(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20230815BHJP
B60Q 1/04 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
B60Q1/04 E
(21)【出願番号】P 2021526117
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022853
(87)【国際公開番号】W WO2020250933
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019109761
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019109762
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019122036
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】村上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】上杉 篤志
(72)【発明者】
【氏名】土屋 俊幸
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104319(WO,A1)
【文献】特開2019-81422(JP,A)
【文献】特開2007-128856(JP,A)
【文献】特開2010-35312(JP,A)
【文献】特開2009-171728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
B60Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体光源およびモータを含み、前記モータの運動に応じて前記半導体光源の出射光を灯具前方で走査する走査型光源を制御する点灯回路であって、
光源制御信号に応じた駆動電流を前記半導体光源に供給する定電流ドライバと、
配光指示データに応じた配光パターンが得られるように、前記光源制御信号を生成する光源制御信号発生器と、
前記光源制御信号が変化してから、前記半導体光源の点消灯状態が変化するのに要する遅延時間を測定する遅延時間測定器と、
を備え、前記遅延時間のばらつきおよび変動がキャンセルされることを特徴とする点灯回路。
【請求項2】
前記遅延時間にもとづいて、前記光源制御信号が補正されることを特徴とする請求項1に記載の点灯回路。
【請求項3】
前記遅延時間にもとづいて、前記配光指示データが補正されることを特徴とする請求項1に記載の点灯回路。
【請求項4】
前記定電流ドライバは、
前記半導体光源と接続される定電流出力のコンバータと、
前記半導体光源と並列に設けられるバイパススイッチと、
前記光源制御信号に応じて前記バイパススイッチを駆動するバッファと、
を含み、
前記遅延時間測定器は、前記半導体光源の両端間電圧にもとづいて前記遅延時間を測定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項5】
前記定電流ドライバは、
前記半導体光源と接続される定電圧出力のコンバータと、
前記半導体光源と直列に接続され、前記光源制御信号に応じてオン、オフが切り替え可能な定電流源と、
を含み、前記遅延時間測定器は、前記半導体光源に流れる電流または前記半導体光源の両端間電圧にもとづいて前記遅延時間を測定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項6】
前記光源制御信号発生器は、
前記配光パターンが得られるように、前記半導体光源のオン、オフのタイミングを規定するパラメータを演算し、当該パラメータを前記遅延時間にもとづて補正する演算処理部と、
補正後の前記パラメータにもとづいて、前記光源制御信号を生成する波形発生器と、
を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項7】
半導体光源およびモータを含み、前記モータの運動に応じて前記半導体光源の出射光を灯具前方で走査する走査型光源と、
配光パターンを生成するプロセッサと、
前記配光パターンにもとづいて前記走査型光源を制御する請求項1から6のいずれかに記載の点灯回路と、
を備えることを特徴とする車両用灯具システム。
【請求項8】
半導体光源およびモータを含み、前記モータの運動に応じて前記半導体光源の出射光を灯具前方で走査する走査型光源と、
前記モータの運動と同期したパルス信号の周期を測定し、前記周期の測定値と配光指示データにもとづいて、パラメータを演算し、前記パラメータを用いて前記半導体光源の光量の時間波形を指示する調光信号を生成し、前記調光信号に応じて前記半導体光源を点灯させる点灯回路と、
を備え、
前記点灯回路には、現サイクルにおける周期の測定値である現在値と、直前のサイクルにおいて前記パラメータの演算に利用した周期である基準値と、に関する判定条件が規定されており、前記判定条件がパス判定されるとき、前記現在値を前記パラメータの演算に利用し、前記判定条件がフェイル判定されるとき、前記現在値ではなく前記基準値を前記パラメータの演算に利用することを特徴とする車両用灯具。
【請求項9】
前記基準値に対する前記現在値の変動率が許容範囲に含まれるとき、前記判定条件がパス判定されることを特徴とする請求項8に記載の車両用灯具。
【請求項10】
前記モータの回転開始後、前記モータの回転数が安定するまでの間は、前記現在値を前記パラメータの演算に利用することを特徴とする請求項8または9に記載の車両用灯具。
【請求項11】
前記モータの回転開始後、前記判定条件を判定し続け、前記パス判定が所定回数連続発生すると、前記モータの回転数が安定したと判定することを特徴とする請求項10に記載の車両用灯具。
【請求項12】
前記モータは回転式であり、前記走査型光源は、前記モータに取り付けられる反射体をさらに含むことを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の車両用灯具。
【請求項13】
半導体光源と、モータと、イネーブル状態において前記モータを回転させ、ディセーブル状態において前記モータの回転を停止するモータドライバと、を含む走査型光源と、
前記モータドライバに対してイネーブル状態/ディセーブル状態を指示するイネーブル信号を供給するとともに、所望の配光パターンが得られるように前記モータの回転と同期したパルス状の位置検出信号と同期して前記半導体光源を点灯させる点灯回路と、
を備え、
前記点灯回路は、前記モータの回転開始のトリガとなるイベントが発生すると、前記イネーブル信号をアサートし、前記イネーブル信号のアサートの後、前記位置検出信号の周期が所定のしきい値より長い状態が所定第1時間継続したことを検出すると、前記イネーブル信号をネゲートし、その後、所定第2時間の経過後に、前記イネーブル信号を再アサートするリトライ動作を繰り返し、複数回のリトライ動作を経てなお、前記位置検出信号の周期が前記しきい値より短くならない場合に、前記イネーブル信号をネゲートした状態で異常停止することを特徴とする車両用灯具。
【請求項14】
前記点灯回路は、前記イベントの発生または1回目の前記イネーブル信号のネゲートから所定第3時間の経過後に、前記位置検出信号の周期が前記しきい値より短くならない場合に、前記異常停止することを特徴とする請求項13に記載の車両用灯具。
【請求項15】
前記点灯回路は、前記モータドライバに電源電圧を供給するモータ用電源回路を含むことを特徴とする請求項13または14に記載の車両用灯具。
【請求項16】
前記電源電圧が前記イネーブル信号であることを特徴とする請求項15に記載の車両用灯具。
【請求項17】
前記第1時間および前記第2時間は、前記モータ用電源回路の温度上昇および温度低下を考慮して決められることを特徴とする請求項16に記載の車両用灯具。
【請求項18】
前記モータ用電源回路はリニアレギュレータであることを特徴とする請求項16または17に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具は、一般にロービームとハイビームとを切りかえることが可能である。ロービームは、自車近傍を所定の照度で照明するものであって、対向車や先行車にグレアを与えないよう配光規定が定められており、主に市街地を走行する場合に用いられる。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に対向車や先行車が少ない道路を高速走行する場合に用いられる。したがって、ハイビームはロービームと比較してより運転者による視認性に優れているが、車両前方に存在する車両の運転者や歩行者にグレアを与えてしまうという問題がある。
