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特許7331148双部位表面種を有する担持酸化物NH3-SCR触媒および合成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】双部位表面種を有する担持酸化物NH3-SCR触媒および合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20230815BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230815BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20230815BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230815BHJP
   C07F 11/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B01J23/30 A
B01D53/86 222
B01D53/90 ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
B01J37/02 101A
B01J37/08
C07F11/00 C CSP
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021572091
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 IB2019000711
(87)【国際公開番号】W WO2020245621
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】509043571
【氏名又は名称】トヨタ・モーター・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR EUROPE
(73)【特許権者】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】523165352
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ クラウド ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】518184432
【氏名又は名称】エコール・シューペリウール・ドゥ・シミ・フィジーク・エレクトロニーク・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】ECOLE SUPERIEURE DE CHIMIE PHYSIQUE ELECTRONIQUE DE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエン,フック・ハイ
(72)【発明者】
【氏名】シャルラン,マルク-オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】ララビ,シェリフ
(72)【発明者】
【氏名】セット,カイ・チュン
(72)【発明者】
【氏名】タウフィク,モスタファ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0128913(US,A1)
【文献】特表2009-512689(JP,A)
【文献】特開2003-210987(JP,A)
【文献】特表2013-512205(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030681(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0044262(US,A1)
【文献】特表2017-532385(JP,A)
【文献】特表2006-524191(JP,A)
【文献】特開2005-238195(JP,A)
【文献】COPERET, C. et al.,Angewante Chemie International Edition,2017年07月07日,Vol.57,pp.6398-6440,<DOI:10.1002/anie.201702387>
【文献】COPERET, C. et al.,Angewante Chemie International Edition,2003年01月16日,Vol.42,pp.156-181,<DOI:10.1002/anie.200390072>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
F01N 3/00
3/02
3/04 - 3/38
9/00 - 11/00
C07F 11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料を調製するための方法であって、
(a)表面水酸基(OH)を含有する担体材料を提供する工程を含み、前記担体材料は、1gの前記担体材料あたり0.3mmol以上および2.0mmol以下のOH基を含有し、前記担体材料は、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、またはこれらの組み合わせであり、
(b)工程(a)の表面水酸基(OH)を含有する前記担体材料を、2つの遷移金属原子を含有する前駆体と反応させる工程を含み、各遷移金属原子は、W、Cr、V、Mnからなる群からそれぞれ選択され、
(c)前記担体材料上で酸化物として存在する前記前駆体から由来する遷移金属原子の対を含有する双部位表面種を示すアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料を提供するために、工程(b)で得られた生成物をか焼する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記前駆体は、前記2つの遷移金属原子が直接に結合しているまたは1つ以上の酸素原子を介して結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆体の前記遷移金属原子は、同じである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体の前記遷移金属原子は、Wである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体の前記遷移金属原子は、酸素原子、窒素原子および/または置換もしくは非置換の1つ以上のアルキル基、アリール基、アルコキシ基およびフェノキシ基に結合している、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体は、[(BuCHW=O](μ-O)、[ BuO) W=O](μ-O)、(BuO)W≡W(BuO)からなる群から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記担体材料は、セリア(CeO)担体またはセリア-ジルコニア(CeO-ZrO)担体である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記担体材料は、1gの前記担体材料あたり0.5mmol以上および1.3mmol以下のOH基を含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記か焼工程(c)の温度は、300℃以上であり
