(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】通信ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 11/08 20060101AFI20230815BHJP
H01B 11/10 20060101ALI20230815BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230815BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230815BHJP
H01B 13/26 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H01B11/08
H01B11/10
H01B7/18 D
H01B7/18 C
H01B13/00 551Z
H01B13/26 A
(21)【出願番号】P 2021093082
(22)【出願日】2021-06-02
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000238049
【氏名又は名称】冨士電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 宏
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 英明
(72)【発明者】
【氏名】河田 正義
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄一郎
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-190721(JP,A)
【文献】特開平08-241632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/08
H01B 11/10
H01B 7/18
H01B 13/00
H01B 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数対の対撚線を含むケーブル芯と、
前記ケーブル芯を被覆する複数枚の押巻きと、
前記押巻きを被覆する遮蔽テープとを備え、
前記各押巻きがケーブル芯に対し縦添え巻きされかつその重複枚数がケーブル芯の全周
にわたり一定であることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の通信ケーブルにおいて、
前記各押巻きが前記ケーブル芯の
外周長の1.5倍の幅を有し、
当該通信ケーブルを断面視した場合に、先に縦添え巻きされた前記押巻きの重複部分に対し、後に縦添え巻きされた前記押巻きの重複部分が半周分ずれていることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項3】
請求項1に記載の通信ケーブルにおいて、
前記各押巻きが前記ケーブル芯の
外周長と同じ幅を有し、
当該通信ケーブルを断面視した場合に、先に縦添え巻きされた前記押巻きの側縁部同士の突合せ部分に対し、後に縦添え巻きされた前記押巻きの側縁部同士の突合せ部分がずれていることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項4】
複数対の対撚線を含むケーブル芯を準備する工程と、
複数枚の押巻きで前記ケーブル芯を被覆する工程と、
遮蔽テープで前記押巻きを被覆する工程とを備え、
前記ケーブル芯を被覆する工程では、前記各押巻きをケーブル芯に対し縦添え巻きしかつその重複枚数をケーブル芯の全周にわたり一定にすることを特徴とする通信ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信ケーブルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LAN(Local Area Network)などで使用する通信ケーブルでは、導体を樹脂で絶縁した絶縁心線を2本または4本撚り合わせ、これを1対または複数対束ねた上で外側をシースで被覆している。周囲環境からケーブルへのノイズの侵入を抑制したり、ケーブルから放射されるノイズを抑制したりする場合は、遮蔽テープも増設し巻き付けている。
【0003】
かかる通信ケーブルでは、導体と遮蔽テープとは銅やアルミニウム箔などが用いられ共に金属で構成される。これらが近接するとデータ伝送の妨げとなるため、導体と遮蔽テープとの間に押巻きや内被などを介在させ一定の距離を確保している。
