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特許7331147NH3-SCR触媒としての高分散金属担持酸化物、および合成プロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】NH3-SCR触媒としての高分散金属担持酸化物、および合成プロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/20 20060101AFI20230815BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230815BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20230815BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 23/28 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230815BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230815BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B01J23/20 A
B01D53/86 222
B01D53/90 ZAB
B01D53/94 220
B01D53/94 400
B01J23/22 A
B01J23/28 A
B01J23/30 A
B01J23/83 A
B01J37/02 101A
B01J37/08
F01N3/08 B
F01N3/10 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021572083
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 IB2019000709
(87)【国際公開番号】W WO2020245620
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509043571
【氏名又は名称】トヨタ・モーター・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR EUROPE
(73)【特許権者】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】523165352
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ クラウド ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】518184432
【氏名又は名称】エコール・シューペリウール・ドゥ・シミ・フィジーク・エレクトロニーク・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】ECOLE SUPERIEURE DE CHIMIE PHYSIQUE ELECTRONIQUE DE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエン,フック・ハイ
(72)【発明者】
【氏名】メルル,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】シャルラン,マルク-オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】セット,カイ・チュン
(72)【発明者】
【氏名】タウフィク,モスタファ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0128913(US,A1)
【文献】特表2009-512689(JP,A)
【文献】特開2003-210987(JP,A)
【文献】特表2000-514446(JP,A)
【文献】特開2018-171587(JP,A)
【文献】特表2016-516731(JP,A)
【文献】特開2016-034629(JP,A)
【文献】特開平07-323225(JP,A)
【文献】DEKA, U. et al.,ACS Catalysis,2013年01月22日,Vol.3,pp.413-427,<DOI:10.1021/cs300794s>
【文献】GUENTER, T. et al.,Chemical Communications,2015年,Vol.51,pp.9227-9230,<DOI:10.1039/c5cc01758k>
【文献】COPERET, C. et al.,Angewante Chemie International Edition,2017年07月07日,Vol.57,pp.6398-6440,<DOI:10.1002/anie.201702387>
【文献】COPERET, C. et al.,Angewante Chemie International Edition,2003年01月16日,Vol.42,pp.156-181,<DOI:10.1002/anie.200390072>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
F01N 3/00
3/02
3/04 - 3/38
9/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料を調製するためのプロセスであって、
(a)表面ヒドロキシル(OH)基を有する担体材料を提供する工程であって、前記担体材料は、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、またはこれらの組み合わせであり、前記担体材料は、前記担体材料1gあたり少なくとも0.3mmolおよび多くとも2.0mmolのOH基を含有する、工程と、
(b)前記工程(a)の表面ヒドロキシル(OH)基を有する担体材料を、
(b1)その酸素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つのアルコキシ基またはフェノキシ基を含有する化合物、
(b2)炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物、
(b3)炭素原子を介して銅(Cu)である金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物、のうちの少なくとも1つと反応させる工程と、
(c)第5族もしくは第6族の金属元素またはCuが酸化物として前記担体材料上に存在している前記アンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料を提供するために、前記工程(b)において得られる生成物をか焼する工程とを含む、プロセス。
【請求項2】
前記担体材料は、セリア(CeO2)担体またはセリア-ジルコニア(CeO-ZrO)担体である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記担体材料は、前記担体材料1gあたり少なくとも0.5mmolおよび多くとも1.3mmolのOH基を含有する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
その酸素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つのアルコキシ基またはフェノキシ基を含有する前記化合物は、[Nb(OEt)、Arが1,3,5-トリメチルフェニル(CH基であるNb(OAr)、[W=O(OEt)、[V(=O)(OEt)、[V(=O)(OiPr)]、および[Ta(OEt)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記(b2)炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物と反応させる工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する前記化合物は、W≡CtBu(CHtBu)およびMo(O)Mesitylからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1~3および5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
炭素原子を介して銅(Cu)である金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する前記化合物は、[Cu(Mes)]である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記か焼工程(c)における温度は、最低でも300℃であり、前記か焼工程の継続時間は、最短でも1時間である、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記か焼工程(c)における温度は最高でも700℃である、および/または前記か焼工程の継続時間は最長でも30時間である、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記工程(b1)~(b3)のいずれかにおいて得られる化合物は、前記工程(b1)~(b3)のいずれかにおいて得られる化合物の元素分析において、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%有する、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記か焼工程(c)の後に得られる化合物は、前記か焼工程(c)の後に得られる化合物の元素分析において、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセスによって得ることのできるアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料