前記か焼工程の持続時間は、1時間以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記か焼工程(c)の温度は、700℃以下であり、および/または
前記か焼工程の持続時間は、30時間以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(b)で得られた化合物は、前記工程(b)で得られた化合物の元素分析において、前記前駆体から由来する遷移金属原子を、0.1重量%以上5.0重量%以下で含有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記か焼工程(c)の後に得られた化合物は、前記か焼工程(c)の後に得られた化合物の元素分析において、前記前駆体から由来する遷移金属原子を、0.1重量%以上5.0重量%以下で含有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の前記方法によって得ることができるアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料
【請求項14】
前記アンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料は、元素分析による測定において、前記前駆体から由来する遷移金属原子を、0.1重量%以上5.0重量%以下で含有する、請求項13に記載の触媒材料。
【請求項15】
窒素酸化物(NOx)を還元するための触媒としての、請求項13または14のいずれか一項に記載のアンモニア選択触媒還元(NH -SCR)触媒の材料の使用。
【請求項16】
分子式[ BuO) W=O](μ-O)を有する化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
化石燃料駆動の車両からの排気ガスまたは発電所などの固定汚染源中に含まれる有毒NOxガス(NO、NO、NO)は、環境中に放出される前にNに転化される必要がある。これは、通常、三元触媒(TWC)などの種々のNOx還元触媒、NOx吸蔵還元(NSR)、またはアンモニアを外部の還元剤(NH-SCR)として使用する選択触媒還元(SCR)を用いて行われる。
【0003】
などの金属酸化物は、良好なNH-SCR触媒であることが知られている。触媒活性は、表面種の酸性度および還元性の相補的特徴によって達成されることが示唆されている。簡潔には、NHをブレンステッド酸部位(V5+-OH)に吸着させ、続いて、隣接するV=O表面基を介して酸化還元サイクル(V5+=O/V4+-OH)を経てN-Hを活性化させる。得られた表面錯体は、それぞれラングミュア-ヒンシェルウッド(Langmuir-Hinshelwood)反応メカニズムおよびイレイ-リディール(Eley-Rideal)反応メカニズムを介して、気体状のNOまたは弱く吸着されたNOと反応することによって、NHNO中間種を形成する。この中間種は、NおよびHOに分解される。ルイス酸部位へのNHの吸着を伴う別のメカニズム(アミド-ニトロサミド)も提案されている。さらに、実際的な条件下において、特に過酸化触媒コンバータがSCR触媒コンバータの上流に配置される場合、高速SCRとして知られるSCR反応にとって有利な二酸化窒素が形成される。NOは、実際に、還元された種の迅速な再酸化を可能にする。しかしながら、最適なNO/NO比は、1である。過剰なNOが存在する場合、より遅い反応で還元されるため、SCR反応の総速度を低下する。Vなどの金属酸化物触媒は、主に、含浸などの合成経路によって形成される。このような合成経路は、通常、担体上に分散された金属のナノ粒子を生成する。このような触媒の問題は、低いNOx転化率および/または低いN選択性などの低い性能である。
【0004】
従来技術は、触媒として、しばしばCu、Feを使用している。これらの触媒は、ゼオライト材料に組み込まれる場合、NH-SCRの良好な活性部位となることがよく認識されている。従来技術は、担体材料として、しばしばSiOを使用している。SiOは、高比表面積を有するため、活性部位の数を増やすことによってSCR性能を改善することを期待することができる。
【0005】
US9283548B2は、MA/CeO(M=Fe、Cu;A=K、Na)という種類の触媒を開示しており、その合成経路は、EDTA、DTPAなどのキレート剤を使用する含浸である。
【0006】
J. Phys. Chem. B 2006, 110, 9593-9600 [Tian 2006]は、VOx/AO(A=Ce、Si、Z)という種類の触媒を開示しており、その合成経路は、含浸である。用途は、プロパンの酸化脱水素(ODH)を含む。バナジウムオキソ-イソプロポキシドは、化学吸着ではなく、分散および物理吸着されている。
【0007】
J. Phys. Chem. B 1999, 103, 6015-6024 [Burcham 1999]は、Nb/SiO、Al、ZrO、TiOという種類の触媒を開示しており、その合成経路は、含浸である。この文献は、振動分光法によって特徴付けられた孤立Nb表面種を記載している。調製は、水中で行われ、金属は、プロトン分解によってグラフトされるのではなく、表面に堆積させられる。
【0008】
J. Phys. Chem. C 2011, 115, 25368-25378 [Wu 2011]は、VOx/CeO、SiO、ZrOという種類の触媒を開示しており、その合成経路は、含浸である。イソプロパノールは、溶媒として使用され、前駆体としてのバナジウムオキソ-イソプロポキシドは、表面上にグラフト化されるのではなく、単に分散および物理吸着されている。
【0009】
Appl. Catal. B 62, 2006, 369 [Chmielarz 2006]は、FeまたはCu/SiO(3つの異なる形態)という種類の触媒を開示している。ゼオライトを使用した場合(イオン交換合成)に、CuおよびFeは、良好なNH-SCR性能を示すことが広く知られている。これらの触媒材料は、NH-SCRによる脱NOxに使用された。合成は、前駆体Fe(acac)、Cu(acac)(acac=アセチルアセトネート)を使用して、分子設計分散(MDD)によって行なわれた。
【0010】
Science 2007, 317, 1056-1060 [Avenier 2007]は、単離されたシリカ表面担持タンタル(III)およびタンタル(V)水素化物の中心[(≡Si-O)TaIII-H]および[(≡Si-O)Ta-H]上における二窒素の開裂を記載している。
【0011】
EP2985077A1は、SiOに担持されたモリブデン錯体またはタングステン錯体、例えば、トリアルキルタングステン錯体またはモリブデンオキソ錯体、その調製およびオレフィン複分解における使用を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒の分野における従来技術の生成物および方法に関連する問題に対処するために、本発明の方法および生成物を開発した。
