を低減することを可能にする。この層の厚さは、好ましくは10nm未満、特に1~5nmの範囲に含まれる。
【0030】
上述の様々な実施形態は、もちろん、互いに組み合わせることができる。積層体は、基材を基点として、本発明により規定される単一積層体1/2/3で連続的に構成されていてよく、又は基材を起点として、上記積層体と酸化チタンTiO層(例えばTiO層)で連続的に構成されていてよく、又は基材を起点として、上記積層体1/2/3の高屈折率層、次いで低屈折率層、及び酸化チタン層で連続的に構成されていてよく、又は他の場合には、基材を起点として、本発明により規定される積層体1/2/3の高屈折率層、次いで低屈折率層、酸化ケイ素ベース層、及び酸化チタン層で連続的に構成されていてよい。
【0031】
特に好ましいコーティング(積層体から作製される)のいくつかの例を以下に示す:
1. ガラスセラミック/Si/ITO/Si
2. ガラスセラミック/Si/ITO/Si/SiO/TiO
【0032】
与えられた式は、層の実際の化学量論、又は任意の可能なドーピングをあらかじめ判断するものではない。特に、窒化ケイ素及び/又は酸化ケイ素は、通常、上述のように、例えばアルミニウムでドープされる。実際の化学量論及び/又は可能なドーピングは、層毎に異なり得るので(例えば、2つのSi層の間で異なり得るので)、酸化物及び窒化物は、化学量論的ではなくてもよい(しかし、それらであってもよい)。
【0033】
コーティング(上記積層体1/2/3を含む)の総厚は、好ましくは、70~300nmで構成される。
【0034】
好ましくは、本発明に基づいて使用されるコーティングは、以下の比色座標を有し(上記積層体1/2/3の場合)、又は有するようにされている(他の層を加える場合)(コーティング側での反射で):-7<a<5、-25<b<5、25<L<50。ここで、これらの比色座標は、CIE比色系で定義され、特にミノルタが販売する積分球を有するモデルCM-3700A分光光度計を使用して、周知の方法で評価される。
【0035】
本発明によるプレートを形成し、かつその上に積層体が堆積される基材は、一般に幾何学的形状、特に長方形、又は正方形、又は円形又は楕円形などを有するガラスセラミックプレートであり、一般に、使用位置において使用者に面する1つの面(又は可視又は外面又は外側面)(一般に滑らか)、使用位置において一般に隠される別の面(又は内面)(一般に滑らか)、及びエッジ(又は厚さ)を有する。この基材は、最も単純には、一般に平坦又は平面であるが、考慮される用途(例えば、防火障壁又はストーブ窓として使用される)に応じて、湾曲していても又は折り畳まれていてもよい。
【0036】
この基材は、任意のガラスセラミックに基づくことができ、有利には、ゼロ又はゼロに近いCTE、特に20~700℃において30・10-7-1未満、より特に20~700℃において15・10-7-1未満、又はさらには20~700℃において5・10-7-1未満のCTE(絶対値)を有する。
【0037】
好ましくは、この基材は、透明であり(すなわち、可視光領域で適度な透過率を有し、それによってそれを通して見ることができ)、特に少なくとも70%を超える光透過率TL(4mmの厚さについて)を有し、特に好ましくは80%を超えるか又はさらに90%を超える光透過率TL(4mmの厚さについて)を有する。ここで、光透過率TLは、D65光源を用いて基準EN410に従って測定され、直接透過及び可能な拡散透過の両方を考慮に入れた全透過率である(特に、可視範囲において積分され、ヒトの眼の感度曲線によって重み付けされる)。測定は、例えば、積分球を備えた分光光度計(特に、Lambda 950の名称でPerkinElmer社によって市販されている分光光度計)を使用して行われる。それは、任意に、全体として着色すること、又は例えばエナメルで装飾することができる。いわゆる半透明又は不透明な基材の使用も考慮することができるが、この場合、活性な火の観察性が低下することがある。
【0038】
ガラスセラミック基材の厚さは、一般に少なくとも2mm、特に少なくとも2.5mmであり、有利には6mm未満であり、特に3~4.5mmの程度である。
【0039】
好ましくは、ガラスセラミック基材は、上記の積層体でその外面をコーティングされる(必要な場合にのみ);しかしながら、例えば、装飾を形成するためにエナメルのような別のコーティングを追加すること(特に外面上にも)、又は他の面を別の積層体(又は同じ積層体)又はコーティングでコーティングするもとは、除外されない。
【0040】