【請求項13】
元素分析による測定によると、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%有する請求項12に記載のアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料
【請求項14】
窒素酸化物(NOx)を還元するための触媒としての、請求項12または13のいずれか1項に記載のアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料駆動式車両からの排気ガスまたは発電所などの固定汚染源中に含まれる有毒NOxガス(NO、NO、NO)は、環境中に放出される前にNに変換される必要がある。これは、通常、三元触媒(TWC)などの種々のNOx還元触媒、NOx吸蔵還元(NSR)、または外部の還元剤としてアンモニアを使用する選択触媒還元(SCR)(NH-SCR)を用いて行なわれる。
【0003】
などの金属酸化物は、良好なNH-SCR触媒として知られている。その触媒活性は、表面種の酸性度と還元性とが補完し合う特徴によって実現されるということが示唆されている。簡潔には、NHがブレンステッド酸部位(V5+-OH)に吸着され、続いて、隣接するV=O表面基を介して酸化還元サイクル(V5+=O/V4+-OH)を経てN-H活性化が生じる。得られた表面錯体が、気体状のNOまたは弱く吸着されたNOと、ラングミュア-ヒンシェルウッド反応機構およびイレイ-リディール反応機構をそれぞれ経て反応して、中間体種NHNOを形成し、これが分解されてNおよびHOとなる。また、ルイス酸部位へのNHの吸着を伴う別の機構(アミド-ニトロサミド)も提案されている。さらに、実際的な条件下においては、特に過酸化触媒性のコンバータがSCR触媒性のコンバータの上流に配置される場合に、これが二酸化窒素の形成を誘発して、高速SCR(fast-SCR)として知られるSCR反応にとって有利となる。実際、NOは、還元された種が高速で再酸化されるのを可能とする。しかしながら、最適なNO/NO比率は1であり、過剰に存在するNOは比較的ゆっくりとした反応を経て還元されて、総SCR反応速度が低下する。Vなどの金属酸化物触媒は、ほとんどの場合には含浸などの合成経路によって開発され、これにより、通常、担体上に分散した金属のナノ粒子が生成される。このような触媒は、低NOx変換度および/または低N選択性といったように、低性能であることが問題である。
【0004】
先行技術の触媒はCuやFeを使用することが多く、これらがゼオライト材料中に組み込まれるとNH-SCRのための良好な活性部位となることがよく認識されている。担体材料については、先行技術ではSiOを使用することが多く、これは、比表面積が大きく、活性部位の数を増やすことによってSCR性能を改善できることが予期され得る。
【0005】
US9,283,548B2は、MA/CeO(M=Fe、Cu;A=K、Na)という種類の触媒を開示しており、その合成経路は、EDTA、DTPAなどのキレート剤を用いた含浸である。
【0006】
J. Phys. Chem. B 2006, 110, 9593 - 9600 [Tian 2006]は、VOx/AO(A=Ce、Si、Z)という種類の触媒を開示しており、その合成経路は含浸である。用途は、プロパンの酸化的脱水素(ODH)を含む。バナジウムオキソ-イソプロポキシドの分散と物理吸着(化学吸着ではなく)とが達成されている。
【0007】
J. Phys. Chem. B 1999, 103, 6015 - 6024 [Burcham 1999]は、Nb/SiO、Al、ZrO、TiOという種類の触媒を開示しており、その合成経路は含浸である。この文献は、孤立した表面種Nbについて記載しており、振動分光法によって特徴づけている。調製は水中で実施しており、この金属を、プロトノリシスによりグラフト化するのではなく、表面上に堆積させている。
【0008】
J. Phys. Chem. C 2011, 115, 25368-25378 [Wu 2011]は、VOx/CeO、SiO、ZrOという種類の触媒を開示しており、その合成経路は含浸である。溶媒としてイソプロパノールを使用しており、表面上に前駆体をグラフト化するのではなく、単にバナジウムオキソ-イソプロポキシドを分散および物理吸着させている。
【0009】
Appl. Catal. B 62, 2006, 369 [Chmielarz 2006]は、FeまたはCu/SiOという種類の触媒を開示している(3通りの異なる型)。ゼオライトが使用された場合にCuおよびFeが良好なNH-SCR性能を示すことが広く知られている(イオン交換合成)。こうした触媒材料が、NH-SCRによるNOx除去のために使用された。合成は、前駆体Fe(acac)、Cu(acac)(acac=アセチルアセトナート)を使用する分子設計分散(MDD)によって行なわれた。
【0010】
Science 2007, 317, 1056-1060 [Avenier 2007]は、シリカ表面に担持された孤立したタンタル(III)およびタンタル(V)の水素化物の中心[(≡Si-O)TaIII-H]および[(≡Si-O)Ta-H]上における二窒素の開裂を記載している。
【0011】
EP2985077A1は、タングステンまたはモリブデンのトリアルキルオキソ錯体などの、SiOに担持されたモリブデン錯体またはタングステン錯体、その調製、およびオレフィンメタセシスにおける使用を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒の分野における先行技術の生成物およびプロセスに関連する問題に対処するために、本発明に係るプロセスおよび生成物を開発した。
【0013】
表面有機金属化学(SOMC)のアプローチによれば、有機金属前駆体のグラフト化により、すなわち前駆体と表面ヒドロキシル基との間の化学結合形成により、担体材料の表面を改変でき、これによって、グラフト化された材料の当該局所構造を保存できるため、従来の合成方法では担体材料表面上に多種多様な種が通常形成されるところ、その可能性を最小限にすることができる。この方法論を使用することにより、異なる金属で担持される金属酸化物触媒を合成できる。材料を合成するための典型的なSOMC手順は、以下の3つの工程からなる:
・工程1:調製、例:
○ 担体材料:
■ か焼
■ 水和
■ 脱ヒドロキシル化により、ヒドロキシル基の濃度を制御
○ 金属前駆体:
■ 合成(入手困難なものについて)
・工程2:グラフト化
○ たとえばトルエンなどの溶液中において、典型的には室温(25℃以下)で、金属前駆体を担体材料の表面ヒドロキシル基と反応
○ 洗浄および乾燥
・工程3:活性化
○ 典型的には空気気流中において約500℃またはそれ以上で16時間か焼することにより、残存する有機配位子を除去
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、新しいSOMC手順を使用することによる、NOx還元性能が改善された新しい酸化物NH-SCR触媒の開発を開示する。
【0015】
よって、第1の態様において、本発明は、触媒材料を調製するためのプロセスであって、
(a)表面ヒドロキシル(OH)基を有する担体材料を提供する工程であって、担体材料は、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、またはこれらの組み合わせであり、担体材料は、担体材料1gあたり少なくとも0.3mmolおよび多くとも2.0mmolのOH基を含有する、工程と、
(b)工程(a)の表面ヒドロキシル(OH)基を有する担体材料を、
(b1)その酸素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つのアルコキシ基またはフェノキシ基を含有する化合物、
(b2)炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物、
(b3)炭素原子を介して銅(Cu)である金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物、の少なくとも1つと反応させる工程と、
(c)第5族もしくは第6族の金属元素またはCuが酸化物として担体材料上に存在している触媒材料を提供するために、工程(b)において得られる生成物をか焼する工程とを含む、プロセスに関する。
【0016】
よって、第2の態様において、本発明は、上述されるプロセスによって得ることのできる触媒材料に関する。有利な実施形態において、本発明に係る触媒材料は、元素分析による測定によると、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%および多くとも2.0重量%含有する。