【0013】
表面有機金属化学(SOMC)のアプローチによれば、有機金属前駆体をグラフト化することによって、すなわち、前駆体と表面水酸基との間の化学結合を形成することによって、担体材料の表面を改変することができる。これによって、グラフト化された材料の局所構造を維持することができるため、従来の合成方法によって担体材料表面上に通常形成される多種多様な種を最小限に抑えることができる。この方法論を使用して、異なる金属を担持した金属酸化物触媒を合成することができる。材料を合成する従来のSOMC手順は、以下の3つの工程からなる:
工程1:調製、例えば、
1)担体材料の調製
か焼
水和
水酸基の濃度を制御するための脱水酸基
2)金属前駆体の調製
合成(容易に入手できない金属前駆体)
工程2:グラフト化
1)例えば、トルエンなどの溶液において、典型的には室温(約25℃)で、金属前駆体を担体材料の表面水酸基と反応させる
2)洗浄および乾燥
工程3:活性化
典型的には、空気流下で約500℃以上で16時間焼成することによって、残存する有機配位子を除去する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、新規SOMC手順を使用することによって、NOx還元性能が改善された新規酸化物NH-SCR触媒の開発を開示する。
【0015】
したがって、第1の態様において、本発明は、触媒材料を調製するための方法であって、
(a)表面水酸基(OH)を含有する担体材料を提供する工程を含み、担体材料は、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、またはこれらの組み合わせであり、
(b)工程(a)の表面水酸基(OH)を含有する担体材料を、2つの遷移金属原子を含有する前駆体と反応させる工程を含み、各遷移金属原子は、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Mnからなる群からそれぞれ選択され、
(c)担体材料上で酸化物として存在する前駆体から由来する遷移金属原子の対を含有する双部位表面種を示す触媒材料を提供するために、工程(b)で得られた生成物をか焼する工程を含む、方法に関する。
【0016】
本発明の方法の好ましい実施形態において、前駆体は、2つの遷移金属原子が直接に結合しているまたは1つ以上の酸素原子を介して結合している。
【0017】
本発明の方法の好ましい実施形態では、前駆体の遷移金属原子は、同じである。前駆体は、二量体構造を有してもよい。
【0018】
第2の態様において、本発明は、上記方法によって得ることができる触媒材料に関する。好ましい実施形態では、触媒材料は、元素分析による測定において、前駆体から由来する遷移金属原子を、0.1重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下で含有する。
【0019】
第3の態様において、本発明は、窒素酸化物(NOx)を還元するためのアンモニア選択触媒還元(NH-SCR)触媒としての上記触媒材料の使用に関する。
【0020】
第4の態様において、本発明は、分子式[ BuO) W=O](μ-O)を有する化合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a】従来の合成法によるナノ粒子の分散(a)と、SOMCアプローチ(b、c、d、e)によって合成された触媒中の金属の分散との比較を示す概略図である。
図1b】二量体前駆体とセリアとの反応および担持された二分子種の形成を示す例示的且つ非限定的な例である。
図2】二量体タングステン前駆体[(BuCHW(=O)](μ-O)から調製された触媒(黒い三角)、単量体タングステン前駆体(BuCHW(≡CBu)から調製された触媒(黒い丸)および(NH10(Wの伝統的な含浸(黒い四角)から調製された触媒の温度に対するNOx転化率を示す図である。
図3a】二量体前駆体[(BuCHW(=O)](μ-O)から調製された異なる量(15mg、25mgおよび35mg)の触媒WO/CeOの温度に対するNOx転化率を示す図である。
図3b】二量体前駆体(BuO)W≡W(BuO)から調製されたWO/CeOの温度に対するNOx転化率を示す図である。
図3c】二量体前駆体[(BuCHW(=O)](μ-O)から調製された触媒の温度に対するNOx転化率を示す図である。
図3d】二量体前駆体[ BuO) W(=O)](μ-O)から調製された触媒の温度に対するNOx転化率を示す図である。
図4a】溶液中の二量体構造(W-O-W)を示す図である。
図4b】溶液中の単量体構造(M-OEt)を示す図である。
図5a】W(≡CBu)(CH Bu)の合成を示す図である。
図5b】[(BuCHW=O](μ-O)の合成を示す図である(μ-O(またはμ-O)は、酸素原子が架橋しており、2つのタングステン原子間で共有されていることを示す)。
図6a】[ BuO) W(O)](μ-O)の合成を示す図である(μ-O(またはμ-O)は、酸素原子が架橋しており、2つのタングステン原子間で共有されていることを示す)。
図6b BuO) W≡W( BuO) の合成を示す図である。
図7a】[(BuCHW=O](μ-O)と200℃で脱水酸基したCeOの表面水酸化物との表面有機金属反応を示す図である。
図7b】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトルおよびb)[(BuCHW=O](μ-O)をグラフト化したセリアのDRIFTスペクトルを示す図である。
図8】[(BuCHW=O](μ-O)/CeO-200のH MAS NMRスペクトル(左)および13C NMRスペクトル(右)を示す図である。
図9】中間材料のか焼による触媒{W/CeO2-200の調製を示す(この時点では、W-O-W構造が確認されているが、周囲の構造がまだ完全に解明されていない。この概略図は、可能な解釈に拘束されない現在の仮説を示す。特に、Wに結合することができるOまたはOHの分布は、図示の通りでなくてもよい)。
図10】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトル、b)[(BuCHW=O](μ-O)をグラフト化したセリアのDRIFTスペクトル、およびc)得られた試料を乾燥空気下500℃で16時間か焼したもののDRIFTスペクトルを示す図である。
図11】200℃で脱水酸基したセリア(A)のDRIFTスペクトル、二量体前駆体[(BuCH2)W=O](μ-O)から調製された触媒(B)のDRIFTスペクトル、および単量体前駆体W(≡CBu)(CH Bu)から調製された触媒(C)のDRIFTスペクトルを示す図である。
図12】(A)二量体前駆体から調製されたWO/CeOおよび単量体前駆体から調製されたWO/CeOの拡散反射UV-Visスペクトル、UV-Vis DRSスペクトル、(B)単量体前駆体から調製されたWO/CeOのエッジエネルギー、および(C)二量体前駆体から調製されたWO/CeOのエッジエネルギーを示す図である。
