(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】遊離黒鉛含有粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230815BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20230815BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20230815BHJP
B22F 9/10 20060101ALI20230815BHJP
B22F 9/14 20060101ALI20230815BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230815BHJP
C22C 38/56 20060101ALI20230815BHJP
B33Y 70/00 20200101ALN20230815BHJP
【FI】
B22F1/00 T
B22F3/10 E
B22F9/08 A
B22F9/10
B22F9/14 Z
C22C33/02 103E
C22C38/56
B33Y70/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021201052
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2019521468の分割
【原出願日】2017-10-17
【審査請求日】2021-12-24
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518372567
【氏名又は名称】テネコ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TENNECO INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】519141575
【氏名又は名称】ラ・コルポラシオン・ドゥ・レコール・ポリテクニーク・ドゥ・モントリオール
【氏名又は名称原語表記】LA CORPORATION DE L’ECOLE POLYTECHNIQUE DE MONTREAL
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボワベール,マチュー
(72)【発明者】
【氏名】レスペランス,ジル
(72)【発明者】
【氏名】ボーリュー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファーソン,デニス・ビィ,ジュニア
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/080554(WO,A1)
【文献】特開平01-309940(JP,A)
【文献】特開昭62-120465(JP,A)
【文献】特開平11-256277(JP,A)
【文献】特開2001-158934(JP,A)
【文献】特開平06-322470(JP,A)
【文献】特開平09-136187(JP,A)
【文献】特開平02-011739(JP,A)
【文献】特開昭53-102208(JP,A)
【文献】特開昭63-266038(JP,A)
【文献】特開平05-009501(JP,A)
【文献】特開平06-256802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C22C 1/04-1/059
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離黒鉛を含有する粉末金
属であって、
前記粉末金属が、前記粉末金属の総重量に基づいて、2.0重量%~5.0重量%の量の炭素(C)および2.5重量%~6.0重量%の量のケイ素(Si)を含み、
前記粉末金属が、
1~6重量%のニッケル(Ni)、
1.0~4重量%のコバルト(Co)、
1.0~5重量%の銅(Cu)、
0.5~1.5重量%のスズ(Sn)、
0.5~1重量%のアルミニウム(Al)、
0.05~0.3重量%の硫黄(S)、
0.05~0.4重量%のリン(P)、
0~1.0重量%のホウ素(B)、
0~1.0重量%の窒素(N)、
0.2~0.8重量%のクロム(Cr)、
0.2~0.8重量%のマンガン(Mn)、
0.2~1.5重量%のモリブデン(Mo)、
0.5~1.5重量%のバナジウム(V)、
0.5~1.5重量%のニオブ(Nb)、
0.5~4重量%のタングステン(W)、
0.5~1.5重量%のチタン(Ti)、
0.2~0.8重量%のタンタル(Ta)、
0.2~0.8重量%のジルコニウム(Zr)、
0~1重量%の亜鉛(Zn)、
0~1重量%のストロンチウム(Sr)、
0~1重量%のカルシウム(Ca)、
0~1重量%のバリウム(Ba)、
0~1重量%のマグネシウム(Mg)、
0~1重量%のリチウム(Li)、
0~1重量%のナトリウム(Na)、および
0~1重量%のカリウム(K
)を含み、残りが鉄である、粉末金属。
【請求項2】
