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特許7331092光学ガラス、プリフォーム、光学素子及びその光学機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム、光学素子及びその光学機器
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20230815BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20230815BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/155
G02B1/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021517468
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 CN2018108274
(87)【国際公開番号】W WO2020062009
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】511111585
【氏名又は名称】シーディージーエム グラス カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】No.359, Sec.3, Chenglong Avenue, LongQuan YI District Chengdu, Sichuan 610100 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェイ
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052800(JP,A)
【文献】特開2014-210694(JP,A)
【文献】特開2011-006318(JP,A)
【文献】特表2015-533773(JP,A)
【文献】特開2010-248024(JP,A)
【文献】特開2006-306717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量百分率で、0~10%のSiOと、5~25%のBと、0~15%のZrOと、10~25%のZnOと、2~30%のTiO+Nb+WOと、30~55%のLnとを含有しており、前記LnはLa、Gd、Y3、及びYbの合計含有量であり、B/Lnが0.3~0.8であり、Y/Bが0.15~2であり、Y/Gdが1.100~3、光学ガラスの結晶化温度の上限が1,250℃以下であり、
Nb が4~8%、WO が6~10%、La が30~35%、Gd が3~7%、Y が6~10%であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
0~10%のROと、0~10%のRnOと、0~1%の清澄剤とをさらに含有し、前記ROがMgO、CaO、SrO、又はBaOの1つ以上であり、前記RnOがLiO、NaO、KOの1つ以上であり、前記清澄剤がSb、SnO2、CeOの1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
重量百分率で、0~10%のSiO5~25%のBと、0~15%のZrOと、10~25%のZnOと、2~30%のTiO+Nb+WOと、30~55%のLnと、0~10%のROと、0~10%のRnOと、0~1%の清澄剤とを含有しており、前記LnがLa、Gd、Y、及びYbの合計含有量であり、前記ROがMgO、CaO、SrO、又はBaOの1つ以上であり、前記RnOはLiO、NaO、KOの1つ以上であり、前記清澄剤はSb、SnO2、CeOの1つ以上であり、B/Lnが0.3~0.8であり、Y/Bが0.15~2であり、Y/Gdが1.100~3、光学ガラスの結晶化温度の上限が1,250℃以下であり、
Nb が4~8%、WO が6~10%、La が30~35%、Gd が3~7%、Y が6~10%であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項4】
全構成要素の含有量が次の4つの条件を1つ以上満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス、
1)SiO/(SiO+B)が0~0.25であり、
2)Y/Lnが0.08~0.45であり、
3)Y/Gdが1.155~2.5であり、
4)Y/(SiO+B)が0.16~0.8である。