【0003】
近年、車両の周囲の状態にもとづいて、ハイビームの配光パターンを動的、適応的に制御するADB(Adaptive Driving Beam)技術が提案されている。ADB技術は、車両の前方の先行車、対向車や歩行者の有無を検出し、車両あるいは歩行者に対応する領域を減光するなどして、車両あるいは歩行者に与えるグレアを低減するものである。
【0004】
ADB機能を実現する方式として、アクチュエータを制御するシャッター方式、ロータリー方式、LEDアレイ方式などが提案されている。シャッター方式やロータリー方式は、消灯領域(遮光領域)の幅を連続的に変化させることが可能であるが、消灯領域の数が1個に制限される。LEDアレイ方式は、消灯領域を複数個、設定することが可能であるが、消灯領域の幅が、LEDチップの照射幅に制約されるため、離散的となる。
【0005】
本出願人は、これらの問題点を解決可能なADB方式として、スキャン方式を提案している(特許文献2~4参照)。スキャン方式とは、回転するリフレクタ(ブレード)に光を入射し、リフレクタの回転位置に応じた角度で入射光を反射して反射光を車両前方で走査しつつ、光源の点消灯や輝度を、リフレクタの回転位置に応じて変化させることで、車両前方に、所望の配光パターンを形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-205357号公報
【文献】特開2012-224317号公報
【文献】特開2010-6109号公報
【文献】国際公開WO2016/167250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
課題1. 光源の点灯指令(消灯指令)を発生してから、光源が実際に点灯(消灯)するまでには意図しない、あるいは意図的に導入された遅延が存在する。回路の個体ばらつきや温度変動、電源電圧変動などに起因して、遅延量にもばらつきや変動が発生する。遅延量のばらつきや変動は、点灯タイミング(あるいは消灯タイミング)のシフトをもたらし、本来、ビームを照射すべきでない領域にビームが照射されたり、本来、ビームを照射すべき領域にビームが照射されない状況が生ずる。つまり配光パターンの精度が低下する。
【0008】
課題2. リフレクタの回転位置と同期した光源の点消灯あるいは発光輝度の制御のためには、走査周期が必要となる。走査周期は、モータの回転と同期したパルス信号の周期を測定することにより取得することができる。ところが、パルス信号にノイズが混入すると、走査周期が誤って測定される。誤った走査周期にもとづいて光源を制御すると、遮光すべき領域にビームを照射して、そこに位置する交通参加者にグレアを与えるおそれがある。また反対にビームを照射すべき領域が遮光されるため、車両前方が暗くなり、車両前方の視認性が低下する。
【0009】
課題3. リフレクタを回転させるために、モータと、モータを所定の回転数で駆動するモータドライバが設けられる。モータに異物が挟まったり干渉したりすると、モータに駆動電流を供給してトルクを発生させても、モータが回転しないロック状態となる。ロック状態において駆動電流を供給し続けると、モータおよびモータドライバが異常発熱し、信頼性に悪影響を及ぼす。
【0010】
また本発明の一態様は、課題1に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、配光パターンの精度を改善した点灯回路の提供にある。
【0011】
本発明の一態様は、課題2に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、位置検出のためのパルス信号に重畳されるノイズの影響を低減した走査型の車両用灯具の提供にある。
【0012】
また本発明の一態様は、課題3に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、ロック保護機能を備える車両用灯具の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態または複数の実施形態を指すものとして用いる場合がある。
【0014】
1. 一実施形態に係る点灯回路は、半導体光源およびモータを含み、モータの運動に応じて半導体光源の出射光を灯具前方で走査する走査型光源を制御する。点灯回路は、光源制御信号に応じた駆動電流を半導体光源に供給する定電流ドライバと、配光指示データに応じた配光パターンが得られるように、光源制御信号を生成する光源制御信号発生器と、光源制御信号が変化してから、半導体光源の点消灯状態が変化するのに要する遅延時間を測定する遅延時間測定器と、を備える。点灯回路は、遅延時間のばらつきおよび変動をキャンセルする。
【0015】
2. 一実施形態に係る車両用灯具は、走査型光源と、点灯回路を備える。走査型光源は、半導体光源およびモータを含み、モータの運動に応じて半導体光源の出射光を灯具前方で走査する。点灯回路は、モータの運動と同期したパルス信号の周期を測定し、周期の測定値と配光指示データにもとづいて、パラメータを演算し、パラメータを用いて半導体光源の光量の時間波形を指示する調光信号を生成し、調光信号に応じて半導体光源を点灯させる点灯回路と、を備える。点灯回路には、現サイクルにおける周期の測定値である現在値と、直前のサイクルにおいてパラメータの演算に利用した周期である基準値と、に関する判定条件が規定されている。点灯回路は、判定条件がパス判定されるとき、現在値をパラメータの演算に利用し、判定条件がフェイル判定されるとき、現在値ではなく基準値をパラメータの演算に利用する。
【0016】
3. 一実施形態に係る車両用灯具は、走査型光源と、点灯回路を備える。走査型光源は、半導体光源と、モータと、イネーブル状態においてモータを回転させ、ディセーブル状態においてモータの回転を停止するモータドライバと、を含む。点灯回路は、モータドライバに対してモータドライバのイネーブル状態/ディセーブル状態を指示するイネーブル信号を供給するとともに、所望の配光パターンが得られるようにモータの回転と同期したパルス状の位置検出信号と同期して半導体光源を点灯させる点灯回路と、を備える。点灯回路は、モータの回転開始のトリガとなるイベントが発生すると、イネーブル信号をアサートし、イネーブル信号のアサートの後、位置検出信号の周期が所定のしきい値より長い状態が所定第1時間継続したことを検出すると、イネーブル信号をネゲートし、その後、所定第2時間の経過後に、イネーブル信号を再アサートするリトライ動作を繰り返す。そして複数回のリトライ動作を経てなお、位置検出信号の周期が前記しきい値より短くならない場合に、イネーブル信号をネゲートした状態で異常停止する。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、配光パターンの精度を改善できる。また本発明の一実施形態によれば、スキャン方式の車両用灯具において、位置検出のためのパルス信号に重畳されるノイズの影響を低減できる。また本発明の一実施形態によれば、ロック保護機能を備えるスキャン方式の車両用灯具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る車両用灯具を模式的に示す斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る車両用灯具を備える灯具システムのブロック図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、調光信号の生成を説明する図である。
【
図4】点灯回路による光源の制御シーケンスを示す図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、FG信号のノイズの影響を説明する図である。
【
図7】基準値T
REFと現在値T
CURの関係にもとづくパラメータの演算を説明する図である。
【
図8】基準値T
REFと現在値T
CURの関係にもとづく調光信号の生成を説明する図である。
【
図9】実施形態2に係る車両用灯具を備える灯具システムのブロック図である。
【
図10】ロック保護機能を備えるモータ制御部のブロック図である。
【
図11】
図10のモータ制御部のロック保護の動作波形図である。
【
図12】
図12(a)、(b)は、モータがロックしているときの動作を示す図である。
【
図13】実施形態3に係る車両用灯具を備える灯具システムのブロック図である。
【
図14】半導体光源の制御遅延を説明する図である。
【
図15】