前記粉末金属が、前記粉末金属の総重量に基づいて、2.0重量%~4.8重量%の量の炭素および2.5重量%~4.5重量%の量のケイ素(Si)を含む、請求項1に記載の
粉末金属。
【請求項3】
請求項1に記載の粉末金属が焼結されている
、材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この米国実用新案特許出願は、2016年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/409,244号、および2017年10月16日に出願された米国実用新案特許出願第15/784,587号に対する優先権を主張するものであり、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に粉末金属材料、粉末金属材料を含む焼結部品、ならびに粉末金属材料および焼結部品を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
粉末金属材料は、バルブガイド、バルブシートインサート、ギア、およびブッシュなどの自動車用途のための改善された耐摩耗性および/または潤滑性および/または機械加工性を有する部品を形成するためにしばしば使用される。粉末金属材料は、典型的には、溶融金属材料を水またはガス噴霧化して複数の噴霧化粒子を形成することによって形成される。次いで、噴霧化粒子を、ふるい分け、粉砕、熱処理、他の粉末とのブレンド、凝固/圧縮、印刷(積層造形)、および焼結などの様々な処理に供して、改善された特性を有する部品を形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉末金属産業では、焼結後に部品中に遊離黒鉛を得るための努力がなされてきた。遊離黒鉛は、潤滑による耐摩耗性の改善、機械加工性の向上、および軽量などのいくつかの利点を提供することができる。遊離黒鉛はまた、超固相液相焼結によって大きな緻密化の可能性を提供し、焼結後に高い相対密度の可能性を提供することができる。しかしながら、ほとんどの粉末金属部品は、鉄合金からなり、黒鉛の主成分である炭素は、高温で鉄にかなり溶けやすく、冷却中に炭化物を容易に形成するので、遊離黒鉛を得るという課題は、容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明の1つの態様は、遊離黒鉛を含有する改善された粉末金属材料を提供する。粉末金属材料は、典型的には鉄合金であるが、別の鉄、ニッケル、および/またはコバルト系材料でもあり得る。粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、1.0重量%~6.5重量%の量の炭素および0.1重量%~6.0重量%の量のケイ素を含む。粉末金属材料はまた、他の様々な合金元素、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)のうちの少なくとも1つを含み得る。粉末金属材料も噴霧化されており、遊離黒鉛を含む。
【0006】
本発明の別の態様は、粉末金属材料を製造する方法を提供する。本方法は、溶融物を水またはガス噴霧化することを含むが、他の粉末製造プロセス、例えばプラズマ噴霧化および回転ディスク噴霧化を使用して、粉末金属材料とも呼ばれる複数の噴霧化粒子を形成す
ることができる。本方法は、好ましくは、材料中に存在する遊離黒鉛の量を増加させるために噴霧化粒子を熱処理することを含む。
【0007】
本発明の別の態様は、粉末金属材料から形成された焼結部品、およびその焼結部品の製造方法を提供する。
【0008】
粉末金属材料中に存在する遊離黒鉛は、機械加工性の向上、軽量化、および焼結後の高密度化の可能性を提供する。加えて、バルブガイドなどの粉末金属材料から形成された焼結部品は、遊離黒鉛によって提供される潤滑性の増加のために改善された耐摩耗性を有する。
【0009】
本発明の他の利点は、添付の図面と関連して考慮すると、以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されるようになるので、容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】粉末金属材料の可能な組成の概要を提供する表を含む図である。
【
図2】それぞれが粉末金属材料の可能な組成の範囲を表す領域#1~領域#4を示す図である。
【
図3】領域#1の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する図である。
【
図4】領域#2の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する図である。
【
図5】領域#3の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する図である。
【
図6】領域#4の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する図である。
【
図7】遊離黒鉛を含有する粉末金属材料のいくつかの具体例を示すチャートである。
【