外面の金属窒化物層を2つの対向する面にコーティングしたITO層を有する本発明の上記積層体をガラスセラミック基材に設けることによって、本発明による選択基準に近いがそれを満足しない積層体でコーティングされた基材とは異なり、高温下で及び長時間にわたって低放射率特性を劣化させることなく、大量の赤外線を暖炉に向けて反射させることが可能となる。さらに、得られたプレートは、メンテナンス性、引っ掻き性又は摩耗の問題を引き起こさず、かつ良好な耐衝撃特性を保持する。
【0041】
また、本発明は、前述した本発明によるプレートの製造方法に関する。コーティング又は積層体を、既にセラミック化されている基材上に堆積させ、このようにして得たアセンブリを、ITO層が活性かつ機能的になることを可能にする熱処理(アニーリング)又はレーザ処理に供する。
【0042】
好ましくは、積層体の各層は、マグネトロンスパッタリングによって(逐次的に)堆積され、ITO層及び窒化ケイ素層は、良好な効率及び堆積速度で、マグネトロンスパッタリングによって容易に堆積される。
【0043】
これらの堆積の間、堆積される化学元素を含むか、又はプラズマに含まれるガスと化学的に反応(いわゆる「反応性」プロセス)して所望の層を形成することができる元素を含むターゲット(又はカソード)の近傍において、高真空下で、プラズマが生成される。プラズマの活性種は、ターゲットに衝突することによって、上記元素を取り出す。これらの元素は、基材上に堆積されて所望の層を形成し、かつ/又はプラズマ中に含有されるガスと反応して、上記層を形成する。このプロセスは、一般に、各々が所与のターゲットを有するいくつかの真空チャンバ(又は容器)を含む単一のデバイスにおいて、異なるターゲットの下に基材を連続的に通過させることによって、同じラインで、本発明による所望の積層体を堆積させることを可能にする。層の厚さ及び堆積速度に応じて、1つの及び同じ層を堆積するために、いくつかの連続するチャンバを使用することも必要であり得る。堆積は、好ましくは、非加熱の基材上で行われる。
【0044】
スパッタリングは、陰極をバイアスするために使用される発生器のタイプに応じて、好ましくは、AC(交流)、DC(直流)、又はパルスDCタイプのいずれかである。ターゲットは、平面状、又は優先的に管状(回転チューブの形成)であり得る。
【0045】
金属窒化物層のそれぞれの堆積は、特に、プラズマ発生ガス(通常はアルゴン)及び窒素からなる雰囲気中で、対象の金属のターゲットを使用して実施される。特に、窒化ケイ素をベースとする、又は本質的にそれからなる層のためには、一般にその電子伝導性を増加させるためにアルミニウム又はホウ素でドープされたケイ素ターゲットが、アルゴン及び窒素からなる雰囲気中で優先的に使用される。
【0046】
有利には、これらの堆積のそれぞれの間の雰囲気(プラズマ発生ガスからなる)は、これらの堆積を行う各チャンバにおいて、1体積%未満の酸素を含むか(チャンバ内に残留していてもよいし、場合によっては供給されていてもよい)、又は酸素がないことさえある。好ましくは、上記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれの堆積中の酸素の流量はゼロである。
【0047】
各金属窒化物層の堆積圧力(又は堆積中の圧力)は、最大で3.5μbarであり、好ましくは、2.4μbar~3μbarの範囲に含まれる。「堆積圧力」とは、その層の堆積が行われるチャンバ内の圧力を意味する。関連する堆積チャンバ内の選択された圧力の適用は、その放射率が高温及び長期間にわたって特に安定なままである積層体を得ることにも寄与する。
【0048】
また、層の堆積出力は、上記層の堆積中に、0.5~4kW/直線メートル(ターゲット)の範囲内にあることが好ましく、様々なターゲット下での基材の走行速度は、0.5~3m/分の範囲内にあることが好ましい。
【0049】
上述のように、コーティングされたガラスセラミック基材は、有利には、ITO層の活性化(その電気的特性を増加及び改善するためのITOの結晶化)のために、上記積層体/コーティングの堆積後に、熱処理(アニーリング)又はレーザ処理に供され、特に、600℃を超える温度で、数分~数十分(数時間までであってもよい)の熱処理、特に650℃~850℃のオーダーで5~10分間の熱処理に供される。ガラスセラミック基材上でのアニーリングによるこの活性化(例えば装飾目的のためにエナメルコーティングも存在する場合、エナメルコーティングのアニーリング処理と同時に行うことができる)は、ITO積層体又はITO層を損傷することなく実施される。
【0050】
以下の例は、本発明を例示するが、限定するものではない。
【実施例
【0051】
比較例1:
以下の積層体を、同社のユーロケラ社がKeraliteの名称で販売している厚さ4mmの透明なガラスセラミック基材(プレートの形態)の片面にマグネトロンスパッタリングにより堆積させた:
ガラスセラミック/ITO(100)/Si(45)。
【0052】
(この例及び以下の例において)括弧内の数字は、ナノメートルで表される厚さに対応する。
【0053】
窒化ケイ素層は、アルミニウムドープケイ素ターゲットを使用して、アルゴンプラズマ下で、窒素を添加し、酸素を添加せずに、2.4~3μbarの圧力で、酸素を1体積%未満含有する雰囲気中において、堆積させた。ITO層はITOターゲット(In/Snターゲット)を用いて堆積させた。
【0054】
次に、ITO層を活性化するために、コーティングされたガラスセラミックを、650℃で10分間にわたって熱処理(アニール)した。
【0055】
比較例2:
この例は、積層体を以下の積層体に置き換えたことを除いて、比較例1と同様に行った:
ガラスセラミック/Si(20)/ITO(100)。
【0056】
比較例3:
この例は、積層体を以下の積層体に置き換えたことを除いて、比較例1と同様に行った:
ガラスセラミック/SiO(50)/ITO(130)/SiN4(45)。
【0057】
比較例4:
この例は、積層体を以下の積層体に置き換えたことを除いて、比較例1と同様に行った:
ガラスセラミック/Si(18)/SiO(20)/ITO(115)/Si(15)/SiO(20)/TiO(5)。
【0058】
本発明による例:
この例は、積層体を以下の積層体に置き換えたことを除いて、比較例1と同様に行った:
ガラスセラミック/Si(20)/ITO(50)/Si(45)。
【0059】
エージングに対する耐性を研究するために、種々のコーティングされた基材を、650℃の温度で100時間にわたってオーブンに入れた(約10年間の使用に相当する)。
【0060】
コーティングされた基材の以下の特性を、650℃で100時間のエージングの前後に測定した:
-D65光源を使用した基準EN410に準拠した光透過率T及び光反射率R。測定は、Lambda 950の名称でPerkinElmer社によって市販されている積分球を有する分光光度計を使用して行った。
-CIE比色系で定義される色座標L、a、b。これらは、積層体のコーティング面について、積分球を有するモデルCM-3700A分光光度計(Minoltaが販売)を使用して評価した(反射比色分析)。
-250nm~10μmのスペクトル帯にわたる可視光-赤外分光分析によって得られるスペクトルから計算される反射率(%で表す)。ここでは、Perkin Elmer社が販売しているモデルL950分光計、及びPerkin Elmer社が販売しているSpectrum 100 FTIR分光計を用い、500℃での黒体発光スペクトル(反射率RN500℃)又はそれぞれ1200℃での黒体発光スペクトル(反射率RN1200℃)によって標準化した。
-(ITO層の)面抵抗及び厚さの測定値から計算される(積層体の)面抵抗Rsq(オームで表される)及び(ITO層の)電気抵抗率ρ(オーム・cmで表される)。積層体の面抵抗は、公知の方法で、Naguy社によって販売されているDektakモデルSRM-12タイプの非接触測定装置(表面形状測定装置)を用いて測定した。放射率は、面抵抗と密接に相関している(面抵抗は放射率よりも測定が容易である)。
【0061】
異なる例について650℃で100時間にわたってエージングする前(「初期」)及び後(「650℃」)に得られた結果を、以下の表に示す:
【0062】
【表1】
【0063】
得られた結果は、本発明に従ってコーティングされた基材が、高温及び経時の条件下で、その特性、特にその低放射率特性の有意な劣化を被らないことを明らかに示す(特に、エージングの後で、反射率が有利に大きいままで維持されており、かつ積層体の面抵抗及びITO層の電気抵抗率が有利に小さいままで維持されている)。これは、本発明に近いが本発明の選択の基準を満たさない積層体でコーティングされた基材とは異なっており、この本発明の選択の基準を満たさない積層体でコーティングされた基材は、大きな劣化を受けており、また場合によっては、比較的有利ではない初期性能を有している(特に小さい放射性)。
【0064】
本発明による物品は、特に、煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、ヒーター、暖炉又は同等のタイプの器具に装備すること、及び/又は火炎バリアとしての役割を果たすことを意図した新しい範囲のプレートを作製するために、有利に使用され得る。