特許文献1では特に、押巻きを、その始端と終端とが重ならないようにかつ始端と終端との間隔が対撚径(対撚線の外径)以内となるように巻き、対の減衰量や対間の漏話減衰量の増大を抑えている。
【0004】
技術的見地から考察すると、上記構造の通信ケーブルの静電容量Cは式1のとおりKadenの式から導かれ、当該式中の各係数は式2で表現される。式1中、「ε」は絶縁体の誘電率を示す。式2中、「2α」は導体中心間距離(mm)、「d」はシース厚さ(mm)、「e」は等価半径(mm)、「γc」は導体半径(mm)、「γs」はシース内半径(mm)をそれぞれ示す。
かかる関係性から、導体と遮蔽テープとの距離が近接するほど(押巻きの厚さが薄くなるほど)、係数Bおよび係数Fが小さくなり、静電容量Cが大きくなる。
【0005】
【0006】
【0007】
静電容量Cが大きくなると、式3の特性インピーダンスZ0は小さく(LAN用メタルケーブルの特性インピーダンスは100Ωが標準である。)、式4の挿入損失αは大きくなる。このように導体と遮蔽テープとの距離は電気特性に影響を及ぼす。
なお、式3中、「L」は自己インダクタンスを示す。式4中、「R」は導体抵抗を示し、「L」は自己インダクタンス(ほぼ一定値)を示す。
【0008】
【0009】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方で、導体と遮蔽テープとの間に一定の距離を確保する場合で押巻きを介在させるとき、特許文献1も含め従来の通信ケーブルでは、押巻きとして不織布テープやプラスチックテープなどを使用しこれを絶縁電線の撚線(ケーブル芯)に横巻きしている。「横巻き」とは、長尺なテープをケーブルの長さ方向に沿ってらせん状に巻き付ける意であって、テープの側縁部を先に巻き付けたテープに重ねながら巻き付ける、という意である。
押巻きの横巻き時(テーピング時)においては、(i)テーピング張力が重要な技術要素となりうる。すなわち、テーピング張力を調整できない場合、テーピング張力が変動し、結果的に押巻きの張力にバラツキが生じ、導体と遮蔽テープとの距離が変動する。(ii)生産性を向上させる場合(テーピング線速を上昇させる場合)、テーピング回転数が上がることでテーピング張力が強くなりケーブル芯を締め付け、結果的に導体と遮蔽テープとの距離が近接してしまう。押巻きの横巻き時の当該問題を解決するには、低張力仕様のテーピング設備が必要になり、高額な設備投資が求められる。
本発明の主な目的は、高額な設備投資をしなくても導体と遮蔽テープとの間に一定の距離を確保し、一定の電気特性を満足しうる通信ケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明によれば、
複数対の対撚線を含むケーブル芯と、
前記ケーブル芯を被覆する複数枚の押巻きと、
前記押巻きを被覆する遮蔽テープとを備え、
前記各押巻きがケーブル芯に対し縦添え巻きされかつその重複枚数がケーブル芯の全周にわたり一定であることを特徴とする通信ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高額な設備投資をしなくても導体と遮蔽テープとの間に一定の距離が確保され、一定の電気特性を満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】縦添え巻きの態様を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態にかかる通信ケーブルについて説明する。
当該通信ケーブルはいわゆるLAN(Local Area Network)用ツイストペアケーブルから構成された通信ケーブルである。
【0016】
図1に示すとおり、通信ケーブル1は主に、ケーブル芯10、押巻き20、遮蔽テープ30および外被40を有している。
【0017】
ケーブル芯10は主に4対の対撚線8と十字介在9とで構成されている。
各対撚線8は2本の絶縁電線6を撚り合わせた構成を有している。絶縁電線6は導体2を絶縁体4で被覆した構成を有している。導体2は軟銅線から構成され、絶縁体4はポリエチレン樹脂から構成されている。
十字介在9はポリエチレン樹脂から構成されている。十字介在9は通信ケーブル1の長さ方向に延在しており、対撚線8同士を非接触状態で分離している。十字介在9は通信ケーブル1の長さ方向に沿って撚られており、それに伴い対撚線8同士も十字介在9に分離されながら撚られている。
【0018】
押巻き20は不織布テープから構成されている。押巻き20はケーブル芯10の長さ方向に沿って縦添え巻きされ、ケーブル芯10の外周を被覆して導体2と遮蔽テープ30との距離を一定に保持している。「縦添え巻き」とは、横巻きとは対照的な巻き付けであり、長尺なテープをケーブルの長さ方向に沿って配置して両側縁部を内側に包み込むように円筒状に巻き付ける、という意である。縦添え巻きでは、テープの側縁部同士が互いに重なってもよいし突き合わされてもよい。