図13】[ BuO) WO](μ-O)と200℃で脱水酸基したCeOの表面水酸化物との表面有機金属反応を示す図である。
図14】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトルおよびb)[ BuO) WO](μ-O)をグラフト化した材料のDRIFTスペクトルを示す図である。
図15】[ BuO) WO](μ-O)/CeO2-20013C CP MAS S NMRスペクトルを示す図である。
図16】中間材料[(BuCHW=O](μ-O)/CeO2-200のか焼による触媒{W/CeO2-200の調製を示す(図9に示すように、W原子の周囲の環境の完全な詳細は、まだ完全には解明されていない。最終生成物の概略図は、限定されていない現在の仮説として見なすべきである) 。
図17】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトル、b)[ Bu O) WO](μ-O)をグラフト化した中間材料のDRIFTスペクトル、およびc)中間材料をか焼して得られた触媒(W/CeO2-200のDRIFTスペクトルを示す図である。
図18】(BuO)W≡W(BuO)と200℃で脱水酸基したCeOの表面水酸化物との表面有機金属反応を示す図である。
図19】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトルおよびb)200℃で脱水酸基したセリアに(BuO)W≡W(BuO)をグラフト化した中間材料のDRIFTスペクトルを示す図である。
図20】(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-20013C CPMAS S NMRスペクトルを示す図である。
図21】中間体[(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200のか焼による触媒{W/CeO2-200の調製を示す(図9に示すように、W原子の周囲の環境の完全な詳細は、まだ完全には解明されていない。最終生成物の概略図は、限定されていない現在の仮説として見なすべきである)。
図22】a)200℃で脱水酸基したセリアのDRIFTスペクトル、b)[(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200をグラフト化した中間材料のDRIFTスペクトル、およびc)中間材料をか焼して得られた触媒のDRIFTスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明の有利な特徴は、以下を含む:
含浸ではなく、グラフト化工程(前駆体と表面との間の化学反応)、
ナノ粒子ではなく、原子規模分散によりグラフト化した金属、および2つの遷移金属原子を含む前駆体から得られた双部位表面構造、
担体を熱的に前処理(脱水酸基)することによって、所望のアンカーポイント(OH)を生成し、グラフト化することにより、表面種を良好に分散させることによって、活性金属中心の焼結を防止する。
【0023】
本発明において、遷移金属基から選択された金属と、CeO、ZrOまたはこれらの混合物、例えばCeO-ZrOから選択された担体材料との好適な組み合わせを含む新規NH-SCR触媒が開示されている。これらの触媒は、様々な有機金属の金属前駆体を用いて、新規SOMC手順によって調製される。
【0024】
従来の酸化物触媒は、通常、酸化物上に担持された大きな金属粒子と酸化物とからなる。活性部位は、明確に定義されていない。本発明に開示された触媒は、ほぼ100%の金属の原子規模分散を提供することができる。このように高分散した金属部位は、単により高い密度の活性部位を与えるだけでなく、NH-SCRの触媒メカニズムを変化させ、これによって、金属部位に吸着されたNHは、担体の表面に吸着されたNOxと能動的に反応することができる。すなわち、新規触媒において金属と担体材料との相互作用が促進されるため、触媒性能が向上する。
【0025】
図1aは、触媒中の金属の分散を示す概略図である。従来技術における従来の方法は、これらの種の混合物を生成し、その大部分がナノ粒子の形態である(孤立種の定量評価をしていない)。従来技術において報告された触媒は、NH-SCR反応におけるNOx転化率が低いという共通の問題を有する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、2つの遷移金属原子を含む金属前駆体、いわゆる二量体前駆体は、2つの酸素と結合することによりCeOの表面水酸基と反応することによって、双部位表面種を形成する。WO/CeO触媒の例示的且つ非限定的な例は、図1bに概略的に示されている。
【0027】
二量体前駆体([ BuO) W(=O)](μ-O)を用いて得られた本発明の触媒の触媒活性は、シュロック型単量体であるタングステンネオペンチル/ネオペンチリジン錯体W(≡CBu)(CH Bu)(Buは、ブチル基を表す)から調製された対照物の触媒活性よりも明らかに高い。同様に、本発明の触媒は、(NH10(Wを用いた従来の含浸によって調製された触媒よりも高い触媒活性を示した(図2)。
【0028】
NOxを還元するための二量体触媒の触媒性能は、用意された二量体前駆体[(BuCHW(=O)](μ-O)から調製された様々な量の触媒(35mg、25mgおよび15mg)を使用して測定される。図3は、試料の重量を半分以上に減らしても、試料の性能があまり変化しないことを示している。このことは、触媒の高い活性を示す。
【0029】
本発明の好ましい金属前駆体は、明確な二量体構造を示す。本発明の二量体構造は、W-O-W間の特別なシグマ結合によって溶液中で存続する(図4a)が、通常の金属前駆体は、OとWとの間の供与配位のみを含むため、溶媒中で単量体種に解離する(図4b)。
【0030】
セリア(CeO)および/またはジルコニア(ZrO)の形にした適切な担体材料は、商業的供給業者から入手することができる。セリアは、例えば、ソルベイ(SOLVAY)などの供給業者から入手することができ、典型的には約250m/gの比表面積を有する。
【0031】
担体材料上に制御された特定の濃度のOH基を形成する有利な実施形態において、本発明の方法の工程(a)の材料を提供するために、まず水分を用いて、(典型的な市販の試料として入手した)酸化物担体材料の水和を行い、その後、減圧下の加熱によって二水酸基化を行う。OH基の濃度は、処理の温度によって著しく影響される。セリア(CeO)担体材料を処理するための一般的に適切な工程において、有利な処理条件は、約10-5ミリバールの圧力および200℃の温度を典型的に16時間維持することである。担体材料上のOH基の濃度は、例えば、Al(Bu)との反応による化学滴定によって決定することができ、この物質は、表面水酸基と定量的に反応して、OH当たりに1当量のイソブタンを放出する。
【0032】