本発明の態様としては、下記の態様を挙げることができる:
〈態様1〉
煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、暖房器具、暖炉又は同等のタイプの器具に装備すること、及び/又は火炎バリアとしての役割を果たすことを意図されたプレートであって、少なくとも1つの面を以下の積層体でコーティングされた少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成されている、プレート:
(1)5nm~50nmの範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
(2)100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物層、
(3)10nm~100nmの範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層。
〈態様2〉
前記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれにおける酸素含有量が、1重量%未満である、態様1に記載のプレート。
〈態様3〉
層(1)と層(2)との間、及び層(2)と層(3)との間に酸化物層が存在しないこと、特に層(1)は層(2)と直接に接触していること、特に層(2)は層(3)と直接に接触していること、特に層(1)は3つの層のうちの基材に最も近い層であり、より好ましくは前記積層体は、前記プレートの外側に位置している、態様1又は2のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様4〉
100nm未満の厚さの前記インジウムスズ酸化物層が、層(1)、層(2)、及び層(3)の前記積層体を含むコーティング全体又は全積層体中に存在する唯一のインジウムスズ酸化物層を構成している、態様1~3のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様5〉
前記層(1)、層(2)及び層(3)の前記積層体を含む前記基材の前記コーティングは、前記基材と、前記層(1)、層(2)及び層(3)の前記積層体との間に、任意の他の層を含まない、態様1~4のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様6〉
前記第1の層(1)の厚さは、10~45nmに含まれ、前記層(2)の厚さは、10~100nm未満に含まれ、前記第2の層(3)の厚さは、10~90nmに含まれる、態様1~5のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様7〉
前記金属窒化物層が、窒化ケイ素層である、態様1~5のいずれかに記載のプレート。
〈態様8〉
前記第2の金属窒化物層上に、酸化ケイ素系層が形成されている、態様1~7のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様9〉
前記積層体を含むコーティングが、厚さ10nm未満の酸化チタン層を外層としてさらに含む、態様1~8のいずれか一項に記載のプレート。
〈態様10〉
下記の層を下記の順番で、少なくとも1つのガラスセラミック基材の少なくとも1つの表面上に、マグネトロンスパッタリングによって連続的に堆積させる、少なくとも1つのガラスセラミック基材から形成される態様1~9のいずれか一項に記載のプレートを製造する方法:
1. 5nm~50nmの範囲に含まれる厚さの第1の金属窒化物層、
2. 100nm未満の厚さのインジウムスズ酸化物層、
3. 10nm~100nmの範囲に含まれる厚さの第2の金属窒化物層。
〈態様11〉
前記第1の金属窒化物層の堆積及び前記第2の金属窒化物層の堆積を、それぞれ、最大で3.5μbarの圧力下で、好ましくは2.4μbar~3μbarの範囲の圧力下で行う、態様8に記載の方法。
〈態様12〉
前記第1の金属窒化物層及び第2の金属窒化物層のそれぞれの堆積中の雰囲気は、酸素が1体積%未満である、態様10~11のいずれか一項に記載の方法。
〈態様13〉
前記コーティングされたガラス-セラミック基材を、熱又はレーザ処理、特に600℃を超える温度での数分間~数十分間の熱処理に供する、態様10~12のいずれか一項に記載の方法。
〈態様14〉
煙突インサート、ストーブ、煙突、ボイラー、暖房器具、暖炉、火炎バリア、又は同等のタイプの装置であって、態様1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのプレートを含む、装置。