【0019】
遮蔽テープ30はアルミニウム箔(Al)をポリエチレンテレフタレート樹脂(PET;Poly ethylene terephthalate)テープ上に接着した、いわゆるAl/PETテープから構成されている。アルミニウム箔部分には導通を遮断するためのスリットが形成されている。遮蔽テープ30はケーブル芯10の長さ方向に沿って横巻きされ、押巻き20の外周を被覆している。
外被40はポリ塩化ビニル樹脂から構成されている。外被40はいわゆるシースであって、押巻きの外周を被覆して通信ケーブル1の最外層を形成している。
【0020】
本実施形態では、
図2に示すとおり、押巻き20として複数枚の不織布テープが使用され、各不織布テープがケーブル芯10に対し縦添え巻きされかつその重複枚数がケーブル芯10の全周にわたり一定である。当該縦添え巻きの態様は
図2Aまたは
図2Bのとおりである。
図2Aの縦添え巻きの態様では、押巻き20としてケーブル芯10の
外周長の1.5倍程度の幅を有する2枚の不織布テープ22、24を準備し、1枚目の不織布テープ22をケーブル芯10に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープ24を1枚目の不織布テープ22に縦添え巻きする。かかる場合、1枚目の不織布テープ22の重複部分に対し2枚目の不織布テープ24の重複部分が半周分ずれる位置で2枚目の不織布テープ24を縦添え巻きする。かかる構成によれば、ケーブル芯10の中心から外周に向かういずれの放射方向においても、押巻き20は3枚分の不織布テープ22、24の厚さを有することになる。
図2Bの縦添え巻きの態様では、押巻き20としてケーブル芯10の
外周長と同程度の幅を有する2枚の不織布テープ26、28を準備し、1枚目の不織布テープ26をケーブル芯10に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープ28を1枚目の不織布テープ28に縦添え巻きする。かかる場合、1枚目の不織布テープ26でも2枚目の不織布テープ28でも側縁部同士を突き合わせ、1枚目の不織布テープ26の突合せ部分に対し2枚目の不織布テープ28の突合せ部分がずれる位置で2枚目の不織布テープ28を縦添え巻きする。かかる構成によれば、ケーブル芯10の中心から外周に向かういずれの放射方向にいても、押巻き20は2枚分の不織布テープ26、28の厚さを有することになる。
【0021】
図2Aの縦添え巻きの態様においては、導体2と遮蔽テープ30との間に一定の距離を確保する関係上、1枚目の不織布テープ22と2枚目の不織布テープ24との位置関係が重要であって、1枚目の不織布テープ22の側縁部22aと2枚目の不織布テープ24の側縁部24aとを突き合わせる必要があり、これら部位が互いに重なったり過大に離間したりしないように留意する(ただ、2枚目の不織布テープ24の側縁部24bで多少の段差が形成される可能性はある。)。
他方、
図2Bの縦添え巻きの態様においては、1枚目の不織布テープ26と2枚目の不織布テープ28との位置関係には自由度があり、押巻き20の厚さも均一であるため、電気特性が安定しうる。
図2Aおよび
図2Bの縦添え巻きの態様では、
図2Bの縦添え巻きの態様のほうが好ましい。
なお、
図2Aおよび
図2Bの縦添え巻きの態様は一例であって、
図2Aおよび
図2Bの規則性が3枚目以降の不織布テープで適用されるのであれば、不織布テープの枚数を増設してもよい。
【0022】
次に通信ケーブル1の製造方法について説明する。
【0023】
導体2として、軟銅線の単線を準備する。導体2として、複数本の軟銅線(素線)を撚り合わせた撚線導体を使用してもよい。
その後、導体2を長さ方向に搬送しながらポリエチレン樹脂を押出機のダイスから押し出し、導体2を絶縁体4で被覆し、絶縁電線6を形成する。
その後、2本の絶縁電線6を撚り合わせ対撚線8を形成する。
その後、4対の対撚線8を十字介在9に沿わせてケーブル芯10を構成する。
【0024】
その後、押巻き20として2枚の不織布テープを準備し、1枚目の不織布テープをケーブル芯10に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープを1枚目の不織布テープに縦添えする。縦添え巻きの態様は
図2Aの態様であってもよいし、
図2Bの態様であってもよい。
【0025】
その後、遮蔽テープ30としてAl/PETテープを押巻き20に横巻きする。
その後、押巻き20および遮蔽テープ30を巻き付けたケーブル芯10を長さ方向に搬送しながら、ポリ塩化ビニル樹脂を押出機のダイスから押し出し、遮蔽テープ30を外被40で被覆し、通信ケーブル1が製造される。