図15(a)~(c)は、比較技術を説明する図である。
【
図16】
図16(a)、(b)は、遅延時間にもとづく光源制御信号のタイミング補正を説明する図である。
【
図17】定電流ドライバの構成例を示す回路図である。
【
図19】定電流ドライバの別の構成例を示す回路図である。
【
図20】定電流ドライバの変形例を示す回路図である。
【
図21】変形例に係る光源の制御シーケンスを説明する図である。
【
図22】
図22(a)、(b)は、走査型光源の変形例を示す図である。
【
図23】
図23(a)、(b)は、変形例に係る走査型光源を備える灯具システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0023】
図1は、車両用灯具2を模式的に示す斜視図である。
図1の車両用灯具2は、スキャン方式のADB機能を有し、車両前方に多様な配光パターン(ハイビーム)を形成する。また車両用灯具2はパッシング操作によっても点灯する。車両用灯具2は主として、走査型光源100、投影レンズ102および点灯回路200を備える。
【0024】
走査型光源100は、半導体光源110を含み、半導体光源110の出射光を車両前方で走査する。半導体光源110は複数個、設けてもよいが、ここでは理解の容易化、説明の簡素化のため、半導体光源110の個数を1とする。半導体光源110には、LED(発光ダイオード)あるいはレーザダイオードなどの半導体光源を用いることができる。走査型光源100は、半導体光源110に加えて、ブレード(反射体)112を有する。ブレード112は半導体光源110の出射光L1を受け、所定の周期運動を繰り返すことによりその反射光L2を車両前方で水平方向(図中、H方向)に走査する。本実施形態では、ブレード112は、図示しないモータのロータに取り付けられており、回転運動を行なう。ある時刻においてブレード112への入射光L1は、ブレード112の位置(ロータの回転角)に応じた反射角で反射し、車両前方にターゲット領域300を形成する。ターゲット領域300は、水平方向(H方向)、垂直方向(V方向)それぞれに所定の幅を有している。
【0025】
ブレード112が回転することで、反射角が変化し、ターゲット領域300の位置(走査位置)が水平走査(H方向)される。この動作を高速に、たとえば50Hz以上で繰り返すことで車両前方には、配光パターン310が形成される。
【0026】
点灯回路200は、与えられた配光パターン310が得られるように、走査型光源100の走査と同期して、具体的にはブレード112の周期運動と同期しながら、半導体光源110の光量(輝度)を制御する。走査の間、各走査位置におけるターゲット領域300の照度が制御され、それにより照度が非ゼロの範囲(点灯領域RON)と、照度がゼロの範囲(消灯領域ROFF)が形成される。配光パターン310は、点灯領域RONと消灯領域ROFFの組み合わせである。
【0027】
(実施形態1)
続いて、実施形態1に係る車両用灯具2の点灯回路200の構成を説明する。
図2は、実施形態1に係る車両用灯具2を備える灯具システム1のブロック図である。灯具システム1は、車両側ECU4および車両用灯具2を備える。
【0028】
車両側ECU4は、車両用灯具2の状態を制御する。具体的には、車両側ECU4は点灯回路200に対して、ハイビーム、ロービームの点消灯指示、ADB制御におけるハイビームの配光、パッシング点灯などを含む指示信号S3を供給する。
【0029】
配光制御に関して、車両側ECU4には、カメラ情報S1や車両情報S2が供給されており、車両側ECU4は、カメラ情報S1にもとづいて、車両前方の状況、具体的には対向車、先行車の有無、歩行者の有無等を検出する。また車両側ECU4は、車両情報S2にもとづいて、現在の車速、操舵角などを検出する。車両側ECU4はこれらの情報にもとづいて、車両前方に照射すべき配光パターンを決定し、配光パターンを指示する情報(配光指示データS3aという)を含む指示信号S3を、車両用灯具2に送信する。また、車両側ECU4は、運転者がパッシング操作を行うと、それに応じた点灯指示を含む指示信号S3を、車両用灯具2に送信する。なお、配光パターンの生成機能は、車両用灯具2の内部、たとえば点灯回路200のECUに実装してもよい。
【0030】
車両用灯具2は、ハイビーム用光源である走査型光源100、ロービーム用光源130および点灯回路200を備える。
【0031】
走査型光源100は、半導体光源110およびブレード112に加えて、モータ120、モータドライバ122を備える。ブレード112は、モータ120に取り付けられている。モータ120の回転に応じて、走査型光源100の出射光L1の入射角(および反射角)が変化し、反射光L2が車両前方で走査される。モータドライバ122は、点灯回路200からの電源電圧VREGが供給される間、イネーブル状態となり、モータ120を所定の回転数で回転させる。モータドライバ122は、電源電圧VREGが遮断される間、ディセーブル状態であり、モータ120への駆動電流の供給を停止し、モータ120の回転を停止する。つまり電源電圧VREGは、モータドライバ122のイネーブル状態/ディセーブル状態を切り替えるためのイネーブル信号であり、電源電圧VREGの供給状態がアサート、遮断状態がネゲート(ネゲート、デアサート)である。
【0032】
点灯回路200は、車両側ECU4からの指示信号S3に応じて、走査型光源100およびロービーム用光源130の点消灯や発光輝度を制御し、またモータ120の回転、停止を制御する。
【0033】
点灯回路200は、灯具ECU206、ハイビーム用の定電流ドライバ220、モータ用電源回路230、ロービーム用の定電流ドライバ240を備える。
【0034】
灯具ECU206はマイコンを含み、点灯回路200を統合的に制御する。灯具ECU206は、ロービームの点灯指示を含む指示信号S3を受けると、ロービーム点灯指示信号S7をアサートし(たとえばハイ)、定電流ドライバ240をイネーブルとする。定電流ドライバ240は、イネーブル状態において駆動電流ILEDをロービーム用光源130に供給し、ロービームを点灯させる。
【0035】
以下、走査型光源100の制御について説明する。灯具ECU206は、モータ用電源回路230に対して、電源電圧VREGの生成、停止を指示する電源制御信号S5を供給する。したがってモータ120の回転、停止は、電源制御信号S5にもとづいて制御される。本実施形態において、車両のイグニッションをオンした後、最初の半導体光源110の点灯指示に応答して、電源制御信号S5がアサート(たとえばハイ)され、モータ120の回転が開始する。
【0036】
灯具ECU206には、指示信号S3に含まれる配光指示データS3aに加えて、位置検出信号S4が入力される。位置検出信号S4は、ブレード112の位置、言い換えれば現在のビームの走査位置を示すパルス信号であり、モータ120の回転と同期した回転検出信号である。たとえば位置検出信号S4は、ブレード112の所定の基準箇所が、所定位置を通過するタイミングを示してもよい。たとえば基準箇所は、2枚のブレード112の端部(区切れ目)であってもよいし、各ブレードの中央であってもよく、任意の箇所とすることができる。
【0037】
ブレード112を回転させるモータ120には、ホール素子が取り付けられていてもよい。この場合、ホール素子からのホール信号は、ロータの位置、すなわちブレードの位置に応じた周期波形となる。たとえばモータドライバ122は、ホール信号の極性が反転するタイミングを示すパルス信号FG(Frequency Generation)を生成する機能を備える。このFG信号を、位置検出信号S4として利用してもよい。
【0038】
センサレス駆動方式のモータドライバ122は、モータ120のコイルに発生する逆起電力にもとづいてFG信号を発生してよい。
【0039】
本実施形態では、位置検出信号S4は、モータ120が1/2回転するたびに、ネガティブエッジ(ポジティブエッジであってもよい)を有するパルス信号である。モータ120に2枚のブレード112が取り付けられている場合、位置検出信号S4の周期は、ビームの走査周期と一致することに留意されたい。
【0040】
点灯回路200は、通常点灯期間中、モータ120の回転と同期して、言い換えればビームの走査位置と同期して、配光指示データS3aが指示する配光パターンが得られるように、半導体光源110の光量(点消灯や発光輝度)の時間波形を示す調光信号S6を生成し、調光信号S6に応じて半導体光源を点灯させる。この一連の処理が繰り返し行われる。
【0041】