本発明において好ましい担体材料は、セリア(CeO2)担体またはセリア-ジルコニア(CeO2-ZrO2)担体である。混合型セリア-ジルコニア(CeO-ZrO)担体の場合、ZrOの量は、20~80重量%の範囲、好ましくは30~60重量%の範囲にあってもよい。実際には、これよりも高いZrO含有量は、OH基の濃度を減少させる可能性がある。CeOおよびCeO-ZrOは、通常SiOよりも低い比表面積(SSA)を有するため、従来技術においてSCR触媒の良好な担体材料として知られていない。
【0033】
本発明のグラフト化工程(b)において、制御された濃度の水酸基(OH)を含む担体材料を、グラフト化試薬と反応させる。
【0034】
官能化(グラフト化)工程において、一般的に適切な溶媒は、極性溶媒および非極性溶媒、特に炭化水素溶媒を含む。溶媒の具体例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、およびメシチレンを含む。グラフト化の反応条件として、温度は、室温から還流条件までの範囲であってよく、反応時間は、適切には1時間~60時間にあってもよい。
【0035】
活性化(か焼)工程に関して、活性化工程は、200℃~700℃の温度、好ましくは300℃~500℃の温度で実施されてもよい。か焼は、乾燥空気などの酸素含有雰囲気中で適切に実施されてもよい。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、方法は、工程(b)で得られた化合物が、工程(b)で得られた化合物の元素分析において決定されたように、前駆体から由来する遷移金属元素を、0.1重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下で含有するように実施される。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、方法は、か焼工程(c)の後に得られた化合物は、か焼工程(c)の後に得られた化合物の元素分析において、前駆体から由来する遷移金属原子を、0.1重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下で含有するように実施される。
【0038】
前駆体から由来し、本発明に使用され且つ本発明の方法の工程(b)または(c)の後に得られた化合物の元素分析において同定され得る遷移金属原子は、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Mnからなる群から選択されてもよい。第6族(W、Mo、Cr)および第5族(Ta、Nb、V)の金属が好ましく、タングステン(W)が特に好ましい。
【0039】
本発明の触媒材料を調製するための方法において、表面水酸基(OH)を含有する担体材料は、2つの遷移金属原子を含有する前駆体と反応させる。各遷移金属原子は、W、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Mnからなる群から選択される。
【0040】
好ましい実施形態において、前駆体は、2つの遷移金属原子が直接に結合しているまたは1つ以上の酸素原子を介して結合している。さらに、好ましい実施形態において、前駆体の遷移金属原子は、同じである。
【0041】
好ましい実施形態において、前駆体の遷移金属原子は、酸素原子、窒素原子および/または置換もしくは非置換の1つ以上のアルキル基、アリール基、アルコキシ基およびフェノキシ基に結合している。前駆体の遷移金属原子の一方または両方に結合している窒素原子は、アミンもしくはイミンとして、またはヘテロ環窒素原子もしくはヘテロ芳香族窒素原子として結合してもよい。アリール基は、ホモ芳香族基およびヘテロ芳香族基だけでなく、シクロペンタジエニルなどのアニオン性芳香族基を含む。
【0042】
特に好ましい実施形態において、前駆体は、[(BuCHW=O](μ-O)、[ BuO) W=O](μ-O)、(BuO)W≡W(BuO)からなる群から選択される。
【0043】
以下の表1は、文献に報告された手順に従って合成された異なる二量体前駆体を列挙している。本発明者らは、これらの二量体前駆体を、本発明に記載のSOMC手順に従って改善された性能を有するSCR触媒の調製に使用することができると考えている。
【0044】
表1 双部位表面構造を有する触媒を調製するためのSOMC手順に使用され得る報告されたさらなる二量体前駆体
【0045】
【表1】
【0046】
表2 双部位表面構造を有する触媒を調製するためのSOMC手順に使用され得る二量体前駆体を合成するために使用され得る報告されたさらなる前駆体および調製手順
【0047】
【表2】
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、第5族または第6族金属が使用される。これらの金属は、ゼオライト材料に組み込まれる場合、NH-SCRの良好な活性部位として知られていない。第5族または第6族からの金属は、Vなどの単一型NH-SCR触媒として使用されてきたが、担体材料として他の酸化物上に分散された場合に高いNH-SCR性能を示すとは予期されなかった。したがって、本発明者らは、本発明において提案された金属と担体材料との組み合わせが、NH-SCR性能を著しく改善することができること、または酸化物上に金属の原子規模分散がNH-SCR性能を著しく改善することができることを予測することは容易ではないと考えている。
【0049】
本発明の触媒材料は、触媒過程中、気体反応物と相互作用することができる。特定の実施形態において、触媒材料は、金属板、波形金属板、またはハニカムなどの不活性基材に塗布されてもよい。代替的には、触媒材料は、ハニカムなどの多孔質構造に変形され得る押出可能なペーストを形成するために、充填剤および結合剤などの他の固体と組み合わせられてもよい。
【0050】
本発明の触媒材料に基づいた触媒コンバータは、排気ガスが通過する通路を形成するように担持要素上に配置された触媒材料を適宜含んでもよく、担持された触媒材料は、金属ケースに適宜収容されてもよい。金属ケースは、一般的に、1つ以上の入口、例えば排気ガスを触媒材料に向けて移送するためのパイプに接続される。
【0051】
触媒コンバータは、NH-SCR触媒反応時に機能するために、アンモニアが排気ガスと接触するようにアンモニア源と適切に接続される。アンモニアは、無水アンモニア、アンモニア水、尿素、炭酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、またはカルバミン酸アンモニウムとして提供されてもよい。いくつかの実施形態において、アンモニア源は、アンモニア貯蔵タンクに収容される。
【0052】
SCRシステムは、NOx還元を必要とする様々なシステムに組み込むことができる。用途は、乗用車、トラック、公共ボイラ、工業ボイラ、固体廃棄物ボイラ、船舶、機関車、トンネル掘削機、潜水艦、建設機器、ガスタービン、発電所、飛行機、芝刈機、またはチェーンソーのエンジンシステムを含む。したがって、本発明の触媒材料を使用するNOxの触媒還元は、輸送用途だけでなく発電のために化石燃料を発電装置に使用する状況において、および化石燃料を使用する家庭用電化製品において、一般的に関心を持たれるものである。
【0053】