【請求項5】
SiOが1~8%、及び/又はBが10~23%、及び/又はZrOが1~10%、及び/又はZnOが10~20%、及び/又はTiO+Nb+WOが4~22%、及び/又はLnが35~52%、及び/又はROが0~5%、及び/又はROが0~5%、及び/又は清澄剤が0~0.5%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
全構成要素の含有量が次の6つの条件を1つ以上満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス、
1)SiO/(SiO+B)が0.05~0.23であり、
2)Y/Lnが0.1~0.4であり、
3)Y/Gdが1.165~2であり、
4)Y/(SiO+B)が0.2~0.7であり、
5)B/Lnが0.3~0.6であり、
6)Y/Bが0.2~1.5である。
【請求項7】
SiOが1~4%、及び/又はBが15~20%、及び/又はZrOが2~6%、及び/又はZnOが13~17%、及び/又はTiO+Nb+WOが10~18%、及び/又はLnが40~50%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
全構成要素の含有量が次の6つの条件を1つ以上満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス、
1)SiO/(SiO+B)が0.08~0.2であり、
2)Y/Lnが0.1~0.3であり、
3)Y/(SiO+B)が0.3~0.6であり、
4)B/Lnが0.3~0.5であり、
5)Y/Bが0.3~1である。
【請求項9】
TiO が0~10%、Yb が0~5%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
TiO が0~5%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
TiO が含まれないことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
前記光学ガラスの屈折率(nd)が1.84~1.87であり、アッベ数(vd)が38.0~41.0であり、前記光学ガラスの粉末法の耐水性(DW)が等級2以上であり、粉末法の耐酸性(DA)が等級3以上であり、前記光学ガラスの熱膨張係数(α-30°C~70°C)が75×10-7/K以下であり、前記光学ガラスの泡の程度が等級A以上であり、前記光学ガラスの転化温度(Tg)が640℃以下であり、前記光学ガラスの結晶化温度の上限1,200℃以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項13】
前記光学ガラスの屈折率(nd)が1.85~1.86であり、アッベ数(vd)が38.5~40.0であり、前記光学ガラスの粉末法の耐水性(D)が等級1であり、粉末法の耐酸性(D)が等級2であり、前記光学ガラスの熱膨張係数(α-30°C~70°C)が70×10-7/K以下であり、前記光学ガラスの泡の程度が等級A以上であり、前記光学ガラスの転化温度(Tg)が625℃以下であり、前記光学ガラスの結晶化温度の上限1,180℃以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の前記光学ガラスから作製されたガラスプリフォーム。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載の前記光学ガラス又は請求項14に記載の前記ガラスプリフォームから作製された光学素子。
【請求項16】
請求項15に記載の前記光学素子から作製された光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスの分野に属し、特に光学ガラス、プリフォーム、光学素子及びその光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスは、光学機器のレンズ、プリズム、及びリフレクターの製造に使用でき、光学ガラスから製造されたすべての部品は、光学機器の重要な要素である。屈折率(nd)が1.84~1.87、アッベ数(vd)が38~41の光学ガラスは、その優れた透過率及び高屈折率によって、カメラ、望遠鏡、顕微鏡、及びその他の精密光学機器のレンズの製造に広く適用されている。近年、小型で軽量な光学機器を実現する傾向があり、光学素子を減少させるために、非球面レンズが利用されている。一方で、市場の需要もますます高まっている。