【0017】
第3の態様において、本発明は、窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒としての、上述される触媒材料の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来の合成によるナノ粒子分散(a)と比較した、SOMCアプローチにより合成した触媒中における金属の分散(b、c、d、e)の概略図である。
図2a】Nbバルク酸化物、裸のCeO酸化物、含浸により調製したNbOx(1重量%)/CeOなどの異なる材料との比較において、NbOx(0.8重量%)/CeOおよびNbOx(1.2重量%)/CeOを示す。
図2b】伝統的な(NH10(Wの水含浸によって単量体前駆体から調製した2種の触媒の触媒活性vs.温度プロファイルを示す。
図2c】従来の方法(Nb-NP → 含浸により調製したCeO上のNbナノ粒子)または先行技術に記載される従来の方法によって調製したものとの比較において、SOMC方法論により合成した触媒のNH-SCR活性を示す。
図3】a)500℃でか焼し、25℃で水和させ、200℃でジヒドロキシル化した後のセリアのDRIFTスペクトルと、b)文献にしたがう(CeO-H)伸縮振動の特性とを示す。
図4】200℃において脱ヒドロキシル化した後のセリアの77Kにおける窒素の物理吸着等温線を示す。
図5a】前処理後のa)セリアの粉末X線回折パターンを示す。
図5b】200℃で脱ヒドロキシル化したCeOの表面ヒドロキシドと[Nb(OEt)との表面有機金属グラフト化を示す。
図6】a)200℃で脱ヒドロキシル化したセリア(CeO-200)およびb)[Nb(OEt)のグラフト化後のもののDRIFT分光分析スペクトルを示す。
図7】セリア上にグラフト化した[Nb(OEt)Hおよび13C CP MAS固体NMR分光法を示す。
図8】セリアおよび[Nb(OEt)/CeOの赤外電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを示す。
図9】200℃で脱ヒドロキシル化したセリア上にグラフト化した[Nb(OEt)(b)および乾燥空気中において500℃でか焼した後の最終のNbOx/CeO(a)のDRIFTスペクトルを示す。
図10】乾燥空気中において500℃で16時間か焼した後のセリア上にバナジウムを1.1重量%含有する材料の77Kにおける窒素の物理吸着等温線を示す。
図11】a)セリア、b)セリア上にグラフト化したNb(OEt)、c)セリア触媒上のNbOxの粉末X線回折パターンを示す。
図12】触媒(セリア上のNbOx)のEDXマッピングを示す。
図13】1.8重量%のニオブを有する触媒NbOx/CeOをサンプリングするTof-Sims正極性(Tof-Sims Polarity positive)を示す。
図14】Nbが配位4([4])、5([5])、または6([6])である周知の結晶と比較した、Nb含量が0.8および1.8重量%である試料についてのニオブK-エッジXANESを示す。
図15】Nb含量が0.8および1.8重量%である試料についてのニオブK-エッジk3加重EXAFS(左)と、対応するフーリエ変換係数(右)とを示す。
図16】[Nb(OEt)/CeO2-(200)をか焼した後に得られる材料NbOx/CeOの構造を示す。
図17】a)Nb含有量が1.8重量%であるNbOx/CeOの拡散反射Uv-Visスペクトル、b)UV-VisDRSスペクトルおよびエッジエネルギー値を示す。
図18】セリア、[Nb(OEt)/CeO、およびNbOx/CeOの赤外電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを示す。
図19】Nb(a)、Nb 3d、およびNb 3p(b、c)が1.8重量%である触媒NbO/CeOのXPSスペクトルを示す。
図20】W(≡Bu)(CH Bu)/CeO2-200材料のH MAS(左)および13C CP/MAS(右)の固体NMRスペクトルを示す。
図21】CeO2-200上のW(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化を示す。
図22】a)200℃で脱ヒドロキシル化したセリアおよびb)W(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化後のもののDRIFTスペクトルを示す(右に示す2つの挿入図は特定の波数範囲を拡大したもの)。
図23】W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200H MAS(左)および13C(右)NMRスペクトルを示す。
図24】固体のW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のW LIII-エッジk3加重EXAFS(左)およびフーリエ変換(右)を示す(実線は実験、破線は球面波理論=)。
図25】W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200について提案される構造を示す。
図26】a)200℃で脱ヒドロキシル化したセリア、およびb)W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のか焼後のW(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化後のもののDRIFTスペクトルを示す。
図27】WO/CeO2-200)か焼後のW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のBET比表面積(BET Surface Area)分析を示す。
図28】セリア-ジルコニアのin situ温度依存性DRIFTスペクトルおよび異なる表面(MO-H)伸縮振動の特性を示す。
図29】200℃でジヒドロキシル化した後のセリア-ジルコニアの77Kにおける窒素の物理吸着等温線を示す。
図30】a)200℃で脱ヒドロキシル化したCeO-ZrOおよびb)Al(iBu)のグラフト化後のもののDRIFTスペクトルを示す。
図31】Al(iBu)/CeO-ZrO2-200H MAS(左)および13C(右)NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明に係る触媒は、原子規模分散(図1b~図1eを参照)の特徴を示すと考えられ、その結果として高いNH-SCR性能が得られる(図2)。本発明によって生成される触媒は、NH-SCR反応において高いNOx変換度を示し得る。本発明に係る有利な特徴は以下を含む:
・含浸ではなく、グラフト化(前駆体と表面との間の化学反応)のプロセス
・ナノ粒子ではなく原子規模分散によりグラフト化された金属
・担体を熱的に前処理(脱ヒドロキシル化)して所望のアンカーポイント(OH)を得る、かつ、グラフト化によって表面種を良好に分散させることにより活性金属中心の焼結を防止する。
【0020】
本発明において、V、Nb、Ta、W、Moなどの遷移金属基から選択される金属と、CeO、ZrO、またはこれらの混合物(CeO-ZrOなど)から選択される担体材料との好適な組み合わせを有する新しいNH-SCR触媒が開示される。こうした触媒は、様々な有機金属の金属前駆体を使用する新しいSOMC手順によって調製される。
【0021】
従来の酸化物触媒は、通常、酸化物上に担持された大きな金属粒子からなる。活性部位は明確に定義されていない。本発明において開示される触媒は、100%に近い金属の原子規模分散を提供し得る(図1b中の構造を参照)。このように高分散した金属部位は、単により高い密度の活性部位を与えるだけではなく、NH-SCRの触媒機構を変化させ、これにより、金属部位に吸着されたNHが担体表面上に吸着されたNOxと活発に反応できるようになると考えられる。言い換えると、新しい触媒においては、金属と担体材料との相互作用が促進されて、その結果として触媒性能が向上する。
【0022】
図1は、触媒中における金属の分散を示す概略図であり、先行技術における従来の方法ではこれらの種の混合物が生成され、その大部分がナノ粒子形態である(孤立した種の定量的評価はしていない)。先行技術において報告されている触媒には、NH-SCR反応におけるNOx変換度が低いという共通の問題がある。これとは対照的に、本発明によって生成される触媒は、従来の触媒と比較して、NH-SCR反応におけるNOx変換度が大幅に高くなり得る。図2aは、SOMC方法論により調製したNbOx(0.8重量%)/CeOおよびNbOx(1.2重量%)/CeOという2種の触媒についての触媒活性vs.温度プロファイルを、Nbバルク酸化物、裸のCeO酸化物、含浸により調製したNbOx(1重量%)/CeOなどの種々の材料と比較して示す。SOMCプロセス(詳細は実施例2b)により調製したWOx/CeOの例が、3.2重量%という同じW含量が含浸された触媒との比較において、図2b中に示される。SOMC WOx/CeO触媒上でのNOx変換度は、広い温度範囲にわたって、比較的高い。
【0023】