調光信号生成部210は、灯具ECU206に実装される。調光信号生成部210は、通常点灯期間中、指示信号S3と位置検出信号S4にもとづいて、調光信号S6を生成する。調光信号S6は、半導体光源110のオン、オフに対応する示す2値であってもよい。あるいは調光信号S6を多階調のデジタル信号としてもよいし、連続的なアナログ信号としてもよい。
【0042】
半導体光源110の光量を変化させる方式としては、アナログ調光(アナログ減光)とPWM調光が存在する。アナログ調光では、駆動電流ILEDの電流量(振幅)が調節され、PWM調光では、駆動電流ILEDを時分割でオン、オフし、オン時間の比率が調節される。たとえば、調光信号生成部210が生成する調光信号S6は、定電流ドライバ220のアナログ調光入力ADIMに供給される。定電流ドライバ220は、調光信号S6に比例した電流量の駆動電流ILEDを生成する。
【0043】
2枚のブレード112の境界には隙間が空いており、またブレード112の端部は中央よりも鏡面の精度が悪い場合がある。このような場合、ブレード112の両端を利用しないこととし、したがって走査周期の区切れ目ごとに、配光パターンにかかわらず半導体光源110を消灯させるとよい。本実施形態において、走査周期の区切れ目は、位置検出信号S4のネガティブエッジに対応付けられるから、調光信号生成部210は、通常点灯期間中、位置検出信号S4のネガティブエッジごとに、半導体光源110が消灯するような調光信号S6を生成する。
【0044】
図3(a)~(c)は、調光信号S6の生成を説明する図である。
図3(a)に示すように、たとえば配光指示データS3aは、角度情報として与えられる。この例では左端をθ
0,右端をθ
MAXとしており、照射領域と遮光領域の境界を指定する値θ
a,θ
b,θ
c,θ
d,θ
e,θ
fを含む。なお、遮光領域の個数の上限を制限してもよい。
【0045】
図3(b)は、走査型光源100のスキャン角の時間波形を示す。スキャン角の周期は、位置検出信号S4の周期に対応付けられる。
【0046】
任意の時刻tにおける角度θは、以下の式(1)で表される。Tsは走査周期であり、tiは、i番目の走査サイクルの開始時刻である。
θ(t)=θ0+(θMAX-θ0)/Ts×(t-ti) …(1)
【0047】
i番目の走査サイクルにおいて、任意の角度θに、半導体光源110の出射ビーム(ターゲット領域300)が照射される時刻tは、以下の式(2)で表される。
t=(θ-θ0)Ts/(θMAX-θ0)+ti …(2)
【0048】
この式(2)にもとづいて、θ
a~θ
fに対応する時刻t
a~t
fが計算される。そして、各走査サイクルにおいて、計算された時刻t
a~t
fにおいて信号レベルが変化する調光信号S6が定電流ドライバ220に供給され、半導体光源110の光量の時間波形が制御される。これにより
図3(a)の配光指示データS3aに対応する配光パターンを形成することができる。
【0049】
ここで走査周期Tsは、モータ120の回転数に応じて変化するため、時間的に変動する。したがって正確な配光制御のためには、走査サイクル毎に走査周期Tsを測定し、調光信号の生成に反映させる必要がある。なおモータ120の回転数が保証されている場合には、走査周期Tsの測定を省略できる。
【0050】
図4は、点灯回路200による光源の制御シーケンスを示す図である。
図4は、モータが目標速度で回転しているときの制御シーケンスを表す。Ts
iは、i番目の走査サイクルにおける走査周期を表す。上述のようにモータドライバ122は、ロータが所定電気角(あるいは機械角)回転する度にレベルが遷移するパルス状の回転数検出(FG)信号を出力可能に構成される。FG信号は、モータのロータの位置を示す位置検出信号S4と把握できる。
図4において、FG信号は、走査周期の区切れ目ごとにネガティブエッジを有するものとする。
【0051】
i番目の走査サイクルにおいて測定された走査周期Tsiは、2つ後のサイクルにおける光源制御に利用される。
【0052】
まずi番目の走査サイクルにおいて周期Ts
iが測定される。周期Ts
iは、隣接するFG信号のネガティブエッジの間隔をカウンタを用いて測定することができる。次の(i+1)番目の走査サイクルにおいて、直前に測定した周期Ts
iを利用して、光源の調光信号に必要なパラメータ(
図3のt
a~t
f)が演算される。点消灯のみでなく、光量を多階調で変化させる場合、パラメータは、各時刻における電流量や、電流量の時間的な傾きを含んでもよい。
【0053】
そして次の(i+2)番目の走査サイクルにおいて、前のサイクルで演算したパラメータにもとづいて調光信号S6が生成され、光源が制御される。
【0054】
図5は、調光信号生成部210の機能ブロック図である。調光信号生成部210は、カウンタ212、パラメータ演算部214、波形生成部216を含む。カウンタ212は、クロックCLKを利用して、位置検出信号S4の周期を測定する。パラメータ演算部214は、周期Tsと配光指示データS3aにもとづいて、調光信号S6の生成に必要なパラメータPARAMを演算する。波形生成部216は、パラメータ演算部214によって得られたパラメータPARAMと、クロックCLKにもとづいて、調光信号S6を生成する。調光信号生成部210の各ブロックは、ハードウェアで実装してもよいし、ソフトウェアとそれを実行するプロセッサの組み合わせで実装してもよい。
【0055】
図4の制御シーケンスでは、パルス状のFG信号の周期にもとづいて、走査周期Tsが測定される。したがってFG信号にノイズが混入すると、走査周期Tsが誤って測定される。
図6(a)~(c)は、FG信号のノイズの影響を説明する図である。
図6(a)に示すように、i番目の走査サイクルにおいて、FG信号にノイズN1が発生したとする。そうすると、ノイズN1によって、その走査周期Ts
i’が短く検出される。以下、’は誤った情報であることを示す。続く走査サイクル(i+1)’において、直前に測定した周期Ts
i’を利用して、光源の調光信号に必要なパラメータ(
図3のt
a~t
f)が演算される。そして次の(i+2)番目の走査サイクルにおいて、前のサイクルで演算したパラメータにもとづいて調光信号S6が生成され、光源が制御される。
【0056】
図6(b)は、ノイズN1がなく、走査周期Tsが正しく測定されているときに形成されるべき配光パターンを示す図であり、先行車400の部分が遮光されている。
【0057】
図6(c)は、ノイズN1の影響により、走査周期Tsが誤って測定されたときに形成される配光パターンを示す。ノイズN1によって走査周期Tsが短く検出されると、パラメータt
a~t
fが誤った値となる。その結果、配光パターンは水平方向に、Ts
i’/Ts
i倍にスケーリングされることとなる。そのため、先行車400に光が照射され、グレアを与えてしまう。また、本来、光を照射すべき領域402が遮光されてしまう。
【0058】
このようなノイズの影響を低減するために、点灯回路200は以下の特徴を有する。
【0059】
点灯回路200は、毎走査サイクル、走査周期Tsを測定する。そして現サイクルにおける周期の測定値である現在値TCURと直前のサイクルにおいて調光信号S6の生成に利用した周期の測定値である基準値TREFとが所定の関係を満たす場合、次サイクルにおいて、現在値TCURを用いて調光信号の生成に必要なパラメータの演算を行うとともに、使用した現在値TCURによって基準値TREFを更新する。
【0060】
反対に、点灯回路200は、現在値TCURと基準値TREFとが所定の関係を満たさないとき、現在値TCURではなく、基準値TREFを調光信号S6の生成のためのパラメータの演算に利用する。この場合、基準値TREFは更新されない。
【0061】
たとえば点灯回路200は、基準値TREFに対する現在値TCURの変動率αが許容範囲から逸脱するときに、現在値TCURを次サイクルにおけるパラメータの演算に利用しない。この場合、所定の関係とは、変動率αが許容範囲に含まれることである。
【0062】
たとえば変動率αをTCUR/TREFで定義し、この変動率αが所定範囲(たとえば±10%、すなわち0.9~1.1)に含まれる場合、現在値TCURを用いて次サイクルのパラメータを演算し、含まれない場合、基準値TREFを用いて次サイクルのパラメータを演算する。
【0063】
あるいは変動率αを(TCUR-TREF)/TREFで定義し、この変動率αが所定範囲(たとえば-0.1~+0.1)に含まれる場合、現在値TCURを用いてパラメータを演算し、含まれない場合、基準値TREFを用いてパラメータを演算してもよい。
【0064】
あるいは点灯回路200は、基準値TREFと現在値TCURの差分が許容範囲から逸脱するときに、現在値TCURをパラメータの演算に利用しないようにしてもよい。
【0065】
図7は、基準値T
REFと現在値T