図8】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図9】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図10】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図11】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図12】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図13】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図14】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図15】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図16】例示的な粉末金属材料の微細構造を示す図である。
【
図17】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図18】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図19】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図20】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図21】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図22】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図23】新規な粉末金属材料のうちの少なくとも1つを含有する焼結粉末混合物の微細構造を示す図である。
【
図24】本発明の例示的な実施形態による粉末金属材料で形成された部品が基準材料よりも著しく良好に機能したことを示す摩耗試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1つの態様は、遊離黒鉛含有粉末とも呼ばれる、遊離黒鉛を含有する粉末金属材料を提供する。粉末金属材料は、典型的には溶融物を水またはガス噴霧化によって噴霧化すること、および好ましくは噴霧化粒子を熱処理することによって形成される。粉末金属材料は、焼結部品、例えば自動車用のバルブガイドを形成するために使用することができる。粉末金属材料中に存在する遊離黒鉛は、機械加工性の向上、軽量化、および焼結後の高い相対密度の可能性を提供する。粉末金属材料から形成された焼結部品はまた、遊離黒鉛によって提供される潤滑性の増加のために改善された耐摩耗性を有する。
【0012】
粉末金属材料は、鉄を含み、典型的には鋳鉄粉末などの鉄合金である。鋳鉄の微細構造は、黒鉛の存在から生じる自己潤滑性、機械加工性の向上、黒鉛の低密度による軽量化、および最大で完全密な材料を含む、より大きな焼結密度の可能性を含む多数の利点により粉末金属産業において求められている。しかしながら、粉末金属材料は、ニッケル、コバルト、鉄系材料、および/またはこれらの金属の混合物などの別の種類の金属材料であり得る。鉄系粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量の鉄を含む。ニッケル系粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量のニッケルを含む。コバルト系粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量のコバルトを含む。鉄、ニッケル、および/またはコバルトの混合物に基づく材料は、少なくとも50重量%の量の混合物を含む。各実施形態の粉末金属材料はまた、粉末金属材料の総重量に基づいて、少なくとも1.0重量%~最大6.5重量%の量の炭素および少なくとも0.1重量%~最大6.0重量%の量のケイ素を含む。
【0013】
炭素は、黒鉛を構成し、形成され得る黒鉛の最大量を決定する。言い換えれば、黒鉛は、100%の炭素からなり、炭素含有量が低すぎる場合、黒鉛は、沈殿しない。黒鉛の密度と鉄の密度との間には約3.5倍の係数が存在する。したがって、1.0重量%の炭素は、約3.5体積%の黒鉛を表す。炭素供給は、遊離黒鉛の可能量を低下させるので、例えば炭化物中の他の元素で制限されるべきではない。遊離黒鉛を形成するためには、炭化物形成元素の量と総炭素含有量とを慎重に均衡させるべきである。遊離黒鉛と、炭化物などの炭素を含有する他の相または微細構造成分との組み合わせも可能である。
【0014】
ケイ素は、黒鉛化剤であり、これは、それが溶液中の炭素の活性を増大させるので、黒鉛の沈殿が好ましいことを意味する。黒鉛の沈殿に対するケイ素の効果は、鉄リッチ系ではより大きい。鉄系では、オーステナイトに溶解している炭素の一部は、冷却中に炭化物、例えばセメンタイトを形成する。しかしながら、ケイ素は、溶液中の炭素の活性を増大させ、炭素を溶液から追い出し、これによって黒鉛沈殿を促進する。鉄-炭素(Fe-C)系中のケイ素は、ケイ素を含まない系と比較して、所与の温度に対する液相の量を増加させる。これは、超固相液相焼結中に粉末金属材料で形成された部品の緻密化を促進する。ケイ素は、フェライトを硬化させ、他の合金元素と組み合わせると硬化性を増加させる。ケイ素はまた、炭素の拡散にも影響を及ぼし、これは、アップヒル拡散と呼ばれる。この現象は、焼結後の黒鉛の形態を制御し、したがって部品の機械的性質をより良好に制御するために利用することができる。