図2cは、SOMC方法論で合成した金属/担体材料の異なる組み合わせによる様々な触媒が有する最も高いNOx変換度を、先行技術に記載される方法で合成した触媒(たとえば、上述されるChmielarz 2006に記載されるFe/SiO)の場合との比較において示す。WOx/TiO、WOx/Al、FeOx/CeO、NbOx/SiOなどのいくつかのその他の触媒についても、比較のために調製および試験したが、これらはNOx変換度が低いことから、高いNH-SCR性能を生じる好適な金属/担体の組み合わせの予測は容易でないことがさらに立証される。注意すべきことには、ここで示されるこれらの最高値(各触媒による)は、同じ温度でのものではなく、典型的には200~500℃の様々な温度でのものである。MoOx/CeO、WOx/CeO、WOx/CeO-ZrOなどの多くの触媒は、広い温度範囲にわたって、典型的には200~500℃において、NOx変換度が100%である。
【0024】
セリア(CeO)および/またはジルコニア(ZrO)の形態である適切な担体材料は、商業的供給元から入手できる。たとえば、セリアは、SOLVAYなどの供給元から入手でき、典型的には比表面積が約250m/gである。
【0025】
制御された特定の濃度のOH基を担体材料上に提供できる有利な一実施形態において、本発明に係るプロセスの工程(a)における材料を提供するために、酸化物担体材料(典型的な市販の試料において入手したもの)の水和を、まずは水分を用い、続いて減圧下での加熱を経るジヒドロキシル化によって、行ない得る。OH基の濃度は、処理温度の影響を顕著に受ける。セリア(CeO)担体材料を処理するための一般的に適切なプロセスにおいては、圧力約10-5mbar、温度200℃、典型的には16時間というのが、有利な処理条件である。担体材料上のOH基の濃度は、たとえば、Al(Bu)との反応を経て化学滴定によって求めることができ、この物質は、表面ヒドロキシル基と定量的に反応してOH基について1当量のイソブタンを放出する。
【0026】
本発明において好ましい担体材料は、セリア(CeO)担体またはセリア-ジルコニア(CeO-ZrO)担体である。混合型セリア-ジルコニア(CeO-ZrO)担体について、ZrOの量は、20~80重量%、好ましくは30~60重量%の範囲であってよい。ZrO含有量がこれよりも高いと、実際には、OH基の濃度が低下し得る。CeOおよびCeO-ZrOは、先行技術においてSCR触媒のための良好な担体材料としては周知されておらず、こうした材料は、通常、SiOよりも比表面積(SSA)が小さい。
【0027】
本発明に係るグラフト化工程(b)において、制御された濃度のヒドロキシル基(OH)を有する担体材料を、変形型プロセス(b1)~(b3)に従って、3種のグラフト化試薬のうちの1種と反応させる。
【0028】
変形型プロセス(b1)によれば、制御された濃度のヒドロキシル基(OH)を有する担体材料を、その酸素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つのアルコキシ基またはフェノキシ基を含有する化合物と反応させる。これらの化合物において、第5族または第6族の金属原子は、酸素原子を介してアルキル基(置換されていてよい)の炭素原子に結合しているか、または、酸素原子を介してアリール基(置換されていてよい)の炭素原子に結合している。第5族または第6族の金属原子は、1つ以上のアルコキシ基またはフェノキシ基とは別に、自身に結合した、非置換の酸素(元は当該金属原子に二重結合していた)などの、その他の種類の基を有し得る。その酸素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つのアルコキシ基またはフェノキシ基を含有する化合物の例は、[Nb(OEt)、Arが1,3,5-トリメチルフェニル(CH基であるNb(OAr)、[W=O(OEt)、[V(=O)(OEt)、[V(=O)(OPr)]、および[Ta(OEt)を含む。
【0029】
変形型プロセス(b2)によれば、制御された濃度のヒドロキシル基(OH)を有する担体材料を、炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物と反応させる。この場合の炭化水素基はアルキル基またはアリール基であってよく、第5族または第6族金属原子は、1つ以上のアルキル基またはアリール基とは別に、自身に結合した、(元は当該金属原子に二重結合していた)非置換の酸素などの、その他の種類の基を有し得る。炭素原子を介して第5族(V、Nb、Ta)または第6族(Cr、Mo、W)の金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物の例は、W≡CBu(CH Bu)およびMo(O)Mesitylを含む。
【0030】
変形型プロセス(b3)によれば、制御された濃度のヒドロキシル基(OH)を有する担体材料を、炭素原子を介して銅(Cu)である金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物と反応させる。この場合の炭化水素基はアルキル基またはアリール基であってよく、銅(Cu)金属原子は、1つ以上のアルキル基またはアリール基とは別に、自身に結合した、(元は当該金属原子に二重結合していた)非置換の酸素などの、その他の種類の基を有し得る。炭素原子を介して銅(Cu)である金属元素に結合している少なくとも1つの炭化水素基を含有する化合物の例は、[Cu(Mes)]を含む。
【0031】
機能化(グラフト化)段階について、一般的に適切な溶媒は、特に炭化水素溶媒などの、非極性溶媒を含む。溶媒の具体例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、およびメシチレンを含む。グラフト化のための反応条件の観点において、温度は室温から還流条件までの範囲であってよく、反応時間は適切には1時間~60時間であってよい。
【0032】
活性化(か焼)プロセスについて、活性化プロセスは、200℃~700℃、好ましくは300℃~500℃の温度で実施してよい。か焼は、適切には、乾燥空気などの酸素含有雰囲気中において実施してよい。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、プロセスは、工程(b1)または(b2)において得られる化合物が、工程(b1)または(b2)において得られる化合物の元素分析において求められ得るところの、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%および多くとも2.0重量%有するように実施される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、プロセスは、か焼工程(c)の後に得られる化合物が、か焼工程(c)の後に得られる化合物の元素分析において、第5族(V、Nb、Ta)もしくは第6族(Cr、Mo、W)の金属元素またはCuを、少なくとも0.1重量%および多くとも5.0重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%および多くとも2.0重量%有するように実施される。
【0035】
本発明の好ましい実施形態においては第5族または第6族の金属が使用され、これらについて、ゼオライト材料中に組み込まれた場合にNH-SCRのための良好な活性部位となることは周知されていない。当該群の金属は、Vなどのように1つの形態でNH-SCR触媒として使用されてきた可能性はあるが、担体材料としての他の酸化物上に分散させた場合に高いNH-SCR性能を示し得るということは予期されていなかった。よって、本発明において提案される金属と担体材料との組み合わせがNH-SCR性能を有意に改善し得ること、または、酸化物上における金属の原子規模分散がNH-SCR性能を有意に改善し得ること、の予測は容易ではなかったと本発明者らは考える。
【0036】
本発明に係る触媒材料は、触媒プロセスにおいて気体反応物と相互作用できる。特定の実施形態において、触媒材料は、金属プレート、波型金属プレート、またはハニカムなどの不活性基材に塗布されてもよい。代替的には、触媒材料は、ハニカムなどの多孔質構造へと変換され得る押出可能ペーストを提供するために、フィラーおよびバインダなどのその他の固体と組み合わされてもよい。
【0037】
本発明に係る触媒材料に基づく触媒コンバータは、適切には、排気ガスが通過し得る通路が形成されるように担持元素上に配置された触媒材料を含んでよく、担持された触媒材料は、適切には、金属ケース内に収納されていてよい。金属ケースは、一般的に、排気ガスを触媒材料へと移送するためのパイプなどの、1つ以上の入口と接続される。
【0038】
NH-SCR触媒作用において機能するために、触媒コンバータは、適切には、アンモニアが排気ガスと接触できるような様式でアンモニア供給源と接続される。アンモニアは、無水アンモニア、アンモニア水、尿素、炭酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、またはカルバミン酸アンモニウムとして提供され得る。いくつかの実施形態において、アンモニア供給源を入れるために、アンモニア貯蔵槽が使用される。
【0039】
SCRシステムは、NOx還元を必要とする様々なシステムの中に統合することができる。用途は、乗用車、トラック、事業用ボイラー、工業用ボイラー、固形廃棄物用ボイラー、船舶、機関車、トンネル掘削機、潜水艦、建設機器、ガスタービン、発電所、飛行機、芝刈機、またはチェーンソーのエンジンシステムを含む。よって、本発明に係る触媒材料を使用するNOxの触媒還元は、輸送用途だけでなく発電デバイス中でも発電のために化石燃料が使用されるような状況において、および化石燃料を使用する家庭用電化製品において、一般的に関心を持たれるものである。