【0003】
しかし、非球面レンズは、ホットプレス成形、次に、研磨、研削、及び溶融ガラスの再製造を行う従来の方法によると、コストが高く、操作工程が複雑である。正確な鋳型成形が、光学ガラスから作製された光学素子を作製する方法であり、操作が簡単で低コストである。しかし、この方法で製造された非球面レンズは、ガラス材料の特性に対する要件が高く、すなわち、正確な鋳型成形、高い耐失透性、低融点、及び優れた泡の程度を容易に実現することが求められる。光学素子が、デジタルカメラ、ビジコン、及びその他の屋外で長期間使用する写真機器に使用される場合、レンズのサービス品質及び寿命を確保するために、光学ガラス材料はさらに、屋外環境で水や酸等の腐食に耐える優れた化学的安定性を有する必要がある。また、特別な温度で作動させる光学機器にとって、温度が変化した場合にガラスの膨張及び収縮の度合を低下させるために、ガラス材料はさらに良好な熱膨張係数を有する必要がある。
【0004】
特許CN104803600A、CN104098267A、及びCN105819682Aは、それぞれ、本発明と同一又は類似の屈折率(nd)及びアッベ数(vd)を有する光学ガラスを提供するが、他の要件を満たすことができない。
【発明の概要】
【0005】
従来技術の不足の観点から、本発明は、屈折率(nd)が1.84~1.87であり、アッベ数(vd)が38~41である光学ガラスを提供することを目的としている。光学ガラスは精密なプレス成形が容易で、耐失透性が高く、泡の程度が高く、化学的安定性が高く、低コストである。
【0006】
本発明は、さらに、その光学ガラスから作製されたプリフォーム、光学素子、及び光学機器を提供する。
【0007】
その目的を達成するために適用される技術的解決策は、以下の通りである。
【0008】
光学ガラスは、重量百分率で、0~10%のSiOと、5~25%のBと、0~15%のZrOと、10~25%のZnO、2~30%のTiO+Nb+WOと、30~55%のLnとを含有しており、LnがLa、Gd、Y、及びYbの合計含有量であり、B/Lnが0.3~0.8であり、Y/Bが0.15~2であり、Y /Gd が1.100~3、光学ガラスの結晶化温度の上限が1,250℃以下である。
【0009】
さらに、前記光学ガラスは、重量百分率で、0~10%のROと、0~10%のRnOと、0~1%の清澄剤とを含有しており、ROがMgO、CaO、SrO、又はBaOの1つ以上であり、RnOがLiO、NaO、KOのうち1つ以上であり、清澄剤がSb、SnO2、CeOの1つ以上である。
【0010】
光学ガラスは、重量百分率で、0~10%のSiO5~25%のBと、0~15%のZrOと、10~25%のZnOと、2~30%のTiO+Nb+WOと、30~55%のLnと、0~10%のROと、0~10%のRnOと、0~1%の清澄剤とを含有しており、LnがLa、Gd、Y、及びYbの合計含有量であり、ROがMgO、CaO、SrO、又はBaOの1つ以上であり、RnOがLiO、NaO、KOの1つ以上であり、清澄剤がSb、SnO2、CeOの1つ以上であり、B/Lnが0.3~0.8であり、Y/Bが0.15~2であり、Y /Gd が1.100~3、光学ガラスの結晶化温度の上限が1,250℃以下である。
【0011】
さらに、前記光学ガラスによれば、全構成要素の含有量が次の4つの条件を1つ以上満たす。
【0012】
1)SiO/(SiO+B)は0~0.25である。
【0013】
2)Y/Lnが0.08~0.45である。
【0014】
3)Y/Gd1.155~2.5である。
【0015】
4)Y/(SiO+B)が0.16~0.8である。
【0016】
さらに前記光学ガラスによれば、SiOが1~8%、及び/又はBが10~23%、及び/又はgZrOが1~10%、及び/又はZnOが10~20%、及び/又はTiO+Nb+WOが4~22%、及び/又はLnが35~52%、及び/又はROが0~5%、及び/又はROが0~5%、及び/又は清澄剤が0~0.5%である。
【0017】
さらに、前記光学ガラスによれば、全構成要素の含有量が次の6つの条件を1つ以上満たす。
【0018】
1)SiO/(SiO+B)が0.05~0.23である。
【0019】
2)Y/Lnが0.1~0.4である。
【0020】
3)Y/Gd1.165~2である。
【0021】
4)Y/(SiO+B)が0.2~0.7である。
【0022】
5)B/Ln0.3~0.6である。
【0023】
6)Y/Bが0.2~1.5である。
【0024】