CURの関係にもとづくパラメータの演算を説明する図である。
図7は位置検出信号S4(FG信号)にノイズが含まれないときの動作を示す。モータの回転数が安定しているとき、走査サイクルごとに測定される現在値T
CURは実質的に一定であり、基準値T
REFと現在値T
CURは常に所定の関係を満たす。したがって、各走査サイクルにおけるパラメータの演算には、1個前のサイクルの測定値Tsが用いられる。
【0066】
図8は、基準値T
REFと現在値T
CURの関係にもとづく調光信号S6の生成を説明する図である。
図8は位置検出信号S4(FG信号)にノイズが含まれるときの動作を示す。i+2番目の走査サイクルにおいて位置検出信号S4にノイズN1が含まれている。
【0067】
(i+2)’番目の走査サイクルにおいて、前の(i+1)番目のサイクルの演算により得られたパラメータにもとづいて調光信号S6が生成される。したがって期間ti+2’~ti+3’の間の調光信号S6の波形は正しい。(i+2)’番目の走査サイクルの現在値は、基準値と乖離しているから、フェイル判定がなされる。したがってそのときの基準値Tsi+1がそのまま維持される。
【0068】
続いて、時刻ti+3’に次のサイクルに移行する。ti+3’からti+3までの期間、誤った調光信号S6が出力される。この部分にハッチングを付す。続く時刻ti+3に(i+3)番目の走査サイクルに移行する。このサイクルでは、(i+2)’番目や(i+3)’番目でなく、(i+1)番目の走査周期Tsi+1にもとづいて計算されたパラメータが利用されるから、調光信号S6の波形は正しい。
【0069】
以上が点灯回路200の動作である。
図8に示すように、ノイズの周期を受けている走査周期Ts
i+2’およびTs
i+3’は、いずれの走査サイクルにおいても、パラメータの演算に利用されていない。これにより、ノイズが発生した直後の期間(ハッチング部分)のみ調光信号S6が乱れるが、時刻t
i+3以降は、正常な動作に復帰する。
【0070】
このように実施形態1に係る点灯回路200によれば、ノイズの影響を低減できる。
【0071】
ただし、この制御は、モータの回転数が安定化されている場合にのみ有効である。なぜなら、モータの加速中(あるいは減速中)は、測定周期の変動が、回転数の変化に起因したものであるか、ノイズに起因したものであるかを区別できないからである。そこで、点灯回路200は、モータ120の回転開始後、モータ120の回転数が安定するまでの期間(除外期間という)は、変動率にかかわらず、現在値TCURをパラメータの演算に利用するとよい。
【0072】
たとえば、起動開始から判定条件のパス・フェイルを判定し続け、パス判定が1回、あるいは所定回数連続して発生すると、回転数が安定したものとみなして、除外期間から通常期間に移行してもよい。これにより、モータの回転数が安定化したことを確実に検知できる。
【0073】
あるいは、起動開始から所定時間の経過後に、回転数が安定したものとみなして、除外期間を終了してもよい。あるいは、起動開始から、位置検出信号S4のエッジが所定回数発生したときに、回転数が安定したものとみなして、除外期間を終了してもよい。これらの場合、除外期間において変動率を計算する必要はない。
【0074】
(実施形態2)
図9は、実施形態2に係る車両用灯具2を備える灯具システム1のブロック図である。灯具システム1は、車両側ECU4および車両用灯具2を備える。
【0075】
実施形態1と共通する説明は省略し、相違点あるいは変更点を重点的に説明する。
【0076】
灯具ECU206は、モータ用電源回路230に対して、電源電圧VREGの生成、停止を指示する電源制御信号S5を供給するモータ制御部250を含む。モータ120の回転、停止は、電源制御信号S5にもとづいて制御される。本実施形態において、車両のイグニッションをオンした後、最初の半導体光源110の点灯指示に応答して、電源制御信号S5がアサート(たとえばハイ)され、モータ120の回転が開始する。
【0077】
点灯回路200は、モータ120の回転開始のトリガとなるイベントが発生すると、イネーブル信号ENである電源電圧VREGをアサートする。モータ120の回転開始のトリガとなるイベントは、たとえばイグニッションオンの後の、最初のロービーム用光源130またはハイビーム用半導体光源110の点灯指示であってもよい。あるいは、モータ120の回転開始のトリガとなるイベントは、イグニッションオンであってもよい。
【0078】
点灯回路200は、イネーブル信号EN(VREG)のアサートの後、位置検出信号S4であるFG信号の周期Tsが所定のしきい値TTHより長い状態、言い換えればモータの回転数が所定値より低い状態が所定第1時間Ta継続したことを検出すると、それをロック状態と判定し、イネーブル信号EN(VREG)をネゲート(遮断、すなわち0V)する。
【0079】
上述のように、本実施形態においてイネーブル信号ENは、モータドライバ122に供給される電源電圧VREGである。モータ120のロック状態においては、モータ120に流れる駆動電流が正常状態よりも大きくなる。この過大な駆動電流は、モータドライバ122の電源であるモータ用電源回路230から供給される。
【0080】
以上のことから、本実施形態ではロック状態において、モータ120およびモータドライバ122に加えて、モータ用電源回路230にも、過大な電流が流れ、それらの発熱や信頼性の低下が問題となり得る。モータ用電源回路230がDC/DCコンバータである場合にはモータ用電源回路230の発熱は幾分緩和されるが、モータ用電源回路230をリニアレギュレータで構成した場合、モータ用電源回路230における発熱はより顕著となる。モータ用電源回路230が高温になると、モータ用電源回路230を構成する半導体素子の信頼性が低下する。またモータ用電源回路230の発熱によって車両用灯具2の筐体内の温度が上昇すると、半導体光源110、130の温度が上昇して、温度ディレーティングを引き起こす可能性がある。
【0081】
そこで第1時間Taは、モータ120、モータドライバ122、モータ用電源回路230のすべての信頼性が担保される範囲で定めればよく、たとえば0.5~3秒程度の範囲で決めてもよい。
【0082】
その後、点灯回路200は、イネーブル信号VREGをネゲートした後、所定第2時間Tbの経過後に、イネーブル信号VREGを再アサートするリトライ動作を繰り返す。第2時間Tbは、第1時間Taの間において上昇するであろうモータ120、モータドライバ122、モータ用電源回路230の温度を緩和するのに十分な時間であり、第1時間Taより長く定めることが望ましい。たとえばTa=1秒であり、Tb=8秒である。すなわち、第1時間Taと第2時間Tbは、モータ用電源回路230の温度上昇と温度低下を考慮して定められる。
【0083】
そして点灯回路200は複数回のリトライ動作を経てなお、位置検出信号の周期がしきい値より短くならない場合に、イネーブル信号VREGをネゲートした状態で異常停止(フェールラッチ)し、それ以降はリトライ動作を行わない。
【0084】
たとえば点灯回路200は、1回目のイネーブル信号VREGのネゲートから所定第3時間(タイムアップ時間)Tcの経過後に、位置検出信号の周期Tsがしきい値TTHより短くならない場合に、フェールラッチしてもよい。第3時間Tcは、数十秒~数百秒のオーダー、具体的には30~240秒程度に設定すればよく、一例として120秒程度としてもよい。
【0085】
図10は、ロック保護機能を備えるモータ制御部250のブロック図である。モータ制御部250は、カウンタ252、シーケンサ254、タイマー256を含む。モータ制御部250の各ブロックは、ハードウェアで実装してもよいし、ソフトウェアとそれを実行するプロセッサの組み合わせで実装してもよい。
【0086】
カウンタ252は、位置検出信号S4の走査周期Tsを測定する。なおこのカウンタ252は、
図5のカウンタ212と兼用することができる。シーケンサ254は、走査周期Tsをしきい値T
THと比較し、比較結果にもとづいてタイマー256を制御して時間を管理し、電源制御信号S5を制御する。
【0087】
図11は、
図10のモータ制御部250のロック保護の動作波形図である。
図11は、モータ120がロックしていないときの動作を示す。時刻t
0にシーケンサ254は、モータ120の回転開始のトリガとなるイベントを検出すると、電源制御信号S5をアサートする。これによりモータドライバ122に対するイネーブル信号V
REGがアサートされ、モータ120が回転し始める。また時刻t
0にシーケンサ254はタイマー256をスタートさせ、第1時間Taの測定を開始する。
【0088】