本発明の実施において、有利、好適、適切、または一般的に適用可能であるとして本明細書の上記の部分に別々に記載されおよび提示されている任意の特徴または実施形態を互いに組み合わせることが想定され得る。こうした組み合わせが相互に排他的であると本明細書中に記載されている場合またはこうした組み合わせが相互に排他的であるということが文脈から明らかに理解される場合を除いて、本明細書は、本明細書に記載された特徴または実施形態のこうした組み合わせの全てを含むと見なされるべきである。
【実施例
【0054】
実験部分-実施例
以下の実験部分は、本発明の実施を実験によって例証するものであるが、本発明の範囲は、以下の特定の実施例に限定されると見なされるべきではない。
【0055】
二量体金属前駆体の調製例
二量体[(BuCHW=O](μ-O)の合成
合成は、3つの工程で行われた(図5aおよび5bを参照)。
【0056】
報告されている合成法(Clark, D. N.; Schrock, R. R.; Journal of the American Chemical Society 1978, 100, 6774-6776; Schrock, R. R.; Sancho, J.; Pederson, S. F.; Inorganic Syntheses 1989, 26, 44-51; Schrock, R. R.; Clark, D. N.; Sancho, J.; Wengrovius, J. H.; Rocklage, S. M.; Pedersen, S. F.; Organometallics 1982, 1, 1645-1651)を改変することによって、分子前駆体W(≡CBu)(CH Bu)図5a)を調製した。
【0057】
まず、2,6-ジイソプロピルフェノールをトルエン中のWClに添加することによって、W(OAr)Cl(Ar=2,6-ジイソプロピルベンジル)を調製した。過剰のプロポフォールをペンタンで洗浄した後、黒色微晶質状の生成物を収集する。エーテル(43ml、68.8mmol)中のMg(CH Bu)Clの溶液1.6Mを、0℃で100mlエーテル中のW(OAr)Cl(9.3g、11.3mmol)の溶液に滴下した。真空下でエーテルを除去し、残りの固体を50mlのペンタンで3回抽出した。次いで、真空下で全ての揮発性生成物を除去し、残りの油状生成物を80℃および10-5ミリバールで昇華させ、3.2g(60%)の黄色固体を得た。この黄色固体は、以下のNMR特徴を有する:
1H NMR (C6D6, 300 MHz): δ 1.56 (9 H, s, ≡CC(CH3)3), 1.15 (27 H, s, CH2C(CH3)3), 0.97 (6 H, s, CH2C(CH3)3), 2J(HW)= 9.7 Hz);
13C{1H} NMR (C6D6, 75.5 MHz): δ 316.2 (≡CC(CH3)3, 1J(CW)= 230 Hz), 103.4 (CH2C(CH3)3), 1J(CW)= 90 Hz), 52.8 ((≡CC(CH3)3), 34.5 (CH2C(CH3)3), 34.4 (CH2C(CH3)3), 32.4 (≡CC(CH3)3)。
【0058】
[(BuCHW=O](μ-O)の合成(図5b)
W(≡CBu)(CH Bu)(3g、6.4mmol)を20mlのTHFに溶解し、快速に撹拌しながら10mlの水を一度に添加した。1時間後、白色沈殿物を濾過し、真空下で乾燥させ、2.4g(90%)の所望の錯体を得た。この錯体は、以下のNMR特徴を有する:
1H NMR (C6D6, 300 MHz): δ 1.98 (12 H, s, CH2C(CH3)3), 1.31 (54 H, s, CH2C(CH3)3);
13C{1H} NMR (C6D6, 75.5 MHz): δ 91.9 (CH2C(CH3)3), 1J(CW)= 93 Hz), 35.4 (CH2C(CH3)3), 32.9 (CH2C(CH3)3)。
【0059】
二量体前駆体[ BuO) W=O](μ-O)の合成
この合成は、2つの工程で行われた(図6)。
【0060】
[ClW=O](μ-O)の合成
30mLのCHClに溶解した(MeSi)O(6.15g、12.6mmol)のジクロロメタン溶液を、0℃で30分の間にジクロロメタン(60mL)に懸濁したWCl(10.0g、25.2mmol)の懸濁液に滴下した。混合物をさらに60分間撹拌した。次いで、濾過によって上清液を除去し、固体を回収し、乾燥させた。収量は、7.52g(95%)であった。
【0061】
BuO) W=O](μ-O)の合成
60mLのTHFに溶解したLiOCMe(5.45g、0.068mol)の溶液を、20mLのTHFに溶解した[ClW=O](μ-O)(7.0g、0.011mol)の溶液に0℃で滴下した。反応混合物を室温まで加温し、0.5時間撹拌してから、真空下でTHFを除去した。次いで、生成物をトルエンで抽出し、-30℃で結晶させ、無色結晶(75%)を得た。この無色結晶は、以下のNMR特徴を有する:
1H NMR (C6D6, 300 MHz): δ 1.98 (54 H, s, OC(CH3)3);
13C{1H} NMR (C6D6, 75.5 MHz): δ 81.9 (OC(CH3)3), 33 (OC(CH3)3)。
【0062】
W、CおよびHの元素分析の理論値(実験値)は、それぞれ、43(42)、33.7(34.1)、6.3(7)であった。
【0063】
二量体前駆体(BuO)W≡W(BuO)の合成
中間単量体の合成
二量体タングステン前駆体(BuO)W≡W(BuO)は、2つの工程で得られる(図6b)。その合成は、以下の文献に記載されている:Chisholm, M. H.; Extine, M. W.; J. Am. Chem. Soc. 1975, 97, 5625; Chisholm, M. H.; Gallucci, J. C.; Hollandsworth, C. B.; Polyhedron 2006, 25, 827。
【0064】
(NMe
20mlエーテル中のWCl(4.0g、0.0122mol)のスラリーに、40mlテトラヒドロフラン(THF)中のLiNMe(2.5g、0.05mol)の溶液を0℃で滴下した。LiNMeの添加が完了したら、反応混合物を0℃で3時間撹拌する。その後、溶液を室温まで加温し、約20時間撹拌してから、2時間還流した。W(NMeの黄色溶液をセライトで濾過し、溶媒を真空下で除去した。ヘキサンを用いて黄褐色の残渣からW(NMeを抽出した。さらなる精製のために、生成物を昇華させ、再結晶させて、W(NMeの明るい黄色結晶を得た。3.4 ppm (C6D6, 25°C); 1H NMR (C6D6, 300 MHz): δ 3.25 (36 H, s, N(CH3)2)。
【0065】
BuO)W≡W(BuO)
20mlのトルエンに溶解したW(NMe(1g)を5mlのヘキサンに溶解した7mlのtBuOHに滴下した。その後、反応混合物を室温で6時間撹拌した。溶媒および揮発性物質を真空下で除去した。残渣をヘキサンに溶解し、その後、-30℃で結晶させ、0.5mg(30%)の赤色結晶を得た。この赤色結晶は、以下のNMR特徴を有する:
1H NMR (C6D6, 300 MHz): δ 1.26 (36 H, s, C(CH3)2)。
【0066】
実施例1:[(BuCHW=O](μ-O)からの触媒W/CeO2-200の調製