さらに、前記光学ガラスによると、1~4%のSiO、及び/又はBが15~20%、及び/又はZrOが2~6%、及び/又はZnOが13~17%、及び/又はTiO+Nb+WOが10~18%、及び/又はLnが40~50%である。
【0025】
さらに、前記光学ガラスによれば、全構成要素の含有量が次の6つの条件を1つ以上満たす。
【0026】
1)SiO/(SiO+B)が0.08~0.2である。
【0027】
2)Y/Lnが0.1~0.3である。
【0029】
)Y/(SiO+B)が0.3~0.6である。
【0030】
)B/Lnが0.3~0.5である。
【0031】
)Y/Bが0.3~1である。
【0032】
さらに、前記光学ガラスによれば、Nbが1~15%、及び/又はWOが1~15%、及び/又はTiOが0~10%、及び/又はLaが20~45%、及び/又はGdが0~15%、及び/又はYが1~15%、及び/又はYbが0~5%である。
【0033】
さらに、前記光学ガラスによれば、Nbが2~10%、及び/又はWOが2~12%、及び/又はTiOが0~5%、及び/又はLaが25~40%、及び/又はGdが1~10%、及び/又はYは3~15%である。
【0034】
さらに、前記光学ガラスによれば、Nbが4~8%、及び/又はWOが6~10%、及び/又はLaが30~35%、及び/又はGdが3~7%、及び/又はYが6~10%であり、及び/又はTiOが含まれない。
【0035】
さらに、前記光学ガラスによれば、その屈折率(nd)は1.84~1.87であり、アッベ数(vd)が38.0~41.0であり、前記光学ガラスの粉末法の耐水性(D )が等級2以上であり、粉末法の耐酸性(D )が等級3以上であり、前記光学ガラスの熱膨張係数(α -30°C~70°C )が75×10 -7 /K以下であり、前記光学ガラスの泡の程度が等級A以上であり、前記光学ガラスの転化温度(Tg)が640℃以下であり、前記光学ガラスの結晶化温度の上限1,200℃以下である。
【0036】
さらに、前記光学ガラスによれば、その屈折率(nd)が1.85~1.86であり、アッベ数(vd)が38.5~40.0であり、前記光学ガラスの粉末法の耐水性(D )が等級1であり、粉末法の耐酸性(D )が等級2であり、前記光学ガラスの熱膨張係数(α -30°C~70°C )が70×10 -7 /K以下であり、前記光学ガラスの泡の程度が等級A 以上であり、前記光学ガラスの転化温度(Tg)が625℃以下であり、前記光学ガラスの結晶化温度の上限1,180℃以下である。
【0038】
ガラスプリフォームは、前記光学ガラスで作製される。
【0039】
光学素子は、前記光学ガラス又は前記ガラスプリフォームから作製される。
【0040】
光学機器は、前記光学素子から作製される。
【0041】
本発明により提供される高屈折及び低分散のガラス材料は、優れた耐失透性を有し、精密プレス成形が容易であり、希土類酸化物等の高価な原料の含有量を抑制し、コストを下げる。したがって、精密プレス成形過程での促進及び応用に適している。一方、生成物の生産量を改善するために、ガラスの化学的安定性及び泡の程度は、本発明における合理的な構成要素の比率によって改善される。いくつかの好ましい技術的解決策は、構成要素の比率をさらに最適化し、熱膨張係数を低下させて、耐結晶化性能を最適化し、ガラスの化学的安定性を強化することである。より良い製造品質及びより長い耐用年数を有する光学素子及び光学機器を製造するために、高いコストパフォーマンスを有するガラス材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0042】
光学ガラス
【0043】
以下の段落は、本発明によって提供される光学ガラスの組成を詳述する。特別な指示がない限り、すべてのガラス組成物の含有量及び合計含有量は、重量%で表される重量含有量を意味する。重量%は、光学ガラスの合計重量を占める特定の構成要素の重量又はいくつかの組成物の重量合計の百分率である。すべてのガラス組成物の比率又はいくつかの組成物の合計の比率は、対応する重量含有量又はその重量含有量の合計の比率である。
【0044】
本発明により提供される光学ガラスは、精密機器の製造のためのレンズ材料に必要な光学特性を有し、屈折率(nd)が1.84~1.87であり、アッベ数(vd)が38~41である。精密プレス成形が容易で、優れた化学的安定性及び泡の程度を有している。光学ガラスは、重量百分率で、0~10%のSiOと、5~25%のBと、0~15%のZrOと、10~25%のZnOと、2~30%のTiO+Nb+WOと、30~55%のLnとを含有しており、LnがLa、Gd3、3、及びYbの合計含有量であり、B/Lnが0.3~0.8、Y/Bが0.15~2である。