正常状態では、モータ120の回転数の上昇にともなって、走査周期Tsは減少していき、第1時間Taが経過するより前に、走査周期Tsはしきい値TTHより短くなる。したがって電源制御信号S5のアサートは維持され、モータ120は回転し続ける。
【0089】
図12(a)、(b)は、モータ120がロックしているときの動作を示す。
図12(a)を参照する。時刻t
0に、電源制御信号S5がアサートされ、モータ120の駆動がスタートするが、モータ120がロックされているため、回転数は上昇せず、したがって走査周期Tsはしきい値T
THより長い状態を維持する。第1時間Taの経過後の時刻t
1において、位置検出信号S4の周期Tsがしきい値T
THより短くなっていない場合、ロック状態と判定され、電源制御信号S5がネゲートされる。シーケンサ254はタイマー256をスタートさせ、第2時間Tbおよび第3時間Tcの測定を開始する。そして第2時間Tbの経過後の時刻t
2に、電源制御信号S5を再びアサートするとともに、第1時間Taの測定を開始し、モータ120の起動をリトライする。第1時間Taの経過後の時刻t
3に、位置検出信号S4の周期Tsがしきい値T
THより短くなっていない場合、ロック状態と判定され、電源制御信号S5がネゲートされる。
【0090】
モータ120がロックしていると、このリトライ動作が繰り返される。そして、時刻t1から第3時間Tc経過後の時刻t4に、位置検出信号S4の周期Tsがしきい値TTHより短くならない場合にはタイムアップとなり、イネーブル信号VREGをネゲートした状態でフェールラッチし、それ以降のリトライ動作を中止する。
【0091】
図12(b)は、リトライ動作によりロックが解除されたときの動作を示す。時刻t
0~t
3までは
図12(a)と同様である。複数回のリトライを繰り返す間に、モータ120のロータが発生するトルクによって異物が除去されたり、車両が走行することにより振動が発生し、この振動によって異物が除去される可能性もある。時刻t
5において、モータ120のロックが解除されたとする。そうすると、モータ120の回転数は速やかに上昇し、第1時間Ta経過後の時刻t
6において、走査周期Tsは、しきい値T
THより短くなるため、電源制御信号S5のアサートが維持される。以上がロック状態における動作である。
【0092】
本実施形態に係る車両用灯具2によれば、モータドライバ122がロック保護機能を備えない場合に、点灯回路200によってロック保護機能を実現できる。また、1回のロック状態を検出した場合に、直ちにフェールラッチするのではなく、複数回のリトライを試みる間に、ロックの原因が除去される可能性が高まる。もしフェールラッチする前に、ロックの原因が除去されれば、モータ120を正常に起動させることができ、ランプを正常に点灯できるようになるため、車両用灯具2の商品価値を高めることができる。
【0093】
なお、実施形態2において、
図12(a)、(b)では、時刻t
1から所定第3時間Tcの測定を開始したがその限りでなく、モータの回転開始のトリガとなるイベント発生時刻t
0から、第3時間Tcの測定を開始してもよい。
【0094】
あるいは点灯回路200は、第3時間Tcを測定することに代えて、リトライ動作の回数をカウントし、回数が所定値に達したときに、位置検出信号の周期Tsがしきい値TTHより短くならない場合に、フェールラッチしてもよい。
【0095】
(実施形態3)
実施形態3の概要を説明する。実施形態3に係る点灯回路は、走査型光源を制御する。走査型光源は、半導体光源およびモータを含み、モータの運動に応じて半導体光源の出射光を灯具前方で走査する。点灯回路は、光源制御信号に応じた駆動電流を半導体光源に供給する定電流ドライバと、配光指示データに応じた配光パターンが得られるように、光源制御信号を生成する光源制御信号発生器と、光源制御信号が変化してから、半導体光源の点消灯状態が変化するのに要する遅延時間を測定する遅延時間測定器と、を備える。
【0096】
実際の遅延時間を測定することにより、遅延時間のばらつきや変動を考慮して、半導体光源の点消灯を制御することが可能となる。これにより、配光パターンの精度を高めることができる。
【0097】
遅延時間にもとづいて、光源制御信号が補正されてもよい。実測した遅延時間を考慮して光源制御信号の変化点のタイミングを補正することにより、遅延時間のばらつきや変動の影響をキャンセルできる。
【0098】
遅延時間にもとづいて、配光指示データが補正されてもよい。実測した遅延時間を考慮して、配光指示データを補正することにより、遅延時間のばらつきや変動の影響をキャンセルできる。
【0099】
定電流ドライバは、半導体光源に接続される定電流出力のコンバータと、半導体光源と並列に設けられるバイパススイッチと、光源制御信号に応じてバイパススイッチを駆動するバッファと、を含んでもよい。遅延時間測定器は、半導体光源の両端間電圧にもとづいて遅延時間を測定してもよい。
【0100】
定電流ドライバは、半導体光源に接続される定電圧出力のコンバータと、半導体光源と直列に接続され、光源制御信号に応じてオン、オフが切り替え可能な定電流源と、を含んでもよい。遅延時間測定器は、半導体光源に流れる電流または半導体光源の両端間電圧にもとづいて遅延時間を測定してもよい。
【0101】
光源制御信号発生器は、配光パターンが得られるように、半導体光源のオン、オフのタイミングを規定するパラメータを演算し、当該パラメータを遅延時間にもとづて補正する演算処理部と、補正後のパラメータにもとづいて、光源制御信号を生成する波形発生器と、を含んでもよい。
【0102】
以下、図面を参照して、実施形態3に係る車両用灯具2について説明する。
図13は、実施形態3に係る車両用灯具2を備える灯具システム1のブロック図である。灯具システム1は、車両側ECU(Electronic Control Unit)4および車両用灯具2を備える。
【0103】
実施形態1あるいは実施形態2と共通する説明は省略し、相違点あるいは変更点を重点的に説明する。実施形態3における光源制御信号S6は、実施形態1,2における調光信号S6に対応する。
【0104】
図13に戻る。光源制御信号S6が変化してから、半導体光源110の点消灯状態(オン、オフ)が変化するまでには、遅延時間(制御遅延ともいう)が存在する。
図14は、制御遅延を説明する図である。光源制御信号S6がオフレベル(ロー)からオンレベル(ハイ)に遷移してから、半導体光源110が点灯するまでの遅延を点灯遅延τ
ONと称し、光源制御信号S6がオンレベル(ハイ)からオフレベル(ロー)に遷移してから、半導体光源110が消灯するまでの遅延を、消灯遅延τ
OFFと称する。
【0105】
点灯遅延τONおよび消灯遅延τOFFは、個体ばらつきの影響を受け、また温度変動、電源電圧変動に応じて変化する。遅延τON、τOFFのばらつきや変動は、点灯タイミング(あるいは消灯タイミング)のシフトをもたらし、本来、ビームを照射すべきでない領域にビームが照射されたり、本来、ビームを照射すべき領域にビームが照射されない状況が生ずる。つまり配光パターンの精度が低下する。
【0106】
この問題を解決するために、本発明者らは以下の比較技術を検討した。
図15(a)~(c)は、比較技術を説明する図である。比較技術では、点灯遅延τ
ON、消灯遅延τ
OFFの設計値(遅延仕様値)τ
ON(SPEC),τ
OFF(SPEC)が用意されている。遅延仕様値τ
ON(SPEC),τ
OFF(SPEC)は、遅延のばらつきや温度変動を考慮したマージンを含んで定められる。
【0107】
車両側ECU4の設計段階において、車両側ECU4の設計者には、遅延仕様値τON(SPEC),τOFF(SPEC)に応じた遅延角度θτON(SPEC)、θτOFF(SPEC)が提供される。
θτON(SPEC)=(θMAX-θ0)×τON(SPEC)/Ts
θτOFF(SPEC)=(θMAX-θ0)×τOFF(SPEC)/Ts
車両側ECU4は、遅延角度θτON(SPEC)、θτOFF(SPEC)を考慮して、配光指示データS3aを生成するように設計される。
【0108】
図15(a)は、ある走行シーンにおける理想的な配光パターン400を示しており、前方車402の存在する範囲θ
1~θ
2が遮光領域であり、その他が照射領域である。
【0109】
図15(b)は、遅延角度θτ
ON(SPEC),θτ
OFF(SPEC)を考慮した配光指示データ404を示す。配光指示データ404は、理想的な配光パターン400における境界θ
1を、θτ
OFF(SPEC)だけ左にシフトし、境界θ
2を、θτ
ON(SPEC)だけ右にシフトすることにより得られる。
【0110】
図15(c)は、走行時に実際に形成される配光パターン406を示す。実際の走行中の遅延角度θτ