【0026】
以上の本実施形態によれば、押巻き20として2枚の不織布テープを準備し、2枚の不織布テープを
図2Aまたは
図2Bの態様で縦添え巻きしているため、高額な設備投資をしなくても導体2と遮蔽テープ30との間に一定の距離が確保され、一定の電気特性を満足させることができる(下記実施例参照)。
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際標である持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」に貢献することにもつながる。
【実施例】
【0027】
(1)サンプルの準備
(1.1)サンプル1
導体として、外径0.555~0.570mmの軟銅線(単線)を準備した。その後、絶縁体の樹脂として高密度ポリエチレンを準備し、これを押出機のダイスから押し出して導体を絶縁体で被覆し、絶縁電線を形成した。その後、2本の絶縁電線を撚り合わせ、外径1mm程度の対撚線を形成した。その後、長さ5.0mm×厚さ0.75mmの十字介在を準備し、4対の対撚線を十字介在に沿わせてケーブル芯を構成した。
【0028】
その後、押巻きとして厚さの異なる2枚の高密度ポリエチレンテープを準備し、1枚目の高密度ポリエチレンテープ(厚さ0.15mm)を1/2ラップでケーブル芯に横巻きし、引き続き2枚目の高密度ポリエチレンテープ(厚さ0.10mm)を1/2ラップで1枚目の押巻きに横巻きした。「1/2ラップで」とは、先に横巻きした押巻きに対し、その後に横巻きする押巻きを押巻き幅の1/2ぶん重複させる、という意である。
【0029】
その後、遮蔽テープとしてAl/PETテープを準備し、これを押巻きに横巻きした。その後、外被の樹脂としてポリ塩化ビニルを準備し、これを押出機のダイスから押し出して遮蔽テープを外被で被覆し、外径7.5mm程度の通信ケーブルを製造した。
【0030】
(1.2)サンプル2
サンプル1において、押巻きを横巻きする際に低張力仕様のテーピング設備を使用した。それ以外はサンプル1と同様の手法で通信ケーブルを得た。
【0031】
(1.3)サンプル3
押巻きとして厚さ0.35mmの不織布テープを1枚準備し、これを1/2ラップでケーブル芯に横巻きした。押巻きを横巻きする際に低張力仕様のテーピング設備を使用した。それ以外はサンプル1と同様の手法で通信ケーブルを得た。
【0032】
(1.4)サンプル4
押巻きとして厚さ0.14mmの不織布テープを2枚準備し、1枚目の不織布テープをケーブル芯に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープを1枚目の押巻きに縦添え巻きした。縦添え巻きの態様は
図3のとおりとした。それ以外はサンプル1と同様の手法で通信ケーブルを得た。
【0033】
(1.5)サンプル5
押巻きとして厚さ0.14mmの不織布テープを2枚準備し、1枚目の不織布テープをケーブル芯に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープを1枚目の押巻きに縦添え巻きした。縦添え巻きの態様は
図2Aのとおりとした。それ以外はサンプル1と同様の手法で通信ケーブルを得た。
【0034】
(1.6)サンプル6
押巻きとして厚さ0.14mmの不織布テープを2枚準備し、1枚目の不織布テープをケーブル芯に縦添え巻きし、引き続き2枚目の不織布テープを1枚目の押巻きに縦添え巻きした。縦添え巻きの態様は
図2Bのとおりとした。それ以外はサンプル1と同様の手法で通信ケーブルを得た。
【0035】
(2)サンプルの電気的特性試験
各サンプルを200m切り出し、各切出し片について静電容量、特性インピーダンス、反射減衰量(RL:Return Loss)、挿入損失および近端漏話減衰量(NEXT:Near End crosstalk)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
(3)まとめ
表1に示すとおり、サンプル1-3から、押巻きを横巻きする際に低張力仕様のテーピング設備を使用すると電気的特性は良好であった。
サンプル2-3、4から、押巻きを
図3の態様で縦添え巻きしただけでは電気的特性は一部(挿入損失)良好ではないものの、サンプル2-3、5-6から、押巻きを
図2Aまたは
図2Bの態様で縦添え巻きすると、低張力仕様のテーピング設備を使用しなくても電気的特性は良好であった。
【符号の説明】
【0038】
1 通信ケーブル
2 導体
4 絶縁体
6 絶縁電線
8 対撚線
9 十字介在
10 ケーブル芯
20 押巻き
22、24、26、28 不織布テープ
30 遮蔽テープ
40 外被