【0015】
鋳鉄粉末では、ケイ素は、溶液中の炭素量を減少させるので、黒鉛沈殿を促進する。噴霧化鋳鉄粉末の場合、ほとんどの黒鉛は、噴霧化後の熱処理中に固体状態で沈殿する。ケイ素含有量が多いほど、黒鉛を促進するのが容易になる。鋳鉄中のケイ素含有量が少ない
と、黒鉛を沈殿させるのにより長い熱処理が必要となる。しかしながら、ケイ素を粉末金属材料に導入して黒鉛を促進し、フェライトおよびパーライトの硬度を高め、また硬化性を高めることができる。一定量の炭素の場合、ケイ素は、ケイ素含有量がより少ない鋳鉄と比較して、所与の温度で液相の量を増加させる。したがって、鋳鉄に基づく粉末金属材料は、大きな緻密化、および最大で完全密な材料をもたらすことができる液相焼結のための理想的な候補である。
【0016】
粉末金属材料はまた、他の様々な合金元素を含み得る。鉄(Fe)に加えて、ニッケル(Ni)、炭素(C)、ケイ素(Si)、およびコバルト(Co)のうちの少なくとも1つが、典型的には遊離黒鉛を有する粉末金属材料の主成分である。しかしながら、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)は、必要とされない。他の可能な合金元素には、銅(Cu)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)のうちの少なくとも1つが含まれる。粉末金属材料の可能な組成の概観は、
図1の表に提供されている。
【0017】
粉末金属材料に使用される合金元素の組み合わせおよび量は、ベース成分および粉末金属材料を形成するのに使用される方法に応じて変わる。例えば、アルミニウムおよびジルコニウムは、ガス噴霧化粉末のために好ましく使用される。鋳鉄に基づく粉末金属材料の場合、様々な合金元素をケイ素と組み合わせて使用して新規の微細構造を生成することができる。例えば、炭化物形成元素であるクロム、ニオブ、および/またはバナジウムは、黒鉛および炭化物の両方の形成を促進するために鋳鉄粉末に使用することができる。コバルトは、高温での機械的性質を改善し、潤滑性のために遊離黒鉛を含有する領域を得るために鋳鉄粉末中で使用することができる。さらに、バナジウム、ニオブ、タングステン、スズ、およびコバルトの組み合わせを鋳鉄粉末に使用して、コバルトに富む鉄マトリックス中に炭化物が存在することによる高温での高い耐摩耗性などの独自の特性を得ることができる。
【0018】
図2は、粉末金属材料について可能な組成の範囲をそれぞれ表す4つの領域を示す図である。示された4つの領域は、炭素重量%およびケイ素重量%に関して定義されており、これらは鉄リッチ組成物中で遊離黒鉛を得るのに必要な2つの要素である。領域#1~#3の組成は、合金元素として炭素およびケイ素のみを必要とする。しかしながら、領域#4の組成は、典型的には少なくとも1つの追加の合金元素を必要とする。
図3は、領域#1の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する。
図4は、領域#2の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する。
図5は、領域#3の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する。
図6は、領域#4の粉末金属材料中に存在する各元素の好ましい範囲を列挙する。領域#1~4に開示されている組成はまた、以下の表1~4に提供されている。粉末金属材料の組成は、表に開示されている異なる範囲または量のいずれかの組み合わせを含むことができ、例えば、その組成は、表1の炭素範囲#1、ケイ素範囲#4、およびニッケル範囲#7を含むことができる。別の例は、表1の範囲#1内の炭素量および範囲#2内のケイ素量を含む組成物である。第3の例は、表4の範囲#2の炭素、範囲#2のケイ素、および範囲#3のコバルトを含む組成物である。
図7は、遊離黒鉛を含有する粉末金属材料のいくつかの具体例を示すチャートである。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
1つの例示的な実施形態によれば、粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、約1.0重量%~約2.0重量%の炭素および約0.1重量%~約6.0重量%のケイ素を含む。別の実施形態によれば、粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、