【0045】
は、ガラスの溶融性及び耐失透性を改善可能なガラスのネットワーク形状の構成要素である。上記の効果を達成するために、5%以上のB、好ましくは10%以上のB、さらに好ましくは15%以上のBが導入される。その導入量が25%より高いと、ガラス成形の安定性が低下し、屈折率も低下する。したがって、Bの含有量の上限は25%、好ましくは23%、さらに好ましくは20%に設定される。
【0046】
SiOは、本発明の任意の構成要素であり、ガラス成形剤の構成要素となる。SiOは、ガラス内に非常にコンパクトで堅固なシリカ四面体の3次元のネットワークを形成する。このネットワークはガラスに追加され、緩い酸化ホウ素の三角形のネットワーク体を強化して密度を高め、それによってガラスの高温粘度を高める。さらに、SiOの含有量が高いほど、ガラスの熱膨張係数は低くなる。本発明により提供される光学ガラス中のSiO含有量の下限は0%、好ましくは1%である。SiO含有量が高すぎると、ガラスの転化温度が上昇し、ガラスの溶融性が低下して、加工の難易度が高くなる。したがって、その含有量の上限は10%、好ましくは8%、さらに好ましくは4%である。
【0047】
SiO及びBは、両方ともガラスのネットワーク形状の構成要素である。本発明者は、研究結果を通じて、SiO/(SiO+B)が、本発明の配合下でのガラスの耐結晶化性能及び熱膨張係数に影響を与えることを発見した。SiO/(SiO+B)値が高いほど、ガラスの熱膨張係数が低くなり、温度に対するガラスの感度の減少をさらに助長する。しかし、その一方で、ガラスの耐結晶化性能が低下する。研究を通じて、本発明の配合物において、SiO/(SiO+B)値が0から0.25の範囲である場合、ガラスの熱膨張係数を75×10-7/Kより低くすることができ、さらに、耐結晶化性能が優れていることが発見された。さらに、その比率は好ましくは0.05から0.23、さらに好ましくは0.08から0.2の範囲である。
【0048】
本発明の任意の成分としてのZrOは、高反射及び低分散を有する酸化物であり、屈折率を改善し、ガラスの分散を調整するためにガラスに添加されてもよい。一方、耐結晶化性能及び化学的安定性を改善するために、概算量のZrOがガラスに添加されてもよい。しかしながら、本発明の光学ガラスは、その含有量が15%より高いと溶融しにくくなり、溶融温度が上昇してガラス中に異物が混入しやすくなり、その透過率が減少する。したがって、その含有量は0~15%、好ましくは1~10%、さらに好ましくは2~6%に設定される。
【0049】
ZnOは、ガラスの屈折率及び分散を調整し、ガラスの耐結晶化性能を改善し、ガラスの転化温度を低下させ、ガラスの化学的安定性を改善することができる。また、ZnOはガラスの高温粘度を低下させることができ、その結果、より低い温度でガラスが溶融されて、ガラスの透過率を高めることができる。しかし、過剰なZnOが添加されると、ガラスの耐結晶化性能が低下し、比較的低い高温粘度が成形に困難さをもたらす。したがって、本発明によって提供されるガラスシステムでは、ZnO含有量の下限は10%、好ましくは13%に設定される。ZnO含有量の上限は25%、好ましくは20%、さらに好ましくは17%に設定される。
【0050】
ガラスの結晶化防止の安定性を強化するために、任意の構成要素として、ガラスの屈折率を改善可能なTiOが、本発明によって提供されるガラスに追加されてもよい。また、ある程度Nb及びWOを代わりに用いてもよい。しかしながら、その過剰な含有量はガラスの透過率の減少を引き起こす。本発明により提供される光学ガラスにおいて、TiO含有量は0~10%、好ましくは0~5%、さらに好ましくは0%である。
【0051】
Nbは、ガラスの化学的安定性及び屈折率を改善可能な構成要素である。Nb含有量が1%より低い場合、光学定数は設計要件に到達しない。その含有量が15%より高い場合と、ガラスの耐失透性が低下する。したがって、Nb含有量は1~15%、好ましくは2~10%、さらに好ましくは4~8%であると定義される。
【0052】
WOは、主にガラスの光学定数を維持し、ガラスの結晶化特性を改善するために使用されるが、その含有量が多すぎるとガラスの透過率が減少し、染色度が増加し、結晶化特性が悪化する。したがって、WO含有量は好ましくは1~15%、さらに好ましくは2~12%、より好ましくは6~10%である。
【0053】