OFF(REAL)が、仕様値θτ
OFF(SPEC)より小さい状況では、遮光領域408の幅が、前方車402の幅よりも広くなり過ぎ、車両前方が暗くなってしまう。
【0111】
以上が比較技術と、それにともなう問題点である。
図13に戻り、点灯回路200について説明する。
【0112】
点灯回路200には、光源制御信号S6が変化してから、半導体光源110の点消灯状態(オン、オフ)が変化するまでの遅延時間τON,τOFFを測定する遅延時間測定器260が設けられる。遅延時間τON,τOFFが等しいとみなせる場合にはいずれか一方のみを測定すればよい。遅延時間測定器260は、灯具ECU206のマイコンに実装してもよいし、マイコンとは別のハードウェアとして実装してもよい。
【0113】
本実施形態において、遅延時間測定器260が測定した遅延時間τON,τOFFは、灯具ECU206の光源制御信号発生器210に供給され、光源制御信号発生器210における処理に反映される。具体的には遅延時間τON,τOFFのばらつきや変動がキャンセルされるように、光源制御信号S6の変化点のタイミングを時間軸上でシフトさせる。
【0114】
図16(a)、(b)は、遅延時間にもとづく光源制御信号S6のタイミング補正を説明する図である。
【0115】
図16(a)は、遅延時間の測定を示す。この例では、光源制御信号S6は、時刻t
0にポジティブエッジを有し、時刻t
1にネガティブエッジを有する。時刻t
0の光源制御信号S6のポジティブエッジの後、半導体光源110が点灯するまでのオン時間τ
ONが測定される。また時刻t
1の光源制御信号S6のネガティブエッジの後、半導体光源110が消灯するまでのオフ時間τ
OFFが測定される。
【0116】
光源制御信号発生器210には、遅延時間τOFF,τONそれぞれの目標値τOFF(REF)、τON(REF)が保持されている。光源制御信号発生器210は、遅延時間τOFFと目標値τOFF(REF)の誤差ΔτOFFを計算する。同様に光源制御信号発生器210は、遅延時間τONと目標値τON(REF)の誤差ΔτONを計算する。
ΔτOFF=τOFF(REF)-τOFF …(3)
ΔτON=τON(REF)-τON …(4)
【0117】
遅延時間τON,τOFFの測定は、毎サイクル行ってもよいし、数サイクル~数十サイクルに1回の頻度で行ってもよいし、所定時間間隔で行ってもよい。
【0118】
図16(b)は、測定された遅延時間τ
ON,τ
OFFにもとづく、光源制御信号S6の補正処理を説明する図である。この例では、補正前の光源制御信号S6は、時刻t
nにネガティブエッジを有し、時刻t
pにポジティブエッジを有している。これらの時刻t
n,t
pは、配光指示データS3aに含まれる角度情報を、式(1)にもとづいて時間情報に変換したパラメータである。
【0119】
補正後の光源制御信号S6’は、光源制御信号S6のネガティブエッジに対応する時刻tnを、ΔτOFF、シフトし、ポジティブエッジに対応する時刻tpを、ΔτON、シフトさせることにより得ることができる。ポジティブエッジ、ネガティブエッジの個数は限定されない。
tn’=tn+ΔτOFF …(5)
tp’=tp+ΔτON …(6)
【0120】
定電流ドライバ220は、補正後の光源制御信号S6’にもとづく駆動電流ILEDを半導体光源110に供給する。半導体光源110は、補正後の光源制御信号S6’のネガティブエッジの時刻tn’から、τOFF後に消灯し、補正後の光源制御信号S6’のポジティブエッジの時刻tp’から、τON後に点灯する。つまり半導体光源110は、消灯遅延時間τOFFの変動やばらつきにかかわらず、配光指示データS3aから得られる消灯時刻tnから、所定時間τOFF(REF)経過後に消灯する。また半導体光源110は、点灯遅延時間τONの変動やばらつきにかかわらず、配光指示データS3aから得られる点灯時刻tpから、所定時間τon(REF)経過後に点灯する。
【0121】
この補正処理は、
図5のパラメータ演算部214に実装することができる。すなわち、パラメータ演算部214は、式(2)にしたがって、配光指示データS3aに含まれる角度情報を、時間情報(t
p、t
n)に変換する。この時間情報(t
p、t
n)は、補正前の光源制御信号S6を表す。そして、式(2)によって得られた時間情報(t
p、t
n)を、式(5)、(6)にしたがって補正し、補正後の時間情報(t
n’,t
p’)をパラメータPARAMとして後段の波形発生器216に供給する。波形発生器216は、補正後の時間情報(t
n’,t
p’)を含むパラメータPARAMにもとづいて、補正後の光源制御信号S6’を生成する。
【0122】
以上が点灯回路200の構成および動作である。この点灯回路200によれば、実際の点灯遅延時間τON、消灯遅延時間τOFFを測定することにより、遅延時間τON,τOFFのばらつきや変動を考慮して、半導体光源110の点消灯のタイミングを制御することが可能となる。
【0123】
より詳しくは、実測した遅延時間τON,τOFFを考慮して光源制御信号S6の変化点のタイミングを補正することにより、遅延時間τON,τOFFのばらつきや変動の影響をキャンセルできる。
【0124】
遅延時間の補正によって、車両側ECU4から車両用灯具2を見たときの、点灯遅延τ
ONおよび消灯遅延τ
OFFは一定値(すなわちτ
ON(REF),τ
OFF(REF))となる。そのため車両側ECU4において、遅延時間のマージンを考慮する必要がなくなる。比較技術では、遅延時間のマージンを考慮する結果として、
図15(c)に示すように遮光領域408が無駄に広くなるケースが生じた。これに対して本実施形態によれば、遮光領域の幅を理想的なそれに近づけることができ、配光パターンの精度を改善できる。
【0125】
図17は、定電流ドライバ220の構成例を示す回路図である。定電流ドライバ220は、コンバータ222、バイパススイッチ224、バッファ226、電圧検出器228を備える。コンバータ222は、半導体光源110と接続されており、その出力電流I
OUTが一定に保たれる定電流出力型である。
【0126】
バイパススイッチ224は、半導体光源110と並列に設けられる。バイパススイッチ224がオフのとき、コンバータ222の出力電流IOUTが、駆動電流ILEDとして半導体光源110に供給され、半導体光源110が点灯する。バイパススイッチ224がオンのとき、コンバータ222の出力電流IOUTがバイパススイッチ224に迂回して流れ、半導体光源110に流れる駆動電流ILEDはゼロとなり、半導体光源110は消灯する。バイパススイッチ224はたとえばNチャンネルMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタで構成される。
【0127】
バッファ226は、光源制御信号S6(S6’)に応じてバイパススイッチ224を駆動する。
【0128】
電圧検出器228は、半導体光源110の両端間電圧Vfに応じた検出信号Vsを出力する。なお電圧検出器228を省略して、半導体光源110のアノードの電圧を検出信号Vsとしてもよい。
【0129】
遅延時間測定器260は、光源制御信号S6と電圧検出信号Vsにもとづいて遅延時間τON,τOFFを測定する。
【0130】
図18は、
図17の定電流ドライバ220の動作波形図である。時刻t
0より前において、光源制御信号S6はオフレベル(ロー)であり、バッファ226は、バイパススイッチ224のゲートに、ハイレベルのゲート信号V
Gを印加している。このときバイパススイッチ224はオンであり、半導体光源110は消灯している。
【0131】
時刻t1に光源制御信号S6がオンレベルに遷移すると、バッファ226はバイパススイッチ224のゲート信号VGを、ローレベルに向かって変化させる。時刻t1にゲート信号VGがしきい値VGS(th)より低くなると、バイパススイッチ224がオフとなり、半導体光源110に駆動電流ILEDが流れ始め、半導体光源110の両端間電圧(順方向電圧)Vfが増大する。遅延時間測定器260は、順方向電圧Vfに応じた検出信号Vsが、所定のしきい値電圧Vthとクロスする時間t2を半導体光源110の点灯時刻とし、t2-t0を点灯遅延τONとする。
【0132】
時刻t3に光源制御信号S6がオフレベルに遷移すると、バッファ226はバイパススイッチ224のゲート信号VGを、ハイレベルに向かって変化させる。時刻t4にゲート信号VGがしきい値VGS(th)より大きくなると、バイパススイッチ224がオンとなり、半導体光源110に流れていた電流が、バイパススイッチ224側に流れ始め、半導体光源110の駆動電流ILEDが減少し、半導体光源110の順方向電圧Vfが低下する。遅延時間測定器260は、順方向電圧Vfに応じた検出信号Vsが、所定のしきい値電圧Vthとクロスする時間t5を半導体光源110の消灯時刻とし、t5-t3を消灯遅延τOFFとする。