【0040】
本発明の実施において、本発明の実施において有利、好適、適切、または一般的に適用可能であるとして本明細書中のここよりも前の部分で別々に記載および提示されている任意の特徴または実施形態を互いに組み合わせることが想定され得る。こうした組み合わせが相互に排他的であると本明細書中に記載されている場合、またはこうした組み合わせが相互に排他的であるということが文脈から明らかに理解される場合を除いて、本記載は、本明細書中において記載される特徴または実施形態のこうした組み合わせのすべてを含むとみなされるべきである。
【実施例
【0041】
実験の項-実施例
以下の実験の項は、本発明の実施を実験によって例証するものであるが、本発明の範囲が以下の具体例に限定されると考えられるべきではない。
【0042】
実施例1a-前駆体として[Nb(OEt)を使用するNbOx/CeOの調製
工程1:担体材料セリア(CeO)の前処理
Solvay(Rare Earth La Rochelle)から入手したCeria Actalys HAS-5 Actalys 922(CeO2-(200)、比表面積が210±11m-1であるセリア)を、乾燥空気気流中において500℃で16時間か焼し、かつ、真空下において高温で脱気した。湿気と不活性雰囲気中における再水和の後、セリアを、高真空下(10-5Torr)において200℃で15時間かけて部分的に脱ヒドロキシル化して、比表面積が200±9m.g-1である黄色固体を得た。
【0043】
担体セリアを、DRIFT、BET、NMR、およびXRDによって特徴づけた。
DRIFTによるセリアの特徴づけ
図3中に示されるDRIFT実験は、か焼および水和後の真空下(10-5mbar)における200℃での熱処理によって、物理吸着された水が除去されたことを示し、主として、架橋されたOH基を示す。図3a)中に示される、200℃において脱ヒドロキシル化したセリアのスペクトルは、図3b)中に示される表面CeO-Hの異なる構造(末端および架橋OH)に起因する4つの振動バンドを示した。孤立したOHの3712cm-1におけるバンドの強度は弱く、IRシグナルは、架橋されたヒドロキシル基の3630cm-1を中心とするブロードなシグナルの方がむしろ優勢である。この事実は、このセリアが少量の(100)ファセットと優勢な(111ファセット)を示すことを示唆していると考えられる。また、3527cm-1を中心とするν(OH)の大きなバンドは、孔の中に残存するオキシ水酸化セリウム相に対応する。
【0044】
セリアのヒドロキシル基の滴定
表面ヒドロキシドのグラフト化および機能化を最適な条件下において達成するためには、それらの量を知ることが望ましい。信頼できる定量法には、Al(Bu)を使用してこれらを反応させることによる化学滴定が含まれる。この物質は、表面ヒドロキシル基と定量的に反応して、OHに対して1当量のイソブタンを放出することが知られている。GCによるイソブタンの定量化により、Al(Bu)がセリアのOH基と反応して0.7mmol/gのOHを与えることが示される。
【0045】
200℃における脱ヒドロキシル化後のセリアの比表面積
得られた材料について測定したBET比表面積(図4)はおよそ207±10m/gであった。
【0046】
200℃において脱ヒドロキシル化したセリアのXRDによる特徴づけ
X線回折分析により、前処理(500℃における空気中でのか焼、および200℃におけるジヒドロキシル化)によって立方晶フローライト構造が保存されることがわかった(図5a)。セリアと処理後のセリアとは、XRDパターンが同じである。この観察は、500℃でのか焼に続いて200℃で水和およびジヒドロキシル化を行なっても担体の結晶構造が影響を受けなかったことを示唆する。回折パターンから微結晶の平均サイズを評価できた、というのは、これが、シェラーの式による回折ピークのブロード化に関連しているためである。セリアの平均結晶サイズは約4nmであった。
【0047】
工程2:CeO2-(200)上への前駆体[Nb(OEt)のグラフト化
グローブボックス内で、またはダブルシュレンク技術を使用して、グラフト化を行なった。このアプローチにより、洗浄およびろ過のサイクルを経て未反応の錯体を抽出することができた。
【0048】
トルエン(20ml)中の所望量の[Nb(OEt)とCeO2(200)(4g)との混合物を、25℃において4時間混合した。ろ過後、固体の[Nb(OEt)-CeO2-(200)を、トルエン10mlおよびペンタン10mlで3回洗浄した。得られた粉末を、真空下(10-5Torr)において乾燥させた(図5bを参照)。中間生成物を、DRIFT、NMR、ICPによって特徴づけた。
【0049】
DRIFTによる中間生成物[Nb(OEt)/CeO2-(200)の特徴づけ
セリア上に[Nb(OEt)/CeO2-(200)をグラフト化して[Nb(OEt)/CeO2-(200)を形成する反応を、DRIFT分光法によって監視する(図6)。グラフト化反応および過剰な錯体の除去の後、3747cm-1の(CeO-H)の異なる振動様式に起因する3400~3700cm-1のバンドが完全に消えた。3100~2850cm-1の範囲および1620~1400cm-1に新しいバンドが観察され、これらのピークは、表面上に化学吸着した配位子の脂肪族ν(C-H)およびδ(C-H)の振動に特徴的なものである。これにより、プロトノリシスおよびエタノール形成によってセリアの表面ヒドロキシル基とニオブエトキシド前駆体との間で化学反応が生じたことが確かめられる。
【0050】
元素分析による中間生成物[Nb(OEt)/CeO2-(200)の特徴づけ
この材料([Nb(OEt)@CeO2-(200))について行なった物質収支測定により、NbおよびCがそれぞれ1.8重量%および1.41重量%ずつ存在していることが示された(C/Nb=6.1)。このことは、ニオブエトキシ断片の構造がセリアの表面上で二座二量体種であることを強く示唆する(図5b)。グラフト化中に生成されるエタノールは、表面に強く結合されたままであるため、評価しなかった。
【0051】
固体NMRによる中間生成物[Nb(OEt)/CeO2-(200)の特徴づけ
得られた材料([Nb(OEt)@CeO2-(200))の特徴づけを、Hおよび13C CP MAS固体NMR分光法によって行なった(図7)。H MAS NMRスペクトルは、ニオブのエトキシ配位子の-OCHCHおよび-OCHCHと、担体表面に配位されたままであり得るエタノール(エタノールはグラフト化プロセス中に放出される)とに起因する、1.6ppmのブロードなシグナルと6ppmのショルダーとを示す。また、13C CP MAS NMRデータは18ppmおよび80ppmにおけるシグナルを示し、これらは末端の-OCHCH基および-OCHCH基にそれぞれ特定できる。同様に、67におけるピークは、担体に配位しているエタノールのOCHCH基に対応する。この観察は、ニオブエトキシドの錯体がセリアにグラフト化していることを示唆する。
【0052】
工程3:中間生成物[Nb(OEt)/CeOのか焼により触媒{NbOx}-CeO2-(200)を得る
材料[Nb(OEt)/CeO2-(200)を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収された材料{NbOx}-CeO2-(200)を、触媒試験よりも前に特徴づけた。この手順によって、異なる試料を調製した:Nb 0.4~1.83重量%。1.82重量%のNbを有する試料の特徴づけが、以下に示される。
【0053】
EPRによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
セリアの電子常磁性共鳴(EPR)スペクトル(図8)は、g=2.011においてO 種に特異的なシグナルを示した。このピークは、Nb錯体のグラフト化と、g=1.95におけるCeO上のCe3+に特異的な弱いシグナルの出現とに伴って消えた。
【0054】
DRIFTによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
赤外スペクトル(図9)はν(C-H)およびδ(C-H)のバンドが消えたことを示し、このことは有機断片が完全に分解されたことを示す。また、OH伸縮振動の領域における新しいバンドが、ν(CeO-H)に起因する3400~3700cm-1と、ν(NbO-H)と特定できる3490cm-1とに観察される。
【0055】
BETによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
得られた材料について測定したBET比表面積(図10)はおよそ186±9m/gであることがわかり、これは、同じ条件下でか焼したニートセリアの場合のおよそ207±10m/gに近かった。このことは、結晶構造が保存されて、グラフト化とか焼のプロセスが粒子の焼結を誘発しない、ということを含意すると考えられる。また、孔の体積は、体積のうちのいくらかを占める有機金属断片が存在するために、0.7cm/gからおよそ0.6cm/gへのわずかな減少を示した。
【0056】
X線回折によるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