TiO、Nb、及びWOは、屈折率と分散を改善するのに効果的である。したがって、本発明によって提供される光学ガラスは、高反射、低分散、及び高透過率を有することが要求されることに基づいて、TiO+Nb+WOの上限は30%、好ましくは22%、さらに好ましくは18%に設定される。ただし、TiO+Nb+WOが低すぎると、ガラスの熱安定性及び成形性が低下する。したがって、その下限は2%、好ましくは4%、さらに好ましくは10%に設定される。
【0054】
希土類酸化物のLn(La3、Gd、Y、及びYb)は、ガラスの屈折率の改善に有益であるため添加される。その合計含有量が30%より低い場合、期待される光学定数が得られない。しかし、その合計含有量が55%より高くなると、ガラスの化学的安定性及び耐失透性が低下し、ガラスの原材料コストも増加する。したがって、La3、Gd、Y3、及びYbの合計含有量であるLnは30~55%、好ましくは35~52%、さらに好ましくは40~50%に設定される。
【0055】
希土類酸化物Lnはガラスネットワークに分散され、主に屈折率を改善するために使用される。しかしながら、本出願の発明者は、研究において、ガラスネットワークの構成要素であるB及びLnの比率が、ガラスの化学的安定性に大きな影響を及ぼすことを発見した。B/Lnが0.3未満の場合、化学的安定性、特に耐酸性が要件を満たすことができない。B/Lnが0.8より高い場合、屈折率は減少する。本発明によれば、その範囲は0.3~0.8、好ましくは0.3~0.6、さらに好ましくは0.3~0.5に設定される。
【0056】
希土類酸化物中のLaは、ガラスの光学特性を改善可能な構成要素であるが、その含有量が45%より高くなると、ガラスの耐失透性及び溶融性が劣化し得る。したがって、本発明によって提供されるLa含有量は好ましくは20~45%、さらに好ましくは25~40%、より好ましくは30~35%である。
【0057】
任意の構成要素としてのGdは、ガラスの屈折率を増加させることがあるが、ガラスの分散を明らかに改善するわけではない。本発明によれば、本発明によって提供されるGdは、ガラスの安定性を改善し、ガラスの化学的安定性を著しく強化し、屈折率を維持しつつ、分散の過度な上昇を制御するために導入され得る。しかし、その含有量が15%より高くなると、ガラスの耐失透性は低下するが、ガラス密度は上昇する。したがって、本発明によって提供されるGd含有量は0~15%、好ましくは1~10%、さらに好ましくは3~7%である。
【0058】
は、高い屈折率及びアッベ数を維持し、ガラス材料のコストの上昇を抑え、ガラスの溶融性及び耐失透性を改善することができ、ガラスの結晶化温度及び比重の上限を低下させることが可能な構成要素である。しかしながら、本発明の配合において、その含有量が15%より高くなると、ガラスの化学的安定性及び耐失透性が低下する。したがって、Y含有量は1%から15%、さらに好ましくは3%から15%、より好ましくは6%から10%の範囲である。
【0059】
及びその他の希土類酸化物は、ガラスの屈折率を改善することができる。また、そのコストはGdよりも低く、その構成要素は軽量化に有益である。したがって、その構成要素は先行技術に導入される。しかしながら、本発明の配合システムにおいて、Y含有量は、独立でガラスに影響を与えるだけでなく、以下を含む他の複数の構成要素とともに相乗的にガラスの複数の特性を調整する。
【0060】
本発明によって提供される光学ガラスがY及びLaの両方を含有する場合、ガラスの耐失透性を効果的に改善することができ、ガラス材料からガラス素子が作製される際に精密なプレス成形がより容易になって、ガラス素子の製造における難易度を低下させ得る。
【0061】
/Bが低すぎると、溶融過程でガスが放出されにくくなり、ガラスの泡の程度を悪化させる。したがって、Y/Bの下限は0.15、好ましくは0.2、さらに好ましくは0.3である。しかし、Y/Bが高すぎると、ガラスの化学的安定性が低下する傾向がある。したがって、Y/Bの上限は2であり、好ましくは1.8、さらに好ましくは1.5、より好ましくは1.3、よりさらに好ましくは1である。
【0062】
Gd及びYは、屈折率の観点で、ある程度置換されうる。より高いY/Gd値は、原材料コストの削減に有益である。さらに、本発明者は、Y/Gdが0.3より低く又は3より高くなると、ガラスの耐結晶化性能が低下することを発見した。したがって、Y/Gdは0.3~3、好ましくは0.5~2.5、さらに好ましくは1より高いが2以下に設定される。
【0063】
全希土類酸化物Y/LnにおけるYの割合は、耐結晶化性能を調整する明らかな効果を有する。Y/Lnの値が0.08~0.45の場合、耐結晶化性能は優れている。その値は0.1~0.4がより好ましく、さらに好ましくは0.1~0.3である。
【0064】