CeOの調製
担体材料セリア(CeO)の前処理において、SOLVAY(Rare Earth La Rochelle)から入手したセリアActalys(登録商標)HAS-5 Actalys 922、すなわち、CeO2-(200)(210±11m/gの比表面積を有するセリア)を乾燥空気流下で500℃で16時間か焼し、真空下高温で脱気した。湿気および不活性雰囲気下で再水和した後、セリアを高真空下(10-5Torr)200℃で15時間部分的に脱水酸基して、200±9m/gの比表面積を有する黄色固体を得た。
【0067】
最適な条件下で表面水酸化物のグラフト化および機能化を達成するために、表面水酸化物の量を知ることが望ましい。信頼できる定量法は、Al(Bu)を用いて表面水酸化物を反応させることによる化学滴定を含む。Al(Bu)は、表面水酸基と定量的に反応して、OH当たりに1当量のイソブタンを放出することが知られている。ガスクロマトグラフによるイソブタンの定量化は、Al(Bu)がセリアのOH基と反応して0.7mmol/gのOHを与えることを示している。
【0068】
二量体前駆体の合成
実施例1よりも先に記載された合成例と同様に、二量体前駆体を合成した。
【0069】
CeO2-200上の[(BuCHW=O](μ-O)のグラフト化
グラフト化は、ダブルシュレンクチューブ中で行った。分子前駆体[(BuCHW=O](μ-O)および200℃で部分的に脱水酸基したセリアを、トルエン中で4時間攪拌した。固体[(BuCHW=O](μ-O)/CeO2-200をトルエンで3回洗浄した。得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)で乾燥させた(図7a)。
【0070】
反応は、DRIFT分光法で監視した(図7b)。グラフト反応および過剰な錯体の除去後、3747cm-1におけるγ(CeO-H)の異なる振動モードに起因する3400~3700cm-1のバンドが完全に消えた。3100~2850cm-1の範囲および1620~1400cm-1の範囲に新しいバンドが観察された。これらのピークは、表面上に化学吸着した配位子の脂肪族γ(C-H)およびδ(C-H)振動に特徴的なものである。これらのデータにより、セリアの表面水酸基と[(BuCHW=O](μ-O)タングステン前駆体との間に化学反応が生じたことを確証した。
【0071】
H固体NMRスペクトル(図8)は、メチル基に帰属する1.1ppmの主ピークおよび-CHC(CHに帰属する約2ppmのショルダピークを示している。13C CPMAS NMRスペクトルは、-CHC(CH、-CHC(CHおよび-CHC(CHにそれぞれ対応する3つの明確なピーク(98ppm、37ppmおよび34ppm)の存在を示す。
【0072】
触媒W/CeOを得るための活性化
次いで、ガラス反応器中で、中間材料[(BuCHW=O](μ-O)/CeO2-200を乾燥空気の連続流および500℃で16時間か焼した。触媒試験の前に、回収された材料(W)a/CeO2-200を特徴付けた。か焼により、灰色粉末(W)a/CeO2-200が得られた。
【0073】
図10の赤外スペクトルは、γ(C-H)およびδ(C-H)バンドが消えたことを示している。このことは、有機断片の全分解を示す。また、OH伸縮振動の領域において、新しいバンド、すなわち、γ(CeO-H)に帰属する3400~3700cm-1と、γ(O-H)に帰属する3490cm-1とが観察される。
【0074】
吸着により測定された生成材料のBET比表面積は、約186±9m/gであった。この値は、同じ条件下でか焼されたニートセリアの測定値約207±10m/gに非常に近似する。このことは、結晶構造が維持され、グラフト化およびか焼が粒子の焼結を誘発していないことを意味する。
【0075】
二量体前駆体[(BuCHW=O](μ-O)から調製した触媒をDRIFTで分析し、単量体前駆体W(≡CBu)(CH Bu)から調製した触媒と比較した。か焼後の触媒のIRスペクトル(図11C)は、水酸基の吸収バンドに加えて、それぞれν(W-O)およびν(W-O-W)(tおよびsは、異なる酸素位置(すなわち、共有された末端)を示す)に帰属する追加のピーク1006cm-1および900cm-1を示した(Micropor Mesopor Mat. 132, 103-111)。これは、単量体前駆体を使用して調製された触媒のIRとの比較(図11(B))がW-Otに帰属する約1010cm-1の単一のピークを示したことを考えると、より顕著である。この場合、この材料中に孤立種のみが形成されるため、予想通りに、単一のピークが約1010cm-1に現れる。注意すべきことは、これらのIRバンドは、担体では観察されていないことである(図11)。
【0076】
タングステン種の全体的な分散に対する十分な理解は、UV-Vis-DRS分析によって提供された。UV-Vis-DRS分析は、主に、担持されたWOおよびWを含有する混合酸化物の構造を解明するために使用されている。より具体的には、配位子-中心金属間電荷移動(LMCT)遷移のUV-vis DRSエッジエネルギーEg(eV)と、WO配位構造の架橋W-O-W結合の数とは、線形関係にあることが実証されている。
【0077】
強吸収性材料の存在は、DRSスペクトルの歪みを伴い、DRSスペクトルの歪み引き起こし、Eg値の一貫性に影響を及ぼすことがある。残念なことに、このW(VI)カチオンと担体CeOとのLMCT遷移が重複することは、本研究にも存在する。しかしながら、この影響は、試料をMgO、SiO、およびAlなどの透明マトリックスに分散させること(J. Phys. Chem. B, 104, 6, 2000)によって、または担体をベースライン基準と見なすことによって、または極めて単純な追加のデータ操作によって軽減できることが実証されている。データ処理は、UV-Vis DRSスペクトルを複数の信号に逆重畳積分すること、または担体の吸収帯を差し引くことによってタングステン酸化物種のDRSスペクトルを抽出することを含む。本研究では、UV-Visデータを取得する前に、試料をBaSOで希釈した。図12Aに示されたUV-Visスペクトルから、酸素と単離されたオルトタングステン酸塩W(VI)との間の電荷移動遷移に起因する239nmのバンドが存在し、Ce3+-2およびCe4+-2電荷移動に起因するセリアのバンドと重なり合う可能性がある。346nmの特徴は、Kの直鎖の架橋W-O-WのLMCTバンドによる可能性が最も高い。このことは、決定されたバンドエッジエネルギーE(3.8eV)がNaWO化合物の孤立四面体中心から得られたバンドエッジエネルギー(E=4.7eV)に近いことによって確認され、両者の差は、J. Phys. Chem. C, Vol. 111, No. 41, 2007 15に報告されたように、構造の歪みに起因する。
【0078】
二量体前駆体から調製された触媒は、より低いバンドエッジエネルギーE(2.6eV)を示した。この値は、二量体OW-O-WO構造(J. Phys. Chem. C, 111, 41, 2007を参照)のバンドエッジエネルギーに近い。
【0079】
実施例2:[ BuO) WO](μ-O)/CeOからの触媒W/CeOの調製