約1.1重量%~約2.0重量%の炭素および約0.2~約5.0重量%のケイ素、または約1.2重量%~約1.9重量%の炭素および約0.75~約3.0重量%のケイ素、または約1.2重量%~約1.8重量%の炭素および約0.75~約2.0重量%のケイ素、または約1.3重量%~約1.7重量%の炭素および約0.75~約1.5重量%のケイ素、または約1.35重量%~約1.65重量%の炭素および約1.0~約1.5重量%のケイ素、または約1.4重量%~約1.6重量%の炭素および約1.0~約1.3重量%のケイ素、または具体的には1.5重量%の炭素および1.0重量%のケイ素を含む。上に列挙された炭素およびケイ素含有量を有する例示的な粉末金属材料はまた、ニッケル、コバルト、銅、スズ、アルミニウム、硫黄、リン、ホウ素、窒素、クロム、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タングステン、チタン、タンタル、ジルコニウム、またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つを含み得る。例示的な粉末金属材料は、粉末金属材料の総重量に基づいて、約47重量%未満、または約25重量%未満、または約15重量%未満、または約10重量%未満、または約8重量%未満、または1重量%を超え6重量%未満、または1.5重量%を超え4重量%未満、または具体的には2.0重量%の量のニッケルをさらに含むことができる。粉末金属材料の組成は、表に開示されている異なる範囲のいずれかの組み合わせを含むことができ、例えば、粉末金属材料は、約1.1重量%~約2.0重量%の炭素および約0.75~約2.0重量%のケイ素を含む。
【0024】
1つの例示的な実施形態によれば、クロム(Cr)およびマンガン(Mn)の両方は、同じ粉末金属材料中で互いに3重量%を超えず、存在するこれらの元素:コバルト(Co)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、またはジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1つを有さない。言い換えれば、粉末金属材料の組成がコバルト(Co)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、またはジルコニウム(Zr)を含まない場合、組成物中のクロムの量は、3.0重量%以下であり、組成物中のマンガンの量は、3.0重量%以下である。
【0025】
1つの実施形態によれば、遊離黒鉛を含有する粉末金属材料は、上述の組成のうちの1つを有する溶融金属材料をガスまたは水噴霧化することによって形成される。しかしながら、プラズマ噴霧化または回転ディスク噴霧化などの他の噴霧化プロセスを使用することができる。選択された具体的な組成(通常4.6重量%のCおよび2.6重量%のSiなどの過共晶組成の場合)のために、少なくともいくらかの遊離黒鉛が噴霧化粒子中に存在し得る。しかしながら、噴霧化粒子は、遊離黒鉛の総量を増加させるために熱処理されるのが好ましい。熱処理プロセスの具体的な温度および条件は、化学組成に応じて調整される。熱処理プロセス中に、遊離黒鉛が沈殿し、粉末、例えば炭化物中の硬質相の量が減少し、それにより粉末金属材料の圧縮性が増加する。
【0026】
噴霧化され、好ましくは熱処理された粉末金属材料は、使用される具体的な組成および方法に応じて様々な異なる微細構造を有することができる。例えば、微細構造は、パーライト、フェライト、黒鉛、ベイナイト、オースフェライト、オーステナイト、およびマルテンサイトのうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの実施形態では、Snリッチ相、炭化物、および他の微細構造的特徴が粉末金属材料中に存在し得る。
【0027】
図8~23は、上述の例示的な組成のうちの1つを有する例示的な粉末金属材料および焼結部品の微細構造を示す。
図8は、1.1重量%の炭素および1.1重量%のケイ素を含む、領域#1内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図8の粉末金属材料の微細構造は、パーライト、フェライト、および黒鉛の混合物を含む。
【0028】
図9は、1.8重量%の炭素、2.0重量%のケイ素を含み、噴霧化前に0.20重量%のマグネシウムで処理された、領域#1内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構
造を示す。
図9の粉末金属材料の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0029】
図10は、4.0重量%の炭素、2.5重量%のケイ素を含み、噴霧化前に0.22重量%のマグネシウムで処理された、領域#4内で領域#2に近い組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図10の粉末金属材料の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物(約20体積%)を含む。
【0030】
図11は、4.5重量%の炭素および3.5重量%のケイ素を含む領域#2内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図11の粉末金属材料の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0031】