さらに、Y/(SiO+B)はガラスの化学的安定性に影響を与える。その値が0.16~0.8の場合、ガラスの化学的安定性が優れ、耐食性が強く、光学機器の耐用年数を効果的に延ばすことができる。Y/(SiO+B)値はさらに好ましくは0.2~0.7、より好ましくは0.3~0.6である。
【0065】
Ybは、高い屈折率及び低分散を有する構成要素である。その含有量が5%より高くなると、ガラスの安定性及び耐失透性が減少する。したがって、Ybの含有量の範囲は0~5%であると定義される。一方、Gd及びYを比較すると、Ybは高価であり、ガラスの溶融性の改善にほとんど影響を及ぼさないため、導入されないことが好ましい。
【0066】
アルカリ土類金属酸化物に属するROは、CaO、MgO、SrO、及びBaOの1つ以上であり、本発明の任意構成要素である。ガラスのヤング率を改善し、ガラスの高温粘度を低下させ、一方で、ガラス組成の均衡を図り、ガラスの溶融性を改善するために、概算量のアルカリ土類金属酸化物がガラスに追加されてもよい。しかし、ROの合計含有量が10%より高いと、過剰なアルカリ土類金属酸化物が耐結晶化性能を低下させる。したがって、本発明によれば、RO値は0~10%、好ましくは0~5%に設定される。
【0067】
アルカリ金属酸化物に属するRnOは、LiO、NaO、KOの1つ以上であり、本発明の任意構成要素である。本発明によって提供されるガラスシステムでは、期待される高温粘度を得るために、概算量のアルカリ金属酸化物が添加されてもよい。一方、概算量のアルカリ金属酸化物がBと共存する場合、Bネットワークのコンパクト性が改善されて、より良い光透過率を得ることができる。アルカリ金属酸化物が少なすぎるとガラスの粘度を適切な範囲に調整できないが、アルカリ金属酸化物が多すぎるとガラスの耐結晶化性能が大幅に損なわれる本発明において、RnO値は0~10%、好ましくは0~5%に設定される。
【0068】
また、本発明により提供されるガラスには、0~1%、好ましくは0~0.5%の清澄剤を導入することができる。清澄剤はSb、又は/及びCeO2、又は/及びSnOから選択され得る。
【0069】
本発明のガラス特性を損なわない範囲内で、必要に応じて、P、Bi、TeO、Ga、GeO、Ta、及びLuを含む上記に記載されていない少量の他の成分が添加できる。しかし、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、及びMo等の遷移金属の構成要素は、単体又は化合物の形態で含有されている場合でも、ガラスが着色され、可視光で特定の波長を吸収する可能性がある。可視光透過率を改善する本発明の特性を弱めてしまうので、特に可視領域において波長透過率を必要とする光学ガラスでは、実際には含まれていないことが好ましい。
【0070】
Pb、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSe化合物は、近年、有害化学物質として制御されて使用されているが、それは、ガラス製造過程だけでなく、環境保護対策のための加工手順や製造化後の処分においても必要である。したがって、環境への影響を重視する場合は、必然的な組み込みを除いて、それらは実際には含有されないことが好ましい。その結果、光学ガラスは環境を汚染する物質を実際に含有していない。したがって、本発明の光学ガラスは、特別な環境対策を講じなくても、製造、加工、及び廃棄されることができる。
【0071】
光学ガラスの特性
【0072】
光学の特性
【0073】
屈折率(nd)は、GB/T7962.1-2010の方法にしたがって分析される。
【0074】
分散係数(つまり、アッベ数、vd)は、GB/T7962.1-2010の方法にしたがって分析される。
【0075】
[熱特性]
【0076】
熱膨張係数(α-30°C~70°C)は、GB/T7962.16-2010の方法にしたがって、10-7/Kの単位で分析される。
【0077】
転化温度(T)は、GB/T7962.16-2010で指定された方法にしたがって、°Cの単位で分析される。
【0078】
結晶化温度の上限を分析する方法は、温度勾配炉の工程を使用してガラスの結晶化特性を分析し、180×10×10mmの試料にガラスを準備して、横方向に研磨し、温度勾配(5°C/cm)の炉に入れて1,400°Cに加熱し4時間保温した後、取り出して、室温まで自然冷却し、顕微鏡でガラスの結晶化を観察して、結晶に対応するガラスの最高温度が発見された時のガラスの結晶化温度の上限を得るステップを含む。ガラスの結晶化温度の上限が低いほど、高温でのガラスの安定性が強くなり、製造方法の性能が向上する。