【0133】
図19は、定電流ドライバ220の別の構成例を示す回路図である。半導体光源110は、直列に接続される複数の発光デバイス111_1~111_N(N≧2)を含む。
図19では、N=2が示されるが、光源の個数は限定されない。定電流ドライバ220は、コンバータ222、複数のバイパススイッチ224_1~224_N、複数のバッファ226_1~226_N、複数の電圧検出器228_1~228_Nを備える。コンバータ222は、半導体光源110と接続されており、その出力電流I
OUTが一定に保たれる定電流出力型である。
【0134】
バイパススイッチ224_1~224_Nは、対応する発光デバイス111_1~111_Nと並列に設けられる。バイパススイッチ224_#(#=1~N)がオフのとき、コンバータ222の出力電流IOUTが、駆動電流ILED#として発光デバイス111_#に供給され、発光デバイス111_#が点灯する。バイパススイッチ224_#がオンのとき、コンバータ222の出力電流IOUTがバイパススイッチ224_#に迂回して流れ、発光デバイス111_#に流れる駆動電流ILED#はゼロとなり、発光デバイス111_#は消灯する。
【0135】
バッファ226_1~226_Nは、光源制御信号S6_1~S6_Nに応じて対応するバイパススイッチ224_1~224_Nを駆動する。
【0136】
電圧検出器228_#(#=1~N)は、発光デバイス111_1の両端間電圧Vf#に応じた、接地電圧を基準とする検出信号Vs#を出力する。
【0137】
遅延時間測定器260は、対応する光源制御信号S6_#と電圧検出信号Vs#のペアにもとづいて、発光デバイス111_#の遅延時間τON#,τOFF#を測定する。
【0138】
実施形態3において、測定した遅延時間τON,τOFFにもとづいて、光源制御信号S6を補正したが、その限りでない。たとえば測定した遅延時間τON,τOFFにもとづいて、配光指示データS3aを補正してもよい。この場合、遅延時間τON,τOFFを、角度補正量ΔθON,ΔθOFFに変換する。
ΔθON=(θMAX-θ0)/Ts×τON
ΔθOFF=(θMAX-θ0)/Ts×τOFF
そして、補正前の配光指示データS3aに含まれる角度情報θを、ΔθON,ΔθOFFにもとづいて補正すればよい。この変形例は、配光指示データS3aの生成を、車両用灯具2の内部において行う場合に有効である。
【0139】
図20は、定電流ドライバ220の変形例を示す回路図である。定電流ドライバ220は、コンバータ223および定電流源225を備える。コンバータ223は、半導体光源110と接続されており、一定の出力電圧V
OUTを生成する定電圧出力型である。定電流源225は半導体光源110と直列に接続され、光源制御信号S6に応じてオン、オフが切り替え可能に構成される。電圧検出器228は、半導体光源110の両端間電圧Vfを示す検出信号Vsを生成する。遅延時間測定器260は、半導体光源110の両端間電圧にもとづいて遅延時間τ
ON,τ
OFFを測定する。
【0140】
図20において、電圧検出器228に代えて、半導体光源110に流れる電流I
LEDに応じた検出信号Isを生成する電流検出器を設けてもよい。電流検出器は、電流I
LEDの経路上に設けられたセンス抵抗と、センス抵抗の電圧降下を増幅して検出信号Isを生成するアンプを含んでもよい。あるいは電流検出器は、定電流源225の出力トランジスタに比例する電流が流れるように構成されるレプリカトランジスタを含み、レプリカトランジスタに流れる電流にもとづいて検出信号Isを生成してもよい。この場合、遅延時間測定器260は、検出信号Isが示す電流I
LEDにもとづいて遅延時間τ
ON,τ
OFFを測定してもよい。
【0141】
以上、実施形態1~3について説明した。これらの実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0142】
(変形例1)
位置検出信号S4の生成手法は、ホール素子を利用したものに限定されない。たとえばモータ120のロータの位置を検出する光学式、あるいはその他の方式のロータリーエンコーダやレゾルバを利用して、位置検出信号S4を生成してもよい。あるいはブレード112の裏側に設けられたフォトセンサと、ブレード112の表面側からフォトセンサに向かって光を照射する位置検出用の光源と、を含んでもよい。そしてブレード112に、スリットあるいはピンホールを設けてもよい。これにより、スリットあるいはピンホールが、フォトセンサの上を通過するタイミングを検出できる。スリットは、2枚のブレード112の間隙であってもよい。また位置検出用の光源は、赤外線光源を利用してもよいし、半導体光源110であってもよい。このように位置検出信号S4の生成方法には、さまざまなバリエーションが存在しうる。
【0143】
(変形例2)
実施形態では2枚のブレード112の場合を説明したが、ブレードの枚数は限定されず、1枚であってもよいし、3枚以上であってもよい。また実施形態では、ブレード112を回転運動させる場合を説明したが、ブレード112は往復運動させてもよい。
【0144】
(変形例3)
半導体光源110としては、LEDの他に、LD(レーザダイオード)や有機EL(エレクトロルミネッセンス)などの半導体光源を用いてもよい。
【0145】
(変形例4)
実施形態では、周期を測定するサイクルと、パラメータを演算するサイクルが別であったが、その限りでない。
図21は、変形例に係る光源の制御シーケンスを説明する図である。この変形例では、位置検出信号S4の周期が、走査周期Tsの整数倍(M倍)となっている。この場合、位置検出信号S4の周期Tdを測定し、それをM倍すれば、走査周期Tsを得ることができる。そして、走査サイクルの前半において、周期測定を行い、後半で演算処理を行うことにより、各走査サイクルの光源を、一つ前のサイクルの周期にもとづいて制御することができる。
【0146】
(変形例5)
いくつかの実施形態では、モータ用電源回路230が供給する電源電圧VREGをイネーブル信号としたがその限りでない。モータ用電源回路230に対する電源電圧VREGを常時供給するようにしておき、それとは独立したイネーブル信号ENをモータドライバ122に供給するようにしてもよい。
【0147】
(変形例6)
走査型光源100の構成にもさまざまな変形例が存在する。実施形態では、反射体としてブレード112を採用したが、それに限定されない。
図22(a)、(b)は、走査型光源100の変形例を示す図である。
図22(a)および(b)の走査型光源100a、10bは、
図1と同様に、半導体光源110と反射体112aの組み合わせである。
図22(a)の反射体112aはポリゴンミラーである。反射体112aはガルバノミラーであってもよい。
図22(b)の反射体112bはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャンミラーである。
【0148】
(変形例7)
図23(a)、(b)は、変形例に係る走査型光源100c,100dを備える灯具システムのブロック図である。
図23(a)の走査型光源100cにおいて半導体光源110には、アクチュエータ140が取り付けられており、アクチュエータ140によって半導体光源110の光軸がスイブル(あるいはレベリング)可能となっている。
【0149】
図23(b)の走査型光源100dでは、アクチュエータ140に代えて、モータ142および変換装置144を備える。変換装置144は、モータ142の回転運動を入力とし、往復運動に変換して出力する。半導体光源110は、変換装置144から出力される往復運動によって、光軸がスイブル可能となっている。
【0150】
実施形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、自動車などに用いられる車両用灯具に関する。
【符号の説明】
【0152】
1 灯具システム
2 車両用灯具
4 車両側ECU
10 走査型光源
100 走査型光源
102 投影レンズ
110 光源
112 ブレード
120 モータ
122 モータドライバ
130 ロービーム用光源
200 点灯回路
206 灯具ECU
210 調光信号生成部
212 カウンタ
214 パラメータ演算部
216 波形生成部
220 定電流ドライバ
230 モータ用電源回路
240 定電流ドライバ
300 ターゲット領域
310 配光パターン
S1 カメラ情報
S2 車両情報
S3 指示信号
S4 位置検出信号
S5 電源制御信号
S6 調光信号