図12は、5.1重量%の炭素および0.8重量%のケイ素を含む、領域#3内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図12の粉末金属材料の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0032】
図13は、材料が2つの異なる熱処理に供されたときに、4.8重量%の炭素、0.7重量%のケイ素、1.0重量%の銅、および0.36重量%のモリブデンを含む領域#4内の組成を有する粉末金属材料の微細構造を示す。微細構造を示す
図13の2つの画像は、適用された熱処理プロセスに応じて異なる。
図13の左側の粉末金属材料の微細構造は、フェライト、黒鉛、およびベイナイトの混合物を含む。
図13の右側の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0033】
図14は、4.7重量%の炭素、0.7重量%のケイ素、2.4重量%の銅、および0.60重量%のモリブデンを含む領域#4内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図14の粉末金属材料の微細構造は、オースフェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0034】
図15は、3.8重量%の炭素、1.0重量%のケイ素、3.5重量%の銅、および0.5重量%のモリブデンを含む領域#4内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図15の粉末金属材料の微細構造は、フェライトと黒鉛との混合物を含む。
【0035】
図16は、4.1重量%の炭素、1.5重量%のケイ素、および5.0重量%のスズを含む領域#4内の組成を有する熱処理粉末金属材料の微細構造を示す。
図16の粉末金属材料の微細構造は、パーライト、黒鉛、およびパーライトと緊密に混合されたSnリッチ相の混合物を含む。
【0036】
図17は、固相焼結後の部品の微細構造を示す。部品は、粉末金属材料の混合物、具体的には領域#1内の組成を有する40.0重量%を超える粉末金属材料と、領域#4内の組成を有する40.0重量%超の粉末金属材料との混合物を含む。
図17の部品の微細構造は、粒子の中心にパーライト、フェライト、および黒鉛沈殿物の混合物を含む。
【0037】
図18は、同じ熱プロファイルを使用する超固相液相焼結後の2つの部品の微細構造を示す。第1の部品は、領域#1内の組成を有する75.0重量%未満の第1の粉末金属材料と、領域#4内の組成を有する25.0重量%を超える第2の粉末金属材料とを含む混合物から形成される。第2の部品は、領域#1内の組成を有する75.0重量%未満の同じ第1の粉末金属材料と、領域#4内の組成を有する25.0重量%を超える異なる第2の粉末金属材料とを含む混合物から形成される。第2の部品の第2の粉末金属材料中のケイ素の量は、第1の部品の第2の粉末金属材料中のケイ素の量とは異なる。
図18の左側の画像は、第1の部品の微細構造が、パーライト、フェライト、ならびに粒内部に位置する多数の小さな黒鉛沈殿物および粒間のいくらかの層状黒鉛を含有する領域を含むことを
示す。
図18の右側の画像は、第2の部品の微細構造が、パーライト、フェライト、および層状黒鉛のみを含むことを示す。局所的なケイ素濃度勾配は、2つの部品で異なり、それは炭素のアップヒル拡散の制御による遊離黒鉛形態の制御を可能にする。加えて、両方の部品は、6%を超える緻密化を有する。
【0038】
図19は、30.0重量%を超える量の、噴霧化前にMgで処理された領域#4からの粉末と第2の一般的な鉄リッチ粉末金属材料とを含む混合物の超固相液相焼結後の2.4重量%の炭素、1.0重量%のケイ素の公称組成を有する部品の微細構造を示す。
図19の微細構造は、層状黒鉛を含むパーライトのマトリックス、少しのフェライト領域、およびいくらかの球状黒鉛を含む。その部品は、7.5%を超える緻密化を有する。
【0039】
図20は、4.1重量%の炭素、1.5重量%のケイ素、および5.0重量%のスズを含む領域#4内の組成を有する少なくとも30重量%の粉末で作製された同じ粉末金属材料の混合物で作製された2つの部品の微細構造を示す。しかしながら、それらの部品は、異なる条件下で焼結された。第1の部品は、固相焼結によって作製され、左側に示されている部品の微細構造は、パーライト、層状黒鉛、フェライトおよび球状黒鉛、ならびに青銅(Cu-Sn)の小さな島を含む。第2の部品は、超固相液相焼結によって作製され、右側に示されている第2の部品の微細構造は、パーライト、層状黒鉛、およびフェライトを含む。
【0040】
図21は、4.8重量%の炭素、0.7重量%のケイ素、1.0重量%の銅、および0.36重量%のモリブデンを含む領域#4内の組成を有する40.0重量%を超える粉末金属材料を含有する混合物の固相焼結後の部品の微細構造を示す。
図21の微細構造は、パーライト、オースフェライト、マルテンサイト、黒鉛沈殿物、および炭化物の混合物を含む。
【0041】