X線回折分析により、前処理(500℃における空気中でのか焼、および200℃におけるジヒドロキシル化)によって立方晶フローライト構造が保存されることがわかった(図11)。セリアとか焼後のNbOx/CeOとは、XRDパターンが同じである。この観察は、機能化を行なっても担体の結晶構造は影響を受けず、ニオブ酸化物種は検出限界未満であり表面上に均一に分布しているということを示唆する。回折パターンから微結晶の平均サイズを評価できた、というのは、これが、シェラーの式による回折ピークのブロード化に関連しているためである。平均結晶サイズは、セリアについては約4nmであり、触媒NbOx/CeOについては、熱処理に伴って増加して6nmに達することがわかった。
【0057】
EDXによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
触媒NbOx1.8/CeOについて行なったエネルギー分散型分析(EDX)マッピング(図12)は、ニオブ原子がセリア表面に良好に分布していてNbの構造が主に孤立した元素であることを示した。
【0058】
Tof-SimsによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
二次イオン質量分析法(SIMS)により照射後に検出された種の大部分は、検体の表面に集束一次イオンビームをスパッタリングして放出される二次イオンを回収および分析することによって固体表面および薄膜の組成を分析するために使用される技術である。こうした二次イオンの質量/荷電の比率を質量分析計で測定して、表面の深さ1~2nmにおける元素、同位体、または分子組成を求める。検出されるTof-Sims(図13)種は、いくらか極微量の二量体種(Nb 、Nb 、CeNb 、CeNb 、CeNb )を伴う単量体(Nb、NbO +/-、CeNbO +/-)であって、この特徴づけ技術では多量体種は検出されない。
【0059】
XASによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料0.8、1.2、および1.8重量%Nb)
担持された種の構造を決定するために、Nb含量が0.8、1.2、および1.8重量%である3つの試料をX線吸収分光法によって調べた(図14および図15)。XANESデータは、酸化セリウム表面上のNb種(重要なプレエッジシグナルを示すスペクトルを有する)が四面体環境にあることを示唆した。含量が最も多い試料(1.8重量%)のEXAFS(図16および表1)のフィットから抽出したパラメータは、オキソ配位子に起因するおよそ1つの酸素原子を1.76(2)Åに有する、および2つの表面酸化物配位子および1つのヒドロキシル配位子に起因する可能性が非常に高いおよそ3つの酸素原子を2.005(20)Åに有する、(O)Nb(=O)構造と整合する。フィットは、3.54(3)Åにおけるおよそ1つのセリウム原子のみのさらなる後方散乱層を加えることによっても改善し得た。ニオブが第2の近接体として含まれることは、統計学的に実証されなかった。よって、このEXAFS研究は、以下に図5b中に示される、表面からの1つのCe原子を第2の近接体として有する(O)Nb(=O)四面体構造と整合する(表1)。
【0060】
結論として、上述される技術(とりわけEDXおよびEXAFS)によって、ニオブがセリア表面上に良好に分布していることと、Nbの構造が主として、オキソヒドロキソ配位子を有する孤立した二座種であることとが観察された(表1中)。
【0061】
【表1】
【0062】
UV-VisによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
ニオブ吸着種(ad-species)の全般的な分散についての十分な理解が、UV-Vis-DRS分析によって得られた(図17)。これは、主として、担持されたNbOxおよびNb含有混合酸化物の構造を明らかにするために使用されている。より具体的には、配位子から金属への電荷移動(LMCT)遷移のUV-vis DRSエッジエネルギーEg(eV)と、NbOx配位構造のための架橋Nb-O-Nb結合の数とが直線的な関係にあることが実証されている。強吸収性の材料の存在は、DRSスペクトルの歪みを伴い得て、かつこれを引き起こし得て、Eg値の確実性に影響を及ぼし得る。残念なことに本研究においてもこれが当てはまり、Nb(5)カチオンと担体CeOのLMCT遷移が重なり合う。しかしながら、MgO、SiO、およびAlなどの透明なマトリックス中に試料を分散させることによって、または担体をベースライン基準とみなすことによって、この影響が軽減されることが実証されている。299nmにおけるピークはおそらく、単量体種中の四面体Nb(IV)に起因する。346および399nmにおけるピークはそれぞれ八面体Nb(5)の単量体種および多量体種に起因する可能性が非常に高い。結晶性のNb相およびCeVO相に特徴的なバンドは見られなかった。また、多量体種の四面体配位における酸素とNb(IV)との間の荷電移動遷移に起因する259nmにおけるバンドは、残念なことに、Ce3+-2およびCe4+-2の荷電移動に起因するセリアのバンドと重なり合う。
【0063】
EPRによるのNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
乾燥空気中における500℃でのか焼の後、図18中に示される電子常磁性共鳴スペクトル(EPR)はO ラジカルに起因するシグナル(g=2.011)を示し、一方、Ce+3の量は、おそらくはNbに配位しているもののために、保存されている。
【0064】
XPSによるNbOx/CeOの特徴づけ(試料 1.8重量% Nb)
X線光電子分光法を使用して、ニオブ担体およびセリア担体の電子の状態を調べた(図19)。Nbを1.8重量%含有する酸化された触媒NbOx/CeOのためのCe(3d)、O(1s)、ならびにNb(3d)および(3p)のスペクトル。概して、一対のスピン軌道二重項に起因するCe 3d領域に8つの特徴がみられる。O 1sは、格子酸素および表面酸素(O およびO)とそれぞれ特定される529.6、531、および532eVにおけるspectrum tow結合エネルギーを示した。また、スペクトルのフィッティングにより、V(V)のV3p/2およびV3p1/2の両方(BE値が365および380eV.42)の存在が強調された。CeO担体についてのCe3+イオンの画分は24%であると推定した。
【0065】
実施例1b:Arが2,6-ジイソプロピル-フェニルである[Nb(OAr)]を前駆体として使用することによる[NbOx]/CeO2-200の調製
工程1:担体材料CeOの前処理
担体材料の前処理を、上述される実施例1aの工程1における担体の前処理と同じように行なった。
【0066】
工程2:CeO2-(200)上への[Nb(Oar)]前駆体のグラフト化
トルエン(20mL)中の[Nb(Oar)](1.225mg、1.75mmol)およびCeO2-(200)(2.5g)の混合物を、25℃において12時間撹拌した。ろ過後、固体の[Nb(Oar)]/CeO2-200をトルエンで3回洗浄した。得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。H MAS NMR(ppm,500MHz):δ 6.4(Oar芳香プロトン)、1.8(メチルのArMeプロトン)13C CP MAS NMR(ppm,200MHz):δ 158.7(アリールのipso Oar C-ipso)、118.5-126.8(Oar芳香族炭素)、16.7(ArCHメチル)。元素分析 %Nb=0.99重量% %C=5.19重量% C/Nb=40.6(th 32)。
【0067】
工程3:か焼
材料[Nb(Oar)]/CeO2-200を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、アリールオキシ部位のCH基が完全に消え、ヒドロキシル基(Nb-OHおよびCe-OH)に起因する新しいシグナル約3690cm-1が現れたことが示された。触媒の比表面積測定により、か焼後の表面はおよそ135m/gであった。
【0068】
実施例2a:前駆体として[W=O(Oet)を使用することによるWox/CeOの調製
トルエン(30mL)中の[W=O(Oet)(0.625g、1mmol)および6gのCeO2-(200)の混合物を、25℃において12時間撹拌した。ろ過後、得られた固体の[W=O(Oet)/CeOを、未反応の錯体を抽出するためにトルエンで3回洗浄し、次いでトルエンを除去するためにペンタンで洗浄した。得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。
【0069】
H MAS NMR(ppm,500MHz):δ 4.8(OCHCH)、1.3(OCHCH13C CP MAS NMR(ppm,200MHz):δ 68.5(末端OCHCH)、64.6(架橋OCHCH)、18.3(末端OCHCH)、16.5(架橋OCHCH)。元素分析 %W=4.1重量% %C=1.2重量% C/W=4.5(th 6)。DRIFT分析により、Ce-OHに対応する比較的高い波数(ν(OH)=3400-3700cm-1)におけるバンドがタングステン錯体と選択的に反応したことが示された。また、2850~3050および1110~1470cm-1領域のそれぞれにおいてν(C-H)およびδ(C-H)に特徴的なバンドが見られる。
【0070】