【0079】
[化学的安定性]
【0080】
耐水性(D)は、GB/T17129の方法にしたがって分析される。
【0081】
耐酸性(D)は、GB/T17129の方法にしたがって分析される。
【0082】
[泡の程度]
【0083】
泡の程度は、GB/T7962.8-2010の方法にしたがって分析される。
【0084】
分析後、本発明によって提供されるガラスは、以下の特性を有する。屈折率(nd)は1.84~1.87、好ましくは1.85~1.86である。アッベ数(vd)は38~41、好ましくは38.5~40である。熱膨張係数は(α-30°C~70°C)は75×10-7/K以下であり、好ましくは70×10-7/K以下である。耐水性(D)は等級2以上、好ましくは等級1である。耐酸性は等級3以上、等級2以上が好ましい。結晶化温度の上限は1,250℃以下、さらに好ましくは1,200℃以下、より好ましくは1,180℃以下である。泡の程度は等級A以上、好ましくは等級A以上、さらに好ましくは等級A00である。ガラスの転化温度(Tg)は640℃以下、好ましくは630℃以下、さらに好ましくは625℃未満である。
【0085】
光学ガラスの実施形態
【0086】
本発明の技術的解決策をさらに明確に説明及び例示する目的で、以下の非制限的な実施形態が提供される。
【0087】
すべての実施形態又は比較例の対応する含有量にしたがって計量し、光学ガラスの通常の原料(酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び硝酸塩を含む)を混合し、混合した原料を白金るつぼに投入し、1,200~1,500°Cで2~6時間溶融し、そして、均質な溶融ガラスを得るために清澄化、攪拌、及び均質化を行い、その後、型内の溶融ガラスを鋳造及びアニールすることで、表1~6の実施形態1~48及び表7の比較例1~5の光学ガラスが得られる。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0088】
本発明の実施形態による光学ガラスは、精密なプレス成形が容易で、耐失透性に優れている。Ln含有量は55%より低く、コストも低い。良好な化学的安定性を備えた状態では、耐水性(D)は等級2以上であり、好ましい技術的解決策では等級1である。耐酸性は等級3以上であり、好ましい技術的解決策では等級2以上である。泡の程度は等級A以上であり、好ましい技術的解決策では等級A以上であり、さらに好ましい技術的解決策では等級A00以上である。このように泡の程度は優れている。また、熱膨張係数(α-30°C~70°C)は75×10-7/K以下、さらに好ましくはα-30°C~70°Cは70×10-7/K以下であり、温度に影響される膨張又は収縮の程度が小さい。一方、光学ガラスはさらに優れた耐結晶化性能を有している。
【0089】
ガラスプリフォームの実施形態
実施形態1~48で得られた光学ガラスは所定の大きさに切断され、表面に離型剤が均一に塗布される。その後、凹面メニスカスレンズ、凸面メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、及び平凹レンズ等の様々なレンズ及びプリズムを製造するために、金型が加熱及び軟化されてプレス成形される。または、実施形態1~48で得られた光学ガラスが使用されて、精密プレス成形用のプレモールド製品を成形し、精密プレス成形及び加工によりレンズ及びプリズム形状に精密プレス成形されてプリフォームを製造する。
【0090】
光学素子の実施形態
ガラスプリフォームの実施形態で得られたプリフォームは、ガラス内部の変形を低減しながら微調整のためアニールが施され、その結果、屈折率等の光学特性が所望の値となる。
【0091】
次に、各プリフォームが研削及び研磨されて、凹面メニスカスレンズ、凸面メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、及び平凹レンズ等の様々なレンズ及びプリズムを形成する。反射防止膜が、得られた光学素子の表面にコーティングされていてもよい。
【0092】
光学機器の実施形態
光学部品又は光学部材は、光学設計を介して、あるいは1つ以上の光学素子を介して、光学素子の実施形態で得られた光学素子によって形成されている。光学部品又は光学部材は、撮像装置、センサ、顕微鏡、医療技術、デジタル投影、通信、光通信技術/情報伝送、自動車分野における光学/照明、フォトリソグラフィー、エキシマレーザ、ウェハ、コンピュータチップ、集積回路、並びにそのような回路及びチップを含む電子機器、特に車両分野のカメラ器具及び機器に使用され得る。