CeOの調製
上記の実施例1と同様に、CeOを調製した。
【0080】
前駆体の合成
実施例1よりも先に記載された合成例と同様に、二量体前駆体を合成した。
【0081】
グラフト化
トルエン(10mL)中の[ BuO) WO](μ-O)(600mg、0.70mmol)およびCeO(1g)の混合物を25℃で4時間撹拌した。濾過後、固体[ BuO) WO](μ-O)/CeO2-200をトルエンで3回洗浄した。図13に示すように、得られた黄色粉末を真空下(10-5Torr)で乾燥させた。
【0082】
DRIFTによる[ BuO) WO](μ-O)/CeO2-200の特徴付け
得られたプレ触媒を特徴付けた。DRIFT分析は、ν(CeO-H)の異なる振動モードに帰属する3400から3700cm-1の間のバンドが完全に消えたことを示した。3100~2850cm-1の範囲および1620~1400cm-1の範囲に新しいバンドが観察され、これらのピークは、表面上に化学吸着したリガンドの脂肪族ν(C-H)およびδ(C-H)振動に特徴的なものである。これらのデータにより、プロトン分解およびt-ブタノールの形成によって、セリアの表面水酸基とタングステンt-ブトキシド前駆体との間に化学反応が生じたことを確証した。
【0083】
固体NMRによる[ BuO) WO](μ-O)/CeO2-200の特徴付け
13C CP MAS NMRデータは、メチレン基および第4級炭素原子にそれぞれ帰属する26ppmおよび74ppmにおける13Cピークによって示されたように、タングステンt-ブトキシ断片の存在を示す(図15)。
【0084】
物理吸着による[ BuO) WO](μ-O)/CeO2-200の特徴付け
BET比表面積分析は、比表面積が未処理材料(240m/g)から147m/gに中程度で減少したことを示している。
【0085】
工程3:触媒(W)b/CeO2-200を得るための活性化
次いで、ガラス反応器中で、材料[(BuCHW=O](μ-O)/CeO2-200を乾燥空気の連続流および500℃で16時間か焼した。触媒試験の前に、回収された材料(W)b/CeO2-200を特徴付けた。か焼により、黄色粉末(W)b/CeO2-200が得られた(図16)。
【0086】
図17の赤外スペクトルは、γ(C-H)およびδ(C-H)バンドが消えたことを示している。このことは、有機断片の全分解を示す。また、OH伸縮振動の領域において、新しいバンド、すなわち、γ(CeO-H)に帰属する3400~3700cm-1と、γ(O-H)に帰属する3490cm-1とが観察された。
【0087】
実施例3(BuO)W≡W(BuO)/CeOからの触媒W/CeOの調製
CeOの調製
上記の実施例1と同様に、CeOを調製した。
【0088】
前駆体の合成
実施例1よりも先に記載された合成例と同様に、前駆体を合成した。
【0089】
グラフト化
CeO2-200上の(BuO)W≡W(BuO)のグラフト化反応は、グローブボックス中で行った。トルエン(20ml)中の所望の量の(BuO)W≡W(BuO)およびCeO(200)(3g)の混合物を25℃で4時間攪拌した。濾過後、固体(BuO)W≡W(BuO)/CeOを10mlのトルエンおよび10mlのペンタンで3回洗浄した。得られた粉末を真空下(10-5Torr)で乾燥させた(図18)。
【0090】
DRIFTによる(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200の特徴付け
セリア上に(BuO)W≡W(BuO)をグラフト化することによって、(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200を形成する反応は、DRIFT分光法で監視した。グラフト反応および過剰な錯体の除去後、3747cm-1におけるν(CeO-H)の異なる振動モードに起因する3400~3700cm-1のバンドの強度が低下した。3100~2850cm-1の範囲および1620~1400cm-1の範囲に新しいバンドが観察された。これらのピークは、表面上に化学吸着したリガンドの脂肪族γ(C-H)およびδ(C-H)振動に特徴的なものである。これらのデータにより、セリアの表面水酸基とタングステン前駆体との間に化学反応が生じたことを確証した。
【0091】
固体NMRによる(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200の特徴付け
13C CP MAS固体NMRデータは、メチレン基および第4級炭素原子にそれぞれ帰属する30ppmおよび79ppmにおける13Cピークによって示されたように、タングステンt-ブトキシ断片の存在を示す(図20)。
【0092】
元素分析による(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200の特徴付け
この材料(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200に対して実施された質量バランス測定は、3.71重量%のWおよび2.41重量%のC(C/W=10)が存在していることを示した。このことは、タングステン二量体のt-ブトキシド断片の構造がセリアの表面上で二座二量体種であることを強く示唆している。
【0093】
物理吸着による(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200の特徴付け
BET比表面積分析は、比表面積が未処理材料(240m/g)から147m/gに中程度で減少したことを示しているが、文献に報告された触媒よりも十分に高い。また、ヒステリシスループが観察されたため、メソ細孔の存在を示す。
【0094】
触媒(W)c/CeO2-200を得るための活性化
ガラス反応器中で、材料[(BuO)W≡W(BuO)/CeO2-200を乾燥空気の連続流および500℃で16時間か焼する。触媒試験の前に、回収された材料(W)c/CeO2-200を特徴付けた。か焼により、黄色粉末(W)c/CeO2-200が得られた。
【0095】
図22の赤外スペクトルは、γ(C-H)およびδ(C-H)バンドが消えたことを示している。このことは、有機断片の全分解を示す。また、OH伸縮振動の領域において、新しいバンド、すなわち、γ(CeO-H)に帰属する3400~3700cm-1と、γ(O-H)に帰属する3490cm-1とが観察された。
【0096】
触媒活性試験の条件
約33mgのペレット試料を1トンの圧力下で調製して、石英反応器(直径4.5mm)に入れた。300ppmのNO、350ppmのNH、10%のO、3%のHO、10%のCO、およびHe(残部)からなる気体混合物を、300mL/分の速度で触媒床に流した。反応器を10℃/分の加熱速度で室温から600℃に加熱した。この系を600℃で10分間維持した後、室温に冷却した。加熱および冷却中に、出口のガス組成を、FTIR、MSおよび化学発光の組み合わせによって監視した。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
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図22