材料[W=O(OEt)/CeOを、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、エトキシ部位のCH基が完全に消え、ヒドロキシル基(W-OHおよびCe-OH)に起因する新しいシグナル約3690cm-1が現れたことが示された。触媒の比表面積から、200℃において脱ヒドロキシル化したニートセリア(220m/g)との比較において、か焼後に比表面積が減少して145m/gとなったことが示された。
【0071】
実施例2b:触媒Wox/CeOの調製
工程1:CeOの前処理
担体材料の前処理を、上述される実施例1の工程1における担体の前処理と同じように行なった。
【0072】
前駆体としてのW≡CBu(CH Bu)の調製
中間生成物を(NMRにより)追跡する目的で、W≡Bu(CH Bu)前駆体(Cが13Cまたは12C同位体)を合成してWox/CeO触媒を調製した。
【0073】
W(≡CBu)(CH Bu)の合成
報告されている合成法を改変することによって、分子前駆体を調製した。まず、2,6-ジイソプロピルフェノールをトルエン中のWClに添加することによって、W(Oar)Cl(Ar=2,6-ジイソプロピルベンジル)を調製した。過剰なプロポフォールをペンタンで洗浄した後、黒い微晶質状の生成物を集める。エーテル(43ml、68.8mmol)中のMg(CH Bu)Clの1.6M溶液を、0℃のエーテル100ml中のW(Oar)Cl(9.3g、11.3mmol)の溶液に滴下した。真空下においてエーテルを除去し、残った固体を、ペンタン50mlを用いて3回抽出した。次いで、真空下においてすべての揮発性物質を除去し、残った油性の生成物を80℃および10-5mbarにおいて昇華させて、3.2g(60%)の黄色固体を得た。H NMR(C,300MHz):δ 1.56(9 H,s,≡CC(CH)、1.15(27 H,s,CHC(CH)、0.97(6 H,s,CHC(CH)、(HW)=9.7Hz)。13C{H}NMR(C,75.5MHz):δ 316.2(≡CC(CH(CW)=230Hz)、103.4(CHC(CH)、(CW)=90Hz)、52.8((≡CC(CH)、34.5(CHC(CH)、34.4(CHC(CH)、32.4(≡CC(CH)。
【0074】
工程2a セリア上への13C標識前駆体[W(≡Bu)(CH Bu)]のグラフト化
標識していない前駆体の調製について記載されたものと同じ手順を用いて、13Cエンリッチ表面化合物を調製した。元素分析:W 3.2重量%。固体MAS:残念なことに、常磁性Ce(III)が存在するために、シグナルがブロードであり、Bu断片のメチル基に起因する大きなピークがおよそ34ppmに観察される。図20は、W(≡Bu)(CH Bu)/CeO2-200材料のH MAS(左)および13C CP/MAS(右)の固体NMRスペクトルを示す。カルビン炭素(W≡CBu)は検出されない。
【0075】
工程2b:CeO2-200上への前駆体W(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化
W(≡CBu)(CH Bu)(1.6g、1.2mmol)およびCeO2-(200)(7g)の混合物を、ペンタン中で4時間撹拌した。放出されたネオペンタンを6Lの容器中に凝縮して、GCによって定量した。次いで、固体のW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200をペンタンで3回洗浄した。得られた灰色粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。
【0076】
200℃において部分的に脱ヒドロキシル化したセリア上へのW(≡CBu)(CH Bu)のセリアグラフト化の表面有機金属化学を図21中に示し、これは、CeO2-200)上へのW(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化を示している。放出されたネオペンタンを集め、GCによって定量した(セリア1グラムあたりネオペンタン0.23mmol)。
【0077】
DRIFTによるW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200の特徴づけ
得られた材料のDRIFTスペクトル(図22)は、OH基が一部消費され、これに付随して2800~3050cm-1にアルキル基が現れたことを示す。2110cm-1に小さなバンドを観察できることが注目に値する。図22は、a)200℃で脱ヒドロキシル化したセリア、およびb)W(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化後のもののDRIFTスペクトルを示す(右に示す2つの挿入図は特定の波数範囲を拡大したもの)。
【0078】
ICPによるW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200の特徴づけ
元素分析から、タングステン含量が3.3重量%(0.18mmol/gに対応)でありかつ炭素重量が2.16重量%であることがわかり、これによりC/W比率は9.95となり、2つのネオペンチル配位子を有するビスグラフト化種に対応する。さらに、グラフト化プロセス中に放出されたガスの定性GC分析から、0.3mmolのネオペンタン、W1つあたりにおよそ1.7個のBuCHの存在が明らかとなった。この結果は、およそ2個であると予期していた値からそれほど離れておらず、この不一致は実験誤差によるものである。
【0079】
NMRによるW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200の特徴づけ
H固体NMRは、常磁性の種によってシグナルがブロードになったりシフトしたりしているために、情報としての価値がかなり低い。かなりブロードになってはいるが、13C CPMASスペクトルは、W-CH断片およびBu断片の存在を示す(図23、W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200の1H MAS(左)および13C(右)NMRスペクトルを示す)。
【0080】
担持された種の構造を調べるために、Wを3.3重量%有する試料をX線吸収分光法によって調べた(図24)。図24は、固体のW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のW LIII-エッジk3加重EXAFS(左)およびフーリエ変換(右)を示す(実線は実験、破線は球面波理論)。
【0081】
EXAFTによるW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200の特徴づけ
EXAFSのフィットから抽出したパラメータは、オキソ配位子に起因するおよそ2つの酸素原子を1.78(2)Åに有する、ならびに2つのネオペンチレジン(neopentyledyne)ネオペンチル配位子にそれぞれ起因する可能性が非常に高いおよそ2つの炭素原子を1.78(2)Åおよび2.25(2)Åに有する、(O)W(≡CBu)(CH Bu)構造と整合する。フィットは、3.58(3)Åにおけるおよそ1つのセリウム原子のみのさらなる後方散乱層を加えることによっても改善し得た。タングステンが第2の近接体として含まれることは、統計学的に実証されなかった。よって、このEXAFS研究は、W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200について提案される構造を示す図25中に示される((O)W(≡CBu)(CH Bu))八面体構造と整合する。
【0082】
工程3:か焼
材料[W≡CBu(CH Bu)]/CeOを、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析(図26)により、予期された通りにアルキル基が燃えて除去されたことが示された。また、新しい伸縮バンドが、(W-OH Ce-OH伸縮振動)に起因する3750~3500cm-1の領域に現れた。図26は、a)200℃で脱ヒドロキシル化したセリア、b)W(≡CBu)(CH Bu)のグラフト化後のもの、およびc)W(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のか焼後のもののDRIFTスペクトルを示す。
【0083】
図27中に強調されるBET比表面積分析は、比表面積が純材料(258m/g)から穏やかに減少して157m/gになったことを示す。図27は、WO/CeO2-(200)か焼後のW(≡CBu)(CH Bu)/CeO2-200のBET比表面積分析を示す。
【0084】
実施例3a:前駆体として[V(=O)(OEt)を使用することによるVOx/CeOの調製
トルエン(20ml)中の所望量の[V(=O)(OEt)およびCeO2-(200)(4g)の混合物を、25℃において4時間混合した。ろ過後、固体の[V(=O)(OEt)/CeO2-(200)を、トルエン10mlおよびペンタン10mlで3回洗浄した。得られた粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。
【0085】
{VOx}1-CeO2-(200)の合成において、材料[V(=O)(OEt)-CeO2-(200)を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に、元素分析、XPS、RAMAN、DRIFT、およびUVvisによって特徴づけた。この手順によって、異なる試料を調製した:0.2~1.48重量% V。