図22は、同じ粉末金属材料の混合物からなるが異なる条件で焼結された2つの部品の微細構造を示す。混合物は、4.8重量%の炭素、0.7重量%のケイ素、1.0重量%の銅、および0.36重量%のモリブデンを含む領域#4内の組成を有する50.0重量%を超える粉末金属材料を含有する粉末金属材料を含む。第1の部品は、固相焼結により作製され、第2の部品は、超固相液相焼結により作製された。左側に示されている第1の部品の微細構造は、ベイナイト、オースフェライト、黒鉛沈殿物、およびモリブデンを含有する炭化物の混合物を含む。右側に示されている第2の部品の微細構造は、オースフェライト、ベイナイト、および層状黒鉛の混合物を含む。
【0042】
図23は、3.0重量%の炭素、2.0重量%のケイ素、および20重量%以上の事前合金化銅を含む領域#4内の組成を有する35.0重量%を超える噴霧化されたままの状態の粉末金属材料の混合物で作製された部品の微細構造を示す。焼結中に、球状黒鉛が新しい粉末金属材料の内部に沈殿した。焼結微細構造は、パーライト、遊離銅、および球状黒鉛から構成される。
【0043】
上述のように、粉末金属材料は、焼結部品を形成するために使用することができる。粉末金属材料は、単独で使用することも、本発明の範囲内および本発明の範囲外のものを含めて、1つ以上の他の粉末金属材料と混合することもできる。例えば、粉末金属材料は、非合金鋼および/または合金鋼と混合することができる。粉末金属材料は、添加剤としても使用することができる。さらに、本発明の様々な実施形態による粉末金属材料を一緒に混合することができ、焼結中に形成可能な液相の位置および量に対する制御を与える特定の条件を生成することができる。これはまた、焼結後の黒鉛形態に対する制御を与え、それは部品の機械的性質に影響を与える。別の実施形態によれば、粉末金属材料は、粉末混合物中の炭素担体として使用され、それは混合された黒鉛の量を減少させ、それによりダ
スティングを減らす。
【0044】
1つの例示的な実施形態によれば、粉末金属材料を焼結して自動車用のバルブガイド部品を形成する。エンジンの寿命の間にバルブとバルブガイドとの間に多くの摩擦が生じるので、バルブガイド部品が有するべき1つの重要な特性は、耐摩耗性である。本発明の例示的な実施形態による、40.0重量%を超える遊離黒鉛を含有する粉末金属材料からなるバルブガイドによって達成される耐摩耗性を測定するために実験を実施した。部品を圧縮し、固体状態で焼結した。次いで、部品を、バルブガイドの摩耗を評価するために行われる標準試験であるリグ試験に供した。また、市販のバルブガイド材料である異なる基準材料から形成された2組の部品それぞれについてもリグ試験を行った。例示的な実施形態による粉末金属材料の摩耗平均値は、8つのバルブガイド部品からのデータを使用して計算された。
図24は、平均摩耗試験結果を示しており、本発明の例示的な実施形態による粉末金属材料から形成された部品が、基準材料よりも著しく良好に機能したことを示している。この実施形態の新しい材料は、焼結後に約4体積%の黒鉛を含有する。
【0045】
本発明の別の態様は、上述の粉末金属材料を製造する方法を提供する。本方法は、典型的には溶融物を水またはガス噴霧化することを含むが、他の噴霧化方法を使用することもできる。溶融物は、溶融物の総重量に基づいて、少なくとも1.0重量%~最大6.5重量%の量の炭素。および少なくとも0.1重量%~6.0重量%の量のケイ素を含む、上述の組成物のうちの少なくとも1つを有する。溶融物は、他の様々な合金元素も含み得る。鉄(Fe)に加えて、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも一方が典型的には主成分である。他の可能な合金元素には、銅(Cu)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)のうちの少なくとも1つが含まれる。溶融物の可能な組成の概要は、
図1の表に提供されている。
【0046】
噴霧化工程後、場合によっては、噴霧化粒子中に少なくともいくらかの遊離黒鉛が存在する。しかしながら、遊離黒鉛の量を増加させるために、本方法は、好ましくは噴霧化粒子を熱処理することを含む。熱処理プロセスの具体的な温度および条件は、化学組成に応じて調整される。熱処理プロセス中に、遊離黒鉛が沈殿し、粉末、例えば炭化物中の硬質相の量が減少し、それにより粉末金属材料の圧縮性が増加する。
【0047】
本方法は、粉末金属材料を、本発明の範囲内または本発明の範囲外のいずれかである1つ以上の他の粉末金属材料と混合することをさらに含むことができる。
【0048】
本方法はまた、典型的には、熱処理粉末金属材料を焼結して、自動車用のバルブガイド部品などの焼結部品を形成することを含む。粉末金属材料は、例えば超固相液相焼結によって、固体状態または液体状態で焼結することができる。
【0049】
明らかに、本発明の多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能であり、本発明の範囲内にありながら具体的に記載された以外の方法で実施されてもよい。そのような組み合わせが互いに矛盾しない限り、記載された全ての特徴および全ての実施形態は、互いに組み合わせることができると考えられる。