【0086】
実施例3b:前駆体として[V(=O)(OPr)]を使用することによるVOx/CeOの調製
トルエン(20mL)中の[V(=O)(OPr)](340mg、1.4mmol)およびCeO2-(200)(4g)の混合物を、25℃において2時間混合した。ろ過後、固体の[V(=O)(OPr)]/CeO2-200を、トルエン10mLおよびペンタン10mLで3回洗浄した。得られた粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。H MAS NMR(ppm,500MHz):1.3(OCHCH13C CP MAS NMR(ppm,200MHz):δ 76.2(OCH(CH)、および23.8(OCH(CH)。元素分析% %V=1.48重量%、%C=1.39重量% C/V=4(th 6)。
【0087】
材料V(=O)(OPr)]/CeO2-200を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、イソプロポキシ部位のCH基が完全に消え、ヒドロキシル基(V-OHおよびCe-OH)に起因する新しいシグナル約3690cm-1が現れたことが示された。触媒の比表面積測定により、か焼後の表面はおよそ100m/gであった。
【0088】
実施例4:前駆体として[Ta(OEt)を使用することによるTaOx/CeOの調製
トルエン(20mL)中の[Ta(OEt)(1.425g、1.75mmol)およびCeO2-(200)(2.5g)の混合物を、25℃において12時間撹拌した。ろ過後、固体の[Ta(OEt)/CeO2-200を、10mLのトルエンおよびペンタンで3回洗浄した。得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。H MAS NMR(ppm,500MHz):δ 4.3(OCHCH)、1.1(OCHCH13C CP MAS NMR(ppm,200MHz):δ 66.9(末端OCHCH)、64.6(架橋OCHCH)、18.6(末端OCHCH)、16.8(架橋OCHCH)。元素分析 %Ta=3.9重量%、%C=2.32重量%、C/Ta=9(th 8)。
【0089】
材料[Ta(OEt)/CeO2-200を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃において16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、エトキシ部位のCH基が完全に消え、ヒドロキシル基(Ta-OHおよびCe-OH)に起因する新しいシグナル約3690cm-1が現れたことが示された。触媒の比表面積測定により、か焼後の表面はおよそ125m/gであった。
【0090】
実施例5:前駆体として[Cu(Mes)]を使用することによるCuOx/CeOの調製
[Cu(Mes)](1.6g、1.75mmol)およびCeO2-(200)(2.5g)の混合物を、25℃において12時間撹拌した(「Mesityl」(メシチル)(Mes)は1,3,5-トリメチルフェニル(CH基である)。次いでトルエンを添加し、ろ過後、固体の[Cu(Mes)]/CeO2-200を、10mLのトルエンおよびペンタンで3回洗浄した。得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。H MAS NMR(ppm,500MHz):δ 7.0(Ar)、2.4(ArMe)13C CP MAS NMR(ppm,200MHz):δ 160-126(Ar)、29(p-Me)、19(o-Me)。元素分析 %Cu=1.89重量%、%C=3.2重量%、C/Cu=9。
【0091】
材料[Cu(Mes)]/CeO2-200を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、メシチレン基のCH基が完全に消えたことが示された。触媒の比表面積測定により、か焼後の表面はおよそ155m/gであった。
【0092】
実施例6:前駆体としてMo(O)Mesitylを使用することによるMoOx/CeOの調製
Mo(O)Mesitylのペンタン溶液をCeOに含浸させた。20mlのペンタン中の450mgのMo(O)Mesityl(1mmol)の溶液を、4g mgのCeOに添加した。固体をろ過し、ペンタン10mLで3回洗浄して、未反応の錯体を除去した。DRIFT分析により、Ce-OHに対応する比較的高い波数(ν(OH)=3400-3700cm-1)におけるバンドがモリブデン錯体と選択的に反応したことが示された。また、2850~3050および1110~1470cm-1領域のそれぞれにおいてν(C-H)およびδ(C-H)に特徴的なバンドが見られる。未焼結の材料を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。DRIFT分析により、メシチル部位のCH基が完全に消え、ヒドロキシル基に起因する新しいシグナル約3690cm-1が現れたことが示された。元素分析 %Mo=3.05重量%。
【0093】
実施例7:触媒NbOx/CeO-ZrOの調製
担体CeO-ZrO2-(200)の調製
この新しい触媒組成は、その他のレアアースまたはジルコニウムなどの遷移金属の酸化物でドープされたセリアの使用を伴い、これによって、担体の熱安定性が増大し、低温酸化還元性能が向上する。
【0094】
セリア-ジルコニア(比表面積110±6m-1)を、乾燥空気気流中において500℃でか焼した。不活性雰囲気中において再水和させた後、高真空下(10-5Torr)において200℃で15時間かけてセリアを部分的に脱ヒドロキシル化して、比表面積が97±9m-1(窒素吸着により、図29)であり2.4 OH nm-2に対応する0.4mmol OH.g-1を含有する黄色固体を得た。また、CeO-ZrOの脱ヒドロキシル化も200℃において行なった。最終的なDRIFTスペクトルは、CeO-ZrO上に異なるヒドロキシル基が存在することを示し、このことは文献の記載と整合する(図28)。よって、図28は、セリア-ジルコニアのin situ温度依存性DRIFTスペクトルおよび異なる表面(MO-H)伸縮振動の特性を示し、図29は、200℃でジヒドロキシル化した後のセリア-ジルコニアの77Kにおける窒素の吸着等温線を示す。
【0095】
200℃で脱ヒドロキシル化したCeO-ZrO上の反応性ヒドロキシル基の滴定
200℃で脱ヒドロキシル化したCeO-ZrOの表面OHの数を、反応性が非常に高いことが知られているAl(iBu)を用いた滴定によって求めた。Al(iBu)と表面OHとの反応により、1分子のイソブテンが放出される(GCにより定量)。Al(iBu)を用いる表面OH基の定量化によって0.4mmol OH/gであることが分かり、これは2.4 OH/nmに対応する。
【0096】
DRIFTスペクトルによって、すべての種類の表面OH基が反応したことが確認された(図30)。よって、Al(iBu)を用いる表面OH基の定量化により、2.4 OH/nmに対応する0.4mmol OH/gであることが分かる。よって、図30は、a)200℃で脱ヒドロキシル化したCeO-ZrOおよびb)Al(iBu)のグラフト化後のもののDRIFTスペクトルを示す。
【0097】
また、固体NMRスペクトル(図31)はイソブチル基の存在を示すが、おそらくはグラフト化中における担体の還元のために、常磁性によってシグナルがブロードになる。よって、図31は、Al(iBu)/CeO-ZrO2-200H MAS(左)および13C(右)NMRスペクトルを示す。
【0098】
グラフト化により[Nb(OEt)/CeO-ZrO2-(200)を得る
グローブボックス内で、またはダブルシュレンク技術を使用して、グラフト化を行なった。このアプローチにより、洗浄およびろ過のサイクルを経て未反応の錯体を抽出することができた。
【0099】
トルエン(20ml)中の所望量の[[Nb(OEt)および/CeO-ZrO2-(200)(4g)の混合物を、25℃において4時間混合した。ろ過後、固体の[Nb(OEt)/CeO-ZrO2-(200)を、トルエン10mlおよびペンタン10mlで3回洗浄した。得られた粉末を真空下(10-5Torr)において乾燥させた。
【0100】
NbOx/CeO-ZrO2-(200)の合成
材料[Nb(OEt)/CeO-ZrO2-(200)を、ガラスリアクタを使用して、乾燥空気の連続流中において500℃で16時間か焼した。回収した材料を、触媒試験よりも前に特徴づけた。この手順によって、0.45~1.22重量% Nbの範囲の、異なる試料を調製した。
【0101】
触媒活性試験条件
およそ33mgのペレット試料を1トンの圧力下で調製して、石英リアクタ(径4.5mm)中に入れた。NO 300ppm、NH、350ppm、O 10%、HO、3%、CO 10%、He(残部)からなるガス混合物を、300mL/分の速度で触媒層に流した。リアクタを加熱速度10℃/分にて室温から600℃に加熱した。この系を600℃において10分間維持した後、室温に冷却した。加熱および冷却中に、出口におけるガス組成を、FTIR、MS、および化学発光の組み合わせによって監視した。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31